生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_パイロコッカス属に属する超好熱性細菌由来の耐熱性キチナーゼ及びそれをコードする遺伝子
出願番号:2003191941
年次:2008
IPC分類:C12N 15/09,C12N 9/42,A01N 63/00


特許情報キャッシュ

石川 一彦 安藤 進 JP 4113947 特許公報(B2) 20080425 2003191941 20030704 パイロコッカス属に属する超好熱性細菌由来の耐熱性キチナーゼ及びそれをコードする遺伝子 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 石川 一彦 安藤 進 JP 2003050281 20030227 JP 2003084176 20030326 20080709 C12N 15/09 20060101AFI20080619BHJP C12N 9/42 20060101ALI20080619BHJP A01N 63/00 20060101ALI20080619BHJP JPC12N15/00 AC12N9/42A01N63/00 D C12N 9/42、15/00 C07K 14/00 A01N 63/00 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq SwissProt/PIR/Geneseq JMEDPlus/JST7580/JSTPlus(JDream2) MEDLINE/WPIDS/CAplus/BIOSIS(STN) 特開2001−054381(JP,A) 特表平07−509362(JP,A) 特表平07−501824(JP,A) 特開2000−093182(JP,A) NCBI Sequence Viewer v2.0, [online], 2002年2月25日, Accession No. AAL81358, [2007年10月19日検索], URL; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?val=18893325 NCBI Sequence Viewer v2.0, [online], 2002年2月25日, Accession No. AAL81357, [2007年10月19日検索], URL; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?val=18893324 Methods in Enzymology, 2001, Vol.330, p.134-157 Biosci. Biotechnol. Biochem., 2006, Vol.70, p.1696-1701 3 2004344160 20041209 34 20050315 ▲高▼ 美葉子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、高温において安定なキチナーゼ活性を有する耐熱性キチナーゼに関する。本発明はまた、上記耐熱性キチナーゼをコードする遺伝子に関する。【0002】【従来の技術】キチンはカニ、エビなどの甲殻類等に含まれる主成分で、N-アセチルグルコサミンがβ-1,4結合した多糖類である。近年、その脱アセチル化体であるキトサンとともに多様な分野で用途開発が進展している(例えば、非特許文献1参照)。【0003】キチンを部分加水分解することにより得られるキチンオリゴ糖は、さわやかな甘味を有し、乳酸菌増殖効果、ビフィズス菌増殖効果、免疫賦活効果などの新しい機能を持った食品新素材として、食品、医薬業界で大きな関心を集めている(例えば、非特許文献1参照)。【0004】しかしながら、現在、キチンの処理は耐熱性の低いバクテリア由来の酵素を使用して行われており(例えば、非特許文献2参照)、高温下で処理できないために、キチンの処理効率は非常に低い(例えば、非特許文献2及び3参照)。【0005】【非特許文献1】ロバータス・ジェイエヌ(Robertus JN)及びハート・ジェイ(Hart J.)著,サドラー・ジェイエヌ(Saddler JN)及びペナー・エムエイチ(Penner MH)編集,スリー・ディメンショナル・ストラクチャー・オブ・アン・エンドキチナーゼ・フロム・バーレイ(Three-Dimensional Structure of an Endochitinase from Barley.),「エンザイマティック・ディグラデーション・オブ・インソルブル・カルボハイドレーツ(Enzymatic degradation of Insoluble Carbohydrates.),アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(American Chemical Society),ワシントン・ディー・シー(Washington, DC),1995年, 第5章(Chap.5)【0006】【非特許文献2】ヤブキ・エム(Yabuki M),ヤブキ・ワイ(Yabuki Y),ヤナイ。