生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_フッ化物イオンの定量方法
出願番号:2003394519
年次:2008
IPC分類:G01N 31/00,G01N 21/77,G01N 31/22


特許情報キャッシュ

松永 英之 鈴木 敏重 JP 4058522 特許公報(B2) 20071228 2003394519 20031125 フッ化物イオンの定量方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 阿形 明 100071825 松永 英之 鈴木 敏重 20080312 G01N 31/00 20060101AFI20080221BHJP G01N 21/77 20060101ALI20080221BHJP G01N 31/22 20060101ALI20080221BHJP JPG01N31/00 QG01N21/77 BG01N31/22 122 G01N31/00〜31/22 G01N21/75〜21/83 CAplus(STN) JSTPlus(JDream2) БОГДАНОВИЧ Л И,Спектрофотометрическое определение фтора во флюсе,Автомобильная промышленность,1975年,Vol.41, No.3,Page.35-36 Analyst,1978年,Vol.103, No.1232,Page.1173-1176 Украинский химический журнал,1974年,Vol.40, No.6,Page.638-643 Chemia analityczna,1970年,Vol.15, No.3,Page.607-614 Anal Sci,2005年,Vol.21, No.8,Page.973-977 5 2005156323 20050616 9 20050502 三木 隆 本発明は、水溶液中に微量に存在するフッ化物イオンを、ジルコニウム系多核錯体を含む水溶液を用いて高感度かつ迅速に定量する方法に関するものである。 従来、フッ化物イオンの定量方法として、アリザリンコンプレクサンのランタン(III)錯体を用いる比色法が知られ、工業用水中のフッ化物イオンを定量する公定法(工業用水試験法JIS K0101,K0102)として採用されている。この方法は、フッ化物イオンの存在下でのランタン(III)錯体の吸収スペクトルの強度変化を用いるものであるが、生成錯体種が複雑であること、発色試薬とその錯体が化学的に不安定で溶液として長期の保存が困難であること、発色反応に時間がかかるため加熱しなければならないなどの欠点を有している。 また、アリザリンコンプレクサンのセリウム(III)錯体も同様に比色法として用いられるが(非特許文献1)、感度及び試薬溶液の安定性の点で問題があった。さらに、ジルコニウム(IV)及びアルミニウム(III)などと有機色素化合物との錯体を利用する退色法が古くから知られているが(非特許文献2)、塩酸などの強酸性条件下で反応させなければならない上、発色が温度に著しい影響を受けるため分析精度の点で難点があった。アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry),第3巻,第1308ページ(1962年)分析化学便覧、改訂4版、第293ページ 本発明の課題は、このような事情のもとで、水溶液中に微量に存在するフッ化物イオンを、簡単な操作で、高感度かつ迅速に定量する方法を提供することにある。 本発明者らは、フッ化物イオンの定量について鋭意研究を重ねた結果、特定のジルコニウム系でピロカテコールバイオレットを有する多核錯体を含む水溶液、中でも水溶性のジルコニウム(IV)錯体とピロカテコールバイオレットとを含み、多核錯体を形成する水溶液が、青紫色等に呈色すること、そしてこの水溶液にフッ化物イオンを加えると、ピロカテコールバイオレットとの配位子置換反応により、ピロカテコールバイオレットの配位結合が段階的にとれ、ついにはピロカテコールバイオレットが遊離し、その過程で紫色を経て赤紫色に変色すること及びその変色度がフッ素イオン量に依存することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。 