タイトル: | 特許公報(B2)_変性ワクシニアアンカラウイルス変異体 |
出願番号: | 2002545184 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12N 7/04,A61K 39/275,A61K 39/39,A61K 48/00,A61P 37/04,C12N 5/10,C12N 7/02,C12N 15/09,C12P 21/02,C12R 1/93 |
チャップリン・ポール ハウレイ・ポール マイジンガー・クリスティーネ JP 4421188 特許公報(B2) 20091211 2002545184 20011122 変性ワクシニアアンカラウイルス変異体 バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ 502240076 江崎 光史 100069556 三原 恒男 100092244 奥村 義道 100093919 鍛冶澤 實 100111486 チャップリン・ポール ハウレイ・ポール マイジンガー・クリスティーネ DK PA 2000 01764 20001123 20100224 C12N 7/04 20060101AFI20100204BHJP A61K 39/275 20060101ALI20100204BHJP A61K 39/39 20060101ALI20100204BHJP A61K 48/00 20060101ALI20100204BHJP A61P 37/04 20060101ALI20100204BHJP C12N 5/10 20060101ALI20100204BHJP C12N 7/02 20060101ALI20100204BHJP C12N 15/09 20060101ALI20100204BHJP C12P 21/02 20060101ALI20100204BHJP C12R 1/93 20060101ALN20100204BHJP JPC12N7/04A61K39/275A61K39/39A61K48/00A61P37/04C12N5/00 BC12N7/02C12N15/00 AC12P21/02 CC12N7/04C12R1:93 C12N 15/00-15/90 A61K 39/00-39/44 A61K 48/00 国際公開第98/013500(WO,A1) 特表平11−509091(JP,A) To the Copenhagen Stock Exchange: Bavarian Nordic A/S establishes two new operations in the USA and,Announcement no.31-04,Bavarian Nordic A/S,2004年12月16日,検索日2007年6月20日,URL,http://www.bavarian-nordic.com/pdf/announcements/31-04_uk.pdf Eye on sexually transmitted diseases,Thomson Centerwatch Clinical Trials Listing Service,2005年 8月,検索日2007年6月20日,URL,http://www.centerwatch.com/professional/cwpipeline/eyeon_stds.html J. Virol.,1996年,Vol.70, No.9,pp.6418-6424 J. Virol.,1996年,Vol.70, No.6,pp.3741-3752 To the Copenhagen Stock Exchange: Bavarian Nordic A/S establishes two new operations in the USA and re-starts activities in cancer immunotherapy,Announcement no.31-04,Bavarian Nordic A/S,2004年12月16日,検索日2007年6月20日,URL,http://www.bavarian-nordic.com/pdf/announcements/31-04_uk.pdf 33 ECACC V00083008 ECACC V00120707 EP2001013628 20011122 WO2002042480 20020530 2004514436 20040520 30 20041119 今村 玲英子 【0001】本発明は、変性ワクシニアアンカラウイルスから誘導されると共に、ヒト細胞系において増殖的に複製する能力が失われていることを特徴とする弱毒化されたウイルスに関する。本発明は、さらに、このウイルスから誘導された組換えウイルス、およびこのウイルスまたは組換え体の薬剤またはワクチンとしての使用を記載する。さらに、免疫無防備状態(易感染性)の患者、ワクチンウイルスへの予め存在する免疫を有する患者または抗ウイルス治療を受けている患者においても免疫反応を誘発する方法が提供される。【0002】(背景技術)変性ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスは、ポックスウイルス科のオルトポックスウイルス属の一員であるワクシニアウイルスに関する。MVAは、ワクシニアウイルス(CVA)のアンカラ菌株のニワトリ胚線維芽細胞上を516回連続的に通過することにより産出された(検討のために、Mayr,A.,ら著、Infection第3巻、6〜14頁[1975]を参照されたい)。これらの長期間の通過の結果、得られるMVAウイルスは、そのゲノム配列の約31キロ塩基を欠失し、従って、鳥類細胞に高度に限定された宿主細胞として記載された(Meyer,H.ら著、J.Gen.Virol.第72巻、1031〜1038頁[1991])。種々の動物モデルにおいて、得られるMVAがかなり無毒性であることが示された(Mayr,A.およびDanner,K.著[1978]、Dev.Biol.Stand.第41巻:225〜34頁)。さらに、このMVA菌株は、ヒト天然痘病に対して免疫するためのワクチンとして、臨床試行において試験された(Mayrら著、Zbl.Bakt.Hyg.I、Abt.Org.第B167巻375〜390頁[1987]、Sticklら著、Dtsch.med.Wschr.第99巻、2386〜2392頁[1974])。これらの研究は、高度に危険な患者を含む120,000人を超えるヒトを含み、ワクシニア系ウイルスと比べて、MVAは、優れた免疫原性を維持しつつ低下した毒性または感染性を有することがわかった。【0003】その後の数十年において、組換え遺伝子発現用のウイルスベクターとして、または組換えワクチンとして使用するためにMVAが加工された(Sutter,Gら著、[1994]、Vaccine第12巻:1032〜40頁)。【0004】この点において、Mayrらが1970年代に、MVAが高度に弱毒化されておりヒトおよび哺乳動物において無毒性であることを示したが、一部の最近報告された観察(Blanchardら著、1998年、J Gen Virol第79巻、1159〜1167頁;CarrollおよびMoss著、1997年、Virology第238頁、198〜211頁;Altenbergerの米国特許第5,185,146号:Ambrosiniら著、1999年、J Neurosci Res第55(5)巻、569頁)によれば、残留複製がこれらの細胞において起こり得るのでMVAが哺乳動物およびヒト細胞系において充分弱毒化されていないことが示されたことは最も驚くべきである。使用されるウイルスは、種々の細胞系におけるその特性、特にその成長挙動が本質的に異なるので、MVAの種々の菌株を用いて、これらの公報において報告された結果が得られると想定される。【0005】成長挙動は、ウイルス弱毒化の指示手段であると理解される。通常、ウイルス菌株は、その能力を失った場合または宿主細胞において増殖的に複製する低下した能力しか有さない場合、弱毒化されたと見なされる。前記観察、すなわち、ヒトおよび哺乳動物細胞においてMVAが完全に複製不可能であることは、ヒトワクチンとしての、または組換えワクチン用のベクターとしてのMVAの完全な安全性についての疑問を引き起こす。【0006】特に、ワクチンおよび組換えワクチンについて、ワクチンベクターウイルスの効能と安全性との間のバランスが極めて重要である。【0007】(発明の目的)すなわち、本発明の目的は、ワクチンまたは薬剤のような安全性の高い生成物の開発について安全性が高められた新規ウイルス菌株を提供することにある。さらに、さらなる目的は、存在するワクチン接種方式を向上させる手段を提供することである。【0008】(発明の詳細な説明)前記目的を達成するために、本発明の好ましい実施形態によれば、非ヒト細胞および細胞系、特にニワトリ胚線維芽細胞(CEF)およびハムスター幼児腎細胞系BHK(ECACC85011433)において増殖的複製することができるが、ヒトケラチノ細胞系において増殖的複製することはできない新規ワクシニアウイルスが提供される。【0009】既知のワクシニア菌株は、少なくとも一部のヒト細胞系、特にヒト表皮ケラチノ細胞系HaCat(Boukampら著、1998年、J Cell Biol第106(3)巻:761〜71頁)において、増殖的に複製する。細胞系HaCatでの複製は、生体内での複製、特に、ヒトにおける生体内複製を予想させるものである。実際、HaCatにおいて残留増殖複製を示す試験した全ての既知のワクシニア菌株が、生体内においても複製することが実施例部分において示されている。すなわち、本発明は、好ましくは、ヒト細胞系HaCatにおいて増殖的に複製しないワクシニアウイルスに関する。最も好ましくは、本発明は、ヒト頸部腺癌細胞系HeLa(ATCC No.CCL−2)、ヒト胚腎細胞系293(ECACC No.85120602)、ヒト骨肉腫細胞系143B(ECACC No.91112502)および細胞株HaCatのいずれのヒト細胞系においても、増殖的に複製できないワクシニアウイルス菌株に関する。【0010】ウイルスの成長挙動または増幅/複製は、通常、最初の部分において細胞を感染するのに最初に用いられる量(入力)に対する感染細胞から生成されたウイルス(出力)の比(「増幅比」)により表される。出力と入力との比「1」は、感染細胞から生成されたウイルスの量が細胞を感染させるのに最初に用いられた量と同じである増殖状態を定める。この状態は、感染細胞をウイルス感染およびウイルス増殖に用い得るという事実を示唆している。【0011】1未満の増幅比、すなわち入力水準を下回る増幅の低下は、増幅的複製の欠如を示す、すなわち、ウイルスの弱毒化を示す。従って、幾つかのヒト細胞系、特にヒト細胞系143B、HeLa、293およびHaCatの全てにおいて増幅比が1未満の菌株を同定し最終的に単離することが発明者にとって特に興味深いことであった。【0012】すなわち、「増幅的に複製することができない」という用語は、本発明のウイルスが、一部の特異的MVA菌株についての本明細書の実施例1に概略する条件下に細胞系293(ECACC No.85120602)、143B(ECACC No.91112502)、HeLa(ATCC No.CCL−2)およびHaCat(Boukampら著、1998年、J Cell Biol第106(3)巻:761〜71頁)のようなヒト細胞系において1未満の増幅比を示すことを意味する。好ましくは、前記ヒト細胞系HeLa、HaCatおよび143Bの各々において、本発明によるウイルスの増幅比は0.8以下である。【0013】実施例1および表1において、細胞系143B、HeLaおよびHaCatのいずれにおいても、本発明によるウイルスが増幅的に複製しないことが詳細に示されている。