| タイトル: | 公開特許公報(A)_中空糸膜が設置されたマイクロチップおよびそれを用いるタンパク質の合成方法 |
| 出願番号: | 2004094530 |
| 年次: | 2005 |
| IPC分類: | 7,C12M1/34,B01D63/02,B01J19/00,C07K1/14,C12P21/00 |
黒田 俊彦 日笠 雅史 村上 裕二 JP 2005278439 公開特許公報(A) 20051013 2004094530 20040329 中空糸膜が設置されたマイクロチップおよびそれを用いるタンパク質の合成方法 東レ株式会社 000003159 黒田 俊彦 日笠 雅史 村上 裕二 7C12M1/34B01D63/02B01J19/00C07K1/14C12P21/00 JPC12M1/34 EB01D63/02B01J19/00 321C07K1/14C12P21/00 C 4 3 OL 14 (出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 「先進ナノバイオデバイスプロジェクト(ハイスループット・タンパク質解析チップの研究開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの) 4B029 4B064 4D006 4G075 4H045 4B029AA27 4B029FA15 4B029GA08 4B064AG01 4B064CA21 4B064CA50 4B064CC24 4D006GA06 4D006HA01 4D006JA70A 4D006MA01 4D006MB05 4D006MB09 4D006MB10 4D006MC16 4D006MC18 4D006MC22 4D006MC23 4D006MC27 4D006MC29 4D006MC30 4D006MC33 4D006MC34 4D006MC37 4D006MC39 4D006MC49 4D006MC54 4D006MC58 4D006MC62 4D006MC63 4D006MC85 4D006MC86 4D006NA04 4D006NA05 4D006NA54 4D006NA58 4D006PA01 4D006PB52 4D006PC69 4D006PC80 4G075AA02 4G075AA39 4G075AA70 4G075BB05 4G075DA02 4G075EB50 4G075FB06 4G075FB12 4G075FC02 4H045AA20 4H045FA70 本発明は、基板上に液体を流すための微細溝が形成されたマイクロチップ、およびそれを用いるタンパク質の合成方法に関する。 遺伝子解析研究は、塩基配列解析にとどまらず、本来、遺伝子の機能を解明することがその目的であり、それは遺伝子が転写・翻訳され、タンパク質になって初めて発現されることから、タンパク質に焦点を当てた知的基盤の早期準備が重要である。タンパク質はゲノムと異なり、増幅不可能である上に、構造の差異による多様な性質を持つため、非常に多くのタンパク質発現系をコントロールして合成し、構造解析や機能解析に結びつけることが必要となる。特に、遺伝子によりコードされたタンパク質の構造・機能を解析し、その情報を得ることは、薬物と標的分子の立体構造に基づいた医薬品の開発において非常に重要となる。例えば、多くの疾患に関連する転写調節因子のタンパク質群を研究することは、生活習慣病のメカニズムを解明する上で、さらに、このタンパク質自身がバイオ医薬品になり得るものとして非常に重要である。このようなタンパク質の構造および機能を、他国に先駆けて解析するためには、遺伝子によってコードされた高純度のタンパク質の合成条件をいち早く見出すことがポイントとなる。 一般に、タンパク質合成にはDNAを生細胞内に導入し、タンパク質を発現させる方法が広く利用されている。ただし、この方法では、発現産物に細胞毒性がある場合に収量が低下したり、細胞内で発現産物が分解するなどの問題がある。また、トランスジェニック動物を用いる場合、動物由来の病原因子の混入が問題となる可能性がある。我が国でも、狂牛病問題以降、国はウシ由来原材料を医薬品、化粧品等の素材に使用しない方向へ指導している。一方、無細胞系によるタンパク質合成は、これらの問題を回避できる手法であり、生細胞中では生産できないタンパク質を合成できる可能性をも有している。さらに、多くの種類の遺伝子をスクリーニングする場合、生細胞系では遺伝子に合わせて培養条件を変える等の工夫が必要となるのに対し、無細胞系では標準的な条件でタンパク質合成の成功率が高いため、種々のタンパク質を合成してその構造・機能を解析するのに非常に有力な手段となりうる。 