タイトル: | 公開特許公報(A)_細胞表面オプソニン化剤 |
出願番号: | 2004213503 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12N 5/06,C12N 7/00,C07K 16/00 |
長棟 輝行 加藤 耕一 杉浦 俊彦 坂口 浩二 久保 和弘 JP 2006025766 公開特許公報(A) 20060202 2004213503 20040721 細胞表面オプソニン化剤 日本油脂株式会社 000004341 高島 一 100080791 長棟 輝行 加藤 耕一 杉浦 俊彦 坂口 浩二 久保 和弘 C12N 5/06 20060101AFI20060106BHJP C12N 7/00 20060101ALI20060106BHJP C07K 16/00 20060101ALN20060106BHJP JPC12N5/00 EC12N7/00C07K16/00 14 OL 18 特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年7月22日 社団法人化学工学会主催の「化学工学会 秋田大会」において文書をもって発表 特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年6月26日 COE拠点 東京大学大学院理学系研究科化学専攻・COE拠点 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻・マテリアル工学専攻・化学システム工学専攻・化学生命工学専攻主催の「東京大学21世紀COE(化学・材料系)「動的分子論に立脚したフロンティア基礎化学」「化学を基盤とするヒューマンマテリアル創成」合同シンポジウム」において文書をもって発表 4B065 4H045 4B065AA90 4B065AA98 4B065BA30 4B065CA44 4H045AA30 4H045BA55 4H045DA75 4H045EA28 本発明は各種抗原、特に腫瘍特異的抗原あるいはウイルス感染細胞特異的抗原を提示した抗原提示細胞を効果的に得るための方法及び該方法に使用するオプソニン化剤に関する。 近年、腫瘍の治療のために免疫細胞を利用したアプローチが多く報告されている。免疫細胞の中でもCD8陽性T細胞が腫瘍細胞を傷害することが知られている。癌患者から得られたT細胞を体外で活性化させ、さらに増殖させてから患者体内に戻すT細胞養子免疫療法として発展してきた。 腫瘍特異的T細胞を活性化させ増殖させるためには、腫瘍抗原提示した樹状細胞が効果的であることが知られている。樹状細胞は骨髄由来の免疫細胞であり、生体内に広く分布している。生体内では未成熟な樹状細胞は腫瘍由来のタンパク質等を貪食することで活性化し、所属リンパ節まで遊走し、成熟する。成熟した樹状細胞は貪食したタンパク質由来抗原ペプチドを組織適合性抗原クラスII分子と結合させて細胞表面に提示する。また同時に組織適合性抗原クラスI分子にも抗原ペプチドを結合させて提示することも知られている。抗原ペプチドを提示した樹状細胞によって、その抗原ペプチドを認識できるCD8陽性又はCD4陽性T細胞が効果的に誘導される(Banchreau et al.,Nature 392:245−252(1998)、Gogolak et al.,J.Mol.Recogni.16:299−317(2003))。 樹状細胞に対象の腫瘍由来の抗原ペプチドを提示させる方法はいくつか知られている(非特許文献1参照)。腫瘍由来のペプチド抗原を樹状細胞に与え、樹状細胞の組織適合性抗原分子に結合させ、提示するペプチドパルス法が知られている。この方法には腫瘍由来のペプチドが必要となり、このペプチドを同定することが非常に困難である。このためこの方法を利用できる腫瘍は限られている(非特許文献2及び3参照)。 樹状細胞に腫瘍細胞そのものを貪食させて、腫瘍細胞由来ペプチドを樹状細胞に提示させる方法も報告されている(非特許文献4参照)。この方法では腫瘍細胞を壊死させたり、アポトーシス誘導したり処理をして用いているため、インタクトな腫瘍細胞に特異的なCD8陽性T細胞を得るために用いられる樹状細胞として適当なものか疑問である。 抗原ペプチドを提示させる別の方法として、樹状細胞と対象の腫瘍細胞とを細胞融合させる方法も知られている。この方法では適切な細胞融合の効率が低いことから、また樹状細胞の性質を大きく変えてしまうこと、さらに適切な抗原提示能が低いため、好ましい方法ではない(非特許文献5〜7参照)。 腫瘍細胞特異的抗体を結合させた腫瘍細胞を樹状細胞と混合培養し、樹状細胞に腫瘍細胞を貪食させ、樹状細胞に抗原ペプチド提示させる方法も報告されている(非特許文献8及び9参照)。この方法は樹状細胞がFcγレセプターを持つことを利用している。このように抗体結合させた(オプソニン化させた)細胞を貪食する性質を抗体依存的貪食作用(antibody dependent cell phagocytosis;ADCP)と呼ぶ(非特許文献10及び11参照)。この方法では腫瘍特異的抗体が必要である。しかし対象の腫瘍に特異的な抗体を得ることも非常に困難であり、この方法も治療対象となる腫瘍は限られている。 腫瘍細胞に対する特異的抗体を得ることは困難であるが、任意の抗体を用いた腫瘍治療への試みがある。任意の抗原を細胞に発現又は化学修飾して、その抗原に対する抗体を腫瘍細胞に結合させることで樹状細胞へ貪食されやすくした例も報告されている(非特許文献12参照)。この方法では腫瘍細胞膜表面に抗体を結合させるために、遺伝子を導入し、抗原を細胞表面に発現した腫瘍細胞を得る必要があり操作が煩雑であり調製に時間がかかる。さらに人為的に発現させたタンパク質は本来腫瘍細胞成分には含まれず、樹状細胞がこのタンパク質を提示することで誤った抗原提示を誘導する可能性が考えられる。また細胞表面タンパクに抗原を化学修飾した場合、腫瘍細胞のタンパク質が修飾されるため、これらのタンパク質が樹状細胞に提示できなくなる可能性が考えられる。 対象となる腫瘍細胞の治療に有効な特異抗原を同定することが難しく、そのため特異的抗体も調製が困難なことが、癌治療を難しくしている。しかし腫瘍特異抗体でなくとも、腫瘍細胞表面に抗体を結合し、抗体のFcドメインが腫瘍細胞表面に提示されていれば、樹状細胞に腫瘍細胞又はその成分を効果的に貪食させることができる。そして腫瘍由来抗原ペプチドを提示した樹状細胞を得ることができる。 樹状細胞はFcレセプターを介して貪食することにより、樹状細胞表面の組織適合性抗原分子の発現誘導、又はT細胞を活性化するために必須の共刺激分子であるB7分子の発現が誘導され、成熟型樹状細胞となることが知られている(Regnault et al.,J.Exp.Med.189:371−380(1999)、Amigorena et al.,J.Exp.Med.195:F1−F3(2002)、Alexix et al.,J.Exp.Med.195:1653−1659(2002)、Akiyama et al.,J.Immunol.170:1641−1648(2003))。 