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タイトル:特許公報(B2)_アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を有する新規耐熱性タンパク質
出願番号:2004081625
年次:2009
IPC分類:C12P 13/04,C12N 15/09,C12N 1/21,C12N 9/12


特許情報キャッシュ

倉光 成紀 増井 良治 JP 4280827 特許公報(B2) 20090327 2004081625 20040319 アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を有する新規耐熱性タンパク質 国立大学法人大阪大学 504176911 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ 110000040 倉光 成紀 増井 良治 JP 2003078607 20030320 20090617 C12P 13/04 20060101AFI20090528BHJP C12N 15/09 20060101ALN20090528BHJP C12N 1/21 20060101ALN20090528BHJP C12N 9/12 20060101ALN20090528BHJP JPC12P13/04C12N15/00 AC12N1/21C12N9/12 C12P 13/04 C12N 1/21 C12N 9/12 C12N 15/09 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq PubMed JSTPlus(JDreamII) DNA Res.,2001年,Vol.8, No.4,p.123-140 She,Q. et al.,Database GenBank,[online],Accession No. NP_341712, <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?15897107:OLD12:516014>,2002年12月10日,DEFINITION: Acetylglutamate kinase (argB) [Sulfolobus solfataricus],URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?15897107:OLD12:516014 Structure,2002年,Vol.10,p.329-342 Eur. J. Biochem.,1975年,Vol.52,p.365-375 Eur. J. Biochem.,1975年,Vol.52,p.377-383 Biochem. J.,1981年,Vol.195,p.71-81 3 2004298187 20041028 12 20060515 (出願人による申告)平成15年度、文部科学省、科学技術試験研究による委託研究「代謝系タンパク質の構造・機能解析」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願 冨永 みどり 本発明は、アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を有する新規耐熱性タンパク質に関する。本出願は、国の委託に係る成果の出願である。 アセチルグルタミン酸キナーゼ(EC2.7.2.8)は、別名N−アセチルグルタミン酸5−ホスホトランスフェラーゼと呼ばれ、ATP存在下、N−アセチル−L−グルタミン酸に作用して、N−アセチル−L−グルタミン酸5−リン酸を生成する酵素で、アルギニンによって酵素反応は抑制される。このアセチルグルタミン酸キナーゼは、微生物および植物においてアルギニン生合成経路の二番目のステップにおいてN−アセチル−L−グルタミン酸5−リン酸を生成する段階を触媒する酵素である。アセチルグルタミン酸キナーゼは、ピサム・サチヴァム(Pisum sativum)(非特許文献1参照)などの植物由来の酵素や、酵母(Saccharomyces cerevisiae)(非特許文献2参照)、アカパンカビ(Neurospora crassa)(非特許文献3参照)、大腸菌(非特許文献4参照)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)(非特許文献5参照)などに由来する酵素が知られている。しかしながら、アセチルグルタミン酸キナーゼであって、耐熱性のものは知られていない。耐熱性のアセチルグルタミン酸キナーゼがあれば、それは工業的用途に広く利用できると期待できる。 他方、超好熱性古細菌(非特許文献6参照)についての研究があり、スルホロブス属細菌の1種であるスルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)(JCM10545)(非特許文献7参照)は、その遺伝子が既に解析されている(非特許文献8参照)。したがって、この超好熱古細菌が、アセチルグルタミン酸キナーゼを産生するとすれば、それは優れた耐熱性を有すると予想される。