タイトル: | 公開特許公報(A)_レプリカーゼを発現する形質転換体、およびそれを用いたレプリカーゼの製造方法 |
出願番号: | 2004106395 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N15/09,C12N1/15,C12N1/19,C12N1/21,C12N5/10,C12N9/12 |
ト部 格 四方 哲也 島 康文 松浦 友亮 趙 貞和 北 寛士 JP 2005287386 公開特許公報(A) 20051020 2004106395 20040331 レプリカーゼを発現する形質転換体、およびそれを用いたレプリカーゼの製造方法 財団法人大阪産業振興機構 801000061 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ 110000040 ト部 格 四方 哲也 島 康文 松浦 友亮 趙 貞和 北 寛士 7C12N15/09C12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/10C12N9/12 JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N9/12C12N5/00 A 17 5 OL 25 4B024 4B050 4B065 4B024AA03 4B024BA10 4B024CA04 4B024DA06 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA03 4B024HA08 4B024HA14 4B050CC05 4B050CC06 4B050DD01 4B050FF04E 4B050FF11E 4B050FF14E 4B050LL03 4B050LL10 4B065AA01X 4B065AA26X 4B065AA57X 4B065AA87X 4B065AA98Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA02 4B065CA29 4B065CA46 4B065CA60 本発明は、レプリカーゼの大量発現を可能にする形質転換体、ならびにそれを用いたレプリカーゼの製造方法に関する。 レプリカーゼは、RNAウィルスゲノムの複製を触媒するRNA依存性RNAポリメラーゼであり、ウィルス自身のゲノムによってコードされている。このレプリカーゼは、一般に、4種類のサブユニットから構成されているが、例えば、大腸菌を宿主とするファージの場合、ファージ由来のサブユニットはβサブユニットのみであって、その他のサブユニットは、宿主である大腸菌由来のリボソームサブユニットタンパク質S1、ポリペプチド鎖延長因子EF−Tuならびにポリペプチド鎖延長因子EF−Tsである。 このようなレプリカーゼの中でも、RNAファージ、特に大腸菌を宿主とするQβファージ由来のQβレプリカゼーはその研究が広くなされおり、その特徴として鋳型特異性が知られている。そして、この性質を使用して、種々のRNAから目的RNAのみの増幅や検出を可能にするという、RNA増幅の実験系への応用が期待されている。このような理由から、現在、Qβレプリカーゼについての大量発現系の構築が試みられている。 しかしながら、Qβレプリカーゼを構成するQβファージ由来のβサブユニットは、大腸菌で大量発現させると不活性型の封入体(β aggregation :不溶性画分)の状態で発現されてしまうという問題ある。そして、この封入体からβサブユニットを回収すれば、活性を有するQβレプリカーゼが得られるものの、その回収率は極めて低く、活性型のQβレプリカーゼを大量に調製することは非常に困難である(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。ブルメンタル,ティ 「Qbeta RNA レプリカーゼおよびタンパク質合成延長因子EF-Tu ならびに EF-Ts 」 メソッドエンザイモロジー 1979年 60巻 第628頁〜第638頁(Blumenthal, T. Qbeta RNA replicase and protein synthesis elongation factors EF-Tu and EF-Ts. Methods Enzymol. 60, 628-638(1979).)トモユキ ナカイシら 「His-tagを付加したQレプリカーゼの精製および特性」 ジャーナルオブモレキュラーカタリシスBエンザイマティック 2000年10月 10巻 第351頁〜第356頁(Purification and characterization of Q replicase with a His-tag, Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic, Volume 10, Issues 1-3, 4 October 2000, Pages 351-356 Tomoyuki Nakaishi, Mitsuhiko Ishizuka, Kentaro Iio, Tetsuya Yomo, Yoshio Inokuchi, Masayuki Kajitani, Keizo Yamamoto, Yasufumi Shima and Itaru Urabe) そこで、本発明の目的は、活性を有する可溶性のレプリカーゼ(活性型レプリカーゼ)を大量発現できる形質転換体の提供、ならびにレプリカーゼの製造方法の提供である。 前記目的を達成するために、本発明は、レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子が、少なくとも1種類以上の組換えベクターにより宿主に導入されていることを特徴とする形質転換体である。 また、本発明のレプリカーゼの製造方法は、前記本発明の形質転換体を培養し、組換えタンパク質を発現させる工程を含むことを特徴とする。 本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、安定に可溶化させた状態をとるβサブユニットを大量発現するには、EF-TsサブユニットおよびEF-Tuサブユニットの存在が重要であることを見出した。つまり、活性型のレプリカーゼを大量発現するには、重合反応の触媒に関与するβサブユニットだけでなく、EF-TsおよびEF-Tuサブユニットについても同様に発現させることが必要であることを見出したのである。そこで、β遺伝子に加えて、さらにEF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子を、組換えベクターにより同じ宿主に導入することによって、βサブユニットが可溶化した状態である活性を示すレプリカーゼ(複合体)を大量発現できる本発明の形質転換体に想到したのである。このような本発明の形質転換体を用いれば、例えば、従来のように不溶性画分から酵素を回収する必要がなく、また低収率の問題もないため、様々の応用が期待されるレプリカーゼを容易かつ簡便に大量に提供することができる。 本発明の形質転換体は、前述のように、レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子が、少なくとも1種類以上の組換えベクターにより宿主に導入されていることを特徴とする形質転換体である。以下、βサブユニットをコードする遺伝子を「β遺伝子」、EF-Tsサブユニットをコードする遺伝子を「EF-Ts遺伝子」、EF-Tuサブユニットをコードする遺伝子を「EF-Tu遺伝子」という。なお、本発明においては、β遺伝子、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子が組換えベクターにより導入されていれば、前記組換えベクターの種類は、1種類でもよいし2種類以上であってもよい。具体的には、後述するように、例えば、1種類の組換えベクターに前記3種の遺伝子が挿入されてもよい。また、例えば、β遺伝子が挿入された第1の組換えベクターと、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子が挿入された第2の組換えベクターとを組合せて使用することもできる。 1.β遺伝子、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子 まず、本発明におけるβ遺伝子、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子について説明する。(1)β遺伝子 本発明において、レプリカーゼのβサブユニットをコードするβ遺伝子とは、例えば、大腸菌を宿主とするファージ由来のレプリカーゼβ遺伝子があげられる。中でも、Qβファージ由来レプリカーゼのβ遺伝子が好ましい。β遺伝子の配列の一例として、Qβファージのβ遺伝子の塩基配列を配列番号1、そのアミノ酸配列を配列番号2に示す。このβ遺伝子の塩基配列は、例えば、NCBI、DDBJ、GenBank等のデータベースに開示されている。なお、Qβファージのβサブユニットは、分子量が約65kDaである。本発明において、β遺伝子とは、例えば、Qβファージ由来のβ遺伝子の場合、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EF-TsおよびEF-Tu(または、さらにS1サブユニット)と結合してレプリカーゼ活性を発揮するタンパク質をコードするDNAも含まれる。具体的には、配列番号1に示される塩基配列からなるβ遺伝子だけでなく、これに変異を加えた変異体βサブユニットをコードする遺伝子を使用することもできる。