体外で調製された癌患者から得られた腫瘍細胞由来抗原ペプチドを提示した患者由来の樹状細胞は、患者由来のCD8陽性ナイーブT細胞又はメモリーT細胞と体外で共培養することによって、腫瘍特異的なCD8陽性T細胞を誘導することができる。この腫瘍特異的なCD8陽性T細胞を患者に移植することによって癌を治療することができる。 又は腫瘍細胞由来抗原ペプチドを提示した患者由来の樹状細胞を患者体内に移植することで、体内で腫瘍傷害性T細胞が誘導されることが期待される。また活性化した樹状細胞はインターロイキン12(IL−12)を分泌し、CD4陽性ヘルパーT細胞を活性化、特に細胞免疫系を活性化調節するTh1細胞を誘導する。またIL−12はナチュラルキラー細胞(NK細胞)やナチュラルキラーT細胞(NKT)細胞も活性化することが知られている。故に患者体内で腫瘍に対する免疫システムが大きく活性化されることが期待される(Ardavin et al.,Nat.Rev.Immunol.3:1−9(2003)、Comporeale et al.,Cancer Res.63:3688−3694(2003))。 一方、本発明者らはこれまでに細胞膜表面にタンパク質を結合させるための、細胞修飾剤(Biocompatible anchor for membrane;BAM)を開発している(特許文献1参照)。BAMは細胞膜に結合するための脂質鎖と、この脂質鎖を溶解するための水溶性あるいは両親媒性高分子鎖からなる化合物である。このBAMの高分子鎖に任意の物質を結合させることができる。このように調製された組成物を細胞に添加すると、数分で細胞膜と非共有結合的に結合し、任意の物質を細胞表面に提示することが可能である。細胞膜表面にBAMを用いてタンパク質を結合させる方法をタンパク質アンカーリング法と呼ぶ。タンパク質アンカーリング法は、傷害を生じることなく、プローブ(蛍光標識等)等の修飾対象物質で細胞膜を修飾することを目的としている。特開2003−116529号公報Svaneら,acta pathologica, microbiologica, et immunologica Scandinavica(APMIS),デンマーク,2003,111,p.818−834Nestleら,Nature medicine(Nat. Med.),米国,1998,4,p.328−332Cerundoloら,Nature immunology(Nat. Immunol),米国,2004,5,p.7−10Thumannら,Journal of immunological methods(J. Immunol. Methods),オランダ,2003年,277,p.1−16Kuglerら,Nature medicine(Nat. Med.),米国,2000年,6,p.332−336Takedaら,European journal of clinical investigation(Eur. J. Clin. Invest),英国,33,p.897−904Phanら,Nature medicine(Nat. Med.),米国,2003,9,p.1215−1219Dhodapkarら,The Journal of experimental medicine(J. Exp. Med),米国,2002,195,p.125−133Selenkoら,Leukemia,英国,2001年,15,p.1619−1626Watanabeら,Breast cancer research and treatment(Breast Cancer Res. Treat.),オランダ,1999年,53,p.199−207Akewanlopら,Cancer research(Cancer Res.),米国,2001,61,p.4061−4065Renjifoら,The Journal of Immunology(J. Immunol.),米国,1998,161,p.702−706 本発明は、細胞表面のオプソニン化剤、特に腫瘍細胞やウイルス感染細胞のオプソニン化剤、オプソニン化されたそれらの細胞、ならびに腫瘍細胞由来ペプチドあるいはウイルス感染細胞由来ペプチドを提示した抗原提示細胞の調製方法の提供を目的とする。 本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、細胞膜修飾剤BAMを用いたタンパク質アンカーリング技術により腫瘍細胞に対する特異抗体がなくても、腫瘍細胞表面に抗体又はFcドメインを含む抗体の一部を結合させ腫瘍細胞をオプソニン化することができ、そして抗体オプソニン化された腫瘍細胞が樹状細胞に効果的に貪食され、その腫瘍細胞特異的な抗原ペプチドを提示した活性化樹状細胞を得ることができることを見出して本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の通りである。〔1〕一般式(1)で示される化合物を含む細胞表面オプソニン化剤(式中、Zは2〜10の水酸基を有する化合物の残基、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、オキシエチレン基とオキシアルキレン基はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良く、R1は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基、R2は炭素数15〜23の不飽和脂肪族炭化水素基を含有する化合物の残基、Xは修飾対象物質を共有結合し得る反応性官能基を1個以上含有する基、aは0あるいは1、m1、m2、m3はオキシエチレン基の平均付加モル数、n1、n2、n3は炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、かつ、m1、m2、m3、n1、n2、n3及びk1、k2、k3は下記の条件を満足する数である。0≦m1、m2、m3、n1、n2、n3≦500、3≦m1+m2+m3≦500でありかつ、3≦m1+m2+m3+n1+n2+n3≦500、0.5≦(m1+m2+m3)/(m1+m2+m3+n1+n2+n3)≦1、0≦k1≦8、1≦k2≦4、1≦k3≦4でありかつ、2≦k1+k2+k3≦10)。〔2〕R2がオレイル基又は炭素数17の不飽和脂肪族炭化水素基を1個以上有する化合物の残基である上記〔1〕記載の細胞表面オプソニン化剤。〔3〕R2が一般式(2)で表される化合物の残基である上記〔1〕記載の細胞表面オプソニン化剤(R3及びR4は炭素数15〜23の不飽和炭化水素基、R5は炭素数2〜4の2価の炭化水素基であり、bは0あるいは1であり、cは0あるいは1である)。