Biochem. J. 1981 Apr 1;195(1):71-81J. Biol. Chem. 2001 Nov 16;276(46):42869-80J. Biol. Chem. 1986 Apr 15;261(11):4820-7Gene. 1988 Sep 7;68(2):275-83Microbiology 1996 Jan;142 (Pt 1):99-108Advances in Protetin Chemistry, Volume 48, Enzymes and Proteins from Hyperthermophilic Microorganisms (M.Adams ed.), Academic Press (1996)Suzuki, T. et al., Extremophiles, 2002 Feb;6(1):39-44Kawarabayashi,Y. et al., “Complete genome sequence of an aerobic thermoacidophilic crenarchaeon, Sulfolobus tokodaii strain7”, DNA Res. 8 (4), 123-140 (2001) 本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を持つ新規耐熱性タンパク質の提供を、その目的とする。 前記目的を達成するために、超好熱性古細菌であるスルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)(JCM10545)のゲノム情報について調べたところ、この細菌が、アセチルグルタミン酸キナーゼを産生する可能性があることを突き止めた。この知見に基づき、さらに研究を重ねたところ、この細菌の遺伝子から、アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を持つ新規タンパク質を発現させることに成功し、本発明に到達した。なお、スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)(JCM10545)は、理化学研究所生物基盤研究部微生物系統保存施設に保存されており、第三者の要求により分譲可能である。スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)(JCM10545)の生育温度は80℃であり、生育限界温度が87℃であるから、本発明のタンパク質は、80〜87℃の高温であっても活性がある。 すなわち、本発明のタンパク質は、下記の(a)または(b)のタンパク質である。(a) 配列番号1のアミノ酸配列からなる耐熱性タンパク質。(b) 配列番号1のアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸残基が、欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を有する耐熱性タンパク質。 本発明により、アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を有する新規耐熱性タンパク質が提供できる。 前記アセチルグルタミン酸キナーゼ活性は、ATP存在下、N−アセチル−L−グルタミン酸に作用して、N−アセチル−L−グルタミン酸5−リン酸を生成する機能である。なお、本発明のタンパク質は、前記反応の逆反応を触媒してもよい。 前述のように、本発明の新規耐熱性タンパク質は、超好熱性古細菌由来であり、具体的には、スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii) (JCM10545)由来である。但し、本発明のタンパク質は、この菌が産生するものに限定されず、遺伝子工学的手法により、他の生物が産生するものであってもよい。 つぎに、本発明の発現ベクターは、前記本発明のタンパク質をコードするDNAまたは配列番号2に記載のDNAを含むベクターである。 つぎに、本発明の形質転換体は、前記本発明のベクターにより形質転換された形質転換体である。なお、宿主は特に制限されず、例えば、大腸菌等がある。 つぎに、本発明のタンパク質の製造方法は、前記本発明の形質転換体を培養する工程と、前記培養工程において発現した前記タンパク質を回収する工程とを含む製造方法である。 つぎに、本発明の製造方法は、酵素反応により、ATP存在下、N−アセチル−L−グルタミン酸に作用して、N−アセチル−L−グルタミン酸5−リン酸を製造する方法であって、前記酵素として前記本発明のタンパク質を用い、温度85℃の条件で前記酵素反応を行う製造方法である。 このように、前記本発明のタンパク質を用いれば、温度85℃の高温領域で酵素反応を実施でき、この結果、アセチルグルタミン酸キナーゼの工業的な用途が広がる。なお、この製造方法において、前記酵素反応のpHは、pH6.5〜8の範囲が好ましい。 前記2つの本発明の製造方法において、一定時間酵素反応を行った後、キレート剤および2価の金属イオンの少なくとも一方により前記酵素反応を停止させることもできる。