タイトル: | 特許公報(B2)_細胞接着阻害剤 |
出願番号: | 2005005722 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 38/00,A61P 43/00 |
梅澤 一夫 大野 修 JP 4746324 特許公報(B2) 20110520 2005005722 20050112 細胞接着阻害剤 公益財団法人微生物化学研究会 000173913 廣田 浩一 100107515 流 良広 100107733 松田 奈緒子 100115347 梅澤 一夫 大野 修 20110810 A61K 38/00 20060101AFI20110721BHJP A61P 43/00 20060101ALI20110721BHJP JPA61K37/02A61P43/00 105 A61K 38/00−38/58 A61P 43/00 CA/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) KIM,K. et al,Suppression of inflammatory responses by surfactin, a selective inhibitor of platelet cytosolic phospholipase A2,Biochem Pharmacol,1998年,Vol.55, No.7,p.975-85 3 2006193457 20060727 23 20070904 伊藤 清子 本発明は、エンドトキシン活性阻害剤に関し、詳しくは、サーファクチンの新規用途としてのエンドトキシン活性阻害剤に関する。 従来から、病原体由来糖脂質は、免疫系を強く活性化することが知られており、これらの中でも、LPS(lypopolysaccharide)は、グラム陰性菌に感染した生物に炎症を惹き起こすエンドトキシンであることが知られている。 LPS等の病原体成分に対する生体の応答は、自然免疫と呼ばれ、外からの微生物の侵入に応答する初期の防御反応として機能しているが、過剰な防御反応は、免疫系、血管系、循環器系、血液凝固系、内分泌系、神経系等に作用し、発熱、エンドトキシンショック、及び多臓器不全等の病態を惹起することが知られている。 LPSは、グラム陰性菌の菌体膜を構成しており、菌体膜の中に存在している状態では細胞を活性化せず、該グラム陰性菌の増殖や溶菌等によって、単独で、又は細菌の膜タンパク質と複合体を形成して放出される。それを血清中のLBP(LPS Binding protein)が認識し、多量体ないしは複合体として存在するLPSを単量体に分割する。単量体LPSは、LBPの働きによりCD14と結合し、TLR4(Toll−like receptor 4)を介して細胞内シグナルを発生し、炎症性サイトカインや細胞接着分子の発現を誘導することが知られており、特に、血管内皮細胞に対して(1)IL−6、IL−8、IL−1等の炎症性サイトカインやケモカインの産生、(2)ICAM−1(intercellular adhesion molecule−1)、VCAM−1(vascular cell adhesion molecule−1)、E−selectin等の細胞接着分子の発現、及び(3)tissue factorの発現を誘導することが報告されている(非特許文献1〜5参照)。 LPSによって活性化された血管内皮細胞がその表面に細胞接着分子を発現することにより、白血球が血管内皮細胞に接着し、白血球が血管壁を横断して組織中へ移行することが可能となる(非特許文献6参照)。しかしながら、このような白血球と血管内皮細胞との細胞−細胞間接着、及び白血球の組織への移行は、免疫反応に不可欠であると同時に、動脈硬化、自己免疫性血管炎、移植の拒絶反応などの様々な病的過程に共通のステップにもなっている(非特許文献7参照)。 そこで、細胞接着因子を制御することによって、白血球の血管壁への付着と侵入を調節可能な物質が求められており、特に、LPSによって誘導される血管内皮細胞への白血球の接着を阻害する物質は、新たな抗炎症薬として有用性が期待される。 これまでに、LPSに対する中和活性を有し、LPSによるシグナル伝達を阻害する作用を有する物質としては、例えば、ポリミキシンB(polymyxin B)が知られており、ポリミキシンBを用いてエンドトキシンを除去する方法(特許文献1参照)等が提案されている。ポリミキシンBは、LPS中和活性を有する低分子化合物であり、SPRセンサーを用いた解析により、LipidA、LPSと直接的な結合能を有することが報告されている(非特許文献8〜9参照)。 しかしながら、ポリミキシンは比較的毒性が強く、毒性を軽減させた誘導体が提案されているが(非特許文献10参照)、その毒性も無視できるほどのものではないため、臨床面では十分な応用がなされていないという問題がある。 また、LPSに対する活性阻害作用を有する物質としては、cathelicidin(非特許文献11参照)、sarcotoxin IA(非特許文献12参照)等が報告されている。これらは、LPS中和活性以外の生理活性を有する物質として単離された化合物であるために特異性が低く、高濃度のLPSに対して中和活性を示さないという問題がある。 このように、LPSの活性を中和し、LPSが誘導する血管内皮細胞への白血球の接着を阻害する物質は、敗血症、エンドトキシンショック、クローン病を含む腸炎症疾患、歯周病、及び歯周病原性細菌に依存する動脈硬化等の過剰な免疫反応に基づく炎症性疾患の発症予防や治療のための有用物質として、大きな期待が持たれているが、LPSに対する高い特異性を有するとともに、細胞毒性が低く、かつ収率が高く大量に調整可能であり、臨床応用可能な低分子量の物質は、未だ見出されていないのが現状である。特表平9−510354号公報Jirik, F.R., Podor, T.J., Hirano, T., Kishimoto, T., Loskutoff, D.J., Carson, D.A., Lotz, M. Bacterial lipopolysaccharide and inflammatory mediators augment IL-6 secretion by human endothelial cells. J. Immunol. 142, 144-147. 1989Zhao, B., Bowden, R.A., Stavchansky, S.A., Bowman, P.D. Human endothelial cell response to gram-negative lipopolysaccharide assessed with cDNA microarrays. Am. J. Physiol. Cell Physiol. 281, C1587-1595. 2001Libby, P., Ordovas, J.M., Auger, K.R., Robbins, A.H., Birinyi, L.K., Dinarello, C.A. Endotoxin and tumor necrosis factor induce interleukin-1 gene expression in adult human vascular endothelial cells. Am. J. Pathol. 124, 179-185. 