タイトル: | 公開特許公報(A)_植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショおよびその作出法 |
出願番号: | 2003370655 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N15/09,A01H5/00 |
木坂 広明 柳澤 修一 三輪 哲也 秋山 愛 JP 2005130770 公開特許公報(A) 20050526 2003370655 20031030 植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショおよびその作出法 味の素株式会社 000000066 熊倉 禎男 100082005 小川 信夫 100084009 箱田 篤 100084663 浅井 賢治 100093300 平山 孝二 100114007 松田 七重 100123766 木坂 広明 柳澤 修一 三輪 哲也 秋山 愛 7C12N15/09A01H5/00 JPC12N15/00 AA01H5/00 A 14 OL 12 2B030 4B024 2B030AA02 2B030AB03 2B030AD07 2B030AD08 2B030CA14 2B030CB02 4B024AA08 4B024BA79 4B024CA01 4B024DA01 4B024GA11 本発明は、バレイショの塊茎収穫量および塊茎単位重量当たりのデンプン含量を同時に増加させ、その結果、植物体当たりのデンプン量が増加したバレイショ、およびその作出法、およびそのバレイショを用いたデンプンの製造法に関する。 植物における炭水化物の主要な貯蔵形態はデンプン(スターチ)である。わが国のバレイショの用途別消費割合は、デンプン原料が最も高くおよそ40%で、食用(25%)、加工食品(10%)がこれに次いでいる。デンプンの消費量が高まっている一方で、バレイショの生産量は年々減少しており、バレイショ塊茎中のデンプン含量を増加させ、デンプンの生産性を高めることが望まれる。このため、バレイショの炭酸同化能力や貯蔵器官への物質の集積能力を高め、糖を過剰に合成・蓄積させる試みがなされてきた。しかし、塊茎中のデンプン含量を高めることができたとしても、得られる塊茎の量が低下する場合が多く、植物体あたり得られるデンプン量に換算した場合、その値が増加した例は少ない。 例えば、Beaujean らは、バレイショの炭酸同化効率を高めるために、ソルガム由来のC4-ホスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(C4-PEPC)遺伝子とNADP依存型リンゴ酸脱水素酵素遺伝子を導入した。導入した遺伝子によるタンパク量の増加および活性の増加が認められたが、塊茎中のデンプン含量に差異は認められなかった(非特許文献1参照)。Veramendi らはデンプン含量を高めることを目的に、Hexokinase1遺伝子をアンチセンス方向にバレイショに導入し、バレイショ内のhexokinase活性を野生株の22%に減少させた。その結果、葉組織内のデンプン含量を3倍に増加させることができたが、塊茎中のデンプン含量に差異は認められなかった(非特許文献2参照)。また、Sucrose transporter遺伝子をアンチセンス方向に導入した場合においても、葉組織内のデンプン含量が5倍に増加したものの、塊茎の収量が大幅に減少し、デンプンの生産性を高めるに至っていない(非特許文献3参照)。このように、バレイショにおいてデンプン含量を増加させることと、塊茎の収量性を高めることを同時に実現することは困難で、その結果、植物体あたり得られるデンプン量を劇的に増加させた例はこれまでになかった。Beaujean et al., Plant Science 160, 1199-1210, 2001.Veramendi et al., Plant Physiology 121, 123-134, 1999.Riesmeier JW et al., The EMBO J, 13, 1-7, 1994. 本発明は、バレイショのデンプンの生産性を高めるために、塊茎中のデンプン含量および塊茎収穫量を同時に増加させることにより、植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショを作出する方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、トウモロコシ由来転写調節因子Dof1遺伝子をバレイショ細胞内で過剰発現させることにより、窒素の吸収および代謝を活性化し得ると考えた。