タイトル: | 特許公報(B2)_ラクトン類の製造方法 |
出願番号: | 2004517318 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12P 17/02,C12N 1/16,C12P 17/04,C12P 17/06,C12R 1/72 |
三橋 勝久 飯森 真人 JP 4145297 特許公報(B2) 20080627 2004517318 20030627 ラクトン類の製造方法 高砂香料工業株式会社 000169466 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 松任谷 優子 100119183 三橋 勝久 飯森 真人 JP 2002190616 20020628 20080903 C12P 17/02 20060101AFI20080814BHJP C12N 1/16 20060101ALI20080814BHJP C12P 17/04 20060101ALI20080814BHJP C12P 17/06 20060101ALI20080814BHJP C12R 1/72 20060101ALN20080814BHJP JPC12P17/02C12N1/16 GC12P17/04C12P17/06C12P17/02C12R1:72 C12P 17/00-17/18 C12N 1/16 BIOSIS/WPI(DIALOG) JST7580(JDreamII) 特開昭59−082090(JP,A) 特開平03−117494(JP,A) 特開昭61−195693(JP,A) 特開昭60−066991(JP,A) 特開平02−174685(JP,A) 9 FERM BP-8388 JP2003008217 20030627 WO2004003213 20040108 32 20050620 三原 健治 本発明は、香料や医薬中間体等として有用なラクトン類の、微生物を用いた製造法に関する。 香料はその原料あるいは製法によって化学的合成品の香料(いわゆる「合成香料」)と化学的合成品以外の香料(いわゆる「天然香料」)の二つに大別される。そして近年の消費者は、「合成品」を避け「天然品」を好む傾向がある。しかしながら、例えば天然食品フレーバーを構成する上で重要な物質である光学活性体γ−デカラクトン(R−γ−デカラクトン、S−γ−デカラクトン)やδ−デカラクトンは、天然物に存在する量が極めて微量であることから、これらを高光学純度で抽出あるいはその他の操作によって分離することは、技術的及び経済的な見地より有利ではない。したがって現状では「合成品」が一般的に安価にかつ大量に供給されており、一方「天然品」の製造規模は小さく、かつ高価なものが多い。 そこで、上記「天然香料」を、現在使用されている「合成香料」と同程度に安価にかつ大量に供給する方法が望まれている。かかる供給方法として提案されている方法の中では、一切化学的手法を使わず生物学的手法および物理学的手法のみを用いて、天然物原料あるいはその分解物から天然R−γ−デカラクトンを生産する方法であるとして、微生物を用いる発酵法が注目を浴びている。 例えば、ヒマシ油(カスターオイル)またはその加水分解生成物を原料とする微生物を用いたγ−デカラクトンの生産方法としては、特開昭59−82090号公報にアスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、カンジダ・ルゴザ(Candida rugosa)、ゲオトリクム・ケレバーニー(Geotrichum klebannii)、ヤロウィア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)等の微生物を用いてγ−ヒドロキシデカン酸を生産せしめ、これに塩酸等を加え酸性にした後、加熱することによってラクトン化してγ−デカラクトンを製造する方法が開示されている。また、特開昭63−56295号公報およびK.A.MAUMEらの報告[Biocatalysis,Vol.5,79−97(1991)]には、スポロボロミセス・オドラス(Sporobolomyces odorus)またはロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)を用いてリシノール酸源からγ−ヒドロキシデカン酸を得、同様にラクトン化してγ−デカラクトンを生産する方法が開示されている。また特開平2−174685号公報ではアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等の微生物を用いて、特開平3−117494号公報ではサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の微生物を用いて、ヒマシ油またはリシノール酸からγ−ヒドロキシデカン酸を経てγ−デカラクトンを生産する方法が開示されている。さらにこれらの技術に先行してS.Okuiらはカンジダ(Candida)属に属する数種の菌株を用いて、リシノール酸の酸化分解過程においてγ−ヒドロキシデカン酸およびγ−デカラクトンが中間体として存在することを報告している[J.Biochem.,Vol.54,No.6,536−540(1963)]。その他にもヨーロツパ特許公開997533ではヤロウィア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)を用いてヒマシ油からγ−デカラクトンを12g/Lにて生産する方法が開示されているが、その生産方法では培養時に乳化剤やpH調整剤を使用する必要があり、また原料となるヒマシ油の培養系への添加量が0.0247kg/Lと添加比率が小さいことから、製造上はなはだ非効率的である。さらにこれらの公報等に開示されている微生物は、いずれも本発明で用いる微生物とは別の種に属しており、また菌体と生産物の分離が困難であったり生成量が経済的観点から見て充分でなかったりと必ずしも実用化には適していない。 一方、ヒマシ油およびヒマシ油の加水分解生成物以外の成分を炭素源とする方法としては、スポロボロミセス・オドラス(Sporobolomyces odorus)[S.Taqharaら,Agric.Biol.chem.,Vol.36,No.13,2585−2587(1972);N.Jourdainら,″Top.Flavour Res.,Proc.Int.Conf″,H.Eichhorn刊,427−441(1985)]やフザリウム・ポアエ(Fusarium poae)[J.Sarrisら,Agric.Biol.chem.,Vol.49,No.11,3227−3230(1985)]を用いて、糖基質からγ−デカラクトンを生産する方法が報告されているが、これらの方法ではγ−デカラクトンの生産量が極微量であるため工業的規模での生産には適していない。 従って、乳化剤やpH調整剤を使用せず、かつ原料であるヒマシ油及び/又はヒマシ油の加水分解生成物を高濃度で添加しても、γ−ヒドロキシデカン酸及びγ−デカラクトンを効率良く生産できる製造法が望まれていた。 一方、天然γ−デカラクトン中における鏡像体の存在比について、R−γ−デカラクトンが過剰であるとも報告されている[A.Bernreutherら、J.Chromatography,481,363(1989)]。このようなR−γ−デカラクトンの純粋光学活性体の製造法としては特開平4−108782号公報での化学合成による方法が知られている。 またR−γ−デカラクトンは天然物中より抽出することにより得られるラセミ体混合物から、当業者に公知の方法によりR−γ−デカラクトンを選択的に分離する方法によって製造することもできる。しかしこの場合、天然物中に存在するR−γ−デカラクトンの量が極めて微量であることと、R−γ−デカラクトンを他の揮発性化合物から分離することは物理的に困難であるため天然物中より抽出することは経済的な方法ではない。したがって前述のような天然化合物に対する高い需要に応えるために、R−γ−デカラクトンの化学合成法又はラセミ体混合物からの分離法とは異なる方法による、効率のよい天然R−γ−デカラクトン製造法の開発が求められていた。 一方、微生物を用いたδ−デカラクトンの製造法としては、真菌類、特に酵母の還元能を利用した製造法等が提案されている。例えば、特開平3−155792号公報には、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)がもつ還元力を利用して、天然の2−デセン−1,5−オライドから5−デカノライドを製造する方法、また、特開平6−225781号公報には、サッカロミセス・デルブルエキイ(Saccharomyces delbrueckii)等の酵母を用いて、デルターデカノリド、デルタードデカノリドまたはそれらの混合物を、対応する不飽和ラクトンであるデルタ−デセン−2−オリド、デルタ−ドデセン−2−オリドまたはそれらの混合物を含有する基質から生物水素化により製造する方法等が提案されている。しかしながら、酵母の還元能を利用した物質転換法は、高い基質濃度での作用が困難であること、目的物質を得るのに長時間を要すること等の問題点を有している。 本明細書は、本願の優先権の基礎となる特願2002−190616号の明細書に記載された内容を包含する。 本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、微生物を用いる、天然のラクトン類、例えば光学活性γ−デカラクトン、光学活性δ−デカラクトン等の光学活性ラクトン類のより効率的な製造法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために、ヒマシ油及び/又はヒマシ油の加水分解生成物を炭素源として、培地中にγ−ヒドロキシデカン酸を高濃度で蓄積することのできる微生物を公知の菌株および自然界から広く探索した。その結果、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を用いることにより、乳化剤やpH調整剤を使用せず、かつヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸及びレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを原料として高濃度で添加した場合に、γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性。γ−デカラクトンを非常に効率よく培地中に生産及び蓄積させることができることを見出した。さらに、そのようにして得られるγ−ヒドロキシデカン酸を酸性条件下で加熱処理することにより、容易に光学活性γ−デカラクトンを製造することができることも見出した。また、そのようにして製造した光学活性γ−デカラクトンは、非常に高い生産性で回収された。更にまた、上記カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)が、種々のヒドロキシ脂肪酸を炭素源として種々の光学活性ラクトンを製造することを見出した。 本発明は以上の知見に基づいて完成されたものであり、即ち以下の通りである。[1] ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、及びヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、生産されたラクトン類を該培地から採取することを含む、ラクトン類の製造法。[2] ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、及びヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、該培地中に生産されたラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸をラクトン化することを含む、ラクトン類の製造法。