タイトル: | 特許公報(B2)_リポポリサッカライドを有効成分とする肛門圧低下外用剤 |
出願番号: | 2003314144 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 31/739,A61P 1/00,A61P 1/10,A61P 21/00 |
木戸 裕子 JP 4632644 特許公報(B2) 20101126 2003314144 20030905 リポポリサッカライドを有効成分とする肛門圧低下外用剤 マルホ株式会社 000113908 三枝 英二 100065215 中野 睦子 100108084 木戸 裕子 JP 2003098546 20030401 20110216 A61K 31/739 20060101AFI20110127BHJP A61P 1/00 20060101ALI20110127BHJP A61P 1/10 20060101ALI20110127BHJP A61P 21/00 20060101ALI20110127BHJP JPA61K31/739A61P1/00A61P1/10A61P21/00 A61K 31/739 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 水野伝一,医薬としてのリポ多糖(LPS),医学のあゆみ,1995年,Vol.195, No.6,p.393-396 Fan Y-P et al,American Journal of Physiology,2001年,Vol.280, No.1, Pt.1,p.G32-G42 Park H et al,Journal of Gastroenterology,2002年,Vol.37,p.1000-1004 富田凉一他,Journal of Smooth Muscle Research Japanese Section,2001年,Vol.5, No.1,p.J10 5 2004315497 20041111 16 20060419 福井 悟 本発明は、リポポリサッカライドを有効成分とする肛門圧低下外用剤、肛門関連疾患の予防又は治療剤に関する。 リポポリサッカライド(以下LPSという)は、グラム陰性菌の細胞壁成分であり、その化学構造は高分子リン脂質であるリピドAと糖の繰り返し構造を持ったリポ多糖体である。LPSは内毒素(エンドトキシン)と呼ばれており、LPSが生体内にはいると発熱や下痢、血管内播種性血液凝固、過剰炎症反応などの多彩な反応の原因となりこれらの症状が一斉に起こりショック(いわゆる内毒素ショック)を引き起こすことはよく知られている。しかし、腸管内細菌の多くがグラム陰性菌であり、また正常な腸管では防御機構があるため、細菌およびLPSは腸管粘膜を通過できないので生体内には入らない。 一方、LPSの有用な作用として、抗腫瘍作用や免疫賦活作用等が研究されている。また、腸内細菌の生理的存在意義が検討されている。しかし、LPSの外用剤としての研究はほとんど報告されていない。 ヒルシュスプルング病は、腸管壁において先天的にマイスネルとアウエルバッハの自律神経叢が欠損しているために起こるもので、通常は結腸遠位部に限定されている。病変部の蠕動はないか、もしくは異常であり、それにより平滑筋の持続的な痙縮や、腸内容物の蓄積による部分的または完全な閉塞、より近位部で正常の神経支配を受ける腸の拡張が起こる。閉塞は肛門部で最も多いが、結腸近位の様々な部位に広がることもあり、結腸全体や、まれに回腸末端や消化管全体に及ぶこともある。患者は便秘や腹部膨満を呈す。治療法としては、神経節細胞欠損が肛門に限局している乳幼児では、神経節細胞欠損域より近位部の人工肛門造設が多い。ヒルシュスプルング病には、ボツリヌス菌毒素が有効であることが知られているが、これは内肛門圧の低下作用によるものである。また緩下剤投与や食事指導による便通調節、排便指導が行われるが、これによって改善しない場合には、内括約筋切開が行われる。 (例えば、非特許文献1及び2参照)。 クローン病は、右下腹痛と圧痛が特徴的な炎症で、腸の狭窄によって生じる反復する部分的閉塞で、激しい疝痛、腹部膨満、下痢、嘔吐を起こし、炎症と閉塞が起こり、栄養不足と衰弱をもたらすびまん性空回腸炎、また通常後期の出来事で、しばしば発熱、有痛性の腹部腫瘤などの症状が見られる。平滑筋の痙縮による肛門部の疼痛も見られる。この疾患に対して抗コリン剤とジフェノキシラート、ロペラミド、阿片チンキ、コデインなどが対症療法的に使用されている。また、スルファザラジンやステロイド剤も使用されている。免疫抑制剤としてアザチオプリンや6−メルカプトプリンなどの代謝拮抗物質、メトトレキサートも効果が認められている。これらの薬剤はいずれも一定の効果が認められているが、生活の質(QOL)を高めるためには肛門圧を下げて疼痛緩解を行う薬剤を投与することも望ましい。 