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タイトル:公開特許公報(A)_うつ病の遺伝的素因の検査
出願番号:2004212352
年次:2006
IPC分類:C12Q 1/68


特許情報キャッシュ

廣 瀬 行 博 JP 2006025746 公開特許公報(A) 20060202 2004212352 20040720 うつ病の遺伝的素因の検査 廣瀬 行博 304033502 廣 瀬 行 博 C12Q 1/68 20060101AFI20060106BHJP JPC12Q1/68 A 1 OL 17 4B063 4B063QA19 4B063QQ02 4B063QQ53 4B063QQ79 4B063QQ96 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR42 4B063QR55 4B063QS25 4B063QS32 4B063QX02 本発明は、うつ病の遺伝的素因の検査方法に関する。うつ病は何らかの原因で気分が落ち込み、生きるエネルギーが乏しくなって、その結果、身体のあちこちに不調があらわれる病気である。日本人の5人に1人が、一生のうちで一度はうつ病を経験するといわれている時代であるが、そのうち治療を受けている人はわずかであるといわれている。うつ病は精神面、身体面にさまざまな症状があらわれる。一般的にはそれらを原因別に「身体因性うつ病」、「内因性うつ病」、「心因性うつ病」と分類されてきたが、最近では症状の程度と持続期間による分類(重症のうつ病「大うつ病」と軽症のうつ病)が行なわれるようになってきた。うつ病の知識が広まってきたとはいえ、軽いうつに悩む人たちは普通に見えるために「単なる甘えだ」と誤解されたり、本人が病気と気がつかず、適切な治療を受けないでいたりする場合も少なくない。 不治の病とは違い、うつ病は治る病気であると言われている。現在は、誰もが複数のストレスを持っていますので、誰もがうつ病と無関係とはいえない。しかし、その中でも特に下記の素因をもつ人がストレスにさらされたうえ、傷心、転勤、出産などで違う環境に置かれるとうつ病になりやすいといわれている。うつ病を早期に発見し、治療を受けるためにはどんな症状があらわれるのか知っておく必要がある。しかし、誰もが経験する単なる「気分の落ち込み」とうつ病の症状は似ているので、うつ病の症状といっしょにその見分け方の目安も覚えておく必要がある。以前は、うつ病になると外出できず、何もできなくなるという人が多かったようであるが、現在は、(つらいけれども)会社や家庭で何とか仕事をこなしているが、軽いうつ状態が何年も続くといった新しいタイプの患者さんが増えてきている。うつ病の治療には、1に休養、2に薬物療法、3に精神療法という組み合わせで行なわれる。多くの場合、仕事などのストレスの原因から遠ざかり、心身ともにゆっくりと休養したうえで、抗うつ薬を服用する。 うつ病の薬、抗うつ薬は最近では効果が高く安心して服用できるものが使われる。最近では、副作用の少ない「SSRI」も使われ始められた。薬の副作用が疑われる症状(口乾、便秘、排尿障害、尿閉)が現れたら、自分で中断せずすぐ医師に相談する必要がある。また、症状がよくなったからといって勝手に服用を中止すると、症状の悪化を招く例もありますので自己判断は危険である。こうした薬は、脳内のセロトニンや、ノルアドレナリンの神経シナプスにおける再取り込みを抑制し、シナプスのセロトニンやノルアドレナリンの有効量を高め、その結果、それらの作動性ニューロンの活動性を高めることで治療効果がある。最近ではまずSSRIを試し、だめであれば三環系抗うつ薬へ変更するという手順が一般的に有効とされている。また、いくつかの抗うつ薬の併用、抗うつ薬以外の薬を併用することで、効果を高めることも有効とされている。 初めてうつ病の薬の副作用として、眠気、脱力、倦怠感、めまい、ふらつき、口渇、悪心、運動失調、構音障害、複視、頭痛、便秘、食欲不振、発疹、などがある。どうしてこんなに副作用が多いのか。これらは抗コリン作用と呼ばれるものである。神経と神経の間は、シナプス間隙といって、間が空いている。この間の情報を伝達するのが、神経伝達物質である。情報がやってくると、前シナプス受容体は、伝達物質を放出す。神経伝達物質というのが、セロトニンとか、ノルアドレナリンとかである。前シナプス受容体から出た、神経伝達物質は、シナプス間隙を通って、後シナプス受容体にくっつく。それによって、情報が伝達される。この時、神経伝達物質が余ると、元の前シナプス受容体に戻って行く。これを、戻さないようにするのが、抗うつ薬である。戻されなかった神経伝達物質は、仕方なく、後シナプス受容体の方へ行くので、結果として、神経伝達物質が多く伝わっていく。鬱病はセロトニンが少ないことによって、起こっているわけだから、これで鬱病の症状が改善される。この神経伝達物質は、何も脳の中だけではなく、体の中の、様々なところで、様々な作用を及ぼすために、情報を伝達している。でも、薬による神経伝達物質の再取り込みの遮断は、脳だけに作用するわけではないので、副作用が全身に及ぶものになる。自律神経系の、受容体に、アセチルコリン受容体があり、三環系抗うつ薬はこれにも作用する。最近、軽い鬱病、中程度の鬱病に効くと言われているのが、セントジョンズワートである。オトギリソウ(弟切草です。ゲームで有名になりましたね。)これが効果を発揮するらしい。アメリカやドイツ、オーストリアで注目を浴びていて、日本のうつ病の人たちの間でも話題に上っている。ただ気をつけなければいけないのは、この薬は抗うつ薬などの薬と併用した場合、危険な相互作用が出る。うつ病での最大の課題は、自殺の回避である。正常な判断能力が失われているので、死生観や合理的な判断などあらゆるガードを突き破って、死にたいと言う気持ちが入り込んでくる。死にたくなったら、医者に駆け込む必要があるのだが、問題は、自分でそうする必要があることの判断ができない状態に陥っていることにある。うつ病に似た病気はいろいろある。「自律神経失調症」、統合失調症の陰性症状、抑うつ神経症(神経症的抑うつ)、躁鬱病、境界性人格障害、慢性疲労症候群、行動・学習障害(ADHD/LD) 甲状腺機能障害、うつ病と判断できる精神科医に辿りつくのは容易ではない。芸能人の方で、最近うつ病である(あった)ことを告白してくださる方がいる。女優の木の実ナナさん、高木美保さん、俳優の竹脇無我さん、高島忠男さん、パニック障害では円広志さん、長島一茂さんなど。これらの方々が、積極的にうつ病の辛さを語られることで、社会的な認知度が随分高まったことは良い傾向である。芸能人に限らず、そしてこの病気に限らず、闘病記を読むことはためになる。 そこで、技術開示の前に、本発明者のうつ病の体験について、記述しておきたい。本発明者がうつ病との診断を得ることができたのは、1994年5月であったと記憶している。発病は、1994年1月末頃であったと思う。本発明者は、当時は、職務上の理由から単身にて勤務していたが、1994年2月中旬頃から歩くのさえ困難な状態に突然陥った。本発明者は、最初は、心臓病あるいは甲状腺機能障害と考え、内科医を尋ねたが、どこも異常ないという診断が下された。しかし、本発明者は、身動きできない程苦しかったし、この状態で、高校3年、高校2年、中学3年の子供を抱えどうしていいかわからず、途方に暮れていた。