実施例において用いられた本発明による特定の菌株は、ヨーロピアン・コレクション・オブ・アニマル・セル・カルチャーにV00083008の番号で寄託されている。この菌株は、明細書全体において、「MVA−BN」と呼ばれる。【0014】既知のMVA菌株は、試験したヒト細胞系の少なくとも一種において残留複製を示す(図1、実施例1)。全ての既知のワクシニア菌株は、細胞系HaCatにおいて少なくとも一部の複製を示すが、本発明によるMVA菌株、特にMVA−BNは、HaCat細胞において増幅的に複製しない。より詳しくは、ヒト胚腎細胞系293(ECACC No.85120602)においてMVA−BNは0.05〜0.2の増幅比を示す。ヒト骨肉腫細胞系143B(ECACC No.91112502)において、この比は、0.0〜0.6の範囲にある。ヒト頸部腺癌細胞系HeLa(ATCC No.CCL−2)およびヒト表皮ケラチノ細胞系HaCat(Boukampら著、1998年、J Cell Biol第106(3)巻:761〜71頁)において、増幅比は、それぞれ0.04〜0.8および0.02〜0.8である。MVA−BNは、アフリカ緑サル腎細胞(CV1:ATCC No.CCL−70)において0.01〜0.06である。すなわち、本発明によるプロトタイプ菌株であるMVA−BNは、試験されたヒト細胞系のいずれにおいても増幅的に複製しない。【0015】MVA−BNの増幅比は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF:一次培地)またはハムスター幼児腎細胞系BHK(ATCC No.CRL−1632)において明らかに約1である。先に概略したように、「1」を超える比は、細胞を感染させるのに用いたウイルスの量に比べて感染細胞から生成されたウイルスの量が増加するので、増幅的複製を示す。従って、ウイルスは、CEF一次培地において5000を超える比で、またはBHK細胞において50を超える比で容易に増殖および増幅させることができる。【0016】本発明の特別の実施形態において本発明は、ECACC V0083008として寄託されているウイルスの誘導体に関する。ECACC V0083008として寄託されているウイルスの「誘導体」は、寄託された菌株と本質的に同じ複製特性を示すが、そのゲノムの一または二以上の部分において相違を示すウイルスを意味する。寄託されたウイルスと同じ「複製特性」を有するウイルスは、CEF細胞および細胞系BHK、HeLa、HaCatおよび143Bにおいて、寄託された菌株と同様の増幅比で複製すると共に、AGR129トランスジェニックマウスモデル(以下参照)において決められるものと同様の生体内複製を示すウイルスである。【0017】好ましい実施形態において、本発明によるワクシニアウイルス菌株、特にMVA−BNおよびその誘導体は、生体内で複製できないことを特徴とする。本発明の要旨において、「生体内で複製できない」というのは、ヒトおよび、以下に説明するマウスモデルにおいて複製しないウイルスを意味する。「生体内で複製できない」ことは、好ましくは、成熟BおよびT細胞を生成することができないマウスにおいて決めることができる。そのようなマウスの一例は、トランスジェニックマウスモデルAGR129(スイス国チューリッヒ在チューリッヒ大学のウイルス学研究所のMark Sutterから得た)である。このマウス菌株は、IFN受容体のタイプI(IFN−α/β)およびタイプII(IFN−γ)において、およびRAGにおいて遺伝子標的破壊を有する。これらの破壊の為に、マウスはIFN系を有さず、成熟BおよびT細胞を生成することができず、そのものとして、強度に免疫寛容され、複製しているウイルスに高度に感受性がある。AGR129マウスの代わりに、成熟BおよびT細胞を生成することができず、そのものとして、強度に免疫寛容され、複製しているウイルスに高度に感受性がある任意の他のマウス菌株を用いることができる。特に、本発明によるウイルスは、腹腔内に投与された107pfuウイルスでのマウス感染後、少なくとも45日、より好ましくは少なくとも60日、最も好ましくは90日の期間内にはAGR129マウスを殺さない。好ましくは、「生体内で複製することができない」ウイルスは、腹腔内に投与された107pfuウイルスでのマウス感染後、45日、好ましくは60日、最も好ましくは90日のAGR129の器官または組織からウイルスを回収できないことを更なる特徴とする。AGR129マウスを用いた感染アッセイに関する詳細な情報および、感染マウスの器官および組織からウイルスを回収し得るかどうか決めるのに用いられるアッセイは、実施例部分において見ることができる。【0018】好ましい実施形態において、本発明によるワクシニアウイルス菌株、特にMVA−BNおよびその誘導体は、致死チャレンジマウスモデルにおいて決められる既知の菌株MVA575と比較してより高い免疫原性により特徴付けられる。この実験の詳細が、以下に示す実施例2に概略されている。簡単に言えば、そのようなモデルにおいては、ウエスタンリザーブ菌株L929 TK+またはIHD−Jのような複製コンピテントワクシニア菌株での感染後に、ワクチン接種していないマウスは死亡する。複製コンピテントワクシニアウィルスでの感染は、致死チャレンジモデルの説明の状況において「チャレンジ」と呼ばれる。チャレンジの4日後、マウスは通常殺され、卵巣中のウイルス量が、VERO細胞を用いる標準的プラークアッセイにより決められる(より詳細については、実施例部分を参照)。ウイルス量が、非ワクチン接種マウスおよび、本発明のワクシニアウイルスを接種したマウスについて決められる。より詳しくは、本発明のウイルスは、この試験において、本発明のウイルス102TCID50/mlを接種した後、卵巣ウイルス量が、非ワクチン接種マウスと比べて少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%減少する。【0019】好ましい実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、特にMVA−BNおよびその誘導体は、ワクチンの初回/ブースト投与での免疫化に有用である。配達ベクターとしてMVAを用いる初回/ブースト方式は誘発する免疫反応が弱く、DNA初回MVAブースト方式に劣っていることを示唆している多くの報告がある(Schneiderら著、1998年、Nat.Med.第4巻;397〜402頁)。これらの全ての研究において、本発明によるワクシニアウイルスと異なるMVA菌株が用いられた。初回およびブースト投与についてMVAを用いた場合の弱い免疫反応を説明するために、初回投与中にMVAに対して生成された抗体が、二次免疫化で得られたMVAを中和し、免疫反応の効果的ブーストを妨げるという仮定をたてた。これに対して、DNA初回/MVAブースト方式が高い結合反応の発生において優れていると報告されているが、これは、この方式が、DNAが免疫反応を効果的に開始する能力を、MVAへの予め存在している免疫の不存在下にMVAがこの反応をブーストする特性と組み合わせているからである。明らかに、MVAおよび/またはワクシニアへの予め存在している免疫が、免疫反応のブーストを妨げる場合、ワクチンまたは治療薬としてMVAを用いることにより、特に天然痘に対してワクチン接種された個体において効果が制限される。しかしながら、さらなる実施形態によれば、本発明のワクシニアウイルス、特に、MVA−BNおよびその誘導体、並びに非相同配列を有する対応する組換えウイルスを、天然動物および、ポックスウイルスへの予め存在する免疫を有する動物において、最初に初回免疫反応、次にブースト免疫反応を効果的に行うために用いることができる。このように、本発明のワクシニアウイルスは、DNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式と比べて、少なくとも実質的に同じ水準の免疫をワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト方式で誘発する。【0020】以下の二つのアッセイ(「アッセイ1」および「アッセイ2」)の一つ、好ましくは両方のアッセイにおいて測定されたCTL反応が、DNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式と比べて、ワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト方式において少なくとも実質的に同じである場合、DNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式と比べて、ワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト方式において少なくとも実質的に同じ水準の免疫を、ワクシニアウイルスが誘発すると見なされる。より好ましくは、ワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト投与後のCTL反応は、DNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式と比べて、前記アッセイの少なくとも一つにおいて、より高い。最も好ましくは、CTL反応は、以下のアッセイの両方において、より高い。【0021】[アッセイ1]ワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト投与のために、6〜8週齢BALB/c(H−2d)マウスを、Thomsonら著、1988年、J.Immunol.第160巻、1717頁に記載のように、マウスポリトープを発現する本発明のワクシニアウイルス107TCID50を静脈内投与して初回免疫し、3週間後に同じ方法で投与される同じ量の同じウイルスでブースト免疫する。この目的のために、前記ポリトープを発現する組換えワクシニアウイルスを組み立てることが必要である。そのような組換えウイルスを組み立てる方法は当業者に知られており、以下により詳細に記載されている。DNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式において、初回ワクチン接種は、ワクシニアウイルスと同じ抗原を発現するDNA50μgをマウスに筋肉内注射することにより行われ、ワクシニアウイルスのブースト投与は、ワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト投与と正確に同じ方法で行われる。ポリトープを発現するDNAプラスミドも、Thomsonらによる前記参照公報に記載されている。両方式において、エピトープSYIPSAEKI、RPQASGVYMおよび/またはYPHFMPTNLに対するCTL反応の進行は、ブースト投与の2週間後に決められる。CTL反応の決定は、好ましくは、Schneiderら著、1998年、Nal.Med.第4巻、397〜402頁に記載され、本発明の一つの特定のウイルスについて以下の実施例部分に概説されているように、ELISPOT分析を用いて行われる。本発明のウイルスは、この実験において、ワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト投与により誘発される前記エピトープに対するCTL免疫反応が、IFNγ生成細胞/106脾臓細胞の数により調べられる(これも実施例部分を参照)DNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式により誘発されるものと実質的に同じ、好ましくは少なくとも同じであることを特徴とする。【0022】[アッセイ2]このアッセイは、基本的にアッセイ1に相当する。