過敏性大腸症候群は、単一の疾患ではなく、下痢または下痢と便秘の交代とこれに伴う腹部症状の訴えがあるが、それらの症状を説明する器質的な病変が腸管および関連臓器に証明されないものを総称してこのように呼ばれている。過敏性大腸症候群による疼痛は肛門内圧の上昇によることが知られている(例えば、非特許文献3参照)。本疾患に特異的な症状はないが、右下腹部の鈍痛や疝痛が多く見られ、下痢と便秘を繰り返す。肛門圧を下げ下腹部の疼痛を緩解させることはQOLを高めるためにも重要な治療となる。 肛門拳筋症候群とは、肛門に痔核や切れ痔がないにもかかわらず突然肛門の奥のほうが痛くなる疾患で原因不明である。痛みは突然起こり、しめつけられるような激しい痛みとなる。いろいろ原因があるが、最も多いのは肛門括約筋の過剰な収縮により痛みが生じている。この痛みを和らげるために肛門圧を下げるのは非常に有効な治療となる。 また、肛門括約筋障害では、肛門括約筋、とりわけ肛門拳筋が異常に亢進していることが知られている。 また、巨大結腸症は、筋緊張性ジストロフィによる肛門括約筋の筋緊張により発症することが知られ、肛門括約筋内圧測定では、平滑筋からなる内肛門括約筋と骨格筋からなる外肛門括約筋の両方に筋緊張反応が認められている。また、下剤の乱用、大腸の偽性閉塞症、肛門周囲の疼痛性疾患による肛門括約筋の持続的攣縮などにより巨大結腸症になることも知られている。 これらの疾患の予防又は治療薬で肛門圧を低下させることによりQOL改善を目指した薬剤はなかった。 一方、裂肛や痔核等の痔疾患では肛門圧の上昇が認められている。肛門括約筋が収縮し、その結果肛門部分の組織・神経を圧迫し強度の疼痛を生じている。これらの疾病の治療を目的として外科的手術が行われているが、患者やその家族の手術への抵抗や、手術後に便失禁を患うことが多いことにより、薬理学的な予防又は治療が望まれている。 また、一方では肛門圧を低下させる目的でニトログリセリン軟膏の塗布や、ボツリヌス毒素の注射が検討されている。しかし、ニトログリセリン軟膏は頭痛と肛門部灼熱感などの副作用が高い頻度で出現するという問題があり、ボツリヌス毒素の注射は通院を要するという問題がある。ランガー ジェイシー(Langer JC)、ビルンバウム イーイー(Birnbaum EE), シュミット アールイー(Schmidt RE)、「ヒストロジー アンド ファンクション オブ ジ インターナル スヒンクター アフター インジェクション オブ ボツリヌス トキシン(Histology and Function of the internal anal sphincter after injection of botulinum toxin)」、ジャーナル オブ サージカル リサーチ(Journal of Surgical Research)、(米国)、アカデミック プレス(Academic Press)、1997、73、2、p.113−116宇都宮譲二編集、「実地医家に役立つ肛門疾患の知識」、永井書店、1995、p.203クラグ イー(Krag E)、「イリテイブル ボウル シンドローム:カレント コンセプツ アンド フューチャー トレンズ(Irritable bowel syndrome: current concepts and future trends)」、スカンジナビアン ジャーナル オブ ガストロエンテロロジー サプリ(Scandinavian Journal of Gastroenterology Suppl)、スカンジナビア、1985、109、p.107-115 本発明は、リポポリサッカライドを有効成分とする肛門圧低下外用剤、肛門圧低下方法、肛門関連疾患の予防又は治療剤を提供することを目的とする。 本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、リポポリサッカライドを含む製剤が肛門圧を低下させることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、以下の肛門圧低下外用剤、肛門圧低下方法、肛門関連疾患の予防又は治療剤を提供するものである。 項1.リポポリサッカライドを有効成分とする肛門圧低下外用剤。 項2.肛門直腸部位および肛門周囲に適用するための項1記載の肛門圧低下外用剤。 項3.項1又は2に記載の肛門圧低下外用剤を肛門に塗布する肛門圧の低下方法。 項4.塗布部が肛門粘膜又は外傷部位である項3に記載の肛門圧の低下方法。 項5.リポポリサッカライドを有効成分とする裂肛又は痔核の予防又は治療剤 項6.リポポリサッカライドを有効成分とする便秘症の予防又は治療剤。 項7.リポポリサッカライドを有効成分とするヒルシュスプルング病の予防又は治療剤。 項8.リポポリサッカライドを有効成分とするクローン病の予防又は治療剤。 項9.リポポリサッカライドを有効成分とする過敏性大腸症候群の予防又は治療剤。 項10.リポポリサッカライドを有効成分とする肛門括約筋障害の予防又は治療剤。 項11.リポポリサッカライドを有効成分とする巨大結腸症の予防又は治療剤。 項12.