タイトル: | 公開特許公報(A)_植物の培養変異識別方法、および、植物の培養変異を識別するためのポリヌクレオチド |
出願番号: | 2004043701 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N15/09,C12Q1/68 |
田原 誠 松永 早智 青木 孝博 田中 勝 JP 2005229921 公開特許公報(A) 20050902 2004043701 20040219 植物の培養変異識別方法、および、植物の培養変異を識別するためのポリヌクレオチド 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 501203344 国立大学法人 岡山大学 504147243 原 謙三 100080034 田原 誠 松永 早智 青木 孝博 田中 勝 7C12N15/09C12Q1/68 JPC12N15/00 AC12Q1/68 A 9 OL 15 特許法第30条第1項適用申請有り 平成15年9月19日 日本育種学会発行の「育種学研究 第5巻別冊2号」に発表 4B024 4B063 4B024AA08 4B024BA79 4B024CA01 4B024HA08 4B024HA11 4B024HA19 4B063QA01 4B063QA17 4B063QQ04 4B063QQ09 4B063QQ12 4B063QQ42 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR42 4B063QR50 4B063QR62 4B063QR73 4B063QR78 4B063QS25 4B063QS36 4B063QS39 本発明は、植物、特にサツマイモおよびその近縁野生植物について、茎頂培養によって生じる突然変異の有無を識別する方法、および、この突然変異の識別に用いることが可能なポリヌクレオチドに関するものである。 サツマイモ(Ipomoea batatas)は、栄養繁殖性の作物であり、一度、ウィルスに感染すると、その後代の植物はウィルスに感染したままとなる。サツマイモに感染するウィルスの中には、帯状粗皮症など、収量や品質に悪影響を与えるものがあり、これらのウィルスを植物体から除去する目的で、茎頂培養を行い、ウィルス・フリーの苗を生産・増殖して、栽培に利用している。茎頂培養とは、植物の茎の頂部で細胞分裂が盛んに行われている部分(茎頂)を無菌的に取り出し、成長に必要な養分を含む人工培地に植え、一定期間培養して小植物体まで育てる技術のことである。 しかし、茎頂培養によって得られた植物体の中には、突然変異が生じ、サツマイモの品質や収量が、本来のものと比べて劣化する苗が生じる現象が問題となっている。このような変異には、例えば、いもの形態、皮色、肉色など、栽培を行って初めて観察することができるようになるものがあり、外部形態などの観察では、茎頂培養により得た小植物体や苗の段階で、検出し、診断することはできない。このため、ウィルス・フリー苗の生産は、茎頂培養を行った株ごとに苗を維持しつつ、その一部を試験的に増殖して栽培し、実用上問題となる変異が見られないことを確認した後、維持していた苗を増幅して、栽培農家に配布するなどの対策を講じている。 また、サツマイモは他殖性の作物であるが、その遺伝資源となる野生種の多くも他殖性である。このため、遺伝資源については、その遺伝的な組成を維持するために、培養により植物体をクローンとして試験管内に保存する方法が採用されている。このような組織培養においても、突然変異の発生が示唆されているが、組織培養により生じた突然変異を、簡易且つ確実に、検出する技術がないために、培養中に明らかな形態変異が生じたもの以外は、仮に突然変異が生じていたとしても見逃されている。 突然変異は遺伝的な変異であり、変異はその原因となるDNAの違いによって説明できるはずである。DNAの違いを検出する技術としては、制限酵素断片長多型(RFLP: Restriction Fragment Length Polymorphism)や増幅断片長多型(AFLP: Amplified Fragment Length Polymorphism)などがある。RFLPとは、制限酵素でゲノムDNAを消化した時、特定部位を検出するために使うDNA断片(プローブ)と相補的な制限酵素断片の長さが個体間で異なる現象のことである。また、AFLPとは、ゲノムDNAを制限酵素で処理して生じる断片をPCR(Polymerase Chain Reaction)で選択的に増幅することにより、数十から数百塩基の断片群を多数検出し、これら断片の違いを比較する技術のことである。 しかしながら、これらの技術では、突然変異によりゲノムに生じた極めてわずかな変異をDNAのレベルで効率よく検出することは極めて困難である。 まず、RFLPについては、異なる品種間などにおいても、遺伝的な違いを検出するプローブと制限酵素の組み合わせを見出すのには、多大な労力と時間を要する。 次に、AFLPが生じる主な原因は、ゲノム構造の違いや制限酵素認識部位にあたる配列部分の塩基置換である。このような変異は、培養以外の原因で生じるものもあり、また、培養により生じる変異は極めてわずかなものであると考えられることから、AFLPにそのような変異が反映される確率も低いものと予想される。 以上から、培養による突然変異により、ゲノムに生じた極めてわずかな変異を効率よく検出する方法が希求されている。 植物のゲノム中には、転移因子が存在する。転移因子は、「転移性遺伝因子」または「可動性遺伝因子」とも呼称されるが、染色体上のある部位から別の部位へ転移する能力を備えた、あるいは、進化の過程で染色体上を転移したことが示されたDNA配列である。転移因子の転移に伴い、DNAの重複、欠失、あるいは、染色体の再編成が生じる。