タイトル: | 特許公報(B2)_ストレプトコッカス・ミュータンス及びストレプトコッカス・ソブリヌスに対する殺菌剤 |
出願番号: | 2003419123 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | A61K 38/00,A23G 4/00,A23L 1/28,A61K 8/66,A61Q 11/00,A61P 1/02,A61P 31/04,C12N 9/24,C12N 15/09 |
菅井 基行 小松澤 均 JP 4484507 特許公報(B2) 20100402 2003419123 20031217 ストレプトコッカス・ミュータンス及びストレプトコッカス・ソブリヌスに対する殺菌剤 株式会社ツーセル 503328193 下田 昭 100110249 菅井 基行 小松澤 均 20100616 A61K 38/00 20060101AFI20100527BHJP A23G 4/00 20060101ALI20100527BHJP A23L 1/28 20060101ALI20100527BHJP A61K 8/66 20060101ALI20100527BHJP A61Q 11/00 20060101ALI20100527BHJP A61P 1/02 20060101ALI20100527BHJP A61P 31/04 20060101ALI20100527BHJP C12N 9/24 20060101ALN20100527BHJP C12N 15/09 20060101ALN20100527BHJP JPA61K37/02A23G3/30A23L1/28 ZA61K8/66A61Q11/00A61P1/02A61P31/04C12N9/24C12N15/00 A A61K 38/00 A23G 4/00 A23L 1/28 A61K 8/66 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 吉村剛,口腔連鎖球菌の産生するペプチドグリカン加水分解酵素,第75回日本細菌学会総会,2002年,229 柴田幸江,う蝕細菌の自己融解酵素遺伝子のクローニング,第45回歯科基礎医学会学術大会ならびに総会2003 ,2003年 9月 1日,45(5),325 3 2005179205 20050707 9 20061107 清野 千秋 この発明は、虫歯原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)及びストレプトコッカス・ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)に対して溶菌作用を有する酵素に関し、更に、この酵素を用いた虫歯治療方法や予防方法、更に、虫歯治療又は虫歯予防を目的としてこの酵素を用いた歯みがき剤、ガムなどに関する。 ヒトに齲食を起こすいわゆる齲食原因菌は無菌ラットを用いた実験的研究ならびに数々の疫学的研究から連鎖球菌群に属するStreptococcus mutansとS. sobrinusであることが明らかにされている(非特許文献1)。本発明者らは細菌が保有する巨大構造物ペプチドグリカンを代謝分解する酵素(溶菌酵素)を研究する過程でS. mutansが産生する溶菌酵素に着目し、研究をすすめている(非特許文献2)。ペプチドグリカンは生物の中で真性細菌及び古細菌のみが有する構造物で、糖鎖とペプチド鎖がおりなすメッシュワーク構造をとり、菌体を包み込み、約20気圧といわれる内圧を受け止めて細菌の形を保持するための骨格にあたる構造である。ペプチドグリカンはその特異性から、古くから抗菌化学療法剤の標的と関連づけて考えられてきた。いわゆる抗生物質の端緒となったペニシリンGに始まるβ-ラクタム系薬剤を始め、多くの抗菌化学療法剤はペプチドグリカン生合成系に作用する薬物である。動物細胞が薬剤標的を持たないことからβ-ラクタム系薬剤は優れた選択毒性を示し、副作用の少ない薬剤として汎用されてきた。 一方、馬場久衛らは、S. mutansが産生する本件に近似の酵素AL-7に関し発表しており(非特許文献3〜5)、この酵素AL-7がS.Sanguis及びS.mutansの加熱菌体を選択的に溶解することを明らかにしている。 これら以外にも、S.mutansの産生する酵素に関していくつかの例が知られている(特許文献1〜2等)。特開平10-136976特開2002-114709日本細菌学雑誌 51(4): 931-951, 1996日本細菌学雑誌 52(2): 461-473, 1997J. Oral Biol.,25:947-955, 1983J. Oral Biol.,26:185-194, 1984神奈川歯学,24-2, 384-392, 1989 従来、抗菌化学療法の考え方として薬剤が多くの細菌に共通の標的を持ち、これらに致死的に働くことが望ましいとされてきた。