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タイトル:公開特許公報(A)_組織幹細胞採取方法及びそれを利用した装置
出願番号:2004134826
年次:2005
IPC分類:7,C12N5/06,C12M3/06,C12M3/08


特許情報キャッシュ

前田 和久 JP 2005287479 公開特許公報(A) 20051020 2004134826 20040331 組織幹細胞採取方法及びそれを利用した装置 前田 和久 503376909 前田 和久 7C12N5/06C12M3/06C12M3/08 JPC12N5/00 EC12M3/06C12M3/08 10 書面 11 1.テフロン 4B065 4B065AA90X 4B065AA93X 4B065BD14 4B065BD15 4B065BD18 4B065BD45 本発明は、生物学、医学等の分野における培養細胞を用いた組織幹細胞採取方法、及びそれを利用した装置に関する。 再生医療は、従来は不可能或いは困難と考えられてきたさまざまな疾病や外傷などで大きく損傷したり或いは失われた人体の細胞や組織を、元通りに修復し、その機能を回復させる画期的な医療として、現在大きな注目を受けており、その早期実用化が強く望まれている。しかし、ES細胞には医療への応用にいくつかの大きな技術的のみならず倫理的な問題点を克服する必要がある。一方、あらゆる臓器や組織の構成細胞には幹細胞が存在する可能性が示唆されており、それらの幹細胞を同定して自在に複製増殖し、応用することが期待されている。 なかでも脂肪組織は、発明者は脂肪組織中に幹細胞が存在し、非常に多くの蛋白質を分泌する極めて再生能力の高いと予想される組織であることを報告してきた(Maeda K、et al.、Gene.1997 May 6;190(2):227−35、前田和久 他 Annual Review 2004 内分泌、代謝p15−19)。加えて、脂肪吸引術自体は全世界でもっとも頻繁に行われる手術のひとつであり、脂肪採取時の合併症や本人への痛みも全くない理想的な組織摘出術である。 しかし、脂肪組織は採取してより後のハンドリングが極めて困難であり、これまで研究や臨床的な見地から扱われることがほとんどなく、革新的な技術が強く望まれていた。 そのような中、特開2002−80377号公報では、生体から採取した細胞浮遊液から不織布を用いて目的とする細胞を回収し、組織再生用細胞として利用する方法が開示されているが、この技術では骨髄液のような細胞が浮遊している系で利用されていること、また分離が開放系で利用されていること等から、さらに簡便な効率良い細胞採取方法の開発が強く望まれていた。 本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、従来技術と全く異なった発想からの新規な組織幹細胞採取方法を提供することを目的とする。また、本発明は、それを利用した装置を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、驚くべくことに、(1)脂肪吸引法に用いるシリンジそのものにフィルターを装置することにより効率よく混入した赤血球を洗浄除去しうる閉鎖系回路を確立し、(2)さらに閉鎖系回路自身を倒立させることにより浮遊せしめた成熟脂肪細胞から幹細胞の分離が行えることを発見した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。 すなわち、生体組織から穿刺針を用いて採取した組織片から特定の組織幹細胞を得る際、閉鎖系で(1)細孔径250〜300μmフィルターに通過させることで組織片から血球成分を除去する工程、(2)抗生物質を含有したリン酸緩衝液で洗浄する工程、(3)得られた組織片に酵素処理を施し細胞懸濁液とする工程、(4)比重の軽い細胞を浮かせることで目的の細胞と分離させる工程、(5)その目的の細胞の懸濁液を再び、細孔径250〜300μmフィルターを通過させる工程、(6)さらに細孔径8〜25μmフィルターに通過させる工程、遠心分離、及びまたは450〜500nmフィルターを通過させることで細胞懸濁液より目的の細胞を得る工程、を経ることを特徴とする組織幹細胞採取方法を提供する。 また、本発明は、その組織幹細胞採取方法を利用した組織幹細胞採取装置を提供する。 組織由来の幹細胞を臨床応用すること自体非常に新しい分野であるが、また、従来は仮に脂肪組織の扱いに慣れた者が一連の操作を行ったにしても、手術場から取り出した組織を清潔な容器などに保管して、クリーンベンチの整った実験室(現在の厚生省の考えではCPCが必須である)に持ち運び、細胞分離を行ってきた。従来の技術は、いわば心臓移植の際に心臓を移送するのと同じ程度の清潔度が必要であった。本発明は、この脂肪組織よりの脂肪採取を容易にし、血液などの混入物除去、脂肪細胞の分解、脂肪組織由来幹細胞の単離を一本のチューブで行いうるようにし、雑菌などのコンタミを全く起こらないようにする画期的な方法である。