タイトル: | 公開特許公報(A)_止血材 |
出願番号: | 2003310129 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61L15/44,A61K38/48,A61K47/34,A61K47/36,A61K47/42,A61P7/04 |
谷原 正夫 木下 久雄 今村 隆幸 野崎 周英 JP 2005074079 公開特許公報(A) 20050324 2003310129 20030902 止血材 谷原 正夫 598164175 財団法人化学及血清療法研究所 000173555 鍬田 充生 100090686 谷原 正夫 木下 久雄 今村 隆幸 野崎 周英 7A61L15/44A61K38/48A61K47/34A61K47/36A61K47/42A61P7/04 JPA61L15/03A61K47/34A61K47/36A61K47/42A61P7/04A61K37/547 9 OL 12 4C076 4C081 4C084 4C076AA71 4C076BB31 4C076CC14 4C076CC34 4C076EE24 4C076EE30 4C076EE36 4C076EE41 4C076FF03 4C081AA02 4C081BA11 4C081BB06 4C081CA161 4C081CD011 4C081CD041 4C081CD111 4C081CD121 4C081CD23 4C081DA02 4C081DA05 4C084AA01 4C084AA03 4C084AA16 4C084BA01 4C084CA53 4C084DC03 4C084MA05 4C084MA32 4C084MA63 4C084NA11 4C084ZA532 本発明は止血効果に優れるとともに、生体親和性又は生体適合性に優れる新規な止血材に関する。 従来、止血材による止血方法としては、酸化セルロース、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸カルシウム、トロンビン、フィブリン接着剤などの止血材を出血部位に散布又は貼付する方法などが採用されてきた。これらの止血材は、粉末状、液状、繊維状、布状(不織布状)、フィルム状、スポンジ状などの形態で用いられている。 特開平7−255830号公報(特許文献1)には、0.5〜4.0重量%のカルシウムを含む中和された酸化セルロース布で構成された生体吸収性の外科用止血材が開示されている。特開2003−26578号公報(特許文献2)には、脱アセチル化キチンのマレイン酸塩からなる止血材が開示されている。特開2002−369874号公報(特許文献3)には、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性繊維集合体からなる止血材が開示されている。特開2002−60341号公報(特許文献4)には、核酸のカルシウム塩を主成分とする止血材が出血量の多い箇所にも適用でき、抗原性の問題もなく、血管の傷口の自然修復を促進することが開示されている。特開平11−322614号公報(特許文献5)には、カルボキシメチルセルロースを成分とする細胞接着促進効果を有する創傷止血材が開示されている。特開平9−169653号公報(特許文献6)には、配向度が50〜98%のキチン繊維からなるキチン止血剤が開示されている。特開平9−103479号公報(特許文献7)には、ゼラチンをスクシンイミド化ポリグルタミン酸により架橋してなる医用材料(生体接着剤、止血材など)が開示されている。特開平7−118157号公報(特許文献8)には、D,L−ラクチドとポリエチレングリコールとを重合して得られ、エチレンオキサイドユニットと乳酸ユニットとのモル比が52:48〜30:70であり、分子量7800〜15000を有する止血材が開示されている。 特開平9−2971号公報(特許文献9)には、プロトロンビンのアクチベーターまたはプロアクチベーターを含み、プロトロンビン5単位/gフィブリノーゲンより少ないプロトロンビンを含む安定な組織接着剤が開示されている。特開平8−35193号公報(特許文献10)には、可溶性コラーゲンの酸性溶液を塩類の水溶液中に吐出させて得られるコラーゲン繊維を切断し、この繊維を溶剤中に分散し、抄造することによりコラーゲン繊維不織シートの製造方法が開示されている。そして、この文献には、得られた不織シートが創傷部に迅速かつ有効に適応できる止血材として有用であることも開示されている。