イー(Yanai E),アンドウ・エー(Ando A),フジイ・ティー(Fujii T)著,アイソレーション・アンド・キャラクタライゼーション・オブ・キチノリティック・バクテリウム:アエロモナス・ハイドロフィラ(Isolation and characterization of chitinolytic bacterium: Aeromonas hydrophila),日本,「テクニカル・ブレチン・オブ・ファカルティ・オブ・ホーティカルチャー,千葉大学(Technical Bulletin of Faculty of Horticulture, Chiba University)」,1983年, 32巻,p.51【0007】【非特許文献3】フランコフスキー・ジェイ(Frankowski J),ロリト・エム(Lorito M),スカラ・エフ(Scala F),シュミット・アール(Schmid R),バーグ・ジー(Berg G),バール・エイチ(Bahl H)著,ピューリファイケーション・アンド・プロパティーズ・オブ・トゥー・キチノリティック・エンザイムズ・オブ・セラティア・プリムチカ・HRO-C48(Purification and properties of two chitinolytic enzymes of Serratia plymuthica HRO-C48),「アーカイブス・オブ・マイクロバイオロジー(Archives of Microbiology)」,2001年,176巻,p.421-426【0008】【特許文献1】特開平9-324368号公報【0009】【特許文献2】特開2001-54381【0010】【発明が解決しようとする課題】本発明の主な目的は、高温において安定なキチナーゼ活性を有する耐熱性キチナーゼ、更には、上記耐熱性キチナーゼをコードする遺伝子を提供することである。【0011】【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の如き従来技術の問題点を解決するために、鋭意研究を重ねてきた。その結果、好熱性微生物の遺伝子配列の中にキチナーゼ活性を示すと思われる遺伝子を見出し、その知見に基いて本発明を完成するに至った。【0012】即ち、本発明は、以下の耐熱性キチナーゼ及び該酵素をコードする遺伝子に関する。【0013】1.以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる耐熱性キチナーゼ;(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列、(b)アミノ酸配列(a)において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列であって、耐熱性キチナーゼ活性を有するアミノ酸配列。【0014】2.以下の(c)又は(d)のアミノ酸配列からなる耐熱性キチナーゼ;(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列、(d)アミノ酸配列(c)において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列であって、耐熱性キチナーゼ活性を有するアミノ酸配列。【0015】3.以下の(e)又は(f)のアミノ酸配列からなる耐熱性キチナーゼ;(e)配列番号4で表されるアミノ酸配列、(f)アミノ酸配列(e)において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列であって、耐熱性キチナーゼ活性を有するアミノ酸配列。【0016】4.以下の(イ)、(ロ)、(ハ)又は(ニ)からなるDNA;(イ)配列番号5で表される遺伝子配列、(ロ)上記(b)で表されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列、(ハ)(イ)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ耐熱性キチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、(ニ)(ロ)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ耐熱性キチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。【0017】5.