前記キレート剤としては、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)が好ましい。前記2価の金属イオンは、Mn2+、Zn2+およびCu2+等が好ましい。 以下、本発明について、さらに詳細に説明する。 本発明者らは、海洋底から採取された超好熱性古細菌であって、好気性thermoacidophilic crenarchaeonの1種であるスルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)種7(JCM10545)の遺伝子配列からアセチルグルタミン酸キナーゼ活性を示すと推定される遺伝子(配列番号2)をクローニングし、これを大腸菌を用いて発現させることにより、本発明の新規耐熱性タンパク質を得るに至った。遺伝子のクローニング方法は、後記した実施例1に記載した通り実施した。クローニングされた遺伝子の塩基配列は配列番号2に示す通りであり、また、その推定アミノ酸配列は配列番号1に示す通りである。なお、本発明の耐熱性タンパク質は、アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を有していれば、配列番号1のアミノ酸配列において、一つ以上若しくは数個のアミノ酸残基が、欠質、置換、付加若しくは挿入されていてもよい。このアミノ酸配列における「アミノ酸の欠失、置換、付加若しくは挿入」は、当業者に公知の方法(例えば、突然変異誘発法)に従って実施することができる。 本発明のタンパク質は、前述の本発明のタンパク質の製造方法により製造可能であるが、これに限定されず、他の製造方法で製造されてもよい。例えば配列番号1に示すように、そのアミノ酸配列が決定されているタンパク質については、その配列を元に当業者に公知の手法、例えば、個々のアミノ酸を化学的に重合してタンパク質を合成する方法に従って調製することができる。 本発明のタンパク質をコードする遺伝子の一例としては、配列番号2に示す遺伝子がある。前記遺伝子は、例えば、後記する実施例2に示すように超好熱性古細菌スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)(JCM10545)のゲノムから、例えば配列番号2で示される塩基配列の一部をプライマーとして用いるPCR法あるいは該DNA断片をプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により調製することができる。また、その塩基配列をもとに、当業者に公知である核酸化学合成法等に従って前記遺伝子を得ることもできるが、これらに限定されない。 本発明の発現ベクターは、前記遺伝子もしくは配列番号2のDNAを適当なベクターに挿入することによって得ることができる。本発明の遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、AcMNPVなどのバキュロウイルスなどが挙げられる。プラスミドDNAは、大腸菌やアグロバクテリウムからアルカリ抽出法またはその変法などにより調製することができる。また、市販プラスミドとして、例えばpET-11a(Novagen社製)あるいはバチルス属の宿主を用いて分泌型のプラスミドなどを用いてもよい。これらのプラスミドは、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子などが含まれていてもよい。 ベクターへの遺伝子等の挿入は、例えば、精製された遺伝子の塩基配列を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などを用いることができるが、これらに限定されない。また、本発明の遺伝子の機能が発揮されるように、本発明の発現ベクターには本発明の遺伝子のほか、プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合配列などを組み込んでいてもよい。さらに、本発明の遺伝子も他のタンパク質のコードする配列を融合したものを挿入してもよい。 前記発現ベクターで宿主生物を形質転換すれば、本発明の形質転換体が得られる。宿主生物としては、本発明の遺伝子を発現できるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、大腸菌などの原核生物細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。形質転換法としては、既に公知である塩化カルシウム法などを使用することができるが、これらの方法に限定されない。 本発明のタンパク質の製造方法は、前記形質転換体を培養する工程と、前記培養工程において発現した前記タンパク質を回収する工程とを含む製造方法である。前記培養する方法は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。大腸菌等の微生物を宿主とした形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類などを含有し、形質転換体の培養を効率的に行えるものであれば、天然培地、合成培地などのいずれを用いてもよい。