その時当然、自殺願望が頭をよぎったが、今自殺しても、保険金では、家族が生活できないこと、保険に入ってから自殺するには、1年以上経る必要があることを知り、自殺はなんとか回避しなければという思いであった。 私が、うつ病ではないかと推察したのは、私の妻であった。ほとんど、寝ていない状態の続いていた本発明者は、医師の処置により、連続3日間ぐらい寝続けた。そして、その時点において、やっと病名がついたので、病欠との認定のもと会社勤務を休むことが、できた。かなり回復するまでに、一ヶ月程度の病欠を3回程繰り返した。 うつ病の原因は何であったのだろうか。本発明者には、これについて断言できないが、発病前に、やがてやってくる人事異動についての恐怖感が潜在的に進行していたような気かする。発病当時は、44歳であったので、次の人事では、一応サラリーマンとしての先が見えてくる。しかし、人事の決定が通知されるまでは、それが見えない、見えないものに対する恐怖であった。その恐怖は、どこから来たのであろうか、それは、私が、一人っ子として育ち、また生まれ持った性格から、複雑な対人関係、いわゆる根回しというものを要求される職務につくことへの恐怖であったと想像する。 回復のきっかけは何であったか。1.何よりも元妻(薬剤師)のうつ病ではないかという推察。2.それにより、優れた医師にめぐり会えたこと。3.病気の本発明者に対してリストラ処分しなかった会社の温かい計らい。4.心の支え(本発明者には、現在2度目の妻となっている女性がいるのだが、心の支えになってくれた)5.仕事以外に楽しみを持つこと(本発明者は、スポーツとか不得意であったので、辿りついたのは、学生時代にその美しさに感動した女優・藤純子(現富司純子)さんの演劇鑑賞、ビデオ鑑賞、資料収集、ファンレターの投稿を楽しみとした。)6.元妻も良く本発明者をサポートしてくれた。7.子供達も、みんな良くがんばってくれた。長男は、高校三年の時、ラグビーで花園にレギュラーで出場し、一橋大学法学部に合格、2003年には、会社勤務をしながら勉強し司法試験に合格した。長女は、社会福祉士、次女は、幼稚園教諭、保育士の資格を取得した。なかでも、長男が2年目にして、司法試験に合格したことは、自分の子供の能力の高さには、小さい頃から気づいていたものの、改めて驚くとともに、私にも、今後の人生の生き方について、勇気を与えて貰った。このように、うつ病を回復させるには、いろいろな要素が必要であり、それゆえ、本発明者のように、睡眠不足が続いて一旦錯乱的状態に陥ると、回復には、多面的な手段を獲得する必要があるようである。 そこで、本発明者には、一つの疑問が残った。何故、人生を生きることについて恐怖を持つようになってしまったかということである。社会や会社に原因を求めると技術論にならないので、遺伝的要因について考察してみた。本発明者には、母方も父方も、祖父の記憶がまったくない。どうも、本発明者が生まれた時には、亡くなっていたようである。その死因を確かめることは、もうあまりにも昔の事になり行わなかったが、母方の祖父は、当時いわゆる庄屋といわれた豪農の主人として、選挙活動等を中心に日暮し、農業としての実労はほとんど行わなかった人のようであった。父方の祖父は、あまり勤勉ではなく(体が労働に耐えなかったのかもしれない)、妻と家を飛び出し、商売を始めたが成功せず、ほとんど妻の世話になって生活していたと聞いている。これは、本発明者が、父母より、幼少の頃聞いた話である。 ここに二人の共通点が伺われる。それは、二人とも、自分自身ではあまり仕事をしなかったというこである。このことは、二人に潜在的な恐怖心を植え付け、二人とも、うつ病になっていたのではないかと推察する。ただし、二人は、自殺して亡くなったのではなさそうである。ただ、父母共に、自分の父については、すなわち、本発明者の祖父については、あまり語ろうとしなかた。あまりいい思い出が父に関して残っていないのであろう。そこで、本発明者は、二人の祖父はうつ病になりやすい遺伝的素因を内在していたのではないかと推察し、うつ病について、遺伝学的研究を試みることにしたのである。特開2004−59531号公報(特許文献1)には、健常ヒト血清から50−100mM NaCl濃度で溶出され、分子量10−3kDaの精製したペプチド断片を含むうつ病治療薬並びに診断薬。アミノ酸配列がGVNDNEEGFである合成ペプチドからなるうつ病治療薬並びに診断薬が開示されている。特開2003−274949号公報(特許文献2)には、イノシトール−1,4,5−トリフォスフェートI型受容体(Genebank J05510)、セロトニン受容体2A(Genebank M64867)、電位差で開閉するカリウムチャンネル(Genebank X62840)等から成る群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の前頭葉における発現が正常動物と比較して変動しているうつ病モデル動物またはその前頭葉細胞に被験物質を投与し、該モデル動物の前頭葉またはその前頭葉細胞における当該1以上の遺伝子の発現が正常状態の方向へと回復するかどうかを判定することを含む、うつ病の治療及び/又は予防のための医薬のスクリーニング方法が開示されている。特開平9−84581号公報(特許文献3)には、ヒト・メラトニン受容体タンパク質をコードするDNAを保持する発現ベクターを含有することを特徴とするCHO細胞。メラトニン受容体親和性化合物がメラトニン受容体アゴニストであるメラトニン受容体親和性化合物またはその塩。メラトニン受容体親和性化合物がメラトニン受容体アンタゴニストであるメラトニン受容体親和性化合物またはその塩。メラトニン受容体アゴニストを含有することを特徴とする医薬組成物。睡眠覚醒リズム障害、時差ボケ、不眠、季節性うつ病、生殖および神経内分泌疾患、アルツハイマー病、脳血管性痴呆、老化に伴う各種障害、脳循環障害、ストレス、不安、痙攣、パーキンソン病、高血圧、癌もしくは緑内障の予防・治療剤または排卵調整剤である医薬組成物。うつ病、不安、神経症または意識障害の予防・治療剤・治療剤である医薬組成物が開示されている。特開平8−140680号公報(特許文献4)には、ヒトCRFレセプター蛋白質をコードするDNAを保持することを特徴とするpAC02で標示される発現ベクター。ヒトCRFレセプターアゴニストまたはその塩を含有することを特徴とするストレスに対する適応促進剤、ACTH,β−エンドルフィン,β−リポトロピンもしくはα−MSFの分泌促進剤、血圧降下剤、気分や行動の調節剤、胃腸機能の調節剤、自律神経系の調節剤、または下垂体,心血管系,消化管もしくは中枢神経の機能検査薬。ヒトCRFレセプターアンタゴニストまたはその塩を含有することを特徴とするストレスからくる鬱病・不安・頭痛、炎症性疾患、免疫抑制、AIDS、アルツハイマー病、胃腸障害、食欲不振、出血性ストレス、薬物・アルコールの禁断症状、薬物依存症、生殖障害、クッシング病または低血圧症の予防・治療剤が開示されている。特開2003−259884号公報(特許文献5)には、配列番号1または14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。配列番号1または14で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され、かつ配列番号1または14で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつジアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチド。ポリペプチドをコードするDNA。ポリペプチドを含有する医薬。医薬が精神分裂病、痛み、脳挫傷、脊髄損傷、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、乾癬、炎症性大腸炎、自己免疫疾患、心筋梗塞、脳梗塞、高血圧、嘔吐、食欲不振、悪性腫瘍の予防および/または治療のための医薬。医薬が、うつ病、不安、パーキンソン病、精神分裂病、幻覚、痴呆、記憶障害、マリファナ依存症、痛み、脳挫傷、脊髄損傷、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、乾癬、炎症性大腸炎、自己免疫疾患、喘息、心筋梗塞、脳梗塞、高血圧、嘔吐、食欲不振、過食、肥満、アルコール依存症、悪性腫瘍の診断のための医薬が開示されている。特開2003−40801号公報(特許文献6)には、ニューロン特異的カルシウムセンサー1(NCS-1)のアゴニスト/活性化物質(activator)またはアンタゴニスト/阻害物質(inhibitor)、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。CNS障害の治療、または対象の認知(cognition)の改善、または神経伝達物質放出の修飾(modulate)に関する組成物を調製するための、ニューロン特異的カルシウムセンサー1(NCS-1)のアゴニスト/活性化物質もしくはアンタゴニスト/阻害物質、またはそれらの薬学的に許容される塩の使用。CNS障害が精神分裂病、アルツハイマー病、パーキンソン病、大うつ病、双極性障害、不安障害、食欲障害、睡眠障害、不眠、注意欠陥多動性障害または多動性である使用が開示されている。特開平9−84581号公報(特許文献7)には、ヒト・メラトニン受容体タンパク質をコードするDNAを保持する発現ベクターを含有することを特徴とするCHO細胞。メラトニン受容体アゴニストを含有することを特徴とする医薬組成物。睡眠覚醒リズム障害、時差ボケ、不眠、季節性うつ病、生殖および神経内分泌疾患、アルツハイマー病、脳血管性痴呆、老化に伴う各種障害、脳循環障害、ストレス、不安、痙攣、パーキンソン病、高血圧、癌もしくは緑内障の予防・治療剤または排卵調整剤である医薬組成物が開示されている。特表2004−502469号公報(特許文献8)には、精神病を診断する方法であり、この方法が:(a)該対象から得た試料中のメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)核酸を解析する段階;および(b)該対象における少なくとも1種のヘテロ接合型MTHFR変異対立遺伝子の存在を決定する段階を含み、ここで該変異対立遺伝子の存在が、該精神病を有する該対象の指標である、方法が開示されている。特開2004−59531号公報特開2003−274949号公報特開平9−84581号公報特開平8−140680号公報特開2003−259884号公報特開2003−40801号公報特開平9−84581号公報特表2004−502469号公報本発明は、うつ病になる遺伝的要素あるかどうかを判定する方法に関する。現在ではうつ病家系を用いた遺伝解析研究により、単一の遺伝子ではなく複数の遺伝子が関与し、複雑遺伝の機構をとることが示唆されてきている(Am. J. Med. Genet., 88 , (3), 1999)。うつ病の具体的な原因遺伝子の同定には至っていない。 本発明は、うつ病の原因遺伝子を同定し、同定されたうつ病の原因遺伝子の発現状態を測定することによりうつ病を検査する方法を提供することを解決すべき課題とした。本発明者は、うつ病モデルである学習性無力(LH)ウサギを用いてゲノムワイドなうつ病感受性遺伝子の探索を行った。即ち、本発明者は、うつ病モデル動物である学習性無力(LH)ラットを用い、DNAマイクロアレイによるうつ病感受性遺伝子および新規抗うつ薬の標的遺伝子の探索を試みた。そして、コントロール群に比べLH群において統計的に有意に変化しているもののうち、イミプラミンおよびフルオキセチン投与によりその変化が改善されているものをベン図により選別した。前頭葉においてはEST(expressed sequence tag)を含む36遺伝子がLH動物で有意に変化していた。それら遺伝子群を機能別にグループ分けを行ったところ、前頭葉および海馬の両方において受容体とイオンチャンネルに分類された遺伝子がすべてLH動物で低下していた。以上のことからうつ状態では、受容体あるいはイオンチャンネルを介する細胞内情報伝達の低下による神経伝達の減少が基盤にあることが示唆された。即ち、本発明によれば、イノシトール−1,4,5−トリフォスフェートI型受容体(Genebank J05510)、セロトニン受容体2A(Genebank M64867)、電位差で開閉するカリウムチャンネル(Genebank X62840)、亜鉛トランスポーター(Genebank Y16774)、3Cl-/HCO3-交換物質(Genebank J05166)、プロスタグランジンDシンテターゼ(Genebank J04488)、PKCε(Genebank M18331)、ニューレキソフィリン4(GenebankAF042714)、ADP−リボシルトランスフェラーゼ(Genebank U94340)、tau(Genebank X79321)、jagged2(Genebank U70050)、MAP2(Genebank S74265)、インテグリンα鎖(Genebank X65036)、ニューレグリン1(Genebank M92430)、LIMK−1(Genebank D31873)、チオラドキシンレダクターゼ1(GenebankAA891286)、フマラーゼプレカーサー(Genebank J04473)、F1−ATPアーゼεサブユニット(Genebank AI171844)、CDC37(Genebank D26564)、リポプロテインリパーゼ(Genebank L03294)、ミトコンドリアNADHデヒドロゲナーゼの24kDaサブユット(Genebank M22756)、ブレオマイシンヒドロラーゼ(GenebankD87336)、B細胞トランスロケーション遺伝子1(Genebank L26268)、プレプロカテプシンD(Genebank X54467)、セリンプロテインアーゼインヒビター2(Genebank M69246)、ラパマイシン及びFKBP12標的−1タンパク質(GenebankU11681)、神経死タンパク質(Genebank D83697)、レチクロカルビン2(Genebank U15734)、細胞質樹脂分泌毒素結合タンパク質RBP−26(GenebankX67877)、スプライシング因子(Genebank D49708)、核分布遺伝子Cホモログ(Genebank X82445)、切除誘導型TPI(Genebank AF007890)、EST(Genebank AA892280)、EST(Genebank AI230632)、EST(Genebank AA894234)、及びEST(Genebank AF069782)から成る群(以下、表1に記載の36遺伝子と略する)から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の前頭葉における発現が正常動物と比較して変動しているうつ病モデル動物またはその前頭葉細胞に被験物質を投与し、該モデル動物の前頭葉またはその前頭葉細胞における当該1以上の遺伝子の発現が正常状態の方向へと回復するかどうかを判定する方法が提供される。