無細胞系でタンパク質を合成する方法は、アレクサンダー・スピリンが開発した連続式無細胞合成系がベースとなる(例えば非特許文献1、非特許文献2参照)。この系では、タンパク質の合成槽に微細孔を有する膜を設置し、片側の槽でタンパク質を合成することで、合成反応に対して連続的にエネルギー源が供給されて翻訳反応が持続できるため、膜を用いない場合と比較してタンパク質の収量が大幅に向上されることが示されている。さらに、愛媛大遠藤や理研横山等の研究により、無細胞系で再現性よく、高収量のタンパク質合成が可能となっている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。しかし、これらはいずれも比較的大きな系で1条件ずつタンパク質合成を試みる必要があり、しかも合成反応だけで1日を要する、多量の検体・試薬を準備する必要がある、得られたタンパク質の精製、分析にも多くの時間を要するといった問題を抱えている。その上、無細胞系タンパク質合成では、それぞれに標準的な条件でのタンパク質合成の成功率が高いとはいえ、ある一定の条件ですべてのタンパク質を効率良く合成することは困難である。すなわち、タンパク質の種類により、反応液の組成など各種条件を変更しながら、最もタンパク質の収量が多くなる条件を探索しなければならず、多くの条件の中からどれがタンパク合成に最適であるかを、一つ一つの条件についてサンプル調製、測定を行い、確認しなければならない。このように、既存の無細胞系でのタンパク質合成方法では、一種類のタンパク質を合成するために多くの条件で繰り返し検討を行う必要がある。さらに、各条件による検定で高価な試薬を用いる必要があるため、コストが高くつくことも大きな問題となっている。 一方で、核酸(DNA、mRNA、cDNA)などの電気泳動を高速化する目的で、例えば、ガラス基板上に液体を流すための微細溝(以下マイクロ流路)を形成し、それをもう一枚の基板と貼り合わせることにより、キャピラリー電気泳動を行う試みがなされている。ここで、微細な流路が刻まれた部材をマイクロチップと呼び、これを用いた電気泳動のことをマイクロチップ電気泳動法、もしくはマイクロキャピラリー電気泳動法と呼ぶ。マイクロキャピラリー電気泳動法は、微細な流路を利用することで微量な試料を高感度で検出、定量しようというものであるが、現状では単に微細な流路がチップ上に形成されているというだけのものであることから、結局は単機能である(例えば特許文献3参照)。さらに、マイクロチップ上でタンパク質合成反応を行った場合、反応の際に生じる副生成物が反応系に悪影響を及ぼしたり、反応中に原料が枯渇したりすることがあり、マイクロチップ上での反応を長時間持続させることは非常に困難であった。 そこで、平膜を用いた合成方法が開発され、例えばロシュ社から“RTS”として上市されている。さらに、平膜を用いたタンパク質合成槽を有し、さらに合成したタンパク質を精製する槽、精製したタンパク質を蛍光色素で染色する槽、および染色したタンパク質を電気泳動により解析する部分を有するマイクロチップが考案されている(特許文献4参照)。しかしながら、タンパク質合成槽に平膜を用いる場合、合成槽の容積が大きくなり、1枚のチップに同一の回路を組み込むことは困難であった。したがって、同一のチップで複数のタンパク質合成条件を同時に検討するマイクロチップは、これまで考案されていなかった。サイエンス(Science)、米国、1988年、第242巻,pp1162−1164メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in enzymolozy)、米国、1993年、第217巻,pp123−142特開2000−333673号公報(特許請求の範囲)特開2000−175695号公報(特許請求の範囲)特開2000−314719号公報(特許請求の範囲)特開2003−334056号公報 そこで、本発明者らはかかる従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、チップに形成したタンパク質合成槽に中空糸膜を設置し、中空糸膜の内側をタンパク質合成槽とすることで、より小さな容積中に中空糸膜を充填できるため、複数の反応槽をマイクロチップ上に形成可能となり、したがって、一度に数多くの条件を検討できることを見いだし、本発明に到達した。すなわち本発明は、1枚のマイクロチップで複数のタンパク質合成条件を検討することで、タンパク質の最適な合成条件を簡便に見出すことのできるマイクロチップを提供することを目的とする。 本発明は、上記目的を達成するために以下の構成を有する。