[3] カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)が、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC74362株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC60130株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)IFO1583株、及び受託番号FERM BP−8388として寄託されているカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FC58株からなる群より選択される少なくとも1つである、上記[1]又は[2]に記載の製造法。[4] ラクトン類が、一般式(1) (式中、環Aはラクトン環を示し、R1は水素原子、炭化水素基、置換炭化水素基、ヘテロ環基又は置換ヘテロ環基を示し、R2は水素原子、炭化水素基又は置換炭化水素基を示す。尚、環AとR2とが結合して環を形成してもよい。)で表されるラクトンである、上記[1]又は[2]に記載の製造法。[5] ラクトン類が光学活性ラクトン類である上記[1]又は[2]に記載の製造法。[6] ヒドロキシ脂肪酸が、一般式(2) (式中、R1は水素原子、炭化水素基、置換炭化水素基、ヘテロ環基又は置換ヘテロ環基を示し、R2は水素原子、炭化水素基又は置換炭化水素基を示し、R3は炭素鎖4以上の置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示す。尚、R2とR3とが結合して環を形成してもよい。)で表されるヒドロキシ脂肪酸である、上記[1]又は[2]に記載の製造法。[7] ヒドロキシ脂肪酸誘導体が、ヒドロキシ脂肪酸アルキルエステル又はヒドロキシ脂肪酸グリセリドである、上記[1]又は[2]に記載の製造法。[8] ヒドロキシ脂肪酸アルキルエステルが、一般式(3) (式中、R1は水素原子、炭化水素基、置換炭化水素基、ヘテロ環基又は置換ヘテロ環基を示し、R2は水素原子、炭化水素基又は置換炭化水素基を示し、R3は炭素鎖4以上の置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示し、R4はアルキル基を示す。尚、R2とR3とが結合して環を形成してもよい。)で表されるヒドロキシ脂肪酸アルキルエステルである、上記[7]に記載の製造法。[9] ヒドロキシ脂肪酸グリセリドが、一般式(4) [式中、R6〜R8は夫々独立して水素原子又は一般式(6) (式中、R1は水素原子、炭化水素基、置換炭化水素基、ヘテロ環基又は置換ヘテロ環基を示し、R2は水素原子、炭化水素基又は置換炭化水素基を示し、R3は炭素鎖4以上の置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示し、R4はアルキル基を示す。尚、R2とR3とが結合して環を形成してもよい。)で表される基を示す。但し、R6〜R8の少なくとも1つは前記一般式(6)で示される基である。]で表されるヒドロキシ脂肪酸グリセリドである、上記[7]に記載の製造法。[10] ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸、11−ヒドロキシパルミチン酸、レスクエラ酸、10−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシパルミチン酸及び11−ヒドロキシパルミチン酸エチルからなる群より選択される少なくとも1つを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養することを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の製造法。[11] ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸が、4位又は5位に水酸基をもつ炭素数4以上のヒドロキシ脂肪酸である、上記[2]に記載の製造法。[12] ラクトン類が、γ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、γ−ドデカラクトン、γ−トリデカラクトン、γ−テトラデカラクトン、δ−デカラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−ヘプタラクトン、δ−オクタラクトン、δ−ノナラクトン、δ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトン、δ−トリデカラクトン及びδ−テトラデカラクトンからなる群より選択されるいずれか1つである、上記[1]又は「2]に記載の製造法。[13] ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、及びヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養する、ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸の製造法。[14] ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸及びレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、生産されたγ−デカラクトンを該培地から採取することを含む、γ−デカラクトンの製造法。[15] ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸及びレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、該培地中に生産されるγ−ヒドロキシデカン酸をラクトン化することを含む、γ−デカラクトンの製造法。[16] γ−デカラクトンが、光学活性γ−デカラクトンである上記[14]又は[15]に記載の製造法。[17] ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸及びレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つがヒマシ油及び/又はヒマシ油の加水分解生成物である、上記[14]又は[15]に記載の製造法。[18] 11−ヒドロキシパルミチン酸及び/又は11−ヒドロキシパルミチン酸エチルを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、生産されたδ−デカラクトンを該培地から採取することを含む、δ−デカラクトンの製造法。[19] 11−ヒドロキシパルミチン酸及び/又は11−ヒドロキシパルミチン酸エチルを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、該培地中に生産されるδ−ヒドロキシデカン酸をラクトン化することを含む、δ−デカラクトンの製造法。[20] δ−デカラクトンが、光学活性δ−デカラクトンである上記[18]又は[19]に記載の製造法。[21] カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)が、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC74362株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC60130株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)IFO1583株、及び受託番号FERM BP−8388として寄託されているカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FC58株からなる群より選択される少なくとも1つである、上記[14]、[15]、[18]又は[19]に記載の製造法。[22] カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)の、ラクトン類の製造のための使用。[23] カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FERM BP−8388菌株。 本発明におけるラクトン類の製造は、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、及びヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地中でカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)によりラクトン類を生産させて、そのラクトン類を該培地から採取することによって行う。 本発明におけるラクトン類の製造はまた、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、及びヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地中でカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)によりラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸を生産させて、そのラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸をラクトン化することによっても行う。 以下では、本発明のラクトン類の製造法の詳細について説明する。(1)カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila) 本発明において用いるカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)の具体例としては、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FC58株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC74362株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC60130株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)IFO1583株等が挙げられるが、これらの例に限定されるものではない。カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FC58株は、2002年6月10日付(原寄託日)で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、受託番号FERM BP−8388として寄託されており、この寄託については2003年5月28日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託への移管請求が受領されている。 上記カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FC58株は、神奈川県下の一般的な土壌から常法に従って分離し、菌学的性質を同定し、それらの性質を分類学の参考書である[Kurtzman,C.P.ら,″The Yeasts,A Taxonomic Study″4thedition(1998)Elsevier Science B.V.;Barnett,J.A.