タイトル: | 公開特許公報(A)_脳機能改善剤 |
出願番号: | 2003313010 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K31/045,A61K31/121,A61P25/28 |
横越 英彦 坂元 雄二 JP 2005082490 公開特許公報(A) 20050331 2003313010 20030904 脳機能改善剤 麒麟麦酒株式会社 000253503 廣田 雅紀 100107984 小澤 誠次 100102255 岡 晴子 100118957 横越 英彦 坂元 雄二 7A61K31/045A61K31/121A61P25/28 JPA61K31/045A61K31/121A61P25/28 5 OL 14 特許法第30条第1項適用申請有り 4C206 4C206AA01 4C206AA02 4C206CA11 4C206CB14 4C206MA01 4C206MA04 4C206NA14 4C206ZA15 本発明は、記憶・学習能力の維持・向上、ストレスの緩和といった脳の機能や代謝の改善及び脳の神経症の治療や予防に役立つ脳機能改善剤、特に、ドーパミン及び/又はセロトニン等の放出亢進に基づく脳機能の改善剤、及び、ドーパミン及び/又はセロトニン放出障害に起因する脳機能疾患の予防又は治療のための改善剤に関する。 人の学習能力や記憶力の維持・向上或いは種々のストレスに強くなりたいという要望は、現代社会においては世代に関わらず非常に高いに関心事となっている。現代人は、環境からの多くのストレスを受けて生活しており、通常は、このストレスに適応し、学習しながら、正常な生活を会得している。しかしながら、種々の要因により、この適応機能が失われると、その機能の障害が、疾患として現れてくる。近年、特に、脳の機能の障害については、研究が進展し、その原因が次第に解明されつつある。それと同時に、この障害の予防や治療を行うための種々の物質や薬剤が開発されてきている。 重篤な脳疾患に対しては、脳機能改善剤として種々の合成医薬品が開発・承認され実用化されている。また、種々の合成医薬品の開発と同時に、一方で、医薬品を常用するのではなく、日常的な食事としての摂取により脳の機能や代謝を維持し、又は緩やかに改善する食品の開発が希求され、そのような研究や開発も行われている。例えば、脳の機能や代謝を改善する効果が期待されている食品成分や天然抽出成分として、レシチン、グルタミン酸やγ−アミノ酪酸(GABA)などが知られており、更に、メラトニン(特開2002−20285号公報)、エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸(特開平1−279827号公報、特開平2−49723号公報、特開平3−58926号公報、特開平7−17855号公報、特開平7−143862号公報、特開平10−136937号公報)、乳酸菌や乳酸菌と酵母の発酵乳(特開平9−23848号公報)、テアニン(特開平8−73350号公報、特開平2000−229854号公報)が開示されている。 また、薬用人参(特開2000−191593号公報)、ナツシロギク抽出物(特表2002−518456号公報)、サフランめしべ中のクロセチジン糖エステル(特開平7−69908号公報、特開平7−223960号公報)、タバコ(特開平2−409645号公報)、エピガロカテキンガレート(特開平11−18722号公報)などが開示されており、キノコとしてはヤマブシタケ含有する神経成長因子産生誘導剤(特開平9−59172号公報)が開示されている。更に、特開平9−124541号公報にはブナハリタケにシクロペンテノン(cyclopentenone)誘導体及びγ−ラクトン(γ−lactone )誘導体を有効成分とする神経成長因子(NGF)産生誘導剤が、特開2002−80390号公報の「脳機能改善剤及びそれを含む機能性食品」にはブナハリタケの子実体又はその処理物を有効成分とする脳機能改善剤及びそれを含む機能性食品が開示されている。 一方で、近年、脳神経科学の発達により、幾つかの病気が脳内神経伝達物質の異常でおこることがわかってきている。例えば、日本人の約1000人に1人(65歳以上の高齢者では1〜2%)が発病するパーキンソン病では、黒質から線条体に求心する神経経路において神経伝達物質ドーパミンの放出が異常に少なくなることが知られている。また、うつ病では、セロトニンをはじめとする各種脳内神経伝達物質濃度が変化していることが知られている。