タイトル: | 特許公報(B2)_動物の脳疾患の治療方法 |
出願番号: | 2003159322 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | A61K 38/21,A61P 25/00 |
桑原 正人 JP 4393795 特許公報(B2) 20091023 2003159322 20030604 動物の脳疾患の治療方法 学校法人日本大学 899000057 稲葉 良幸 100079108 田中 克郎 100080953 大賀 眞司 100093861 桑原 正人 20100106 A61K 38/21 20060101AFI20091210BHJP A61P 25/00 20060101ALI20091210BHJP JPA61K37/66 GA61P25/00 171 A61K 38/21 CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) 特開平09−234085(JP,A) SASAHIRA,M. et al,[Case of successful treatment in herpes simplex encephalitis],Neurol Med Chir (Tokyo),1983年,Vol.23, No.10,p.821-7 5 2004359598 20041224 10 20060425 川口 裕美子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は動物の脳炎に有効な治療方法及び治療剤に係り、より詳細には、イヌ、とりわけ、パグ脳炎に有効な治療方法及び治療剤に関する。【0002】【従来の技術】現在までに知られている動物、特にイヌの脳炎には、狂犬病ウイルス、ジステンパーウイルス、イヌヘルペスウイルス、イヌアデノウイルスなど、原因がウイルスであることが明らかにされているものと、肉芽腫性脳炎、パグ脳炎、特発性免疫介在性多発性動脈炎、ポインターの化膿性髄膜脊髄脳炎などがあり、原因不明なものが多い。【0003】これらの中で、パグ脳炎は、パグに頻発することからこの疾患名が一般的となっているが、マルチーズやヨークシャー・テリアにおいても報告されている。【0004】臨床症状としては、けいれん様の発作だけでなく、その他に鬱状態、旋回運動などを含む運動失調、視覚障害などを示すものもあり、この疾患特有の症状は観測されていない。【0005】また、病理組織学的には、脳硬膜と大脳を中心とした広範な壊死と非化膿性炎症病巣が観測され、脳幹、小脳、脊髄の病変はごく軽度、若しくは認められないのが特徴であることが知られている。さらに、脳脊髄液ではリンパ球の増数が認められる。そして、パグ脳炎を患ったイヌはほとんどが死亡しているのが現状であるが、発生件数が少なく、詳細な臨床症状の解析、系統だった病因に関する研究は、現在までのところほとんど行われていない。【0006】しかし、最近、パグ脳炎に関する新しい知見が報告された。その一つに、パグ脳炎の診断にMR(核磁気共鳴画像診断装置のことをいう)検査が有効であるという報告である。パグ脳炎は、MR検査により慢性髄膜性脳炎として診断され、本症は、脳炎や脳出血などと類似した画像所見を示すことが判明している。【0007】そのため、MR技術を利用して、パグ脳炎に対する治療薬が望まれるようになってきている。【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑み、動物、特にイヌの一種であるパグ脳炎に有効な治療方法及びその治療剤を提供することを目的とする。【0009】【課題を解決するための手段】本発明は、殆どが死亡するといわれている、慢性壊死性脳炎の治療方法及び治療剤に係り、MR技術の進展により、脳炎を臨床学的に観測が可能となったことを基礎とする。【0010】従来は、慢性髄膜性脳炎のようなパグ脳炎等は外科的治療法が困難で、飼い主が治療を断念していた。そして、実際には、脳炎を完治させることはできなかった。【0011】そこで、本発明者らは、パグ脳炎に対する治療を鋭意検討した結果、放射線照射と特定の薬剤の投与とによる、新たな治療方法及びその治療剤を見出した。