しかしながら、このような作用は化学療法の対象とする細菌のみならず、常在細菌叢を形成している細菌群にも影響し、菌交代症を引き起こすこと、さらに細菌が耐性を獲得した際には、耐性が菌種を超えてまたたく間に広がることが周知されるようになる。そのため、従来の抗菌剤とは異なり、特定の菌種にのみ働く抗菌化学療法薬の利用が模索されている。 即ち、本発明は、齲食原因菌を選択的に攻撃する酵素、及びこの酵素を用いた虫歯治療・予防法を提供することを目的とする。 溶菌酵素は本来、細菌が分裂・細胞分離して増殖する過程でペプチドグリカンを代謝するために必要とされる酵素である。本発明者らは研究の過程でS. mutansが産生する溶菌酵素Lyt100を見い出し、その遺伝子クローニング、組換体を作成し、酵素の作用を検討してきた。その中で本酵素の基質特異性を検討する過程で、本酵素がS.mutansならびにS.sobrinusを選択的に溶解する基質特異性を有することを見い出した。S.mutansとS.sobrinusを選択的に溶解する酵素は口腔内の常在細菌叢に影響することなく、これら齲食原性細菌を溶解する優れた点を有する。本酵素を利用することで、口腔内の食齲原性細菌を選択的に除去、あるいはその菌数を減少させることが可能となり、齲食の予防効果を発揮させることができる。 即ち、本発明は、下記(1)又は(2)のタンパク質から成るストレプトコッカス・ミュータンス(生菌)及びストレプトコッカス・ソブリヌス(生菌)に対する殺菌剤である。(1)配列番号1に示すアミノ酸配列から成るタンパク質(2)配列番号2に示す塩基配列から成るDNA又は(1)のタンパク質をコードするDNAにより形質転換された細胞を培養することにより得られるタンパク質 また本発明は、この殺菌剤を含有する虫歯予防剤、虫歯治療剤、歯みがき剤、口ゆすぎ剤、又は虫歯予防用ガムである。これらを処方するに当たっては、各分野の常法に従って行えばよい。 更に本発明は、下記(1)又は(2)のタンパク質を用いてストレプトコッカス・ミュータンス(生菌)及びストレプトコッカス・ソブリヌス(生菌)を選択的に殺菌する方法(但し、人体の処置方法を除く)である。(1)配列番号1に示すアミノ酸配列から成るタンパク質(2)配列番号2に示す塩基配列から成るDNA又は(1)のタンパク質をコードするDNAにより形質転換された細胞を培養することにより得られるタンパク質 本発明の酵素Lyt100は、S. mutansが産生する本件に近似の酵素AL-7(非特許文献3)とは異なる。まずAL-7は菌体外酵素でありLyt100は菌体内酵素である。更に、アッセイ系としてほぼ同じ条件で測定し、AL-7は20mgの酵素標品を用いて、S. mutans あるいはS. sobrinusに対し、加熱死菌で最大17%、20.6%の溶菌活性を示し、細胞壁に対し6%、8.3%の溶解活性を示す。これに対しLyt100は3μgの酵素標品を用いてS. mutansと S. sobrinusに対し加熱死菌で最大23%、33.6%の溶菌活性を示し、細胞壁に対し96.7%、96.7%の溶解活性を示す。細胞壁に対する溶解活性が強い。一方、生菌に対してはAL-720mgの酵素標品を用いて、S. mutansに対し最大3.2%、S. sanguisに対して3.3%とほとんど溶菌を示さずかつ種特異性を示さないのに対し、Lyt100は10μgの酵素標品を用いてS. mutansとS. sobrinusに対し44%、56%、S. sauguis, S. salivarius, S. mitisに対して0%と特徴的でS. mutans及びS. sobrinusに対し強い種特異的溶菌活性を示す。 本発明の酵素Lyt100は、病原菌(S. mutans)が持つ酵素であり、同じ病原菌自身を溶菌/殺菌する。しかも種特異性が高く他の菌層に影響を与えないため、虫歯の治療/予防に利用出来る。 以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。(1)粗酵素標品の調整 Streptococcus mutans MT703R株を600 ml ブレインハートインフージョン培地にて37℃、一晩振倒培養後、8,000 x g, 20 min遠心分離し、沈渣を得た(約1.2 g)。 沈さに2 ml, 8M ureaを加え、懸濁し室温で30分間放置した。15,000 x g, 15 min遠心分離にかけ、上澄みを得る。得られた上澄みを限外ろ過膜(Amicon)を用いて濃縮した。最終的に1 mg/mlとして、これを粗酵素標品として用いた。(2)溶菌酵素Lyt100の発見 粗酵素標品を酵素電気泳動(Zymography)にかけた。酵素電気泳動は、溶菌酵素の活性を検出するために、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動を応用した方法である。まずポリアクリルアミドゲルを重合させる際に、S. mutans死菌体(1 mg/ml)を添加してゲルを固める。