タイトル: | 公開特許公報(A)_リアルタイムPCRにおける受動的内部参照 |
出願番号: | 2004060284 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N15/09,C12Q1/68,G01N33/58 |
瀬川 昌也 石田 由和 小松原 秀介 岡 正則 JP 2005245310 公開特許公報(A) 20050915 2004060284 20040304 リアルタイムPCRにおける受動的内部参照 東洋紡績株式会社 000003160 瀬川 昌也 石田 由和 小松原 秀介 岡 正則 7C12N15/09C12Q1/68G01N33/58 JPC12N15/00 AC12Q1/68 AG01N33/58 A 4 OL 9 2G045 4B024 4B063 2G045DA12 2G045DA13 2G045DA14 2G045FB02 2G045FB07 2G045FB12 2G045GC15 4B024AA11 4B024CA01 4B024HA14 4B063QA20 4B063QQ42 4B063QR08 4B063QR62 4B063QS25 4B063QX02 本発明は、遺伝子の研究やその応用に重要な核酸増幅技術、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に関する。本発明は、遺伝子発現解析や塩基多型解析等に際して特に有用であり、研究のみならず臨床診断や環境検査等にも利用できる。 ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、2種類のプライマーを用いて特定配列を増幅する手法である(例えば、非特許文献1を参照。)。原理的には1コピー、現実でも数コピー相当の核酸サンプルから増幅できる感度、特定部分のみを増幅する特異性などの特徴から、広く医学・生物学の研究や臨床診断等に利用されてきた。一方、増幅された核酸を検出する手法として、広く電気泳動法やプローブハイブリダイゼーション法が用いられてきた。Science,230,1350−1354,1985年 近年、PCRを実施する工程において、同時に増幅された核酸を検出する「リアルタイムPCR」が広く実施されるようになってきた。その理由として、検出時間の短縮とともに、定量性の確保が挙げられる。PCRでは最終の増幅核酸量は基質量などで上限が規定されるが、PCRは極めて効率よく核酸を増幅させるため、一定以上の標的核酸では上限に達してしまい、最終の増幅核酸の量がもとの標的核酸の量に必ずしも比例しない事態が発生する。そこでPCRを実施しながら増幅核酸を検出し、一定量以上の増幅核酸が検出されたサイクル数を指標とする定量方法が考案された。この方法によれば、40サイクルのPCRでは、理論上は最大2の39乗(10桁以上)のダイナミックレンジを確保することができる。 現在実施されている主なリアルタイムPCRに、各種蛍光プローブを用いる手法と、インターカレーター蛍光色素(intercalater dye)を用いる手法がある。プローブとしては、TaqMan(R)(例えば、特許文献1を参照。)、Molecular Beacon、Hybridization Probe、Cycling Probeなど、いくつかの方法が提案されている。その多くが蛍光エネルギー転移などの技術を利用して、増幅核酸の量に相関して蛍光が増減するように工夫されており、結合体と遊離体の分離をすることなく検出が可能であることから、リアルタイムPCRに使用されるようになった。特表2002−505071号公報 一方、インターカレーター蛍光色素には、一般的にSYBR(R) Green I(Molecular Probes, Inc.)などが用いられている。2本鎖核酸に結合したときに強い蛍光を発するインターカレーターを共存させておくことで、増幅核酸の検出が可能になる。 これまで述べてきたように、リアルタイムPCRでは多くの場合、検出を蛍光で行なう。これは、ガラスや高分子の容器越しに励起光を当て、蛍光を検出することができるという物理的な特性がリアルタイムPCRに適していることに加え、既に多くの蛍光色素が開発されているので、適用が容易であるという背景がある。様々な波長の蛍光色素を用いれば、1種類の反応系で複数のアッセイを行なうことも可能であり、あるいは特定の蛍光色素を受動的内部参照(パッシブリファレンス)として使用することも可能になる。受動的内部参照を用いれば、反応液量のばらつき、容器の蛍光特性のばらつきなどを補正することができ、アッセイ結果の正確性、安定性向上に大きく寄与することになる。なお、「受動的」とは、参照分子の蛍光が、リアルタイムPCR反応が行われている間で有意に変化しないことをいう。 