〔4〕抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部、補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部、あるいは抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部及び補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部の両方が結合している、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の細胞表面オプソニン化剤。〔5〕該オプソニン化が、上記〔1〕記載の細胞表面オプソニン化剤に結合させた抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部、補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部、あるいは抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部及び補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部の両方を細胞表面に結合させることによって行われることを特徴とする、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の細胞表面オプソニン化剤。〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の細胞表面オプソニン化剤によってオプソニン化された細胞。〔7〕腫瘍細胞である、上記〔6〕記載のオプソニン化された細胞。〔8〕上記〔7〕記載のオプソニン化された腫瘍細胞を抗原提示細胞に貪食させることを含む、腫瘍細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞の調製方法。〔9〕上記〔8〕記載の腫瘍細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞の調製方法によって得られた腫瘍細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞。〔10〕ウイルス感染細胞である、上記〔6〕記載のオプソニン化された細胞。〔11〕上記〔10〕記載のオプソニン化された細胞を抗原提示細胞に貪食させることを含む、ウイルス感染細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞の調製方法。〔12〕上記〔11〕記載のウイルス感染細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞の調製方法によって得られたウイルス感染細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞。〔13〕樹状細胞又はマクロファージである、上記〔9〕又は〔12〕記載の抗原提示細胞。〔14〕上記〔9〕、〔12〕及び〔13〕のいずれかに記載の抗原提示細胞を用いることを特徴とする細胞障害性T細胞の誘導方法。 本発明によれば、腫瘍細胞あるいはウイルス感染細胞に特異的結合する抗体が得られていない場合でも、任意の抗体又はFcドメインを含む抗体の一部等を細胞膜修飾剤BAMを用いて該細胞の表面又は該細胞由来の小胞の表面に結合させることができる。かかる結合により、特異抗原が同定されていない腫瘍や特異抗体が得られていない腫瘍を含む対象細胞の細胞表面を修飾することが可能となり、抗原提示細胞、特に樹状細胞がADCPの様式によって、対象細胞を貪食することを促進させることができる。本発明の方法によって腫瘍やウイルス感染細胞特異的な抗原を提示し、活性化した抗原提示細胞を得ることができる。 本発明の細胞表面オプソニン化剤は、癌治療に対して汎用性が広く、試薬のコストが安価で、操作法が容易であり、また操作時間も比較的短時間であり、癌治療に大きな貢献が期待できる。 本明細書中で引用した参考文献と本明細書との間に矛盾がある場合、本明細書が優先される。 ここでいうオプソニン化とは、腫瘍細胞等貪食の対象となる細胞に、抗体等の抗原提示細胞の貪食を高めたり活性化を促したりする物質を結合させて抗原提示細胞に貪食されやすくする処理のことをいう。本発明の細胞表面オプソニン化剤は、任意の細胞膜にタンパク質を数分以内に結合させることができる細胞膜修飾剤BAMによって構成され、BAMと任意の抗体又はFcドメインを含む抗体の一部等を結合させて複合体を得、さらに当該複合体を腫瘍細胞等貪食の対象となる細胞に結合させることによって細胞をオプソニン化する。抗体等とBAMとの結合は直接結合してもよいし、又は任意の抗原を結合させたBAMにその抗原に対する抗体を結合させ、非共有結合的に間接的に抗体とBAMとを結合させることもできる。ここでいう任意の抗原とはフルオレセイン、ビオチン等低分子化合物やペプチド又はタンパク質、糖や脂質が結合した修飾タンパク質等抗体と結合できる物質を指す。ただし、任意の抗原には腫瘍細胞の膜タンパク質と反応性を持ち、化学結合するような化合物は含まない。又は治療対象生物種が健常状態では通常多く持たないタンパク質、ペプチド、修飾タンパク質は任意の抗原として使用を避けたほうが好ましい。 BAMに結合させる抗体の代わりに以下の物質を用いることも効果的である。抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質、たとえば補体、レクチン、BCGやLPS等Toll様受容体(TLR)のリガンド、腫瘍壊死因子(TNF)やインターフェロンγ(INF−γ)等のサイトカイン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。またこれらの物質を単独で細胞表面に結合させるだけではなく、組み合わせることも有効である。 細胞表面オプソニン化剤、具体的には抗体等の抗原提示細胞の貪食を高めたり活性化を促したりする物質が結合した細胞表面オプソニン化剤を腫瘍細胞等貪食の対象となる細胞に添加し、一定時間放置し、必要があれば細胞を洗浄することでオプソニン化された細胞が得られる。ただしこの処理中、細胞はアルブミン無添加の培地又は緩衝等張液中に存在することが好ましいが、これに限定されず、もしアルブミン存在下でも細胞表面オプソニン化剤濃度や処理時間を調節することでオプソニン化することは可能である。 細胞表面のオプソニン化は血清添加培地中で24時間程度持続するが、経時的に細胞膜から細胞表面オプソニン化剤が解離して減少するため、好ましくはオプソニン化処理後できるだけ早く抗原提示細胞と混合したほうがよい。抗原提示細胞としては、樹状細胞、マクロファージ等が挙げられる。 貪食対象となる細胞が腫瘍細胞である場合、混合培養することでオプソニン化された腫瘍細胞は抗原提示細胞に貪食され、貪食した細胞は成熟し活性化し、腫瘍細胞由来ペプチドを提示する。