タイトル: | 特許公報(B2)_ガスセンサー素子 |
出願番号: | 2003406393 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 5/02 |
黒澤 茂 愛澤 秀信 山田 和典 平田 光男 JP 4078426 特許公報(B2) 20080215 2003406393 20031204 ガスセンサー素子 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 黒澤 茂 愛澤 秀信 山田 和典 平田 光男 20080423 G01N 5/02 20060101AFI20080403BHJP JPG01N5/02 A G01N 5/02 特開2001−091437(JP,A) 特開昭59−024234(JP,A) 特開平08−005537(JP,A) 特開平06−264047(JP,A) 特開平04−181151(JP,A) 特開2001−304945(JP,A) 2 2005164495 20050623 15 20050616 (出願人による申告)平成15年度経済産業省「ダイオキシン類及び内分泌撹乱物質のセンシングシステムを用いた環境リスク対策の研究」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願 ▲高▼見 重雄 本発明は、各種汚染ガス等に対して有利に適用されるガスセンサー素子に関するものである。 従来、最も広く利用されている酸化物半導体センサーは、高温に熱した酸化物半導体に可燃性ガスが吸着すると電気抵抗が変わることを利用したガスセンサーである。このセンサーは高感度を示すが、有機ガスに対する分子選択性に大きな問題があった。これに対し、導電性高分子ガスセンサーでは、吸着膜を変えることで反応ガスを選択できる。この導電性高分子を使うガスセンサーは、導電性高分子膜に付いたガスがドーピング状態を形成することによって電気抵抗値を変える現象を利用してガス濃度を測定できる。しかし、このセンサーの場合、いったんガスが付くと、高分子膜とガス分子との間で強い共有結合が形成され、ガス雰囲気から出しても電気抵抗値がもとにもどらないという欠点があった。即ち、導電性高分子を利用したガスセンサーは、ガスの選択性が良いものの、感知したガス分子が膜に結合して残ってしまうため繰り返し利用することができなかった。 一方、絶縁性の高分子を分子認識膜として用いるガスセンサーとしては、高分子薄膜をキャストまたはスピンコートしてセンサー上に製膜する手法が知られている。ガスセンサーの基板上に有機高分子薄膜を分子認識膜として製膜する方法として、例えば、キャスト法は、分子認識膜となる当該の高分子をその溶媒に溶解した高分子溶液をセンサー上に乗せた後に溶媒を揮発させる方法であるが、この方法では、センサー上で均一なガラス状薄膜にするためにポリマーのガラス転移温度以上で真空アニール処理を行う必要がある上、該キャスト膜はセンサーから剥離しやすく、かつキャストの際に使用する溶媒の完全除去が難しい等の問題があった。スピンコーティング法は、高分子溶液をセンサー上に被覆するのにキャスト法に比べより均一性の優れた方法であるが、センサー上で均一なガラス状薄膜にするためには、更に真空アニール処理を行う必要があり、溶媒の完全除去が難しくキャスト法と同様な問題がある(機能薄膜プロセス技術集成、南日康夫、相澤益男編集丸善、1985年、や、21世紀版薄膜作成応用ハンドブック、權田俊一、エヌ・ティー・エス、2003年に記載)。真空蒸着法もセンサー基板上への薄膜の優れた製造法の一つではあるが、センサー基板との接着性と高温による昇華に分解しない分子に原料が限定されること、さらに蒸着膜自身での安定性に深刻な問題があり膜強度が充分ではなく繰り返し使用での耐久性に大きな問題があった(黒澤ら、Analytical Chemistry,62,4,p353−359(1990))。 本発明は、高感度で高耐久性を有し、かつ連続使用の可能なガスセンサー素子を提供することをその課題とする。 本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば、以下に示すガスセンサー素子が提供される。(1)圧電素子の表面にプラズマ重合体被膜を被覆したものからなり、該プラズマ重合体被膜は、該圧電素子表面上で原料モノマーをプラズマ重合して形成したものであることを特徴とする繰り返し使用が可能なガスセンサー素子。(2)圧電素子の表面にアクリル酸重合体被膜を被覆したものからなり、該アクリル酸重合体被膜は、該圧電素子表面上でアクリル酸をプラズマ重合して形成したものであることを特徴とする繰り返し使用が可能なガスセンサー素子。(3)該アクリル酸重合体被膜が真空アニール処理されていることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の繰り返し使用が可能なガスセンサー素子。 本発明によれば、高感度と高選択性を併せ持ち、かつ繰返し使用の可能な耐久性にすぐれたガスセンサー素子が提供される。 本発明で用いる圧電素子としては、従来公知の各種のものを用いることができる。一般的には、その発振周波数が1〜10,000MHz/秒、好ましくは5〜10,000MHz/秒のものが好ましく使用される。この圧電素子、例えば水晶振動子において、その厚さは0.2〜0.001mm、好ましくは0.25〜0.01mmであり、その寸法は、その電極表面積で表わして、1.0〜0.0002cm2、好ましくは0.3〜0.02cm2である。圧電素子の電極表面に用いる金属の材質には、クロムやチタンを下地に、金、銀、白金、ITO、銅、ニッケル等をもちいることが出来るが、特に含塩溶液に接した際に安定性の高い金及び白金が好ましく、特に、金が経済的にも加工上でも最も好ましい。 