ら,″Yeasts:Characteristics and identification″3rd ed]に従って確認したところ、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)に属する微生物であることが判明した。そこで、この自然界から分離した微生物は、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FC58株(以降、「FC58株」と略記する)と命名された。 本発明において好適に用いることができるFC58株の菌学的性質は、以下の通りである。(1)YM液体培地における生育:24〜27℃、24時間後に形状は主として球形から卵形となる。(2)YM寒天培地における生育:24〜27℃、2〜3日後に白色〜クリーム色で湿っている。(3)形態:球形から卵形であり、多極出芽で増殖する。偽菌糸の形成およびアダムス、ゴロドコバ、麦芽、YM、V−8、ポテトデキストロースの各培地での生育における子嚢胞子の形成は認められない。(4)最適生育条件:24〜27℃、pH5.5〜6.0、(5)生育の最高温度:35〜37℃(6)ビタミンの要求性:ビタミン欠乏培地での生育は認められない。ビオチン、ピリドキシン、チアミンを要求する。(7)発酵性:グルコース(−)、ガラクトース(−)、シュークロース(−)、マルトース(−)、ラクトース(−)、ラフィノース(−)、トレハロース(−)(8)資化性:ガラクトース(+)、ソルボース(+)、シュークロース(−)、マルトース(−)、トレハロース(−)、ラクトース(−)、ラフィノース(−)、セロビオース(−)、メリビオース(−)、メレチトース(−)、スターチ(−)、D−キシロース(−)、L−アラビノース(−)、D−リボース(−)、D−ラムノース(−)、D−グルコサミン(−)、N−アセチル−D−グルコサミン(−)、グリセロール(微弱)、エリスリトール(−)、リビトール(−)、D−マンニトール(+)、乳酸塩(微弱)、クエン酸塩(−)、イノシトール(−) 尚、上記ATCC及びIFOとは、それぞれ「American Type Culture Collection」及び「Institution for Fermentation,Osaka,Japan(財団法人発酵研究所)」の略であり、「ATCC」又は「IFO」を付された番号は、それぞれの菌株のカタログ番号を表す。「ATCC」又は「IFO」を付された番号で示した上記カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)はいずれも、これらのカタログ番号に基づいてそれぞれの機関が保存している菌株から入手して、用いることができる。 本発明で用いられるカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)は、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、及び/又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物を含む培地中で培養すると、β酸化によってラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸を生産し、あるいはそのラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸をラクトン化することによりラクトン類を生産して、それらを培地中に蓄積することができる。本発明において用いられるカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)は、適切な培養条件等に基づいてヒドロキシ脂肪酸誘導体を含む培地中で培養すると、そのヒドロキシ脂肪酸誘導体を加水分解し、次いでその加水分解生成物をβ酸化することによりラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸を生産し、それを培地中に蓄積する。この場合、培地中に生産及び蓄積されたラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸をラクトン化することによって、所望のラクトン類を得ることができる。 本発明で用いられるカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)は、例えば、ヒマシ油を含む培地中で培養すると、該ヒマシ油を加水分解することができ、さらにそのヒマシ油の加水分解生成物をβ酸化することによりγ−ヒドロキシデカン酸及び/又はγ−デカラクトンを培地中に生産及び蓄積することができる。(2)ラクトン類を製造するための培地 本発明においては、ラクトン類を製造するための培地として、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、及びヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物がらなる群より選択される少なくとも1つを炭素源として含み、かつカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)が増殖可能な培地を使用する。 本発明において用いるヒドロキシ脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物は、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)がそれをβ酸化してラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸を生産できる限り、特に限定されるものではない。また本発明において用いるヒドロキシ脂肪酸誘導体は、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)がそのヒドロキシ脂肪酸誘導体を加水分解し、その加水分解生成物からβ酸化によりラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸を生産できる限り、特に限定されるものではない。 本発明において用いるヒドロキシ脂肪酸としては、カルボキシル基の炭素原子から数えて少なくとも6位、好ましくは6〜20位に水酸基をもつ、炭素数6以上、好ましくは6〜25、より好ましくは6〜20を有するヒドロキシ脂肪酸が好ましい。 ヒドロキシ脂肪酸の具体例としては、例えば、一般式(2)(式中、R1は水素原子、炭化水素基、置換炭化水素基、ヘテロ環基又は置換ヘテロ環基を示し、R2は水素原子、炭化水素基又は置換炭化水素基を示し、R3は炭素鎖4以上の置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示す。尚、R1とR2又はR2とR3とが結合して環を形成してもよい。) 上記一般式(2)中の各基を説明する。 炭化水素基としては、例えば、アルキル基、不飽和結合を有するアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。 アルキル基としては、直鎖状でも、分岐状でも或いは環状でもよい、例えば、炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜15、更に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、tert−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2−メチルペンタン−3−イル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。 不飽和結合を有するアルキル基としては、前記アルキル基の鎖中に二重結合等の不飽和結合を少なくとも1個有するアルキル基が挙げられ、その具体例としては、アルケニル基、アルカジエニル基、アルカトリエニル基等が挙げられる。 アルケニル基としては、前記アルキル基の鎖中に二重結合を1個有する、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば、炭素数2以上、好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜15、更に好ましくは炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。その具体例としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ノナニル基、デセニル基等が挙げられる。 アルカジエニル基としては、前記アルキル基の鎖中に二重結合を2個有する、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば、炭素数4以上、好ましくは炭素数4〜20、より好ましくは炭素数4〜15、更に好ましくは炭素数4〜10のアルカジエニル基が挙げられる。その具体例としては、1,3−ブタジエニル基、2,4−ブタジエニル基、2,3−ジメチル−1,3ブタジエニル基等が挙げられる。 アリール基としては、例えば炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。 アラルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された基が挙げられ、例えば炭素数7〜12のアラルキル基が好ましく、具体的にはベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、3−ナフチルプロピル基等が挙げられる。 ヘテロ環基としては、例えば、脂肪族複素環基、芳香族複素環基等が挙げられる。 脂肪族複素環基としては、例えば、炭素数2〜14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、ピロリジル−2−オン基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。 芳香族複素環基としては、例えば、炭素数2〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。 置換炭化水素基としては、上記炭化水素基の少なくとも1個の水素原子が置換基で置換された、置換アルキル基、置換不飽和結合を有するアルキル基、置換アリール基、置換アラルキル基等が挙げられる。 前記置換基としては、炭化水素基、置換炭化水素基、ヘテロ環基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、アルキレンジオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドラジノ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、保護基で置換されたヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホニルアミノ基、スルホ基、リン酸アミド基、置換シリル基等が挙げられる。 これらR1で示される基は、中でもアルキル基又は不飽和結合を有するアルキル基が好ましい。 置換基を有していてもよい炭素鎖4以上の2価の炭化水素基は、炭素鎖4以上の2価の炭化水素基、炭素鎖4以上の2価の置換炭化水素基が挙げられる。炭素鎖4以上の2価の炭化水素基としては、アルキレン基、不飽和結合を有するアルキレン基、2価の芳香族基等が挙げられ、夫々炭素鎖が少なくとも4であればよい。 