「(1)液体を流すための微細溝が設けられ、その一部に中空糸膜が内設されたマイクロチップであって、該中空糸膜の内側、外側双方に液体を充填可能な空間が設けられたことを特徴とする中空糸膜が設置されたマイクロチップ。」「(2)中空糸膜が設置されたマイクロチップを用いるタンパク質の合成方法。」 本発明によると、一枚のマイクロチップで、無細胞系により非常に少量の出発物質から効率よくタンパク質を合成し、その収量を確認することができる。さらに、一度に多数の合成条件を検討することが可能であることから、各々のタンパク質合成の最適条件を短時間で決定することができる。 請求項1は、無細胞系によるタンパク質合成に関して、タンパク質の合成から解析までを1枚のチップで行う際に、中空糸膜の内部をタンパク質合成槽とすることで、従来の平膜を用いた方法より単位容積中に多くの溶液を充填できることを特徴とする。したがって、タンパク質合成槽を小さな容積中に作製可能とあり、1枚のチップで数多くの合成条件を検討可能となる。 請求項2は、無細胞タンパク質合成反応において、反応中に生成する反応阻害物質を系外へ追い出す方法について、自然拡散による方式のみならず、供給槽内の溶液を循環、攪拌させることで、低分子量物質の移動効率をより高めることができることを特徴とする。したがって、合成反応により生じる、合成槽中のアデノシン−2−リン酸(ADP)、グアノシン−2−リン酸(GDP)等の反応阻害物質を効率よく供給槽側へと追い出し、一方供給槽中のアデノシン−3−リン酸(ATP)、グアノシン−3−リン酸(GTP)などのエネルギー源を効率よく合成槽側へと送り込むことができる。 請求項3は、上記の中空糸膜を内設したタンパク質合成槽の下流に合成したタンパク質を精製する槽、精製したタンパク質を標識する槽、標識したタンパク質を検出する部分を設置することで、1枚のチップでタンパク質の合成から精製、標識、解析を行うことができ、さらには合成槽の容積を小さくできることを特徴とする。したがって、1枚のチップに複数の合成槽を設けることができるため、一度に複数の合成条件の検討が可能となる。 請求項4は、上記の請求項1〜3の効果としてそれぞれ記載したマイクロチップを用いてタンパク質を合成することで、従来より少量の試薬で効率よくタンパク質を合成することが可能となり、さらに1枚のチップ上で合成から精製、染色、電気泳動による解析までを行うことが可能となることを特徴とする。したがって、一度に多くの合成条件を短時間で検討可能となる。 本発明におけるマイクロチップとは、樹脂製あるいはガラス製の基板に、中空糸膜を内設するためのチャンバーおよび液体を流すための微細溝が形成されたものである。特に、本発明でいうタンパク質合成チップとは、タンパク質の反応槽、精製槽、染色槽、および解析部分から構成されたチップのことを指し、チャンバーに膜を設置することでタンパク質の反応槽とする。反応槽は、タンパク質合成に必要な成分を充填してタンパク質を合成させる槽(以下、合成槽)とタンパク質合成に必要なエネルギー源を含む溶液を充填する槽(以下、供給層)の2槽から構成される。膜に中空糸膜を用いる場合、中空糸膜の内部を合成槽、外部を供給槽とする。 マイクロチップの大きさは特に限定されないが、既存のマイクロチップ用の検出器、例えば日立製コスモアイ等の装置で、合成したタンパク質の蛍光強度、吸光度等が測定できる大きさであることが好ましい。また、作製したマイクロチップの大きさに合わせて検出器を設計することも可能である。 マイクロチップ上に設けるチャンバーの数は特に限定されないが、1〜50個が好ましく、5〜20個がより好ましい。複数のチャンバーを設け、各チャンバーで異なる合成条件を同時に検討することにより、簡便かつ迅速に最適な反応条件を決定することができる。 マイクロチップの材質は特に限定されないが、例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルペンテン(PMPまたはTPX(登録商標))、ポリスチレン(PSt)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス類が好ましく用いられる。合成されたタンパク質を蛍光や吸光、発光等の光学的手段により解析することから、基板の透明度の高さや自家蛍光の低さ、加工の容易さ等が重要なポイントとなる。したがって、PMMA、PC、PMP、PDMS、石英ガラスが特に好ましく用いられる。 合成されたタンパク質をマイクロ流路に流したときに、マイクロ流路の表面に合成されたタンパク質が吸着してしまい、結果的に検出部分に到達するタンパク質の量が少なくなってしまうという問題が起こることがある。特に本発明では、合成されるタンパク質が微量であるため、この問題が非常に大きくなるときがしばしばある。