タイトル: | 公開特許公報(A)_擬似腋臭組成物 |
出願番号: | 2004116416 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,G01N33/50 |
矢吹 雅之 長谷川 義博 JP 2005062159 公開特許公報(A) 20050310 2004116416 20040412 擬似腋臭組成物 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 的場 ひろみ 100101317 矢吹 雅之 長谷川 義博 JP 2003277190 20030718 JP 2003280496 20030725 7G01N33/50 JPG01N33/50 F 10 OL 26 2G045 2G045AA40 2G045CB12 2G045DA80 2G045FB06 本発明は、ヒトの腋臭を正確に再現することができ、腋臭のマスキング又は消臭効果等の評価に用い得る擬似腋臭組成物に関する。 近年、清潔志向の高まりに伴い、体臭を気にする人が増えている。体臭は全身の各部から発生するニオイの総称であり、主要な発生部位としては頭部、口腔、腋窩部、鼠径部、足の裏等がある。その中でも、腋臭(腋窩部のニオイ)は、全身的な体臭へ与える影響が大きく、本人又はそばに居る人に感知され易い。そのため、本人又はそばに居る人にとって、腋臭そのものが気になる場合が多い。 腋臭は、酸っぱくて蒸れたニオイと、腋窩部に特有のニオイとからなる。酸っぱくて蒸れたニオイは、エクリン汗腺から分泌されたエクリン汗や垢などが皮膚常在菌によって分解されて発生する。このニオイは、炭素数2〜5の低級カルボン酸に起因するものであり、低級脂肪酸臭、又は単に酸臭と呼ばれる。腋窩部特有のニオイは、アポクリン汗腺から分泌された、たんぱく質やコレステロールを豊富に含むアポクリン汗が皮膚常在菌によって分解されて発生し、アポクリン臭、又は「わきが」などと呼ばれている(以下、アポクリン臭と呼ぶ)。 このように、腋臭は、酸臭とアポクリン臭とからなる臭気であるが、アポクリン臭の有無やその程度は、人種や年齢、性別などによる個人差が大きい。従って、腋窩部におけるアポクリン臭の寄与の割合の違いが、腋臭の個人差に影響しており、ヒトの腋窩部のニオイのタイプは、酸臭よりもアポクリン臭が強いタイプ(以下、アポクリン臭タイプとも言う)と、アポクリン臭よりも酸臭が強いタイプ(以下、酸臭タイプとも言う)等に分類することができる。 これまで、腋窩部から発生する臭いのマスキング又は消臭を意図した製品開発が多く検討されてきた。このようなマスキング又は消臭は、製品開発上、製品の魅力を引き上げるために重要な役割を果たしている。従来、斯かる臭いのマスキングや消臭効果等の評価の多くは、マスキング剤や消臭剤を直接人間に適用することにより行われてきた。また、従来、衣類用洗剤等の洗浄剤のニオイ汚れに対する洗浄効果等の評価の多くは、実際に人間が着用した衣類に対して行われてきた。しかしながら、これらの方法では、評価試験が長時間にわたる場合、被験者にストレスを与え、疲労の原因の一つになる。また、それが原因で、通常とは異なる生理的な現象が起こることや、パネルのその日の体調によって評価の誤差が生じるなどの問題点があり、正しい評価の妨げになるとともに、簡単に実施できる方法ではなかった。 マスキングや消臭効果を簡易に評価できる手段として、実際のヒトの腋臭をより正確に再現できる擬似腋臭があれば、直接人間に適用する試験を行なう前に、当該擬似腋臭を使ってマスキング又は消臭の評価ができ、試験の負担軽減になる。 非特許文献1には、わきの下には、わきの下に特徴的なニオイ成分として、trans−3−メチル−2−ヘキセン酸、7−オクテン酸等の脂肪酸が存在している旨の記載がある。また、アポクリン汗腺から分泌される汗に含まれる、尿様の匂いを持つアンドロステノン(5α−16−アンドロステン−3−オン)、ムスク様のアンドロステノール(5α−16−アンドロステン−3α−オール、または、5α−16−アンドロステン−3β−オール)、アンドロスタジエノン(4,16−アンドロスタジエン−3−オン)等の有臭ステロイドも腋臭の原因である旨の記載がある。 特許文献1には、3位にメルカプト基を有するアルコール化合物(以下、3−メルカプトアルコール化合物とも言う)として3−メルカプト−3−メチル−ヘキサン−1−オール及び3−メルカプト−2−メチル−ブタン−1−オールが開示されている。これらは、フレーバーリング成分として用いることができ、3−メルカプト−3−メチル−ヘキサン−1−オールは、S体が草様、田舎風の匂い、R体がグレープフルーツ/パッションフルーツ、スグリ、玉葱様の匂いを有し、3−メルカプト−2−メチル−ブタン−1−オールは草様、リーキ(Leeky)様及びガス様の特徴を有すると記載されている。 特許文献2には、特定のβ−ヒドロキシカルボン酸又はその塩をアニマル系香料の素材として用いることが記載されている。特開2001−2634号公報特開平10−25265号公報「味とにおいの分子認識」, 化学総説 No.40, 1999年, p.205-211 しかしながら、上記特許文献1に記載されているような3−メルカプトアルコール化合物と、ヒトの腋臭との関係については、これまで知られておらず、特にアポクリン臭の主要原因物質としては認知されていなかった。また、前記3−メルカプトアルコール化合物を他の腋臭原因物質と混合した際の臭気特性(ニオイの質や強さ等)も知られていなかった。そのため、これまで、ヒトの体臭、特に腋臭のマスキング又は消臭試験を行うために好適な擬似腋臭組成物を調製することができなかった。 そこで、本発明は、腋臭のマスキング及び消臭評価を簡便・的確に行うことを可能とする擬似腋臭組成物、及びこれを用いた腋臭のマスキング又は消臭効果の評価方法を提供する。 本発明者らは、ヒトの腋窩部から認められるアポクリン臭が、主に、硫黄様で生臭いニオイと、クミン油様でスパイシーなニオイとから構成されているという知見を得た。また、硫黄様で生臭いアポクリン臭の主要原因物質は、硫黄様で生臭く動物的なニオイを有する特定の3−メルカプトアルコール化合物であるという知見を得た。 そして、本発明者らは、上記の知見に基づき、アポクリン臭の主要原因物質の一つである特定の3−メルカプトアルコール化合物又はこの化合物に臭気特性が近い近縁化合物群の中から選ばれる少なくとも一種を用いて、腋臭、特に、硫黄様で生臭いアポクリン臭を正確に再現できる擬似腋臭組成物を得ることができた。 すなわち、本発明に係る擬似腋臭組成物は、(A)下記式(1)で表される、3−メルカプトアルコール化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することができる。(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1乃至5のアルキル基、R3は水素原子又はメチル基であり、式(1)の総炭素数が10以下である。) また、本発明者らは、クミン油様でスパイシーなアポクリン臭の主要原因物質は、クミン油様でスパイシーで動物的なニオイを有する特定のβ−ヒドロキシカルボン酸化合物であるという知見を得た。