しかしながら、アッセイ1で投与されたワクシニアウイルス107TCID50の代わりに、このアッセイでは、本発明のワクシニアウイルス108TCID50を、初回免疫化およびブースト免疫化のために皮下投与する。本発明のウイルスは、この実験において、ワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト投与により誘発される前記エピトープに対するCTL免疫反応が、IFNγ生成細胞/106脾臓細胞の数により調べられる(これも実施例部分を参照)DNA初回/ワクシニアウイルスブースト投与により誘発されるものと実質的に同じ、好ましくは少なくとも同じであることを特徴とする。【0023】前記アッセイの一つにおいて測定されるCTL反応の強度は、保護水準に相当する。【0024】すなわち、本発明によるウイルスは、ワクチン接種の目的に特に適している。【0025】要約すれば、本発明のワクシニアウイルスは、以下の特性の少なくとも一つを有することを特徴する。【0026】(i)ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)および細胞系BHKにおいて増殖的複製する能力を有するが、ヒト細胞系HaCatにおいて増殖的複製する能力は有さないこと、(ii)生体内で複製することができないこと、(iii)致死チャレンジモデルにおいて、既知の菌株MVA575(ECACC V00120707)と比べて高い免疫原性を誘発すること、および/または(iv)DNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式と比べて、少なくとも実質的に同じ水準の免疫をワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト方式で誘導すること。【0027】好ましくは、本発明のワクシニアウイルスは、前記特性の少なくとも二つ、より好ましくは前記特性の少なくとも三つを有する。最も好ましいのは、前記特性の全てを有するワクシニアウイルスである。【0028】さらなる実施形態において、本発明は、第1のバイアル/容器で第1の接種(初回接種)を行い、第2のバイアル/容器で第2の接種(ブースト接種)を行うための、本発明によるウイルスを含んでなるワクチン接種用キットに関する。ウイルスは、非組換えワクシニアウイルス、すなわち、非相同ヌクレオチド配列を含まないワクシニアウイルスであってよい。そのようなワクシニアウイルスの例は、MVA−BNおよびその誘導体である。また、ウイルスは、ワクシニアウイルスに相同であるさらなるヌクレオチド配列を含む組換えワクシニアウイルスであってよい。別の説明部分に概説しているように、相同配列は、免疫系により反応を誘発するエピトープをコードし得る。すなわち、前記エピトープを含む蛋白または薬剤に対してワクチン接種するために組換えワクシニアウイルスを用いることができる。ウイルスは、以下により詳細に示すように調製することができる。各ワクチン接種に用いることができるウイルスの量は、前述のように定義される。【0029】以下の特性の少なくとも一つを有するワクシニアウイルスをいかに得ることができるかを、当業者は知っている。【0030】ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)およびハムスター幼児腎細胞系BHKにおいて増殖的複製する能力を有するが、ヒト表皮ケラチノ細胞系HaCatにおいて増殖的複製する能力は有さないこと、生体内で複製することができないこと、致死チャレンジモデルにおいて、既知の菌株MVA575と比べて高い免疫原性を誘発すること、および/またはDNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式と比べて、少なくとも実質的に同じ水準の免疫をワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト方式で誘導すること。【0031】そのようなウイルスを得るための方法は、以下の工程を含んでよい。【0032】(i)CEF細胞およびその細胞系BHKから好ましく選択される、その中でウイルスが増殖的に複製することができる非ヒト細胞中に、既知のワクシニアウイルス菌株、好ましくはMVA574またはMVA575(ECACC V00120707)を導入する工程、(ii)これらの細胞からのウイルス粒子を単離/増菌させる工程、および(iii)得られたウイルスが、先に定義された所望の生物学的特性の少なくとも一つを有するかどうかを分析する工程。【0033】ここで、前記工程は、所望の複製特徴を有するウイルスが得られるまで、任意に繰り返すことができる。本発明は、さらに、本発明によるこの方法により得られるウイルスに関する。所望の生物学的特性を如何に決めるかの方法が、他の説明部分に説明されている。【0034】この方法の適用において、発明者らは、複数回のクローン精製において、MVA単離経路575(MVA575)から本発明の菌株を同定し単離した。この新規菌株は、前述の受け入れ番号ECACC V0083008の菌株に相当する。【0035】本発明のワクシニアウイルスの成長挙動、特に、MVA−BNの成長挙動は、本発明の菌株が、ヒト細胞系における弱毒化および生体内増幅できないことに関して、今まで特徴付けられた他のいかなるMVA単離物よりはるかに優れていることを示している。従って、本発明の菌株は、以下に記載するようなワクチンまたは薬剤のような安全物の開発のための理想的な候補である。【0036】一つの実施形態において、本発明のウイルス、特にMVA−BNおよびその誘導体は、天然痘のようなヒトポックスウイルス疾患に対するワクチンとして用いられる。さらなる実施形態において、本発明のウイルスは組換えしてよい、すなわち、非相同遺伝子、例えば、ウイルスに非相同な抗原またはエピトープを発現してよく、非相同抗原またはエピトープに対する免疫反応を誘発するワクチンとして有用である。【0037】「免疫反応」という用語は、異物または微生物が生物に入ったときの免疫系の反応を意味する。定義として、免疫反応は特異的反応と非特異的反応とに分けられるが、両者は密に関連している。非特異的免疫反応は、広く種々の異物および感染剤に対する直接的防御である。特異的免疫反応は、生物にある物質を初めてチャンレンジするときに、遅延期後に高められる防御である。【0038】特異的免疫反応は高度に効果的で、特異的感染から回復する個体が、この特異的感染に対して保護されるという事実の原因である。すなわち、同じまたは非常に類似の感染剤での二次感染の場合、既にこの剤に対して「予め存在している免疫」が存在するので、症状が非常に穏やかであるか全く無い。そのような免疫および免疫学的記憶は、それぞれ、長期間続き、ある場合には、終生続く。従って、免疫学的記憶の誘発を、ワクチン接種に用いることができる。【0039】「免疫系」は、異物および微生物に対する生物の防御に含まれる複合器官を意味する。免疫系は、リンパ球および、白血球から誘導される他の細胞のような幾つかの細胞型を含む細胞器官と、小さなペプチドおよび補体因子を含む液性器官とを含む。【0040】「ワクチン接種」は、感染剤、例えば、この感染剤の弱毒化または不活性化型で生物をチャンジンして、特異的免疫を誘発することを意味する。ワクチン接種という用語は、生物を、本発明の組換えワクシニアウイルスで、特に、ウイルスに非相同性の抗原またはエピトープを発現している組換えMVA−BNおよびその誘導体でチャレンジすることも含む。そのようなエピトープの例は他の説明部分に挙げられ、例えば、デングウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVのような他のウイルスから誘導された蛋白からのエピトープ、腫瘍および癌の進行に係わる蛋白から誘導されたエピトープを含む。組換えワクシニアウイルスを体に投与した後、エピトープは発現され、免疫系に提示され、これらのエピトープに対する特異的免疫反応を誘発することができる。すなわち、生物は、組換えワクシニアウイルスでコード化されるエピトープを含む剤/蛋白に対して免疫される。【0041】「免疫」は、感染剤またはその特徴的部分で予め感染することを首尾よく排除するので、感染剤により引き起こされる疾患に対して生物を部分的または完全に保護することを意味する。免疫は、免疫系の特殊細胞の存在、誘発および活性化に基づく。【0042】本発明の一つの実施形態において先に指摘したように、本発明の組換えウイルス、特に組換えMVA−BNおよびその誘導体は、少なくとも一つの非相同核酸配列を含む。以下において、「非相同」という用語は、普通は天然のウイルスに密接に関連して見つかることはない核酸配列の組み合わせについて用いられ、そのようなウイルスも「組換えウイルス」と呼ばれる。【0043】本発明のさらなる実施形態によれば、非相同配列は、好ましくは、任意の非ワクシニア源から選択される抗原エピトープである。最も好ましくは、前記組換えウイルスは、熱帯熱マラリア原虫、マイコバクテリア、インフルエンザウイルスから、フラビウイルス、パラミクソウイルス、肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスの科から選択されるウイルスから、またはハンタウイルスまたはフィロウイルスのような出血熱を引き起こすウイルス、すなわち、エボラまたはマールブルグウイルスからの一種または二種以上の抗原エピトープを発現する。【0044】さらなる実施形態によれば、しかしながら、抗原エピトープの前記選択に加えて、非相同配列は、別のポックスウイルスまたはワクシニア源から選択することができる。これらのウイルス配列を用いて、ウイルスの宿主範囲または免疫原性を変性させることができる。【0045】さらなる実施形態において、本発明のウイルスは、治療化合物を発現する非相同遺伝子/核酸をコード化することができる。ウイルス中の非相同核酸によりコードされる「治療化合物」は、例えば、アンチセンス核酸のような治療的核酸、または所望の生物学的活性を有するペプチドまたは蛋白であり得る。【0046】さらなる好ましい実施形態によれば、非相同核酸配列の発現は、好ましくは、限定的ではないが、ポックスウイルスプロモーター、より好ましくはワクシニアウイルスプロモーターの転写制御下にある。【0047】さらなる実施形態によれば、非相同核酸配列は、好ましくは、ウイルスゲノムの非必須領域中に挿入される。本発明のもう一つの好ましい実施形態において、非相同核酸配列は、MVAゲノムの天然発生欠失部位に挿入される(PCT/EP96/02926に開示)。非相同配列をポックスウイルスゲノムに如何に挿入するかは、当業者に知られている。【0048】もう一つのさらに好ましい実施形態によれば、本発明は、ウイルスのゲノム、その組換え体またはその機能的部分も含む。そのようなウイルス配列を用いて、PCR、ハイブリッド化技術またはELISAアッセイを行うことにより、ウイルスまたはその組換え体を同定または単離することができる。さらに、そのようなウイルス配列を発現ベクターから発現させて、コードされた蛋白またはペプチドを生成することができ、それは次に、発現ベクター中に含まれるウイルス配列を欠損するウイルスの欠失突然変異体を補うことができる。【0049】ウイルスゲノムの「機能的部分」は、蛋白、蛋白領域、蛋白のエピトープのような物理的構成要素をコード化する完全ゲノム配列の一部を意味する。ウイルスゲノムの機能的部分は、調節要素をコード化する完全ゲノム配列の一部、または、プロモーター、エンハンサー、シスまたはトランス作用要素のような個別化される活性を有する要素の一部も意味する。【0050】本発明の組換えウイルスを、標的細胞に相同または非相同である非相同核酸配列を標的細胞中に導入するのに、用いることができる。