タイトル: | 公開特許公報(A)_ユビキチンC末端水解酵素変異体遺伝子導入動物 |
出願番号: | 2003303370 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N15/09,A01K67/027 |
小坂 仁 和田 圭司 青木 俊介 望月 秀樹 王 玉来 JP 2005065646 公開特許公報(A) 20050317 2003303370 20030827 ユビキチンC末端水解酵素変異体遺伝子導入動物 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 国立精神・神経センター総長 598067670 曾我 道照 100057874 曾我 道治 100110423 古川 秀利 100084010 鈴木 憲七 100094695 梶並 順 100111648 醍醐 美知子 100118072 小坂 仁 和田 圭司 青木 俊介 望月 秀樹 王 玉来 7C12N15/09A01K67/027 JPC12N15/00 AA01K67/027 4 1 OL 8 特許法第30条第1項適用申請有り 4B024 4B024AA01 4B024CA02 4B024DA02 本発明は、遺伝子導入動物に関し、特に特定遺伝子を発現する遺伝子が導入された遺伝子導入動物に関する。 パーキンソン病は、神経変性疾患としてはアルツハイマー病と並び頻度の高い疾患であり、中脳の黒質においてドーパミンを産生する神経細胞が進行性に脱落するために運動障害や感情障害をきたす疾患である。現在、ドーパミンの補充療法が主として用いられているが、これはあくまで対処療法であるため神経細胞死を留めることはできず、病状は進行してゆく。この疾患の病態を理解し、治療薬を開発又は治療の経過を見るためには、この病気のモデル動物、特にモデルマウスの開発が急務とされてきた。 一方、アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン病など神経変性疾患は、原因タンパク質の立体構造異常とそれに伴う不溶性亢進を共通の基盤として考えることができる。これらの異常状態は、βアミロイドタンパク質やアルファシヌクレインの変異、ポリグルタミンの異常慎重などによっても起こるが、これに拮抗するタンパク質構造維持機構としてのシャペロンタンパク質群とユビキチン・プロトテオソーム系の破綻によってもたらされると考えられている。この見解は、軸索変性マウス(gadマウス)の検証から導き出された(非特許文献1及び2参照)。このマウスは、ヒトのユビキチンC末端水解酵素1型(1UCH−L1)のマウスホモログであり、軸索変性により生後9週頃から感覚失調、運動麻痺で発症し、20集頃から衰弱死する自然発症神経変性マウスである。 一方、パーキンソン病の発症の解明と治療を目的として、中脳ドーパミン産生細胞を破壊する薬物を用いて病態を再現することが試みられている。小坂仁、和田圭司著、「24.特集神経細胞死の基礎、ユビキチン・プロテオソーム系と神経細胞死」、医学のあゆみ、198(5)、339-343、2001小坂仁、和田圭司著、「特集拡大するユビキチンの世界、脱ユビキチン化酵素と神経異常マウス"gad"」、実験医学、18(11)、1491-1495、2000 しかしながら、パーキンソン病のモデルマウスは作出されていないため、早期の病因解明及び治療法の確立という要請に充分に応えているとは言い難い。一方、薬物を使用した再現も、薬物自体が非常に危険である上に各個体から得られる病変のばらつきが大きいためモデル系として利用することが難しい。その上、薬物で急激に神経細胞を破壊するプロセスが10数年かけてゆっくり進行するヒトでの病態と大きくかけ離れている可能性が指摘されてきた。 本発明は、パーキンソン病の病態を詳細に理解するために有用なパーキンソン病の病変を再現するモデル動物を開発することを目的とする。 本発明の遺伝子導入動物は、ユビキチンC末端水解酵素変異体をコードする遺伝子配列を有することを特徴としている。 上記遺伝子導入動物としては、マウスであることが好ましい。 本発明によれば、パーキンソン病の病態を詳細に理解するために有用なパーキンソン病の病変を再現するモデル動物を得ることができる。 