タイトル: | 公開特許公報(A)_浮腫の評価方法、及び被験物質の抗浮腫作用の評価方法 |
出願番号: | 2004186558 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | A61B 5/107,A61B 5/00,A61K 45/00,A61P 7/10,G01N 33/15,G01N 33/50 |
松嶋 弘明 奥村 重年 JP 2006006541 公開特許公報(A) 20060112 2004186558 20040624 浮腫の評価方法、及び被験物質の抗浮腫作用の評価方法 ロート製薬株式会社 000115991 三枝 英二 100065215 掛樋 悠路 100076510 田中 順也 100124431 松嶋 弘明 奥村 重年 A61B 5/107 20060101AFI20051209BHJP A61B 5/00 20060101ALI20051209BHJP A61K 45/00 20060101ALI20051209BHJP A61P 7/10 20060101ALI20051209BHJP G01N 33/15 20060101ALI20051209BHJP G01N 33/50 20060101ALI20051209BHJP JPA61B5/10 300ZA61B5/00 101LA61K45/00A61P7/10G01N33/15 ZG01N33/50 Z 5 OL 11 2G045 4C038 4C084 4C117 2G045CB01 2G045FA01 2G045FA40 4C038VA05 4C038VB02 4C038VC20 4C084AA17 4C084NA14 4C084ZA512 4C117XA01 4C117XB01 4C117XD09 4C117XE27 本発明は、浮腫の評価方法に関する。また、本発明は、被験物質の抗浮腫作用の評価方法に関する。更に、本発明は、抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングする方法に関する。 浮腫は、むくみともいい、からだの内部に組織液あるいはリンパ液がたまり、はれたような感じになる状態をいう。浮腫またはむくみは、脳卒中から回復しつつある患者や、乳房切断手術後の患者、月経前浮腫、妊娠中の浮腫、コルチゾン,ヒドロコルチゾン,プレドニゾロンなどのある種の薬剤による副作用、腎臓疾患、腎臓機能の低下(ネフローゼ症候群、急性糸球体腎炎、急性尿細管壊死、慢性肝疾患等)、心不全、鬱血性心不全、肝硬変、炎症等に伴い生じる症状として発現したり、日常生活での長時間の立位、座位等によって自然発生的に下半身を中心に発現することもある。浮腫は、血管系の静水圧の上昇及び鬱血による、毛細血管からの体液漏出と、静脈やリンパ系による体液回収のアンバランスが主な原因と考えられている。 このような浮腫について、患者の疾患状態の指標や日常生活改善のための指標としたり、特定成分の抗浮腫剤としての有用性を評価するために、浮腫の測定方法がいくつも知られている。 最も代表的な方法として、ラットカラゲニン足浮腫試験方法がある。かかる方法では、被験物質を投与したラットにカラゲニン溶液を該ラットの足に皮下投与して炎症を惹起し、浮腫が生じた足の容積を測定することにより被験物質の抗浮腫作用を評価することができる。しかしながら、この方法は抗浮腫作用を精度高く評価することができるため汎用されているが、ヒトに用いることが困難であり、またカラゲニンによって誘発される特定の浮腫しか測定できないという問題点がある。 また、座位を2時間継続したのち、被験者の下腿周囲長3箇所の総和を座位開始時、座位終了時に測定してむくみを測定する方法(例えば特許文献1)、朝夕に膝蓋上部や膝蓋部15cm下の周囲径を測定する方法(例えば特許文献2)が知られている。しかし、これらの方法は簡便であるが、測定する下腿周囲長3箇所の場所によって値が変動するため測定の精度に劣ることが問題である。 上記方法の他にも、尿量の測定や、尿中のナトリウムイオン,カリウムイオン,塩素イオン濃度の測定、腹水量の測定などによって、間接的に浮腫の程度や改善度を評価する方法(例えば特許文献3)も知られている。しかし、これらの方法は簡便な方法とは言い難い。 さらに、鼻浮腫,脳浮腫,肺浮腫といった部位特異的に生じる浮腫に対して、浮腫の部位を摘出して、その重量を測定することによって浮腫の程度を測定して被験物質の浮腫改善効果を評価する方法(例えば特許文献4)も知られている。