生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_植物において遺伝子発現を安定化させるためのベクターおよびその利用
出願番号:2004029937
年次:2005
IPC分類:7,C12N15/09,A01H5/00,C12N1/15,C12N1/19,C12N1/21,C12N5/10


特許情報キャッシュ

瀧田 英司 柴田 大輔 新名 惇彦 紀 美佐 JP 2005218371 公開特許公報(A) 20050818 2004029937 20040205 植物において遺伝子発現を安定化させるためのベクターおよびその利用 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 504143441 王子製紙株式会社 000122298 出光興産株式会社 000183646 清水 初志 100102978 橋本 一憲 100108774 瀧田 英司 柴田 大輔 新名 惇彦 紀 美佐 7C12N15/09A01H5/00C12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/10 JPC12N15/00 AA01H5/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 AC12N5/00 C 9 OL 18 特許法第30条第1項適用申請有り 平成15年8月7日 日本植物細胞分子生物学会主催の「第21回日本植物細胞分子生物学会大会・シンポジウム(香川)」において文書をもって発表 (出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成14年度、平成15年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構植物利用エネルギー使用合理化工業原料の生産技術開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの) 2B030 4B024 4B065 2B030AB04 2B030AD20 2B030CA17 2B030CA19 2B030CB01 4B024AA08 4B024BA79 4B024CA01 4B024DA01 4B024DA02 4B024DA05 4B024DA11 4B024EA04 4B024FA11 4B024GA11 4B024HA08 4B065AA01X 4B065AA57X 4B065AA87X 4B065AA89Y 4B065AB01 4B065BA02 4B065CA53 本発明は、植物において遺伝子発現を安定化させるためのベクター、該ベクターで形質転換された宿主細胞および植物体、並びに該ベクターを利用した植物における遺伝子発現の方法に関し、主として植物の分子育種の分野に属する。 植物への遺伝子導入は、遺伝子の機能解析、分子育種を行うために有効な技術である。しかしながら、従来の遺伝子導入技術には問題点も多い。例えば、導入遺伝子の植物染色体における挿入位置がランダムであるため、内在遺伝子の機能の喪失を招くおそれがある。 また、従来の遺伝子導入技術では、導入遺伝子個体間での導入遺伝子発現のばらつきが、しばしば観察され(非特許文献1、2)、目的の遺伝子発現を示す個体の獲得に労力を要する。遺伝子導入個体間での発現のばらつきの原因の1つとしては、導入遺伝子の染色体上での挿入位置の違いによる発現への影響、すなわち位置効果(position effects、非特許文献3、4)が挙げられている。位置効果の消去を目指した導入遺伝子安定化法としては、これまでMAR(matrix-attachment regions)やinsulatorの利用が試みられてきた。MARはDNAループの境界に存在し、ループ中の遺伝子発現を境界外の影響から遮断すると考えられており、タバコではMAR配列の両端への付加により導入遺伝子発現を安定化させることに成功している(非特許文献5)。しかしながら、MARを利用した場合の導入遺伝子の安定化の原因がジーンサイレンシングの抑制であるか否かについては、明らかにされていない。 遺伝子導入植物を実用化する場合、後代まで導入遺伝子を安定して保持することが必要である。安定であると考えられる導入遺伝子が1つの遺伝子座にホモで存在する系統を獲得するためには、遺伝子導入時に1コピー遺伝子が導入された個体を獲得し、次世代でホモとなった個体を選抜することが効率的である。MARを利用した方法では、導入遺伝子コピー数の抑制効果が見られないため、1コピー導入個体の獲得効率が低く、個体の選抜に労力がかかる。 従って、植物体において導入遺伝子発現を安定化させる新たな方法の開発の必要性が、いまなお存在する。 なお、本発明に関連する先行技術文献情報を以下に記す。Odell、 J. T.、 Nagy、 F. and Chua、 N.-H. (1987) Variability in 35S promoter expression between independent transformants. In Plant Gene Systems and Their Biology pp. 321-329、 Alan R. Liss、 Inc.Meyer、 P. (1995) Variation of transgene expression in plants.Euphytica 85、 359-366.Dean、 C.、 Jones、 J.、 Favreau、 M.、 Dunsmuir、 P. and Bedbrook、 J. (1988) Influence of flanking sequences on variability in expression levels of an introduced gene in transgenic tobacco plants. Nucleic Acids Res. 16、 9267-9283.Matzke、 A. J. M. and Matzke、 M. A. (1998) Position effects and epigenetic silencing of plant transgenes、 Curr. 0pin. Plant Biol. 1、 142-148.Breyne、 P.、 Van Montagu、 M.