1986Jersmann, H.P., Hii, C.S., Ferrante, J.V., Ferrante, A. Bacterial lipopolysaccharide and tumor necrosis factor a synergistically increase expression of human endothelial adhesion molecules through activation of NF-kB and p38 mitogen-activated protein kinase signaling pathways. Infect. Immun. 69, 1273-1279. 2001Colucci, M., Balconi, G., Lorenzet, R., Pietra, A., Locati, D., Donati, M.B., Semeraro, N. Cultured human endothelial cells generate tissue factor in response to endotoxin. J. Clin. Invest. 71, 1893-1896. 1983Gibbons, G.H., and Dzau, V.J. Molecular therapies for vascular diseases. Science 272, 689-693. 1996Ross, R.Cell biology of atherosclerosis. Annu Rev Physiol. 57, 791-804. 1995Thomas, C.J., Surolia, N., Surolia, A. Surface plasmon resonance studies resolve the enigmatic endotoxin neutralizing activity of polymyxin B. J. Biol. Chem. 274, 29624-29627. 1999Thomas, C.J., Surolia, A. Kinetics of the interaction of endotoxin with polymyxin B and its analogs: a surface plasmon resonance analysis. FEBS Lett. 445, 420-424. 1999Tsubery, H., Ofek, I., Cohen, S., Fridkin, M. The functional association of polymyxin B with bacterial lipopolysaccharide is stereospecific: studies on polymyxin B nonapeptide. Biochemistry 39, 11837-11844. 2000Nagaoka, I., Hirota, S., Niyonsaba, F., Hirata, M., Adachi, Y., Tamura, H., Tanaka, S., Heumann, D. Augmentation of the lipopolysaccharide-neutralizing activities of human cathelicidin CAP18/LL-37-derived antimicrobial peptides by replacement with hydrophobic and cationic amino acid residues. Clin. Diagn. Lab. Immunol. 9, 972-982. 2002Okemoto, K., Nakajima, Y., Fujioka, T., Natori, S. Participation of two N-terminal residues in LPS-neutralizingactivity of sarcotoxin IA. J. Biochem. (Tokyo) 131. 277-281. 2002 本発明は、前記要望に応え、従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、LPSの活性を中和し、LPSが誘導する血管内皮細胞への白血球の接着を阻害する物質であって、LPSに対する高い特異性を有するとともに、細胞毒性が低く、かつ収率が高く大量に調製可能であり、臨床応用可能な低分子量のエンドトキシン活性阻害剤を提供することを目的とする。 前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、以下の知見を得た。即ち、微生物の二次代謝産物から、LPSが誘導する血管内皮細胞と白血球との接着を阻害する物質の探索を行い、有意な活性を示す物質を単離し、これを同定したところ、環状リポペプチドのサーファクチン(surfactin)であることが明らかとなり、該サーファクチンが、エンドトキシン活性阻害剤として有用であるという知見である。 サーファクチンは、血栓溶解作用を有する薬剤としてBacillus subtilisの培養液から単離された化合物であり、その生理活性としては、ホスホリパーゼA2を阻害することによる免疫抑制活性、プラスミノーゲンアクチベーターの活性化作用が知られている。また、サーファクチンは、界面活性能を有するバイオサーファクタントとしても知られている。しかしながら、エンドトキシン活性阻害能を有することは全く知られておらず、本発明者らの新たな知見である。 本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、 <1> 下記一般式(1)で表されるサーファクチン、及びその誘導体のいずれかであることを特徴とするエンドトキシン活性阻害剤である。 ただし、前記一般式(1)中、R1は、L−ロイシン、L−イソロイシン、及びL−バリンから選ばれるいずれかを表し、R2は、炭素数8〜22のアルキルを表す。 <2> 下記構造式(2)で表されるサーファクチンC1(surfactin C1)である前記<1>に記載のエンドトキシン活性阻害剤である。 <3> 微生物により産生された前記<1>から<2>のいずれかに記載のエンドトキシン活性阻害剤である。 <4> 血管内皮細胞と白血球との接着を阻害する前記<1>から<3>のいずれかに記載のエンドトキシン活性阻害剤である。 <5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のエンドトキシン活性阻害剤を含むことを特徴とする薬用組成物である。 <6> 抗炎症剤である前記<5>に記載の薬用組成物である。 <7> 歯周病、敗血症、及び動脈硬化のいずれかの治療に用いられる前記<5>に記載の薬用組成物である。 <8> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のエンドトキシン活性阻害剤を、0.1〜1000μMとなる濃度で含有する前記<5>から<7>のいずれかに記載の薬用組成物である。 <9> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のエンドトキシン活性阻害剤を含むことを特徴とする細胞培養用培地である。 <10> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のエンドトキシン活性阻害剤を含むことを特徴とする飲食物である。 