また、特公昭61−34830号公報(特許文献11)には、フィブリノーゲン成分と、トロンビン成分との混合物で部分的又は全体的に被覆されたコラーゲン担体からなる創傷用癒合材料が開示されている。この文献には、前記コラーゲンとして、天然コラーゲンや化学的に変性されたコラーゲンが開示されており、前記トロンビン成分は動物又は人間に由来するものが使用できることが開示されている。 しかし、これらの従来の止血材では、特に出血の勢いが強い場合や、出血量が多い場合には、効果的に止血するのが困難である。特に、粉末又は液状の止血材を出血部位に直接散布しても、止血成分が血流により流されて易い。また、従来の止血材では、一時的な止血性はある程度認められるものの、生体内分解吸収性が低かったり、細胞毒性物質を多量に含有するため、止血材の種類によっては、止血後、止血材を除去する必要がある場合もあり、再出血の虞がある。 一方、止血材などの生体材料用途では、動物(ウシ、ウマなど)に由来する原料を用いることも多い。しかし、動物由来原料を用いると、生体内分解性や吸収性を高めることができるものの、病原体混入の危険性があり、品質が安定しない。例えば、ウシの海綿状脳症やヒツジの振戦病の原因物質がプリオンと呼ばれる伝染性蛋白質であり、この伝染性タンパク質がヒトのクロイツフェルドーヤコブ病伝染の原因の一つと言われている。プリオンは、蛋白質であり、通常の滅菌、殺菌方法では失活し難く、しかも種を越えて感染することが指摘されている(非特許文献1)。 なお、本発明者らは、国際公開第03/004641号パンフレット(特許文献12)において、遺伝子組換えによる組換えトロンビンの製造方法を開示している。特開平7−255830号公報(請求項1)特開2003−26578号公報(請求項1、段落番号[0044])特開2002−369874号公報特開2002−60341号公報(請求項1、段落番号[0013])特開平11−322614号公報(請求項1、段落番号[0026])特開平9−169653号公報(請求項1、段落番号[0004])特開平9−103479号公報(請求項1及び3、段落番号[0004])特開平7−118157号公報(請求項1、段落番号[0030])特開平9−2971号公報(請求項1、段落番号[0015])特開平8−35193号公報(請求項1、段落番号[0001]及び[0008])特公昭61−34830号公報(請求項1、第4欄30〜35行、第5欄8〜14行)国際公開第03/004641号パンフレット(請求の範囲)Nature Review, Vol.2, pp.118-126, 2001年 従って、本発明の目的は、止血性に優れるとともに、生体親和性及び生体適合性が高く、品質が均一で安定性に優れる止血材を提供することにある。 本発明の他の目的は、トロンビンとして、ヒト血漿由来又は組換えトロンビン(特に、組換えトロンビン)を用いる場合には、病原体の感染や病原性因子の伝達を生じる危険性や好ましくない副作用の虞が少ない止血材を提供することにある。 本発明のさらに他の目的は、生体内で分解して吸収可能な止血材を提供することにある。 本発明の別の目的は、種々の形態に成形でき、用途に応じて、有効に止血できる止血材を提供することにある。 本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、化学的に合成した3重らせん構造を有するポリペプチドとトロンビンとを組み合わせると、止血性に優れるとともに生体親和性及び生体適合性が高いことを見いだし、本発明を完成した。 すなわち、本発明の止血材は、トロンビンとポリペプチドとを含む止血材であって、前記ポリペプチドが3重らせん構造を形成可能な合成ポリペプチドで構成されている。前記ポリペプチドの分子量は5×104〜100×104の範囲にピークを示してもよい。前記ポリペプチドは、少なくとも式-Pro-X-Gly-(式中、XはPro又はHypを示す)で表されるペプチドユニットを含んでいてもよい。前記トロンビンは組換え体であってもよい。止血材において、トロンビンの割合は、ポリペプチド1mgに対して、0.1〜500単位(U)程度であってもよい。前記止血材は、さらに生体内分解吸収性を有するバインダー成分(多糖類又はその誘導体、ペプチド類、生分解吸収性ポリエステルなど)を含んでいてもよい。前記バインダー成分の割合(重量比)は、トロンビン及びポリペプチドの総量に対して、バインダー成分/トロンビン及びポリペプチドの総量=0.01/99.99〜95/5程度であってもよい。前記止血材は、基材上に形成されていてもよい。 なお、本発明においては各種アミノ酸残基を次の略号で記述する。 