しかし、浮腫を直接的に測定することができる点で精度が高いといえるが、簡便な方法ではない。 このような従来技術を背景として、哺乳動物において、疾患に伴って発生する浮腫の程度を測定することによって疾患やその程度(例えば心臓及び腎臓の機能不全を引き起こす病態の程度)をモニタリングするため、より簡便な方法によって精度高く浮腫の測定をする方法が求められていた。また、上記疾患の症状を軽減する、或いは日常生活をより快適に過ごすために用いる抗浮腫剤の開発においても、より簡便で精度の高い、評価方法及び抗浮腫作用を有する物質のスクリーニング方法が求められていた。特開平10−182468号公報特開2000−239138号公報特開平10−251161号公報特開2000−143536号公報 そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決することである。具体的には、簡便で精度の高い方法で水の摂取乃至投与によって誘発される浮腫の有無或いは程度を評価する方法、簡便で精度の高い方法で、浮腫に対する被験物質の抗浮腫作用を評価する方法、並びに簡便で精度の高い方法で、抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングする方法を提供することを目的とするものである。 本発明者らは、上記目的を達成するため日夜鋭意研究を重ねていたところ、哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定することによって水の摂取乃至投与によって誘発される浮腫の程度を測定することが可能であること、並びに哺乳動物に水を投与することにより浮腫を誘発するに際して、浮腫の誘発前又は後に被験物質を投与し、耳介のサイズ又は弾力の変化を測定することによって、被験物質の抗浮腫作用を評価できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。 即ち、本発明は、下記に掲げる発明を提供するものである。項1. 哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定することを特徴とする、水の摂取乃至投与によって誘発される浮腫の評価方法。項2. 下記工程を含有する、被験物質の抗浮腫作用を評価する方法:(i)水を投与することによって哺乳動物に浮腫を誘発する工程、(ii)水投与前又は後に、被験物質を該哺乳動物に投与する工程、(iii)水投与前、及び水投与後且つ被験物質投与後に、該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定する工程、及び(iv)水投与前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水投与後且つ被験物質投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差に基づいて、被験物質の抗浮腫作用を評価する工程。項3. 工程(i)において、水の投与を腹腔内投与又は経口投与により行う、項2記載の被験物質の抗浮腫作用を評価する方法。項4. 下記工程を含有する、抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングする方法:(i)水を投与することによって哺乳動物に浮腫を誘発する工程、(ii)水投与前又は後に、候補物質を該哺乳動物に投与する工程、(iii)水投与前、及び水投与後且つ候補物質投与後に、該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定する工程、及び(iv)水投与前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水投与後且つ候補物質投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差に基づいて、抗浮腫作用を有する候補物質を選択する工程。項5. 項4に記載のスクリーニング方法により選択される抗浮腫作用を有する物質を(化合物又は組成物)を有効成分とする、抗浮腫剤。 以下、本発明を更に詳細に説明する。(1)浮腫の評価方法 本発明の浮腫の評価方法は、水の摂取乃至投与によって誘発される浮腫の評価方法であって、哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定することにより、浮腫自体の程度を評価する特徴とするものである。 