タイトル: | 公開特許公報(A)_ベルト伝動システムの設計方法 |
出願番号: | 2004090884 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,F16H7/00,G01N19/02 |
志賀 孜 梅田 敦司 井畑 幸一 JP 2005273840 公開特許公報(A) 20051006 2004090884 20040326 ベルト伝動システムの設計方法 株式会社デンソー 000004260 碓氷 裕彦 100096998 加藤 大登 100118197 伊藤 高順 100123191 志賀 孜 梅田 敦司 井畑 幸一 7F16H7/00G01N19/02 JPF16H7/00 ZG01N19/02 Z 10 17 OL 48 3J049 3J049AA01 3J049AB03 3J049CA01 本発明はベルト、ロープなど摩擦力を利用して動力伝達を行うベルト伝動システムの設計方法に関する。とりわけ内燃機関に用いられる多数のプーリを1つのベルトで駆動するいわゆるサーペンタイン方式のベルト駆動システムの設計方法に関するものである。 ベルトなどの摩擦力を利用して動力を伝達するベルト駆動システムを設計するには2つの設計ポイントがある。1つは駆動時にどれくらいの力がベルトなどに加わるか、いま1つはどのくらいの動力まですべらずに、すなわちスリップせずに確実に動力を伝達できるかである。 そのため従来からよく知られているようにEulerの理論によりそれを計算することがなされている。ここでその概略を述べる。図1はプーリ100とベルト200との関係を示すモデル図である。図1において緩み側の張力をT1、張り側の張力をT2、接触角度をφとし、ベルトの微小長さds(接触角度はdψ)部のつりあいを考え、始点mから終点nまで全域にわたって積分すると下記数式7が得えられる。なお、図中tは張力、Qdsは垂直力、μQdsは摩擦力、Fdsは遠心力であり、μは静止摩擦係数である。 すべりが起こり始めようとするときのT’1、T’2は、同式により表される。同式において、μmaxは最大静止摩擦係数、wはベルトの単位長さの重さ、vは速度、gは重力の加速度である。 一方、駆動力をPとすると、数式8を得る。なお、駆動力Pは、原動プーリのときはベルトを回そうとする力、従動プーリのときはベルトから回される力を示す。上記数式7、数式8より、下記数式9、数式10が得られる。 ただし数式9、数式10は、すべりが起こり始めようとする時の伝達状態を表しているので、すべりなく駆動している状態を表現するために、実際に動力授受をおこなっているプーリ角度φ0を仮定して(φ0<φ)数式9、数式10を変形すると、数式11、数式12を得る。この結果、すべりなく駆動している状態も表示できるとするのがEulerの結論である。 具体的には図2に示したような2つのプーリの場合について考える。図2では、原動プーリ101と、従動プーリ102との間にベルト200が掛けられている。実際に動力の授受が行われている角度φ0(クリープ角と呼ばれる)は幾何学的な接触角度φ1、φ2より小さく、その差の角度(φ1−φ0)、(φ2−φ0)は休止角として張力が増減しないとする考えである。 これで実際に計算するにはφ0が未知数であるのでφ1、φ2の小さい方の角度で代用する。この結果、本来のφ0との差は余裕度となる。このようにして数式11、数式12よりT1、T2を求めると必要な最小限の初期張力T0が数式13により与えられる。 さらに、3つのプーリの場合を図3に示す。図3のモデル図では、原動プーリ101と、従動プーリ102と、従動プーリ103とに、それらに共通する単一のベルト200が掛けられている。なお、T1、T2、T3は張力である。P1、P2、P3は駆動力である。図3のモデルでは、「P1=P2+P3」が成立する。図3に示した記号を用いると原動プーリは2つの従動プーリの駆動力(P2、P3)をあわせたものであるから最もすべりやすいと思われるので、数式11、数式12のφ0の代わりにφ1を代入してT1、T2を求める。またT3は「T3=T2―P2」である。しかしほんとうに従動プーリがすべることがないか2つの従動プーリについて以下の数式14、数式15の判別式でチェックしておく必要がある。これは数式7の変形式である。駆動するとき接触角度に余裕のあるプーリならφ0を超えていないので、数式7は両辺がイコールにはならないから、下記不等号式になるはずである。ただし、数式14、数式15において遠心力項は無視している。 もし上式を満足しないときには原動プーリと従動プーリを入れ替えて再度同様にチェックを行い確認する。それでもなお上式を満足しないときには、再度入れ替えてチェックする。最悪3回のチェック工程を実行すると、どれかが上式を満足するはずである。 さらにサーペンタイン方式のベルト駆動システムになるとプーリの数だけこのすべり発生の有無のチェック作業を繰り返すことになる。その組み合わせはプーリが増えれば増えるほど増大する。しかし時間さえかければ、駆動力P1、P2、P3・・・を与えることで、プーリ毎のすべり発生の有無の判定は上式によって実行できる。 しかし、残る1つの設計ポイントである駆動中にベルトにかかる張力はまだ決定はしていないのである。上記にある式でT1、T2、T3・・・は求められないのである。なぜならφ0が未知数だからである。これもすべり判定同様φ1、φ2の小さい方の角度で代用すると数式11、数式12よりT1を実際より低く見積もることになり(結果としてT2も低く見積もる)ベルト切れに対して過小評価となってしまう。さらにもっと重大な問題は数式11、数式12はすべりが起こり始めようとする状態を解いているので、駆動力Pで設計した数式13より求めたT0の初期張力でセットされた状態のプーリ、ベルトを部分負荷(たとえばP/2)で使用すると全くあわないのである。 図4(A)は発明者が実際に実験により張力を測定した結果とEulerの式より求めた値T1、T2とを比較した結果を示す。実験では、図4(B)に示す寸法の原動プーリ101と従動プーリ102とを用い、ベルト200には4溝のVリブドベルトを用いた。実験では、静止状態で従動プーリに負荷を加え、原動プーリの駆動トルクはトルクレンチにて測定した。また張力は共振周波数をマイクロホンで測定して求める非接触式の測定器を用いた。μmaxは実測値の0.92である。図では駆動力Pの最大値を510Nと想定して数式13よりすべらないための初期張力として300Nに決定し、2つのプ−リ間隔をセット固定した。