生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_徐放性ハイドロゲル製剤
出願番号:2003071657
年次:2010
IPC分類:A61K 9/06,A61K 47/30,A61K 47/42


特許情報キャッシュ

田畑 泰彦 JP 4459543 特許公報(B2) 20100219 2003071657 20030317 徐放性ハイドロゲル製剤 株式会社メドジェル 503265876 大野 聖二 230104019 森田 耕司 100106840 田中 玲子 100105991 田畑 泰彦 20100428 A61K 9/06 20060101AFI20100408BHJP A61K 47/30 20060101ALI20100408BHJP A61K 47/42 20060101ALI20100408BHJP JPA61K9/06A61K47/30A61K47/42 A61K 9/00 A61K 47/00 特開平08−325160(JP,A) 特開2002−145797(JP,A) 特開2001−316282(JP,A) 1 2004277348 20041007 12 20060316 長部 喜幸 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、薬物の放出の方向を制御しうる徐放性製剤に関する。【0002】【従来の技術】生体内の薬物濃度を長期間一定に保持するために、薬物を生体吸収性高分子のハイドロゲルやマイクロカプセル中に封入することにより、その放出を制御する方法が知られている。このような目的のために用いられる生体吸収性高分子としては、コラーゲン、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−γ−グルタミン酸等の、多くの種類の天然または合成高分子が報告されている。【0003】徐放性製剤を生体内に埋入して薬物を放出させる場合、埋入部位から病巣の存在している方向など特定の方向にのみ薬物を徐放化することができれば、それ以外の方向への薬物の放出による周辺正常組織への障害性、毒性を抑制することができ、副作用の軽減の点からも有利であると考えられる。しかし、これまでに、放出の速度の制御については種々の方法が試みられているが、放出の方向性を制御させる方法は知られていなかった。【0004】本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。【0005】【特許文献1】特許2702729号【発明が解決しようとする課題】本発明は、薬物の放出の方向を制御しうる徐放性製剤を提供することを目的とする。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは、生体内における生体吸収性高分子ハイドロゲルの分解にともなって薬物が放出される特徴を有する生体吸収性高分子ハイドロゲル中に薬物の濃度勾配を形成するように徐放性製剤を作製することにより、徐放の方向性を制御しうることを見いだして本発明を完成させた。すなわち、本発明は、薬物および生体吸収性高分子ハイドロゲルを含み、ハイドロゲル中に薬物の濃度勾配が形成されていることを特徴とする徐放性製剤を提供する。好ましくは、ハイドロゲルはゼラチンハイドロゲルである。【0007】本発明の徐放性製剤においては、薬物はハイドロゲルを構成する生体吸収性高分子と相互作用しているため、ハイドロゲル内で自由に拡散することができず、ハイドロゲル自身が分解して高分子が水可溶化しない限り放出されない。すなわち、薬物はハイドロゲルの分解にともなって徐放化されるため、ハイドロゲル内に薬物の濃度勾配を形成することにより、薬物濃度の高い領域からより多くの薬物が放出され、その結果として徐放に方向性をもたせることができる。【0008】【発明の実施の形態】本発明において生体吸収性高分子ハイドロゲルを作製するために使用される生体吸収性高分子とは、徐放する薬物と物理化学的な相互作用によって複合体を形成することが可能な高分子であって、生体内で加水分解および酸素分解により分解されるか、あるいは、生体のもつ生理活性物質、例えば酵素等の働きによって加水分解されるものである。