トウモロコシ転写調節因子Dof1はホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子や細胞質型ピルビン酸オルトリン酸ジキナーゼ遺伝子の正の調節因子で、これらの酵素活性を同時に高めることにより、炭素代謝の流れをアミノ酸合成系にシフトさせる役割があると考えられる(文献:特願2002-40947)。したがって、Dof1遺伝子が過剰発現した植物は、アミノ酸の合成量が増加し、その結果として、窒素同化力が向上することが予想される。窒素は植物の最も重要な生育の制限因子であり、Dof1遺伝子の導入により窒素の吸収・同化力が向上した植物は、成長が促進され、より多くの資源を植物内に蓄えることが可能になると予想される。バレイショにおいては、貯蔵器官である塊茎形成時に、これらの蓄積された養分が転流によって塊茎に運ばれ、塊茎形成を助長し、塊茎の収量性を高める可能性が考えられる。さらに、過剰に運ばれてきた糖は貯蔵形態であるデンプンに合成され、塊茎中に多量に蓄積されると予想される。 本発明者らはDof1遺伝子を導入した形質転換バレイショを作出し、実際に塊茎の収穫量の増加と塊茎中の単位重量あたりのデンプン含量の増加が同時のおこることを認め、その結果、バレイショ植物体あたり得られるデンプン量が増加したことを認め、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明はDofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られる塊茎の収穫量が増加したバレイショに関する。 本発明はまた、Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて塊茎中のデンプン含量が増加したバレイショに関する。 本発明はまた、Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショに関する。 本発明はまた、Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子を含む、上記バレイショの子孫植物に関する。 本発明はまた、Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子をバレイショに導入し、前記遺伝子を前記バレイショ物において発現させることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られる塊茎の収穫量が増加したバレイショを作出する前記方法に関する。 本発明はまた、Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子をバレイショに導入し、前記遺伝子を前記バレイショ物において発現させることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて塊茎中のデンプン含量が増加したバレイショを作出する前記方法に関する。 本発明はまた、Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子をバレイショに導入し、前記遺伝子を前記バレイショ物において発現させることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショを作出する前記方法に関する。 また、本発明はかかるバレイショ又は子孫植物を栽培し、得られた塊茎よりデンプンを製造する方法である。 本発明で用いることができるDofファミリーに属するDNA結合タンパク質は、炭素供給経路のマスターコントロールタンパク質として、すなわち、2-オキソグルタル酸に至る代謝経路を制御するタンパク質、特に解糖系およびそれに続くTCA回路において三炭糖から2-オキソグルタル酸に至る代謝経路を制御する一群のタンパク質として機能する他の植物種由来のDofファミリーDNA結合タンパク質であってもよい。好ましいものとして、トウモロコシ由来のDof1があげられる。更に、上述した機能を有する限り、それらのDofファミリーに属するDNA結合タンパク質において1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加を有するDNA結合タンパク質も本発明において利用することができる。また、Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子も本発明において利用することができる。 ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される条件をいう。