、 Depicker、 A. and Gheysen、 G. (1992) Characterization of a plant scaffold attachment region in a DNA fragment that normalizes transgeen expression in tobacco. Plant Cell 4、 463-471. 本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物体内で導入された遺伝子を安定に発現させることができる新たなベクターを開発することにある。 これまで、導入遺伝子の末端にDNAを付加して遺伝子発現を安定化させた技術としては、上述したようにMAR(matrix-attachment regions)の利用が知られているが、この技術は、付加されるDNAの鎖長に依存した位置効果の影響の回避に着目したものではないため、付加されるDNAとしては比較的短鎖のDNAが用いられている。例えば、文献(Mlynarova、 L.、 Jansen、 R. C.、 Conner、 A. J.、 Steakema、 W. J. and Nap、 J.-P. (1995) The MAR-mediated reduction in position effect can be uncoupled from copy number-dependent expression in transgenic plants. Plant Cell 7、 599-609.)では、3 kb のchicken lysozyme domainを導入遺伝子の両端に付加した例が示されており、また、文献(Namciu、 S.J.、 Blochlinger、 K.B.、 and Fournier、 R.E. (1998) Human matrix attachment regions insulate transgene expression from chromosomal position effects in Drosophila melanogaster. Mol. Cell. Biol. 18、 2382-2391.)では、4.1 kb のhuman α1-antitrypsin lociを導入遺伝子の片端へ付加した例が示されている。 本発明者らは、導入遺伝子の発現に対する位置効果を消去するために、MARを利用した技術とは異なり、導入遺伝子両端に付加するDNAの鎖長に着目した。そこで、本発明者らは、100 kbを越える挿入DNA断片を大腸菌、アグロバクテリウム内で安定に維持でき、これをアグロバクテリウムを介して植物に導入することが可能なバイナリーベクターであるTACベクター(Liu、 Y.-G.et al、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96、 6535-6540.)を基礎に、長鎖DNAを、その導入遺伝子の両端に付加した改良TACベクターを構築し、長鎖DNAの付加の遺伝子発現に対する影響の検証を行なった。 その結果、本発明者らは、長鎖DNAの付加が、植物の染色体内に導入される遺伝子のコピー数の低い値での安定化と、複数コピーの遺伝子が染色体内に導入された場合におけるジーンサイレンシングの影響の回避をもたらし、これにより植物体における導入遺伝子の発現を安定化させることができることを見出した。 即ち、本発明は、長鎖DNAの付加により植物細胞内での遺伝子発現を安定化することができるベクターおよびその利用に関するものであり、より詳しくは、下記の発明を提供するものである。〔1〕植物細胞へ導入された場合に、植物細胞の染色体内へ挿入されるDNA領域を含むベクターであって、該DNA領域が下記(a)および(b)を含むベクター。(a)植物細胞内で機能する発現調節領域の下流に任意の遺伝子が機能的に結合されたDNA(b)(a)のDNAの両端にそれぞれ結合された、少なくとも5kbpのDNA〔2〕植物細胞へ導入された場合に、植物細胞の染色体内へ挿入されるDNA領域を含むベクターであって、該DNA領域が下記(a)および(b)を含むベクター。(a)植物細胞内で機能する発現調節領域の下流に任意の遺伝子のクローニング部位が機能的に結合されたDNA(b)(a)のDNAの両端にそれぞれ結合された、少なくとも5kbpのDNA〔3〕〔1〕または〔2〕に記載のベクターが導入された宿主細胞。〔4〕〔1〕に記載のベクターが導入された植物細胞。〔5〕〔4〕に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。〔6〕〔5〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。〔7〕〔5〕または〔6〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料。〔8〕植物体において任意の遺伝子を発現させる方法であって、下記(a)および(b)の工程を含む方法。(a)〔1〕に記載のベクターを植物細胞に導入する工程(b)ベクターが導入された植物細胞から植物体を再生させる工程〔9〕植物体において任意の遺伝子を発現させる方法であって、下記(a)から(c)の工程を含む方法。(a)〔2〕に記載のベクターに任意の遺伝子を挿入する工程(b)任意の遺伝子が挿入されたベクターを植物細胞に導入する工程(c)ベクターが導入された植物細胞から植物体を再生させる工程 なお、請求項1、2、4、8、および9で使用している「導入」という言葉は、植物への導入を表す場合、アグロバクテリウム法等による生物的DNA導入のみならずパーティクルボンバードメント法等による物理的DNA導入、PEG法等による化学的DNA導入等をも意味し、導入法は限定されない。 本発明のベクターは、遺伝子導入個体間における遺伝子発現のばらつきを抑制する機能を有する。また、本発明のベクターは、植物染色体内へ導入される遺伝子のコピー数を低く抑える機能をも有するため、本発明のベクターを利用すれば、導入遺伝子を1コピーのみ持ち、安定な遺伝子発現が期待できる個体を、高確率で獲得できる。これにより、導入遺伝子を安定に発現する植物個体を選抜するために必要な労力、時間を顕著に減少させることが可能となる。 本発明のベクターは、植物細胞へ導入された場合に、植物細胞の染色体内へ挿入されるDNA領域を含むベクターであり、染色体に挿入された遺伝子の発現の安定化のために、そのDNA領域において、植物細胞内で機能する発現調節領域の下流に任意の遺伝子が機能的に結合されたDNA(以下、「発現調節領域-任意の遺伝子」と略する場合がある)の両端に、長鎖DNAが結合されていることを特徴とする。 