標的細胞中への非相同核酸配列の導入を用いて、生体外非相同ペプチドまたはポリペプチドを生成、および/または前記配列によりコードされるウイルスを完成することができる。この方法は、宿主細胞に組換えMVAを感染させること、感染された宿主細胞を適当な条件下に培養すること、および、前記宿主細胞により生成されたペプチド、蛋白および/またはウイルスを単離および/または増菌させることを含む。【0051】さらに、細胞への相同または非相同配列の導入方法は、生体外および、好ましくは生体内治療に適用することができる。生体外治療のために、ウイルスを予め(ex vivo)感染させた単離細胞を、免疫反応を誘発するために動物生体に投与する。生体内治療のためには、ウイルスまたはその組換え体を、免疫反応を誘発するために動物生体に直接投与する。この場合、接種部位を包囲する細胞が、本発明のウイルスまたはその組換え体により、生体内で直接感染される。【0052】本発明のウイルスはヒトおよびサル細胞において高度に成長制限されており、すなわち高度に弱毒化されているので、ヒトを含む広範囲の哺乳動物を治療することが理想的である。従って、本発明は、例えば、ヒトを含む動物生体中において免疫反応を誘発するための、薬剤組成物およびワクチンも提供する。本発明のウイルスは、任意の他の遺伝子治療プロトコールにおいて、いっそう安全である。【0053】薬剤組成物は、通常、一種以上の薬学的に許容できるおよび/または認可されるキャリア、添加剤、抗生物質、防腐剤、アジュバント、希釈剤および/または安定化剤を含んでよい。そのような助剤物質は、水、生理食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤もしくは乳化剤、またはpH緩衝性物質等であり得る。適当なキャリアは、一般的には、蛋白、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマーまたは脂質凝集体等のような大きな、ゆっくり代謝する物質である。【0054】ワクチンの調製のために、本発明のウイルスまたはその組換え体は、生理学的に許容できる形状に転化される。これは、天然痘に対するワクチン接種のために用いられるポックスウイルスワクチンの調製における経験に基づいて行うことができる(Stickl,H.ら著[1974年]Dtsch.med.Wschr.第99巻、2386〜2392頁)。例えば、精製されたウイルスは、約10mMのTris、140mMのNaCl(pH7.4)中で調製された5×108TCID50/mlの量で−80℃で貯蔵される。ワクチンショットの調製のために、例えば、102〜108のウイルス粒子を、アンプル、好ましくはガラスアンプル内で2%ペプトンおよび1%ヒトアルブミンの存在下に燐酸塩緩衝生理食塩水(PBS)100ml中で凍結乾燥する。また、ワクチンショットを、製剤中でのウイルスの段階的凍結乾燥により生成する。この製剤は、マンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトースまたはポリビニルピロリドンのようなさらなる添加剤、または酸化防止剤のような他の添加剤、または不活性ガス、安定化剤あるいは、生体内投与に適した組換え蛋白(例えば、ヒト血清アルブミン)を含み得る。次に、ガラスアンプルを封鎖し、4℃〜室温で数ヶ月貯蔵することができる。しかしながら、必要が無い間は、アンプルを、好ましくは−20℃を下回る温度で貯蔵する。【0055】ワクチン接種または治療のために、凍結乾燥物を水溶液、好ましくは生理食塩水またはTris緩衝液0.1〜0.5ml中に溶解し、全身的または局所的に、すなわち、非経口的に、筋肉内に、または当業者に知られている他の投与経路により投与する。投与方式、投与量および投与回数は、当業者により既知の方法で最適化することができる。【0056】さらに、さらなる実施形態によれば、本発明のウイルスは、免疫無防備状態の動物、例えば、SIVが感染したサル(CD4<400/血液μl)、または免疫無防備状態のヒトにおいて免疫反応を誘発するのに特に有用である。「免疫無防備状態の」という用語は、不完全な免疫反応しか示さない、または感染剤に対する防御において効果が低下している個体の免疫系の状態を表すものである。より興味深いさらなる実施形態において、本発明のウイルスは、これらの動物またはヒトにおいてポックスウイルスへの予め存在する免疫が存在していても、免疫無防備状態の動物またはヒトにおいて免疫反応をブーストすることができる。特に興味深いのは、本発明のウイルスが、抗ウイルス、例えば、抗レトロウイルス治療を行っている動物またはヒトにおいても免疫反応をブーストできることである。「抗ウイルス治療」は、例えば(i)ヌクレオチド類似体の適用、(ii)ウイルス酵素的活性またはウイルス収集用の抑制剤の適用または(iii)宿主の免疫反応に影響を与えるためのサイトカインの適用を含む、ウイルス感染を除去または抑制するための治療概念を含む。【0057】さらなる実施形態によれば、ワクチンは特に、しかし排他的ではなく、獣医分野で、例えば、動物ポックス感染に対する免疫化のために適用することができる。小動物においては、免疫化用の接種は、好ましくは、非経口的または鼻腔から行われ、大きな動物またはヒトにおいては、皮下、筋肉内または経口接種が好ましい。【0058】発明者らにより、既に、本発明のウイルスを僅か102TCID50(組織培養感染投与量)の有効投与量含むワクチンショットが、マウスにおける野生型ワクチンウイルスチャレンジに対して完全な免疫を誘発するのに充分であることが発見された。このことは、本発明のウイルスのそのような高度の弱毒化が抑制的に影響されることが予想され、それにより、その免疫原性が低下することは特に驚くべきことである。そのような予想は、免疫反応の誘発のためには抗原エピトープが免疫系に充分な量で提示される必要があるという考えに基づく。高度に弱毒化され、すなわち複製しないウイルスは、非常に少量の抗原エピトープ、すなわちそれ自体が組み込んでいる量しか提示しない。ウイルス粒子により運ばれるこの量の抗原は、効果的な免疫反応の誘発に充分であると考えられない。しかしながら、本発明のウイルスは、マウス/ワクシニアチャレンジモデルにおいて、僅か102TCID50の非常に低い有効投与量で、効果的かつ保護的な免疫反応を刺激する。本発明のウイルスは、他の今まで特徴付けられていたMVA菌株と比べて、予想不可能でさらに増加した免疫原性を示す。この高い免疫原性は、本発明のウイルスおよびそれから誘導されるワクチンを、免疫寛容動物またはヒトにおける適用に特に有用にする。【0059】本発明のさらもう一つの実施形態によれば、ウイルスがアジュバントとして用いられる。本記載の文脈における「アジュバント」は、ワクチンにおける特異的免疫反応のエンハンサーを意味する。「ウイルスをアジュバントとして用いる」は、ウイルスを予め存在するワクチン中に含み、それにより、ワクチンを受ける患者の免疫系をさらに刺激することを意味する。大部分のワクチン中における抗原エピトープの免疫化効果は、所謂アジュバントの添加により高められることが多い。アジュバントは、ワクチンの抗原エピトープに対して強力な特異的免疫反応を引き起こすことにより免疫系を共刺激する。この刺激は、インターフェロンおよびインターロイキンのような非特異的免疫系の因子により制御することができる。【0060】従って、本発明のさらなる実施形態において、ヒトを含む哺乳動物においてウイルスが用いられて、免疫系が活性化、支持または抑制され、好ましくは任意の抗原決定基に対する免疫反応が活性化される。ウイルスは、ストレスの場合のような感染に対する増加した感受性の刺激において免疫系を支持するために用いることもできる。【0061】アジュバントとして用いられるウイルスは、非組換えウイルス、すなわち、そのゲノム中に非相同DNAを含まないウイルスであってよい。このタイプのウイルスの一例がMVA−BNである。また、アジュバントとして用いられるウイルスは、ウイルスゲノム中に天然には存在しない非相同DNA配列をそのゲノム中に含む組換えウイルスである。アジュバントとして用いるには、ウイルスの組換えウイルスDNAは、好ましくは、免疫刺激ペプチドまたは、インターロイキンのような蛋白をコード化する遺伝子を含み発現する。【0062】さらなる実施形態によれば、アジュバントとして用いられるまたはもう一つのワクチンに添加される場合、ウイルスが不活性化されることが好ましい。ウイルスの不活性化は、例えば、当該分野で知られているように熱または化学物質により行うことができる。好ましくは、ウイルスはβ−プロピオラクトンにより不活性化される。本発明のこの実施形態によれば、不活性化されたウイルスが、多くの感染または増殖性疾患に対するワクチンに添加されて、この疾患の患者の免疫反応が上昇する。【0063】(発明の概要)本発明は、特に、以下のものを単独または組み合わせて含む。【0064】以下の特性の少なくとも一つを有するワクシニアウイルス:ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)およびハムスター幼児腎細胞系BHKにおいて増殖的複製する能力を有するが、ヒト表皮ケラチノ細胞系HaCatにおいて増殖的複製する能力は有さないこと、生体内で複製することができないこと、致死チャレンジモデルにおいて、既知の菌株MVA575と比べて高い免疫原性を誘発すること、および/またはDNA初回/ワクシニアウイルスブースト方式と比べて、少なくとも実質的に同じ水準の免疫をワクシニアウイルス初回/ワクシニアウイルスブースト方式で誘導すること。【0065】ウイルスが、ヒト胚腎細胞系293、ヒト骨肉腫細胞系143Bおよびヒト頸部腺癌細胞系HeLaのいずれかのヒト細胞系においても、増殖的に複製できない前記ウイルス。【0066】ソールズベリー(英国)のヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)にV00083008の番号で寄託されている前記ウイルス、およびその誘導体。【0067】少なくとも一種の非相同核酸配列を含む、前記ウイルス。【0068】前記非相同核酸配列が、少なくとも一つの抗原、抗原エピトープ、および/または治療化合物をコード化する配列から選択される前記ウイルス。【0069】先に定義したウイルスから誘導される、ゲノムまたはその機能的部分。【0070】前記ウイルスおよび/または、先に定義したゲノムおよび/またはその機能的部分、および薬学的に許容できるキャリア、希釈剤および/または添加剤を含んでなる薬剤組成物。【0071】前記ウイルスおよび/または、先に定義したゲノムおよび/またはその機能的部分を含んでなるワクチン。【0072】ヒトを含む生体動物において免疫反応を影響する、好ましくは誘発する薬物としての、前記ウイルス、先に定義したゲノムおよび/またはその機能的部分、先に定義した組成物または先に定義したワクチン。【0073】第1の接種(初回接種)および第2の接種(ブースティング接種)において治療有効量で投与される前記ウイルス、先に定義した薬剤組成物、先に定義したワクチンまたは先に定義したウイルス。【0074】薬剤またはワクチンの調製のための、前記ウイルスおよび/または先に定義したゲノムの使用。【0075】相同および/または非相同核酸配列を標的細胞中に導入する方法であって、標的細胞に先に定義された非相同配列を含むウイルスを感染させること、または標的細胞に先に定義されたゲノムを形質移入させることを含んでなる方法。【0076】ペプチド、蛋白および/またはウイルスを産生する方法であって、宿主細胞に前記ウイルスを感染させる工程、感染した宿主細胞を適当な条件下に培養する工程、および前記宿主細胞により産生されたペプチドおよび/または蛋白および/またはウイルスを単離および/または増菌する工程を含んでなる方法。