生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_納豆菌及び納豆の製造方法
出願番号:2003010640
年次:2004
IPC分類:7,C12N1/20,A23L1/20


特許情報キャッシュ

田谷 有紀 川根 政昭 竹下 義隆 JP 3564121 特許公報(B2) 20040611 2003010640 20030120 納豆菌及び納豆の製造方法 タカノフーズ株式会社 000108616 須藤 政彦 100102004 田谷 有紀 川根 政昭 竹下 義隆 20040908 7C12N1/20A23L1/20C12N1/20C12R1:125 JPC12N1/20 AA23L1/20 109ZC12N1/20 AC12R1:125 7 C12N 1/00 A23L 1/20 C12N 9/00 JSTPlus(STN) 特開平06−261744(JP,A) 特開2001−238667(JP,A) 特開2000−152779(JP,A) 岩手県工業技術センター研究報告(1997),No.4,p.93-86 食品と開発(1991),Vol.26,No.6,p.16-18 3 FERM P-19176 2004222516 20040812 11 20030214 鈴木 美葉子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、特定の納豆菌株と、この納豆菌株を用いて納豆を製造する方法、及び得られた納豆製品に関するものであり、更に詳しくは、血栓溶解酵素を高産生する能力を有する新規な納豆菌株、及びこの菌株を使用した血栓溶解酵素を多く含有する納豆の製造方法、及びその納豆製品に関するものである。【0002】【従来の技術】一般に、納豆は、高い栄養価を有する伝統食品として広く摂取されているが、近年、納豆中に含まれる酵素の一種(ナットウキナーゼ)が血栓溶解作用を有することが知られるに至り、ナットウキナーゼを含む納豆製品の機能性とその健康食品としての有用性が特に注目を集めている。このナットウキナーゼは、納豆の製造過程で用いられる納豆菌(Bacillus subtilis)の産生する酵素であり、フィブリン溶解能(血栓溶解作用)を有し、例えば、血栓症、脳卒中、心筋梗塞等の循環器系疾患の予防に有効であるとされている。このナットウキナーゼは、例えば、宮城野菌、高橋菌、成瀬菌等の従来の市販納豆菌株を用いて製造した納豆に含有されている。また、従来、ナットウキナーゼを比較的多く含有する納豆製品も製造、販売されている。更に、従来、納豆及び納豆菌等から他の機能性を有する酵素が見出されている。【0003】このように、従来、納豆及び納豆菌の培養液由来のナットウキナーゼ等の機能性を有する酵素及びその応用例が種々報告されている。ここで、それらの代表的なものを幾つか例示してみると、例えば、フィブリンに対し非常に強い分解活性を持つ酵素として、納豆及び納豆菌の培養液から抽出された新規な線溶酵素及びそれを培養液から取得する方法(特許文献1参照)、納豆酵素(ナットウキナーゼ)活性の高い新しい無臭・酵素賦活納豆、及びこのような納豆を容易かつ廉価に製造するための方法(特許文献2参照)、ナットウキナーゼを多量に含有し、かつ品質の優れた納豆を特殊な方法を用いることなく製造する方法(特許文献3参照)、納豆、あるいは納豆菌培養液より抽出される新規なプロウロキナーゼ活性化酵素及びその取得方法(特許文献4参照)等が提案されている。更に、納豆、あるいは納豆菌培養液から抽出される血小板凝集阻害物質及びそれを生産する方法(特許文献5参照)、笹及びその他の広葉植物の葉等より採取した納豆菌を用いて製造されるナットウキナーゼ等の酵素力の高い納豆(特許文献6参照)、納豆の発酵をよくし、食感を改善し、更に栄養的にも付加価値をつけた、ナットウキナーゼ、プロテアーゼ等の酵素力と機能性を示す、無臭で食感のよい栄養価の高い納豆の製造(特許文献7参照)、等が提案されている。【0004】【特許文献1】特開昭61−162184号公報【特許文献2】特開平5−336917号公報【特許文献3】特開平6−261744号公報【特許文献4】特開平9−182583号公報【特許文献5】特開平9−309839号公報【特許文献6】特開2000−152779号公報【特許文献7】特開2001−120212号公報【0005】上述のように、納豆及び納豆菌は、納豆に含まれる血栓溶解酵素の発見により、特に、それらの心筋梗塞や脳梗塞等の血栓性疾患の予防効果に期待が高まってきている。