タイトル: | 特許公報(B2)_血液細胞分離システム |
出願番号: | 2003551534 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 33/48,C12M 1/26,G01N 1/28,C12Q 1/68,G01N 1/10,C12N 5/06,G01N 1/30,G01N 33/49,G01N 33/50 |
由良 洋文 斎藤 芳夫 北川 道広 JP 4229237 特許公報(B2) 20081212 2003551534 20021209 血液細胞分離システム 株式会社ネーテック 596021735 内田 直人 100149294 奥原 康司 100137512 由良 洋文 斎藤 芳夫 北川 道広 JP 2001377055 20011211 20090225 G01N 33/48 20060101AFI20090205BHJP C12M 1/26 20060101ALI20090205BHJP G01N 1/28 20060101ALI20090205BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20090205BHJP G01N 1/10 20060101ALI20090205BHJP C12N 5/06 20060101ALI20090205BHJP G01N 1/30 20060101ALI20090205BHJP G01N 33/49 20060101ALI20090205BHJP G01N 33/50 20060101ALN20090205BHJP JPG01N33/48 CC12M1/26G01N1/28 FC12Q1/68 AG01N1/10 BG01N1/10 HG01N1/28 JG01N1/28 VC12N5/00 EG01N1/30G01N33/49 AG01N33/50 JG01N33/50 P G01N 33/48 C12M 1/26 C12N 5/06 C12Q 1/68 G01N 1/10 G01N 1/28 G01N 1/30 G01N 33/49 G01N 33/50 国際公開第00/058443(WO,A1) 特表2000−502892(JP,A) 特表平10−508695(JP,A) 馬場 哲郎 他,NK細胞の密度勾配遠心法による分離精製,厚生年金病院年報,1989年,第16巻,p.361-365 Vilagines, P., et al.,Optimization of the PEG reconcentration procedure for virus detection by cell culture or genomic amplification,Wat.Sci.Tech.,1997年,Vol.35, No.11-12,p.455-459 7 JP2002012839 20021209 WO2003050532 20030619 15 20051205 白形 由美子 発明の属する技術分野本発明は、レクチンを用いた血液細胞の分離システム、特に、妊婦の母体末梢血、臍帯血等に含まれる胎児の有核細胞である有核赤芽球を含有する試料から無核赤血球や成熟白血球を効率よく除去し、胎児由来の有核赤芽球を分離濃縮し、さらには、その染色体や遺伝子を検査するためのシステムに関する。従来の技術遺伝診断学の分野では、胚、すなわち胎児に危険を及ぼさない出生前診断法の開発が長年待ち望まれてきた。現在、臨床応用されている遺伝診断法は、羊水穿刺、絨毛採取、胎児採血といった侵襲的方法であり、特に羊水穿刺による胎児細胞の採取は、確定診断が可能であるものの、約1/300という高い確率での流産のリスクを伴う。また、母体末梢血中に存在するAFP(α−fetoprotein;胎児性血清タンパク質)、hCG(コリオゴナドトロピン(chorionic gonadotropin;絨毛性性腺刺激ホルモン)、uE3(uric Estriol 3;卵胞ホルモンで胎児−胎盤機能検査で使用される、妊娠時は胎児副腎から分泌される)、インヒビンA(性腺ホルモンの一種)などの母体血清生化学マーカー(Maternal Serum Biochemical Markers)の変動から胎児異常を予測する方法は、非侵襲的であるという点で優れているが、羊水穿刺の必要性を示唆するスクリーニング法であり確定診断とはなり得ない。一方、母児間血液型不適合の臨床研究から、胎児由来細胞が母体循環系に混入することが明らかとなった。よって、母体血中に混入した胎児細胞を単離することができ、かつ、それらが有核細胞であれば、安全で確定的な胎児診断として、そのDNAや染色体を利用することができる。1969年、Walknowskaらは、母体末梢血リンパ球の培養を行ったところ、男児妊娠30人中21人に46XYの核型を見いだしたと報告した。しかし、同じリンパ球の集団からY染色体を有するリンパ球を見いだすのは極めて困難な作業であり、それらを分離・濃縮するためにナイロンウールカラム法、比重遠心分離法などが試みられたが実用性を見いだすことはできなかった。また、過去の妊娠時から残留する胎児細胞などの存在も問題視され、目的とする新生胎児の検査を可能とする安全な確定的胎児診断の開発は進まなかった。近年、ライフサイクルが短く正常な母体には殆ど存在しない細胞である有核赤芽球が、母体血液中に存在する胎児有核細胞として注目され、診断対象の細胞としての可能性を調べる研究が活発化してきた。しかしながら、母体血中の存在比が有核細胞全体に対し1/105〜1/107と極めて低いので、リンパ球による胎児細胞診断と同様に、白血球等の母体有核細胞と胎児の有核赤芽球とを分離して多くの赤芽球を検出する点に技術上の困難性が存在する。