したがって、マイクロ流路の表面は、タンパク質の吸着を防ぐための処理が施されてあることが好ましい。その具体的な方法としては、親水性の高分子化合物溶液あるいは無機化合物溶液をマイクロ流路の表面にコーティングして、マイクロ流路内壁および膜表面を基板材料よりも水との親和性が高い物質で被覆し、タンパク質の吸着を少なくすればよい。 本発明におけるマイクロチップに設置する中空糸膜は、液体中に含まれる分子量1000以下の低分子量物質が膜を介して双方向に移動可能な細孔を有することが好ましいが、このような機能を有する中空糸膜の製造方法は、湿式紡糸、乾湿式紡糸等、一般的に用いられる中空糸膜の製造方法であれば特に限定されない。例えば、ポリマー流体を二重環式口金を用いて中空糸状に紡糸すると、流下過程で多孔質を形成し、凝固浴を通すことで固化し、洗浄浴にて芯側流体を洗浄し、乾燥、捲縮付与後巻き取ると、中空糸膜が得られる。これらの作業をオンラインで行うことが好ましい。なお、得られた中空糸膜は表面の擦過傷、折り曲げや押圧による中空部の潰れ等の無いことが必須条件である。 本発明で用いる中空糸膜は、ドライタイプ、ウェットタイプともに利用可能である。ただし、ウェットタイプの中空糸膜を用いる場合は、膜の表面をグリセリン等で処理して乾燥を防ぐ必要がある。 マイクロチップに設置する中空糸膜の内径および外径は特に限定されないが、それぞれ10〜1000μm、20〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは、それぞれ30〜300μm、50〜500μmである。また、膜厚についても特に限定されないが、5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmがより好ましい。 マイクロチップに設置する中空糸膜の素材は、工業的に中空糸膜を形成可能な材料であれば特に限定されず、例えばポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、PMMA、ポリアクリロニトリル(PAN)、PC、ポリアミド、芳香族ポリアミド、PTFE、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル(PVC)、PE、PP、ポリイミド、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの合成高分子およびそれらの誘導体、それらを含む共重合体あるいは複合体、もしくはセルロース、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、硝酸セルロース、ジエチルアミノエチルセルロースなどの天然高分子およびそれらの誘導体、それらを含む共重合体あるいは複合体が好適に用いられる。また、これらの素材が2種以上混合されていてもよく、素材の性質を改良する目的で種々の添加物が混合されていてもよい。例えば、マイクロ流路にタンパク質が吸着するのを抑制することを目的として、親水性高分子あるいは疎水性高分子を中空糸膜の素材となる高分子とブレンドして製膜し、中空糸膜表面の親水化、疎水化を図ることは好ましい。また、中空糸膜の表面に親水性高分子あるいは疎水性高分子をコーティングする方法や、グラフト重合する方法も好ましい。ここで用いられる親水性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸、ポリビニルピリジン、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体およびこれらの金属塩、エステルなどの合成化合物や、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース 、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、キトサン、リグニン、ポリリジン、絹フィブロイン、カラギーナン、カゼイン、グリコール酸、コラーゲン、ゼラチンおよびこれらの金属塩、エステルなどの天然化合物が好適に利用される。なお、上述の合成高分子化合物と天然高分子化合物を組み合わせてもよい。その他の親水化方法としては、酸素プラズマを照射する方法やポリシラザンをコーティングする方法も利用できる。一方、疎水化方法としては、シリコンコーティング、フッ素コーティング、プラズマ照射による表面処理が好適に用いられる。上述の親水化、疎水化いずれの方法によっても、タンパク質の吸着を抑制することができるが、親水化するほうがマイクロチップ上の微細溝に液体が流れやすくなることから、本発明におけるタンパク質の吸着抑制には親水化がより好ましく用いられる。 