しかし、納豆中の血栓溶解酵素は、納豆菌が発酵中に出す酵素の1つであるが、菌の種類、大豆の種類、製法によって納豆に含まれる酵素量は大きく相違する。また、発酵における微妙な温度、湿度、そして時間によっても納豆菌の酵素活性は大きく異なることから、従来、安定的に血栓溶解酵素を含んだ納豆を大量生産するのはかなり困難であった。また、納豆中の血栓溶解酵素含量を増加させる方法の1つとして、例えば、納豆に酵素活性を高めると報告がある麦やとうもろこし、おからなどを混ぜる方法があるが、この種の方法では、従来の納豆品質と同じ食感や風味を味わうことができる納豆を供給することは困難であり、その製品は、嗜好の相違により敬遠されることがあった。また、何らかの原料を添加、混合することは、製造工程を煩雑にし、商品コストが上がることになる。更に、均一な添加ができないことにより血栓溶解酵素量のバラツキを生じる原因ともなるため、良策ではない。【0006】血栓症、脳梗塞の予防効果を期待するために、安定的、効率的に多くの血栓溶解酵素を納豆と共に摂取したいと考えられる。従って、当技術分野においては、納豆中の血栓溶解酵素含量を通常のものより増加させ、効率的に血栓溶解酵素が摂取できる納豆を供給することを可能とする血栓溶解酵素高含有納豆、及びその生産方法の開発が強く要請されていた。また、従来、ナットウキナーゼ産生能の高い納豆菌株を用いて、ナットウキナーゼ高含有納豆が製造、販売されているが、従来の高酵素活性菌株を利用して納豆を製造するには、例えば、厳密な温度管理や発酵管理等が必要とされ、また、そのために、製造工程が特殊なものとなり、高コストの原因になるため、それらの改善が強く求められていた。【0007】【発明が解決しようとする課題】このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、血栓溶解酵素を高含有すると共に、品質的にも高品質の納豆製品を、従来のような特殊な製造工程を用いることなく、また、従来の方法と比べて製造ライン及び製造条件等をほとんど変えることなく、簡便なプロセスで大量生産することができる新しい血栓溶解酵素高含有納豆の製造方法、及びその製品を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、従来知られていなかった、血栓溶解酵素高産生能を有する新規な納豆菌株を単離することに成功すると共に、該納豆菌株を用いて納豆を生産することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、従来の納豆菌と比べて、血栓溶解酵素産生量がはるかに多く、しかも、優れた品質の納豆を生産することを可能とする新規な血栓溶解酵素高産生能を有する納豆菌、該納豆菌を用いた血栓溶解酵素高含有納豆の製造方法、及びその納豆製品を提供することを目的とするものである。【0008】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。(1)以下の特異的な特性;1)発酵12時間目〜14時間目でプロテアーゼ活性133.3Unit/g(発酵を37℃、湿度90%の一定条件で行った場合)に達する高いプロテアーゼ産生能を示す、2)発酵10時間目で34FU/湿重量g、14時間目で50FU/湿重量g(発酵を37℃、湿度90%の一定条件で行った場合)に達する高い血栓溶解酵素量が得られる特異的な血栓溶解酵素産生パターンを示す、を有する納豆菌株であって、血栓溶解酵素を高産生する能力を有するバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)に属するTTCC865株(受託番号FERM P−19176)であることを特徴とする納豆菌株。(2)前記(1)記載の納豆菌株のTTCC865株を用いて納豆を製造する方法であって、発酵10時間目で34FU/湿重量g、14時間目で50FU/湿重量g(発酵を37℃、湿度90%の一定条件で行った場合)に達する高い血栓溶解酵素量が得られる特異的な血栓溶解酵素産生パターンで血栓溶解酵素を産生させ、発酵時間の短縮化と血栓溶解酵素高含有納豆の製造を共に可能とすることを特徴とする、血栓溶解酵素を高含有する納豆の製造方法。