すなわち、上記目的は、動物の脳炎の治療方法であって、(1)放射線を照射する工程と、(2)インターフェロンを投与する工程と、を備える治療方法により達成される。【0012】本発明の好ましい態様によれば、前記治療方法において、前記動物はイヌであることを特徴とする。【0013】本発明の好ましい態様によれば、前記治療方法において、前記脳炎はパグ脳炎であることを特徴とする。【0014】本発明の好ましい態様によれば、前記治療方法において、前記放射線は総線量0.5〜80Gyであることを特徴とする。【0015】本発明の好ましい態様によれば、前記治療方法において、前記インターフェロンはイヌインターフェロンであることを特徴とする。【0016】本発明の好ましい態様によれば、前記治療方法において、前記イヌインターフェロンは配列番号:1で記述されるアミノ酸配列からなるイヌインターフェロン−γであることを特徴とする。【0017】本発明の好ましい態様によれば、前記治療方法において、前記イヌインターフェロン−γは、少なくとも1日1回、0.1〜4.0万単位で投与されることを特徴とする。【0018】また、上記目的は、放射線を照射しながら投与されるインターフェロンを含む動物脳炎用治療剤により達成される。【0019】本発明の好ましい態様によれば、前記治療剤において、前記動物はイヌであることを特徴とする。【0020】本発明の好ましい態様によれば、前記治療剤において、前記脳炎はパグ脳炎であることを特徴とする。【0021】本発明の好ましい態様によれば、前記治療剤において、前記放射線の総線量は、0.5〜80Gyであることを特徴とする。【0022】本発明の好ましい態様によれば、前記治療剤において、前記インターフェロンはイヌインターフェロンであることを特徴とする。【0023】本発明の好ましい態様によれば、前記治療剤において、前記イヌインターフェロンは、は配列番号:1で記述されるアミノ酸配列からなるイヌインターフェロン−γであることを特徴とする。【0024】本発明の好ましい態様によれば、前記治療剤において、前記イヌインターフェロン−γが0.1〜4.0万単位で投与されることを特徴とする。【0025】【発明の実施の形態】以下では、本発明が、イヌの一種であるパグの脳炎、具体的には、パグの慢性髄膜性脳炎を例として、本発明に係る治療方法及び治療剤を、その好ましい実施態様に基づいて詳細に説明するが、イヌに限定されることなく、他の動物の脳炎に適用可能である。【0026】従前では、パグ脳炎の診断はイヌの死亡後の病理学的な観察により行われていた。しかし、近年、パグ脳炎の診断は磁気共鳴画像診断装置(以下、「MRI」という。)により可能となったので、まず、このパグ脳炎のMR診断について説明する。【0027】一般に利用される磁気共鳴画像装置にて、MR検査により脳炎を検出する。ここで、MR検査では、(電波)信号強度を白黒スケールで示し、反射した信号があるときは白く、信号がないときは黒くフィルム上に表示される。白く表示された部分は、電波を跳ね返して信号ありという状態を「高信号」といい、病変等はその性質上、T2強調像で白色(高信号)に表示される。逆に、黒色に表示された部分は、信号が消失する状態を「低信号」といい、正常な脳質が灰色に表示される。【0028】たとえば、後述する実施例における図2を参照して説明すると、治療開始前では、髄膜と大脳皮質のやや左側から中心部において広範囲の高信号(白色部分)の存在が確認される。大脳にて白色に表示されている部分が慢性髄膜性脳炎であることが、病理学的に確認されている。本症状は、単純な脳炎や脳出血などと類似したMR画像所見を示す。【0029】そして、病理学的には慢性髄膜性脳炎であることは、該当部分を外科的に取出し、公知のヘマトキシリンエオジン染色法により染色することにより、その染色領域が脳炎であることを確認することができる(図1参照)。【0030】本発明は、パグ脳炎のMR診断を利用したことにより、放射線の照射とインターフェロンの投与との併用による治療についての知見に基づくものである。【0031】具体的には、X線照射とイヌインターフェロン−γとの併用によるものであり、X線照射と同時に、又は当該X線照射後一定時間経過後に前記イヌインターフェロン−γを投与することが、パグ脳炎の治療には有効である。ここで、一定時間経過後とは、X線照射と常に同時である必要はないが、治療対象となる動物にも依存するが、治療に有効である限り、許容される時間であることを意味する。