タイトル: | 特許公報(B2)_消化管運動促進飲食物 |
出願番号: | 2004517285 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | A61K 36/899,A61K 31/343,A61P 1/00,A61P 1/14,A61P 7/10,A61P 43/00,C07D 307/84,A23L 1/30,A23L 2/52,A23L 2/02,A23F 3/16,A23K 1/16,C12C 5/02,C12G 3/04 |
諏訪 芳秀 藤居 亙 堀 妃佐子 横尾 芳明 糠谷 東雄 辻 邦郎 JP 4948765 特許公報(B2) 20120316 2004517285 20030626 消化管運動促進飲食物 サントリーホールディングス株式会社 309007911 草間 攻 100083301 諏訪 芳秀 藤居 亙 堀 妃佐子 横尾 芳明 糠谷 東雄 辻 邦郎 JP 2002186029 20020626 JP 2003010426 20030117 20120606 A61K 36/899 20060101AFI20120517BHJP A61K 31/343 20060101ALI20120517BHJP A61P 1/00 20060101ALI20120517BHJP A61P 1/14 20060101ALI20120517BHJP A61P 7/10 20060101ALI20120517BHJP A61P 43/00 20060101ALI20120517BHJP C07D 307/84 20060101ALN20120517BHJP A23L 1/30 20060101ALN20120517BHJP A23L 2/52 20060101ALN20120517BHJP A23L 2/02 20060101ALN20120517BHJP A23F 3/16 20060101ALN20120517BHJP A23K 1/16 20060101ALN20120517BHJP C12C 5/02 20060101ALN20120517BHJP C12G 3/04 20060101ALN20120517BHJP JPA61K35/78 UA61K31/343A61P1/00A61P1/14A61P7/10A61P43/00 111C07D307/84A23L1/30 BA23L2/00 FA23L2/02 CA23F3/16A23K1/16 304CA23K1/16 302AC12C5/02C12G3/04 C07D 307/ A61K 31/,35/ A23L 1/, 2/ A23F 3/ A23K 1/ C12C 5/ C12G 3/ REGISTRY/CAPLUS(STN) J Dream II 特開平11−158064(JP,A) 米国特許第03475459(US,A) 特開2002−095443(JP,A) 特開平08−009885(JP,A) 特開平07−000130(JP,A) 特表平08−510913(JP,A) 特開平09−084540(JP,A) STOESSL,A.,CANADIAN JOURNAL OF BOTANY,1970年,V48 N3,P465-470 STOESSL,A.,TETRAHEDRON LETTERS,1966年,V21,P2287-2292 FUJII W.,ALCOHOL CLIN EXPRES.,2002年 5月,V26 N5,P677-681 大塚 斎之助,化学同人,日本,1982年10月15日,P157-163 1 JP2003008081 20030626 WO2004002978 20040108 14 20060614 深谷 良範 本発明は、ムスカリンM3受容体に作用する組成物に関し、詳細には、消化管運動促進作用、胃酸分泌促進、排尿促進、食欲増進作用あるいはドリンカビリティー促進作用等を有する組成物に関する。 また本発明は、当該組成物を利用した各種飲食物に関し、特に、消化管運動促進作用またはドリンカビリティー促進作用を利用した飲食物に関する。 ヒトが摂取した食物は、消化器系の各部で種々の消化を受け、栄養素の大部分が小腸で吸収されたのち、排泄されている。これらの消化・吸収作用が順序よく行われるためには、食物をその消化の状態に応じて順次消化器系の中を移動させる必要がある。すなわち、消化管運動は食物消化のために内容物の輸送、貯蔵、撹拌・混和、そして排出に至る消化のプロセスの進行をつかさどる重要な生理機能である。 消化管内の内容物は、消化管壁を構成する平滑筋の規則正しい収縮運動(蠕動運動)による消化管運動により輸送、貯蔵、撹拌・混和等が行われており、この消化管運動は、神経性および体液性の調節を受けている。