リポポリサッカライドを有効成分とする肛門拳筋症候群の予防又は治療剤。 項13.リポポリサッカライドを有効成分とする痔疾患の予防又は治療剤。 本発明の肛門圧低下外用剤、肛門圧低下方法、肛門関連疾患の予防又は治療剤は、リポポリサッカライド(以下、LPSと称することがある)を有効成分とすることを特徴とする。 肛門関連疾患としては、痔疾患(例えば裂肛、痔核)、便秘症、ヒルシュスプルング病、クローン病、過敏性大腸症候群、肛門括約筋障害、肛門拳筋症候群(突発性肛門痛)、巨大結腸症等が例示される。本発明の肛門圧低下外用剤は、その中に含まれるリポポリサッカライドが肛門圧低下作用を有するためこれらの疾患の予防又は治療に有用である。 前述の疾患は、いずれも肛門圧の上昇が見られ、肛門圧の低下により疾患が改善される。したがって、肛門圧低下作用を有する本発明の肛門圧低下剤はこれらの疾患に有用である。 LPSはグラム陰性菌の細胞壁に特徴的な構成成分で外膜に存在する(H.Mayer, R.N.Tharanthan, J, weckesser, "Methods in Microbiology", ed. by G. Gottschalk, Vol 18, p.157, Academic Press, Florida (1985))。LPSの調製法は、Westphalの熱フェノール水抽出法(O.Westphal, K. Jann, "Methods in Carbohydrate Chemistry", ed. by R. Whistler, Vol.5, p.83, Academic Press, New York (1965)も用いられるが、Galanosのフェノール-クロロホルム-石油エーテル抽出法(PCP)法(C.Galanos, O. Luderitz, O. Westphal, Eur. J. Biochem., 9, 245 (1969))が収量・純度とも良く優れている。LPSはこれらの方法で入手することができる。また、LPSは、細菌、特にグラム陰性菌から一般的に入手できるが、それ以外にも植物起源からも入手することができる。 また、本発明の肛門圧低下外用剤、肛門関連疾患の予防又は治療剤の製剤形態は、肛門に適用可能な形態であれば特に限定されるものではない。例えば、軟膏剤、座剤、クリーム剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、乳剤、粉剤、懸濁剤、エアゾール剤などや、基剤を支持体上に支持させた硬膏剤、パップ剤、テープ剤、プラスター剤などが挙げられる。好ましくは、前記剤型例示のうち、軟膏剤、座剤、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、乳剤であり、さらに好ましくは、軟膏剤である。 また、本発明の肛門圧低下外用剤、肛門関連疾患の予防又は治療剤中の、有効成分であるリポポリサッカライドの配合量は、肛門圧低下作用が認められる限り特に限定されず、剤型、患者の症状等に応じて適宜選択可能である。例えば、軟膏の場合、通常、有効量のLPSを含有する軟膏を1日当たり1〜数回、適量を患部に塗擦する。 基剤としては、薬学的に許容しうるものであればよく、従来公知のものを適宜使用することができる。例えば、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、カラギーナン、マンナン、アガロース、デキストリン、カルボキシメチルデンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、メトキシエチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のポリマー類;ミツロウ、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、ダイズ油、ツバキ油、ラッカセイ油、牛油、豚油、鶏油、ラノリン等の油脂類;白色ワセリン、黄色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、セレシンワックス、スクワラン、軽質流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;ゲル化炭化水素(例えば、商品名プラスチベース、ブリストルマイヤーズスクイブ社製);ステアリン酸等の高級脂肪酸;セタノール、オクチルドデカノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;ポリエチレングリコール(例えば、マクロゴール400、マクロゴール4000等);プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;モノオレイン酸エステル、ステアリン酸グリセリド、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ハードファット等の脂肪酸エステル類;水、生理食塩水、リン酸緩衝液などが挙げられる。 