その後、通常の電気泳動と同様に泳動を行った後、取り出したゲルを水洗し、0.1 Mリン酸緩衝液(pH 7.0)でインキュベートすることにより、ゲル中の溶菌酵素が活性を回復し、タンパク質バンドに相当する位置の菌体を溶解し、結果として白濁したゲルの中で透明なバンドとして検出できる。得られたゲルをZymogramという。 S. mutans死菌体は、培養したS mutansを約100℃の熱水/4%SDS中で30〜60分処理したのち十分量のPBSで10回程度洗浄したものを用いることができる。 この結果、図1に示すように、高分子量域に2本の溶菌バンドが認められた。粗酵素標品をSDS-電気泳動にかけた後、ゲル中のタンパク質をクマシーブリリアントブルーで染色し、先のZymogramと比較検討することから溶菌バンドに対応するタンパク質バンドを見極めた。そのタンパク質バンド2本(ふたつの溶菌活性に対応)を含むゲルを切り出し、ナイロン(登録商標)膜に転写し、気相アミノ酸シークエンサー(Model 49X Procise)にかけた。得られたアミノ酸配列(配列番号1)をもとにTIGR unfinished Streptococcus mutans UAB159 DNA sequence databaseを用いて、対応するアミノ酸配列に相当する塩基配列(配列番号2)を含有するDNA断片を見出した。 得られた二つのDNA断片は、同じタンパク質をコードしており、一方は合成されたタンパク質が分泌された後に、菌体上で他のタンパク質分解酵素によって限定分解を受けた結果生じた産物であることが明らかとなった。すなわち、Lyt100は24個のシグナル配列を持ち、成熟型で104.424 kDa、そののちアミノ末端側182残基が限定分解を受けてはずれ、89.680 kDaとなることが明らかになった。 この全長のタンパク質をコードしているDNAをもとにプライマーを作成し(配列番号3、4)、S. mutans C67-1染色体を鋳型として成熟型酵素タンパク質をコードしているDNAを増幅した。このDNAを発現ベクターpQE30に組み込み、E. coli M-15を形質転換した。得られた形質転換体の一つをGY122と名付けた。(3)組み換え型溶菌酵素Lyt100の精製 大腸菌GY122株を500mlのLB液体培地で培養し(約4時間)、吸光度660 nmが0.5の時点でイソプロピル-D-チオガラクトピラノシドを最終濃度1 mMとなるように添加した。さらに3時間培養し、培養液を遠心分離にかける。8,300 g x 30 minで遠心分離し、沈渣をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し(菌体1gに対し10 ml)、懸濁、遠心分離の操作を2回繰り返す。再度得られた沈渣をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し(菌体1gに対し10 ml)、氷冷下で超音波破砕(TOMY Seiko level 4, 50%間隔, 20 min)し、破砕標品を遠心分離した。沈渣に0.2% Triton X-100 含有PBSを加え懸濁し(沈渣1gに対し10 ml)、室温で30 min放置した。再度、この操作を繰り返し、得られた沈渣を8M urea, 0.1M Na2PO4, 0.01 M Tris-Cl (pH8.0)に溶解した。得られた溶液をNi-NTA レジンビーズ(1 ml)に添加し、8〜10倍量の8M urea, 0.1M Na2PO4, 0.01 M Tris-Cl (pH6.3)で洗浄した。その後、8M urea, 0.1M Na2PO4, 0.01 M Tris-Cl (pH5.4)で溶出し、1分画500μlで15〜20分画を採取した。各分画を溶菌アッセイにかけ、活性分画を集め、1M NaCl, 1M urea含有0.1M リン酸緩衝液によって4℃で一晩透析した。透析した標品をあらかじめ1M NaCl, 1M urea含有0.1M リン酸緩衝液, pH 7.0(A buffer)で平衡化した高速液体クロマトグラフィー用カラム TSKgel Pheny-5PW(75 mm×7.5 mm, lot 5PHR0050)に添加し、十分量の上記緩衝液で洗浄後、A bufferからB buffer (1M urea含有0.1M リン酸緩衝液, pH 7.0)へ流速0.5 ml/minで30分間の直線グラジエント溶出を行った。図2に示すように活性は実線で示す位置に溶出される。 図3に精製前ならびに精製後の標品のSDS-電気泳動像を示す。Lyt100は約100 kDa(100±10kDa)の位置に泳動され、目的のタンパク質が精製できたことを示している。(4)死菌体を用いた溶菌活性の測定 口腔レンサ球菌として以下の5株を用いた。