これまでに、トランスフェリンレセプター抗体などを利用したフローサイトメトリーや磁気ビーズによる赤芽球分離が試みられたが、抗体の特異性などの問題によりY染色体を有する赤芽球を効率よく検出するには至っていない。これに対し、細胞分離を行わず、この赤芽球を形態学的に判別してマイクロマニピュレーションで1個ずつ拾い上げる採取方法があるが、圧倒的多数の母体有核細胞の中から赤芽球を識別するために技術的な習熟と極めて長い採取時間を要する。即ち、この方法には特殊な装置が必要で、例えば1検体を処理するために数日を要することとなる。現状では、1ccの母体末梢血からせいぜい約1個の赤芽球が検出される程度である。しかしながら、統計的に確定的な遺伝子・染色体検査を行うための汎用的かつ実用的な胎児検査法とするためには最低でも30個の胎児細胞が必要であるとされており、妊婦からの採血量が高々10ccであることに鑑みるとこの採取方法は現実的ではなく、回収率が高く簡便で迅速な赤芽球の分離・濃縮法が今も強く望まれている。本発明者らは、従来から糖鎖が有する特異的相互作用に着目し研究を行ってきており、種々の糖鎖を側鎖に有する糖鎖高分子をシャーレ等の基材表面に被覆することにより、その糖鎖に親和性を有するレクチンを選択的に固定化した細胞培養基材について特許を取得している(特許第3139957号)。さらにレクチンを利用した分離方法によれば、赤芽球以外に幼弱な造血細胞の分離濃縮が可能となり、特に胎児有核細胞の検出が10−30個程度まで可能になることを見出した(国際公開WO00/58443公報)。一方、赤芽球等の血液細胞の分離回収に際しては、まず始めに比重遠心法を用いた末梢血の前処理が一般的に行われているが、この比重遠心法による前処理の段階で赤芽球の損失が生じていることがわかった。例えば、有核赤芽球の比重は1.077〜1.095程度で変化し、一定比重の高比重液(フィコール等)を使用した場合に赤芽球がフィコール上層又はフィコール下層の赤血球層からも検出される場合があり、比重遠心法で単純に分離すると貴重な赤芽球を失うことにもなっていた。これは、胎児性ヘモグロビンを有し本来脱核しようとしている胎児赤芽球の比重が曖昧であるためと推測される。さらに、そのようにして分離精製した有核赤芽球の染色体異常等を知るためにはFISH(Fluorescence in situ Hybridization)法等による検査に供する必要があるが、当該検査に適した標本試料を作製する工程において克服しなければならない実用上の問題も生じていた。よって本発明は、上記の諸問題を悉く解消すべく、レクチンを利用した有核赤芽球(NRBC)の精密な分離回収を基本とし、臨床的に実用に供しうる新たな血液細胞分離システムを構築することを意図してなされたものである。即ち本発明は、制限された量の母体血液試料中の希少な胎児由来の有核細胞を母体由来の細胞からレクチンを利用して精密に分離するに当たり、その前処理工程における赤芽球損失を極力抑制し、対象とする胎児の幼若細胞やNRBCを選択的かつ高収率で分離、濃縮及び回収するシステムを提供すること、並びにそのシステムを利用して分離回収した胎児細胞を含む検査標本の製造方法を提供することを目的とする。発明の概要本発明の血液分離システムは、(1)妊婦から採取した血液試料から、主に無核赤血球、白血球及び血小板を除去して一次(粗)分離試料を得る一次(粗)分離手段を備え、当該一次分離手段は母体血液試料に含まれる種々の血液細胞の内、胎児有核細胞を極力損失しない条件で、主に有核細胞である白血球と無核赤血球及び血小板等の細胞を分離・除去し、(2)前記一次分離手段で得られた一次分離試料から、残存する白血球を優先的に除去し、胎児有核細胞を濃縮した二次(精密)分離試料を得る二次(精密)分離手段を具備し、当該二次分離手段は、前記一次分離試料を、表面に糖鎖高分子を固定化した基板上で、細胞を不活性化する条件下において所定濃度のレクチンと共にインキュベートすることにより、前記一次分離試料に含まれる胎児有核細胞を、前記レクチンと選択的に結合させ、レクチン−糖鎖の相互作用によって前記基板上に濃縮固定化して二次分離試料とし、及び(3)前記二次分離手段から得た二次分離試料を標本化する標本化手段を具備し、当該標本化手段は、前記胎児有核細胞を濃縮固定化した基板を所定の条件で遠心処理し、母体血由来の胎児有核細胞が基板上に、FISH等の遺伝子/染色体検査にとって有利な状態で、かつ、確定的な診断が可能なレベルの数で存在する検査標本を提供する。本発明の血液分離システムは、上記標本化手段から得られた検査標本を使用して当該標本に含まれる胎児有核細胞の染色体及び/又は遺伝子を検査する検査手段を更に具備するのが好ましい。さらに本発明は、上記の血液細胞分離システムを用いた胎児の出生前診断用検査標本の製造方法並びに当該製造方法で製造され、胎児の未成熟細胞がFISH等の遺伝子/染色体検査にとって有利な状態で、確定的な診断が可能なレベルの数で存在する検査標本も提供する。好ましい実施態様の説明以下、本発明について詳細に説明する。まず本発明のシステム及び方法に使用される血液試料は妊婦から採取される。採血手段としては、シリンジ、真空採血管、又は血液バッグ等を含む通常使用されている採血器具が用いられる。採取される血液は、静脈血、臍帯血、胎盤の絨毛間血液、骨髄液等を含む如何なる血液でもよいが、母体への侵襲を可能な限り少なくするという観点から末梢静脈血が好ましい。採血量は特に制限は無いが、やはり母体への侵襲の問題から一般的には1〜10ml程度とする。採取した血液試料は、凝固を防止するためにEDTA、ヘパリン、CPD/ACD等を添加しておくのが好ましい。なお、良好な結果を得るためには、血液試料は、好ましくは採血後24時間以内、より好ましくは採血後6時間以内のものを使用する。