すなわち、βサブユニットの活性が維持されていれば、配列番号2に示すアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは不可されたアミノ酸からなるタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。 このような遺伝子としては、配列番号1に示される塩基配列と、例えば、30%以上の相同性を有する遺伝子、好ましくは50%以上の相同性を有するものがあげられ、また、配列番号2に記載するアミノ酸配列と、例えば、30%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子、好ましくは50%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子があげられる。また、ストリンジェントな条件とは、相同性の低いものがハイブリダイズできない条件があげられ、このような条件は、当業者であれば当該技術分野の技術常識に基づいて設定できる。なお、本発明においてβサブユニットの活性とは、前述のようにEF-TsサブユニットおよびEF-Tuサブユニットの結合により、RNA dependent RNA polymerase活性を示すことがあげられる。 前記Qβファージ由来レプリカーゼのβ遺伝子以外にも、例えば、以下に示すファージ由来レプリカーゼのβ遺伝子も使用できる。なお、これらのβ遺伝子の塩基配列は、例えば、NCBI、DDBJ、GenBank等のデータベースに開示されている。これらのファージ由来のβ遺伝子についても、本発明においては、開示されている塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EF-TsおよびEF-Tu(または、さらにS1サブユニット)と結合してレプリカーゼ活性を発揮するタンパク質をコードするDNAも含まれる。Bacteriophage M11 RNA-dependent RNA polymerase (>gi|298121)Bacteriophage VK RNA-directed RNA polymerase (EC 27748) beta chain Bacteriophage ST RNA-directed RNA polymerase (EC 27748) beta chainBacteriophage SP replicase beta-subunit (>gi|133624|sp|P09)Enterobacteria phage MX1 replicase (>gi|3088544|gb|AAC1470)Enterobacteria phage NL95 replicase (>gi|3088549|gb|AAC147)Enterobacteria phage fr replicaseEnterobacterio phage M12 RNA replicase beta chainEnterobacterio phage MS2 RNA-directed RNA polymerase (EC 27748) beta chain Enterobacteria phage KU1 RNA replicase beta chain(>gi|768)Enterobacteria phage GA replicase beta-subunit (>gi|133621)Pseudomonas phage PP7 replicase(>gi|628408|pir||S46978 re)Enterobacteria phage JP501 RNA replicase beta chainBacteriophage AP205 replicase(>gi|13375555|gb|AAK203911|)(2)EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子 本発明において、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子としては、原核生物の延長因子として公知のものがそれぞれ使用でき、中でも大腸菌由来のEF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子が好ましい。EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子の配列の一例として、大腸菌(E.coli A/λ株)EF-Ts遺伝子の塩基配列を配列番号3、そのアミノ酸配列を配列番号4に示し、また、大腸菌(E.coli A/λ株)EF-Tu遺伝子の塩基配列を配列番号5、そのアミノ酸配列を配列番号6に示す。これらE.coli A/λ株のEF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子の塩基配列は、例えば、NCBI等のデータベースに開示されている。なお、大腸菌EF-Tsは分子量が約35kDaであり、大腸菌EF-Tuは分子量が45kDaである。本発明において、大腸菌EF-Ts遺伝子とは、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EF-Tsの生化学的特性(レプリカーゼのサブユニットとしての機能)を示すタンパク質をコードするDNAも含まれる。具体的には、配列番号3に示される塩基配列からなるEF-Ts遺伝子だけでなく、これに変異を加えた変異体EF-Tsサブユニットをコードする遺伝子を使用することもできる。すなわち、EF-Tsサブユニットの生化学的特性が維持されていれば、配列番号4に示すアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは不可されたアミノ酸からなるタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。また、大腸菌EF-Tu遺伝子も同様に、配列番号5に示される塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EF-Tuの生化学的特性を示すタンパク質をコードするDNAも含まれる。具体的には、配列番号5に示される塩基配列からなるEF-Tu遺伝子だけでなく、これに変異を加えた変異体EF-Tuサブユニットをコードする遺伝子を使用することもできる。すなわち、EF-Tuサブユニットの生化学的特性が維持されていれば、配列番号6に示すアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは不可されたアミノ酸からなるタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。 このような遺伝子としては、配列番号3に示される塩基配列と、例えば、30%以上の相同性を有する遺伝子、好ましくは50%以上の相同性を有するものがあげられ、また、配列番号4に記載するアミノ酸配列と、例えば、30%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子、好ましくは50%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子があげられる。また、配列番号5に示される塩基配列と、例えば、30%以上の相同性を有する遺伝子、好ましくは50%以上の相同性を有するものがあげられ、また、配列番号6に記載するアミノ酸配列と、例えば、30%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子、好ましくは50%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子があげられる。 β遺伝子、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子は、前述のようにその塩基配列が公知であるため、例えば、前述のようなファージや大腸菌等から従来公知の方法によって単離できる。具体例としては、前記塩基配列の情報をもとに、ゲノムDNA等からPCR法によって各遺伝子配列を増幅させたり、pETベクター等のベクターにクローニングすることによって調製できる。 2.組換えベクター 本発明の形質転換体は、前述のように、β遺伝子、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子を、少なくとも1種類以上の組換えベクターによって宿主に導入し、前記宿主を形質転換した形質転換体であればよい。このため、前記組換えベクターとしては、1種類でもよいし2種類以上であってもよい。本発明における組換えベクターについて、2種類の組換えベクターの組合せである第1の形態、1種類の組換えベクターである第2の形態を例示する。なお、これらには限定されず、例えば、さらにその他の組換えベクターと併用してもよい。 (1)第1の形態(2種類の組換えベクター) 第1に、β遺伝子を含有する第1の組換えベクター(第1組換えベクター)と、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子を含有する第2の組換えベクター(第2組換えベクター)との組合せがあげられる。 前記第1の組換えベクターはβ遺伝子が、第2の組換えベクターはEF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子が、それぞれベクターに挿入されていればよい。前記ベクターとしては、特に制限されないが、例えば、発現プラスミドベクター等の発現ベクターが好ましい。前記発現ベクターとしては、従来公知のものが使用でき、例えば、そのコピー数や、形質転換を行う宿主の種類等に応じて適宜選択できる。