炭素鎖4以上のアルキレン基としては、炭素鎖が少なくとも4であればよく、好ましくは炭素鎖4〜20、より好ましくは炭素鎖4〜15の、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、アルキレン基が挙げられる。その具体例としては、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、−(CH2)m−o−C6H10−(CH2)n−(m及びnは夫々独立して0又は自然数を示し、m+n≧2である。)等が挙げられる。 炭素鎖4以上の不飽和結合を有するアルキレン基は、前記炭素鎖4以上のアルキレン基の鎖中に二重結合等の不飽和結合を少なくとも1個有する炭素鎖4以上のアルキレン基が挙げられる。炭素鎖4以上の不飽和結合を有するアルキレン基としては、炭素鎖が少なくとも4であればよく、好ましくは炭素鎖4〜20、より好ましくは炭素鎖4〜15の、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい炭素鎖4以上の不飽和結合を有するアルキレン基が挙げられ、その具体例としては、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基等のアルケニレン基が挙げられる。 炭素鎖4以上の2価の芳香族基としては、炭素鎖が少なくとも4であればよく、好ましくは炭素鎖4〜20、より好ましくは炭素鎖4〜15の、炭素鎖4以上の2価の芳香族基が挙げられ、その具体例としては、−(CH2)p−o−C6H4−(CH2)q−(p及びqは夫々独立して0又は自然数を示し、p+q≧2である。)等が挙げられる。 炭素鎖4以上の2価の置換炭化水素基としては、前記炭素鎖4以上の2価の炭化水素基中の少なくとも1個の水素原子がヒドロキシル基以外の上記置換基で置換された2価の置換炭化水素基が挙げられる。 R1とR2又はR2とR3とが結合して環を形成する場合には、その環としては脂肪族環、芳香族環等が挙げられる。脂肪族環としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環等が挙げられる。芳香族環としては、ベンゼン環等が挙げられる。 ヒドロキシ脂肪酸の好適な例としては、リシノール酸、11−ヒドロキシパルミチン酸、レスクエラ酸、10−ヒドロキシステアリン酸、及び10−ヒドロキシパルミチン酸、下記式で表されるラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸等が挙げられる。 上記ヒドロキシ脂肪酸は、中でもリシノール酸、11−ヒドロキシパルミチン酸、レスクエラ酸、10−ヒドロキシステアリン酸、及び10−ヒドロキシパルミチン酸等が好ましい。 本発明において用いるヒドロキシ脂肪酸誘導体としては、上記ヒドロキシ脂肪酸の誘導体が好ましい。そのようなヒドロキシ脂肪酸誘導体の好適な例としては、ヒドロキシ脂肪酸アルキルエステル及びヒドロキシ脂肪酸グリセリド等が挙げられる。 ヒドロキシ脂肪酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、一般式(3)(式中、R4はアルキル基を示し、R1〜R3は前記と同じ。)で表される。 R4で示されるアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば、炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6、更に好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基等が挙げられる。 本発明において好適なヒドロキシ脂肪酸アルキルエステルとしては、アルキルエステル部分の炭素数が1〜3のヒドロキシ脂肪酸アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル及びプロピルエステル等)が挙げられ、例えば、11−ヒドロキシパルミチン酸エチル、リシノール酸エチル、レスクエラ酸エチル、10−ヒドロキシステアリン酸エチル、及び10−ヒドロキシパルミチン酸エチル等が挙げられる。 ヒドロキシ脂肪酸グリセリドとしては、ヒドロキシ脂肪酸モノグリセリド、ヒドロキシ脂肪酸ジグリセリド及びヒドロキシ脂肪酸トリグリセリド等が挙げられ、その具体例としては、例えば、一般式(4)[式中、R6〜R8は夫々独立して水素原子又は一般式(6)(式中、R1〜R3は前記と同じ。)で表される基を示す。但し、R6〜R8の少なくとも1つは前記一般式(6)で示される基である。]で表される。 上記一般式(4)で表されるヒドロキシ脂肪酸グリセリドは、グリセリンと上記一般式(2)で表されるヒドロキシ脂肪酸が縮合して得られたものが挙げられる。 本発明において好適なヒドロキシ脂肪酸グリセリドとしては、例えばヒマシ油等が挙げられる。 本発明において用いるヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物は、前記のヒドロキシ脂肪酸誘導体を加水分解することにより製造することができる。例えば、ヒドロキシ脂肪酸グリセリド又はヒドロキシ脂肪酸アルキルエステルを、化学的又は酵素的に加水分解処理することにより、例えばリパーゼ等の加水分解酵素による処理、アルカリ処理、高圧スチーム処理等に供することにより製造することができる。ヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物としては、限定するものではないが、例えば、ヒマシ油の加水分解生成物、11−ヒドロキシパルミチン酸エチルの加水分解生成物等が挙げられる。 本発明において用いるヒドロキシ脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸誘導体は、R体又はS体の光学活性体であってもラセミ体であってもよい。例えば、本発明において、上記一般式(2)で表されるヒドロキシ脂肪酸として、例えば、一般式(2−1)(式中、*は不斉炭素を示し、R1〜R3は前記と同じ。)で表される光学活性ヒドロキシ脂肪酸を用いれば、得られるラクトン類は、光学活性ラクトン類が得られる。ここで、R1及びR2が同一の基である場合は、R1とR2が結合している炭素原子は不斉炭素とはならない。 また、ヒドロキシ脂肪酸誘導体として、光学活性ヒドロキシ脂肪酸誘導体を用いれば、得られるラクトン類は、光学活性ラクトン類が得られる。 例えば、上記一般式(3)で表されるヒドロキシ脂肪酸アルキルエステルとして一般式(3−1)(式中、R1〜R4及び*は前記と同じ。)で表される光学活性ヒドロキシ脂肪酸アルキルエステル、また、上記一般式(4)で表されるヒドロキシ脂肪酸グリセリドとして一般式(4−1)[式中、R9〜R11は夫々独立して水素原子又は一般式(6−1)(式中、R1〜R3及び*は前記と同じ。)で表される基を示す。但し、R9〜R11の少なくとも1つは前記一般式(6−1)で示される基である。]で表される光学活性ヒドロキシ脂肪酸グリセリドを用いれば、得られるラクトン類は、光学活性ラクトン類が得られる。 光学活性ヒドロキシ脂肪酸グリセリドは、光学活性ヒドロキシ脂肪酸モノグリセリド、光学活性ヒドロキシ脂肪酸ジグリセリド及び光学活性ヒドロキシ脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。 更にまた、本発明においてヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物を用いる場合の加水分解するヒドロキシ脂肪酸誘導体として光学活性ヒドロキシ脂肪酸誘導体を用いても同様である。 即ち、ヒドロキシル基が結合している炭素原子がR体であれば、得られる光学活性ラクトン類はR−ラクトン類であり、S体であれば、得られる光学活性ラクトン類はS−ラクトン類である。 上記一般式(2−1)で表される光学活性ヒドロキシ脂肪酸の好適な例としては、上記ヒドロキシ脂肪酸の好適な例として例示したヒドロキシ脂肪酸の光学活性体が挙げられ、中でも光学活性リシノール酸、光学活性11−ヒドロキシパルミチン酸、光学活性レスクエラ酸、光学活性10−ヒドロキシステアリン酸、及び光学活性10−ヒドロキシパルミチン酸等が好ましい。 上記一般式(3−1)で表される光学活性ヒドロキシ脂肪酸アルキルエステルの好適な例としては、光学活性11−ヒドロキシパルミチン酸エチル、光学活性リシノール酸エチル、光学活性レスクエラ酸エチル、光学活性10−ヒドロキシステアリン酸エチル、及び光学活性10−ヒドロキシパルミチン酸エチル等が挙げられる。 一般式(4−1)で表される光学活性ヒドロキシ脂肪酸グリセリドの好適な例としては、例えば光学活性なヒマシ油等が挙げられる。 本発明の製造法によりラクトン類としてγ−デカラクトンを製造するためには、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物として、限定するものではないが、ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸及びレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。また本発明の製造法によるδ−デカラクトンの製造のためには、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物として、限定するものではないが、11−ヒドロキシパルミチン酸及び/又は11−ヒドロキシパルミチン酸エチルを用いることが好ましい。 本発明において用いるヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物は、市販品であっても天然物からの抽出物であってもよく、あるいは適宜製造したものであってもよい。本発明の製造法において天然のラクトン類を得るためには、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物としては、化学的な合成手段以外の手法により得られたものを使用することが好ましい。例えば、天然のδ−デカラクトンを製造するために使用可能な11−ヒドロキシパルミチン酸としては、ヤラッパやサツマイモから抽出されたものを好適に使用することが可能である。また、本発明の製造法において光学活性ラクトン類を得るためには、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物は、上記したように光学活性体を使用することが好ましい。 本発明における、ラクトン類を製造するための培地は、上記のヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体及びヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも1つを、培地1Lに対して、10〜50%(w/v)、好ましくは15〜25%(w/v)の濃度で含有する。 本発明における、ラクトン類を製造するための培地は、上記のヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体及びヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも1つに、細胞培養のために通常用いられる他の成分(例えば、窒素源等)を適宜加えることにより調製することができる。培地に加える他の成分としては、限定するものではないが、酵母エキス、尿素、コーンスティープリカー、硫酸アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウム等を含む窒素源、麦芽エキス、ポリペプトン及びグルコース等の糖類を含む追加の炭素源、硫酸マンガン、塩化カルシウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、塩化コバルト、モリブデン酸ナトリウム、ホウ素及びヨウ化カリウム等の無機塩類、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)及びコエンザイムA(CoA)等の補酵素群、アデノシン三リン酸(ATP)等のヌクレオチド、L−カルニチン等のビタミン類、並びに滅菌水等が挙げられる。