本発明の血液細胞分離システムは、上記の血液試料中の除去対象の細胞分画である、大部分の無核赤血球と母体白血球を主に除去する一次分離手段を具備する。具体的には、この一次分離手段としては、特定の比重を有する液体を用いた比重遠心分離手段あるいはフィルター分離手段が好ましく用いられる。本発明の血液細胞分離システムを構成する一次分離手段の第1の態様は比重遠心分離手段であり、ここでは、ショ糖及び修飾ショ糖、グリセロールあるいはポリビニルピロリドンの被膜をもつコロイド状シリカ等の既存の比重調整剤を用いて所定の比重に規定した比重液、例えばファルマシア(Pharmacia)社製のフィコール・パック(Ficoll−Paque)、フィコール・ハイパック(Ficoll−Hypaque)、パーコール(percall)、アスカ・シグマ社製のヒストパック等が用いられる。全血からの血液成分分離に従来から一般的に使用されている比重液は、比重1.077に設定されている(フィコール・パック、ヒストパック1077等)。この場合、遠心処理した後に、比重の高い顆粒球及び赤血球が比重液の下層に、白血球等のリンパ球及び単球が比重液の上層に分離される。しかしながら、本発明者等は、この比重1.077の比重液を使用した場合、遠心後にNRBC等の胎児有核細胞の一部が比重液中に分散し、従来のように単核球を含む層のみを採用するのでは希少な胎児有核細胞がかなり損失されることを見出した。よって、本発明の分離システムでは、一次分離手段として、好ましくは1.077より高い比重を持つ比重液を使用することとし、それにより胎児有核細胞の損失を抑制することができる。後述の実施例で示すように、比重液の比重を高くするのに伴い胎児有核細胞の回収率は向上するが、それと同時に不要な白血球の混入も増加する。しかしながら本発明では、次に述べる任意のパンニング手段、さらに糖鎖−レクチン相互作用を利用した二次分離手段を備えているため、混入した白血球を分離除去して、より多くの胎児有核細胞を回収することができる。従って、本発明の比重遠心手段は、遠心チューブ、当該遠心チューブに入れられる比重1.077〜1.105、より好ましくは1.080〜1.095、更に好ましくは1.090〜1.095g/cm3の比重液、並びに遠心分離装置を備えている。前記比重液を入れた遠心チューブに妊婦から採取した血液試料を添加して、遠心分離装置で好ましくは500〜2000rpm(50〜800G)の回転数で20〜40分間遠心処理することにより、比重液の上層に多数の胎児有核細胞を含む画分として一次分離試料を得ることができる。本発明における一次分離手段は、場合によっては、混入した白血球等をさらに除去するパンニング手段を具備していてもよい。このパンニング手段は、例えばウシ胎児血清(FCS)で表面処理されたポリスチレンディッシュ等のプレート等を備え、当該プレートに対する非特異接着を利用して単球、顆粒球等の白血球成分を分離・除去するものである。パンニングの具体的手法は当該分野で従来から用いられているものでよく、例えば、ディッシュ上に試料を添加し、所定時間インキュベートした後にプレートに接着されない細胞を懸濁液として回収すればよい。ディッシュはディスポーザブルタイプのプラスティック製が好ましく、例えば、ヌンク社、ファルコン社、岩城製薬社、又は住友ベークライト社製のポリスチレンディッシュ等の市販プラスティックプレート製品を含む如何なるものでも使用することができる。このプレートにFCSを添加し、例えば4℃下、2時間程度放置し表面をFCS中のタンパク質で被覆する。このことによって、疎水的なプラスティック表面が親水的になるが、FCS中のタンパク質成分が変成する37℃以上や凍結温度などを使用しなければ、いかなる条件を用いてもかまわない。この他、被覆剤として糖質を用いることも有効で、特にプラスティック表面へのコーティングが容易なPV−Sugar類(ネーテック社製、販売元:生化学工業)が好適に用いられる。コーティングには、PV−Sugar粉体を蒸留水に溶かした10μg/ml〜1000μg/ml程度の溶液、より好ましくは50μg/ml〜500μg/ml程度の溶液が用いられ得る。このPV−Sugar溶液をディッシュに添加し、室温で30分以上放置することで、PV−Sugarが吸着してディッシュ表面が親水化する。PV−Sugarを構成する糖質としては、グルコース系として、PV−G(グルコース)、PV−MA(マルトース)、PV−GA(グルコン酸)、PV−CA(セロビオース)、PV−Lam(ラミナリビオース)、ガラクトース系としてPV−LA(ラクトース)、PV−LACOOH(カルボキシル化ラクトース)、PV−MeA(メリビオース)、その他、PV−Man(マンノビオース)、PV−GlcNAc(N−アセチルキトビオース)などが好適に用いられるが、効率よくディッシュ表面を被覆することができる糖質であれば、天然の多糖類などいかなるものであってもかまわない。これらはポリスチレンディッシュに対するコーティングが容易で、胎児細胞の損失やダメージが少ないことから好適に使用される。特に、糖鎖含有高分子材料を構成する糖質が、グルコン酸(PV−GA)、メリビオース(PV−MeA)やマンノース(PV−Man)であるものが、胎児細胞の損失が抑制され高い白血球の吸着除去が実現されるという点で有利である。被覆剤としてのPV−SugarはFCSと同等以上の分離性能を持つ合成高分子であると共に、FCSに比べ安定なロットが入手しやすく、保存が容易であるなどの点でも好ましい。この親水化されたディッシュに比重遠心後の一次分離試料を添加し、5分以上放置することによって白血球成分を優先的にディッシュ表面に付着させることができるが、好ましくは15分から2時間程度放置することで好適な白血球付着除去を達成することができる。放置する場合、一次分離試料に含まれる細胞が死滅しない如何なる温度も使用することができるが、白血球の能動的な付着を誘導しやすい18℃〜37℃が好適に用いられ得る。