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タイトル:公開特許公報(A)_イノシトールリン脂質の測定方法
出願番号:2004093248
年次:2005
IPC分類:7,G01N33/53,C12Q1/28,C12Q1/48,G01N33/533,G01N33/535,G01N33/543


特許情報キャッシュ

竹縄 忠臣 古谷 昌広 小坂 美恵子 北 敏和 JP 2005283157 公開特許公報(A) 20051013 2004093248 20040326 イノシトールリン脂質の測定方法 アルフレッサファーマ株式会社 000231394 南條 博道 100104673 竹縄 忠臣 古谷 昌広 小坂 美恵子 北 敏和 7G01N33/53C12Q1/28C12Q1/48G01N33/533G01N33/535G01N33/543 JPG01N33/53 SC12Q1/28C12Q1/48 ZG01N33/533G01N33/535G01N33/543 551D 24 OL 26 4B063 4B063QA01 4B063QQ70 4B063QR02 4B063QR06 4B063QR82 4B063QS36 4B063QX01 本発明は、試料中のイノシトールリン脂質の測定方法に関する。 イノシトールリン脂質は、細胞膜に普遍的に存在するリン脂質の1つであり、親水性部分であるイノシトール環と疎水性部分であるジアシルグリセロールとがリン酸基を介して結合した構造を有している。このイノシトール環は、リン酸基で置換され得、置換される位置と数によって、様々な分子種が存在する。近年、イノシトールリン脂質ならびにその多様な分子種がシグナル伝達に関与していると考えられ、それぞれの分子種について、シグナル伝達に関する研究が盛んに行われている。例えば、イノシトールリン脂質の1つであるホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸は、受容体刺激により活性化されたホスホリパーゼCにより分解され、二次メッセンジャーであるイノシトール3−リン酸およびジアシルグリセロールが産生されて、小胞輸送やアクチン骨格系の制御などに関わっていることが知られている。 また、ホスファチジルイノシトール3,4,5−三リン酸も、増殖や分化のほか、癌化や細胞極性制御、小胞輸送、インスリンのシグナル伝達などの多様な情報伝達の役割を果たし、多くの研究者の注目を集めている。 他方、脂質によって活性制御を受ける蛋白質は、PHドメイン、FYVEドメイン、PXドメイン、ENTHドメイン(いずれも後述)などが知られており、これらは脂質と結合し得る脂質結合ドメインを有する。これらのドメインを有する融合蛋白質を用いて、リン脂質の代謝、特に膜構造における代謝を可視化する研究が行われている。例えば、緑色蛍光蛋白質(GFP)と融合したPHドメインを用いて、PC12h細胞内のイノシトールリン脂質の代謝を画像化ならびに数値化する方法(非特許文献1参照)が検討されている。また、脂質抽出物をニトロセルロース膜に固定し、PHドメインを有する融合蛋白質、この融合蛋白質に対する抗体および金標識プロテインAを用いて、免疫学的に膜に結合したリン脂質が検出できることを確認し、さらに、細胞の電子顕微鏡用の切片について、同様の免疫学的操作を行い、細胞内のホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸の局在を、電子顕微鏡で同定する方法(非特許文献2参照)も知られている。 ところで、イノシトールリン脂質を検出あるいは定量することは、イノシトールリン酸のシグナル伝達機構解明に重要であるばかりでなく、細胞の癌化あるいは糖尿病のマーカーとしての利用などの面においても重要である。特許文献1には、GFPで標識したPHドメインを、リン脂質の代謝産物であるイノシトール3−リン酸と接触させ、GFPが発する蛍光強度を測定することにより、試料中のイノシトール3−リン酸濃度を定量する方法が記載されている。しかしながら、試料中に含まれる微量のイノシトールリン脂質を簡便に定量する方法については、未だ報告されていない。特開2000−60565号公報Moritaら、BBRC (2003年) 308巻,673-678頁 "Simultaneous imaging of phosphatidyl inositol metabolism and Ca levels in PC12h cells"Wattら、Biochem. J. (2002年) 363巻,657-666頁 "Subcellular localization of phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate using the pleckstrin homology domain of phospholipase C delta1" 本発明は、試料中に微量に含まれるイノシトールリン脂質の量を簡便に測定する方法およびそのための測定キットを提供することを目的とする。 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、イノシトールリン脂質とイノシトールリン脂質結合性蛋白質とを結合させることによって、細胞抽出液などの生体試料中に微量にしか含まれないイノシトールリン脂質を正確に定量できることを見出し、本発明を完成した。 本発明は、イノシトールリン脂質の測定方法を提供し、該方法は、試料中に含まれるイノシトールリン脂質を固相に固定する工程;該固定されたリン脂質を、イノシトールリン脂質結合性蛋白質と接触させて、該リン脂質と該結合性蛋白質との結合体を形成させる工程;および、該結合体中の結合性蛋白質の量を測定する工程、を含む。 本発明はまた、イノシトールリン脂質の他の測定方法を提供し、該方法は、固相に固定されたイノシトールリン脂質を準備する工程;該固定されたイノシトールリン脂質に試料およびイノシトールリン脂質結合性蛋白質を添加して、該固定されたイノシトールリン脂質と該試料中のイノシトールリン脂質とを該結合性蛋白質に対して競合的に結合させる工程;および、該固相に固定された該結合性蛋白質の量を測定する工程、を含む。 好適な実施態様では、上記のいずれの方法においても、上記結合性蛋白質は、蛍光標識されたイノシトールリン脂質結合ドメインであるか、またはイノシトールリン脂質結合ドメインと緑色蛍光蛋白質(GFP)との融合蛋白質である。 好適な実施態様では、上記のいずれの方法においても、上記結合性蛋白質の量は、上記結合性蛋白質に特異的に結合する標識蛋白質を用いる酵素免疫アッセイにより測定される。 より好適な実施態様では、上記結合性蛋白質は、イノシトールリン脂質結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質であり、そして上記標識蛋白質は、ペルオキシダーゼで標識された抗GST抗体またはグルタチオン(GSH)である。 好適な実施態様では、上記のいずれの方法においても、上記結合性蛋白質は、イノシトールリン脂質結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質であり、該融合蛋白質は酵素標識されている。 好適な実施態様では、上記酵素は、ペルオキシダーゼである。 本発明は、イノシトールリン脂質のさらに他の測定方法を提供し、該方法は、固相に固定された第一のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を準備する工程;該固定された第一の結合性蛋白質に対して、該試料中のイノシトールリン脂質とキャリア結合イノシトールリン脂質とを競合的に結合させる工程;該固相を洗浄後、第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を添加して、該固定されたキャリア結合イノシトールリン脂質と該第二の結合性蛋白質との結合体を形成させる工程;および、該結合体を洗浄後、該固定された第二の結合性蛋白質の量を測定する工程、を含む。 好適な実施態様では、上記第二の結合性蛋白質は、蛍光標識されたイノシトールリン脂質結合ドメインであるか、またはリン脂質結合ドメインと緑色蛍光蛋白質(GFP)との融合蛋白質である。 好適な実施態様では、上記第二の結合性蛋白質の量は、該第二の結合性蛋白質に特異的に結合する標識蛋白質を用いる酵素免疫アッセイにより測定される。 より好適な実施態様では、上記第二の結合性蛋白質は、イノシトールリン脂質結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質であり、そして上記標識蛋白質は、ペルオキシダーゼで標識された抗GST抗体またはGSHである。 好適な実施態様では、上記第二の結合性蛋白質は、イノシトールリン脂質結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質であり、該融合蛋白質は酵素標識されている。 好適な実施態様では、上記酵素は、ペルオキシダーゼである。 好適な実施態様では、上記のいずれの方法においても、上記イノシトールリン脂質結合性蛋白質は、2以上のリン脂質結合ドメインを含有する。 好適な実施態様では、上記のいずれの方法においても、上記イノシトールリン脂質結合性蛋白質は、PHドメイン、FYVEドメイン、PXドメイン、ENTHドメイン、およびGRAMドメインからなる群より選択される少なくとも1つのイノシトールリン脂質結合ドメインを含有する。 