また、後述するように形質転換を行う宿主として大腸菌が好ましい点からも、大腸菌で発現可能な発現ベクターが好ましい。 前記ベクターとしては、通常、大腸菌等の宿主に応じた複製開始起点、アンピシリン耐性遺伝子やカナマイシン耐性遺伝子等の選択マーカーを含んでいるものがあげられる。また、挿入した遺伝子の発現を制御するための配列として、通常、プロモーターを含み、この他にも、宿主に応じて、例えば、ターミネータ、リボソーム結合配列(SD配列)等が連結されてもよい。前記プロモーターとしては、特に制限されず、ラクトース(lac)プロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系、ラムダ由来PLプロモーター、N遺伝子リボソーム結合部位、trp-lac(trc)プロモーター系、T7プロモーター等、従来公知のプロモーターが使用できる。 このようなベクターは、従来公知の方法により構築することもできるが、一般的に大腸菌で使用できる発現ベクターがあげられる。前記ベクターの具体例としては、例えば、市販品である、pBAD24、pBAD33等のpBADベクター、pETベクター、pKKベクター、pPROtetベクター等が使用できる。中でも、β遺伝子を挿入する発現ベクターとしては、例えば、発現調節が可能なベクターが好ましく、pBADベクター、pPROtetベクター等が、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子を挿入する発現ベクターとしては、pETベクター、pKKベクター等がそれぞれ好ましい。 組換えベクターの調製方法は、特に制限されず、従来公知の方法が使用できる。すなわち、例えば、挿入する遺伝子を制限酵素処理によって切り出し、同じ制限酵素で処理したベクターと前記遺伝子断片とを、例えば、DNAリガーゼ等で連結することによって挿入できる。また、前記遺伝子の末端に、制限酵素処理したベクターの切断末端に対応するリンカーをつけ、前記ベクターに挿入することもできる。ベクターへの挿入箇所は、通常、マルチクローニングサイトが選択できるが、これには制限されない。 また、第2組換えベクターにおいて、EF-Ts遺伝子とEF-Tu遺伝子の位置関係は、特に制限されないが、EF-Ts遺伝子の下流にEF-Tu遺伝子を有することが好ましい。これは、この位置関係に設定することによって、難溶性であるEF-Tuがより一層可溶化されるため、これに伴い、第1組換えベクターから発現するβサブユニットの可溶化をさらに促進できるからと推測される。本発明において「下流」とは、プロモーター領域を中心として、RNAポリメラーゼが進んで行く方向を下流ということができる。したがって、例えば、発現ベクターに前記両遺伝子を挿入する場合には、プロモーター領域の下流にあるマルチクローニングサイトに、プロモーター領域に近い側から、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子の順になるように挿入することが好ましい。 (2)第2の形態(1種類の組換えベクター) 第2に、β遺伝子とEF-Ts遺伝子とEF-Tu遺伝子とを全て有する組換えベクターがあげられる。 前記組換えベクターは、前述のようにベクターに、β遺伝子とEF-Ts遺伝子とEF-Tu遺伝子とが挿入されていればよい。前記ベクターとしては、前述と同様のものが使用できるが、中でも、pET、pBAD、pPRO等の発現ベクターが好ましい。また、組換えベクターの調製方法も特に制限されず、前述と同様である。 前記組換えベクターにおいて、β遺伝子、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子の位置関係は、特に制限されないが、例えば、EF-Ts遺伝子の下流にEF-Tu遺伝子を有し、EF-Tu遺伝子の下流にさらにβ遺伝子を有することが好ましい。すなわち、発現ベクターに前記両遺伝子を挿入する場合には、例えば、プロモーター領域の下流にあるマルチクローニングサイトに、プロモーター領域に近い側から、EF-Ts遺伝子、EF-Tu遺伝子、β遺伝子の順になるように挿入することが好ましい。また、以上のように3種類の遺伝子を同じプロモーターで制御するのではなく、例えば、β遺伝子のみを異なるプロモーターで制御(β遺伝子のみを異なるプロモーターの下流に配置)してもよい。 3.形質転換体 本発明の形質転換体は、例えば、前述のような第1の形態または第2の形態の組換えベクターを用いて、従来公知の形質転換法に従って調製することができる。形質転換法としては、例えば、CaCl2法、リン酸カルシウムを用いたトランスフェクション法、デキストランを用いたトランスフェクション法、エレクトロポレーション法等があげられる。 形質転換を行う宿主としては、使用する組換えベクターに挿入した各遺伝子を発現できるものであれば特に制限されないが、大腸菌が好ましい。大腸菌の株としては、例えば、BL21(DE3)、DH5α、HB101、JM109等、あるいはこれらの株をDE3化させた株等があげられるが、これには限定されない。 なお、レプリカーゼは、βサブユニット、EF−TuおよびEF−Tsの3量体であっても活性を示すが、さらにS1サブユニットを含む4量体であってもよい。S1サブユニットとしては、例えば、宿主由来のS1サブユニットでもよく、この場合、宿主は、自己の遺伝子からS1サブユニットを発現できることが好ましい。また、別途、S1遺伝子を含有する組換えベクターを同じ宿主に導入してもよい。組換えベクターによりS1遺伝子を導入する場合、前述のような第1の形態または第2の形態の組換えベクターにさらにS1遺伝子を挿入してもよいし、別途、S1遺伝子を挿入した組換えベクターを宿主に導入してもよい。なお、S1遺伝子の配列の一例として、大腸菌(E.coli A/λ株)S1遺伝子の塩基配列を配列番号7に、そのアミノ酸配列を配列番号8にそれぞれ示す。大腸菌のS1サブユニットは、分子量約61kDaの可溶性タンパク質である。 4.レプリカーゼの製造方法 本発明のレプリカーゼの製造方法は、前述の本発明の形質転換体を培養し、組換えベクターから組換えタンパク質を発現させることによって行うことができる。このように前記形質転換体を培養すれば、組換えベクターからβサブユニット(例えば、ファージ由来βサブユニット)、EF-TsサブユニットおよびEF-Tuサブユニットが発現し、これらが複合体を形成することによってレプリカーゼが生成される。なお、さらに宿主または前述のような組換えベクターからS1サブユニットが発現し、4量体の複合体を形成してレプリカーゼが生成されてもよい。この製造方法によれば、βサブユニットは可溶化状態で発現するため、従来のように不溶性の不活性型レプリカーゼとは異なり、可溶性の活性型レプリカーゼが得られるのである。また、前述のように、EF-Ts遺伝子の下流にEF-Tu遺伝子が挿入されている場合には、本来不溶性のEF-Tuについても可溶化され、それによってβサブユニットの可溶化が促進されることから、特に効率良く活性型のレプリカーゼを製造できる。さらに、前述のように1種類の組換えベクターがβ遺伝子とEF-Ts遺伝子とEF-Tu遺伝子とを全て有する場合、例えば、βサブユニット、EF-TsサブユニットおよびEF-Tuサブユニットの融合(fusion)タンパク質を発現することができる。 本発明の形質転換体を培養する培地は、例えば、形質転換体の種類(宿主の種類)や、使用したベクターの種類等に応じて適宜設定できるが特に制限されず、従来公知の培地が使用できる。一般的に、宿主が生育するための炭素源、窒素源、無機塩類等を含有する培地があげられ、前記炭素源としては、例えば、グルコースやフルクトース等の単糖、スクロース等の二糖、多糖、デンプンやその加水分解物等の炭水化物;酢酸、プロピオン酸等の有機酸;エタノールやプロパノール等のアルコール類等があげられ、窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機酸や有機酸のアンモニウム塩;その他含窒素化合物等があげられ、無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等があげられる。また、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物等を含有してもよい。培地の具体例としては、例えば、一般的なLB培地、2×TY等があげられる。また、例えば、組換えベクター内の選択マーカーに応じて、アンピシリンやカナマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよいし、発現ベクターの種類に応じて、誘導物質をさらに添加してもよい。 培養条件は、特に制限されないが、例えば、形質転換体の種類に応じて決定できる。培養温度は、例えば、30〜37℃であるが、より一層、発現量を増加できることから、30〜32.5℃がより好ましく、特に好ましくは30℃である。培養のpH条件は、例えば、pH6〜8の範囲、好ましくはpH7〜8である。なお、培養は、浸透培養によって好気条件下で行うことが好ましい。 このように本発明の形質転換体を培養することによって大量発現したレプリカーゼは、菌体内酵素であるため、例えば、培養液から形質転換体(菌体)を回収し、前記回収菌体から従来公知の方法によって回収できる。一般的な処方によれば、例えば、培養液を遠心分離して培養菌体を回収し、物理的または化学的方法によって菌体を破砕して、得られた粗抽出物(可溶性画分)を粗酵素溶液として使用することができる。