タイトル: | 特許公報(B2)_イヌリンの製造方法 |
出願番号: | 2003530869 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C12P 19/04,C08B 37/18 |
和田 正 大口 真央 JP 4307259 特許公報(B2) 20090515 2003530869 20020926 イヌリンの製造方法 フジ日本精糖株式会社 502281585 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 藤井 愛 100125508 和田 正 大口 真央 JP 2001293067 20010926 20090805 C12P 19/04 20060101AFI20090716BHJP C08B 37/18 20060101ALI20090716BHJP JPC12P19/04 ZC08B37/18 C12P 19/00 -19/64 C08B 37/00 -37/18 PubMed JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 国際公開第99/057300(WO,A1) 和田正 他,Bacillus sp.217C-11の生産する新規なイヌリン合成酵素について,日本農芸化学会誌,2001年 3月 5日,Vol.75, 臨時増刊,p.305 3 FERM BP-7450 JP2002009958 20020926 WO2003027304 20030403 12 20050715 小金井 悟 技術分野本発明はイヌリン合成酵素をスクロースに作用させてイヌリンを製造する方法において、スクロースの濃度を調整すること、反応時の温度を調整すること、及び/又はスクロースを追添加することによってイヌリンの平均重合度を調節することを特徴とするイヌリンの製造方法に関する。また、該製造方法によって得られる、所定の平均重合度を有するイヌリンに関する。背景技術イヌリンとは多糖類の一種で、広く自然界に分布しており、ダリア、キクイモ、オグルマなどのキク科植物の塊茎やチコリの根などにコロイド状で存在していることが知られている。その性質は、澱粉とは異なり温水に溶け、その構造はスクロースのフラクトース側にD−フラクトフラノースがβ−(2→1)結合で順次脱水重合したものである。その重合度はフラクトースの鎖長により異なり、植物由来のイヌリンの場合、重合度は約8から60の範囲にあり、また、その重合度の平均(平均重合度)は、生物学辞典(岩波書店、第2版(1978))によれば32〜34、理化学辞典(岩波書店、第3版(1979))によれば約30と記載されている。イヌリンは、水溶性の難消化性の食物繊維であるため、ダイエタリーファイバーとして着目されており、さらにビフィズス菌の増殖効果などがあるため、近年の健康志向ブームとあいまって需要は伸びつつある。従来、イヌリンは主として海外で生産されている。海外では、チコリやキクイモといった植物を栽培してその根茎からの搾汁液を乾燥することにより製造され、一般的な食材として利用されている。一方、わが国においてはそれらの植物の商業的栽培が困難であるため、イヌリンは製造されていない。そのため、イヌリンの入手は輸入に頼らざるを得ず、価格も国産の類似機能を有する物質よりも高価であり、産業利用上の障壁となっている。また、植物由来のイヌリンは、抽出原料が植物であるがゆえに収量が作柄によって左右され、その上収穫後直ちに抽出を行わなければ自己消化などによりイヌリン含量が目減りするといった問題を有する。さらに、植物由来のイヌリンの場合、植物搾汁液を大雑把に分画した後、噴霧乾燥して商品化したものであるため、イヌリンの重合度が植物本来の性質に左右され、フラクトース鎖長の重合度分布の範囲が広く、ばらつきのある重合度値(重合度範囲:約8〜60)を有するイヌリンが得られ、均一性に欠けるといった課題がある。例えば、Critical Reviews in Food Science and Nutrition,35(6),525−552(1995)には、各種植物(ダリア、チコリ、キクイモ)由来のイヌリンのHPAEC−PADクロマトグラフィーによるイヌリンの重合度範囲を示す結果が記載されているが、いずれの植物由来のイヌリンにおいても、重合度約10〜60の広範囲にわたって多数のピークが確認され、均一性に欠けることが明確である。