タイトル: | 公開特許公報(A)_結晶性ポリエステル樹脂成形品の破面観察用の処理方法 |
出願番号: | 2003325320 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,G01N1/32,C08J7/02,G01N1/28,C08L67:02 |
尾関 康宏 JP 2005091177 公開特許公報(A) 20050407 2003325320 20030917 結晶性ポリエステル樹脂成形品の破面観察用の処理方法 ポリプラスチックス株式会社 390006323 三浦 良和 100090491 尾関 康宏 7G01N1/32C08J7/02G01N1/28C08L67:02 JPG01N1/32 BC08J7/02 AG01N1/28 FG01N1/28 NC08L67:02 12 OL 20 2G052 4F073 2G052AA18 2G052AD32 2G052AD52 2G052EB11 2G052EC14 2G052FD06 2G052GA35 2G052JA09 4F073AA06 4F073BA23 4F073BA24 4F073BB08 4F073EA41 4F073EA42 本発明は、結晶性ポリエステル樹脂の破断面(破面という)の解析において、破面パターンを保持しながら破面直下の球晶の形態を出現させることが出来る破面のエッチング方法に関する。 破面解析は金属の分野を中心に破面模様の特徴から破壊機構あるいは破壊原因を推定するために広く用いられている方法である。高分子材料においても金属材料と同様に破壊機構によってさまざまな破面模様が示されることから、最近、同様の破面解析手法が高分子材料の分野にも取り入れられている。(例えば非特許文献1及び2参照。)。また、その他の樹脂メーカーあるいは分析機関から破面解析に関する技術資料が出されている。 これらの中で従来の破面解析では、破面をそのままの状態で肉眼、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いた観察手法しか用いられていなかった。従って、これまでに破面直下の球晶の形態観察あるいは破面断面の観察を破面解析に応用した例はない。また、結晶性高分子材料の表面の結晶構造観察において、酸等により試料中の非晶質部分を取り除いて結晶性の部分を残すことを目的に、エッチングが応用され、エッチングされた表面に斜め上から金属蒸着を施し、真上から炭素を蒸着した後、それに基づきレプリカ薄膜を調製し、その透過型電子顕微鏡観察を行う技術が記載されているが、破面のエッチング方法として利用されている技術ではない。(例えば特許文献1参照。)特開平4−12242公報(請求項1および実施例)菅野乙也、池田義正、「成形加工」、1992年、第4巻、第2号、p.74−92菅野乙也、「合成樹脂」、1997年、第43巻、第7号、p.39−42 従来の破面解析では破面をそのままの状態で観察し、その破面パターンを確認することで破壊様式を判断している。ポリエステル樹脂の場合も同様の手法で破面解析が行われている。しかしながら、破壊様式の判断に用いられる各種の破面パターンの発現機構が明確にされていないことや破面パターンの判別が困難で破壊様式を判断できない場合があり、必ずしも信頼性の高い破壊様式の判断ができているとは言えない。 従って、これらの問題を解決するための新しい破面解析手法の開発が必要とされる。そこで、本発明はポリエステルの破面解析に関し、信頼性の高い新しい破面解析技術の開発に結び付くための新たな破面の処理方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、これまでに球晶が変形している断面や球晶が露出しているような破面の観察を経験している。そこで上述の問題点に対し、何らかの方法で破面を処理することによって破面直下の球晶の形態を観察できるのではないかと考えた。 ポリエステルは結晶性の高分子材料であり、通常の成形加工工程を経て結晶化した場合、球晶組織を有する。 