この知見に基づき、本発明者らは、前記3−メルカプトアルコール化合物と、前記β−ヒドロキシカルボン酸化合物とを組み合わせ、様々なタイプのアポクリン臭(硫黄様で生臭いアポクリン臭と、クミン油様でスパイシーなアポクリン臭)をより正確に再現できる擬似腋臭組成物を得ることができた。 すなわち、成分(A)に加えて、成分(B)下記式(2)で表されるβ−ヒドロキシカルボン酸化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することができる。また、成分(A)と成分(B)の配合量を調節することにより、様々なタイプのアポクリン臭をより正確に再現することができる。(式中、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数1乃至5のアルキル基、R6は水素原子又はメチル基であり、式(2)の総炭素数が10以下である。) さらに、これらの化合物と従来から知られている腋臭原因物質とを適宜組み合わせ、様々なタイプの腋臭をより正確に再現できる擬似腋臭組成物を得ることができた。すなわち、擬似腋臭組成物には、さらに、(C)酢酸及び/又はプロピオン酸と(D)イソ吉草酸の一方又は両方を含む擬似腋臭組成物を含むことができ、様々なタイプの腋臭を正確に再現できる。そして、前記の擬似腋臭組成物を用いることで、ヒトの体臭、特に腋臭のマスキング又は消臭試験をより正確でかつ簡便・的確に行うことができる。 また、本発明に係る擬似腋臭組成物には、さらに、様々なタイプの腋臭をより正確に再現するために、(E)酪酸及び/又はイソ酪酸を含ませることができ、(F)3−メチル−2−ヘキセン酸及び/又は7−オクテン酸をさらに含めることができ、或いは、(G)アンドロステノン(5α−16−アンドロステン−3−オン)及び/又はアンドロステノール(5α−16−アンドロステン−3α−オール、または、5α−16−アンドロステン−3β−オール)をさらに含めることもできる。 そして、上記本発明の擬似腋臭組成物を利用して、ヒトの体臭、特にアポクリン臭が含まれるタイプの腋臭に対するマスキング又は消臭効果を、簡易かつ的確に評価でき、前記マスキング又は消臭効果を有する物質を効率よくスクリーニングできる。また、ターゲットとする腋臭のタイプに応じて、前記製品の消臭及びマスキング効果を正確に評価することができる。従って、香粧品製品、環境衛生製品、家庭用品等の製品開発・検討を行う際に好適に用いられる。体臭の制御を意図した、マスキング香料、デオドランド剤、空間消臭剤、衣料用洗浄剤等の開発検討を行う際には、特に好適に用いられる。 本発明によれば、人間の腋窩部から発せられる様々なタイプの腋臭を正確に再現することができる。そして、本発明にかかる擬似腋臭組成物を用いれば、様々なタイプの腋臭の消臭又はマスキングを意図した製品開発をより正確、迅速、簡便、かつ、低コストに行うことが可能になる。 また、本発明にかかる擬似腋臭組成物を用いれば、人体による直接評価の負担を軽減でき、その観点においても、製品開発の迅速化、簡便化、低コスト化に貢献する。従って、体臭・腋臭防止関連製品の開発に多大な貢献をもたらす。 本発明者らによってヒトの腋窩部の汗中から発見された前記の3−メルカプトアルコール化合物とアポクリン臭とは以下のような関係がある。 (1)腋窩部の汗から3−メルカプトアルコール化合物が検出される人はアポクリン臭を持っている(図1)。一方、腋窩部の汗から3−メルカプトアルコール化合物が検出されない人はアポクリン臭を持っていない(図2)。また、3−メルカプトアルコール化合物は、硫黄様の生臭いアポクリン臭が強い人の腋窩部の汗から比較的多量に検出され、腋窩部の汗に含まれる3−メルカプトアルコール化合物の量が多い人ほど、アポクリン臭が強い。 (2)アポクリン臭を持っている人の場合は、インキュベーションによって腋窩部の汗に含まれる3−メルカプトアルコール化合物の量が増加する(図3)。一方、腋窩部の汗をインキュベーションしても3−メルカプトアルコール化合物が検出されない人はアポクリン臭を持っていない(図4)。すなわち、3−メルカプトアルコール化合物は、アポクリン臭のある人の汗をインキュベーションすることで特異的に増加するものである。 (3)人の腋窩部の汗に含まれる3−メルカプトアルコール化合物としては、特に3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの量が比較的多い(図3)。 (4)アポクリン臭のある人の腋窩部の汗に含まれる3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールは、(S)−3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール約72質量%と(R)−3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール約28質量%とからなる光学活性物質である(図5)。 また、本発明者らによってヒトの腋窩部の汗中から発見された前記のβ−ヒドロキシカルボン酸化合物とアポクリン臭とは以下のような関係がある。(1)腋窩部の汗から3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸に代表されるβ−ヒドロキシカルボン酸化合物が検出される人はアポクリン臭を持っている(図6)。一方、腋窩部の汗からβ−ヒドロキシカルボン酸化合物が検出されない人はアポクリン臭を持っていない(図7)。(2)β−ヒドロキシカルボン酸化合物は、クミン油様のスパイシーなアポクリン臭が強い人の腋窩部の汗から比較的多量に検出され、腋窩部の汗に含まれるβ−ヒドロキシカルボン酸化合物の量が多い人ほど、アポクリン臭が強い(図8)、(3)アポクリン臭のある人の腋窩部の汗から比較的多く検出される3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸は、(S)−3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸約72質量%と(R)−3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸約28質量%とからなる光学活性物質である(図9)。 このように、3−メルカプトアルコール化合物及びβ−ヒドロキシカルボン酸化合物は、アポクリン臭の主要な原因物質であり、腋窩部におけるこれらの化合物の存在量が、腋臭の程度(強さ)及び個人差(タイプ)を形成するものとなっている。 3−メルカプトアルコール化合物は公知の化合物であり、例えば、特許文献1には3−メルカプトアルコール化合物をフレーバーリング成分として用いることが記載されている。