Ala :L−アラニン残基 Arg :L−アルギニン残基 Asn :L−アスパラギン残基 Asp :L−アスパラギン酸残基 Cys :L−システイン残基 Gln :L−グルタミン残基 Glu :L−グルタミン酸残基 Gly :グリシン残基 His :L−ヒスチジン残基 Hyp :L−ヒドロキシプロリン残基 Ile :L−イソロイシン残基 Leu :L−ロイシン残基 Lys :L−リジン残基 Met :L−メチオニン残基 Phe :L−フェニルアラニン残基 Pro :L−プロリン残基 Sar :サルコシン残基 Ser :L−セリン残基 Thr :L−トレオニン残基 Trp :L−トリプトファン残基 Tyr :L−チロシン残基 Val :L−バリン残基 また、本明細書においては、常法に従って、N末端のアミノ酸残基を左側に位置させ、C末端のアミノ酸残基を右側に位置させて、ペプチド鎖のアミノ酸配列を記述する。 本発明では、トロンビンとコラーゲン様の構造を有するポリペプチドとを組み合わせるので、止血性に優れるとともに、生体親和性及び生体適合性が高く、品質が均一で安定性に優れる。また、トロンビンとして、ヒト血漿由来又は組換えトロンビン(特に、組換えトロンビン)を用いる場合には、病原体の感染や病原性因子の伝達を生じる危険性や好ましくない副作用の虞が少なく、安全性が高い。しかも生体内で分解して吸収することができる。また、本発明の止血材は、成形性が高く、種々の形態に成形でき、用途に応じて、有効に止血できる。 本発明の止血材は、トロンビンと3重らせん構造を形成可能な合成ポリペプチドとで構成されている。 [トロンビン] トロンビンとしては、血液凝固作用を有する限り、特に制限されず、例えば、ヒト又は非ヒト動物などの血漿から抽出して精製したプロトロンビンに、カルシウム塩とトロンボプラスチンを作用させることにより得られるトロンビンなどが使用できる。ヒト由来トロンビンを用いると、非ヒト動物に由来する病原体の感染を防止できる。 また、トロンビンとしては、遺伝子組換えにより得られる組換えトロンビン、例えば、ヒトや非ヒト動物に由来するトロンビン遺伝子やプロトロンビン遺伝子などを用いて、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などの宿主で生産される組換えトロンビンなどが挙げられる。このような組換えトロンビンは、品質が一定で、安定に供給できるとともに、トロンビンの組換え体を用いると、動物血漿に由来する病原体感染の危険性を大幅に低減できる。 例えば、ヒト由来のプロトロンビン遺伝子を鋳型にして、プレトロンビン−2遺伝子を増幅し、このプレトロンビン遺伝子を、例えば、動物細胞(ニワトリ、ハムスター、マウス、ヒト由来細胞など)を宿主とした高発現ベクターに挿入して、プラスミドを構築し、得られた発現プラスミドを動物細胞に導入することにより組換えプレトロンビンを高発現させ、さらに得られた組換えプレトロンビンを、組換えエカリンを利用して基質として活性化することによりトロンビンを得ることができる。得られたトロンビンは、通常、クロマトグラフィーなどにより精製して使用することができる。組換えトロンビンの製造方法の詳細については、本発明者らによる国際公開03/004641号パンフレットを参照できる。 トロンビンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。 [ポリペプチド] 止血材に含まれるポリペプチドは、3重らせん構造を形成可能な合成ポリペプチドである限り特に制限されない。合成ポリペプチドは、ポリペプチドの少なくとも一部に3重らせん構造を有していればよい。3重らせん構造を有する合成ポリペプチドは、コラーゲン様の構造を形成する。 ポリペプチドの分子量は、例えば、1×104〜500×104、好ましくは2×104〜300×104、さらに好ましくは5×104〜100×104の範囲にピークを示してもよい。分子量が小さすぎると、溶解性が高すぎて止血効果が損なわれやすく、また、大きすぎると溶解性が低すぎて、加工性が低下する虞がある。 3重らせん構造を有する合成ポリペプチドとしては、少なくとも式-Pro-X-Gly-(式中、XはPro又はHypを示す)で表されるペプチドユニットを含むポリペプチドなどが挙げられる。前記ペプチドユニットを含む合成ポリペプチドは、極めて安定な3重らせん構造を示す。また、コラーゲン様の繊維状形態を有するため、加工性に優れ、得られる成形体の強度も優れている。 合成ポリペプチドは、前記ペプチドユニット-Pro-X-Gly-のみで構成されたポリペプチド(Pro-X-Gly)n(式中、nは1〜20,000の整数を示す)であってもよく、ペプチドユニット-Pro-X-Gly-と他のアミノ酸残基とで構成されたポリペプチドであってもよい。 