腫瘍由来ペプチドは、対象となる腫瘍細胞の種類によって適宜異なっていても良い。 貪食される細胞は腫瘍細胞だけに限られず、入手できればウイルス感染した細胞等も用いることができる。このことでウイルス感染した細胞由来のペプチドを提示した抗原提示細胞が得られ、ウイルス感染症の治療にも利用できる。 本発明においては、抗原提示細胞の貪食作用が促進される。故にその貪食の対象となる細胞は腫瘍やウイルス感染症のみに限られない。更に本発明の細胞表面オプソニン化剤は細胞のみならず、表面にリン脂質膜を持つ物質、たとえば、細菌、特にグラム陰性菌、ウイルス、リポソーム等、に結合できるため、これらを抗原提示細胞に貪食させることも可能である。リポソームの内部に任意の物質を封入することができれば、細胞表面オプソニン化剤を用いることによって、その任意の物質を貪食させることも可能である。 本発明で使用するBAMとして、具体的には、式(1)で表される化合物を用いることができる。(式中、Zは2〜10の水酸基を有する化合物の残基、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、オキシエチレン基とオキシアルキレン基はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良く、R1は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基、R2は炭素数15〜23の不飽和脂肪族炭化水素基を含有する化合物の残基、Xは修飾対象物質を共有結合し得る反応性官能基を1個以上含有する基、aは0あるいは1、m1、m2、m3はオキシエチレン基の平均付加モル数、n1、n2、n3は炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、かつ、m1、m2、m3、n1、n2、n3及びk1、k2、k3は下記の条件を満足する数である。0≦m1、m2、m3、n1、n2、n3≦500、3≦m1+m2+m3≦500でありかつ、3≦m1+m2+m3+n1+n2+n3≦500、0.5≦(m1+m2+m3)/(m1+m2+m3+n1+n2+n3)≦1、0≦k1≦8、1≦k2≦4、1≦k3≦4でありかつ、2≦k1+k2+k3≦10)。 細胞膜修飾剤BAMはモノアシル型とジアシル型が入手可能であるが、腫瘍細胞のオプソニン化時間を2時間以上持続させたい場合はジアシル型BAMを用いるほうが好ましい。 ジアシル型BAMを構成する高分子鎖として、好ましくは生体適合性の高いポリエチレングリコール鎖(PEG鎖)が利用される。また細胞膜修飾剤BAMとしての機能が損なわれない限り、そのPEG鎖の1本当たりの付加モル数は限定されないが、好ましくは15モル以上であり、さらに好ましくは15−180モル、より好ましくは80モルである。 式(1)において、Zは2〜10個の水酸基を有する化合物の残基であり、2〜10個の水酸基を有する化合物としては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン及びオクタグリセリン等を挙げることができる。Zとしては好ましくは2〜8の水酸基を有する化合物の残基を用いることができる。 式(1)において、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基等が挙げられる。分子内にはnの数だけオキシアルキレン基が存在するが、このオキシアルキレン基は1種単独であってもよく、あるいは2種以上が組み合わされていてもよい。2種以上が組み合わされる場合には、その組み合わせ方に制限はなく、ブロック状であってもランダム状であってもよい。 式(1)においてn1、n2、n3はオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、m1、m2、m3はオキシエチレン基の平均付加モル数を示している。n1、n2、n3、m1、m2及びm3はそれぞれ0〜500であり、オキシエチレン基とオキシアルキレン基の総和であるm1+m2+m3+n1+n2+n3は3〜500の範囲であり、好ましくは10〜300、より好ましくは20〜200である。 また、オキシエチレン基の総和であるm1+m2+m3は3〜500の範囲であり、好ましくは10〜300、特に好ましくは20〜200である。また、オキシエチレン基の総和であるm1+m2+m3とオキシアルキレン基の総和であるn1+n2+n3との比率は、0.5≦(m1+m2+m3)/(m1+m2+m3+n1+n2+n3)≦1を満足する必要がある。オキシエチレン基が少ないと水溶性が不足し十分な生体親和性が得られないことがある。オキシエチレン基の付加モル数は、例えばR1あるいはR2の疎水性基との親水性と疎水性のバランスによって決めることが可能である。好ましくは0.75≦(m1+m2+m3)/(m1+m2+m3+n1+n2+n3)≦1、特に好ましくは0.9≦(m1+m2+m3)/(m1+m2+m3+n1+n2+n3)≦1である。 k2が2以上であるか、あるいはR2がリン脂質化合物残基である場合には、疎水性を示す脂肪族炭化水素基が2鎖以上存在し、オキシエチレン基の平均付加モル数m1+m2+m3が20〜300であることが好ましく、特に好ましくは30〜200であることがさらに好ましい。 前記式(1)において、k1+k2+k3の値はZの分岐数に対応しており、2〜10、好ましくは2〜4の整数である。k1+k2+k3の値が2より小さい場合には、一末端に脂肪族炭化水素基である疎水性基、他の一末端に反応性官能基を有する化合物が得られないため、細胞と抗体等とを結合させることができなくなる。また、k1+k2+k3の値が10より大きい場合には、分子の三次元的な広がりが大きく嵩高くなるために、立体障害により安定な結合を行うことができない場合がある。 前記式(1)において、k1はポリアルキレンオキシドの分岐した末端の残基が水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基である残基の合計数であり、0〜8の範囲の整数である。 前記式(1)において、k2はポリアルキレンオキシドの末端の残基に炭素数15〜23の不飽和脂肪族炭化水素基を含有する化合物の残基の合計数であり、1〜4の範囲の整数であり、好ましくは1〜3、特に好ましくは1〜2である。k2が0の場合は細胞と可逆的に非共有結合で結合することができず、5以上の場合は、嵩高く、細胞膜に本発明のオプソニン化剤が結合されない場合がある。 前記式(1)においてaは0又は1であり、aが0の場合には、R2で表される不飽和脂肪族炭化水素基を含有する化合物の残基がポリアルキレンオキシド残基の末端にエーテル結合していることを意味し、aが1の場合はR2で表される不飽和脂肪族炭化水素基を含有する化合物の残基がポリアルキレンオキシド残基の末端にカルボニル基を介してエステル結合していることを意味している。 