神経性調節には自律神経系の二重支配と、消化管壁内神経の支配が存在するが、その主体はコリン作動性の副交感神経節後繊維である。一方、体液性調節は、消化管ホルモンによるものである。 これらの調節機構のバランスが乱れ、消化管運動機能に障害が生じると、消化のプロセスの各段階での障害が引き起こされ、その結果、嚥下困難、むねやけ、悪心、嘔吐、腹痛、腹部膨満、下痢、便秘などの消化器症状が出現する。特に、近年のストレス過多の社会において、潰瘍や癌などの器質的な病変が認められていないにも拘わらず、このような消化器症状を訴えるという症例が増えてきている。従来、わが国ではこの疾患は慢性胃炎とされ、治療に明確な指針がなかったが、消化器病の診断学の進歩により、こうした症例の多くは、胃内容物の排出遅延を中心とした消化管運動機能異常が原因であることが明らかになり、胃炎とは明確に区別してfunctional dyspepsia(機能性ディスペプシア)あるいはnon-ulcer dyspepsia(NUD)と呼ばれるようになってきている。また、高齢者において胃壁の筋肉の緊張性が減弱することによって生ずる胃アトニー症や、神経性消化不良、胃神経症などの精神心理学的要因による症状も、この疾患に含まれる。さらに、術後の消化管運動の低下症状や、抗癌剤の投与による食欲不振なども、近年問題となってきている。 近年、消化管運動に関わる受容体の研究が進み、消化管運動の神経性調節機構の詳細が明らかになってきた。大部分の消化管の運動は、主に副交感神経の節後繊維である壁内コリン作動性神経によって調節されている。この神経終末より放出されるアセチルコリンが平滑筋のムスカリンM3受容体に結合して平滑筋の収縮を引き起こし、このアセチルコリンがコリンエステラーゼで分解されると、平滑筋は元に戻る。この収縮と回復の反復頻度が高まると運動が促進されることになる。 したがって、ムスカリンM3受容体アゴニストとして作用する物質は、消化管平滑筋を収縮させ消化管運動を促進させることとなり、消化管運動機能の低下に基づく消化器症状の改善を促し、極めて有効な消化管運動促進作用物質となる。 ところで、飲食物の中でもアルコール含有飲料は、上部消化管の運動性に影響を及ぼすことが知られている。例えば、Pfeifferら(Clin. Investig., Vol.70, pp 487-491, 1992)は、ビールが胃の排出運動を促進させ、胃−盲腸通過時間を短縮させること、逆に、ビールと同程度の濃度(7.5%)のエタノールは胃の排出運動を抑制することを報告している。また、胃排出の速いビールほどドリンカビリティーが高いことを示す興味深い報告もある(Biosci. Biotechnol. Biochem., Vol.62, pp 846-851, 1998)。 ビールのドリンカビリティーとは、ビールを大量に飲んでもまだおいしく飲める性質のことをいい、ヨーロッパではバイタートリンケンあるいはドリンカビリティーと呼ばれ、ビールの評価を決める重要な要因の一つとされている。したがって上記した研究結果から、ビールには消化管運動促進作用、あるいはドリンカビリティー促進作用物質が含有されており、その作用はアルコール成分以外の物質に由来するものと考えられていたが、かかる活性物質については未だ明らかとなっておらず、その特定が望まれていた。 先に本発明者らは、ビールの乾燥物に胃排出促進作用があることをマウスにおいて実証し、さらに、受容体結合性試験やモルモット回腸縦走筋の収縮性試験によってビール乾燥物の作用メカニズムについて検討した結果、ビール乾燥物はムスカリンM3受容体を刺激することによって消化管運動を促進する作用があることを明らかにした(Alcoholism: Clinical & Experimental Research, Vol.26, No.5, pp 677-681, 2002)。Clin. Investig., Vol.70, pp 487-491, 1992Biosci. Biotechnol. Biochem., Vol.62, pp 846-851, 1998Alcoholism: Clinical & Experimental Research, Vol.26, No.5, pp 677-681, 2002 本発明は、ビールからムスカリンM3受容体に作用する組成物を特定すると共に、それらを各種機能性飲食物に応用させ、かかる消化管運動促進物質を利用した消化管運動促進作用剤、胃酸分泌促進作用剤、排尿促進作用剤、食欲増進作用剤およびドリンカビリティー促進剤等を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ね、ムスカリンM3受容体への結合活性を指標として、当該活性を有する天然物または天然物加工品、或いは組成物の検索を試みた。