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タイトル:公開特許公報(A)_耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法
出願番号:2003297615
年次:2005
IPC分類:7,C12N15/09,C12N9/12


特許情報キャッシュ

黒板 敏弘 宝田 裕 岡 正則 横田 直彦 松村 浩由 井上 豪 甲斐 泰 今中 忠行 JP 2005065540 公開特許公報(A) 20050317 2003297615 20030821 耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法 東洋紡績株式会社 000003160 三枝 英二 100065215 掛樋 悠路 100076510 小原 健志 100086427 斎藤 健治 100099988 藤井 淳 100105821 関 仁士 100099911 中野 睦子 100108084 黒板 敏弘 宝田 裕 岡 正則 横田 直彦 松村 浩由 井上 豪 甲斐 泰 今中 忠行 7C12N15/09C12N9/12 JPC12N15/00 AC12N9/12 8 1 OL 22 4B024 4B050 4B024AA11 4B024AA20 4B024BA10 4B024CA04 4B024DA06 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA12 4B050CC01 4B050CC04 4B050DD02 4B050GG06 4B050HH02 4B050LL03 4B050LL05本発明は、タンパク質の触媒活性を向上または低下させる方法に関し、詳しくは3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの「エキソヌクレアーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列および/またはそれに近接する「Thumbドメイン」の先端のアミノ酸配列に変異を導入することを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を調節する方法、その変異導入によって得られる耐熱性DNAポリメラーゼ、その製法に関する。更には、該耐熱性DNAポリメラーゼを用いた核酸の増幅方法、並びに該DNAポリメラーゼを含有する試薬に関する。 近年、PCRは生化学、分子生物学および臨床病理分野における研究、検査において必須の技術の一つとなっている。PCRの特徴は、耐熱性DNAポリメラーゼを用いるところにあり、現在最も頻繁に利用されているDNAポリメラーゼは主として、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Taq DNA polymerase)やサーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Tth DNA polymerase)などのPolI型と呼ばれる耐熱性DNAポリメラーゼである。PolI型DNAポリメラーゼの特徴は、増幅効率が良く、条件設定が容易であるところにある。しかしながら、増幅の際に核酸の取り込みの正確性(fidelity)が悪いという問題があり、増幅された遺伝子をクローニングするような場合には適していないとされている。 一方、超好熱始原菌由来のα型と呼ばれるDNAポリメラーゼ、例えばパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Pfu DNAポリメラーゼ;特許文献1、特許文献2)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Ti(Vent)ポリメラーゼ、特許文献3)、パイロコッカス・コダカラエンシス (Pyrococcus kodakaraensis) KOD1(旧名:Pyrococcus sp. KOD1)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼ;特許文献4)なども知られている。これら、α型DNAポリメラーゼは3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(Proof reading活性)を有し、核酸の取り込み際の正確性は、Taq DNAポリメラーゼなどのpolI型DNAポリメラーゼに比べて優れているという特徴を有する。 しかしながら、α型DNAポリメラーゼを用いたPCR増幅においては、その増幅効率が十分でないなどの問題が存在している。また、これらDNAポリメラーゼには、PCRの反応時間、酵素量及びプライマー濃度等の至適条件の幅が狭いものが多い。 α型DNAポリメラーゼにおけるPCR増幅における上記問題点の原因として、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の強さが関与していることが考えられる。すなわち、PCR時にプライマーなどがその3’−5’エキソヌクレアーゼ活性によって削られることにより、PCRにおける増幅効率が低下すると考えられている。また、α型DNAポリメラーゼは単一タンパク内に3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を示す領域と、DNAポリメラーゼ活性を示す領域が存在するため、両活性はお互いに相互作用しており、それぞれの領域の核酸への親和性などの違いなどもPCR増幅に影響を及ぼしていると考えられる。 3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の発現を担っているDNAポリメラーゼのアミノ酸配列中には、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性発現に関与していると思われる高度に保存されたアミノ酸領域(EXOI(図1), EXOII, EXOIII)が存在していることが知られている。EXO I領域にはXDXEXモチーフ(D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、X:任意のアミノ酸)が存在し、アスパラギン酸とグルタミン酸はエキソヌクレアーゼ活性の発現に必須であることが知られている。これらのアミノ酸配列におけるアスパラギン酸とグルタミン酸を中性のアミノ酸であるアラニンに置換することによって、エキソヌクレアーゼ活性を欠失または1万分の1以下に低減できることが報告されている(Kongら(1993)、Journal of Biological Chemistry, vol. 268,1965-1975)。しかしながら、エキソヌクレアーゼ活性を欠失又は1万分の1以下に低減させることにより、α型DNAポリメラーゼの特徴であるDNA複製時の正確性も同時に失われるという問題が存在した。 さらに、KOD DNAポリメラーゼにおける上記XDXEXモチーフのXで示されるアミノ酸を任意のアミノ酸に置換することにより、エキソヌクレアーゼ活性を段階的に減衰させる試みも行われている(特許文献5)。この方法によると、エキソヌクレアーゼ活性が低下するにつれてPCR効率の上昇と増幅における正確性(fidelity)の低下が同時に観察される。したがって、この方法を用いるには正確性が損なわれない程度にエキソヌクレアーゼ活性の低下したクローンを用いることが重要となる。しかしながら、この方法によって得られた酵素、例えばKOD DNAポリメラーゼの第142番目のイソロイシンをグルタミンに置換した変異体(IQ)や、リジンに置換した変異体(IK)は、コピー数の低いDNAからの増幅率が必ずしも良いとは言えないことが、優れたPCR効率を有する耐熱性ポリメラーゼ開発の障害となっていた。 また特許文献5によれば、この方法を用いる限りにおいて3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(proof reading活性)の上昇した変異体を得ることは困難である。このことは、この方法に従っては野生型KOD DNAポリメラーゼ以上に正確性に優れる酵素の取得が困難であることを示唆しているものと思われる。 これらの問題点を解決するためKOD DNAポリメラーゼの種々の変異体が作製され、EXOI領域中のXDXEXモチーフのグルタミン酸から数えて4つ目のヒスチジン残基(147番目;以下、Hとも示す)を種々のアミノ酸に置換することにより、様々な強さの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性、PCR効率及び正確性を示す耐熱性DNAポリメラーゼの取得が可能であることが報告されている(特許文献6)。しかし、このヒスチジン残基の置換がどのようなメカニズムで作用し、ポリメラーゼの性質が変化したのかは不明であり、更なる水平展開が困難な状況であった。その一方で、KOD DNAポリメラーゼの立体構造が明かとなり(J Mol Biol.(2001)00,1-9)、147番目のヒスチジンのタンパク質中での位置が明確になったことから、メカニズム解明が進む可能性も浮上していた。また、他の幾つかのα型DNAポリメラーゼの立体構造も詳しく調べられるようになった。WO92/9689号公報特開平5−328969号公報特開平6−7160号公報特開平7−298879号公報特開平10−42871号公報特開2002−253265J Mol Biol.(2001)00,1-9 このような理由から、立体構造情報を利用したDNAポリメラーゼ改変が求められていた。 