圧電素子は、上記の特性を満たしていれば自作できるが、各種のものが市販されているので、本発明ではこのような市販品を用いることができる。 本発明で使用する圧電素子としては、水晶振動子、セラミック振動子、表面弾性波素子、表面剪断波素子等が挙げられる。本発明では、これらの圧電素子の圧電効果を利用してセンサー上での分子認識反応を検出する手法であるが、本発明では特に水晶振動子の使用が好ましく、この水晶振動子等の圧電素子について記載する。このような圧電素子の動作原理と種別については、J. W. Grate, S. J. Martin, R. M. White, Anal. Chem., 65, 21 (1993)940A-948A. および、J. W. Grate, S. J. Martin, R. M. White, Anal. Chem., 65, 22 (1993) 987A-996A.の総説に記載されている。使用する水晶振動子では、1〜1,000MHzの水晶振動子の基本周波数やその各自の倍音での発振周波数測定法及び共振周波数測定法が利用できる。水晶振動子に換えて表面弾性波素子、表面剪断波素子、セラミック振動子等の圧電素子が同様の手法で適用できる。 本発明のガスセンサー素子は、圧電素子の表面に、原料モノマーをプラズマ重合法により、重合させて重合体被膜を形成することによって製造することができる。この場合のプラズマ重合は、従来公知のプラズマ重合装置を用いて各種のモノマーを原料として実施することができる。該重合体被膜の厚さは、通常、10〜2000nm、好ましくは50〜1500nm、より好ましくは100〜1000nmである。 該重合体の分子量は、数平均分子量で、通常、1000以上、特に10000以上であり、その上限値は、通常100万程度である。 原料モノマーとしては、プラズマ重合可能なものであればよく、従来公知の各種のビニルモノマーが用いられる。このようなビニルモノマーとしては、オレフィン系モノマー(エチレン、プロピレン、ブチレン等)、スチレン系モノマー(スチレン、ジビニルベンゼン、クロロスチレン等)、アクリル系モノマー(アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド等)、ジエン系モノマー(ブタジエン、イソプレン等)の他、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、それらの混合物等が挙げられる。 本発明においては、該重合体被膜は、真空アニール処理(熱処理)するのが好ましい。この場合、真空条件としては、1トール(6.7×10−2パスカル)以下、好ましくは5×10−4トール以下の条件が採用される。加熱温度は、該重合体被膜のガラス転移温度(Tg)以上、好ましくは、該Tgよりも10〜30℃高い温度、より好ましくは5〜20℃高い温度である。その加熱時間は、通常、1〜100時間、好ましくは8〜80時間である。 該重合体被膜の真空下での加熱により、該薄膜内部の残留イオンや残留ラジカルを再結合させ、薄膜内部の架橋密度を向上させることができる。これによって該被膜は不安定な要因が除去されるとともに、その耐久性が向上する。 本発明によるガスセンサー素子は、該重合体被膜に吸着したガス量に応じて、該圧電素子による発振周波数が変動する素子であり、逆に、該圧電素子の発振周波数を測定することにより、該被膜に対するガス吸着量を知ることができる。 本発明のガスセンサー素子は、該素子に含まれるアクリル酸重合体等のビニル重合体が吸着性を示す各種ガスに対するガスセンサー素子として用いられる。 本発明によるガスセンサー素子と該素子により吸着されるガスとの関係は、該重合体被膜と該ガスとの親和性に依存し、酸性を示すモノマーにより形成された重合体被膜は、中性〜塩基性のガスに対して強い吸着性を示す。一方、塩基性を示すモノマーにより形成された重合体被膜は、中性〜酸性のガスに対して強い吸着性を示す。疎水性モノマーにより形成された重合体被膜は、疎水性ガスに対して強い吸着性を示し、親水性モノマーにより形成された重合体被膜は、親水性ガスに対して強い吸着性を示す。 本発明によるアクリル酸重合体等のビニル重合体被膜を有するガスセンサー素子に対して吸着性を示すガスには、例えば、塩基性ガス類(アンモニア、トリメチルアミン、トリアエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミン、エチレンジアミンなど)、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド等)、芳香族ガス類(ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、アントラセン、ベンゾ[α]ピレン、コプラナーPCB等、ダイオキシン類など)、強酸性ガス(硫酸、亜硫酸、硝酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、SOx、NOx、など)、有機ガス(アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、モノクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、フロン類、エチレンオキサイド、トリニトロトルエン、ジニトロトルエン、石油類、ジエチルエーテル、農薬、殺虫剤、殺鼠剤、化学剤(有機ヒ素類、有機リン類、サリン、イペリット、VX、ホスゲン、マスタード、等)などが包含される。 次に、本発明を実施によりさらに詳細に説明する。