この課題を解決するには、使用目的に応じた、特定の重合度に高い割合を示す重合度分布を示すイヌリンを生成することができればよいが、これは非常に困難である。また、イヌリンの利用上の問題においては、あまりにも重合度の高い画分を用いる場合、水に対する溶解性が悪く、実利用において好ましくない状況を引き起こすといった課題もある。ところで、イヌリンを製造する方法としては、先述した植物からの抽出以外に、イヌリン合成酵素を利用して化学的にイヌリン又はイヌリン類似物を製造する方法がある。例えば、植物から抽出して得られた酵素を使用してスクロースからイヌリンを生成する方法がM.Luscherらによって報告されている(FEBS letter 385,39(1996))。この方法は、スクロース:スクロース1−スルクトシルトランスフェラーゼ(SST)及びβ−(2→1)フルクタン:β(2→1)フルクタン1−フルクトシルトランスフェラーゼ(FFT)の2種の酵素の共同作用によるものである。しかしながら、植物体から酵素を大量に調製するのは時間と労力を要し、工業規模での利用は現実的ではない。また、微生物の酵素を作用させたイヌリン類似物の製造方法が報告されている。例えば、アスペルギルス・シドウィ(Aspergillus sydowi)の分生胞子又は菌体処理してイヌリンタイプの構造を有する物質を得る方法が開示されている(J.Biol.Chem.,43,171(1920);Agric.Biol.Chem.,37,(9),2111,(1973);特開昭61−187797;特開平5−308885)。さらに、アスペルギルス(Aspergillus)属又はフザリウム(Fusarium)属に属する微生物の産生する酵素がイヌリン類似物を生成すること、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)に属する微生物の産生する酵素がイヌリン類似物を生成することが報告されている(特願昭55−40193;Acta.Chem.Scand.,B28,589)。しかしながら、これらの微生物によって産生される酵素を用いて生成される物質は、イヌリン構造に類似した物質ではあるが、植物由来のイヌリンと比べてその分子が巨大であるか、結合形式が異なる物質であり、イヌリンを生成する方法ではない。微生物由来の酵素を利用してイヌリンを生成する方法としては、本発明者らが出願したPCT/JP01/01133に記載の方法がある。これは、スクロースを原料として、これに新規イヌリン合成酵素を作用させて比較的重合度のそろったイヌリンを製造する方法である。この方法では、微生物由来の酵素を利用してイヌリンを生成するという目的が達成され、植物から抽出したイヌリンと比べて比較的均一な平均重合度のイヌリンを得ることができた(平均重合度8〜20)が、所定の重合度のイヌリンに限定してそれを効果的に得る手段については確立されていなかった。発明の開示本発明はイヌリン合成酵素をスクロースに作用させてイヌリンを製造する方法において、所定の平均重合度を有するイヌリンを製造することを可能にする手段を提供することを課題とする。本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、イヌリン合成酵素を使用してスクロースからイヌリンを製造する反応において、スクロース濃度、イヌリン合成酵素とスクロースの接触の際の温度、スクロースを反応途中で追添加することによりイヌリンの平均重合度を調節することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(9)を提供する。(1) イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを生成するイヌリンの製造方法において、スクロースの濃度を調整することによってイヌリンの平均重合度を調節することを特徴とするイヌリンの製造方法。(2) イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを生成するイヌリンの製造方法において、前記接触の際の温度を調整することによってイヌリンの平均重合度を調節することを特徴とするイヌリンの製造方法。(3) イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを生成するイヌリンの製造方法において、前記スクロースが前記イヌリン合成酵素によって消費され、平衡状態に達した段階でスクロースを追添加し、さらにイヌリンの生成反応を継続することによってイヌリンの平均重合度を高めることを特徴とするイヌリンの製造方法。