しかし、3−メルカプトアルコール化合物と人間の体臭との関係は今まで報告されたことがなく、特定の3−メルカプトアルコール化合物が体臭、特に腋窩部におけるアポクリン臭の主要な原因物質であるという事実は、本発明者らが初めて発見した。 以上の発見に基づき、本発明においては、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール及びこれに化学構造上極めて類似の化合物群である3−メルカプトアルコール化合物を用いることによって、実際のアポクリン臭に近い臭いを持つ擬似腋臭組成物を調製することを可能にした。また、前記3−メルカプトアルコール化合物と、3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸及びこれに化学構造上極めて類似の化合物群であるβ−ヒドロキシカルボン酸化合物を組み合わせることによって、実際のアポクリン臭に極めて近い臭いを持つ擬似腋臭組成物を調製することを可能にした。 本発明の成分(A)、すなわち、下記式(1)で表される3−メルカプトアルコール化合物(3位にチオール基を有するアルコール化合物とも言う)は、硫黄様の生臭いニオイを持つ、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール、3−メルカプトヘキサン−1−オール、3−メルカプトペンタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルブタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルペンタン−1−オール及びこれらに化学構造上類似する化合物群であってもよい。(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1乃至5のアルキル基、R3は水素原子又はメチル基であり、式(1)の総炭素数が10以下である。) 3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール、3−メルカプトヘキサン−1−オール、3−メルカプトペンタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルブタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルペンタン−1−オールは下記式(1a)〜(1e)で表される。 3−メルカプトアルコール化合物は、該化合物群の中で汗に比較的多く含まれる3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの性質に近いほど擬似腋臭組成物として使い易いと考えられることから、その化学構造を3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールに近づけることが好ましい。 かかる観点から、上記化学式(1)において、R1は水素原子又はメチル基の中でも、メチル基であることが好ましい。また、R2は炭素数1乃至5のアルキル基であり、炭素数1乃至5のアルキル基は直鎖又は分岐アルキルのいずれであっても良く、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチルを挙げることができるが、中でもR2の炭素数は2又は3、特に3であることが好ましい。また、R3は水素原子又はメチル基であるが、中でも水素原子であることが好ましい。 3−メルカプトアルコール化合物の中でも、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール、3−メルカプトヘキサン−1−オール、3−メルカプトペンタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルブタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルペンタン−1−オールが好ましく、中でも、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールは、腋窩部の汗に比較的多く含まれているので、腋臭の再現性を高める点で特に適している。 3−メルカプトアルコール化合物は、例えば下記反応式(4)に従って合成可能である。すなわち、α位に不飽和構造を有する脂肪酸エステル誘導体(a)を準備し、誘導体(a)のカルボニル炭素より3位にチオエーテル基としてベンジルメルカプタン等を付加導入して誘導体(b)とし、その誘導体(b)を水素化リチウムアルミニウム等の還元剤を用いて還元、エステル基をアルコール基に変換して誘導体(c)とする。引き続いて、バーチ還元によりチオエーテル基をメルカプト基に誘導することにより3−メルカプトアルコール化合物を合成することができる。(式中、R1、R2、及びR3は、上記式(1)と同じであり、R6はベンジル基、R7はアルキル基である。) 3−メルカプトアルコール化合物として、不斉炭素原子に由来する複数の鏡像異性体が存在する3−メルカプトアルコール化合物を用いる場合には、ラセミ混合物として合成し、そのまま用いてもよいし、ラセミ混合物を光学分割した後に用いてもよい。また、不斉合成により両鏡像異性体を直接作り分けて用いても良い。 3−メルカプトアルコール化合物から、光学分割物を得る具体的な方法としては、例えば、前記によって得られた3位にチオエーテル基としてベンジルメルカプタン等が導入された誘導体をラクトースやセルロース誘導体、ポリアクリルアミド誘導体等のキラルな固定相を用いた分取用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等に供して、光学分割物を得た後、バーチ還元によりチオエーテル基をメルカプト基に誘導する方法等が挙げられる。また、3−メルカプトアルコール化合物の鏡像異性体を直接合成する方法としては、不斉触媒(遷移金属錯体等)を利用した不斉合成反応を利用する方法が挙げられる。 特に、3−メルカプトアルコール化合物として3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールを用いる場合は、実際の汗に含まれる3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの鏡像異性体の構成比率に近い光学活性物質を用いれば、腋臭の再現性をさらに高めることができる。かかる観点から、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールは、S体:R体が40:60〜90:10であってもよく、好ましくはS体:R体が50:90〜50:10の比率であり、S体:R体が50:80〜50:20であることがさらに好ましい。また、S体を40〜90質量%、R体を10〜60質量%の範囲で含有することができ、好ましくはS体が50〜90質量%、R体が10〜50質量%を含有することができ、特にS体が50〜80質量%、R体が20〜50質量%を含有することが好ましい。 