このほかにも、ハンチントン病、アルツハイマー病、てんかん、精神分裂病などの病気も脳内神経伝達物質の異常との関連が研究されている。また、片頭痛やジストニアなどの神経症状や、不眠、情緒不安定、神経過敏、性格(粗暴、温和や積極性)も神経伝達物質との関連が研究されている。例えば、セロトニンが脳内で不足すると片頭痛などの症状が現れることが知られている。 そして、これらの病気や症状に対して食品に含まれる脳内神経伝達物質やその前駆体を摂食することによって治療したり症状を軽減させる試みがなされている。パーキンソン病治療剤としてはL−ドーパが知られているが、L−ドーパには短期的な脳内神経伝達物質代謝促進効果はあるものの、根本的な治癒効果が認められるには至っていない。また、めまいや手足のしびれあるいはふらつき感などの障害が副作用として現れることも知られている。このほかに脳機能改善剤としては、N−アセチルノイラミン酸結合オリゴ糖(特開平9−301874号公報)が知られているが、脳内神経伝達物質の代謝におよぼす影響については明確ではない。 上記のように脳機能に関与する物質として、ドーパミンやセロトニンが知られているが、脳内神経伝達物質のドーパミンは、フェニルアラニンより、エピネフリン(アドレナリン)を生成する系の中間体として知られている物質で、チロシン及び前駆体であるL−ドーパ(3,4-dihydroxyphenylalanine)を経て生成されるカテコールアミンであり、脳内のドーパミン作動性ニューロンに含まれ、それ自身で神経伝達物質としての作用を持つ。前記のように、パーキンソン病では、脳の「黒質緻密部」にあるドーパミンニューロンが減少して、ドーパミンの含量が低下することが知られている。ドーパミンの含量が低下すると、脳内神経の情報伝達が阻害され、脳機能の障害を生じ、重度になると前記のような脳機能疾患を発症する。 一方、セロトニン(5-hydroxytryptamine:5−HT)は、体内ではトリプトファンから生合成され、セロトニンの約90%は腸粘膜のクロム親和性細胞に存在し、約2%が中枢神経系に分布する。中枢神経系では、セロトニン神経が存在し、セロトニンは神経伝達物質として働く。セロトニンは、中枢では錐体外路系に対する作用(セロトニン症侯群)や体温調節のほか、睡眠、摂食抑制、催吐、攻撃行動、幻覚などに関与しており、その異常により前記のような脳機能疾患を発症する。 このように、軽度のものから重度のものまで、脳機能の障害には、ドーパミンやセロトニンのような物質の放出の異常等、種々の原因が関与しているが、このような脳機能の障害に対する予防、治療のために、有効な改善剤の開発が要望されている。特に、種々の合成医薬品の開発と同時に、一方で、医薬品として常用するのではなく、日常的な食事としての摂取により脳の機能や代謝を維持し、又は緩やかに改善する食品としての開発が可能な、作用が穏やかで、かつ、安全な改善剤の開発が望まれている。特開平1−279827号公報特開平2−49723号公報特開平2−409645号公報特開平3−58926号公報特開平7−17855号公報特開平7−69908号公報特開平7−143862号公報特開平7−223960号公報特開平8−73350号公報特開平9−23848号公報特開平9−59172号公報特開平9−124541号公報特開平9−301874号公報特開平10−136937号公報特開平11−18722号公報特開2000−191593号公報特開2000−229854号公報特開2002−20285号公報特開2002−80390号公報特表2002−518456号公報Flavour and Fragrance Journal 7(5) 247-251 (1992)Perfume and flavor chemicals (aroma chemicals) II by Steffen Arctander, published by the Auther, Montclair, N.J., USA(1969) 本発明の課題は、記憶・学習能力の維持・向上、ストレスの緩和といった脳の機能や代謝の改善及び脳の神経症の治療や予防に役立ち、かつ安全で安価な天然物に由来する脳機能改善剤を提供すること、特には、ドーパミン及び/又はセロトニン等の放出亢進に基づく脳機能の改善剤、及び、ドーパミン及び/又はセロトニン放出障害に起因する脳機能疾患の予防又は治療のための改善剤を提供することにある。 本発明者は、上記課題を解決すべく、天然物由来の化合物について鋭意探索の結果、1−フェニル−3−ペンタノールのようなフェニルペンタノール、及び、1−フェニル−3−ペンタノンのようなフェニルペンタノン等のフェニルペンタン化合物が、脳におけるドーパミンやセロトニン等の放出亢進作用があることを見い出し、脳機能の改善作用があることを確認して、本発明を完成するに至った。 