その結果、麦芽根の水溶性画分がムスカリンM3受容体への結合活性を有すると共に消化管運動促進作用を有することを特定し、麦芽根の水溶性画分を加えた飲食物を製造して作用を確認し、本発明を完成させた。 したがって、本発明の一つの態様は、麦芽根の水溶性画分からなることを特徴とするムスカリンM3受容体を介する消化管運動促進作用組成物を提供する。 本発明が提供する麦芽根の水溶性画分は、ムスカリンM3受容体の結合性試験において、当該受容体に対する親和性を有することが確認された。特に、マウスにおける胃排出能促進活性を指標として消化管運動に及ぼす影響について検討した結果、当該麦芽根の水溶性画分は、強い消化管運動促進作用を有することが確認できた。 ところでムスカリンM3受容体は小腸だけでなく、胃を構成する各種細胞表面に存在し、アセチルコリンは胃の生理機能の発現に重要な役割を果たしている。すなわち、壁細胞、主細胞およびG細胞はムスカリンM3受容体を介したアセチルコリンの刺激によって、それぞれ胃酸、ペプシノーゲンおよびガストリンの分泌を促進し、胃平滑筋は収縮することが知られている。 さらに、膀胱の平滑筋(排尿筋)にもムスカリンM3受容体が存在しており、アセチルコリンの作用によって平滑筋が収縮し、排尿が促されることが明らかになっている。 本発明により提供される麦芽根の水溶性画分は、ムスカリンM3受容体に対する作用を有していることから、消化管運動促進作用のみならず、ムスカリンM3受容体の多様な生理作用に起因する排尿促進作用、胃酸分泌促進作用、および食欲増進作用を有するものであり、したがって、催吐性軽減や、味覚忌避軽食の効果も期待できる化合物である。 したがって本発明は、また別の態様として、消化管運動促進作用、胃酸分泌促進、排尿促進、食欲増進作用あるいはドリンカビリティー促進作用等を有する上記麦芽根の水溶性画分を提供する。 さらに本発明者らは、かかる麦芽根の水溶性画分を多く含む各種素材を検討した結果、特に、発芽した大麦の分画物の一つである麦芽根が当該活性を強く有することが判明した。このことから、大麦、発芽した大麦、発芽した大麦の分画物が当該活性を有することは明らかである。 そこで、麦芽根の抽出物、特に麦芽根の水溶性画分について、マグヌス法を用いてモルモットの回腸縦走筋の収縮に及ぼす影響を検討した結果、麦芽根の水溶性画分は、回腸縦走筋を強く収縮させ、消化管運動促進作用を有することを確認した。 したがって、本発明はさらまた別の態様として、麦芽根の水溶性画分を利用した、消化管運動促進作用またはドリンカビリティー促進作用を有する各種飲食物、飲食物添加物、医薬品、動物用飼料を提供する。 さらに具体的には、本発明は、かかる飲食物として、アルコール飲料、ノンアルコール飲料、健康食品、特別用途食品を提供する。 本発明により、麦芽根の水溶性画分からなるムスカリンM3受容体に作用する消化管運動促進物質および/またはドリンカビリティー促進物質、並びに、当該物質を含む天然物および天然物加工品より得た当該物質を含む組成物および精製物を飲食物用の添加剤として活用し、そのような添加剤を含む消化管運動促進性の飲食物を提供することができる。 特に本発明のムスカリンM3受容体に作用する消化管運動促進物質は、消化管運動の低下によって生じる食欲不振、消化不良、食後の腹部膨満感、胃のもたれ、悪心、嘔吐、上腹部痛などの消化器症状に悩む対象に対し、有効に消化管運動を促進するものであり、また、ドリンカビリティー促進効果によって、食欲およびドリンカビリティーを増進することができる利点を有する。 さらに、これらの消化管運動促進物質および/またはドリンカビリティー促進物質を含む組成物を用いて、各種飲料、機能性食品を提供することができる利点を有している。 以下に、本発明を詳細に説明していく。 本発明において、天然物とは加工されていない穀物など(例えば、大麦)を指す。天然物加工品とは各種加工の施された天然物、例えば、酵母発酵産物、発芽した大麦、およびこれらの分画物などを指す。ここでいう分画物とは物理的に分けられた分画物(組織分画物)である。また、天然物、酵母発酵産物および発芽した大麦等を微粉末化するなどして、直接飲食可能な組成物の形態に加工したものも天然物加工品に含まれる。 これらの天然物、および天然物加工品は、本発明が目的とする飲食物、飲食物添加剤、医薬品、動物用飼料および消化管運動促進剤の特性に応じて、種々天然物および天然物加工品から、適宜活性物質を抽出・分離・精製する所望の段階での組成物として、使用することができる。本発明では、活性画分を含むこれら組成物も天然物加工品に含む。 本発明においては、大麦、発芽した大麦、発芽した大麦の分画物から活性画分を得ることができる。 