今後予想される、再生医療分野での組織よりの細胞抽出に本システムを用いれば、安全かつ清潔に組織幹細胞を抽出することが可能となる。さらに本システムを用いれば、移送手段や実験室での分離が容易となり、診療所レベルで細胞分離もできるようになる。 以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。 (用語の定義) 以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。 本明細書において「脂肪細胞」とは、脂肪の貯蔵組織の総称である。疎性結合組織のうち、特に脂肪の多いもの、皮下脂肪組織などがある。各脂肪細胞は格子繊維によって囲まれ,細胞間に毛細血管が密に分布し、脂肪体を形成することがおおい。本明細書では、どのような脂肪組織も供給源とすることができる。脂肪体は、他の組織から独立してほぼ一定した塊状もしくは房状の脂肪組織であり、脊椎動物では腎臓や生殖腺に接して腹腔内に存在する。白色、黄色または橙色をしていることが多い。 本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この組織片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。また、このような供給源をそのまま細胞として用いることもできる。 本発明において使用される細胞は、脂肪細胞またはその対応物がある限り、どの生物由来の細胞(例えば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)でも用いることができる。好ましくは、そのような細胞は、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。1つの実施形態では、霊長類(例えば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞、特にヒト由来の細胞が用いられるがそれに限定されない。 本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に始めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書においては使用される場合は、幹細胞は好ましくは間葉系幹細胞のような組織幹細胞であり得るが、状況に応じて胚性幹細胞も使用され得る。 本明細書において幹細胞というときは、幹細胞を少なくとも一定量含む組織集合物をさすことが理解される。したがって、本明細書では、幹細胞は、例えば、コラゲナーゼ処理して脂肪細胞から採取した幹細胞(実施例において使用される幹細胞など)を用いることができるがそれらに限定されない。 由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。 本明細書において「脂肪幹細胞」とは、脂肪組織に由来する幹細胞をいう。このような幹細胞の分離方法の一部は公知であり、例えば、脂肪幹細胞は、WO00/53795;WO03/022988;WO01/62901;Zuk,P.A.,et al.、Tissue Engineering,Vol.7,211−228、2001;Zuk,P.A.,et al.、Molecular Biologyof the Cell Vol.,13,4279−4295、2002などに記載される方法またはその改変を利用して調整することができる。具体的には例えば、(1)脂肪吸引物を分液漏斗を用いて生理食塩水で十分に洗浄し;(2)上層に脂肪吸引物、下層に生理食塩水が十分に分離したのを確認し、下層を捨てる。肉眼で見て生理食塩水がほぼ透明になるまでこれを繰り返し;(3)脂肪吸引物と同量の0.075%コラゲナーゼ/PBSを加え、37℃でよく攪拌しながら30分間インキュベートし;(4)上記の試料に等量の10%血清加DMEMを加え;(5)上記の試料を1200gで10分間遠心分離し;(6)ペレットにPBSを加えて懸濁し、室温で適宜(例えば、10〜l5分間)インキュベートし;(7)上記の試料を口径100μmのメッシュを用いて吸引ろ過し;および(8)ろ過物を1200gで5分間遠心分離することによって調整することができる。ここで、調整量に応じて、上記プロトコールをスケールアップまたはスケールダウンすることは、当業者の技術範囲内である その細胞マーカーとしては、例えば、CD4、CD13、CD34、CD36、CD49d、CD71、CD90、CD105、CD117、CD151;あるいは、CD105、CD73、CD29、CD44およびSca−1からなる群より選択される細胞表面マーカーが挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、間葉系幹細胞の表面抗原は、CD105(+)、CD73(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(−)、CD34(−)、CD45(−)であるとされており、少なくともこのいずれか一つ、好ましくはその2以上、より好ましくはそのすべての性質を示す細胞が本発明において使用される細胞として好ましいことが理解される。 