Eulerの数式11、数式12より「T1=40N」、「T2=550N」とした。ただしφ0は「φ1=167°」で代用した。その後、駆動力Pを変化させて張力を測定した。たとえば「P=210N」を見ると、実測の張力は「T1=190N」、「T2=400N」となっておりEulerの式の値より約200Nくらい上である。すなわち前述したようにEulerの式より予測できるのは初期張力を設定した駆動力の最大値のときだけであり、部分負荷状態はまったく合わない。これはEulerの理論が最悪条件だけに合うようにして求められているので当然の結果ではある。部分負荷状態での途中の張力は数式8、数式13より求められる下記の数式16、数式17の線上に乗っているようである。 この結果を見るまでもなくEulerの式から使用中の張力を求めようとすることはもともと無理である。なぜなら初期張力は元来、使用中の負荷には関係なく適当な値T0にセットされてしまうものである。もちろんT0が駆動中にすべるかどうかの判定は必要だが、それは動いた後のことで、セットは動く前にされてしまう。その結果は、数式16、数式17に自動的に乗ってしまうのである。これはサーペンタイン方式によく用いられるオートテンショナーの場合も同じである。たとえば図4のベルト配置において、緩み側T1の部分にオートテンショナーを入れると、張力T1はオートテンショナーにより与えられる荷重に固定されてしまう。その結果、「T1=オートテンショナー荷重」となり、「T2=T1+P」となるから、この場合もまたEulerとは関係のない式で張力が求まってしまう。しかもあらゆる負荷状態にも現実に合致する。 以上述べたようにベルト伝達を設計するための1つ目の設計ポイント張力予想は従来のEulerの方法ではまったく決定できないとゆう欠点があった。一部ではそれを承知でいまだに駆動中の張力予測にEulerの式が使用されているがこれは負荷Pが変動するときにはまったく意味のないものになってしまう。 2つ目の設計ポイントであるどの位の動力まで駆動できるかを予想する方法であるがこれも基本となるEulerの理論が駆動力Pが固定されているときに最悪の箇所(プーリ)ですべりが起こり始めようとする点を探し出しその検証を2番手以降危険な箇所(プーリ)と思しき部分を下記の数式18でチェックする方法をとっているのでサーペンタイン方式ではプーリ数が多すぎて繰り返し計算するのが事実上困難である。 さらに前述したように張力そのものが決定できないのであるから数式18の左辺が求まらないのである。仕方がないので原動プーリで数式11、数式12に基づき(原動プーリの接触角度で)T1とT2を求めて、その結果を従動側のプーリで数式18に基づき判定するというはなはだすっきりしない方法をとっている。そこでベルトメーカーではすべり判定に経験的な方法として下記のような方法を使用している。すなわち、各プーリにおける下記数式19、または数式20の値を一定値以下に設定する方法である。 あらかじめベルト1本(1リブ)あたりの許容値を決めておき、それによりすべらないような本数を決める方法である。しかしながらその値の物理的根拠が不明確なこと、そのうえ上記比には初期張力が入っていないことより、これまた現実に合わない状態である。 このように2つの設計ポイントいずれも役立つ設計法がないのが現状である。この原因の1つには初期張力に対する取扱いが放置されていることが大きな原因である。従来、初期張力T0に対する文献の扱いはEulerの理論よりもとめたT1、T2に対して、下記数式21を満足するような値以上に設定すればすべらないとゆうのが一般的である。 すなわち所定の動力を駆動するための最小限の張力を初期張力T0と定義している。そのため回転数ごと、負荷の状態(例えば全負荷(フル負荷)か、部分負荷か)により必要なT0が変わるため、あらゆる状態のうち最大値に設定することとなっている。これは、はなはだおかしい話である。必要な値以外に設定したら駆動時の張力はどうなるのか、必要な値に設定したら駆動時の張力はどうなるのかに対して、なんら答えていないのである。何よりも問題なのはその必要な最小張力すらT1、T2が前述の如く決定できないので求めることすらできないのである。しかも、その決まらない張力と求まらないクリープ角φ0ですべり判定をしているというはなはだおかしなことをしているのである。またその対策のために最大静止摩擦係数そのものを実際と異なる値で代用して、例えば実測値はμmaxが1.0前後であるが、0.5前後の値で代用して計算して接触角度などの補正に使うとゆう本末転倒なことをやっている場合もある。 その他いろいろな改良案が出されているが基本はEulerの理論から出発しているので大同小異である。このようにベルトに代表される摩擦駆動の設計に対しては古い技術であるにもかかわらずその自体ははなはだ不明確である。 このように間違いを起こした原因は2つあると思われる。その1つはEulerの式は本来、円柱面上で動くロープ等の最大静止摩擦係数を測定するために使用される式であるので、正常にすべらずにベルト伝動されている状態ではどのくらいの余裕度があるかまったく予測ができないのである。 2つめは外力と内力の間違い、または何が未知数かの間違いをしたためと思われる。それをわかりやすく説明するために斜面に置いた重さWの物体のつりあいで説明する。図5にモデルを示す。物体Wがすべり出す前は図5より「Q=W・cosα」であるから、すべりのない状態での摩擦力は、「摩擦力=μQ=μW・cosα」となる。ここで静止摩擦係数μが未知数であるが、斜面角度をもっと大きくしていったときすべりが起こる直前の摩擦係数は測定できる。いわゆる最大静止摩擦係数として既知数である。この最大静止摩擦係数をμmaxとして上式を書き換えると、「すべりのない状態での摩擦力=μW・cosα=μmaxW・cosα0」となる。ここでα0は実際に摩擦に影響している角度で擬似摩擦角度という。α0<αである。 これは間違いではないが明らかに妥当ではない。なぜなら静止摩擦係数μは未知数ではあるが、「μ=tanα」として計算できる値であるから、これを上記式に代入すると、「すべりのない状態での摩擦力=μW・cosα=W・sinα」となり、擬似摩擦角度α0を使わなくても斜面角度αのときの摩擦力は決定できる。こんな解き方をするのはおかしい。しかし現実にEulerの解析方法はこれとまったく同じことをやっている。クリープ角φ0という概念を作り出している。