本発明のベクターに用いる発現調節領域としては、植物細胞内でその下流の遺伝子の発現を保証しうるものであれば特に制限はない。例えば、恒常的な発現を保証するカリフラワーモザイクウイルス由来の35S-プロモーター、緑色器官特異的発現プロモーター(ribulose 15-bisphosphate carboxylaseの小サブユニット遺伝子(rbcS)プロモーター(Yoshida and Shinmyo (2000) J. Biosci. Bioeng.、 90、 353-362.)、chlorophy ll a/b binding protein遺伝子(CAB)プロモーター(Yoshida and Shinmyo (2000) J. Biosci. Bioeng.、 90、 353-362.)、glyceraldehydes 3-phosphate dehydrogenaseのAサブユニット遺伝子(GapA)プロモーター(Yoshida and Shinmyo (2000) J. Biosci. Bioeng.、 90、 353-362.))、根特異発現プロモーター(hyoscyamine 6β-hydroxylase遺伝子(AbH6H)プロモーター(Suzuki et al. (1999) Plant Mol. Biol.、 40、 141-152.)、purescine N-methyltransferase遺伝子(PMT)プロモーター(Shoji et al. (2000) Plant Cell Physiol.、 41、 1072-1076)、mannopine synthase遺伝子(mas2')プロモーター(Borisjuk et al. (1999) Nat. Biotechnol.、 17、 466-469.))、花芽特異的プロモーター(PISTILLATA遺伝子プロモーター(Honma et al. (2000) Development、 127、2021-2030))、リン酸欠乏応答プロモーター(phosphate transporter 1遺伝子(PHT1)プロモーター(Mudge et al. (2002) Plant J.、 31、 341-53))、翻訳効率上昇配列(alcohol dehydrogenase遺伝子(ADH)5'UTR(特願2000-402281))などが挙げられる。 発現調節領域の制御下で発現させる任意の遺伝子としては、制限はなく、植物細胞内で発現させたい所望の遺伝子を用いることができる。本発明において「発現調節領域の下流に任意の遺伝子が機能的に結合された」とは、上記発現調節領域の制御下で任意の遺伝子が発現するように、発現調節領域と任意の遺伝子が結合していることを意味する。従って、発現調節領域の制御下で任意の遺伝子が発現する限り、発現調節領域と任意の遺伝子が直接的に結合していなくともよい。 本発明のベクターにおいて、「発現調節領域-任意の遺伝子」の両端のそれぞれに結合される長鎖DNAは、通常、少なくとも5kbp以上の鎖長を有する。長鎖DNAの鎖長は、ベクターに挿入できる限り特に制限はないが、好ましくは、10kbp以上(例えば、20kbp以上、30kbp以上、35kbp以上、40kbp以上、100kbp以上)の鎖長を有し、また、好ましくは、150kbp以下の鎖長を有する。このような長鎖DNAである限り、DNAの形態及び由来等は特に制限されるものではない。 この長鎖DNAの挿入により、植物染色体内に導入される遺伝子のコピー数の安定化とジーンサイレンシングによる遺伝子発現の抑制の回避を図ることができ、これにより遺伝子発現を安定化させることが可能となる。 本発明のベクターは、上記要素以外に、例えば、形質転換細胞の選抜のための遺伝子、大腸菌、アグロバクテリウム等の宿主細胞での複製起点、選抜のための遺伝子、アグロバクテリウムから植物染色体に遺伝子導入するための境界配列(RB、LB)、導入遺伝子を転移させるためのトランスポゾン、形質転換細胞を可視化するためのマーカー遺伝子など、その他の要素を含んでいてもよい。 本発明のベクターの調製は、まず、発現調節領域の下流に任意の遺伝子のクローニング部位が機能的に結合されているベクターを調製し、次いで、このクローニング部位に任意の遺伝子を挿入することにより調製することができる。任意の遺伝子のクローニング部位は、通常、制限酵素で切断される塩基配列を有し、好ましくは、マルチクローニング部位のように複数種の制限酵素で切断される塩基配列を有するものである。本発明のベクターの調製は、また、実施例に記載したように、長鎖DNAを含むベクターの長鎖DNA中に「発現調節領域-任意の遺伝子」を挿入することによって調製することもできる。 本発明のベクターを調製するための基礎となるベクターとしては、長鎖DNAを挿入することが可能なTACベクターや、BIBACベクター(Hamilton、 C. M.et al、 (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93、9975-9979.、Hamilton、 C. M. (1997) Gene 200、 107-116.)が好適である。BIBACベクターを基礎とする場合には、例えば、BIBACのNot I、 BamH I、 Not Iで構成されるクローニング部位に長鎖DNAを挿入し、長鎖DNA中に適当なクローニングサイトを挿入することにより、長鎖DNAを利用した遺伝子安定発現用ベクターを作製できる(Hamilton、 C. M.et al、 (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93、9975-9979.、Hamilton、 C. M. (1997) Gene 200、 107-116.)。 また、例えば、pBI 101からGUS遺伝子とその下流に存在するNOSターミネーターをSma I、EcoR I切断により除去後、平滑末端化し自己閉環したベクターを作製し、このベクターのHind III、Sph I、Pst I、 Sal I、Xba I、 BamH Iで構成されるクローニング部位に長鎖DNAを挿入し、長鎖DNA中に適当なクローニングサイトを挿入することにより、長鎖DNAを利用した遺伝子安定発現用ベクターを作製することも考えられる。 本発明のベクターが導入される宿主細胞には、遺伝子のクローニングのための大腸菌などの宿主細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、例えば、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ベクターの特性に応じて、アグロバクテリウムを介する方法、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。 