【0077】ヒトを含む動物生体における免疫反応に影響する、好ましくは誘発する方法であって、前記ウイルス、先に定義したゲノムおよび/またはその機能的部分、先に定義した組成物または先に定義したワクチンを、治療すべき動物またはヒトに投与することを含んでなる方法。【0078】ウイルスの少なくとも102TCID50(組織培養感染量)を投与することを含んでなる前記方法。【0079】第1の接種(初回接種)および第2の接種(ブースティング接種)において、ウイルス、組成物またはワクチンを治療有効量で投与する前記方法。【0080】動物が免疫寛容されている前記方法。【0081】動物がポックスウイルスに対する予め存在する免疫を有する前記方法。【0082】動物が抗ウイルス治療を受けている前記方法。【0083】動物が抗ウイルス治療を受けており、抗ウイルス治療が抗レトロウイルス治療である方法。【0084】前記ウイルス、先に定義されたゲノムおよび/またはその機能的部分のアジュバントとしての使用。【0085】ワクチン中に含まれる抗原および/または抗原エピトープに対する特異的免疫反応を高める方法であって、ワクチンで治療すべきヒトを含む動物生体に、前記ウイルスまたは先に定義されたゲノムをアジュバントとして投与することを含んでなる方法。【0086】アジュバントとしての、前記ウイルスまたは先に定義されたゲノム。【0087】前記ウイルスまたは先に定義されたゲノムまたはその機能的部分を含んでなる、細胞、好ましくはヒト細胞。【0088】前記ワクシニアウイルスを得る方法であって、CEF細胞およびその細胞系BHKから好ましく選択される、その中でウイルスが増殖的に複製することができる非ヒト細胞中に、一般的に入手できるワクシニアウイルス菌株、好ましくはMVA575を導入する工程、これらの細胞からのウイルス粒子を単離/増菌させる工程、および得られたウイルスが、先に定義された生物学的特性の少なくとも一つを有するかどうかを分析する工程を含んでなり、前記工程が、所望の複製特徴を有するウイルスが得られるまで、任意に繰り返される方法。【0089】第1のバイアル/容器で第1の接種(初回接種)を行い、第2のバイアル/容器で第2の接種(ブースト接種)を行うための、前記ウイルス、前記ワクチンまたは先に定義された薬剤としてのウイルスを含んでなる初回/ブースト免疫化用キット。【0090】ワクチンを調製するための、前記ウイルス、先に定義された組成物および/または先に定義されたワクチンの使用であって、ウイルス、組成物またはワクチンが第1の接種で投与され、同じウイルスまたはワクチンがブースト接種において投与される使用。【0091】(実施例)以下の実施例により本発明をさらに説明する。当業者は、提供される実施例が、本発明により提供される技術の適用性をこれら実施例に決して限定しないことを良く理解している。【0092】(図面の簡単な説明)図1:異なる細胞系におけるMVAの異なる菌株の成長速度を示す図である。A)において、結果は、試験したMVA菌株に従って群分けし、B)において、結果は、試験した細胞系に従って群分けしてある。培養4日後(D4)の細胞系から回収したウイルスの量を、プラークアッセイにより決め、1日後(D1)の初期接種量に対する4日後に回収したウイルスの比として表す。【0093】図2:MVA−BNまたはMVA575でのワクチン接種の後のワクシニアの致死チャレンジに対して提供される保護を示す図である。保護は、標準的プラークアッセイによるチャレンジ4日後に決められる卵巣での量の減少により測定される。【0094】図3:異なる初回−ブースト方式を用いるインフルエンザチャレンジに対して提供される、CTLの誘発および保護を示す図。【0095】3A:マウスポリトープをコード化するDNAまたはMVA−BNワクチンを異なる組み合わせでワクチン接種した後の4つの異なるH−2d制限エピトープへのCTL反応の誘発。BALB/cマウス(一群当たり5匹)に、DNA(筋肉内)またはMVA−BN(皮下)をワクチン接種し、3週間後にブースター免疫化を行った。ワクチンによりコードされる4つの異なるエピトープに対するCTL反応(TYQRTRALV、インフルエンザ;SYIPSAEKI、P.Berghei;YPHFMPTNL、サイトメガロウイルス:RPQASGVYM、LCV)を、ブースター免疫化後2週間にELISPOTを用いて決めた。【0096】3B:マウスポリトープをコード化するDNAまたはMVA−BNワクチンを異なる組み合わせでワクチン接種した後の4つの異なるエピトープへのCTL反応の誘発。BALB/cマウス(一群当たり5匹)に、DNA(筋肉内)またはMVA−BN(皮下)をワクチン接種し、3週間後にブースター免疫化を行った。ワクチンによりコードされる4つの異なるエピトープに対するCTL反応(TYQRTRALV、インフルエンザ;SYIPSAEKI、P.Berghei;YPHFMPTNL、サイトメガロウイルス:RPQASGVYM、LCV)を、ブースター免疫化後2週間にELISPOTアッセイを用いて決めた。【0097】3C:皮下投与される最適量(1×108TCID50)の組換えMVA−BNを用いる相同初回ブーストの後の、ペプチドおよびMVA特異的T細胞の頻度。マウス8匹の群に、図に示すような組み合わせの2ショットをワクチン接種した。最終ワクチン接種から2週間後、ペプチド特異的脾細胞の数を、IFN−γELISPOTアッセイを用いて測定した。バーは、特異的スポットの平均数±平均からの標準偏差、を示す。【0098】図4:MVA−BN nefまたはMVA−BNをワクチン接種したサルのSIV負荷を示す図である。【0099】図5:SIVを感染した後のワクチン接種サルの生存率を示す図である。【0100】図6:サルのMVA−BNへの血清抗体量を示す図である。各動物についての抗体量は異なる形状で示すが、平均量は中実矩形として表す。【0101】図7:tatをコード化するMVA−BNでのワクチン接種の後の免疫寛容サル(CD4<血液400ml)におけるSIV水準を示す図である。サルは、予め、MVA−BNまたはMVA−BN nefのワクチン接種を3回(0、8、16週)受けており、SIVの病原性単離体で感染されていた(22週)。100、102および106週(矢印で示す)において、サルにMVA−BN tatをワクチン接種する。【0102】図8:抗レトロウイルス治療およびMVA−BNを用いる治療的ワクチン接種を受けているサルにおけるSIV水準を示す図である。3群のサル(n=6)をSIVで感染し、毎日PMPAで治療した(黒線で示す)。10および16週に、動物に、組換えMVAの混合物または生理食塩水を接種した(矢印で示す)。【0103】図9:感染および組換えMVAのワクチン接種の後にSIVに対して生じた液性反応を示す図である。3つの群(n=6)のサルに、SIV(0週)の病原性単離体を感染させ、次に、抗レトロウイルス治療薬で治療した(PMPA;太線で示す)。サルに、10および16週に、組換えMVAの混合物または生理食塩水を接種した。SIVへの抗体を、標準的ELISAにおいて、感染されたT細胞溶解物を抗原として用いて決めた。【0104】図10:抗レトロウイルス治療を受けているSIV感染サルにおけるMVAに対して発生した液性反応を示す図である。3つの群(n=6)のサルに、SIV(0週)の病原性単離体を感染させ、次に、抗レトロウイルス治療薬で治療した(PMPA;太線で示す)。サルに、10および16週に、組換えMVAの混合物または生理食塩水を接種した。MVAへの抗体を、MVA用の標準的捕獲ELISAを用いて決めた。【0105】図11:マウスに異なる天然痘ワクチンを接種した後のMVAへの抗体の誘発を示す図である。MVA−BNをワクチン接種(0および4週)した後のMVAに対して発生した抗体の水準を、尾乱切(0週)により得られる従来のワクシニア菌株ElstreeおよびWyeth、MVA572(0および4週)ならびにプレElstreeワクチンとして得られるMVA−BNおよびMVA572と比較した。MVA572は、ヨーロピアン・コレクション・オブ・アニマル・セル・カルチャーにECACC V94012707として寄託されている。捕獲ELISAを用いて量を決め、グラフの線形部分を用いて線形回帰により計算し、光学密度0.3になる希釈として定義した。*MVA−BN:MVA−BNはMVA572:MVA572とかなり異なる(p>0.05)。【0106】実施例1選択された細胞系におけるMVAの新規菌株の成長速度および生体内複製(i)細胞系における成長速度本発明により新たに単離された菌株(MVA−BNとも称される)を特徴付けるために、この新規菌株の成長速度を、既に特徴付けられている他のMVA菌株の成長速度と比較した。【0107】実験は、以下に列挙する一次細胞および細胞系における以下のウイルスの成長速度を比較することにより行った。【0108】MVA−BN(ウイルス株#23、18.02.99粗物、2.0×107TCID50/mlで滴定)Altenburger(米国特許5,185,146)により特徴付けられ、MVA−HLRとも呼ばれるMVAAnton Mayr(Mayr,A.ら著、[1975年]Injection第3巻;6〜14頁)により特徴付けられ、MVA575(ECACC V00120707)とも呼ばれるMVA国際特許出願PCT/EP01/02703(WO 01/68820)において特徴付けられているMVA−Vero(ウイルス株、49継代、#20、22.03.99粗物、4.2×107TCID50/mlで滴定)使用した一次細胞および細胞系は:CEF:ニワトリ胚線維芽細胞(SPF卵から新しく調製)HeLa:ヒト頸部腺癌(上皮)、ATCC No.CCL−2143B:ヒト骨肉腫 TK、ECACC No.91112502HaCaT:ヒト表皮ケラチノ細胞系、Boukampら、1988年、J Cell Biol第106(3)巻:761〜771頁BHK:ハムスター幼児腎臓、ECACC 85011433Vero:アフリカ緑サル腎線維芽細胞、ECACC 85020299CV1:アフリカ緑サル腎線維芽細胞、ECACC 87032605感染のために、異なる細胞を6ウエルプレートに5×105細胞/ウエルの濃度で接種し、DMEM(Gibco製、カタログNo.61965−026)+2%FCS中、37℃、5%CO2にて一晩インキュベートした。細胞培養培地を除去し、細胞を、37℃、5%CO2にてmoi約0.05で1時間感染させた(感染について、細胞数は一晩で2倍になると推定される)。異なる細胞型の各感染のために用いられるウイルスの量は5×104TCID50であり、これは入力と呼ばれる。次に、細胞をDMEMで3回洗い、最後にDMEM1mlで洗い、2%FCSを添加し、プレートを放置して37℃、5%CO2にて96時間(4日間)インキュベートした。これらの感染は、滴定分析の準備ができたプレートを−80℃で凍結することにより停止した。【0109】滴定分析(ワクシニアウイルス特異的抗体での免疫染色)ウイルスの量の滴定のために、試験細胞(CEF)を、96ウエルプレート上で、RPMI(Gibco製、カタログNo.61870−010)、7%FCS、1%抗生物質/抗真菌剤(Gibco製、カタログNo.15240−062)中、1×104細胞/ウエルの濃度で接種し、37℃、5%CO2にて一晩インキュベートした。感染実験剤を含む6ウエルプレートを、3回凍結/乾燥し、RPMI成長培地を用いて10-1〜10-12の希釈物を調製した。ウイルス希釈物を試験細胞上に分配し、37℃、5%CO2にて5日間インキュベートして、CPE(細胞変性効果)を発生させた。試験細胞を10分間固定(アセトン/メタノール1:1)し、PBSで洗い、インキュベーション緩衝液中1:1000の希釈でポリクローナルワクシニアウイルス特異的抗体(Berlin在Quartett製、カタログNo.9503−2057)と共に室温で1時間インキュベートした。