本発明によると、従来における問題を解決することができ、LPSの活性を中和し、LPSが誘導する血管内皮細胞への白血球の接着を阻害する物質であって、LPSに対する高い特異性を有するとともに、細胞毒性が低く、かつ収率が高く大量に調製可能であり、臨床応用可能な低分子量のエンドトキシン活性阻害剤を提供することができる。(エンドトキシン活性阻害剤) 本発明のエンドトキシン活性阻害剤は、下記一般式(1)で表されるサーファクチン、及びその誘導体のいずれかである。 前記一般式(1)中、R1は、L−ロイシン、L−イソロイシン、及びL−バリンから選ばれるいずれかであり、これらの中でもL−ロイシンであることが好ましい。 また、前記一般式(1)中、R2は、炭素数8〜22のアルキルを表し、炭素数8〜16のアルキルが好ましく、炭素数10〜13のアルキルがより好ましい。 前記誘導体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機塩及び有機塩のいずれかが好適に挙げられる。 前記無機塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、などが好適に挙げられる。なお、前記アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、などが挙げられ、前記アルカリ土類金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、などが挙げられる。前記有機塩としては、例えば、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、などが挙げられる。 これらの中でも、ナトリウム塩、カリウム塩、第4級アンモニウム塩が好ましい。 前記一般式(1)で表されるサーファクチンの中でも、以下の構造式で表されるサーファクチンC1がより好ましい。 前記エンドトキシン活性阻害剤の製造方法としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サーファクチンを産生する微生物を培養して得た培養液から精製する方法が挙げられる。 前記サーファクチンを産生する微生物としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Bacillus subtillus(枯草菌)、及びBacillus natto(納豆菌)等のBacillus属の細菌が挙げられる。 前記サーファクチンを産生する微生物の培養方法としては、該微生物が増殖し、サーファクチンを産生する限り、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素源、窒素源、消泡剤等を含む液体培地で、25℃〜42℃の温度条件下において、48〜120時間振とう培養する方法が挙げられる。 前記炭素源としては、例えば、澱粉、澱粉誘導体、アミロース、アミロペクチン、マルトオリゴ糖、シクロデキストリン、プルラン、デキストリン、グリセリン、ソルビトール、麦芽汁、グルコース、などの炭水化物が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 前記窒素源としては、例えば、有機窒素化合物、無機窒素化合物、及びこれらの混合物などが挙げられ、前記有機窒素化合物としては、例えば、肉エキス、麦芽エキス、ペプトン、大豆由来のポリペプトン(例えば、ポリペプトン−S)、酵母エキス、味液(大豆タンパク酸加水分解物)、大豆粉末、ミルクカゼイン、カザミノ酸、各種アミノ酸、コーンスティープリカーなどが挙げられ、前記無機窒素化合物としては、例えば、アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム等の硝酸塩、尿素などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 前記培養液から前記サーファクチンを精製する方法としては、特に制限は無く、公知の方法により精製することができ、例えば、培養液に硫酸や塩酸等の酸、又はカルシウム塩等を添加して沈殿物を生成させて、これを限外濾過し、有機溶媒により抽出した後、活性炭処理、結晶化等の方法で精製する方法が挙げられる。また、菌体を除いた前記培養液を等量のn−ヘキサン等で洗い、水層を等量の酢酸エチル等で抽出したものを減圧乾燥し、小量のクロロホルム等に溶解し、平衡化させたシリカゲルのカラムにのせて溶出させ、活性の見られた画分を回収して減圧乾固し、得られた固体を少量の溶媒に溶解し、ゲル濾過カラムに載せて溶出させ、活性画分を回収し、減圧乾固して精製物を得る方法が挙げられる。 得られた精製物は、HRFAB−MS、1H−及び13C−NMRスペクトル等により分子量や分子式を解析し、薄層クロマトグラフィーを用いて同定することができる。 前記エンドトキシン活性阻害剤は、エンドトキシンに対して特異的に結合することによりその活性を阻害し、エンドトキシンが誘導する炎症反応のシグナル伝達を阻害する作用を有する。この結果、血管内皮細胞における細胞接着分子の発現が抑制され、血管内皮細胞と白血球との接着が阻害される。 前記エンドトキシン活性阻害剤の活性阻害能としては、(1)エンドトキシンにより惹き起こされる血管内被細胞と白血球との接着を阻害する細胞接着阻害能と、(2)エンドトキシンに対して特異的に結合する中和能とから評価することができる。 前記接着阻害能としては、例えば、血管内皮細胞を培養し、その培養液中にエンドトキシンと前記エンドトキシン活性阻害剤とをともに添加し、細胞接着分子の発現誘導を行った後、白血球を加え、血管内皮細胞に接着した白血球の細胞数を、前記エンドトキシン活性阻害剤を添加しなかった場合の数と比較することにより評価することができる。 前記中和能としては、例えば、エンドトキシンと前記エンドトキシン活性阻害剤との分子間相互作用を結合表面プラズモン共鳴センサーによる解析や、限外ろ過フィルターを用いた接着解析等により評価することができる。 本発明のエンドトキシン活性阻害剤は、分子内に反応性の高い塩基性アミノ酸を含まないため、細胞毒性が低く、安全性が高い。また、分子量が小さいため、例えば、生体に投与した場合、血中へ移行しやすく、有利である。 また、本発明のエンドトキシン活性阻害剤は、そのまま被添加物に添加してもよい。前記被添加物としては、例えば、細胞培養用培地、輸血用血液、飲食物、化粧料等が挙げられる。 前記細胞培養用培地としては、形質転換を目的として細胞へ導入される遺伝子を増殖させるための菌体を培養する培地、治療を目的として生体に導入されるタンパク質、ワクチン等を産生させるための菌体を培養する培地等が挙げられる。 更に、本発明のエンドトキシン活性阻害剤は、以下のような本発明の薬用組成物として使用してもよい。(薬用組成物) 本発明の薬用組成物は、本発明の前記エンドトキシン活性阻害剤を含むこと以外は、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択したその他の成分を含有してなる。 前記薬用組成物における前記エンドトキシン活性阻害剤の含有量としては、特に制限はなく、被投与物中のエンドトキシン量に応じて適宜選択することができるが、薬効を必要とする対象部位における濃度が、0.1〜1000μMであるのが好ましく、0.1〜100μMであるのがより好ましく、0.1〜10μMであるのが特に好ましい。 