タイトル: | 公開特許公報(A)_ATPを生産する酵素を担持した異方性ビオチン化ラテックス微粒子 |
出願番号: | 2003292888 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N11/08,C12N11/06 |
小高 正人 杜 永忠 中村 和彦 友廣 岳則 JP 2005058101 公開特許公報(A) 20050310 2003292888 20030813 ATPを生産する酵素を担持した異方性ビオチン化ラテックス微粒子 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 小高 正人 杜 永忠 中村 和彦 友廣 岳則 7C12N11/08C12N11/06 JPC12N11/08 CC12N11/06 6 OL 9 4B033 4B033NA25 4B033NB04 4B033NB36 4B033NB62 4B033NC03 4B033NC12 4B033ND05 本発明は、複数の生体・化学物質(例えば酵素など)を異方性ラテックス微粒子の各々の官能基を介して異方的に固定化することにより、多段階酵素反応や微小空間における物質輸送を行うナノバイオマシンの要素デバイスを創製する。 近年、単一の官能基を有するラテックス微粒子は、ラテックス診断薬、アフィニティー生体物質分離、ドラッグデリバリーシステム、酵素の担体などのバイオ分野へ幅広く応用されている。これまでに、例えばタンパク質、DNA、医薬分子などがラテックス微粒子に固定化されてきた。このように、官能性ラテックス微粒子はナノバイオテクノロジーの重要な基盤的要素技術のひとつとして注目されている。 一方、固定化酵素はバイオ材料、食品工業と分析化学などに広く利用されてきた。様々な酵素は物理的吸着、共有結合及びカプセル化によって、異なった形(例えば、膜、ビーズなど)を持つ担体に固定化できる。このような不溶材質に固定化した酵素は、フリーな(固定化されていない)酵素と比べると、分離が容易、連続操作が可能、操作が簡単、ある種の酵素では安定性が向上するなどの利点がある。 ラテックス微粒子は粒子径が小さいゆえに、平面担体と比べると比表面積が大きく、より大量の酵素が固定化でき、酵素担体としての応用が期待されている。 一方、ソープフリー乳化重合により、ラテックスを得ることは知られている(非特許文献1)。 本発明で用いる二つの官能性を有する異方性複合高分子微粒子は、ソープフリー乳化重合によって合成され、約200 nmのサイズを持ち、種々の組み合わせの官能基を持つ微粒子の製造することができる。本発明者は、グリシジルメタクリレートモノマーとジビニルベンゼンモノマーを重合開始剤の存在下でソープフリー乳化重合を行い、シードポリマー粒子を合成し、次いで、スチレン、2-メルカプトエタノール及び溶媒を加えて、水中でソープフリーシード乳化重合を行い、官能基としてエポキシ環と水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子(異方性ラテックス微粒子)に関する発明を完成させて出願している(特許文献1)。特願2003−135519号公報Effects of ethyl acetate on the soap-free emulsion polymerization of4-vinylpyridine and styrene. I. Aspects of the mechanismNi HM, Ma GH, Nagai M, Omi SJOURNAL OF APPLIED POLYMER SCIENCEvol.82 (11), pp.2679-2691 (2001) 生体系の多くの反応や輸送は酵素反応によって進むが、その中にはアデノシン三リン酸(ATP)という高エネルギー物質を必要とするものがある。生体系に存在する分子モーターとよばれる生体ナノマシンも、運動するためにはATPのエネルギーを必要とする。しかしながら、分子モーターはそれ自身ではATPを作ることができず、外から供給しなければならない。そこで、本発明で解決しようとする課題は、分子モーターに結合することができ、かつATPを生産することができる新規微粒子を開発することである。すなわち、微粒子の片側は分子モーターへの結合部位Aを持ち、他の片側はATPを作る酵素への結合部位Bを持つ必要があり、これら2つの結合部位A、Bはそれぞれ独立に反応する性質をもっていなければならない。 本発明において、上記の課題を解決すべく、鋭意研究した結果、エポキシ環と水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性ラテックス微粒子を用いて、水酸基側を活性エステル型ビオチン誘導体と反応させ、微粒子の片側のみをビオチン化した異方性ビチオン化ラテックス微粒子とすることにより、上記課題を解決することに成功した。 