すなわち、本発明は、(A)フッ化物イオン含有水溶液検体試料を、(B)ジルコニウム(IV)とピロカテコールバイオレットと多座配位子とからなるジルコニウム系多核錯体を含む水溶液に加えたのち、pHを4〜5の範囲に調整して発色させ、得られた被検発色液の色調又は色の濃さを比色するか、あるいはこの発色させた水溶液の可視吸収スペクトルを、同じpH調整に付して発色させた対照液の可視吸収スペクトルと対比し、対応する波長における両者のピーク吸光度について、その減少量比を求めることを特徴とする検体試料(A)のフッ化物イオンの定量方法を提供するものである。 本発明方法に用いられる、ジルコニウム系多核錯体を含む水溶液(B)(以下、これを錯体水溶液(B)という)は、ジルコニウム系多核錯体を溶質とし、該錯体はZr(IV)と、その配位子としての多座配位子とピロカテコールバイオレットとを有し、該錯体の配位構造はZr(IV)の8個の配位座のうちの2座にピロカテコールバイオレットが、残余の配位座の全て又は一部に多座配位子がそれぞれ結合してなるものである。 多座配位子としては、例えば複数個のカルボキシル基をもつ、シュウ酸等のポリカルボン酸も挙げられるが、好適には2個以上のカルボン酸で置換されたアミン系化合物、中でもジルコニウム(IV)との錯生成定数が大きいもの、例えば、NTA(ニトリロトリ酢酸)、EDTA(エチレンジアミン‐N,N,N′,N′‐テトラ酢酸)、HEDTA[N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン‐N,N′,N′‐トリ酢酸]や、これらに対応するプロピオン酸誘導体等が挙げられる。 錯体水溶液(B)として好適には、ジルコニウム(IV)と多座配位子とからなる水溶性のジルコニウム(IV)錯体とピロカテコールバイオレットとを含む水溶液が挙げられ、この水溶液については、上記ジルコニウム(IV)錯体とピロカテコールバイオレットの割合をモル比で4:1〜10:1の範囲、中でも5:1〜8:1の範囲、特に6:1又はその付近で選ぶのが明確な変色が得られるので好ましい。 また、錯体水溶液(B)における該ジルコニウム(IV)錯体の濃度は、通常10-5〜10-4モル/リットルの範囲で選ばれる。 このジルコニウム(IV)錯体としては、例えば[Zr(H2O)2EDTA]2H2O、K2[Zr(CO3)EDTA]3H2O、[Zr(H2O)2HEDTA]Clなどがある。これらの錯体はその生成反応液から単離精製して用いるのが好ましい。Zr(IV)の配位数は8であり、6配位のEDTAなどが結合しても2個の配位座が残るので、この残余の配位サイトを用いて単座や2座の配位子との三元錯体を形成することが可能である。 このジルコニウム(IV)錯体を水溶液の状態とし、該錯体における残余の配位サイトに、2座配位のピロカテコールバイオレットを結合させて多核錯体を形成することにより、青紫色を呈し、それに相応して可視吸収スペクトルにおける所定波長領域に吸収ピークを有する。そして、該三元錯体は、フッ化物イオンによりピロカテコールバイオレットが段階的に置換され、最終的には遊離されることにより、段階的に変色する。この段階的反応の1例のスキームを示す。この例ではジルコニウム(IV)錯体としてZr(IV)−EDTAが用いられている。 この反応スキームに示されるように、多核錯体としてモル比2:1のZr(IV)−EDTAとピロカテコールバイオレットとからなるものが用いられ、これは水溶液にすると色相が青紫色を呈する。該錯体の水溶液にフッ化物イオンを加えると、先ず、フッ化物イオンが該錯体の一方のピロカテコールバイオレット配位個所で置換し、一方のZr(IV)−EDTA錯体と結合し、ピロカテコールバイオレットは他方のZr(IV)−EDTA錯体と単核錯体を形成するようになり、色相は紫色に変わる。次に、さらにフッ化物イオンを加えると、該錯体の残りの他方のピロカテコールバイオレット配位個所で置換し、残りの他方のZr(IV)−EDTA錯体と結合し、ピロカテコールバイオレットは遊離され、色相は赤紫色に変色する。 多座配位子が存在するとジルコニウム錯体が安定化し、フッ化物イオンとピロカテコールバイオレットの反応を容易に進行させることができ、その結果、変色が鋭敏になる。 本発明方法においては、上記した錯体水溶液(B)、例えばジルコニウム(IV)と多座配位子とからなる水溶性のジルコニウム(IV)錯体とピロカテコールバイオレットを含む水溶液等に、検体試料(A)を加え、混合溶液にしたのち、混合溶液のpHを4〜5の範囲に調整して発色させ、被検発色液とする。