本発明において、成分(A)は、擬似腋臭組成物の全組成中に0.000001〜10質量%含有することができ、好ましくは、0.00001〜5質量%であり、特に、0.0001〜1質量%の範囲で配合することが好ましい。 成分(B)、すなわち下記式(2)で表されるβ−ヒドロキシカルボン酸化合物は、クミン油様のスパイシーなアポクリン臭を持つ、3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸及びこれに化学構造上極めて類似の化合物群である。なお、3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸は下記式(3)で表される。(式中、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数1乃至5のアルキル基、R6は水素原子又はメチル基であり、式(2)の総炭素数が10以下である。) β−ヒドロキシカルボン酸化合物は、該化合物群の中で汗に比較的多く含まれる3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸の性質に近いほど、擬似腋臭組成物として使い易いので、その化学構造を3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸に近づけることが好ましい。 かかる観点から、上記化学式(2)において、R4は水素原子又はメチル基の中でも、メチル基であることが好ましい。また、R5は炭素数1乃至5のアルキル基であり、炭素数1乃至5のアルキル基は直鎖又は分岐アルキルのいずれであっても良く、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチルを挙げることができるが、中でもR5の炭素数は2又は3、特に3であることが好ましい。また、R6は水素原子又はメチル基であるが、中でも水素原子であることが好ましい。 β−ヒドロキシカルボン酸化合物は、例えば下記反応式(5)に従って、レフォルマツキー反応〔Reformatsky Reaction; Ber. 20, 1210(1887), J. Russ. Phys. Chem. Soc., 22, 44(1890)〕によりβ位にヒドロキシル基を持つエステルを合成し、そのエステルを加水分解することにより合成することができる。(式中、R4、R5、及びR6は、前記と同じであり、Xはハロゲン原子である。) β−ヒドロキシカルボン酸化合物として、不斉炭素原子に由来する複数の鏡像異性体が存在するβ−ヒドロキシカルボン酸化合物を用いる場合には、ラセミ混合物として合成し、そのまま用いてもよいし、ラセミ混合物を光学分割した後に用いてもよい。また、不斉合成により両鏡像異性体を直接作り分けて用いても良い。 β−ヒドロキシカルボン酸化合物から、光学分割物を得る具体的な方法としては、例えば、前記の方法によって得られたβ位にヒドロキシル基を持つβ−ヒドロキシカルボン酸エステルをラクトースやセルロース誘導体、ポリアクリルアミド誘導体等のキラルな固定相を用いた分取用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等に供して、光学分割物を得た後、加水分解する方法等が挙げられる。また、β−ヒドロキシカルボン酸化合物の鏡像異性体を直接合成する方法としては、不斉触媒(遷移金属錯体等)を利用した不斉合成反応を利用する方法が挙げられる。 特に、β−ヒドロキシカルボン酸化合物として3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸を用いる場合は、実際の汗に含まれる3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸の鏡像異性体の構成比率に近い光学活性物質を用いれば、腋臭の再現性を高めることができる。かかる観点から、3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸は、S体を40〜90質量%、R体を10〜60質量%の範囲で含有することができ、好ましくはS体が50〜90質量%、R体が10〜50質量%の範囲であり、特にS体が50〜80質量%、R体が20〜50質量%の範囲であることが好ましい。 本発明において、成分(B)は、擬似腋臭組成物の全組成中に0.000001〜10質量%含有することができ、好ましくは、0.00001〜5質量%であり、特に、0.0001〜1質量%の範囲で配合することが好ましい。 また、アポクリン臭にも個人差があり、硫黄様で、生臭いタイプのアポクリン臭と、クミン油様でスパイシーなタイプのアポクリン臭とに大別することができるが、上記成分(A)及び成分(B)の配合割合を調節することにより、どちらのタイプのアポクリン臭についても、極めて正確に再現することができる。 本発明の擬似腋臭組成物には、再現したいタイプの腋臭を調整するために、成分(A)、又は成分(A)及び成分(B)に加え、他の腋臭原因物質又は臭気成分を適宜選び、配合することができる。成分(A)、又は成分(A)及び(B)に組み合わせるのに適切な腋臭原因物質としては、例えば、(C)酢酸及び/又はプロピオン酸と、(D)イソ吉草酸とが好適に用いられる。成分(C)と成分(D)は酸臭の原因物質であり、成分(A)、又は成分(A)及び(B)に成分(C)又は(D)の一方又は両方を組み合わせることにより、擬似腋臭組成物に様々な強さ又は質の酸臭を付加することができるので、腋臭の再現性の点から好ましい。 酸臭の原因物質としては成分(C)、成分(D)のほか、(E)酪酸及び/又はイソ酪酸がある。酸臭の再現性の点から、成分(A)、又は成分(A)及び(B)に加え、成分(C)、(D)及び(E)の適量を組み合わせて用いることが、さらに好ましい。 成分(C)として示される酢酸及び/又はプロピオン酸は、擬似腋臭組成物の全組成中にそれぞれ、0.0001〜30質量%含有することができ、好ましくは0.0001〜20質量%の範囲であり、特に0.001〜10質量%の範囲で配合することが好ましい。 成分(D)のイソ吉草酸は、擬似腋臭組成物の全組成中に0.000001〜5質量%含有することができ、好ましくは、0.000001〜2質量%の範囲であり、特に0.00001〜1質量%の範囲で配合することが好ましい。 成分(E)として示される酪酸及び/又はイソ酪酸は、擬似腋臭組成物の全組成中にそれぞれ、0.000001〜10質量%配合することができ、好ましくは、0.00001〜5質量%の範囲であり、特に0.00001〜1質量%の範囲で配合することが好ましい。 アポクリン臭の原因物質としては成分(A)、成分(B)のほか、(F)3−メチル−2−ヘキセン酸及び/又は7−オクテン酸、(G)アンドロステノン及び/又はアンドロステノールがある。アポクリン臭の再現性の点から、成分(A)、(B)、(C)、(D)、(E)に加え、成分(F)及び/又は(G)の適量を組み合わせて用いてもよい。 