また、この粗酵素溶液をさらに、硫酸アンモニウムやエタノールを用いた塩析処理;イオン交換クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、HPLC等の各種クロマトグラフィー処理等によって、単一精製することも可能である。具体的な精製例としては、例えば、ナカイシらの文献(Purification and characterization of Q replicase with a His-tag, Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic, Volume 10, Issues 1-3, 4 October 2000, Pages 351-356 Tomoyuki Nakaishi, Mitsuhiko Ishizuka, Kentaro Iio, Tetsuya Yomo, Yoshio Inokuchi, Masayuki Kajitani, Keizo Yamamoto, Yasufumi Shima and Itaru Urabe;以下同様)に開示された精製方法等があげられる。 また、本発明における組換えベクターを用いて、一般的な無細胞タンパク質合成システムによってレプリカーゼを発現させることもできる。 以下、実施例および比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において、組換えベクターの構築には、Qβファージのβ遺伝子、大腸菌(A/λ株)のEF-Ts遺伝子、EF-Tu遺伝子ならびにS1遺伝子を使用し、組換えベクターを導入する宿主としては、E.coli BL21(DE3)株を使用した。1.組換えベクターの構築(1)第1組換えベクター 第1組換えベクターの構築方法の概略を説明する。なお、図1に使用したpBADベクターを示すが、これはルズマリア グズマンらの文献(Luz-Mria Guzman, Dominique Belin, Michael J. Carson, and Jon Beckwith, Tight Regulation, Modulation, and High-Leve Expression by Vectors Containing the Arabinose PBAD Promoter Journal of Bacteriology, 1995, Vol.177, No.14, p.4121-4130)を引用した。 まず、QβファージのcDNA全長をプラスミド pBluescript SKII(+)のEcoRVに挿入して、プラスミドSKQbetaを作製し、このSKQbetaを鋳型として、PCR法によってβ遺伝子を増幅させた。具体的には、上流プライマーとして、β遺伝子の開始コドン直前にEcoRI認識配列を持つオリゴヌクレオチド(配列番号9)、下流プライマーとして、His tag(His6分子)が付加されたHindIII認識配列を有するオリゴヌクレオチド(配列番号10)を使用した。さらに、得られたPCR増幅物をEcoRIとHindIIIとで処理して、C末端側にHis tagが付加されたβ遺伝子を含むEcoRI-HindIII断片(1796bp)を単離した。配列番号9:ggaggaattcaccatgtctaagacagcatcttcgcgtaactc配列番号10:gggaagcttagtggtggtggtggtggtgcgcctcgtgtagagacgcaaccttcgtgcc 一方、発現ベクターpBAD24について、そのマルチクローニングサイト(MCS3)をEcoRIとHindIIIとで制限酵素処理し、この切断部分に前述のEcoRI-HindIII断片を連結させた。そして、この組換えベクターを再度EcoT22IとHindIIIで切断し、β遺伝子を含む3097bpのEcoT22I-HindIII断片を回収した。さらに、発現ベクターpBAD33をEcoT22IとHindIIIとで制限酵素処理し、この切断部分にEcoT22I-HindIII断片を連結させた。このようにして得られた組換えベクターを第1組換えベクター(pBAD33beta)とした。(2)第2組換えベクター 第2組換えベクターの構築方法の概略を図2に示す。発現ベクターとしては、商品名pET-21a-d(+)Vectors(Novagen社製:以下、「pET21a」という)を使用した。なお、第2組換えベクターとしては、発現ベクター(pET21a)のプロモーター(pT7)の下流側から、EF-TsおよびEF-Tuの順になるように挿入した第2組換えベクター(pET TsTu)と、EF-TuおよびEF-Tsの順になるように挿入した第2組換えベクター(pET TuTs)とを調製した。 (i)pET TsTu まず、大腸菌(A/λ株)から従来公知の方法によってゲノムDNAを調製した。そして、これを鋳型として、プライマー(配列番号11)とプライマー(配列番号12)とを用いて、PCR法によりEF-Ts遺伝子の増幅を行った。また、前記ゲノムDNAを鋳型として、プライマー(配列番号13)とプライマー(配列番号14)とを用いて、PCR法によりEF-Tu遺伝子の増幅を行った。そして、EF-Ts遺伝子を含むPCR産物をNdeIおよびBamHIで制限酵素処理し、EF-Ts遺伝子を含む877bpのNdeI-BamHI断片を単離した。また、EF-Tu遺伝子を含むPCR産物をHindIIIおよびXhoIで制限処理し、EF-Tu遺伝子を含む1210bpのHindIII-XhoI断片を単離した。 EF-Ts遺伝子の増幅用プライマー配列番号11:ccttttggat ccttaagactgcttggacatcgcagcaac配列番号12:cgaggatttt catatggctgaaattaccgc EF-Tu遺伝子の増幅用プライマー配列番号13:agagggacaacatatgtctaaagaaaagtt配列番号14:tgttatggatccttagctcagaacttttgctacaacgcc 一方、発現ベクターpET21aについて、そのマルチクローニングサイト(MCS)をNdeIおよびBamHIで制限酵素処理し、この切断部分に前述のEF-Ts遺伝子を含むNdeI-BamHI断片を連結させた。さらに、この組換えベクターをHindIIIおよびXhoIで制限処理し、この切断部分に前述のEF-Tu遺伝子を含むHindIII-XhoI断片を連結させた。このようにして、発現ベクターpET21aのプロモーター(pT7)の側から、順にEF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子が挿入された第2組換えベクターpET TsTuを構築した。 (ii)pET TuTs 前記EF-Tu遺伝子を含むPCR産物をNdeIおよびBamHIで制限酵素処理し、EF-Tu遺伝子を含む1210bpのNdeI-BamHI断片を単離した。また、EF-Ts遺伝子を含むPCR産物をHindIIIおよびXhoIで制限処理し、EF-Ts遺伝子を含む877bpのHindIII-XhoI断片を単離した。そして、マルチクローニングサイト(MCS)をNdeIおよびBamHIで制限酵素処理した発現ベクターpET21aに、前述のEF-Tu遺伝子を含むNdeI-BamHI断片を連結させ、さらに、この組換えベクターをHindIIIおよびXhoIで制限処理して、この切断部分に前述のEF-Ts遺伝子を含むHindIII-XhoI断片を連結させた。このようにして、発現ベクターpET21aのプロモーター(pT7)の側から、順にEF-Tu遺伝子およびEF-Ts遺伝子が挿入された第2組換えベクターpET TuTsを構築した。(3)その他の組換えベクター(pET Ts、pET Tu、pET S1) (i)pET Ts 調製した大腸菌(A/λ株)ゲノムDNAを鋳型として、NdeI認識配列を持つプライマー(配列番号11)とBamHI認識配列を持つプライマー(配列番号12)とを用いて、PCR法によってEF-Ts遺伝子を含む断片を増幅させた。得られたPCR産物をNdeIおよびBamHIで制限酵素処理し、発現ベクターpET21aのNdeI-BamHI間に連結させた。得られたプラスミドをpET Tsとした。 (ii)pET Tu 調製した大腸菌(A/λ株)ゲノムDNAを鋳型として、NdeI認識配列を持つプライマー(配列番号13)とBamHI認識配列を持つプライマー(配列番号14)とを用いて、PCR法によってEF-Tu遺伝子を含む断片を増幅させた。得られたPCR産物をNdeIおよびBamHIで制限酵素処理し、発現ベクターpET21aのNdeI-BamHI間に連結させた。得られたプラスミドをpET Tuとした。 (iii)pET S1 調製した大腸菌(A/λ株)ゲノムDNAを鋳型として、NdeI認識配列を持つプライマー(配列番号15)とBamHI認識配列を持つプライマー(配列番号16)とを用いて、PCR法によってS1遺伝子を含む断片を増幅させた。得られたPCR産物をNdeIおよびBamHIで制限酵素処理し、発現ベクターpET21aのNdeI-BamHI間に連結させた。得られたプラスミドをpET S1とした。 配列番号15:ctgaagattacatatgactgaatcttttgc 配列番号16:agagtcggatccttactcgcctttagctgctttgaaagc2.形質転換体の調製 従来公知のCaCl2法により、各種組換えベクターをE.coli BL21(DE3)株に導入して、それぞれの形質転換体を調製した。 難溶性であるTuサブユニットの可溶化の促進を確認した。組換えベクターとして、第2組換えベクターであるpET TsTuならびに pET TuTsを使用し、前記実施例1と同様にして各組換えベクターを導入した形質転換体を調製した。