(4) スクロースの追添加を繰り返し行うことを特徴とする(3)に記載のイヌリンの製造方法。(5) イヌリン合成酵素が、スクロースに作用してイヌリンを生成するが、ケストース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオースには作用しない作用及び基質特異性を有するものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のイヌリンの製造方法。(6) イヌリン合成酵素が、該酵素を産生する微生物の培養液若しくは培養菌体、又はその処理物であることを特徴とする(1)〜(5)に記載のいずれかに記載のイヌリンの製造方法。(7) (1)、(2)又は(3)に記載の方法を2種以上組み合わせて行うことを特徴とするイヌリンの製造方法。(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の方法を用いることを特徴とする、所定の平均重合度を有するイヌリンの製造方法。(9) (1)〜(7)のいずれかに記載の方法を用いることによって得られる所定の平均重合度を有するイヌリン。本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2001−293067号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。発明を実施するための形態本発明のイヌリンの製造方法について、以下にさらに詳しく説明する。本発明の方法は、イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを生成するイヌリンの製造方法において、イヌリンの平均重合度を調節するための各種方法である。本発明において、イヌリンとは、スクロースのフラクトース側にD−フラクトフラノースがβ−(2→1)結合で順次脱水重合した多糖類であって、グルコースに2分子以上のフラクトースが重合したものを意味し、2〜4分子のフラクトースが重合した低重合度のフラクトオリゴ糖をも含む。上記において、イヌリン合成酵素を「スクロースに接触させる」とは、スクロースを炭素源として含有する培地等にイヌリン合成酵素を添加し、これらが反応液中でスクロースを基質としてイヌリンを生成し得る条件下で反応させることを意味する。ここで、イヌリン合成酵素は、スクロースをイヌリンに変換することができる基質特異性を有する酵素であればいずれの酵素をも使用することができる。その一例として、スクロースに作用してイヌリンを生成するが、ケストース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオースには作用しない作用及び基質特異性を有するイヌリン合成酵素が挙げられる。また、イヌリン合成酵素としては、該酵素を産生する微生物の培養液若しくは培養菌体、又はその処理物も含まれる。ここで、培養菌体とは、適切な条件下で培養された前記微生物を意味し、生菌であっても凍結乾燥されていてもよく、あるいはまたアセトンパウダー等の形態であってもよい。また、培養菌体処理物とは、本発明の酵素をその機能を失うことなく採取できるものであれば特に限定されないが、例えば、上記培養菌体の破砕物、菌体抽出液、固定化菌体等を意味する。ここで、培養菌体の破砕物及び菌体抽出液とは、該菌体を公知の破砕方法、例えば、超音波破砕法、ダイノミル破砕法、フレンチプレス破砕法により破砕して得られる物質及び抽出液を意味する。また、固定化菌体とは、公知の固定化法、例えば、包括法、担体結合法で前記菌体を固定化し、必要に応じて架橋したものを意味する。包括法としては、カラギーナンやアルギン酸等の天然高分子を用いる方法が挙げられる。上記イヌリン合成酵素のうち、スクロースに作用してイヌリンを生成するが、ケストース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオースには作用しない作用及び基質特異性を有するイヌリン合成酵素微生物から得られるイヌリン合成酵素としては、具体的には、PCT/JP01/01133に記載されているバチラスsp.217C−11株(FERM BP−7450)の培養液若しくは培養菌体又はその処理物から得られるものを用いることができる。このバチラス(Bacillus)sp.217C−11株の培養及び酵素の調整方法について、以下に簡単に説明する。