この条件は個々の配列のGC含量や繰り返し配列の有無などに依存するため明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高い核酸分子同士、例えば65%以上の相同性を有する核酸分子同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸分子同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗滌条件である60℃、1xSSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1xSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。 マスターコントロール遺伝子/タンパク質としての役割を考慮し、また実際にトウモロコシのDof1がシロイヌナズナで機能することが本研究において示されることを考慮すれば、Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質およびその遺伝子が他の植物種由来であっても目的の植物において同等の機能を示すと考えられる。ここで、本明細書において、「トウモロコシDof1と同等の機能を有する」とは、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子、および/または、細胞質型ピルビン酸オルトリン酸ジキナーゼ遺伝子の転写を促進する機能を有することをいう。 このような、Dofファミリーに属する遺伝子、またはそのcDNAは公開された配列情報に基づき、以下のように比較的容易に調製することができる。例えば、トウモロコシDof1遺伝子については、そのcDNAの塩基配列がGenbankのアクセッション番号X66076にその配列が公開されている(配列番号1、2)。その配列に基づきタンパク質をコードする部分を含むようにDNA断片が増幅するようなPCRプライマーを合成し、トウモロコシの葉より抽出したRNAを鋳型にRT-PCRをおこなえば、比較的容易にDof1 cDNAを得ることができる。 本発明においては、トウモロコシDof1遺伝子を含む核酸構築物をバレイショに導入し、得られた形質転換バレイショにおいてDof1遺伝子を発現させることにより、塊茎の収穫量が増加したバレイショ、および/または、塊茎の単位重量あたりのデンプン含量が増加したバレイショ、および/または、植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショを作出する。本発明によれば、収穫された塊茎重量については、同一条件で栽培した遺伝子導入の元株(非形質転換体)より、植物体あたり得られる塊茎重量の平均値が1.2倍以上増加しているのが好ましい。デンプン含量については、同一条件で栽培した遺伝子導入の元株(非形質転換体)系統より、単位植物体あたりのデンプン含量が1.5倍以上増大しているのが好ましい。 本発明において使用する核酸構築物は当業者によく知られた方法を使用して作成することができる。核酸構築物を単離し、その配列を決定する方法を含む分子生物学的手段については、例えば、Sambrookら、Molecular cloning-Laboratory manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Pressのような文献を参照することができる。あるいは、本発明に使用しうる核酸構築物を作成するためにPCR法をはじめとする遺伝子増幅が必要になることもあるが、そのような手法については、F.M.Ausubel et al.(eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)などを参照することができる。 本発明に使用する核酸構築物は一般に、植物細胞で機能する適切なプロモーター、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター(CaMV35S)、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーターなどの適切なターミネーター、その他の発現に必要な、あるいは有利な配列、及び、形質転換体を選抜するためのマーカー遺伝子、例えば、カナマイシン耐性、G418耐性、ハイグロマイシン耐性のような薬剤耐性遺伝子を含んでよい。 そのような構築物に使用しうるプロモーターは構成的プロモーターであっても器官特異的または生育ステージ特異的であってもよく、使用する宿主、必要とする発現量、発現を特に意図する器官、または、生育ステージによって選択することができる。本発明の好ましい実施態様においては、器官、及び生育ステージに非特異的に発現する強力なプロモーターが使用され、例えば、CaMV35Sプロモーターがそのようなプロモーターの例として使用される。器官特異的プロモーターとしては、ファゼオリン遺伝子プロモーターやパタチン遺伝子プロモーターなどが使用される。本発明の最も好ましい実施態様においては、CaMV35Sプロモーターのような強力な構成的プロモーターで当該Dof1遺伝子を駆動する構築物が使用される。 