本来は静止摩擦係数μを求めればすべっていない(スリップのない正常な伝達時)状態の摩擦力は正しく求められ、しかもそのμがμmaxを超えたときにすべりが発生するという、きわめて単純な、科学的な判別が可能となったはずである。このような解き方をした原因はEulerの解析から張力T1、T2を求めようとしたことに最大の原因がある。図6は、斜面のモデルを示す図5と比較しやすいようにベルトの微小部分を示したモデル図である。図6において、未知数は垂直力Qと接線力μQと張り側張力T2である。緩み側張力T1は図にもあるように駆動力Pとの関係式で未知数T2ということと事実上同じである。すなわち未知数が3つあるのに、つりあい式は2つしかできないのでこの方程式は解けない。半径方向と円周方向のつりあい式である。仕方がないので、μを最大静止摩擦係数μmaxとして既知数とし、未知数を1つ減らし、方程式を解けるようにした。 しかしこの選択は間違いであった。ほんとうは張り側張力T2が既知数でμが未知数であるべきであった。事実、前記したように張力T1、T2はユーザーが、勝手に設定してしまった初期張力T0またはテンショナー荷重で決まってしまうのである。本来つりあいを解くときには、考えている物体の内力を外力と区別して考える必要がある。ベルトとプーリの接触部の力(Q、μQ)は今回の場合は内力である。この力はつりあい方程式から決定されるがベルト張力(T1、T2)は外力であり、いろいろな外部との係わり合いで決定されるべきものである。つまり他のプーリを含めて決定するものである。内力問題を解くときには外力は決定されていなければならないのである。内力を解くための初期条件として外力を使うのが普通である。にもかかわらず、内力の決定にあたり、たった1つのプーリの都合のみで外力を決めてしまったので、他のプーリとのつじつまが合わなくなり、クリープ角度φ0なる架空のものを作り出し他のプーリとのつじつま合わせをしたものであるが、結果的に混乱してしまっただけである。本来、計算して求めるべきμの代わりに計算しなくてもわかっている既知のμmaxに置き換えてしまって、その代わりに既知のφ1を架空のφ0に置き換えてしまったが、結局そのφ0も求めることができなくなり既知のφ1を再度使用したというかたちになってしまった。しかも既知のμmaxすら別の値に変えて計算するという悪循環になってしまった。 以上述べたように、既知数と、未知数の区別もせず、外力と内力の区別もせずに、すなわち原因と結果の区別もしないでベルト駆動システムの問題を解こうとしてきたことに欠点があった。2つのプーリで、しかも一定負荷のときはどうにか矛盾を露呈せずに済んでいたがサーペンタイン方式の場合、あるいは負荷変動のときはまったく対応できない状態であった。 以上述べたように従来のベルト駆動の設計は図7に示したように繰り返して検討しなければならず、しかも最大負荷時の張力しか算出できなかった。最近は内燃機関ではサーペンタイン方式のベルト駆動をするのが常識になりつつある。ここで、駆動される補機は当然に全負荷で使用するときもあるが部分負荷で使用するときもある。しかも、動力源が内燃機関(エンジン)であるので当然に回転変動がある。このような状態では従動プーリの駆動力は時々刻々変化し、その結果すべり易いプーリが常に変わる。それを上記の判別式でチェックするとしたら天文学的なチェック回数になってしまう。例えできたとしても最大負荷条件で決定しなければならないので、事実上は大きな安全率のある設計を余儀なくされる。その結果、実際の使用中の張力をEulerの理論で予測できるのは図4にも示したように全使用範囲のうちたった1点である。 最近は内燃機関ではVリブドベルトによるサーペンタイン駆動をするとか、駆動中の張力確保のためにオートテンショナーを装着するようになり、7つあるいは8つに達する多くのプーリを1つのベルトで連結したものも珍しくなくなってきた。そのため駆動中にテンショナーが張力変動のために大きく揺れる、ベルトが共振する(張力により共振周波数がかわる)、ベルトが弾性限度を超えて伸びてしまうなどの問題がでてきた。かかる問題を解決するためには、今まで以上に駆動中の状態を正しく知る必要が出てきた。しかしながらたった2つのプーリ間の駆動ですら正しい設計方法がないのが現実であった。 本発明はこのような問題を解決するためにベルト駆動の設計のために正しく、しかも簡単は方法を提供することを目的としている。 上記目的を達成するため本発明者らは摩擦駆動について改めて原点に帰って考察した。すなわち、張力を求めるためには、Eulerのようにベルトの微小部分の積分を解かなければ求められないのかという問題を考察した。従来は、この積分ゆえの数式7があるために、すべてのその後工程での矛盾が生じているのである。本発明者らは、前述のごとく、内力と外力との取り扱い方を間違えたことに問題点があると気づくに至った。そこで各プーリ間の張力をまずマクロ的にとらえて決定し、しかる後にその結果を利用して個々のプーリの駆動問題を解くという今までの方法とはまったく逆の手順で設計する方法を着想した。 請求項1記載の発明は、複数のプーリ間を1本のベルトで駆動するベルト伝動システムの設計方法において、ベルトのばね定数、ベルトスパン長さ、初期張力、および各プーリの負荷から計算される駆動力などいわゆるプーリとベルトと負荷の全体のレイアウトから各プーリ間の張力を計算し、次に個々のプーリ毎にその計算によって得られた緩み側張力、張り側張力、および接触角度より静止摩擦係数を計算し、該静止摩擦係数と、ベルトとプーリとの間の最大静止摩擦係数μmaxとを比較し、「静止摩擦係数<μmax」の不等式を満足しておればそのプーリ部はすべりが発生しないと判定することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法という技術的手段を採用する。 すなわち請求項1記載の発明では、まず各プーリ間の張力を決定する。この工程を手順1と呼ぶ。次に、手順1の結果で、個別のプーリ部分の検討をして静止摩擦係数を算出する。この工程を手順2と呼ぶ。そして、すべりの判定を行なう。この工程を手順3と呼ぶ。すなわち手順1でマクロ的に全てのプーリレイアウトから張力を決定しているので、個別のプーリで矛盾を生じることがない。しかもどのプーリ部も物理的に根拠のある静止摩擦係数ですべり判定をしているので科学的である。また個々のプーリすべりなどの問題は個々のプーリの変更で行なえ、他のプーリの変更を伴わないので繰り返し計算する必要がない。 