自然界で起こる突然変異の約70〜80%は、このような転移因子の活動が原因であるとされている。 レトロトランスポゾンは、転移因子の一種であり、植物ゲノムに普遍的に存在し、多くの植物においては、多数の種類のものが複製された状態で存在する。レトロトランスポゾンの転移は、その配列が一旦RNAに転写された後、逆転写されて相補的DNAとなり、これがゲノムの別の位置に挿入される過程をとる。このため、転移により、ゲノム中にその配列のコピーが増加することとなる。 これまで植物のゲノムから、極めて多種類のレトロトランスポゾンが見出されている。それらは、見出された植物ゲノムにおいて多数のコピーを残しているため、かつては転移活性を有していたことが明らかであるが、現在の植物ゲノムから単離される配列には、塩基置換や構造変化などが生じ、転移に必要な機能を失っているものがほとんどである。また、このような欠陥が見られない配列においても、実験的にゲノム中での転移が証明された配列はほとんどない。 現在までに、ゲノムにおける転移が実験的に示された配列としては、イネから単離されたTos17、タバコから単離されたTto1およびTnt1に限られる。これらの配列は、通常の植物体では活性が見られないが、組織培養やそのための酵素処理などにより活性化されてゲノム中を転移することが、実験的に証明されている。また、これらの遺伝子の転移に伴い、植物体に形態上の変異が生じることが確認されており、組織培養によって生じる突然変異の主たる原因と見なされている。 多くの植物において、レトロトランスポゾンはゲノム中に多数のコピーが存在するが、ゲノムDNAを制限酵素で処理して生じる断片の中から、レトロトランスポゾンの末端部とそれが挿入されているゲノム配列からなるものを選択的に増幅する技術(SSAP: Sequence Specific Amplification Polymorphism)が開発されている。これは、レトロトランスポゾンのそれぞれのコピーが、ゲノムDNAに挿入されている部位を、レトロトランスポゾンの末端部とそれに隣接するゲノム配列上の制限酵素認識部位の位置(増幅断片の長さ)の違いによって比較しようとする技術である。 以上、自然界に生じる突然変異は、転移因子の転移が主たる原因となること、とりわけ、植物においては、組織培養によって転移が誘導されるレトロトランスポゾンの配列が見出され、転移により植物体に突然変異が生じることが示されている。このため、組織培養を行って得られた植物体について、組織培養によって転移が誘導されるレトロトランスポゾンの培養に伴う転移を検査することにより、当該レトロトランスポゾンや培養によって同様な挙動を示す他の転移因子の転移に伴う突然変異の発生を予測できる。 培養に伴う転移は、レトロトランスポゾンがゲノムに挿入された部位を選択的に検出できる方法であればいずれのものも用いることができるが、上述のレトロトランスポゾン配列に関するSSAPによっても検出可能である。SSAP法においては、茎頂培養から得られた小植物体や苗から単離する少量のDNAを分析対象とすることができ、また、同時に多数の標本を分析できるので、茎頂培養を終えた段階で、培養に伴う突然変異が発生した危険性のある個体を選別・淘汰することが可能となる。このSSAP法については、非特許文献1および2に記載されている。 このSSAP法をサツマイモとその近縁野生種において、培養変異の検出に利用する場合には、培養により転移するレトロトランスポゾン配列をサツマイモまたはその近縁野生種のゲノムから見出し、これを利用することが必要不可欠である。 サツマイモにおいては、多数の種類のレトロトランスポゾンが、多数複製された状態でゲノムに存在することが知られている。植物ゲノムからレトロトランスポゾンの配列を単離する方法としては、レトロトランスポゾンDNA配列がコードする酵素のアミノ酸配列の中で、各種のレトロトランスポゾンにおいて保存されている領域について、アミノ酸配列をコードするDNA配列の組み合わせを割り出して、これをプライマーとしてPCRを行うことがあげられる。Mol. Gen. Genet 253、687〜694頁(1997年2月発行)Mol. Gen. Genet 260、9〜19頁(1998年10月発行) しかしながら、現存する植物のゲノムから単離される配列は、塩基置換や構造変化などにより転移に必要な機能を失っているものがほとんどである。 レトロトランスポゾンは、転移に際し、一旦、RNAに転写される。植物の遺伝子も、それが発現する場合には、遺伝子配列がRNAに転写されるので、転写されたRNAの配列を調べることにより、発現している遺伝子とその塩基配列を同定することができる。しかし、レトロトランスポゾンは、ゲノム中に多数のコピーが存在し、その一部は、植物の遺伝子配列の中に組み込まれているものがあるので、転写されたRNAにレトロトランスポゾンの配列を見出すことができても、その配列をもとに、レトロトランスポゾンの転移に際して生成されたRNA配列を同定し、転移能を有するレトロトランスポゾン配列を単離することは極めて困難である。 本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、サツマイモとその近縁野生種について、組織培養によって生じる遺伝子の突然変異をDNAのレベルで検出する培養変異識別方法、および、このような突然変異の検出に用いられるポリヌクレオチドを提供することを目的とする。 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究に努めた結果、サツマイモの組織培養中の組織において、転写されているレトロトランスポゾンの配列を効率よく見出すことができることを確認した。そして、これによって、サツマイモのゲノムから、組織培養により転移するレトロトランスポゾンの配列を同定するとともに、その配列が、培養を行った植物体において、培養前の植物体には見られないゲノム部位に挿入されていることを見出した。