例えば、軟膏剤の場合、炭化水素類、脂肪酸エステル類、ゲル化炭化水素、ミツロウ、ポリエチレングリコール等が使用される。また、クリーム剤の場合、炭化水素類、界面活性剤、水、グリセリン、セタノール、ステアリルアルコール等が使用される。また、 ローション剤の場合、炭化水素類、水、カルボキシビニルポリマー、グリセリン、セタノール、プロピレングリコール等が使用される。さらに、ゲル剤には、水、界面活性剤、カルボキシビニルポリマー、低級アルコール類等が使用される。 界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、レシチン誘導体、自己乳化型プロピレングリコールモノステアレート等のプロピレングリコール脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリン等のグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンステロール・水素添加ステロール、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸・リン酸塩、カルボキシメチルスターチナトリウム、疎水性軟質無水ケイ酸、高分子乳化剤などが挙げられる。これらに限定されるものではないが、剤型にかかわらず、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等がよく使用される。 さらに必要に応じて、ポリビニルピロリドン等の溶解補助剤;カオリン、ベントナイト、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機充填剤;老化防止剤;トリエタノールアミン等のpH調節剤;グリセリン、プロピレングリコール等の保湿剤;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸類、ホウ酸、ホウ砂、カンフル等の防腐剤;キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、流動パラフィン、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の粘凋剤又は粘凋化剤などを添加してもよい。 また上記テープ剤の基剤としては、薬学的に許容しうるものであればよく、従来公知のものを用いることができ、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤等が挙げられ、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤が好適に用いられる。また上記支持体上に展延する際の粘着剤の性状としては、溶剤系、エマルジョン系、ホットメルト系等の任意のものを用いることができる。 上記アクリル系粘着剤としては、アルキル(メタ)アクリレートを共重合して得られるポリアルキル(メタ)アクリレートを主体とする粘着剤が挙げられ、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な多官能性モノマーやその他のビニルモノマーとの共重合体でもよい。 上記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。上記多官能性モノマーとしては、例えば、1,6−ヘキサングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレートなどが挙げられ、上記その他のビニルモノマーとしては、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、酢酸ビニルなどが挙げられる。 上記ゴム系粘着剤としては、天然ゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−オレフィン−スチレンブロック共重合体などを主体とする粘着剤が挙げられ、一般に、ロジン、水添ロジン、ロジンエステル、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油系樹脂、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂などの粘着付与剤が添加されてなる。 上記支持体としては、その剤型(例えば、パップ剤、テープ剤等)に応じて適宜選択されるが、薬物が不透過又は難透過性で柔軟なものが好ましく、例えば、酢酸セルロース、エチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−ブチルアクリレート−一酸化炭素共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの樹脂フィルム;アルミニウムシート、織布、不織布など、及びこれらの積層シートなどが挙げられる。 