より好適な実施態様では、上記PHドメインは、PLCδ1PHドメイン、Tapp1PHドメイン、またはGRP1PHドメインである。 好適な実施態様では、上記のいずれの方法においても、上記イノシトールリン脂質は、ホスファチジルイノシトール3−リン酸、ホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸、ホスファチジルイノシトール3,4−二リン酸、およびホスファチジルイノシトール3,4,5−三リン酸からなる群より選択される少なくとも1つである。 本発明はまた、固相、試料中のイノシトールリン脂質を該固相に固定するための試薬、ブロッキング剤を含有する緩衝液、およびイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含む、イノシトールリン脂質測定用キットを提供する。 本発明はさらに、イノシトールリン脂質が固定された固相、およびイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含む、イノシトールリン脂質測定用キットを提供する。 好適な実施態様では、上記イノシトールリン脂質結合性蛋白質は標識されている。 より好適な実施態様では、上記キットは、上記イノシトールリン脂質結合性蛋白質と特異的に結合し得る標識蛋白質をさらに含有する。 本発明はまた、第一のイノシトールリン脂質結合性蛋白質が固定された固相、キャリア結合イノシトールリン脂質、および第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含有する、イノシトールリン脂質測定用キットを提供する。 好適な実施態様では、上記第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質は標識されている。 他の好適な実施態様では、上記キットは、上記第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質と特異的に結合する標識蛋白質および標識検出試薬をさらに含む。 本発明の方法により、試料中に微量しか存在しないイノシトールリン脂質を正確にかつ簡便に検出することができる。特にELISAを用いるイノシトールリン脂質の定量法を用いると、癌、糖尿病などの早期発見が可能となる。 (本発明に用いられる材料) A.試料 本発明に用いられる試料としては、その由来に特に制限はない。血液、血清、血漿等の体液、組織、細胞等が挙げられる。組織および細胞の場合は、これらを破砕しその抽出液を試料とし得る。 B.イノシトールリン脂質 本発明における測定対象であるイノシトールリン脂質は、特に制限はない。例えば、ホスファチジルイノシトールおよびそのイノシトール部位がリン酸化されたものであれば、本発明の方法により測定され得る。以下に、略号とともに、本発明の測定対象のイノシトールリン脂質を例示する。 PI :ホスファチジルイノシトール PI(3)P :ホスファチジルイノシトール3−リン酸 PI(4)P :ホスファチジルイノシトール4−リン酸 PI(5)P :ホスファチジルイノシトール5−リン酸 PI(3,4)P2 :ホスファチジルイノシトール3,4−二リン酸 PI(3,5)P2 :ホスファチジルイノシトール3,5−二リン酸 PI(4,5)P2 :ホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸 PI(3,4,5)P3:ホスファチジルイノシトール3,4,5−三リン酸 本発明においては、これらのリン脂質の総量を測定できるだけでなく、用いるイノシトールリン脂質結合性蛋白質(後述)の特異性に対応して、単一のリン脂質の量だけでなく、複数のリン脂質の量を、それぞれ独立して測定することができる。 C.イノシトールリン脂質結合性蛋白質(結合性蛋白質) 本発明の方法に用いられる「イノシトールリン脂質結合性蛋白質」は、イノシトールリン脂質と特異的に結合する「イノシトールリン脂質結合ドメイン」を有する蛋白質をいい、その種類ならびに由来は問わない。本発明においては、イノシトールリン脂質結合ドメインを有する融合蛋白質が好ましく用いられる。以下、「イノシトールリン脂質結合ドメイン」を単に「PI結合ドメイン」といい、そして「イノシトールリン脂質結合ドメインを含有する融合蛋白質」を「結合性融合蛋白質」ということがある。 本発明に用いられるイノシトールリン脂質結合ドメイン(PI結合ドメイン)としては、例えば、PHドメイン、FYVEドメイン、PXドメイン、ENTHドメイン、GRAMドメインなどが挙げられるが、これらに制限されない。 PHドメインは、プレクストリン中に最初に見出されたドメインであり、プレクストリン相同ドメイン(Pleckstrin homology domain)として、古くから知られ、よく研究されている。PHドメインは、血小板に多く含まれる蛋白質であり、100〜120アミノ酸よりなる。 PHドメインを有する蛋白質は、100以上も存在する。PHドメインには、PI(4,5)P2と優先的に結合するドメイン、PI(3,4,5)P3と優先的に結合するドメインなどがあり、その結合の特異性に基づいて、数種のサブグループに分けられる。例えば、ホスホリパーゼC(PLC)のPI結合ドメインであるPLCδ1PHドメインは、PI(4,5)P2に特異的に結合する。Tapp1(Tandem-PH-domain-containing protein-1)PHドメインは、PI(3,4)P2に特異的に結合し、そしてGRP1(General receptor for phosohoinositides-1)PHドメインは、PI(3,4,5)P3に特異的に結合する。 FYVEドメインは、初期エンドソーム抗原(early endosome antigen:以下、EEA1という)中の亜鉛フィンガードメイン(zinc finger domain)として見出されたドメインである。Fab1p、YOTB、Vac1p、およびEEA1などの蛋白質が共通して有するドメインであるため、その頭文字をとってFYVEドメインと名づけられている。このFYVEドメインは、PI(3)Pと特異性に結合するドメインである。 PXドメイン(Phox homology domain)は、NADPHオキシダーゼを構成するp47phoxやp40phoxに含有されているドメインである。PXドメインは、SNX3、SNX7、Vamlp、Beml、CISKなどの蛋白質にも含まれる。PI(3,4)P2およびPI(3)Pと結合するが、FYVEほど結合特異性は高くなく、主としてホスファチジルイノシトール3−リン酸キナーゼの産物と結合することが知られている。 ENTHドメイン(Epsin N-terminal homology domain)は、クラスリンによって媒介されるエンドサイトーシスに関与する蛋白質のドメインである。このドメインは、エプシン1〜3、AP180、Hip1Rなどの蛋白質中に含まれる140アミノ酸からなるドメインであり、PI(4,5)P2と結合することが知られている。 GRAMドメイン(Glucosyltransferases, Rab-like GTPase activators, and Myotubularins)は、ヒト脱リン酸化酵素の1つであるミオツブラリン(Myotubularin)などの蛋白質中に含まれるドメインであり、PI(3,5)P2を認識することが知られている。 これらのPI結合ドメインは、イノシトールリン脂質結合性蛋白質中に1つだけ含まれていてもよいし、2以上含まれてもよい。特異性および感度の面から、複数含まれることが好ましい。 PI結合ドメインを含有する融合蛋白質(結合性融合蛋白質)としてPI結合ドメインと融合される蛋白質は、特に制限はないが、一般に免疫学的アッセイに使用される配列既知の蛋白質が好ましく用いられる。例えば、PI結合ドメインと緑色蛍光蛋白質(以下、GFPという)との融合蛋白質、PI結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(以下、GSTという)との融合蛋白質などが用いられる。 結合性融合蛋白質は、当業者が通常用いる技法によって容易に調製される。例えば、PI結合ドメインをコードする塩基配列および融合される蛋白質をコードする塩基配列に基づいて、PCRなどを用いて、該結合性融合蛋白質をコードする遺伝子が調製される。得られた結合性融合蛋白質遺伝子は、適切な発現ベクターに導入され、適切な宿主(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞など)に導入され、該遺伝子を発現させることにより、PI結合ドメインを有する融合蛋白質が得られる。 イノシトールリン脂質結合ドメインをコードする配列は公知であり、例えば、PLCδ1PHドメイン遺伝子の塩基配列は、GenBank Accession Number: NM 019676 region: 1-140a.a.から、Tapp1PHドメイン遺伝子の塩基配列は、GenBank Accession Number: AF286160 region: 180-405a.a.から、そして、GRP1PHドメイン遺伝子の塩基配列は、GenBank Accession Number: AJ005197region: 253-392a.a.から入手可能である。 D.標識 標識は、イノシトールリン脂質とイノシトールリン脂質結合性蛋白質との結合体(以下、単に「結合体」という場合がある)を検出するために用いられる。本発明に用いられる標識は、各種測定機器により測定可能であれば、特に限定されない。