請求項2記載の発明は、請求項1記載のベルト伝動システムの設計方法において、前記静止摩擦係数をηとし、ベルトの単位長さの重さをwとし、ベルトの速度をvとし、重力の加速度をgとして、前記静止摩擦係数ηを数式22又は数式23により表すことを特徴とするベルト伝動システムの設計方法である。 請求項2記載の発明では、静止摩擦係数ηはマクロ的に決定済みの張力Tと幾何学的な接触角度θだけで計算できるので架空の決定できないクリープ角も必要とせず、しかも部分負荷にも対応できる。 請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のベルト伝動システムの設計方法において、内燃機関を動力源とするサーペンタイン方式のベルト伝動システムを設計することを特徴とするベルト伝導システムの設計方法である。 請求項3記載の発明では、サーペンタイン方式という複雑なベルト伝動システムの計算に用いることにより、従来のような統計学的に増大するチェック方法をとらなくても簡単に、例えば多くても数回で結論が出せる。 請求項4記載の発明は、請求項3記載のベルト伝動システムの設計方法において、前記サーペンタイン方式のベルト伝動システムは、アイドラープーリ、テンショナープーリを含むことを特徴とするベルト伝動システムの設計方法である。 請求項4では、駆動力を必要としないアイドラープーリ、テンショナープーリも他の負荷のある、すなわち駆動力を必要とするプーリと同様に扱えるので計算が単純となる。すなわち単に駆動力を0と考えれば他のプーリと同じに扱えるのでアイドラープーリ、テンショナープーリがいくら増えても計算式は同じである。 請求項5記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、数式24の不等式を満足すればベルトがプーリから離れないと判定することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法である。 請求項5では、部分負荷にも対応した正しい張力が決定できたので、各部の張力が遠心力項以上という簡単な不等式でベルトの耐高速回転の判定ができる。 請求項6記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、各プーリ間の計算された張力を「T1、T2・・・TN」とするとき、数式25および数式26の不等式を満足すればベルト伝動が安全に行われると判定することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法である。 請求項6では、正しい張力が決定されたので、ベルトの材料等から許容される最大値あるいは最小値と容易に比較できる。 請求項7記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、与えられた前記不等式を全て満足するまで接触角度、プーリ径、初期張力、テンショナー荷重などのプーリレイアウト要因を変更することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法である。 請求項7では、マクロから個別のミクロへの手順で設計しているのでいろいろな必要条件にも簡単に、しかも他のプーリの変更を強制することもなくなるので、全体から部分への設計が容易になる。 請求項8記載の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、前記計算された張力により駆動中のベルトの共振周波数fを求め、その共振周波数fが動力源の発振周波数あるいは負荷の固有振動数にほぼ一致することを避ける状態に、接触角度、プーリ径、初期張力、テンショナー荷重などのプーリレイアウト要因を設計することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法である。 請求項8では、あらゆる負荷状態の張力が正しく計算できるので共振を避ける設計が簡単で、しかも確実に行える。 請求項9記載の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、各プーリの負荷として時間的に変化するものを駆動力として扱い時間経過ごとのベルトの状態を設計、判定することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法である。 請求項9では簡単な計算と判別法であるので過渡状態の計算式が複雑にならないので時間変化をシュミレーションできるようになる。 請求項10記載の発明は、請求項9記載のベルト伝動システムの設計方法において、時間経過ごとのテンショナーの動きを計算することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法である。 請求項10ではテンショナーの動きも予測でき、テンショナーばねの応力計算などの検討が容易になる。 より具体的に、図8のようなプーリのレイアウトをしたベルト駆動システムで説明する。図8に示したように以降の解析は負荷のないアイドラープーリ、オートテンショナープーリも含めた合計N個のプーリを含むサーペンタイン方式のベルト駆動システムに基づいて説明する。アイドラープーリは、単にベルトの方向変更に使用する。オートテンショナープーリは、平行移動可能に支持されており、ベルトに一定の張力を与えるために移動方向へバネなどにより荷重が加えられている。プーリが2つだけ、例えばアイドラーやテンショナーがない場合にも適用可能な解析となっていることはいうまでもない。図8において、原動プーリ1は、動力源によって時計回り方向に駆動される。このベルト駆動システムは、原動プーリ101、従動プーリ102、従動プーリ103・・・従動プーリn・・・従動プーリNを備える。ベルト200は、すべてのプーリに掛けられている。従動プーリには、アイドラープーリなどを含む。プーリの数は、合計N個である。n番目のプーリに関する変数は識別子nを付して示される。ベルトの背面を利用して駆動力を伝達する背面駆動型のプーリも含まれる。n番目のプーリの直径をDn、n番目のプーリとベルトとの接触角度をθn、駆動力をPn、n−1番目のプーリとn番目のプーリとの間のスパン長さをLn、張力をTnとする。 各プーリを駆動するためには、それらの駆動は前後の張力差で行なわれる。従って、原動プーリ1では、「T2−T1=P1」の式が成立する。従動プーリ2では、「T2−T3=P2」の式が成立する。