タイトル: | 特許公報(B2)_細菌性毒素の検出方法および検出キット |
出願番号: | 2003099944 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 33/53,G01N 33/566 |
富山 哲雄 茶圓 博人 JP 4392183 特許公報(B2) 20091016 2003099944 20030403 細菌性毒素の検出方法および検出キット 株式会社 富山研究所 503125961 株式会社林原生物化学研究所 000155908 津国 肇 100078662 篠田 文雄 100075225 富山 哲雄 茶圓 博人 20091224 G01N 33/53 20060101AFI20091203BHJP G01N 33/566 20060101ALI20091203BHJP JPG01N33/53 DG01N33/566 G01N 33/48-98 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2002−328128(JP,A) 4 2004309198 20041104 7 20060327 海野 佳子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ベロ毒素による赤血球の溶血を特異的に阻害する抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体を用いるベロ毒素検出法に関する。更に詳しくは、培養菌液、食品、糞便中などの各種検体中に存在し得るベロ毒素を検出する方法に関する。【0002】【従来の技術】ヒトおよび動物の大腸内に棲息する大腸菌は、通常は病原性を示さないが、まれにベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli、EHEC)が存在する。このようなEHECとしては、O157、O26、O128、O111、O145などの血清型を有する50種類以上の大腸菌菌種が報告されているが、これらの菌種、例えばO157についても、毒素産生株と非産生株とが知られている。【0003】このEHECが産生するベロ毒素は、アフリカミドリザルの腎尿細管(ベロ細胞)に強い毒性を示す。このベロ毒素は、I型(VT I)およびII型(VT II)に分類されるが、いずれも分子量約70,000のタンパク質であり、互いに約60%の相同性を有する。いずれの型のベロ毒素も、AおよびBの二つのサブユニットからなり、このうちBサブユニットが細胞結合性を有し、細胞膜上の糖脂質を標的として結合する。細胞膜に結合したベロ毒素のうちAサブユニットだけが、グロボトリアオシルセラミドを受容体として細胞内に入り、タンパク質合成を阻害することで毒性を発揮して溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome、HUS)を惹起する。HUSは、命を脅かす疾患であり、腎糸球体損傷、溶血性貧血、血小板減少および急性腎不全などを伴い、HUS患者の約15%は死亡するか、または慢性の腎不全を患う。EHECに感染した患者に対しては、抗生剤を投与することができないため、現在は、感染後にHUSを発症した患者に対しては、輸血および血液透析しかHUSの治療法はない。【0004】したがって、ベロ毒素を検出することによりベロ毒素産生株を同定したり、ベロ毒素含有検体を確認することにより、EHEC感染を未然に防ぐことが重要である。【0005】ベロ毒素の検出法としては、主に2種類の方法がある。一方は、酵素抗体法(Enzyme immunoassay、EIA)であり、酵素標識抗体を用いて免疫学的にベロ毒素を検出する方法である。この方法は、感度、特異性ともに優れているが、用いる試薬が高価であり、また一定時間毎に試薬の添加、洗浄を繰り返す煩雑な手技を要するために多くの労力を要し、臨床検査での応用において大きな負担となっている。またもう一方の方法は、精製抗体をポリスチレンラテックスに感作させ、マイクロプレート上で逆受身凝集反応を行なわせる比較的簡便な方法であるが、検出感度は、約2ng/ml程度と高くなく、EIAには及ばず、十分な感度が得られない。【0006】このようなことから、ベロ毒素を高感度で特異的かつ容易に検出する方法が緊急に求められている。【0007】一方、ベロ毒素は、動物の赤血球を溶血することが報告されており(L. Beutin et al., J. Clinical Microbiology, 27: 2558, 1989)(例えば、非特許文献1を参照)、この原理を応用したスクリーニング培地が市販されている(例えば、エンテロヘモリジン血液寒天培地、関東化学株式会社)。しかし、溶血性を示す細菌は数多く存在するため、この培地は、あくまでスクリーニング用であり、溶血性を示した細菌集落については、EIAなどを行なって、ベロ毒素産生の確認を行なう必要があった。【0008】【非特許文献1】エル・ボイチン(L. Beutin)ほか、「ジャーナル・オブ・クリニカル・ミクロバイオロジー」(J. Clinical Microbiology)、(米国)、1989年、第27巻、p.2558【0009】【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、ベロ毒素免疫抗体またはベロ毒素受容体が、ベロ毒素による赤血球の溶血を特異的に阻害すること、そしてこの阻害作用を利用することによりベロ毒素の検出、確認を容易に行うことができることを見出して、本発明を完成するに至った。