pHがこの範囲を逸脱すると、変色の度合が小さくなり、感度が低下する。pH調整には、酢酸緩衝液やフタル酸緩衝液が好適に用いられる。このような条件下では、変色は室温では通常3分以内に平衡に達する。 そして、検体試料(A)のフッ化物イオン濃度の定量は、このようにして得た被検発色液について、その色調又は色の濃さを比色するか、あるいは可視吸収スペクトルの変化を利用することにより行われる。 色調を比色する方法は、色調又は色の濃さの変化を利用するものであって、既知の各種濃度のフッ化物イオン標準溶液の色調又は色の濃さと検体試料(A)のそれとを目視で比較する方法すなわち比色定量又は比色分析の方法が挙げられ、この方法では目視に基づく検出限界は約0.3ppm(1.5×10-5モル/リットル)である。 可視吸収スペクトルの変化を利用する方法としては、錯体水溶液(B)を上記と同じpH調整に付して発色させて得た対照発色液の該スペクトルにおけるピーク吸光度に対し、このピーク吸光度を示す波長における被検発色液の該スペクトルの吸光度が減少する割合を減少量比として求めるのが好ましい。 その際、ピーク吸光度を示す波長としては、減少量比が最大となるものを利用するのが好ましい。 例えば、前記反応スキームに示されるように、多核錯体としてモル比2:1のZr(IV)−EDTAとピロカテコールバイオレットを用いた場合には、その錯体水溶液(B)を上記と同じpH調整に付して発色させて得た対照発色液の可視吸収スペクトルにおけるピーク吸光度を示す波長のうち、該波長における被検発色液の該スペクトルの吸光度の減少量比が最大であるのは628nmであるので、この波長を利用して、フッ化物イオン濃度を一定基準で順次変化させた各種フッ化物イオン標準溶液を用い、この濃度を異にする各種標準溶液をそれぞれこの錯体水溶液(B)に加えた際における可視吸収スペクトルの波長628nmにおける吸光度の減少量比に基づき検量線を作成し、この検量線を用いて、未知濃度の検体試料(A)のフッ化物イオン濃度を定量する方法が挙げられる。この方法では検量線に基づく検出限界は約0.18ppm(0.8×10-5モル/リットル)である。 本発明方法においては、フッ化物イオン1ppm(5.5×10-5モル/リットル)に対して、塩素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオンがそれぞれ1×10-3モル/リットル程度共存していても、これらの妨害を受けずにフッ化物イオンを定量できる。また、Fe(III)、Al(III)、Cu(II)などの陽イオンの共存は、フッ化物イオンの定量を妨害することがあるが、マスキング剤として、例えばEDTAを用いることにより防ぐことができる。 本発明方法においては、錯体水溶液(B)は試薬溶液として用いられ、常温で1か月間以上安定に保存可能である上に、呈色も室温下で1週間以上安定であり、試薬溶液や検量線溶液は、アリザリンコンプレクサンを用いる従来の比色システムよりも長期間にわたって極めて安定に用いることができる。 本発明方法によれば、水中の微量フッ化物イオンを、室温で迅速に目視判定等により定量することができる。本発明方法は、試薬系が水溶液中で長期間安定であるため、半導体工業、表面処理工程から排出されるフッ化物イオン含有排水や地下水中の微量フッ化物イオンのモニターや簡易定量に好適であり、極めて実用的価値が高い。 錯体水溶液(B)としては、ジルコニウム(IV)と多座配位子とからなる水溶性のジルコニウム(IV)錯体とピロカテコールバイオレットとを含む水溶液が好ましく、該ジルコニウム(IV)錯体における多座配位子としては、2個以上のカルボン酸で置換されたアミン系化合物、中でもエチレンジアミン‐N,N,N′,N′‐テトラ酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン‐N,N′,N′‐トリ酢酸、ニトリロトリ酢酸が好ましい。 また、検体試料(A)を錯体水溶液(B)に加えてなる混合液のpH調整は、pH4〜5の範囲、好ましくはpH4.2又はその付近になるように行うことが必要である。 前記した吸光度の減少量比を求める定量方法においては、ピーク吸光度を示す波長として、該減少量比が最大となるものを利用するのが好ましい。 