従動プーリ3では、「T3−T4=P3」の式が成立する。同様に、全N個のプーリについて式が成立する。N個目のプーリにおける一般式は、「TN−T1=PN」で表される。これらの式を並べると、下記の数式27となる。 しかし原動プーリ1の駆動力P1は、「P1=P2+P3+・・・PN」となることを考慮すると上記式の最初の行(1個目)の式はそれ以後の式の左辺と右辺を足し算して得られるので実質N−1個の式である。未知数はN個であるので張力決定のためには、さらに1つの式が必要である。残る1つの式を決定するために、ここでは2つの場合について考える。1つはテンショナーがないシステム、いま1つはテンショナー付の場合である。 <テンショナーがないの場合の解析> 初期張力T0でセットしたときのベルトの伸びΔL0はベルトのばね定数をknとすると、下記数式28を得る。 同様に、同ベルト駆動システムが駆動中の伸びΔLは、下記数式29で与えられる。 よって初期の状態から駆動したことによる相対伸びは「ΔL−ΔL0」は、下記数式30で与えられる。 いま、ベルトの断面積をA、ベルトのヤング率をEとすると、「kn=AE/Ln」であるから、下記数式31を得る。 実際には、この相対伸び「ΔL−ΔL0」は0であるから、結局上記式は整理すると下記数式32に変形できる。 以上の数式27および数式32により、N個の方程式が与えられたのでN個の張力「T1,T2,・・・TN」を求めることができる。この式はN元連立1次方程式であるので簡単に解くことができる。たとえば行列計算を用いることができる。詳細な解法は省略する。以上により張力はすべて求まる。たとえばプーリが2つの場合は、「N=2」であり、上記数式32は、上記数式13と同じになる。 <テンショナーがある場合の解析> テンショナーのセット時の荷重をTt、そのときの伸びをΔLt、駆動中の伸びをΔLとすると、上記数式31と同様に相対伸びは下記数式33のようになる。 いま図9に示したようにテンショナーをn番目のプーリとするとベルトの伸びは、このテンショナーの移動量δtにより吸収される。テンショナーのばね定数をKとすると、セット時は「Tn=Tn+1=Tt」であるので下記の数式34を得る。駆動中は、下記の数式35または数式36が与えられることから、数式37を得る。 したがって、テンショナーで吸収する相対伸びは「数式34−数式37」となるから、下記の数式38を得る。 ただし、数式38右辺の先頭の符号は、ベルトの相対伸び数式33を、通常、テンショナーは荷重を下げる方向で吸収するのでマイナス「−」とした。ベルトの伸びを荷重増加の方向で吸収するテンショナーの場合は、プラス「+」とする。 いま、ベルトとテンショナーの相対伸びは等しいから、「数式33=数式38」とおき、左右を整理すると、下記の数式39を得る。 以上の結果、数式27と数式39とをあわせてN個の方程式が与えられたので、すべての張力を決定できる。 たとえば、テンショナーのばね定数Kが0の場合は、数式39は、「Tn+Tn+1=2Tt」となる。一方、数式27の関連項より、「Tn+Tn+1=Pn=0」を考慮すると、「Tn=Tn+1=Tt」となる。 以上、2つの事例で説明したようにプーリ関係のアライメントが決まれば、このプーリとベルトの関係のみでプーリ間のベルト張力は初期および駆動中でも一義的に決定できる。すなわち個々のプーリとの接触角度、径やベルトの種類、本数などのミクロな情報がなくてもマクロのプーリのアライメントがわかるだけで決定できる。 次に上記結果をうけて個々のプーリについて解析する。 まず原動プーリ101についてすべりなく駆動中の場合を図10に基づき説明する。図10では、図1と比較して、摩擦力がNdsに、接触角度がθ1に、それぞれ変更されている。 半径方向のつりあい式は、微小の項を省略することにより、数式40で与えられる。数式40に数式41を代入し、整理すると、数式42を得る。 円周方向のつりあい式は、微小項を省略することにより、数式43で与えられる。ここでプーリからの駆動力P1はプーリとベルトとの接触部全域の摩擦力Ndsでベルトに伝達されるから、数式44で表される。数式44に数式43を代入すると数式45を得る。数式45は、数式27の1個目の式に等しくなる。これはマクロ的に検討した結果が個別のプーリでも自動的に満足されていて、矛盾を生じていないことを示している。さらに、数式43を数式40で割り算すると、下記の数式46を得る。 数式46において、左辺のNとQの比は、いいかえると接線力と垂直力の比であり、いわゆる静止摩擦係数と呼ばれるものである。これは、最大静止摩擦係数ではない。文献によっては最大静止摩擦係数を単に静止摩擦係数と表現しているものもあるので、混乱を避ける意味でここではあえてη1とした。すなわち下記の数式47のように定義付けた。 静止摩擦係数の値をη1とすると、数式48が得られる。この数式48を整理して、数式49を得る。 いま、η1は、点mから点nまでの間で一定であると仮定する。これは、点mから点nまでの間の平均値がη1であるとするのと同じである。数式49の両辺を積分すると数式50を得る。この数式50を積分して整理すると、数式51を得る。 すべりが発生することなく駆動するためには、最大静止摩擦係数をμmaxとすると、数式52を満足する必要があるから、数式53を得る。 すなわち、数式51より計算されるηが、下記数式54を満たしている間はすべりが発生しないことを示す判別式を得る。なお、Eulerの解析とは違って、すでに前記したように張力は既知数であるのでη1は計算できる。 つぎに、従動プーリ102についてすべりなく駆動中のj番目のプーリ例を図11に基づき説明する。図10と比較して回転方向のみが異なる。力関係の図は見かけ上同じである。ただし、ベルト張力の差「Tj−Tj+1=Pj」の力によりプーリを摩擦力Ndsで駆動する点が異なる。ベルトでプーリを駆動する場合と、プーリでベルトを駆動する場合との違いがある。 数式40、数式42、数式43は、同じとなる。結果として、点mから点nまで積分すると、数式55を得る。数式55から、上記手順を経て、数式51と類似の数式56を得る。判別式は、数式57として与えられる。 以上、原動プーリ、従動プーリをあわせて図8に示したように、単にプーリ番号で区別して表現して前記結果を整理すると、n番目のプーリでは下記の数式58が成立する。数式58は、従動プーリの場合を示す。原動プーリの場合には、張り側と緩み側の添え字の番号の大小が逆になり張り側張力T2、緩み側張力T1となる。