前記式(1)において、k3はXで示される反応性官能基を含有する基が末端残基に結合したポリアルキレンオキシド鎖の合計数であり、1〜4の範囲の整数であり、好ましくは1〜3である。k3が2以上の場合は、Xに含有される反応性官能基は1種又は2種以上でもよい。2種以上の場合は同種あるいは異種の修飾対象物質と結合させ、細胞膜に導入することができる。 前記式(1)においてR1は水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。k2が1以上の場合には、R2の不飽和脂肪族炭化水素基を含有する化合物の残基が式(1)の化合物の疎水性基として作用する。 前記式(1)において、R2は炭素数15〜23の不飽和の直鎖又は分枝の脂肪族炭化水素基を含有する化合物の残基である。好ましくはオレイル基、炭素数17の不飽和の直鎖又は分枝の脂肪族炭化水素基、あるいは炭素数15〜23の不飽和の直鎖又は分枝の脂肪族炭化水素基を1個以上有するリン酸基含有化合物の残基である。例えば下記一般式(2)で表される化合物の残基であることが好ましい。 R2の具体例としては、aが0の場合、オレイル基、リノレイル基、アラキドニル基、エルカイル基等は不飽和の直鎖又は分枝の炭化水素基が挙げられる。別の具体例としては、炭素数15〜23の不飽和脂肪族炭化水素基を有するリン脂質残基、より好ましくは炭素数17の不飽和の直鎖の脂肪族炭化水素基を有するリン脂質残基である。リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン等が挙げられる。 また、aが1の場合、R2は通常R2COとして脂肪酸に由来するアシル基を用いることができる。R2COの具体例としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、エルカ酸等の不飽和の直鎖又は分枝の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができ、好ましくはオレイン酸由来のアシル基である。 前記式(1)において、Xは修飾対象物質を共有結合し得る反応性官能基を1個以上含有する基である。好ましくは、Xはコハク酸イミド基、マレイミド基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基、p−ニトロフェニル基又はチオール基等の反応性官能基を含有する基である。ポリアルキレンオキシド残基の末端へのXの結合様式については特に限定はなくJMS−REV. MACROMOL. CHEM. PHYS., C25(3), 325−372(1985)等に報告されているような一般的な結合様式を用いることができるが、上記反応官能基を簡便に導入するためには2価の炭化水素基、エステルあるいはアミド結合を介して導入を行うことが好ましい。この目的に用いられる2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等の直鎖の2価の炭化水素基、ヘキシレン基、フェニレン基等の2価の環状炭化水素基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基である。エステル結合としては、モノカルボン酸又はジカルボン酸由来のエステル結合でもよいが、ジカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、及びマレイン酸等が挙げられ、アミド結合としてはエチルアミド及びプロピルアミド等由来のアミド結合が挙げられる。結合様式として、特に好ましいのはメチレン基、エチレン基、プロピレン基及びペンチレン基である。 Xにおける修飾対象物質とは、式(1)で表されるBAMと結合して細胞をオプソニン化する、抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質(例えば任意の抗体分子、Fcドメインを含む抗体分子の一部、補体分子、補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部、レクチン、BCGやLPS等TLRのリガンド、TNFやIFN−γ等のサイトカイン等)、ならびにこれらの物質とBAMとに結合し両者を結びつけることができる任意の抗原(フルオレセイン、ビオチン等の低分子化合物やペプチド又はタンパク質、糖や脂質が結合した修飾タンパク質等の抗体と結合できる物質)等である。すなわち、樹状細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質は、式(1)中のXと結合することによって直接的に、あるいは式(1)中のXと結合した任意の抗原と結合することによって間接的に、BAMと結合する。 前記式(2)は炭素数15〜23の不飽和の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基を1個以上有する化合物の残基である。式(2)において、bは0又は1である。bが1の場合、式(2)は炭素数15〜23の不飽和の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基を1個以上有するリン酸基含有化合物の残基、すなわちホスファチジルエタノールアミン含有残基である。k2の基数を増やさず、細胞膜と本発明のオプソニン化剤とを強く結合させる場合には、R2として式(2)で示される炭素数15〜23の不飽和の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基を1個以上有するリン酸基含有化合物残基を用いることが好ましい。 前記式(2)において、R3及びR4はそれぞれ独立に炭素数15〜23の不飽和の直鎖又は分枝の脂肪族炭化水素基、より好ましくは炭素数17の不飽和脂肪族炭化水素基である。R3及びR4は通常R3CO及びR4COとして脂肪酸に由来するアシル基を用いることができる。R3CO及びR4COの具体的なものとしては、例えば、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、エルカ酸等の不飽和の直鎖又は分岐の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができ、より好ましくはオレイン酸由来のアシル基である。 R3及びR4は同一であっても異なっていてもよい。R3及びR4の炭素数がそれぞれ23を越える場合、疎水性が強く柔軟性が小さいため細胞膜への結合が困難になる場合があり、また炭素数が15より少ない場合には、細胞膜への結合後、疎水性が弱いために細胞膜から抜け落ちる場合がある。R2が式(2)で示されるリン脂質含有化合物の残基の場合には、アシル基が2本あるために細胞膜の修飾後の安定性が一本鎖より高く、細胞膜にアンカーリングした状態で分子の脱落が生じにくい。 