前記式において、係数nは、好ましくは2〜20,000、さらに好ましくは10〜10,000(例えば、30〜10,000)、特に100〜5,000(例えば、150〜4,000)程度の整数であってもよい。 前記ポリペプチドユニットのみで構成されたポリペプチドには、(Pro-Pro-Gly)n、(Pro-Hyp-Gly)nの他、ユニット-Pro-Pro-Gly-とユニット-Pro-Hyp-Gly-との双方を有し、両ユニットの合計繰り返し数がnであるポリペプチドも含まれる。 他のアミノ酸残基としては、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Hyp、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Sar、Ser、Thr、Trp、Tyr、Valなどが挙げられる。これらのアミノ酸残基は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。 また、前記ポリペプチドは、止血性や生体内分解吸収性などを阻害しない範囲で、ジカルボン酸残基(アルカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸の残基など)、ジアミン残基(脂肪族ジアミン残基など)及び/又はラクタム残基などを有していてもよい。 ポリペプチドは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。 また、前記ポリペプチドは、生理学的又は薬理学的に許容される塩であってもよく、例えば、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸など)、有機酸(酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、オレイン酸、パルミチン酸など)、金属(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウムなど)、有機塩基(トリメチルアミン、トリエチルアミン、t−ブチルアミン、ベンジルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、アルギニンなど)との塩であってもよい。これらの塩形成化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの塩は、通常の塩形成反応によって得ることができる。 前記ポリペプチドは、円二色性スペクトルにおいて、波長220〜230nmに正のコットン効果を示し、波長195〜205nmに負のコットン効果を示す。そのため、ポリペプチドの少なくとも一部(すなわち、一部または全部)が3重らせん構造を形成可能であり、コラーゲン様ポリペプチドを形成する。なお、コットン効果とは、旋光性物質において特定の波長で左右の円偏光に対する吸収係数が異なるために起こる現象をいう。従って、前記ポリペプチドが3重らせん構造を形成することは、通常、ポリペプチドの溶液について、円二色性スペクトルを測定することにより立証できる。なお、円二色性スペクトルにおいては、3重らせん構造を形成する天然のコラーゲン及びペプチド鎖が、波長220nm〜230nmに正のコットン効果、及び波長195nm〜205nmに負のコットン効果を特徴的に示すことが報告されている(J. M. Biol., Vol.63 pp.85-99, 1972年)。 これらのポリペプチドは、コラーゲン組織(コラーゲン状の組織)を形成可能である。上記3重らせん構造を形成したポリペプチド鎖が自己集合して、数nm〜数十nmの原線維を形成し、さらにこれらの原線維が配列して数nm〜数十nmの繊維構造を形成することができる。これらは、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、あるいは原子間力顕微鏡により観察することができる。 前記ポリペプチドは、哺乳動物由来のコラーゲンと異なり、病原体や病原性因子[例えば、病原性に転化したタンパク質(例えば、異常型プリオンなど)など]の感染や伝達の危険性がなく、安全性が高い。また、コラーゲン様組織を形成可能であり、細胞親和性や生体適合性にも優れている。 本発明の止血材は、前記トロンビンと前記ポリペプチドとを含む限り特に制限されず、液状(溶液又は懸濁液など)、非液状[例えば、粉粒状、繊維状、二次元的形態(織布、不織布、フィルムやシートなど)や三次元的形態(スポンジなど)などの成形体など]で使用できる。 