PBS(Gibco製、カタログNo.20012−019)で2回洗った後、HPR結合抗ウサギ抗体(マンハイム在Promega製、カタログNo.W4011)をインキュベーション緩衝液(3%FCSを含むPBS)中1:1000の希釈で室温で1時間加えた。細胞を再びPBSで2回洗い、染色溶液(PBS10ml+100%エタノール中のo−ジアニシジンの飽和溶液200μl+新たに調整したH2O215μl)と共に、褐色スポットが見えるまで(2時間)インキュベートした。染色溶液を除去し、染色反応を止めるためにPBSを添加した。褐色スポットを示す各ウエルを、CPEに陽性であるとマークし、Kaerberの式を用いて滴定量を計算した(TCID50に基づくアッセイ)(Kaerber,G.1931年、Arch.Exp.Pathol.Pharmakol.第162巻、480頁)。【0110】ウイルスを用いて、一方では、MVAに許容されると予想されるCEFおよびBHK、他方では、MVAに許容されないと予想されるCV−1、Vero、Hela、143BおよびHaCatの二組を、低感染多重度で、すなわち、細胞当たり0.05の感染単位で感染させた(5×104TCID50)。この後、ウイルス接種物を除去し、細胞を3回洗って、残りの吸収されていないウイルスを除去した。感染物を合計4日間放置し、その間にウイルス抽出物を調製し、次に、CEF細胞上で滴定した。表1および図1は、滴定アッセイの結果を示しており、そこで、値は、4日間の感染後に生成されたウイルスの合計量として与えられる。【0111】全てのMVAに対して許容できる細胞系なので、全てのウイルスが予想通りにCEF細胞(にわとり胚線維芽細胞)中でうまく増幅したことが示された。さらに、全てのウイルスがBHK(ハムスター腎細胞系)においてうまく増幅したことが示された。BHKは許容できる細胞系なので、MVA−Veroが最良に働いた。【0112】Vero細胞(サル腎細胞系)における複製に関しては、MVA−Veroが予想通りうまく増幅した、すなわち、入力の1000倍増幅した。MVA−HLRおよび、MVA−575も、入力より、それぞれ33倍および10倍増幅した。MVA−BNのみが、他のものと比較して、これらの細胞において良好に増幅しなかった、すなわち、入力の2倍しか増加しなかった。【0113】CV1細胞(サル腎細胞系)における複製に関しても、MVA−BNがこの細胞系において高度に弱毒化されることが発見された。これは、入力よりも200倍の低下を示した。MVA−575も入力水準を越えて増幅せず、僅かに否定的に増幅を示した、すなわち、入力よりも16倍低い低下を示した。最高のMVA−HLRは入力よりも30倍の増幅を示し、続いてMVA−Veroが入力よりも5倍の増加を示した。【0114】最も興味深いのは、ヒト細胞系における種々のウイルスの成長速度の比較である。143B細胞(ヒト骨癌細胞系)における増幅的複製に関しては、MVA−Veroが入力を超える増幅(3倍増)を示す唯一のものであることが示された。全ての他のウイルスは、入力を超えて増幅しなかったが、MVA−HLRと、MVA−BNおよびMVA−575との間には大きな相違があった。MVA−HLRは「ボーダーライン」(入力より1倍低い)であり、MVA−BNが最も大きな弱毒化(入力を300倍下回る低下)を示し、続いてMVA−575(入力を59倍下回る低下)であった。要約すると、MVA−BNは、ヒト143B細胞における弱毒化に関して優れていた。【0115】さらに、HeLa細胞(ヒト頸部癌細胞)における増幅に関しては、MVA−HLRはこの細胞系において良好に増幅し、許容されるBHK細胞中での増幅(HeLaは入力を超えて125倍増加;BHKは入力を超えて88倍増加)よりも大きいことが示された。MVA−Veroも、この細胞系において増幅した(入力を超えて27倍増加)。しかしながら、MVA−BNおよび、程度は少ないがMVA−575も、これらの細胞系において弱毒化した(MVA−BNは入力を下回る29倍の低下、およびMVA−575は入力を下回る6倍の低下)。【0116】HaCat細胞(ヒト表皮ケラチノ細胞系)における複製に関して、MVA−HLRがこの細胞系において良好に増幅(入力を超えて55倍増加)することが示された。適用されたMVA−VeroおよびMVA−575の両方が、この細胞系において増幅(入力を超えて、それぞれ1.2倍および1.1倍の増加)を示した。しかしながら、MVA−BNが唯一、弱毒化を示した(入力を下回る5倍の低下)。【0117】結論として、MVA−BNがこのウイルス群において最も弱毒化したウイルス菌株であると言うことができ、MVA−BNは、ヒト胚腎細胞(293:ECACC No.85120602)(データは表1に含まれない)において0.05〜0.2の増幅比を示すことによりヒト細胞系において極端に弱毒化されることを示し、これは、さらに、143B細胞における約0.0の増幅比、HeLa細胞における約0.04の増幅比、およびHaCat細胞における約0.22の増幅比を示している。さらに、MVA−BNは、CV1細胞において約0.0の増幅比を示している。Vero細胞においてのみ、増幅を観察すことができる(2.33の比)が、BHKおよびCEFのような許容できる細胞系におけるのと同じ程度ではない(表1と比較)。すなわち、MVA−BNは、ヒト細胞系143B、HeLa、HaCatおよび293の全てにおいて1未満の増幅比を示す唯一の既知のMVA菌株である。【0118】MVA−575は、MVA−BNと類似のプロフィールを示すが、MVA−BNのように弱毒化されることはない。【0119】MVA−HLRは試験した全ての細胞系(143B細胞を除く)において良好に増幅し、すなわち、143B細胞を除いて試験した全ての細胞系において複製コンピテントであると見なすことができる。一つの場合において、許容できる細胞系(BHK)におけるよりもヒト細胞系(HeLa)において、より増幅する。【0120】MVA−Veroは、全ての細胞系において増幅を示すが、MVA−HLRよりも示される程度が小さい(143Bの結果を無視)。それにもかかわらず、弱毒化に関して、MVA−BNまたはMVA−575と同じ「クラス」にあると見なすことはできない。【0121】2.生体内複製一部のMVA菌株が生体外で明らかに複製するとして、トランスジェニックマウスモデルAGR129を用いて生体内で複製する、異なるMVA菌株の能力を試験した。このマウス菌株は、IFN受容体I型(IFN−α/β)およびII型(IFN−γ)遺伝子においておよびRAGにおいて遺伝子標的破壊を有する。これらの破壊の為に、マウスはIFN系を有さず、成熟BおよびT細胞を生成することができず、そのものとして強く免疫寛容され、複製しているウイルスに高度に感受性である。マウス6匹の群を、107pfuのMVA−BN、MVA−HLRまたはMVA−572で免疫化(腹膜内)(独国の120,000人の人々において用いた)し、毎日、臨床症候についてモニターした。MVA−HLRまたはMVA−572をワクチン接種した全てのマウスが、それぞれ28日および60日以内に死亡した。剖検において、大部分の器官において幾つかのウイルス感染の一般的症候があり、標準的プラークアッセイにおいて、卵巣からMVA(108pfu)が回収された。これに対して、同じ投与量のMVA−BN(寄託された菌株ECACC V00083008に相当)をワクチン接種したマウスは、90日を超えて生存し、器官または組織からMVAを回収することはできなかった。【0122】これらを併せると、生体外および生体内の研究からのデータは、親菌株および市販のMVA−HLR菌株よりも、MVA−BNがより高度に弱毒化することを明示している。【0123】実施例2免疫学的および生体内データこれらの実験は、他のMVAと比較して、MVA−BNの異なる投与および接種方式を比較するものである。【0124】2.1 MVAの異なる菌株が、免疫反応を刺激する能力において異なるワクチンの複製コンピテント菌株が、マウスにおける効果的免疫反応を誘発し、高い投与量においては致死的である。MVAは高度に弱毒化され、哺乳動物の細胞において複製する能力が低下しているが、MVAの異なる菌株間において弱毒化に相違がある。実際、MVA−BNは、他のMVA菌株よりも、親菌株MVA575であっても、それよりもいっそう弱毒化するようである。この弱毒化の相違が、保護的免疫反応を誘発するようにMVAの効果に影響を与えるかどうか決めるために、致死ワクシニアチャレンジモデルにおいて、異なる投与量のMVA−BNおよびMVA−575を比較した。保護水準を、チャレンジの4日後に決めた卵巣ワクシニア量の低下により測定し、これにより、MVAの異なる投与量および菌株を定量的に評価することができる。【0125】致死チャレンジモデル特定の病原性のない6〜8週齢の雌BALB/c(H−2d)マウス(n=5)を、異なる投与量(102、104または106TCID50/ml)のMVA−BNまたはMVA−575で免疫化(腹腔内)した。MVA−BNおよびMVA−575をCEF細胞上で増殖させ、スクロースを精製し、Tris(pH7.4)中で調製した。3週間後に、マウスは、MVAの同じ投与量および菌株のブーストを受け、2週間後に、ワクシニアの複製コンピテント菌株を用いて致死チャレンジ(腹腔内)を行った。複製コンピテントワクシニアウイルス(「rVV」と略す)として、菌株WR−L929 TK+または菌株IHD−Jを用いた。対照マウスは、プラセボワクチンを受けた。保護は、標準的プラークアッセイにより、チャレンジの4日後に決められる卵巣中の量の低下により測定した。このために、マウスを、チャレンジの4日後に殺し、卵巣を取り除き、PBS(1ml)中に均質化し、VERO細胞(Thomsonら著、1998年、J.Immunol.第160巻:1717頁)を用いる標準的プラークアッセイによりウイルス量を決めた。【0126】MVA−BNまたはMVA−575の104または106TCID50/mlの2回免疫化を接種したマウスは、チャレンジの4日後の卵巣rVV量における100%低下(図2)により判断されるように、完全に保護されていた。チャレンジウイルスを取り除いた。しかしながら、MVA−BNまたはMVA−575により与えられた保護の水準における相違が、より低い投与量において観察された。MVA−575の102TCID50/mlの2回免疫化を受けたマウスは、卵巣rVV量の多さ(平均3.7×107pfu±2.11×107)により判断されるように保護できなかった。これに対して、同じ投与量のMVA−BNをワクチン接種したマウスは、卵巣rVV量において大きな低下(96%)を誘発した(平均0.21×107pfu±0.287×107)。プラセボワクチンを受けた対照マウスは、平均ウイルス量が5.11×107pfu(±3.59×107)であった(図2)MVAの両方の菌株が、マウスにおいて、致死rVVチャレンジに対する保護的免疫反応を誘発した。MVAの両菌株は、高い投与量においては等しく効果的であったが、最適量より少ない量では、それらの効果の相違が明らかである。MVA−BNは、致死rVVチャレンジに対する保護的免疫反応の誘発において、その親菌株MVA−575よりも効果的であり、これは、MVA−575と比べてMVA−BNの弱毒化が増加していることに関係し得る。【0127】2.2 初回−ブーストワクチン接種方式におけるMVA−BN2.2.1 マウスに異なる天然痘ワクチンを接種した後のMVAに対する抗体の誘発MVA−BNの効果を、天然痘の根絶のために以前に用いられたワクシニア菌株および他のMVAと比較した。これらは、CEF細胞中で生成され尾乱切により得られたElstreeおよびWyethワクシニア菌株を用いる一回免疫化、および独国において天然痘根絶プログラムにおいて以前に用いられていたMVA572を用いる免疫化を含んでいた。