形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、アグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta、S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100、 1503-1507)、およびパーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology、 9: 957-962.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。 形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports12:7-11 (1992))の方法が挙げられ、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor.Appl.Genet 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe(Planta 99:12(1971))の方法が挙げられ、ユーカリであれば土肥ら(特開平8-89113号公報)の方法が挙げられる。 一旦、ゲノム内に本発明のDNAあるいは本発明のDNAの発現を抑制するDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。 このようにして作出された形質転換植物体群では、多コピー数の遺伝子が植物の染色体内に導入された個体の割合が減少しており、また、複数コピーの遺伝子が染色体内に導入された個体においてもジーンサイレンシングの影響が回避されていることが期待される。その結果、導入した遺伝子を安定して発現する個体を効率的に選択することが可能となる。[実施例1] 改良TACベクターの構築 TACベクター(Liu、 Y.-G.et al、 (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96、 6535-6540.)は100 kbを越える挿入DNA断片を大腸菌、アグロバクテリウム内で安定に維持し、これをアグロバクテリウムを介して植物に導入することが可能であるバイナリーベクターである。本発明者らは本ベクターの特性を利用し、導入遺伝子の両端に常に一定の長鎖DNA断片を付加した状態で遺伝子導入できるバイナリーベクターを開発することにより、導入遺伝子発現の導入遺伝子個体間でのばらつきの原因の1つと考えられる位置効果の消去を目指した。 付加する長鎖DNA断片には、植物において全ゲノム配列が解読され、遺伝子解析が最も行われているシロイヌナズナのゲノム配列を用いた。シロイヌナズナ(エコタイプColumbia)ゲノムDNAがTACベクターに挿入されたライブラリーから、挿入DNA断片の中間付近にクローニング部位の付加に使用できるレアカッター認識部位が存在し、そこに導入された遺伝子が染色体構造の影響で発現抑制されないためにその両脇の遺伝子が発現しているクローンK8K14(accession number AB007645、Nakamura、Y.et al (1997) DNA Res. 4、 401-414.)をベクター構築の初発として選定した(図2)。K8K14は約73 kbの挿入DNA断片を約32 kbと41 kbに分断する位置に8塩基認識制限酵素であるSfi I認識部位が約0.3 kbの間隔で2箇所存在し、その両脇のCK2 α-サブユニット遺伝子(Lee、Y.et al、 (1999) Plant Physiol. 119、989-1000.)およびメロンcucumisin遺伝子(Yamagata、 H.et al、 (1994) J. Biol. Chem. 269、 32725-32731.)と相同性の高い遺伝子に発現が確認されている(図2)。 クローンK8K14を基に、標準的なクローニング手法を用い、改良TACベクターを構築した。クローニングの宿主としては大腸菌DH10B(Invitrogen)を用い、大腸菌形質転換はジーンパルサー(Bio-Rad製)を使用したエレクトロポレーション法(条件100Ω、 25μF、 2.5 kV / 0.1 cm)で行った。レアカッターサイトを消去するために、K8K14プラスミドを制限酵素Asc IおよびSrf Iで切断し、T4 DNA ポリメラーゼ処理により平滑末端化した後、分子内ライゲーションを行いクローニング後、さらに制限酵素Fse I、 Not Iで切断し、同様に平滑末端化、分子内ライゲーションを行いクローニングを行った。獲得されたプラスミドのシロイヌナズナゲノムDNA塩基配列内のSfi I認識部位にSbf I-Asc I-Sfi I-Srf I-Fse I-Not Iアダプターを挿入し、6つの8塩基認識制限酵素サイトを持つレアカッタークローニングサイトの両端に長鎖DNAを持つ、改良TACベクターを構築した(図3、4)。改良TACベクターにより、両端に常に一定の長鎖DNA配列を付加した状態での植物への遺伝子導入が可能となる。 またTACベクター(pYLTAC7、 accession number AB020028、Liu、 Y.-G.et al、 (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96、 6535-6540.)のAsc I、 Sfi I、 Srf I認識配列およびFse I、 Not I認識配列を改良TACベクターと同様に消去し、Hind III 認識部位にSbf I-Asc I-Sfi I-Srf I-Fse I-Not Iアダプターを挿入しコントロールベクターを構築した(図4)。 さらにpBluescript II KS+(Stratagene)のSal I、Hind III認識部位の間にAsc Iを挿入しSAH/pKS+を作成した。SAH/pKS+のHind III、 Eco RI認識部位の間にpSLG2(Kato、 T.et al、 (1991) Plant Mol. Biol. Rep. 9、 333-339.)