本発明において大麦(英名:barley)とは、オオムギ属の植物のことをいい、学名は、特に限定されず、 Hordeum vulgare L.、 Hordeum distichon L.などが挙げられる。例えば、栽培上では、春播き(spring barley)、秋播き(winter barley)が挙げられ、また、種では、二条大麦と六条大麦が挙げられる。具体的な品種としては、日本においては、はるな二条、あまぎ二条、ミカモゴールデン、タカホゴールデンなどが挙げられ、海外においては、Alexis種、Schooner種、Harrington種、Orbit種、Corniche種、Triumph種が挙げられる。 また本発明において、発芽した大麦とは、大麦の穀粒が生長・発生したもののことをいい、麦芽製造においては、緑麦芽(生麦芽)と乾燥麦芽のことをいい、また、大麦の穀粒の栽培においては、若葉が出た状態のものや苗など、特に限定されない。麦芽製造における大麦の発芽の度合いは、生長中の大麦の温度、発芽中に供給される水分含量、発芽表層中の酸素と炭酸ガスの比率、発芽期間などの因子を管理することにより適宜決定できる。また、緑麦芽(生麦芽)の水分は、約40から45%、乾燥麦芽の水分は、約3〜15%のものが挙げられる。 さらに、本発明において、発芽した大麦の分画物とは、穀皮部、でんぷん層(胚乳)、果皮および種皮、葉芽、若葉、苗、幼芽、アロイロン層画分、麦芽根、根芽などの組織画分およびそれらの混合物のことをいい、特に限定されるものではない。このような発芽した大麦の分画物は、常法によって調製でき、具体的には、破砕法、篩い法、搗精法、風選法、比重差選別法、脱芒法などを挙げることができる。 そのなかにあっても、本発明においては特に、麦芽根(幼根ともいう)は、大麦の発芽時に生長/発根する幼根/根であり、本発明の天然物、および天然物加工品として好ましく使用することができる。 このような大麦、発芽した大麦、発芽した大麦の分画物から、本発明が目的とするムスカリンM3受容体を介した消化管運動促進作用を有する麦芽根抽出組成物を取得する方法としては、常法による各種抽出・分離操作により、当該物質を含む組成物を得ることができる。より具体的には、分配平衡による分離、例えば、固液抽出(水系抽出,有機溶媒系抽出など)、超臨界ガス抽出、吸着(活性炭など);速度差に基づく分離、例えば、濾過、透析、膜分離(限外濾過、RO、機能性膜)、液体クロマトグラフィー(イオン交換など);選択的沈殿の形成による分離、例えば、結晶化、有機溶媒による沈殿など;抽出・分離工程を適宜組み合わせて行うことができる。 なお、必要であれば、濃縮、濾過、乾燥などを適宜行い、濃縮エキス、粉体、乾燥、結晶品などの各種形態として目的とする消化管運動促進組成物を得ることもできる。かかる組成物の純度は、特に限定されず、目的とする飲食物、飲食物添加剤、医薬品、動物用飼料、消化管運動促進剤の特性に応じて適宜決定でき、粗精製物でもよく、あるいは高純度の精製物でもよい。 麦芽根および/または根芽から、本発明が目的とするムスカリンM3受容体を介した消化管運動促進作用を有する麦芽根の水溶性画分を取得する方法としては、例えば、以下のようにして行うことができる。 本発明において、麦芽根とは発芽した大麦の分画物の一種であり、分画物としては、穀皮部、でんぷん層(胚乳)、果皮および種皮、葉芽、若葉、苗、幼芽、アロイロン層画分、麦芽根、根芽などの組織画分およびそれらの混合物のことをいい、特に限定されるものではない。このような発芽した大麦の分画物は、常法によって調製でき、具体的には、破砕法、篩い法、搗精法、風選法、比重差選別法、脱芒法などを挙げることができる。 そのなかにあっても、本発明においては特に、麦芽根(幼根ともいう)は、大麦の発芽時に生長/発根する幼根/根であり、本発明が目的とする活性を強く有することが判明した。 すなわち、麦芽根および/または根芽が殻などの夾雑物を含む場合は、篩いなどの前処理方法によって夾雑物を取り除く。麦芽根および/または根芽そのものを、直接飲食可能な組成物の形態に加工する場合は、一般的に行われる粉砕法によって粉砕して微粉末化したり、ペースト化したり、ペレット化すればよい。また、麦芽根および/または根芽から、抽出・分離した組成物を得る場合は、水や溶媒によって抽出することにより目的とする消化管運動促進作用を有する麦芽根の水溶性画分を得る。 次いで、必要であれば、当該抽出液を、合成吸着剤、活性炭、イオン交換樹脂などの各種吸着剤、分離膜などの分離精製法を用いて適宜処理し、さらに純度良く消化管運動促進組成物を得ることができる。また、濃縮、濾過、乾燥などを行い、濃縮エキス、粉体、乾燥、結晶品などの各種形態の、消化管運動促進組成物とすることもできる。あるいは、糖類と混和して、シロップ状の消化管運動促進組成物を得てもよい。