成分(F)として示される3−メチル−2−ヘキセン酸及び/又は7−オクテン酸は、腋臭中のアポクリン臭成分の一つであり、擬似腋臭組成物の全組成中にそれぞれ、0.000001〜20質量%、好ましくは0.00001〜10質量%配合することができ、特に0.0001〜5質量%の範囲で配合することが好ましい。 成分(G)として示されるアンドロステノン及び/又はアンドロステノールは、腋臭中のアポクリン臭成分の一つであり、擬似腋臭組成物の全組成中にそれぞれ、0.000001〜30質量%、好ましくは0.00001〜20質量%配合することができ、特に0.0001〜10質量%の範囲で配合することが好ましい。 さらに、本発明の擬似腋臭組成物には、腋臭組成物の濃度を調整する目的、あるいは、各成分を混合する際の作業性の観点から、溶剤を使用することができる。斯かる溶剤としては、臭気への影響が少ないものであれば特に限定されるわけではないが、ミネラルオイル、エタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプロピルミリステート、トリエチルシトレート、ソルビット(70%水溶液)、流動パラフィン、及びジエチルフタレート等が好ましく、擬似汗臭組成物の粘度や可溶化の点を考慮すれば、エチルアルコール、ジエチルフタレート、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチルシトレートが特に好ましく、無臭に近いという点では、ミネラルオイル、ジプロピレングリコール及びジエチルフタレートが特に好ましい。これらの溶剤を用いたときの腋臭組成物の濃度は0.000001質量%から1質量%の範囲が好ましく、実際の腋臭に近いニオイの強さが得られる。 上記成分(A)及び成分(B)はアポクリン臭への寄与が大きく、成分(C)、(D)及び(E)は酸臭への寄与が大きいことから、これらの成分を、配合比を適宜変えて混合し、さらに必要に応じて成分(F)、(G)等のその他の腋臭成分を、その配合比を適宜変えて混合し、溶剤で濃度を調節することによって、様々なタイプの腋臭を再現することができる。 調製された擬似腋臭組成物は、実際に存在する様々な腋臭をより正確に再現されたものであることから、腋臭のマスキング又は消臭効果を的確且つ簡易に評価でき、腋臭に対してそのニオイのマスキング作用又は消臭作用を有する物質を効率良くスクリーニングすることができる。 本発明の擬似腋臭組成物を用いた、腋臭のマスキング又は消臭効果の評価は、例えば、本発明の擬似腋臭組成物に、マスキング又は消臭効果が期待される被検体を加えるか、或いは、擬似腋臭組成物と被検体とを接触させてニオイを嗅ぎ、被検体を作用させる前の擬似腋臭組成物のニオイと比較することにより行うことができる。直接人体に適用しない方法としては、カップを用いる方法が挙げられ、ニオイの評価にあたっては、1〜20人の専門パネラーにより行うのが好ましく、3〜10段階で評価するのが好ましい。 また、上記のような官能試験によらず、擬似腋臭組成物に被検体を作用させた後に、擬似腋臭組成物中の各ニオイ成分をGC−MS等の化学的及び/又は物理的手法により分析し、被検体を作用させる前の擬似腋臭組成物の分析結果と比較することにより、腋臭のマスキング又は消臭効果を評価してもよい。1.3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの合成例 公知の方法により合成された3−ベンジルスルファニル−3−メチルヘキサン−1−オールのラセミ混合物を原料とし、キラルカラムを装着した高速液体クロマトグラフィーを用いて、光学的に純粋(>98%ee)な3−ベンジルスルファニル−3−メチルヘキサン−1−オールの両鏡像異性体(各1.1g)を得た。 光学的に純粋な3−ベンジルスルファニル−3−メチルヘキサン−1−オール1.1g(4.59mmol)が溶解したジエチルエーテル12mL中に、約15mLのNH3を−78℃で加えた。次いで反応混合物が20分以上青色を維持するまで金属ナトリウムの小片(約0.23g)を加えた。約1時間攪拌した後、一夜放置して温度を室温まで上昇させ、少量のエチルアルコールを加えた。次いで混合物を1N−HCl水溶液で酸性にした後エーテルで抽出(20mL×3回)した。有機層を合わせて、無水硫酸ナトリウムで脱水した。ロータリーエバポレーターを使って溶剤を留去した後、真空中で乾燥し、淡黄色液体を得た。この反応生成物には、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの光学活性体が含有されていた((R)体:収量533mg,収率78.2%、(S)体:収量564mg,収率82.8%)。なお、両鏡像異性体の絶対配置は、特許文献1に記載の旋光性記号と照合することによって決定した。2.3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸の合成例 窒素気流下、冷却管を取り付けた3口フラスコに亜鉛粉末13.08g(和光純薬工業)、脱水テトラヒドロフラン(和光純薬工業)50mL、2−ペンタノン21.25mL(東京化成工業)を加えた。攪拌しながらブロモ酢酸ベンジル31.60mL(東京化成工業)を添加した。フラスコを50℃の水浴中に入れて、激しく攪拌しながら8時間反応させた。反応液を1Lの三角フラスコに移した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液20mLを加えて良くかき混ぜた。無水硫酸ナトリウムを加えて水分を吸収させた後、ろ紙でろ過して、3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸ベンジルエステルを得た。得られた3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸ベンジルエステルのラセミ混合物を原料とし、キラルカラムを装着した高速液体クロマトグラフィーを用いて、光学的に純粋(>98%ee)な3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸ベンジルエステルの両鏡像異性体(各1.4g)を得た。 光学的に純粋な3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸ベンジルエステル1.4gにエタノール1.4g、1N−水酸化ナトリウム水溶液5.94gを加えて2時間攪拌した。ジクロロメタンでベンジルアルコールを抽出(20mL×5回)した後、1N−塩酸水溶液を加えて、水層を酸性化した。ジクロロメタンで遊離してきた3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸を抽出(20mL×3回)した。溶媒を留去して、3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸の両鏡像異性体を得た((+)体:収量813mg,収率94.0%、(−)体:収量757mg,収率87.5%)。なお、両鏡像異性体の旋光性は、Polax−D(アタゴ(株))により測定した。