前記ポリペプチドは、成膜性又は成形性が高く、所望の形状に容易に成形できるため、トロンビンとポリペプチドとを含む止血材を適宜成形して用いてもよい。また、トロンビンとポリペプチドと必要により生体内分解吸収性を有するバインダー成分(又は製膜成分)とを用いて、成形又は製膜してもよい。 バインダー成分としては、多糖類又はその誘導体[ローカストビーンガム、グアーガム、トラガントガム、アルギン酸又はその塩(アルギン酸ナトリウムなど)、アルギン酸プロピレングリコール、ペクチン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、アガロース、寒天、キチン、キトサン、カラゲニン、ヒアルロン酸、コンドロイチン類(コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コンドロイチンヘパリンなど)、デキストラン、セルロース又はその誘導体(セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はその塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロースエーテル類、セルロースアセテートなどのセルロースエステル類など)など]、ペプチド類(ポリリジン、ポリグルタミン、ポリグルタミン酸などのポリペプチド類;ゼラチン、カゼイン、アルブミンなどのタンパク質など)、ポリエステル系樹脂(グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシプロピオン酸などのヒドロキシカルボン酸の単独又は共重合体(乳酸−グリコール酸コポリエステルなど)、ヒドロキシカルボン酸と、プロピオン酸、ラクトン(ブチロラクトン、カプロラクトンなど)とのコポリエステルなどの生分解吸収性ポリエステルなど)などが挙げられる。これらのバインダー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。このようなバインダー成分を用いると、止血材の強度や成形性を改善したり、吸水性を調節できる。 本発明の止血材は、他の添加剤、例えば、他の止血成分(フィブリノーゲン、酸化セルロースなど)、細胞接着性タンパク質(フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)、抗菌剤、保存剤、塩類(生理学的に許容される塩類など)を含んでいてもよい。 止血材は、ポリペプチドで形成された基材に、トロンビンを塗布又は含浸などにより適用した止血材であってもよい。ポリペプチドで形成された基材の形態は、特に制限されず、粉粒状(例えば、1〜300μm程度の粉粒体)、一次元的形状(繊維状又は糸状、線状、ロッド状など)、二次元的形状(フィルム(又はシート)又は板状など)、三次元的形状(チューブ状など)などであってもよい。さらに、ポリペプチド基材は、非多孔質体であってもよく多孔質体であってもよい。前記ポリペプチド基材としては、例えば、(1)高濃度の塩を含む溶液又はポリペプチドを溶解しない溶剤中に、ポリペプチドの溶液又は懸濁液をノズルから押し出し、凝固させることにより得られた繊維状ポリペプチド、(2)湿式又は乾式抄造法を利用して前記繊維状ポリペプチドから得られる不織布、(3)ポリペプチドの水溶液又は懸濁液をそのまま静置したり、必要により架橋剤を添加して靜置し架橋させることによりゲル状物を調製し、さらに凍結乾燥して得られるスポンジ状の多孔質体、(4)ポリペプチドの水溶液または懸濁液を撹拌発泡して乾燥することにより得られる多孔質体などが例示できる。また、ポリペプチド基材は、必要により、生理学的に許容可能な架橋剤、例えば、グリオキザール、グルタルアルデヒド、スクシンアルデヒドなどなどのジアルデヒド類、デキストランジアルデヒド、アルデヒドデンプンなどで架橋してもよい。 また、止血材は、少なくともトロンビンとポリペプチドとを含む止血剤成分を基材に適用することにより、基材上に形成してもよい。