(3)前記(1)記載の納豆菌株のTTCC865株を用いて製造した、血栓溶解酵素を少なくとも90FU/湿重量g含有し、かつ該納豆菌株に特異的な特性である、アンモニア臭による不快臭がなく、苦味、異味がなく、優れた旨味を有することを特徴とする、血栓溶解酵素高含有納豆。【0009】【発明の実施の形態】次に、本発明について更に具体的に説明する。本発明は、上述のように、血栓溶解酵素を高産生する能力を有するバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)に属するTTCC865株及びその類似株である納豆菌株、該納豆菌株を用いて血栓溶解酵素を高含有する納豆を製造すること、及び該方法により製造した血栓溶解酵素を90FU/g以上含有する血栓溶解酵素高含有納豆、により特徴づけられるものである。本発明の納豆菌株は、広く自然界より得た種々の稲わら等の材料より納豆菌を採取してそれらの酵素活性、菌学的性質及び納豆生産力等を広く調査して、従来知られていない新規な納豆菌株を選抜して単離されるに至ったものである。【0010】本発明において、納豆の原料は、例えば、大豆と納豆菌で構成され、納豆は、基本的には、吸水した大豆を高圧で蒸し、納豆菌を摂取した煮豆を発酵させるという製造工程で作られる。本発明において、納豆の原料及び製造工程は、特に制限されるものではなく、必要に応じて、これらに適宜の構成を付加することができる。本発明の方法では、通常、発酵の10時間目ごろより明らかな酵素活性が確認され、発酵の経過に伴ない酵素量も増加してくる。発酵が終了する頃には、酵素量の増加は少なくなり、納豆の含有酵素量が平衡になってくる。【0011】納豆に含まれるナットウキナーゼは、納豆菌が産生したものである。よって、ナットウキナーゼを含む納豆中の血栓溶解酵素活性を増加させるには、通常の納豆菌に比べて、血栓溶解活性の高い納豆菌を使用し、納豆を製造する方法が最適であると考えられるが、本発明では、血栓溶解酵素活性の高い納豆菌株を使用することで、より高濃度に血栓溶解酵素力を高めた納豆を製造し、提供することを可能とするものである。【0012】本発明によって、良好な品質を維持したまま、血栓溶解酵素を高含有する納豆を製造することができる。すなわち、本発明は、納豆菌としてバチルス・ズブチリスに属するTTCC865株(FERM P−19176)を用いることで、血栓溶解酵素を高含有する納豆を製造し、提供すること、及び血栓溶解酵素を高含有する納豆を製造するためのバチルス・ズブチリスTTCC865株(FERM P−19176)及びその類似の株である納豆菌株を提供することを特徴とするものである。【0013】次に、本発明において、新しい納豆菌株を単離した手順について説明する。本発明では、広く自然界より野生株を採集し、それらの酵素活性、菌学的性質及び納豆生産性能を調べて目的の納豆菌株を取得した。まず、上記野生株をプロテアーゼ力価測定培地に接種してプロテアーゼ産生が最も速く出現した株をスクリーニングし、これらの菌株を用いて納豆を製造し、納豆の品質が良好でNK(ナットウキナーゼ)量が高い株を選抜し、更に、これらの菌株を用いて納豆を製造し、NK量が高い株を選抜する工程を繰り返して、血栓溶解酵素高産生能を有する納豆菌株を取得した。【0014】一方、上記野生株に紫外線照射処理した後、一例として、例えば、後記する培地組成の粘質物生産能判定培地に接種し、粘質物生産力のある株を選抜し、LB培地を用いた試験管培養を行い、遠心処理して得た培養液を用いて血栓溶解活性の測定を行い、血栓溶解活性の値が高い株を選抜し、これを粘質物生産能判定培地に移し、粘質物生産力がある株を選抜し、これらの株を用いて納豆を製造して納豆品質が良好でNK量が高い株を選抜する工程を繰り返して、血栓溶解酵素高産生能を有する納豆菌を取得した。【0015】以上の通りの各種スクリーニング工程を経て単離した納豆菌株のうちから、該納豆菌を用いて製造した納豆が血栓溶解酵素を90FU/湿重量g以上含有し、かつ納豆の品質が良好な条件を満たす血栓溶解酵素高含有納豆を製造可能にする納豆菌株を取得することに成功し、それらの代表的な菌株として、TTCC865株を取得した。本発明の納豆菌株には、このTTCC865株とその類似株である納豆菌株が含まれるが、ここで言う類似株とは、血栓溶解酵素を90FU/g以上含有する納豆生産能を有し、かつ得られる納豆が従来品以上の良好な品質(外観、糸引き、香り、味、硬さ)を有し、上記TTCC865株と同等の菌学的性質を有する納豆菌株を意味するものとして定義される。