本システムにより分離された幹細胞は多系統の細胞に分化するのみならず、現在その臨床応用が検討されている角膜シート再生培養のフィーダー細胞への応用も期待されている。なぜなら従来なら角膜細胞のフィーダーにはマウスの線維芽細胞が用いられていたが、本システムが実用化されると、自己の脂肪組織から容易に幹細胞すなわち線維芽細胞が分離できるため、自己細胞移植としても極めてニーズが高いと考えられる。 本明細書において「線維芽細胞」とは、支持組織の繊維成分を供給し、繊維性結合組織の重要な成分をなす細胞をいう。組織切片図では、扁平で長目の外形をもち、不規則な突起を示すことが多い。細胞質は、ミトコンドリア、ゴルジ体、中心体、小脂肪球などを含むが、そのほかに特殊な分化は示さない。核は楕円形をしており、しばしば膠原繊維に密接して存在する。脂肪組織から分離された線維芽細胞は、幹細胞をよく含むといわれている。 本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。本発明において用いられる場合、分化細胞は、集団または組織の形態であってもよい。 本発明の細胞は、細胞の維持または所望の分化細胞へ分化する限り、任意の培養液を用いることができる。そのような培養液としては、例えば、DMEM、P199、MEM、HBSS、Ham‘s F12、BME、RPMI1640、MCDB104、MCDB153(KGM)およびそれらの混合物などが挙げられるがそれらに限定されない。このような培養液には、デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、aFGF、bFGF、EGF、IGF、TGFβ、ECGF、BMP、PDGFなどの増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、ウシ胎仔血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、LIF、IL−2・IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレニウム、コレラトキシンなどを1つまたはその組み合わせとして含ませておいてもよい。 本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生態の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。 本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。 本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。 1つの実施形態において、本発明の再生治療法における培養の条件、および本発明において使用される所望の臓器、組織または細胞の一部またはそれに分化し得る幹細胞の培養の提供の条件は、その細胞、組織または臓器を培養するために通常用いられるものであれば、用いることができる。そのような培養条件の例としては、例えば、培養条件は通常、37℃、5%CO2を利用することができる。使用する培地もまた、任意のものを利用することができ、例えば、DMEM/Ham12(1:1)、10%FCS、インスリン・コレトキシンなどを含む培地を利用することができる。また、必要に応じて、分化因子(例えば、EGF(10ng/ml)を予め含めた培養液を使用してもよいがそれらに限定されない。 1つの好ましい実施形態において、本発明の方法における培養のために、分化因子を加えることができる。そのような分化因子としては、例えば、DNA脱メチル化剤(5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(トリコスタチンなど)、核内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA),ビタミンD3、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF、PDGF、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(LIF、IL−2、IL−6など)ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチオルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラボノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セシンなどが挙げられるが、それらに限定されない。