本発明の方法の測定対象となる哺乳動物としては、浮腫の有無或いは程度の評価対象となる哺乳動物であれば特に制限されず、例えば、実験動物、家畜、ペット等の非ヒト哺乳動物を挙げることができる。具体的には、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ウシ、ウマ、イヌ、サル、ヒツジ、ブタ等を例示することができる。これらの中で、好ましくは、ウサギ、マウス、ラット、モルモットである。 本発明の方法において、評価対象となる浮腫は、水を摂取乃至投与することによって誘発される浮腫である。ここで、水としては、摂取或いは摂取乃至投与可能であり、浮腫を誘発することを限度として、特に制限されず、無機塩類、糖類、アミノ酸、エタノール、その他各種成分を含有するものであってもよい。かかる水以外の成分を含有する場合、該含有成分の含有割合の上限は、特に制限されるものではないが、例えばエタノールを含有しない場合であれば、該含有成分が総量で25重量%程度;エタノールを含有する場合であれば、該含有成分が総量で20重量%程度、好ましくは10重量%程度を挙げることができる。具体的には、かかる水として、水道水;脱イオン水、脱塩蒸留水、蒸留水、超純水等の精製水;生理食塩水;炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、果汁飲料、栄養飲料、アルコール飲料、ミネラルウォーター等の飲料類等を挙げることができる。また、水の摂取乃至投与方法としては、例えば、通常の食生活において上記水を摂取する方法や、経口投与或いは腹腔内投与等の方法を挙げることができる。 本発明の評価対象である浮腫を誘発するのに要する水の摂取乃至投与量としては、対象哺乳動物の種類、個体差、摂取乃至投与方法等によって異なり、一律に規定することはできないが、例えば、哺乳動物の体重1kgに対して、水を5〜250ml、好ましくは10〜200ml、更に好ましくは20〜150mlとなる範囲を挙げることができる。特に、対象哺乳動物がウサギ、マウス、ラット又はモルモットの場合であれば、該哺乳動物の体重1kgに対して、水を10〜250ml、好ましくは15〜200ml、更に好ましくは20〜150mlとなる範囲を挙げることができる。 本発明の方法において、耳介(耳殻ともいう。)とは、哺乳類にみられる器官であり、外耳の一部で、頭部の両側に突き出た器官のことである。 本発明の方法において、浮腫の有無若しくは程度の指標として、耳介のサイズ又は弾力、好ましくは耳介のサイズを測定する。 耳介サイズとは、耳介の重量、断面積又は厚さのことである。本発明の方法において、耳介サイズの測定は、耳介の重量、断面積及び厚さの測定項目の中で、少なくとも1つ測定項目を測定することによって行われる。耳介の重量の測定は、例えば、一定の大きさの耳介片を切除し、その耳介片の重量を測定することにより行うことができる。耳介の断面積の測定は、例えば、耳介を切除し、該耳介の断面を写真撮影等を行い、画像解析装置を用いて該耳介の断面積を解析することにより行うことができる。また、耳介の厚さの測定は、例えば、測定対象動物の耳介の厚さに応じた測定器具(例えば、ノギス、電子デジタルノギス、マイクロメーター、ダイアルシックネスゲージ等)を用いて耳介を測定することにより行うことができる。簡便性及び哺乳動物に対する負担の軽減の観点からは、耳介サイズとして耳介の厚さを測定することが好ましい。 また、耳介の弾力は、測定対象動物の種類に応じて、公知の弾力測定方法の中から適当な方法を適宜選択し、測定することができる。例えば、弾力測定方法としては、荷重付加した時の応力を圧力計で測定する圧力法;吸引された時の変異量や経時変化をCutometerやDermaflex A等で測定する吸引法;プローブ等を中心部位に固定し、その周囲を一定トルクでねじった時の変位角や戻りをDermal TorquemeterやTwistmeter等で測定する回転変位法;及び物質の硬軟によって変わる固有振動数をヴィーナストロンで測定する固有振動法等が挙げられる。 本発明の方法において、耳介のサイズ又は弾力を測定する時期としては、水の摂取乃至投与により浮腫が誘発された後であればよい。当該測定時期としては、哺乳動物の種類や条件にもよるが、通常、水の摂取乃至投与後5〜60分後が例示される。 哺乳動物において水の摂取乃至投与によって誘発される浮腫は耳介のサイズ及び弾力の変化と相関性がある。即ち、水の摂取乃至投与後に、耳介のサイズや弾力が大きくなれば、浮腫の発生や浮腫の程度が大きいことを示す。