【0032】本発明に用いられるイヌインターフェロン−γは、配列番号1で記述される遺伝子組換型のアミノ酸配列からなるイヌインターフェロン−γであることが、特に好ましい。【0033】遺伝子組換型イヌインターフェロン−γとの組合せにおいて、前記X線の照射量は、総線量が0.5〜80Gyであり、より好ましくは総線量が1〜40Gy、さらに好ましくは総線量が4〜35Gyである。【0034】また、X線照射とともに利用される前述の遺伝子組換型イヌインターフェロン−γの投与量は、少なくとも1日1回、0.1〜4.0万単位で、好ましくは01.0〜2.0万単位で、より好ましくは1.0〜1.3万単位である。【0035】さらに、本発明は動物脳炎治療剤に係り、放射線照射とともに利用される、インターフェロンを有効成分として含む治療剤を提供する。具体的には、X線照射とともに利用されるイヌインターフェロン−γ、特に配列番号1で記述される遺伝子組換型のアミノ酸配列からなるイヌインターフェロン−γを含む治療剤が好適である。【0036】当該治療剤は、非経口投与又は経口投与することが好ましい。前記非経口投与としては、静脈投与がより好ましい。【0037】本発明に係る治療剤の投与量(有効成分)は、投与する動物の年齢、体重、合併症、投与時間、投与方法、剤型等によって適宜定められる。例えば、体重1Kgのイヌの場合には、1〜5回/週で投与することが好ましい。【0038】剤型は、固体又は液体の剤型、具体的には、錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が好ましい。また、製剤分野において常用される賦形剤(例えば、乳糖等、デンプン、マンニトール等)、希釈剤等を含有した適用な剤型を医薬組成物として投与してもよい。【0039】非経口投与のための剤型は、注射用製剤、点滴剤、外用剤、坐薬が好ましい。【0040】また、本発明に利用される治療剤は、配列番号1で記述される遺伝子組換型のアミノ酸配列からなるイヌインターフェロン−γを含有する医薬組成物を含み、当該組成物は、さらに酸化防止剤、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等)、滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングルコール6000等)、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を含有させてもよい。【0041】【実施例】以下、実施例を挙げて説明するが、本発明が実施例のみに限定されないことはいうまでもない。[症例1]オス、5才令で、体重4Kgのパグにおいて、てんかん様発作が観測された。当該パグをMR検査により、パグ脳炎と診断された。図2は、FLAIR像(脳炎の部分を白く描出する撮像方法をいう。)の結果を示す。先に説明したように、図2に示す脳の上部のやや左部の白色部分(高信号領域)がパグ脳炎と診断された部分を表す。【0042】一方、図1は、当該脳炎であると診断された部位を外科的に切除し、ヘマトキシリンエオシン染色法により染色された状態を示す図である。図1の上側は、30倍の顕微鏡写真であり、図1の下側は、300倍の顕微鏡写真である。以上の結果より、病理学的に脳炎であることは、ヘマトキシリンエオジン染色法により確認した。【0043】また、図1から、大脳右側側頭葉において著明な軟化、壊死が観察された。髄膜においては充血やリンパ球・形質細胞など炎症細胞の湿潤が認められ、脳溝に沿って深部にも波及していた。また、囲管性細胞侵潤も散見された。【0044】そのパグの治療として、放射線療法4Gy/回で5回(総照射量20Gy)を行った。同時に、配列番号1で記述されたアミノ酸配列からなるイヌインターフェロン−γを2万単位/回で投与した。その際、治療効果を比較・検討するために、MR検査を数度実行した。なお、本発明に係る治療を、1日1回の割合で施した。【0045】前述の放射線療法と同時にイヌインターフェロン−γが投与されたイヌの脳をMR検査したところ、図2の下側に示すFLAIR像が得られた。図2の上側に示すように、当該病変部(白く描出されている高信号部)の上部やや左寄りの白色部分であった箇所は黒色部分(低信号域)へと変化したことが観察された。