以下の(ホ)、(ヘ)、(ト)又は(チ)からなるDNA;(ホ)配列番号6で表される遺伝子配列、(ヘ)上記(d)で表されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列、(ト)(ホ)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ耐熱性キチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、(チ)(ヘ)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ耐熱性キチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。【0018】6.以下の(リ)、(ヌ)、(ル)又は(ヲ)からなるDNA;(リ)配列番号7で表される遺伝子配列、(ヌ)上記(f)で表されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列、(ル)(ホ)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ耐熱性キチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、(ヲ)(ヘ)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ耐熱性キチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。【0019】7.上記項1〜3のいずれかに記載の耐熱性キチナーゼを有効成分とする防カビ剤。【0020】【発明の実施の形態】本発明において得られる耐熱性キチナーゼは、90〜100℃程度の高温で生育する超好熱性細菌パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)の遺伝子配列の中から、キチナーゼ活性を有する酵素をコードすると推測される配列を見出し、その配列をもとに完成したものである。【0021】本発明で使用される細菌としては、硫黄代謝好熱性古細菌であるパイロコッカス属に属する細菌が使用でき、好ましくはパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)である。本細菌は、理化学研究所の微生物系統保存施設に寄託されており、登録番号はJCM8422である。本細菌の培養方法も公知の方法を用いることができる。【0022】公知のキチナーゼ(KOD-1株由来のキチナーゼ:特開2001-54381参照)をコードする配列に基いて、パイロコッカス・フリオサスの遺伝子配列(配列番号1に示す。)の中から、キチナーゼ活性を有する酵素をコードすると推測されるDNA配列を見出し、その配列に基いて、生物工学的手法により本発明の耐熱性キチナーゼを完成させた。【0023】本発明のキチナーゼをコードする遺伝子配列としては、好ましくは、配列番号5〜7で表される配列が例示できる。配列番号5で表される遺伝子配列は、配列番号1で表されるパイロコッカス・フリオサスの遺伝子配列中の、94〜3229位の配列の5'末端に「ATG」を付加したものである(従って、「A」が5'末端となる。)。ここで、「A」、「T」、「G」及び「C」は、それぞれDNAを構成する4種類の塩基を示し、「A」はアデニン、「T」はチミン、「G」はグアニン、そして「C」はシトシンを示す。【0024】また、配列番号6で表される遺伝子配列は、配列番号1で表されるパイロコッカス・フリオサスの遺伝子配列の1574〜3229位で表される配列である。【0025】更に、配列番号7で表される遺伝子配列は、配列番号1中の第1006位に該当する「A」を削除したものである(この配列は配列番号5及び6の配列を配列番号5が5'末端になるようにつなぎ合わせたものに概ね相当する)。また、配列番号1中の第1006位に該当する「A」を削除している限り、配列番号5及び6を逆に、即ち、配列番号6を5'につないでも(この配列は配列番号5及び6の配列を、配列番号5が5'末端になるようにつなぎ合わせたものに、概ね相当する)耐熱性キチナーゼ活性を得ることはできる。【0026】ここで、本発明においてキチナーゼをコードする3種の配列を例示したが、80〜100℃程度の高温においてキチナーゼ活性を有する酵素をコードする限り、上記3種のDNAに限定されるものではない。例えば、上記の配列番号5〜7のDNA配列において、1又は複数個、好ましくは1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入又は付加されたポリヌクレオチド配列であっても良い。【0027】更に、これらのDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ耐熱性キチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明に含まれる。