前記式(2)において、R5は炭素数2〜4の2価の炭化水素基であり、直鎖状、分枝状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、飽和又は不飽和のいずれでもよい。具体的には−CH2CH2−、−(CH2)3−、又は−(CH2)4−基等が挙げられる。 cは0又は1を示す。 本発明で用いるBAMが1個以上の不斉炭素を有する場合には、任意の光学活性体又はジアステレオ異性体等の純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体等の任意の物質を用いることができる。また、オレフィン性の二重結合を含む場合には、純粋な形態のE体又はZ体、あるいはそれらの混合物のいずれを用いてもよい。 BAMと抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部、補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部、等の修飾対象物質との結合は、具体的には下記の工程(1)修飾対象物質上の官能基と上記BAMを反応させる工程;及び工程(2)前記工程(1)で得られた反応生成物を非共有結合により細胞膜に結合させる工程により行うことができる。修飾対象物質として直接、抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質をBAMに結合させる場合は上記の2工程で反応させることにより、修飾対象物質として抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質と結合する任意の抗原(上述)を用いる場合にはまず工程(1)で任意の抗原とBAMとを結合させた複合体を作成した後得られた複合体と抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質とを結合させることによって行う。抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質と、BAMと修飾対象物質である任意の抗原とからなる複合体との結合は、複合体と細胞膜とを結合させる前であっても後であっても構わない。修飾対象物質である任意の抗原と抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質との結合は、その組み合わせに応じて適宜決定されるものであり、例えば抗原がフルオレセインであれば該物質としては抗フルオレセイン抗体を用いることができ、両者は抗原抗体反応によって結合し得る。 前記工程(1)の反応工程で用いる溶媒の種類は、反応に関与しない溶媒であれば特に制限されないが、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッドの緩衝液等の緩衝液あるいはその等張液、あるいは有機溶剤又は上記の水性媒体と有機溶剤との混合物等を用いることができ、これらは単独溶媒系でも混合溶媒系でもどちらでもよい。修飾対象物質が変性ないし失活することがないように、反応に関与しないアセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤を使用することが好ましい。反応温度は、修飾対象物質が変性しない温度であれば特に限定されないが、例えば、0〜100℃、さらに0〜40℃が好ましい。反応時間は通常は1分〜48時間程度であり、0.5〜3時間が好ましい。反応後は、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液等で洗浄、あるいは限外ろ過等により未反応のBAMを除去して次の工程に進むことが好ましいが、反応生成物の精製を行わずに工程(2)に用いてもよい。 工程(2)においては、工程(1)で得られたBAMを結合した修飾対象物質(抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部、補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部等の抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質)に腫瘍細胞あるいはウイルス感染細胞をリン酸緩衝液あるいは無血清培地に分散させたものを添加、あるいは腫瘍細胞あるいはウイルス感染細胞の分散液にBAMを結合した修飾対象物質を含浸させることによって抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質を細胞表面に固定化することができる。工程(1)で得られたBAMを結合した修飾対象物質と腫瘍細胞あるいはウイルス感染細胞との結合は通常は0〜40℃で行い、1秒間〜120分間、好ましくは25〜37℃で10秒間〜80分間行う。この工程において、工程(1)で得られた反応生成物以外の添加剤を添加してもよい。腫瘍細胞やウイルス感染細胞にBAMを介して修飾対象物質を結合させた後、修飾対象物質が結合していない細胞を等張液を添加して洗浄することが好ましい。用いる等張液としては細胞に傷害を与えない溶媒であれば特に限定されないが、リン酸緩衝液生理食塩水、細胞培養液等の等張液を用いることができる。 修飾対象物質として抗原提示細胞の貪食を高めたり、活性化を促したりする物質及びBAMと結合し両者を結びつけることができる任意の抗原を用いた場合、任意の抗原は、工程(1)の後に添加しても工程(2)の後に添加してもよい。 本発明のBAMを介して修飾対象物質を結合させた腫瘍細胞又はウイルス感染細胞は、アルブミン等のタンパク質水溶液を流すことによって修飾対象物質から除去することができる。タンパク質水溶液の濃度はタンパク質水溶液濃度が高ければ短時間で除去でき、タンパク質濃度が低ければ除去に時間がかかることになる。 本発明において用いるBAMは修飾対象物質の表面の官能基に合わせて、穏和な条件で反応する反応性官能基を式(I)中のXとして適宜選択することができる。 たとえば修飾対象物質の表面にアミノ基がある場合、反応性官能基はコハク酸イミド基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基、p−ニトロフェニル基等を含有する基が使用できる。これらは、対象となる物質の溶解性、安定性等の物性によって、適宜選択することができる。 修飾対象物質の表面にカルボキシル基がある場合、反応性官能基はアミノ基、チオール基等を含有する基を持つ固定化剤が使用できる。 修飾対象物質の表面にチオール基がある場合は反応性官能基としてマレイミド基、コハク酸イミド基を含有する基を持つ固定化剤が使用でき、逆に対象となる物質の表面にマレイミド基がある場合は反応性官能基としてチオール基を含有する基を持つ固定化剤を使用することができる。 