培地に添加する炭素源としては、通常使用されるものを適当な濃度で使用すればよい。例えば、スクロース、グルコース、フラクトース、マルトースなどの糖質を単独又は混合して用いることができる。本菌を用いて、スクロースを基質としてイヌリンを生成させる酵素を調製する上で、最も好ましい炭素源はスクロースであり、これを主炭素源とした液体培地を用いて培養を行うことにより該酵素活性は向上する。当然のことながら、粗糖、廃糖蜜等のスクロース含有物を用いてもよい。窒素源としては、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーン・スティープ・リカー等の有機窒素源のほか、硫酸、硝酸、リン酸のアンモニウム塩などの無機窒素源を単独又は混合して用いることができる。無機塩類としては、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄等の硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩等をそれぞれ単独で又は組み合わせて用いることができる。さらに必要に応じて、アミノ酸、ビタミンなど通常の培養に用いられる栄養源をなども適宜用いることができる。本発明の方法において使用するのに適した培地としては、スクロース0.5〜2%(w/v)、ペプトン1%、酵母エキス0.5%、リン酸2カリウム0.2%を含むpH7〜8の液体培地を用いることが適当である。培養は、振とう培養又はジャー・ファーメンターを用いて通気条件下で行うことができる。培地のpHは6〜9の範囲が好ましく、培養温度は25℃〜37℃の範囲が好ましく、培養時間は微生物が増殖し得る以上の時間であればよく、5〜96時間、好ましくは15〜72時間である。バチラス(Bacillus)sp.217C−11株を先に示した培地で培養後、遠心分離により除菌し、その後培養上清を分画分子量30000の限外濾過膜を用いて濃縮し、反応用の酵素液として使用することができる。なお、バチラス(Bacillus)sp.217C−11株由来の酵素を含む、スクロースに作用してイヌリンを生成するが、ケストース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオースには作用しない作用及び基質特異性を有するイヌリン合成酵素は、以下の理化学的性質を有するものである。分子量:45,000〜50,000至適温度:40〜50℃熱安定性:45℃を越えると徐々に失活し始め、50℃で70%、60℃で40%の残存活性を示す。至適pH:7〜8(45℃)pH安定性:pH6以上で安定。イヌリン合成酵素の濃度は、反応液中のスクロース(基質)を十分に利用し得る濃度であればよく、例えば、スクロース40〜60%(w/w)の場合、イヌリン合成酵素の活性が0.4unit/ml反応液となる濃度とするのが好ましい。スクロースの基質としてイヌリンを生成するのに適切なpHは、pH6〜8の範囲の反応液を用いるのが好ましい。さらに該反応液のpHを保つためにリン酸緩衝液を用いることもできる。反応時間は、イヌリン合成酵素の使用量等により適宜変更することができるが、通常、0.1〜100時間、好ましくは、0.5〜72時間である。得られるイヌリンの平均重合度の分析は、以下のようにして行うことができる。なお、重合度とは、イヌリン中のサッカライド単位(フルクトース及びグルコース単位)の数であり、平均重合度は、例えば、以下のようにして、HPLC、GC、HPAEC等の通常の分析法によって求めた分析結果のピークのトップを平均重合度とすることができる。カラムとして、例えば、信和化工製のULTRON PS−80N(8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5ml/min、温度;50℃)、あるいは、TOSOH製のTSK−GEL G3000PWXL(7.8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5ml/min、温度;50℃)を用い、検出器として示差屈折計を使用することによって確認された生成イヌリンの重合度を、標準物質として、例えば、植物由来のイヌリンであるオラフティ社のラフテリンST(平均重合度11)とラフテリンHP(平均重合度22)を用いて作成した検量線により求めることができる。