なお、これらの実施例は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施例1(プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の作製及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子の作製) 文献(黒澤ら、Thin Solid Films,374,2(2000)p262−267)に記載のサムコインターナショナル研究所(株)製のプラズマ重合装置(BP−1)を用い、該文献記載の方法に従いプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子を以下のようにして作成した。 日本電波工業(株)製のAT−cut 9MHz金電極の水晶振動子をプラズマ重合装置内部の下部電極上に配置し、放電周波数13.56MHzで放電出力100W、ヘリウムガス圧力100Paで1分間、Heプラズマでのスパッタリング処理を水晶振動子に行った。次に、アクリル酸モノマーによるプラズマ重合を放電周波数13.56MHzで放電出力100W、モノマーガス圧力100Paでの重合条件下で水晶振動子の両面に30秒ずつ行った。 図1にプラズマ重合時間と重合膜付着による水晶振動子の発振周波数変化との関係を示す。図1よりアクリル酸プラズマ重合膜の付着量とプラズマ重合時間とは良い比例関係が得られた。表1には水晶振動子で測定したプラズマ重合アクリル酸の付着量と膜厚との関係を示す。このことからプラズマ重合時間の制御により、水晶振動子上へ被覆するプラズマ重合膜厚の制御を行った。 一方、比較のために、ポリアクリル酸膜により被覆された水晶振動子を以下のようにして作成した。 ポリアクリル酸膜被覆水晶振動子の作製法は、ポリアクリル酸(和光純薬(株)製、平均分子量10万)を純水(Milli−Qシステムで作成した純水)に溶解し、0.1(w/v)%溶液とした。この溶液を水晶振動子上にキャストし、25℃の温度制御下に一週間で溶媒を乾燥後に100℃で80時間の真空アニール処理を行った。この結果、各条件で被覆したポリアクリル酸薄膜は透明な均一膜が得られた(真空アニール処理がないと不均一な白粉状のポリマーが振動子の電極上に覆う)。水晶振動子上での被覆量は水晶の発振周波数変化から算出した。この場合には、ポリマー溶液の添加量を変えることで、水晶振動子上へのポリアクリル酸膜被覆量が制御できる。 図2に、アクリル酸モノマー、ポリアクリル酸及びプラズマ重合アクリル酸のFT−IR測定結果を示す。図2より、プラズマ重合膜にはプラズマ重合後もポリアクリル酸由来の吸収は保持されているが、プラズマ重合膜の各吸収はブロード化しており、薄膜中の分子構造は多様性を増していることが明らかである。 図3と表2にポリアクリル酸キャスト膜及びプラズマ重合アクリル酸膜のXPS測定結果を示す。この表面元素組成比からも、キャスト法で作製した膜はポリアクリル酸の構造を保持しているが、プラズマ重合膜では、アクリル酸のカルボキシル基の量が減少していることが明らかである。この各々の薄膜を被覆した水晶振動子を用いてガス吸着・脱着測定を行った。実施例2(プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子への水蒸気の吸着・脱着測定) プラズマ重合時間を1〜5分間に設定し、膜厚の異なるプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子を作製し、ガスの吸・脱着実験を行った(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)。これらの膜厚の異なるプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子へのガスの吸着・脱着測定を行った。 図4に、文献(黒澤ら、Chemical Sensors,16B,p37−39(2000))記載の従来法で一つのセンサーのみを利用したガス吸着測定装置を示す(プラズマ重合薄膜やキャスト法によりガス認識膜を被覆した水晶振動子上へのガス吸着測定を行った)。 該文献に記載の手法に従い、ガス吸着測定容器は容積500mLのテフロン(登録商標)製の筐体中に薄膜被覆水晶振動子センサーを設置し、容器上部からの試料ガスの注入用のガスシリンジにより一定量の各濃度の試料ガスを容器内部に導入する。試料ガスの吸着測定前のセンサー薄膜中の乾燥と吸着ガスの脱離のために乾燥窒素ガスを流入、排出するための制止弁から構成されており、容器外の上部に水晶振動子用の発振回路とその出力が周波数計に接続している。水晶振動子の発振周波数の経時的な測定はコンピューター上に導入したLabView計測プログラム(ナショナルインスツルメント(株)製を基盤に作成)により自動化されている。 図5に、534ppmの水蒸気に対する各種膜厚のプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の周波数応答性を示す。 制御用のコンピューターを除きガス吸着測定系を20±0.1℃の温度調整された恒温層中に設置した。ガス吸着測定は、先ず99.99%の純度の窒素ガスを1L/minの流速で流通させ窒素雰囲気中で各プラズマ重合膜被覆水晶振動子の発振周波数の安定を確認した後に、窒素ガスを制止し発振周波数のベースラインを5分間測定した。次に試料ガスを注入し、15分間のガス吸着測定を行った。15分後に、再度、乾燥窒素を1L/minの流速で流通させ窒素雰囲気中で各プラズマ重合膜被覆水晶振動子からの吸着ガスの脱離を行った。 以後に記述される測定ガス濃度は島津製作所(株)のガスクロマトグラフィー(GC14A)かガステック(株)のガス検知管で測定した。