さらに、MVA−BNとMVA572とをプレワクチンとして比較し、続いて、乱切によるElstreeを用いた。各群について、8匹のBALB/cマウスを用い、全てのMVAワクチン接種(1×107TCID50)は、0および3週目に皮下に行った。ブースト免疫化から2週間後、マウスにワクシニア(IHD−J)をチャレンジし、卵巣中の量を、チャレンジの4日後に決めた。全てのワクチンおよび方式が、100%の保護を誘発した。【0128】これらの異なるワクチンまたは方式を用いて誘発された免疫反応を、チャレンジ前に、動物において測定した。抗体を中和する水準、T細胞増殖、サイトカイン生成(IFN−γとIL−4)およびT細胞によるIFN−γ生成を測定するアッセイを用いた。ELISPOTにより測定される、MVA−BNにより誘発されるT細胞反応の水準は、通常、他のMVAおよび生物的等価性を示すワクシニアウイルスと等しい。異なるワクチン接種方式に続くMVAへの抗体量の1週間の分析により、他のワクチン接種方式と比べて、MVA−BNでのワクチン接種が、抗体反応の速度および程度を著しく向上させることが示された(図11)。実際、MVAの抗体量が、MVA572を接種したマウスと比較して、MVA−BNを接種した場合、2、4および5週目(4週目のブースト後1週間)において著しく高かった(p>0.05)。4週目のブーストワクチン接種の後に、抗体量は、ワクシニア菌株ElstreeまたはWyethのいずれかを1回接種したマウスと比較して、MVA−BN群において著しく高かった。これらの結果は、MVA−BNを2回接種すると、従来のワクシニア菌株(ElstreeおよびWyeth)を1回接種する方法と比べて、優れた抗体反応が誘発されることを明らかに示しており、MVA−BNが他のMVA菌株よりも免疫原性が優れているというセクション1.5からの見識が確認される。【0129】2.2.2:MVA初回およびブースト方式が、インフルエンザ チャレンジモデルにおいて、DNA初回MVAブースト方式と同じ水準の保護を生じさせる高結合力CTL反応を生じさせるMVA初回−ブースト方式の効果を評価し、優れていると報告されていたDNA初回/MVAブースト方式と比べた。DNAベクターまたはMVA−BNのいずれかによりコードされるマウスポリトープ構造体を用いて異なる方式を評価し、CTL誘発の水準をELISPOTにより比較し、一方、反応の結合性を、インフルエンザでのチャレンジ後に与えられる保護の程度として測定した構造マウスポリトープをコード化するDNAプラスミド(インフルエンザ、オボアルブミンを含む10CTLエピトープ)は先に記載した(Thomsonら著、1998年、J.Immunol.第160頁、1717頁)。このマウスポリトープを、MVA−BNの欠失部位IIに挿入し、CEF細胞上で増殖し、スクロース精製し、Tris(pH7.4)中で調製した。【0130】ワクチン接種プロトコール最近の研究において、特定の病原性のない6〜8週齢の雌BALB/c(H−2d)マウスを用いた。5群のマウスをELISPOT分析に使用し、群当たり6匹のマウスを、インフルエンザチャレンジ実験に用いた。結果に詳細に記載する、マウスポリトープをコード化するDNAまたはMVAを用いて、異なる初回−ブースト方式で、マウスにワクチン接種した。DNAでの免疫化のために、マウスに麻酔をかけ、次に、麻酔下に、内毒素を含まないプラスミドDNA(PBS50μl中)50μgを4頭筋に1回注射した。マウス当たり107pfuのMVA−BNを静脈内投与する、またはマウス当たり107pfuまたは108pfuのMVA−BNを皮下投与することによりMVAを用いる初回免疫化を行った。初回免疫化の3週間後に、ブースト免疫化を行った。DNAを用いる初回免疫化(前記参照)と同じ方法でプラスミドDNAを用いるブースティングを行った。CTL反応を達成するために、インフルエンザCTLエピトープペプチド(TYQRTRALV)、P.Bergheiエピトープペプチド(SYIPSAEKI)、サイトメガロウイルスペプチドエピトープ(YPHFMPTNL)および/またはLCVペプチドエピトープ(RPQASGVYM)を用いて、標準的ELISPOTアッセイ(Schneiderら著、1998年、Nat.Med.第4巻;397〜402頁)を、最後のブースト免疫化の2週間後に脾細胞に行った。チャレンジ実験のために、マウスに、致死量未満のレゾルタント(ressortant)インフルエンザウイルスMem71(PBS50ml中4.5×105pfu)を感染(i.n.)させた。感染の5日後、肺を除去し、標準的インフルエンザプラークアッセイを用いて、Madin−Darbyイヌ腎細胞系においてウイルス量を2回決めた。【0131】結果:DNAワクチン単独を用いると、CTLの、マウスポリトープによりコードされた4H−2dエピトープへの誘発は乏しく、P.Berghei(SYIPSAEKI)およびリンパ球脈絡髄膜炎ウイルス(RPQASGVYM)のためのエピトープの二つについて弱い反応しか検出できなかった。これに対して、DNA初回MVAブースト方式(皮下投与された107pfu MVA−BN)を用いると、かなりのCTLがSLY(8倍増加)およびRPQ(3倍増加)に誘発され、マウスサイトメガロウイルス(YPHFMPTNL)用の第3のエピトープへも反応が観察された(図3A)。しかしながら、相同初回ブースト方式において、皮下投与された107pfu MVA−BNを用いると、DNAの後にMVA−BNを用いる場合と同じ水準の反応が誘発された(図3A)。驚くべきことに、MVA−BN(107TCID50)の1回免疫化を用いる場合、3つのエピトープの誘発されたCTLの数において大きな相違は無く、これは、MVA−BNでの二次免疫化がCTL反応をあまりブーストしないことを示している。【0132】特に静脈内免疫化と比較すると、107pfu MVAの皮下投与は最も非効率的経路であること、およびMVAの他の菌株を用いる接種用のウイルス濃度が以前に示されている(Schneiderら著、1998年)。最適免疫化方式を定義するために、ウイルスの量を変化させて、または投与方式を変えて、前記実験を繰り返した。一つの実験において、107pfu MVA−BNワクチン接種を静脈内に行った(図3B)。さらなる実験においては、108pfu MVA−BNを皮下に投与した(図3C)。これらの実験において、MVA−BN初回−ブースト免疫化は、DNA初回MVAブースト方式と比べて、平均CTL数を高めて全部で3つのCTLエピトープを得た。また、107pfu MVA−BNの皮下投与とは異なり、107pfu MVA−BNの静脈内投与および108pfuの皮下投与は、CTL反応をかなりブーストし、これは明らかに、MVA−BNを用いて、ベクターへの予め存在する免疫の存在下におけるCTL反応をブーストし得ることを示している。【0133】2.2.3 SIV感染アカゲサルにおけるMVA−BN nefワクチンの効果SIVの有毒一次単離物でのチャレンジの後のウイルス負荷および疾患の遅延を調べることにより、MVA−BN nefワクチンの効果を決める。さらに、この研究は、MVAへの予め存在する免疫を有する免疫寛容サルにおいてMVA−BNを用いて免疫反応を安全にブーストできるかどうか決める。【0134】ワクチン接種プロトコール2群(n=6)のアカゲサル(Macaca mulalta)に、0、8および16週に、MVA−BN単独または組換えMVA−BN nefをボーラスの筋肉内注射により接種した。22週において、全てのサルに、静脈内経路により、一次非培養アカゲサルPBMCからの病原性細胞関連SIV株(1×C)の50MID50をチャレンジした。動物の臨床状態を頻繁にモニターし、定期的に血液サンプルを採取して、ウイルス血症、免疫パラメーター、および全範囲の血液病学的および血液臨床化学的パラメーターを測定した。AID状疾患を発症した動物を殺し、生き延びているサルを、ワクチン接種後99週間モニターした。100週目において、生き延びているサルを全て、MVA−BNで筋肉内免疫化し、102および106週目において、同じMVA−BN tatでさらなる免疫化を行った。【0135】MVA−BNまたはMVA−BN nefのいずれのワクチン接種後にも、悪影響は観察されなかった。サルにSIVを感染させた後、ウイルス血症が急激に生じ、感染から2週間でピークに達した(図4)。群内での大きな標準偏差の為に、MVA−BN nefまたはMVA−BNをワクチン接種した群の間においてSIVの平均水準に大きな相違はなかった。しかしながら、対照(MVA−BN)群と比べて、MVA−BN nefを接種した群において、通常、10倍低いSIV負荷があった。さらに、注射の35週間(初期観察期間)後、対照群中の6匹の動物のうち4匹と比べて、MVA−BN nefを接種した6匹のサルのうち1匹のみを安楽死させなくてはならなかった(図5)。病気の進行は、高いウイルス負荷と明らかに関連しており、そのものとして動物を、感染後さらに29週間観察した。MVA−BN nefは、対照群と比較して、病気の進行を遅らせるようであり、感染の46週後にも、6匹のMVA−BN nef動物のうち5匹が生き残った(図5)。しかしながら、感染の59週後、nef接種群のさらなる2匹の動物を安楽死させ、5匹の生存動物を残した(3匹はMVA−BN nef群からで、2匹がMVA−BN接種したものである)。これらの12匹のサルにおけるMVA−BNに対して生じた抗体量の試験は、MVAへの予め存在する免疫の存在下においてもMVA−BNが免疫反応をブーストすることを明らかに示した(図6)。MVA−BNまたはMVA−BN nefでの初回免疫化後、全てのサルが、平均滴定量1000でMVAへの抗体反応を生じた。この抗体反応は、二次免疫化後にかなりブーストされ、これは明らかに、健常サルにおいて初回−ブースト免疫反応のためにMVAを用い得ることを示している。これらの抗体量は次第に低下したが、免疫化の49週間後までに、滴定量は一定になり、その結果、99週目でのMVAへの平均滴定量は2000であった。【0136】5匹の生き残っているサルにSIVを感染させ、400/μl血液より少ないCD4数で免疫無防備状態の。免疫寛容サル中でMVA−BNを用いる衝撃を調査するために、初期ワクチン接種の100、102および106週後に、5匹の動物をMVA−BN tatで3回ワクチン接種した。MVA−BN tatでの最初の免疫化は、6週間後の3回目の免疫化でさらにブーストされたこれらの免疫寛容サルにおいて、MVAへの抗体反応を著しくブーストした(図6)。これらの結果は、さらに、免疫寛容サルにおいても、MVAへの著しい予め存在する免疫の存在下に、MVA−BNが免疫反応をブーストし得ることを示している。サル免疫反応は、MVA−BN tatで免疫化した後にブーストされたが、SIVの水準を安定しており、これは、MVA−BNでの免疫化が安全であり、免疫寛容サルにおいてSIV水準に影響を与えないことを示している(図7)。【0137】この研究は、MVA−BNが、免疫寛容ミドリサルにおける免疫反応を初回−ブーストすることができ、MVA−BN免疫化が安全であり、SIV感染動物におけるウイルス血症の水準に影響を与えないことを示した。MVA−BN nefワクチンを接種した動物におけるAIDS状疾患の進行の遅延は、免疫反応がnefに対して首尾よく生じたことを示している。【0138】2.2.4 抗レトロウイルス治療を受けているSIV感染サルの治療的ワクチン接種MVA−BN系治療的HIVワクチンを、同様に、抗レトロウイルス治療を受けている個体において用いた。従って、この研究は、PMPAで治療したSIV感染サルにおいて種々のSIV抗原(gag、pol、env、rev、tatおよびnef)をコード化する組換えMVAの安全性(SIV水準への影響)および効果を示した。