化学的反応、酵素学的反応、免疫学的アッセイ(例えば、ELISA)などで当業者が通常用いる標識が用いられる。本発明においては、(d-1)標識されたイノシトールリン脂質結合性蛋白質を用いる場合、および(d-2)標識蛋白質を用いる場合があるので、それぞれについて、説明する。 (d-1)標識を有するイノシトールリン脂質結合性蛋白質 標識を有するイノシトールリン脂質結合性蛋白質は、結合体を直接的に検出するために用いられる。このような目的で使用する場合、例えば蛍光物質のような、結合体を直接検出できる標識が好ましく用いられる。このような例として、PLCδ1PHドメインに蛍光物質をカップリングした例がある(特許文献1参照)。なお、標識を有するイノシトールリン脂質結合性蛋白質には、それ自体が標識として機能する蛋白質、例えば、GFPなどの蛍光発色性蛋白質も含まれる。 また、酵素で標識し、各種基質を添加することにより、結合体を検出することも可能である。このような例として、酵素標識された、PI結合ドメインとGSTとの融合蛋白質を用いることができる。標識に用いる酵素としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなどが好ましい。なお、融合蛋白質を、複数個の酵素で標識することにより、酵素活性を高め、感度を上げることも可能である。 (d-2)標識蛋白質 標識蛋白質は、イノシトールリン脂質結合性蛋白質に特異的に結合し得、そして、測定のための標識を有する蛋白質をいう。標識蛋白質は、PI結合ドメインを含有する融合蛋白質とイノシトールリン脂質との結合体の検出に有用である。標識蛋白質としては、融合蛋白質のPI結合ドメイン以外の部位に対する抗体であって、標識を有する抗体が好ましい。特に、標識が酵素である抗体、すなわち、エンザイムイムノアッセイ(EIA、ELISAなど)に使用され得る酵素標識抗体が、最も好ましく用いられる。例えば、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなどで標識された抗体が好ましい。抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。 本発明においては、例えば、イノシトールリン脂質結合性蛋白質としてPI結合ドメインとGSTとの融合蛋白質を用いる場合には、標識蛋白質として、例えば、ペルオキシダーゼ標識抗GST抗体、あるいはグルタチオン(GSH)とペルオキシダーゼとの融合体が用いられる。 E.キャリア結合イノシトールリン脂質 キャリア結合イノシトールリン脂質は、固相に固定されたイノシトールリン脂質結合性蛋白質に対して、試料中のイノシトールリン脂質と競合的に結合させるために用いられる。キャリアとしては、BSAなどの蛋白質が好ましく用いられる。キャリア結合イノシトールリン脂質は、固相に固定されたイノシトールリン脂質結合性蛋白質と結合し、さらにその後に添加される遊離のイノシトールリン脂質結合性蛋白質とも結合する必要がある点から、イノシトールリン脂質を少なくとも2分子有することが好ましい。 キャリアとイノシトールリン脂質とは、例えば、以下のようにして結合することができる。BSAを用いる場合を例に挙げると、まず、モノベンジルカルボン酸エステルと1−アシルグリセロホスホイノシトールとを反応させて、1−アシル−2−モノベンジルカルボニルホスホイノシトールを得る。これを、パラジウム/炭素を用いて水素ガス雰囲気下で脱ベンジル化し、1−アシル−2−モノカルボニルホスホイノシトールを得る。次いで、得られた1−アシル−2−モノカルボニルホスホイノシトールを、塩化オキザリルにより塩素化し、発色団である芳香族ヒドロキシ化合物(例えば、p−ニトロフェノール)をトリエチルアミン存在下でエステル化し、BSAのアミノ基と反応させて、BSA結合イノシトールリン脂質を得ることができる。 F.固相 本発明において、固相とは、イノシトールリン脂質またはイノシトールリン脂質結合性蛋白質をその表面に結合または固定し得る材料をいう。固相には、免疫学的測定に用いられるマイクロタイタープレート、マイクロチューブ、シャーレ、試験管などの容器、並びに、ビーズ、ラテックス、金コロイド、メンブラン(ニトロセルロースメンブラン)、磁性粒子体、赤血球等の担体を挙げることができるが、これらに限定されない。 G.固相に固定されたイノシトールリン脂質またはイノシトールリン脂質結合性蛋白質 固相に固定されたイノシトールリン脂質またはイノシトールリン脂質結合性蛋白質は、競合アッセイによる試料中のイノシトールリン脂質の測定に用いられる。イノシトールリン脂質またはイノシトールリン脂質結合性蛋白質を適切な溶媒(例えば、エタノールなど)に溶解し、固相に塗布することにより、調製される。好ましくは、固定後、ELISAなどにおいて当業者が一般的に使用するスキムミルク、BSA(ウシ胎児血清)などのブロッキング剤で固相をブロッキングすることにより、試料中のイノシトールリン脂質またはイノシトールリン脂質結合性蛋白質の固相への非特異的な結合を防ぐことができる。 (本発明の方法およびキット) 本発明のイノシトールリン脂質の測定方法は、イノシトールリン脂質結合性蛋白質を利用するが、3種の方法に大別され得る。すなわち、第1の方法は、イノシトールリン脂質と結合したイノシトールリン脂質結合性蛋白質の量を測定する方法であり、第2の方法は、イノシトールリン脂質を固相に固定し、競合反応により、試料中のイノシトールリン脂質を測定する方法であり、そして第3の方法は、イノシトールリン脂質結合性蛋白質を固相に固定し、競合反応により、試料中のイノシトールリン脂質を測定する方法である。以下、各方法について詳細に説明する。 (1)第1の方法および第1の方法を実施するためのキット 本発明の第1の方法は、上述のように、試料中に含まれるイノシトールリン脂質を固相に固定し、このイノシトールリン脂質と結合したイノシトールリン脂質結合性蛋白質の量を測定する方法である。この方法は、試料中に含まれるイノシトールリン脂質を固相に固定する工程;該固定されたリン脂質を、イノシトールリン脂質結合性蛋白質と接触させて、該リン脂質と該結合性蛋白質との結合体を形成させる工程;および、該結合体中の結合性蛋白質の量を測定する工程、を含む。ここで、測定の工程において、(1-1)イノシトールリン脂質結合性蛋白質を直接的に検出可能な場合、および(1-2)イノシトールリン脂質結合性蛋白質を直接的に検出できない場合がある。 (1-1)イノシトールリン脂質結合性蛋白質自体を直接的に検出可能な場合 この場合は、イノシトールリン脂質結合性蛋白質は、蛍光標識されたPI結合ドメインであり、例えば、PI結合ドメインと緑色蛍光蛋白質(GFP)との融合蛋白質である。したがって、直接蛍光強度を測定し、予め作成したイノシトールリン脂質濃度と蛍光強度との関係に基づいて、イノシトールリン脂質の量を定量することができる。 また、イノシトールリン脂質結合性蛋白質は、酵素で標識されている場合もあり、例えば、酵素標識された、PI結合ドメインとGSTとの融合蛋白質である。この場合、酵素活性による各種基質の吸光度変化を測定し、予め作成したイノシトールリン脂質濃度と吸光度変化との関係に基づいて、イノシトールリン脂質の量を定量することができる。 例えば、測定しようとする試料を乾燥させた後、適切な溶媒に溶解する。これを、プラスチック製のマイクロタイタープレート上に塗布し、所定の時間静置することにより、イノシトールリン脂質をプレートの底面に固定し得る。固定後、上記ブロッキング剤を含有する緩衝液でブロッキングを行う。次いで、蛍光標識されたイノシトールリン脂質結合性蛋白質(例えば、PI結合ドメインとGFPとの融合蛋白質)を含む緩衝液をプレートに添加して、蛍光標識イノシトールリン脂質結合性蛋白質と固定されているイノシトールリン脂質とを結合させ、プレート上で結合体を形成させる。洗浄により遊離の蛋白質を除いた後、結合体の蛍光量を測定する。予め作成した検量線により、イノシトールリン脂質の量が測定され得る。 また、蛍光標識されたイノシトールリン脂質結合性蛋白質の代わりに、酵素標識されたイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含む緩衝液をプレートに添加して、酵素標識イノシトールリン脂質結合性蛋白質と固定されているイノシトールリン脂質とを結合させ、プレート上で結合体を形成させる。洗浄により遊離の蛋白質を除いた後、結合体の酵素活性を測定する。予め作成した検量線により、イノシトールリン脂質の量が測定され得る。 本発明の第1の方法におけるこの態様を実施するためのキットは、固相(例えばマイクロタイタープレート)、試料中のイノシトールリン脂質を固相に固定するための試薬(例えば、エタノールなどの溶媒)、上記ブロッキング剤を含有する緩衝液、および標識を有するイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含む。必要に応じて、蛍光測定装置または吸光度測定装置などの標識測定装置も、キットに含まれる。 (1-2)イノシトールリン脂質結合性蛋白質自体を直接検出できない場合 イノシトールリン脂質結合性蛋白質が蛍光標識などを有しない場合、一般的にイノシトールリン脂質結合性蛋白質のPI結合ドメイン以外の部分に特異的に結合する標識蛋白質を用いる酵素免疫アッセイ(ELISAなど)により測定される。例えば、固定されたイノシトールリン脂質とイノシトールリン脂質結合性蛋白質との結合体に特異的に結合する標識蛋白質を添加して、標識結合体を形成させる。次いで、遊離の標識蛋白質を洗浄により除き、この標識結合体中の酵素活性を測定する。