無機塩類、補酵素群及びビタミン類等の補因子は、ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸及び/又はラクトン類の生産量を一層増大させることができるが、その添加量は通常は微量でよい。当業者であれば、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)が増殖可能である培地を調製するために添加するこのような他の成分を、必要に応じて容易に決定することができる。(3)カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を用いた光学活性ラクトンの製造 本発明においては、上記(1)で説明したカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を、上記(2)で説明したラクトン類を製造するための培地で培養することにより、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)がラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸及び/又はラクトン類を培地中に生産するようにすることができる。 カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)によって生産されたラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸は、ラクトン化することによりラクトン類に変換することができる。ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸のラクトン化は、当業者に公知の任意の方法によって行うことができるが、例えば、酸性条件下での加熱処理等によって行うことができる。具体的には例えば、ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸を含む培養物を、pH3〜5の条件で100℃で20分加熱することによって、その培養物中のラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸をラクトン化することができる。このラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸がラクトン化された化合物は、本発明に係るラクトン類である。本発明においては、pH調整剤を使用する必要がなく、ラクトン化することができる。 上記に従って生産される、ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸のラクトン化により得られるラクトン類、又はカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)によって生産されるラクトン類は、当業者に公知の方法により採取及び/又は単離精製することができる。 本明細書において、「ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸」とは、ラクトン化することが可能なヒドロキシ脂肪酸を意味する。本発明における「ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸」は、好ましくは、カルボキシル基の炭素原子から数えて4位又は5位に水酸基をもつ炭素数4以上、好ましくは炭素数5〜22、好ましくは炭素数5〜17、より好ましくは炭素数5〜12のヒドロキシ脂肪酸である。 ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸の具体例としては、例えば、一般式(5)(式中、R5は置換基を有していてもよい炭素鎖が2又は3の2価の炭化水素基を示し、R1及びR2は前記と同じ。尚、R2とR5とが結合して環を形成してもよい。)で表されるヒドロキシ脂肪酸が挙げられる。 R5は置換基を有していてもよい炭素鎖が2又は3の2価の炭化水素基は、炭素鎖が2又は3の2価の炭化水素基、炭素鎖が2又は3の2価の置換炭化水素基が挙げられる。 炭素鎖が2又は3の2価の炭化水素基としては、エチレン基又はトリメチレン基の炭素鎖が2又は3のアルキレン基、エテニレン基又はプロペニレン基の炭素鎖が2又は3のアルケニレン基等が挙げられる。 炭素鎖が2又は3の2価の置換炭化水素基としては、前記炭素鎖が2又は3の2価の炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がヒドロキシル基以外の上記置換基で置換された基が挙げられる。炭素鎖が2又は3の2価の置換炭化水素基の具体例としては、プロピレン基等が挙げられる。R2とR5とが結合して環を形成する場合には、その環としては脂肪族環、芳香族環等が挙げられる。脂肪族環としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環等が挙げられる。芳香族環としては、ベンゼン環等が挙げられる。 本発明に係るラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸において、上記一般式(5)中のR5が炭素鎖2の炭化水素基であるラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸の具体例としては、γ−ヒドロキシデカン酸、下記式で表されるヒドロキシ脂肪酸等が挙げられる。 また、上記一般式(5)中のR5が炭素鎖3の炭化水素基であるラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸の具体例としては、δ−ヒドロキシデカン酸、下記式で表されるヒドロキシ脂肪酸等が挙げられる。 本発明の方法において、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物として光学活性体を用いれば、得られるラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸は、一般式(5−1)(式中、R1、R2、R5及び*は前記と同じ。)で表される光学活性ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸である。本発明においては、ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸として、光学活性ラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸を用いることが好ましい。 本発明の製造法により得られるラクトン類としては、例えば、一般式(1)(式中、環Aはラクトン環を示し、R1は及びR2前記と同じ。尚、環AとR2とが結合して環を形成してもよい。)で表される。 一般式(1)において、環Aで示されるラクトン環としては、下記式(7)で表されるγ−ラクトン環又は(8)で表されるδ−ラクトン環等が挙げられる。また、環Aは、置換基を有していてもよい。 環AとR2とが結合して環を形成する場合の具体例としては、例えば下記式で表される環等が挙げられる。 本発明の製造法により得られるラクトン類の具体例としては、限定するものではないが、炭素数4以上のラクトン類が挙げられ、具体的には、γ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、γ−ドデカラクトン、γ−トリデカラクトン、γ−テトラデカラクトン、δ−デカラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−ヘプタラクトン、δ−オクタラクトン、δ−ノナラクトン、δ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトン、δ−トリデカラクトン、δ−テトラデカラクトン、アンゲリカラクトン、ウイスキーラクトン、γ−ジャスモラクトン、ジャスミンラクトン、シスジャスモンラクトン、メチルγ−デカラクトン、ジャスモラクトン、メンタラクトン、n−ブチルフタリド、プロピリデンフタリド、ブチリデンフタリド、4,6,6,(4,4,6)−トリメチルテトラヒドロピラン−2−オン、δ−2−デセノラクトン、クマリン、ジヒドロクマリン、シクロヘキシルラクトン、6−メチルクマリン、及び下記式で表されるラクトン類等が挙げられる。 上記式中、Rは保護基を示す。 上記ラクトン類としては、中でもγ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、γ−ドデカラクトン、γ−トリデカラクトン、γ−テトラデカラクトン、δ−デカラクトン、δ−ヘプタラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−オクタラクトン、δ−ノナラクトン、δ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトン、δ−トリデカラクトン及びδ−テトラデカラクトン等の炭素数5〜12のラクトン類が好ましい。 本発明の製造法において、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物として光学活性体を用いれば、得られる上記ラクトン類は光学活性ラクトン類である。 光学活性ラクトン類としては、例えば、一般式(1−1)(式中、環A、R1、R2及び*は前記と同じ。)で表される。 本明細書において、「光学活性ラクトン」とは、光学活性体(例えば、R体、S体)であるラクトンを意味する。本発明の方法により製造される光学活性ラクトンは、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)によりヒドロキシ脂肪酸から生産されるラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸のラクトン化により生成されるものであるか、又はカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)によりヒドロキシ脂肪酸から生産されるものである。 本発明の製造法により得られる光学活性ラクトン類としては、限定するものではないが、炭素数5以上、好ましくは炭素数5〜12の光学活性ラクトン類が挙げられ、例えば、上記の具体例として例示したラクトン類の光学活性体が挙げられ、好ましくは、光学活性γ−デカラクトン、光学活性γ−バレロラクトン、光学活性γ−ヘキサラクトン、光学活性γ−ヘプタラクトン、光学活性γ−オクタラクトン、光学活性γ−ノナラクトン、光学活性γ−ウンデカラクトン、光学活性γ−ドデカラクトン、光学活性γ−トリデカラクトン、光学活性γ−テトラデカラクトン、光学活性δ−デカラクトン、光学活性δ−ヘキサラクトン、光学活性δ−ヘプタラクトン、光学活性δ−オクタラクトン、光学活性δ−ノナラクトン、光学活性δ−ウンデカラクトン、光学活性δ−ドデカラクトン、光学活性δ−トリデカラクトン及び光学活性δ−テトラデカラクトン等が挙げられる。(4)本発明の方法による光学活性γ−デカラクトンの製造 以下に、本発明の光学活性ラクトンの製造法について、光学活性γ−デカラクトンの製造を例にとってさらに詳細に説明する。本発明の光学活性ラクトンの製造は、原則としてこの光学活性γ−デカラクトンの製造法の記載と同様の実験操作によって行うことができる。