PMPAは、ヌクレオシドが類似しており、HIVおよびSIVに効果的である(Rosenwirth,B.ら著、2000年、J Virol第74巻、1704〜11頁)。【0139】構造全ての組換えMVA構造物をCEF細胞上で増殖し、スクロース精製し、Tris(pH7.4)中で調製した。【0140】ワクチン接種プロトコール3群(n=6)のアカゲサル(Macaca mulaltta)に、病原性一次SIV単離物(1×C)の50MID50を感染させ、次に、PMPA(60mg/kg、皮下投与)で毎日、19週間治療した。10週目に、動物に、組換えMVA−BN(筋肉内)または生理食塩水を接種し、6週間後に同じワクチン接種を行った。1群は、MVA gag−polとMVA−envとの混合物を与え、2群は、MVA−tat、MVA−revおよびMVA−nefを与え、3群は、生理食塩水を与えた。動物の臨床状態を頻繁にモニターし、ウイルス血症、免疫パラメーター、および全範囲の血液学的および血液臨床化学的パラメーターを測定するために定期的に血液サンプルを得た。【0141】全ての動物は、感染の2週間後にピークを示す高SIV負荷を達成した(図8)。PMPAでの毎日の治療に続いて、SIV水準が低下し、9週間目までに低水準に安定した。先の研究におけるように、10および16週目のMVAでのワクチン接種は、SIV水準に影響を与えず、これは、MVA−BNが、免疫寛容動物にとって安全なワクチンベクターであることを示している。一旦、動物をPMPA治療を止める(21週)と、SIV水準が増加した。1群における3匹の動物は、対照の3群と比べて、SIVの水準が低下したが、PMPA治療の終了後、どの群の間にも平均SIV負荷の大きな相違はなかった(図8)。ELISA〜SIV感染T細胞溶解物を用いて、全ての群の動物が、感染の4週後までにSIVへの抗体反応を示した(図9)。PMPA治療中に対照群(生理食塩水)におけるSIV抗体量が低下し、PMPA治療を停止すると迅速に増加し、これは、抗レトロウイルス治療中のSIV水準の低下およびその後の増加を反映している(図9)。MVA−tat、MVA−revおよびMVA−nefを受けた2群において、SIV抗体量に同様のパターンが観察され、これはおそらく、ELISAで用いたSIV感染T細胞溶解物におけるこれらの調節蛋白の発現中に反映している。これに対して、1群の抗SIV抗体量は、10週目にMVA gag−polおよびMVA−envでワクチン接種した後に増加し、これは、抗レトロウイルス治療を受けている(SIV)感染動物におけるSIVへの免疫反応を、組換えMVA−BNがブーストし得ることを示している。重要なことは、16週目に二次免疫化した後に抗SIV抗体量がブーストされ、これも、MVAへの予め存在する免疫の存在下においてさえも免疫寛容動物における免疫反応を、MVAがブーストし得ることを示している(図8)。1群における抗MVA抗体量もこのパターンを反映し、初回免疫化に続く抗体反応を生じ、これは、二次免疫化に続いておおきくブーストされた(図10)。参考文献:【0142】【外1】【0143】 表1:4日間の感染後の入力水準を越えるウイルス増幅 増幅率=出力TCID50/入力TCID50 値は、TCID50での値【0144】【表1】【図面の簡単な説明】【図1】 図1は異なる細胞系におけるMVAの異なる菌株の成長速度を示す。【図2】 図2はMVA−BNまたはMVA575でのワクチン接種の後のワクシニアの致死チャレンジに対して提供される保護を示す。【図3】 図3は異なる初回−ブースト方式を用いるインフルエンザチャレンジに対して提供される、CTLの誘発および保護を示す。【図4】 図4はMVA−BN nefまたはMVA−BNをワクチン接種したサルのSIV負荷を示す。【図5】 図5はSIVを感染した後のワクチン接種サルの生存率を示す。【図6】 図6はサルのMVA−BNへの血清抗体量を示す。【図7】 図7はtatをコード化するMVA−BNでのワクチン接種の後の免疫寛容サル(CD4<血液400ml)におけるSIV水準を示す。【図8】 図8は抗レトロウイルス治療およびMVA−BNを用いる治療的ワクチン接種を受けているサルにおけるSIV水準を示す。【図9】 図9は感染および組換えMVAのワクチン接種の後にSIVに対して生じた液性反応を示す。【図10】 図10は抗レトロウイルス治療を受けているSIV感染サルにおけるMVAに対して発生した液性反応を示す。【図11】 図11はマウスに異なる天然痘ワクチンを接種した後のMVAへの抗体の誘発を示す。 以下の特性: (i)ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)において増殖的複製する能力を有するが、ヒト表皮ケラチノ細胞系HaCat、ヒト胚腎細胞系293、ヒト骨肉腫細胞系143Bおよびヒト頸部腺癌細胞系HeLaにおいて増殖的複製する能力は有さないこと、および (ii)成熟BおよびT細胞を生成できないマウスモデルにおいて複製することができないこと、を有し、英国ソールズベリー(Salisbury)のヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)にV00083008の番号で寄託されているMVAワクシニアウイルスおよびその誘導体。 少なくとも一種の非相同核酸配列を含む、請求項1に記載のウイルス。 前記非相同核酸配列が、少なくとも一つの抗原、抗原エピトープ、および/または治療化合物をコード化する配列から選択される、請求項2に記載のウイルス。 請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス、および薬学的に許容できるキャリア、希釈剤および/または添加剤を含んでなる薬剤組成物。 請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルスを含んでなるワクチン。 ヒトを含む生体動物において免疫反応を影響する薬物としての、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス。 ヒトを含む生体動物において免疫反応を誘発する薬物としての、請求項6に記載のウイルス。 ヒトを含む生体動物において免疫反応を影響する薬物としての、請求項4に記載の薬剤組成物。 ヒトを含む生体動物において免疫反応を誘発する薬物としての、請求項8に記載の薬剤組成物。 ヒトを含む生体動物において免疫反応を影響する薬物としての、請求項5に記載のワクチン。 ヒトを含む生体動物において免疫反応を誘発する薬物としての、請求項10に記載のワクチン。 第1の接種(初回接種)および第2の接種(ブースティング接種)において治療有効量で投与される請求項1から3および6から7のいずれか一項に記載のウイルス。 第1の接種(初回接種)および第2の接種(ブースティング接種)において治療有効量で投与される請求項4に記載の薬剤組成物。 第1の接種(初回接種)および第2の接種(ブースティング接種)において治療有効量で投与される請求項5に記載のワクチン。 薬剤またはワクチンの調製のための、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルスの使用。 相同および/または非相同核酸配列を標的細胞中に導入する方法であって、標的細胞に請求項2または3に記載のウイルスを感染させることを含んでなる方法。 ペプチド、蛋白および/またはウイルスを産生する方法であって、 (a)宿主細胞に請求項1または3に記載のウイルスを感染させる工程と、 (b)感染した宿主細胞を適当な条件下に培養する工程と、 (c)前記宿主細胞により産生されたペプチドおよび/または蛋白および/またはウイルスを単離および/または増菌する工程と、を含んでなる方法。 ヒトを含む動物生体における免疫反応を影響するための薬剤組成物の製造のための、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス、請求項4に記載の組成物または請求項5に記載のワクチンの使用であって、前記薬剤組成物が治療すべき動物またはヒトに投与されるためのものである、前記の使用。 ヒトを含む動物生体における免疫反応を誘発するための薬剤組成物の製造のための請求項18記載の使用であって、前記薬剤組成物が治療すべき動物またはヒトに投与されるためのものである、前記の使用。 少なくとも102 TCID50(組織培養感染量)のウイルスが投与される、請求項18または19に記載の使用。 ウイルス、組成物またはワクチンが、第1の接種(初回接種)および第2の接種(ブースティング接種)において、治療有効量で投与されるためのものである、請求項18から20のいずれか一項に記載の使用。 動物が免疫寛容されている、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。 動物がポックスウイルスに対する予め存在する免疫を有する、請求項18から22のいずれか一項に記載の使用。 動物が抗ウイルス治療を受けている、請求項18から23のいずれかに記載の使用。 抗ウイルス治療が抗レトロウイルス治療である、請求項24に記載の使用。 請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルスのアジュバントとしての使用。 ワクチン中に含まれる抗原および/または抗原エピトープに対する特異的免疫反応を高めるための薬剤組成物の製造のための、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルスの使用であって、前記薬剤組成物がワクチンで治療すべきヒトを含む動物生体に、アジュバントとして投与されるためのものである、前記の使用。 請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルスからなるアジュバント。 請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルスを含んでなる、細胞。 請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルスを含んでなる、ヒト細胞。 請求項1に記載のワクシニアウイルスを得る方法であって、 CEF細胞から選択される、その中でウイルスが増殖的に複製することができる非ヒト細胞中に、ヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)にV00120707の番号で寄託されているMVA575を導入する工程と、 これらの細胞からのウイルス粒子を単離/増菌させる工程、および 得られたウイルスが、請求項1に定義された生物学的特性の少なくとも一つを有するかどうかを分析する工程と、を含んでなり、 前記工程が、所望の複製特徴を有するウイルスが得られるまで、任意に繰り返される方法。 第1のバイアル/容器で第1の接種(初回接種)を行い第2のバイアル/容器で第2の接種(ブースト接種)を行うための、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルスと、請求項4に記載の組成物と、請求項5に記載のワクチンまたは請求項6または7に記載にウイルスとを含んでなる初回/ブースト免疫化用キット。 ワクチンを調製するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス、請求項4に記載の組成物、請求項5に記載のワクチンまたは請求項6または7に記載のウイルスの使用であって、ウイルス、組成物またはワクチンが第1の接種および第2の接種において治療有効量で投与されるためのものである、前記の使用。