本発明におけるマイクロチップは、前述の通り限られた大きさの中に多くの機能を盛り込むことから、タンパク質反応槽の大きさも限定されてしまう。したがって、限られたスペースでできるだけ反応槽の体積を大きくするには、2本以上の中空糸膜を束ねて用い、それらを並列に設置することが好ましい。そうすることで、反応槽における膜の表面積は平膜を設置するのと比較して格段に大きくなり、蛋白質の合成効率も増加することが期待できる。中空糸膜の設置方法は、2本以上を束ねてその両端をポッティング剤で固定してからチャンバーに内設し、その両端を固定してもよいし、中空糸膜をチャンバー内に並べて、その両端を直接ポッティング剤で固定してもよい。具体的には、中空糸膜を並列に並べておき、それらの両端をポリウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等のポッティング剤で固定し、中空糸膜内の流路を確保した状態でチャンバー内に接着して設置するのが好ましい。 タンパク質の合成は、中空糸膜内部を合成槽とし、そこに無細胞系タンパク質合成用試薬を満たすことで行う。ここで、合成槽となる中空糸膜内部の体積は、0.1〜100μLであることが好ましく、0.5〜50μLであることがより好ましい。0.1μL以下だと反応槽の体積が小さすぎ、そこで得られるタンパク質の合成量では検出が困難となるため、100μL以上だとタンパク質合成に必要な試料の量が多くなる上に、反応槽全体の体積が大きくなり、チップ上で複数の反応を同時に解析することが困難となるため、それぞれ好ましくない。この条件に合致させるには、中空糸膜の内径、膜厚がそれぞれ5〜1000μm、5〜500μmであることが好ましい。より好ましくは、内径が10〜100μm、膜厚が10〜50μmである。 中空糸膜の外部、すなわち供給槽には合成反応に不可欠なエネルギー源である、アデノシン−3−リン酸(ATP)やグアノシン−3−リン酸(GTP)などを含む溶液を充填する。ここで、設置する中空糸膜の分画分子量は、合成されたタンパク質が通過できず、エネルギー源となるATP、GTPなどの低分子量物質が通過できる細孔を有することが好ましい。また、本発明における中空糸膜の分画分子量は、合成するタンパク質の分子量によって最適値は異なるが、一般に合成するタンパク質の分子量の1/5〜1/2程度が好ましい。それより分画分子量が大きい場合、合成したタンパク質の一部が漏出する可能性が高くなるため好ましくない。一方、本発明で用いる中空糸膜の分画分子量の下限は1,000程度である。なぜなら、それより分画分子量が小さい中空糸膜を利用すると、低分子量物質の拡散効率が悪くなると考えられるからである。したがって、中空糸膜の分画分子量が1000未満だと、供給槽中のエネルギー源が合成槽側へ移動しにくくなり、合成槽で生じた合成反応を阻害する老廃物が供給槽側へ移動する効率も悪くなるため、合成効率が極端に低下するので好ましくない。本発明において、中空糸膜の内部と外部の体積比(内部/外部)は、1/1〜1/100が好ましく、1/2〜1/50がより好ましい。いっそう好ましくは、1/5〜1/20である。内部/外部比が1/1より大きいと拡散効果による合成槽へのエネルギー源の移動が困難になるため、1/100より小さいと合成槽の体積が非常に小さくなり合成できるタンパク質が非常に少量となるため、それぞれ好ましくない。なお、平膜を用いて反応槽を合成槽、供給槽の2槽に分ける方法と比較して、中空糸膜を用いて2槽に分けた場合、反応槽全体の体積が小さい場合にも、理想的な体積比を容易に実現できるため好ましい。さらに、反応槽に平膜を設置して合成槽、供給槽の2槽に区切った場合、合成槽のタンパク質吸着抑制処理を基板、膜の双方に施す必要が生じるが、中空糸膜内部を合成槽とする場合、合成されたタンパク質は中空糸膜内部にのみ接触するため、その処理は中空糸膜内表面のみでよい。 本発明において、中空糸膜の内側でタンパク質を合成する手段とは、中空糸膜の内側、すなわち合成槽にタンパク質の合成反応に必要な試薬を充填し、一方外側、すなわち供給槽にエネルギー源を含む液体を充填し、タンパク質の合成反応を行うことを指す。ここでいう無細胞系タンパク質合成用試薬は、DNAテンプレート、T7RNAポリメラーゼ、トランスファーRNA(tRNAs)、および翻訳用の大腸菌、小麦胚芽、網状赤血球などの抽出物(ライゼート)から構成され、これにタンパク質の原料であるアミノ酸やアデノシン−3−リン酸(ATP)やグアノシン−3−リン酸(GTP)をはじめとするエネルギー源を添加することで、タンパク質の合成が促進される。合成槽にこれらを緩衝液に溶解させた試薬を加え、一方供給槽にはATPやGTPといったエネルギー源を添加した緩衝液を充填しておく。