本発明のタンパク質の回収は、特に制限されない。前記タンパク質が菌体内または細胞内に生産される場合には、菌体または細胞を破砕することによって前記タンパク質を回収する。また、本発明の前記タンパク質が菌体外または細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離などにより菌体または細胞を除去した後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、培養物中から本発明のタンパク質を単離精製することができる。なお、培養液をそのまま使用する場合、熱処理をすることにより、本発明のタンパク質以外のタンパク質が失活するので、実質上、本発明のタンパク質のみの酵素液として使用できる。 以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。染色体DNAの調製 スルフォロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii(JCM10545))をL培地中で37℃にて一晩培養して集菌したものに、SSC溶液 (0.15M NaCl, 0.015M クエン酸ナトリウム)10mL、0.5M EDTA、100mg/ml ニワトリ卵白リゾチーム 0.1mLおよび10%非イオン性界面活性剤Brij-58を0.5mL加え、0℃で30分間放置した後、プロテイナーゼK(Merck社製)5mgを10%SDS 0.2mLに溶かした溶液を加え、37℃で2、3日間放置した。この溶液に水飽和フェノール、クロロホルム、イソアミルアルコールの混合溶液を加えて、37℃で1時間放置した後、水層を分取し、そこへエタノールを加えてDNAを沈殿濃縮した。このDNAの沈殿をTE溶液(10mM Tris-HCl(pH7.5)、1mM EDTA(pH8.0))10mLに溶解し、リボヌクレアーゼ0.25mL(最終濃度0.25mg/mL)を加えて、37℃で一晩放置した後、エタノールで沈殿させた。次いで、DNAをTE溶液5mLに溶解した後、260nmの吸光度より、DNA濃度を決定した(Clarke,L.& Carbon,J.(1979) Methods Enzymol.68,396-408)。発現プラスミドの構築と遺伝子発現1.発現プラスミドの構築 耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼ遺伝子の翻訳領域の前後に制限酵素NdeIおよびBamHI、NotIサイトを含むDNAを構築する目的で下記のDNAプライマーを合成し、このプライマーを用いたPCRで耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼ遺伝子の翻訳領域の前後に制限酵素サイトを導入した。用いたDNAポリメラーゼはKOD Dash(東洋紡社製)であった。Forward primer(配列番号3):5'-ATATCATATGATCGTAATCAAAGCTGGAGGAAGAGTAATA-3'Reverse primer(配列番号4):5'-ATATGGATCCGCGGCCGCTTATTACATGATCACCGTTCCCCT-3' PCR反応後、Ex Taq(宝酒造社製)を用いて増幅断片の3’末端側にデオキシアデノシンを付加した後、pGEM-T Easy Vector(Promega社製)と、T4リガーゼで15℃、30分間反応させ連結した。連結したDNAを大腸菌DH5αのコンピテントセルに導入し,形質転換体のコロニーを得た。得られた形質転換体をアンピシリンを含むLB培地(18mL)で24時間培養し、その培養液からプラスミドを改変アルカリSDS法で精製した。プラスミド中に期待される大きさのインサートが存在することを、図1に示すように、アガロース電気泳動で確認した。精製プラスミドのインサートの塩基配列は,BigDye Terminator kit(登録商標:Applied Biosystems社製)とABI PRISM 3700 DNA Analyzer(登録商標:Applied Biosystems社製)を用いて決定し、インサートの塩基配列が耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼ遺伝子の正しい配列であることを確認した。正しい配列を有するプラスミドの一部を制限酵素NdeIとBamHIで完全分解(37℃で2時間)した後、アガロース電気泳動により、耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼの構造遺伝子を精製した。pET-11a(Novagen社製)を制限酵素NdeIとBamHIで切断・精製した後、上記の構造遺伝子とT4リガーゼで反応させ連結した。連結したDNAの一部を大腸菌DH5αのコンピテントセルに導入し、アンピシリンを含むLB寒天プレートに適量まき、37℃で一晩培養し、形質転換体のコロニーを得た。得られた形質転換体をアンピシリンを含むLB培地(18mL)で24時間培養し、その培養液から発現プラスミドを改変アルカリSDS法で精製した。