また、塩としての形態で得ることもでき、そのような塩としては、塩酸塩など、特に限定されるものではない。 なお、本発明にあっては、麦芽根および/または根芽を、直接、他の原料と混和し、水や溶媒によって抽出・分離し、本発明が目的とする消化管運動促進成分を含む飲料として製造することもできる。この場合の麦芽根および/または根芽の使用量は、直接飲用する飲料の場合、麦芽根および/または根芽の原料配合量として、最終製品当たり20mg〜200g/L、当該活性物質の含量として、最終製品当たり0.01mg〜100mg/L程度であることが好ましい。 以上のようにして得られた本発明が目的とするムスカリンM3受容体に作用する消化管運動促進作用を有する麦芽根の水溶性画分は、そのまま単独で消化管運動促進性の添加物として飲食物に添加混合してもよく、または必要であれば飲食用に適する担体と共に、乾燥品、液状品、粉末品等の飲食物添加剤として供してもよい。さらには、アルコール飲料やミネラルウォーターに予め、または用時添加するための易溶性製剤として使用することもできる。 また、本発明が目的とするムスカリンM3受容体に作用する消化管運動促進作用を有する麦芽根の水溶性画分は、消化管運動促進性の添加物として飲食物に添加混合してもよく、または必要であれば飲食用に適する担体と共に、乾燥品、液状品、粉末品等の飲食物添加剤として供してもよい。さらには、アルコール飲料やミネラルウォーターに予めまたは用時添加するための易溶性製剤としてもよい。 本発明が提供する飲食物添加剤の態様には、種々の用途の飲食物用製品、例えば、調味料、調味液、香料、ふりかけ、食用油、出し汁、栄養強化剤の一成分として消化管運動促進成分を含有する消化管運動促進性の飲食物添加剤も包含される。 本発明において有効成分である、消化管運動促進作用を有する麦芽根の水溶性画分は、食品原料とともに、一般の製造法により飲食物、健康食品、特別用途食品として加工製造することができる。 飲食物の種類、形態は特に限定されず、例えば固形、あるいは液状の食品ないしは嗜好品、例えばパン、麺類、ごはん、菓子類(ビスケット、ケーキ、キャンデー、チョコレート、和菓子、グミ、チュウインガム)、豆腐およびその加工品などの農産食品、みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシングなどの調味料、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズなどの畜農食品、かまぼこやハンペン等の水産練り製品、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、茶飲料、炭酸飲料などの飲料、さらにはベビーミルク、コーヒー用ミルク等の粉乳や乳製品等の形態にすることができる。 健康食品の種類、形態も特に限定されず、例えば、錠剤、カプセル品、固形、あるいは液状などが挙げられる。 特別用途食品としては、病弱者用食品、妊産婦/授乳婦用粉乳、乳児用調整粉乳、高齢者用食品、保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品)を挙げることができる。 また、本発明における麦芽根の水溶性画分は、ビール、発泡酒、低アルコール麦芽発酵飲料等の麦芽発酵飲料、ワイン、清酒、薬用酒などの醸造酒に添加して消化管運動促進作用/ドリンカビリティー促進作用が増強されたアルコール飲料として、また、ウィスキー、ブランデー、焼酎などの蒸溜酒に添加して消化管運動促進作用/ドリンカビリティー促進作用が付与された食前・食中酒として摂取できる形態にあるアルコール飲料として加工製造されてもよい。 本発明はさらに、本発明が提供する麦芽根の水溶性画分を含有する消化管運動促進剤を提供するものでもある。このような促進剤は、慣用の製剤技術を用いて、たとえば、カプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤、シロップ剤、注射剤、点滴剤等の形態に製剤化することができる。これらは、主として食前、食中に消化管運動促進を高める目的で用いることができ、あるいは嗜好品などとして適宜摂取することも可能である。さらに、健常者の消化管運動促進を高める目的以外にも、術後、加齢、疲労、疾病、傷害等における消化管運動能力の低下を回復させる目的で、あるいは、抗ガン剤の投与による食欲不振などを改善する目的で用いることもできる。 本発明が目的とする麦芽根の水溶性画分は、ムスカリンM3受容体に作用する成分である。このムスカリンM3受容体は多様な生理作用に関与していることから、本物質が、消化管運動促進作用のみならず、排尿促進作用、胃酸分泌促進作用、および食欲増進作用を有することは明らかである。 