また、同じ配列がサツマイモの近縁野生種にも存在することを発見し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明にかかる培養変異識別方法は、イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種由来の組織培養時に、当該培養植物体に生じた突然変異をDNAレベルで検出する培養変異識別方法であって、植物のレトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドを用いて、当該レトロトランスポゾン配列が培養植物体のゲノムのどの部位に挿入されたかを検出することによって、突然変異を識別することを特徴とするものである。 また、本発明にかかる培養変異識別方法では、上記レトロトランスポゾン配列として、イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種を茎頂培養して得られた培養植物のゲノムDNA中に存在するレトロトランスポゾン配列のうち、当該培養植物において転写されることが確認されたものを用いることが好ましい。 また、本発明にかかる培養変異識別方法は、上記レトロトランスポゾン配列として、培養前の植物のゲノムと、培養後の植物のゲノムとの間で当該レトロトランスポゾン配列の挿入位置の比較を行い、上記培養後の植物においてのみ見出される挿入箇所が存在するものを用いるものであってもよい。 また、本発明にかかる培養変異識別方法は、上記レトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドとして、配列番号1に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドを用いるものであってもよい。 また、本発明にかかる培養変異識別方法は、SSAP法を用いて、上記レトロトランスポゾン配列が培養植物体のゲノムのどの部位に挿入されたかを検出するものであってもよい。 さらに、本発明にかかるポリヌクレオチドは、イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種由来の組織培養時に、当該培養植物体に生じた突然変異をDNAレベルで検出するために用いられるポリヌクレオチドであって、植物の組織培養において転移するレトロトランスポゾン配列を含んでなるものである。 また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、イポメア属植物由来であることが好ましい。 また、本発明にかかるポリヌクレオチドにおいて、上記レトロトランスポゾン配列は、培養前の植物のゲノムと、培養後の植物のゲノムとの間で当該レトロトランスポゾン配列の挿入位置の比較を行った時に、上記培養後の植物においてのみ見出される挿入箇所が存在するものであってもよい。 また、本発明にかかるポリヌクレオチドにおいて、上記レトロトランスポゾン配列含むポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列であってもよい。 また、本発明においては、上述の本発明にかかるポリヌクレオチドを、イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種由来の組織培養時に当該培養植物体に生じた突然変異をDNAレベルで検出するための培養変異識別用キットの一構成要素として利用してもよい。 本発明によれば、サツマイモの育種および栽培において、栽培以前の段階(すなわち、組織培養の段階)で、収量や品質に悪影響を与える形態変異が植物体に生じているか否かを容易に判定することができる。 つまり、本発明によれば、まず、サツマイモのウィルス・フリー苗の生産を行う場合に、茎頂培養に伴う突然変異が発生した危険性のある個体を識別するために必要な情報を提供することができる。また、本発明によれば、少量のDNAを分析することで、個体を識別するために必要な情報を得ることができる。そのため、茎頂培養から得られた小植物体や苗について、同時に多数の標本を対象として、茎頂培養を終えた段階で、培養に伴う突然変異が発生した危険性のある個体を選別・淘汰することが可能となる。また、茎頂培養に際して突然変異を誘導する要因を明らかにすることが可能となり、安全で確実な培養方法を開発できるようになる。 また、本発明によれば、遺伝資源である植物体をクローンとして試験管内に培養保存する方法を利用した、サツマイモの育種や遺伝資源の維持管理を行う場合に、試験管内の植物体から少量のサンプルを取り出し、その植物体を維持したまま突然変異の発生した株や系統を簡易に判定することを可能とする。また、培養による遺伝資源の保管において突然変異を誘導する要因を明らかにすることが可能となり、安全で確実な遺伝資源の管理方法を開発できるようになる。 以下、本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。 本発明にかかる培養変異識別方法は、サツマイモ(Ipomoea batatas)およびその近縁野生種(例えば、I.trifida、I.trilobaなど)を茎頂培養する場合に発生する突然変異を、その培養時にDNAレベルで検出する方法である。 つまり、本発明にかかる培養変異識別方法は、イポメア属サツマイモ節植物由来の組織の培養時に、当該培養植物体に生じた突然変異をDNAレベルで検出する培養変異識別方法であって、植物のレトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドを用いて、当該レトロトランスポゾン配列が培養植物体のゲノムのどの部位に挿入されたかを検出することによって、突然変異が生じているか否かを識別するというものである。