すなわち本発明の目的は、まず、KOD DNAポリメラーゼの147番目のヒスチジンの変異によるポリメラーゼ特性の変化のメカニズムを解明し、新しい性質を示すDNAポリメラーゼを作り出す方法論を見出すことである。また、それら新たなDNAポリメラーゼ候補を提供することである。 本発明者らは本課題を解決するためKOD DNAポリメラーゼの変異体EXOI領域中のXDXEXモチーフのグルタミン酸から数えて4つ目のヒスチジン残基(147番目;以下、Hとも示す)をグルタミン酸に置換した変異体(H147E)のX線構造解析を実施し、野生型酵素の構造と比較することで、「エキソヌクレーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ構造とそれに近接する「Thumbドメイン」の先端のアミノ酸残基が静電的相互作用をすることにより、その二つの構造の間に形成されるEditing cleft(校正溝)の幅が狭まることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下のような構成からなる。(A)触媒活性を有する蛋白質の、その溝中に基質結合部位および/または活性中心を有している溝の周辺に位置する2つのドメインの近接部分の一方又は両方のドメインのアミノ酸配列に変異を導入することにより両ドメイン間の距離を大きく又は小さく又はズレを生じさせて、溝の大きさ又は形状を変化させて当該蛋白質の性質を変化させる方法。(1)3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの「エキソ ヌクレーゼドメイン」と「Thumbドメイン」が近接した部分のアミノ酸配列に変異 を導入することによる耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。ただし、「エキソヌクレ ーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列上のヒス チジン残基(KOD DNAポリメラーゼの場合147番目のヒスチジン残基)の改変 方法は除外する。(2)3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの「エキソ ヌクレーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列お よび/またはそれに近接する「Thumbドメイン」の先端のアミノ酸配列に変異を導 入することにより得られる、(1)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(3)ループ配列が(Lys/Phe)-Tyr-His-Glu-Glyからなることを特徴とする、(1)に記 載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(4)Thumbドメイン先端配列が(Val/Ile)-Ala-Lys-(Lys/Arg)-Leu-Ala-Ala-(Lys/Arg)- Gly-(Val/Ile)-(Lys/Arg)-Pro-Gly-(Thr/Met)であることを特徴とする、(1)に記載の耐熱性DNAポ リメラーゼの改変方法。(5)ループ配列のLysもしくはPheを酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、または疎水性ア ミノ酸に置換することを特徴とする(1)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方 法。(6)ループ配列のTyrを酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、または疎水性アミノ酸に置換 することを特徴とする(1)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(7)ループ配列のGluを酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、または疎水性アミノ酸に置換 することを特徴とする(1)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(8)ループ配列のGlyを酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、または疎水性アミノ酸に置換 することを特徴とする(1)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(9)ループ配列Tyr-His-Glu-Glyの複数のアミノ酸を酸性アミノ酸、または塩基性アミ ノ酸、または疎水性アミノ酸に置換することを特徴とする(1)に記載の耐熱性DNA ポリメラーゼの改変方法。(10)Thumbドメイン先端配列が(Val/Ile)-Ala-Lys-(Lys/Arg)-Leu-Ala-Ala-(Lys/Arg )-Gly-(Val/Ile)-(Lys/Arg)-Pro-Gly-(Thr/Met)の一つまたは複数のアミノ酸を、酸性アミノ酸 、または塩基性アミノ酸、または疎水性アミノ酸に置換することを特徴とする(1)に 記載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(11)耐熱性DNAポリメラーゼが始原菌由来であることを特徴とする(1)に記載の 耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(12)耐熱性DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼであることを特徴と する、(1)〜(11)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(13)耐熱性DNAポリメラーゼが、Pfu DNAポリメラーゼ、Vent DNA ポリメラーゼ、Deep Vent DNAポリメラーゼ、Tag DNAポリメラー ゼ、Tgo DNAポリメラーゼ、9#N-7 DNAポリメラーゼであることを特徴とす る、(1)〜(11)記載の耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法。(14)(1)〜(13)の改変方法によって改変された耐熱性DNAポリメラーゼ。(15)(14)に記載のタンパク質を発現させるため、その遺伝子をベクターに挿入さ れてなる遺伝子組換えベクター。(16)ベクターがpLED-MIもしくはpBluescript由来のベクターである(15)の遺伝 子組換えベクター。(17) (15)または(16)に記載の遺伝子組換えベクターを用いて宿主細胞を形 質転換した組換え細胞。(18) 宿主細胞がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である(17)記載の組 換え細胞。(19) (18)記載の組換え細胞を培養し、培養物から耐熱性DNAポリメラーゼを 採取することを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの製造方法。(20) DNAを鋳型とし、プライマー、dNTP、及び(14)に記載の耐熱性DN Aポリメラーゼを反応させることによりプライマーを伸長させてDNAプライマー伸長 物を合成することを特徴とする核酸増幅方法。(21)プライマーが2種のオリゴヌクレオチドであって、一方は他方のDNA伸長物に 相補的である(20)記載の核酸増幅方法。(22) 加熱および冷却を繰り返す(20)記載の核酸増幅方法。(23) 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物である2種のプライ マー、dNTP、および(14)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、2価イオン、1 価イオン及び緩衝液を含むことを特徴とする核酸増幅用試薬。(24) 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物である2種のプライ マー、dNTP、(14)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオン、 アンモニウムイオンおよび/またはカリウムイオン、BSA(牛血清アルブミン)、非 イオン性界面活性剤、及び緩衝液を含有することを特徴とする核酸増幅用試薬。(25) 一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物である2種のプライ マー、dNTP、(1)〜(11)のいずれかに記載の耐熱性DNAポリメラーゼ、マ グネシウムイオン、アンモニウムイオンおよび/またはカリウムイオン、BSA、非イ オン性界面活性剤、緩衝液、及び該耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性およ び/または3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を抑制する活性を有する抗体を含有する 核酸増幅用試薬。(26) (14)に記載の耐熱性DNAポリメラーゼを1種以上混合されたことを特徴 とするDNAポリメラーゼ組成物。(27) DNAを鋳型として、変異導入プライマー、dNTP及び(14)に記載の耐 熱性DNAポリメラーゼを反応させることによりプライマーを伸長させてDNAプライ マー伸長物を合成することを特徴とする遺伝子変異導入方法。