1−フェニル−3−ペンタノールは、式[1]で表される化合物であり、また、1−フェニル−3−ペンタノンは、式[2]で表される化合物である。 すなわち、フェニルペンタノールやフェニルペンタノンに代表されるフェニルペンタン化合物は食経験や香料としての使用実績があり、構造が比較的簡単な天然のケトンやアルコールである。にも関わらず、一部のキノコや南米産植物を除き天然界での存在が稀であったためか機能性に関する報告例は少ない。これらの物質は神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンなどのフェニルエチルアミン誘導体より長い側鎖を持ち、またアミノ基の位置にケト基や水酸基がある点が特徴である。本発明者は、これらのフェニルペンタン化合物が、血液脳関門を通過したり、脳内伝達物質関連酵素や各種受容体との相互作用などにより脳神経系に対する何らかの作用を及ぼす可能性を考え、その可能性を検討するため、ラットを用いた複数の実験を鋭意実施した結果、脳機能に関与する物質の放出亢進作用を見い出し、脳機能の維持・改善に対する複数の効果が期待できることが判明し、本発明を完成するに至った。 本発明の有効成分は、長年の食経験が知られているきのこや植物に含有されるフェニルペンタン化合物に由来する物質であるから、安全かつ安価な天然物に由来する成分であり、脳機能改善作用、学習能力増強及び記憶力増強作用、ストレス時の脳内伝達物質量を変化させる効果を有する脳機能改善剤として提供することができる。 本発明の脳機能改善剤としてはフェニルペンタン化合物、好ましくはフェニルペンタノール、特に好ましくは、1−フェニル−3−ペンタノールを、或いは、好ましくはフェニルペンタノン、特に好ましくは、1−フェニル−3−ペンタノンを有効成分とする脳機能改善作用、学習能力増強及び記憶力増強作用、更にはストレス時の脳内伝達物質量を変化させる効果を有する脳機能改善剤として提供することができる。 本発明で、脳機能改善作用とは、脳内神経伝達物質であるドーパミン(DA)及び/又はセロトニン(5HT)が関与する、学習、記憶、反射反応等の脳機能又は脳代謝の障害の予防・改善作用、及びかかる脳機能の維持作用又は向上作用をいい、かかる脳機能改善作用は、例えば、脳内神経伝達物質であるドーパミン(DA)及びドーパミンの代謝産物であるジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)あるいはホモバニリン酸(HVA)の量、並びに、セロトニン(5HT)及びセロトニンの代謝産物である5−水酸化インドール酢酸(5HIAA)の量を測定することで、これら脳内神経伝達物質の代謝速度を指標とすることにより、あるいは神経成長因子(NGF)量の測定値を指標とすることにより確認することができる。 本発明における脳機能改善作用、学習能力及び記憶能力の維持又は増強作用は、脳切片灌流法により、フェニルペンタン化合物に接触した脳切片からの神経伝達物質の放出量の測定で確認することができる。また、不安・恐怖時などのストレス時の脳内伝達物質量を変化させる効果はフェニルペンタン化合物をラット腹腔内投与したラットのストレス下における行動観察及び脳内伝達物質の測定で確認することができる。また、ヒトの学習能力及び記憶力の維持又は増強作用については例えば百マス計算(蔭山英男)や速記等にて確認することができる。 具体的には本発明は、フェニルペンタン化合物を有効成分とする脳機能改善剤(請求項1)や、フェニルペンタン化合物が、フェニルペンタノール又はフェニルペンタノンであることを特徴とする請求項1記載の脳機能改善剤(請求項2)や、フェニルペンタノールが1−フェニル−3−ペンタノールであるか、又は、フェニルペンタノンが1−フェニル−3−ペンタノンであることを特徴とする請求項1又は2記載の脳機能改善剤(請求項3)や、脳機能の改善が、ドーパミン及び/又はセロトニン放出亢進に基づく機能改善であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の脳機能改善剤(請求項4)や、請求項1〜3記載のフェニルペンタン化合物を有効成分とするドーパミン及び/又はセロトニン放出障害に起因する脳機能疾患の予防又は治療剤(請求項5)からなる。 本発明の脳機能改善剤の有効成分は、長年の食経験が知られているきのこや植物に含有されるフェニルペンタン化合物に由来する物質であるから、安全かつ安価な天然物に由来する成分である。