ここで、上記「その近縁野生種」には、例えば、上述のようなI.trifida、I.triloba、I.tiliacea、I.cordato-triloba、I.lacunosaなどが含まれる。 本発明にかかる培養変異識別方法のより具体的な手法の一例について以下に説明する。 本発明の培養変異識別方法では、サツマイモまたはその近縁野生種であるI.trifidaあるいはI.triloba由来の培養植物(カルス)から抽出したゲノムDNAを制限酵素で完全に消化後、これにより生じた断片にアダプターDNAをライゲーションし、標識したレトロトランスポゾン配列のプライマーとアダプター配列のプライマーによりPCRを行い、これをシーケンサーにかけることにより、レトロトランスポゾン配列が挿入されたゲノムの部位を識別するという手法を採用することができる。 上記のような方法を用いることによって、突然変異が生じた可能性のある植物個体を培養植物の段階で効率よく識別することができる。つまり、レトロトランスポゾンが遺伝子の領域に転移すると、その遺伝子の機能が損なわれるため、新たな転移が生じた個体においては、表現形質に変異を生じることが多い。このため、レトロトランスポゾン配列が挿入されたゲノムの部位の変化を検出することによって、突然変異を生じた可能性のある個体を識別し、排除することができる。そして、従来は、外部形態の変化といった表現形が現れる栽培後の植物に成長するまで検出することができなかったようなサツマイモの突然変異について、培養段階で識別することができる。 また、本発明にかかる培養変異識別方法では、突然変異の識別を確実に行うために、レトロトランスポゾン配列として、転移機能を有するものを用いることが好ましい。本発明者らは、植物のゲノム中に存在する多種類のレトロトランスポゾン配列の中から、転移機能を失っていないものを効率よく選別する方法を見出した。その方法について、以下に説明する。 レトロトランスポゾン配列は、レトロトランスポゾン配列がコードする酵素のアミノ酸配列の中で、各種のレトロトランスポゾンにおいて保存されている領域について、アミノ酸配列をコードするDNA配列の組み合わせを割り出して、これをプライマーとしてPCRを行う方法により、植物ゲノムから単離できる。この方法により、サツマイモについても、レトロトランスポゾン配列の単離が行われ、DNAのデータベース(DDBJ: DNA Data Bank of Japan)に多数の配列が登録されている。 レトロトランスポゾンの特定の配列がある時期に転移すると、ゲノム中に複製が挿入される。一度挿入された複製は、遺伝的に安定であり、後代に残されていくが、長い期間には、自然突然変異などにより、配列に塩基置換などの変異が発生する。自然突然変異は、確率的な現象であり、発生する配列上の位置や塩基の置換のあり方は、それぞれの配列ごとに機械的に決まるので、複製が作られた時には同じであった配列は、時間の経過に応じて、複製間で次第に異なったものとなる。 現存する植物のゲノムから単離されるレトロトランスポゾンの配列は、塩基置換や構造変化などにより転移に必要な機能を失っているものがほとんどであるが、この中において、最近の時点で転移を示した配列は、僅かに配列の異なるグループを形成することが予想される。そこで、DNAのデータベースに登録されていた、サツマイモのレトロトランスポゾン逆転写領域の75配列を分析したところ、そのようなグループを形成する配列群が見出された。その配列群に共通する配列を基に、サツマイモの茎頂培養の際に発生したカルスからRNAを抽出して分析したところ、カルスにおいて転写されていたレトロトランスポゾン配列(すなわち、転写機能を有するレトロトランスポゾン配列)を同定することができた。 このようにして同定されたサツマイモのレトロトランスポゾン配列について、サツマイモの茎頂培養の際に発生したカルスのゲノムと茎頂培養に用いたサツマイモ品種「高系14号」のゲノムの間で、その挿入位置を比較したところ、カルスについてのみ見出される挿入箇所が見出されたため、このレトロトランスポゾン配列は、カルスにおいて転写され、逆転写された配列はゲノムに挿入されることが示された。 また、サツマイモの近縁野生種であるI. trifida およびI. trilobaのゲノム中にも、このレトロトランスポゾン配列が存在することをPCR法により確認した。 以上のような方法によれば、植物のゲノム中に存在する多種類のレトロトランスポゾン配列の中から、転移機能を失っていないものを効率よく選別することができる。 以上をまとめると、本発明にかかる培養変異識別方法においては、上記レトロトランスポゾン配列として、イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種を茎頂培養して得られた培養植物から抽出されたRNA中にその転写産物が含まれるもの、すなわち、上記イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種を茎頂培養して得られた培養植物のゲノムDNA中に存在するレトロトランスポゾン配列のうち、当該培養植物において転写されることが確認されたものを用いることが好ましい。そして、上記レトロトランスポゾン配列として、培養前の植物のゲノムと、培養後の植物のゲノムとの間で当該レトロトランスポゾン配列の挿入位置の比較を行い、上記培養後の植物においてのみ見出される挿入箇所が存在するものを用いることがさらに好ましい。 これによれば、上記のレトロトランスポゾン配列は、転写機能を確実に有するものであるため、突然変異の識別についても確実に行うことができる。 続いて、レトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドのゲノムにおける挿入位置を検出する具体的な手法の一例について以下に説明する。 