【0028】ここで、上記のDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAとは、例えば、以下のものが例示できる;(I)0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃または0.1%SDSを含む1×SSC中60℃の条件下で、配列番号5で示される塩基配列からなるDNAとハイブリダイズする塩基配列を有するDNA分子(II)0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃または0.1%SDSを含む1×SSC中60℃の条件下で、配列番号6で示される塩基配列からなるDNAとハイブリダイズする塩基配列を有するDNA分子(III)0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃または0.1%SDSを含む1×SSC中60℃の条件下で、配列番号7で示される塩基配列からなるDNAとハイブリダイズする塩基配列を有するDNA分子。【0029】本発明の耐熱性キチナーゼは、上記の遺伝子配列を用いて公知の生物工学的手法により得ることができる。例えば、上記3種類のDNA、又は、それらの遺伝子配列においてヌクレオチドを欠失、置換、挿入又は付加させたDNA、更には、これらのDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ耐熱性キチナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを、PCR法等の公知の方法により増幅させ、当該遺伝子配列の多数のコピー(PCR産物)を得る。【0030】このPCR法において使用されるプライマーは、上記の遺伝子配列に基いて適宜設定することができ、公知の方法によって合成することができる。また、増幅させたPCR産物は、公知の方法により単離、精製、確認することができる。【0031】本発明の酵素は、公知の遺伝子組換え技術(例えば、Science, 224, 1431, (1984); Bichem. Biophys. Res. Comm., 130, 692 (1985); Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 5990 (1983)等参照)によって得ることができる。【0032】例えば、本発明のキチナーゼは、これをコードする遺伝子が宿主細胞中で発現できる組換えDNA(発現ベクター)を作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養し、次いで、得られる培養物から回収することができる。【0033】上記の宿主細胞としては、原核生物及び真核生物のいずれも用いることができる。原核生物の宿主としては、例えば、大腸菌、枯草菌などの一般的に用いられるものが広く挙げられる。好ましくは大腸菌、特にEscherichia coli Rosetta (DE3) 等が挙げられる。【0034】真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、酵母などの細胞が含まれる。脊椎動物の細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞〔Cell, 23: 175 (1981)〕、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞およびそのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 77: 4216 (1980)〕などを好適に使用できる。酵母の細胞としては、サッカロミセス属酵母細胞などを好適に利用できる。勿論、これらに限定される訳ではない。【0035】原核生物細胞を宿主とする場合は、該宿主細胞中で複製可能なベクターを用いて、このベクター中に本発明遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーターおよびSD(シャイン・アンド・ダルガーノ)核酸配列、更にタンパク合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを好適に利用できる。【0036】上記ベクターとしては、一般に大腸菌由来のプラスミド、例えばpET-21d、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13などがよく用いられるが、これらに限定されず既知の各種のベクターを利用することができる。大腸菌を利用した発現系に利用される上記ベクターの市販品としては、例えばpGEX-4T(Amersham Pharmacia Biotech社)、pMAL-C2,pMAl-P2(New England Biolabs社)、pET21,pET21/lacq(Invitrogen社)、pBAD/His(Invitrogen社)などを例示できる。