本発明において使用しうる遺伝子導入法は特に限定されず、植物細胞、あるいは植物体への遺伝子導入法として当業者に知られた方法を宿主に応じて選択することができる。例えば、本発明の実施態様の一つにおいては、アグロバクテリウムを用いた遺伝子導入法が利用される。このような形質転換系には、バイナリーベクターを使用することが望ましい。アグロバクテリウムを利用する場合は、形質転換に用いる核酸構築物は植物細胞に導入すべきDNA配列に隣接するT-DNA領域をさらに含む。好ましい実施態様においては移入された配列は左右のT-DNAボーダー配列の間に挿入される。このようなT-DNAをベースとする形質転換ベクターの適切な設計及び構築は当業者によく知られたものである。また、そのような核酸構築物を有するアグロバクテリウムを植物に感染させるための条件も当業者によく知られたものである。そのような技術、及び条件については、例えば、秀潤社、細胞工学別冊「モデル植物の実験プロトコル イネ・シロイヌナズナ編」(1996)を参照することができる。 本発明においては、他の遺伝子導入法を利用することもできる。使用しうる遺伝子導入方法の例としては、ポリエチレングリコールやカルシウムを用いたDNAのプロトプラストへの導入法、エレクトロポーレーションによるプロトプラストの形質転換法、パーティクルガンによる導入法等を挙げることができる。 次に上述したように操作された植物細胞等は、形質転換について選抜される。この選抜は、例えば、形質転換に使用した核酸構築物上に存在したマーカー遺伝子の発現に基づいておこなうことができる。例えば、マーカー遺伝子が薬剤耐性遺伝子である場合は、適当な濃度の抗生物質、または除草剤等を含む培地上で操作された植物細胞等を培養、または生育させることにより選択することができる。あるいは、マーカー遺伝子が、β-グルクロニダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などの場合はその活性についてスクリーニングすることにより形質転換体を選抜することができる。このようにして同定された形質転換体が植物体以外、例えば、プロトプラスト、カルス、外植片等である場合は植物体への再生がおこなわれる。この再生には使用する宿主植物について当業者に知られた方法を利用することができる。 このようにして得られた植物体は通常の方法、すなわち、非形質転換体と同様の条件で栽培してよく、本発明の核酸構築物を含む形質転換植物を同定するために、前述のマーカー遺伝子に基づく選抜に加えて、種々の分子生物学的手法を利用することができる。例えば、組換えDNA挿入断片の有無及びその構造を検出するためにはサザンハイブリダイゼーションやPCRを利用することができる。導入した核酸構築物に由来するRNA転写産物を検出・測定するためには、ノーザンハイブリダイゼーションやRT-PCRなどを利用することができる。 次に得られた形質転換体のDof1遺伝子の発現については、当該Dof1タンパク質量、あるいはmRNA量の測定により評価される。例えば、Dof1タンパク質の量はウェスタンブロット等の方法により、mRNA量はノーザンブロット、定量的RT-PCR法によって評価することができる。 このようして、Dof1遺伝子の発現が確認された形質転換バレイショについて、さらに塊茎の収穫量、および塊茎中のデンプン含量について評価される。形質転換バレイショは通常の土耕条件で栽培されるが、その栽培に用いる植物体は形質転換された培養物を順化させた幼植物体、また、組織培養により誘導されたマイクロチューバー等が用いられる。通常に栽培して得られた塊茎は、単位植物体から収穫された塊茎の個数、および、その総重量で評価される。塊茎のデンプン含量は塊茎全体を破砕し、その抽出液を調製し、例えば、酵素法で定量することができる。植物抽出液の調製、および、デンプン含量の定量については、例えば、Agarieらの方法にしたがえばよい(文献:S. Agarie, Plant Science, 2002, 162, 257-265)。 なお、収穫された塊茎重量及びデンプン含量は、t-検定などの統計的な検定により5%以下の水準で有意差がある場合について判定する。 形質転換植物は導入したゲノムに組み込まれた核酸構築物由来の配列に関してヘミ接合の場合もホモ接合の場合もあり得るが、バレイショにおいては、実用的には種イモによる栄養繁殖がおこなわれており、配列の接合の様式によらず、導入遺伝子は安定に子孫に伝達される。得られた形質転換バレイショの種イモも当業者によく知られた通常の方法によって、増殖・保存することができる。 形質転換バレイショの塊茎からのデンプンの製造は、当業者によく知られた通常の製造方法によって行うことができる。 