前記エンドトキシン活性阻害剤の濃度が、0.1μM未満であると、十分なエンドトキシン活性阻害効果、特に細胞接着阻害効果が得られないことがあり、10μMを超えると、投与した対象部位の細胞の増殖に影響を与えることがある。 前記薬剤組成物の投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、注射(皮下、皮内、静脈内、腹腔内等)、経口、経皮、吸入、及び点眼などが挙げられる。 また、前記薬用組成物の剤型としては、特に制限はなく、投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤、点眼剤、及び座剤などが挙げられる。 前記その他の成分としては、例えば、製薬学的に許容できる常用の担体(賦形剤、結合剤、着色剤、崩壊剤、緩衝剤、保存剤等)などが挙げられる。 前記薬用組成物は、例えば、グラム陰性菌感染に起因する炎症性疾患に対する抗炎症剤として好適に使用することができる。また、エンドトキシンが関与する歯周病、敗血症、動脈硬化、及び腸炎性疾患等の治療乃至予防、並びにエンドトキシンショックに対する治療に好適に使用することができる。 以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。(実験例)<エンドトキシン活性阻害剤の探索及び同定> LPS刺激により活性化した血管内皮細胞への白血球の接着を測定する実験系において、接着を抑制する物質を探索するスクリーニング系を用いてサーファクチンサンプルを評価し、エンドトキシン活性阻害剤の同定を行った。 血管内皮細胞として正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells;HUVEC)を用い、白血球としてヒト急性骨髄球性白血病細胞株HL‐60細胞を用いた。前記HUVECはLPSにより活性化され、細胞表面にICAM−1、VCAM−1、E−selectin等の接着分子を発現するため、それらの接着分子のリガンドを有する細胞(HL−60細胞等)を前記HUVEC上にまくと顕著な細胞接着が起こり、顕微鏡観察での評価が可能となる。(1)血管内皮細胞(HUVEC)の培養 前記HUVECは(Cell Systems社(Lake Kirkland、WA)から購入)は、56℃に30分静置して非働化した10%子牛胎児血清(FBS、JHP Biosciences(Lenexa、KS)社製)、及び10ng/mlのbFGFを含むMCDB−131培地(Sigma社製)に、カナマイシン0.05g/L、ペニシリン50U/mL、ヘパリン5,000U/mL(0.2764g/L)、NaHCO31.18g/Lを加えたものを培養液として、I型コラーゲン((株)高研製)でコートしたプラスチックフラスコ(Costar(New York、USA)社製)を使用し、37℃、5%CO2インキュベータ中で培養した。前記HUVECの継代操作は、以下のように行った。 前記HUVECの培養液を除去した後、Ca2+、Mg2+不含リン酸塩緩衝溶液(PBS(−);NaCl8.0g/L、KCl0.2g/L、Na2HPO4・2H2O1.15g/L、KH2PO40.2g/L)8mLで細胞を2回洗浄後、トリプシン−EDTA溶液(HUVEC用;トリプシン0.2g/L、NaCl8.0g/L、KCl0.2g/L、Na2HPO4・12H2O0.12g/L、KH2PO40.2g/L、フェノールレッド0.01g/L、NaHCO30.35g/L、EDTA0.2g/L)を2mL加え、37℃で5分間インキュベートして細胞をはがし、細胞懸濁液とした。次に、培養液を8mL加えてトリプシンを失活させた後、前記細胞懸濁液を180Gで5分間遠心分離し、上清を取り除いた。新しい培養液で細胞を再び懸濁させ、その一部を新しい培養液入れたフラスコ中に移して継代を行った。 また、前記HUVEC用の培養器具は、濃度が0.025%となるように0.02Nの酢酸水溶液で調製したI型コラーゲン((株)高研製)でコートし、リン酸塩緩衝溶液(PBS(+);NaCl8.0g/L、KCl0.2g/L、Na2HPO4・2H2O1.15g/L、KH2PO40.2g/L、CaCl2・2H2O0.130g/L、MgCl2・6H2O0.10g/L)で2回洗ったものを使用した。(2)白血球(HL−60細胞)の培養 ヒト急性前骨髄球性白血病細胞株HL−60細胞はJapanese Collection of Research Bioresorcesより供与していただいた。HL−60細胞は非働化した10%FBSを含むRPMI1640培地(日水製薬(株)製)にグルタミン0.3g/L、カナマイシン0.1g/L、ペニシリン100U/mL、NaHCO32.25g/Lを加えたものを培養液として、37℃、5%CO2インキュベータ中で培養した。前記HL−60細胞の継代操作は、細胞を含む培養液を180Gで5分間遠心分離し上清を取り除き、新しい培養液で細胞を再び懸濁させ、その一部を新しい培養液入れたフラスコ中に移すことにより行った。(3)サーファクチンサンプルの調製 CoCl2・6H2O(関東化学社製)0.0005%、大豆粉(味の素(株)製)1.5%、グリセロール(関東化学社製)2%、リン酸水素二カリウム(K2HPO4;関東化学社製)0.1%、及びシリコン消泡剤を含む液体培地(1M KH2PO4でpH6.2に調整)を、坂口フラスコに125mLずつ分注し、120℃、2気圧で20分間滅菌した。これに、BML752−121F2株を斜面培地より接種し、27℃で好気的に毎分180回転の振盪培養を96時間行った。 このようにして得られた1Lの培養液から菌体を除き、等量のn−ヘキサン(関東化学社製)で1回洗い、水層を等量の酢酸エチル(関東化学社製)で1回抽出した。得られた有機層(酢酸エチル抽出液)を減圧乾燥して、375.2mgの物質を得た。これを少量のクロロホルムに溶解し、予めクロロホルムで平衡化させた35gのシリカゲル60(Merck(Darmstadt、Germany)社製)のカラムにのせ、クロロホルム−メタノール(6:1)200mLを流した後、クロロホルム−メタノール(6:1)に3%の酢酸を加えた溶液200mLで溶出してサーファクチンサンプルを調製し、これを以下の接着試験に供した。(4)接着試験 前記(1)で調製した前記HUVECを、48ウェルプレート(Costar社製)の各ウェルに4.0×104個(500μL)ずつまき、37℃、5%CO2の条件下で一晩培養した後、前記(3)で調製した前記サーファクチンサンプルを5μL/ウェルずつ添加し、37℃、5%CO2の条件下で2時間培養した。その後、1μg/mLのLPS(Escherichia coli Serotype 055:B5、Sigma社製)を添加し37℃、5%CO2の条件下で4時間培養した後、各ウェルを37℃に加温したPBSで洗い、未反応のLPSを除去し、新たな培地を各ウェルに200μLずつ加えた。 続いて、各ウェルに前記(2)で調製した前記HL−60細胞を6.0×104個(20μL)ずつまき、37℃、5%CO2の条件下で1時間培養した。その後、各ウェルを再び37℃に加温したPBSで洗い、未接着の前記HL−60細胞を除去し、新たな培地を各ウェルに200μLずつ加えた。 各ウェルを顕微鏡で確認し、顕微鏡視野内において前記HUVEC細胞に接着した前記HL−60細胞の数を測定することにより、前記サーファクチンサンプルの細胞接着阻害能を評価した。 