【0010】【課題を解決するための手段】本発明は、ベロ毒素を検出する方法であって、ベロ毒素を含む可能性のある被験検体を抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体で処理し、ついで赤血球を添加して、赤血球の溶血の有無を観察することによる方法に関する。【0011】本発明はまた、抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体を含む、ベロ毒素検出用キットにも関する。【0012】本発明の方法においては、ベロ毒素と高感度でかつ特異的に結合する抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体を用い、これでベロ毒素を含む可能性のある被験検体を処理することにより、検体中に存在する可能性のあるベロ毒素を抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体と特異的に結合させる。ついで赤血球を添加して、赤血球が溶血するか否かを観察する。検体中にベロ毒素が存在する場合、ベロ毒素は、抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体と結合して中和されてしまうため、後に赤血球を添加しても、ベロ毒素は、赤血球を溶血させない。したがって、ベロ毒素が存在する検体の場合、抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体で処理した検体と、抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体で処理しない対照検体の両方に赤血球を添加すると、抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体で処理した検体は溶血を示さないが、処理しない対照検体は、溶血を示す。このため、処理した検体と対照検体が溶血を示すか否かを観察するだけで、非常に高感度で、かつ安価で容易にベロ毒素の有無を判断することができる。【0013】【発明の実施の形態】本発明の方法においては、ベロ毒素と特異的に結合する抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体であれば、どのような物質も用いることができる。【0014】本発明の方法において用いうる抗ベロ毒素抗体は、抗原抗体反応によりベロ毒素と結合する抗体であればどのようなものでも用いることができる。抗ベロ毒素抗体は、常法により、ベロ毒素をホルマリン処理してウサギ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット、モルモットなどの動物を免疫し、動物から採取した血液から抗体を精製することにより容易に得ることができる。ベロ毒素に対するモノクローナル抗体も用いることができる。このような抗ベロ毒素抗体としては、市販の、例えば抗ベロ毒素ウサギ免疫血清(Anti Vero Toxin-I Rabbit, Anti Vero Toxin-II Rabbit、株式会社イムノプローブ製)を用いることができる。【0015】また、本発明の方法において用いうるベロ毒素受容体は、ベロ毒素が細胞に結合して何らかの細胞応答を惹起する際にベロ毒素を特異的に認識する物質である。このようなベロ毒素受容体としては、ガラクトシルグルコシド、カルボシランデンドリマーをコアとした糖鎖クラスター、フルオラス保護基を用いたスフィンゴ糖脂質などを用いることができる。なかでもガラクトシルグルコシドは、ベロ毒素が赤血球膜に結合する際にベロ毒素受容体として機能する物質であり、本発明の方法においても、好ましく使用することができる。【0016】ベロ毒素受容体として特に好ましく使用することができるガラクトシルグルコシド、特にα−D−ガラクトシルα−D−グルコシドは、特開平10−304881号に開示されている方法、またはJ. Appl. Glycosci., Vol. 48, No. 2, 135-137, 2001に開示されている方法により合成することができる。すなわち、トレハロースとD−ガラクトースおよびリン酸二水素ナトリウムを含む水溶液にサーモアナエロビウム・ブロッキイ由来のトレハロースホスホリラーゼを加え、60℃で72時間反応させ、本酵素反応液から、トレハラーゼ処理、カラムクロマトグラフィー処理、脱塩、精製、真空乾燥などの操作を経て、純度98%以上のガラクトシルグルコシド高含有粉末を得ることができる。また、市販のガラクトシルグルコシド(林原生物化学研究所)を用いることもできる。【0017】本発明の方法においては、抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体は、生理食塩水溶液または適当な緩衝液で適当な濃度に希釈した溶液として用いるのが好都合である。ベロ毒素受容体としてガラクトシルグルコシドを用いる場合には、約10%濃度の生理食塩水溶液を好ましく使用することができる。また抗ベロ毒素抗体として抗ベロ毒素ウサギ免疫血清を用いる場合は、生理食塩水で抗体の力価に応じて適当な倍率に希釈したものを好ましく使用することができる。【0018】本発明の方法において用いうる赤血球としては、ヒツジ、ウマ、ウサギ、ニワトリ、ヤギなどの動物の赤血球を用いることができるが、その入手のし易さから、ヒツジ赤血球を好ましく用いることができる。