具体的にはキチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、デンプン、ペクチン等の多糖類、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、アルブミン等のタンパク質、ポリ−γ−グルタミン酸、ポリ−L−リジン、ポリアルギニンなどのポリアミノ酸、ならびにそれらの誘導体など、生体吸収性の合成高分子、あるいは上記化合物の混合物や化学結合物などが挙げられ、好ましくはゼラチンあるいはその誘導体である。ここで誘導体とは、薬物と生体吸収性高分子ハイドロゲルとの複合体を形成するのに適した形に修飾したものを意味し、具体的には、グアニジル基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、硫酸基、リン酸基、あるいはアルキル基、アシル基、ベンジル基などの疎水性の残基、および低分子量の疎水性物質等を導入したものが挙げられる。天然の生体吸収性高分子の由来は特に限定されず、ヒトをはじめ、ブタ、ウシ、サメ等の魚類など、種々の動物由来のものが用いられる。これらは天然に得られるものであっても、微生物を用いた発酵法、あるいは遺伝子組換え操作により得られるものであってもよい。あるいは、化学合成により製造されるものであってもよい。【0009】生体吸収性高分子としては、好ましくはゼラチンが用いられる。ゼラチンは、牛、豚、魚類などを始めとする各種の動物種の皮膚、骨、腱などの身体のあらゆる部位から採取できるコラーゲン、あるいはコラーゲンとして用いられている物質から、アルカリ加水分解、酸加水分解、および酵素分解等の種々の処理によって変性させて得ることができる。遺伝子組換え型コラーゲンの変性体ゼラチンを用いてもよい。【0010】本発明において薬物のより優れた徐放性制御効果を得るためには、生体吸収性高分子ハイドロゲルを水不溶性とすることが好ましい。このことにより、生体吸収性高分子ハイドロゲルの生体での分解性に応じて薬物の放出を自由に制御することが可能となる。すなわち薬物の徐放速度を生体における生体吸収性高分子ハイドロゲルの分解によって制御することが可能となる。【0011】生体吸収性高分子ハイドロゲルは、種々の化学的架橋剤を用いて生体吸収性高分子の分子間に化学架橋を形成させることにより不溶化することができる。化学的架橋剤としては、例えばグルタルアルデヒド、例えばEDC等の水溶性カルボジイミド、例えばプロピレンオキサイド、ジエポキシ化合物、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、イミダゾール基などの間に化学結合を作る縮合剤を用いることができる。好ましいものは、グルタルアルデヒドである。また、生体吸収性高分子は、熱脱水処理、紫外線、ガンマ線、電子線照射によっても化学架橋することもできる。また、これらの架橋処理を組み合わせて用いることもできる。さらに、塩架橋、静電的相互作用、水素結合、疎水性相互作用などを利用した物理架橋によりハイドロゲルを作製することも可能である。【0012】生体吸収性高分子の架橋度は、所望の含水率、すなわちハイドロゲルの生体吸収性のレベルに応じて適宜選択することができる。生体吸収性高分子としてゼラチンを用いる場合、ハイドロゲルを調製する際のゼラチンと架橋剤の濃度の好ましい範囲は、ゼラチン濃度1〜20w/w%、架橋剤濃度0.01〜1w/w%である。架橋反応条件は特に制限はないが、例えば、0〜40℃、好ましくは25−30℃で、1〜48時間、好ましくは12−24時間で行うことができる。一般に、ゼラチンおよび架橋剤の濃度、架橋時間が増大するとともにハイドロゲルの架橋度は増加し、生体吸収性は低くなる。【0013】ゼラチンの架橋は熱処理によっても行なうことができる。熱処理による架橋の例は以下のとおりである。ゼラチン水溶液(10重量%程度が好ましい)をプラスチックシャーレに流延し、風乾することによってゼラチンフィルムを得る。そのフイルムを減圧下、好ましくは10mmHg程度で通常110〜160℃、好ましくは120〜150℃、通常1〜48時間、好ましくは6〜24時間放置することによって行なう。また、紫外線によりゼラチンフィルムを架橋する場合は、得られたゼラチンフィルムを殺菌ランプの下において通常室温、好ましくは0〜40℃で放置する。また、ゼラチン水溶液を凍結乾燥することによってスポンジ状成形体を得る。これを同様に、熱処理および紫外線、ガンマ線、電子線によって架橋することができる。あるいは、上述の架橋法を組み合わせて用いることもできる。