3.アポクリン臭の主要原因成分の分析実験(1)被験者のスクリーニング 健康な日本人男性65名を無作為に被験者として選び、新品の綿製白色Tシャツを24時間連続して着用してもらった。Tシャツを回収した後、腋窩部に当たる部分について5人の専門パネラー(男性3名、女性2名)によって腋臭の質と強さを官能評価した。<ニオイの評価項目> 酸臭(低級脂肪酸臭):酸っぱくて、腐敗したようなニオイ。 硫黄様のアポクリン臭:生臭く、しょうゆ、グレープフルーツ様のニオイ。 クミン油様のアポクリン臭:スパイシー、ウッディなニオイ。<ニオイ強度の評価基準> 0:匂わない。 1:かすかに匂う。 2:弱く匂う。 3:匂う。 4:やや強く匂う。 5:かなり強く匂う。 その結果、腋臭がほとんど認められない(ニオイ強度がいずれも1以下)人が28人(以下、A群と呼ぶ)、弱い腋臭が認められた(ニオイ強度の最大スコアが2又は3)人が21人(以下、B群と呼ぶ)、強い腋臭が認められた(ニオイ強度の最大スコアが4又は5)人が16人であった(以下、C群と呼ぶ)。 強い腋臭が認められたC群の評価結果を表1に示す。表1に示すが如く、アポクリン臭被験者には、クミン油様のニオイが強いグループ(例えば、被験者識別記号1〜3)と、硫黄様のニオイが強いグループ(例えば、被験者識別番号4〜9)とが存在していることがわかった。(2)硫黄様のアポクリン臭に対応するニオイ成分の解析 C群の中で硫黄様のアポクリン臭が強かった3人(被験者識別番号4〜6)を被験者とした。温度40℃、湿度80%に調節された部屋で、被験者の両腋窩部から流れ出る汗約1mLを試験管に集めた。試験管に、Twister(100%ポリジメチルシロキサンをコーティングさせた攪拌子,別名:Stir Bar Sorptive Extraction,Gerstel社製)を入れ、30分間攪拌した後、熱脱着装置を装備したガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC−MS)を用いて分析した。腋窩部の汗の典型的なニオイを発生させる重要な成分は、熱脱着装置を装備したニオイ嗅ぎガスクロマトグラフィー(sniffing GC)により特定した。GC-MS分析条件:装置:6890GC-5973MSD(Agilent Technology)カラム:DB−1(60m×0.25mm×0.25μm)温度条件:40℃(1分間)→(6℃/分)→60℃→(2℃/分)→300℃(40分間)キャリアガス:Heイオン化電圧:70eV 汗に含まれるアポクリン臭の成分を分析したところ、GC−MS分析(図1)では、新たに3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの存在が示された。この溶出成分はニオイ嗅ぎガスクロマトグラフィーにおいてアポクリン臭に極めて良く似た強いにおいを持っていた。 3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールは、ヒトの腋臭の構成成分としては今まで報告されたことがないが、被験者3人全員から検出された。 3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール(合成品)を生理食塩水に各種濃度で溶解したサンプルを使って、腋窩部の汗中から検出された3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの濃度を推測した。ピーク面積から3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの量を算出したところ、0.001〜1.0μgの範囲であり、腋窩部の汗中に定量可能な濃度で存在していることがわかった。 C群の中でアポクリン臭が全く認められなかった3人(被験者識別番号14〜16)を被験者とした。温度40℃、湿度80%に調節された部屋で、被験者の両腋窩部から流れ出る汗約1mLを試験管に集めた。試験管に、前記Twisterを入れて、10分間攪拌した後、熱脱着装置を装備したガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC−MS)を用いて分析した。結果は図2に示す如く、いずれの被験者からも3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールは検出されなかった。 C群の中で硫黄様のアポクリン臭が強かった3人(被験者識別番号4〜6)、C群の中でアポクリン臭が全く認められなかった3人(被験者識別番号14〜16)を被験者とした。温度40℃、湿度80%に調節された部屋で、被験者の両腋窩部から流れ出る汗約1mLを試験管に集めた。汗を嫌気環境下(酸素濃度0.1%以下、二酸化炭素濃度21%)、30℃で48時間インキュベーションした。インキュベーション後、試験管内に前記Twisterを入れて、10分間攪拌した後、熱脱着装置を装備したガスクロマトグラフィー質量分析計(GC−MS)を用いて分析した。腋窩部の汗の典型的なニオイを発生させる重要な成分は、熱脱着装置を装備したニオイ嗅ぎガスクロマトグラフィー(sniffing GC)により特定した。 図3に示す如く、アポクリン臭がある人のインキュベーションした汗からは、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール、3−メルカプトヘキサン−1−オール、3−メルカプトペンタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルブタン−1−オールが同定された。これらの溶出成分はにおい嗅ぎガスクロマトグラフィーにおいてアポクリン臭に良く似た強いにおいを持っており、インキュベーションによってニオイがより強くなっていた。 合成された3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールを各種濃度で生理食塩水に溶解したサンプルを使って、アポクリン臭がある人のインキュベーションした汗中から検出された3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールの濃度を推測したところ、1μg〜100μg程度の3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールが含まれていることがわかった。インキュベーションによって、腋窩部の汗に含まれる3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールが、数倍〜100倍程度まで増加することがわかった。 これに対して、アポクリン臭のない、いずれの被験者の汗をインキュベーションしても、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール、3−メルカプトヘキサン−1−オール、3−メルカプトペンタン−1−オール、3−メルカプト2−メチルブタン−1−オールは検出されなかった(図4)。 