生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_抗血栓性に優れたL−リジン残基を有する両性高分子物質、該高分子物質からなる抗血栓剤、及び該抗血栓剤を固定した医療用器具
出願番号:2003281499
年次:2011
IPC分類:A61K 31/78,C08F 20/60,C08F 8/00


特許情報キャッシュ

白石 浩平 光田 益士 杉山 一男 JP 4694114 特許公報(B2) 20110304 2003281499 20030729 抗血栓性に優れたL−リジン残基を有する両性高分子物質、該高分子物質からなる抗血栓剤、及び該抗血栓剤を固定した医療用器具 学校法人近畿大学 000125347 株式会社ジェイ・エム・エス 000153030 川島 利和 100100664 白石 浩平 光田 益士 杉山 一男 20110608 A61K 31/78 20060101AFI20110519BHJP C08F 20/60 20060101ALI20110519BHJP C08F 8/00 20060101ALI20110519BHJP JPA61K31/78C08F20/60C08F8/00 C08F 20/00−20/70 CA/REGISTRY(STN) 特開2002−138113(JP,A) 特開2000−281726(JP,A) 国際公開第00/032560(WO,A1) 特開2002−003456(JP,A) 特開2002−348205(JP,A) 特開平09−310228(JP,A) 特開平11−130822(JP,A) 5 2005048061 20050224 17 20060726 松元 洋 本発明は、抗血栓性に優れたL−リジン残基を有する両性高分子物質、該高分子物質からなる抗血栓剤、及び該抗血栓剤を固定した医療用器具に関する。 近年、合成高分子材料は人工臓器、カテーテルをはじめとする医療用材料に広く用いられている。その代表的なものは、医療用高分子材料としてはポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン等の疎水性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリエーテルウレタン、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ポリアクリルアミド、セルロース等の親水性材料である。これら従来の材料の大部分は、主にその物理的、機械的特性に着目され、使用されている。 一方、医療技術の進歩に伴って、生体組織や血液と材料が接触する機会は増加しており、材料の生体親和性が大きな関心時となってきている。材料表面での血液凝固の防止に関しては、従来ヘパリンに代表される抗血液凝固剤の連続投与が行なわれてきたが、最近では、脂質代謝異常、出血時間の延長、血小板の減少、アレルギー反応といった長期にわたるヘパリン投与の影響が問題になってきている。これらの問題を解消するため、ヘパリンを必要としないあるいは使用量を低減させることのできる、抗血栓性を備えた血液接触材料の開発が望まれている。 これら血液接触材料の開発を目的として、従来から医療用器具の血液と接触する表面に高分子を基材とした、抗血栓性を有する表面修飾を施す方式が実施されている。それらの修飾は主として、表面に物理的・化学的特徴を有する高分子材料をコーティングし、血液の凝固を最小限に抑制する方法と表面に抗血栓性物質を含浸付着させた高分子材料をコーティングし、そこから抗血栓性物質を徐放させる方法に大別される。前者に関する方法として、例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3が挙げられる。 特許文献1では、合成高分子中に血液適合性に優れるホスホリルコリン基、ならびに親水性と架橋性に優れるラクタム基を有する単量体単位やN−アルキル(メタ)アクリルアミド単位を含む合成高分子が物理的・化学的処理で容易に不溶化され、血液適合性に優れた材料となることに着目したものである。血小板の粘着、凝集、血漿タンパク質の付着を抑制する効果のある2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)共重合体が長時間にわたって表面に保持されて血液の付着を最小限に抑制する効果が示されている。 