なお、pET TsTuが導入された形質転換体を「形質転換体TsTu」、pET TuTsが導入された形質転換体を「形質転換体TuTs」と呼ぶ。なお、図3(A)に、形質転換体の培養から可溶性画分および不溶性画分の分離までの工程の概略を示す。 前記各形質転換体を、それぞれ、アンピシリン(50μg/mL)、IPTG(1mM)を含むLB培地で培養し、組換えベクターを発現させた。なお、培養は、37℃で行い、培養液のOD600が1.0程度になった時点で、誘導物質IPTGを1mMとなるように添加し、さらに37℃で3時間培養を行った。この培養液から遠心分離により大腸菌を回収し、回収した菌体を超音波破砕して(破砕菌体画分)、さらに遠心分離によって上清(可溶性画分)と沈殿(不溶性画分)に分離した。 形質転換体TsTuおよび形質転換体TuTsから得られた、破砕菌体画分(whole cell:W)、可溶性画分(S)、不溶性画分(I)について、SDS-PAGE分析を行った。この結果を図3(B)に示す。同図(B)において、レーンMは分子量マーカー、レーンWは破砕菌体画分、レーンSは可溶性画分、レーンIは不溶性画分の結果を示す。図示のように、通常不溶性を示すEF-Tuサブユニットが、形質転換体TuTsでは不溶性画分に多く確認されるのに対して、形質転換体TsTuでは、ほぼ可溶性画分に抽出された。つまり、メカニズムは不明であるが、第2組換えベクターにおいて、EF-Ts遺伝子の下流にEF-Tu遺伝子を組み込むことによって、EF-Tuサブユニットの可溶化がさらに促進され、結果的にレプリカーゼの可溶化も促進されると言える。 実施例1で調製した形質転換体を用いて、レプリカーゼの各サブユニット(β、EF-Ts、EF-Tu、S1)の可溶性を確認した。なお、図4(C)に、形質転換体の培養からSDS-PAGE分析までの工程の概略を示す。 以下に示す9種類の組換えベクターの組合せ(図4(A)参照)により、実施例1と同様にして形質転換体を調製した。そして、これらの形質転換体を、前記実施例2と同様にして、培養、菌体の回収、可溶性画分および不溶性画分の分離を行った。なお、培養条件は、特に示さない限り前記実施例2と同様である。 No. 組換えベクターの組合せ A pBAD33beta − B − pET S1 C pBAD33beta pET S1 D − pET Ts E pBAD33beta pET Ts F − pET Tu G pBAD33beta pET Tu H − pET TsTu I pBAD33beta pET TsTu 得られた各可溶性画分ならびに不溶性画分について、前記実施例2と同様にしてSDS−PAGE分析を行った。この結果を図4(B)の電気泳動写真に示す。図4(B)において、レーンMは分子量マーカー、レーン1,2は組合せA、レーン3.4は組合せB、レーン5,6は組合せC、レーン7,8は組合せD、レーン9,10は組合せE、レーン11,12は組合せF、レーン13,14は組合せG、レーン15,16は組合せH、レーン17,18は組合せIであり、奇数レーンは可溶性画分、偶数レーンは不溶性画分の結果である。 図示のように、pBAD33betaのみを導入した形質転換体(A)は、βサブユニット(65kDa)が不溶性画分(レーン2)において多量に確認されたが、pBAD33betaとpET TsTuとを導入した形質転換体(I)によれば、可溶性画分(レーン17)においてβサブユニットが多量に確認されるようになった。すなわち、pET TsTuと共にpBAD33betaを発現させることによって、βサブユニットの可溶化を促進できたと言え、これに伴って活性を示すことがわかる。一方、pBAD33betaとpET TsTuとを導入した形質転換体(I)以外の形質転換体では、βサブユニットが不溶性画分(レーン2、6、10、14、16)で確認され、βサブユニット、EF-TuおよびEF-Tsの全てがともに可溶性画分で確認されることはなかった。 発現ベクターにβ遺伝子とS1遺伝子とを挿入した第1組換えベクター(pBAD33beta/tetS1)、ならびに、第2組換えベクター(pET TsTu/tetR)とを用いて形質転換体を調製し、誘導による発現量の変化を確認した。 第1組換えベクター(pBAD33beta/tetS1)と、第2組換えベクター(pET TsTu/tetR)は、以下に示す方法によって作製した。第1組換えベクターと第2組換えベクターの概略を図5(A)に示す。(1)第1組換えベクター(pBAD33beta/tet S1) 前述のpETS1を鋳型として、S1遺伝子全長をPCR法によって増幅した。このPCR産物をNdeIとSacIとで処理し、末端を平滑化して、S1遺伝子を含むNdeI-SacI断片(1676bp)を単離した。 一方、発現ベクターpPROtet6xHN(clontech社製)を、PacIとKpnIとで制限酵素処理し、この平滑した切断部分に前述のNdeI-SacI 断片を連結させた。得られたプラスミドをpPROtetS1とした。そして、このpPROtetS1について、DraIII認識サイトを導入したプライマーを用いて、PLtetプロモーターおよびT1ターミネーターを含む領域をPCRに法によって増幅させた。このPCR産物をDraIIIで処理して、前述のpBAD33beta のDraIIIサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドを第1組換えベクターpBADbeta/tetS1とした。(2)第2組換えベクター まず、プラスミドpASK-IBA3(SIGMA GENOSYS社製)をBspHI処理して、tetリプレッサー(tetR)遺伝子とアンピシリン耐性遺伝子を含む断片を単離した。一方、前述のpET TuTsをBglIIおよびSphIで処理して末端を平滑化し、再度、前記両端をライゲーションした。これによってpET TuTsのBglIIおよびSphI間に存在するBspHIサイトを1つ欠損させた。さらに、このpET TuTsをBapHI処理して、アンピシリン耐性遺伝子を含む断片を除去し、前述のtetR遺伝子とアンピシリン耐性遺伝子を含む断片を挿入した。得られたプラスミドを第2組換えベクターpET TsTu/tetRとした。 この2種類の組換えベクターを、前記実施例1と同様にE.coli BL21(DE3)株に導入して形質転換体を調製した。そして、これらの形質転換体について、培養、菌体の回収、可溶性画分および不溶性画分の分離を行った。前記培養は、まず、30℃の温度条件下、ラクトース(1mM)を含むLB培地で約16〜17時間培養した。そして、培養液のOD600が1.0になった時点で、サンプリングを行い(サンプル1)、さらに培養液に0.1mg/mlの濃度となるようにテトラサイクリン無水物を添加して、30℃で3時間培養を行った。そして、二回目のサンプリング(サンプル2)を行った後、さらに0.2重量%となるようにアラビノースを添加して30℃で3時間培養を行い、三回目のサンプリングを行った(サンプル3)。得られた培養液サンプル(サンプル1〜3)について、それぞれ実施例2と同様にして、菌体の回収、菌体破砕(破砕菌体画分(W))、可溶性画分(S)および不溶性画分(P)の分離を行った。 これらの破砕菌体画分(W)、可溶性画分(S)および不溶性画分(P)について、前記実施例2と同様にしてSDS−PAGE分析を行った。この結果を図5(B)の電気泳動写真に示す。同図において、レーンMは分子量マーカー、レーン1はサンプル1、レーン2はサンプル2、レーン3はサンプル3、Wは破砕菌体画分、Sは可溶性画分、Pは不溶性画分の結果を示す。図示のように、第1組換えベクターpBADbeta/tetS1と第2組換えベクターpET TsTu/tetRとを用いれば、可溶性画分Sにおいてβサブユニットが確認でき、さらに、ラクトース誘導やアラビノース誘導を行うことによって、より一層可溶性画分Sにおけるβサブユニット量が増加することが確認できた。 第1組換えベクターpBAD33betaおよび第2組換えベクターpET TsTuを導入した形質転換体について、βサブユニットの発現量と培養条件との関係を調べた。 前記実施例1と同様にしてE.coli BL21(DE3)株にpBAD33betaおよびpET TsTuを導入した形質転換体を、所定濃度のラクトース(0mM、0.1mM、1.0mM、10mM)を含むLB培地を用いて所定の温度(30℃、32.5℃、35℃、37℃)で培養し、培養液のOD600が1.0になった時点で、終濃度が0.2重量%となるようにアラビノースを添加した。そして、さらに所定温度(30℃、32.5℃、35℃、37℃)で3時間培養を行ってから、得られた各培養液について、実施例2と同様にして可溶性画分と不溶性画分とに分離を行った。 得られた可溶性画分について、前記実施例2と同様にしてSDS-PAGE分析を行った。この結果を図6に示す。同図においてレーンMは分子量マーカーであり、レーン*は、E.coli BL21(DE3)株にpBAD33betaのみを導入した形質転換体の可溶性画分、レーン★は、組換えベクターを導入していないE.coli BL21(DE3)株の可溶性画分、「0、 0.1、 1.0、 10」は、ラクトースの添加濃度(終濃度)である。図6からわかるように、ラクトースを終濃度1mMとなるように添加し、さらにアラビノース添加後に30℃で培養した場合、可溶性画分で比較的多くのβサブユニットを確認できた。 さらに、得られた各可溶性画分を用いてRNA複製活性(レプリカーゼ活性)を評価した。RNA複製活性は、以下に示す反応混合液20μL、可溶性画分2.5μL、および、MDV RNA(midivaliant-RNA)(20μg/μL)2.5μLを混合して、35℃で30分反応させた後、各反応液についてアガロースゲル電気泳動を行い、MDV-RNAの増幅(泳動バンド)程度によって確認した。