したがって、該有効成分を医薬品として投与し、脳機能疾患の予防又は治療剤として用いるだけでなく、食品のような形態で投与することができ、日常的な食事としての摂取により脳の機能や代謝を維持し、又は緩やかに改善する脳機能改善剤としての使用が可能となる。本発明の脳機能改善剤は線条体のドーパミンの放出を亢進させる作用を有することで、学習能力、記憶能力などの脳機能を増強させる目的で使用することができるとともに、ドーパミンの放出障害に起因する脳機能疾患の予防又は治療に使用することができる。例えば、本発明の脳機能改善剤及び飲食品の摂取により、老年期の痴呆症の予防及び治療の効果も期待できる。更に、本発明の脳機能改善剤或いは該脳機能改善剤を含有する飲食品は、非ストレス時には脳内になんの影響を与えないものの、不安や恐怖などのストレス時において扁桃体での神経伝達物質(ドーパミン、セロトニン等)の代謝を変化させることができる。 本発明の脳機能改善剤は、水溶性の低い1−フェニルペンタン骨格をもつフェニルペンタン化合物、例えば、1−フェニル−3−ペンタノールのようなフェニルペンタノールや、1−フェニル−3−ペンタノンのようなフェニルペンタノンを有効成分とするものである。これらのうち、例えば、1−フェニル−3−ペンタノールは香料として知られており、Perfume and flavor chemicals (aroma chemicals) II by Steffen Arctander, published by the Auther, Montclair, N.J., USA(1969)に phenylethyl ethylcarbinol として紹介されている。また、1−フェニル−3−ペンタノール及び1−フェニル−3−ペンタノンのようなフェニルペンタノール及びフェニルペンタノンは、特公平5−66093号公報(特許第1856146号)、及び、特公平5−66095号公報(特許第1856147号)に、エゾハリタケ科のブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)等が生産する香気成分として開示されている。 ブナハリタケは東北地方ではカヌカ、ブナカヌカ、カミハリタケなどの名で呼ばれ、ブナの立ち枯れや倒木に群生する。扇形の食用きのこで鶏肉のような食感から山の肉と呼とも呼ばれ、かつては越冬食品としても珍重されるなど数百年前から食されており、その調理法はきのこの調理法を紹介した多くの書籍に紹介されている。また、フェニルペンタン化合物は南米チリ原産の植物 Amomyrtus lumaの葉に大量に含有することが報告されている(Flavour and Fragrance Journal 7(5) 247-251 (1992))。同植物の葉は原住民がお茶として飲用している。 本発明で用いるフェニルペンタン化合物は、例えば、特公平5−66093号公報(特許第1856146号)、及び、特公平5−66095号公報(特許第1856147号)に記載の方法により製造することができる。すなわち、ブナハリタケ、ハリタケ、コウタケ、カノシタ及びシロカノシタ等のハリタケ科に属する担子菌を、例えば、炭水化物や糖類等の炭素源及び無機又は有機の窒素源、更には塩類を添加した液体培地で培養するか、或いは、米糠やオガクズ等に、酵母エキス等を添加した固体培地で培養し、培養物から、エタノール、更には、ヘキサン及び石油エーテルを用いて、目的のフェニルペンタン化合物を抽出、精製することにより取得することができる。 また、ブナハリタケからフェニルペンタン化合物を得る場合、ブナハリタケの菌種、或いは培養方法は特に限定されるものではないが、例えば、本発明者がなした先の特許出願(特開2000−300066号公報、特開2002−80390号公報)において用いられているブナハリタケの菌種 Mycoleptodonoides aitc-hisonii BNH−3株(FERM BP−6697)及び開示されている培養方法を用いて製造された菌糸体から、エタノール、ヘキサン及び石油エーテル等の有機溶媒を用いて、目的のフェニルペンタン化合物を抽出、精製する方法が、特に、有利に用いることができる。なお、本発明のフェニルペンタン化合物をブナハリタケから得る場合には、子実体では見出されず、菌糸体で見出される。本発明においてフェニルペンタン化合物の製造には、前記担子菌からの精製、分離に限定されることなく、例えば、前記のように、フェニルペンタン化合物は南米チリ原産の植物 Amomyrtus luma の葉に大量に含有することが報告されているから、該植物からの精製、分離によって製造することもできる。