このレトロトランスポゾン配列のゲノムにおける挿入位置を比較検証する方法としては、レトロトランスポゾン配列がゲノムに挿入された部位を選択的(部位特異的)に検出できる方法であればいずれのものも用いることができる。 本発明における方法としては、例えば、SSAP法を用いることができる。このSSAP法では、サツマイモまたは近縁野生種の個体から抽出したゲノムDNAを制限酵素で完全に消化後、これにより生じた断片にアダプターとするDNAをライゲーションし、蛍光物質により標識したレトロトランスポゾン配列のプライマーとアダプター配列のプライマーによりPCRを行う。このPCRにより、レトロトランスポゾン配列とそれに隣接するゲノム配列を含む制限酵素断片は蛍光標識される。そのため、PCR産物を、シーケンサーにかけて、蛍光標識された断片を検出することができる。レトロトランスポゾンが挿入されたゲノム配列における制限酵素の認識部位の位置は、ゲノム配列ごとに異なることが予想されるので、検出されるPCR増幅断片の長さによって、挿入されたそれぞれのゲノム部位を特徴付けることができる。このSSAP法によれば、レトロトランスポゾン配列がゲノム中に挿入されている場所を効率的に検出することが可能となる。 ここで、本発明の培養変異識別方法に用いられるレトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドとは、培養によって転移を示すレトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドであって、レトロトランスポゾン配列のみからなるポリヌクレオチド、レトロトランスポゾン配列を配列の一部として含むポリヌクレオチド、あるいはレトロトランスポゾン配列の一部を配列の一部として含むポリヌクレオチドのことを意味する。そして、このように培養によって転移を示すレトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドであれば、その種類は限定されることなく、いずれのものも用いることができる。また本発明の目的に合致する限り、それらと実質的に同等の機能を有するものは、制限されることなく用いられる。このように、本発明の培養変異識別方法に用いられるレトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドも、本発明の範囲内である。 すなわち、本発明にかかるポリヌクレオチドは、イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種由来の組織培養時に、当該培養植物体に生じた突然変異をDNAレベルで検出するために用いられるポリヌクレオチドであって、植物の組織培養において転移するレトロトランスポゾン配列を含んでなるものである。 ここで、上記レトロトランスポゾン配列としては、植物由来のもので培養による転移が示されるものであればいずれのものも用いることができるが、サツマイモの属するイポメア属の植物由来のものが好ましい。さらに、培養による転移を示すレトロトランスポゾンとしては、従来公知のレトロトランスポゾン配列あるいは配列番号1で表される塩基配列を挙げることができる。配列番号1に示す塩基配列は、サツマイモ品種「高系14号」を茎頂培養して得られたカルスからRNAを抽出して分析し、カルスにおいて転写されていたレトロトランスポゾン配列の一つである。 本発明のポリヌクレオチドを用いれば、サツマイモ(イポメア属サツマイモ節植物)の茎頂培養時に生じた突然変異を培養段階で識別することができる。 なお、本発明者らが開発した、植物のゲノム中に存在する多種類のレトロトランスポゾン配列の中から、転移機能を失っていないものを選別する方法によって新しく見出された配列を上記レトロトランスポゾン配列とすることもできる。つまり、本発明にかかるポリヌクレオチドにおいて、上記レトロトランスポゾン配列は、培養前の植物のゲノムと、培養後の植物のゲノムとの間で当該レトロトランスポゾン配列の挿入位置の比較を行った時に、上記培養後の植物においてのみ見出される挿入箇所が存在するものであってもよい。 さらに、本発明にかかる培養変異識別用キットは、イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種由来の組織培養時に当該培養植物体に生じた突然変異をDNAレベルで検出するために、上述の本発明にかかるポリヌクレオチドを含んで構成されるものである。 上記の培養変異識別キットによれば、サツマイモなどの植物の培養変異識別に必要な一連の作業がキットとして用意されているため、上記の培養変異識別方法を容易に実施することができ、しかもその方法を簡素化できる。それゆえ、作業時間の短縮化が図れる。 以下、本発明にかかるポリヌクレオチドを利用したイポメア属サツマイモ節植物のDNAレベルでの培養変異識別方法について、工程ごとに順を追って説明する。 (1)供試植物体からのDNAの精製供試対象となる植物体は、培養中の植物組織(本願請求項における「培養後の植物」を意味する。)、茎頂培養により得られた植物体(本願請求項における「培養後の植物」を意味する。)、培養を行っていない植物体(本願請求項における「培養前の植物」を意味する。)であるが、これら植物の組織からのDNAの精製は、遺伝子工学分野で用いられる通常のDNA精製方法によって行うことができる。 (2)SSAP法によるレトロトランスポゾン配列のゲノム挿入位置の比較検証SSAP法は、Waugh Rらの方法(非特許文献1)やEllis THNらの方法(非特許文献2)を用いることができる。 (I)制限酵素断片の作成得られたDNAは、制限酵素により断片化する。