本発明者らは、ポリエステルが塩基性溶液で劣化する材料であるため、ポリエステル樹脂の破面を、塩基性溶液を利用して、好ましくは紫外線照射した後塩基性溶液でソフトにエッチングさせ、各種破面が示す特徴的な破面パターンを保持させながら破面直下の球晶の形態を顕在化、具現化させることにより、かかる問題点を解決し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明の第1は、結晶性ポリエステル樹脂成形品の破面の特徴的な形状を損なうことなく破面を塩基性溶液でエッチング処理して、破面直下の球晶の形態を出現させることを特徴とするポリエステル樹脂成形品の破面の顕微鏡観察用の処理方法を提供する。 本発明の第2は、結晶性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである本発明の第1に記載の処理方法を提供する。 本発明の第3は、塩基性溶液が、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアルコラート溶液、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物のアルコール溶液又はアルカリ水溶液である本発明の第1又は2に記載の処理方法を提供する。 本発明の第4は、塩基性溶液が、水酸化ナトリウムのアルコール溶液である本発明の第3に記載の処理方法を提供する。 本発明の第5は、塩基性溶液が濃度1〜10重量%のアルコール溶液であり、処理温度が5〜40℃、処理時間が、0.5〜5時間である本発明の第1〜4のいずれかに記載の処理方法を提供する。 本発明の第6は、予め、破面を紫外線照射した後、塩基性溶液で処理する本発明の第1〜5のいずれかに記載の処理方法を提供する。 本発明の第7は、紫外線の波長が300nm以下である本発明の第6に記載の処理方法を提供する。 本発明の第8は、成形品の破面に対する紫外線の照射条件が、8〜10mW/cm2で30〜90分である本発明の第6又は7に記載の処理方法を提供する。 本発明の第9は、結晶性ポリエステル樹脂成形品の破面に、金属を1次蒸着させた破面を走査型電子顕微鏡で観察した後、紫外線を照射した上で、アルカリ溶液処理し、該1次蒸着させた破面をエッチングして破面直下の球晶の形態を出現させ、さらに金属を2次蒸着させて走査型電子顕微鏡用試料とする本発明の第1〜8のいずれかに記載の処理方法を提供する。 本発明の第10は、1次蒸着金属の厚さが3〜12nmで、2次蒸着金属の厚さが12〜16nmである本発明の第9に記載の処理方法を提供する。 本発明の第11は、高分子材料部分のエッチング深さが1〜5μmである本発明の第9又は10に記載の処理方法を提供する。 本発明の第12は、破面解析方法に使用する本発明の第1〜11のいずれかに記載の処理方法を提供する。 本発明によれば、ポリエステル成形品の破面の特徴的な模様を保持させながら、破面直下の球晶の形態を出現させることができることから、それぞれの破壊様式によって示される特徴的な破面パターンの発現機構を明確にさせることや、破壊様式をより的確に判断することが出来る。ポリエステル樹脂 本発明で使用されるポリエステル樹脂の種類は、特に限定されず、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよく、コポリマーはランダムでもブロックでもよく、コモノマーの種類、含有量にも制限はなく、ポリエステル樹脂の分子量、結晶化度、融点等にも特に制限はない。 結晶性ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレートなどのアルキレン芳香族ジカルボキシレートなどが挙げられる。中でも球晶が判別し易いPBTが好適である。 結晶性ポリエステル樹脂としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(テレフタル酸やイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸など)及びアルキレングリコールのうち、少なくとも一方の成分が他のジカルボン酸(コモノマー)や他のジオール(コモノマー)で置換したコポリエステルなどであってもよい。 これらのポリエステル系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。 ジオール成分(コモノマー成分)としては、炭素数2〜12程度のアルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオールなどの炭素数2〜10程度の脂肪族グリコールが挙げられる。 これらのジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。 結晶性ポリエステル樹脂としては、成形加工が可能で、固化時に球晶が形成されるものであれば、融点や分子量などは特に限定されない。樹脂添加剤 ポリエステル樹脂には、安定剤、結晶化促進剤(核剤)、離型剤、導電性付与剤等を添加してもよい。 安定剤として、例えば各種のヒンダードフェノール系酸化防止剤等が用いられる。例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−へキサンジオール−ビス−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシナマミド)、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、3,9−ビス〔2−{(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1’−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン等が例示される。充填剤 ポリエステル樹脂には、有機もしくは無機充填剤、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ウィスカー、カーボンナノチューブ等を添加してもよい。 ガラス繊維等の強化材の充填量は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、50重量部以下、好ましくは1〜30重量部である。成形品 ポリエステル樹脂の成形方法としては、射出成形、中空成形、押出成形、ブロー成形、発泡成形等が挙げられる。 成形品の用途は、特に制限はなく、電気・電子部品、自動車・輸送機器、一般・精密機械、建築資材、医療部品、その他が挙げられる。処理方法(1)塩基性溶液によるエッチング処理 本発明では、ポリエステル樹脂成形品の破面を塩基性溶液で処理し、破面の特徴的な形状(破面パターン)を損なうことなく破面をエッチングして、破面直下の球晶の形態を出現させる。 塩基としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属又はカルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、それらの水酸化物、酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などが挙げられ、好ましくは、金属、又はそれらの水酸化物である。 本発明で使用する塩基性溶液としては、アルカリ金属のアルコラート溶液、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化アルカリと略称する。)のアルコール溶液又は水酸化アルカリの水溶液などが挙げられる。 アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどが挙げられ、好ましくはメタノール、エタノールまたはこれらの混合物である。また、アルコールは含水アルコールであってもよい。 塩基の濃度としては1〜10重量%、好ましくは5〜10重量%である。 塩基性溶液による処理温度は0〜100℃、好ましくは5〜40℃、通常常温であり、処理時間は、0.2〜10時間、好ましくは0.5〜5時間、さらに好ましくは3〜4時間である。処理圧力は大気圧でよいが、必要であれば真空下〜加圧下まで特に限定されない。 アルカリ濃度、温度および時間は上記範囲未満では破面の分解が不十分となり、上記範囲より過大であると分解が進みすぎて、破面の特徴的な形状が損なわれる。 PBT成形品を240℃で溶融した後、10℃/分の速度で、常温に冷却して固化させた試験片の表面の電子顕微鏡写真を図1に示す。図1から判るように、粒状のものは球晶である。PBTの球晶の直径は概略数μmである。 PBT成形品の脆性破面を図2に示す。図2(a)では、起点を中心に放射状模様(リバーパターン)が見られる。図2(b)は、図2(a)の白い枠で囲まれた部分の拡大写真であり、図2(c)は図2(b)の白枠部分の拡大写真であるが、破面表面には球晶による花びら模様は見られない。 