のHind III、 Eco RI消化DNA断片をそれぞれ挿入することにより、レポーター遺伝子であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子発現カセットの両端にAsc I、 Not I認識部位を付加した。このプラスミドのAsc I、 Not I消化DNA断片を、改良TACべくターおよびコントロールベクターのAsc I、 Not I認識部位の間にそれぞれ挿入し、それぞれ35S-GUS/改良TACベクター、35S-GUS/コントロールTACベクターと名付けた(図5)。 これら構築は導入遺伝子配列の確認を行ったところ、変異、欠失、挿入は見られず、また、Hind III処理後のアガロース電気泳動パターンにも異常は見られなかった。[実施例2] 改良TACベクターによるシロイヌナズナへの遺伝子導入 シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)エコタイプWassilewskija(Ws)への遺伝子導入を、減圧浸潤法(Bechtold、 N.et al (1993) C.R.Acad. Sci. 316、 1194-1199.)を用い行った。感染に用いたシロイヌナズナはロックウールまたは培養土(Metro-Mix 350)上に播種し、22℃、16時間明期、8時間暗期条件で週2回水または1000倍希釈ハイポネックス溶液で潅水し、約1ヶ月栽培したものを使用した。感染にはAgrobacterium tumefaciens strain C58C1 (MP90)を用いた。アグロバクテリウムへの改良TACベクターおよびコントロールベクターの導入は、ジーンパルサー(Bio-Rad製)を用い、200Ω、 25 μF、 2.5 kV / 0.2 cmの条件のエレクトロポレーション法で行った。感染後シロイヌナズナに上記同様潅水を続け、種子形成後は潅水を止め種子を乾燥させた。採種後、20 mg / lとなるようハイグロマイシンを添加した改変GM培地に表面殺菌した種子を蒔き、形質転換体のスクリーニングを行った。 その結果、獲得された種子のうちハイグロマイシン耐性を持つものの割合は、35S-GUS/改良TACベクターを用いた場合は1/233、35S-GUS/コントロールTACベクターを用いた場合は1/113であった。本結果より、35S-GUS/改良TACベクターを用いた場合のシロイヌナズナへの形質転換効率は、35S-GUS/コントロールTACベクターを用いた場合の約1/2であるが、他のバイナリーベクターを用いた場合と比較しても充分な効率である事がわかった。 35S-GUS/改良TACベクターを用いた遺伝子導入T1個体のうち約200個体を観察したところ、明らかな表現型の変化が見られる個体は見つからなかった。T-DNAタギングで表現型の変化が見られる割合は2%以下であることから(Bouche and Bouchez (2001) Curr. Opin. Plant Biol. 4 111-117)、本結果は充分に起こりうると類推される。よって、改良TACベクターのボーダー領域内の長鎖DNA断片は明らかな表現型に影響を与えないと考えられた。[実施例3] GUSレポーター遺伝子の発現および導入コピー数の解析(1)改良TACベクターの導入遺伝子発現安定化への効果を検討するために、35S-GUS/改良TACベクターを用いた遺伝子導入T1個体約75個体の解析を行った。また35S-GUS/コントロールTACベクター用いた遺伝子導入T1個体約80個体についても同様に解析を行った。 アグロバクテリウムを用いて植物に遺伝子導入を行った場合、導入遺伝子の部分的欠落が起こることが報告されているため(Kim et al. (1998) Mol. Cells.、 8、 705-708)、始めにGUS遺伝子の導入をリアルタイムPCRで確認した。35S-GUS/改良TACベクターを用いたT1個体のうち約20%でGUS遺伝子が欠落していた。そこでこれらの個体に関しては以降の解析から除外した。35S-GUS/コントロールTACベクターを用いたT1個体ではすべての個体にGUS遺伝子が確認された。 β-グルクロニダーゼ(GUS)活性の測定は次のように行った。まず、シロイヌナズナを15 mg l-1ハイグロマイシンを含む改変GM培地で播種後10日間栽培後、ハイグロマイシンを含まない改変GM培地に移植し、播種後28日目に葉をサンプリングし、液体窒素凍結後-80℃で保存した。サンプリングした葉を、1.5 mlマイクロチューブ内で500 μl酵素抽出用緩衝液B(0.1 M リン酸カリウム緩衝液、pH7.8、2 mM EDTA、5 % グリセリン、2 mM ジチオトレイトール)とともにハンドホモジナイザー(MultiPro、Dremel社製)を用い氷上で破砕し、遠心分離(15、000 rpm、4℃、5分間)後、上清を粗酵素液とした。GUS酵素反応は粗酵素液に基質として終濃度1 mMの4-MUG(4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルクロニド)を添加し、37℃でインキュベートすることで行った。酵素反応の結果生じる4-MU(4-メチルウンベリフェロン)量は、分光蛍光度計(GENios、Tecan社製)で経時的に蛍光(励起360 nm、蛍光465 nm)を測定することにより算出し、GUS活性を粗酵素液中のタンパク質1mgが1分間に生成する4-MU量(pmol)で表した。 GUS活性の測定を行った結果、各個体が示すGUS活性にはばらつきがあり、35S-GUS/改良TACベクターを用いた場合、検出限界以下から約600、000 pmol 4-MU min-1 mg-1 proteinの範囲であり、35S-GUS/コントロールTACベクター用いた場合、検出限界以下から約300、000 pmol 4-MU min-1 mg-1 proteinの範囲であった。本実験結果において見られる遺伝子導入個体間の導入遺伝子発現のばらつきは、位置効果によるものが大きいと考えられてきた(Matzke、 A. et al、 (1998) Curr. Opin. Plant Biol. 1、 142-148.)。導入遺伝子発現のばらつきに影響を与えるもう一つの要因として染色体への遺伝子導入コピー数が挙げられ、これまでに導入遺伝子の発現と導入コピー数との関係が議論されているが(Meyer、 P. and Saedler、 H. (1996) Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 47、 23-48.)、大量かつ詳細に調査した例は見られない。