特許文献2では、炭素数2〜10のオレフィンモノマー及び炭素数4〜15のジエンモノマーからなる群の中から選ばれる少なくとも一種のモノマーから誘導された繰り返し単位を有する少なくとも一種のポリマー100重量部と、造核剤0.003〜1.0重量部とからなる組成物を含有する材料がその表面に結晶領域と非結晶領域とからなるミクロ相分離構造を有し、もしくは吸着してもその脱着が容易という特徴に着目したものである。特許文献1同様、血液の付着を最小限に抑制する効果が示されている。 特許文献3は、リン酸カルシウムとチタンを主成分とする生体適合性多孔質結晶化ガラスにウロキナーゼや組織プラスミノーゲン活性化因子(以下、t−PAと省略する)などの線溶酵素を固定化することで、生体適合性に優れ、かつ血液中のプラスミノーゲンを連続的にプラスミンに変換しうる機能が付与された血栓溶解能を有する生体適合性材料に関する発明である。 後者に関する方法としては、例えば特許文献4が挙げられる。これは、(2R,4R)−4−メチル−1−[N2−((RS)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルホニル)−L−アルギニル]−2−ピペリジンカルボン酸水和物(以下、アルガトロバン<抗血栓剤として臨床的に用いられている。ヘパリンやウロキナーゼなどの抗血栓性物質とは異なり、アルコール等の有機溶剤に溶解する>と記す)を2種以上の混合溶液で溶解して高分子基材に塗布する事により、表面からアルガトロバンが徐々に放出されることに着目したものである。 以上に述べた血液接触材料は血栓溶解性能を含む、安定した抗血栓性を発揮できる安価な材料という観点からは十分ではない。また、ウロキナーゼは人尿、t−PAはヒトの子宮や血管壁などにごくわずかしかないことから、利用に関して高価で量産することも難しい。特開平7−284528号特開平10−99426号特開平7−101828号特開2000−060960号 本発明は、血栓溶解性能を含む、安定した抗血栓性を発揮するリジン残基を有する両性高分子物質、該リジン残基を有する両性高分子物質からなる抗血栓性剤、及該抗血栓性剤をその表面に固定した医療用器具を提供する事を目的としている。一般に、血液と接触した材料表面には、アルブミン、フィブリノーゲンといった血漿タンパク質が吸着し、これらタンパク質は、吸着により二次構造が変化する。この二次構造の変化により、さらなるタンパク質の吸着が促され、その結果、材料表面には多重のタンパク質吸着層が形成される。このような多重タンパク質吸着層が形成されると、これと接触する血小板が活性化され、最終的には血液を凝固させる。 血液の凝固は血液凝固系反応の活性化によって不溶性のフィブリンが形成される。凝固系には血液が接触して開始される内因系と、組織因子が血液内に流入して凝固因子と結合して開始される外因系があるが、いずれも最終的には、血液中のプロトロンビンから活性化された酵素トロンビンによって形成される。また、形成された血栓は血栓線溶系(血栓溶解)によって分解されるが、その基本原理は酵素プラスミンによるフィブリンの分解である。プラスミンは血中では前駆体プラスミノーゲンとして存在し、組織プラスミノーゲンアクチベータ(t−PA)やウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベータといったプラスミノーゲン活性化因子によって活性化され、プラスミンとなり、フィブリンを分解する。 本発明者らは、合成高分子による抗血栓性材料に関わる一連の研究の結果、生体に無毒で安価なアミノ酸基を有する両性電解質の合成高分子、すなわち下記化1あるいは化2で示されるL−リジン残基を有する両性高分子物質は血漿タンパク質の吸着を抑制する機能及び血液凝固を抑制する機能を有し、さらには化2で示されるL−リジン残基を有する両性高分子物質は前記各機能に加えて血栓溶解性能を併せ有することを見出し、本発明に到達することができた。なお、本発明において抗血栓性とは、上述のような機能を奏することができるものを指す。(前式中、×はH、CH3基あるいはCH2CH3基を意味する。)(前式中、×はH、CH3基あるいはCH2CH3基を意味する。) 本発明のL−リジン残基を有する両性高分子物質は、例えば以下の製造方法によって製造することができる。 アミノ酸L−リジンのεアミノ基ならびにカルボキシル基を保護した原料をクロロホルム溶媒中でトリエチルアミン(TEA)を触媒として、メタクリル酸クロリドと反応させ、反応液を濃縮、洗浄、乾燥させ、濾過、濃縮後、石油エーテル:ジクロロメタンの混合溶媒を用いて精製して前駆体モノマーを調製した。