さらに、本発明においては、異方性ラテックス微粒子のエポキシ基側に、アミノ基、水酸基、チオール基から選ばれる官能基を有する化合物を反応させて、2つの結合部位A、Bにそれぞれ独立に反応する性質をもつ異方性ビチオン化ラテックス微粒子を得ることに成功した。 本発明においては、異方性ビチオン化ラテックス微粒子の典型的な製造方法は、エポキシ環と水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性ラテックス微粒子が、グリシジルメタクリレートモノマーとジビニルベンゼンモノマーを重合開始剤の存在下でソープフリー乳化重合を行ってシードポリマー粒子を合成し、次いで、スチレン、2-メルカプトエタノール及び溶媒を加えて、水中でソープフリーシード乳化重合を行う方法であり、この製造方法により得られた異方性ビチオン化ラテックス微粒子を用いて、2つの結合部位A、Bにそれぞれ独立に反応する性質をもつ異方性ビチオン化ラテックス微粒子を製造することができる。 また、本発明においては、異方性ビチオン化ラテックス微粒子の粒子径は、150〜200nmであることが好ましい。 さらに、本発明は、異方性ビチオン化ラテックス微粒子のエポキシ基に、酵素を固定した異方性ビチオン化ラテックス微粒子とすることができる。 このとき、酵素が、ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)であることが好ましい。 本発明で開発した「ATPを生産する酵素を担持した異方性ビオチン化ラテックス微粒子」の出発原料である異方性ラテックス微粒子は二段階ソープフリー乳化重合によって合成される。ソープフリー乳化重合とは、モノマーと水の混合物にラジカル重合開始剤を導入し、ラテックス微粒子を作る方法であり、通常の乳化重合とは違いは界面活性剤を使用しないので、粒子表面の電荷が、通常の乳化重合によって合成された微粒子の表面電荷よりも低く、また適度なサイズを持つので簡単に遠心分離できる。ラテックス微粒子の特徴は、得られた微粒子の単分散性(サイズの均一性)が高いことである。 また、カチオン性の重合開始剤2,2’-azobis(2-amidinopropane)2HCl (V-50)を使用し、微粒子に正電荷を持たせた微粒子を用いて酵素を固定化すれば、酵素の固定化速度や固定化量が増加することができる。 さらに、アデノシン二リン酸(ADP)をATPに転換する酵素、ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)をエポキシ基を介して直接微粒子に固定化したものは、図3に示す良好なピルビン酸の時間−生成曲線特性を有する。 本発明の異方性ビチオン化ラテックス微粒子は、表面の片側にエポキシ基ドメイン、他の片側に水酸基ドメインを有する異方性ラテックス微粒子(直径:約200 nm程度)を用いて、まず、水酸基側を活性エステル型ビオチン誘導体と反応させ、微粒子の片側のみをビオチン化する。ビオチンは緩やかの反応条件下でアビジンと特異的に結合するので、ビオチン化した微粒子はアビジン化したものに簡単に固定化できる。一方、ラテックス微粒子のエポキシ基側は、アミノ基、水酸基、チオール基などを有する種々の物質を簡単に直接固定化、あるいは、エポキシ基にリンカーを導入してから様々な生体・化学物質を固定化することができる。 さらに、本発明では、異方性ラテックス微粒子は二段階ソープフリー乳化重合によって合成される。ソープフリー乳化重合とは、モノマーと水の混合物にラジカル重合開始剤を導入し、ラテックス微粒子を作る方法であり、通常の乳化重合とは違いは界面活性剤を使用しない。したがって、粒子表面の電荷が、通常の乳化重合によって合成された微粒子の表面電荷よりも低く、また適度なサイズを持つので簡単に遠心分離できる。ラテックス微粒子の特徴は、得られた微粒子の単分散性(サイズの均一性)が高いことである。 この異方性ラテックス微粒子は、「ATPを生産する酵素を担持した異方性ビオチン化ラテックス微粒子」の出発原料となる。 また、固定化酵素に影響を与える重要な因子の一つは、担体表面の静電的性質である。多くの酵素やタンパク質の等電点はpH7以下であり、中性或いはその以上のpHではそれらは負の電荷を有する。本発明では、異方性ラテックス微粒子を調製する際に、カチオン性の重合開始剤2,2’-azobis(2-amidinopropane)2HCl (V-50)を使用し、微粒子に正電荷を持たせた。このような正電荷を持った微粒子を用いて酵素を固定化すれば、酵素の固定化速度や固定化量が増加すると考えられる。1.異方性ラテックス微粒子の調製: 異方性ラテックス微粒子poly(glycidylmethacrylate-co-divinylbenzene)/polystyrene (P(GMA-DVB)/PSt)は二段階ソープフリー乳化重合により合成した。