本発明は、同定されたうつ病の原因遺伝子の発現状態を測定することによりうつ病を検査する方法を提供することができる。1.本発明のうつ病の治療及び/又は予防のための医薬のスクリーニング方法は、本明細書中の表1に記載の36遺伝子から成る群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の前頭葉における発現が正常動物と比較して変動しているうつ病モデル動物またはその前頭葉細胞に被験物質を投与し、該モデル動物の前頭葉またはその前頭葉細胞における当該1以上の遺伝子の発現が正常状態の方向へと回復するかどうかを判定することを含む。本発明者は、うつ病の治療及び/又は予防のための医薬の標的遺伝子を探索する目的で、うつ病モデル動物と対照モデル動物との間において各種遺伝子の発現量を前頭葉において比較した結果、前頭葉においては表1に記載の36遺伝子の発現が変動していることを見出した。そして、このうつ病モデル動物に既知のうつ病治療薬であるフルオキセチン及び/又はイミプラミンを投与し、上記した発現が変動している遺伝子の発現状態を調べた結果、上記遺伝子のうちの幾つかは、正常状態(即ち、対照モデル動物における発現状態)の方向へと回復することが実証された。これらの知見により、本発明により同定された表1に記載の36遺伝子はうつ病の標的遺伝子となりうることが判明した。なお、本明細書において、遺伝子の発現が正常動物と比較して変動しているとは、遺伝子の発現が正常動物と比較して増大または減少していることを意味する。本発明においては、表1に記載の36遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の発現レベルを測定する。測定する遺伝子の数は1以上であれば特に限定されず、任意の数の遺伝子の発現レベルを測定することができる。好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、特に好ましくは30以上の遺伝子の発現レベルを測定することができる。例えば、表1に記載の遺伝子の中から、試験した薬剤であるイミプラミンおよびフルオキセチンに応答しなかった遺伝子を選択してもよい。このような遺伝子としては、例えば、3Cl-/HCO3-交換物質(Genebank J05166)、ニューレキソフィリン4(GenebankAF042714)、ADP−リボシルトランスフェラーゼ(Genebank U94340)、MAP2(Genebank S74265)、インテグリンα鎖(GenebankX65036)、ニューレグリン1(Genebank M92430)、LIMK−1(Genebank D31873)、CDC37(Genebank D26564)、リポプロテインリパーゼ(Genebank L03294)、ミトコンドリアNADHデヒドロゲナーゼの24kDaサブユット(Genebank M22756)、ブレオマイシンヒドロラーゼ(Genebank D87336)、B細胞トランスロケーション遺伝子1(Genebank L26268)、プレプロカテプシンD(Genebank X54467)、神経死タンパク質(Genebank D83697)、切除誘導型TPI(Genebank AF007890)などが挙げられる。あるいはまた、上記遺伝子以外のイミプラミンおよびフルオキセチンに応答した遺伝子を選択することもできる。本発明のスクリーニング方法は、例えば、表1に記載の遺伝子の発現が変動(即ち、正常レベルと比較して増大または減少)しているうつ病モデル動物またはそれ由来の前頭葉細胞を用いて、該遺伝子の発現量を、該遺伝子由来のmRNA量または該遺伝子によりコードされるタンパク質量を前頭葉又その細胞において検出することによって測定し、該遺伝子の発現量を正常状態へと回復させるような被検物質を、うつ病の治療及び/又は予防のための医薬の候補物質として選択するものである。以下、mRNA量を検出する場合とタンパク質量を検出を行う場合に分けて説明する。(A)mRNAの検出(1)mRNA検出用のプローブ又はプライマーの取得mRNAの検出で用いるプローブは、表1に記載の遺伝子とハイブリダイズすることにより、当該遺伝子を検出できるものであれば任意のものを使用することができる。例えば、表1に記載の遺伝子の全長又はその一部を含むDNA断片を使用することができる。遺伝子の一部を含むDNA断片を使用する場合、目的の遺伝子を特異的に検出することができる限り、その長さは特に限定されず、例えば20bp〜10kb程度の任意の長さのDNA断片を使用することができる。なお、表1又は表2に記載の遺伝子は全てGenebankに登録されている既知の遺伝子(ESTを含む)であり、その登録番号を参照することにより、塩基配列の情報は入手することができる。また、当該遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより当該遺伝子を特異的に検出することができるDNA断片をプローブとして用いることもできる。本発明で用いるプローブは、例えば、以下の方法により作製することができる。先ず、表1に記載のGenebankの登録番号を参照することにより得られる塩基配列情報に基づいて設計してオリゴヌクレオチドプローブ又はオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、好適なcDNAライブラリー(即ち、目的とする遺伝子を発現している組織や細胞に由来するcDNAライブラリー)からプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法またはPCR法などの周知の方法によりcDNAクローンを取得する。次いで、このcDNAクローンを周知の方法で直接標識するか、または該cDNAクローンを鋳型としたポリメラーゼ反応による複製または転写反応において標識することにより、標識プローブを得ることができる。あるいは、表1に記載のGenebankの登録番号を参照することにより得られる塩基配列情報に基づいて、当該遺伝子を特異的に検出できる数十ヌクレオチド程度のオリゴヌクレオチド配列を設計し、これを化学合成によって作製し、上記と同様に標識してプローブとして使用することも可能である。本発明のスクリーニング方法では、mRNAを鋳型とする逆転写酵素反応を行ってから、PCRを行い特異的にDNA断片を増幅するRT−PCR法で行うこともできる。この方法においては、目的のヌクレオチド配列を特異的に増幅するためには、目的のmRNAの特定の部分配列に相補的なアンチセンスプライマーと、該アンチセンスプライマーから逆転写酵素により生成されるcDNAの配列中の特定の部分配列に相補的なセンスプライマーを使用する。(2)遺伝子発現を検出するモデル動物本発明のスクリーニング方法で用いるモデル動物は、表1に記載の36遺伝子から成る群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の前頭葉における発現が正常動物と比較して変動しているうつ病モデル動物である。