実験に用いた6種類のガス濃度は、水蒸気が534ppm、エタノールが200ppm、アセトンが80ppm、ジエチルエーテルが2400ppm、トルエンが40ppm、アンモニアが400ppmを用いた。 図5では、各種膜厚のプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子は水蒸気を注入した直後に発振周波数が急激に減少した。この各素子の発振周波数変化は、プラズマ重合膜のカルボキシル基に水蒸気が吸着したためと考えられる。また、重合膜厚が厚くなるにつれて吸着量は増加した。これは重合膜の表面だけに水蒸気が吸着するのではなく、膜の内部にも拡散した水蒸気の吸着が起こるためと考えられる。各素子での窒素ガス導入での吸着水蒸気の脱離は迅速に進み、約20分で発振周波数はもとのベースラインに復帰した。 図6に、534ppmの水蒸気に対する923nm膜厚のポリアクリル酸キャスト膜被覆水晶振動子と1062nm膜厚のプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の周波数応答性を示す。キャスト膜は、プラズマ重合膜と同程度のガス吸着量を示し、一方、吸着した水蒸気の脱離にはプラズマ重合膜より多くの時間を要した。実施例3(ガス分子認識膜で被覆したガスセンサーの水蒸気に対する繰り返し応答性の測定) 図7に534ppmの水蒸気に対するプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子とポリアクリル酸キャスト膜被覆水晶振動子での30回の繰り返し周波数応答性を示す(各1個の同じものを30回繰り返して使用した)。図7の縦軸は15分間のガス吸着による発振周波数変化量の最大値を示し、横軸は実験回数を示す。プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子は、水蒸気の繰り返し吸着量に再現性が見られるのに対し、ポリアクリル酸キャスト膜被覆水晶振動子では吸着量に再現性が見られなかった。 図8には、534ppmの水蒸気を吸着したプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子への繰り返しガス脱着による基本周波数可逆性(ガス吸着前の発振周波数からのズレ)を示す。プラズマ重合膜では各繰り返し測定で元の発振周波数に復帰しているが、キャスト膜では復帰せず、基準発振周波数よりも大きく上の値を示すことが何回もみられた。キャスト法では、溶媒蒸発後に真空アニール処理で膜を作製しているが、水が完全に蒸発することが難しいためと思われる。以上のことから、プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子は、水蒸気の繰り返し吸着量と脱着量に再現性が得られることが明らかとなった。実施例4(プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子へのアンモニアの吸着・脱着測定) 図9には400ppmのアンモニアに対する各種膜厚のプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の周波数応答性を示す。重合時間(膜厚)の増加に伴いガス吸着量は増加を示す。また、図10には400ppmのアンモニアに対する609nm膜厚のポリアクリル酸膜被覆水晶振動子と1062nm膜厚のプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の周波数応答性を示す。プラズマ重合膜とキャスト膜でほぼ同じ吸着量であった水蒸気と比べて、アンモニアではガス吸着量は10倍も大きくなることが示された。一方、ガス脱着性はプラズマ重合膜が約1時間でベースラインに復帰するのに対して、キャスト膜では24時間を要した。 図11に、400ppmのアンモニアに対するプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子とポリアクリル酸膜被覆水晶振動子の繰り返し周波数応答性を示す。プラズマ重合膜は毎回、同じ吸着量を示すのに対し、キャスト膜では吸着量に再現性が得られなかった。 図12に、400ppmのアンモニアを吸着したプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子からの繰り返しガス脱着による基本周波数可逆性(ガス吸着前の周波数からのズレ)を示す。プラズマ重合膜はもとのベースラインに毎回復帰するのに対し、キャスト膜では再現性が得られなかった。実施例5(プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子への種々の各種試料ガスの吸着に対する応答感度) プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子へのエタノール、アセトン、ジエチルエーテル、トルエンのガス吸着についてもプラズマ重合膜とキャスト膜両方とも、ほぼ同じ傾向が得られた。ガス分子認識膜へのガス吸着をセンサー感度として比較するため、下記式(1)に示す計算式を用いて、被覆膜の重量の差異や測定に用いたガス濃度に依存しない規格化を行い測定値相互の比較を行った。即ち、試料ガス1ppmあたりの応答感度を算出した。 S:試料ガス濃度あたりの感度(ppm−1) P:重合量(ng) M0:モノマー分子量(g/mol) G:試料ガス吸着量(ng) M1:試料ガス分子量(g/mol) C:試料ガス濃度 (ppm) 図13には、試料ガスに対するポリアクリル酸キャスト膜被覆水晶振動子の応答感度を示し、図14に試料ガスに対するプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の応答感度を示す。