ABI PRISM7700(TM)(アプライドバイオシステムズ社)など、既に販売されているリアルタイムPCR装置の多くに、この受動的内部参照を使用するメカニズムが採用されている。装置側の対応は比較的容易といえる。しかし、実際に試薬に添加される受動的内部参照は、それ自体の安定性、水への溶解性、PCRへの影響などから、わざわざオリゴヌクレオチドとのコンジュゲイトを使用する(例えば、特許文献2を参照。)など、作製にコストや手間が掛かるものに限られていた。特許3454432号公報 本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究の結果、リアルタイムPCR法においてより安価な受動的内部参照を使用する手法を開発し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のような構成からなる。項1 リアルタイムPCRにおいて、受動的内部参照(パッシブリファレンス)として水酸基を有する蛍光物質を使用することを特徴とするリアルタイムPCR方法。項2 受動的内部参照(パッシブリファレンス)として水酸基を有する蛍光物質を含むことを特徴とする、リアルタイムPCR用組成物。項3 リアルタイムPCRにおいて、受動的内部参照(パッシブリファレンス)として5−および/または6−カルボキシ X ローダミン(5− and/or 6−Carboxy X Rhodamine)を使用することを特徴とするリアルタイムPCR方法。項4 受動的内部参照(パッシブリファレンス)として5−および/または6−カルボキシ X ローダミン(5− and/or 6−Carboxy X Rhodamine)を含むことを特徴とする、リアルタイムPCR用組成物。 本発明により、リアルタイムPCRにおいて安価な受動的内部参照を提供できることが明らかとなった。本発明の方法は従来の方法に比べて極めて簡便で安価であり、リアルタイムPCRを実施するものに経済的に多大の利益をもたらす。 以下、本発明を詳細に説明する。 従来、特許3454432号(特許文献2)などでは、PCRに関与しないオリゴヌクレオチドに6−カルボキシ X ローダミンなどを結合したものを受動的内部参照として使用してきた。コストや手間を削減するには、オリゴヌクレオチドのゴンジュゲイトではなく、単品で合成できる分子をそのまま使用することが望ましい。 そこで、本発明者らは鋭意研究の結果、6−カルボキシ X ローダミンの官能基が水酸基の状態であれば、PCRへの影響もなく、安定性を確保し、更にコンジュゲイトの状態と同じ蛍光特性を発揮することを見出した。このとき、官能基が水酸基であることが決定的に重要である。すなわち、水酸基は、PCR反応液などの中性に近い水溶液中では他の官能基、物質に対して反応性に乏しいことが原因と考えられる。反応性の低さなどを考慮すればヒドロキシル基やメチル基などでも良いはずであるが、6−カルボキシ X ローダミンは構造上親水性に乏しいので、メチル基では水への溶解性が更に悪くなりPCRの受動的内部参照として使えない。このような複数の特性を満たすために、水酸基は特に適当である。蛍光物質はそれ自体疎水的である場合が多いので、このような手法は他の物質にも十分適用でき、蛍光特性に影響を及ぼすことなく安定性を確保し、なおかつ水溶性を高めるには水酸基の導入が望ましい。この技術は、他の蛍光物質をPCRの受動的内部参照に使用する場合などに応用できる。本願発明者らは更に研究を重ね、受動的内部参照として使用するのに最適な条件を調整して、本発明を完成した。本発明は、インターカレーターアッセイ、各種のプローブアッセイなど蛍光を使用したリアルタイムPCRのどれにも適用可能である。 本願発明で用いる、5−および/または6−カルボキシ X ローダミン(5− and/or 6−Carboxy X Rhodamine)は、例えば、市販のResearch Organics, Inc.社製のものなどを使用できる。化学合成の際、カルボキシル基が5位にあるものと6位にあるものの混合物が生成されるが、本発明における使用ではどちらも全ての点で問題はなく、混合物をそのまま使用することができる。ただしそれ以外の誘導体が含まれることは好ましくなく、純度は90%以上、さらには95%以上が好ましい。 本願発明において、5−および/または6−カルボキシ X ローダミン(5− and/or 6−Carboxy X Rhodamine)を受動的内部参照に適用できるリアルタイムPCR方法は、特に制限されない。SYBR Green Iのような各種インターカレーターアッセイ、TaqMan、Molecular beacon、消光プローブのような各種プローブアッセイ、あるいは消光プライマーアッセイなどのいずれにも適用可能である。 