そこで、上記遺伝子導入T1個体のGUS遺伝子のコピー数を調べ、GUS活性との相関を調べた。 導入遺伝子コピー数はゲノムDNA中の導入遺伝子を定量PCRで定量し、同様に定量したシロイヌナズナ核ゲノムハプロイドあたり1コピー存在する内在性遺伝子(PetC遺伝子、Knight J. S.et al、 Plant Cell Physiol. 43、 522-531.)との比を算出することにより推定した。 PCRの鋳型となるシロイヌナズナゲノムDNAはDNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN製)を用い調製し、PicoGreen dsDNA Quantitation Kit(Molecular Probes製)により定量した。定量PCRにはTaqManプローブを用いたリアルタイムPCRを採用した。プライマーとTaqManプローブはPrimer Express Version 1.0 (ABI社製)を用い設計し、至適濃度を決定した。なお、表1に、定量リアルタイムPCRおよび定量リアルタイムRT-PCRに用いたプライマーおよびTaqManプローブの配列を示した。 リアルタイムPCRはABI PRISM 7700 Sequence Detection System (ABI社製)を使用し、1×TaqMan Universal PCR Master Mix(ABI社製)、至適濃度のプライマーとTaqManプローブ、10 ngゲノムDNAにより構成される30 μlの反応液を、50℃、2 min(1サイクル)、95℃、10 min(1サイクル)、95℃、15 sec、60℃、1 min(40サイクル)の温度条件で反応させることにより行った。また定量の標準となるDNAとして、PetC遺伝子及び導入遺伝子[ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HPT)、GUS、レバンスクラーゼ(sacB)遺伝子]のリアルタイムPCR増幅領域を含む約0.5 kbのDNA断片を固相連結法により1つのプラスミド上に連結したものを作成した(図1)。本プラスミドをPicoGreen dsDNA Quantitation Kitにより定量し、各遺伝子の標準曲線の作成に使用した。 導入遺伝子コピー数を測定した結果、35S-GUS/コントロールTACベクターを用いたT1個体ではGUS遺伝子コピー数が1-23であったのに対し、35S-GUS/改良TACベクターを用いたT1個体では1-8でコピー数が少ない傾向であった(図6)。特にGUS遺伝子コピー数が1コピーである個体の割合は35S-GUS/コントロールTACベクターが17%であるのに対し、35S-GUS/改良TACベクターは約2倍の35%であった(図6)。この結果より、35S-GUS/改良TACベクターは導入遺伝子コピー数を低くする効果があることがわかった。GUS活性とGUS遺伝子コピー数との関係を調べたところ、35S-GUS/コントロールTACベクターを用いた場合、GUS遺伝子が2コピー以上で低い(5、000 pmol 4-MU min-1 mg-1 protein以下)GUS活性を示す個体が出現し、4コピー以上では2個体を除いた残りすべての個体が低いGUS活性を示し、それら個体の割合は59%(図7)であった。一方、35S-GUS/改良TACベクターを用いた場合、GUS遺伝子が3コピー以下の個体はすべてGUS活性を示し、4コピー以上になってはじめて低いGUS活性を示す個体が出現するが、それら個体の割合は低く35S-GUS/コントロールTACベクターの約1/3の19%であった(図7)。35S-GUS/コントロールTACベクターを用いた場合、GUS遺伝子1コピーあたりのGUS活性平均値はコピー数の増加に伴い減少し、4コピー以上でほぼ0となり、GUS活性とGUS遺伝子コピー数との間に相関は無かった(図8)。一方、35S-GUS/改良TACベクターを用いた場合、GUS遺伝子1コピーあたりのGUS活性平均値は1から3コピーの間はほぼ一定であり、4コピー以降低活性個体が少数出現するため低下するものの、6コピーまではほぼ一定の値を示し、GUS遺伝子コピー数に相関したGUS活性を示すことが明らかとなった(図8)。また、GUS遺伝子が1コピーである個体のGUS活性平均値および標準偏差は、35S-GUS/改良TACベクター、35S-GUS/コントロールTACベクターどちらを用いた場合もほぼ同程度であり、標準偏差も平均値の50%程度であることから、作出したGUS遺伝子導入シロイヌナズナにおいては、導入遺伝子発現に対する位置効果が大きくないことが示唆された(図8)。(2)35S-GUS/コントロールTACベクターを用い遺伝子導入されたシロイヌナズナのうち、GUS遺伝子が1コピーの個体では、GUS活性が5、000 pmol 4-MU min-1 mg-1 protein以下のジーンサイレンシングを起こしているものが存在しなかったものの、2、3コピーではそれぞれ36%の個体が、4コピーでは86%の個体がサイレンシングをおこしていた。一方、35S-GUS/改良TACベクターを用い遺伝子導入されたシロイヌナズナは、LB近接に位置するsacB遺伝子のコピー数がGUS遺伝子のコピー数より少ない、即ち、LB側の配列が欠失している導入遺伝子を持つ個体においても、GUS遺伝子が1-4コピーの範囲で、GUS活性が5000以下となるジーンサイレンシングを起こした個体は存在しなかった。 LB側が欠失した導入遺伝子を持つ35S-GUS/改良TACベクターを用い遺伝子導入された個体が、GUS遺伝子のLB側にベクター由来のシロイヌナズナゲノムDNAをどれだけ残して(付加して)いるか調べるため、GUS遺伝子が1コピー存在しsacB遺伝子が欠失している個体につきサザン解析を行った。5個体について解析を行った結果、GUS遺伝子のLB側に付加しているベクター由来のシロイヌナズナゲノムDNAを少なくとも11.4 kbの個体が1個体、16.6 kbが3個体、29.2 kbが1個体存在した。 GUS遺伝子が2コピー以上導入され、かつ、sacBの欠失が見られる個体においても同様にLB側領域の欠失が起こっていると推測されること、およびGUS遺伝子が複数コピー導入された個体でもジーンサイレンシングが見られないことを考えると、約10kbp以上の鎖長の付加でも導入遺伝子発現を安定化可能であると考えられる。[実施例4] 導入遺伝子の次世代への分離および発現 改良TACベクターを用いて遺伝子導入を行った遺伝子導入個体(T1)の自殖後代(T2)での導入遺伝子の分離およびその発現を調べた。