a)光学活性γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンを生産するための培養(本培養)に用いる培地 本発明における光学活性γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンを生産するための培養(実施例中では本培養に相当する)においては、ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸及びレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを、培地の炭素源として用いる。本発明において、ヒマシ油の加水分解生成物とは、ヒマシ油を化学的又は酵素的に加水分解することにより得られる混合物を意味する。ヒマシ油の加水分解生成物としては、リパーゼによりヒマシ油を加水分解して得た加水分解物(以下、「リパーゼによる加水分解物」という)が挙げられる。なお、ヒマシ油をリパーゼにより加水分解して得た加水分解物の主成分はリシノール酸である。したがって、ヒマシ油の加水分解生成物は、例えば、ヒマシ油の主要構成脂肪酸であるリシノール酸を主成分として含むものである。 ヒマシ油の加水分解に用いるリパーゼとしては、リシノール酸を生産するものであれば特に限定されずに使用可能である。該リパーゼとしては、例えば(名糖産業株式会社):リパーゼOF、リパーゼMY、(天野エンザイム株式会社):ニューラーゼF3G、リパーゼA「アマノ」6、リパーゼAY「アマノ」30G、リパーゼF−AP15、リパーゼG「アマノ」50、リパーゼM「アマノ」10、リパーゼR「アマノ」G等が挙げられる。リパーゼによる加水分解物は、ヒマシ油からリシノール酸を主成分とする加水分解生成物を製造する条件、例えば、リパーゼをヒマシ油100g当たり0.5g添加し、30℃で24時間インキュベートすることにより、得られる。このようにして得られたリパーゼによる加水分解物は、混合物の状態でそのまま使用することができる。 ヒマシ油の加水分解生成物を本発明の本培養培地に含ませる場合には、リパーゼによる加水分解物を、培地に添加することが好ましい。但し、本発明の製造法においては、培地中にヒマシ油が含まれていれば、培養後にはリパーゼによる加水分解物は培地中に含まれることになる。これは、本発明の製造法においては、本発明で用いられるカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)により培地中のヒマシ油から加水分解生成物が生成されるためである。従って、培地中にヒマシ油を添加しておけば、さらにリパーゼによる加水分解物を添加することは任意工程となる。 本発明においては、ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸及びレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを用いればよく、ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸又はレスクエラ酸は、それぞれ単独で用いても2つ以上適宜組み合わせて用いてもよい。これらヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物又は、リシノール酸又はレスクエラ酸としては、中でもヒマシ油及び/又はヒマシ油の加水分解生成物が好ましい。 ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸及びレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを培地に添加する濃度は、培地1Lに対して、通常10〜50%(w/v)、好ましくは15〜25%(w/v)程度である。 本発明で使用する培地には、必要に応じて、酵母エキス、麦芽エキス、ポリペプトン、グルコース等の成分をさらに添加してもよく、そのような追加成分を添加した培地を栄養培地として、本発明に係るγ−ヒドロキシデカン酸及び/又は本発明の光学活性γ−デカラクトンの生産に用いることができる。 ここで、酵母エキス、尿素、コーンスティープリカー、硫酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等は、窒素源として上記培地に含有させて使用することができる。また、麦芽エキス、ポリペプトン、グルコース等の糖類は、追加炭素源として上記培地に含有させて使用することができる。 一方、培地として、ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸又はレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを唯一の炭素源として含む合成培地を使用してもよい。但し、この合成培地に、さらに上記の追加窒素源又は炭素源などの追加成分を添加してもよい。 さらにこれらの培地に、必要に応じて種々の補因子を添加することにより光学活性γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンの生産量をより一層増加させることが可能である。 補因子としては、例えば、硫酸マンガン、塩化カルシウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、塩化コバルト、モリブデン酸ナトリウム、ホウ素、ヨウ化カリウム等の無機塩類、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、コエンザイムA(CoA)等の補酵素群、アデノシン三リン酸(ATP)等のヌクレオチド、L−カルニチン等のビタミン類等が挙げられる。補因子の添加量は微量でよい。 本発明で用いられる本培養培地としては、例えばYM培地、ポテトデキストロース培地又はポテトスクロース培地等にヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸又はレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを加えた培地、あるいはそれらの培地に上記の追加成分を任意に添加した培地が挙げられる。b)本培養に基づく光学活性γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンの生産 本発明では、本発明に係るカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を上記a)の培地にて培養することにより、培地中にγ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンを生産及び蓄積させることができる。 本発明に係るカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)は、上記a)の培地に直接接種して培養しても良いが、好ましくは、そのカンジダ・ソルボフィラを予め通常の培地で種培養したものを上記a)の培地に接種又は播種して培養する。この種培養の培養条件は、γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンの生産を行う培養(本培養)と同一でもよいが、使用するカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)株が増殖可能な条件であれば、特に限定されない。種培養の際に使用する通常の培地は、固体培地でも液体培地でも良く、またヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸又はレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを含有する必要はないが、含有していてもよい。種培養に用いる培地としては、例えばYM斜面寒天培地又はポテトデキストロース斜面寒天培地等が挙げられる。種培養物を本培養のために培地に添加する量は、特に限定されない。しかしながら、例えば種培養物が液体培養物である場合には、吸光度OD 610で30の濃度程度の培養物を本培養時の培地量の1〜3%量添加することが好ましい。また、種培養を行った後、前培養を行ってから、上記a)の培地における本培養を行ってもよい。このような二段階の培養は大規模生産に好適であり、工業生産においては特に有用である。前培養の培養条件は、本培養と同一でもよいが、使用するカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)株が増殖可能な条件であれば、特に限定されない。種培養の際に使用する培地には、ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸又はレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つを含有する必要はないが、含有していてもよい。 本発明の製造法において、使用する培養条件は好気的条件とする。培養温度は通常20〜35℃、好ましくは24〜30℃の範囲から適宜選択される。培地のpHは通常5〜7、好ましくは5.5〜6.5の範囲から適宜選択される。また、培養は、例えば振とうフラスコ中あるいは発酵槽(例えば撹拌及び通気装置付きの発酵槽)中で振とう培養を行う。 本培養の培養時間は、光学活性γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンを生産するのに十分な時間であれば特に限定されないが、好ましくは光学活性γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンの生産量が最大に達する時間を選択する。この光学活性γ−ヒドロキシデカン酸及び/又は光学活性γ−デカラクトンの生産量が最大に達する時間は、培地組成、基質として添加するヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、リシノール酸又はレスクエラ酸からなる群より選択される少なくとも1つの添加量、用いる培養装置に応じた通気・撹拌効率等により変化する。上記培養時間としては、例えば培養装置として振とうフラスコを用いた培養では、通常1時間〜30日、好ましくは12時間〜25日の範囲から適宜選択すればよい。また、発酵槽を用いた培養では、通常1日〜20日、好ましくは3〜10日の範囲から適宜選択すればよい。発酵槽の使用は、比較的短時間の培養で済むので生産効率上の見地から好ましい。 また、上記培養時間の決定は、培地中に生産された光学活性γ−デカラクトンを経時的にサンプリングし、或いは培地中に生産されたγ−ヒドロキシデカン酸を経時的にサンプリングし、これをラクトン化して、得られる光学活性γ−デカラクトンの生産量をガスクロマトグラフィー(GC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC−MS)により測定し、さらに場合により標準品との比較等を行って、適切な光学活性γ−デカラクトンの生産量をもたらす時間を選択すればよい。c)光学活性γ−ヒドロキシデカン酸からの光学活性−γ−デカラクトンの製造 このようにして培地中に光学活性γ−ヒドロキシデカン酸が生産される場合には、そのまま医薬中間体等として用いることができるが、本発明では、該γ−ヒドロキシデカン酸をさらにラクトン化により光学活性γ−デカラクトンに変換して、該光学活性γ−デカラクトンを製造するために使用する。 ラクトン化は、通常公知の任意のラクトン化方法により行えばよい。本発明の光学活性γ−ヒドロキシデカン酸のラクトン化は、上記の培地中に生産されたγ−ヒドロキシデカン酸を常法により回収してから行ってもよく、また培養終了後の培地を直接ラクトン化処理することにより、培地中に光学活性γ−ヒドロキシデカン酸が含まれたままの状態で行ってもよい。 