また、本発明が目的とする麦芽根の水溶性画分には、ドリンカビリティー促進作用があることが判明した。 本発明が提供するムスカリンM3受容体に作用する消化管運動促進成分である麦芽根の水溶性画分は、最終的に飲食物に添加されてヒトまたは他の動物が摂取する場合、摂取された有効成分が消化管運動を促進する量で提供されればよく、例えば、活性物質に換算して、食事ごとに数mg程度摂取できる形態で提供されればよい。したがって、飲食物、飲食物添加剤、消化管運動促進成分または動物用飼料の各使用形態により異なるが、それぞれ、好ましくは1日あたり0.01mg〜100mg、特に好ましくは1日あたり0.05mg〜50mg、さらに好ましくは、0.1mg〜10mg程度摂取されるよう提供されればよい。 なお、本発明が提供する消化管運動促進成分である麦芽根の水溶性画分は、マウスを用いた急性毒性試験において、50mg/kgの経口投与でも死亡例はなく、一般症状および体重等に異常は認められず、非常に弱毒または無害の物質であることが判明した。 以上のとおり、本発明によれば、消化管運動の低下によって生じる食欲不振、消化不良、食後の腹部膨満感、胃のもたれ、悪心、嘔吐、上腹部痛などの消化器症状に悩む対象に対し、消化管運動促進効果およびドリンカビリティー促進効果によって、食欲およびドリンカビリティーを増進することができる。 以下に、本発明を実験例および実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。 ビール乾燥物は、ムスカリンM3受容体を刺激することによって消化管運動を促進することが明らかとなっている。したがって、ムスカリンM3受容体への結合活性を指標として、ビール中の消化管運動促進物質の探索を行った。参考例1:ムスカリンM3受容体結合性試験 ムスカリンM3受容体結合性試験法は、次の通りである。 ヒトのムスカリンM3受容体を発現させた組換えチャイニーズハムスター卵巣細胞株の膜標品の懸濁液に、検体(ビール乾燥物およびその分画物)と、リガンド:0.2nMの[3H]4−DAMP(ジフェニルアセトキシ−N−メチルピペリジン メチオダイド)を添加し、22℃で60分間インキュベートした。反応液をガラス繊維フィルター(GF/B:Packard社製)にて吸引濾過して反応を停止させ、氷冷した緩衝液で数回洗浄した。フィルターにシンチレーションカクテル(Microscint 0:Packard社製)を加え、フィルター上に残存する放射活性を液体シンチレーションカウンター(Topcount:Packard社製)で計測した。[3H]4−DAMPの特異的結合量は、[3H]4−DAMPの全結合量から1μMアトロピン存在下の非特異的結合量を差し引くことにより算出した。 ビール乾燥物の[3H]4−DAMP結合に対する阻害曲線を、図1に示した。図中に示した結果からも判明するように、ビール乾燥物は、0.1mg/mLから[3H]4−DAMP結合を抑制し、その結合の50%を阻害する濃度であるIC50値は、約2mg/mLであった。実施例1: 麦芽根の水溶性画分の消化管運動促進作用を明らかにするために、マグヌス法を用いてモルモットの回腸縦走筋の収縮に及ぼす影響について検討した。 すなわち、Hartley系雄性モルモットより摘出した回腸縦走筋をトランスデューサーからつり下げてKrebs-Ringer溶液に浸し、溶液を35℃に保温して、95%O2/5%CO2ガスにて飽和・安定化させた。縦走筋の運動をレコーダー上に描記させ、自発性運動が一定になったところで、比較品である麦芽根抽出・乾燥物[IC50=0.20×10−3g/mL、IC50;陽性対象物質のM3受容体結合に対する50%競合阻害濃度(参考例1に準ずる)]、対照品であるビール乾燥物(IC50=2.00×10−3g/mL、参考例1に同じ)、および陽性対照であるカルバコールを添加し、縦走筋の収縮反応を測定した。 結果を図2に示した。その結果、図から明らかな通り、麦芽根抽出・乾燥物は、0.005〜0.5mg/mLで用量依存的にモルモットの回腸縦走筋を収縮させた。また、カルバコール(5×10−3M)による筋収縮度を100として、対照品であるビール乾燥物と比較したところ、麦芽根の水溶性画分の作用の強さはビール乾燥物の約20倍に相当した。 したがって、麦芽根の水溶性画分は、強い消化管運動促進作用を有することが確認できた。実施例2:ヒトにおける官能試験 本発明が目的とする活性画分を含む天然物または天然物加工品から抽出・分離操作により得た消化管運動促進性の組成物を含む飲食物の一例として、飲料(アルコール飲料)を調製し、ヒトにおける消化管運動促進作用および排尿促進作用を評価した。1.アルコール飲料の調製 実施例1において、麦芽根には活性成分が含有されていることが確認された。