修飾対象物質の表面の官能基とBAMの反応性官能基との反応方法は、「蛋白質の化学修飾(上/下)」(大野素徳、学会出版センター、1981)等で示されている酵素等のタンパク質と反応性化合物との反応方法が適用できるほか、公知な方法を用いることができる。 また本発明のオプソニン化剤は、その表面に細胞膜と可逆的に非共有結合で反応する基をもつので、本発明のオプソニン化剤を腫瘍細胞又はウイルス感染細胞と単に混合するだけで随時密着固定化される。また本発明のオプソニン化剤は細胞膜表面に結合した後も、アルブミン等のタンパク質水溶液に含浸させるだけで除去できるので剥離時に細胞にダメージを与えることが無く有用である。 以下の実施例は本発明のある特別に好ましい様態をさらに例示することを意図しており、本発明の範囲を制限することを意図していない。実施例1 本実施例において用いた、細胞表面オプソニン化剤を構成するBAMは、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)とPEG鎖(80モル)から構成されPEG鎖末端にNヒドロキシサクシンイミド(NHS)が修飾されているものを用いた(日本油脂株式会社より入手可能)。このBAMをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、10mM溶液を調製した。5−(アミノメチル)−フルオレセイン(FL)(同人化学より入手可能)をDMSOに溶解し、30mM溶液を調製した。BAM溶液とFL溶液を同量混和し、室温で20分間放置した。この操作により得られた溶液を、BAMとFLが化学結合したBAM−FL溶液と呼ぶ。この調製により5mM BAM−FLが得られた。BAM−FLは抗フルオレセイン抗体(抗FL抗体)と結合する。細胞表面オプソニン化剤の抗体又はFcドメインを含む抗体分子の一部との結合の様式の概念図を図1に示した。 腫瘍細胞としてマウスTリンパ腫細胞株EL−4を用いた。EL−4細胞1×105個を0.1mlの血清無添加RPMI1640培地に懸濁し、これに5mM BAM−FLを11μl添加し、37℃で60分間加温した。リン酸緩衝液食塩水(PBS)で2回細胞を洗浄した。細胞を0.1mlのPBSに懸濁し、0.2mg/mlの抗FL抗体(抗体クラスはIgG1型)を10μl添加し、37℃で30分間加温した。その後、細胞をPBSで2回洗浄した。この操作で細胞は細胞表面オプソニン化剤でオプソニン化された。 細胞表面に抗体が結合しているかどうか、即ち細胞がオプソニン化されているかどうかを以下の方法で確認した。上述の一連のオプソニン化処理を施したEL−4細胞1×105個を0.1mlのPBSに懸濁し、0.2mg/mlのCy5蛍光標識抗マウスIgG1抗体を10μl添加し、37℃で30分間加温した。その後、細胞をPBSで2回洗浄した。細胞は1mlの10%ウシ胎児血清(FBS)添加RPMI1640培地に懸濁し、共焦点レーザー走査顕微鏡で細胞を観察した。その結果EL−4細胞の細胞膜にCy5由来の赤色蛍光が観察され、細胞表面に抗体が結合し、オプソニン化されていることが示された。実施例2 オプソニン化したEL−4細胞に対するマウスマクロファージ細胞株WEHI−3の貪食を以下の順に操作し観察した。(1)腫瘍細胞の蛍光染色:EL−4細胞8×105個を0.8mlの10%FBS添加RPMI1640培地に懸濁し、DMSOに溶解した100μM 5−又は6−(N−サクシンイミジルオキシカルボニル)−3’,6’−O,O’−ジアセチルフルオレセイン(CFSE、同人化学より入手可能)溶液を40μl添加し、37℃で30分間加温した。その後、細胞をPBSで1回洗浄した。細胞を0.8mlの10%FBS添加RPMI1640培地に懸濁し、37℃の5%炭酸ガス雰囲気下で24時間培養した。(2)腫瘍細胞のオプソニン化:細胞を360μlのPBSに懸濁し、10mM BAM−FLを40μl添加し、37℃で40分間加温した。リン酸緩衝液食塩水(PBS)で2回細胞を洗浄した。細胞を360μlのPBSに懸濁し、0.2mg/mlの抗FL 抗体を40μl添加し、37℃で60分間加温した。その後、細胞をPBSで2回洗浄した。細胞を300μlの10%FBS添加RPMI1640培地に懸濁した。(3)マクロファージ株の腫瘍細胞貪食:オプソニン化された腫瘍細胞EL−4 1×105個とマクロファージ株WIHI−3 1×105個を200μlの10%FBS添加RPMI1640培地中で1時間共培養した。(4)マクロファージ株の染色:共培養後細胞を直ちに4℃に冷やし、PBS 100μlに懸濁し、フィコエリスリン(PE)蛍光標識された20μg/mlの抗CD16/32抗体を2μl添加し、4℃で60分間放置した。細胞をPBSで1回洗浄し、100μlのPBSに懸濁した。フローサイトメトリーで細胞の蛍光を分析した。(5)実施例2の分析結果:腫瘍細胞EL−4はCFSEで細胞内が緑色蛍光標識された。マクロファージ細胞株WEHI−3はその表面に存在するFc受容体が赤色蛍光で免疫染色された。WEHI−3がEL−4を貪食するとWEHI−3が緑色蛍光も持つようになる(ダブルポジティブ細胞)。細胞表面オプソニン化剤により抗体を結合させたEL−4は、細胞表面オプソニン化処理なしのEL−4と比較して、赤色及び緑色蛍光ダブルポジティブ細胞(R2領域の細胞)の割合が2.1倍、緑色蛍光の弱いダブルポジティブ細胞(R3領域の細胞)の割合が49.0倍増加した。緑色蛍光の弱いダブルポジティブ細胞はWEHI−3がEL−4由来成分の一部を貪食したものと思われる。実施例3 マウスから摘出し、培養して得られた樹状細胞を使ってオプソニン化したEL−4細胞に対する貪食を以下の通り観察した。CFSEで蛍光染色され、細胞表面オプソニン化剤でオプソニン化された腫瘍細胞株EL−4の調製方法は実施例2と同様である。(1)マウスからの樹状細胞の摘出:マウス(C57BL/c、雌、7週齢、日本チャールズリバーより入手)の頚動脈を切断し脱血後、70%EtOHに浸した。マウス腹部に切り込みを入れ、足先まで表皮を剥ぎ、大腿骨を取り出し、ハンクス溶液に浸した。大腿骨の両端を切断し、2.5ml(シリンジ)φ25(注射針)を用いて、ハンクス溶液で骨髄細胞を洗い出し、注射器でピペッティングし、細胞をほぐしてから70μmセルストレイナーにかけ、50ml遠沈管へいれ、1500rpmで8分間,遠心した。上清を除去し、1mlのRed Blood Cell Lysis Buffer(Roche社より入手)に懸濁し、2分後に無血清RPMI1640培地で30mlに希釈し、1500rpmで8分間遠心した。10%FBS添加RPMI1640培地(GM−CSF10ng/ml添加)で5×105個/mlとなるように懸濁後、24穴プレートに1mlずつ播種した。二日おきに培地交換(上清約750μlを除去し、10%FBS添加RPMI1640培地(GM−CSF10ng/ml添加)0.1mlを添加)し、8日間培養した。(2)樹状細胞の腫瘍細胞貪食:オプソニン化された腫瘍細胞EL−4 1×105個と樹状細胞1×105個を200μlの10%FBS添加RPMI1640培地中で1時間共培養した。