予め作成した検量線により、イノシトールリン脂質の量が測定される。 結合性蛋白質と標識蛋白質との組合せは、特に制限がなく、結合性蛋白質とそれに対する抗体であれば、特に制限はない。当業者が通常用いる方法で、その組み合わせを選択すればよい。例えば、上記のように、結合性蛋白質がPI結合ドメインとGSTとの融合蛋白質である場合は、標識蛋白質としてペルオキシダーゼ標識抗GST抗体などが用いられ得る。 本発明の第1の方法においてこの第2の態様を実施するためのキットは、固相(例えばマイクロタイタープレート)、試料中のイノシトールリン脂質を固相に固定するための試薬(例えば、エタノールなどの溶媒)、上記ブロッキング剤を含有する緩衝液、イノシトールリン脂質結合性蛋白質、および標識蛋白質(好ましくは酵素標識抗体)、ならびに標識検出用の基質(例えば、オルトフェニレンジアミンと過酸化水素を含む緩衝液)を含む。必要に応じて、吸光度測定装置、蛍光測定装置などの標識測定装置も、キットに含まれる。 (2)第2の方法および第2の方法を実施するためのキット 本発明の第2の方法は、上述のように、固定されたイノシトールリン脂質と試料中のイノシトールリン脂質とをイノシトールリン脂質結合性蛋白質に対して競合的に結合させ、固定されたイノシトールリン脂質へのイノシトールリン脂質結合性蛋白質の結合を阻害することにより、試料中のイノシトールリン脂質の量を測定する方法である。すなわち、本発明の第2の方法は、固相に固定されたイノシトールリン脂質を準備する工程;該固定されたイノシトールリン脂質に試料およびイノシトールリン脂質結合性蛋白質を添加して、該固定されたイノシトールリン脂質と該試料中のイノシトールリン脂質とを該結合性蛋白質に対して競合的に結合させる工程;および、該固相に固定された該結合性蛋白質の量を測定する工程、を含む。ここで、測定の工程において、(2-1)イノシトールリン脂質結合性蛋白質を直接的に検出可能な場合、および(2-2)イノシトールリン脂質結合性蛋白質を直接的に検出できない場合がある。 (2-1)イノシトールリン脂質結合性蛋白質自体を直接的に検出可能な場合 イノシトールリン脂質結合性蛋白質が、蛍光または酵素標識されたイノシトールリン脂質結合ドメインである場合、上記(1-1)と同様、直接蛍光強度または酵素活性を測定し、予め作成したリン脂質濃度と蛍光強度または酵素活性との関係に基づいて、リン脂質の量を定量することができる。 この第2の方法におけるこの態様を実施するためのキットは、イノシトールリン脂質が固定された固相、および標識を有するイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含む。必要に応じて、吸光度測定装置、蛍光測定装置などの標識測定装置も、キットに含まれる。 (2-2)イノシトールリン脂質結合性蛋白質自体を直接的に検出できない場合 イノシトールリン脂質結合性蛋白質が、蛍光標識などを有しない場合、上記(1-2)と同様、ELISAなどが適用され得る。 本発明の第2の方法におけるこの第2の態様を実施するためのキットは、イノシトールリン脂質が固定された固相、イノシトールリン脂質結合性蛋白質、および標識蛋白質(好ましくは酵素標識抗体)並びに標識検出用の基質(例えば、オルトフェニレンジアミンと過酸化水素を含む緩衝液)を含む。必要に応じて、吸光度測定装置、蛍光測定装置などの標識測定装置も、キットに含まれる。 (3)第3の方法および第3の方法を実施するためのキット 本発明の第3の方法は、イノシトールリン脂質結合性蛋白質を固相に固定し、試料中のイノシトールリン脂質と既知量のキャリア結合イノシトールリン脂質とを競合させることにより、試料中のイノシトールリン脂質を測定する方法である。すなわち、第3の方法は、固相に固定された第一のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を準備する工程;該固定された第一の結合性蛋白質に対して、該試料中のイノシトールリン脂質とキャリア結合イノシトールリン脂質とを競合的に結合させる工程;該固相を洗浄後、第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を添加して、該固定されたキャリア結合イノシトールリン脂質と該第二の結合性蛋白質との結合体を形成させる工程;および、該結合体を洗浄後、該固定された第二の結合性蛋白質の量を測定する工程、を含む。 本発明の第3の方法の特徴は、キャリア結合イノシトールリン脂質と、キャリア結合イノシトールリン脂質中のリン脂質部位に結合し得る2種類のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を用いる点にある。固相に固定される第一のイノシトールリン脂質結合性蛋白質と、検出用の第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。 イノシトールリン脂質結合性蛋白質(PI結合蛋白質)としては、PI結合ドメインとGFPとの融合蛋白質(以下、GFP融合蛋白質)、およびPI結合ドメインとGSTとの融合蛋白質(以下、GST融合蛋白質)が挙げられる。また、キャリア結合イノシトールリン脂質としては、BSA結合イノシトールリン脂質が挙げられる。 例えば、第一のPI結合性蛋白質としてGST融合蛋白質を用いる場合、まず、固相にGST融合蛋白質を固定する。キャリア結合イノシトールリン脂質としてBSA結合イノシトールリン脂質を試料と混合し、この混合物を、GST融合蛋白質を固定した固相に添加して、試料中のイノシトールリン脂質とBSA結合イノシトールリン脂質とを固定されたGST融合蛋白質に対して競合的に結合させる。次いで、試料および遊離のBSA結合イノシトールリン脂質を洗浄により取り除く。これに、第二のPI結合性蛋白質としてのGFP融合蛋白質を接触させて、固定されたBSA結合イノシトールリン脂質との結合体を形成させる。次いで、遊離のGFP融合蛋白質を洗浄により除いた後、固定されたGFP融合蛋白質の蛍光を上記(1-1)と同様にして測定する。 例えば、第一のPI結合性蛋白質として固相に固定したGFP融合蛋白質を用いる場合、まず、固相にGFP融合蛋白質を固定する。この固相に、試料とBSA結合イノシトールリン脂質とを混合して添加し、固定されたGFP融合蛋白質と競合的に結合させる。次いで、試料および遊離のBSA結合イノシトールリン脂質を洗浄により取り除く。これに、第二のPI結合性蛋白質としてのGST融合蛋白質を接触させて、固定されたBSA結合イノシトールリン脂質との結合体を形成させる。次いで、遊離のGST融合蛋白質を洗浄により除いた後、固定されたGST融合蛋白質に標識蛋白質であるペルオキシダーゼ標識抗GST抗体あるいはGSH−ペルオキシダーゼ複合体を接触させて、上記(1-2)と同様に、ペルオキシダーゼ活性を測定する。 また、第二のPI結合性蛋白質として、ペルオキシダーゼ標識GST融合蛋白質を接触させて、固定されたBSA結合イノシトールリン脂質との結合体を形成させる。次いで、遊離のペルオキシダーゼ標識GST融合蛋白質を洗浄により除いた後、固定されたペルオキシダーゼ標識GST融合蛋白質のペルオキシダーゼ活性を測定することもできる。 本発明の第3の方法を実施するためのキットは、第一のイノシトールリン脂質結合性蛋白質が固定された固相、キャリア結合イノシトールリン脂質、および第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質、必要に応じて、第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を検出するための手段を含む。さらに、必要に応じて、吸光度測定装置、蛍光測定装置などの標識測定装置も、キットに含まれる。例えば、後者のELISA法を実施するためのキットは、第一のイノシトールリン脂質結合性蛋白質が固定された固相、キャリア結合イノシトールリン脂質、第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質、および第二の蛋白質に特異的な標識蛋白質(好ましくは酵素標識抗体)、ならびに標識検出用の基質(例えば、オルトフェニレンジアミンと過酸化水素を含む緩衝液)を含む。 以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。 (実施例1)GSTとPLCδ1PHドメインとの融合蛋白質の調製 (1-1)マウス肺由来cDNAライブラリーの作成 マウス(雑種)より肺を摘出し、Rneasy Mni Kit(Qiagen社製)を用いて、全RNAを抽出し、精製した。得られたRNAの1μgを鋳型にして、スーパースクリプトII(ギブコ社製)を用いるランダムプライマー法によりcDNAを合成し、マウス肺由来cDNAライブラリーを作成した。 (1-2)PLCδ1PHドメイン遺伝子の取得 PLCδ1PHドメイン遺伝子の塩基配列(GenBank Accession Number: NM_019676 region: 1-140a.a.)をもとにプライマーを作成した。(1-1)で作成したマウス肺由来cDNAライブラリー1μLを鋳型とし、これらの各プライマー(100pmol/μL)を0.5μL用い、TAKARA LATaq(タカラバイオ社製)のプロトコールに従って、逆転写PCR(RT−PCR)を行い、PLCδ1PHドメイン遺伝子を含む420bpのDNAを得た。 (1-3)PLCδ1PHドメイン遺伝子を含むプラスミドの調製 上記(1-2)で取得したPLCδ1PHドメイン遺伝子を含むDNAを、Mini Elute Gel Extraction kit(Qiagen社製)を用いて精製し、Qiagen PCR cloning kit(Qiagen社製)を用いて大腸菌pMB1のDNA複製起点、およびアンピシリン耐性遺伝子を有する大腸菌ベクターpDriveに組込み、大腸菌(JM109)に導入して、PLCδ1PHドメイン遺伝子を有する組換えプラスミドAを含む形質転換体を得た。 次に、蛍光標識プライマーを用いたジデオキシターミネーター法(BigDye Terminator v3.1/1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を使用)によって、組換えプラスミドAの塩基配列を決定した。その結果、この組換えプラスミドAは、5’末端にBglII制限酵素部位および3’末端にBamHI制限酵素部位を有する420bpの構造遺伝子領域を有し、すなわち、140個のアミノ酸をコードする塩基配列を有していた。この配列は、上記PLCδ1PHドメイン遺伝子の塩基配列情報と完全に一致していた。 (1-4)グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)とPLCδ1PHドメインとの融合蛋白質遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作成 上記(1-3)で得られた組換えプラスミドAを制限酵素BglIIおよびBamHIで切断し、PLCδ1PHドメイン遺伝子を回収した。一方、GSTをコードする遺伝子を有する大腸菌発現ベクターpGEX6P-1(アマシャム ファルマシア社製)を予め制限酵素BamHIで切断し、次いでアルカリホスファターゼ(タカラバイオ社製)処理した。処理した発現ベクターpGEX6P-1断片と上記PLCδ1PHドメイン遺伝子とを連結し、GSTとPLCδ1PHドメインとの融合蛋白質遺伝子を含む発現ベクターpGEX6P-1-PLC delta1 PH domain(以下、発現ベクターAという)を調製した。これを大腸菌JM109株に導入した。正しい向きにPLCδ1PHドメイン遺伝子が一つ組込まれている場合、IPTGの添加により約43kDaの融合蛋白質の発現が誘導される。そこで、IPTG誘導により、43kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-PLC delta1 PH domain(以下、形質転換体Aという)を得た。 (1-5)PLCδ1PHドメイン遺伝子を2つ含む融合蛋白質の発現ベクターおよびその形質転換体の作成 上記(1-3)で得られた組換えプラスミドAを制限酵素BglIIおよびBamHIで切断し、PLCδ1PHドメイン遺伝子を回収した。この遺伝子と、上記(1-4)で取得した発現ベクターAを制限酵素BamHI−アルカリホスファターゼ処理して調製した断片とを連結して、発現ベクターpGEX6P-1-PLC delta1 PH domain×2(以下、発現ベクターA×2という)を調製した。なお、この発現ベクターA×2は、制限酵素BglIIの切断断片は制限酵素BamHIの切断断片とは連結できるが、連結後の塩基配列はどちらの制限酵素でも切断することはできないことを利用して、発現ベクターAを制限酵素BamHIで切断し、PLCδ1PHドメイン遺伝子断片を組込むことによって作成した。この発現ベクターを大腸菌JM109株に導入した。正しい向きにPLCδ1PHドメイン遺伝子が新たに一つ組込まれている場合、IPTGの添加により約59kDaの蛋白質の発現が誘導される。そこで、IPTG誘導により、59kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-PLC delta1 PH domain×2(以下、形質転換体A×2という)を得た。 (1-6)GSTとPLCδ1PHドメインとの融合蛋白質の発現と精製 上記で得られたGSTとPLCδ1PHドメインとの融合蛋白質を産生する形質転換体Aを、10mLのLB培地に植菌して、37℃で一晩培養後、全量を1LのLB培地に接種して37℃で培養を開始した。培養開始から3時間後、培養温度を25℃に下げ、IPTGと2−メルカプトエタノールをそれぞれ終濃度が1mMとなるように加え、さらに3時間培養し、PLCδ1PHドメイン結合GSTの発現を誘導した。培養終了後、4℃で、大腸菌を高速(8,000rpm)にて5分間遠心分離し、回収した。細胞を10mLの溶解緩衝液(50mM Tris-HCl(pH 7.5)、5mM EDTA、200mM NaCl、1%Triton-X(登録商標))に懸濁し、15mLのチューブに移し、約2分間超音波破砕した。破砕液を−80℃のディープフリーザーで凍結させ、室温で融解した。さらに、約2分間超音波破砕した。超高速(35,000rpm)にて30分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清を、溶解緩衝液に置換し、グルタチオンセファロース4Bビーズ(Amersham cat.52-2303-00)を100μL加え、2時間、ローターで回転させながら蛋白質をビーズに結合させた。3,000rpmで30秒間遠心分離し、上清を捨て、10mLの洗浄緩衝液(50mM Tris-HCl(pH 7.5)、5mM EDTA、500mM NaCl、1% Triton-X(登録商標))にて、ビーズを3回洗った。ビーズを1.5mLのチューブに移し、100μLのグルタチオン溶液(10mM グルタチオン、50mM Tris-HCl(pH 8.0))を加えて約1分間撹拌して、蛋白質を溶出させた。その後、5,000rpmにて1分間遠心分離し、上清を新しい1.5mLのチューブに回収した。これを3回繰り返し、合計3本のフラクションを得た。各フラクションの蛋白質の濃度をブラッドフォード法により測定した後、1μgの蛋白質をSDS−PAGEに供し、クマシー染色を行った。融合蛋白質以外のバンドは検出されなかった。この融合蛋白質をGST−PLCδPHと命名した。 形質転換体A×2についても、前記と同様に培養し、融合蛋白質GST−PLCδPH×2を取得した。 (実施例2)GSTとTapp1PHドメインとの融合蛋白質の調製 (2-1)ヒト血管内皮細胞(Huvec)由来cDNAライブラリーの作成 Rneasy Mni Kit(Qiagen社製)を用いて、ヒト血管内皮細胞(Huvec)から全RNAを抽出し、精製した。得られたRNAの1μgを鋳型にして、スーパースクリプトII(ギブコ社製)を用いるランダムプライマー法によりcDNAを合成し、ヒト血管内皮細胞由来cDNAライブラリーを作成した。 (2-2)Tapp1PHドメイン遺伝子の取得 Tapp1PHドメイン遺伝子の塩基配列(GenBank Accession Number: AF286160 region: 180-405a.a.)をもとにプライマーを作成した。上記(2-1)で作成したヒト血管内皮細胞由来cDNAライブラリー1μLを鋳型とし、これらの各プライマー(100pmol/μL)を0.5μL用い、TAKARA LATaqのプロトコールに従って、RT−PCRを行い、Tapp1PHドメイン遺伝子を含む675bpのDNAを得た。 (2-3)Tapp1PHドメイン遺伝子を含むプラスミドの調製 上記(2-2)で取得したTapp1PHドメイン遺伝子を含むDNAを、実施例1の(1-2)と同じ操作で大腸菌ベクターpDriveに組込み、大腸菌JM109株に導入して、Tapp1PHドメイン遺伝子を有する組換えプラスミドBを含む形質転換体を得た。 次に、実施例1の(1-3)と同様に、蛍光標識プライマーを用いたジデオキシターミネーター法によって、組換えプラスミドBの塩基配列を決定した。その結果、この組換えプラスミドBは、5’末端にBamHIまたはEcoRI制限酵素部位および3’末端にEcoRIまたはSalI制限酵素部位を有する675bpの構造遺伝子領域、すなわち、225個のアミノ酸をコードする塩基配列を有していた。この配列は、上記Tapp1PHドメイン遺伝子の塩基配列情報と完全に一致していた。 (2-4)GSTとTapp1PHドメインとの融合蛋白質遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作成 GSTをコードする遺伝子を有する大腸菌発現ベクターpGEX6P-1と上記(2-3)で得られた組換えプラスミドBとを用いて、GSTとTapp1PHドメインとの融合蛋白質遺伝子を含む発現ベクターを調製した。上記(2-3)で得られた組換えプラスミドBを制限酵素BamHIおよびEcoRIで切断し、Tapp1PHドメイン遺伝子を回収した。この遺伝子と、発現ベクターpGEX6P-1を予め制限酵素BamHIおよびEcoRIで切断し、次いでアルカリホスファターゼ処理して得られた断片とを連結し、発現ベクターpGEX6P-1-TAPP1 PH domain(以下、発現ベクターBという)を得た。これを大腸菌JM109株に導入した。正しい向きにTapp1PHドメイン遺伝子が一つ組込まれている場合、IPTGの添加により約53kDaの融合蛋白質の発現が誘導される。そこで、IPTG誘導により、53kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-TAPP1 PH domain(以下、形質転換体Bという)を得た。 (2-5)Tapp1PHドメイン遺伝子を2つ含む融合蛋白質の発現ベクターおよびその形質転換体の作成 上記(2-3)で得られた組換えプラスミドBを制限酵素EcoRIおよびSalIで切断し、Tapp1PHドメイン遺伝子を回収した。