上記ラクトン化には、例えば、従来より行われている培養液中でのラクトン化を用いることができる。その具体例としては、培養終了後の培養液に希塩酸や希硫酸等の酸を加えて当該培養液のpHを酸性化することによって行う方法が挙げられる。 本発明においては、より天然に近い状態の化合物として光学活性γ−デカラクトンを得るために、ラクトン化を、培養液のpHを酸性化することなくそのままの状態で行う方法を用いることが好ましい。本発明においては培養終了時の培養液のpHがすでに3.0〜4.5の範囲で酸性側に傾いているため、培養液のpHを酸性化することなく、酸性条件の培養液を得ることができる。この酸性条件の培養液は、pHを酸性化する処理を行うことなく、通常10分〜1時間程度、好ましくは10〜30分間程度加熱することによって、該培養液中に含まれる光学活性γ−ヒドロキシデカン酸のラクトン化を達成することができる。この加熱温度は、70〜130℃程度、好ましくは90〜120℃程度の温度範囲に設定される。また本発明においてラクトン化を行う際は、培地が酸性条件下であればよく、好ましくはpH2〜5である。 本発明においては、このような光学活性γ−ヒドロキシデカン酸のラクトン化によって、光学活性γ−ヒドロキシデカン酸を光学活性γ−デカラクトンに変換することができる。 かくして得られる光学活性γ−デカラクトンは、遠心分離等の方法により培養液から菌体を分離および除去した後、溶剤抽出および蒸留等の常法によって当該培養液中から回収及び精製すればよい。 本発明の光学活性γ−デカラクトンの製造法は、R−γ−デカラクトンを高光学純度で得ることができる。 本発明の製造法により得られるラクトン類は、香料、医薬中間体等に用いることができる。例えば、R−γ−デカラクトンは飲料、チューインガム、果汁、タバコ製品、医薬品製剤、香料、香料入り製品などへの官能性の付加あるいは強化・高揚に用いることができ、またR−γ−デカラクトンはS−γ−デカラクトンと比較し香りの強度が強く、キャラクターとしてよりナチュラルなフルーツ感を持つという利点を有する[(A.Mosandleら、J.Agric.Food Chem,.37,413(1989)]。(5)まとめ 本発明の製造法は、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を用いることを特徴とする。本発明の製造法に従えば、R−γ−デカラクトンやR−δ−デカラクトン等の光学活性ラクトン類を高光学純度で得ることができる。また本発明の光学活性γ−デカラクトン製造法においては、R−γ−デカラクトンの生産効率が高い。本発明の製造法によって、このようにR−γ−デカラクトンの高い生産効率を達成できるのは、おそらく本発明の製造系においてカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)が得られたR−γ−デカラクトンを崩壊させにくいという特徴を示すためであり、特に、カンジダ・ソルボフィラがR−γ−アカラクトンを分解しないことが原因であると考えられる。但し本発明の範囲は、このような仮説理論に基づいて制限されるものではない。 本発明の方法を用いれば、純度の高い光学活性ラクトンを効率良く製造することが容易になり、工業生産における作業性を向上させることができる。 以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。 なお、以下の実施例において、ガスクロマトグラフィー(GC)分析は、以下の条件で行った。機器:ヒューレットパッカード製 5890型カラム:BC−WAX(GLサイエンス社製)直径0.25mm×長さ30m内部標準試料:1.0v/v%デカン酸エチル 各実施例で生産されたラクトン類の光学純度はGC分析により測定した。(機器:G3000(日立製)、カラム:CHIRASIL−DEX−CB、直径0.25mm×長さ25m)。 FC58株を、YM斜面寒天培地に接種して、27℃で3日間培養して活性化した。また、前培養のための培地として、300mL容三角フラスコに酵母エキス0.09g、麦芽エキス0.09g、ポリペプトン0.15g及びグルコース0.3gを入れ、蒸留水を加えて総量30mL、pH6としたものを、オートクレーブで121℃にて15分間滅菌して調製した。冷却した該培地に、上記の通り活性化したFC58株を接種し、回転式振とう培養装置を用いて27℃にて150rpmで24時間振とう培養を行ったものを、前培養液とした。さらに、続いて行う本培養のための本培養培地を調製した。すなわち、500mL容坂口フラスコに酵母エキス0.3g、麦芽エキス0.3g及びポリペプトン0.5gを入れ、蒸留水を加えて総量100mL、pH6とし、さらにヒマシ油20gを添加したものを、オートクレーブで121℃にて15分間滅菌して調製した。次いで、冷却した該本培養培地に、上記の前培養液を2mL接種し、27℃にて150rpmで振とう培養することにより、本培養を行った。培養中のpH調整は行わなかった。なお培養後の培養液のpHは4.06であった。培養開始後3日目から経時的に培養液を無菌的に5mLずつサンプリングし、サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ100℃で20分間加熱することによりγ−ヒドロキシデカン酸のラクトン化を行った。このようなラクトン化処理後、この試料を酢酸エチルで抽出し、分離した有機層を内票法(内部標準試料としてデカン酸エチルを使用)によるガスクロマトグラフィー(GC)分析で定量した。この結果、培養開始後14日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後14日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり8.41gであった。光学純度は99%ee以上であった。 ヒマシ油20gの代わりにリシノール酸(純度80%以上;和光純薬工業(株)製)20gを用いた以外は、実施例1と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。その結果、培養開始後20日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後20日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり21.89gであった。光学純度は99%ee以上であった。 本培養培地に硫酸マンガン(MnSO4・H2O)1.7mg、塩化カルシウム(CaCl2・H2O)0.55mg、塩化第二鉄(FeCl3・H2O)0.375mg、硫酸亜鉛(ZnSO4・H2O)2.2mg、硫酸銅(CuSO4・H2O)0.4mg、硫酸マグネシウム(MgSO4・H2O)5.9mg、塩化コバルト(CoCl2・H2O)0.28mg、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4・H2O)0.26mg、ホウ素(H3BO3)0.4mg及びヨウ化カリウム(KI)0.06mgを添加して使用したこと以外は、実施例2と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。その結果、培養開始後20日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後20日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり27.37gであった。光学純度は99%ee以上であった。 FC58株を、YM斜面寒天培地に接種して、27℃で3日間培養して活性化した。また、前培養のための培地として、500mL容坂口フラスコに酵母エキス0.3g、麦芽エキス0.3g、ポリペプトン0.5g及びグルコース1.0gを入れ、蒸留水を加えて100ml、pH6としたものを、オートクレーブで121℃にて15分間滅菌して調製した。冷却した該培地に、上記の通り活性化したFC58株を接種し、回転式振とう培養装置を用いて27℃で150rpm、24時間振とう培養を行ったものを、前培養液とした。さらに、続いて行う本培養のための本培養培地を調製した。すなわち、5L容ジャーファーメンターに酵母エキス6.0g、麦芽エキス6.0g、ポリペプトン10.0g、硫酸マンガン(MnSO4・H2O)34mg、塩化カルシウム(CaCl2・H2O)11mg、塩化第二鉄(FeCl3・H2O)7.5mg、硫酸亜鉛(ZnSO4・H2O)44mg、硫酸銅(CuSO4・H2O)8.0mg、硫酸マグネシウム(MgSO4・H2O)118mg、塩化コバルト(CoCl2・H2O)5.6mg、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4・H2O)5.2mg、ホウ素(H3BO3)8.0mg及びヨウ化カリウム(KI)1.2mgを入れ、蒸留水を加えて2000mL、pH6とし、リシノール酸(純度80%以上;和光純薬工業(株)製)400gを添加したものを、オートクレーブで121℃にて15分間滅菌して調製した。冷却した該本培養培地に上記の前培養液を40mL接種し、撹拌羽根の回転数600rpm、エアー通気量1000mL/分で27℃にて培養を行うことにより、本培養を行った。培養中のpH調整は行わなかった。なお培養後の培養液のpHは4.75であった。培養開始後3日目から経時的に培養液を無菌的に5mLずつサンプリングし、サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ100℃で20分間加熱することによりγ−ヒドロキシデカン酸のラクトン化を行った。このようなラクトン化処理後、この試料を酢酸エチルで抽出し、分離した有機層を内票法(内部標準試料としてデカン酸エチルを使用)によるGC分析で定量した。この結果、培養開始後10日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後10日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり49.94gであった。光学純度は99%ee以上であった。 リシノール酸(純度80%以上;和光純薬工業(株)製)400gの代わりにヒマシ油600gのリパーゼ(リパーゼOF;名糖産業株式会社製)による加水分解物を用いた以外は、実施例4と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。この結果、培養開始後5日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後5日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり40.50gであった。光学純度は99%ee以上であった。 カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FC58株の代わりに、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC74362株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC60130株又はカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)IFO1583株を用いた以外は、実施例2と同様にして光学活性γ−デカラクトンの製造を行った。その結果、各菌種を用いた場合において、それぞれ培養開始後19日目、11日目、11日目の培養液について、生産されるγ−デカラクトンの量が最大となった。