この前駆体モノマーを2、2’アゾビスイソ酪酸ジメチルエステルと共にテトラヒドロフラン(THF)に溶かし、凍結−脱気−窒素置換を行い、減圧下でフリーラジカル重合した後、熱ヘキサンで洗浄し、トリフルオロ酢酸水溶液と反応させ、反応液を濃縮した後にジエチルエーテルで洗浄して溶液を得、該溶液を中和した後に半透膜を用いて透析し、凍結乾燥させて下記化3で示されるL−リジン残基を有する両性高分子物質[以下、P(α−LysMA)とも言う]を製造することができた。 アミノ酸L−リジンのαアミノ基ならびにカルボキシル基を保護した原料をN、N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒中でトリエチルアミン(TEA)を触媒として、メタクリル酸クロリドと反応させ、反応液を濾過して減圧濃縮した後、ヘキサンで洗浄して前駆体モノマー(固形物)を調製した。この前駆体モノマーを2、2′アゾビスイソ酪酸ジメチルエステルと共にエチルアルコールに溶かし、凍結−脱気−窒素置換を行い減圧下でフリーラジカル重合した後、熱ヘキサンで洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液と反応させ、反応液を中和した後に半透膜を用いて透析し、凍結乾燥させて下記化4で示されるL−リジン残基を有する両性高分子物質〔以下、P(ε−LysMA)とも言う〕を製造することができた。 従来、ヘパリン等の抗凝固剤やウロキナーゼ等の血栓溶解剤は知られている。しかしながら、これらは副作用が有ったり、その合成、精製あるいは単離が困難で有ったり、さらには医療用器具を構成する基材の表面に耐久性良く固定することが困難である等の問題が有った。これに対して本発明の前記化1あるいは化2で示されるL−リジン残基を有する両性高分子物質からなる抗血栓性剤は、血漿タンパク質吸着抑制、血液凝固阻害、及び血栓溶解性を併せ有する人体に副作用の無い剤で、血液に接触する医療用器具に広く応用が可能である。また前記化1あるいは化2で示される高分子自体も簡単な合成法で合成でき、得られた高分子の分離及び精製も簡単なので安価に入手可能である。さらには該高分子からなる抗血栓性剤は例えば下記実施例2で示すように前駆体モノマーを医療用器具を構成する基材上で重合させることにより、簡単にかつ優れた耐久性で基材の表面に固定することができる。したがって、本発明の抗血栓性剤並びに高分子材料を基材とする医療器具の生体と接触する表面に本発明の抗血栓性剤を固定した医療器具は経済性・安全性のみならず市場性にも優れている。 以下、実施例をP(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 アミノ酸L−リジンのεアミノ基をtBu基ならびにカルボキシル基をBoc基で保護した原料をクロロホルム中溶媒中でトリエチルアミン(TEA)を触媒とし、メタクリル酸クロライドと反応させ、反応液を濃縮した後、1%塩酸および水で数回洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、反応液をろ過した後、濃縮して得た固体を石油エーテル:ジクロロメタン(50:50vol%)の混合溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーで精製し、白色の個体を得る。得られた白色個体と2、2'アゾビス酪酸ジメチルエステルをガラス製重合管の中でテトラヒドロフラン(THF)に溶かし、液体窒素中で凍結−脱気−窒素置換を数回行い、減圧下で密封し、60℃、20時間フリーラジカル重合した後、多量の熱ヘキサンで洗浄し、白色固体を得る。得られた白色固体をトリフルオロ酢酸水溶液で、50℃、12時間反応させた後、反応液を濃縮し、ジエチルエーテルで洗浄する。溶液を水酸化ナトリウム水溶液あるいは塩酸で中和した後、アセチルセルロース製半透膜を用いて透析し、凍結乾燥させて両性電解質のP(α−LysMA)を製造することができた。この製造方法を図1に示す。 アミノ酸L−リジンのαアミノ基をAc基ならびにカルボキシル基をMe基で保護した原料をN、N−ジメチルホルムアミド溶媒中でトリエチルアミン(TEA)を触媒とし、メタクリル酸クロライドと反応させ、反応液をろ過して減圧濃縮した後、ヘキサンで洗浄を繰り返し、白色の固体を得る。得られた白色固体と2、2'−アゾビス酪酸ジメチルエステルをガラス製重合管の中でエチルアルコールに溶かし、液体窒素中で凍結−脱気−窒素置換を数回行い、減圧下で密封し、60℃、20時間フリーラジカル重合した後、多量の熱ヘキサンで洗浄し、白色固体を得る。