(3)樹状細胞の染色:共培養後細胞は直ちに4℃に冷やされ、PBS100μlに懸濁し、フィコエリスリン(PE)蛍光標識された20μg/mlの抗CD16/32抗体を2μl添加し、4℃で60分間放置した。細胞をPBSで1回洗浄し、100μlのPBSに懸濁した。フローサイトメトリーで細胞の蛍光を分析した。(4)実施例3の分析結果:腫瘍細胞EL−4はCFSEで細胞内が緑色蛍光標識された。マウス樹状細胞はその表面に存在するFc受容体が赤色蛍光で免疫染色された。樹状細胞がEL−4を貪食すると樹状細胞が緑色蛍光も持つようになる(ダブルポジティブ細胞)。細胞表面オプソニン化剤により抗体を結合させたEL−4は、オプソニン化処理なしのEL−4と比較して、赤色及び緑色蛍光ダブルポジティブ細胞(R2領域の細胞)の割合が2.6倍、緑色蛍光の弱いダブルポジティブ細胞(R3領域の細胞)の割合が5.2倍増加した。緑色蛍光の弱いダブルポジティブ細胞は樹状細胞がEL−4由来成分の一部を貪食したものと思われる。本発明の細胞表面オプソニン化剤の構造を示す図である。(1)抗体を抗原を介して間接的に結合させた細胞表面オプソニン化剤の一般的な構造。(2)抗体を共有結合的に直接結合させた細胞表面オプソニン化剤の一般的な構造。(3)Fcドメインを含む抗体の一部を共有結合的に直製結合させた細胞表面オプソニン化剤の一般的な構造。一般式(1)で示される化合物を含む細胞表面オプソニン化剤(式中、Zは2〜10の水酸基を有する化合物の残基、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、オキシエチレン基とオキシアルキレン基はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良く、R1は水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基、R2は炭素数15〜23の不飽和脂肪族炭化水素基を含有する化合物の残基、Xは修飾対象物質を共有結合し得る反応性官能基を1個以上含有する基、aは0あるいは1、m1、m2、m3はオキシエチレン基の平均付加モル数、n1、n2、n3は炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、かつ、m1、m2、m3、n1、n2、n3及びk1、k2、k3は下記の条件を満足する数である。0≦m1、m2、m3、n1、n2、n3≦500、3≦m1+m2+m3≦500でありかつ、3≦m1+m2+m3+n1+n2+n3≦500、0.5≦(m1+m2+m3)/(m1+m2+m3+n1+n2+n3)≦1、0≦k1≦8、1≦k2≦4、1≦k3≦4でありかつ、2≦k1+k2+k3≦10)。R2がオレイル基又は炭素数17の不飽和脂肪族炭化水素基を1個以上有する化合物の残基である請求項1記載の細胞表面オプソニン化剤。R2が一般式(2)で表される化合物の残基である請求項1記載の細胞表面オプソニン化剤(R3及びR4は炭素数15〜23の不飽和炭化水素基、R5は炭素数2〜4の2価の炭化水素基であり、bは0あるいは1であり、cは0あるいは1である)。抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部、補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部、あるいは抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部及び補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部の両方が結合している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞表面オプソニン化剤。該オプソニン化が、請求項1記載の細胞表面オプソニン化剤に結合させた抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部、補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部、あるいは抗体分子又はFcドメインを含む抗体分子の一部及び補体分子又は補体レセプターに結合するドメインを含む補体分子の一部の両方を細胞表面に結合させることによって行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞表面オプソニン化剤。請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞表面オプソニン化剤によってオプソニン化された細胞。腫瘍細胞である、請求項6記載のオプソニン化された細胞。請求項7記載のオプソニン化された腫瘍細胞を抗原提示細胞に貪食させることを含む、腫瘍細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞の調製方法。請求項8記載の腫瘍細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞の調製方法によって得られた腫瘍細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞。ウイルス感染細胞である、請求項6記載のオプソニン化された細胞。請求項10記載のオプソニン化された細胞を抗原提示細胞に貪食させることを含む、ウイルス感染細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞の調製方法。請求項11記載のウイルス感染細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞の調製方法によって得られたウイルス感染細胞由来ペプチドを組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞。樹状細胞又はマクロファージである、請求項9又は12記載の抗原提示細胞。請求項9、12及び13のいずれか1項に記載の抗原提示細胞を用いることを特徴とする細胞障害性T細胞の誘導方法。 【課題】 細胞表面のオプソニン化剤、オプソニン化された細胞、ならびに各種抗原、特に腫瘍特異的抗原及び/又はウイルス感染細胞特異的抗原を提示した抗原提示細胞の調製方法の提供を目的とする。【解決手段】 一般式(1)【化1】(式中の各記号の定義は明細書中と同義である)で示される化合物を含む細胞表面オプソニン化剤、抗原提示細胞の貪食を高めたり活性化したりする物質が結合した細胞表面のオプソニン化剤、該オプソニン化剤でオプソニン化された細胞、特に腫瘍細胞及び/又はウイルス感染細胞、該オプソニン化された細胞を貪食して当該細胞特異的な抗原を組織適合性抗原分子上に提示した抗原提示細胞。【選択図】 なし