また、本発明の脳機能改善剤の有効成分であるフェニルペンタン化合物の抽出、精製に際しては、天然物由来の化合物に通常用いられる分離、精製手段、例えば、抽出、分配、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等、適宜、公知の分離・精製手段を用いて行うことができる。 また、本発明の脳機能改善剤の有効成分であるフェニルペンタン化合物の製造に際しては、化学合成手段によって製造することができ、例えば、ベンズアルデヒドと2−ブタノン(メチルエチルケトン)を縮合させて2段階で1−フェニル−3−ペンタノンを、その還元反応により1−フェニル−3−ペンタノールを合成することができる。本合成は、ベンズアルデヒドとメチルエチルケトンからのフェニルペンタン化合物の製造法が記載されている米国特許第5372995号明細書等の記載に従えば当業者であれば容易に行うことができる。 本発明の脳機能改善剤を投与するに際しては、本発明の脳機能改善剤の有効成分であるフェニルペンタン化合物或いはその化合物の薬理学的に許容される塩の形にしたものを、常法に従って、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーテイング剤などの補助剤を用いて製剤化して投与する。投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は、注射剤(動脈内、筋肉内、皮下)、点滴剤、座剤等による非経口投与等適宜の形態を用いて投与することができる。 本発明の脳機能改善剤は、脳内神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンの代謝速度を亢進させることができ、学習能力、記憶力、反射反応能力等の脳機能改善作用を有することから、脳機能又は脳代謝の障害の予防剤や症状改善剤として、また脳機能又は脳代謝の向上剤として用いることができるが、長年の食経験が知られているきのこや植物に含有されるフェニルペンタン化合物に由来する物質であるから、安全かつ安価な天然物に由来する成分であることから、食品のような形態で投与することができ、日常的な食事としての摂取により脳の機能や代謝を維持し、又は緩やかに改善する脳機能改善剤としての使用が可能となる。このような場合に、本発明の脳機能改善剤の摂取量は、症状、性別、年齢等に応じて、適宜調整することができる。 本発明の脳機能改善剤を飲食品のような形態で摂取する場合は、かかる脳機能改善剤を飲食品原料の一部に添加して用いたり、或いは製造工程又は製造後に添加・配合することにより飲食品に含有させ、機能性の飲食品として摂取することができる。かかる機能性食品としては特に制限されるものではなく、クッキー、パン、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、ラムネ菓子等などの錠菓、羊羹などの和菓子、プリン、ゼリー、アイスクリーム類などの冷菓、チューインガム、キャンディ等の菓子類や、クラッカー、チップス等のスナック類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、チーズ、バターなどの乳製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ、スープ、シチュー等の各種総菜や、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料などを具体的に例示することができる。例えば、フェニルペンタン化合物を補助剤粉末に添加して微粉末化し、該微粉末を常法に従い打錠することにより錠菓を製造することができ、この場合かかる微粉末を造粒した後に打錠することもできる。また、該微粉末に、乳糖、デキストリン、乾燥酵母等を配合したものを打錠することもできる。また、フェニルペンタン化合物を各種飲料に使用する場合には、例えばブナハリタケの菌糸体や Amomyrtus luma の葉などを乾燥、粉砕などの加工をして利用することもできる。 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。[脳切片灌流法による神経伝達物質の放出促進効果] 用いたフェニルペンタン化合物は、以下のように長谷川香料株式会社により合成されたものを用いた。