得られた白色固体を2N水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、室温で12時間反応させた後、反応液を塩酸または水酸化ナトリウム水溶液で中和し、アセチルセルロース製半透膜を用いて透析し、凍結乾燥させて両性電解質のP(ε−LysMA)を製造することができた。この製造方法を図1に示す。 前記P(α−LysMA)の製造行程で得られた前駆体モノマーの構造をNMRならびに元素分析から確認した。1H−NMR(CDCl3):1.4[s、9H、−C(CH3)3]、1.45[s、9H、−C(CH3)3]、1.5[s、2H、−CH2−]、1.7[d、2H、−CH2−]、1.9[d、2H、−CH2−]、2.0[s、3H、−CH3]、3.1[d、2H、−CH2−]、4.5[s、1H、−CH<]、5.3[s、1H、−NH−]、5.4、5.8[s、2H、=CH2]、元素分析:C19N2H34として、計算値C:N:H=61.61%:7.60%:9.19%、実測値C:N:H=62.28%:7.46%:9.43%前記確認データから、前記前駆体モノマーは下記化5で示される構造を有することが確認された。 前記P(ε−LysMA)の製造行程で得られた前駆体モノマーの構造をNMRならびに元素分析から確認した。1H−NMR(CDCl3):1.4[s、2H、―CH2−]、1.6[s、2H、−CH2−]、1.8[d、2H、−CH2−]、1.9[s、3H、−CH3]、2.0[s、3H、−CH3]、3.3[d、2H、−CH2−]、3.75[s、3H、−CH3]、4.5[s、1H、−CH<]、5.4、5.8[s、2H、=CH2]、6.1[s、1H、−NH−]、6.5[s、1H、−CONH−]、元素分析:C19N2H34として、計算値C:N:H=57.79%:8.14%:10.37%、実測値C:N:H=57.10%:8.32%:10.63%前記確認データから、前記前駆体モノマーは下記化6で示される構造を有することが確認された。 P(α−LysMA)ならびにP(ε−LysMA)がポリマー材料となったことは、1H−NMRより二重結合のピークが消失したことから確認した。また、P(α−LysMA)ならびにP(ε−LysMA)の保護基が除去されたことは、1H−NMRならびに13C−NMRより確認した。P(α−LysMA)ならびにP(ε−LysMA)が両性電解質構造になっていることを酸塩基適定法による等電点測定から確認した(図2)。図2において、●はP(α−LysMA)の測定結果、また■はP(ε−LysMA)の測定結果を示す。 アルゴンプラズマ−後ポスト重合法で医療用材料である合成樹脂の基材表面への化1あるいは2で示されるリジン残基を有する両性高分子物質の固定化を実施した。プラズマ照射装置のセパラブルフラスコの底に任意の大きさに調整した基材を置き、アルゴンの流量を調節して圧力を1.3パスカルとする。高周波の負荷には容量負荷型を用い、セパラブルフラスコに巻きつけた銅板2ヶ所に高周波電源(日本電子製JRF−300型)(周波数は13.56MHz)を前記化5あるいは6で示されるリジン残基を有する両性高分子物質の前駆体モノマーを含むテトラヒドロフラン10mlと基材を入れる。重合管は液体窒素浴で凍結−脱気を繰り返し溶存酸素を取り除いた後、減圧下で密封し、60℃で振り混ぜながら所定時間ポスト重合する。ポスト重合後の基材を多量のテトラヒドロフランに24時間侵漬し、テトラヒドロフランで洗浄した後24時間真空乾燥させて化1あるいは2で示されるリジン残基を有する両性高分子物質をグラフト化した基材を得る。 本発明の抗血栓性剤を固定化する医療用機器の基材は公知の医療用材料である合成樹脂等の高分子材料であれば問題ない。表面に官能基を有していない材料であっても、表面処理によって本発明の高分子を固定化することができる。このような医療用材料としては、例えば、ポリウレタンやポリ塩化ビニル製でできたカテーテルや血液パック等、ポリテトラフルオロエチレン製でできた人工臓器等、ポリプロピレン等のポリオレフィンでできた注射器等、ナイロン等のポリアミド類で製造された人工血管等が挙げられる。 上記の抗血栓剤の性医療用機器の基材への固定は公知の方法によって行なうことができるが、特にプラズマ処理を用いた固定は、医療用機器を短時間で大量に処理することができ、さらにガス中で処理を行なうために清潔を保つことができ好ましい。 