【0016】次に、NK量の測定法について説明すると、NK活性の測定法としては、現在、例えば、FU法、フィブリン平板法、合成基質(プラスミン)法等に代表される種々の方法が提案され、利用されている。しかし、現時点での公定法がなく、納豆の血栓溶解活性を正確に測定する方法がない状況にある。そこで、本発明では、NK量の測定を、測定値が安定で、定量的な測定が可能となるようにFU法を一部改良した、以下の測定方法により行った。【0017】(NK活性の測定)納豆20gに生理食塩水180gを加え、18000rpm、1.5分間ホモジナイズした後、3000rpm、10分間、遠心分離した上清を検体とした。次に、1)氷中、1.7×10cm試験管にトロンビン(50U/ml、pH8.5ホウ酸緩衝液に溶解)を0.1ml分注し、2)これに検体溶液0.1mlを加え、3)0.5%フィブリノーゲン(pH8.5ホウ酸緩衝液に溶解)1mlを加え、チューブミキサーで攪拌後、すぐに37℃湯浴に入れ、正確に60分間インキュベートした。【0018】次いで、4)インキュベート終了後、8%トリクロロ酢酸(TCA)を1.2ml添加し、60分間、37℃に放置し、5)TCAにより変性した蛋白質を遠心分離により除去し、6)上清を採取し、275nmの吸光度を測定し、7)得られた吸光度から下式を用いてナットウキナーゼ活性(NK量)とした。NK量(FU/g)=(At −Ab )/0.01×1/60×1/0.1×DAt :反応液の吸光度Ab :ブランクの吸光度D: 希釈倍率尚、ブランクの吸光度の測定は、上記1)、2)の後、8%TCAを加え、3)以降の操作は同様に行った。また、測定時の吸光度差(At −Ab )が0.15〜0.3となるように試料の調製を行った。【0019】次に、本発明の納豆菌株の選抜、単離の過程及び菌学的性質について具体的に説明すると、本発明における新規な納豆菌は、上述のように、多くの地域から採集された、土、枯草、稲藁等から分離選別されたものである。まず、土や枯草等の試料を生理食塩水に浸潰し、煮沸して得た浸漬水を一般寒天培地に塗沫して培養し、耐熱性胞子を形成する菌を選抜した。次いで、ショ糖及びグルタミン酸ナトリウムを含む、以下のような組成の培地(前記した粘質物生産能判定培地に相当する)で培養し、糸引き性を示した菌株を分離した。【0020】(培地組成)成分 濃度(100ml)サッカロース 0.2gグルタミン酸ナトリウム 1.5gフィトン(ソイペプトン) 1.5gリン酸2水素カリウム 0.27gリン酸水素2カリウム12水塩 0.42g塩化ナトリウム 0.05g硫酸マグネシウム7水塩 0.05gビオチン 10μg寒天 2.0g水pH 6.8【0021】こうして分離した菌を、更に、煮豆上で培養し、粘質物を生産する菌を選抜した。このような手順で得た分離株に対して、カタラーゼ反応、レシチナーゼ反応、硝酸塩の還元V−P反応、デンプンの分解、ゼラチンの分解、クエン酸・プロピオン酸の利用、チロシンの分解による簡易同定試験を経て、枯草菌であることの判定を行った。【0022】以上の選抜試験によって、納豆菌と判定された菌株を用いて、納豆を製造し、官能評価及び血栓溶解酵素力価の測定を行い、従来の納豆に比べて、高い血栓溶解酵素活性を示し、また、官能的にも従来の納豆と同等以上の品質となる、バチルス・ズブチリスTTCC865株を得て、平成14年12月26日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、Bacillus subtilis TTCC865株、受託番号FERM P−19176として寄託した。【0023】この納豆菌は、以下の様な菌学的性質を備えた菌である。形態: 桿菌グラム染色: +胞子: +形 楕円形位置 亜端立胞子嚢 非膨出運動性: −カタラーゼ: +嫌気下での生育: −V−P反応: +V−PブロスのpH: 5.5グルコースからの酸の生成: +グルコースからのガスの生成:−デンプンの分解: +クエン酸の利用: +硝酸塩の還元: +pH6.8での生育(ニュートリエントブロス) +pH5.7での生育 +7%NaCl存在下での生育:+50℃での生育: +65℃での生育: −【0024】上記菌学的性質からも明らかなように、この寄託された菌は、納豆菌に属しているものである。