【0014】生体吸収性高分子ハイドロゲルの形状は、特に制限はないが、例えば、円柱状、角柱状、シート状、ディスク状、球状、ペースト状などがある。円柱状、角柱状、シート状、ディスク状のものは、埋込片として用いるのに特に適している。【0015】円柱状、角柱状、シート状、ディスク状のゼラチンハイドロゲルは、ゼラチン水溶液に架橋剤水溶液を添加するか、あるいは、架橋剤水溶液にゼラチンを添加し、所望の形状の鋳型に流し込んで、架橋反応させることにより調製することができる。また、成形したゼラチンゲルにそのまま、あるいは乾燥後に架橋剤水溶液を添加してもよい。架橋反応を停止させるには、エタノールアミン、グリシン等のアミノ基を有する低分子物質に接触させるか、あるいは、pH2.5以下の水溶液を添加する。反応に用いられた架橋剤および低分子物質を完全に除去する目的で、得られたゼラチンハイドロゲルは、蒸留水、エタノール、2−プロパノール、アセトン等により洗浄し、製剤調製に供される。【0016】本発明の生体吸収性高分子ハイドロゲルは適宜、適当な大きさ及び形に切断後凍結乾燥し滅菌して使用することができる。凍結乾燥は、例えば、生体吸収性高分子ハイドロゲルを蒸留水に入れ、液体窒素中で30分以上、又は−80℃で1時間以上凍結させた後に、凍結乾燥機で1〜3日間乾燥させることにより行うことができる。【0017】本発明において徐放性製剤を製造するために使用される薬物としては、抗腫瘍剤、抗菌剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗エイズ剤、ホルモンなどの低分子薬物、および生理活性ペプチド、蛋白質、糖蛋白質、多糖類、核酸等の薬物が挙げられる。特に10,000以下程度の分子量を持つ薬物が好ましい。これらの薬物は天然から得られる物質でも合成により製造される物質でもよい。薬物として特に好ましいものは抗腫瘍剤であり、中でも、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、オキザリプラチン、オルマプラチン、CI−973、JM−216などの白金系抗腫瘍剤は本発明の徐放性製剤において用いるのに適している。【0018】本発明の薬物含有徐放性生体吸収性高分子ハイドロゲル製剤は、例えば、上記の凍結乾燥した生体吸収性高分子ハイドロゲルに薬物溶液を滴下するか、あるいは生体吸収性高分子を薬物溶液中に浸漬させて、ハイドロゲル内に薬物を含浸させることにより得ることができる。生体吸収性高分子ハイドロゲル中に薬物の濃度勾配を形成させるためには、シート状の生体吸収性高分子ハイドロゲルの一方の面から薬物溶液を滴下するか、またはディフュージョンチャンバ等の装置を用いて、濃度の異なる薬物溶液の入ったセルの間に生体吸収性高分子ハイドロゲルを配置して薬物を含浸させることができる。【0019】生体吸収性高分子に対する薬物のモル比は約5倍量以下であることが好ましい。さらに好ましくは、生体吸収性高分子に対して薬物は約5〜約1/104倍量のモル比である。この含浸操作は、通常、4−37℃で15分間−1時間、好ましくは4−25℃で15−30分間で終了し、その間にハイドロゲルは薬物溶液で膨潤し、薬物が生体吸収性高分子と物理化学的相互作用によって複合体を形成し、薬物が生体吸収性高分子ハイドロゲル内に固定される。薬物と生体吸収性高分子ハイドロゲルとの結合には、クーロン力、水酸結合力、疎水性相互作用などの物理学的相互作用の他、薬物の官能基または金属とハイドロゲル上の官能基との間の配位結合などが単独あるいは複合的に関与していると考えられる。【0020】本発明の薬物と生体吸収性高分子ハイドロゲルとの複合体においては、複合体中に取り込まれている薬物は、生体吸収性高分子ハイドロゲルが生体内で分解されるに従って複合体外部へと徐々に放出される。この放出速度は、使用する生体吸収性高分子ハイドロゲルの生体における分解および吸収の程度、ならびに複合体内での薬物と生体吸収性高分子ハイドロゲルとの結合の強さの程度および安定性により決定される。生体吸収性高分子ハイドロゲルの生体における分解および吸収の程度は、ハイドロゲル作製時における架橋の程度を調節することにより調節することができる。生体吸収性高分子としてゼラチンを用いる場合、ハイドロゲルの架橋度は含水率を指標として評価することができる。含水率とは膨潤ハイドロゲルの重量に対するハイドロゲル中の水の重量パーセントである。含水率が大きければハイドロゲルの架橋度は低くなり、分解されやすくなる。