このような基材としては、通常、生体親和性、生体適合性を有している場合が多く、例えば、多糖類又はその誘導体(アルギン酸塩、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリガラクトサミン、カードラン、プルラン、キサンタン、デキストランなどの多糖類、前記バインダー成分の項で例示のセルロース又はその誘導体、タンパク質(ゼラチン、カゼイン、アルブミンなど)、ポリペプチド(ポリリジン、ポリグルタミン、ポリグルタミン酸など)、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、ポリビニルピロリドン系樹脂、アクリル系樹脂(ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸共重合体などの(メタ)アクリル酸系樹脂など)、ハロゲン含有樹脂(ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル系樹脂など)、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、前記バインダー成分の項で例示のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(ナイロン6,ナイロン66など)などが例示できる。基材は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。 基材は非生体内分解性又は生体内崩壊性であってもよいが、生体内で分解吸収性を有するのが有利である。このような生体内分解性基材は生体内分解性樹脂で構成できる。生体内分解性樹脂としては、種々の樹脂、例えば、前記多糖類又はその誘導体、前記ポリエステル系樹脂が例示できる。なお、基材は、二種以上の材料を用いた複合基材であってもよい。 基材の形態は特に制限されず、用途に応じて、前記ポリペプチド基材の項で例示の形態と同様の形態の基材が利用できる。また、基材は、非多孔質体であってもよく多孔質体(例えば、粉粒状多孔質体、セルロース繊維紙、不織布や織布などの二次元的多孔質体、円筒状などの三次元的多孔質体)であってもよい。基材は、必要であれば、表面処理剤(例えば、生理学的に許容可能な表面処理剤)で表面処理してもよい。 (各成分の割合) 止血材におけるトロンビンの割合は、止血作用が得られる限り、特に制限されず、止血材1gに対して、例えば、0.1〜500単位、好ましくは0.2〜300単位、さらに好ましくは0.3〜200単位程度の範囲から選択できる。トロンビンの割合が、少なすぎると、止血効果が不十分であり、大きすぎるとトロンビンが有効に作用しない虞がある。 また、止血材の形態に応じて、例えば、液状止血材では、トロンビンの割合(濃度)は、例えば、3〜200単位/mL、好ましくは5〜150単位/mL、さらに好ましくは10〜100単位/mL程度であってもよい。非液状止血材では、トロンビンの割合は、止血材1gに対して、例えば、0.1〜30単位、好ましくは0.3〜10単位、さらに好ましくは0.5〜5単位程度であってもよい。基材上に形成された止血材では、トロンビンの割合は、基材のうち、止血剤成分の適用箇所の表面積1cm2に対して、例えば、10〜500単位/cm2、好ましくは20〜300単位/cm2、さらに好ましくは30〜200単位/cm2程度であってもよい。 また、トロンビンの割合は、ポリペプチド1mgに対して、例えば、0.1〜500単位、好ましくは0.1〜300単位(例えば、0.1〜100単位)、さらに好ましくは0.5〜50単位(例えば、1〜20単位)程度であってもよい。 ポリペプチドの割合は、トロンビンの止血作用を促進し、組織との接着性を高め、かつ成形体の強度と柔軟性を保つ範囲であれば特に限定されず、例えば、止血材(止血剤成分)全体の0.01〜95重量%、好ましくは0.05〜90重量%、さらに好ましくは0.1〜85重量%程度であってもよい。また、止血材の形態に応じて、例えば、液状止血材では、前記ポリペプチドの割合は、例えば、止血材全体の0.01〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.05〜5重量%の範囲であってもよい。非液状止血剤では、ポリペプチドの割合は、例えば、止血材(止血剤成分)全体の1〜95重量%、好ましくは5〜90重量%、さらに好ましくは5〜80重量%程度であってもよい。 バインダー成分の割合は、止血材の止血作用を阻害せず、好ましい強度や吸水性を発揮する範囲であればよく、例えば、トロンビン及びポリペプチドの総量に対して、バインダー/トロンビン及びポリペプチドの総量(重量比)=0.01/99.99〜95/5、好ましくは0.05/99.95〜90/10、さらに好ましくは0.1/99.9〜85/15程度の範囲から選択できる。また、止血材の形態に応じて、例えば、液状止血材では、前記割合(重量比)は、例えば、0.01/99.99〜20/80、好ましくは0.01/99.99〜10/90、さらに好ましくは0.05/99.95〜5/95程度であってもよい。