この遺伝子と、上記(2-4)で取得した発現ベクターBを制限酵素EcoRIおよびSalI−アルカリホスファターゼ処理して調製した断片とを連結して、発現ベクターpGEX6P-1TAPP1 PH domain×2(以下、発現ベクターB×2という)を得た。これを大腸菌JM109株に導入した。正しい向きにTapp1PHドメイン遺伝子が新たに一つ組込まれている場合、IPTGの添加により約78kDaの蛋白質の発現が誘導される。そこで、IPTG誘導により、78kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-TAPP1 PH domain×2(以下、形質転換体B×2という)を得た。 (2-6)GSTとTapp1PHドメインとの融合蛋白質の発現と精製 上記(2-5)で得られたGSTとTapp1PHドメインとの融合蛋白質を発現する形質転換体Bおよび形質転換体B×2を、上記実施例1の(1-6)と同様に培養し、産生された蛋白質を精製して、それぞれ、融合蛋白質GST−Tapp1および融合蛋白質GST−Tapp1×2を得た。図1AおよびBに、融合蛋白質GST−Tapp1およびGST−Tapp1×2の構造をそれぞれ模式的に示す。 (実施例3)GSTとGRP1PHドメインとの融合蛋白質の調製 (3-1)GRP1PHドメイン遺伝子の取得 GRP1PHドメイン遺伝子の塩基配列(GenBank Accession Number: AJ005197region: 253-392a.a.)をもとにプライマーを作成した。上記(2-1)で作成したヒト血管内皮細胞由来cDNAライブラリー1μLを鋳型とし、これらの各プライマー(100pmol/μL)を0.5μL用い、TAKARA LATaqのプロトコールに従ってRT−PCRを行い、GRP1PHドメイン遺伝子を含む417bpのDNAを得た。 (3-2)GRP1PHドメイン遺伝子を含むプラスミドの調製 上記(3-1)で取得したGRP1PHドメイン遺伝子を含むDNAを、実施例1の(1-2)と同じ操作で大腸菌ベクターpDriveに組込み、大腸菌JM109株に導入してGRP1PHドメイン遺伝子を有する組換えプラスミドCを含む形質転換体を得た。 次に、実施例1の(1-3)と同様に、蛍光標識プライマーを用いたジデオキシターミネーター法によって、組換えプラスミドCの塩基配列を決定した。その結果、この組換えプラスミドCは、5’末端にBglII制限酵素部位、3’末端にBamHI制限酵素部位を有する417bpの構造遺伝子領域を有し、すなわち、139個のアミノ酸をコードする塩基配列を有していた。この配列は、上記GRP1PHドメイン遺伝子の塩基配列情報と完全に一致していた。 (3-3)GSTとGRP1PHドメインとの融合蛋白質遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作成 GSTをコードする遺伝子を有する大腸菌発現ベクターpGEX6P-1と上記(3-2)で得られた組換えプラスミドCとを用いて、GSTとGRP1PHドメインとの融合蛋白質遺伝子を含む発現ベクターを調製した。上記(3-2)で得られた組換えプラスミドCを制限酵素BglIIおよびBamHIで切断し、GRP1PHドメイン遺伝子を回収した。この遺伝子と、発現ベクターpGEX6P-1を予め制限酵素BamHIで切断し、次いでアルカリホスファターゼ処理して得られた断片とを連結し、発現ベクターpGEX6P-1-GRP1 PH domain(以下、発現ベクターCという)を得た。これを大腸菌JM109株に導入した。正しい向きにGRP1PHドメイン遺伝子が一つ組込まれている場合、IPTGの添加により約44kDaの融合蛋白質の発現が誘導される。そこで、IPTG誘導により、44kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-GRP1 PH domain(以下、形質転換体Cという)を得た。 (3-4)GRP1PHドメイン遺伝子を2つ含む融合蛋白質の発現ベクターおよびその形質転換体の作成 上記(3-2)で得られた組換えプラスミドCを制限酵素BglIIおよびBamHIで切断し、GRP1PHドメイン遺伝子を回収した。この遺伝子と、上記(3-3)で取得した発現ベクターCを制限酵素BamHIで切断後、アルカリホスファターゼ処理して調製した断片とを連結して、発現ベクターpGEX6P-1-GRP1 PH domain×2(以下、発現ベクターC×2という)を得た。これを大腸菌JM109株に導入した。正しい向きにTapp1PHドメイン遺伝子が新たに一つ組込まれている場合、IPTGの添加により約61kDaの蛋白質の発現が誘導される。そこで、IPTG誘導により、61kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-GRP1 PH domain×2(以下、形質転換体C×2という)を得た。 なお、この発現ベクターC×2は、実施例1と同様、制限酵素BglIIの切断断片は制限酵素BamHIの切断断片とは連結できるが、連結後の塩基配列はどちらの制限酵素でも切断することはできないことを利用し、発現ベクターCを制限酵素BamHIで切断し、GRP1PHドメイン遺伝子断片を組込むことによって作成した。 (3-5)GSTとGRP1PHドメインとの融合蛋白質の発現と精製 上記で得られたGSTとGRP1PHドメインとの融合蛋白質を産生する形質転換体Cおよび形質転換体C×2を、実施例1の(1-6)と同様に培養し、産生された蛋白質を精製して、それぞれ、融合蛋白質GST−GRP1および融合蛋白質GST−GRP1×2を得た。 (実施例4)GSTとEEA1FYVEフィンガードメインとの融合蛋白質の調製 (4-1)マウス腎臓由来由来cDNAライブラリーの作成 マウス(雑種)より腎臓を摘出した。Rneasy Mni Kit(Qiagen社製)を用いて、この腎臓から全RNAを抽出し、精製した。得られたRNAの1μgを鋳型にして、スーパースクリプトII(ギブコ社製)を用いるランダムプライマー法によりcDNAを合成し、マウス腎臓由来由来cDNAライブラリーを作成した。 (4-2)EEA1FYVEフィンガードメイン遺伝子の取得 EEA1FYVEフィンガードメイン遺伝子(以下、単にEEA1FYVE遺伝子ということがある)の塩基配列(GenBank Accession Number: NM_003566 region: 1336-1411a.a.)をもとにプライマーを作成した。上記(4-1)で作成したマウス腎臓由来由来cDNAライブラリー1μLを鋳型とし、これらの各プライマー(100pmol/μL)を0.5μL用い、TAKARA LATaqのプロトコールに従ってRT−PCRを行い、EEA1FYVE遺伝子を含む225bpのDNAを得た。 (4-3)EEA1FYVE遺伝子を含むプラスミドの調製 上記(4-1)で取得したEEA1FYVE遺伝子を含むDNAを、実施例1の(1-2)と同じ操作で大腸菌ベクターpDriveに組込み、大腸菌JM109株に導入して、EEA1FYVEを有する組換えプラスミドDを含む形質転換体を得た。 次に、実施例1の(1-3)と同様に、蛍光標識プライマーを用いたジデオキシターミネーター法によって、組換えプラスミドDの塩基配列を決定した。その結果、この組換えプラスミドDは、5’末端にBglII制限酵素部位および3’末端にBamHI制限酵素部位を有する225bpの構造遺伝子領域、すなわち、75個のアミノ酸をコードする塩基配列を有していた。この配列は、上記EEA1FYVEフィンガードメイン遺伝子の塩基配列情報と完全に一致していた。 (4-4)GSTとEEA1FYVEフィンガードメインとの融合蛋白質遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作成 GSTをコードする遺伝子を有する大腸菌発現ベクターpGEX6P-1と上記(4-3)で得られた組換えプラスミドDとを用いて、GSTとEEA1FYVEフィンガードメイン(以下、単にEEA1FYVEということがある)との融合蛋白質遺伝子を含む発現ベクターを調製した。上記(4-3)で得られた組換えプラスミドDを制限酵素BglIIおよびBamHIで切断し、EEA1FYVE遺伝子を回収した。この遺伝子と、発現ベクターpGEX6P-1を予め制限酵素BamHIで切断し、次いでアルカリホスファターゼ処理して得られた断片とを連結し、発現ベクターpGEX6P-1-EEA1 FYVE finger domain(以下、発現ベクターDという)を得た。これを大腸菌JM109株に導入した。正しい向きにEEA1FYVE遺伝子が一つ組込まれている場合、IPTGの添加により約37kDaの融合蛋白質の発現が誘導される。そこで、IPTG誘導により、37kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-EEA1 FYVE finger domain(以下、形質転換体Dという)を得た。 (4-5)EEA1FYVEフィンガードメイン遺伝子を複数個含む融合蛋白質の発現ベクターおよびその形質転換体の作成 上記(4-3)で得られた組換えプラスミドDを制限酵素BglIIおよびBamHIで切断し、EEA1FYVE遺伝子を回収した。この遺伝子と、上記(4-4)で取得した発現ベクターDを制限酵素BamHIで切断後、アルカリホスファターゼ処理して調製した断片とを連結して、発現ベクターpGEX6P-1-EEA1 FYVE finger domain×2(以下、発現ベクターD×2という)を得た。