次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。なお、Mはモル濃度を示す。 25mlメスフラスコに、12ミリモル/リットル濃度の[Zr(H2O)2EDTA]水溶液5ml、0.2ミリモル/リットル濃度のピロカテコールバイオレット水溶液5ml、1M酢酸緩衝液250μlを入れ、これにフッ化物イオンを含む水溶液を検液として加え、純水を用いて全量25mlとした被検発色液を試料として得た。試料を3分室温で放置したのち、分光光度計にて可視吸収スペクトルを求めた。試料のフッ化物イオンの濃度を種々変えた場合の可視吸収スペクトルの変化を図1に示す。これより、フッ化物イオンの濃度が濃くなるに従い、波長628nmにおける吸光度が減少することが分る。 実施例1の試料の被検発色液について、フッ化物イオンのモル濃度と波長628nmにおける吸光度とを関数として検量線を作成した。図2にこの検量線を示す。低濃度フッ化物イオン(0.1ppm−0.5ppm)とそれ以上の濃度のフッ化物イオンに対しては、それぞれに検量線の勾配が異なるが、これは変色反応が二段階で起こることを示唆している。 波長628nmにおける吸光度とpHの関係をフッ化物イオンの存在下、非存在下で調べた。25mlメスフラスコに、12ミリモル/リットル濃度の[Zr(H2O)2EDTA]水溶液5ml、0.2ミリモル/リットル濃度のピロカテコールバイオレット水溶液5ml、1MのpH緩衝液250μlを入れ、さらに0.5ミリモル/リットル濃度のフッ化物イオンを加えたもの(Zr−EDTA−PV−F)と加えないもの(Zr−EDTA−PV)とを調製し、純水を用いて全量25mlとした。また、同じ濃度のピロカテコールバイオレットだけを含むpHの異なる試料(PV)を調製した。これらを3分室温で放置したのち、分光光度計にて可視吸収スペクトルを求めた。得られた吸収スペクトルの波長628nmにおける吸光度とpHの関係を図3に示す。これより、吸光度はpH依存性を示し、特にpH4〜5の範囲で吸光度が大きく変化することが分る。 実施例1の、フッ化物イオン濃度の異なる各試料の色調の変化を図4に写真で示す。図4は、フッ化物イオンを含まない青紫色から紫色を経て3ppmのフッ化物イオンを含み赤紫色に変色する様子をフッ化物イオン濃度に従い段階的に示している。これは実施例2における場合と同様に変色反応が二段階で起こることを示唆している。実施例1においてフッ化物イオンを添加した場合における可視吸収スペクトルの変化を示すグラフ。実施例2において作成した検量線を示すグラフ。実施例3における吸光度のpH依存性を示すグラフ。実施例4におけるフッ化物イオン濃度による試料溶液の色調の変化を示す写真。 (A)フッ化物イオン含有水溶液検体試料を、(B)ジルコニウム(IV)とピロカテコールバイオレットと多座配位子とからなるジルコニウム系多核錯体を含む水溶液に加えたのち、pHを4〜5の範囲に調整して発色させ、得られた被検発色液の色調又は色の濃さを比色することを特徴とする検体試料(A)のフッ化物イオンの定量方法。 (A)フッ化物イオン含有水溶液検体試料を、(B)ジルコニウム(IV)とピロカテコールバイオレットと多座配位子とからなるジルコニウム系多核錯体を含む水溶液に加えたのち、pHを4〜5の範囲に調整して発色させ、この可視吸収スペクトルを、同じpH調整に付して発色させた対照液の可視吸収スペクトルと対比し、対応する波長における両者のピーク吸光度について、その減少量比を求めることを特徴とする検体試料(A)のフッ化物イオンの定量方法。 ジルコニウム系多核錯体を含む水溶液(B)が、ジルコニウム(IV)と多座配位子とからなる水溶性のジルコニウム(IV)錯体及びピロカテコールバイオレットを含む水溶液である請求項1又は2記載の定量方法。 多座配位子が、2個以上のカルボン酸で置換されたアミン系化合物である請求項1又は2記載の定量方法。 2個以上のカルボン酸で置換されたアミン系化合物がエチレンジアミン‐N,N,N′,N′‐テトラ酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン‐N,N′,N′‐トリ酢酸、ニトリロトリ酢酸である請求項4記載の定量方法。


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