本発明の肛門圧低下外用剤、肛門関連疾患の予防又は治療剤の投与量は、疾患の種類や症状の程度などによって異なるが、患者に対する1日当たりの投与量がLPSに換算して通常0.3〜3000ng/kg、好ましくは3〜3000ng/kg、さらに好ましくは3〜300ng/kgとなる量であり、これを1回又は適当な回数に分けて患部に適用する。 本発明の肛門圧低下外用剤、肛門関連疾患の予防又は治療剤は、その剤型に応じ、従来公知の方法で製造される。例えば、油脂性軟膏剤を製造する場合、原料基剤を加温して融解し、混和し、半ば冷却した後、LPSを基剤に加えて、練り合わせて製造する。クリーム剤、乳剤を製造する場合、固形の基剤は水浴上で溶かした後、約75℃に保ち、これに、水溶性の基剤を水に溶かして同温度又は若干高い温度に加温したものを加え、LPSをこれに加えて練り合わせて製造する。また、ゲル剤を製造する場合、例えば、ポリマーを水に加え、加温して膨潤させる。これに、水溶性の基剤及び細菌を溶媒に加温して溶かしたものを加え、混合・溶解させた後、冷却して製造する。さらに、ローション剤を製造する場合、例えば、ポリマーを水に加え、加温して膨潤させる。これに、水溶性の基剤を溶媒に加温して溶かしたものを加え、更にLPSをこれに加えて混合・分散させた後、冷却して製造する。混合・溶解の方法としては、乳鉢、乳棒による方法、練合機を用いる方法、乳化機を用いる方法などがあるが、基剤の性状、調製量などにより適宜選択される。 本発明によれば、LPSの作用により肛門圧を低下させることが可能である。また、LPSを有効成分とした製剤は、肛門圧低下作用を有するため、肛門関連疾患(例えば裂肛、痔核等の痔疾患)、便秘症、ヒルシュスプルング病、クローン病、過敏性大腸症候群、肛門括約筋障害、肛門拳筋症候群、巨大結腸症、肛門括約筋障害、痔疾患等の予防又は治療に有用である。 本発明による肛門圧低下作用は、LPSを肛門直腸部位および肛門周囲に投与することにより肛門括約筋を弛緩させ肛門圧が低下することにより発揮されると考えられる。 以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、本実施例においては、肛門圧の指標として肛門内圧を使用し、図面及びその説明においては肛門内圧を単に肛門圧と称することがある。 実施例1:市販LPS局所塗布によるラット肛門内圧及び血圧に対する影響 Slc:SD系雄性ラット(9〜10週齢、日本エスエルシー株式会社)を6匹用いて、市販のLPS局所塗布による肛門内圧及び血圧に対する影響を検討した。市販のLPS(Escherichia coli O111:B4,シグマ株式会社製、製品番号L2630、ロット110K4060)を-80℃で凍結した保存溶液(10mg/mL)をエンドトキシン測定用水(生化学工業株式会社製、蒸留水(エンドトキシンフリー))で10倍希釈し、これらの希釈液を0.3mL/kgの投与量でラットの肛門内へ塗布した。肛門内圧及び血圧は塗布前2回、塗布後2及び4時間時に測定した。肛門内圧は、各肛門内圧測定記録の測定開始1〜8分後までの7分間の肛門内圧曲線下面積(肛門圧面積)及び20mmH2O以上の収縮数(肛門圧収縮数)で評価した。評価結果を、塗布後の肛門内圧及び血圧の結果は、塗布前に2回行った測定による値の平均値を100%とし、これに対する変化率(%)で図1〜5に示す。 図1、2、4及び5より、肛門圧収縮数及び肛門圧面積ともに塗布2から4時間後までLPSの用量依存的に低下し、LPSが肛門圧低下に有効であることが確認された。また、図3に示されるように、血圧の極端な低下は認められなかった。さらに、ラットを観察した限りではLPSのエンドトキシンショックは認められなかった。 なお、本試験の詳細を以下に記載する。試験方法 1)差圧トランスデューサー、キャリアアンプ、記録計の接続及び水負加圧によるキヤリブレーション キャリアアンプ(11-G4113-01,グールド)に記録計(ユニコーダー,U-228,日本電子科学)及び差圧トランスデューサー(DP45,バリダイン)を接続した。水負加圧によるキャリブレーション後,差圧トランスデューサーには肛門内圧測定用バルーン装着カテーテルを接続し、肛門内圧測定を開始した。 2)肛門内圧の測定方法(1)測定手順 肛門内圧は、Slc:SD系雄性ラットを無麻酔で実験台上に腹位に置き、軽く保定しながら、Vinograd らのバルーン2個を用いる方法(Vinograd I et al.: Animal model for the study of internal anal sphincter activity. Eur Surg Res 17:259-263, 1985)に準じて測定した。すなわち、カテーテル(フレンチサイズ;5Fr,外径1.7mm)の先端にバルーン(MB-5,外径3mm,長さ15mm,スターメディカル製)1個を手術用糸(No.3)で装着したものを2本繋ぎ、バルーン2個付き肛門内圧測定用カテーテル(2個バルーン全長約2.5cm)を作製した。