これらの中でも、特にpET-21dが好ましい。【0037】プロモーターとしても特に限定なく、エシェリキア(Escherichia)属菌を宿主とする場合は、例えば、トリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、PL/PRプロモーターなどを好ましく利用できる。宿主がバチルス属菌である場合は、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。酵母を宿主とする場合のプロモーターとしては、例えばpH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどを好適に利用できる。また、動物細胞を宿主とする場合の好ましいプロモーターとしては、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、SRαプロモーターなどを例示できる。【0038】本発明遺伝子の発現ベクターとしては、通常の融合タンパク発現ベクターも好ましく利用できる。該ベクターの具体例としては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白として発現させるためのpGEX(Promega社)などを例示できる。【0039】成熟ポリペプチドのコード配列が宿主細胞からのポリペプチドの発現、分泌を助ける核酸配列としては、分泌配列及びリーダ配列が例示できる。本発明タンパク質(キチナーゼ)の製造には、これらの配列を利用することもできる。また、本発明タンパク質の製造に当たっては、細菌宿主に対して融合成熟ポリペプチドの精製に使用されるマーカー配列(ヘキサヒスチジン・タグ、ヒスチジン・タグ)、哺乳動物細胞の場合はヘマグルチニン(HA)・タグなどを利用することもできる。【0040】所望の組換えDNA(発現ベクター)の宿主細胞への導入法及びこれによる形質転換法としては、特に限定されず、一般的な各種方法を採用することができる。【0041】形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により所望のように設計した遺伝子によりコードされる本発明の目的タンパク質(酵素)が、形質転換体の細胞内、細胞外又は細胞膜上に発現、生産(蓄積、分泌)される。【0042】培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種の培地を適宜選択利用できる。培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。【0043】上記のようにして得られる本発明の組換え蛋白質は、所望により、その物理的性質、化学的性質などを利用した各種の分離操作〔「生化学データーブックII」、1175-1259 頁、第1版第1刷、1980年 6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25(25), 8274 (1986); Eur. J. Biochem., 163, 313 (1987)など参照〕により分離、精製できる。【0044】該方法としては、具体的には、通常の再構成処理、タンパク沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せが例示できる。本発明で得られる酵素(タンパク質)が、耐熱性であることから、例えば、約70〜100℃、好ましくは約80〜90℃で10〜60分程度、好ましくは20〜40分程度加熱して、熱変性するタンパク質を遠心分離して沈澱させて除去して得られる上澄液を、各種のクロマトグラフィーに供することにより、精製することもできる。【0045】また、本発明の酵素は、化学的な合成によっても得ることができる。化学的な合成法としては、公知のポリペプチド合成法、例えば、液相合成法あるいは固相合成法によって製造することができる。【0046】このようにして、得られた配列番号2〜4で表される本願発明の3種類の耐熱性キチナーゼを得ることができる。【0047】本願発明の耐熱性キチナーゼは、配列番号2、3又は4で表されるアミノ酸配列からなるものが好ましいが、80〜100℃程度の高温でキチナーゼ活性を有する限り、配列番号2、3又は4で表されるアミノ酸配列の1又は複数、好ましくは1又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は付加されたものであってもよい。【0048】本発明で得られた酵素は、例えば、コロイダルキチンを基質として、Mrgan and Elson法のような公知の方法で加水分解後に生じる還元性末端を定量することにより、キチナーゼ活性を確認することができる。【0049】また、例えば、本発明の酵素を含む酢酸緩衝液中で60〜100℃程度、好ましくは80〜90℃程度で0.1〜48時間程度、好ましくは0.5〜24時間程度加熱した後に、上記のような公知の方法で酵素活性を測定することにより、本発明の酵素の耐熱性を確認するこができる。