角膜への分化には、EGFという分化因子を加えることができる。他の分化細胞についてもまた、本明細書において記載される任意の分化因子を使用することができる。 再生医療分野は数年後に数十兆円の規模になるといわれている。現在、自己細胞治療ソースとして、骨髄が最も頻繁に使われているが、他にも多くのヒト組織がこれに代替しうるソースとして名乗りを上げている。しかし、残念ながらこれら幹細胞ソースの多くは1)限られた体積しか有さない、2)何らかの痛みを伴う処置が必要、3)さらにこれらのソースから得られる幹細胞の産生量自体に限界がある。したがって理想的な幹細胞のソースとして求められるのは1)簡単に培養できるもの、2)豊富であるも、3)苦痛なく採取できることなどがあげられる。脂肪組織はこの条件を満たす最有力な組織と考えられる。 欧米においては美容整形外科の普及により多くの脂肪吸引術が行われており、通常、最低でも数リットル、多いときで数十リットルのヒト由来間葉系細胞を含んだ脂肪組織が取り除かれ、現在全世界において最も頻繁に行われる手術のひとつである。もちろん、この術式自体は人体から望まれない不要な脂肪組織を取り除くために行われたものであるが、実は細胞ベースのティッシューエンジニアリングには自己再生組織を培養する理想的な方法なのである。本法により分離された脂肪由来幹細胞は1)骨髄由来の間葉系細胞と違い成長に特別の血清等を必要としない。2)数回の継代後も安定した増殖能を有する。3)簡単に得られる。局所麻酔と最低限の処置で、数リットルから数ミリリットルまで簡単に手に入れることができる。4)250から500ミリリットルのLPAで100万個以上の細胞が通常得ることができる。5)さらに、遺伝子導入後も安定した多分化能を有している。 脂肪組織よりの再生医療ソースが確立した暁には、その簡便性から本システムの市場性は計り知れない。また骨髄バンクならぬ脂肪バンクが誕生し、例えば幼少年期に腹部より脂肪組織由来幹細胞を採取して壮年老年期の組織修復に備えるために蓄えておくことなどが簡単に行えるようになるかもしれない。 尚、本システムは研究段階から脂肪組織のみに用いてきたが、他の組織より幹細胞を分離することも可能である。加えて、幹細胞を必ずしもすぐに培養する必要がない場合は、そのまま保存することも可能である。逆に美容外科領域では、とりだした幹細胞のみを除去した脂肪部分に再注入することにより、健康的な脂肪吸引術(幹細胞を取らずに、脂肪のみが取り除くことができると言う意味で)を行うことも可能となる。 本発明は、生体組織から採取した組織片をまず、細孔径200〜300μmフィルターに通過させることで組織片から血液成分、及びその他の細胞、物質を除去するために実施する。その際、細孔径は200〜300μmが良く、好ましくは200〜280μm、さらに好ましくは250〜270μmが良い。200μm以下であると除去したいものを十分分けられず、逆に300μm以上であると目的とする細胞が通過してしまい効率良くなく好ましくない。フィルターの材質は特に制約されるものではないが、例えば通常使われるセルロース、テフロン、親水性テフロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。 本発明では、その後、得られた組織片に酵素処理を施し細胞懸濁液とする。その酵素とは特に限定されるものではないが、例えば通常使われるトリプシン、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、ペプシン等の蛋白質分解酵素が挙げられる。懸濁する方法も特に限定されるものでなく、常法に従えば良い。 本発明では、こうして得られた細胞懸濁液を再び、細孔径200〜300μmフィルターを通過させ目的外の細胞をろ別する。その際のフィルターは上述したものと同一のもので良い。 本発明では、さらに細孔径20〜40μmフィルターに通過させ、目的外の細胞をろ別する。その際、細孔径は20〜40μmが良く、好ましくは25〜35μm、さらに好ましくは25〜30μmが良い。20μm以下であると目的とする細胞を通過させられず、逆に40μm以上であると目的外の細胞が通過してしまい効率良くなく好ましくない。フィルターの材質は特に制約されるものではないが、例えば通常使われるセルロース、テフロン、親水性テフロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。 本発明では、こうして得られた細胞懸濁液から目的の細胞を得るものである。その際、細胞を濃縮する方法は特に限定されるものでなく、例えば遠心分離する方法、或いは400〜500nmフィルターを通過させる方法等が挙げられる。 本発明は、また、上述した方法に従う組織幹細胞採取装置も示す。その装置とは採取装置と分離装置からなり、その際、装置は閉鎖系であることが望ましい。 