なお、陽性基準としては、前記HUVEC細胞に接着した前記HL−60細胞数が80個未満であったものを、細胞接着阻害活性を有するものと評価した。この結果、試験に供した前記サーファクチンサンプルは、3〜10μg/mLの濃度において、細胞接着阻害活性を有することが確認された。(5)細胞毒性試験 前記HUVECを、コラーゲンコートした24ウェルプレート(Costar社製)に1.6×105個/ウェル(500μL/ウェル)まき、37℃、5%CO2の条件下で一晩培養した。翌日、前記(4)で細胞接着阻害能を示した前記サーファクチンサンプルを5μL/ウェルずつ加え、37℃、5%CO2の条件下で24時間インキュベートした。次いで、細胞培養液をエッペンドルフチューブに移した後、各ウェルを200μLのPBS(−)で2回洗い、これをエッペンドルフチューブに移した。 続いて各ウェルにトリプシン−EDTA溶液200μLを加え、37℃でインキュベートした後、ウェルに接着した細胞を剥がしとり、エッペンドルフチューブに回収した。これを1500Gで5分間遠心分離して細胞を落とし、上清を除去し、新しい培養液を加えた。ここに5倍濃縮のトリパンブルー染色液(4mg/mLトリパンブルー(Sigma社製)、9mg/mL塩化ナトリウム(関東化学(株)製))を加えて攪拌し、測定用細胞懸濁液を得た。該細胞懸濁液10μLを血球計算板(エルマ販売(株)製)に乗せて顕微鏡で観察し、顕微鏡視野内の全細胞数、及び細胞内が青く染色された死細胞数を測定し、細胞生存率を求めて細胞毒性の有無を調べた。細胞生存率が80%以上であることを確認し、以下の方法により前記サーファクチンサンプル中の化合物の精製を行った。(6)化合物の精製 前記(4)及び(5)の試験で評価した結果、細胞接着阻害活性がみられ、かつ細胞毒性を示さなかった前記サーファクチンサンプルを、エンドトキシン活性阻害を有する化合物として精製した。 前記サーファクチンサンプルを減圧乾固し、69.5mgの固体を得た。次いで、得られた固体を少量のメタノールに溶解し、ゲル濾過カラムShephadex LH−20にのせ、メタノール100mLで溶出させ、活性画分を回収し、減圧乾固して41.8mgの白色固体を得た。得られた固体を小量のメタノールに溶解し再度、ゲル濾過カラムShephadex LH−20にのせ、メタノール100mLで溶出させ、活性画分を回収し、減圧乾固して30.0mgの無色の結晶を得た。(7)接着阻害物質の同定 前記(6)で精製して得られた結晶について、JEOL JMS−SX102(日本電子(株)製)を用いてHRFAB−MS、1H−及び13C−NMRスペクトルで解析したところ、前記化合物の分子量が1036、分子式がC45H81N11O12であることが明らかになった。また、重DMSO−d6中で測定した1H−及び13C−NMRスペクトルから、該化合物がリポペプチドであることが予想された。 分子量、分子式が同一であって、かつリポペプチドである既知化合物としてサーファクチンC1を選択し、前記化合物と薄層クロマトグラフィーを用いて比較したところ、各種展開系において既知化合物サーファクチンC1と、前記化合物とのRf値が完全に一致することがわかった。また、サーファクチンC1の1H−及び13C−NMRスペクトルで解析したところ、前記化合物と同様のスペクトルパターンを示した。 これらのことから、前記サーファクチンサンプル中のエンドトキシン活性阻害剤としての化合物が、下記一般式(2)で表されるサーファクチンC1であると同定した。(実施例1)−サーファクチンの細胞接着阻害能− 前記サーファクチンサンプルとして、前記一般式(2)で表されるサーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、Sigma社製)を添加し、細胞処理条件を下記表1に示す条件(A)〜(D)とした以外は、上記実験例の(4)と同様にして接着試験を行った。 各ウェルを顕微鏡で確認し、顕微鏡視野内において前記HUVEC細胞に接着した前記HL−60細胞の数を測定することにより、前記サーファクチンの細胞接着阻害能を評価した。結果を表1にあわせて示す。また、条件(A)〜(D)それぞれについて、顕微鏡で観察された前記HUVEC及び前記HL−60細胞の状態を図1に示す。 *:HUVECに接着したHL−60細胞の数が、顕微鏡視野内において80個未満のものを「○」、80個以上のものを「×」として評価した。 表1及び図1から、前記HUVECに対して無刺激の場合、及びサーファクチンのみを添加した場合には、前記HL−60細胞の接着がほとんどみられないことがわかった。前記HUVECを1μg/mLのLPSで4時間刺激することにより、前記HL−60細胞の接着が引き起こされるが、3μg/mLのサーファクチンで処理することにより、前記HL−60細胞の接着が顕著に阻害されることがわかった。(実施例2)−サーファクチンの細胞接着阻害能の濃度依存性− サンプルとして、前記一般式(2)で表されるサーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、Sigma社製)を、無添加、又は1μg/mL、3μg/mL、10μg/mLの各濃度の条件で添加し、白血球として、前記HL−60細胞、THP−1細胞、Jurkat細胞をそれぞれ使用した以外は、上記実験例の(4)と同様にして接着試験を行った。 各ウェルを顕微鏡で確認し、顕微鏡視野内において前記HUVEC細胞に接着した前記HL−60細胞、前記THP−1細胞、及び前記Jurkat細胞の数をそれぞれ測定することにより、前記サーファクチンの細胞接着阻害能を評価した。結果を図2に示す。図2中、コントロールはLPS及びサーファクチンのいずれも添加しなかった場合の測定結果である。 なお、前記THP−1細胞(ヒト骨髄単球性白血病細胞株)は、理研バイオリサーチセンターより供与されたものを使用し、前記Jurkat細胞(ヒト急性T細胞白血病細胞株)は、東京大学医科学研究所井上純一郎教授より供与されたものを使用し、これらの細胞の継代操作は、前記HL−60細胞と同様にして行った。 図2から、サーファクチンは、LPSで刺激した前記HUVECへの各白血球細胞の接着を濃度依存的に抑制し、3μg/mL以上の濃度において、ほぼ完全に接着を阻害することがわかった。各白血球細胞の接着阻害において、50%の阻害率を示すサーファクチン濃度(IC50値)は、前記HL−60細胞が1.10μg/mL、前記THP−1細胞が1.45μg/mL、前記Jurkat細胞が1.43μg/mLであった。(実施例3)−サーファクチンのLPS特異的細胞接着阻害能− サンプルとして、前記一般式(2)で表されるサーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、Sigma社製)を、無添加、又は1μg/mL、3μg/mL、10μg/mLの各濃度の条件で添加し、血管内皮細胞を活性化する物質として、LPS、LipidA(1,4´−diphosphoryl form、Escherichia coli F−583由来品、Sigma社製)1μg/mL、TNF−α(Genzyme−Techne社製)10ng/mL、IL−1β(PeproTech社製)10ng/mLをそれぞれ添加した以外は、上記実験例の(4)と同様にして接着試験を行った。 各ウェルを顕微鏡で確認し、顕微鏡視野内において前記HUVEC細胞に接着した前記HL−60細胞の数を測定することにより、前記サンプルの細胞接着阻害能を評価した。