なお、イヌリンの重合度の分析に関しては、Critical Reviews in Food Science and Nutrition,35(6),525−552(1995)等の文献を参考にして実施することができる。本発明では、上記イヌリンの製造方法において、▲1▼スクロース濃度の調整、▲2▼イヌリン合成酵素をスクロースに接触させる際の温度の調整、▲3▼スクロースの追添加、を行うことによって、生成されるイヌリンの平均重合度を調節することができる。イヌリンの平均重合度を調節する第1の方法としてのスクロース濃度の調整は、イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを生成するイヌリンの製造方法において、スクロースの濃度を調整することによってイヌリンの平均重合度を調節することを特徴とするイヌリンの製造方法である。本発明で使用するスクロースの濃度は、例えば、3〜68%(w/w)、好ましくは10〜60%(w/w)の範囲であるが、スクロース濃度を上記範囲内で低く設定することによって、得られるイヌリンの平均重合度を高めることができる。例えば、反応温度が15℃の場合、原料のスクロース濃度が50%のときに得られるイヌリンの平均重合度は10であるのに対し、原料のスクロース濃度が20%のときに得られるイヌリンの平均重合度は18である。また、反応温度が37℃の場合、原料のスクロース濃度が60%のときに得られるイヌリンの平均重合度は9であるのに対し、原料のスクロース濃度が20%のときに得られるイヌリンの平均重合度は20である。従って、スクロース濃度を適宜設定することによって、所望の平均重合度のイヌリンを得ることができる。イヌリンの平均重合度を調節する第2の方法としてのイヌリン合成酵素をスクロースに接触させる際の温度の調整は、イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを生成するイヌリンの製造方法において、前記接触の際の温度を調整することによってイヌリンの平均重合度を調節することを特徴とするイヌリンの製造方法である。イヌリン合成酵素をスクロースに接触させる際の反応温度は、20〜70℃、好ましくは、40〜50℃であるが、反応温度を前記範囲内で高い温度に設定することによって、得られるイヌリンの平均重合度が高くなる。例えば、スクロース濃度が50%の場合、反応温度が15℃のときにはイヌリンの平均重合度は10であるのに対し、反応温度が37℃のときにはイヌリンの平均重合度は14である。また、スクロース濃度が30%の場合、反応温度が15℃のときにはイヌリンの平均重合度は15であるのに対し、反応温度が37℃のときにはイヌリンの平均重合度は19である。従って、反応温度を適宜設定することによって、所望のイヌリンの平均重合度を得ることができる。イヌリンの平均重合度を調節する第3の方法としてのスクロースの追添加は、イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを生成するイヌリンの製造方法において、前記スクロースが前記イヌリン合成酵素によって消費され、平衡状態に達した段階でスクロースを追添加し、さらにイヌリンの生成反応を継続することを特徴とするイヌリンの製造方法である。スクロースを追添加する時期は、スクロースにイヌリン合成酵素を接触させてイヌリンの製造を開始した後であって、イヌリン合成酵素の活性が認められ、かつ、スクロースの消費が反応によってある程度進んだ時期であるが、特に好ましくは、合成反応が平衡に達した段階である。反応の進行具合については、HPLCによる成分分析により確認することができる。スクロースを追添加する回数は、イヌリン合成酵素の活性が残存し、合成反応が継続していく限り、特に限定されず、所望の平均重合度に応じて任意に設定することができるが、高い平均重合度を有するイヌリンを得るためにはスクロースの追添加の回数を多くすることが好ましい。なお、これらの方法は単独で用いても、又は2種類以上組み合わせて用いてもよい。上記の方法を行うことにより、所定の平均重合度を有するイヌリンを得ることができる。所定の平均重合度を有するイヌリンは、重合度8〜25の間の任意の所望の平均重合度を有するイヌリンを得るのに最適な温度、接触温度、及び/又はスクロースの追添加を設定することにより得ることができる。例えば、スクロース濃度50%、接触温度15℃の設定、又は、スクロース濃度60%、接触温度45℃の設定、あるいは、スクロース濃度60%、接触温度50℃の設定における反応によって、8〜12の範囲内の平均重合度を有するイヌリンを得ることができる。