好ましい徐放性効果を示す含水率としては約80〜99w/w%であり、さらに好ましいものとしては、約95〜98w/w%のものが挙げられる。【0021】本発明において、薬物として核酸等の負に荷電した物質を用いる場合には、薬物と生体吸収性高分子ハイドロゲルとの安定な複合体が形成されるよう、生体吸収性高分子が正に荷電していることが好ましい。薬物の有する負の電荷と、生体吸収性高分子の有する正の電荷とが強力に結合(イオン結合)することによって安定な生体吸収性高分子ハイドロゲル複合体が形成される。生体吸収性高分子を正に荷電させるためには、生体吸収性高分子に予めアミノ基等を導入することによってカチオン化することができる。このことにより、生体吸収性高分子ハイドロゲルと薬物との結合力が増し、より安定した生体吸収性高分子ハイドロゲル複合体を形成することができる。【0022】カチオン化の工程は、生理条件下でカチオン化する官能基を導入し得る方法であれば特に限定されないが、生体吸収性高分子の有する水酸基あるいはカルボキシル基等に1、2または3級のアミノ基またはアンモニウム基を温和な条件下で導入する方法が好ましい。例えばエチレンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン等のアルキルジアミンや、トリメチルアンモニウムアセトヒドラジド、スペルミン、スペルミジンまたはジエチルアミド塩化物等を、種々の縮合剤、例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、塩化シアヌル、N,N'−カルボジイミダゾール、臭化シアン、ジエポキシ化合物、トシルクロライド、ジエチルトリアミン−N,N,N',N'',N''−ペンタン酸ジ無水物等のジ無水物化合物、トリシルクロリド等を用いて反応させる方法がある。中でもエチレンジアミンを反応させる方法が簡便且つ汎用性があり好適である。【0023】本発明の徐放性製剤には、得られるハイドロゲルの安定性や薬物放出の持続性等の目的に応じて、所望により他の成分を加えることもできる。他の成分としては例えばアミノ糖あるいはその高分子量体やキトサンオリゴマー、塩基性アミノ酸あるいはそのオリゴマーや高分子量体、ポリアリルアミン、ポリジエチルアミノエチルアクリルアミド、ポリエチレンイミン等の塩基性高分子等が挙げられる。【0024】本発明の薬物含有生体吸収性高分子ハイドロゲルは任意の方法で生体に投与することができるが、目的とする特定部位で薬物を方向性をもって持続的に放出させるためには局所投与が特に好ましい。薬物含有生体吸収性高分子ハイドロゲルは、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することにより徐放性製剤を調製することができる。そのような担体としては公知のものが使用できる。さらに徐放効果を調節する各種添加剤を含めることもできる。本発明を製剤化するにあたり、除菌濾過等の無菌化工程を経ることが更に望ましい。【0025】本発明の徐放性製剤は、目的に応じて種々の形状の製剤化が可能である。例えば、粒状、円・角柱状、シート状、ディスク状、スティック状、ロッド状等の固形、半固形製剤が挙げられる。好ましくは目的とする特定部位での徐放効果に優れ、また局所投与に好適な固形製剤である。例えばシート状に製した本発明の徐放性製剤は、局所に埋め込むのに適している。【0026】本発明の製剤の投与量は、治療的応答をもたらすに十分であるように適宜選択することができる。通常成人患者当たり約0.01〜約10,00μgの範囲、好ましくは、約0.1〜約1000μgの範囲から投与量が選択され、これを病巣またはその周辺部位に留置または注入することができる。また1回の投与で効果が不十分であった場合は、投与を複数回行うことも可能である。【0027】本発明の徐放性生体吸収性高分子ハイドロゲル製剤は、薬物の徐放性効果と安定化効果を持つため、所望の部位において薬物を制御された方向性をもって長時間にわたって放出することができる。そのため、薬物の作用が病巣部位内で効果的に発揮される。【0028】【実施例】以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。【0029】実施例1.ゼラチンハイドロゲルシートの作製ゼラチンとしては、アルカリ処理された牛骨由来の等電点5.0、分子量100,000のゼラチン(新田ゼラチン(株)大阪)を使用した。