本発明は、Dof1遺伝子の過剰発現につき操作された植物の製作及び遊離アミノ酸分析、収量調査、デンプン分析に関する以下の実施例により具体的かつ詳細に説明される。実施例1. トウモロコシDof1遺伝子の植物形質転換ベクターへの組込み 35SC4PPDK-Dof1-HAプラスミド(The Plant Cell 1998, 10(Jan), 75-89)からDof1遺伝子の植物形質転換ベクターpBI121(Clontech社)への組込は以下のようにおこなった。 35SC4PPDK-Dof1-HA プラスミドはCaliflower Mosaic Virus 35S エンハンサーの下流にトウモロコシC4型ピルビン酸オルトリン酸ジキナーゼ遺伝子のTATAボックスから翻訳開始部位までの領域、およびDof1cDNAが接続されており、さらに、その下流にエピトークタグとして、ファイトヘマグルチニンcDNAがタンデムに2分子接続され、最後にノパリン合成酵素のターミネーション部位が接続されたDNA断片を有する。このDNA断片は、制限酵素XhoIおよびEcoRIの二重切断より単離することができる。そこで、このXhoI-EcoRI断片をpBI121のT-DNA領域に組み込むことにした。まず、pBI121をHindIIIで切断し、Stratagene社のCloned Pfu DNA polymeraseを用いて、その断端を平滑化した。そののち、T4 DNA リガーゼ(宝酒造社)によりリン酸化XhoIリンカー(宝酒造社)を接続、つづいて、XhoIで切断し、リンカー断片をAmersham-Pharmacia社のMicroSpin Column S-300によるゲルろ過にて除去したのち、T4 DNA リガーゼで自己環化させて、HindIII部位をXhoI部位に変更したプラスミドを得た。このプラスミドはXhoI、およびEcoRIをユニークサイトとして有することになる。得られたプラスミドをXhoIとEcoRIで切断し、別に調製した35SC4PPDK-Dof1-HA由来のXhoI-EcoRI断片を組込み、pBI121Dof1を得た(図1)。実施例2.バレイショ形質転換体の作出 バレイショ(品種、メークイン)の形質転換は,Gordon ら (文献:Plant Cell Reports,1993,12: 324-327)の方法に従って行った。茎頂培養によって作出した無菌植物を、MS液体培地で発根させた後、16%ショ糖液を加え、暗所培養を行うことによりマイクロチューバーを誘導した。無菌的に誘導したマイクロチューバーの表皮をむき、輪切りにした切片(マイクロチューバーディスク)を、アグロバクテリウムの感染に用いた。マイクロチューバーディスクを再分化培地(MS無機塩、B5ビタミン、3%ショ糖、2 mg/l ゼアチン、0.1 mg/l インドール酢酸、2.5 mg/l ゲルライト、pH 5.8)で24時間前培養を行った。 pBI121Dof1を有するE.coliおよびヘルパーE.coli HB101/pRK203を用いたトリパレンタルメーティングによって、アグロバクテリウムC58C1RifへプラスミドpBI121Dof1を導入した。構築した遺伝子を含むアグロバクテリウムは50 mg/l カナマイシンを含むYEP培地(10 g/l バクトトリプトン,10 g/l Yeast Extract, 1 g/l グルコース)に接種し、28℃で24時間振とう培養した。アグロバクテリウム液と培養液(MS無機塩、B5ビタミン、3%ショ糖、2 mg/l ゼアチン、0.1 mg/l インドール酢酸、1.0 mg/l アセトシリゴン、pH 5.8)を1:10に希釈した液に浸し、10分間静置した。その後、滅菌したろ紙で、余分なアグロバクテリウム液をふき取り、前培養した培地に移植した。16時間日長、26℃で48時間共存培養した後、選抜培地(MS無機塩、B5ビタミン、3%ショ糖、2 mg/l ゼアチン、0.1 mg/l インドール酢酸、50 mg/l カナマイシン、300 mg/l セファタキシム塩酸塩、2.5 mg/l ゲルライト、pH 5.8)に移植し、同一条件で培養を行った。2週間毎に、新しい選抜培地に移植し、同時に再分化したshootを発根培地(MS無機塩、B5ビタミン、3%ショ糖、50 mg/l カナマイシン、100 mg/l セファタキシム塩酸塩、2.5 mg/l ゲルライト、pH 5.8)に移植した。発根した植物の茎頂部を新しい発根培地に移植することにより、耐性試験を3-4回繰り返し、安定的にカナマイシン耐性を示した8株をDof1形質転換バレイショとして選抜した。実施例3.導入遺伝子の確認 カナマイシンに抵抗性を示した選抜バレイショ8個体及び非形質転換バレイショよりDNAを抽出した。DNAの抽出はHondaら(文献:Honda and Hirai, 1990, Jpn J Breed 40: 339-348)の方法に従った。