その採取装置とは、生体組織から組織を採取できるものなら、その形態、機構は特に制約されないが、例えば生体組織から組織片を採取する穿刺針と細孔径200〜300μmフィルターが装着された注射器様装置が簡便で持ち運びが容易であり好ましい。その際の装置の材質は特に限定されないが、通常利用されるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。 本発明の分離装置も目的とする細胞を回収させられるものであれば特に限定されないが、遠心分離菅様装置で開口側に細孔径200〜300μmフィルターが装着され、その下部に細孔径20〜40μmフィルターが装着されたものが簡便で持ち運びが容易であり好ましい。その際の装置の材質は特に限定されないが、通常利用されるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。 本発明の分離装置には、目的の細胞を回収するために上述した細孔径20〜40μmフィルターの下部にさらに細孔径400〜500nmフィルターを装着させても良い。その際、細孔径は400〜500μmが良く、好ましくは420〜480nm、さらに好ましくは450〜470nmが良い。400nm以下であると除去したいものを十分分けられず、逆に500nm以上であると目的とする細胞が通過してしまい効率良くなく好ましくない。フィルターの材質は特に制約されるものではないが、例えば通常使われるセルロース、テフロン、親水性テフロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。 本発明で示す技術を用いることで、ヒトの生体組織から組織幹細胞を簡便に得られるようになる。例えば、ヒト脂肪組織を対象とすれば種々の細胞へ分化できる脂肪組織幹細胞を得ることができる。こうして得られた幹細胞は遺伝子導入して再び体に戻すといった細胞遺伝子治療用細胞としても極めて有用なものである。 以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。 以下に示した実施例において使用した試薬は、特に言及しない限り和光純薬、Sigmaから得た。ヒトを対象とする場合は、厚生労働省の基準に従い、事前に同意を得た上で実験を行った。 (組織幹細胞を含む細胞の調整) 本実施例では、まず、本実験に対して同意を示したヒトから細胞を脂肪組織から調整した。局所麻酔(1%Eキシロカインを生食で4倍に希釈した液を使用)後、14G針を装着したテルモ社製50ccシリンジに約20ccの生理食塩水を装てんし、約20ccの脂肪吸引を行った。 採取した組織片を、図1に示すように、開放系バイオハザードキャビネット内にてクリーン度を保ちつつ、250μmフィルターに通過させることで組織片から液性成分を除去した。得られた物を生理食塩水で十分に洗浄した。肉眼で見て生理食塩水がほぼ透明になるまでこれを繰り返した。この実験例では、7回行った。 その後、得られた組織片に同量の0.075%コラゲナーゼ/PBS(Gibco)を加え、37℃でよく攪拌しながら1時間インキュベートし、その懸濁液を再び、細孔径250μmフィルターを通過させた。 ろ過液を室温で遠心分離し、上清を廃棄した。さらに沈査にDMEMを加えてピペットで懸濁して、さらに細孔径25μmフィルターに通過させ、遠心分離することで細胞懸濁液より目的とする組織幹細胞を採取した。 (組織幹細胞を含む細胞の分化) 次に、実施例1において調整した細胞中の細胞を初代培養し、継代培養した後に成熟脂肪細胞へと分化させた。具体的にはコンフルエントまで増殖させた組織幹細胞を含む細胞を脂肪細胞分化用培地で2日おきに処理した。分化開始日と2日目には、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、1μMトリグリタゾン、5μg/mlインスリンを含んだ 10% CCS−DMEM培地で処理した。4日目には、トリグリタゾンとインスリンを含んだ 10% CCS−DMEM培地で、6日目以降は、500ng/mlインスリンを含んだ 10% CCS−DMEM培地で処理した。得られた結果を図2を示す。 (組織幹細胞を含む細胞の脂肪以外の細胞への分化) 実施例1で用いた細胞群に対して、脂肪細胞以外の細胞に分化することを確かめた。神経細胞への分化は20%血清添加したDMEM培地に1mMのベータ・メルカプトエタノールを加えて24時間培養して、翌日、PBSで二回洗浄した後に血清無添加DMEM培地に5mMのベータ・メルカプトエタノールで培養した(Woodbury et al.,J Neurosci Res 61;364−370,2000)。 血管内皮への分化は実施例1で得られた細胞を抗PECAM−1抗体にて選択し、VEGFを含んだ培地で培養した。脂肪組織から得られた幹細胞をコラーゲンコートした培養皿の上でVEGF,FGF2,EGFを添加した培地で培養するとこの細胞群の一部が内皮細胞に分化した。