なお、パンニングに使用されるのはプラスティックプレートに限られず、ガラスプレート等を上述のようにFCS又はPV−Sugar等で被覆して使用することもできる。概して、妊婦検体によっては比重遠心分離後の血液試料に多量の血小板が混入する場合があり、このような多量の血小板は、後述の二次分離において多量のレクチンを結合させ、赤芽球の分離精度に影響する可能性がある。しかしながら、パンニングは、このように血液試料の調製過程で混入する血小板も効率よく吸着・除去することができる。即ち、パンニングは余剰の顆粒球・単球及び血小板のプレ除去に有効であることから、より高い精度の赤芽球分離に寄与する手段であるといえる。このパンニング手段により、上記の比重遠心手段で得られた一次分離試料から、接着性が極めて高く比重や粒径が極端に小さい血小板も自動的に検出限界以下に除去され、一部の無核赤血球とリンパ球等の白血球が僅かに残存する胎児有核細胞リッチな試料とすることができ、これを本発明の分離システムにおける一次分離試料としてもよい。本発明の血液細胞分離システムを構成する一次分離手段の第2の態様はフィルター分離手段である。このフィルター分離手段は、一般の血液成分分離に使用される所定の孔径を持つ多孔性フィルターを備え、当該フィルターに血液試料を通すことにより、通常は、変形能を有する無核赤血球成分は孔を通過して除去され、白血球成分及び胎児有核細胞である赤芽球を含む成分はフィルター素材内部あるいは上部に滞留されるものである。ここで、フィルター内に滞留した成分を洗浄液等によって回収することにより、胎児有核細胞及び白血球などを含む一次分離試料が得られる。ここで使用されるフィルターは、無核赤血球成分(平均粒径;7〜8.5μm)は通すが、白血球(平均粒径7〜30μm)及び胎児有核細胞(平均粒径;8〜19μm)は物理的又は化学的に捕捉して通過させないものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、回収対象である有核赤芽球のグループの中でも最も可能性が高い約8μmの最小粒径を持つ正染性赤芽球が捕捉され、変形能によって無核赤血球が通過できる範囲の孔径を持つものであれば、フィルターを構成する繊維の径や集積様式によって制御された不織布、高分子を延伸することによって孔径を制御された多孔膜、ビーズ又はスポンジ状材料等を含む如何なるものも使用されうる。フィルターの素材は特に限定されず、フッ素系ポリマー類、ポリスルホン系、ポリエステル系、ポリビニルアセタール系、ポリビニルアルコール系、ポリアミド系、ポリイミド、ポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリスチレン系、ポリケトン系、シリコーン系、ポリ乳酸系、セルロース系、キトサン系、セルロース系、絹、麻などの合成又は天然高分子あるいはヒドロキシアパタイト、ガラス、アルミナ、チタニア、及びステンレス、チタンアルミニウム等の金属といった無機材料で、白血球の滞留性を保持させるため白血球に対する接着性がある程度維持されているものであればよい。特に、ナイロン等のポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、セルロース、ヒドロキシアパタイトなどがコスト及び製造面の点で好ましい。フィルターの孔径は、好ましくは1.0〜40μm、より好ましくは2.0〜20μm、さらに好ましくは3.0〜10μm程度であり、フィルターが繊維で構成される場合の繊維径は1.0〜30μm、より好ましくは1.0〜20さらに好ましくは1.5〜10μm程度とする。また、フィルターを構成する上記の素材は、その表面を修飾したものでもよく、無核赤血球の通過性を阻害せず白血球の滞留性を向上させたものが好適に使用できる。フィルター内に滞留した胎児有核細胞及び白血球は、フィルターを洗浄することにより回収することができる。例えば、胎児有核細胞である未成熟な有核赤芽球は白血球成分より脱着されやすい傾向を有するため、例えばフィルターに血液試料濾過時と逆方向から洗浄液を通液することにより、目的とする胎児有核細胞を優先的に回収することができる。ここで使用される洗浄液としては、胎児有核細胞を脱着できれば生理的緩衝液類、輸液などを含む生理食塩水類、培地類などの何れを用いてもよい。従って、本発明の分離システムにおけるフィルター分離手段は、上記のフィルター及び洗浄液に加えて、フィルターから流出した無核赤血球成分を貯蔵する液溜め、フィルターに洗浄液を供給するシリンジやポンプ等の給液手段などを備えていてもよい。このようにして得られた胎児有核細胞を含む試料を本発明における一次分離試料とする。なお、フィルター分離された一次分離試料に対して上述のパンニング処理を施して白血球数を更に減少させ、それを一次分離試料としてもよい。本発明の血液細胞分離システムでは、上記のようにして得られた一次分離試料から残存する無核赤血球及び白血球を除去し、胎児有核細胞を濃縮した二次分離試料を得る二次分離手段を具備する。この二次分離手段では、前記一次分離試料を、表面に糖鎖高分子を固定化した基板上で、細胞を不活性化する条件下において所定濃度のレクチンと共にインキュベートすることにより、前記一次分離試料に含まれる胎児有核細胞を、前記レクチンと選択的に結合させ、レクチン−糖鎖の相互作用によって前記基板上に濃縮固定化する方法(以下「糖鎖−レクチン法」と称する)が実施される。糖鎖−レクチン法の詳細については、国際公開WO00/58443号公報に記載されている。ここで使用される糖鎖高分子としては、ポリスチレン等の疎水性高分子主鎖に糖鎖の構造を導入したものが用いられ、例えば、国際公開WO00/58443号公報に記載されているPVLA、PVMA、PVMan、PVMeA、PVLACOOH、PVG、PVGlcNac、PVLam等が特に好ましい。