したがって、麦芽根の水溶性画分として、麦芽根を水抽出した組成物を添加して、アルコール飲料を調製した。なお、麦芽根を水抽出した組成物は、麦芽根約150gの粉砕物を用いて、純水にて抽出した後、濾過を行い、乾燥物重量で約30g[収率: 約20%(w/w)]得られた組成物を用いた。 850mLの59%アルコール、100mLの5倍濃縮タイプの透明・梅果汁、200gの砂糖、20gのクエン酸、6mLの香料、30gの上記組成物(麦芽根を水抽出した組成物)を加え、純水にて最終10Lに調整した調合液を、加熱殺菌、冷却し、炭酸ガスを圧入した後、250mL入りの缶に充填、密栓し、アルコール分5%の梅風味のアルコール飲料である試作品1を得た。 なお、対照品1として、上記組成物を加えていない、アルコール飲料を、同様の方法で調製した。2.官能試験 ヒトにおける消化管運動促進作用および排尿促進作用の評価は、以下の様に行った。 すなわち、健常人男性20名を10名ずつに分け、試作品1、対照品1の摂取グループに分け、二週間の間隔をあけて、クロスさせて二重盲検法にてテストした。 試作品1および対照品1は、15分当たり2.4mL/kgで2時間摂取させ、また、ポテトチップスを15分当たり0.2g/kgで2時間摂取させた。 消化管運動促進性の評価は、腹部膨満感を指標とし、60分および120分後の評点を、被験者が記載する方法で行った。3.評価基準1)腹部膨満感の評価は、膨満感を感じる順に、 感じる: 3点、 やや感じる: 2点、 あまり感じない: 1点の点数による3段階評価とした。2)排尿促進作用の評価は、試験前に排尿を済ませておき、その後30分毎にトイレに行き、排出される尿量を測定した。4.結果 表1に、腹部膨満感に関する評価結果を示す。 上記表1の結果からも明らかなように、試作品1は、60分後において、膨満感をあまり感じないという評価が多く、また、120分後においても、膨満感を感じるという評価は少なく、膨満感をやや感じるという評価が多かった。 一方対照品1は、60分後において、膨満感をやや感じるという評価が多く、また、120分後においては、膨満感を感じるという評価が多かった。 以上の結果から判断すると、本発明の活性画分を含む組成物を添加した飲料である試作品1には、腹部膨満感を感じる度合いを抑える効果があり、消化管運動促進性の作用があることが示された。 また、図3に、30、60、90、120分までに排出された尿量の測定結果(平均値)を示した。 その結果、試作品1は、対照品1に比較して各時間において排出される尿量が相対的に多くなっていることが明らかになった。 したがって、ムスカリンM3受容体は多様な生理作用に関与していることから推定した通り、本画分には消化管運動促進作用のみならず、排尿促進作用を有することが明らかとなった。実施例3: 本発明の活性画分には、消化管運動促進作用および排尿促進作用が確認できたことから、本活性物質のドリンカビリティー促進作用を、ラットを用いて検討した。1.方法: すなわち、まず、実施例2と同様の組成物(麦芽根を水抽出した組成物)を、実施例2と同じ最終濃度(麦芽根の水抽出物:3g/L)になるように3%の砂糖水に添加し、ノンアルコール飲料である試作2を調製した。また活性画分を添加しない3%の砂糖水であるノンアルコール飲料、対照品2を調製した。 次いで、ラット(1群3匹)に、試作品2および対照品2を、それぞれ自由摂取させ、摂水量を5日間わたって測定した。2.結果 図4に、試作品2および対照品2についての、各期間(1〜2日目、2〜3日目、3〜4日目、4〜5日目)における、ラット一匹あたりの摂水量の平均値を示した。 図中に示した結果からも判明するように、試作品2は、対照品2に比較して、評価した各期間の全てにおいて、摂水量が相対的に多くなっていることが理解される。 以上の結果から判断すると、本発明が提供する活性画分には、消化管運動促進作用に加え、ドリンカビリティー促進作用があることが理解される。ドリンカビリティー促進作用は、飲料を大量に飲んでも飲み飽きないというだけでなく、おいしさにも影響を及ぼすことから、飲料として重要な特性である。本発明における活性画分を添加した飲料は、その様な特性を付与されたものであることが判明した。実施例4:ヒトにおける飲食物摂取動態比較 当該活性画分を含む組成物(麦芽根を水抽出した組成物)を添加した醸造酒の一種であるビールを試作し、飲食物摂取動態を比較した。 ビールは、麦芽、ホップ、当該活性物質を含む組成物(麦芽根を水抽出した組成物)、水を原料として、常法に従い、100Lの仕込み、発酵、濾過、充填を行って製造した。すなわち、粉砕した麦芽15kgを仕込み釜で糖化し、副原料として、上記組成物(0.4kg;麦芽根2kg相当)を添加した後、濾過槽で濾過を行った。