(28) 変異導入プライマー、dNTP、及び(14)のいずれかに記載の耐熱性DN Aポリメラーゼ含んでなることを特徴とする遺伝子変異導入用試薬(29) 3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの近接した「エキソヌクレーゼドメイン」と「Thumbドメイン」において、(i)該Thumbドメイン先端部分の塩基性及び/又は疎水性を増大させる;並びに/或 いは(ii)該エキソヌクレーゼドメインの酸性及び/又は疎水性を増大させるアミノ酸変異(置換、欠失、挿入又は付加)を行うことを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を低下する方法。(30) 3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの近接した「エキソヌクレーゼドメイン」と「Thumbドメイン」において、(i) Thumbドメイン先端部分の塩基性及び/又は疎水性を減少させる;並びに/或いは(ii)該エキソヌクレーゼドメインの酸性及び/又は疎水性を減少させるアミノ酸変異(置換、欠失、挿入又は付加)を行うことを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を増大させて、耐熱性DNAポリメラーゼの増幅における正確性を向上する方法。(31) 野生型の耐熱性DNAポリメラーゼよりも「エキソヌクレーゼドメイン」と「Thumbドメイン」の間の距離が、0.1〜15Å、好ましくは0.3〜10Å、より好ましくは0.5〜5Å縮小している(29)に記載の方法。、(32) 野生型の耐熱性DNAポリメラーゼよりも「エキソヌクレーゼドメイン」と「Thumbドメイン」の間の距離が、0.1〜15Å、好ましくは0.3〜10Å、より好ましくは0.5〜5Å拡大している(30)に記載の方法。 2001年にKOD DNAポリメラーゼの立体構造が明らかとなり(J Mol Biol.(2001)00,1-9)、アミノ酸置換することで正確性を保ったままPCR効率を向上させることのできるKOD DNAポリメラーゼの147番目のヒスチジンのタンパク質内での立体的位置関係が明らかになった。147番目のヒスチジン残基は、ExoIモチーフのC末端側に存在するループ構造の先端に存在し、Thumbドメイン(正確にはThumb-2ドメイン)の先端にも近接していることが明かとなった。一方、Thumbドメインの先端はX線結晶解析ではディスオーダーしており、すなわち不安定で、明瞭な像が得られおらず、非常にフレキシビリティーに富んだ領域であることが窺えた。また、この領域は塩基性、疎水性に富む領域であることも非常に興味深い発見であった。 このExoIモチーフのC末端側に存在するループ構造とThumbドメインの先端が作る溝は、Editing cleft(E−Cleft)と呼ばれ、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性中心がその内部に存在することから、3’−5’エキソヌクレアーゼの発現制御に深く関わっていることが推察されている。3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼのDNA複製機構は以下のように考えられる。(1)複製すべきDNAを挟み込むようにして、ポリメラーゼ活性中心で5’から3’側 へ向けて伸長反応(DNA合成反応)が進む(合成モード)。(2)伸長反応に対してある割合で校正モードへの切り換え(スイッチング)が行われ、 合成されつつある1本鎖核酸がE−Cleft(校正溝:エキソヌクレアーゼドメイン とThumbドメインの隙間に形成される)に進入し、3’−5’エキソヌクレアーゼ 活性中心で3’側から5’側に数塩基から数十塩基削られる。この時、誤って取りこま れた塩基は校正される。(3)スイッチングが行われ、合成モードへ戻り合成が再開される。 KOD DNAポリメラーゼの147番目のヒスチジン残基を酸性アミノ酸、すなわち負電荷を帯びたアミノ酸に置換することで、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性が低下し、PCR効率が向上する傾向にある。一方、147番目のヒスチジン残基を塩基性アミノ酸、すなわち正電荷を帯びたアミノ酸に置換することで、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性が上昇し、PCR効率が低下する傾向にある。さらに、一方、147番目のヒスチジン残基を疎水性アミノ酸に置換することで、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性が若干低下し、PCR効率が若干向上する傾向にある(表1)。 表1は、KOD DNAポリメラーゼの147変異体の性質を示す。 本発明者等はこれら立体構造的知見と変異体での知見をもとに鋭意考察し、以下のような仮説に至った。すなわち、ExoIモチーフのC末端側に存在するループ構造とThumbドメインの先端は近接しており、アミノ酸の性質に従って相互作用しており、特に、それぞれの配列の先端付近のアミノ酸が重要で、それぞれの電荷、疎水性などが深く、その相互作用に関与しているというものである。147番目のヒスチジン残基はExoIモチーフのC末端側に存在するループ構造のほぼ先端に存在し、その相互作用に最も影響を及ぼしやすいと推察される。147番目のヒスチジンの変異体を例にとると以下のような推論が成り立つ。まず、ヒスチジンを酸性アミノ酸(負電荷)に置換した場合、Thumbドメインの先端部分が塩基性(正電荷)に富んでいることから、お互い引き合い、E−Cleftを押し縮めるように作用することが考えられる。このことにより、校正されるべき一本鎖DNAは、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の活性中心に到達しにくくなり、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性が低下するものと考えられる。また、特開2002−253265では、H147EやH147Dなどの酸性アミノ酸への変異体は、同等の3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の活性中心に変異を導入した変異体に比べPCR効率が向上していることを述べている。これは、活性中心に変異を導入した変異体では、校正されるべき一本鎖DNAが野生型酵素同様にE−Cleftに進入するのに対し、H147EやH147Dなどの酸性アミノ酸への変異体では、E−Cleftへの一本鎖DNAの進入が制御されることにより、無駄な動きが軽減されるためであると推察される。また、H147AやH147Yなどの疎水性変異体においても、酸性アミノ酸への変異体ほど顕著ではないが3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の低下とPCR効率の向上が認められる。これは、Thumbドメインの先端部分が疎水性に富んでいることから、疎水的相互作用を介して、二つのドメインが引き合った結果、E−Cleftを押し縮められたことに起因していると考えられる。一方、H147KやH147Rなどの塩基性変異体に関しては、酸性変異体とは全く逆の結果が得られている。すなわち、これらの変異体においては、反発の作用が働きE−Cleftが開き、一本鎖DNAが3’−5’エキソヌクレアーゼ活性中心に到達しやすい構造になっていると推察することが出来る。本発明は上記の仮説を証明することにより、更に幅広い性質を有する変異体を作製することを可能にした。仮説の証明は、H147E変異体に焦点を当て、X線結晶解析を行い、野生型酵素との立体構造の比較を行うことによって実施した。H147Eは実施例3に示す条件で結晶化を行い、0.20×0.08×0.08mmの結晶を取得し(図3)、X線回折実験により約2.75Åの分解能までの回折点を観測し、表2に示すような空間群と格子定数を決定することが可能であった。 表2は、KOD DNAポリメラーゼ変異体(H147E)の結晶のX線回折データを示す。 そのデータを元にプログラムDenzo,Scalepackを用い計算を行った後、立体モデルを構築した。その結果、図4に示すような像を得ることができ、野生型酵素同様に、N−terドメイン、Exoドメイン、Fingerドメイン、Palmドメイン、Thumbドメインの5つのドメインからなることが分かった。また、ExoドメインとThumbドメインを間の距離を比較するために、Exoドメインを対照として、H147E変異体と野生型酵素を重ね合わせた結果、H147E変異体のThumbドメインが相対的にExoドメイン側にシフトしていることが明らかになった(図5)。ただ、図をみて分かるようにThumbドメインの先端部分で3箇所、構造がdisorderしている領域(点線部分)が存在した。N末端側から順にDisorder領域Iでは、T667からG677までの11残基、Disorder領域IIでは、R689からG696までの8残基、Disorder領域IIIでは、K705からD712までの8残基について構造が確認できなかった。これらについては、野生型酵素の構造解析においても同様の結果が得られている。野生型酵素の研究からThumbドメインは、温度要因が他のドメインに比べ非常に高く、フレキシブルであることが明かとなっており、このためにThumbドメインの先端部分の電子密度が薄くなり、構造が欠落したのではないかと考えられている。