図13と図14からプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子はアンモニアに対して非常に大きな選択性を示す。以上の実験結果から、プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子は、アンモニアの分子認識膜として特に優れ、かつ繰り返し使用できるセンサーであることが明らかとなった。実施例6(プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子への種々の各種試料ガスの吸着に対する応答感度) 図15に本発明での高効率なガス吸着測定装置を示す。本装置はプラズマ重合薄膜やキャスト法によりガス認識膜を被覆した複数の水晶振動子上へのガス吸着測定を行う(一以上の複数個のセンサーを利用し、同時にガス吸着・脱着測定によるガス分子認識薄膜の性能評価が行えるものであり、本例では16チャンネル(CH)のものでの測定例を示す)。この装置は、各チャンネルに一つのガス吸着膜被覆水晶振動子を装着し、その発振周波数を1秒毎に0.1Hzの周波数分解能での10桁の数値をプログラムICで検出し、デジタルデータとして同時に制御用コンピューターに出力するものである。データ出力はコンピューター上に表示し、数値を各種の記録媒体に記録し、解析できるプログラムで制御している。従来のガス吸着測定装置では計測が不可能な試料ガスの時間・空間的な濃度分布や複数のガス分子認識被膜の同時性能評価が可能である。 その測定結果の一例として、図16に400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力の下で、100Paのアクリル酸モノマー圧力下に同時に16個の水晶振動子を被覆した試料を使用)を示す。プラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の各振動子には重合膜被覆量に多少のばらつきがあり、このばらつきがアンモニア吸着量へのばらつきに反映されている。 図17に、400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回のガス応答性を示す。図中のエラーバーは標準偏差を示す(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマーで同時に16個の水晶振動子を被覆したものを使用)。 図18に、重合膜量を規格化するために、400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答感度を示す(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)。 図19に、400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回のガス応答感度を示す。図中のエラーバーは標準偏差を示す(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Pa)。 図20に、400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回のガス応答性を示す。図中のエラーバーは標準偏差を示す(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)。 図21に、400ppmのアンモニアに対する16個の素子のプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回の応答感度を示す。図中のエラーバーは標準偏差を示す(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)。実施例7(プラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の作成条件の検討) 図22に、400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答性を示した(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Paの放電出力で図中に表示の各種の放電出力を用い、各被膜の膜厚を約1000nmに調整した)。ガス応答量は10W、30W、50W、70W、100W、150W、200W、250Wの順に小さくなる傾向を示す。一方、ガスの繰り返し応答性があるものは、100W以上の放電出力で合成したものに限られた。 図23に、400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答を示す(プラズマ重合条件は、100Paのアクリル酸モノマーで13.56MHzの放電周波数で図中に表示の各種の放電出力を用いた後、さらに100℃で真空アニール処理の8時間を行った後の試料を用いた)。図22と同様に、ガス応答量は10W、30W、50W、70W、100W、150W、200W、250Wの順に小さくなる傾向を示すが、100W以下の放電出力でのガス吸着量はそれぞれ減少を示した。 同様に、図24に、400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答を示す(プラズマ重合条件は、13.56MHz、100Paのアクリル酸モノマーで図中に表示の各種の放電出力を用いた後、さらに100℃で真空アニール処理の80時間を行った後の試料を用いた)。