モデル動物の種類としては、哺乳動物が好ましく、例えば、ラット、ハムスター、マウス又はウサギなどのげっ歯類や、サルなどの霊長類が挙げられるが、本検査の場合、ウサギを取り扱い、および検査結果の再現性の点で推奨する。うつ病モデル動物は、適当な方法で作製することができる。例えば、ウサギでは、実験動物に電流刺激を付与してストレスを与えることにより作製することができる。例えば、電流刺激を与える際に、電気刺激を回避できる状況下で刺激を与え、該刺激を回避しない状態の動物を学習性無力(LH)動物として選別する。さらに、このようにして選別された動物の中でも、表1に記載の何れか1以上の遺伝子の前頭葉における発現しているものをうつ病モデル動物として使用することができる。(3)被験物質の添加は、本発明のスクリーニング方法では、上記したうつ病モデル動物に被験物質を投与する。被験物質としては、低分子化合物(合成低分子化合物のライブラリーなどを含む)、タンパク質(抗体を含む)、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリー、細胞抽出液、細胞培養上清、又は植物や動物組織の抽出物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。被験物質の投与量や濃度は適宜設定することができるが、例えば、希釈系列を作成するなどして複数の投与量を設定してもよい。被験物質の投与期間も適宜設定することができるが、例えば、1日から数週間までの期間に渡って投与することができる。うつ病モデル動物に被験物質を投与する場合の投与経路は特に限定されず、は、被験物質の種類に応じて経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射等の投与形態を適宜使用することができる。(4)試料の調製上記のように被験物質を投与したうつ病モデル動物の前頭葉からRNAを抽出するに際しては、該動物から前頭葉または海馬の組織を採取し、該組織からRNAを抽出する。RNAの抽出方法としては、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法などを含む当業者に公知のRNA抽出法を使用することができる。また、RNA抽出のための各種の市販のキット(例えば、ISOGEN(NIPPON Gene, Toyama, Japan)など)を用いてRNAの抽出を行なうこともできる。得られたRNAからさらにmRNAを精製するためには、例えば、ビオチン化したオリゴ(dT)プローブにmRNAを吸着させ、さらにストレプトアビジンを固定化した常磁性粒子に、ビオチン/ストレプトアビジン間の結合を利用してmRNAを捕捉し、洗浄後、mRNAを溶出することにより、mRNAを精製することができる。また、オリゴ(dT)セルロースカラムにmRNAを吸着させた後、これを溶出して精製してもよい。さらに、ショ糖密度勾配遠心法などにより、mRNAをさらに分画することもできる。ただし、本発明の方法では、このようなmRNAの精製は必須ではなく、目的の遺伝子の発現の検出が可能である限り、全RNAをそのまま次の工程で用いることもできる。(5)試料またはプローブの固相化核酸ハイブリダイゼーションによる検出を行う場合、上記のようにして得られたRNA試料中の遺伝子を特異的に検出するため、該RNA試料をアガロース電気泳動を経てハイブリダイゼーション用メンブレンに転写する(ノーザンブロット法)か、または直接メンブレンに試料を適用するドットブロット法やスロットブロット法により、メンブレンに固相化する。あるいは、上記(1)に記載したプローブを固相担体に固定化してもよい。プローブを固定化した固相担体の作製については、本明細書中後記する。本発明でRNA試料を固相化するのに用いるメンブレンとしては、ニトロセルロースメンブレン、ポジティブチャージ・ナイロンメンブレンまたは親水性ナイロンメンブレン等を用いることができる。ノーザンブロット用のアガロース電気泳動方法は当業者に公知であり、例えば、アガロースホルムアミドゲル電気泳動法、試料をグリオキサールとジメチルスルホキシドで変性した後にリン酸緩衝液で作製したアガロースゲルで泳動する方法、およびアガロースゲルメチル水銀電気泳動法(Maniatis, T. et al. (1982)in "Molecular Cloning A LaboratoryManual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY.)等を挙げることができる。電気泳動後のゲルからRNAをメンブレンに移す方法としては、キャピラリートランスファー法(Maniatis, T. et al. (1982) in"Molecular Cloning A LaboratoryManual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY.)、バキューム法、電気泳動法(Maniatis, T. et al. (1989) in"MolecularCloning A Laboratory Manual、2nd ed" Cold Spring Harbor Laboratory, NY.)等を挙げることができる。(6)プローブの標識核酸ハイブリダイゼーションで所望の遺伝子の発現を検出する際、上記のようにして固相化させたRNA試料中の特定のmRNAを検出するために、プローブは予め標識しておく。以下、プローブの標識とその検出について説明する。放射性同位元素で標識する場合は、DNA断片またはそれを保持するベクター等を出発材料として、ニックトランスレーション法、ランダムプライム法、末端標識法等の方法で放射性同位元素で標識したDNAプローブを調製する。あるいは、鋳型となるDNAをサブクローニングしたベクター中のSP6プロモーターやT7プロモーターを利用したイン・ビトロ転写法により標識RNAプローブを調製してもよい。これらプローブの検出はX線フィルムまたはイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーにより行うことができる。酵素で標識する場合は、DNAあるいはRNA断片を直接酵素標識することができる。標識に用いる酵素としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼなどを挙げることができる。プローブの検出は、標識した酵素の基質を含む酵素反応緩衝液にメンブレンを浸すことにより行う。ここで言う酵素の基質とは、当該酵素が触媒する反応により検出可能な生成物を生成する基質であり、例えば、触媒反応により発色物質を生成したり、発光するような基質である。発色基質を用いた場合は目視により検出することができ、発光基質を用いた場合は放射性同位元素標識の場合と同様にX線フィルムまたはイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーやインスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。さらに、発光基質を用いた場合は、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFx(バイオラッド社製)システムを利用した定量も可能である。上記以外にも、例えば、フルオレセイン標識、ビオチン標識、ジコキシゲニン標識などを用いることができる。