2.組換え遺伝子の発現 大腸菌 Rosetta-gami(DE3)(Novagen社製)のコンピテントセルを融解して、ファルコンチューブに0.1mL移した。その中に上記1.の精製発現プラスミドの溶液0.002mLを加え氷中に20分間放置した後、42℃でヒートショックを90秒間行い、氷中に1分間放置した後、クロラムフェニコールとアンピシリンを含むLB寒天プレートに適量まき、37℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をアンピシリンを含むLB培地(5mL)で18時間培養し、耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼ遺伝子を発現した。培養後、遠心分離(13,000G、10分)で集菌した。 集菌した菌体に,破砕液(20mM Tris-HCl、100mM KCl、pH7.5)を0.2mL加え,超音波発生器で細胞を破砕し,その懸濁液を0.1mLずつ2本のサンプルチューブに分けた。一方のサンプルチューブは遠心分離(13,000G、10分)して上清と沈殿に分け,沈殿は破砕液 0.1mLで懸濁した。もう一方のサンプルチューブは,熱処理(70℃,10分)を施した後,遠心分離(13,000G、10分)して上清と沈殿に分け,沈殿は破砕液0.1mLで懸濁した。これらの試料の一部をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で分析し,発現を確認できた。この結果を、図2のSDS−PAGE写真に示す。 耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼの発現が見られた試料についてSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後,エレクトロブロッティングによってPVDF膜に転写し,染色によって可視化された目的組換えタンパク質である耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼのバンドを切り出し,プロテインシーケンサーModel492Procise(Applied Biosystems社製)を用いて,アミノ末端配列を解析した結果、配列番号5に示すように6残基のアミノ末端配列が決定できた。この配列により,発現タンパク質が耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼであることを確認できた。この発現タンパク質は、261アミノ酸残基より構成されており、その推定分子量は28.3kDであり、図1の結果とほぼ一致した。組換え大腸菌の大量培養 実施例2と同様にして調製したプラスミドDNA(pET−11aベクター) を用いて、大腸菌DH5α株を常法に従い形質転換した。形質転換された大腸菌DH5αからアルカリSDS法を用いてプラスミドDNAを抽出した。このプラスミドDNAを用いて、大腸菌ロゼッタ・ガミ(Rosetta-Gami)(DE3)株を形質転換した。プレート上に生えてきたコロニーを3白金耳量とり、5mLのLBL培地(1%ペプトン、0.5%酵母抽出液、0.5%NaCl、0.1%ラクトース、50μg/mLアンピシリン、40μg/mLクロラムフェニコール)に植菌して、培養開始直前まで約6時間、37℃で前培養した。この前培養液を全量、3Lの4×LBL培地(4%ペプトン、2%酵母抽出液、 2%NaCl、50μg/mLアンピシリン)に加え、高密度培養槽(ABLE社製)にて37℃、pH7.2、圧力0.02Paでコンピュータプログラム制御し、培養した。pHは、オートクレーブ済みの2M HCl(和光純薬社製)および2M NaOH(和光純薬社製)で調整した。集菌約20時間前にオートクレーブ済みの300mL発現誘導液(10%ラクトース、20%グリセロール)を加えた。大腸菌の生育度が定常期に入ったところ(培養開始41時間後)で大型遠心分離機(Beckman社製 AvantiHP-30I)を用い集菌した。回収した菌体は、−30℃で保存した。この時、菌体を少量、別に取り、150mM NaCl、20mM Tris−HCl(pH8)、5mM β-メルカプトエタノール(和光純薬社製)に溶解・懸濁し、超音波破砕装置(TOMY社製 UD-201)で破砕した。この溶液を2等分し、一方を9100G 、4℃で10分間、遠心分離し、上清と沈殿に分け、他方を75℃に設定した恒温槽(TAITEC社製DryThermounit DTU-1C)で10分間、加熱した後、9100G 、4℃で10分間、遠心分離し、上清と沈殿に分けた。これら4種の上清および沈殿(沈殿は、菌体破砕液にて再縣濁)に変性剤(62.5mM Tris−HCl(pH6.8)、10%グリセロール、2%SDS、2.4%β−メルカプトエタノール、0.005% ブロムフェノールブルー(和光純薬社製))を加え、95℃で5分間加熱し、変性させた。これらの変性させたタンパク質溶液を12.5%または15%(発現させるタンパク質の分子量により異なる)ポリアクリルアミドゲルに加え、SDS−PAGEにて電気泳動を行った。