制限酵素としては、レトロトランスポゾンが挿入されたゲノム配列を検出する際にPCRにより増幅するレトロトランスポゾンの配列上に認識部位を持たないものであれば、公知、または、今後発見される未知のいずれの制限酵素も用いることができる。制限酵素の処理方法としては、一般にDNAの制限酵素断片の作成に用いられる方法を用いることができる。 (II)アダプターDNAとのライゲーション(I)において用いた制限酵素が生成する粘着末端と同じ粘着末端を片側に持つ二重鎖DNA(アダプターDNA)を準備し、制限酵素処理したゲノムDNA断片と結合させる。結合の処理としては、一般にDNAのライゲーションに用いられる方法を用いることができる。 (III)レトロトランスポゾン配列とそれに隣接するゲノム配列とを含む制限酵素断片の増幅レトロトランスポゾン配列が挿入されているゲノム配列を含む制限酵素断片を増幅し、識別するために、蛍光物質または放射性同位元素により標識したレトロトランスポゾン配列のプライマーとアダプター配列のプライマーによりPCRを行う。なお、ここで利用される上記レトロトランスポゾン配列が、本発明にかかるポリヌクレオチドである。 (IV)標識したPCR増幅断片の検出(III)のPCRにより標識したレトロトランスポゾン配列とそれに隣接するゲノム配列とを含む制限酵素断片は、蛍光物質による標識の場合は、その蛍光物質を検出できるDNAシーケンサーに供し、検出する。放射性同位元素による標識の場合は、アクリルアミドゲルまたはアガロースゲルを用いて電気泳動し、ブロッティングによって、ナイロンメンブレンなどに転移させたあと、標識に用いた放射性同位元素の放射能を検出する。 レトロトランスポゾンが挿入されたゲノム配列における制限酵素の認識部位の位置は、ゲノム配列ごとに異なることが予想され、検出されるPCR増幅断片の長さによって、挿入されたそれぞれのゲノム部位を特徴付けることができる。培養変異の識別は、レトロトランスポゾン配列とそれに隣接するゲノム配列を含む制限酵素断片について、培養を行っていない植物体と培養中の植物組織、または茎頂培養により得られた植物体の間で比較し、断片の出現に違いがあれば、検出に用いたレトロトランスポゾン配列が培養に伴いゲノム上を転移しており、当該レトロトランスポゾンや培養によって同様な挙動を示す他の転移因子の転移に伴う突然変異の発生が予測される。 以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲を何等限定するものではない。すなわち遺伝子工学的手法の範囲内で種々の改変が可能で、それらの応用されたものも本発明に含まれる。〔サツマイモにおけるレトロトランスポゾン配列による培養変異の検出〕 (1)供試材料 高系14号のウィルス・フリー化のため茎頂培養を行った際、形態変異体が発見されたが、この茎頂基部から形成したカルスKB-4、さらに形態変異を起こさなかった通常再生個体から形成したカルスKB-1、茎頂培養の基となる高系14号を使用した。茎頂培養は、最新バイオテクノロジー全書2、野菜の組織・細胞培養と増殖(最新バイオテクノロジー全書編集委員会編)、pp.100-102、農業図書株式会社、東京(1990)の方法に従った。 (2)ゲノムDNAの抽出 それぞれの供試材料より新鮮な葉またはカルス100mgを液体窒素で完全に破砕し粉状にした。それを600μlの2%CTAB(cetyltrimethylammonium bromide)溶液(100mM Tris-HCl pH8.0、1.4M NaCl、20mM EDTA pH8.0、2%CTAB)と5μlのメルカプトエタノールが入った1.5mlチューブをあらかじめ65℃で加温したところに加え、転倒混和後再び65℃のウォーターバス中で30分間加温した。その後、600μlのクロロホルム:イソアミルアルコール(=24:1)を加え5分間攪拌後12000rpmで15分間遠心し、上清を別のチューブに取り分けた。この操作をあと2回繰り返した。 そして、最後に取り分けられた上清に800μlの1%CTAB溶液(50mM Tris-HCl pH8.0、10mM EDTA pH8.0、1% CTAB)を加え軽く混和後、室温で1時間静置した。その後、8000rpmで10分間遠心分離し、上清を捨て沈殿を400μlの1M CsClで溶解した。尚、ここまでの遠心分離は全て室温で行った。溶解したDNA溶液に−20℃の100%エタノールを800μl加え、30分間冷凍庫で静置し、12000rpmで15分間4℃で遠心分離した。その後上清を捨て、−20℃の70%エタノール400μlを加え軽く振盪後、再び12000rpmで5分間、4℃で遠心分離し、上清を捨てデジケーター内でアスピレーターを使用し完全に乾燥させ100μlのTE buffer(10mM Tris-HCl pH8.01mM、EDTA pH8.0)に溶解した。 その後、それに20μgのRNase Aを加え、37℃で15分間インキュベートし、100μlのPCI(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)を加え、よく攪拌し15000rpmで15分間、室温で遠心分離した。そして、上清を別のチューブに取り分け、それに−20℃の100%エタノール250μlを加え軽く攪拌し、12000rpmで15分間、4℃で遠心分離した。その後、上清を捨て、デジケーターで完全に乾燥させ、100μlのTE bufferで溶解した。尚抽出したゲノムDNAは1.2%アガロースゲルで電気泳動し、純度を確認後、分光光度計で濃度を測定した。 (3)制限酵素処理末端へのアダプター付加法(SSAP法) トータルゲノムDNA5μgに4塩基認識の制限酵素MseI2U、10×NEbuffer2(50mM NaCl、10mM Tris-HCl、10mM MgCl2、1mM DTT)、100×Purified BSAを加え、滅菌水で50μlに定容した。