遠心力が無視できる場合は、数式59が成立する。ベルトの単位長さ当りの垂直抗力、すなわち垂直力Qnは、数式60で与えられる。ベルトの単位長さ当りの摩擦力Nnは、数式61で与えられる。 以上マクロ的な解析と個別のプーリの計算式が解けたので、正常にベルト駆動できる条件をまとめると、以下のようになる。 最大張力がベルトの許容張力を超えるとベルトの短寿命、破損などの不具合が起こるので、下記数式62を満たす必要がある。なお、許容張力は、例えば弾性限度、疲労限度、引張り強さなどにより与えられる。 また当然ではあるが張力が0以下になると、ベルトが緩んでしまうので、下記数式63を満たす必要がある。なお、必要最低張力は、確実な伝動のために安全率を見込んで100N程度の値を通常は用いる。 またプーリが確実にすべらずに動力伝達ができるための条件は、個々のプーリにおいて以下のように与えられる。まず、数式58が成立するには自然対数関数「ln」のなかがプラス「+」である必要があることより、下記数式64が成立する必要がある。なお、張り側は、数式64が成立すれば、自ずとプラス「+」になる。 また、数式60がマイナス「−」になると、ベルトがプーリから離れることを意味するから、これもプラス「+」である必要がある。しかし、一番厳しい条件となるのは、「t=緩み側張力」のときであるから、数式64と同じになる。 すべらないためには、下記数式65を満たす必要がある。 さらに、絶対的条件ではないが、回避することが望ましい現象として共振現象がある。すなわちエンジンの爆発周期にベルトの共振周波数が一致することは回避することが望ましい。爆発周期は、例えば6気筒4ストロークエンジンの場合には回転の3倍となる。具体的には、下記の数式66で示される1次モードの共振周波数と、エンジンの爆発周期とを可能な限り離すように各パラメータを設定する。 以上により、ベルト伝動が正常に行われるための条件、張力計算のための式がすべて明確になった。 図12には、本発明の手順をあらためて示す。個別のプーリの接触角度に関係なく全てのプーリ間の張力がまず決定される。従って、後工程では、個別のプーリ毎にすべり判定ができる。このため、万一、あるプーリのすべり判定において不良判定がなされても、そのプーリだけ接触角度を1回変更するなどの処置を講じれば、当該プーリのすべり判定を良判定の領域に入れることができる。しかも変更による他のプーリへの影響は全くない。このように、本発明のベルト伝動システムの設計方法は、簡単でしかも全負荷領域で張力がわかるという優れた設計方法である。 なお、図12では、角度θ:「θ1、θ2・・・θn」の設定ステップと、すべり判定のステップとからなる単位工程を並列的に図示しているが、これらの単位工程は順に実行されることができる。例えば、図12の手順をコンピュータによる設計支援システムにおいて実行することができる。かかる設計支援システムでは、入力装置と、演算装置と、表示装置とのブロックから構成されるシステムが用いられる。そして、演算装置によりベルト伝動システムの設計方法のうち、演算処理に係る部分が実行される。この場合には、単位工程が順に実行される。さらに、それぞれの単位工程の後に、あるいはすべての単位工程の後に、プーリの条件を変更設定するステップを設けることができる。例えば、良判定されたプーリをそのままに、不良判定されたプーリのプーリレイアウト要因のみを変更設定するステップを設けることができる。ここでは、不良判定されたプーリを表示する表示手段を設け、操作者からの入力に応じてプーリレイアウト要因の変更を行ない、再び判定処理を実行する。また、不良判定されたプーリについて、良判定をなしうるプーリレイアウト要因の可変範囲を表示する表示ステップを設け、操作者が所望のプーリレイアウト要因を選択、あるいは設定するステップを設けることができる。 さらに、ほとんどありえないような特別大きな負荷では、むしろ積極的にベルトにすべりが発生することを許容したほうが、かえってトータル的に見た場合はベルト寿命が延びる場合もある。例えば、使用頻度の多い低めの負荷状態のために全体的に張力をさげて使用する場合である。そのようなすべりがある場合の張力も、本発明のベルト伝動システムの設計方法によると計算することができる。 例えば、j番目の従動プーリが、すべりがある状態、すなわち下記数式67が成立する状態で使用された場合を想定し、説明する。動摩擦係数をμkとすると、図13のモデル図がえられる。この図13は、図11に比較して、摩擦力を「μkQds」と置き換えた点が異なる。径方向、円周方向のつりあい式を整理すると、数式68が得られる。この数式68と、数式7との違いは、摩擦係数が静止摩擦係数であるか、動摩擦係数であるかの違いだけである。 ここですべりが発生したときは数式27のうちj番目のプーリに関する式は成立しない。すなわち、「Tj−Tj+1≠Pj」となる。従って、N個の未知の張力に対し、1個の方程式が不足する。この不足する式の代替として数式68を使用し、N元連立方程式すると全ての張力を求めることができる。そのときのj番目のプーリでの実際の駆動力「Pjslip」は、「Pjslip=Tj−Tj+1となる。負荷が必要とする駆動力Pjに対して「Pj−Pjslip」だけ駆動力が低下することがわかる。このように本発明の方法ではすべった場合のその量も予測できるという優れた効果もある。 本発明から計算した2個のプーリの場合の張力およびすべりの発生の有無を実験値と比較して図15、図16に示した。図15(A)、図15(B)、図15(C)、図15(D)は初期張力T0を変えた場合の駆動力に対する張力およびηのグラフである。その他の試験条件は図4に同じである。張り側T2、緩み側T1の張力は駆動力Pが変化しても実験値とよく一致している。Pが大きくなるとηもそれにつれて大きくなりついにはすべりが発生することがわかる。グラフ上では、×印がすべり発生点を示す。すべりの測定方法は、ベルトとプーリの同一箇所に目印としての印をつけておき、すべった場合はその印が相対的にずれることを観測することにより判定した。回転させていないのですべりが目視できる。このすべりが発生したときの駆動力を初期張力との関係で書き直したのが図16である。初期張力T0を高めると大きな駆動力まですべりにくくなることがわかる。図にはηを変えた場合のT0と駆動力Pの関係も示した。PとT0より計算されるT1、T2により数式58で求めた。これは言い換えれば与えられたPを伝達するに必要なηを示す。