染色液(Quick-CBB、和光純薬社製)を用い、電気泳動後のゲルを染色・脱色し、目的タンパク質の発現を確認した。組換えタンパク質の精製 実施例3において、−30℃で保存してあった菌体を、150mM NaCl、20mM Tris−HCl(pH8)、5mM β−メルカプトエタノールに溶解・懸濁し、超音波破砕装置(TOMY社製 UD-201)で破砕し、75℃に設定した恒温槽(TAITEC社製、DryThermoUnit DTU-1C)で10分間、加熱した後、すばやく冷却した。次に、この破砕菌体液を大型遠心分離機(Beckman社製 Avanti HP-30I)を用いて、100,000Gで1時間、遠心分離し、上清を回収した。 次に、この上清をタンパク質精製装置(Amersham Biosciences社製、AKTA explorer)を用いて、20mM MES(2−モルフォリノエタンスルフォン酸pH6.0、5mMβ−メルカプトエタノールの緩衝溶液に置換した後、陽イオン交換カラム(東ソー社製 TSK-GEL Bioassist S)に通した。塩化ナトリウムで溶出を行い、溶出してきた各画分をSDS−PAGE電気泳動にて確認し、目的タンパク質の画分を回収した。 次に、回収した画分を10mM リン酸緩衝溶液に置換した後、ヒドロキシアパタイトカラム(BIO-RAD社製 Bioscale CHT-10I)に通した。高濃度リン酸緩衝溶液で溶出を行い、溶出してきた各画分をSDS−PAGE電気泳動にて確認し、目的タンパク質の画分を回収した。 次に、回収した画分を遠心濃縮チューブ(ミリポア社製VIVASPIN10000)を用いて遠心分離して濃縮し、タンパク質精製装置(GILSON社製)を用いて、150mM NaCl、10mM リン酸緩衝溶液 pH7.0で平衡化したゲルろ過カラム(東ソー社製、TSK-gel G2000SW)に通した。溶出してきた画分をSDS−PAGE電気泳動にて確認し、目的タンパクの画分を回収した。 次に、回収した画分を10mM Tris−HCl、pH8.0、5mM β−メルカプトエタノールの緩衝溶液に置換した後、遠心濃縮チューブ(ミリポア社製VIVASPIN10000)を用いて遠心分離して濃縮し、活性測定に供した。活性測定1.測定方法 実施例4において精製したタンパク質は、金属イオン存在下で、N−アセチル−L−グルタミン酸にATPからリン酸基を転移する反応を触媒する。したがって、このタンパク質の活性は、下記の種々の条件下でのATPからADPへの加水分解速度の測定により、行った。なお、N−アセチル−L−グルタミン酸へのリン酸基の転移は確認していない。この測定方法は、つぎのとおりである。すなわち、100mMのKClと、20mMのMgCl2と、N−アセチル−L−グルタミン酸(和光純薬社製)と、1mMまたは2mMのATP(オリエンタル酵母社製)、10μMの実施例4の精製タンパク質とを含む50mMの緩衝溶液(後述のとおり、各測定で種類が異なる)0.1mLを10分間反応させた後、0.1MのH3PO4を0.1mL加えて反応を停止した。なお、反応は、実施例4の精製タンパク質を前記緩衝溶液に投入することで開始とし、前記タンパク質を投入する前に、前記溶液を、後述の各反応温度で1分間保持した。反応終了後、溶液を一旦氷上に移し、濾過により除タンパクを行った後、HPLCにより基質(ATP)と生成物(ADP)の分離、定量を行った。カラムには、イオンペアカラム(TSK−GEL DEAE−2SW、東ソー社製01759)を用い、リン酸イオンのグラジエントによる溶出(50〜500mM リン酸緩衝溶液(pH3.0)、20% アセトニトリル)を行った。検出されたATP(基質)とADP(生成物)のピーク値を合計し、そのうちにADPが占める割合に基質濃度を掛けることで生成物量を求めた。各測定値は、実施例4の精製タンパク質を加えないで前記測定を行ったコントロール実験結果により、ATPの自然分解量を除いた値である。2.至適温度 25、45、65、85℃の各温度において、前記測定を行い、それぞれのkappを比較することで、各温度での比活性を求めた。測定は、ATP濃度が1mMおよび2mMの2通り行った。緩衝溶液には、各温度でpHが7.5になるように25℃でpHを調整したTris−HClを用いた。各温度での比活性は、kappが最大となった85℃での測定値を基準(100%)に計算した。測定結果を、図3のグラフに示す。図示のとおり、ATP濃度が1mMおよび2mMでの比活性は、ほぼ一致していた。比活性は、温度とともに上昇し、この例での測定範囲では、最大活性は85℃で得られた。なお、ATP濃度2mMでのkappの方が、ATP濃度1mMでのkappに比べて若干大きく、ATP濃度2mM、85℃でのkappは0.04であった。ATP濃度1mMについては、反応が飽和していない可能性が考えられたため、これ以降の測定はすべてATP濃度2mMで行った。3.至適pH pH5.90、6.42、6.86、7.27、8.50の各条件で、前記測定を行い、それぞれのkappを比較することで、各pHでの比活性を求めた。緩衝溶液には、pH8.50グリシン−NaOHを、それ以外のpHではTris−HClを用いた。