5%ゼラチン水溶液を作製し、室温で所定量の25%グルタルアルデヒド水溶液を滴下した。この水溶液1mlを2x2cm2のポリテトラフルオロエチレン容器にキャスティングし、4℃にて一晩安置し、架橋ゼラチンハイドロゲルを作製した。未反応のグルタルアルデヒドを除去すべく、100mMグリシン水溶液による洗浄を1時間、さらに50mlの2回蒸留水(DDW)で1時間の洗浄を2回行った。−80℃で3時間凍結させた後、凍結乾燥器にて48時間乾燥して、架橋ゼラチンシートを得た。【0030】含水率の測定は以下のようにして行った。凍結乾燥したハイドロゲルシートをのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、PH7.4)20ml中で37℃で24時間静置することにより膨潤させた。膨潤後、シート表面の水分を薬包紙を用いて除去し、重量(Ws)を測定した。その後、真空乾燥オーブン(DN-30S型、佐藤真空機工業(株)東京)にて、60℃で6時間乾燥させ、その後のシート重量(Wd)を測定した。含水率は((Ws−Wd)/Ws)×100を用いて算出した。ハイドロゲル作製時のグルタルアルデヒドの濃度を変化させることにより、種々の含水率のゼラチンハイドロゲルを得た。【0031】【表1】【0032】比較例として、ポリ−γ−グルタミン酸(分子量60,000)を1.5wt%水溶液とし、これにエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)デナコールEX−100)を50wt%加え、室温で24時間放置することで、架橋反応を行った。エポキシで架橋されたゲルをDDWにて1時間2回の洗浄を行って、凍結乾燥することにより架橋ポリ−γ−グルタミン酸ハイドロゲルシートを作製した。このポリグルタミン酸ハイドロゲルの含水率は98%であった。【0033】カチオン化ゼラチンは以下のようにして作製した。ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製 豚皮由来 分子量100,000 等電点9)10gを4%(w/w)となるように0.1Mリン酸緩衝液に溶解した。これに27.9gのエチレンジアミンを混合した後、塩酸にてpHを5.0に調整した。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド5.3gを加えた後、リン酸緩衝液にて500mLとした。37℃で18時間反応させた後、セルロースチューブ(分画分子量12000−14000)を用いて、超純水に対して透析した。超純水は透析開始後1、2、4、8、12、24、36および48時間後に交換し、未反応のエチレンジアミンおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドを除去した。得られたサンプルを凍結乾燥し、カチオン化ゼラチンを得た。TNBS法によりカチオン化ゼラチンのアミノ基を定量することにより、ゼラチンのカチオン化度を求めたところ、反応に用いたゼラチンの47%のカルボキシル基がアミノ基に変換されたことがわかった。【0034】実施例2.CDDP含浸ゼラチンハイドロゲルシートの作製薬物としてCDDP(日本化薬(株)(東京))を使用して、徐放性製剤を調製した。超音波ホモジナイザー(Ultrasonic generator MODEL US150, Nisei)を用いて2mg/mlのCDDP水溶液を作製した。このCDDP水溶液をゼラチンシートあるいはポリ−γ−グルタミン酸シートの中央部に滴下し、室温で24時間静置して、CDDPをゼラチンシートおよびポリ−γ−グルタミン酸シートに含浸させた。この際に用いた水溶液量はシート全体を均一に膨潤するのに十分な量であった。その後、EOG滅菌を40℃で24時間行った。【0035】このようにして得られたCDDP含浸シートをSEM試料台に両面粘着テープで付着し、蒸着装置にてプラチナコーティングした後、走査電子顕微鏡(SEM;Hitachi, Model S-450, 日立製作所(株)東京)によりシート表面の観察を行った。SEMの条件は、電圧15kv、倍率30−200倍であった。CDDPを滴下したシート表面あるいはシート内部には、材料表面にCDDPの結晶が多数認められた。一方、シートの裏面にはCDDP結晶が認められなかった。これはいずれのシートでも同様であった。【0036】実施例3.