結果を図3に示す。図3中、コントロールは、サーファクチン及び血管内皮細胞活性化物質のいずれも無添加の場合の測定結果である。 図3から、前記HUVECはLPSと同様、LipidA、TNF−α、IL−1βにより活性化されて、前記HL−60細胞の接着を誘導するが、サーファクチンは、LipidAにより誘導された前記HL−60細胞の接着のみ阻害することがわかった(IC50=1.03μg/mL)。これに対し、炎症性サイトカインのTNF−α、及びIL−1βによって誘導された前記HL−60細胞の接着は阻害されなかったことから、サーファクチンが、エンドトキシン(LPS)によって刺激された血管内皮細胞の活性化に対して、選択的な阻害作用を有する可能性が明らかになった。(実施例4)−サーファクチンの細胞接着分子の発現阻害能− 実施例3において示された、サーファクチンの選択的阻害作用を確認するために、LPS刺激によって前記HUVECに誘導される細胞接着分子ICAM−1、及びVCAM−1の発現に与えるサーファクチンの影響を、ウェスタンブロッティング法により確認した。−−ウェスタンブロッティング法による細胞接着因子発現抑制の確認−− 前記HUVECを、コラーゲンコートした100mmプラスチックディッシュ(Costar社製)に8×105個となるようにまき、37℃、5%CO2の条件下で一晩培養した。翌日、前記一般式(2)で表されるサーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、Sigma社製)を、無添加、又は1μg/mL、3μg/mL、10μg/mLの各濃度の条件で添加し、37℃、5%CO2の条件下で2時間培養した。1μg/mLのLPSを添加し、37℃、5%CO2の条件下で4時間培養した。比較対照としてLPSを添加しないものも同様に培養した。 次いで前記プラスチックディッシュを氷冷しながら、ラバーポリスマンを用いて前記HUVECを剥がして回収し、50μLのlysis buffer(20mM Tris[pH=8.0]、150mM NaCl、2mM EDTA、100mM NaF、400μM Na3VO4、1%NP−40、1μg/mL leupeptin、1μg/mL antipain、1mM PMSF)を加えて4℃にて30分間処理し、細胞を粉砕して細胞懸濁液を得た。 得られた前記細胞懸濁液を14,000Gで10分間遠心分離操作を行い、不溶物を除去した。各サンプルのタンパク質濃度を均一に調整した後、半分量のloading buffer(150mM Tris、30%glycerol、3%bromophoenol blue、3%SDS、15%2−mercaptethanol)を加え、100℃で5分間煮沸し、電気泳動用サンプルを調製した。 縦型電気泳動槽に作成した9%ポリアクリルアミドゲルを設置し、泳動用running buffer(380mM glycine、50mM Tris、2mM EDTA、0.1% SDS)を泳動槽に流し入れた。前記アクリルアミドゲルの各ウェルに、調製した前記電気泳動用サンプルを注入し、55Vの定電圧で電気泳動を行った。泳動終了後にゲルを取り出し、PVDF膜(Hybond P、Amersham Biosciences(Piscataway、NJ)社製)と共に転写槽のカセットに挟み、60Vの定電圧で3時間静置し、前記アクリルアミドゲル中のタンパク質を前記PVDF膜に転写した。 転写後、前記PVDF膜を、5%スキムミルクを含むTBS buffer(20mM Tris−HCl[pH=7.6]、137mM NaCl)中で室温にて30分間振盪してブロッキングを行った。 次いで、前記PVDF膜を、1μg/mLの濃度のICAM−1、及びVCAM−1のポリクローナル抗体を希釈した5%スキムミルクを含むTBS buffer3mLにそれぞれ1時間浸した。続いて、前記PVDF膜を振盪し、0.2%Tween−20を含むTN buffer(50mM Tris−HCl[pH=7.5]、137mM NaCl)で1時間に6回の洗浄を行った。続いて、前記PVDF膜を、二次抗体(horseradish-peroxidase-conjugated anti-rabbit IgG;Amersham Biosciences社製)を希釈した5%スキムミルクを含むTBS buffer20mL中に振盪しながら浸した。その後前記PVDF膜を0.2%Tween−20を含むTN bufferで80分間に8回の洗浄を行った後、ECL化学発光キット(Perkin Elmer Life Sciences(Boston、MA)社製)により発光させ、X線フィルム(HR−H、フジ写真フイルム(株)製)に感光させた。結果を図4に示す。 図4から、1μg/mLのLPSで4時間刺激することにより、前記HUVECにICAM−1、及びVCAM−1の発現が顕著に誘導され、サーファクチンは、実施例2及び3において白血球の接着を阻害した濃度である3μg/mL以上の濃度で、LPSによって誘導されたICAM−1、VCAM−1の発現を顕著に抑制することが確認された。 実施例1〜4の結果から、サーファクチンは、LPSのシグナル伝達を特異的に阻害することにより、LPSにより引き起こされる血管内皮細胞と白血球との接着を阻害することが示された。(実施例5)−サーファクチンの細胞毒性評価− 実施例1〜4において示されたサーファクチンがLPSによる前記HUVECの活性化を阻害した作用が、サーファクチンによる細胞毒性に起因するものではないことを確認するために、サーファクチンで処理した前記HUVECの細胞生存率、及び細胞増殖性の測定を行った。(1)細胞生存率 サーファクチンの前記HUVECの細胞生存率に対して与える影響を調べるために、前記一般式(2)で表されるサーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、Sigma社製)を、無添加、又は1μg/mL、3μg/mL、10μg/mLの各濃度の条件で添加し、さらにLPS1μg/mLを加えたサンプルを同時に試験した以外は、上記実験例の(5)と同様にしてトリパンブルー細胞外排出試験を行った。結果を図5に示す。なお、図5中、「●」はLPSを添加しなかったサンプルの結果を表し、「○」はLPS1μg/mLを添加したサンプルの結果を表す。 図5から、0〜30μg/mLのサーファクチンで24時間処理した前記HUVECには、細胞死がみられず、サーファクチンは前記HUVECの細胞生存率に影響を与えないことがわかった。(2)細胞増殖性 サーファクチンの前記HUVECの細胞増殖性に対して与える影響を調べるために、下記の方法(MTT法)により解析を行った。 前記HUVECの培養液を、細胞数1×104個/mLlに調製し、コラーゲンコートした96ウェルプレート(Coster社製)の各ウェルに200μLずつまき、37℃、5%CO2の条件下で一晩培養した。翌日、前記一般式(2)で表されるサーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、Sigma社製)を、無添加、又は1μg/mL、3μg/mL、10μg/mLの各濃度の条件で添加し、37℃、5%CO2の条件下で2時間培養した。次いで、1μg/mLのLPSを添加した群、及びLPSを添加しない群それぞれについて、37℃、5%CO2の条件下で72時間培養した。 各ウェルに5mg/mL MTT(Sigma社製)水溶液を20μL加え、37℃に加温したインキュベータ中に4時間静置した。