PBT成形品の脆性破面をアルカリ溶液で処理した一例を図3に示す。図3(a)では、起点を中心に放射状模様(リバーパターン)が見られる。図3(b)は、図3(a)の白い枠で囲まれた部分の拡大写真であり、図3(c)は図3(b)の白枠部分の拡大写真であるが、破面直下に球晶による花びら模様が見られる。花びら模様は、図3(c)で細かな白色の筋で表される。(2)紫外線照射による前処理方法 上記破面の塩基性溶液処理は、成形品の破面に対してそのまま行ってもよいが、紫外線照射による前処理を行うと、球晶の形態が鮮明になるので好ましい。 前処理は、破面に、波長300nm以下の紫外線を照射して行われる(UV前処理ともいう。)。波長が上記より長すぎると、ポリエステルの前処理が行われ難くなる場合がある。UV前処理を行うと、破面の塩基性溶液に対する親和性が向上することにより、塩基性溶液のみの処理に比べ、球晶の形態の出現が鮮明になる。 UV前処理後の塩基性溶液処理は、成形品の破面そのものに対して行ってもよいし、同じサンプルを用いて処理前後の変化を観察する場合は、金属を、好ましくは3〜12nmの厚さに1次蒸着させた破面を走査型電子顕微鏡で観察した上で、UV照射した後、破面を塩基性溶液処理して、該1次蒸着させた破面をエッチングして破面直下の球晶の形態を出現させ、さらに金属を、好ましくは12〜16nmの厚さに、2次蒸着させて、塩基性溶液処理後の破面観察のための走査型電子顕微鏡用試料とする。 蒸着させる金属の種類としては、通常、走査型電子顕微鏡用試料作成に用いられるものであり、具体的には、金、白金、パラジウム、これらの混合物などが挙げられる。1次蒸着金属と2次蒸着金属とは同じでも、異なっていてもよい。 1次蒸着させる金属の厚みは、好ましくは3〜12nm、さらに好ましくは8〜10nmである。1次蒸着させる金属の厚みが上記範囲より厚すぎると、UV照射によるエッチング処理が困難となり、上記範囲より薄すぎると1次蒸着させた試料の走査型電子顕微鏡による観察時に帯電して、観察ができなくなったり、さらには試料が電子線でダメージを受ける。2次蒸着させる金属の厚みは、走査型電子顕微鏡により観察できる範囲内であれば、任意に決定できる。ただし、処理時間が長くなると、破面が金属イオンにより破壊されてしまうおそれがあるので、余り厚くすることはできず、好ましくは12〜16nmである。 上記塩基性溶液処理により、又はUV前処理後の塩基性溶液処理により、ポリエステルの非晶部分が球晶部分よりも、優先的に削除される。 破面のエッチング深さは、1〜8μm、好ましくは1〜5μmである。エッチング深さが上記範囲より浅すぎると、破面の直下に球晶層が存在するのかどうかが判らず、上記範囲より深すぎると、破面のパターンが失われやすくなる。 1次蒸着後の試料に、上記のUV照射後の塩基性溶液によるエッチングを行うため、成形品の破面に対するUV照射条件は、蒸着させる金属の種類や厚みにもよるが、5〜20mW/cm2、好ましくは8〜10mW/cm2で、照射時間は30〜90分、好ましくは40〜70分である。 破面に対するUV照射量が上記範囲未満では、十分な前処理が行われず、上記範囲超では前処理が進みすぎて球晶部分も変化しすぎて、破面を解析するための所望のパターンが得られない。 UVの光源としては、特に制限はなく、中圧もしくは低圧水銀灯等の金属原子の共鳴線を利用したランプ、ヨー素ランプ等のハロゲンランプ等が挙げられる。 塩基性溶液処理の条件は、濃度1〜10重量%、温度は常温、時間は破面パターンによって異なるが0.5〜5時間である。 PBT成形品の脆性破面をUV前処理後アルカリ溶液で処理した一例を図4に示す。図4(a)では、起点を中心に放射状模様(リバーパターン)が見られる。図4(b)は、図4(a)の白い枠で囲まれた部分の拡大写真であるが、破面直下に球晶による花びら模様が明瞭に見られる。 上記塩基性溶液処理又はUV前処理後の塩基性溶液処理により、表面の温度が上昇しすぎることなく、マイルドにエッチングされるので、破面の特徴的な形状を損なうことなく破面をエッチングして、破面直下の球晶の形態を出現させることが可能である。 一方、コロナ放電やプラズマなどによりエッチングすると、表面が融解したりして、破面の特徴的な形状が損なわれやすい。 