インビトロ放出実験得られたCDDP水溶液含浸後の2x2cmゼラチンシート(含水率97%)を0.1%Tween80を含むリン酸緩衝液(PBS、pH7.4)10mlに入れ、37℃の恒温槽中で60回/分で振盪し、所定時間に上清5mlをサンプリングし、ただちに同量の0.1%Tween80/PBSを加え、恒温槽に戻した。サンプル中のPt濃度の定量は原子吸光装置(Hitachi Model Z-8000, 日立製作所、東京)を用いて各検体を3回ずつ測定した。結果を図1に示すが、CDDPは24時間後においてもゲル中に残存している。この結果は、CDDPが含浸過程において、ゼラチン分子と物理化学的に相互作用されたことにより、ゲル中でのCDDPの単純拡散によるPBS中への放出が抑制されたものと考えられる。相互作用のない場合には3時間程度でCDDPはすべて放出されてしまうことがわかっている。しかしながら、いずれの含水率においても、完全には放出は抑制されず、10−40%程度の放出が見られる。これは、含水率が高いほど架橋に関与していないゼラチン分子がより多く存在し、PBS中のような架橋ハイドロゲルの分解しない条件においても、未架橋の水可溶性のゼラチンとともにCDDPが放出されたと考えられる。【0037】次に、CDDPを滴加したシート面(含浸側)と非含浸側からの放出の差異を検討するために、ディフュージョンチャンバモデルを使用した。ディフュージョンチャンバの各ウエルに0.1%Tween80を含むPBS4mlを入れ、前述のインビトロ放出実験と同様の条件で振盪し、所定時間に各ウエルから2mlずつサンプリングし、ただちに同量の0.1%Tween80/PBSを加えた。Pt濃度の定量は上述と同様に原子吸光装置を用いて測定した。結果を図2に示す。図中、(+)はゼラチンシートのCDDP滴下側、(−)は反対側を表す。ゼラチンの含水率が94%、87%のいずれの場合にも、CDDPの放出に明らかな方向性が認められ、その差異はゼラチンシートの含水率が94%の方が顕著であった。【0038】この結果は、ハイドロゲル内においてCDDP分子の固定化量に勾配が生じたためであると考えられる。すなわち、CDDPがハイドロゲルに含浸されるにつれて、CDDPはゼラチン分子との相互作用によりトラップされる。薬物含浸の際にシートのCDDP滴下側でこの相互作用が起こり、シート内でCDDPの固定化量に勾配が生ずる。ところが、ハイドロゲル内には架橋に関与していないゼラチン分子が存在するため、ハイドロゲルが分解しないインビトロの条件においても、この水可溶性の未架橋ゼラチンと相互作用したCDDPはハイドロゲル内の水相を通してPBS中へと放出され、このために放出に方向性が生じたと考えられる。ゼラチンが分解される条件においては、ハイドロゲルは均一に分解され、均一にゼラチンが水可溶化されるとともに、それと相互作用したCDDPがハイドロゲルから放出される。この場合にも、放出に方向性が得られる。【0039】以上のように、本発明にしたがうCDDP含浸ゼラチンハイドロゲルシートを用いると、CDDPの放出方向を制御しうることが明らかとなった。【0040】次に、CDDP含浸ポリ−γ−グルタミン酸、アドリアマイシン含浸カチオン化ゼラチン、DNAオリゴマー含浸カチオン化ゼラチンシートからのそれぞれの薬物の放出の方向性を調べた。放出実験は前述と同じ方法で行い、アドリアマイシンは529nmの吸光度、DNAオリゴマーは260nmの吸光度とそれぞれの濃度との検量線を作成し、それより放出量を算出した。結果を図3に示す。図中、白四角はアドリアマイシン含有ゼラチン(+)、黒四角はアドリアマイシン含有ゼラチン(−)、白三角はDNAオリゴマー含有カチオン化ゼラチン(+)、黒三角はDNAオリゴマー含有カチオン化ゼラチン(−)、白丸はCDDP含有ポリ−γ−グルタミン酸(+)、黒丸はCDDP含有ポリ−γ−グルタミン酸(−)を表し、それぞれ、(+)は薬物滴下側、(−)は反対側を表す。薬物とゲルとの組み合わせにより放出量に違いが見られるものの、いずれの薬物とハイドロゲルとの組み合わせにおいても、薬物の放出には明らかな方向性が認められた。薬物の種類による放出量の違いは、ゼラチンと薬物との相互作用の強さの違いであると考えられる。【0041】実施例4.インビボ治療実験実験動物としては6週齢の雌性CDF1(BALB/c×DBA/2)マウスを用いた。1週間の予備飼育を行った。飼育条件は実験の全期間にわたり、SPF環境下、昼夜サイクル12時間で、固形飼料と水道水を自由摂取させた。