アポクリン臭被験者のインキュベーション後の汗をキラルカラムを装着したガスクロマトグラフィーで分析した場合の3−メルカプト−3−メチルヘキサノールのイオンクロマトグラム(m/z=114)を図5に示す。実験の結果、アポクリン臭がある人の腋窩部の汗に含まれる3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールは、(S)体72%と(R)体28%とから構成されていることが明らかとなった。(3)クミン油様のアポクリン臭に対応するニオイ成分の解析 C群の中でクミン様のアポクリン臭が認められた13人(被験者識別番号1〜13)を被験者とした。Tシャツの腋窩部に当る部分に綿パッドを縫い付け、このTシャツを被験者に24時間着用させた後に回収し、腋窩部の綿パッドをジエチルエーテルで抽出した。酸−塩基抽出法を用いて、抽出物を酸性部と中性部と塩基性部とに分けて、ガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC−MS)を用いて揮発性成分を分析した。腋窩部の汗の典型的なニオイを発生させる重要な成分は、ニオイ嗅ぎガスクロマトグラフィー(sniffing GC)により特定した。GC-MS分析条件:装置:6890GC-5973MSD(Agilent Technology)カラム:DB−WAX(60m×0.25mm×0.25μm)温度条件:40℃(1分間)→(6℃/分)→60℃→(2℃/分)→300℃(40分間)キャリアガス:Heイオン化電圧:70eV 酸性抽出物を分析したところ、従来から確認されている飽和脂肪酸、3−メチル−2−ヘキセン酸、7−オクテン酸、γ−ラクトン類と共に、新たに3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸の存在が示された(図6)。この成分はニオイ嗅ぎガスクロマトグラフィーにおいてアポクリン臭に極めて良く似た強いにおいを持っていた。また、ピーク面積から酸性抽出物中に含まれる3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸の量を算出したところ、0.1〜64.3μgの範囲であり、定量可能な高い濃度で存在していることがわかった。3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸は、人の腋臭の構成成分としては今まで報告されたことがないが、被験者全員から検出された。 C群の中でアポクリン臭が全く認められなかった3人(被験者識別番号14〜16)を被験者とした。Tシャツの腋窩部に当る部分に綿パッドを縫い付け、このTシャツを被験者に24時間着用させた後に回収し、腋窩部の綿パッドをジエチルエーテルで抽出した。酸−塩基抽出法により酸性部を抽出してガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC−MS)を用いて分析した。結果は図7に示す如く、いずれの被験者からも3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸は検出されなかった。(4)3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸の定量 C群の中でアポクリン臭が強く感じられた5人(被験者識別番号1〜5)、C群の中でアポクリン臭が弱く感じられた4人(被験者識別番号10〜13)、C群の中でアポクリン臭が全く認められなかった3人(被験者識別番号14〜16)を被験者とした。Tシャツの腋窩部に当る部分に綿パッドを縫い付け、このTシャツを被験者に24時間着用させた後に回収し、腋窩部の綿パッドをジエチルエーテルで抽出した。酸−塩基抽出法により酸性部を抽出した後、1mlのメスフラスコ(DURAN製)を用いて、等容量のエーテル希釈液を調製した。ガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC−MS)を用いて、3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸の定量を行った。定量値は既知濃度の3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸をGC-MSに注入し、ピーク面積から算出した。 アポクリン臭の有無又はその程度と3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸の検出量との関係を求めたところ、図8に示す如く、アポクリン臭が強くなるほど腋窩部における3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸の量が多かった。 アポクリン臭被験者の汗をキラルカラムを装着したガスクロマトグラフィーで分析した場合の3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸のイオンクロマトグラム(m/z=103)を図9に示す。実験の結果、アポクリン臭がある人の腋窩部の汗に含まれる3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸は、(+)体72%と(−)体28%とから構成されていることが明らかとなった。4.擬似腋臭組成物の調製及び評価 表2及び3に示す擬似腋臭組成物を調製し、下記の方法に基づいて評価した。その結果を表2及び3に示す。 <評価方法> 室温(25℃)、湿度65%の環境に保たれた室内にて、カップ(下部円直径4.5cm、上部円直径6.5cm、高さ9cm、内容量約216cm)に各擬似腋臭組成物を1回噴霧(約0.2g)した状態で、どのタイプ(アポクリン臭、混合臭、酸臭)に近い匂いであるかを5人の専門パネラー(男性3名、女性2名)によって評価した。 表2に示したとおり、実施例1、2の組成物は、(A)3−メルカプトアルコール化合物が配合されており、アポクリン臭(硫黄様)タイプに近い腋臭を再現することができた。実施例3、4の組成物は、(A)3−メルカプトアルコール化合物と(B)β−ヒドロキシカルボン酸化合物が配合されており、アポクリン臭タイプに近い腋臭を再現することができた。 実施例5、6、7の組成物は、(A)3−メルカプトアルコール化合物に、(D)イソ吉草酸、または、(C)酢酸、または、(E)酪酸が配合されており、アポクリン臭(硫黄様)タイプに近い腋臭を再現することができた。実施例8、9、10の組成物は、(A)3−メルカプトアルコール化合物と(B)β−ヒドロキシカルボン酸化合物に、(D)イソ吉草酸、または、(C)酢酸、または、(E)酪酸が配合されており、アポクリン臭タイプに近い腋臭を再現することができた。実施例11の組成物は、(A)3−メルカプトアルコール化合物に、(D)イソ吉草酸、(E)酪酸が配合されており、アポクリン臭(硫黄様)タイプに近い腋臭を再現することができた。 