中でも、使用するレクチンに認識される糖鎖構造を有するものを選択するのが好ましい。これらの糖鎖高分子で表面修飾された基板上において、前記一次分離試料とレクチンとを、細胞を不活性化する条件下においてインキュベーションして胎児有核細胞−レクチンの複合体を形成し、当該複合体を糖鎖−レクチンの相互作用によって基板上に濃縮固定化する。使用されるレクチンとしては、好ましくは胎児有核細胞が表現している糖鎖を認識するもの、例えば、SBA、PNA、ECL、AlloA、VAA等のガラクトース認識性レクチン、Con A、LcH、PSA等のグルコース認識性レクチン、LCA、GNA、CPA等のマンノース認識性レクチンが挙げられるが、これらに限られるものではない。ここで、レクチンの添加量を調節することにより、胎児有核細胞を優先的に固定化し、混入した母体由来の白血球は固定化しないという選択的な精密分離が可能となる。具体的には、プラスティック基板を用いた場合、細胞2x106個程度を含む一次分離試料に対するレクチンの添加量は、好ましくは8〜35μg、より好ましくは8〜32μg、さらに好ましくは10〜30μg程度とする。また、ガラス基板を用いた場合は、細胞2x106個程度を含む一次分離試料に対するレクチンの添加量は、好ましくは10〜200μg、より好ましくは20〜100μg、さらに好ましくは30〜75μgとする。このように、採用する基板の素材やレクチンの種類に応じて、使用されるレクチン濃度の至適範囲は若干変化するが、そのような至適濃度は当業者が過度の実験をすることなく適宜選択しうるものである。ちなみに、母体血からレクチン(SBA)を使用して糖鎖高分子(PV−LA)被覆した基板上に血液細胞を固定化するに当たり、300μg/mlのレクチンを使用した場合には、図2の顕微鏡写真に示されるように、母体血に含まれる白血球など(濃く染色された細胞)が多数混入しているが、8μg/mlのレクチンを使用した場合には、図3及び図4の顕微鏡写真に示されるように、白血球などの不要細胞は殆ど存在せず、赤血球細胞のみが選択的に固定化された。なお、レクチンと細胞とのインキュベーションは、細胞を不活性化する条件下において実施され、この条件下で上記の選択性が得られるのである。「細胞を不活性化する条件」とは、細胞膜の流動性及び自発的粘着力を低下させる条件を意味し、典型的には、温度を0℃以上〜37℃未満、好ましくは0〜36℃、より好ましくは4〜30℃、さらに好ましくは4〜22℃に調節することによって達成される。しかし、この条件は、前記低温調節に限られるものではなく、例えば、37℃においてアジ化ナトリウムなどの細胞呼吸を停止させる試薬を添加させることによっても達成できる。また、このインキュベーション時間は特に限定されず、少なくとも細胞とレクチンとが細胞−レクチン複合体を形成すれば良いが、典型的には0〜120分間、好ましくは0〜90分、さらに好ましくは0〜60分とする。ただし、「0分」とは、一次分離試料とレクチンとを混合した直後に次の工程に移行することを意味する。この二次分離では、インキュベーションの後に基板に対する付着細胞(一部の無核赤血球を含み得る胎児有核細胞)が、非付着細胞(白血球など)を細胞浮遊液として廃棄することにより分離される。従って、本発明における二次分離手段は、糖鎖高分子で表面修飾された基板及びレクチン並びに冷却装置やアジ化ナトリウムといった試薬を含む細胞を不活性化する手段とを備え、その結果、基板上に胎児有核細胞が高密度で固定化され、白血球等の不要成分が有効に除去された二次分離試料が得られる。本発明の血液細胞分離システムでは、前記二次分離試料を下記の標本化手段によって標本化した後に、最終的にFISH法等を用いた遺伝子/染色体検査に供される。従って、前記二次分離手段における基板をFISH法等で使用されるスライドプレートとすれば、1枚の基板を使用して二次分離から検査までの工程を実施することができ実用的である。よって、ここで用いられるスライドプレートとしては、顕微鏡による検査に供する場合は、顕微鏡観察を損なわない程度の透過度を有する、フラスコ、ディッシュ、キュベット、フィルム状のものを用いることができるが、顕微鏡などに関して汎用性を考慮すると、レクチンを用いた二次分離を実施する時はカバーシェルが装着されていて、二次分離後はカバーシェルを脱着し付着した胎児有核細胞を乾燥・固定化し、直接FISH処理を容易にするチャンバースライドが特に好適に使用されうる。チャンバースライドのスライド部分は、例えばポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリウレタン、ビニル系共重合体等の有機材料、並びに石英を含むガラス類といった無機材料を含み、前記糖鎖−レクチン法で使用される糖鎖含有高分子がコーティングされ得る如何なる顕微鏡観察が可能な素材も使用することができる。また、FISH処理に供する場合には、スライド上に固着した細胞を裸核するために高温で有機溶媒処理を施すので、変形しにくいガラス素材がより好適に用いられ得る。本発明の血液細胞分離システムにおける二次分離以降で使用される基板の一例を図5に示した。図5に示した基板は、底面をなすスライド部分(1)と、当該スライド部分に垂直に立てられた側板(2)とからチャンバーが構成されている。チャンバー底面には、二次分離で使用される糖鎖高分子の層(10)が設けられている。チャンバーの開口部は、蓋(3)により閉塞できるようにされている。本発明の血液細胞分離システムは、前記二次分離試料を所定の条件で遠心処理して標本化する標本化手段を具備する。