これらの結果を図7の電気泳動写真に示す。同図において「0, 0.1, 1.0, 10」は、培養時のラクトース添加濃度(終濃度)、Rは、従来法(前記ナカイシらの文献)によって精製したQβレプリカーゼの結果である。そして、「+」は、反応時にMDV-RNAを添加した結果であり、「−」は、MDV-RNAを反応時に添加せず、電気泳動直前に添加した結果である。つまり、Rの「−」の結果よりも、電気泳動のバンドが濃い場合は、MDV-RNA量が増加したことになり、レプリカーゼ活性があると判断できる。 (反応混合液) Tris-HCl(pH8.0)(1mM) 1.25μL β-メルカプトエタノール(14.3mM) 1.7μL MgCl2(1mM) 10μL ホスホエタノールピルビン酸(0.5M) 10μL ピルベートキナーゼ(2mg/mL) 5μL リファンピシン(5mg/mL) 2μL NTP(各100mM) 各8μL DNase(3.7units/50μL) 8μL H2O 806.3μL 全量 1mL 図7に示すように、pBAD33betaおよびpET TsTuを導入した形質転換体の各レーンにおいてMDR-RNAを示すバンドのシグナル強度が、レーンR(−)よりも強くなっていることから、レプリカーゼ活性を有することが確認できた。 pBAD33betaおよびpET TsTuを導入した形質転換体を用いて、Qβレプリカーゼを発現させ、酵素精製を行った。 前記実施例1と同様にしてE.coli BL21(DE3)株に pBAD33betaおよびpET TsTuを導入した形質転換体を、アンピリシリン(50μg/mL)、カナマイシン(34μg/mL)、ラクトース(1mM)を含むLB培地(1L×39)で培養(30℃)した。そして、培養液のOD600が1.0程度になった時点で、濃度が0.2重量%となるようにアラビノースを添加して、さらに30℃で3時間振とう培養を行った。この培養液から遠心分離により大腸菌を回収し、回収した菌体(湿重量190g)に下記組成の緩衝液Aを添加してから、フレンチプレス(8000〜10,000psi)により超音波破砕した。超音波破砕後、これに硫酸アンモニウム(60%飽和)を添加し、常法により沈殿を回収して脱塩した。この回収画分を、さらに、以下に示すように、陰イオンクロマトグラフィー(商品名Q Sepharose FF:アマシャムファルマシア社製)、陽イオンクロマトグラフィ(商品名SP Sepharose FF:アマシャムファルマシア社製)、およびアフィニティークロマトグラフィー(商品名Ni-NTA SUPERFLOW:QIAGEN社製)に順に供して、単一精製されたQβレプリカーゼ(600mg)を回収した。緩衝液A50mM Tris-HCl(pH7.8)5mM beta-mercaptoethanol1mM EDTA55mM MgCl2500mM NaCl (Q Sepharose FF カラムクロマトグラフィー) 塩析により回収した前記回収画分を下記組成の緩衝液Bで置換(透析)して340mLの粗酵素液を調製した。この粗酵素液を、前記緩衝液Bで平衡化させたQ Sepharose FF カラム(φ3.0×40cm)に吸着させ、150mM NaClを含む緩衝液(2L)で洗浄した後、NaCl濃度150mM〜400mMの緩衝液Bでグラジェント溶出を行った。そして溶出画分について、吸光度(280nm)測定、SDS-PAGEならびに前述のRNA複製活性を測定し、Qβレプリカーゼの活性画分を回収した。緩衝液B50mM Tris-HCl(pH7.8)5mM beta-mercaptoethanol1mM EDTA5mM MgCl2100mM NaCl (SP Sepharose FF カラムクロマトグラフィー) 回収した活性画分(520mL)をPEG濃縮し、濃縮液(200mL)を下記組成の緩衝液Cで一晩透析した。透析後の回収液を遠心分離(12,000rpm、15分間)して、220mLの粗酵素液を得た。この粗酵素液を、前記緩衝液Cで平衡化したSP Sepharose FF カラム(100mL、φ2.2×29cm)に吸着させ、緩衝液C(200mL)で、吸光度(Abs280)が0.3以下になるまでカラムを洗浄した。その後、NaCl濃度100mM〜400mMの緩衝液Cでグラジェント溶出を行った。そして溶出画分について、吸光度(280nm)測定、SDS-PAGEならびに前述のRNA複製活性を測定し、Qβレプリカーゼの活性画分を回収した。緩衝液C50mM Tris-HCl(pH7.8)1mM EDTA5mM MgCl2100mM NaCl (Ni-NTA SUPERFLOW カラムクロマトグラフィー) 回収した活性画分(240mL)をPEG濃縮し、濃縮液(80mL)を下記組成の緩衝液Dで3回透析し(1、3、6時間)、さらに下記組成の緩衝液Eで3回透析を行った(1、2、8時間)。透析後の回収液を遠心分離(12,000rpm、15分間)して、75mLの粗酵素液を得た。この粗酵素液を、前記緩衝液Eで平衡化したNi-NTA SUPERFLOW カラム(100mL、φ2.2×34cm)に吸着させ、10mMイミダゾールを含む緩衝液Eで洗浄した後、イミダゾール濃度10mM〜500mMの緩衝液Eでグラジェント溶出を行った。そして、溶出画分について、吸光度(280nm)測定、SDS-PAGEならびに前述のRNA複製活性を測定し、Qβレプリカーゼの活性画分を回収した。 緩衝液D50mM Tris-HCl(pH7.8)150mM NaCl 緩衝液E100mM NaH2PO4(pH8.0)150mM NaCl 本実施例は、βサブユニットのfusion protein を発現させるための組換えベクターならびに形質転換体を調製した例である。形質転換体は、以下のようにして組換えベクターを構築し、前記実施例1と同様にしてE.coli BL21(DE3)株に導入することによって調製した。1.組換えベクターの構築 β遺伝子、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子を含む組換えベクターpBAD TsTu-betaを、PCR法を用いて構築した。 pET TsにおけるTs遺伝子を鋳型として、PCR法により、前記Ts遺伝子の終始コドン配列を塩基配列CATに置換し、且つ、前記Ts遺伝子の両側に制限酵素NdeI認識部位の塩基配列を付加した。そして、この鋳型とプライマーとを用いてPCR法による増幅を行い、得られた増幅物をNdeIで制限酵素処理することによって、約850 bpのTs遺伝子を含む断片を得た。得られたTs遺伝子断片を、前述のpET TuにおけるNdeI siteに挿入し、TsTu融合遺伝子を含むベクターを得た。 次に、前記TsTu遺伝子とβ遺伝子とを融合させた。これは、まず、β遺伝子のN末端に、PCR法によって、SfiI 認識部位の塩基配列と、リンカーとなるポリペプチド配列(GlyGlyGlyGlySerGlyGlyGlyGlySer または GlyGly)をコードする塩基配列とを付加した。N末端側に付加した塩基配列を以下に示す(配列番号17、18)。また、C末端側にはHis tag(His6分子)配列を付加した。そして、得られた増幅物をSfiIで制限酵素処理することにより、3870 bpのβ遺伝子を含む断片断片を得た。配列番号17:ggggcctctggggccgcaggtggaggcggttcaggcggaggtggctct配列番号18:ggggcctctggggccgcaggtgga そして、前述のTsTu融合遺伝子を含むベクターを鋳型として、さらにPCRによって、前記TsTu融合遺伝子のC末端側にSfiI認識部位の塩基配列を付加した。この増幅物(TsTu融合遺伝子含有断片)と、リンカーを付与したβ遺伝子含有断片とを連結し、3870bpのTsTu-beta 融合蛋白質遺伝子を含む断片を得た。この断片をpBAD33betaのNheIと HindIIIとの間に挿入し、TsTu-beta 融合蛋白質を発現するプラスミド pBAD33 TsTu-betaを得た。なお、配列番号19にTsTu-beta融合遺伝子の配列を、配列番号20にTsTu-beta融合タンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ示す。また、図8に発現させる融合タンパク質の概略を示す。なお、リンカーがGlyGlyGlyGlySerGlyGlyGlyGlySerであるプラスミドをpBAD TsTu-beta(GGGGS)2、リンカーがGlyGlyであるプラスミドをpBAD TsTu-beta(GG)という。 実施例7等で調製した形質転換体を用いて、βサブユニットの可溶化の促進を確認した。 pBAD TsTu-beta(GGGGS)2が導入されたものを「形質転換体TsTu-beta(GGGGS)2」、pBAD TsTu-beta(GG)が導入されたものを「形質転換体TsTu-beta(GG)」と呼ぶ。さらに、実施例として、前述のpBADbetaとpET TsTuを宿主に導入して「形質転換体beta+TsTu」を、前述のpBAD33beta/tetS1とpET TsTu/tetRを宿主に導入した「形質転換体TsTu/tetR+beta/tetS1」を調製した。また、比較例として、pBADbetaのみを宿主に導入した「形質転換体beta」、pBADbetaおよびpET S1のみを宿主に導入した「形質転換体S1+beta」、pBADbetaおよびpET Tuのみを宿主に導入した「形質転換体Tu+beta」、pBADbetaおよびpET Tsのみを宿主に導入した「形質転換体Ts+beta」を同様にして調製した。 