これを大腸菌JM109株に導入した。正しい向きにEEA1FYVE遺伝子が新たに一つ組込まれている場合、IPTGの添加により約45kDaの蛋白質の発現が誘導される。そこで、IPTG誘導により、45kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109- pGEX6P-1-EEA1 FYVE finger domain×2(以下、形質転換体D×2という)を得た。 なお、この発現ベクターD×2は、実施例1と同様、制限酵素BglIIの切断断片は制限酵素BamHIの切断断片とは連結できるが、連結後の塩基配列はどちらの制限酵素でも切断することはできないことを利用し、発現ベクターDを制限酵素BamHIで切断し、EEA1FYVE遺伝子断片を組込むことによって作成した。 得られた発現ベクターD×2に、同様の手順でEEA1FYVE遺伝子断片を一つ組込むことにより、約54kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-EEA1 FYVE finger domain×3(形質転換体D×3)および発現ベクターpGEX6P-1-EEA1 FYVE finger domain×3(発現ベクターD×3)を得た。これを繰返して、約70kDaの蛋白質を発現する形質転換体JM109-pGEX6P-1-EEA1 FYVE finger domain×5(形質転換体D×5)および発現ベクターpGEX6P-1-EEA1 FYVE finger domain×5(発現ベクターD×5)を得た。 (4-6)GSTとEEA1FYVEフィンガードメインとの融合蛋白質の発現と精製 上記で得られたGSTとEEA1FYVEとの融合蛋白質を産生する形質転換体D、形質転換体D×2、形質転換体D×3、および形質転換体D×5を、実施例1の(1-6)と同様に培養し、産生された蛋白質を精製して、融合蛋白質GST−EEA1FYVE、GST−EEA1FYVE×2、GST−EEA1FYVE×3、およびGST−EEA1FYVE×5をそれぞれ調製した。図2A〜図2Dに、これらの融合蛋白質の構造を模式的に示す。 (実施例5)固相に固定されたイノシトールリン脂質と融合蛋白質GST−GRP1との結合に用いる緩衝液の検討 PI(3,4,5)P3と特異的に結合するGRP1PHドメインを用いて、最適な結合条件を検討した。イノシトールリン脂質は、ホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルエタノールアミン(PE)との1:1の混合物2質量部に対して、0.2質量部(すなわち、PC:PE:イノシトールリン脂質=1:1:0.2)の割合となるように添加した。このリン脂質混合物を窒素ガスで乾燥した後、エタノールに溶解し、マイクロタイタープレートのウエルに室温にてコートした。5%BSAを含有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を用いて、室温で6時間ブロッキングを行った。融合蛋白質GST−GRP1を含有する以下の表1に記載の種々の緩衝液を各ウエルに加え、室温で1時間インキュベートした。緩衝液を除いた後、0.1%Triton含有PBS(PBST)でプレートを4回洗浄した。洗浄後、ペルオキシダーゼ標識グルタチオン(GSH)1μg/mLを含む5%BSA含有PBSを加え、室温で30分間インキュベートした。PBSTでプレートを8回洗浄した後、オルトフェニレンジアミンと過酸化水素含有クエン酸緩衝液とを加えて発色させた。続いて、8M硫酸で発色を停止させ、490nmにおける吸光度を測定した。 結果を図3に示す。表1の緩衝液6(50mM HEPES (pH7.4, 150mM NaCl, 0.05%CHAPS, 0.5%SC)を用いた場合、P1(3,4,5)P3に対する感度および特異性が最も良好であった。なお、図3において、PAはホスファチジル酸、PSはホスファチジルセリンであり、他のイノシトールリン脂質の略号は上述のとおりである。 (実施例6)ブロッキング緩衝液および反応緩衝液の検討 PI(3,4)P2に特異的に結合する融合蛋白質GST−Tapp1を用いて、脂質オーバーレイアッセイを行い、ブロッキング緩衝液および反応緩衝液の組合せのうち、最適な組合せを検討した。検討したブロッキング緩衝液および反応緩衝液の組合せを、表2に示す。 種々のイノシトールリン脂質をニトロセルロースメンブラン上にスポットし、乾燥させた後、表2のNo.1のブロッキング緩衝液で55℃、6時間ブロッキングした。次いで、表2のNo.1の融合蛋白質GST−Tapp1を含有する反応緩衝液を用いて、室温で1時間インキュベートした後、PBSTで5分間の洗浄を3回行った。続いて、抗GSTIgG含有PBSTを加え、室温で1時間インキュベートした。PBSTで5分間の洗浄を3回行い、アルカリホスファターゼ標識抗ウサギIgG抗体含有PBSTを添加し、室温で30分インキュベートした。PBSTで5分間の洗浄を3回行い、NBT/BCIP(ニトロブルー−テトラゾリウム/5−ブロモ−5−クロロ−3−インドリルホスフェート)による発色を観察した。同様にして、No.2〜No.4のブロッキング緩衝液と反応緩衝液との組み合わせによる発色を検討した。 結果を図4に示す。図4(0)は、図4(1)〜(4)における各スポットのイノシトールリン脂質の種類を示す。イノシトールリン脂質の略号は前述のとおりである。図4(1)〜(4)は、それぞれ、表2のNo.1〜4の緩衝液の組み合わせを用いた場合に対応する。 図4からわかるように、図4(4)のスポット、すなわち、表2のNo.4のブロッキング緩衝液と反応緩衝液との組み合わせを用いた場合が、PI(3,4)P2に対する感度および特異性が最も良好であった。 (実施例7)融合蛋白質GST−PLCδPHを用いた、PI(4,5)P2の定量 PCとPEとの等量混合物にPI(4,5)P2を所定量混合して、種々の濃度のPI(4,5)P2を含むリン脂質混合物を調製した。窒素ガスで乾燥した後、エタノールに溶解し、この溶解液を、マイクロタイタープレートの各ウエルに、ウエル当りのPI(4,5)P2量が0〜200ngとなるように室温にてコートした。5%BSAを含有するPBSを用いて、室温で6時間ブロッキングを行った。融合蛋白質GST−PLCδPHを溶解した50mM HEPES緩衝液(pH7.4、500mM NaClおよび0.05% CHAPS含有)を各ウエルに加えて、室温で1時間インキュベートした。以降、実施例5と同じ操作を行い、490nmにおける吸光度を測定した。結果を図5に示す。 図5に示すように、PI(4,5)P2量と吸光度との間には高い相関が認められ、本発明の方法によりPI(4,5)P2を定量できることが明らかとなった。 (実施例8)融合蛋白質GST−GRP1を用いるPI(3,4,5)P3の定量 PI(4,5)P2の代わりにPI(3,4,5)P3を用い、そして融合蛋白質GST−PLCδPHの代わりに融合蛋白質GST−GRP1を用いたこと以外は、実施例7と同様にして、PI(3,4,5)P3量と吸光度との関係を検討した。結果を図6に示す。 図6に示すように、PI(3,4,5)P3量と吸光度との間には高い相関関係が認められ、本発明の方法によりPI(3,4,5)P3を定量できることが明らかとなった。 (実施例9)GSTとTapp1PHドメインとの融合蛋白質と、固相に固定されたイノシトールリン脂質との結合に関する検討 実施例5において、融合蛋白質GST−GRP1の代わりに、実施例2で得られた2種類の融合蛋白質(図1参照)を用い、そして緩衝液として50mM HEPES緩衝液(pH7.4、1M NaClおよび0.05% CHAPS含有)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、イノシトールリン脂質に対する感度および特異性との関係を検討した。 結果を図7に示す。図7において、AおよびBは、図1のAおよびBに対応しており、それぞれ、融合蛋白質GST−Tapp1およびGST−Tapp1×2を示す。 図7に示すように、ドメインの連結数が2個の融合蛋白質GST−Tapp1×2の方が、PI(3,4)P2に対する感度および特異性が高かった。 (実施例10)融合蛋白質GST−Tapp1を用いるPI(3,4)P2の定量 実施例7において、PI(4,5)P2の代わりにPI(3,4)P2を用い、そして融合蛋白質GST−PLCδPHの代わりに実施例2で得られた2種類の融合蛋白質GST−Tapp1(図1参照)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして、PI(3,4)P2量と吸光度との関係を検討した。 結果を図8に示す。図8において、AおよびBは、図1のAおよびBに対応しており、それぞれ、融合蛋白質GST−Tapp1およびGST−Tapp1×2を示す。 図8に示すように、PI(3,4)P2量と吸光度との間には高い相関関係が認められ、本発明の方法によりPI(3,4)P2を定量できることが明らかとなった。 (実施例11)GSTと複数個のEEA1FYVEフィンガードメインとの融合蛋白質と、固相に固定されたイノシトールリン脂質との結合に関する検討 実施例5において、融合蛋白質GST−GRP1の代わりに実施例4で得られた4種類の融合蛋白質(図2参照)を用い、そして緩衝液として50mM HEPES緩衝液(pH7.4、150mM NaClおよび0.05% CHAPS含有)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、イノシトールリン脂質に対する感度および特異性との関係を検討した。 