すると、拡散効果により、低分子量物質であるATP、GTPは中空糸膜の細孔を介して供給槽から合成槽へと移動する。一方、ATPやGTPをタンパク質合成のエネルギー源として利用した後に生じ、タンパク質の合成反応を阻害するアデノシン−2−リン酸(ADP)やグアノシン−2−リン酸(GDP)等も、同様の原理で細孔を介して合成槽から供給槽へと移動する。したがって、合成槽には絶えず一定量のエネルギー源が供給されることになり、連続的かつ高効率に合成反応を進めることが可能となる。 本発明において、合成したタンパク質を精製する手段とは、合成槽で合成されたタンパク質溶液中に含まれるリボソーム等の夾雑物を除き、タンパク質のみを単離する操作のことを指す。ここで、合成されるタンパク質の精製を容易にするために、タンパク質にHis−Tag(ヒスタグ)と呼ばれるヒスチジン残基6量体からなる分子をC末端側に導入することが好ましい。ヒスタグを導入することで、後述の方法で合成したタンパク質とタンパク質合成に使用した成分とを容易に分離することができる。 中空糸膜の内部で一定時間タンパク質の合成反応を行った後、合成されたタンパク質を含む溶液を精製槽へ送液する。精製槽にはキレートカラムを充填しておき、合成されたタンパク質を含む溶液を送液する前に、ニッケル、亜鉛、銅、コバルトといった金属イオンをキレート結合させておく。そこへ合成したタンパク質を含む溶液をゆっくりと送液する。リン酸緩衝生理食塩液(PBS)等の中性の緩衝液で洗浄し、カラムに吸着しない画分を廃液ラインを通じて廃棄する。この操作により、リボソーム等タンパク質合成に利用した成分を除去することができる。続いて、キレートカラムに吸着したタンパク質を、溶出バッファーを用いて溶出する。溶出バッファーとしては、イミダゾール、塩、尿素、グアニジン塩酸塩、界面活性剤等を含む緩衝液あるいは水素イオン濃度(pH)が4以下の酸性緩衝液が好適に用いられる。溶出バッファーにイミダゾールを含む緩衝液を用いる場合、イミダゾール濃度は0.1〜1mol/Lが好ましく、0.25〜0.75mol/Lがより好ましい。0.1mol/L未満だとキレートカラムと結合したタンパク質が十分に溶出されないため、1mol/L以上だと溶出効果に差がないばかりか、イミダゾール溶液を通常の緩衝液へ溶媒置換する操作に時間を要するため、それぞれ好ましくない。また、塩を含む緩衝液を用いる場合、塩濃度は1〜5mol/Lが好ましく、2〜3mol/Lがより好ましい。1mol/L未満だとキレートカラムに結合したタンパク質の溶出が困難であるため、5mol/L以上だと塩濃度が高すぎて合成したタンパク質に悪影響を及ぼす可能性があるため、それぞれ好ましくない。尿素を含む緩衝液を用いる場合、尿素の濃度は4〜10mol/Lが好ましく、6〜8mol/Lがより好ましい。4mol/L未満だと尿素によるタンパク質変性作用が十分発揮されず、キレートカラムに吸着したタンパク質が溶出できないため、10mol/L以上だと合成したタンパク質に悪影響を及ぼす可能性があるため、それぞれ好ましくない。界面活性剤を用いる場合、使用する界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)を考慮する必要がある。というのも、界面活性剤濃度をCMC以上とした場合、界面活性剤そのものがミセルを形成して高分子化するため、界面活性剤がサンプル中で濃縮されることになり、合成したタンパク質に対して不都合が生じる可能性があるからである。したがって、本発明において界面活性剤を使用する場合は、その濃度は各界面活性剤のCMCの1/10000〜1/10であることが好ましい。 本発明における、精製したタンパク質を標識する手段とは、後の検出操作での感度を向上させることを目的として、信号を増幅させる標識物質により単離したタンパク質を標識することを指す。精製槽で単離したタンパク質を含む溶液を送液して染色槽へ移動させ、そこでタンパク質を標識する。標識物質は、後の検出部でタンパク質を認識できるものであればよく、例えば蛍光標識試薬、放射同位元素標識試薬、発光標識試薬等が好適に用いられる。簡便に標識可能で、取り扱いも容易であり、さらには種類が豊富であることから、蛍光標識試薬が好ましく用いられる。蛍光染色に用いる蛍光色素としては、タンパク質への蛍光標識が可能なもの、すなわちタンパク質のアミノ基(−NH2)、カルボキシル基(−COOH)、あるいはスルフヒドリル基(−SH)を標識できる試薬が好ましい。