ThumbドメインのExoドメイン側へのシフトは、Thumbドメイン先端のへリックス領域(678−688)で、およそ1.5Åであった。当然、Thumbドメインの先端配列であるDisorder領域IIも、Exoドメイン側へシフトしていると考えられる。 更に、図6にThumbドメインのdisorderしていない複数箇所からの147番目のアミノ酸までの距離、およびE−Cleftと推定される領域を示した。このように、147番目のアミノ酸を酸性アミノ酸であるグルタミン酸に置換することで、E−Cleftの大きさが変化することが示された。これは、ExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列とThumbドメインの先端配列が、相互作用しやすい位置に存在し、実際に静電的もしくは疎水的相互作用をしていることを意味していると思われ、今回試した他のアミノ酸への変異体においても同様の原理が働き、E−Cleftの大きさや形が変化することで、KOD DNAポリメラーゼの性質を変化させたことが示唆される。 Thumbドメインの先端配列の電子密度が薄いということは、この領域が揺らいでいることを示しており、3’−5’エキソヌクレアーゼドメインと容易に相互作用しやすい構造を取っていることを示している可能性も考えられる。 H147E変異体は酸性アミノ酸(負電荷)変異体であり、仮説では3’−5’エキソヌクレアーゼドメインとThumbドメインの間隔を縮める、すなわちE−Cleftの幅を縮めると予想されていた変異体である。今回の、X線立体構造解析の結果、この仮説が証明される結果となり、本発明を明確なものとすることができた。 すなわち本発明は、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの「エキソヌクレーゼドメイン」と「Thumbドメイン」が近接した部分のアミノ酸配列に変異を導入することを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法である。ただし、既に報告されている「エキソヌクレーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列上のヒスチジン残基(KOD DNAポリメラーゼの場合147番目のヒスチジン残基)に変異を導入した変異体は本発明の範囲から除く。 ここでいう近接した部分とは、ドメインの境界部分(インターフェース)で近接している領域を意味する。ドメイン間には数箇所そのような場所が存在する。KOD DNAポリメラーゼにおいてはエキソヌクレアーゼドメインのExoIモチーフのC末端側に存在するループ構造とThumbドメイン(詳しくはThumb-2)の先端領域にあたる領域である。 また、近接した領域の片方、もしくは両方は構造的に柔軟性(フレキシビリティー)に富んでいることが好ましい。KOD DNAポリメラーゼにおけるThumbドメインの先端はX線解析においてdisorderしていることが示唆されており、柔軟性が高いことが推察される。 ドメインの境界部分(インターフェース)で近接している領域間の距離に関して、一般的に好ましい変異の戦略としては、酵素基質の反応部位(または触媒部位・結合部位など)への進入を妨げることが出来る程度に距離を近接させる、または、反対に進入しやすいように遠ざける、もしくはサブユニット同士をずらすことなどが挙げられる。 例えば、KOD DNAポリメラーゼにおいては、ドメインの境界部分(インターフェース)で近接している領域間の距離が近づくと一本鎖DNAが、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の活性中心に到達しにくくなり、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性が低下し、PCR性能が向上する傾向がある。一方、距離が遠くなると、エキソヌクレアーゼ活性が向上して、PCR性能が低下する傾向があるが、正確性が向上するという利点がある。 このような観点から、本発明においてDNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を低下させる、もしくはPCR性能向上させる場合、ドメインの境界部分(インターフェース)で近接している領域間の距離として好ましいのは、変異を導入していない酵素よりも下限として0.1Å、より好ましくは0.3Å、さらに好ましくは0.5Å程度距離を近くした場合である。あるいは、変異を導入していない酵素よりも上限として15Å、より好ましくは10Å、さらに好ましくは5Å程度距離を近くした場合である。具体的な変異としては、エキソヌクレアーゼドメインのループ構造の(Lys/Phe)-Tyr-His-Glu-Gly配列の一つ以上のアミノ酸を酸性アミノ酸もしくは疎水性アミノ酸、好ましくは酸性アミノ酸に変換することにより実現される。さらに好ましくは、既に効果の確認されているHisのAsp、Glu、Tyr、もしくはAlaへの変異を含む方が好ましいといえる。また、もう一つのアプローチとしては、Thumbドメイン先端部分のアミノ酸配列((Val/Ile)-Ala-Lys-(Lys/Arg)-Leu-Ala-Ala-(Lys/Arg)-Gly-(Val/Ile)-(Lys/Arg)-Pro-Gly-(Thr/Met))の一つ以上のアミノ酸を置換することにより実現される。また、それぞれの変異は、デリーションもしくは挿入を含んでも良い。 一方、本発明においてDNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を増大させ、正確性を向上させるためには、変異を導入していない酵素よりも下限として0.1Å、より好ましくは0.3Å、さらに好ましくは0.5Å程度距離を遠くした場合である。あるいは、変異を導入していない酵素よりも上限として15Å、より好ましくは10Å、さらに好ましくは5Å程度距離を遠くした場合である。具体的な変異としては、エキソヌクレアーゼドメインのループ構造の(Lys/Phe)-Tyr-His-Glu-Gly配列の一つ以上のアミノ酸を塩基アミノ酸もしくは親水性アミノ酸、好ましくは塩基性アミノ酸に置換することにより実現される。さらに好ましくは、既に効果の確認されているHisのLysもしくはArgへの変異を含む方が好ましいといえる。また、もう一つのアプローチとしては、Thumbドメイン先端部分のアミノ酸配列((Val/Ile)-Ala-Lys-(Lys/Arg)-Leu-Ala-Ala-(Lys/Arg)-Gly-(Val/Ile)-(Lys/Arg)-Pro-Gly-(Thr/Met))の一つ以上のアミノ酸を置換することにより実現される。また、それぞれの変異は、デリーションもしくは挿入を含んでも良い。 また、図6に示したように、測定する領域で接近距離が異なる(1Åと3Å)ように、今回の事例においてもエキソヌクレアーゼドメインとThumbドメインの接近には「ズレ」の要素も含まれていることが予想される。よって、ドメインを近づける、もしくは遠ざける以外にも適度にずらすことによっても良い効果が得られる。「ズレ」を導入する場合、変異を導入していない酵素よりも下限として0.1Å、より好ましくは0.3Å、さらに好ましくは0.5Å程度のズレを生じさせる場合である。あるいは、変異を導入していない酵素よりも上限として15Å、より好ましくは10Å、さらに好ましくは5Å程度ズレを生じさせる場合である。ズレの方向は左右、上下どちらでも良く、また、近づけたり、遠ざけたりする変化と混合しても良い。具体的な方法としては、上に挙げたアミノ酸変異を組み合わせることが考えられる。 ただ、ドメイン間の距離が近づきすぎる、または、遠ざかりすぎると弊害が起きる可能性も考慮する必要がある。極端な場合、ポリメラーゼとして機能しなくなる可能性も考えなくてはならない。 また、二つのドメインのそれぞれに1つ以上のアミノ酸に変異を導入する場合も考えられる。ただ、その場合も、上に示した考え方、すなわち、ドメイン間の距離もしくはズレを電荷や疎水的相互作用から推測すれば良い。例えば、KOD DNAポリメラーゼの147番目のヒスチジンを負電荷のアスパラギン酸に置換した変異体の3’−5’エキソヌクレアーゼ活性をさらに低下させる、もしくはPCR性能向上させる場合、Thumbドメインの先端配列を更に塩基性のアミノ酸に変異させることなどが考えられる。 また、H147Y変異体のようにエキソヌクレアーゼ活性、ポリメラーゼ活性が共に向上しているクローンも存在する。このクローンにおいて、相対エキソヌクレアーゼ活性(EXO/POL)は0.9であり、ほとんど野生型と同等であるにも関らず、PCR効率の向上が確認されている。この結果は、3'-5'エキソヌクレアーゼ活性が低下することと、PCR効率が向上することとはある程度独立して規定されていることを示していると思われる。この効果は、相対エキソヌクレアーゼ活性が同等であってもPCR効率が異なるクローンがある(H147DとI142K、H147EとI142Q)ことからも予想される。H147YではこのPCR効率を向上させる効果が顕著に出現した例であると推察される。すなわち、本発明の方法に従うと、このように総合評価的に良いDNAポリメラーゼも取得することが出来る。その方法としては、H147Yのように、エキソヌクレアーゼドメインのループ構造の(Lys/Phe)-Tyr-His-Glu-Gly配列の一つ以上のアミノ酸を疎水性アミノ酸に置換することによって達成することができる。また、H147D、H147Eにおいても上に示したように3'-5'エキソヌクレアーゼ活性が低下した効果以上に、PCR効率を高める効果が確認されていることから、(Lys/Phe)-Tyr-His-Glu-Gly配列の一つ以上のアミノ酸を酸性性アミノ酸に置換することによっても達成されることが予想される。