図22及び図23と同様に、ガス応答量は10W、30W、50W、70W、100W、150W、200W、250Wの順に小さくなる傾向を示すが、100W以下の放電出力でのガス吸着量は図23のそれぞれの値からさらに減少を示した。 以上のことから、アンモニアに対して分子認識能力が高く、かつ繰り返し耐久性を有するプラズマ重合膜の合成条件とその性能の迅速かつ簡易な評価方法を構築できた。水晶振動子によるプラズマ重合アクリル酸の重合膜堆積速度の測定結果を示す。アクリル酸モノマーとポリアクリル酸及びプラズマ重合アクリル酸のFT−IR測定結果を示す。ポリアクリル酸及びプラズマ重合アクリル酸のXPS測定結果を示す。従来法のガス吸着測定装置を示す。534ppmの水蒸気に対する各種膜厚のプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の周波数応答性を示す。534ppmの水蒸気に対する923nm膜厚のポリアクリル酸膜被覆水晶振動子の周波数応答性を示す。534ppmの水蒸気に対するプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子とポリアクリル酸膜被覆水晶振動子の繰り返し周波数応答性を示す。534ppmの水蒸気を吸着したプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子への繰り返しガス脱着による基本周波数可逆性(ガス吸着前の周波数からのズレ)を示す。400ppmのアンモニアに対する各種膜厚のプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の周波数応答性を示す。400ppmのアンモニアに対する609nm膜厚のポリアクリル酸膜被覆水晶振動子の周波数応答性を示す。400ppmのアンモニアに対するプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子とポリアクリル酸膜被覆水晶振動子の繰り返し周波数応答性を示す。400ppmのアンモニアを吸着したプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子及びポリアクリル酸膜被覆水晶振動子からの繰り返しガス脱着による基本周波数可逆性(ガス吸着前の周波数からのズレ)を示す。試料ガスに対するポリアクリル酸膜被覆水晶振動子の応答感度を示す。試料ガスに対するプラズマ重合アクリル酸膜被覆水晶振動子の応答感度を示す。本発明でのガス吸着測定装置を示す。400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)を示す。400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回のガス応答を示す。図中のエラーバーは標準偏差(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)を示す。400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回のガス応答を示す。図中のエラーバーは標準偏差(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)を示す。400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回のガス応答感度を示す。図中のエラーバーは標準偏差(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Pa)を示す。400ppmのアンモニアに対する16個のプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回のガス応答を示す。図中のエラーバーは標準偏差(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)を示す。400ppmのアンモニアに対する16個のプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子の10回の応答感度を示す。図中のエラーバーは標準偏差(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Wの放電出力、100Paのアクリル酸モノマー)を示す。400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答(プラズマ重合条件は、13.56MHzで100Paの放電出力で図中に表示の各種の放電出力を用いた)を示す。400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答(プラズマ重合条件は、13.56MHz、100Paのアクリル酸モノマーで図中に表示の各種の放電出力を用いた後、さらに100℃で真空アニール処理の8時間を行った後の試料を用いた)を示す。400ppmのアンモニアに対する各チャンネルのプラズマ重合膜アクリル酸被覆水晶振動子のガス応答(プラズマ重合条件は、13.56MHz、100Paのアクリル酸モノマーで図中に表示の各種の放電出力を用いた後、さらに100℃で真空アニール処理の80時間を行った後の試料を用いた)を示す。 圧電素子の表面にアクリル酸重合体被膜を被覆したものからなり、該アクリル酸重合体被膜は、該圧電素子表面上でアクリル酸モノマーをプラズマ重合して形成し、真空アニール処理されているものであることを特徴とする繰り返し使用が可能なガスセンサー素子。 請求項1に記載のガスは、塩基性ガス、アルデヒド類ガス、強酸性ガス、有機ガス、農薬、殺虫剤、殺鼠剤及び化学剤ガスであることを特徴とする繰り返し使用が可能なガスセンサー素子。