これらの形質転換体を用いて、実施例2と同様にして、培養(37℃)、菌体の回収、破砕菌体画分、可溶性画分の回収を行い、それぞれの破砕菌体画分サンプルと可溶性画分サンプルとについてSDS-PAGE分析を行った。そして、各サンプルのSDS-PAGEにおけるβサブユニットのバンドについて、ソフトウエア(NIH image:http://rsb.info.nih.gov/nih-image/download.html)を用いて染色程度(強度)を解析した。そして、各形質転換体のサンプルについて、破砕菌体画分βサブユニットの強度(W)を100%とした場合の、可溶性画分βサブユニットの強度(S)について相対値(%)を求めた(100×S/W(%))。相対値が高い程、βサブユニットが可溶性画分に多く存在し、可溶化が促進されていると判断できる。この結果を下記表に示す。 組換えベクター 相対値 比較例 pBADbeta 0.9% pBADbeta、pET S1 0.5% pBADbeta、pET Tu 0.3% pBADbeta、pET Ts 2.6% 実施例 pBADbeta、pET TsTu 5.6% pBAD33beta/tetS1、pET TsTu/tetR 35% pBAD TsTu-beta(GGGGS)2 100% pBAD TsTu-beta(GG) 87.8% 以上のように、βサブユニットと、EF-TuならびにEF-Tsとを組換えベクターによって宿主で発現させることによって、βサブユニットの可溶化が促進されることがわかった。特に、組換えベクターpBAD TsTu-beta(GGGGS)2、pBAD TsTu-beta(GG)のように、βサブユニットとEF-TsサブユニットとEF-Tuサブユニットとの融合タンパクが発現するように組換えベクターを設計した場合、βサブユニットの可溶化が顕著に確認された促進された。 実施例7で作製した組換えベクターpBAD TsTu-beta(GGGGS)2に挿入されている融合タンパク質をコードする遺伝子について、無細胞タンパク質合成システムを用いてタンパク質合成を行い、βサブユニット、EF-TuおよびEF-Tsの融合タンパク質の活性を確認した。すなわち、無細胞タンパク合成によれば、宿主由来のEF-TuやEF-TSが含まれないため、レプリカーゼ活性を示せば、それは発現させた融合タンパク質が単独でレプリカーゼ活性を有しているといえる。なお、無細胞タンパク質合成システムとしては商品名wheat germ extract(プロメガ社製)を用いて、その使用説明書に準じて行った。 まず、組換えベクターpBAD TsTu-beta(GGGGS)2について、複合タンパク質をコードする配列(Ts遺伝子、Tu遺伝子およびβ遺伝子を含む配列)に対応するmRNAを、SP6 RNA polymeraseを用いてin vitroで調製した。そして、このmRNAを無細胞タンパク質合成システムのwheat germ extractに添加して、融合タンパク質の合成を行った。 得られた合成物サンプルについて、ウエスタンブロッティング分析を行った。なお、検出用の抗体としては、Qβレプリカーゼのβサブユニットに対する抗βサブユニット抗体を使用した。各サンプルについてのウエスタンブロッティング分析の結果を示すオートラジオグラムを、図9(A)に示す。図9(A)において、レーンMは分子量マーカーであり、レーン1が融合タンパク質、レーン2がβサブユニットのみをコードするmRNAを無細胞タンパク質合成システムに添加してβサブユニットのみを合成した結果、レーン3は、無細胞タンパク質合成システムにmRNAを添加していない結果(no template:ブランク)である。 図9(A)に示すように、組換えベクターpBAD TsTu-beta(GGGGS)2を用いた結果、βサブユニットとEF-TsとEF-Tuとの融合タンパク質(分子量約140kD)が確認できた。これらの融合タンパク質は、可溶性画分で確認できた。 続いて、組換えベクターpBAD TsTu-beta(GGGGS)2についての合成物サンプルを用いて、RNA複製活性(レプリカーゼ活性)を確認した。なお、前記RNA複製活性は、前記実施例5と同様にして確認した。この結果を図9(B)に示す。図9(B)において、レーンMはマーカーであり、レーンMは分子量マーカーであり、レーン1が融合タンパク質、レーン2がβサブユニットのみをコードするmRNAを無細胞タンパク質合成システムに添加してβサブユニットのみを合成した結果、レーン2+が、合成した前記βサブユニットに精製Tsおよび精製Tuを添加して反応を行った結果、レーン3は、無細胞タンパク質合成システムにmRNAを添加していない結果(no template:バックグラウンド)である。また、MDV-RNAの「+」「-」についても、前記実施例5と同様である。 その結果、図9(B)に示すように、組換えベクターpBAD TsTu-beta(GGGGS)2を用いた結果、MDV-RNA(+)のバンドが(-)よりも濃いことから、RNA複製活性を有していることがわかる。 なお、組換えベクターpBAD TsTu-beta(GG)についても同様にして無細胞合成システムを用いた合成、ウェスタンブロット等を行った結果、pBAD TsTu-beta(GGGGS)2と同様の結果が得られた。 実施例8で調製した形質転換体TsTu-beta(GGGGS)2について、実施例2と同様にして培養、菌体破砕(破砕菌体画分(W))、可溶性画分(S)および不溶性画分(I)の分離を行った。この破砕菌体画分(W)、可溶性画分(S)および不溶性画分(I)について、前記実施例2と同様にしてSDS−PAGE分析を行った。この結果を図10(A)の電気泳動写真に示す。同図において、レーンWは破砕菌体画分、Sは可溶性画分、Iは不溶性画分の結果を示す。図示のように形質転換体TsTu-beta(GGGGS)2について、EF-TsとEF-Tuとβサブユニットの複合タンパク質が確認できた。 また、前記形質転換体の可溶性画分を用いて、前記実施例5と同様にしてRNA複製活性(レプリカーゼ活性)を確認した。なお、参考例として、前記ナカイシらの文献にしたがって、Qβレプリカーゼのホロ酵素(Qβレプリカーゼ4量体)を調製し、同様にして活性の確認を行った。この結果を図10(B)に示す。図10(B)において、レーンMはマーカーであり、レーン1は、融合タンパク質、レーン2は、前記ホロ酵素、レーン3は、プラスミドを添加していないE.coli BL21(DE3)株培養液から調製した可溶性画分の結果(バックグラウンド)である。また、MDV-RNAの「+」「-」についても、前記実施例5と同様である。 その結果、図10(B)に示すように、組換えベクターpBAD TsTu-beta (GG)、pBAD TsTu-beta(GGGGS)2を用いた結果、MDV-RNA(+)のバンドが(-)よりも濃いことから、RNA複製活性を有していることがわかる。なお、組換えベクターpBAD TsTu-beta(GG)についても同様にして確認を行った結果、pBAD TsTu-beta(GGGGS)2と同様の結果が得られた。 組換えベクターpET TsTuとpBAD33betaとをE.coli BL21(DE3)株に導入した形質転換体、実施例8で調製した形質転換体TsTu-beta(GGGGS)2をそれぞれ培養し、発現したレプリカーゼをそれぞれ精製した。 (培養ならびに精製方法) E.coli DH5αにpBAD33 TsTu-betaを導入した形質転換体TsTu-beta(GGGGS)2を、30℃で、LB培地(2L)によりOD600=1.0まで培養した後、0.2重量%になるようにアラビノースを加え、さらに30℃で3時間培養した。培養後の大腸菌を遠心分離により回収し、下記組成の緩衝液F(40mL)で懸濁し、さらにDnaseIおよびlysozymeを加えた。この大腸菌懸濁液をフレンチプレスにより菌体破砕し、遠心分離により菌体抽出液を得た。得られた菌体抽出液を、アフィニティークロマトグラフィー(商品名Ni-NTA SUPERFLOW:QIAGEN社製)に吸着させ、20 mM イミダゾールを加えた緩衝液F、次いで4m ureaを加えた緩衝液Fで洗浄した。そして、250 mM イミダゾールを加えた緩衝液Fで特異的吸着物を溶出した。得られた溶出画分を、下記組成の緩衝液Gで透析した後、イオン交換ゲルクロマトグラフィー(前記Q-sepharose FF)に供して、前記緩衝液Gで溶出を行うことによって不純物を除去した。そして、融合蛋白質を含むフラクションを回収した結果,単一精製された融合蛋白質を得る事ができた。なお、組換えベクターpET TsTuとpBAD33betaとをE.coli BL21(DE3)株に導入した形質転換体については、実施例6と同様にして単一精製を行った。 緩衝液F100mM NaH2PO4(pH8.0)500mM NaCl20% glycerol5mM beta-mercaptoethanol0.005% Tween 205mM MgCl2 緩衝液G50mM Tris-HCl(pH7.8)5mM beta-mercaptoethanol1mM EDTA5mM MgCl2200mM NaCl また、参考例として、前記ナカイシらの文献にしたがって、Qβレプリカーゼのホロ酵素(Qβレプリカーゼ4量体)を調製した。 そして、形質転換体TsTu-beta(GGGGS)2から得られたレプリカーゼと、pET TsTuとpBAD33betaとを導入した形質転換体から得られたレプリカーゼ、前記ホロ酵素について、鋳型RNAあたりの反応速度を評価した。なお、形質転換体TsTu-beta (GGGGS)2から得られたレプリカーゼについては、さらに精製S1サブユニットを添加したものについても評価を行った。