ユビキチンC末端水解酵素L1(UCHL1)は、神経細胞特異的な脱ビキチン化酵素である。近年、優性遺伝形式をとる家族性パーキンソン病の1家族で、ユビキチンC末端水解酵素(UCHL1)の93番目のアミノ酸のイソロイシンからメチオニンへの変異(I93M変異)が報告された。本発明者らは、このUCHL1I93Mを有する遺伝子導入動物を作製し、この遺伝子導入動物が、黒質線状体ドーパミン産生細胞に対する選択的な病理を有するパーキンソン病のための研究ツールとして有用であることを見出し、本発明を完成させた。 ここで、「遺伝子導入動物」とは、特定遺伝子配列を強制的に発現させるために、遺伝子導入技術に基づいて特定の細胞へ遺伝子配列を導入して得られた動物及びその子孫をいい、この遺伝子導入動物及びその子孫は、導入された特定遺伝子配列を有している。 本発明においてユビキチンC末端水解酵素(UCHL1)とは、脳内水溶性タンパク質の数%を占め、ユビキチンと共にアルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患の凝集体に見出される分子であるが、生体内での役割は未だ不明である。このようなUCHL1の配列は、好ましくはヒト由来のものであり、ヒトUCHL1の配列は Larsen, C.N., Krantz, B.A. and Wilkinson, K.D. (1998) Substrate specificity of deubiquitinating enzymes: ubiquitin C-terminal hydrolases. Biochemistry, 37, 3358-3368.等に記載されている。 本発明では、UCHL1の配列のうち、93番目のアミノ酸のイソロイシンからメチオニンへの変異(I93M変異)の配列が用いられる(配列番号:1)。配列番号1の配列のうち、機能を損なわない置換、欠損、変更を含む配列も同様に本発明において使用可能である。UCHL1についてはいくつかの多型が知られているが、I93Mの変異体が、パーキンソン病の家系で報告されているため好ましい。また特にヒト固有の病態解析を行うことを目的とするためには、ヒト由来のUCHL1とする。 このような変異体は、上記UCHL1の配列に対して点突然変異を起こさせたものであってもよく、合成したものであってもよく、ヒトなどのDNAライブラリーなどからクローニングしてきたものであってもよい。 これらの各配列の発現には、この用途に通常用いられる発現系がそのまま適用可能である。例えば、ここで使用可能なベクターとしては、この用途に通常使用可能な、大腸菌などの細菌及び真菌由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウィルスなどの動物ウィルスが挙げられる。またUCHL1の発現制御領域には、この用途に通常用いられているものをそのまま使用することができ、プロモータには、神経系での発現が十分に確認されているもの、すなわち血小板由来成長因子(PDGF)やプリオン蛋白等が挙げられ、さらに、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、などを含むものを適宜含むことができる。これらの配列は当業界で既知であり、容易に入手可能である。本発明におけるUCHL1変異体遺伝子の発現ベクターは、当業界で周知の技術によって容易に作製することができる。 遺伝子の発現のために、上述のようにして作製されたUCHL1変異体遺伝子の発現系を、適当な細胞に例えばマイクロピペットで注入することができる。発現系の細胞への導入方法は、当業界で周知の方法のいずれによっても行うことができる。導入対象となる細胞としては、例えば、対象動物の受精卵を挙げることができる。 本発明において、UCHL1変異体遺伝子が導入される対象動物としては、モデル動物として有用なものであればいずれでもよく、例えばマウス、ラット、マーモセットなどがあるが、マウスが特に好ましい。 遺伝子が導入された細胞を用いて遺伝子導入動物を得るには、対象動物の雌を偽妊娠させ、その卵管に導入細胞を移植し遺伝子導入動物を作製する。