一般に、染色体解析等のための細胞標本をスライドガラス上に作製する際には、細胞懸濁液をピペッティングし、スライド上に滴下して風乾させる、細胞を含む試料をスライド上に擦りつけて乾燥させ塗抹標本とするといった手法が用いられている(例えば、特開平7−27682号公報参照)。しかし本発明者らは、前記二次分離試料からスライド上に検査に適した良好な形状で細胞を固着させるためには特殊な遠心処理条件を採用することが必要であることを初めて見出した。よって、本発明の標本化手段は、前記二次分離試料を遠心処理する遠心処理装置を備え、前記二次分離試料を、その基板のまま所定条件で遠心処理する。この条件は、使用する基板(スライド)の材質によって異なる。基板がプラスティック製チャンバースライドの場合、細胞浮遊液を廃棄した後にカバーシェルを脱着するが、スライド表面がすぐに乾燥しないようタンパク質を豊富に含む生理的濃度に近いアルブミンを含む生理的緩衝液やFCSで洗浄してから遠心することが好ましい。さらに蒸留水で好ましくは1/2、より好ましくは3/5に希釈されたFCSは、固着細胞をプレート上でより大きく広げ、顕微鏡上での視認を容易にするので特に好適に使用されうる。この希釈範囲は、細胞を分解しない程度のものであれば、如何なる範囲も使用され得る。遠心力は、100〜1500Gが細胞をプレート上に圧着するのに好適で、より好ましくは400〜700Gが遠心時間を短縮する上で有効である。遠心時間は遠心力によって変化するが一般的には1〜15分間程度とする。遠心処理を施さないで直接風乾させると、細胞が萎縮して美しい細胞像が得られないことが多い。一方、ガラス製のチャンバースライドを用いる場合は、上記遠心操作に際し、穏やかな遠心力での一次遠心と、それと同等以上の強い遠心力での二次遠心という2段階の遠心処理を施すのが好ましい。また、カバーシェルを脱着させる前に好ましくは1/2、より好ましくは3/5希釈FCSで非付着細胞を含む細胞懸濁液を置換し、そのまま一次遠心処理を施すのが好ましい。この一次遠心は10〜300G、好ましくは10〜150G程度の緩やかな遠心が好適であり、より好ましくは10〜50Gとすることで付着細胞が脱着したり圧着の際に細胞が変形することを更に抑制できる。次いで、カバーシェルを脱着して二次遠心処理を施すと、検査により適した固着細胞像を得ることができる。二次遠心としては25〜300G、好ましくは30〜200G、より好ましくは35〜130Gの遠心力とすることにより、変形のない固着細胞像が得られる再現性が更に向上する。以上のように、スライド基板の材質によって異なる特定の条件に従って遠心処理することにより、胎児有核細胞が良好な形態で固定化されたスライド基板からなる検査標本が得られる。本発明の血液細胞分離システムは、上記のように基板(スライド)上に胎児有核細胞が濃縮固定された検査標本を使用して固定化された胎児有核細胞の染色体及び/又は遺伝子を検査する検査手段を更に具備していてもよい。当該検査手段は、例えばFISH法で核内染色体を直接蛍光ラベルして顕微鏡観察する手段であってよく、選択するプローブの種類によって異数性(aneuploidy)、同腕染色体(isochromosome)、転座(translocation)、欠失(deletion)、及び相互転座(reciprocal translocation)等の染色体異常を検出することができる。あるいは、固着した細胞を顕微鏡下ではがし取るマイクロマニピュレーションやレーザーダイセクションによって回収して遺伝子増幅するPCR法を実施する手段であってもよい。増幅された遺伝子は、さらに遺伝子チップ上でスクリーニングすることもでき、本発明のシステムは、多彩な染色体/遺伝子診断法に適応することができるものである。以上のように、本発明の血液細胞分離システムを用いれば、比重や抗体による表面マーカー識別等によって分離・濃縮することが困難であった希少な母体血中の胎児有核細胞を、特定条件での比重遠心分離又はフィルター分離による一次分離と特定条件下でのレクチンの糖鎖識別に基づく二次分離とを組み合わせることによって、高精度かつ高密度に分離・濃縮するものである。特に、本発明によれば、当該希少な胎児有核細胞が、その核内の染色体や遺伝子の検査に供するのに使用できる基板上に直接接着・分離・濃縮され、かつ、基板上に固着された細胞が、遺伝子/染色体検査に適応できる良好な細胞形態を維持している。よって本発明は、上記のシステムを利用することによる種々の染色体及び/又は遺伝子診断用の検査に直接供しうる胎児有核細胞の検査標本の製造方法及び当該方法で製造された検査標本も提供するものである。なお、本発明のシステムを使用する方法は、試料中に含まれる希少な細胞から多量に含まれる不要な細胞成分を除去する一次分離工程と、粗分離した一次分離試料から不要な細胞成分を更に除去して目的とする希少細胞を分離・濃縮する二次分離工程とを具備することを特徴としており、例えば、上述した糖鎖−レクチン法による二次分離を、例えば希少細胞に特異的な抗体等を使用した分離法に置換したとしても、そのような分離方法及びシステムは本発明の範囲内にある。さらに、対象とする希少細胞は、分離・濃縮後の染色体/遺伝子検査でそれらの状態や異常を診断できる母体血液に混入する胎児有核細胞(胎児有核赤芽球)の他、寛解後に残存する白血病細胞、臍帯血中の未成熟な細胞等でもよく、本発明で提供される一次細胞分離システムや二次分離システムで用いられるレクチン又は抗体などの選択によってスライド基板上に濃縮できるいかなる細胞であってもよい。本明細書において使用する「胎児有核細胞」という用語は、これらの対象とする希少細胞を全て包含するものとする。実施例以下に、本発明の血液細胞分離システムについて、一次分離、糖鎖−レクチン法を用いた二次分離、さらには、細胞形態を良好に維持する標本化における条件設定等を中心にして具体的に説明する。