S. mutans C67-1, S. sobrinus OMZ176a, S. mitis ATCC9811, S. sanguis ATCC10436, S. salivarius ATCC9222。 4%SDS添加煮沸水中で加熱処理した死菌体を十分量の水で洗浄し、あらかじめTurbidity buffer (0.1 M リン酸緩衝液、0.1 M NaCl. 1 mM Ca, pH 6.8)で懸濁し吸光度660 nm=0.3 に調整した。菌懸濁液2 mlに精製Lyt100を添加し、時間経過とともに吸光度の変化を測定した。 死菌体の溶解活性を図4〜6に示す。Lyt100はS. mutans C67-1, S. sobrinus OMZ176aに対して強い溶菌活性を示し、特にS. sobrinus OMZ176aに対してはS. mutans C67-1と比較して倍の活性を示した。(5)生菌体を用いた溶菌活性と殺菌作用の測定 口腔連鎖球菌として以下の5株を用いた。S. mutans C67-1, S. sobrinus OMZ176a, S. mitis ATCC9811, S. sanguis ATCC10436, S. salivarius ATCC9222。 培養した菌をそれぞれTurbidity bufferに懸濁した。あらかじめ、連鎖を分散させるため、S. mutans については超音波破砕機でlevel 4, 10 sec処理、他の菌種はlevel 4, 5 sec処理したのち吸光度660nm-0.5に調整した。菌懸濁液2 mlに精製Lyt100 を添加し、時間経過とともに吸光度の変化を測定した。また同時期にサンプルを採取し、104-105倍希釈したものをS. mutans C67-1, S. sobrinus OMZ176a, S. salivarius ATCC9222についてはブレインハートインフュージョン寒天培地、S. mitis ATCC9811, S. sanguis ATCC10436についてはMS寒天培地に播き、コロニー数を計算した。 生菌体の溶解活性を図7,8に示す。一般的に生菌は死菌に比較して酵素に対して感受性が低くなる。Lyt100は死菌体のアッセイでは3 μg/2 mlで用いたが生菌体のアッセイでは10 μg/2mlで使用した。この場合もLyt100はS. mutans C67-1とS. sobrinus OMZ176aに強い溶菌活性を示した。 生菌体の致死活性を図9,10に示す。Lyt100処理した生菌の懸濁液よりcolony forming unitを算出した結果、濁度の低下とほぼ同様の傾向を示し、Lyt100はS. mutans C67-1とS. sobrinus OMZ176aに選択的な殺菌効果を示すことが明らかとなった。本発明の酵素Lyt100のZymogramを示す図である。本発明の酵素Lyt100の、TSKgek Phenyl-5PWを用いたカラムクロマトグラフィーを示す図である。下線は溶菌活性を持つ領域を示す。精製標品の電気泳動及びZymogramを示す図である。本発明の酵素Lyt100の死菌体に対する溶菌活性を示す図である。縦軸は濁度(通常660nmの吸光度)、横軸は時間(分)を示す。本発明の酵素Lyt100の死菌体に対する溶菌活性を示す図である。縦軸は濁度(通常660nmの吸光度)、横軸は時間(分)を示す。本発明の酵素Lyt100の死菌体に対する溶菌活性を示す図である。180分の時点での濁度を、S.mutansを基質とした時を100%として、示す。本発明の酵素Lyt100の生菌体に対する溶菌活性を示す図である。縦軸は濁度(通常660nmの吸光度)、横軸は時間(分)を示す。本発明の酵素Lyt100の生菌体に対する溶菌活性を示す図である。180分の時点での濁度を、S.mutansを基質とした時を100%として、示す。本発明の酵素Lyt100の生菌体に対する致死活性を示す図である。縦軸はコロニー(生きた菌の数)、横軸は時間(分)を示す。本発明の酵素Lyt100の生菌体に対する致死活性を示す図である。縦軸はコロニー(生きた菌の数)、横軸は時間(分)を示す。下記(1)又は(2)のタンパク質から成るストレプトコッカス・ミュータンス(生菌)及びストレプトコッカス・ソブリヌス(生菌)に対する殺菌剤。(1)配列番号1に示すアミノ酸配列から成るタンパク質(2)配列番号2に示す塩基配列から成るDNA又は(1)のタンパク質をコードするDNAにより形質転換された細胞を培養することにより得られるタンパク質請求項1に記載の殺菌剤を含有する虫歯予防剤、虫歯治療剤、歯みがき剤、口ゆすぎ剤、又は虫歯予防用ガム。下記(1)又は(2)のタンパク質を用いてストレプトコッカス・ミュータンス(生菌)及びストレプトコッカス・ソブリヌス(生菌)を選択的に殺菌する方法(但し、人体の処置方法を除く)。(1)配列番号1に示すアミノ酸配列から成るタンパク質(2)配列番号2に示す塩基配列から成るDNA又は(1)のタンパク質をコードするDNAにより形質転換された細胞を培養することにより得られるタンパク質配列表