この方法については、技術的に既に確立されており、例えばメディカルサイエンスインターナショナル出版社:ジーンターゲティング (1996);MEDSiバイオ実験法シリーズ: Alexandra L. Joyner, 野田 哲生 (翻訳)に詳細に記載されている。 本発明の遺伝子導入動物では、脳内の黒質のドーパミン産生細胞が加齢に伴って脱落していくことが確認された。これはパーキンソン病の病態であるので、パーキンソン病のモデル動物として用いることができる。 モデル動物として使用することにより、パーキンソン病の病態解析および治療開発に資することができる。 例えばマイクロアレイ法により発現プロフィールを解析することによりヒトパーキンソン病の病態理解につなげることができる。特定遺伝子の発現経路が明らかとなれば、その経路をブロックすることによってパーキンソン病の進行を食い止める薬剤の開発を行うことができる。 また、各種遺伝子改変動物との掛け合わせ後に黒質のドーパミン産生細胞の脱落の程度を比較することによって、パーキンソン病における細胞死の経路を明らかにすることができ、その経路をブロックする薬剤がパーキンソン病治療薬の候補であると考えることができる。さらには、各種薬剤をこのマウスに投与することによって、治療薬のスクリーニングを容易に行うことができる。 UCHL1は遺伝性パーキンソン病のみならず弧発型パーキンソン病の発症因子となることが明らかとなっているので、遺伝性であるか弧発型であるかを問わずパーキンソン病に普遍的な病態理解と有効な治療方法開発にすることができる。従って、本発明の遺伝子導入動物は、パーキンソン病の治療薬の開発ツールとして使用することができる。ヒトUCHL1のクローニング ヒトUCHL1 cDNAは、GenBankより入手し(受託番号:BC006305)、以下のプライマーセットでヒト脳cDNA プールを使用したPCRで増幅した(Stratagene, La Jolla, CA):フォワードプライマー:5'GGGGCTCGAGCCGCGAAGATGCAGCTCAAGCCGATGGAGATCAACCCCGA GATGCTGA-3' (5'-GGGG-XhoI-CCGCGAAG-Met'-Gln-Leu-Lys-Pro-Met-Glu-Ile-Asn-Pro-Glu-Met-Leu13-3')及びリバースプライマー:5'-GGGGGCGGCCGCTTAGGCTGCCTTGCAGAGAGCCA-3' (3'-Ala226-Leu-CysLys-Ala-Ala233-stop-NotI-GGGG-5')。最初の3分間を95℃で変性した後、95℃10秒の変性、53℃20秒のアニーリング及び72℃30秒の伸長のサイクルを30サイクル実施して増幅した。増幅フラグメントを、XhoIとNotIで切断し、pCI−neo(Promega, Madison, WI)のXhoI−NotI部位でサブクローニングした。I93M変異を含むヒトUCHL1をコードするcDNAを、5'-GAATTCCTGTGGCACAATGGGACTTATTCACGCAG-3' 及び 5'−CTGCGTGAATAAGTCCCATTGTGCCACAGGAATTC-3'の変異オリゴヌクレオチドを用いてQuikChange(商品名)site-directed mutagenesis kit (Stratagene)により作製した。得られたプラスミドにおけるこの単ヌクレオチド変異を、常法の配列決定法により確認した。キメラマウスの作製 野生型とI93M変異型のヒトUCHL1 cDNAをPDGFβプロモータ下にクローニングし(図1参照)、それぞれの導入遺伝子を、マウス受精卵の前核(C57BL/6JJclマウス雄2匹、雌25匹から得た)にマイクロピペットで導入した(処理卵数250)。それらの受精卵(160個)を偽妊娠雌マウス(8匹)の卵管に移植した。2週後に胎児を摘出し、プラグ確認のすんだ雌マウス(Jcl:ICR)に里親として育てさせた。離乳後のマウス尻尾の一部を切断し、常法に従ってDNAを抽出後、PCRにより3匹の陽性マウスを得た。これらの遺伝子導入マウスをC57BL/6JJclマウスとかけあわせ、繁殖させて、それぞれの系統を樹立した(#5A、#5C)。導入遺伝子の発現 UCHL1I93Mの導入は、定量的RT−PCRを用いてmRNAレベルでの発現を確認した(図2)。