従って、通常時の耳介のサイズ又は弾力と水の摂取乃至投与後の耳介のサイズ又は弾力を測定し、これらの測定値を相互に比較することによって、水の摂取乃至投与後の浮腫発生の有無或いはその程度を評価することが可能になる。 (2)被験物質の抗浮腫作用の評価方法 前記(1)で説明するように、哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定することによって、浮腫の有無或いは程度を評価できる。従って、前記(1)の浮腫の評価方法を、被験物質(化合物又は組成物)の抗浮腫作用を評価する方法に応用することができる。 即ち、本発明は、下記工程を含有する、被験物質の抗浮腫作用を評価する方法である:(i)水を投与することによって哺乳動物に浮腫を誘発する工程、(ii)水投与前又は後に、被験物質を該哺乳動物に投与する工程、(iii)水投与前、及び水投与後且つ被験物質投与後に、該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定する工程、及び(iv)水投与前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水投与後且つ被験物質投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差に基づいて、被験物質の抗浮腫作用を評価する工程。 本発明において、抗浮腫作用の評価対象である被験物質としては、抗浮腫作用の有無乃至程度の評価対象であって、使用哺乳動物に内用形態で投与可能なものであれば、その成分や形態等については特に制限されず、公知又は新規の化合物及び組成物を用いることができる。例えば、被験物質として抗浮腫剤(即ち、抗浮腫作用を発揮する化合物又は組成物)を用いると、該抗浮腫剤の抗浮腫作用の程度を評価できる。かかる抗浮腫剤として、具体的には利尿薬を挙げることができる。利尿薬は腎臓における尿生成を促進し、尿量を増大し浮腫を寛解する薬効を発揮するものであり、その有効成分として、具体的には炭酸脱水素酵素阻害薬、チアジド系利尿薬、ループ系薬、抗アルドステロン及びカリウム保存性利尿薬、浸透圧性利尿薬、アルドーシス性利尿薬、キサンチン系利尿薬、アミノウラシル類、トリアジン類、強心薬(鬱血性心不全治療薬ともいう)、利尿生薬などが挙げられる。これらの利尿薬の有効成分の具体例として下記成分を例示できる:炭酸脱水素酵素阻害薬:アセタゾラミド等チアジド系利尿薬:チアジド、チアジド誘導体等、ループ系薬:フロセミド、ブメタニド、エタクリン酸、クロロチアジド等、カリウム保存性利尿薬:抗アルドステロン薬(アルドステロン、スピロノラクトイン等)、尿細管直接作用薬(amiloride、トリアムテレン等)浸透圧性利尿薬:イソソルビド、マニトール、難吸収性塩類等、アルドーシス性利尿薬:酸形成塩類等、キサンチン系利尿薬:カフェイン、テオフィリン、アミノフィリン等、アミノウラシル類:アミノウラシル、アミノウラシル誘導体等、トリアジン類:トリアジン、トリアジン誘導体等、強心薬:ジギタリス、アムリノン、ピモベンタン、デノパミン、ミルリノン、オルプリノン、カテコールアミン類(イソプロテレノール等)、メチルキサンチン類(カフェイン、テオフィリン、アミノフィリン等)、補酵素Q10(ユビレカレノン)、ホルスコリン、グルカゴン、ベスナリノン、デノパミン、カルシウムイオンアゴニスト、カルシウムイオンセンシタイザー等、利尿生薬:キササゲ、タイソウ、ボウコン、チョレイ、パセリ、スイカ等。 以下、本発明の方法を各工程毎に説明する。工程(i) 工程(i)は、水を投与することによって哺乳動物に浮腫を誘発する工程である。本発明において、哺乳動物としては、前述する浮腫の評価方法における哺乳動物と同様のものを使用できる。 工程(i)において浮腫の誘発に使用する水としては、前述する浮腫の評価方法における水と同様のものを使用できる。また、該水の投与は、腹腔内投与又は経口投与、好ましくは腹腔内投与を行うことにより実施される。該水の投与量としては、使用する哺乳動物の種類、誘発する浮腫の程度、投与方法等によって異なり、一律に規定することはできないが、一例として、哺乳動物の体重1kgに対して、通常10〜200ml、好ましくは20〜150ml、更に好ましくは30〜100mlを例示することができる。特に、使用する哺乳動物がウサギ、マウス、ラット又はモルモットの場合であれば、該哺乳動物の体重1kgに対して、該水が30〜200ml、好ましくは40〜150mlなる範囲を挙げることができる。 