これによるとηが0.9から1.0くらいで実測のすべり発生時の駆動力と一致している。これは図14(B)に示した最大静止摩擦係数μmaxの実測値0.9から1.0くらいと一致している。このことからも本発明の式によるすべり判定が正しいことがわかる。なお、図14(B)はVリブドベルトにプーリを押し付け、その荷重を種々に変えてすべりだすときの摩擦力を測定して、その比からμmaxを計算したものである。図14(A)に測定条件を示すモデル図を示す。 このように本発明のベルト伝動システムの設計方法は、従来ではできなかった張力を正しくシュミレーションできるばかりでなく、すべり判定も単純明快にでき、しかも繰り返し計算の必要もないすぐれた効果が得られる。さらに従来ではまったく説明できなかった初期張力の違いによるすべり易さの判定も可能にした。すなわち、従来は、μmaxと、定まらないクリープ角度φ0とを用いた判定、または、物理的な根拠の不明確なP/φ、P/(φ×プーリ半径)を用いた判定を行っていた。 本発明のベルト伝動システムの設計方法によるすべり判定の具体例を具体的なエンジンの例に基づき説明する。図17に示すようなサーペンタイン方式のベルト伝動システムに本発明を適用した実施例で説明する。図17では、図8に準じて番号が付されている。原動プーリ101は、エンジンのクランク軸に接続されている。従動プーリ102は、エアコンディショナー用のコンプレッサに接続されている。従動プーリ103は、オルタネータに接続されている。従動プーリ104は、アイドラーである。従動プーリ105は、パワーステアリング装置のポンプに接続されている。従動プーリ106は、エンジンの冷却水を循環させるためのウォータポンプに接続されている。従動プーリ107は、オートテンショナーに接続されている。ベルト200は、6つのリブを有するVリブドベルトである。 図17には各プーリの負荷となる機器の名称が示してある。それらの駆動力Pは図18に示すように回転数に対して変化する値をとる。テンショナーの荷重を300Nとした場合に、数式27、数式39より求めた各ベルトの張力を図19に示した。図20にはηの値を示したが5000rpmくらいから限界線を超えてすべりが発生することがわかる。この実施例では、「μmax=0.9」とした、本例では使用しないがVリブドベルトの背面を利用したベルト伝動システムの場合は、実測によるとV溝の食い込み作用がないので「μmax=0.4」であった。さらに回転数が上がると数式64の条件よりベルトが遠心力のためにプーリから浮き上がってしまい完全に駆動不能となることが理解できる。 さらにエンジンに回転変動が発生した場合も同様に計算できる。ここではエンジンのクランクプーリが原動プーリである。原動プーリが角加速度±500rad/sec2で変動した場合を図示した。計算式は各プーリでの慣性モーメントと加速度とから計算される慣性荷重を静的な駆動力に加算したものをそのプーリの駆動力とすれば前記と同様に計算できる。図21はクランクプーリの張り側張力T2の変化を示す。図22は「K=3000N/m」のときのテンショナーの変位を示す。図23はクランクプーリのηの値を示した。このエンジンでは高回転時に駆動不能となるがこの対策にはテンショナー荷重を500Nに高めれば全て許容範囲内となる。もちろん張力は各部で平均200N高まるが、まだ許容張力1400N以下であるので変更可能である。 このように本発明のベルト伝動システムの設計方法によれば、ベルトの設計にかかわる検討が、複雑なサーペンタイン方式でも、また負荷が時間的に変化しても非常に簡単にできるという優れた効果が得られる。詳細は、下記の過渡応答時の張力の求め方を参照することができる。そのため各種の判定で許容範囲外となった場合でも、プーリレイアウト要因を個別に全体に影響することなく変更でき最終的に全体ですべてを満足する解が簡単に得られる。さらに万一すべりが発生した場合も「Pj−Pjslip」を計算するとすべっているときの駆動力の伝達量も知ることができるという効果もある。なお、設計上の判定としては、例えば、すべり判定、許容張力判定などがなされる。また、プーリレイアウト要因としては、プーリの径、プーリとベルトとの巻き付き範囲の角度、ベルトの初期張力、プーリ間のスパンなどが対象とされる。 次に、過渡応答時の張力の求め方について説明する。ここでは、図8と同様なプーリレイアウトの場合について考える。各プーリの回転角を「β1、β2・・・βN」、慣性モーメントを「J1、J2・・・JN」、エンジンの駆動トルクをMとする。未知数は「β1、β2・・・βN」と、「T1、T2・・・TN」の2N個である。 このベルト伝動システムの運動方程式は、下記の数式69で与えられる。 一方、力と変位との関係は、テンショナーを備えないベルト伝動システムの場合は、下記の数式70で与えられる。 いまN個の数式70の左辺と右辺をそれぞれ合計すると数式32と同じになる。また定常状態ではエンジンの駆動トルクMは「P1D1/2」に等しくなること、および下記数式71が成立することを考慮すると数式69は数式27と同じになる。 次に、テンショナーを備えるベルト伝動システムの場合、下記の数式72が与えられる。ここでは、テンショナーをn番目のプーリとする。 いま、N個の数式72の左辺と右辺をそれぞれ合計し整理すると、数式39と同じになる。 また、テンショナーの振動をも考慮する場合は、下記の数式73で与えられる。この数式73において、mはテンショナー質量、xはテンショナー変位である。また揺動方式のテンショナーの場合には、慣性モーメントを相当質量に換算したmの値を入れる。また粘性減衰を伴う場合は、数式69に粘性項を加えて計算する。 以上に述べたように、テンショナーを備える場合は数式69と数式72とを用い、テンショナーを備えない場合は数式69と数式70とを用いることで、未知数の数と式の数が同じとなり、各プーリの張力が決定できる。この結果、上記と同様に数式62から数式66により駆動の可否が判定できる。従来から知られたEulerの解析の場合のプーリとベルトとの間の力の状態を示すモデル図である。従来考えられていた2つのプーリ間のベルトに作用する張力の分布の状態を示すモデル図である。3つのプーリを備えるベルト伝動システムの力の分布を示すモデル図である。(A)は従来から知られたEulerの式より求めた張力と実測値との関係を示すグラフであり、(B)はプーリの寸法を示すモデル図である。斜面に摩擦力で止まっている物体の力の状態を表したモデル図である。