また、例えば、スクロース濃度30%、接触温度15℃の設定、又は、スクロース濃度40%、接触温度37℃の設定、あるいは、スクロース濃度50%、接触温度45℃の設定において、13〜18の範囲内の平均重合度を有するイヌリンを得ることができる。さらに、例えば、スクロース濃度20%、接触温度37℃の設定、又は、スクロース濃度30%、接触温度37℃の設定において、19〜25の範囲内の平均重合度を有するイヌリンを得ることができる。このようにして得られる本発明のイヌリンは、フラクトース鎖長の重合度分布においてばらつきが小さく、特定の重合度に高い割合を示すシャープな分布を示す一定の品質を保ったイヌリンである。なお、本明細書において重合度分布とは、イヌリンが有するフラクトース鎖長の重合度の最大値〜最小値の分散範囲を示すものであって、本発明のイヌリンは、平均重合度±20以内、好ましくは平均重合度±15以内の重合度の範囲を有するイヌリンである。また、重合度分布の最大値〜最小値の範囲の点からは、最大値〜最小値が35以下、好ましくは30以下の重合度の範囲を有するイヌリンである。実施例以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。[実施例1]バチラス(Bacillus)sp.217C−11株からの酵素液の調製バチラス(Bacillus)sp.217C−11株(FERE BP−7450)を、スクロース0.5〜2%(w/v)、ペプトン1%、酵母エキス0.5%、リン酸2カリウム0.2%、硫酸マグネシウム0.05%を含むpH7〜8の液体培地にて30℃で18時間振とう培養した。次に、その培養上清に固形の硫酸アンモニウムを加え、70%飽和で沈殿する画分を遠心分離機を使用して集めた。そしてこの沈殿物をpH7.0の20mMのリン酸緩衝液に溶解し、透析チューブに入れた後、同緩衝液で十分に透析して酵素の粗酵素液を得た。次いで、常法に従って東ソー株式会社製のTSKgel DEAEトヨパール650、トヨパールHW55、ファルマシア製のセファクリルS−300を使用して、該粗酵素液をイオン交換クロマトグラフィー及びゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより、本発明のイヌリン合成酵素を精製した。これを反応用の酵素標品として使用した。[実施例2]スクロース濃度及び反応温度の調整による生成イヌリンの平均重合度の調節実施例1で調製したイヌリン合成酵素を2u/ml、リン酸緩衝液(pH7.0)10mM、スクロース濃度を最終濃度で各々20%(w/w)、230%(w/w)、40%(w/w)、50%(w/w)、60%(w/w)となるように水で調整し反応液とした。各反応液を15℃、37℃、45℃、50℃に設定した各恒温水槽に入れて48時間の反応を行った。生成されたイヌリンの平均重合度を調べた結果を図1に示した。その結果、いずれの反応温度の場合とも、生成するイヌリンの平均重合度は反応中のスクロース濃度が低くなるにつれて高くなった。又、スクロース濃度が同じ場合、反応温度が高くなるにつれて生成するイヌリンの平均重合度が高まることが確認された。[実施例3]スクロースの追添加によるイヌリンの平均重合度の調節効果40gのスクロース、実施例1で調製した30u/mlのイヌリン合成酵素2.4〜4gに水を加えて100gにした反応液を500mlの三角フラスコに入れ、150rpmで攪拌しながら反応を行った(以下、第1反応と称する)。スクロースの消費がほぼ停止した時点で40%(w/w)スクロースを20〜100gと量を変えて第1反応溶液に添加し、再度、スクロースの消費が停止するまで反応を継続した(以下、第2反応と称する)。なお、スクロースの追添加によりイヌリン合成酵素が希釈されるので、酵素の最終添加濃度をすべて一定にするため、第1反応の段階での酵素の添加量に変化をつけ調整した。表1に、第1反応のイヌリン合成酵素添加量と反応時間及び反応液成分の分析値と生成イヌリンの平均重合度を示した。また、表2に、第2反応の追添加スクロース量と反応時間及び反応液成分の分析値と生成イヌリンの平均重合度を示した。さらに、図2に、スクロースの追添加量の差による生成イヌリンの平均重合度の違いについて示した。その結果、第1反応後の追添加するスクロース量が多いほど、生成するイヌリンの平均重合度は高くなっていることが確認された。