【0050】防カビ剤さらに、本発明の耐熱性キチナーゼは防カビ効果を有するので、防カビ剤としても使用することができる。使用態様、使用方法等は特に限定されず、例えば、水や溶液に混合して滴下、噴霧等行うのが簡便で好ましい。【0051】本発明の防カビ剤を適用する場所は限定されず、例えば、壁紙に使用する糊などの建築資材、風呂場、新築マンションの青畳のカビ、湿った畳、エアコンの吹き出し口、冷蔵庫、布、木綿、アルミ・ジュラルミンを腐食させるカビ、GLボンド+クロス貼り、コンタクトレンズ、古文書、カメラ、顕微鏡等のレンズ、プリント(基盤)配線板等が例示できる。【0052】また、本発明のキチナーゼが耐熱性であることから、高温下においても使用することができる。例えば、高温下で食器を洗浄する食器洗浄機に使用することもでき、成型前のプラスチックや樹脂等に予め混合しておくことも可能である。【0053】本発明の防カビ剤を使用する濃度としても限定されず、カビの生育が抑制されればよい。例えば、本発明耐熱性キチナーゼの濃度として0.000001〜0.1mg/ml程度が例示できる。【0054】本発明の耐熱性キチナーゼを有効成分とする防カビ剤を適用するカビの種類も特に限定されず、あらゆる種類のカビに対して使用することができるが、例えば、クラドスポリウム(Cladosporium sp.)、フサリウム(Fusarium sp.)、アスペルギルス(Aspergillus sp.)、ユーロチウム(カワキコウジカビ)、アスペルギルス(コウジカビ)、ペニシリウム(アオカビ)、クラドスポリウム(クロカビ)、アルテルナリヤ(ススカビ) 、リゾプス(クモノスカビ)、ムコール(ケカビ)、トリコルデルマ(ツチアオカビ)、ケトミウム(ケタマカビ)、フザリウム(アカカビ)、オーレオバシデウム(黒色酵母様菌)等が例示できる。【0055】本発明の防カビ剤は、他の防カビ剤や抗菌剤等と併用することも可能である。また、本発明の防カビ剤はタンパク質なので、体内に蓄積するなどして副作用を起こす可能性も非常に小さく、安全である。【0056】【実施例】以下に実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明瞭にする。【0057】実施例1:菌パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus:JCM8422)の培養13.5gの食塩、4gのNa2SO4、0.7gのKCl、0.2gのNaHCO3、0.1gのKBr、30mgのH3BO3、10gのMgCl2・6H2O、1.5gのCaCl2、25mgのSrCl2、1.0mlのレザスリン溶液(0.2g/L)、1.0gの酵母エキス、5gのバクトペプトンを1Lの超純水に溶かし、この溶液のpHを6.8に調整し、加圧殺菌した。【0058】ついで、乾熱滅菌した元素硫黄を0.2%となるように加え、この培地をアルゴンで飽和して嫌気性とした後、パイロコッカス・フリオサス(JCM8422)を植菌した。培地が嫌気性となったか否かはNa2S溶液を加えて、培養液中でNa2Sによるレザスリン溶液のピンク色が着色しないことにより確認した。この培養液を95℃で2〜4日培養し、その後、遠心分離により集菌した。【0059】実施例2:染色体DNAの調整培養終了後、5000rpm、10分間の遠心分離により菌体を集菌し、菌体を10mM Tris(pH 7.5)-1mM EDTA溶液で2回洗浄した後InCert Agarose(FMC社製)ブロック中に封入した。このブロックを1%N-lauroylsarcosine-1mg/ml プロテアーゼK溶液中で処理することにより、染色体DNAがAgaroseブロック中に分離調製された。【0060】実施例3:発現プラスミドの構築1(配列番号5)配列番号5の前に平滑末端、後に制限酵素(XhoI)サイトを構築する目的でDNAプライマー(それぞれ、配列番号8で示されるフォワードプライマー1及び配列番号9で示されるリバースプライマー1)を合成し、PCR(98℃で1分、65℃で2分、74℃で4分、35サイクル)で配列番号5で表される遺伝子の前に平滑末端、後に制限酵素サイトを導入した。【0061】PCR反応後、制限酵素(Bsp HI及びXhoI)で完全分解(37℃で2時間)した後、アガロースゲル電気泳動に供し、目的の遺伝子の分子量に対応するバンドを紫外線で検出し、ゲルから切り取り、これからDNAを抽出することにより、その構造遺伝子を精製した。【0062】pET- 21d(Novagen社製)を制限酵素Nco Iで切断した後 T4DNAポリメラーゼで切断末端を平滑化し、更にXhoIで切断、精製した後、上記の構造遺伝子とT4リガーゼで16℃で2時間反応させ連結した。連結したDNAの一部をE.coli-XL2-BlueMRF'のコンピテントセル(Stratagene社製)に導入した。