工程(ii) 工程(ii)は、水投与前又は後に、被験物質を該哺乳動物に投与する工程である。ここで、被験物質を上記哺乳動物に投与する方法としては、特に制限されず、該被験物質の形態に応じて、適宜設定することができる。例えば、該哺乳動物の適当量の該被験物質を経口投与或いは非経口投与する方法を挙げることができる。また、被験物質を上記哺乳動物に投与する時期は、水の投与の前(即ち工程(i)の前)であってもよく、また水の投与の後であってもよい。好ましくは、水を投与する前に被験物質を投与する方法が挙げられる。 工程(iii) 工程(iii)は、水投与前、及び水投与後且つ被験物質投与後に、該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定する工程である。ここで、哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力の測定は、前述する浮腫の評価方法における耳介のサイズ又は弾力の測定方法に従って行うことができる。 本工程(iii)において、耳介のサイズ又は弾力の測定時期は、水を投与する前と、水の投与後且つ被験物質の投与後である。例えば、被験物質の投与(工程(ii))を水の投与の前(即ち、工程(i)の前)に行う場合であれば、耳介のサイズ又は弾力の測定時期は、水を投与する前及び後である。なお、この場合、水を投与する前の測定は、被験物質の投与の前であっても、又被験物質の投与と水の投与との間であってもよい。好ましくは水を投与する直前である。また、例えば、前記被験物質の投与(工程(ii))を水の投与後(即ち、工程(i)の後)に行う場合であれば、耳介のサイズ又は弾力の測定時期は、水の投与前及び被験物質の投与後である。 工程(iv) 工程(iv)は、水投与前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水の投与後且つ被験物質の投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差に基づいて、被験物質の抗浮腫作用を評価する工程である。 このように、水を投与する前と、水の投与後且つ被験物質の投与後に、哺乳動物の耳介サイズを測定し、これらの測定値を比較することで被験物質の抗浮腫作用有無乃至程度を評価することができる。即ち、水を投与する前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水の投与後且つ被験物質の投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差(以下、「耳介のサイズ又は弾力の変化の程度」と記す)、が小さい程、被験物質の抗浮腫作用が強く、また耳介のサイズ又は弾力の変化の程度が大きい程、被験物質の抗浮腫作用が無い或いは弱いということが明らかとなる。 例えば、本発明の評価方法の一態様として、被験物質を投与することにより測定された耳介のサイズ又は弾力の変化の程度と、被験物質を投与しない以外は同様の方法で測定した耳介のサイズ又は弾力の変化の程度と比較することによって、被験物質の抗浮腫作用の有無を評価することが可能である。 また例えば、本発明の評価方法の他の態様として、被験物質を投与することにより測定された耳介のサイズ又は弾力の変化の程度と、抗浮腫作用が既知の物質を被験物質の代わりに投与する以外は同様の方法で測定した耳介のサイズ又は弾力の変化の程度と比較することによって、被験物質の抗浮腫作用の強度を評価することが可能である。 なお、本発明の好ましい実施態様として、以下の1)〜5)の順で、工程(i)から(iii)を実施する方法を挙げることができる:1)被験物質の哺乳動物への投与(工程(ii))、2)該哺乳動物の耳介サイズの測定(工程(iii))、3)該哺乳動物に対する浮腫の誘発(工程(i))、4)該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力の測定(工程(iii))、及び5)被験物質の抗浮腫作用の評価(工程(iv))。 (3)抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングする方法 前述するように、上記被験物質の抗浮腫作用の評価方法において、被験物質として抗浮腫剤の候補となる物質(以下、候補物質と記す)を使用することで、該被験物質の抗浮腫作用の有無乃至程度を評価することができる。故に、上記被験物質の抗浮腫作用の評価方法を、抗浮腫作用を有する物質(化合物又は組成物)のスクリーニング方法に応用することが可能である。 