次に、ホップを添加して煮沸釜で煮沸した後、生じた蛋白質などの澱をワールプールと呼ばれる沈殿槽で除去した。清澄化した溶液に、酵母を加えて、発酵させた後、−1℃に冷却して貯酒を行った。さらに、発酵液を濾過して酵母を除去し、アルコール4%程度の醸造酒を製造した(試作品3)。また、コントロールとして、麦芽根を添加しないビールも同様に製造した(対照品3)。 飲食物摂取動態比較は、クロスオーバー・トライアル法に加え、二重盲検法も採用して実施した。すなわち、20名の被験者を2群に分け、上記の麦芽根添加および無添加ビール;自由摂取、食物;自由摂取、飲食時間;2時間、の条件にて比較検討し、飲用量の変化、および2時間後に残った食事量を評価した。さらに詳しくは、食物として、0分に、オードブル盛合せ、豆腐、魚の刺身を提供、30分に、肉のステーキ、60分に、焼きナス、揚げ豆腐を提供、90分に、ライス、スープ、フルーツを提供した。また、飲用量は、30分毎に120分まで測定した。 飲用量の平均値を図5に示す。その結果、当該活性画分を含む組成物(麦芽根を水抽出した組成物)を添加した醸造酒の一種であるビール(試作品3)は、当該活性画分を含む組成物・無添加のビール(対照品3)に較べ、飲用量が多くなる、すなわち、ドリンカビリティーが増大する傾向が見られた。 2時間後に残った食事の評価結果を、第2表に示した。 その結果、試作品3を飲用した場合、対照品3を飲用した場合に較べ、食事を残す量が明らかに少なく、食欲増進作用が認められた。 これらのことから、当該活性画分を含む組成物を含有する飲料は、ヒトにおいて、ドリンカビリティー促進、および食欲増進の効果があることが確認できた。 以下に本発明の活性画分を含有する飲料、医薬品原体についての実施例を記載する。実施例5:清涼飲料の製造 果汁、クエン酸、砂糖、香料、当該活性画分を含む組成物(麦芽根を水抽出した組成物)を原料として、常法に従い、調合し最終1,000mLに調整した後、殺菌、充填を行って、清涼飲料の一種として、果汁系のニアウオーターを製造した。すなわち、グラニュー糖を40g測りとり50℃の純水で溶解させ、ストレート果汁換算で1%となる様に各種の濃縮混濁果汁[オレンジ果汁(濃縮倍率5倍)、リンゴ果汁(濃縮倍率4倍)]を加え、さらに0.15gのクエン酸、3gの上記組成物、2mLの香料、0.25gのL−アスコルビン酸を加えて、純水にて総量を最終1,000mLに調整した後、100℃、20分間の加熱殺菌処理を行い、各100mLを透明瓶(110mL容量)に充填、密栓し、各種果汁入りの果汁系ニアウオーターを製造した。実施例6:茶飲料の製造 緑茶葉の抽出液0.3L、重曹0.3gに、当該活性画分を含む組成物(麦芽根を水抽出した組成物)を調合し、総量を純水にて1Lに調整した。次に、85℃に昇温後、190g缶に充填し、レトルト殺菌(125℃、10分間)を行って、缶入りの茶飲料を製造した。 以上記載のように、本発明により、麦芽根の水溶性画分からなるムスカリンM3受容体に作用する消化管運動促進物質および/またはドリンカビリティー促進物質、ならびに、当該物質を含む天然物および天然物加工品より得た当該物質を含む組成物および精製物を飲食物用の添加剤として活用し、そのような添加剤を含む消化管運動促進性の飲食物を提供することができる。 特に本発明のムスカリンM3受容体に作用する消化管運動促進物質は、消化管運動の低下によって生じる食欲不振、消化不良、食後の腹部膨満感、胃のもたれ、悪心、嘔吐、上腹部痛などの消化器症状に悩む対象に対し、有効に消化管運動を促進するものであり、また、ドリンカビリティー促進効果によって、食欲およびドリンカビリティーを増進することができる利点を有する。 さらに、これらの消化管運動促進物質および/またはドリンカビリティー促進物質を含む組成物を用いて、各種飲料、機能性食品を提供することができ、その有用性は多大なものである。参考例1による、ビール乾燥物の分画物の「3H」4−DAMP結合に対する阻害曲線を示すグラフである。実施例1のモルモットにおける当該活性画分を含有する麦芽根抽出物の回腸縦走筋の収縮作用を示すグラフである。実施例2のヒトにおける消化管運動促進性物質配合飲食物(アルコール飲料)の排尿促進作用の結果を示すグラフである。実施例3のラットにおける消化管運動促進性物質配合飲食物(ノンアルコール飲料)のドリンカビリティー促進作用の結果を示すグラフである。実施例4のヒトにおける消化管運動促進性物質配合飲食物(ビール)のドリンカビリティー促進作用の結果を示すグラフである。 麦芽根を粉砕し、純水にて抽出した後、濾過する麦芽根の水溶性画分からなるムスカリンM3受容体を介する消化管運動促進、排尿促進及びドリンカビリティー促進組成物の製造方法。