このような生産量が最大量になった培養液から得られたγ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たりそれぞれ13.75g、12.97g、12.97gであった。 サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ加熱によるラクトン化処理を行わない以外は、実施例1と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。この結果、培養開始後14日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後14日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり8.41gであった。光学純度は99%ee以上であった。 サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ加熱によるラクトン化処理を行わない以外は、実施例2と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。その結果、培養開始後20日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後20日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり21.89gであった。光学純度は99%ee以上であった。 サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ加熱によるラクトン化処理を行わない以外は、実施例3と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。その結果、培養開始後20日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後20日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり27.37gであった。光学純度は99%ee以上であった。 サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ加熱によるラクトン化処理を行わない以外は、実施例4と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。この結果、培養開始後10日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後10日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり49.94gであった。光学純度は99%ee以上であった。 サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ加熱によるラクトン化処理を行わない以外は、実施例5と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。この結果、培養開始後5日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後5日目の培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たり40.50gであった。光学純度は99%ee以上であった。 サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ加熱によるラクトン化処理を行わない以外は、実施例6と同様にしてR−γ−デカラクトンの製造を行った。その結果、各菌種を用いた場合において、それぞれ培養開始後19日目、11日目、11日目の培養液について、生産されるR−γ−デカラクトンの量が最大となった。このような生産量が最大量になった培養液から得られたR−γ−デカラクトンの生産量は、本培養培地1L当たりそれぞれ13.75g、12.97g、12.97gであった。 FC58株を、YM斜面寒天培地に接種して、27℃で3日間培養して活性化した。また、前培養のための培地として、300mL容三角フラスコに酵母エキス0.09g、麦芽エキス0.09g、ポリペプトン0.15g及びグルコース0.3gを入れ、蒸留水を加えて総量30mL、pH6としたものを、オートクレーブで121℃にて15分間滅菌して調製した。冷却した該培地に、上記の通り活性化したFC58株を接種し、回転式振とう培養装置を用いて27℃にて150rpmで24時間振とう培養を行ったものを、前培養液とした。 さらに続いて行う本培養のための本培養培地を調製した。すなわち、300mL容坂口フラスコに酵母エキス0.09g、麦芽エキス0.09g及びポリペプトン0.15g、硫酸マンガン(MnSO4・H2O)0.51mg、塩化カルシウム(CaCl2・H2O)0.17mg、塩化第二鉄(FeCl3・H2O)0.11mg、硫酸亜鉛(ZnSO4・H2O)0.66mg、硫酸銅(CuSO4・H2O)0.12mg、硫酸マグネシウム(MgSO4・H2O)1.77mg、塩化コバルト(CoCl2・H2O)0.08mg、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4・H2O)0.08mg、ホウ素(H3BO3)0.12mg及びヨウ化カリウム(KI)0.02mgを入れ、蒸留水を加えて総量30mL、pH6とし、さらに11−ヒドロキシパルミチン酸エチルエステル0.13gを添加したものを、オートクレーブで121℃にて15分間滅菌して調製した。次いで、冷却した該本培養培地に、上記の前培養液を2mL接種し、27℃にて150rpmで振とう培養することにより、本培養を行った。培養中のpH調整は行わなかった。培養開始後3日目から経時的に培養液を無菌的に5mLずつサンプリングし、サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ100℃で20分間加熱することによりδ−ヒドロキシデカン酸のラクトン化を行った。このようなラクトン化処理後、この試料を酢酸エチルで抽出し、分離した有機層を内票法(内部標準試料としてデカン酸エチルを使用)によるGC分析で定量した。 この結果、培養開始後11日目の培養液について、生産されるS−δ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後11日目の培養液から得られたS−δ−デカラクトンの生産量は、本培養培地30ml当たり0.019gであり、光学純度は96%ee以上であった。 サンプリングした培養液(試料)をそれぞれ加熱によるラクトン化処理を行わない以外は、実施例13と同様にしてS−δ−デカラクトンの製造を行った。その結果、培養開始後11日目の培養液について、生産されるS−δ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後11日目の培養液から得られたS−δ−デカラクトンの生産量は、本培養培地30ml当たり0.019gであり、光学純度は96%ee以上であった。参考例1 FC58株の代わりに、高いγ−デカラクトン生産能をもつとして一般的に知られているヤロウィア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)IFO0717株を用いた以外は実施例2と同様にしてγ−デカラクトンの製造を行った。その結果、培養開始後6日目の倍溶液について、生産されるγ−デカラクトンの量が最大となった。このような培養開始後6日目の培養液から得られたγ−デカラクトンの生産量は本培養培地1L当たり4.90gであった。しかしながら、その後経時的にγ−デカラクトンの生産量を追跡したところ6目目以降は本培養培地1L当たりのγ−デカラクトン量が減少しはじめ、培養開始後23日目におけるγ−デカラクトンの生産量は本培養培地1L当たり3.17gであった。 本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はその全体を参照により本明細書中に組み入れるものとする。 産業上の利用の可能性 本発明によれば、ラクトン類、例えば光学活性γ−デカラクトン(R−γ−デカラクトン等)や光学活性δ−デカラクトン等の光学活性ラクトン類を、高い生産効率で容易に得ることができる。また、本発明の製造法の中間工程においてラクトン前駆体ヒドロキシ脂肪酸、例えばγ−ヒドロキシデカン酸やδ−ヒドロキシデカン酸を効率良く生産することができる。本発明の製造法は、培地に乳化剤やpH調整剤を使用する必要がなく、また炭素源であるヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸誘導体、及び/又はヒドロキシ脂肪酸誘導体の加水分解生成物を、大規模生産に有用な高濃度にて培地に添加して使用できることから、工業的生産において極めて有利に使用することができる。 ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、及びリシノール酸からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、生産されたγ−デカラクトンを該培地から採取することを含む、γ−デカラクトンの製造法。 ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、及びリシノール酸からなる群より選択される少なくとも1つを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、該培地中に生産されるγ−ヒドロキシデカン酸をラクトン化することを含む、γ−デカラクトンの製造法。 γ−デカラクトンが、光学活性γ−デカラクトンである請求項1又は2に記載の製造法。 ヒマシ油、ヒマシ油の加水分解生成物、及びリシノール酸からなる群より選択される少なくとも1つがヒマシ油及び/又はヒマシ油の加水分解生成物である、請求項1又は2に記載の製造法。 11−ヒドロキシパルミチン酸及び/又は11−ヒドロキシパルミチン酸エチルを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、生産されたδ−デカラクトンを該培地から採取することを含む、δ−デカラクトンの製造法。 11−ヒドロキシパルミチン酸及び/又は11−ヒドロキシパルミチン酸エチルを含む培地にて、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)を培養し、該培地中に生産されるδ−ヒドロキシデカン酸をラクトン化することを含む、δ−デカラクトンの製造法。 δ−デカラクトンが、光学活性δ−デカラクトンである請求項5又は6に記載の製造法。 カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)が、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC74362株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)ATCC60130株、カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila) IFO1583株、及び受託番号FERM BP-8388として寄託されているカンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FC58株からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1、2、5又は6に記載の製造法。 カンジダ・ソルボフィラ(Candida sorbophila)FERM BP-8388菌株。