肛門側バルーンのカテーテルに差圧トランスデューサー(DP45,バリダイン)を接続し、先端バルーンを直腸側に、後方バルーンを肛門側に位置するように挿入し、一定位置に静止させた状態で約10分間肛門内圧を測定した。なお、肛門内圧測定用カテーテルおよびバルーンには水を満たして測定した(尚,バルーンには水約0.15〜0.2mL,注入し,軽く膨脹させた)。肛門内圧測定終了約1分前に直腸側バルーンを全量約0.7〜0.8mLの水で一過性に膨らませて、直腸肛門反射の有無を確認した。(2)肛門内圧測定用動物の選択 肛門内圧として数回繰り返される収縮波形を示す個体を選び、さらに約1時間毎に数回肛門内圧を測定し、ほぼ同様な肛門内圧波形を測定できた個体を肛門内圧測定用動物として選択した。(3)肛門内圧の評価 肛門内圧は、各肛門内圧測定記録の測定開始1〜8分後までの7分間の肛門内圧曲線下面積(肛門圧面積)及び20mmH2O以上の収縮数(肛門圧収縮数)で評価した。肛門圧面積は、肛門内圧曲線をMacintosh用「Adobe Photoshop ver.3.0」ソフト内のレイヤー機能のパスでトレースし、肛門内圧曲線下を黒く反転させ、反転させた黒色の面積をMacintosh用「NIH Image 1.62」で算出した。肛門圧収縮数は20mmH2O以上のものを計測した。さらに、各評価毎に、前値(0時間)に対する各測定時間の値の変化率(%)を算出した。 3)血圧の測定 血圧は各肛門内圧測定直後にラットマウス用血圧計(室町機械社製、MK-2000)を用いて無麻酔下で非観血的に測定した。 4)LPS希釈液塗布による検討(1)塗布及び肛門内圧測定手順 肛門内圧は塗布前に2回測定し、平均値を前値(0時間)とした。前値測定後、LPS希釈液を体重1kg当たり0.3ng/kg、3ng/kg、30ng/kg、300ng/kg、3000ng/kgとなる量で肛門部へ塗布した。同様に、ブランクについては0.3mL/kg塗布した。塗布2及び4時間後に肛門内圧及び血圧を測定した。 実施例2:大腸菌死菌浮遊液含有軟膏における一酸化窒素合成酵素阻害剤の影響 Slc:SD系雄性ラット(9〜10週齢、日本エスエルシー株式会社)を4匹用いて、LPSを含む大腸菌死菌浮遊液含有軟膏(マルホ株式会社製の市販品)の局所塗布による肛門内圧に対する影響を検討した。軟膏を160mg/kgとなる量でラットの肛門内へ塗布した。塗布3時間後に一酸化窒素合成酵素阻害剤であるL-NAME(Ng-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル)又はアミノグアニジンを含有させた注射用蒸留水を肛門に滴下した(阻害剤投与量は1肛門当たり10mg)。 また、一酸化窒素合成阻害剤を追加することなく、軟膏を塗布したラット(4匹)及びプラセボ(4匹)についても同様に測定した。 肛門内圧を塗布前2回、塗布後1時間毎に6時間後まで測定した。測定方法及び評価方法は実施例1と同じである。結果を図6及び7に示す。一酸化窒素合成酵素阻害剤投与後1及び2時間(軟膏塗布後4及び5時間)の、軟膏による肛門圧低下作用(肛門圧面積の減少及び肛門圧収縮数の減少)が抑制されていることが確認され、阻害剤によりLPSの作用が阻害されることが示された。この結果より、肛門圧低下は一酸化窒素によるものであり、その作用は軟膏中のLPSによることが確認された。LPS希釈液塗布2時間後及び4時間後の肛門圧収縮数の変化率を示すグラフである。LPS希釈液塗布2時間後及び4時間後の肛門圧面積の変化率を示すグラフである。LPS希釈液塗布2時間後及び4時間後の血圧の変化率を示すグラフである。LPS塗布量と肛門圧収縮数変化率との関係を示すグラフである。LPS塗布量と肛門圧面積変化率との関係を示すグラフである。大腸菌死菌浮遊液含有軟膏の肛門圧収縮数低下作用に対する一酸化窒素阻害剤であるL-NAME(A)又はアミノグアニジン(B)の影響を示すグラフである。矢印は阻害剤を投与した時点を示す。大腸菌死菌浮遊液含有軟膏の肛門圧面積低下作用に対する一酸化窒素阻害剤である(A)又はアミノグアニジン(B)の影響を示すグラフである。矢印は阻害剤を投与した時点を示す。リポポリサッカライドを有効成分とする、肛門直腸部位および肛門周囲に適用するための肛門圧低下外用剤。便秘症及び肛門圧上昇に伴う痔疾患からなる群より選択される少なくとも1種の疾患の予防又は治療用の、リポポリサッカライドを有効成分とする、肛門直腸部位および肛門周囲に適用するための肛門圧低下外用剤。肛門圧上昇に伴う痔疾患が肛門圧上昇に伴う裂肛又は痔核である、請求項2に記載の肛門圧低下外用剤。便秘症及び肛門圧上昇に伴う痔疾患からなる群より選択される少なくとも1種の疾患を患う患者の生活の質向上用の、リポポリサッカライドを有効成分とする、肛門直腸部位および肛門周囲に適用するための肛門圧低下外用剤。肛門圧上昇に伴う痔疾患が肛門圧上昇に伴う裂肛又は痔核である、請求項4に記載の肛門圧低下外用剤。