非液状止血材では、前記割合(重量比)は、例えば、1/99〜90/10、好ましくは2/98〜70/30、さらに好ましくは2/98〜60/40程度であってもよい。 (止血材の製造方法) 本発明の止血材は、慣用の方法により製造できる。例えば、液状の止血材は、少なくともトロンビンとポリペプチドとを含む止血剤成分を、水、生理食塩水、有機溶媒(プロパノール、グリセリンなどの低刺激性有機溶媒など)又はこれらの混合溶媒に溶解又は分散させることにより調製できる。粉粒状止血材は、例えば、ポリペプチドを粉砕したり、ポリペプチドの溶液又は懸濁液を噴霧乾燥することにより得られた粉粒状ポリペプチドと、粉粒状トロンビンとを混合したり、トロンビンとポリペプチドとを含む溶液又は懸濁液を噴霧乾燥することにより調製できる。また、止血剤成分と必要によりバインダー成分とを含む溶液又は懸濁液を、剥離性支持体(例えば、ガラス板、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)シート、フッ素樹脂被覆バットなど)上に流延して、乾燥することにより、シートやフィルム状止血剤を得ることができる。スポンジ状止血剤は、止血剤成分を含む溶液(又は懸濁液)又はゲル状物を、必要により架橋剤を添加して、そのまま静置したり、凍結乾燥することにより得ることができる。繊維状止血剤は、例えば、止血剤成分を含む溶液又は懸濁液を、高濃度の塩(硫酸ナトリウムなど)を含む水溶液やエタノールなどの凝固浴中にノズルなどを用いて注入して紡糸することにより得ることができる。得られた繊維状止血剤を、慣用の方法により、成形し、織布又は不織布状止血剤を調製してもよい。 また、基材上に形成された止血材は、前記基材の少なくとも表面に、少なくともトロンビン及びポリペプチドを含む止血剤成分を適用することにより製造できる。例えば、前記止血剤成分の溶液又は懸濁液を、基材の表面に塗布又は散布(又は含浸)した後、乾燥することにより、基材の表面が止血剤成分で被覆された止血材を得ることができる。また、多孔質基材(不織布など)に止血剤成分の溶液又は懸濁液を含浸させ、止血剤成分を保持した止血材を調製してもよい。なお、前記止血剤成分は、基材のうち生体に対する適用部位(体組織に限らず体液や血液と接触する部位)に適用すればよく、粉粒状や一次元的形状の基材では、基材全体に適用してもよく、二次元的形状の基材では少なくとも一方の面に適用してもよく、三次元的形状の基材では、生体に対する適用部位(全面、内面、外面など)に適用すればよい。 なお、トロンビンをポリペプチド基材に適用した止血材も、上記の同様の方法、例えば、少なくともトロンビンを含む成分をポリペプチド基材に、塗布、散布又は含浸などを利用して適用することにより調製できる。 本発明の止血材は、ヒトや動物の皮膚や臓器などの損傷に伴う出血を止血するのに有用である。特に、本発明の止血材は、止血性及び組織接着性などに優れるため、肺や肝臓などの内臓の損傷や手術などに伴い、出血量が多い場合の止血にも有効である。 以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。 実施例1 式:Pro-Hyp-Glyで示されるペプチド((株)ペプチド研究所)1gを20mLの10mMリン酸塩緩衝液(pH7.4)に溶解し、473mgの1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、3.35gの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩を加えて、4℃で2時間撹拌し、次いで20℃で46時間撹拌を続けた。反応液をミリQ水(超純水)に対して48時間透析した。 得られた透析後の溶液を水で50倍に希釈し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(アマシャム・バイオサイエンス(株)社製、AKTApurifierシステム、カラム:Superdex 200 HR 10/30、流速:0.5mL/min、溶離液:150mMのNaClを含む10mM phosphate buffer(pH 7.4))に供したところ、分子量が10万〜60万の範囲にポリペプチドのピークが認められた。 また、得られた透析後の溶液を水で100倍に希釈し、円二色性スペクトルを測定したところ、225nmに正のコットン効果、198nmに負のコットン効果が観測され、3重らせん構造を形成していることが確認された。 