即ち、ベンズアルデヒドと2−ブタノンを塩基性条件(水酸化ナトリウム水溶液)下で縮合させ1−フェニル−1−ペンテン−3−オンとした後、接触水素化添加反応すること(H2/Pd−C)で、1−フェニル−3−ペンタノン(ガスクロによる純度99%、1%の1−フェニル−3−ペンタノール含有)が合成された。更に、同物質の還元反応(NaBH4)により1−フェニル−3−ペンタノール(ガスクロによる純度100%)が合成された。 灌流に用いる緩衝液は基本的な Krebs-bicarbonate buffer に、ドーパミン生合成の前駆体である50μM L−チロシンとドーパミンの再取り込み阻害剤であるNomifensine maleateを10μM、5−HTの前駆体である10μM L−トリプトファン(関東化学)と5−HT再取り込み阻害剤である imipramine (SIGMA)を50μM添加したものを用いた。実験に用いたチャンバーは容量0.6mlで、灌流時の温度は37℃、灌流液の流速は0.5ml/minとした。飼育用固形飼料(CE−2:日本クレア)及び水道水を自由摂取で飼育した Wistar 系雄ラット(200−400gB.W.)から断頭により屠殺後すばやく取り出した線条体から0.3mmの切片を作成した(n=5)。 これを灌流用チャンバー内に入れクレブス緩衝液で1時間平衡化した後、まず、1%エタノールを含むクレブス緩衝液500μlを注入した後、同溶液に溶解して調製した各種のフェニルペンタン化合物の試験溶液(ここで言う試験溶液は具体的には以下及び図1−3に記載)500μlを注入し、灌流液を2mlずつ分取し、切片より放出されるドーパミン量をHPLC−ECD法により経時的に測定した。HPLCは逆相カラム(Eicom MA−5ODS、3.0×15cm、カラム温度25℃)を用い、330ppmオクタンスルホン酸ナトリウム、30ppmのEDTA 2ナトリウム塩を含む0.1M酢酸ナトリウム−クエン酸緩衝液:メタノール=85:15の溶液を流速0.5ml/min.でイソクラクティクな溶出を行った。検出はECD検出器(GL Sciences ED623、作用電極Gc−Ge、参照電極Ag−Cl)により行った。5フラクション目までのドーパミン放出量の平均を無添加時のベースとして、それに対するドーパミンの放出量を百分率で示した。1%エタノールを含むクレブス緩衝液500μlを6フラクション目に注入すると7〜8フラクション目に僅かな上昇が認められた。一方、0.25% 1−フェニル−3−ペンタノン、0.25% 1−フェニル−3−ペンタノールを含む同溶液(図1中、0.5%フェニルペンタン化合物と表記)を16フラクション目に注入した場合、17−18フラクション目に最大のドーパミン放出が認められた(無添加時の約3.5倍、図1)。 また試験溶液として0.5% 1−フェニル−3−ペンタノン溶液、0.5% 1−フェニル−3−ペンタノール溶液を別々に添加した場合(n=5)、16フラクション目のサンプル注入で、何れも17−18フラクション目に最大のドーパミン放出が認められた(それぞれ図2、3)。0.5% 1−フェニル−3−ペンタノン溶液は無添加時の2倍強の放出であったのに比べ(図2)、0.5% 1−フェニル−3−ペンタノール溶液では約4倍の放出が認められた(図3)。このことから、フェニルペンタン化合物は、線条体におけるドーパミンの放出において優れた効果を有する可能性が示された。黒質から線条体に放射したドーパミン作動性神経細胞は正常な随意運動に重要な役割を果し、ドーパミン放出の低下がアルツハイマー病や線条体黒質変性症などの発症に関係することが知られている。また、ドーパミンは他の幾つかの神経伝達物質と同様に学習・記憶機能の維持・向上に関係の深いNGF合成を促進することが知られている。従って、フェニルペンタン化合物は正常な随意運動促進やアルツハイマー病や線条体黒質変性症などの予防や進行遅延に適した成分である可能性が見出された。[行動観察及び脳内神経伝達物質量の測定] ラットの不安や恐怖に対する効果を調べるため、自発行動を観察するオープンフィールド試験と、情動行動を観察できるとされる高架式プラス迷路試験の2試験による行動観察と、行動試験が終了したラットの脳内伝達物質の測定を実施した。 0.1%DMSOを含む滅菌生理食塩水に実施例1と同じ方法で合成した1−フェニル−3−ペンタノール及び 1−フェニル−3−ペンタノンがそれぞれ0.25%になるように混合させたものを試験液として用いた。6週齢のFischer系雄ラット(日本チャールズリバー)を固形飼料(CE−2;日本クレア)及び水道水の自由摂取により3日間予備飼育した後、ラットの平均体重がほぼ等しくなるように2群に分けた。