アミノ基を標識する試薬としては、イソチオシアネート基、ニトロアリールハライド基、酸クロリド、活性エステルなどを反応活性基とする蛍光物質が、カルボキシル基を標識する試薬としては、ブロモメチル基を反応活性基とする蛍光物質が、スルフヒドリル基を標識する試薬としては、マレイミド基、アリールハライド基などを反応活性基とする蛍光物質がそれぞれ好適に用いられる。本発明においては、タンパク質溶液と混合するだけで短時間で蛍光ラベルできるという簡便さが必要とされることから、例えばSYPRO(登録商標)Orange(Molecular Probe社)、SYPRO(登録商標)Red(Molecular Probe社)、SYPRO(登録商標)Ruby(Molecular Probe社)、SYPRO(登録商標)Tangerine(Molecular Probe社)、NanoOrange(登録商標)(Molecular Probe社)、Cy2、Cy3、Cy5、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)等が特に好適に用いられる。なお、溶液中に存在するタンパク質すべてを蛍光標識するには、過剰量の蛍光色素を反応させる必要があり、この場合未反応の蛍光色素が残存することが考えられるが、蛍光色素の分子量はタンパク質と比較して概して小さいため、後の検出操作により標識されたタンパク質と容易に区別できる。なお、例えばGreen fluorescent protein(GFP)のような、蛍光を有するタンパク質を合成した場合は、ここで示した標識操作を省略することができる。 本発明における、標識したタンパク質を検出し定量する手段とは、蛍光試薬等で標識したタンパク質を検出部で検出、定量することで、ある合成条件におけるタンパク質の合成量、収率等を算定することを指す。 本発明における検出部では、タンパク質の電気泳動などを用いることができる。具体的な方法としては、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、検出部分のマイクロ流路をキャピラリーとして用いたキャピラリー電気泳動、等電点電気泳動などが挙げられる。PAGEは、SDS−PAGEやNative−PAGEを使用することができる。本発明で特に好ましく用いられるのはSDS−PAGEである。具体的な方法としては、タンパク質合成槽からマイクロ流路を通り搬送されてきたタンパク質溶液に、尿素、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、2−メルカプトエタノールなどを加えてタンパク質を変性させ、さらにマイクロ流路でPAGEを行うことで達成される。 この検出用電気泳動は、タンパク質合成槽を有するチップと同一チップ上でのオンチップ電気泳動法によって行われることが好ましい。こうすることにより、一つのチップで合成、検出の両方が行える。また、オンチップ電気泳動を用いることで、電気泳動の時間を短縮することが可能であり、合成・検出の一連の作業をハイスループット化できる。 なお、タンパク検出部分に充填するゲルの組成は、一般的なSDS−PAGEに用いられるゲル組成であれば問題ない。ただし、合成ターゲットとなるタンパク質の分子量に合わせてアクリルアミド濃度を変えることが好ましい。具体的には、アクリルアミド濃度をタンパク質の分子量が5万〜10万のときは7.5%程度、3万〜7万の時は10%程度、1万〜4万の時は15%程度にすることが好ましい。また、このゲルに低濃度のメチルセルロースを加えることも好ましい。 以下、実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 実施例1(チャンバーを設けたマイクロチップへの中空糸膜の設置) 射出成形により、縦10mm、横2.5mm、高さ300μmのチャンバーを8個、それぞれのチャンバーについて精製槽、染色槽、および電気泳動による解析部分からなる微細溝を形成したポリメタクリル酸メチル(PMMA)製の基板(縦85mm×横50mm×厚さ1.5mm)を作製した。約15mmにカットした表面親水化ポリスルホン系中空糸膜(内直径200μm、外直径280μm)を10本並べ、両端をシリコーン系高分子を用いてポッティングした。1時間静置してポッティング剤を十分に硬化させた後、端面をカットして長さを10mmとした。なお、このとき中空糸膜内側の流路が確保されていることを確認した。これらを基板上に形成したチャンバーにそれぞれはめ込み、端部を接着剤で固定してタンパク質反応槽とした。 実施例2(中空糸膜が設置されたマイクロチップによる無細胞系タンパク質合成) 実施例1で作製した反応槽に内設された中空糸膜の内側、外側をともにRNaseフリーの水で十分に洗浄した。