Eulerの解析に使用されるベルトの一部分のモデル図である。従来から知られた摩擦伝動システムの設計のための手順を示すフローチャートである。サーペンタイン方式のベルト伝動システムの寸法、力の状態を示したモデル図である。図8に用いられたテンショナー部の挙動を示すモデル図である。本発明を適用した場合の原動プーリにおけるプーリとベルトとの間の力の状態を示すモデル図である。本発明を適用した場合の従動プーリにおけるプーリとベルトとの間の力の状態を示すモデル図である。本発明を適用した場合の摩擦伝動システムの設計のための手順を示すフローチャートである。本発明を適用した場合の従動プーリにおけるすべり発生時の解析のためのプーリとベルトとの間の力の状態を示すモデル図である(A)はVリブドベルトの最大静止摩擦係数の測定方法を示すモデル図、(B)は測定により得られた値を示すグラフである。(A)ないし(D)は、本発明を適用した計算値と実測値とを比較して示すグラフである。本発明を適用したすべり判定式により与えられる値と実測値とを比較して示すグラフである。本発明を適用した実施例としてのベルト伝動システムを示すモデル図である。図17における各プーリの負荷状態を示すグラフである。図17における張力を示すグラフである。図17における各ベルトの部分のすべりの有無を本発明を適用して計算した結果を示すグラフである。図17の原動プーリが角加速度をもつ場合の原動プーリの張力の値を示すグラフである。図21に示す場合のテンショナーの変位量を計算した結果を示すグラフである。図21に示す場合の原動プーリのすべり有無の判定結果を示すグラフである。符号の説明 100、101、102、103、104、105、106、107・・・プーリ。 Qds・・・垂直力。 μQds・・・摩擦力。 Fds・・・遠心力。 μmax・・・最大静止摩擦係数。 Tn・・・n番目のスパン部のベルト張力。 Pn・・・n番目のプーリの駆動力。 ηn・・・n番目のプーリの摩擦力と垂直力の比(いわゆる静止摩擦係数)。複数のプーリ間を1本のベルトで駆動するベルト伝動システムの設計方法において、 ベルトのばね定数、ベルトスパン長さ、初期張力、および各プーリの負荷から計算される駆動力などいわゆるプーリとベルトと負荷の全体のレイアウトから各プーリ間の張力を計算し、 次に個々のプーリ毎にその計算によって得られた緩み側張力、張り側張力、および接触角度より静止摩擦係数を計算し、 該静止摩擦係数と、ベルトとプーリとの間の最大静止摩擦係数μmaxとを比較し、数式1の不等式を満足しておればそのプーリ部はすべりが発生しないと判定することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項1記載のベルト伝動システムの設計方法において、 前記静止摩擦係数をηとし、ベルトの単位長さの重さをwとし、ベルトの速度をvとし、重力の加速度をgとして、前記静止摩擦係数ηを数式2又は数式3により表すことを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項1又は請求項2に記載のベルト伝動システムの設計方法において、 内燃機関を動力源とするサーペンタイン方式のベルト伝動システムを設計することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項3記載のベルト伝動システムの設計方法において、 前記サーペンタイン方式のベルト伝動システムは、アイドラープーリ、テンショナープーリを含むことを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項1ないし4のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、 数式4の不等式を満足すればベルトがプーリから離れないと判定することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項1ないし5のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、 各プーリ間の計算された張力を「T1、T2・・・TN」とするとき、数式5および数式6の不等式を満足すればベルト伝動が安全に行われると判定することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項1ないし6のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、 与えられた前記不等式を全て満足するまで接触角度、プーリ径、初期張力、テンショナー荷重などのプーリレイアウト要因を変更することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項1ないし7のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、 前記計算された張力により駆動中のベルトの共振周波数fを求め、その共振周波数fが動力源の発振周波数あるいは負荷の固有振動数にほぼ一致することを避ける状態に、接触角度、プーリ径、初期張力、テンショナー荷重などのプーリレイアウト要因を設計することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項1ないし7のいずれかに記載のベルト伝動システムの設計方法において、 各プーリの負荷として時間的に変化するものを駆動力として扱い時間経過ごとのベルトの状態を設計、判定することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。請求項9記載のベルト伝動システムの設計方法において、 時間経過ごとのテンショナーの動きを計算することを特徴とするベルト伝動システムの設計方法。 【課題】 ベルト伝動システムの設計方法を改良すること。【解決手段】 複数のプーリ間に1本のベルトを掛けて複数のプーリを連動させるベルト伝動システムの設計方法に関する。まず、ベルト伝動システムの全体のレイアウトから各プーリ間の張力を計算する。次に、個々のプーリ毎にその計算によって得られた緩み側張力、張り側張力、および接触角度より静止摩擦係数を計算する。そして、計算により得られた静止摩擦係数と、ベルトとプーリとの間の最大静止摩擦係数μmaxとを比較し、「静止摩擦係数<μmax」の不等式を満足しておればそのプーリ部はすべりが発生しないと判定する。【選択図】 図17