オープンフィールド試験は各群6匹、高架式プラス迷路試験は各群8匹をもちいた。 オープンフィールド試験(自発行動観察)では、0.1%DMSOを含む滅菌生理食塩水又は試験液を1.0ml/100g B.W.の割合で腹腔内投与し、3時間後にプラスチックの箱(70×70×40cm)の中央にラットを静かに入れ、15分間の自由行動をビデオで撮影し、画像解析により移動距離(Locomotion)及び底面平方16区画のうち、中央の4区画に滞在した割合(%Center)をそれぞれ測定した。 高架式プラス迷路試験(情動行動観察)では0.1%DMSOを含む滅菌生理食塩水又は試験液を1.0ml/100g B.W.の割合で腹腔内投与し3時間後に高架式プラス迷路試験を実施した。試験で用いた装置は壁のない open arm と、透明な壁がある closed arm 、及び中央のプラットホームから成り、これらの床面は50cmの高さに位置している。ラットをプラットホームに静かに入れ、15分間自由に行動させ、その間の様子をビデオで撮影し、移動距離(Locomotion)、各アームへの進入回数(Number of entries)、立ち上がり回数(Standing)をそれぞれ測定した。また、脳内神経伝達物質量を測定するため、行動実験終了後のラットを断頭により屠殺し、脳をすばやく取り出し、扁桃体、大脳皮質、海馬、視床下部、線条体、青斑核、小脳などの部位を切り取り−80℃で保存した。解凍後、内部標準を含む0.1M過塩素酸を添加し超音波ホモジナイザー20,000gを用いてホモジナイズし、4℃にて30分以上放置した後、0℃にて、20,000gで15分間遠心分離した上清について、実施例1と同様なHPLC−ECD分析に供した。以下に結果を示す。 自発行動を観察するオープンフィールド試験を各群6匹を用いて行ったところ、総移動距離(行動量、図4)や中央に滞在した時間(%Center、図5)が多い傾向すなわち自発行動が上昇する傾向がみられた。また行動試験直後に調製した脳切片内の神経伝達物質の測定では、扁桃体、大脳皮質、海馬、視床下部、線条体のノルエピネフリン量やセロトニン量に有意な差は見られなかった。 不安や恐怖を数値化する高架プラス迷路試験で、open arm での滞在時間増加、進入回数増加、立ち上がり回数減少が観察されれば抗不安効果があるとされている(Gerard R.Dawson ,Mark D. Tricklebank. Use of the elevated plus-maze in the search for novel anxiolytic agents. Trends Pharmacol Science. 16, 33-36 (1995))が対照区及び試験区とも open arm よりも closed arm に長く滞在する時間が長かった。総移動距離(図6)、open arm での滞在時間比率(図7)は対照に比べ僅かに高値を、open arm への進入回数(図8)は僅かに低値を示した。 また、高架式プラス迷路試験(Gerard R.Dawson ,Mark D. Tricklebank. Use of the elevated plus-maze in the search for novel anxiolytic agents. Trends Pharmacol Science. 16, 33-36 (1995))後の脳各部位での神経伝達物質量は、扁桃体(図9)においてはセロトニン、ノルエピネフリンとも対照に対して2倍以上の上昇が観察された。ドーパミン量やセロトニンの代謝産物である5−ヒドロキシインドール酢酸(5−HIAA)量が有意に上昇していた。またドーパミンの代謝産物であるジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)量も大幅に増加する傾向を示した。 このように、高架式プラス迷路 試験後に扁桃体で多くの神経伝達物質量やその代謝産物が増加することが観察されたことから、フェニルペンタン化合物又はその代謝産物は血液脳関門を通過し、代謝が亢進されていることが明らかとなった。また、その作用は、自発行動を観察するオープンフィールド試験後のラット脳の測定ではみられず、不安や恐怖を試験する高架プラス迷路試験後のラット脳にのみ見られることから、ストレス時に特徴的に起こると推定される。 今回の試験のうち、高架式プラス迷路試験ではフェニルペンタン化合物投与でセロトニンやその代謝物が増加しているが、これがセロトニンニューロンの賦活の結果である場合は、ストレスを憎悪させた可能性も考えられる。