35S-GUS/改良TACベクターによりGUS遺伝子が1コピー導入されたT1個体の自殖後代(T2)複数個体についてGUS遺伝子コピー数を調べたところ、1コピーの個体数:2コピーの個体数が約2:1であり、GUS遺伝子がメンデル則に従い遺伝していると考えられた。また、GUS活性およびGUSmRNA蓄積量についても調べた。 導入遺伝子mRNA蓄積量は定量リアルタイムRT-PCRにより定量を行い、内部標準となるシロイヌナズナACT8遺伝子(An、 Y.-Q.et al、 (1996) Plant J. 10、 107-121.)との比で表した。 シロイヌナズナ全RNAはRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN製)を用い調製し、RiboGreen RNA Quantitation Kit(Molecular Probes製)により定量した。逆転写反応はSuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen)を使用し、鋳型として1 μg全RNAを、プライマーとしてオリゴdTを用い、20 μl系で行った。定量PCRにはTaqManプローブを用いたリアルタイムPCRを採用した。プライマーとTaqManプローブはPrimer Express Version 1.0 (ABI社製)を用い設計し、至適濃度を決定した。リアルタイムPCRはABI PRISM 7700 Sequence Detection System (ABI社製)を使用し、1×TaqMan Universal PCR Master Mix(ABI社製)、至適濃度のプライマーとTaqManプローブ、全RNAとして10 ng相当の逆転写産物により構成される30 μlの反応液を、50℃、2 min(1サイクル)、95℃、10 min(1サイクル)、95℃、15 sec、60℃、1 min(40サイクル)の温度条件で反応させることにより行った。またACT8遺伝子及び導入遺伝子のリアルタイムPCR増幅領域を含むDNA断片を1つのプラスミド上に連結したプラスミド(図1)をPicoGreen dsDNA Quantitation Kitにより定量し、各遺伝子の標準曲線の作成に使用した。 その結果、GUS活性およびGUSmRNA蓄積量は、それぞれほぼコピー数に比例した値を示した(図9)。35S-GUS/コントロールTACベクターによりGUS遺伝子が1コピー導入されたT1個体の自殖後代(T2)でも同様の結果が得られた(図9)。これらの結果より、改良TACベクターを用いて遺伝子導入を行った個体は、次世代においても導入遺伝子を安定に発現することが明らかとなった。[実施例5] ジーンサイレンシングの原因の推定 本実験において複数のGUS遺伝子が導入されている個体においてジーンサイレンシングが生じている。ジーンサイレンシングは、転写時ジーンサイレンシング(translational gene silencing、 TGS)、転写後ジーンサイレンシング(posttranslational gene silencing、 PTGS)に大別され(Fagard、 M. and Vaucheret、 H. (2000) Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 51、 167-194.)、結果として前者はゲノムDNAのメチル化等による転写のブロックがおこり、後者は転写されたmRNAの分解がおこる。植物において、導入遺伝子のPTGSが起こった際に低分子2本鎖RNAがしばしば検出されることが知られている(Hamilton、 A. J. and Baulcombe、 D. C. (1999) Science 286、 950-952.)。そこで、本実験においてジーンサイレンシングが生じた個体の低分子GUS RNAの検出を試み、PTGSが起こっているかどうかを調べた。 低分子RNAの検出は、Hamilton ら(Hamilton、 A. J. and Baulcombe、 D. C. (1999) Science 286、 950-952.)、Metteら(Mette、 M. F.et al、 (2000) EMBO J. 19、 5194-5201.)の方法を参考に行った。全RNAの抽出はConcert Plant RNA Reagent(Invitrogen)を用い、説明書に従い行った。低分子RNAは全RNA中の高分子RNAを5%ポリエチレングリコール(分子量8000)、0.5 M塩化ナトリウム存在下で沈殿、除去することにより得た。低分子RNAは7 M尿素、0.5XTBEを含む15%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動することにより分離し、Hybond N+(Amersham)に転写後、UVクロスリンキングにより固定した。プレハイブリダイゼーションは125 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.2)、250 mM塩化ナトリウム、7% SDS、50%脱イオンホルムアミド中で42℃、30分間行った。GUSセンス配列RNAプローブは、MAXIscript In vitro Transcription Kit(Ambion)中のSP6 RNA polymarase、[α-32P]UTP(Amersham)を用い、約500塩基のGUS遺伝子配列を試験管内合成することにより作製した。プローブの平均鎖長を約50塩基にするために、アルカリ緩衝液(80 mM重炭酸ナトリウム、120mM炭酸ナトリウム)中で60℃、160分間処理し、酢酸ナトリウムで中和後すぐにプレハイブリダイゼーション液に加え42℃、16時間ハイブリダイゼーションを行った。2X SSC、0.2% SDS中で42℃、30分間の洗浄を2回繰り返し行った後、非特異的なバックグラウンドを消すために、RNase A処理 [20 mMトリス-塩酸(pH 7.5)、5 mM EDTA、60 mM塩化ナトリウム、10 μg/ml RNase A、37℃、1時間] を行った。 その結果、35S-GUS/改良TACベクターおよび35S-GUS/コントロールTACベクターを用いGUS遺伝子を導入したシロイヌナズナT2個体のうち、ジーンサイレンシングが起こっている個体由来のRNAから、GUSセンスRNAプローブに相補する20-25 ntのGUSアンチセンスRNAが検出され低分子2本鎖RNAの存在が示唆された(図10)。