mRNAレベルでの発現量は、#5Aの発現量を1としたときに、#5Cでは90倍程度の発現量が認められた。 次に、UCHL1I93Mを過剰発現していることが認められた#5Cマウスと、遺伝子導入マウスの対照例として軸索変性マウス(gad)と、野生型マウス(WT)との脳におけるUCHL1の発現を、抗UCHL1抗体(ケミコン社製)を用いて免疫染色した。野生型及びgadマウスの脳ではUCHL1の発現の認められないところ、#5Cマウスでは、視床、視床下部、線条体、海馬、黒質などでその発現が認められた(図3)。TH陽性ドーパミン産生ニューロン数の変化 次に、黒質における中脳ドーパミン産生ニューロンの数を、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫染色によるTH陽性ドーパミン産生ニューロンの数として調べることにより、各遺伝子導入マウスにおいて調べた。使用した抗TH抗体は、藤田保健衛生大学、永津博士より貸与されたものを使用した。結果を図4に示す。図4に示されるように、8週齢及び20週齢のマウス(#5C)では、野生型マウスと比較してそれぞれ〜10%及び〜30%の減少が認められた。このことは、#5Cマウスは、黒質におけるTH陽性ニューロンの数の進行性減少を示している。本発明のマウスの利用方法 ここで得られた遺伝子導入マウスは、UCHL1がパーキンソン病の原因タンパク質であることの強力な証拠を確立した。パーキンソン病とUCHL1との関連性が報告された後、パーキンソン病患者でUCHL1解析が行われたが、この遺伝子中のこの変異を見い出せたのは、最初の家系のみであった。従って、UCHL1I93Mは、パーキンソン病に関連するまれな多型であるかもしれないとの推測もなされた。我々はここにUCHL1I93Mの過剰発現がマウスにおいてドーパミン作動系に対して特異的な神経毒を引き起こし得ることを、明らかにした。従って、この遺伝子導入マウスは、UCHL1I93Mがパーキンソン病を引き起こすことができるということを強く支持している。 また、このマウスは黒質ドーパミン作動系に対する選択的な神経毒を示す最初の遺伝子操作マウスである。種々のプロモータ下でのαシヌクレインのTgマウスは、ドーパミン作動系と無関係な病態を示しており、ドーパミン産生ニューロンの減少は証明されていない。I93M変異を持つパーキンソン病は家族性(遺伝性)パーキンソン病のごく一部かもしれないが、UCHL1の18位でのS/Yの多型は、孤発性パーキンソン病に対する感受性に影響するとの報告が相次いでいる。従って、UCHL1は家族性のみならず、孤発性のパーキンソン病発症にかかわる可能性があり、このため、本マウスに基づいて種々の解析を行うことによって、パーキンソン病の発症における共通の経路を明らかにする可能性もある。UCHL1I93M遺伝子導入マウスを作製するために用いた導入遺伝子構築物の構築図である。定量的RT−PCRによる外来遺伝子特異的な遺伝子の発現量を、#5Aにおける発現量を1としたときの相対量として示したグラフである。各マウスにおける脳でのUCHL1の発現を確認した免疫染色像を示す図である。8週齢及び20週齢におけるマウスの黒質における抗TH抗体による免疫染色の相対量を示すグラフである。 ユビキチンC末端水解酵素変異体をコードする遺伝子配列を有する遺伝子導入動物。 前記ユビキチンC末端水解酵素変異体は、93位における変異であることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入動物。 前記遺伝子配列が、配列番号1の配列であることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入動物。 前記遺伝子導入動物がマウスであることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入動物。 【課題】パーキンソン病の病態を詳細に理解するために有用なパーキンソン病の病変を再現するモデル動物を開発する。【解決手段】ユビキチンC末端水解酵素(UCHL1)変異体をコードする遺伝子、特にUCHL1I93M配列を組み込んだプラスミドを、マウスの受精卵に導入して、UCHL1I93Mを発現する遺伝子導入マウスを作製する。【選択図】図1配列表