具体的には、水投与による耳介のサイズ又は弾力の変化の程度に基づいて、抗浮腫作用を有する候補物質を選択することによって、抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングすることができる。 例えば、候補物質を投与することにより測定された耳介のサイズ又は弾力の変化の程度が、候補物質を投与しない以外は同様の方法で測定した耳介のサイズ又は弾力の変化の程度よりも小さい値を示す場合、この候補物質を選択することにより、抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングできる。 また例えば、候補物質を投与することにより測定された耳介のサイズ又は弾力の変化の程度と、抗浮腫作用が既知の物質を候補物質の代わりに投与する以外は同様の方法で測定した耳介のサイズ又は弾力の変化の程度とを比較することにより、候補物質の抗浮腫作用の強度を推定でき、これによって抗浮腫作用が所定の強度以上の候補物質を選択することが可能になる。 即ち、本発明は、下記工程(i)から(v)を含有する、抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングする方法である:(i)水を投与することによって哺乳動物に浮腫を誘発する工程、(ii)水投与前又は後に、候補物質を該哺乳動物に投与する工程、(iii)水投与前、及び水投与後且つ候補物質投与後に、該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定する工程、及び(iv)水投与前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水投与後且つ候補物質投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差に基づいて、抗浮腫作用を有する候補物質を選択する工程。 本発明のスクリーニング方法により得られた抗浮腫作用を有する物質は、抗浮腫剤の有効成分として有用である。当該抗浮腫剤は、健康維持、疾患の治療、又は美容を目的として、食品、医薬品、香粧品等に配合することにより使用される。 哺乳動物の耳介サイズを測定することによって、水の摂取乃至投与により生じる浮腫の有無或いは程度を簡便に測定することが可能である。よって、本発明の浮腫の評価方法によれば、浮腫の程度を簡便に、かつ精度高く測定することができることから、精密な特殊装置を用いることなく、またいかなる場所においても短時間で簡単に浮腫の有無或いは程度を測定することが可能であるので、日常生活における健康管理や美容管理の指標に有用である。更には、疾患を伴う動物には、水の摂取乃至投与により浮腫が増幅されて発現するので、本発明の浮腫の評価方法によって疾患のモニタリングや、治療方針の指標とできる点でも有用である。 また、本発明の被験物質の抗浮腫作用の評価方法、或いは抗浮腫作用を有する物質のスクリーニング方法によれば、被験物質の抗浮腫作用の評価或いは抗浮腫作用を有する物質のスクリーニングを高い精度で、簡便に実施することができる。 以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例1 抗浮腫作用を有することが知られているユビデカレノン及びプロキシフィリンを用いて、以下の試験を行った。 30mg(ユビデカレノン)/10ml(オリーブ油)溶液、200mg(プロキシフィリン)/10ml(オリーブ油)溶液、及びオリーブ油を、各々10ml/マウス体重kgの割合で、一晩絶食したICR系マウス(雄 6週齢)に経口投与した(1群を12匹)。次いで、初回投与から18時間後に初回投与と同様に各種溶液を再度投与した。更に、6時間後(初回投与から24時間後)に、マウスに脱塩蒸留水を100ml/マウス体重kgの割合で腹腔内投与を行った。水投与によって誘発された浮腫の程度を評価するために、またユビデカレノン及びプロキシフィリンが浮腫の程度に及ぼす影響を評価するために、水投与直前及び水投与30分後の耳介厚を電子デジタルノギスを用いて測定し、1群12匹の平均値を求めた。また、併せて、水投与から30分間に排泄された尿を集め、尿量を測定して、その平均値を求めた。当該尿量は浮腫の消失の程度を示すものであり、尿量が多い程、抗浮腫作用が強いことを表している。当該尿量の変化は、浮腫の状態を測定・観察する指標として最も一般的に用いられているものである。 