活性測定の条件は、特に示さない限り、文献(Kinetic properties of Qbeta replicase, an RNA dependent RNA polymerase, T, Nakaishi, K, Iio, K, Yamamoto, I, Urabe, and T, Yomo, journal of bioscience and bioengineering, 93(3), 322-327(2002).)と同じ条件とした。なお、酵素量は5×1011分子、初期鋳型RNAは、poly MDV RNA 1×108〜1×107分子とし、RNA増幅の時間変化は、商品名Syber Greenを用いたリアルタイム測定を行った。 RNA増幅の指数増殖期においける鋳型RNAあたりの反応速度v/[TP]の式を以下に示す。下記式において、FLは蛍光量、vは反応速度、TPは鋳型RNAあたりの反応速度、bは定数を示し、反応速度v/[TP]は、鋳型RNA(poly MDV RNA 244base)あたりの蛍光量が二倍になる時間の逆数として求められる。これらの結果を下記表に示す。なお、下記表において、形質転換体TsTu-beta(GGGGS)2由来の精製レプリカーゼをTsTu-beta(GGGGS)2と、組換えベクターpET TsTuとpBAD33betaとを含む形質転換体由来の精製レプリカーゼを「TsTu、beta」と表す。In2FL=[(v/[TP])/244]×t+b v/[TP] ホロ酵素 9.96±1.10 TsTu、beta 8.96±2.22 TsTu-beta (GGGGS)2 8.51±1.28 TsTu-beta (GGGGS)2+S1 7.04±1.66 前記表に示すように、本実施例において調製したタンパク質は、それぞれホロ酵素と同等の反応速度を示したことから、十分に活性を示すこと、また、S1サブユニットの添加無添加にかかわらず、十分に活性を示すことがわかった。 以上のように、本発明の形質転換体によれば、従来不溶性であったβサブユニットを可溶化した状態で大量発現することができる。このため、得られるレプリカーゼは活性を示すため、従来のように不溶性画分から酵素を回収する必要がなく、また低収率の問題もない。したがって、様々の応用が期待されるレプリカーゼを容易かつ簡便に大量に提供することができ、極めて有用である。図1は、本発明の実施例において使用した発現ベクターの構築を示す概略図である。図2は、本発明における第2組換えベクターの構築を示す概略図である。図3(A)は、形質転換体から可溶性画分を調製する工程の概略を示す図であり、同図(B)は、本発明の実施例における形質転換体から得られた画分のSDS-PAGE電気泳動写真である。図4(A)は、組換えベクターの組合せを示す表であり、同図(B)は、本発明の他の実施例における形質転換体から得られた画分のSDS-PAGE電気泳動写真であり、同図(C)は、前記形質転換体から可溶性画分を調製する工程の概略を示す図である。図5(A)は、本発明のさらにその他の実施例における第1組換えベクターおよび第2組換えベクターを示す図であり、同図(B)は、前記実施例における形質転換体から得られた画分のSDS-PAGE電気泳動写真である。図6は、本発明のさらにその他の実施例における形質転換体から得られた可溶性画分のSDS-PAGE電気泳動写真である。図7は、前記実施例における可溶性画分のレプリカーゼ活性を示すアガロースゲル電気泳動写真である。図8は、組換えベクターを構築するためのレプリカーゼサブユニットの組合せを示す概略図である。図9(A)は、本発明のさらにその他の実施例におけるオートラジオグラムであり、図9(B)は、前記実施例におけるレプリカーゼ活性を示すアガロースゲル電気泳動写真である。図10(A)は、本発明のさらにその他の実施例におけるSDS-PAGE電気泳動写真であり、図10(B)は、前記実施例におけるレプリカーゼ活性を示すアガロースゲル電気泳動写真である。レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子が、少なくとも1種類以上の組換えベクターにより宿主に導入されていることを特徴とする形質転換体。レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子を含有する第1の組換えベクターと、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を含有する第2の組換えベクターとが導入されている請求項1記載の形質転換体。第2の組換えベクターが、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子の下流に、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を有している請求項2記載の形質転換体。第1の組換えベクターが、発現ベクターにレプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子を挿入した組換えベクターであり、第2の組換えベクターが、発現ベクターにポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を挿入した組換えベクターである請求項2または3記載の形質転換体。1種類の組換えベクターが、レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を全て含有する請求項1記載の形質転換体。前記組換えベクターが、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子の下流に、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を有し、前記ポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子の下流に、レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子を有している請求項5記載の形質転換体。前記組換えベクターが、発現ベクターに、レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を挿入した組換えベクターである請求項5または6記載の形質転換体。前記発現ベクターが発現プロモーターを有し、レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子の全てが、同じプロモーターで制御されている請求項7記載の形質転換体。大腸菌の形質転換体である請求項1〜8のいずれか一項に記載の形質転換体。βサブユニットをコードする遺伝子が、大腸菌を宿主とするファージ由来レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子である請求項1〜9のいずれか一項に記載の形質転換体。前記ファージが、Qβファージである請求項10記載の形質転換体。少なくとも、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を含有する組換えベクター。ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子の下流に、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を有している請求項12記載の組換えベクター。発現ベクターに、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子と、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子とが挿入されている請求項12または13記載の組換えベクター。さらに、レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子を含有する請求項12〜14のいずれか一項に記載の組換えベクター。ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子の下流に、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を有し、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子の下流にレプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子を有している請求項15記載の組換えベクター。請求項1〜11のいずれか一項に記載の形質転換体を培養し、組換えタンパク質を発現させる工程を含む、レプリカーゼの製造方法。 【課題】 活性を有するレプリカーゼ(活性型レプリカーゼ)を大量発現できる形質転換体を提供する。 【解決手段】 レプリカーゼのβサブユニットをコードする遺伝子(β遺伝子)、ポリペプチド鎖延長因子EF-Tsをコードする遺伝子およびポリペプチド鎖延長因子EF-Tuをコードする遺伝子を、少なくとも1種類以上の組換えベクターにより宿主に導入し、得られた形質転換を培養することによって、活性を有する可溶性のレプリカーゼを発現することができる。前記組換えベクターとしては、βサブユニット遺伝子を有する第1組換えベクターと、EF-Ts遺伝子およびEF-Tu遺伝子をコードする遺伝子を有する第2組換えベクター(第2組換えベクター)との組合せ、またはβサブユニット遺伝子、EF-Tu遺伝子およびEF-Ts遺伝子を全て有する組換えベクターが好ましい。【選択図】 図5配列表