抽出したDNAを用いて、Dof1遺伝子を挿入したプロモーター部分とターミネーター部分のプライマー、5‘-TTCCATTGCC CAGCTATCTG TCACTT-3'(配列番号3)と5'-TCATCGCAAG ACCGGCAACA GGATTC-3'(配列番号4)及びベクター内のNPTII遺伝子を増幅するためのプライマー、5'-CCC CTC GGT ATC CAA TTA GAG-3'(配列番号5)と5'-CGG GGG GTG GGC GAA GAA CTC CAG-3'(配列番号6)を用いてPCR分析を行った。反応は、94℃-3分;94℃-45秒、55℃-30秒、72℃-90秒、35サイクル;72℃-10分とし、パーキンエルマー社のPCR system 2400を用いて行った。PCR産物は1%アガロースゲル(TAE buffer)を用いて電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。 その結果、選抜した形質転換バレイショに、Dof1遺伝子を含む予測されるサイズのバンド(約1.5 kbp、図2a)とNPTII遺伝子特異的なバンド(約1.1 kbp、図2b)が認められ、非形質転換バレイショには、これらのバンドが認められないことから、Dof1遺伝子を含むT-DHA領域が、形質転換バレイショに導入されていることが分かった。実施例4. 導入遺伝子の発現の確認(ノーザン分析) Dof1遺伝子が導入されていることが確認された形質転換バレイショ8株を用いて、導入した遺伝子の発現を確認するために、ノーザン分析を行った。 土壌に移植して1ヶ月後の形質転換バレイショの葉組織より、キアゲン社のRNeasy Plant mini Kitを用いてTotal RNAを抽出した。抽出したRNA10μgは、18%ホルムアルデヒドを含む1.2%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色した。ナイロンメンブラン(HybondN+)にブロッティングした後、UVで固定し、ハイブリダイゼーションを行った。Dof1遺伝子全長をプローブに用いた。ノーザンブロット及びプローブの作成はロシュ・ダイアグノスティックス社のDIG-High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit II 及びPCR DIG Probe Synthesis Kitを用いた。 その結果、形質転換バレイショの葉組織において、Dof1遺伝子特異的バンドが確認された(図3)。形質転換バレイショの葉組織において、導入したDof1遺伝子が転写発現していることが分かった。非形質転換バレイショには、Dof1遺伝子特異的バンドは認められなかった。実施例5.形質転換バレイショの収量調査 形質転換バレイショを用いて、収量調査を行った。収量調査には形質転換バレイショ及び非形質転換バレイショ由来の無菌植物を用いた。馴化後、7号鉢に0.5 kgのパワーソイル(全窒素0.2 kg)を加え、土壌の不足分はバーミキュライト(養分無し)を補填した。さらに栽培から2ヵ月後に、0.3 kgのパワーソイルを覆土した。茎の数は1本に統一して栽培を行い、移植後3ヶ月目に収穫し、地上部重、塊茎重、塊茎数について調査した。 その結果、Dof1形質転換バレイショは非形質転換バレイショに比べて、地上部重量が1.24-1.50倍、塊茎重量が1.05-1.40倍及び塊茎数が1.42-1.90倍に増加した(表1)。 表1.Dof1形質転換バレイショの収量調査. (n=3)実施例6.塊茎中のデンプン含量の測定 収穫後直ちに凍結保存(-80℃)した形質転換バレイショと非形質転換バレイショの塊茎を用いて、デンプン含量の定量をおこなった。各区2個ずつ塊茎を用い、液体窒素を用いて塊茎全体を粉砕した。抽出は、S. Agarieら(文献:Plant Science 162 ,2002, 257-265)の方法にしたがった。デンプン含量の測定にはロシュ・ダイアグノスティックス社のF-kitデンプンを用いた。 その結果、Dof1形質転換バレイショは非形質転換バレイショに比べて、塊茎中のデンプン含量が生重量当たり1.06-1.53倍に増加しており、一株当たりの塊茎重量から算出すると、一株当たりのデンプン含量は最大で2倍以上に増加することが分かった(表2)。表2. Dof1形質転換バレイショ塊茎中のデンプン含量 なお、無菌的に生育させた植物の茎葉組織のアミノ酸分析を行った結果、Dof1形質転換バレイショは非形質転換バレイショに比べて、総アミノ酸含量が増加しており、最大1.88倍であった。<配列表フリーテキスト>配列番号1;トウモロコシDof1遺伝子のcDNAの塩基配列配列番号2;トウモロコシDof1遺伝子のcDNAをコードするアミノ酸配列配列番号3,4:Dof1遺伝子を挿入したプロモーター部分とターミネーター部分のプライマー配列番号5,6:ベクター内のNPTII遺伝子を増幅するためのプライマー図1は、プラスミドpBI121Dof1のDof1挿入部分の模式図を示す。