[実施例4]スクロースの追添加回数調整による生成イヌリンの平均重合度の調節効果スクロース5gに0.4Mリン酸緩衝液(pH7)0.25ml、30u/mlイヌリン合成酵素4gを加え、水で10gに調整した溶液を60℃で第1反応を行った。この第1反応のスクロース消費が平衡に達する段階で50%(w/w)スクロース溶液(pH7)を1回につき5gずつ追添加し、第2反応を継続した。この操作を4回繰り返し、各回毎の生成イヌリンの平均重合度を調べた。その結果を図3に示した。図3から明らかなように、スクロースを追添加する回数が増えるにつれてイヌリンの重合度は高まり、4回の追添加を経て得られたイヌリンの平均重合度は23に達した。[実施例5]重合度分布の検討カラムとして、TOSOH製のTSK−GEL G3000PWXL(7.8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5ml/min、温度;50℃)を用い、検出器として示差屈折計を使用したHPLC分析によって確認された本発明のイヌリンの重合度を、標準物質として、植物由来のイヌリンであるオラフティ社のラフテリンST(平均重合度11)とラフテリンHP(平均重合度22)を用いて作成した検量線により求め、本発明のイヌリンと植物由来のイヌリンにおける重合度の分布を比較した。本発明のイヌリンの結果を図4に、ラフテリンST(平均重合度11)とラフテリンHP(平均重合度22)の結果をそれぞれ図5と図6に示す。これらの結果から明らかなように、本発明のイヌリン(平均重合度17)は、標準物質として用いた植物由来のイヌリンよりもピークの幅は狭く、ピークの高さは高くなっている。さらに、本発明のイヌリンと植物由来のイヌリンであるラフテリンHPの具体的な重合度分布の範囲の数値を確認した結果、平均重合度が17である本発明のイヌリンは重合度分布が4〜30の範囲であるのに対し、平均重合度が22のラフテリンHPの分布は8〜60程度であり、本発明のイヌリンの鎖長の分散範囲はラフテリンHPの約1/2であることがわかった。従って、本発明のイヌリンは、重合度のばらつきが小さく、特定の重合度に高い割合を示す分布を示すものであるため、一定の品質を保ったイヌリンであることが明らかである。産業上の利用性本発明により、イヌリン合成酵素をスクロースに接触させてイヌリンを生成するイヌリンの製造方法において、スクロースの濃度及び/又は反応温度の反応条件を調整すること、あるいは、スクロースの追添加を1回以上実施することにより、ある特定の平均重合度を有するイヌリンを人為的に製造することができる。その結果、所望する最も有効な平均重合度を有するイヌリン画分だけを状況に応じて採取することが可能となり、イヌリンをさらに用途に応じて効果的に活用することができる。本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。【図面の簡単な説明】図1は、スクロース濃度及び反応温度とイヌリンの平均重合度との関係を示す図である。図2は、スクロースの追添加とイヌリンの平均重合度との関係を示す図である。図3は、スクロースの追添加の回数とイヌリンの平均重合度との関係を示す図である。なお、図中、矢印は追添加の時期を示す。図4は、本発明のイヌリン(平均重合度17)のHPLCによる分析結果を示す図である。図5は、植物由来のラフテリンST(平均重合度11、オラフティ社製)のHPLCによる分析結果を示す図である。図6は、植物由来のラフテリンHP(平均重合度22、オラフティ社製)のHPLCによる分析結果を示す図である。 イヌリン合成酵素をスクロースに接触させて平均重合度8〜25のイヌリンを生成するイヌリンの製造方法であって、イヌリン合成酵素がバチラス(Bacillus)sp.217C−11株に由来し、スクロースに作用してイヌリンを生成するが、ケストース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオースには作用しない作用及び基質特異性を有するものであり、スクロースの濃度を調整することによってイヌリンの平均重合度を調節し、スクロースの濃度を3〜68%(w/w)の範囲内で低く設定することによって、得られるイヌリンの平均重合度を高めることを特徴とするイヌリンの製造方法。 スクロースの濃度を10〜60%(w/w)の範囲内で設定する、請求項1に記載のイヌリンの製造方法。 イヌリン合成酵素が、該酵素を産生する微生物の培養液若しくは培養菌体、又はその処理物であることを特徴とする請求項1または2に記載のイヌリンの製造方法。