本発明の方法において赤血球を検体に加える際には、赤血球を生理食塩水、緩衝液などに適当な濃度で含む懸濁液として用いるのが好都合である。このような懸濁液としては、生理食塩水に約1%(v/v)の赤血球を含む懸濁液を好ましく使用することができる。【0019】また本発明の方法は、ベロ毒素を含む可能性があり、ベロ毒素の存在の有無を調べる必要のあるものであれば、血液、糞便、尿など各種生物学的検体のほか、食品、飲料水、河川水など各種検体に使用することができる。また、ベロ毒素産生株であることが疑われる細菌について調べる場合には、細菌の培養上清を検体として本発明の方法を使用することができる。【0020】本発明のベロ毒素を検出する方法を実施するには、具体的には、ベロ毒素の存在が疑われる検体(例えば、血液、糞便、尿などの生物学的検体、食品、飲料水、細菌の培養上清など)を、必要に応じて生理食塩水、緩衝液などで適宜溶解、希釈し、これに適宜希釈した抗ベロ毒素抗体または適当な濃度のベロ毒素受容体溶液を加える。また、抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体溶液の代わりに生理食塩水を加えたものを対照とする。ついで適当な濃度の赤血球を含む懸濁液を添加し、約37℃で一定時間反応させて、赤血球が溶血するか否かを観察する。その結果、抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体を加えたものが溶血せず、代わりに生理食塩水を加えた対照が溶血した場合には、試験した検体は、ベロ毒素陽性であると判定することができる。【0021】本発明の方法を用いることにより、以下のような効果が得られる。【0022】1.臨床細菌検査において、下痢患者の糞便など各種臨床検査試料由来の臨床分離菌がベロ毒素産生株か否かの判定を容易に安価に行うことができる。【0023】2.下痢患者の糞便中のベロ毒素を高感度で検出することによって、EHEC感染症の診断を容易に行うことができる。【0024】3.食品中のベロ毒素を高感度、安価に検出することによって、EHECにより汚染された食品を容易に識別することができ、ベロ毒素およびEHECによる食中毒を未然に防ぐことができる。【0025】【実施例】以下に、本発明の方法を実施例により説明するが、これにより本発明の方法が制限されるものではない。【0026】例121株の臨床分離大腸菌をペプトンブロス中、37℃で一夜培養し、3000rpmで30分間遠心分離して、上清を分取した。各上清を生理食塩水で1:20に希釈し、2本の試験管に希釈した上清各1mlを分注した。1本には、1:100に生理食塩水で希釈した抗ベロ毒素ウサギ免疫血清(株式会社イムノプローブ製)溶液0.1mlまたは10%ガラクトシルグルコシド生理食塩水溶液(株式会社林原生物化学研究所製)0.1mlを添加した。ほかの1本には、対照として生理食塩水0.1mlを添加した。両者に1%(v/v)ヒツジ赤血球生理食塩水懸濁液0.1mlを加え、37℃で12時間反応させた。その結果、抗ベロ毒素ウサギ免疫血清またはガラクトシルグルコシドを添加した試験管のみが溶血を示さず、対照試験管が溶血を示した場合に、大腸菌をベロ毒素産生菌と判定した。【0027】また同じ21株の臨床分離大腸菌の培養上清について、オーソVT1/VT2試薬(Ortho Clinical Diagnostics社)を用いるEIA法によってもベロ毒素陽性であるか否かを判定した。その結果を表1に示す。【0028】【表1】【0029】この結果より、本発明の方法では、抗ベロ毒素ウサギ免疫血清またはガラクトシルグルコシドのいずれを用いた場合も、オーソVT1/VT2試薬を用いたEIA法による結果と完全に一致する結果を示すことが明らかになった。【0030】例2大腸菌O157を、ペプトンブロス中、37℃で一夜培養し、3000rpmで30分間遠心分離して、上清を分取した。上清中のベロ毒素濃度をオーソVT1/VT2試薬(Ortho Clinical Diagnostics社)を用いて測定したところ、280pg/mlであった。このベロ毒素を含む上清を生理食塩水で1.25〜20pg/mlの濃度に希釈し、希釈した上清各1mlを試験管に分注し、例1に記載したのと同じ方法でベロ毒素の存在を判定した。その結果得られた、ベロ毒素を検出することができる感度を、EIA法(オーソVT1/VT2試薬による)による感度と比較した。その結果を表2に示す。【0031】【表2】【0032】この結果より、本発明の方法では、抗ベロ毒素ウサギ免疫血清またはガラクトシルグルコシドのいずれを用いた場合も、2.5pg/mlの濃度までベロ毒素を検出することができ、オーソVT1/VT2試薬を用いるEIA法よりも約4倍の感度を示すことが明らかになった。 下記の工程を含んでなるベロ毒素の検出方法:(1)被験検体を抗ベロ毒素抗体またはベロ毒素受容体で処理する工程;(2)上記処理後の検体に赤血球を添加して赤血球の溶血の有無を観察する工程;(3)赤血球の溶血の有無を、被験検体を抗ベロ毒素抗体または抗ベロ毒素受容体で処理することなく赤血球を添加した対照の検体と比較する工程。 ベロ毒素受容体としてガラクトシルグルコシドを用いる請求項1記載のベロ毒素の検出方法。 赤血球としてヒツジ赤血球を用いる請求項1または2記載のベロ毒素の検出方法。 ベロ毒素受容体としてガラクトシルグルコシドを含むベロ毒素検出用キット。