まず、P(GMA-DVB)シード粒子をソープフリー乳化重合により調製するが、その方法及び重合条件は以下の通りである。最初に、純水 (290 g)中、メタクリル酸グリシジル(GMA) (7.37 g)、ジビニルベンゼン(DVB) (0.63g)、2,2’-azobis(2-amidinopropane)2HCl (V-50) (0.27 g)を反応させ、重合開始2時間後にGMA(1.0 g) さらに添加し、その後重合反応を22時間続けた。この操作によりシード微粒子表面をGMAで被覆した。攪拌速度は200rpm、反応温度は70℃であった。得られたシード微粒子はセルロース膜を用いて、24時間水道水、24時間純水で透析を行い、未反応のモノマー、開始剤、オリゴマーを除去した。 次にP(GMA-DVB)シード粒子を用い、ソープフリーシード乳化重合により多官能性高分子微粒子(P(GMA-DVB)/PSt)を調製した。その方法と重合条件は以下の通りである。 純水 (143 g)中、P(GMA-DVB) シードラテックス (66.7 g、ポリマー微粒子の含量は2 g)、スチレン(St)(1 g)、2-メルカプタノール (0.02 g)、V-50 (0.02 g)、トルエン (4 g)を反応させた。重合反応は200rpm、70℃で24時間行った。二段階の重合反応のモノマー変化率はすべて100%、得られた高分子ラテックスの固形分は1.5%、数平均直径は約200nmであった。高分子微粒子を四酸化ルテニウムによって染色して測定したTEM写真を図1に示す。TEMの結果より、両側にそれぞれ水酸基ドメインとエポキシ基ドメインを有する高分子微粒子が得られたことが示唆された。ここで、ポリスチレン鎖の末端はメルカプトエタノールにより修飾され、水酸基を持っている。2.異方性ラテックス微粒子の水酸基(ポリスチレン)側のビオチン化: 水酸基の反応性が低いため、ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下、活性エステル型ビオチン、5-(n-succinimidyloxycarbonyl)pentyl d-biotinamide (Biotin-X-NHS、構造を示す)を用いた。10 g のラテックスを脱水アセトニトリルで三回洗浄した後、20 gのアセトニトリルに分散した。その後、Biotin-X-NHS (2 mg)と DMAP (0.05 g)を含むアセトニトリル溶液 (10 g)を混合した。反応は 65 ℃、アルゴンガス下で24時間行った。 その反応を次式に示す。 微粒子のビオチン結合を確認するために、ビオチン化した微粒子をアビジン化した金微粒子(Streptavidin 金微粒子:直径10 nm)と結合させ、図2に示すようにTEM観察(四酸化ルテニウムで染色せず)によって金微粒子を確認した。 その結果、明らかに金微粒子が高分子微粒子の一端(ポリスチレン側)に局在していて、ビオチンの分布が偏っていることが判明した。3.異方性ビチオン化ラテックス微粒子のエポキシ基への酵素固定化: アデノシン二リン酸(ADP)をATPに転換する酵素、ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)を微粒子へ固定化した。ピルビン酸キナーゼは微粒子表面上のエポキシ基を介して直接微粒子に固定化した。1 g のラテックスをpH 7.4のリン酸緩衝液で二回洗浄後、2 ml のpH 7.4のリン酸緩衝液に分散した。その後、約790μgのピルビン酸キナーゼを添加した。酵素固定化反応は、室温(約25℃)で回転しながら16時間を行った。固定化後、微粒子を遠心分離し、1 M の塩化カリウム(KCl)溶液を用いて、物理的に吸着している酵素の洗浄を四回行った。遠心分離後の上澄みと洗浄後分離した塩化カリウム溶液を収集し、その溶液中のタンパク質を280nmにおけるUV吸収及びBCAタンパク質定量法による562nmの吸収により計測し、微粒子への酵素固定化量を算出した。酵素の固定化量は酵素添加量の増加に連れて増加することが分かった。例えば、790 μgのピルビン酸キナーゼを添加したとき、微粒子へ固定化量は1gのラテックス微粒子あたり約75mgであったこの反応式を下記に示す。4.異方性ビチオン化ラテックス微粒子に固定した酵素の活性測定: 固定化酵素の活性は下に示した二段階酵素反応により計測した。 この方法により、ピルビン酸の生成速度はNADHの減少速度により求められる。NADHの消失量は340nmでのUV吸収の減少より測定した。 ホスホエノールピルビン酸(PEP)(26.5 mg)、ADP (50.3 mg) と 還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH) (70.9 mg)を37 mM KCl と 10 mM MgSO4 を含むpH7.4のリン酸緩衝液1Lに添加し、よく混合後、混合液の340nmでのUV吸収を測定した。