これらの効果は、エキソヌクレアーゼドメインとThumbドメイン間の距離を縮小させる、もしくは「ズレ」を導入する効果に加えて、Thumbドメインを安定化したことによる効果も含まれると思われる。ポリメラーゼの活性中心で合成された二本鎖DNAは、PalmドメインとThumbドメインに挟まれる形で安定化されることが知られている。上に示したように、特にKOD DNAポリメラーゼのThumbドメインの先端は柔軟性に富んでいることが知られていることから、この柔軟性をエキソヌクレアーゼドメイン-Thumbドメインの相互作用により安定化した結果、ポリメラーゼ活性へも影響が及びPCR効率が向上した可能性があると考えられる。これらの効果は複合的な現象として発現することが多いが、ほぼ上記の方法に従うことにより、意図した方向へ変異させることが可能である。 また、KOD DNAポリメラーゼ以外のポリメラーゼにおいては、野生型酵素におけるエキソヌクレアーゼドメインとThumbドメインの距離がKOD DNAポリメラーゼと異なるものも多く、それぞれの酵素の性質を規定していると推定される。よって、KOD DNAポリメラーゼ以外のDNAポリメラーゼのドメイン間の距離やズレをどの程度変化させるかについては、変異させるアミノ酸の、種類を検討することが望ましい。ただ、変異の方向性としては、KOD DNAポリメラーゼの例に倣えば良い。 さらに、本発明は、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの「エキソヌクレアーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列および/またはそれに近接する「Thumbドメイン」の先端のアミノ酸配列に変異を導入することを特徴とする耐熱性DNAポリメラーゼの改変方法である。 本発明は、始原菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼに応用され得る。本発明の要となる「エキソヌクレーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列、およびそれに近接する「Thumbドメイン」の先端のアミノ酸配列は、始原菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼの間で驚くほど保存されている。エキソヌクレアーゼドメインのループ構造の配列は全て、(Lys/Phe)-Tyr-His-Glu-Glyからなっており、Thumbドメインの先端配列は(Val/Ile)-Ala-Lys-(Lys/Arg)-Leu-Ala-Ala-(Lys/Arg)-Gly-(Val/Ile)-(Lys/Arg)-Pro-Gly-(Thr/Met)で表すことができる。括弧内はどちらかのアミノ酸を採用することができるが、どれもほぼ同一カテゴリーに分類されるアミノ酸であり、化学的性質はほぼ同等であることが予想される。 特に、ExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列は高度に保存されており、既にヒスチジン残基を用いた検討で非常に効果的に様々な性質を有する変異体の創出に成功していることもあり、重要である。 本発明において、ExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列のチロシン残基、グルタミン酸残基、グリシン残基は、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、または疎水性アミノ酸に好適に変異させうる。それぞれの効果は、147番目のヒスチジン残基の変異の場合と同様な効果を期待することができ、PCR効率の向上には、酸性アミノ酸、もしくは疎水性アミノ酸への置換が好ましく行われる。複数のアミノ酸変異を伴っても良いが、ループ構造を壊さない程度の変異が好ましいといえる。本明細書において:「酸性アミノ酸」は、Glu、Aspを含む。「塩基性アミノ酸」は、Arg,Lys、Hisを含む「疎水性アミノ酸」は、Leu、Ile、Val、Phe、Trp、Met、Pro、Ala、Tyrを含む一方、正確性を向上させる用途では、塩基性アミノ酸への置換が好ましいといえる。この場合も、147番目のヒスチジン残基の変異の場合と同様な効果を期待することができる。複数のアミノ酸変異を伴っても良いが、上記同様、ループ構造を壊さない程度の変異が好ましいといえる。また、本発明はThumbドメインの先端配列を変異されることでも実現される。すなわち、(Val/Ile)-Ala-Lys-(Lys/Arg)-Leu-Ala-Ala-(Lys/Arg)-Gly-(Val/Ile)-(Lys/Arg)-Pro-Gly-(Thr/Met)配列の一つまたは複数のアミノ酸を、酸性アミノ酸、または塩基性アミノ酸、または疎水性アミノ酸に置換することを特徴とする。ただ、この配列は複雑で、X線結晶解析においても電子密度が薄く詳細な構造が決まっていないことから、明確にどのアミノ酸を変異されるべきかは、慎重に吟味して決定する必要がある。 先ほども述べたが、本発明は始原菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼであれば特に限定されない。KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ、Deep Vent DNAポリメラーゼ、Tag DNAポリメラーゼ、Tgo DNAポリメラーゼ、9#N-7 DNAポリメラーゼが好適に用いられ、特に、好ましくはKOD DNAポリメラーゼが用いられる。 ただ、それぞれのポリメラーゼの野生型酵素のE−Cleftの幅は様々であり、それぞれの希望する性質に合わせて、変異させるアミノ酸を選択することが好ましい。例えば野生型酵素の3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を向上させたい場合はExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列のいずれかを塩基性アミノ酸に変換すれば良い。または、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を減少させる、もしくはPCR効率を向上させたい場合は、ExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列のいずれかを酸性性アミノ酸もしくは疎水性アミノ酸に変換すれば良い。 また、本発明は上記の様々な方法によって作成された改変された3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼにも関する。 さらに、本発明は、それらのタンパク質を発現させるために構築されたベクターにも及ぶ。特に、pLED-MIもしくはpBluescript由来のベクターが好適に使用される。 さらに、本発明は、これらベクターにより形質転換された宿主細胞にも及び、特に、大腸菌(Escherichia coli)が好ましく用いられる。 本発明において、DNA合成活性とは鋳型DNAにアニールされたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの3’−ヒドロキシル基にデオキシヌクレオチド5’−トリホスフェートのα-ホスフェートを共有結合せしめることにより、デオキシリボ核酸にデオキシリボヌクレオチド5’−モノホスフェートを鋳型依存的に導入する反応を触媒する活性をいう。 その活性測定法は、酵素活性が強い場合には、保存緩衝液でサンプルを希釈して測定を行う。本発明では、下記A液25μl、B液5μl、C液5μl、滅菌水10μl、及び酵素溶液5μlをマイクロチューブに加えて75℃にて10分間反応する。その後氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、D液及びエタノールで十分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、鋳型DNAのヌクレオチドの取り込みを測定する。酵素活性の1単位はこの条件で30分当りの10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分に取り込む酵素量とする。A:40mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5) 16mM 塩化マグネシウム 15mM ジチオスレイトール 100μg/ml BSA(牛血清アルブミン)B:2μg/μl 活性化仔牛胸腺DNAC:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)D:20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)E:10mg/ml サケ精子DNA 本発明において、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性とはDNAの3’末端領域を切除し、5’−モノヌクレオチドを遊離する活性をいう。その活性測定は、50μlの反応液(120mM Tris-塩酸緩衝液(pH8.8、25℃)、10mM KCl、6mM 硫酸アンモニウム、1mM MgCl2、0.1%Triton X-100、0.001% BSA、5μgトリチウムラベルされた大腸菌)を1.5mlのマイクロチューブに分注しDNAポリメラーゼを加える。