方法は同社のマニュアルに従った。詳細は実施例6に示した。形質転換体のコロニーを得た。【0063】得られたコロニーから発現プラスミドをアルカリ法("A rapid alkaline extraction procedure for screening recombinant plasmid DNA", Birmboim HC, Doly J (1979) Nucleic Acids Res. 7:1513-1523 )で精製した。【0064】精製した発現プラズミドについてDNA塩基配列を決定し、本発明の遺伝子配列が挿入されていることを確認した。【0065】実施例4:発現プラスミドの構築2(配列番号6)構造遺伝子領域の前に平滑末端、後に制限酵素(XhoI)サイトを構築する目的でDNAプライマーを合成し(それぞれ、配列番号10で示されるフォワードプライマー2及び配列番号9で示されるリバースプライマー1)、PCRでその遺伝子の前後に制限酵素サイトを導入した。【0066】PCR反応後、制限酵素(Bsp HI及びXhoI)で完全分解(37℃で2時間)した後、アガロースゲル電気泳動に供し、目的の遺伝子の分子量に対応するバンドを紫外線で検出し、ゲルから切り取り、これからDNAを抽出することにより、その構造遺伝子を精製した。【0067】pET- 21d(Novagen社製)を制限酵素Nco Iで切断した後、T4DNAポリメラーゼで切断末端を平滑化し、更にXhoで切断・精製した後、上記の構造遺伝子とT4リガーゼで16℃で2時間反応させ連結した。連結したDNAの一部をE.coli-XL-2 BlueMRF'のコンピテントセルに導入し形質転換体のコロニーを得た。得られたコロニーから発現プラスミドを、実施例3と同様のアルカリ法で精製した。【0068】精製した発現プラズミドについてDNA塩基配列決定を行ない、本発明の遺伝子配列が挿入されていることを確認した。【0069】実施例5:発現プラスミドの構築3(配列番号7)構造遺伝子領域の前に平滑末端、後に制限酵素(XhoI)サイトを構築し、かつ、遺伝子中の1塩基(配列番号1中で「A」で示した第1006塩基座位「A」)を削除する目的で、2対のDNAプライマーを合成した(それぞれ、配列番号8で表されるフォワードプライマー1及び配列番号11で表されるリバースプライマー2、配列番号12で表されるフォワードプライマー3及び配列番号9で表されるリバースプライマー1を用いた。)。【0070】塩基削除を行う部位の前後に分けて2つのPCR反応を行い、その産物をオーバーラップエクステンションPCR法により連結させた。これにより、その遺伝子(本来の構造遺伝子)の前後に制限酵素サイトを導入するとともに、第1006位の「A」を削除した遺伝子を調製した。連結反応後、制限酵素(XhoI)で完全分解(37℃で2時間)した後、アガロースゲル電気泳動に供し、目的の遺伝子の分子量に対応するバンドを紫外線で検出し、ゲルから切り取り、これからDNAを抽出することにより、その構造遺伝子を精製した。【0071】pET-21d(Novagen社製)を制限酵素Nco Iで切断した後、T4DNAポリメラーゼで切断末端を平滑化し、更にXhoIで切断、精製した後、上記の構造遺伝子とT4リガーゼで16℃で2時間反応させ連結した。連結したDNAの一部をE.coli-XL1-BlueMRF'のコンピテントセルに導入し形質転換体のコロニーを得た。得られたコロニーから発現プラスミドを、実施例3と同様のアルカリ法で精製した。【0072】精製した発現プラズミドについてDNA塩基配列決定を行ない、本発明の遺伝子配列が挿入されていることを確認した。【0073】実施例6:配列番号5〜7の組換え遺伝子の発現大腸菌(E.coli Rosetta(DE3), Novagen社製)のコンピテントセル0.1mLをファルコンチューブに移した。その中に配列番号5で表されるDNAを含む発現プラスミド溶液0.005mLを加え、氷中に30分間放置した後、42℃でヒートショックを30秒間行い、0.9mLのSOC培地を加え、37℃で1時間振盪培養した。その後、アンピシリンを含む2YT寒天プレートに適量播き、37℃で一晩培養し、形質転換体を得た。【0074】当形質転換体を、アンピシリンを含む2YT培地で600nmの吸光度が1に達するまで培養した後、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を加え、更に6時間培養した。その後、培養後遠心分離(6,000rpm,20min)により集菌した。【0075】実施例7に示す方法で形質転換体から得られた粗酵素液(85℃で30分間加熱後、遠心分離して得た上澄液)に対し、実施例8に示した方法でコロイド状キチンを85℃で分解する活性が存在することを確認することにより、目的の酵素が発現していると判断した。