その後、110 μgの固定化ピルビン酸キナーゼ(1gのラテックス微粒子に約75mgのピルビン酸キナーゼを固定した微粒子)或いはフリーのピルビン酸キナーゼ (110 μg)と100 μg の乳酸脱水素酵素を添加し、二段階酵素反応を開始させた。反応は25 ℃の恒温水槽で攪拌しながら行った。ピルビン酸の時間−生成曲線を図3に示す。用いたピルビン酸キナーゼの活性は200 units/mg、乳酸脱水素酵素の活性は1000 units/mgであるので、一段目の酵素反応で生成したピルビン酸は速やかに乳酸へ転換させることができる。そのために、NADHの減少量はピルビン酸の生成量に一致すると考えられる。酵素反応の最大速度Vmax と Michaelis定数KMは、それぞれ3.19 μM/min 、256 μMであった。また、固定化酵素を4 ℃で48日保存しても、その活性がほぼ100%保たれることを見いだした。5.微粒子上のビオチン及び酵素の分布状態の観察 1gのラテックス微粒子に約75mgのピルビン酸キナーゼを固定した微粒子を用いて、微粒子上のビオチンとアビジン化金微粒子(直径10 nm)の結合をTEMで観察することにより、図4に示すようなビオチンの分布を確認した。 なお、微粒子は四酸化ルテニウムで染色せず、そのままTEM観察を行った。金微粒子はラテックス微粒子の片側だけに観察され、ビオチンの異方的な分布を確認することができた。 本微粒子のエポキシ基はほとんどの酵素と結合可能であり、またビオチンはアビジンを介して種々の物質と結合可能であるため、本微粒子は一種の「固定化酵素カセット」あるいは「固定化酵素デバイス」と考えられ、広い分野での応用が期待できる。異方性ラテックス微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真異方性ビオチン化ラテックス微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真ピルビン酸の時間−生成曲線ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)を固定化した異方性ビオチン化ラテックス微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真エポキシ環と水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性ラテックス微粒子を用いて、水酸基側を活性エステル型ビオチン誘導体と反応させ、微粒子の片側のみをビオチン化した異方性ビチオン化ラテックス微粒子。さらに、異方性ラテックス微粒子のエポキシ基側に、アミノ基、水酸基、チオール基から選ばれる官能基を有する化合物を反応させた請求項1に記載した異方性ビチオン化ラテックス微粒子。エポキシ環と水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性ラテックス微粒子が、グリシジルメタクリレートモノマーとジビニルベンゼンモノマーを重合開始剤の存在下でソープフリー乳化重合を行ってシードポリマー粒子を合成し、次いで、スチレン、2-メルカプトエタノール及び溶媒を加えて、水中でソープフリーシード乳化重合を行う方法により得られたものである請求項1又は請求項2に記載した異方性ビチオン化ラテックス微粒子。粒子径が150〜200nmである請求項1〜請求項3のいずれかひとつに記載された異方性ビチオン化ラテックス微粒子。請求項1、請求項3及び請求項4のいずれかひとつに記載した異方性ビチオン化ラテックス微粒子のエポキシ基に、酵素を固定した異方性ビチオン化ラテックス微粒子。酵素が、ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)である請求項5に記載した異方性ビチオン化ラテックス微粒子。 【課題】 分子モーターに結合することができ、かつATPを生産することができる微粒子の片側は分子モーターへの結合部位を持ち、他の片側はATPを作る酵素への結合部位を持つ必要があり、これら2つの結合部位はそれぞれ独立に反応する性質をもつ異方性ビチオン化ラテックス微粒子及び異方性ビチオン化ラテックス微粒子のエポキシ基に、酵素を固定した異方性ビチオン化ラテックス微粒子を提供する。【解決手段】 エポキシ環と水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性ラテックス微粒子を用いて、水酸基側を活性エステル型ビオチン誘導体と反応させ、微粒子の片側のみをビオチン化した異方性ビオチン化ラテックス微粒子及び異方性ビチオン化ラテックス微粒子のエポキシ基に、酵素を固定した異方性ビチオン化ラテックス微粒子。