実施例1:比重遠心法による一次分離比重遠心分離試薬としてヒストパック(Histopaque)(シグマ社)を購入し、ジアトリゾ酸ナトリウムを加え、比重を1.077〜1.105に調整した6種類の比重液を作製した。妊娠10〜20週の妊婦から静脈血7ccを採取し、各比重液上で30分遠心処理(20℃、1500rpm)した。比重液と血漿成分(上層)との界面付近に集積された細胞を回収し、生理的緩衝液で遠心洗浄し、大部分の無核赤血球と血小板が除去された一次分離試料を得た。各比重条件で一次分離をされた試料に、糖鎖−レクチン法により二次分離を施した。基板としてプラスティック製チャンバースライド(2ウェル、ナルジェヌンク社製)を用いた。基板にコーティングする糖鎖高分子はPVMeAとし、細胞約2x106個に対して12μgのレクチン(SBA)を添加し、18℃で30分間インキュベートした。固定化されなかった細胞を懸濁液として廃棄し、チャンバースライドに固定された細胞を乾燥させ、パッペンハイム染色を行った。染色された細胞を顕微鏡下で観察し、スライドに分離・固定された正染性赤芽球(胎児有核細胞)をカウントした。その結果を、表1に示す。表1に示されるように、比重液(ヒストパック)の比重を増加させることにより、糖鎖−レクチン法による二次分離の後で検出される赤芽球数が明らかに増加した。このことから、従来の1.077の比重を持つ比重液を用いた比重遠心法による血液細胞の従来の分離方法では、比重の高い赤芽球を損失していたことが明らかになった。一方、比重が1.095を越えると、正染性赤芽球の数は増加するが、混入する白血球数の著しい増加も観察され、その結果糖鎖−レクチン法による二次分離の効率を低下させて顕微鏡による赤芽球検出が妨げられる場合があった。実施例2:パンニングによる付加的分離プラスティックス製チャンバースライド(4ウェル、ナルジェヌンク社製)をFCSあるいは0.01wt%糖鎖高分子(PV−Sugar)(ネーテック社製)水溶液で処理した。糖鎖高分子は、グルコース、マルトース、グルコン酸、N−アセチルグルコサミン、マンノース、ラクトース、又はメリビオースの構造を有するものを用いた。出産後回収した臍帯血に、ヒストパック(d;1.095)を用いて定法に従う比重遠心分離を行い、ヒストパックと血漿の界面付近に集積された細胞を採取した。当該試料を、10wt%FCSを添加したRPMI1640に再浮遊させ、表面をFCSあるいは糖鎖高分子でコートした上記ウェルに播種した。37℃で30分間インキュベーションし、非付着細胞を細胞浮遊液として回収し、ウェル上に付着した細胞を前記パッペンハイム染色してその種類を同定した。その結果を表2に示す。表2は、各種コーティングを施したウェル表面に付着した赤血球分画(赤芽球を含む)と白血球分画の比率と、播種した細胞全体の接着率を表す。表2に示したごとく、プラスティック表面を血清タンパク質(FCS)や糖鎖高分子でコートしたウェルによるパンニングでは、接着する血球のほとんどの細胞が白血球であることは明らかである。赤血球分画の付着は、マルトース、グルコン酸、FCS、マンノース処理ウェルで抑制されており、白血球の除去性を示す総接着率では、グルコン酸、グルコサミン、マンノースが優れていた。この際、1ないしは2個程度の付着赤芽球を観察した一部のグルコース系素材を除き、付着した赤血球分画の中に赤芽球は含まれていなかった。次いで、赤血球分画の損失が少なく適度に白血球を除去する処理剤としてFCSを選択し、母体血の処理効果を調べた。比重1.095の比重液を用いた比重遠心で得られた一次分離試料を2つに分割し、一方には上記の条件でパンニングを施し、他方は何も処理せずに、実施例1と同条件の糖鎖−レクチン法による二次分離を施した。結果を表3に示す。表3におけるスライド1視野当たりの赤血球/白血球比は二次分離における白血球の除去率を、また、スライド上で検出された赤芽球数は二次分離における赤芽球の回収効率を示す。具体的には、顕微鏡下で付着細胞を計数した結果を、パンニングしない場合とパンニングした場合の相対比(倍数)として示した。表3から、パンニングによって糖鎖−レクチン法における赤芽球の選択的分離・濃縮効果が向上することは明らかである。これは、パンニングによって余剰の白血球が除かれることにより、レクチンを介して付着すべき細胞(赤芽球)が効率よくレクチンと相互作用できて接着ミスが減少したこと、及び顕微鏡観察上、赤芽球以外の有核細胞が減少することによって赤芽球のミスカウントが減少したことの相乗効果によると推察される。表3の結果は、表1の比重1.095の場合との比較においても、パンニングを行うことで顕微鏡観察を妨げる白血球の混入を抑制しながら比重1.105の場合(パンニング無し)以上の赤芽球検出を可能にしたことを示している。また、母体血では、パンニングによる赤芽球の損失は殆ど皆無であった。実施例3:フィルター分離による一次分離実施例1の比重遠心法に代えて、平均孔径約8μmのポリエステル不織布を備えたフィルターを用いて粗分離を行った。採血された母体血を1wt%BSAを含む生理的緩衝液で希釈し、自然落下でフィルターを通した。次いで、緩衝液のみを同様にフィルターを通してフィルター内の残存赤血球をリンスした。この後、シリンジポンプで緩衝液を逆流させ、フィルターを通過しない非接着細胞を回収した。このフィルターを通過しないがフィルター内に強固に接着していない細胞分画を一次分離試料とし、糖鎖−レクチン法による二次分離を実施した。表4は、上記フィルターから得られた一次分離試料での結果を、FCSパンニングによって回収された細胞分画を糖鎖−レクチン法で二次分離をした場合の結果に対する相対比(倍数)で示す。