また、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、アミノ酸配列から計算された分子量に対応するバンドの存在を確認した。【0076】配列番号6で表されるDNAを含む発現プラスミド及び配列番号7で表されるDNAを含む発現プラスミドについてもこれと同様にした。【0077】実施例7:本発明の耐熱性酵素の精製実施例6で得られた配列番号6で表されるDNAを含む形質転換体を集菌し、集菌した菌体の2倍量のアルミナを加え、菌体を超音波によって粉砕した後、5倍量の10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を加えて懸濁液を得た。得られた懸濁液を85℃で30分間加熱した後遠心分離(11,000rpm、20min)し、上澄をHiTrapQ(ファルマシア社製)カラムに吸着させ、活性画分を得た。【0078】配列番号6で表されるDNAを含む形質転換体及び配列番号7で表されるDNAを含む形質転換体についても同様にして得た。【0079】実施例7に示す方法で形質転換体から得られた粗酵素液(85℃で30分間加熱後、遠心分離して得た上澄液)に対し、実施例8に示した方法でコロイド状キチンを85℃で分解する活性が存在することを確認することにより、目的の酵素が発現していると判断した。また、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、アミノ酸配列から計算された分子量に対応するバンドを確認した。【0080】実施例8:キチン分解活性基質として1%コロイド状キチンを使用し、200mM酢酸緩衝液(pH5.6)中に、490μlの基質溶液に対し10μlの酵素を加えて85℃で1時間反応させた後、Morgen and Elmer法(水酸化カリウムでpH9.1に調整した1.6Mホウ酸緩衝液30μlを酵素反応液150μlに加えて混合し、正確に3分間煮沸した。【0081】これを氷冷した後、900μlのDMAB(パラ−ジメチルアミノベンザルデヒド)試薬を加え、37℃で20分間加熱した後、585nmでの吸光度を測定することにより、還元末端の増加を測定した。標準物質としてはアセチルグルコサミンを用いた。DMAB試薬は10N塩酸を12.5%含む酢酸100mlにDMABを10g加えたものであり、使用直前に酢酸で10倍に希釈して用いた。)により活性を調べた。【0082】配列番号2、3及び4のアミノ酸配列からなるタンパク質は、全て585nmでの発色が見られた。この結果により、本発明で得られた3種の酵素が、高温においてキチン分解活性を有することが明らかになった。【0083】実施例9:耐熱性本発明で得られた酵素(配列番号2、3、4)を含むそれぞれの酵素溶液(0.1mg/mL)を200mM酢酸酸緩衝液(pH5.6)中で加熱することによって耐熱性を調べた。【0084】その結果、100℃で3分間加熱後に実施例8と同様に酵素活性を測定した場合、3種のどの酵素においても酵素活性の低下はみられなかった。また、85℃で3時間加熱後、同様にして酵素活性を測定した結果、約64%の活性が保存されていた。これらの結果より、本発明で得られた酵素が耐熱性を有することが分かった。【0085】実施例10:防カビ剤本発明の防カビ剤の、種々のカビ(Cladosporium sp., Fusarium sp., Aspergillus sp.)に対する効果を37℃において調べた。【0086】培地として、サブローデキストロースCG寒天培地(カゼイン−スイ消化ペプトン5.0g、動物組−ペプシン消化ペプトン5.0g、ブドウ糖40.0g、寒天15.0gを水1Lに溶解したもの)を用いた。【0087】本発明の耐熱性キチナーゼをそれぞれ0.01mg/mlになるように加えた培地では、加えなかった培地に比べて上記3種類のカビの生育が大きく阻害された。なお、本発明の耐熱性キチナーゼは3種類とも同様に強い防カビ効果を発揮した。【0088】【発明の効果】本発明によれば、80℃以上の高温で活性を有する、耐熱性キチナーゼが提供できる。本発明の酵素分子が高温で安定であることから、キチン、キトサン等の分解を高温で行うことができ、反応効率の上昇、混入微生物の除去(死滅)等、多くの利点が得られる。【0089】また、本発明の酵素は耐熱性であるので、何度も加熱(キチン等の処理)に使用できできるので非常に便利である。更に、分子量が小さいことからも非常に扱い易い。【0090】また、耐熱性を有することから耐有機溶媒性も考えることができ、キチナーゼに防カビ効果があることから、耐熱性の防カビ剤としても使用できる。【0091】【配列表】 以下の(e)のアミノ酸配列からなる耐熱性キチナーゼ;(e)配列番号4で表されるアミノ酸配列。 以下の(リ)からなるDNA;(リ)配列番号7で表される遺伝子配列。 請求項1に記載の耐熱性キチナーゼを有効成分とする防カビ剤。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る