この場合、プローブDNA断片にニックトランスレーション法、ランダムプライム法、または3'末端標識法などの手法によりこれらの標識を導入することができる。これら標識分子を検出するためには、標識された分子に特異的に結合する分子を放射性同位元素や酵素で標識したものをプローブに結合させることにより行なう。例えば、標識がフルオレセインやジゴキシゲニンである場合は、抗フルオレセイン抗体や抗ジゴキシゲニン抗体を使用し、標識がビオチンである場合は、アビジンまたはストレプトアビジンを使用する。これらをプローブに結合させた後は、その標識された放射性同位元素や酵素により上記と同様の方法により検出を行う。(7)ハイブリダイゼーションと検出ハイブリダイゼーションは当業者に周知の方法で行うことができる。ハイブリダイゼーション溶液または洗浄液の組成、並びにハイブリダイゼーション温度または洗浄温度については、例えば、Maniatis, T. et al. (1982) in"MolecularCloning A LaboratoryManual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY.の記載に準じて従うことができる。ハイブリダイゼーション条件の一例を以下に示すが、好適な条件は標的遺伝子の長さや塩基組成、プローブDNAの長さや塩基組成などを考慮して、適宜設定することができる。ハイブリダイゼーション及び洗浄の終了後、上記に記載したように、プローブの標識の種類に応じて目的遺伝子の検出及び定量を行う。その結果、表1又は表2に記載の遺伝子の発現を正常状態の方向へと回復させることができる被験物質は、うつ病の治療および/又は予防のための医薬として有用である。(8)RT−PCRRT−PCRによって遺伝子の発現量を検出する場合には、例えば、以下に記載の反応条件を使用することができる。逆転写酵素反応の反応液の組成例としては、全RNA、塩化マグネシウム、トリス−塩酸(pH8.3〜9.0)、塩化カリウム、dNTPs、アンチセンスプライマー、逆転写酵素、並びに滅菌水で適量に調整したものなどが挙げられる。反応液を30℃で10分間保温した後、42〜60℃で15〜30分間保温し、さらに99℃で5分間加熱して酵素を失活させてから、4〜5℃で5分間冷却する。PCR反応液組成の例としては、塩化マグネシウム、トリス−塩酸(pH8.3〜9.0)、塩化カリウム、dNTPs、アンチセンスプライマーおよびセンスプライマー、Taqポリメラーゼ、並びに滅菌水を加えて全量を適量に調整し、その全量を、逆転写反応を終了した反応液全量に加えてからPCRを開始することができる。反応温度条件としては、まず94℃で2分間加熱した後、95℃で30秒間、40〜60℃で30秒間、70〜75℃で1.5分間の温度サイクルを20〜50サイクル繰り返した後、4℃に冷却する。PCR終了後、反応液を電気泳動し、目的の大きさのバンドが増幅されているか否かを検出する。定量的検出を行うためには、予め段階希釈したcDNAクローンを標準の鋳型DNAとして同条件でPCRを実施し、定量的検出が可能な温度サイクル数を定めておくか、または、例えば5サイクル毎に一部反応液をサンプリングしてそれぞれ電気泳動を行う。また例えばPCR反応時に放射標識dCTPを用いることにより、バンド中に取り込まれた放射能の量を指標に定量を行うこともできる。上記した方法により、うつ病モデル動物に被験物質を投与した場合と投与しない場合で、表1に記載の何れか1以上の標的遺伝子の発現量を比較し、該遺伝子の発現量を正常状態の方向へと回復させることができることが判明した被験物質は、うつ病の治療および/又は予防のための医薬として有用である可能性がある。(B)ポリペプチドの検出本発明のスクリーニング方法は、被験物質が標的とする遺伝子がコードするタンパク質の発現量を検出することにより行うこともできる。この場合は、試料中のタンパク質を96穴プレートのウエル内底面やメンブレン等に固相化し、標的タンパク質を特異的に認識する抗体を用いて検出を行う。これは、例えば、固相酵素免疫定量法(ELISA法)又は放射性同位元素免疫定量法(RIA法)により行なうことができる。(1)試料の調製うつ病モデル動物に被験物質を投与して、その後、該動物から採取した前頭葉を試料として用いることができる。モデル動物及び被験物質の種類は上記した通りである。採取した試料から公知の方法により全細胞抽出液を回収し、適宜、不溶性物質を除去した後、緩衝液で適宜希釈してELISA/RIA又はウエスタンブロット用の試料を調製する。(2)試料の固相化上記で得た試料中のタンパク質を特異的に検出するために、該試料を固相化する。ウエスタンブロット法又はドットブロット法で用いることができるメンブレンとしては、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、コットンメンブレンまたはポリビニリデン・ジフルオリド(PVDF)メンブレン等が挙げられる。電気泳動後のゲルからメンブレンにタンパク質を移すブロッティングは、通常のウエスタンブロッティングの手法に従い行なうことができる。一方、ELISA法/RIA法で検出・定量を行うためには、96穴プレートに試料を入れて4℃から室温で数時間から一晩静置することにより、ウエル内底面にタンパク質を吸着させて固相化することができる。(3)抗体および検出本発明で用いる抗体は、表1に記載した遺伝子がコードするタンパク質を特異的に認識する抗体である。このような抗体は、常法に従い、当該タンパク質又はその部分ポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取および精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975)に従って、当該タンパク質に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。上記のようにして取得した抗体は、RIA法、ELISA法、蛍光抗体法などの各種免疫学的測定法に用いることができる。上記抗体は、それを直接標識するか、または該抗体を一次抗体とし、該抗体を特異的に認識する標識二次抗体を用いて検出することができる。標識としては、酵素(アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼ)またはビオチンなどを使用できるが、これらに限定されない。RIAの場合は、I125等の放射性同位元素で標識した抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。標識された酵素の活性を検出することにより、抗原であるタンパク質の量を測定することができる。アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼの場合、それら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法では目視で検出できる。ELISA法においては、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウエルの吸光度を測定することにより定量することができる。発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においてはX線フィルムまたはイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。