図2は、Dof1形質転換バレイショのPCR分析結果を示す。 A. Dof1遺伝子を含むプライマーを用いたPCR反応。 B. NPTII遺伝子特異的プライマーを用いたPCR分析。 Lanes 1, 非形質転換体; 2, Dof1-1; 3, Dof1-2; 4, Dof1-3; 5, Dof1-4; 6, Dof1-5; 7,Dof1-6; 8, Dof1-8; 9, Dof1-9.図3は、Dof1形質転換バレイショ葉組織のノーザン分析を示す。 Lanes 1-2, 非形質転換体; 3, Dof1-1; 4, Dof1-2; 5, Dof1-3; 6, Dof1-4; 7, Dof1-5; 8, Dof1-6; 9, Dof1-8; 10, Dof1-9. Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られる塊茎の収穫量が増加したバレイショ。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子がトウモロコシ由来Dof1遺伝子である請求項1記載のバレイショ。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて塊茎中のデンプン含量が増加したバレイショ。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子がトウモロコシ由来Dof1遺伝子である請求項3記載のバレイショ。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショ。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子がトウモロコシ由来Dof1遺伝子である請求項5記載のバレイショ。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子を有する、請求項1〜6のいずれか1項記載のバレイショの子孫植物。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子をバレイショに導入し、前記遺伝子を前記バレイショ物において発現させることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られる塊茎の収穫量が増加したバレイショを作出する前記方法。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子がトウモロコシ由来Dof1遺伝子である請求項8記載の方法。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子をバレイショに導入し、前記遺伝子を前記バレイショ物において発現させることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて塊茎中のデンプン含量が増加したバレイショを作出する前記方法。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子がトウモロコシ由来Dof1遺伝子である請求項10記載の方法。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子をバレイショに導入し、前記遺伝子を前記バレイショ物において発現させることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショを作出する前記方法。 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子がトウモロコシ由来Dof1遺伝子である請求項12記載の方法。 請求項1〜6のいずれか1項記載のバレイショ又は請求項7記載の子孫植物を栽培し、得られた塊茎よりデンプンを製造する方法。 【課題】 バレイショのデンプンの生産性を高めるために、植物体あたり得られるデンプン量が増加したバレイショ及びその作出方法の提供。【解決手段】 Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子が導入されたことを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られる塊茎の収穫量が増加したバレイショを提供する。Dofファミリーに属するDNA結合タンパク質をコードする遺伝子をバレイショに導入し、該遺伝子を該バレイショにおいて発現させることを特徴とする、同一条件で栽培した非形質転換バレイショと比べて植物体あたり得られる塊茎の収穫量が増加したバレイショを作出する方法を提供する。【選択図】 なし配列表