得られた結果を図1に示す。抗浮腫作用を有するユビデカレノン及びプロキシフィリンを投与したマウスでは、これらを投与していないマウスに比して、耳介厚が小さく、排泄される尿量も多いことが確認された。また、測定した耳介厚の増加量が小さい程、排出される尿量が多くなっており、耳介厚と尿量には相関関係があることが分かった。 よって、本試験結果から、水負荷によって耳介の厚さが変化し、耳介のサイズや弾力を測定することが水摂取乃至投与によって誘発される浮腫の程度を測定する方法として有用であることが明らかとなった。 また、水負荷浮腫測定方法を用いて、公知の代表的な抗浮腫剤(ユビデカレノン及びプロキシフィリン)の抗浮腫作用を評価した結果、水負荷によって誘発された耳介のサイズの変化と排泄された尿量の変化との間には相関関係が認められた。即ち、本試験結果から、水負荷によって誘発される浮腫測定方法を利用することにより、水負荷により誘発される浮腫のみならず、浮腫一般に対する被験物質の抗浮腫作用を評価できることが確認された。 つまり、被験物質をマウスに経口投与した後、該マウスを水負荷により浮腫を誘発させ、浮腫誘発前後の該マウスの耳介のサイズや弾力を測定することによって、被験物質の抗浮腫作用を評価できることが確認された。それ故、水負荷による浮腫の誘発と、それに伴う耳介のサイズや弾力の変化の測定を利用することによって、抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングすることが可能であることが確認された。実施例1における、各種溶液を投与した後に水負荷により浮腫の誘発を行ったマウスの耳介厚(μm)及び排泄された尿量(μl)を示す図である。哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定することを特徴とする、水の摂取乃至投与によって誘発される浮腫の評価方法。下記工程を含有する、被験物質の抗浮腫作用を評価する方法:(i)水を投与することによって哺乳動物に浮腫を誘発する工程、(ii)水投与前又は後に、被験物質を該哺乳動物に投与する工程、(iii)水投与前、及び水投与後且つ被験物質投与後に、該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定する工程、及び(iv)水投与前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水投与後且つ被験物質投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差に基づいて、被験物質の抗浮腫作用を評価する工程。工程(i)において、水の投与を腹腔内投与又は経口投与により行う、請求項2記載の被験物質の抗浮腫作用を評価する方法。下記工程を含有する、抗浮腫作用を有する物質をスクリーニングする方法:(i)水を投与することによって哺乳動物に浮腫を誘発する工程、(ii)水投与前又は後に、候補物質を該哺乳動物に投与する工程、(iii)水投与前、及び水投与後且つ候補物質投与後に、該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定する工程、及び(iv)水投与前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水投与後且つ候補物質投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差に基づいて、抗浮腫作用を有する候補物質を選択する工程。請求項4に記載のスクリーニング方法により選択される抗浮腫作用を有する物質を有効成分とする、抗浮腫剤。 【課題】簡便で精度の高い方法で浮腫の有無或いは程度を評価する方法、並びに簡便で精度の高い方法で被験物質の抗浮腫作用を評価する方法を提供することを目的とする。【解決手段】哺乳動物の耳介サイズを測定することを特徴とする、水の摂取乃至投与によって誘発される浮腫の評価方法。並びに、下記工程を含有する、被験物質の抗浮腫作用を評価する方法:(i)水を投与することによって哺乳動物に浮腫を誘発する工程、(ii)水投与前又は後に、被験物質を該哺乳動物に投与する工程、(iii)水投与前、及び水投与後且つ被験物質投与後に、該哺乳動物の耳介のサイズ又は弾力を測定する工程、及び(iv)水投与前の耳介のサイズ又は弾力の測定値と、水投与後且つ被験物質投与後の耳介のサイズ又は弾力の測定値との差に基づいて、被験物質の抗浮腫作用を評価する工程。【選択図】 なし