本発明の好ましい実施態様は、さらにリアルタイムPCRのために必要な組成物を含む。以下、本願発明の実施形態を具体的に説明する。5−および/または6−カルボキシ X ローダミンは水酸基の導入により水への溶解性が高まっているが、10mM程度の高濃度液を作製するには十分でなかった。検討の結果、アルカリ性の緩衝液で溶解性が高まることが確認され、その後のPCRへの影響も検討して、例えばpH8.8程度の20mM Tris−HClで溶解するのが適当である。 さらにリアルタイムPCRへの添加濃度を、実際のリアルタイムPCR反応液でスペクトル解析などにより検討した。受動的内部参照は最低限、他の蛍光色素のノイズレベルより高い必要がある。一方で、ABI PRISMなどでは受動的内部参照の蛍光値を目的の蛍光シグナル(陽性シグナル)の分母として使うため、高すぎると陽性シグナルが数値上低下する弊害がある。勿論、極端に高すぎると他の蛍光シグナルへの影響やPCRへの影響がある。FAM、VIC、JOE、SYBR Green Iなど多くの蛍光試薬との組み合わせを検討した結果、PCR反応液中に5−および/または6−カルボキシ X ローダミンが最低限200nM以上必要であることが判明、それ以上なら受動的内部参照として有効に機能した。2000nM程度でも使用に問題はないが、数値上陽性シグナルが低下するため、実際の使用は500nM程度が適当である。 以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例1 インターカレーター検出によるリアルタイムPCRへの適用(1)ヒトベータアクチン遺伝子を検出するプライマーの合成 配列番号1に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プライマー1と示す)および配列番号2に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プライマー2と示す)を合成した。合成はプロリゴ・ジャパン株式会社に依頼した。(2)リアルタイムPCR試薬の調製 Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡、コードTAP−201)、抗Taq DNAポリメラーゼ抗体(東洋紡、コードTCP−101)、蛍光インターカレーターとしてSYBR Green I(Molecular Probes, Inc.)を用いて、以下の試薬を含む10μL溶液を調製した。その際、Taq DNAポリメラーゼには抗Taq DNAポリメラーゼ抗体を2.5Uあたり1μg投入し、緩やかに混和しておく。この反応液に、受動的内部参照として5− and 6−Carboxy X Rhodamine(商品名:Carboxy X Red(Research Organics, Inc.))を最終濃度500nM添加する。 プライマー1 2pmol プライマー2 2pmol ×10緩衝液 1μL 25mM MgCl2 1.2μL 2mM dNTPs 1μL SYBR Green I(3000倍希釈) 1μL Taq DNAポリメラーゼ 0.5U Carboxy X Red (5μM) 1μL サンプル 1μL サンプルは、HeLa細胞(ヒト由来の細胞)RNAから作製したcDNAを5倍毎に希釈した溶液(7本)と、ブランクとしての蒸留水(1本)である。cDNAの作製にはMMLV由来の逆転写酵素を用いたcDNA合成キット(「ReverTra Ace −α−」、東洋紡、コードFSK−101)を用い、手順は取扱説明書に従った。(3)リアルタイムPCRの実施 ABI PRISM7700(TM)(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、以下の条件でリアルタイムPCRを実施した。詳細は機器の取扱説明書に従った。増幅条件 95℃・1分 95℃・15秒、60℃・60秒(40サイクル)(4)結果 図1に示すような結果が得られた。 Carboxy X Redが受動的内部参照として機能し、良好な増幅曲線が得られた。一方、Carboxy X Redを添加しない場合、参照シグナルがゼロあるいはマイナスになるために増幅曲線を得ることができなかった(データは示さず)。これらの結果から、SYBR Green Iを用いたインターカレーターアッセイにおいて本発明の効果が明らかとなった。実施例2 TaqManプローブ検出によるリアルタイムPCRへの適用(1)TaqManプローブ及びプライマーの準備 アプライドバイオシステムズ社Pre−Developed TaqMan Assay Reagents β−actinを用いた。