(4)測定方法ウエスタンブロット又はドットブロットの場合は、抗体の非特異的吸着を阻止するために予めメンブレンをブロッキング溶液(スキムミルク、カゼイン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン等を含む緩衝液)で処理する。ブロッキングは通常、4℃で数時間〜24時間行なう。次に、メンブレンを洗浄して余分なブロッキング溶液を除去した後、抗体をブロッキング溶液で適宜希釈した溶液中に一定時間浸して、抗体をメンブレン上の抗原に結合させる。抗体反応は、好ましくは室温で数時間行なう。抗体反応の終了後、メンブレンを洗浄液で洗浄する。以下、抗体が標識されたものである場合は、ただちに検出操作を行うことができる。あるいは、未標識の抗体を用いた場合には、二次抗体との反応を行なった後に、標識の種類に応じて検出操作を行う。ELISA/RIAの場合は、試料を固相化させたプレートのウェル内底面への抗体の非特異的吸着を阻止するため、ウエスタンブロットの場合と同様、予めブロッキングを行う。次に、ウェル内を洗浄して余分なブロッキング溶液を除去した後、抗体を洗浄液で適宜希釈した溶液を分注して一定時間インキュベーションし、抗体を抗原に結合させる。抗体反応は、好ましくは室温で1時間程度行う。抗体反応操作終了後、ウェル内を洗浄液で洗浄する。ここで、用いた抗体が標識されたものである場合は、ただちに検出操作を行うことができる。未標識の抗体を用いた場合には、二次抗体との反応を行なった後に、標識の種類に応じて検出操作を行う。2.本発明の課題である検査方法は、うつ病モデル動物では、コントロール群に比べ、表1に記載の36遺伝子の前頭葉における発現が変動していることが見い出された。従って、これら遺伝子の前頭葉における発現レベルを検出または測定することにより、うつ病を検査することができる。また、うつ病の治療薬を投与した場合に、投与前の発現状態と投与後の発言状態を比較検討することにより、当該治療薬の効果や有効性を判定することができる。本明細書で言う「うつ病の検査方法」とは、うつ病の状態にあるか否かを診断したり、うつ病の治療薬の効果や有効性を判定したりすることを含む、最も広い意味で解釈される。表1に記載の各遺伝子の発現レベルの検出または測定のための方法は、本明細書中上述した通りである。3.検査に用いるDNAチップは、表1に記載の遺伝子から成る群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子を固相担体上に固定化することにより得られるDNAチップを提供する。本発明のDNAチップを用いることにより、本明細書で上記したうつ病の治療及び/又は予防のための医薬のスクリーニングやうつ病の検査を行うことが可能である。固相担体上に固定化する表1に記載の遺伝子から成る群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子としては、ゲノムDNA断片、cDNA断片、または該遺伝子の一部から成る合成オリゴヌクレオチド断片の何れでもよい。本発明のDNAチップでは、表1に記載の遺伝子から選ばれる少なくとも1種類以上、好ましくは3種類以上、より好ましくは5種類以上、さらに好ましくは10種類以上、さらに好ましくは20種類以上、さらに好ましくは30種類以上の遺伝子を固相担体上に固定化する。DNAチップの作製方法は常法に従って行なうことができる。例えば、ガラス基板上に、予め準備した遺伝子断片を塗布し固定することにより作製することができる。あるいはまた、シリコンやガラス基板上において直接cDNA合成する方法(即ち、オンチップ合成法)によりDNAチップを作成することもできる。うつ病モデル動物で発現が変動する多数の遺伝子を配置することにより、うつ病の治療及び/又は予防のための医薬のスクリーニングやうつ病の検査を高い精度で行なうことが可能になる。本発明のDNAチップを用いてうつ病の治療及び/又は予防のための医薬のスクリーニングやうつ病の検査を行なう場合には先ず、被験物質を投与したうつ病モデル動物または検査対象の患者から、前頭葉または海馬の組織または細胞を採取する。採取した組織または細胞からmRNAを調製し、蛍光ラベルを用いて標識cDNAを合成する。この標識cDNAを、基板上に固定化した各遺伝子と反応させ、特異的に結合した蛍光シグナルを定量することにより、各組織における各遺伝子の発現状態を検出および測定することができる。以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。(方法)まずウサギをシャトルボックスに入れ、電流刺激を行った。ボックス内の床グリッドに電流が流れるようにしてあり、ラットはストレスとしてフットショックを与えらた。コントロール群ではショックはかからないようにしてあり、一定時間ボックス内に入れておいた。48時間後ボックス内で隣のスペースに移動すればショックを回避できる状況でフットショックを与え、回避しない状態のウサギを学習性無力(LH)ウサギとして選別した。LH群はさらに薬剤投与群と生食投与群(LH-S)の2群に分け、薬剤投与群においては4日間連続で三環系抗うつ薬のイミプラミン25 mg/kg(LH-I群)、または選択的セロトニン取り込み阻害剤であるフルオキセチン 5 mg/kg(SIGMA, St. Louis, USA)(LH-F群)を投与し、LH状態が改善されたものを遺伝子発現実験に選んだ。LH-S群も同じ回数の注射を施行し、LH状態が持続していたものを次の実験に用いた。最終テストの24時間後、それぞれのウサギより脳を摘出し、前頭葉からRNAをISOGEN(NIPPON Gene, Toyama, Japan)を用いて抽出した。10 μgの全RNAよりSuperScript Choice System (Life Technologies, Grand Island, NY)とpoly (dT)とT7 RNA ポリメーラーゼプロモーター配列を持ったプライマー(Geneset,La Jalla, CA)でcDNAを合成し、ビオチン化UTPとCTP存在下で2本鎖cDNAを鋳型としてIn vitro転写を行い(EnzoBioArray HighYield RNA Transcript Labeling Kit, Affymetrix, Santa Clara, CA and EnzoDiagnostics, Farmingdale, NY) cRNAを合成した。ビオチンラベルしたcRNAをGeneChip (Affymetrix, Santa Clara, CA)に約16時間ハイプリダイズさせ、チップを洗浄後GeneArray scanner (Agilent Technologies)でシグナルをスキャンした。解析はMicroarraySuite 4.0 (Affymetrix)およびGeneSpringTM 4.1 (Silicon Genetics)を用いて行った。(結果と考察)1.行動実験LHウサギを生理食塩水投与群(LH-S)、フルオキセチン投与群(LH-F)、イミプラミン投与群(LH-I)の3つのグループに分け電気刺激回避実験を行ったところ、LH-Sではコントロール群に比べ有意に失敗数が増加しており、25mg/kgのイミプラミンおよび5mg/kgのフルオキセチンにより失敗数は有意に減少していた。