表3に示したように、実施例12、13の組成物は、(A)3−メルカプトアルコール化合物に、(C)酢酸及びプロピオン酸、(D)イソ吉草酸がバランスよく配合されており、アポクリン臭(硫黄様)タイプの腋臭に良く似たニオイを再現することができた。また、実施例1〜13の組成物は、アポクリン臭タイプの腋臭をターゲットとするデオドランド剤、消臭剤、洗浄剤等の開発に応用してもよい。 実施例14、15の組成物には、(A)3−メルカプトアルコール化合物に、(C)酢酸及びプロピオン酸酸、(D)イソ吉草酸、(E)酪酸及びイソ酪酸が、バランスよく配合され、混合臭タイプの腋臭に良く似たニオイ、又は酸臭が強い混合臭タイプの人の腋臭に良く似たニオイを再現することができた。これらの組成物は、混合臭タイプ及び酸臭が強い混合臭タイプの消臭をターゲットとするデオドランド剤、介護臭の消臭用、室内消臭、公共施設内の消臭等の消臭剤、衣料用洗浄剤、住居用洗浄剤等の洗浄剤などの開発に応用してもよい。 実施例16、17の組成物は、(A)3−メルカプトアルコール化合物と(B)β−ヒドロキシカルボン酸化合物に加えて、(C)酢酸及びプロピオン酸、(D)イソ吉草酸がバランスよく配合されており、アポクリン臭(硫黄様)が特に強いタイプの腋臭に良く似たニオイ、又は、アポクリン臭(クミン油様)が特に強いタイプの腋臭に良く似たニオイを再現することができた。実施例16、17の組成物は、アポクリン臭タイプの腋臭をターゲットとするデオドランド剤、消臭剤、洗浄剤等の開発に応用してもよい。 実施例18、19の組成物には、(A)3−メルカプトアルコール化合物と(B)β−ヒドロキシカルボン酸化合物に加えて、(C)酢酸及びプロピオン酸、(D)イソ吉草酸、(E)酪酸及びイソ酪酸が、バランスよく配合されており、アポクリン臭(硫黄様)と酸臭との混合臭タイプの腋臭に良く似たニオイ、又は、アポクリン臭(クミン油様)と酸臭との混合臭タイプの腋臭に良く似たニオイを再現することができた。これらの組成物は、混合臭タイプをターゲットとするデオドランド剤、介護臭の消臭用、室内消臭、公共施設内の消臭等の消臭剤、衣料用洗浄剤、住居用洗浄剤等の洗浄剤などの開発に応用してもよい。 これらに対して、比較例1、2の組成物は、(A)3−メルカプトアルコール化合物、(B)β−ヒドロキシカルボン酸化合物がいずれも配合されておらず、すっぱいニオイ、足臭的なニオイしか再現できないという結果を得た。アポクリン臭のある人の汗に含まれる揮発性成分をGC−MSで分析した場合のトータルイオンクロマトグラムである。アポクリン臭のない人の汗に含まれる揮発性成分をGC−MSで分析した場合のトータルイオンクロマトグラムである。アポクリン臭のある人の汗(インキュベーション後)に含まれる揮発性成分をGC−MSで分析した場合のトータルイオンクロマトグラムである。アポクリン臭のない人の汗(インキュベーション後)に含まれる揮発性成分をGC−MSで分析した場合のトータルイオンクロマトグラムである。アポクリン臭のある人の汗をインキュベーションした後、キラルカラムが装着されたGC−MSで分析した場合の3−メルカプト−3−メチルヘキサノールのイオンクロマトグラム(m/z=114)である。アポクリン臭のある人の汗の酸性抽出物をGC−MSで分析した場合のトータルイオンクロマトグラムである。アポクリン臭のない人の汗の酸性抽出物をGC−MSで分析した場合のトータルイオンクロマトグラムである。被験者のアポクリン臭の強さと、汗の酸性抽出物に含まれる3−ヒドロキシ−3−メチルへキサン酸の量との関係を示すグラフである。アポクリン臭のある人の汗を、キラルカラムが装着されたGC−MSで分析した場合の3−ヒドロキシ−3−メチルヘキサン酸のイオンクロマトグラム(m/z=103)である。 (A)下記式(1)で表される、3−メルカプトアルコール化合物よりなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する擬似腋臭組成物。(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1乃至5のアルキル基、R3は水素原子又はメチル基であり、式(1)の総炭素数が10以下である。) 前記3−メルカプトアルコール化合物は、3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール、3−メルカプトヘキサン−1−オール、3−メルカプトペンタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルブタン−1−オール、3−メルカプト−2−メチルペンタン−1−オールである請求項1に記載の擬似腋臭組成物。 前記3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オールは、S体が40〜90質量%、R体が10〜60質量%である請求項2に記載の擬似腋臭組成物。 さらに、(B)下記式(2)で表されるβ−ヒドロキシカルボン酸化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の擬似腋臭組成物。(式中、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数1乃至5のアルキル基であり、R6は水素原子又はメチル基であり、式(2)の総炭素数が10以下である。) (C)酢酸及び/又はプロピオン酸をさらに含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の擬似腋臭組成物。 (D)イソ吉草酸をさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の擬似腋臭組成物。 (E)酪酸及び/又はイソ酪酸をさらに含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の擬似腋臭組成物。 (F)3−メチル−2−ヘキセン酸及び/又は7−オクテン酸をさらに含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の擬似腋臭組成物。 (G)アンドロステノン及び/又はアンドロステノールをさらに含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の擬似腋臭組成物。 請求項1〜9のいずれか1項に記載の擬似腋臭組成物を用いることを特徴とする腋臭のマスキング又は消臭効果の評価方法。 【課題】 実際の腋臭を正確に再現することができ、腋臭のマスキング又は消臭効果等の評価に用い得る擬似腋臭組成物、及び、それを用いる評価方法を提供する。【解決手段】 本発明の擬似腋臭組成物は、必須成分として、(A)式(1)で表される3−メルカプトアルコール化合物を含有する。【化1】(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1乃至5のアルキル基、R3は水素原子又はメチル基であり、式(1)の総炭素数が10以下である。)【選択図】 なし