75℃で10分間反応させた後、氷冷によって反応を停止し、次にキャリアーとして0.1%のBSA 50μlを加え、さらに10%のトリクロロ酢酸、2%ピロリン酸ナトリウム溶液100μlを加えて混合する。氷上で15分放置した後、12000回転にて10分間遠心分離し沈殿を分離する。上清100μlの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、酸可溶性画分に遊離したヌクレオチド量を測定する。 本発明において、DNA合成速度とは単位時間あたりのDNA合成数をいう。その測定法はDNAポリメラーゼの反応液(20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)、8mM 塩化マグネシウム、7.5mM ジチオスレイトール、100μg/ml BSA、0.1mM dNTP、0.2μCi[α-32P]dCTP)を、プライマーをアニーリングさせたM13mp18 1本鎖DNAと75℃で反応させる。反応停止は等量の反応停止液(50mM 水酸化ナトリウム、10mM EDTA、5%フィコール、0.05%ブロモフェノールブルー)を加えることにより行う。上記反応にて合成されたDNAをアルカリアガロースゲル電気泳動にて分画した後、ゲルを乾燥させオートラジオグラフィーを行う。DNAサイズマーカーとしてはラベルされたλ/HindIIIを用いる。このマーカーのバンドを指標として合成されたDNAのサイズを測定することによってDNA合成速度を求める。 本発明において、熱安定性とはポリメラーゼ5単位を100μlの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH8.8;25℃での測定値)、10mM 塩化カリウム、10mM 硫酸アンモニウム、2mM 硫酸マグネシウム、0.1% TritonX−100,0.1mg/ml BSA,5mM 2−メルカプトエタノール)に混合し、95℃、6時間の処理での残存活性を意味する。 また、本発明において、DNAポリメラーゼの正確性とはDNA複製時における塩基の取り込みの正確性をいう。本発明におけるDNAポリメラーゼの正確性の評価には、ストレプトマイシン耐性に関与するリボゾーマルタンパク質S12(rpsL)遺伝子を指標として行う。ストレプトマイシンは原核細胞のタンパク質合成を阻害する抗生物質であり、細菌の30SリボゾーマルRNA(rRNA)に結合してタンパク質合成の開始複合体形成反応を阻害し、また遺伝子暗号の誤読を引き起こす。ストレプトマイシン耐性変異株ではリボゾームタンパク質S12に変異が見られる。この変異はリボゾームの翻訳忠実度を上げるため、サプレッサーtRNAによる終始コドンの読み取りを抑制するなど多面的効果(pleiotropic effect)を示すことが知られている。したがって、rpsL遺伝子をPCRにより増幅し菌に形質転換した場合、変異が多く導入されるほどストレプトマイシン耐性菌の出現頻度が増すこととなる。 プラスミドpMol21(Journal of Molecular Biology(1999)289,835-850に記載)は、rpsL遺伝子及びアンピシリン耐性遺伝子を含むプラスミドを用いるのが好ましい。このプラスミドのアンピシリン耐性遺伝子上にPCR増幅用プライマーセット(片方をビオチン化、MluI制限酵素サイトを導入)を設計し、プラスミドの全長を様々な耐熱性DNAポリメラーゼにてPCR増幅し、ストレプトアビジンビーズを用いて精製し、制限酵素MluIを用いて切り出した後、DNAリガーゼを用いて結合して大腸菌を形質転換して、アンピシリンとアンピシリン及びストレプトマイシンを含有する2種類のプレートに接種し、それぞれのプレートに出現したコロニーの比を算出することにより遺伝子複製の正確性を求める。 これらの改変された酵素を製造する方法としては、野生型KOD DNAポリメラーゼをコードする遺伝子に変異を導入して、タンパク質工学的手法により新たな機能を有する変異型KOD DNAポリメラーゼを製造する方法がある。 変異を導入するDNAポリメラーゼをコードする遺伝子は特に限定されないが、例えば、パイロコッカス・コダカラエンシスKOD1株由来の配列表・配列番号3に記載の遺伝子が挙げられる。 野生型KOD DNAポリメラーゼ遺伝子に変異を導入する方法は既知のいかなる方法を用いてもよい。例えば、野生型KOD DNAポリメラーゼ遺伝子と変異原となる薬剤を接触させる方法や紫外線照射による方法などからタンパク質工学的手法、例えばPCRや部位特異的変異などの方法を用いることができる。 本発明で使用したQuickChange site-directed mutagenesisキット(ストラタジーン製)は、(1)目的とする遺伝子を挿入したプラスミドを変性させ、該プラスミドに変異プライマーをアニーリングさせ、続いてPfu DNAポリメラーゼを用いて伸長反応を行う、(2)(1)のサイクルを15回繰り返す、(3)制限酵素DpnIを用いて鋳型としたプラスミドのみを選択的に切断する、(4)新たに合成されたプラスミドにより大腸菌を形質転換し、目的とする変異の導入されたプラスミドを保有する形質転換体を取得することのできるキットである。 上記改変DNAポリメラーゼ遺伝子を必要に応じて発現ベクターに移し替え、宿主として例えば大腸菌を形質転換した後、アンピシリン等の薬剤を含む寒天培地に塗布し、コロニーを形成させる。コロニーを栄養培地、例えばLB培地や2×YT培地に接種し、37℃で12〜20時間培養した後、菌体を破砕して粗酵素液を抽出する。ベクターとしては、pLED-MIもしくはpBluescript由来のものが好ましい。菌体を破砕する方法としては公知のいかなる手法を用いても良いが、例えば超音波処理、フレンチプレスやガラスビーズ破砕のような物理的破砕法やリゾチームのような溶菌酵素を用いることができる。 この粗酵素液を80℃、30分間熱処理し、宿主由来のポリメラーゼを失活させ、DNAポリメラーゼ活性を測定する。次に3’−5 ’エキソヌクレアーゼ活性を測定し、両者の活性比率を野生型KOD DNAポリメラーゼと比較することにより3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の変化を測定することができる。 上記方法により選抜された菌株から精製DNAポリメラーゼを取得する方法は、いかなる手法を用いても良いが、例えば下記のような方法がある。栄養培地に培養して得られた菌体を回収した後、酵素的または物理的破砕法により破砕抽出して粗酵素液を得る。得られた粗酵素抽出液から熱処理、例えば80℃、30分間処理し、その後硫安沈殿によりKOD DNAポリメラーゼ画分を回収する。この粗酵素液をセファデックスG-25(アマシャムファルマシア・バイオテク製)を用いたゲル濾過等の方法により脱塩を行うことができる。この操作の後、Qセファロース、ヘパリンセファロースなどのカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品はSDS−PAGEによってほぼ単一バンドを示す程度に純化される。 また、得られた酵素を用いてPCR増幅を行うことにより、その増幅の有無もしくは強度からPCR効率の評価を行うことができ、またDNA複製の正確性も評価することができる。 また、本発明の核酸増幅方法は、本発明の改変された耐熱性DNAポリメラーゼを使用して、DNAを鋳型とし、プライマー、dNTPを反応させることによりプライマーを伸長して、DNAプライマー伸長物を合成する方法を挙げることができる。プライマーは2種のオリゴヌクレオチドであって、一方は他方のDNA生成物に相補的であるプライマーであることが好ましい。また、加熱および冷却を繰り返すのが好ましい。本発明のDNAポリメラーゼは、その活性を維持するために、例えばマグネシウムイオンのような2価のイオン、及び例えばアンモニウムイオン及び/又はカリウムイオンのような1価のイオンを共存させることが好ましい。また、PCR反応液には、緩衝液及びこれらのイオンを含むと共に、BSA、例えばTriton X-100のような非イオン性界面活性剤、及び緩衝液が存在してもよい。緩衝剤としては、主にトリスやヘペスなどのグッドバッファーおよび、リン酸緩衝液などが挙げられる。 本発明の核酸増幅用試薬は、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的である2種のプライマー、dNTP、及び上記のような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオン、及び緩衝液を含み、さらに具体的には、一方のプライマーが他方のプライマーDNA伸長生成物に相補的である2種のプライマー、dNTP及び上記耐熱性DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及び/又はカリウムイオン、BSA、上述のような非イオン界面活性剤及び緩衝液を含む。 本発明の核酸増幅用試薬の別な態様としては、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的である2種のプライマー、dNTP及び上述したような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオン、緩衝液、及び必要に応じて耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性及び/又は3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を抑制する活性を有する抗体を含む核酸増幅用試薬がある。該抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体などが挙げられる。 本発明の遺伝子変異導入用試薬は、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的である変異導入プライマー、dNTP、及び上述したような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼを含む。さらに上述したような2価イオン、1価イオン、緩衝液を含んでもよい。 また、本発明の耐熱性DNAポリメラーゼは、上述したような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性を化学的もしくは遺伝子工学的手法を用いて減衰もしくは失活させ、様々な3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するものであってもよい。 また、本発明の実施態様としては、上述したような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼを1種以上混合したことを特徴とするDNAポリメラーゼ組成物がある。具体的には、上述のような本発明における耐熱性DNAポリメラーゼと別なDNAポリメラーゼ、例えば3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の低いDNAポリメラーゼなどを混合せしめることによって、長鎖核酸を増幅する場合、例えばlongPCRの際に有用な組成物を得ることができる。実際、長鎖核酸を増幅する方法として、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を欠くTaqポリメラーゼと3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するPfuポリメラーゼまたはTiポリメラーゼまたはこれらの変異酵素を混合したDNAポリメラーゼ組成物を用いて、PCRを行う方法が報告されている(Barns, W.M.(1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 2216-2220)。 上述したように、本発明により、様々な性質耐熱性DNAポリメラーゼの効率的改変方法が明かとなった。この方法を用いることにより、従来の始原菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼを様々な用途、すなわち長い領域の増幅や、更に正確性の高い増幅など様々な用途に使用できるように、改変された耐熱性DNAポリメラーゼを創出することが可能となる。 以下に、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。参考例1 超好熱始原菌KOD1株由来のDNAポリメラーゼ遺伝子のクローニング 鹿児島県子宝島において単離した超好熱始原菌パイロコッカス・コダカラエンシスKOD1株を95℃にて培養後、菌体を回収した。得られた菌体から常法に従ってKOD1株の染色体DNAを調製した。パイロコッカス・フリオサス由来のDNAポリメラーゼ(Pfu DNAポリメラーゼ)の保存領域アミノ酸配列に基づいて、2種のプライマー(5'-GGATTAGTATAGTGCCAATGGSSGGCGA-3' 及び5'-GAGGGCAGAAGTTTATTCCGAGCTT-3')を合成した。この2種のプライマーを使用して調製したDNAを鋳型としてPCRを行った。 PCR増幅断片の塩基配列を決定し、アミノ酸配列を決定した後、この増幅DNAをプローブとして、KOD1株染色体DNA制限酵素処理産物に対してサザンハイブリダイゼーションを行い、DNAポリメラーゼをコードする断片のサイズを求めた(約4〜7Kbp)。更に、この大きさのDNA断片をアガロースゲルから回収し、プラスミドpBluescript(ストラタジーン製)に挿入し、これらの混合物よりエシェリヒア・コリ(Escherichia coli) JM109を形質転換してライブラリーを作製した。サザンハイブリダイゼーションに使用したプローブを用いて、コロニーハイブリダイゼーションを行い、上記ライブラリーからKOD1株由来のDNAポリメラーゼ遺伝子を含有すると考えられるクローン株(エシェリヒア・コリJM109/pBSKOD1)を取得した。 取得した上記クローン株よりプラスミド、pBSKOD1を回収し、定法に従い、塩基配列を決定した。さらに求められた塩基配列からアミノ酸配列を推定した。KOD1株由来のDNAポリメラーゼ遺伝子は5010塩基からなり、1670個のアミノ酸がコードされていた(配列番号1)。 完全なポリメラーゼ遺伝子を作製するために、2箇所の介在配列(1374〜2453bp及び2708〜4316bp)をPCR融合法により取り除いた。PCR融合法では、クローン株より回収したプラスミドを鋳型に3組のプライマーを組み合わせて各々PCRを行い、介在配列を除いた3断片を増幅した。この際、PCRに用いるプライマーは、他の断片と結合する側に結合相手と同様な配列がくるように設計した。また、両端には別々な制限酵素サイト(N末端側:EcoRV、C末端側:BamHI)が創出されるように設計した。次いで、PCR増幅断片中構造上中央に位置する断片とN末端側に位置する断片を混合し、PCRを各々の断片をプライマーとして行った。また、同様に構造上中央に位置する断片と、C末端側に位置する断片を混合し、PCRを各々の断片をプライマーとして行った。 このようにして得られた2種の断片を用いて再度PCRを行い、介在配列が取り除かれ、N末端側にEcoRV、C末端側にBamHIサイトを有するKOD1株由来のDNAポリメラーゼをコードする完全な形の遺伝子断片を取得した。更に、同遺伝子をT7プロモーターで誘導可能な発現ベクターpET-8cのNcoI/BamHIサイト、先に創出した制限酵素サイトを利用してサブクローニングを行い、組換え発現ベクター、pET-pol)を得た。なお、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)/pET-polは生命工学工業研究所へ寄託されている(FERM BP-5513)。実施例1 耐熱性DNAポリメラーゼを改変するために、プラスミドpET-polからKODポリメラーゼ遺伝子を切り出し、pBluescriptにサブクローニングを行った。すなわち、pET-polを制限酵素XbaIとBamHI(東洋紡績製)にて切断し、約2.3kbのKOD DNAポリメラーゼ遺伝子を切り出した。次にこのDNA断片をライゲーションキット(東洋紡績製 Ligation high)を用いて、XbaIとBamHIで切断したプラスミドpBluescript SK(-)と連結し、コンピテントセル(東洋紡績製 competent high JM109)を形質転換した。100μg/mlのアンピシリンを含んだLB寒天培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム、1.5%寒天;ギブコ製)で35℃で16時間培養し、得られたコロニーからプラスミドを調製した。更に、部分塩基配列を確認してKOD DNAポリメラーゼを含むプラスミドpKOD1を得た。実施例2 改変型遺伝子(H147E)の作製及び改変型耐熱性DNAポリメラーゼの精製 実施例1で得られたプラスミドpKOD1を用いてKOD DNAポリメラーゼの第147番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換した改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子をもつプラスミドを作製した(pKOD HE)。該プラスミドの作製はQuickChange site directed mutagenesis kit(ストラタジーン製)を用いた。方法は取扱い説明書に準じて行った。変異作製用プライマーとしては、配列番号4及び5に記載されるプライマーを使用した。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。選られたプラスミドによりエシェリヒア・コリJM109を形質転換し、エシェリヒア・コリJM109(pKOD HE)を得た。 得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mlのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)6Lを10Lジャーファーメンターに分注した。この培地に予め100μg/mlのアンピシリンを含有する50mlのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)で37℃、16時間培養したエシェリヒア・コリJM109(pKOD HE)(500ml坂口フラスコ使用)を接種し、35℃にて12時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、400mlの破砕緩衝液(10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、80mM KCl、5mM 2−メルカプトエタノール、1mM EDTA)に懸濁後、フレンチプレス処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を85℃にて30分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、変異型耐熱性DNAポリメラーゼ(HE)を得た。