しかし、高架式プラス迷路試験でノルエピネフリン代謝物は測定してないものの、ノルエピネフリンの減少は見られず、むしろ有意に増加した。また、一般的に不安時に活動が高まることが知られている青斑核のノルエピネフリン量に変化はみられなかった。更に、高架式プラス迷路試験における動物の行動特性は投与区と対照区で差がない事から、フェニルペンタン化合物の投与が不安を増強している可能性は低いと考えられた。 以上のことから、ラットに投与されたフェニルペンタン化合物は、非ストレス時には脳への影響は見られない一方で、ストレス時には扁桃体の神経伝達物質の代謝に対して、特異的に(不安の増強ではない)何らかの影響を及ぼす可能性が示唆される。本発明の実施例において、ラット線条体切片からのドーパミン放出の経時変化を示す図である。なお、*は:baseと各fraction 間で有意差があることを示す(p<0.05)。**は:7fractionと17-19fraction間で有意差があることを示す(p<0.05)。#は:7fractionと18fraction間で有意差があることを示す(p<0.05)。本発明の実施例において、ラット線条体切片からのドーパミン放出の経時変化を示す図である。なお、#は:baseと各fraction間で有意差があることを示す(p<0.05)。**は:7fractionと17fraction間で有意差があることを示す(p<0.05)。本発明の実施例において、ラット線条体切片からのドーパミン放出の経時変化を示す図である。なお、#は:baseと各fraction間で有意差があることを示す(p<0.05)。**は:7fractionと18fraction間で有意差があることを示す(p<0.05)。本発明の実施例におけるラットを用いた行動観察試験において、オープンフィールド試験での生理食塩水又はフェニルペンタン化合物投与後の総行動量を示す図である。本発明の実施例におけるラットを用いた行動観察試験において、オープンフィールド試験における生理食塩水又はフェニルペンタン化合物投与3時間後の中央4区にいた時間比率を示す図である。本発明の実施例におけるラットを用いた行動観察試験において、プラス迷路試験での生理食塩水又はフェニルペンタン化合物投与後の総移動距離を示す図である。本発明の実施例におけるラットを用いた行動観察試験において、高架式プラス迷路試験における生理食塩水又はフェニルペンタン化合物投与3時間後のオープンアーム部にいた時間比率を示す図である。本発明の実施例におけるラットを用いた行動観察試験において、高架式プラス迷路試験における生理食塩水又はフェニルペンタン化合物投与3時間後のオープンアーム部に侵入した比率を示す図である。本発明の実施例におけるラットを用いた行動観察及び脳内神経伝達物質量の測定試験において、高架式プラス迷路試験における生理食塩水又はフェニルペンタン化合物投与後の扁桃体における各種神経伝達物質の濃度を示す図である。フェニルペンタン化合物を有効成分とする脳機能改善剤。フェニルペンタン化合物が、フェニルペンタノール又はフェニルペンタノンであることを特徴とする請求項1記載の脳機能改善剤。フェニルペンタノールが1−フェニル−3−ペンタノールであるか、又は、フェニルペンタノンが1−フェニル−3−ペンタノンであることを特徴とする請求項1又は2記載の脳機能改善剤。脳機能の改善が、ドーパミン及び/又はセロトニン放出亢進に基づく機能改善であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の脳機能改善剤。請求項1〜3記載のフェニルペンタン化合物を有効成分とするドーパミン及び/又はセロトニン放出障害に起因する脳機能疾患の予防又は治療剤。 【課題】 記憶・学習能力の維持・向上、ストレスの緩和といった脳の機能や代謝の改善及び脳の神経症の治療や予防に役立ち、かつ安全で安価な天然物に由来する脳機能改善剤を提供すること。【解決手段】 1−フェニル−3−ペンタノールのようなフェニルペンタノール、及び、1−フェニル−3−ペンタノンのようなフェニルペンタノン等のフェニルペンタン化合物は、脳におけるドーパミンやセロトニン等の放出亢進作用を有する。該化合物を有効成分とする脳機能改善剤は、ドーパミン及び/又はセロトニン等の放出亢進に基づく脳機能の改善機能を有し、ドーパミン及び/又はセロトニン放出障害に起因する脳機能疾患の予防又は治療のための改善剤として用いることができる。該脳機能改善剤は安全で安価な天然物に由来する脳機能改善剤であり、医薬や飲食品の形態で投与することが可能である。