式:(Pro-Hyp-Gly)10(配列番号:1)で示されるペプチド((株)ペプチド研究所)の215nmにおける吸光度から検量線を作成し、得られた3重らせん構造を形成する化学合成ポリペプチドの濃度を測定すると約20mg/mLであった。 3cm四方に切断したポリグリコール酸系不織布であるネオベール(グンゼ(株))に約700Uの組換えトロンビン((財)化学及血清療法研究所:国際公開第03/004641号パンフレット参照)を含浸した後、凍結乾燥した。さらに、約20mg/mLに希釈した3重らせん構造を形成する化学合成ポリペプチド0.5mLを含浸した後、凍結乾燥して不織布状の止血材を得た。 比較例1 実施例1において、3重らせん構造を形成する化学合成ポリペプチドの代わりに、ブタ由来のTypeIIIコラーゲン(新田ゼラチン(株))0.5mLを用いる以外は同様にして不織布状の止血材を得た。 実施例2 アルギン酸ナトリウム((株)キミカ製、99mPa・s)の1質量%水溶液2.5mLと、実施例1で得られた20mg/mLの3重らせん構造を形成する化学合成ポリペプチド2.5mL、さらに2000U/mLの組換えトロンビン((財)化学及血清療法研究所:国際公開第03/004641号パンフレット参照)0.34mLを混合し、内部寸法が3cm四方のテフロン(登録商標)トレイに流延し、その後室温で風乾して、シート状の止血材を得た。 実施例3 アルギン酸ナトリウム((株)キミカ製、99mPa・s)の1質量%水溶液2.5mLと、実施例1で得られた20mg/mLの3重らせん構造を形成する化学合成ポリペプチド2.5mL、さらに2000U/mLの組換えトロンビン((財)化学及血清療法研究所:国際公開第03/004641号パンフレット参照)0.34mLを混合し、内部寸法が3cm四方のテフロン(登録商標)トレイに流延し、その後凍結乾燥して、スポンジ状の止血材を得た。 試験例 日本白色家兎の肝臓を露出し、直径12mmの円形の上皮剥離創を作製した。その後、実施例1〜3、比較例1で得られた止血材でそれぞれ創部を被覆し、1分間圧迫した。その後止血するまでに止血材から漏出する血液を濾紙で吸収し、その重量により総出血量を測定した。 その結果、実施例1で得られた止血材の総出血量は0.316g(n=3の平均値),実施例2では0.521g(n=3の平均値),実施例3では0.296g(n=3の平均値)であった。これに対して比較例1では1.895g(n=3の平均値)であった。 試験例から明らかなように、比較例1に比べ、実施例1〜3では明らかに総出血量が少なく、止血効果が優れていた。 トロンビンとポリペプチドとを含む止血材であって、前記ポリペプチドが3重らせん構造を形成可能な合成ポリペプチドで構成されている止血材。 ポリペプチドの分子量が5×104〜100×104の範囲にピークを示す請求項1記載の止血材。 ポリペプチドが、少なくとも式-Pro-X-Gly-(式中、XはPro又はHypを示す)で表されるペプチドユニットを含む請求項1又は2記載の止血材。 トロンビンが組換え体である請求項1〜3のいずれかの項に記載の止血材。 トロンビンの割合が、ポリペプチド1mgに対して、0.1〜500単位である請求項1〜4のいずれかの項に記載の止血材。 さらに生体内分解吸収性を有するバインダー成分を含む請求項1〜5のいずれかの項に記載の止血材。 バインダー成分が、多糖類又はその誘導体、ペプチド類及び生分解吸収性ポリエステルから選択された少なくとも一種で構成されている請求項6記載の止血材。 バインダー成分の割合(重量比)が、トロンビン及びポリペプチドの総量に対して、0.01/99.99〜95/5である請求項6記載の止血材。 基材上に形成されている請求項1〜7のいずれかの項に記載の止血材。 【課題】 止血効果、生体内分解吸収性、品質の均一性及び安定性に優れるとともに、動物由来の病原体混入の危険性を低減できる止血剤を提供する。【解決手段】 トロンビンと3重らせん構造を形成可能な合成ポリペプチドとで止血剤を構成する。前記ポリペプチドの分子量は5×104〜100×104の範囲にピークを示してもよい。前記ポリペプチドは、少なくとも式-Pro-X-Gly-(式中、XはPro又はHypを示す)で表されるペプチドユニットを含んでいてもよい。前記トロンビンは組換え体であってもよい。止血材において、トロンビンの割合は、ポリペプチド1mgに対して、0.1〜500単位(U)程度であってもよい。止血材は、さらに生体内分解吸収性を有するバインダー成分を含んでいてもよい。前記止血材は、基材上に形成されていてもよい。【選択図】 なし配列表