また、図2の示す大脳皮質の左側には、炎症による両側脳室の圧排が著明に観察されたが(大脳皮質の左部の黒色部分に相当)、前述の放射線療法と同時にイヌインターフェロン−γを投与すると、黒色部分に相当する脳室は浮腫と脳炎が改善されたので、側脳室の圧排もほとんど観察されなくなった。【0046】合計3回のFLAIR像の結果から、治療前のMR検査の結果と比較すると、具体的には、図2の上側及び図2の下側のMR画像を対比とすると、図2の上側にて白色部分(病変)であった炎症部位の減少という著明な変化が観察された。さらに、臨床症状においても発作は止まり、他の症状、たとえば、旋回運動などの運動失調に関しても著しい軽減が確認された。【0047】[症例2]メス、2才令で、体重4.8Kgのパグにおいて、旋回運動が観察された。このパグをMR撮像したところ、パグ脳炎と診断された。図3は,MR検査により観察されたFLAIR像の結果を示す。先に説明したように、図3の上側に示す大脳の上左部の白色部分(高信号域)がパグ脳炎と診断された部分を表す。図3から、後述する治療前には、大脳皮質のやや左側の広範囲に、一部壊死を伴う均一な高信号域(炎症に相当する部位)が観察された。【0048】症例2におけるパグの治療としては、放射線療法4Gy/回で5回(総照射量20Gy)を行った。同時に、配列番号1で記述されたアミノ酸配列からなるイヌインターフェロン−γを2万単位/回で投与した。その際、治療効果を比較・検討するために、MR検査を数度実行した。なお、本発明に係る治療を、1日1回の割合で施した。【0049】前述の放射線療法と同時にイヌインターフェロン−γが投与されたイヌの脳を、治療開始73日目にMR検査したところ、図3の下側に示すFLAIR像が得られた。【0050】図3の上側に示した脳の上左部の白色部分(高信号を呈する病変部)はやや改善され、本発明に係る放射治療法と同時にイヌインターフェロン−γの投与により、炎症部が縮小していることが確認された。【0051】症例1と同様に、症例2においても、合計3回のFLAIR像の結果から、治療前のMR検査の結果と比較すると、具体的には、図3の上側及び図3の下側のFLAIR像を対比とすると、図3の上側にて白色部分であった、高信号を呈する炎症部の縮小が観測された。また、炎症により圧排された脳室の縮小も改善された。さらに、臨床症状においても旋回運動などの運動失調に関しても軽減が確認された。【0052】以上の結果から、放射線治療法とインターフェロンの併用により、慢性髄膜性脳炎(パグ脳炎)の症状が改善した。【0053】【発明の効果】本発明によれば、放射線照射とインターフェロン投与の併用により、今迄治療方法が確立されていなかった脳炎の治療が実現される。【0054】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】 本発明の症例1にて観察されたパグ脳炎において、ヘマトキシリンエオジン(以下「HE」という。)染色法により染色された部位を示す図である。図1の上側は、HE染色の30倍の顕微鏡写真であり、図1の下側は、HE染色の300倍の顕微鏡写真である。なお、白黒表示の図1において、黒色に表示されている部分は、実際の測定時には赤紫色で観察される。【図2】 本発明の症例1における治療前後の脳を比較したMR検査によるFLAIR像を示す。図2の上側は治療開始前で、図2の下側は治療開始73日目のFLAIR像を、それぞれ示す。【図3】 本発明の症例3における治療前後の脳を比較したMR検査によるFLAIR像を示す。図3の上側は治療開始前で、図3の下側は治療開始73日目のFLAIR像を、それぞれ示す。 イヌのパグ脳炎の治療方法であって、(1) 放射線を照射する工程と、(2) インターフェロン−γを投与する工程と、を備える治療方法。 前記放射線は総線量0.5 〜 80Gyである請求項1記載の治療方法。 前記インターフェロン−γはイヌインターフェロン−γである請求項1又は2記載の治療方法。 前記イヌインターフェロン−γは配列番号:1で記述されるアミノ酸配列からなるイヌインターフェロン−γである請求項3記載の治療方法。 前記イヌインターフェロン−γは、少なくとも1日1回、0.1 〜 4.0万単位で投与される請求項3又は4記載の治療方法。