上記精製工程のDNAポリメラーゼ活性測定は以下の操作で行った。また、酵素活性が高い場合は保存緩衝液でサンプルを希釈して測定を行った。(試薬)A:40mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5) 16mM 塩化マグネシウム 15mM ジチオスレイトール 100μg/ml BSAB: 2μg/μl 活性化仔牛胸腺DNAC: 1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)D: 20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)E: 10mg/mlサケ精子DNA(方法) A液25μl、B液5μl、C液5μl及び滅菌水10μlをマイクロチューブに加えて攪拌混合後、上記精製酵素希釈液5μlを加えて75℃で10分間反応する。その後冷却し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、D液及びエタノールで十分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)を用いて計測し、鋳型DNAへのヌクレオチドの取り込みを測定した。酵素活性の1単位はこの条件下で30分当り10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分に取り込む酵素量とした。実施例3 変異型KOD DNAポリメラーゼ(H147E)の結晶の作製 結晶化の条件を以下に示す。方法: Hanging drop vapor diffusion法タンパク質溶液組成: 6.0mg/ml KOD DNAポリメラーゼ(H147E) 50mM Tris-HCl(pH8.0) 0.1mM EDTA 1.0mM DTT 0.001% Tween20 50% Glycerolリザーバー溶液組成: 3% Polyethylene glycol 1450 10mM NiCl Glycine-NaOH 17.5% GlycerolDrop: タンパク質溶液 2μl+リザーバー溶液2μl結晶化温度: 20℃この条件を用いて数日後には図3に示すような良好な結晶(0.2cm×0.08cm×0.08cm)をえることができ、次の実験に用いた。実施例4 変異型KOD DNAポリメラーゼ(H147E)の結晶のX線回折データ測定 X線照射による結晶の損傷を抑えるため、100Kの液体窒素蒸気下で回折強度データの測定を行った。この際、抗凍結剤としてタンパク質溶液とリザーバー溶液を等量混合した溶液にMPD(和光純薬製)を12%になるように加えた溶液を用いた。その結果、0.20×0.08×0.08mmの結晶を取得することができた(図3)。その結晶を用いてX線回折実験を行ったところ、約2.75Åの分解能までの回折点が観測でき、表2示すような空間群と格子定数を決定することができた。このようにして収集されたデータの処理は、プログラムDenzo,Scalepackを用いることにより行った。その結果、図4に示すような像をえることができ、野生型酵素同様に、N−terドメイン、Exoドメイン、Fingerドメイン、Palmドメイン、Thumbドメインの5つのドメインからなることが分かった。また、ExoドメインとThumbドメインを間の距離を比較するために、Exoドメインを対照として、H147E変異体と野生型酵素を重ね合わせた(図5)。その結果、H147E変異体のThumbドメインが相対的にExoドメイン側にシフトしていることが明らかになった。ただ、図5を見て分かるようにThumbドメインの先端部分で3箇所、構造がdisorderしている領域(点線部分)が存在した。N末端側から順にDisorder領域Iでは、T667からG677までの11残基、Disorder領域IIでは、R689からG696までの8残基、Disorder領域IIIでは、K705からD712までの8残基について構造が確認できなかった。これらについては、野生型酵素の構造解析においても同様の結果が得られている。野生型酵素の研究からThumbドメインは、温度要因が他のドメインに比べ非常に高く、フレキシブルであることが明かとなっており、このためにThumbドメインの先端部分の電子密度が薄くなり、構造が欠落したのではないかと考えられている。ThumbドメインのExoドメイン側へのシフトは、Thumbドメイン先端のへリックス領域(678−688)で、およそ1.5Åであった。このことより、Thumbドメインの先端配列であるDisorder領域IIも、Exoドメイン側Nシフトしていると考えられる。更に、図6にThumbドメインのdisorderしていない複数箇所から、147番目のアミノ酸までの距離、およびE−Cleftと推定される領域を示した。このように、147番目のアミノ酸配列を置換することで、E−Cleftの大きさが変化することが示された。これは、ExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列とThumbドメインの先端配列が、相互作用しやすい位置に存在し、実際に静電的もしくは疎水的相互作用をしていることを意味していると思われる。様々なDNAポリメラーゼのExoI領域(下線)及びそれに隣接するループ構造(太字)を示す図である。様々なDNAポリメラーゼのThumbドメイン先端部分の配列を示す図である。太字は塩基性アミノ酸を示す。KOD DNAポリメラーゼ変異体(H147E)の結晶を示す図である。KOD DNAポリメラーゼ変異体(H147E)のX線結晶解析から得られた立体構造像を示す図である。KOD DNAポリメラーゼ変異体(H147E)と野生型KOD DNAポリメラーゼの立体構造像をエキソヌクレアーゼドメインを中心として重ね合わせた像を示す図である。KOD DNAポリメラーゼ変異体(H147E)と野生型KOD DNAポリメラーゼの147番目のアミノ酸からThumbドメインの先端の距離を比較した図である。触媒活性を有する蛋白質の、その溝中に基質結合部位および/または活性中心を有している溝の周辺に位置する2つのドメインの近接部分の一方又は両方のドメインのアミノ酸配列に変異を導入することにより両ドメイン間の距離を大きく又は小さく又はズレを生じさせて、溝の大きさ又は形状を変化させて当該蛋白質の性質を変化させる方法。3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの「エキソヌクレーゼドメイン」と「Thumbドメイン」の近接部分のアミノ酸配列に変異を導入することにより当該DNAポリメラーゼの性質を変化させる方法。(ただし、「エキソヌクレーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列上のヒスチジン残基(KOD DNAポリメラーゼの場合147番目のヒスチジン残基)への変異の導入は除外する)。3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼの「エキソヌクレーゼドメイン」に存在するExoIモチーフのC末端側に存在するループ配列および/またはそれに近接する「Thumbドメイン」の先端部分のアミノ酸配列に変異を導入する工程を含む請求項2に記載の方法。ループ配列の先端部分が(Lys/Phe)-Tyr-His-Glu-Glyからなり、該先端部分に少なくとも1つのアミノ酸変異(アミノ酸の置換、付加、挿入、欠失)を導入することを特徴とする、請求項2に記載の方法。Thumbドメイン先端部分が(Val/Ile)-Ala-Lys-(Lys/Arg)-Leu-Ala-Ala-(Lys/Arg)-Gly-(Val/Ile)-(Lys/Arg)-Pro-Gly-(Thr/Met)からなり、該先端部分に少なくとも1つのアミノ酸変異(アミノ酸の置換、付加、挿入、欠失)を導入することを特徴とする、請求項2に記載の方法。ループ配列の先端部分がTyr-His-Glu-Glyからなり、該先端部分の4個のアミノ酸の中から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を酸性アミノ酸、または塩基性アミノ酸、または疎水性アミノ酸に置換することを特徴とする請求項2に記載の方法。Thumbドメイン先端部分のアミノ酸配列が(Val/Ile)-Ala-Lys-(Lys/Arg)-Leu-Ala-Ala-(Lys/Arg)-Gly-(Val/Ile)-(Lys/Arg)-Pro-Gly-(Thr/Met)からなり、該アミノ酸配列の一つまたは複数のアミノ酸を、酸性アミノ酸、または塩基性アミノ酸、または疎水性アミノ酸に置換することを特徴とする請求項2に記載の方法。請求項1〜7の方法によって触媒活性、特に3’−5’エキソヌクレアーゼ活性および/またはPCR効率が調節された改変された耐熱性DNAポリメラーゼ。 【課題】耐熱性DNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を調節する。【解決手段】触媒活性を有する蛋白質の、その溝中に基質結合部位および/または活性中心を有している溝の周辺に位置する2つのドメインの近接部分の一方又は両方のドメインのアミノ酸配列に変異を導入することにより両ドメイン間の距離を大きく又は小さく又はズレを生じさせて、溝の大きさ又は形状を変化させて当該蛋白質の性質を変化させる方法。【選択図】図1配列表


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