結果を図9に示す。図9において、A〜Dは図2のA〜Dに対応しており、それぞれ、融合蛋白質GST−EEA1FYVE、GST−EEA1FYVE×2、GST−EEA1FYVE×3およびGST−EEA1FYVE×5を示す。図9に示すように、ドメインの連結数を増加させることによって、PI(3)Pに対する感度および特異性が上昇した。 (実施例12)GSTと複数個のEEA1FYVEフィンガードメインとの融合蛋白質を用いるPI(3)Pの測定 実施例7において、PI(4,5)P2の代わりにPI(3)Pを用い、そして融合蛋白質GST−PLCδPHの代わりに実施例4で得られた4種類の融合蛋白質(図2参照)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして、PI(3)P3量と吸光度との関係を検討した。結果を図10に示す。図10において、A〜Dは図2のA〜Dに対応しており、それぞれ、融合蛋白質GST−EEA1FYVE、GST−EEA1FYVE×2、GST−EEA1FYVE×3およびGST−EEA1FYVE×5を示す。 図10に示すように、PI(3)P量と吸光度との間に高い相関関係が認められ、本発明の方法によりPI(3)P2を定量できることが明らかとなった。 本発明のイノシトールリン脂質の測定方法は、イノシトールリン酸のシグナル伝達機構解明という学術的利用のみならず、癌化した細胞の検出あるいは糖尿病の検出など、診断・医療などの分野で利用される結合性融合蛋白質GST−Tapp1の構造を示す模式図である。結合性融合蛋白質GST−EEA1FYVEの構造を示す模式図である。緩衝液1〜8中での結合性融合蛋白質GST−GRP1と各種イノシトールリン脂質との結合体の形成量を示すグラフである。緩衝液1〜4中での結合性融合蛋白質GST−Tapp1と各種イノシトールリン脂質との脂質オーバーレイアッセイの結果を示すニトロセルロースメンブランの写真である。結合性融合蛋白質GST−PLCδPHを用いた場合の、PI(4,5)P2量と吸光度との関係を示すグラフである。結合性融合蛋白質GST−GRP1を用いた場合の、PI(3,4,5)P3量と吸光度との関係を示すグラフである。結合性融合蛋白質のTapp1PH結合ドメイン数と、結合性融合蛋白質と各種イノシトールリン脂質との結合体の形成量との関係を示すグラフである。Tapp1PH結合ドメイン数が異なる結合性融合蛋白質を用いた場合の、PI(3,4)P2量と結合体の形成量との関係を示すグラフである。EEA1FYVEフィンガードメイン数と、結合性融合蛋白質と各種イノシトールリン脂質との結合体の形成量との関係を示すグラフである。EEA1FYVEフィンガードメイン数が異なる結合性合蛋白質を用いた場合の、PI(3)P量と結合体の形成量との関係を示すグラフである。 試料中に含まれるイノシトールリン脂質を固相に固定する工程; 該固定されたリン脂質を、イノシトールリン脂質結合性蛋白質と接触させて、該リン脂質と該結合性蛋白質との結合体を形成させる工程;および 該結合体中の結合性蛋白質の量を測定する工程を含む、イノシトールリン脂質の測定方法。 固相に固定されたイノシトールリン脂質を準備する工程; 該固定されたイノシトールリン脂質に試料およびイノシトールリン脂質結合性蛋白質を添加して、該固定されたイノシトールリン脂質と該試料中のイノシトールリン脂質とを該結合性蛋白質に対して競合的に結合させる工程;および 該固相に固定された該結合性蛋白質の量を測定する工程を含む、イノシトールリン脂質の測定方法。 前記結合性蛋白質が、蛍光標識されたイノシトールリン脂質結合ドメインであるか、またはイノシトールリン脂質結合ドメインと緑色蛍光蛋白質(GFP)との融合蛋白質である、請求項1または2に記載の方法。 前記結合性蛋白質の量が、前記結合性蛋白質に特異的に結合する標識蛋白質を用いる酵素免疫アッセイにより測定される、請求項1または2に記載の方法。 前記結合性蛋白質が、イノシトールリン脂質結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質であり、そして前記標識蛋白質が、ペルオキシダーゼで標識された抗GST抗体またはグルタチオン(GSH)である、請求項4に記載の方法。 前記結合性蛋白質が、イノシトールリン脂質結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質であり、該融合蛋白質が酵素標識されている、請求項1または2に記載の方法。 前記酵素が、ペルオキシダーゼである、請求項6に記載の方法。 固相に固定された第一のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を準備する工程; 該固定された第一の結合性蛋白質に対して、該試料中のイノシトールリン脂質とキャリア結合イノシトールリン脂質とを競合的に結合させる工程; 該固相を洗浄後、第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を添加して、該固定されたキャリア結合イノシトールリン脂質と該第二の結合性蛋白質との結合体を形成させる工程;および 該結合体を洗浄後、該固定された第二の結合性蛋白質の量を測定する工程を含む、イノシトールリン脂質の測定方法。 前記第二の結合性蛋白質が、蛍光標識されたイノシトールリン脂質結合ドメインであるか、またはリン脂質結合ドメインと緑色蛍光蛋白質(GFP)との融合蛋白質である、請求項8に記載の方法。 前記第二の結合性蛋白質の量が、該第二の結合性蛋白質に特異的に結合する標識蛋白質を用いる酵素免疫アッセイにより測定される、請求項8に記載の方法。 前記第二の結合性蛋白質が、イノシトールリン脂質結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質であり、そして前記標識蛋白質が、ペルオキシダーゼで標識された抗GST抗体またはグルタチオン(GSH)である、請求項10に記載の方法。 前記第二の結合性蛋白質が、イノシトールリン脂質結合ドメインとグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質であり、該融合蛋白質が酵素標識されている、請求項8または9に記載の方法。 前記酵素が、ペルオキシダーゼである、請求項12に記載の方法。 前記イノシトールリン脂質結合性蛋白質が、2以上のリン脂質結合ドメインを含有する、請求項1から13のいずれかの項に記載の方法。 前記イノシトールリン脂質結合性蛋白質が、PHドメイン、FYVEドメイン、PXドメイン、ENTHドメイン、およびGRAMドメインからなる群より選択される少なくとも1つのイノシトールリン脂質結合ドメインを含有する、請求項1から14のいずれかの項に記載の方法。 前記PHドメインが、PLCδ1PHドメイン、Tapp1PHドメイン、またはGRP1PHドメインである、請求項15に記載の方法。 前記イノシトールリン脂質が、ホスファチジルイノシトール3−リン酸、ホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸、ホスファチジルイノシトール3,4−二リン酸、およびホスファチジルイノシトール3,4,5−三リン酸からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1から16のいずれかの項に記載の方法。 固相、試料中のイノシトールリン脂質を該固相に固定するための試薬、ブロッキング剤を含有する緩衝液、およびイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含む、イノシトールリン脂質測定用キット。 イノシトールリン脂質が固定された固相、およびイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含む、イノシトールリン脂質測定用キット。 前記イノシトールリン脂質結合性蛋白質が標識されている、請求項18または19に記載のキット。 前記イノシトールリン脂質結合性蛋白質と特異的に結合し得る標識蛋白質をさらに含有する、請求項18または19に記載のキット。 第一のイノシトールリン脂質結合性蛋白質が固定された固相、キャリア結合イノシトールリン脂質、および第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質を含有する、イノシトールリン脂質測定用キット。 前記第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質が標識されている、請求項22に記載のキット。 前記第二のイノシトールリン脂質結合性蛋白質と特異的に結合する標識蛋白質および標識検出試薬をさらに含む、請求項22に記載のキット。 【課題】 簡便かつ正確なイノシトールリン脂質の定量法を提供すること。【解決手段】 本発明のイノシトールリン脂質の測定方法は、試料中に含まれるイノシトールリン脂質を固相に固定する工程;該固定されたイノシトールリン脂質にイノシトールリン脂質結合性蛋白質を接触させ、イノシトールリン脂質とイノシトールリン脂質結合性蛋白質との結合体を形成させる工程;該結合体と標識蛋白質とを接触させ、標識結合体を形成させる工程;および、該標識結合体中の標識量を測定する工程;を含む。【選択図】 なし


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