その後、各ウェルから培地を除去し、DMSOを100μLずつ加え、ホルマザン沈殿を溶解させた後、570nmのフィルターを用いてマイクロプレートリーダー(MPR−A4i、東ソー(株)製)により吸光度を測定し、細胞数の割合を求めた。結果を図6に示す。なお、図6中、「●」はLPSを添加しなかったサンプルの結果を表し、「○」はLPS1μg/mLを添加したサンプルの結果を表す。 図6から、サーファクチンは、10μg/mL以上の濃度で添加された場合には、前記HUVECに対して増殖抑制作用を示すが、細胞接着阻害能を示した濃度である3μg/mLの濃度においては、増殖抑制作用を示さないことがわかった。 これらの結果から、サーファクチンは、前記HUVECに対して高濃度で添加された場合に弱い増殖抑制作用を示すが、LPS刺激による前記HUVECと前記HL−60細胞との接着は、細胞毒性を示すことなく阻害する作用を有することがわかった。このことから、サーファクチンは生体に投与した場合であっても、安全性が高く、エンドトキシン活性を阻害する薬用組成物の有効成分として有用であることが明らかになった。(実施例6)−サーファクチンのLPSシグナル伝達上流における阻害作用− LPSは、その活性部分であるLipidAに、血清中のLBP(LPS binding protein)が結合することにより活性化し、その受容体であるCD−14及びTLR4/MD−2との結合能を獲得することが知られている。そこで、サーファクチンがLipidAとLBPとの結合に与える影響を調べた。 脂質の結合に適した96ウェルプレート(Immulon 1B、Dynex Technologies(Ashfold、U.K.)社製)に、エタノールで希釈した5μg/ウェル(0.25mg/mLで20μL/ウェル)のLipidAを加え、室温で一晩静置してエタノールを蒸発させることにより、LipidAを固定化させた。 各ウェルに、LBP源であるFBSの濃度を振って処理し、固定化したLipidAに結合したLBP量を検出した。結果を図7Aに示す。図7Aから、FBSの濃度依存的にそのLipidAへのLBP結合量の増加が確認された。検討の結果、FBSは10%の濃度で用いることとし、LBPとLipidAの結合に与えるサーファクチンの影響を調べた。 各ウェルに1%(10mg/mL)BSAを含むPBS(−)を100μLずつ入れ、37℃で30分間インキュベートすることによりブロッキングを行った。各ウェルを200μLの0.1%(1mg/mL)BSAを含むPBS(−)で2回ずつ洗った後、前記一般式(2)で表されるサーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、Sigma社製)を、0.1%BSAを含むPBS(−)で各種濃度に希釈した溶液を50μLずつ加え、37℃で1時間インキュベートした。 次に、各ウェルに10%FBS、0.1%BSAを含むPBS(−)を100μLずつ加え、37℃で1時間インキュベートした。各ウェルを0.1%BSAを含むPBS(−)200μLで2回ずつ洗った後、LBPのモノクローナル抗体(6G3、HyCult Biotechnology(Uden、Netherlands)社製)を0.1%BSAを含むPBS(−)で66.7倍に希釈した溶液を50μLずつ入れ、37℃で1時間インキュベートした。各ウェルを0.1%BSAを含むPBS(−)200μLで2回ずつ洗った後、二次抗体(horseradish-peroxidase-conjugated anti-mouse IgG;Amersham Biosciences社製)を希釈した0.1%BSAを含むPBS(−)で1,000倍に希釈した溶液を50μLずつ加え、室温、暗所で1時間静置した。 各ウェルを0.1%BSAを含むPBS(−)200μLで5回ずつ洗った後、3,3´,5´,5−Tetramethylbenzidine(TMB)Liquid(Substrate System for ELISA(Sigma社製)を100μLずつ加えて室温、暗所で15分間静置して発色させた。0.18Mの硫酸水溶液を100μLずつ入れて反応を停止させた後、450nm/570nmのフィルターを用いてマイクロプレートリーダー(Benchmark、BIO−RAD社製)により吸光度を測定し、LBPのLipidAへの結合量の割合を求めた。結果を図7Bに示す。 図7Bから、LBPとLipidAとの結合率は、サーファクチンの濃度依存的に阻害されることがわかった。この結果から、サーファクチンは、LBPの活性化も阻害することがわかった。(実施例7)−サーファクチンとLipidAとの結合解析− サーファクチンが、LPSと直接結合することにより、活性を阻害している可能性を確認するために、サーファクチンとLipidAとの分子間相互作用について、Biacore X(Biacore AB(Uppsala、Sweden)社製)を用い、表面プラズモン共鳴センサーによる経時的解析を行った。 LipidAのHPAセンサーチップ(Biacore AB社製)への固定化は、過去の報告(例えば、Zhu, Y., Ho, B., Ding, J.L. Sequence and structural diversity in endotoxin-binding dodecapeptides. Biochim. Biophys. Acta. 1611, 234-242. 2003)等に記載の方法により行った。前記HPAセンサーチップを、BIAcore Xに挿入し、前記HPAセンサーチップ表面にTBS(Tris緩衝液)を流した。続いて、40mMのn−octyl−β−D−glucoside(Sigma社製)を前記HPAセンサーチップ表面の測定用セルに5μL/分の流速で5分間流して洗浄した。次に、0.5mg/mLの濃度のLipidAを前記HPAセンサーチップ表面の測定用セルに1μL/分の流速で30分以上流して固定化した。固定化終了後は2mMのNaOHを20μL/分の流速で1分間ずつ数回流し、過剰に結合したLipidAを除去した。LipidAの結合により、レゾナンスシグナルの測定値は、ベースラインから約1,000RU(Resonance Unit)上昇した。 一方、センサーチップ表面の対照用セルには、dimyristoylphosphatidic acid(DMP、Sigma社製)を、LipidAと同様にして固定化した。 サーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、シグマ社製)は、TBSに溶かして最終濃度を0.1μg/mL、0.3μg/mL、0.5μg/mLとし、20μL/分の流速で2分間注入し、その前後のレゾナンスシグナルの変化を調べることにより、測定を行った。測定の概念図を、図8に示す。 測定終了後は、その都度センサーチップ表面に2mMのNaOHを20μL/分の流速で1分間ずつ数回注入し、センサーチップ表面の再生を行った。測定は全て25℃の温度条件下で行った。結果を図9に示す。 図9から、サーファクチンの注入直後よりレゾナンスシグナルの上昇が観測され、該レゾナンスシグナルの上昇はサーファクチンの濃度の上昇に伴い増大し、0.5μg/mLのサーファクチンを流した時に、最大で約80RUの上昇が観測された。 この結果から、サーファクチンは、濃度依存的にセンサーチップ表面に固定化したLipidAと特異的に結合することが確認された。