この納豆菌を用いて、納豆を製造して、発酵工程及び得られた製品における特徴を調べたところ、従来の方法では、発酵の中期及び後期の段階で血栓溶解酵素活性が高くなる傾向を示すのに対し、本発明の方法では、発酵の初期及び中期の段階で血栓溶解酵素活性が急激に高くなる傾向を示し、発酵過程における血栓溶解酵素産生のパターンが従来のものと大きく異なることが示された。また、後記する実施例に具体的に示したように、得られた納豆は、血栓溶解酵素含量が格別に高く、しかも、外観、糸引き、硬さ、その他の官能評価についても優れた品質を有していることが分かった。従来の方法では、発酵時間を長くすることにより、血栓溶解酵素活性をなるべく高い値にすることが行われており、そのために、発酵時間の短縮化が難しくなり、過度の発酵により製品への影響が出てくる等の問題があったが、本発明の方法では、それらの問題を全て解消することができる利点がある。【0025】次に、本発明の納豆菌株を用いた納豆の製造方法は、主に、(1)従来の製造装置及びラインをそのまま使用することができる、(2)血栓溶解酵素の活性を高めるために、格別の原料を配合する必要がない、(3)発酵の初期及び中期の段階から高い血栓溶解活性が得られるので、発酵時間の短縮化とそれによる省エネルギー生産が可能となる、(4)血栓溶解酵素を高含有すると共に、優れた品質を有する高付加価値の納豆製品を安定的に、効率良く製造できる、(5)血栓溶解酵素高産生の本発明の納豆菌を使用するだけで、製造原料、製造工程及び製造条件等を格別に変更することなく、血栓溶解酵素高含有(従来品の約1.5−2倍)の納豆を製造し、提供することができる、等の特徴点を有する。【0026】次に、本発明の納豆菌を用いて製造した納豆製品は、主に、(1)血栓溶解酵素量は、90FU/g以上であり、従来の納豆の約1.5〜2倍である、(2)産生された粘質物に基づく、優れた糸引き性を有する、(3)アンモニア臭などの不快臭がなく、適度な納豆臭を有する、(4)苦味、異味がなく、優れた旨味を有する、(5)良好な硬さを有する、(6)発酵の初期段階から高い血栓溶解酵素量を含有する、(7)短い発酵時間で、高い血栓溶解酵素量を有する納豆製品を生産できる、(8)従来の納豆製品と比べて、血栓溶解酵素量が多く、しかも、従来品以上の品質を持つ納豆製品を提供できる、(9)従来の製造ライン及び製造条件をほとんど変更することなく、本発明の納豆製品を生産できる、(10)従来製品の約1.5〜2倍の血栓溶解酵素を含有する血栓溶解酵素高含有納豆を提供できる、(11)製品間の血栓溶解酵素量のバラツキがなく、安定して、効率良く多くの血栓溶解酵素を摂取可能な納豆を提供できる、(12)格別の原料を配合することなしに、通常の原料を用いて、血栓溶解酵素含量を増加させた納豆を製造できる、等の特徴点を有する。【0027】【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。実施例1本発明の納豆菌株のTTCC865株、及び市販納豆菌の胞子懸濁液を用いて、常法通り納豆を製造した。市販納豆菌として、宮城野納豆菌を使用した。納豆用極小粒大豆に3倍量の水を加え、15〜20℃で18〜24時間浸潰した浸漬大豆を加圧釜に入れ、ゲージ圧2kg/cm2 20分前後で蒸煮した。蒸煮大豆がまだ熱いうちに、蒸煮大豆lkgあたり106 個の胞子を接種し、これを納豆用PSP容器に充填後、表面を有孔ポリエチレンフィルムで覆い、蓋をかぶせて、37〜40℃で14〜18時間発酵させた。発酵終了後に熟成させ目的とする納豆を得た。【0028】上記方法で得られた納豆について、それぞれの官能評価、及び納豆中の血栓溶解酵素量を測定した。尚、官能評価は、5段階評価法にて行い、平均値を示した。5点を良い、4点をやや良い、3点を普通、2点をやや悪い、1点を悪いとし、下表の項目について評価した。上記方法で得られた納豆の官能評価結果、及び血栓溶解酵素含量を、以下の表2及び表3に示す。【0029】【0030】【0031】上記表2、及び表3の結果から分かるように、本発明の納豆菌バチルス・ズブチリスTTCC865株を用いて製造した納豆の品質は、市販納豆菌を用いて製造した納豆の品質と同様に良好であり、かつ血栓溶解酵素量は、90FU/g以上であり、通常の納豆の約1.5〜2倍となっていることが確認された。【0032】次に、本発明の納豆菌(TTCC865株)、及び市販納豆菌(M)による納豆製造工程における発酵時間と血栓溶解酵素量の関係を調べた。