その溶液を37℃で12時間インキュベートした後、20分間65℃ウォーターバス中で酵素失活をした。そして、滅菌水を250μl加え全量を300μlにし、それと等量のPCI(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)を加え激しく転倒混和後、室温で15分間、15000rpmで遠心分離した。 次に、上層を30μlの3M酢酸ナトリウムの入った別のチューブに取り分け、−20℃の100%エタノール750μl加えた後軽く転倒混和し、−20℃で3分間静置した。その後、4℃で15分間、12000rpmで遠心分離し上清を捨て、再び−20℃の70%エタノール400μlを加え軽く振盪後、4℃で5分間、12000rpmで遠心分離した。上清を捨て、沈殿をデジケーター内でアスピレーターを使って乾燥させ、50μlのTE bufferに溶解した。尚、切断具合は1.2%アガロースゲルで確認した。 次に、制限酵素処理したゲノムDNAにアダプターを付加した。アダプターは16塩基のオリゴヌクレオチドAD_MseI-1(5’-gacgatgagtcctagg-3’(配列番号2))と14 塩基のオリゴヌクレオチドAD_MseI-2(5’-tactcaggactcat-3’(配列番号3))をそれぞれ1nmolずつ混ぜ、70℃で5分間インキュベートし、5×Annealing buffer(0.5M Tris-HCl、0.35M MgCl2)を加え、さらに70℃で5分間インキュベートし3時間かけて室温に戻した。 アダプターのライゲーションは制限酵素処理産物DNA5μlにアダプター15pmol、T4 DNA Ligase1U、10×Ligase Buffer(50mM Tris-HCl、10mM MgCl2、10mM DTT、1mM ATP、25μg/ml BSA)を加え、滅菌水で全量20μlに定容した。その反応液を16℃で2時間インキュベートし、アダプターを制限酵素処理末端に結合させた。 次に、そのライゲーション産物を鋳型にPCR増幅を行った。プライマーに関しては、アダプター上にMseIプライマーを設計した。配列番号1記載のレトロトランスポゾン配列を利用して、本配列のPBS(primer binding site)と見られる領域にPBS_compプライマー(5’-aaggctctgataccaattgttgcgc-3’(配列番号4))を、そこから181bp5’側の領域にTexasRedで蛍光標識したExt_Rプライマー(5’-ccactctctaactaacaaggag-3’(配列番号5))を設計した。なお、Ext_Rプライマーは、5’末端をTexasRedで蛍光標識した。 1回目のPCR反応は、MseIプライマー(5’-gacgatgagtcctgagtaa-3’(配列番号6))とPBS_compプライマーで行った。反応液は、鋳型DNAとしてのライゲーション産物5μlにTaq DNA Polymerase 2U(Sigma社製)、10mM Tris-HCl pH8.3、50mM KCl、2.5mM MgCl2、200μM dNTPs、1pmolのプライマーを加え滅菌水で25μlに定容した。反応条件は94℃4分間で変性し、94℃1分間、63℃1分間、72℃2分間を30サイクル、最後に72℃5分間の伸張反応を行った。 次に、その増幅産物を終濃度1000倍になるように蒸留水で調製し、これを鋳型として、MseIプライマーとExt_Rプライマーで PCRを行った。反応液は鋳型となる1回目の増幅産物を40倍希釈したDNA0.4μlにTaq DNA Polymerase 0.8U、10mM Tris-HCl pH8.3、50mM KCl、2.5mM MgCl2、200μM dNTPs、0.4pmolのプライマーを加え、滅菌水で10μlに定容した。反応条件はアニーリング温度を変えた以外は全て1回目のPCR反応条件と同じ条件で行った。増幅産物は95℃2分間で変性させ、氷中にチューブを挿し入れて急冷した。 増幅産物は日立社製のSQ-5500 DNA Sequencerを使用し可視化した。シーケンスゲルの作成には、Long Ranger 50% Gel Solution(BioWhittaker Molecular Applications社製)を使用した。まず、10mlの滅菌水にLong Ranger 50% Gel Solutionを3.6ml、尿素11gを入れ、40℃のウォーターバス中で加温しながら完全に尿素を溶解し、冷やしたAG 501-X8 Resin 1.2gを入れスターラーで30分間攪拌した。その後0.2μ滅菌フィルターユニット(Nalgen社)に通し吸引濾過し、10×TBE溶液3.6mlを加えたのち滅菌水で全量30mlにメスアップした。 次に、シリンジにフィルターをつけその溶液を再び濾過し、デジケーター内でアスピレーターを使用し10分間脱気した。そして10%APS(過硫酸アンモン)210μlとTEMED(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)30μl加え、素早く攪拌しあらかじめ組み立てておいた泳動板に流し込み、スクェアコームをさし3時間静置した後、電気泳動に用いた。1時間の予備泳動の後、増幅産物にそれぞれ2μlにloading dye0.5μlを加え電気泳動のサンプルとした。泳動後は、SQ-5500 DNA Sequencer付属のソフトウエアを使い、レトロトランスポゾン配列とそれに隣接するゲノム配列を含む増幅断片について、供試材料の間で比較を行った。 その結果、図1に示すように、カルス2系統とそれを誘導するのに用いた高系14号植物体の間には、増幅断片に違いが見られ、カルス誘導により、このレトロトランスポゾン配列が転移していることが示された。 なお、図1において、KB−1およびKB−4はともに、高系14号の茎頂培養時に生じたカルスである。