【0042】CDF1マウスの腹腔内に移植継代し維持されたMcthA線維肉腫細胞を1x107個/mlの細胞浮遊液に調製し、0.1mlを左側腹部皮下に接種した。1週間後の腫瘍体積が45−55mm3であることを確認し、治療を開始した。実験は以下の群について行った(括弧内はCDDP投与量(μg)):−無治療群−CDDP水溶液腹腔内投与群(ip(80))−CDDP水溶液腫瘍内投与群(it(20)、it(40)、it(80))−シート群(S(0)、S(20)、S(40)、S(80))【0043】腹腔内投与群については、上述した超音波を用いてCDDP水溶液を使用直前に調製し、所定の薬物投与量を含む総容量0.1mlに調製して投与した。【0044】腫瘍内投与群については、CDDP水溶液は上述した超音波を用いて使用直前に調製した2mg/ml水溶液を使用した。ペントバルビタール(10mg/kg)の腹腔内投与による麻酔の後、マイクロシリンジを使用し、腫瘍中心部に投与した。投与は30秒かけて行い、投与終了後も同部分に30秒間固定の後、抜針した。【0045】シート群については、上述のようにしてCDDP含浸量が0、20、40、80μgの4種類のゼラチンシートを作製した。1×1cm2のシートにCDDP溶液を24時間含浸させ、凍結乾燥したものを用いた。ゼラチンシートの含水率は94%であった。ペントバルビタール腹腔投与による麻酔の後、腫瘍の1cm下方に皮膚横切開を加え、腫瘍と腹膜組織間にポケットを作製した。シートを同部に挿入し、4角を5−0ナイロン糸で縫合固定の後、皮膚を5−0ナイロン糸で縫合した。【0046】腫瘍径と体重の測定は、3日後、7日後、10日後、14日後に行った。腫瘍径は、キャリパーを用いて測定し、腫瘍体積は長径×短径×厚さ×1/2の式を用いて算出した。生存曲線はカプランマイヤー法にて作成し、ログランクテストにて検定した。【0047】7日後の腫瘍体積を図4示す。また、腫瘍体積の経時変化を図5に示す。図中、黒菱形は無治療群、白三角はit(40)、白丸はit(80)、黒四角はS(0)、×はS(40)、黒丸はS(80)を表す。生存曲線を図6に示す。図中、白丸は無治療群、白四角はit(40)、白菱形はit(80)、白三角はS(40)、黒丸はS(80)を表す。#は、無治療群、it(40)およびit(80)に対してP<0.01であることを示す。*は、S(80)に対してP<0.05であることを示す。本発明のCDDP含浸ゼラチンシートを用いることにより、同量のCDDPを水溶液として腹腔内投与した場合と比較して、腫瘍成長が有意に抑制され、生存率も向上したことがわかる。【0048】実施例5.薬物動態実施例5と同様にして、40μgのCDDPを腹腔内投与またはゼラチンシートに含浸させて担癌マウスに投与した。所定時間後にマウスを犠牲死させ、腫瘍組織、血液、腎臓、肝臓、脾臓の各組織と、シート群ではシートを速やかに摘出した。各組織中のPt濃度は上述の原子吸光装置にて測定した。また、同時に取り出したゲルシートの重量を測定した。結果を図7に示す。図よりわかるように、いずれも時間とともに減少しており、その時間変化は互いによい一致が認められている。このことは、CDDPがゲルの分解とともに放出されていることを示している。ハイドロゲル重量が初期に増加している原因は、埋入されたハイドロゲルが体液により膨潤したためであり、その後、体内の酵素によりハイドロゲルが分解されるとともに含浸CDDPが放出されると考えられる。【図面の簡単な説明】【図1】 図1は、CDDP含浸ハイドロゲルからのインビトロでのCDDPの放出を示す。【図2】 図2は、CDDP含浸ハイドロゲルからのCDDP放出の方向性を示す。【図3】 図3は、種々の薬物含浸ハイドロゲルからの薬物放出の方向性を示す。【図4】 図4は、マウスを用いるインビボ治療実験における7日後の腫瘍体積を示す。【図5】 図5は、マウスを用いるインビボ治療実験における腫瘍体積の経時変化を示す。【図6】 図6は、マウスを用いるインビボ治療実験における生存曲線を示す。【図7】 図7は、マウス皮下におけるCDDPの残存およびCDDP含浸ハイドロゲルの残存を示す。 分子量10,000以下の薬物および生体吸収性高分子ハイドロゲルを含み、前記ハイドロゲルはゼラチンハイドロゲルであり、前記ハイドロゲル中に前記薬物の濃度勾配が形成されていることを特徴とする徐放性製剤。


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