また、サーファクチン注入終了後、経時的なレゾナンスシグナルの減少が見られたことから、サーファクチンとLipidAとの結合は、可逆的な結合であることがわかった。(実施例8)−サーファクチンとLPSとの特異的結合の解析− サーファクチンが、LPSと特異的に直接結合することにより、活性を阻害している可能性を確認するために、限外濾過フィルターを用いた解析を行った。 解析方法の概略を図10に示す。図10に示すとおり、サーファクチンとLPSとの混合溶液を、分子量3,000の限外濾過フィルターデバイス(Microcon YM−3、Millopore社製)に入れ、14,000Gで1時間の遠心分離を行うことにより、高分子(分子量3,000以上)の存在する保持液と、低分子(分子量3,000未満)が存在する濾過液とを分けた。この操作によって、分子量1036のサーファクチンは、限外濾過フィルターを通り抜け濾過液中に存在すると考えられるが、LPS(分子量は3,000以上)と結合した場合には、保持液側に残ることが予想される。そこで、濾過液のみを回収し、サーファクチン含有量を調べることにより、サーファクチンとLPSとの結合の有無を判定した。 なお、LPSの対象サンプルとして、牛血清製アルブミン(bovine serum albumin:BSA)、及びグラム陽性菌の細胞壁由来の毒素であるリポタイコ酸(lipoteichoic acid:LTA)を用いて測定を行った。BSAの分子量は68,000、LTAの分子量は3,000以上であることが報告されており、これらの分子は、限外濾過フィルターを通り抜けない。 10μgのサーファクチン(サーファクチンC1:Bacillus subtilis由来品、Sigma社製)を100μgのLPS、BSA、及びLTAのいずれかと共に100μLのPBS(−)に溶解した混合溶液を調製し、37℃で1時間インキュベートしたものを用い、図10に示すように限外濾過を行い、濾過液を回収した。 得られた濾過液をサンプルとして、上記実験例の(4)と同様にして接着試験を行った。結果を図11に示す。 図11から、サーファクチンとLPSとの混合溶液を限外濾過して得た濾過液は、LPSが誘導する細胞接着に対する阻害作用を示さなかった。一方、サーファクチンとBSAとの混合溶液、及びサーファクチンとLTAとの混合溶液を限外濾過して得た濾過液は、LPSが誘導する細胞接着に対して阻害作用を示した。これらの結果から、サーファクチンはLPSと直接、特異的に結合することがわかった。(実施例9)−サーファクチンと各種界面活性剤とのエンドトキシン活性阻害の比較− サーファクチンは、界面活性を有するため、他の界面活性剤を比較対照としてエンドトキシン活性阻害能の評価を行うことにより、エンドトキシン活性阻害への界面活性能の影響を調べた。 比較対照の界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤であるSDS(sodium n−dodecyl sulfate;分子量288.38)、陽イオン性界面活性剤であるCTAC(cetyltrimethylammonium chloride;分子量320)、非イオン性界面活性剤であるTriton X−100(分子量646)、Tween−20(分子量1226)、OG(n−octyl β−D−glucoside;分子量292.4)の5種類を使用した。 サーファクチンと、前記5種の各界面活性剤をサンプルとした以外は、上記実験例(4)及び(5)と同様にして、接着試験、及び細胞毒性試験を行った。結果を図12、及び表2に示す。 図12、及び表2から、サーファクチン以外の界面活性剤は、細胞毒性を示さない濃度において細胞接着を顕著に阻害しなかった。このことから、サーファクチンのエンドトキシン活性阻害は、界面活性能によるものではないことが示された。 以上の結果から、微生物培養液より効率よく得られ、エンドトキシン活性阻害剤として同定されたサーファクチンは、細胞毒性が低く、低濃度で選択的なLPSシグナル伝達の阻害作用を示すことが明らかになった。また、サーファクチンの作用メカニズムの解析により、LPSと特異的に結合することによって、エンドトキシン活性を抑制し、血管内皮細胞と白血球との接着を阻害することがわかった。 更に、これらの結果から、サーファクチンは、動物に対する毒性が報告されているポリミキシンB(J. Bacteriol. 93, 1463-1464, 1967)、及び高分子であるため薬剤組成物としての利用が困難なcathelicidinやsarcotoxin IA等の既存のエンドトキシン活性阻害剤と比べても、安全性及び有用性に優れていることがわかった。 本発明のエンドトキシン活性阻害剤は、細胞毒性が低く、安全性が高く、更に分子量が小さいため、例えば、生体に投与した場合、血中へ移行しやすく、有利である。 本発明のエンドトキシン活性阻害剤は、そのまま被添加物に添加してもよく、細胞培養用培地、輸血用血液、飲食物、化粧料等の添加剤として好適に使用することができる。 また、他の薬効成分等と混合して本発明の薬用組成物として好適に使用することができ、本発明の薬用組成物は、グラム陰性菌感染に起因する炎症性疾患に対する抗炎症剤として好適に使用することができる。また、エンドトキシンが関与する歯周病、敗血症、動脈硬化、及び腸炎性疾患等の治療乃至予防、並びにエンドトキシンショックに対する治療に好適に使用することができる。図1は、実施例1の細胞接着試験の結果を示す顕微鏡写真である。図2は、実施例2の細胞接着試験の結果を示すグラフである。図3は、実施例3の細胞接着試験の結果を示すグラフである。図4は、実施例4の細胞接着分子の発現抑制試験の結果を示す写真である。図5は、実施例5のサーファクチンによる細胞生存率への影響を示すグラフである。なお、図5中、「●」はLPSを添加しなかったサンプルの結果を表し、「○」はLPS1μg/mLを添加したサンプルの結果を表す。図6は、実施例5のサーファクチンによる細胞増殖への影響を示すグラフである。なお、図6中、「●」はLPSを添加しなかったサンプルの結果を表し、「○」はLPS1μg/mLを添加したサンプルの結果を表す。図7Aは、実施例6で調べたFBSの濃度と、LBPとLipidAの結合量との関係を示すグラフである。図7Bは、実施例6で調べたサーファクチンのLBPとLipidAとの結合率に与える影響を示すグラフである。図8は、実施例7のサーファクチンとLipidAとの結合を、表面プラズモン共鳴センサーを用いて解析する方法を説明する概念図である。図9は、実施例7の結果のレゾナンスシグナルの経時変化を示すグラフである。図10は、実施例8のサーファクチンとLPSとの結合を、限外濾過フィルターを用いて解析する方法を説明する概念図である。図11は、実施例8の細胞接着試験の結果を示すグラフである。図12は、実施例9の結果の細胞接着阻害及び細胞生存率を示すグラフである。 下記一般式(1)で表されるサーファクチン、前記サーファクチンの無機塩及び前記サーファクチンの有機塩のいずれかであることを特徴とする細胞接着阻害剤。 ただし、前記一般式(1)中、R1は、L−ロイシン、L−イソロイシン、及びL−バリンから選ばれるいずれかを表し、R2は、炭素数8〜22のアルキルを表す。 下記構造式(2)で表されるサーファクチンC1(surfactin C1)である請求項1に記載の細胞接着阻害剤。 血管内皮細胞と白血球との接着を阻害する請求項1から2のいずれかに記載の細胞接着阻害剤。