一般に、血液と接触した材料表面にはアルブミン、フィブリノーゲンといった血漿タンパク質が吸着・変性し、血小板が活性化されることで、血液は凝固する。そこで、血漿タンパク質を用いた蛍光測定を行い前記リジン残基を有する両性高分子物質の存在下における血漿タンパク質の吸着を定量的に測定した。測定に使用する血漿タンパク質として血液中のアルブミン、γーグロブリン、フィブリノーゲン、プラスミン、プラスミノーゲンを用いた。また、比較物質として生体適合性が知られるポリエチレングリコール(以下、PEG)を用いた場合及び前記血漿タンパク質もPEGも用いない場合についても同様に試験を行なった。この試験は前記血漿タンパク質と前記リジン残基を有する両性高分子物質を同濃度として行なった。その結果を図3〜7に示す。蛍光強度の減少は、材料とタンパク質との吸着または変性を示す。 図3は血漿タンパク質アルブミンの蛍光測定、図4は血漿タンパク質γ−グロブリンの蛍光測定、図5は血漿タンパク質フィブリノーゲンの蛍光測定、図6は血漿タンパク質プラスミンの蛍光測定及び図7は血漿タンパク質プラスミノーゲンの蛍光測定の結果である。各図は時間経過と350nm付近の最大蛍光強度をプロットしたものであり、蛍光強度の減少は材料とタンパク質との吸着または変性を示す。各図においてP(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)を使用した場合には蛍光強度の減少は蛍光波長がシフトしていなかったことから、タンパク質の変性認められなかった。またアルブミン、γーグロブリン、フィブリノーゲン、プラスミンをやや吸着させたが、その吸着量はPEGとそれほど変わらなかった。またP(α−LysMA)はプラスミノーゲンとのみ、相互作用を示した。なお、図3〜7において、■は基材に何も固定しない場合(none)、□はP(α−LysMA)を基材に固定した場合、○PはP(ε−LysMA)を基材に固定した場合及び●はPEGを基材に吸着させた場合の試験結果をそれぞれ示す。 血栓溶解作用に大きく関与しているプラスミノーゲンとリジン残基を有する両性高分子物質との相互作用を生体分子間相互作用解析装置(以下、IAsysと省略する)を用いて評価した。化学的に固定化したプラスミノーゲン表面に測定開始から2分後、プラスミノーゲン固定化表面に所定濃度のリジン残基を有する両性高分子物質を添加し、光の共鳴角の変化を追跡することで、リアルタイムに相互作用を解析し、時間経過に伴う光の共鳴角の変化をプロットした。リジン残基を有する両性高分子物質の添加における曲線はプラスミノーゲンとの特異的な相互作用を示す。その結果を図8に示す。 本発明のリジン残基を有する両性高分子物質が血漿タンパク質の吸着を抑制した理由として、該両性高分子物質の構造が挙げられる。通常、人工材料と生体成分が接触したらまず血漿タンパク質の吸着作用が進むが、本発明のリジン残基を有する両性高分子物質は血液と接触する生体膜のリン脂質表面と同様に両性電解質構造をもつ合成高分子であるため、生体成分にとって人工材料だと認識されにくい、ステルス性の材料だと考えられる。 本発明のリジン残基を有する両性高分子物質の血液凝固に関する影響を検討するため、発色性合成基質を用いたトロンビン活性を定量的に検討した。実験方法は以下の通りである。所定濃度のトロンビンと本発明のリジン残基を有する両性高分子物質を添加し10分間攪拌した後、トロンビンを特異的に認識して発色性を示す基質S−2238を添加してS−2238から遊離するp−ニトロアニリンの吸光度を蛍光マイクロプレートリーダを用いて120分追跡し、時間の経過に伴うp−ニトロアニリンの吸光度の変化をプロットした。得られた曲線の傾きの減少は、血液凝固活性の阻害を示す。結果を図9に示す。■は何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。 血栓の主要成分はフィブリノーゲンから活性化されて形成されるフィブリンである。そこで、リジンメタクリルアミド[P(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)]のフィブリン形成における影響を検討した。実験方法は以下の通りである。所定濃度のトロンビンとリジン残基を有する両性高分子物質を添加し10分間攪拌した後、フィブリノーゲンを添加して形成されるフィブリンの濁度変化を蛍光マイクロプレートリーダを用いて120分追跡し、時間経過とフィブリン形成に伴う濁度変化をプロットした。得られた曲線の傾きの減少は、血液凝固活性の阻害を示す。結果を図10に示す。