本発明の顕微鏡観察用の処理方法は、破面の解析方法に、特に、脆性破面、延性破面、疲労破面、クリープ破面又はこれらの複合破面のいずれかであることを決定する破面解析方法に使用することができる。 特に、破面をエッチングして現れた下層に、球晶の形態を出現させ、即ち、球晶が存在するか否か、また球晶が切断ないし変形しているか否か、変形している場合には、どのように変形しているか、球晶内に亀裂があるか否か等それを観察できるようになり、破壊原因を推定しやすくなった。(実施例) 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 実施例では、判りやすく、非強化ポリブチレンテレフタレート、ジュラネックスTM2002(ポリプラスチックス(株)社製)成形加工品の試験片をアイゾット衝撃試験により脆性破壊させた試料の脆性破面、及び曲げ試験により静的延性破壊させた延性破面を表面処理する例である。塩基性溶液 水酸化ナトリウム(試薬特級)及びエタノール(試薬特級)を用いて、水酸化ナトリウムの10重量%エタノール溶液を調製し、窒素置換して暗冷所に保存した。<使用機器>・UV前処理:センエンジニアリング(株)製、紫外線表面改質装置PL8−200(主波長:185nm、及び254nm、出力200W)・電子顕微鏡:(株)日立製作所製、走査型電子顕微鏡S−2700・蒸着装置:(株)日立製作所製、イオンスパッタ装置E1030脆性破面 非強化ポリエステルの脆性破面には特徴的な模様として放射状模様(リバーパターン)が観察された(図1〜3参照)。次に、これらの模様が保持された状態で破面直下の組織を出現させるために、以下のように処理した。 破面に白金−パラジウムを厚さ8nmに1次蒸着させた試料を用いて、走査型電子顕微鏡により模様を観察した後、破面をアセトン洗浄した上で、照射する破面を上にしてUV照射装置内にセットし、光源との距離を約30mmに調整し、60分間連続的に照射し、前処理した。 次に、上記調製した塩基性溶液に、常温で、4時間浸漬した後、取り出して、水洗、アセトン洗浄、乾燥して、エッチングした破面に白金−パラジウムを厚さ12nmに2次蒸着させた後、走査型電子顕微鏡にて破面を観察した。 脆性破面の特徴である放射状模様(リバーパターン)が保持された状態でかつ、破面をエッチングして現れた下層に、変形していない球晶が破面全体に出現した(図4(a)〜(c)参照)。これは、破壊が球晶の塑性変形を伴わないで生じていることを示唆している。 複雑な処理も行わずに、目的の表面処理された破面が得られ、簡便な処理方法である。延性破面 延性破面として、(i)試験片にノッチなどの欠陥が無い場合の試験片(図10(a)参照)の静的延性破面と(ii)ノッチ(欠陥)が有る場合の試験片(図10(b)参照)の静的延性破面について検討した。(i)試験片に欠陥が無い場合の静的延性破面 1次蒸着させた試料の走査型電子顕微鏡による観察により、非強化ポリエステルの延性破壊させた破面には特徴的なパターンとして、大きなすり鉢状のディンプル模様が観察された(図5(a)参照)。このディンプルを拡大するとディンプル模様の中に縞状模様が観察された(図5(b)〜(c)参照)。 次に、これらの模様が保持された状態で破面直下の組織を出現させるために、脆性破面の場合と同様に、UV前処理後、塩基性溶液処理(常温下2時間浸漬)した。 するとディンプル模様全体および縞状模様が保持された状態で、破面をエッチングして現れた下層に、脆性破面とは異なり円形の球晶の形が確認されず、球晶が大きく塑性変形し、それらの間には大きな亀裂が入った状態が全体に出現した。(図6(a)〜(c)参照)。これは、延性破壊が球晶の大きな塑性変形を伴った破壊であることを示唆している。(ii)ノッチ(欠陥)が有る場合の静的延性破面 ノッチ付き曲げ延性破壊させた場合には、図7に示すように、破面には、小さなディンプル模様が密集した蓮の葉状の模様が現れ、球晶の花びら模様は出現しない(図8(a)〜(b)及び図9(a)〜(b)参照)。しかし、図9(c)から判るように、亀裂の直下には花びら模様が出現し、球晶が存在することが判る。 これに対して、破面のコロナ放電処理、プラズマ処理では、表面が融解したりして、破面パターンを保持した状態で、破面直下の球晶の形態を出現させることはできなかった。図1(a)はPBT試験片の溶融、固化後の走査型電子顕微鏡写真である。 図1(b)は図1(a)の白枠部分の拡大写真である。