反応温度は、85℃とした。前記各緩衝溶液は、85℃で所望の各pHになるように25℃で調製されたものである。各pHでの比活性は、kappが最大となったpH8.50での測定値を基準(100%)に計算した。測定結果を、表1に示す。6.42以上のpHで活性を有することが分かった。4.熱安定性 前記測定に先立ち、実施例4において精製したタンパク質溶液(20mM Tris−HCl、25℃におけるpH7.5)150μLを、85℃で前処理した。前処理開始から30、60、90、120、150、180分後にそれぞれの溶液の一部を抜き取り、氷上で静置した。温度を十分に下げた後、その溶液を用いて前記測定を行い、比活性を求めた。反応温度は、85℃とした。なお、前処理時間0分は、前処理を行っていないものであり、これを基準(100%)として各前処理時間での比活性を計算した。測定結果を、図4のグラフに示す。図示のとおり、活性の低下は見られず、実施例4において精製したタンパク質は、85℃では安定であることが分かった。5.金属イオンおよびキレート剤が活性に及ぼす影響 1)前記測定を通常どおり20mM MgCl2を用いて行った場合の活性を基準(100%)として、2)前記測定を20mM MgCl2を除いて行った場合、3)さらに0.2M EDTAを加えて前記測定を行った場合、4)さらに0.1M MnCl2を加えて前記測定行った場合、5)さらに0.1MのCuSO4を加えて前記測定を行った場合、6)さらに20mMのZnCl2を加えて前記測定を行った場合の活性を比較することで、金属イオンおよびキレート剤が活性に及ぼす影響を調べた。反応温度は、85℃とした。測定結果を、図5のグラフに示す。図示のとおり、20mM MgCl2を除いて行った場合には、活性が見られず、反応にはMg2+が必要なことが分かった。また、0.2M EDTAを加えて行った場合および他の金属塩溶液を加えて行った場合には、活性は見られず、キレート剤および他の金属イオンが反応の阻害に有効であることが分かった。 本発明により、アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を有する新規耐熱性タンパク質が提供できる。本発明のタンパク質は、高温下で使用することが可能であり、工業的用途が広がると共に、基質濃度の増加、反応効率の向上、混入微生物の除去、保存期間および耐用期間の延長などの多くの利点がもたらされる。図1は、本発明の一実施例における精製プラスミドのインサートDNAのPAGE写真である。図2は、本発明の一実施例における組換えタンパク質のSDS-PAGE写真である。図3は、本発明の一実施例における温度と比活性の関係を示すグラフである。図4は、本発明の一実施例における85℃での熱処理時間と比活性の関係を示すグラフである。図5は、本発明の一実施例における金属イオンおよびキレート剤の精製タンパク質の活性に及ぼす影響を示すグラフである。配列番号1:耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼのアミノ酸配列配列番号2:耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼの塩基配列配列番号3:耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼの構造遺伝子の末端に制限酵素部位NdeIおよびBamHI、NotIを導入するための順方向プライマーを示す。配列番号4:耐熱性アセチルグルタミン酸キナーゼの構造遺伝子の末端に制限酵素部位NdeIおよびBamHI、NotIを導入するための逆方向プライマーを示す。配列番号5:N末端アミノ酸配列酵素反応により、ATP存在下、N−アセチル−L−グルタミン酸に作用して、N−アセチル−L−グルタミン酸5−リン酸を製造する方法であって、超好熱性古細菌スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)(JCM10545)由来の下記(a)又は(b)の耐熱性タンパク質を用い、温度65〜85℃、pH6.42〜8.50の条件で前記酵素反応を行うことを含む、製造方法。(a)配列番号1のアミノ酸配列からなる耐熱性タンパク質。(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が、欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、アセチルグルタミン酸キナーゼ活性を有する耐熱性タンパク質。一定時間酵素反応を行った後、キレート剤及び2価の金属イオンの少なくとも一方により前記酵素反応を停止させる請求項1記載の製造方法。前記キレート剤が、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)であり、前記2価の金属イオンが、Mn2+、Zn2+及びCu2+の少なくとも一つである請求項2記載の製造方法。配列表


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