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。 トロンビン活性阻害におけるP(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)の添加効果を酵素反応速度論的に検討した。結果を図11に示す。同図においては、基質濃度の逆数と反応速度の逆数をプロットしている。P(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)の存在下において凝固因子トロンビンがその活性を抑制されたのは、生体高分子ヒルジンのトロンビン活性抑制に例えられる。ヒルジンはヒルジンが有するN末端あるいはC末端がトロンビンと結合する。特に、C末端部位がトロンビンのフィブリノーゲン結合部位と同じであることで、血液凝固を抑制している。また、トロンビン活性阻害におけるリP(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)の添加効果を酵素反応速度論的に検討した結果。P(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)はトロンビンの活性を反競合的に阻害した。従ってP(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)はトロンビンの血液凝固活性部位と直接的に相互作用することで、フィブリノーゲンとトロンビンの結合を阻害し、血液凝固を抑制していると考える。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。 P(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)の血栓溶解性における影響を検討するために、発色性合成基質を用いたプラスミン活性を定量的に検討した。実験方法は以下の通りである。所定濃度のプラスミンと高分子を添加し10分間攪拌した後、基質S−2251を添加してS−2251から遊離するp−ニトロアニリンの吸光度を蛍光マイクロプレートリーダを用いて120分追跡し、時間の経過に伴うp−ニトロアニリンの吸光度の変化をプロットした。得られた曲線の傾きの増大は、酵素活性の増大を示す。結果を図12に示す。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。血中濃度のフィブリノーゲンとトロンビンを40分間反応させて人工的にフィブリンを作製し、このフィブリンにP(α−LysMA)あるいはP(ε−LysMA)およびプラスミンを添加し、フィブリン分解によって生じる濁度の変化を240分追跡した。プラスミン添加後の濁度の低下が大きいほど、フィブリン分解を促進していることを示す。結果を図13に示す。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。S−2251を用いたプラスミノーゲン/t−PA活性を定量的に検討した。実験方法は以下の通りである。プラスミノーゲンおよびP(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)を添加して10分間攪拌した後、S−2251およびt−PAを加え、p−ニトロアニリンの吸光度を蛍光マイクロプレートリーダを用いて240分追跡した。得られた曲線の傾きの増大は、酵素活性の増大を示す。結果を図14に示す。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。人工的に作製したフィブリンを用いてプラスミノーゲン/t−PA活性を測定した。人工的に作製したフィブリンにP(α−LysMA)あるいはP(ε−LysMA)およびプラスミノーゲンを添加し、10分間攪拌した後、t−PAを加えてフィブリン分解によって生じる濁度の変化を240分追跡した。t−PA添加後に得られた直線の傾きが大きいほど、プラスミノーゲン/t−PA活性におけるフィブリン分解を促進していることを示す。結果を図15に示す。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。プラスミン反応系におけるリジンメタクリルアミド[P(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)の添加効果を酵素反応速度論から検討した。結果を図16に示す。基質濃度の逆数を横軸に、反応速度の逆数を縦軸にプロットし、Lineweaver−BurkPlotから評価した。