図2(a)はPBT試験片の脆性破面の走査型電子顕微鏡写真である。 図2(b)は図2(a)の白枠部分の拡大写真である。 図2(c)は図2(b)の白枠部分の拡大写真である。図3(a)はPBT試験片の脆性破面の塩基性溶液処理後の走査型電子顕微鏡写真である。 図3(b)は図3(a)の白枠部分の拡大写真である。 図3(c)は図3(b)の白枠部分の拡大写真である。図4(a)はPBT試験片の脆性破面のUV前処理+塩基性溶液処理後の走査型電子顕微鏡写真である。 図4(b)は図4(a)の白枠部分の拡大写真である。図4(c)は図4(b)の白枠部分の拡大写真である。図5(a)はPBT試験片の欠陥が無い場合の静的延性破面の処理前の走査型電子顕微鏡写真である。 図5(b)は図5(a)の白枠部分の拡大写真である。 図5(c)は図5(b)の白枠部分の拡大写真である。図6(a)はPBT試験片の欠陥が無い場合の静的延性破面のUV前処理+塩基性溶液処理後の、走査型電子顕微鏡写真である。 図6(b)は図6(a)の白枠部分の拡大写真である。 図6(c)は図6(b)の白枠部分の拡大写真である。図7はPBT試験片の欠陥が有る場合の静的延性破面の処理前の走査型電子顕微鏡写真である。図8(a)は図7(b)の拡大写真である。 図8(b)は図8(a)の白枠部分の拡大写真である。 図8(c)は図8(b)の白枠部分の拡大写真である。図9(a)はPBT試験片の欠陥が有る場合の静的延性破面の処理後の走査型電子顕微鏡写真の拡大写真である。 図9(b)は図9(a)の白枠部分の拡大写真である。 図9(c)は図9(b)の白枠部分の拡大写真である。図10(a)は、欠陥が無い場合のPBT試験片の一例である。 図10(b)は、欠陥が有る場合のPBT試験片の一例である。 結晶性ポリエステル樹脂成形品の破面の特徴的な形状を損なうことなく破面を塩基性溶液でエッチング処理して、破面直下の球晶の形態を出現させることを特徴とするポリエステル樹脂成形品の破面の顕微鏡観察用の処理方法。 結晶性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである請求項1に記載の処理方法。 塩基性溶液が、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアルコラート溶液、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物のアルコール溶液又はアルカリ水溶液である請求項1又は2に記載の処理方法。 塩基性溶液が、水酸化ナトリウムのアルコール溶液である請求項3に記載の処理方法。 塩基性溶液が濃度1〜10重量%のアルコール溶液であり、処理温度が5〜40℃、処理時間が、0.5〜5時間である請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。 予め、破面を紫外線照射した後、塩基性溶液で処理する請求項1〜5のいずれかに記載の処理方法。 紫外線の波長が300nm以下である請求項6に記載の処理方法。 成形品の破面に対する紫外線の照射条件が、8〜10mW/cm2で30〜90分である請求項6又は7に記載の処理方法。 結晶性ポリエステル樹脂成形品の破面に、金属を1次蒸着させた破面を走査型電子顕微鏡で観察した後、紫外線を照射した上で、アルカリ溶液処理し、該1次蒸着させた破面をエッチングして破面直下の球晶の形態を出現させ、さらに金属を2次蒸着させて走査型電子顕微鏡用試料とする請求項1〜8のいずれかに記載の処理方法。 1次蒸着金属の厚さが3〜12nmで、2次蒸着金属の厚さが12〜16nmである請求項9に記載の処理方法。 高分子材料部分のエッチング深さが1〜5μmである請求項9又は10に記載の処理方法。 破面解析方法に使用する請求項1〜11のいずれかに記載の処理方法。 【課題】 結晶性ポリエステルの破面解析に関し、信頼性の高い新しい破面解析技術の開発に結び付くための新たな破面の処理方法を提供すること。 【解決手段】 結晶性ポリエステル樹脂成形品の破面に、金属を1次蒸着させた破面を走査型電子顕微鏡で観察した後、紫外線を照射して該1次蒸着させた破面をエッチングして破面直下の球晶の形態を出現させ、さらに金属を2次蒸着させて、エッチング後の破面観察のための走査型電子顕微鏡用試料とする。【選択図】 なし