別の報告では、この細胞群の3割がCD34陽性細胞、すなわち造血幹細胞(Hematopoietic Stem Cell)の特徴を持つこと、また平滑筋細胞のマーカーであるα−smooth muscle actine陽性細胞にも分化しうることが示されており血管再生に動員されうる細胞群と考えられる。またこの細胞群から血管内皮細胞増殖因子(VEGF)および肝細胞増殖因子(HGF)の分泌量は血管内皮および平滑筋細胞と比較しても極めて高い、血管内皮細胞との共培養系で、内皮細胞の増殖、遊走が有意に促進されることも明らかとなった。近年の骨髄細胞を用いた血管新生の機序として、間葉系幹細胞からの内皮増殖因子の分泌の寄与が重要であるという認識もなされており、いわゆる支持細胞としてもこの細胞群が機能しうることを示唆している。得られた結果を図2を示す。 (組織幹細胞を含む細胞への遺伝子導入) さらに実施例1の細胞に対して非ウイルスベクターのHVJ−E(センダイウイルス・エンヴェロープベクター、Mol Ther.2001)を用いての遺伝子導入に成功した。今回の発明であるシリンジを用いた採取単離装置では、最終段階の回収システムでHVJ−E(石原産業製GENOME−ONEなど)を用いて遺伝子導入キットを行うことも可能である。 但し、HVJ−Eはヒトへの臨床応用を前提に開発されており、毒性が低い分、導入効率とくに生体内in vivoへの有効性の報告が皆無の状態であった。本発明は一旦、脂肪幹細胞にin vitroで遺伝子導入した後、生体内にずばり自己由来の免疫拒絶されない細胞を注入しうることを提案するものであり、HVJ−E自身の欠点を補うものとしても有効である。 本発明に記載されている方法であれば、再生医療分野での組織よりの細胞抽出に本システムを用いれば、安全かつ清潔に組織幹細胞を抽出することが可能となる。さらに本システムを用いれば、移送手段や実験室での分離が容易となり、診療所レベルで細胞分離もできるようになる。従って本発明は医学、生物学等の分野におけるきわめて有用な発明である。 実施例1に示す操作を模式的に示した図である。実施例2、3に示す本発明に順ずる方法で単離された、脂肪組織幹細胞を含む細胞、及びそれらより分化誘導した、脂肪細胞、血管内皮細胞、神経細胞を示す図である。 生体組織から穿刺針を用いて採取した組織片から特定の組織幹細胞を得る際、閉鎖系で(1)細孔径200〜300μmフィルターに通過させることで組織片から血球成分を除去する工程、(2)抗生物質を含有したリン酸緩衝液で洗浄する工程、(3)得られた組織片に酵素処理を施し細胞懸濁液とする工程、(4)比重の軽い細胞を浮かせることで目的の細胞と分離させる工程、(5)その目的の細胞の懸濁液を再び、細孔径250〜300μmフィルターを通過させる工程、(6)さらに細孔径20〜40μmフィルターに通過させる工程、(7)遠心分離、及びまたは400〜500nmフィルターを通過させることで細胞懸濁液より目的の細胞を得る工程、を経ることを特徴とする組織幹細胞採取方法。 生体組織が脂肪組織、肝臓、筋肉である、請求項1記載の組織幹細胞採取方法。 特定の組織幹細胞が脂肪組織幹細胞である、請求項1、2いずれか1項記載の組織幹細胞採取方法。 細胞がヒトのものである、請求項1〜3いずれか1項記載の組織幹細胞採取方法。 請求項1〜4の組織幹細胞採取方法に従う、組織幹細胞採取装置。 装置が採取装置と分離装置からなる請求項5記載の組織幹細胞採取装置。 採取装置が生体組織から組織片を採取する穿刺針と細細孔径200〜300μmフィルターが装着された注射器様装置である、請求項6記載の組織幹細胞採取装置。 分離装置が遠心分離菅の開口側に細孔径200〜300μmフィルターが装着され、その下部に細孔径20〜40μmフィルターが装着され、さらにその下部に細孔径400〜500nmフィルターが装着されたものである請求項6記載の組織幹細胞採取装置。 生体組織の脂肪細胞から脂肪組織幹細胞を採取することを目的とした請求項5〜8いずれか1項記載の組織幹細胞採取装置。 細胞がヒトのものである、請求項5〜9いずれか1項記載の組織幹細胞採取装置。 【課題】簡便な組織幹細胞採取方法を提供すること。【解決手段】生体組織から穿刺針を用いて採取した組織片から特定の組織幹細胞を得る際、閉鎖系で(1)細孔径200〜300μmフィルターに通過させることで組織片から血球成分を除去する工程、(2)抗生物質を含有したリン酸緩衝液で洗浄する工程、(3)得られた組織片に酵素処理を施し細胞懸濁液とする工程、(4)比重の軽い細胞を浮かせることで目的の細胞と分離させる工程、(5)その目的の細胞の懸濁液を再び、細孔径250〜300μmフィルターを通過させる工程、(6)さらに細孔径20〜40μmフィルターに通過させる工程、(7)遠心分離、及びまたは400〜500nmフィルターを通過させることで細胞懸濁液より目的の細胞を得る工程、を経ること。【選択図】 なし


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