中空糸膜内側の合成槽に、表1に示した8種の条件でタンパク質合成溶液(Roche社製の大腸菌抽出物、反応ミックス、供給ミックス、アミノ酸、RNase阻害剤から構成されるキットおよびChloramphenicol acetyltransferase(CAT)遺伝子を導入したテンプレート)をそれぞれ3μL充填した。なお、表1に示す試薬濃度とは、Rocheのキットを構成する各試薬のうち、大腸菌抽出物、反応ミックス、テンプレートを分画分子量3000の遠心濃縮ユニット(ザルトリウス製)を用いて濃縮し、それぞれ元の濃度を1とした場合の相対濃度を示したものである。一方、中空糸膜外側の供給槽には供給ミックスを充填した。 25℃で1時間振盪後、それぞれの反応槽で合成されたタンパク質を含む溶液をポンプを用いて精製槽へと送液した。なお、精製槽に充填したキレートカラムは、合成反応中に0.1M硫酸ニッケル溶液を用いてキレートさせておいた。リン酸緩衝生理食塩液(PBS)で洗浄し、カラムに吸着しなかった画分を廃液ラインを通じて廃棄した。次いで、カラムに吸着したタンパク質を0.5Mイミダゾール溶液で溶出し、染色槽へ送液した。タンパク質溶液に1mg/mLに調製したSYPRO(登録商標) Orange溶液2μLを加え、30秒反応させた。標識されたタンパク質溶液をポンプを用いて電気泳動槽へと送液し、100Vで泳動した。検出部にて励起波長470nm、蛍光波長570nmでタンパク質を検出した。合成条件がpH7、試薬濃度×1(すなわちサンプル2)の蛍光強度を1とした場合の、各サンプルの相対蛍光強度を表2に示した。その結果、pHは中性条件、試薬濃度はRocheのプロトコールの4倍で最も高い合成効率が得られた。 比較例1 0.2mLのPCRチューブにそれぞれ3μLのタンパク合成溶液(組成は実施例2と同様)を入れ、25℃で1時間振盪し、タンパク質合成反応を行った。反応後のタンパク質溶液に1mg/mLに調製したSYPRO Orange(登録商標)溶液2μLを加え、30秒反応させた。標識されたタンパク質を、上記のPMMA基板で作製したマイクロチップの解析部分入り口に移し、100Vで電気泳動を行った。合成条件がpH7、試薬濃度×1(すなわちサンプル2)の蛍光強度を1とした場合の、各サンプルの相対蛍光強度を表3に示した。その結果、実施例2と同様に、pH7、試薬濃度はRocheのプロトコールの4倍のとき最も高い合成効率が得られたものの、実施例2と比較して相対蛍光強度ははるかに低く、膜を用いなかった場合と比べてタンパク質の合成効率が悪いことが示された。 本発明におけるマイクロチップを用いることで、上述の通り無細胞タンパク質合成の最適な合成条件を、短時間で非常に少ない試薬量により決定することができるため、これを用いて、例えば無細胞系による組み換えタンパク質生産における条件検討を行うことは、非常に有効である。タンパク質反応槽に装填する、両端がポッティングされた中空糸膜を表した図である。本発明におけるマイクロチップの1例を示した図である。本発明におけるマイクロチップの1例を示した図である。符号の説明 1.中空糸膜 2.ポッティング部 3.マイクロチップ基板 4.タンパク質反応槽 5.タンパク質精製槽 6.タンパク質染色槽 7.タンパク質検出部液体を流すための微細溝が設けられ、その一部に中空糸膜が内設されたマイクロチップであって、該中空糸膜の内側、外側双方に液体を充填可能な空間が設けられたことを特徴とする中空糸膜が設置されたマイクロチップ。マイクロチップに内設された中空糸膜の内側、外側それぞれに充填された液体に含まれる分子量1000以下の低分子量物質を、中空糸膜の細孔を介して膜の反対側へ双方向に移動させる機能を有することを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜が設置されたマイクロチップ。中空糸膜の内側でタンパク質を合成する手段と、合成したタンパク質を精製する手段と、精製したタンパク質を標識する手段と、標識したタンパク質を検出し定量する手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜が設置されたマイクロチップ。請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜が設置されたマイクロチップを用いるタンパク質の合成方法。 【課題】1枚のマイクロチップで複数のタンパク質合成条件を検討することで、タンパク質の最適な合成条件を簡便に見出すことのできるマイクロチップを提供することを目的とする。 【解決手段】液体を流すための微細溝が設けられ、その一部に中空糸膜が内設されたマイクロチップであって、該中空糸膜の内側、外側双方に液体を充填可能な空間が設けられたことを特徴とする中空糸膜が設置されたマイクロチップ。 【選択図】図3