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。プラスミノーゲン/t−PA反応系における高分子の添加効果を酵素反応速度論から検討した。結果を図17に示す。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。基質濃度の逆数を横軸に、反応速度の逆数を縦軸にプロットし、Lineweaver−BurkPlotから評価した。■は基材に何も添加しない場合(none)、▲はP(α−LysMA)を添加した場合、●はP(ε−LysMA)を添加した場合試験結果をそれぞれ示す。以下に、本発明のP(α−LysMA)が血液中のプラスミノーゲンと特異的に相互作用を示して、血栓溶解性を増大させたメカニズムを示す。血中に存在するプラスミノーゲンにはフィブリンが有するアミノ酸L−リジンのεアミノ基を特異的に認識する部位(リジン結合部位)があり、プラスミノーゲンはそのリジン結合部位を介してフィブリンと結合し、血栓溶解性を示す。また、フィブリン上で血栓溶解作用が起こる時、プラスミンはプラスミン阻害因子であるα2−プラスミンインヒビターとの結合部位であるリジン結合部位がフィブリンによって占拠されているため、血栓溶解作用の阻害を受けることなくフィブリンを分解することができる。したがって、前記P(α−LysMA)はL−リジンのεアミノ基とカルボキシル基がフリーの状態となっているため、プラスミノーゲンのリジン結合部位と特異的に相互作用を示し血栓溶解性を増大させているが、P(ε−LysMA)はL−リジンのαアミノ基とカルボキシル基がフリーの状態となっているため、プラスミノーゲンのリジン結合部位と特異的に相互作用を示さず、血栓溶解性には直接影響を与えないと考える。また、前記の各試験結果はP(α−LysMA)及びP(ε−LysMA)について行なったが、前記の化1および化2において、Xが例えば、H、−CH2CH3等の構造であっても、抗血栓性における同様の性能を示すと考えられる。本発明のリジン残基を有する両性高分子物質の製造法を示す図である。酸塩基適定法による高分子組成物の等電点測定の測定結果を示す図である。血漿タンパク質アルブミンの蛍光測定の結果を示す図である。血漿タンパク質γ−グロブリンの蛍光測定の結果を示す図である。血漿タンパク質フィブリノーゲンの蛍光測定の結果を示す図である。血漿タンパク質プラスミンの蛍光測定の結果を示す図である。血漿タンパク質プラスミノーゲンの蛍光測定の結果を示す図である。IAsys測定による分子間相互作用解析の結果を示す図である。基質S−2238を用いたトロンビン活性阻害評価の結果を示す図である。本発明の高分子組成物のフィブリン形成阻害試験の結果を示す図である。基質S−2238を用いたトロンビン活性阻害の速度論的解析の結果を示す図である。基質S−2251を用いたプラスミン活性評価の結果を示す図である。プラスミン活性による人工フィブリンの分解を濁度変化の追跡によって評価した。基質S−2251を用いたプラスミノーゲン/t−PA活性評価を示す図である。プラスミノーゲン/t−PA活性における人工フィブリンの分解を濁度変化の追跡によって評価した評価の結果を示す図である。プラスミン活性における酵素反応速度論的解析の結果を示す図である。プラスミノーゲン/t−PA活性における酵素反応速度論的解析の結果を示す図である。下記化1で表されるL−リジン残基を有する両性高分子物質からなる抗血栓剤。(前式中、XはH、CH3基あるいはCH2CH3基を意味する。)下記化2で表されるL−リジン残基を有する両性高分子物質からなる抗血栓剤。(前式中、XはH、CH3基あるいはCH2CH3基を意味する。)請求項1または2に記載の抗血栓剤を、高分子材料を基材とする医療器具の生体と接触する表面に固定したことを特徴とする医療器具。化1あるいは化2で表される両性高分子物質の前駆体モノマーを医療用器具の基材表面で重合することによって請求項1または2に記載の抗血栓剤を前記医療用器具の基板表面に固定したものであることを特徴とする請求項3記載の医療用器具。ε−アミノ基ならびにカルボキシル基を保護基で保護したアミノ酸L−リジンをメタクリル酸クロリドと反応させて得た前駆体モノマーを重合し該重合後に前記保護基を除去して製造することを特徴とする下記化3で示されるリジン残基を有する両性高分子物質の製造方法。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る