また、図1(a)は、350bp〜450bpまでの電気泳動後のゲルであり、図1(b)は500bp〜650bpまでの電気泳動後のゲルを示すものである。これら図に示すように、培養後植物であるKB−1(左端)・KB−4(中央)の各レーンの矢印を付して示した箇所に、培養前植物である高系14号(右端のレーン)には見られない増幅断片のバンドが検出された。そして、培養後のカルス2系統間においても、増幅断片のバンドに違いが見られた。この結果から、カルス化によってレトロトランスポゾン配列が転移していることが示された。 上述のように、本願発明者らは、植物ゲノムに多数存在するレトロトランスポゾンのうち、培養により転移する遺伝子を効率よく単離する方法を開発し、実際に、サツマイモのゲノムから、組織培養細胞において転写されている配列を見出した。このレトロトランスポゾン配列について、ゲノム中に挿入されている場所を効率的に検出する既知の方法(SSAP法)と組み合わせることにより、本実施例に示すように組織培養によってレトロトランスポゾンが転移したことを示した。 以上の実施例の結果から、配列番号1に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドを用いた突然変異識別方法によって、培養段階で形態変異を起こす突然変異体である可能性のある植物個体を、DNAレベルで識別することができると言える。 本発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。 本発明は、サツマイモなどのイポメア属植物の育種および栽培に有効に利用することができ、サツマイモの品種改良および栽培などに大きく貢献すると考えられ、ひいては、農業分野の発展に寄与することが期待される。本発明の実施例において、配列番号1に示すレトロトランスポゾン配列を用いて、サツマイモ品種高系14号とそのカルスについてSSAP分析を行った結果を示す模式図である。なお、(a)は350bp〜450bpまでの電気泳動後のゲルであり、(b)は500bp〜650bpまでの電気泳動後のゲルである。 イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種由来の組織の培養時に、当該培養植物体に生じた突然変異をDNAレベルで検出する培養変異識別方法であって、 植物のレトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドを用いて、当該レトロトランスポゾン配列が培養植物体のゲノムのどの部位に挿入されたかを検出することによって、突然変異を識別することを特徴とする培養変異識別方法。 上記レトロトランスポゾン配列として、上記イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種を茎頂培養して得られた培養植物のゲノムDNA中に存在するレトロトランスポゾン配列のうち、当該培養植物において転写されることが確認されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載の培養変異識別方法。 上記レトロトランスポゾン配列として、培養前の植物のゲノムと、培養後の植物のゲノムとの間で当該レトロトランスポゾン配列の挿入位置の比較を行い、上記培養後の植物においてのみ見出される挿入箇所が存在するものを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の培養変異識別方法。 上記レトロトランスポゾン配列を含むポリヌクレオチドとして、配列番号1に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドを用いることを特徴とする請求項1に記載の培養変異識別方法。 SSAP法を用いて、上記レトロトランスポゾン配列が培養植物体のゲノムのどの部位に挿入されたかを検出することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の培養変異識別方法。 イポメア属サツマイモ節植物またはその近縁野生種由来の組織培養時に、当該培養植物体に生じた突然変異をDNAレベルで検出するために用いられるポリヌクレオチドであって、植物の組織培養において転移するレトロトランスポゾン配列を含んでなるポリヌクレオチド。 イポメア属植物由来であることを特徴とする請求項6に記載のポリヌクレオチド。 上記レトロトランスポゾン配列は、培養前の植物のゲノムと、培養後の植物のゲノムとの間で当該レトロトランスポゾン配列の挿入位置の比較を行った時に、上記培養後の植物においてのみ見出される挿入箇所が存在するものであることを特徴とする請求項6または7に記載のポリヌクレオチド。 上記レトロトランスポゾン配列含むポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列であることを特徴とする請求項6ないし8の何れか1項に記載のポリヌクレオチド。 【課題】 サツマイモとその近縁野生種について、組織培養によって生じる遺伝子の突然変異をDNAのレベルで検出する培養変異識別方法、および、このような突然変異の検出に用いられるポリヌクレオチドを提供する。【解決手段】 サツマイモ(Ipomoea batatas)のゲノム中に存在するレトロトランスポゾンのうち、培養によって転移するものを見出した。そして、この転移機能を有するレトロトランスポゾン配列と、特定のDNA配列についてゲノム中に挿入されている場所を効率的に検出するSSAP法とを組み合わせることによって、サツマイモとその遺伝資源として保存される近縁野生種について、組織培養の段階で突然変異の発生した植物体を効率よく確実に検出することができる培養変異識別方法を提供する。【選択図】 なし配列表