フルオキセチンでは減少率がイミプラミンに比べ小さかったが、これは臨床においてイミプラミンが重度のうつ病患者に、フルオキセチンが軽度のうつ病患者に対して用いられていることを考えると理にかなった結果である。また、フルオキセチン10 mg/kgおよびイミプラミン50 mg/kgでは、それぞれフルオキセチン5 mg/kg、イミプラミン25 mg/kgの場合と効果に差は認められなかった。2.遺伝子発現解析コントロール群とLH-S群、LH-S群とフルオキセチン投与群、LH-S群とイミプラミン投与群のそれぞれについてMann-Whitneyの順位差検定を行い、有意に変化している遺伝子を選んだ。両薬剤でコントロールレベルに発現量が回復した遺伝子、フルオキセチンだけで回復した遺伝子およびイミプラミンだけに反応した遺伝子、あるいは両薬剤に対して反応しなかった遺伝子を選び、実際のトランスクリプトの発現量を示すAverage Differenceが10以下のものを棄却し、遺伝子の機能ごとにまとめた(表1)。3.ラット、ハムスター、マウス、ウサギでの25 mg/kgのイミプラミンおよび5 mg/kgのフルオキセチンにより失敗数の減少の有意性の比較をまとめた(表2)。ウサギの有意性が最も大であった。表2 生理食塩水投与群(LH-S)失敗数の増加の有意性25 mg/kgのイミプラミン 5mg/kgのフルオキセチンラット ○ △ハムスター ○ △マウス ○ △ウサギ ◎ ○ 注:◎有意性が顕著、○有意性あり、△優位性ややあり最終的には、前頭葉ではESTを含む36遺伝子が、LH-S群でコントロール群に比べ有意に変化していた。受容体やイオンチャンネルに分類された遺伝子がすべてLH-Sウサギで低下していた。前頭葉においては、セロトニン2A受容体(HTR2A)およびイノシトール-3リン酸受容体1型(ITPR1)がそれぞれコントロール群に比べ有意に減少しており、いずれもフルオキセチンおよびイミプラミンの両薬剤でコントロールレベルにまで回復していた。その他の遺伝子では、脳の発達やシグナル伝達に関与するといわれているLIMK1遺伝子(Frangiskakis, J. M., 他、Cell, 1996; 86(1): 59-69)がLH-Sラットでコントロール群に比べ有意に減少しており、薬剤投与により上昇は統計的に有意ではなかったものの、イミプラミンではコントロールレベルにまで回復している傾向が見られたことから、LIMK1がうつ病の新しいターゲットである可能性が示唆された。また興味深い結果としては、プロスタグランジンD2合成酵素遺伝子(PGDS)がLH-Sでコントロール群に比べ有意に上昇しており、フルオキセチンおよびイミプラミンの両方の薬剤によりコントロールレベルに発現が低下していた。また、前頭葉にLH-Sでコントロール群に比べ有意に上昇しておりイミプラミンとフルオキセチンに両薬剤によってコントロールレベルにまで減少しているESTが1つずつ見られた。(結果)LHウサギでは受容体、イオンチャンネルをコードする遺伝子がコントロールに比べて前頭葉で有意に減少しており、それらのうち抗うつ薬に反応した遺伝子の数は前頭葉の方が多かった。これまでうつ病に関連している遺伝子として知られているのは主にモノアミン系遺伝子であったが、本実験によりイミプラミンでのみ発現が回復した遺伝子群は重症うつ病に関連する遺伝子、またイミプラミンおよびフルオキセチンの両薬剤で影響を受けなかった遺伝子群は難治性のうつ病の候補遺伝子となり得ると考えられる。うつ病の動物モデルとしてウサギを用いて、イノシトール−1,4,5−トリフォスフェートI型受容体(Genebank J05510)、セロトニン受容体2A(Genebank M64867)、電位差で開閉するカリウムチャンネル(Genebank X62840)、亜鉛トランスポーター(Genebank Y16774)、3Cl-/HCO3-交換物質(Genebank J05166)、プロスタグランジンDシンテターゼ(GenebankJ04488)、PKCε(Genebank M18331)、ニューレキソフィリン4(GenebankAF042714)、ADP−リボシルトランスフェラーゼ(Genebank U94340)、tau(Genebank X79321)、jagged2(Genebank U70050)、MAP2(Genebank S74265)、インテグリンα鎖(GenebankX65036)、ニューレグリン1(Genebank M92430)、LIMK−1(Genebank D31873)、チオラドキシンレダクターゼ1(GenebankAA891286)、フマラーゼプレカーサー(Genebank J04473)、F1−ATPアーゼεサブユニット(Genebank AI171844)、CDC37(Genebank D26564)、リポプロテインリパーゼ(Genebank L03294)、ミトコンドリアNADHデヒドロゲナーゼの24kDaサブユット(Genebank M22756)、ブレオマイシンヒドロラーゼ(Genebank D87336)、B細胞トランスロケーション遺伝子1(Genebank L26268)、プレプロカテプシンD(Genebank X54467)、セリンプロテインアーゼインヒビター2(GenebankM69246)、ラパマイシン及びFKBP12標的−1タンパク質(Genebank U11681)、神経死タンパク質(Genebank D83697)、レチクロカルビン2(Genebank U15734)、細胞質樹脂分泌毒素結合タンパク質RBP−26(Genebank X67877)、スプライシング因子(Genebank D49708)、核分布遺伝子Cホモログ(Genebank X82445)、切除誘導型TPI(Genebank AF007890)、EST(Genebank AA892280)、EST(Genebank AI230632)、EST(Genebank AA894234)、及びEST(Genebank AF069782)から成る群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の前頭葉における発現レベルを測定することを含むことを特徴とする、うつ病の検査方法。 【課題】 本発明は、うつ病を発病しやすい人の遺伝的素因を検査することを課題とする。【解決手段】うつ病のモデル動物としてウサギを用いて、イノシトール−1,4,5−トリフォスフェートI型受容体(Genebank J05510)、神経死タンパク質(Genebank D83697)、LIMK−1(Genebank D31873)、レチクロカルビン2(Genebank U15734)、細胞質樹脂分泌毒素結合タンパク質RBP−26(Genebank X67877)、スプライシング因子(Genebank D49708)、核分布遺伝子Cホモログ(Genebank X82445)、切除誘導型TPI(Genebank AF007890)、EST(Genebank AA892280)、EST(Genebank AI230632)等から成る群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の前頭葉における発現レベルを測定することを含むことを特徴とする、うつ病の検査方法。【選択図】 なし


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