TTCC865株は、市販納豆菌の12時間目の血栓溶解酵素量に相当する34FU/gを発酵10時間目で産生し、発酵14時間目で市販納豆菌の製品の血栓溶解酵素量(50FU/g)に達していた。すなわち、市販納豆菌を用いた場合に比べて、本発明の納豆菌を用いた場合、発酵開始後、約10時間から14時間の発酵の初期及び中期の段階で高い血栓溶解酵素量が得られること、及び本発明の納豆菌は、従来の納豆菌とは異なる血栓溶解酵素産生パターンを示すことが分かった。【0033】また、本発明の納豆菌(TTCC865株)、及び市販納豆菌(M)による納豆製造工程におけるプロテアーゼ活性との関係を調べたところ、血栓溶解酵素と同じ産生パターンを示した。すなわち、本発明の納豆菌の製品のプロテアーゼ活性は、市販納豆菌の製品のプロテアーゼ活性(133.3 Unit/g)に発酵12時間目〜14時間目で達しており、本発明の納豆菌は、発酵の早い段階で高いプロテアーゼ産生能を有することが分かった。プロテアーゼを早い段階より産生することで、従来より短い発酵時間で、血栓溶解酵素量が多く、従来と同等な旨味や糸引きを有する品質の納豆製品の生産を可能とすることが分かった。【0034】【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、血栓溶解酵素を高生産する新規な納豆菌株、この菌を用いて血栓溶解酵素を高含有する納豆を製造する方法、及び納豆製品に係るものであり、本発明により、以下のような効果が奏される。(1)本発明の納豆菌株は、市販納豆菌に比べて、血栓溶解酵素を多く生産する血栓溶解酵素高産生能を有する菌株である。(2)この納豆菌株を用いて製造された納豆では、血栓溶解酵素量が市販納豆に比べて、約1.5〜2倍となっている。(3)この菌株を用いて納豆を製造すれば、従来の納豆と同様で、品質は変わることなく良好で、血栓溶解酵素を多く含む納豆を得ることができる。(4)本発明の納豆の製法は、従来の製法において、納豆菌としてバチルス・ズプチリスTTCC865株を用いることを特徴とするので、新たな装置を必要とすることなく、製造コストも高くならず、従来どおりの生産体制で対応できる。(5)納豆菌株の性質も、市販納豆菌とほぼ同等であるため、製造条件の変更もほとんど必要ない。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の納豆菌(TTCC865株)、及び市販納豆菌(M)による納豆製造工程(発酵を37℃、湿度90%の一定条件で行った場合)における発酵時間と血栓溶解酵素活性(NK活性)の関係を示す。【図2】本発明の納豆菌(TTCC865株)、及び市販納豆菌(M)による納豆製造工程(発酵を37℃、湿度90%の一定条件で行った場合)における発酵時間とプロテアーゼ活性の関係を示す。 以下の特異的な特性;(1)発酵12時間目〜14時間目でプロテアーゼ活性133.3Unit/g(発酵を37℃、湿度90%の一定条件で行った場合)に達する高いプロテアーゼ産生能を示す、(2)発酵10時間目で34FU/湿重量g、14時間目で50FU/湿重量g(発酵を37℃、湿度90%の一定条件で行った場合)に達する高い血栓溶解酵素量が得られる特異的な血栓溶解酵素産生パターンを示す、を有する納豆菌株であって、血栓溶解酵素を高産生する能力を有するバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)に属するTTCC865株(受託番号FERM P−19176)であることを特徴とする納豆菌株。 請求項1記載の納豆菌株のTTCC865株を用いて納豆を製造する方法であって、発酵10時間目で34FU/湿重量g、14時間目で50FU/湿重量g(発酵を37℃、湿度90%の一定条件で行った場合)に達する高い血栓溶解酵素量が得られる特異的な血栓溶解酵素産生パターンで血栓溶解酵素を産生させ、発酵時間の短縮化と血栓溶解酵素高含有納豆の製造を共に可能とすることを特徴とする、血栓溶解酵素を高含有する納豆の製造方法。 請求項1記載の納豆菌株のTTCC865株を用いて製造した、血栓溶解酵素を少なくとも90FU/湿重量g含有し、かつ該納豆菌株に特異的な特性である、アンモニア臭による不快臭がなく、苦味、異味がなく、優れた旨味を有することを特徴とする、血栓溶解酵素高含有納豆。


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