一方、ジーンサイレンシングが起こっていないT2個体では、GUSアンチセンスRNAが検出されなかった(図10)。これらの結果より、本実験において観察されるジーンサイレンシングはPTGSである可能性が示唆された。また、近接した位置関係に複数の遺伝子が導入されることが、遺伝子導入個体におけるPTGSの原因の一つであるという報告がある(Furner、 I. J.et al、 (1998) Genetics 149、 651-662.)。よって、本実験ではジーンサイレンシングが複数のGUS遺伝子が導入されている個体において生じていることから、改良TACベクターは導入遺伝子両端に長鎖DNA断片を付加することにより、導入遺伝子が近接した位置関係をとらないようになることにより、PTGSを回避し、導入遺伝子発現を安定化していると推測される。定量リアルタイムPCRおよび定量リアルタイムRT-PCRに用いた標準曲線作成用プラスミドの構造を示す図である。K8K14クローンの構造を示す図である。Sfi I認識配列近傍に位置する遺伝子のEST出現数およびSfi I認識配列との距離(鎖長)を示した。改良TACベクターの構築手順を示す図である。改良TACベクターおよびコントロールTACベクターの構造を示す図である。改良TACベクターの遺伝子発現安定化への効果の検定に用いた、GUS遺伝子発現カセットをクローニングサイトに挿入された改良TACベクターおよびコントロールTACベクターの構造を示す図である。GUS遺伝子導入シロイヌナズナT1個体のGUS遺伝子コピー数とその頻度分布を示すグラフである。■は35Sp-GUS/改良TACベクター、□は35Sp-GUS/コントロールTACベクターにより遺伝子導入された個体の各コピー数ごとの出現頻度を表す。GUS遺伝子導入シロイヌナズナT1個体のGUS遺伝子コピー数とGUS活性を示す図である。●は35Sp-GUS/改良TACベクター、▲は35Sp-GUS/コントロールTACベクターにより遺伝子導入された個体を表す。GUS遺伝子導入シロイヌナズナT1世代でのGUS遺伝子1コピーあたりのGUS活性平均値を示すグラフである。●は35Sp-GUS/改良TACベクター、▲は35Sp-GUS/コントロールTACベクターにより遺伝子導入された個体のコピー数ごとの値を表す。T1世代でGUS遺伝子を1コピー保持していたシロイヌナズナ個体のT2世代におけるGUS遺伝子コピー数とGUS活性およびGUS遺伝子転写産物の相対量を示す図である。上段にはT1(○)、T2(●)でのGUS遺伝子コピー数とGUS活性の関係を示し、下段にはT2(▲)でのGUS遺伝子コピー数とGUS遺伝子転写産物の相対量の関係を示す。上、下段ともに、左に35Sp-GUS/コントロールTACベクター、右に35Sp-GUS/改良TACベクターにより遺伝子導入された系統での結果を示している。GUS遺伝子のサイレンシングが起こっている個体のGUS低分子RNAの検出を示す写真および図である。グラフはGUS遺伝子導入シロイヌナズナのGUS遺伝子コピー数とGUS活性を表す。グラフの上段には35Sp-GUS/コントロールTACベクターにより遺伝子導入されたT1(▲)、T2(△)の結果を示しており、T1でGUS遺伝子が1コピーでありサイレンシングが起こっていない系統を左に、T1でGUS遺伝子が2コピーでありサイレンシングが起こっている系統を右に示した。グラフの下段には35Sp-GUS/改良TACベクターにより遺伝子導入されたT1(●)、T2(○)の結果を示しており、T1でGUS遺伝子が1コピーでありサイレンシングが起こっていない系統を左に、T1でGUS遺伝子が4コピーでありサイレンシングが起こっている系統を右に示した。写真は、GUSセンス鎖RNAプローブを用い、上記グラフの2-7の矢印で示した個体から抽出したRNAに関して低分子RNAが存在するか調べた結果である。レーン1はシロイヌナズナWsの野生型、レーン2-7は上記グラフの矢印で示した個体由来のRNAである。植物細胞へ導入された場合に、植物細胞の染色体内へ挿入されるDNA領域を含むベクターであって、該DNA領域が下記(a)および(b)を含むベクター。(a)植物細胞内で機能する発現調節領域の下流に任意の遺伝子が機能的に結合されたDNA(b)(a)のDNAの両端にそれぞれ結合された、少なくとも5kbpのDNA植物細胞へ導入された場合に、植物細胞の染色体内へ挿入されるDNA領域を含むベクターであって、該DNA領域が下記(a)および(b)を含むベクター。(a)植物細胞内で機能する発現調節領域の下流に任意の遺伝子のクローニング部位が機能的に結合されたDNA(b)(a)のDNAの両端にそれぞれ結合された、少なくとも5kbpのDNA請求項1または2に記載のベクターが導入された宿主細胞。請求項1に記載のベクターが導入された植物細胞。請求項4に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。請求項5に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。請求項5または6に記載の形質転換植物体の繁殖材料。植物体において任意の遺伝子を発現させる方法であって、下記(a)および(b)の工程を含む方法。(a)請求項1に記載のベクターを植物細胞に導入する工程(b)ベクターが導入された植物細胞から植物体を再生させる工程植物体において任意の遺伝子を発現させる方法であって、下記(a)から(c)の工程を含む方法。(a)請求項2に記載のベクターに任意の遺伝子を挿入する工程(b)任意の遺伝子が挿入されたベクターを植物細胞に導入する工程(c)ベクターが導入された植物細胞から植物体を再生させる工程 【課題】植物体内で導入された遺伝子を安定に発現させることができる新規な構造を有するベクターおよびそれを利用して植物において任意の遺伝子を安定に発現させる方法を提供することを課題とする。【解決手段】 TACベクターを基礎に、その導入遺伝子の両端に長鎖DNA断片を付加した改良TACベクターを構築し、この長鎖DNAの付加の遺伝子発現に対する影響を検証した結果、長鎖DNAの付加が、植物の染色体内に導入される遺伝子のコピー数の低い値での安定化と、複数コピーの遺伝子が染色体内に導入された場合におけるジーンサイレンシングの影響の回避をもたらし、これにより植物体における導入遺伝子の発現を安定化させることができることを見出した。【選択図】なし配列表


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