本製品は、20倍濃度のプライマー・プローブ混合液である。含まれるTaqManプローブのレポーターはVIC、クエンチャーはTAMRAである。(2)リアルタイムPCR試薬の調製 Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡、コードTAP−201)、抗Taq DNAポリメラーゼ抗体(東洋紡、コードTCP−101)、TaqMan Assay Reagents β−actinを用いて、以下の試薬を含む10μL溶液を調製した。その際、Taq DNAポリメラーゼには抗Taq DNAポリメラーゼ抗体を2.5Uあたり1μg投入し、緩やかに混和しておく。この反応液に、受動的内部参照として5− and 6−Carboxy X Rhodamine(商品名:Carboxy X Red(Research Organics, Inc.))を最終濃度500nM添加する。 TaqMan Assay Reagents 2μL ×10緩衝液 1μL 25mM MgCl2 1.2μL 2mM dNTPs 1μL Taq DNAポリメラーゼ 0.5U Carboxy X Red (5μM) 1μL サンプル 1μL サンプルは、HeLa細胞(ヒト由来の細胞)RNAから作製したcDNAを5倍毎に希釈した溶液(7本)と、ブランクとしての蒸留水(1本)である。cDNAの作製にはMMLV由来の逆転写酵素を用いたcDNA合成キット(「ReverTra Ace −α−」、東洋紡、コードFSK−101)を用い、手順は取扱説明書に従った。(3)リアルタイムPCRの実施 ABI PRISM7700(TM)(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、以下の条件でリアルタイムPCRを実施した。詳細は機器の取扱説明書に従った。増幅条件 95℃・1分 95℃・15秒、60℃・60秒(40サイクル)(4)結果 図2に示すような結果が得られた。 Carboxy X Redが受動的内部参照として機能し、良好な増幅曲線が得られた。一方、Carboxy X Redを添加しない場合、参照シグナルがゼロあるいはマイナスになるために増幅曲線を得ることができなかった(データは示さず)。これらの結果から、TaqManアッセイにおいて本発明の効果が明らかとなった。 本発明によって、RNAの定量や一塩基多型のタイピングなどを迅速・正確に実施することが可能となり、ポストゲノムの生物学研究に貢献することができるばかりでなく、臨床検査や食品分析など幅広い用途分野に利用することが出来、産業界に寄与することが大である。図1は実施例1、インターカレーター検出によるリアルタイムPCRへ適用した結果を示す。良好な増幅曲線が得られている。同一条件で本願発明を使用しなかった場合は、シグナルが激しく変動して増幅曲線が得られない。図2は実施例2、TaqManプローブ検出によるリアルタイムPCRへ適用した結果を示す。良好な増幅曲線が得られている。同一条件で本願発明を使用しなかった場合は、シグナルが激しく変動して増幅曲線が得られない。リアルタイムPCRにおいて、受動的内部参照(パッシブリファレンス)として水酸基を有する蛍光物質を使用することを特徴とするリアルタイムPCR方法。 受動的内部参照(パッシブリファレンス)として水酸基を有する蛍光物質を含むことを特徴とする、リアルタイムPCR用組成物。リアルタイムPCRにおいて、受動的内部参照(パッシブリファレンス)として5−および/または6−カルボキシ X ローダミン(5− and/or 6−Carboxy X Rhodamine)を使用することを特徴とするリアルタイムPCR方法。 受動的内部参照(パッシブリファレンス)として5−および/または6−カルボキシ X ローダミン(5− and/or 6−Carboxy X Rhodamine)を含むことを特徴とする、リアルタイムPCR用組成物。 【課題】、リアルタイムPCRにおいて、反応液量のばらつき、容器の蛍光特性のばらつきなどを補正することができ、アッセイ結果の正確性、安定性を向上する。【解決手段】標的核酸の特定配列の増幅に必要なプライマー対の存在下でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施する工程において、PCRのいずれかのステップで増幅された核酸を複数回検出する工程を含むリアルタイムPCRであって、受動的内部参照(パッシブリファレンス)として水酸基を有する蛍光物質、望ましくは5−あるいは/及び6−カルボキシ X ローダミン(5− and 6−Carboxy X Rhodamine)を使用することを特徴とする方法。配列表