表4によれば、スライド1視野当たりの赤血球/白血球比(二次分離における白血球の除去率)、及びスライド上で検出された赤芽球数(二次分離における赤芽球の回収効率)ともに向上しており、フィルター処理によって糖鎖−レクチン法での赤芽球の選択的分離・濃縮効率が向上したことが明らかである。フィルターによる一次分離は、変形能を有する無核赤血球がフィルターによって濾過され、フィルターを通過もトラップもされない細胞がフィルターの洗浄によって回収されたことに基づくものと推察される。結果的に、フィルター法は比重遠心法よりも一次分離法として赤芽球の損失が更に抑制されることが示された。赤血球/白血球選択性は若干向上する程度に止まったが、これは、フィルター内に残留した無核赤血球が洗浄によって回収されたことによるものであった。実施例4:標本化における遠心処理FISH処理に有利なガラス製チャンバースライド(ナルジェヌンク製)を用い、糖鎖−レクチン法による二次分離を行った。それに先立つ一次分離条件は以下を採用した(実施例2と同じ)。比重遠心法:d;1.095FCSパンニング糖鎖−レクチン法での二次分離後、非付着細胞を含む細胞浮遊液を廃棄し、FCSでチャンバー内を置換してカバーシェルを脱着し、スライドを遠心処理した場合(実験条件1及び2)、並びに非付着細胞を含む細胞浮遊液を廃棄しFCSでチャンバー内を置換し、そのまま一次遠心を行ってからカバーシェルを脱着してスライドを二次遠心処理した場合(実験条件3〜11)を比較した。FCSは原液(1/1)と蒸留水で1/2に希釈したものとを用い、二次遠心後スライドは常温で風乾された。スライド上の細胞はパッペンハイム染色され、それぞれの染色態度を比較した。表5に結果を示す。通常の塗末標本とは異なり、糖鎖−レクチン法での二次分離を施されたスライド上の細胞は、遠心処理による付着細胞の圧着が必要となるが、ガラススライドを基板とした場合では、FCS溶液下での低速による一次遠心が必要であった。カバーシェルを脱着した後の二次遠心でも、比較的低速の条件が良好な染色態度を維持した。加えて、置換液はタンパク濃度が高いFCSやBSA添加緩衝液が有効であるが、生理的条件以下の希釈FCSなどが付着細胞の膨潤を誘導し、より良好な染色態度を維持した。例えば、上記条件8、10及び11は、細胞の形態が良好であり、なおかつ細胞質及び核の構造が明瞭であったが、中でも3/5希釈のFCSを使用した条件11は、保存時間や個体差などの検体の状態による影響を最も受けにくい条件であった。なお、プラスティック製スライドを用いた場合では、上記条件1で十分良好な染色態度が得られた。発明の効果本発明の血液分離システムによれば、特に母体血に極めて少量しか含まれない胎児有核細胞である有核赤芽球などを基板上に選択的に分離、濃縮及び固定することができる。また、使用する基板を適切に選択することにより、二次分離工程から標本化工程までを通して一基板上で処理を実施し、染色体/遺伝子診断に適した検査標本を得ることができ、この検査標本はFISH法等の検査手段に直接適用することが可能である。よって、母体を侵襲することなく出生前診断において臨床的価値の高い胎児有核細胞の検査標本を簡便且つ低コストで製造することができる。【図面の簡単な説明】図1は、本発明の血液細胞分離システムを例示するブロック図である。図2は、母体血から300μg/mlのレクチン(SBA)を用いて糖鎖高分子被覆基板上に固定化された血液細胞を示す顕微鏡写真(200倍)である。図3は、母体血から8μg/mlのレクチン(SBA)を用いて糖鎖高分子被覆基板上に固定化された血液細胞を示す顕微鏡写真(200倍)である。図4は、図3に示した固定化細胞の拡大写真(1,000倍)である。図5は、本発明の血液細胞分離システムで使用できる基板の一例を示す断面図である。 (1)妊婦から採取された血液試料から、主に無核赤血球、白血球及び血小板を除去して一次分離試料とする一次分離工程、(2)前記一次分離試料を、表面に糖鎖高分子を固定化した基板上で、細胞を不活性化する条件下において所定濃度のレクチンと共にインキュベートすることにより、前記一次分離試料に含まれる胎児有核細胞を前記レクチンと選択的に結合させ、レクチン−糖鎖の相互作用により基板上に濃縮固定化し、前記一次分離試料中に残存した白血球を優先的に除去して所望の胎児有核細胞が濃縮された二次分離試料とする二次分離工程、次いで、(3)前記胎児有核細胞を濃縮固定化した二次分離試料を所定の条件で遠心処理する標本化工程を具備してなり、前記基板がガラス基板であり、前記標本化工程における遠心処理の条件が、10〜300Gで1〜10分間の一次遠心処理と、それに続く25〜300Gで5〜15分間の二次遠心処理であることを特徴とする、胎児の出生前染色体及び/又は遺伝子診断用検査標本の製造方法。 前記一次分離工程が、少なくとも1.077mg/cm3より高い比重を持つ比重液を用いた比重遠心分離により実施されることを特徴とする請求項1記載の方法。 前記比重遠心分離で得た胎児有核細胞を含む試料をパンニングして混入した白血球等を除去する工程をさらに具備することを特徴とする請求項2に記載の方法。 前記一次分離工程が、フィルターを用いて無核赤血球並びに白血球を分離することによって実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。 前記二次分離工程における、細胞を不活性化する条件が0℃以上37℃未満の低温条件又は細胞呼吸を停止させる条件であることを特徴とする請求項1に記載の方法。 前記二次分離手段から得た二次分離試料に含まれる懸濁液を1/2、好ましくは3/5に希釈したFCSで置換し、それを前記標本化工程に供することを特徴とする請求項1に記載の方法。 請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された、胎児の出生前染色体及び/又は遺伝子診断用検査標本。