タイトル: | 特許公報(B2)_ヒト軟骨細胞培養方法 |
出願番号: | 2002517742 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12N 5/077,A61K 35/32,A61L 27/00,A61P 19/04 |
矢永 博子 JP 4763960 特許公報(B2) 20110617 2002517742 20010808 ヒト軟骨細胞培養方法 矢永 博子 598142933 結田 純次 100127926 竹林 則幸 100140132 高木 千嘉 100091731 西村 公佑 100080355 矢永 博子 JP 2000241206 20000809 JP 2000381915 20001215 20110831 C12N 5/077 20100101AFI20110811BHJP A61K 35/32 20060101ALI20110811BHJP A61L 27/00 20060101ALI20110811BHJP A61P 19/04 20060101ALI20110811BHJP JPC12N5/00 202GA61K35/32A61L27/00 FA61P19/04 C12N 5/077 A61K 35/32 A61L 27/00 A61P 19/04 CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) Science Direct Wiley InterScience CiNii J Biomed Mater Res,2000年 3月,Vol.49,p.305-311 J Biomed Mater Res,1999年,Vol.44,p.280-288 CELL BIOLOGY INTERNATIONAL,1993年,Vol.17, No.3,p.255-273 AM J VET RES,1993年,Vol.54, No.2,p.349-356 8 JP2001006815 20010808 WO2002012451 20020214 16 20080704 山本 匡子 【0001】技術分野 本発明は、新規な正常ヒト軟骨細胞の培養方法およびかかる方法により得られた正常ヒト軟骨細胞に関する。本発明はまた得られた正常ヒト軟骨細胞を用いた軟骨治療材に関する。【0002】背景技術 軟骨細胞は生体では基質の中に細胞が包埋された状態で存在しており、酵素、例えばコラゲナーゼ、で軟骨組織を処理して、基質成分から軟骨細胞を単離することができる。また、軟骨に関わる疾病の治療では、単離した軟骨細胞の移植、特に軟骨細胞の自家移植による治療方法が考えられていた。このため、動物実験において単離した軟骨細胞を関節軟骨欠損部に移植する試みがなされてきた(Bently, et. al., Nature 230, 385-388 (1971); William, Clin. Orthop. 124; 237-250 (1977); Aston et. al., J. Bone Joint Surg. 68-B, 29-35 (1986); Wakitani, et. al., J. Bone Joint Surg. 71-B; 74-80 (1989))。【0003】 しかし、ヒトでは、正常な軟骨細胞が大量に必要であるにもかかわらず、自家移植において僅かの量の軟骨しか採取できないため、移植に必要な十分な量の軟骨細胞を得ることができない。このため、ヒトにおいて関節軟骨、耳介軟骨および肋軟骨について軟骨細胞の培養が試みられてきた。しかしながら、培養に僅かな軟骨細胞数しか用いることができない上に、ヒトの軟骨細胞について効果的な培養方法が知られていないために、初代培養を維持できないか、初代培養に成功したとしても、培養に6〜8週間と非常に長い時間がかかるという問題があった(Brittberg, et. al., New Engl. J. Med. 331; 889-895 (1994); Aulthouse, et. al., In vitro Cell.& Develop. Biol. 25; 659-668 (1989); Ting, et. al., 40, 413-421 (1998); Rodriguez, et. al., Plast. Reconstr. Surg. 103; 1111-1119 (1999))。【0004】 一方、ヒト以外の動物(マウス、ウサギ、ニワトリ、ウシなど)では、初代培養の際に大量の軟骨細胞を得ることが可能であり、また、胎児および幼獣では軟骨が極めて柔らかいので軟骨細胞の単離が容易であることから、軟骨細胞の培養に成功している(Bently, et. al., Nature 230, 385-388 (1971); Langer, Clin. Orthop. 124; 237-250 (1977); Aston et. al., J. Bone Joint Surg. 68-B, 29-35 (1986); Wakitani, et. al., J. Bone Joint Surg. 71-B; 74-80 (1989))。【0005】発明の開示 従って、本発明は、ヒトの軟骨細胞を迅速かつ大量に培養して正常な軟骨細胞またはその細胞塊を得る方法を提供することを目的とする。また、本発明は得られた正常ヒト軟骨細胞またはその細胞塊を用いた軟骨治療材を提供することを目的とする。【0006】 本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、軟骨形成期の軟骨周辺細胞がヒト軟骨細胞の増殖能を支持することを見出した。また、かかる細胞をフィーダー細胞としてヒト軟骨細胞と共培養することにより、特に初代培養において、迅速かつ大量にヒト軟骨細胞が得られることを見出した。さらに、そのように培養したヒト軟骨細胞を重層的に播種して培養することによって得られた軟骨細胞塊が正常な性質を保持していることを見出した。【0007】 従って、本発明は、ヒト軟骨細胞と軟骨細胞増殖能を支持するフィーダー細胞と軟骨形成期の軟骨周辺細胞とを共培養することにより、迅速かつ大量にヒト軟骨細胞を培養する方法を提供する。さらに、本発明の方法により得られたヒト軟骨細胞を重層的に1回または2回以上播種して培養することによって、ゲル状の軟骨細胞塊を得ることができる。重層的に播種する回数は、所望する培養軟骨組織の大きさによって異なるが、一般的には3〜4回が好ましい。【0008】 本発明のヒト軟骨細胞の培養方法において、フィーダー細胞は、哺乳類胎児の軟骨形成期の軟骨周辺細胞であるのが好ましく、第1鰓弓軟骨・メッケル軟骨周辺細胞であるのがさらに好ましい。特に好ましくは、胎生13日齢マウスの軟骨形成期の軟骨周辺細胞である。【0009】 本発明において、哺乳類の胎児は、何れの哺乳類の胎児でも良く、例えばげっ歯類(マウス、ラット、ウサギなど)の他に、イヌ、サル、ウシ、ヤギおよびヒツジがあるが、発生生物学的に胎生期の研究が詳細に行われている哺乳類、例えばマウスが特に好ましい。【0010】 本発明はまた、本発明の方法により得られる正常ヒト軟骨細胞またはその細胞塊を提供する。本発明の方法により得られるヒト軟骨細胞は、コンドロカルシン、II型コラーゲン等を含む軟骨基質で包まれている。さらに、培養された軟骨細胞は軟骨基質を介して結合して、ゲル状の細胞塊を形成している。なお、本発明において、正常ヒト軟骨細胞とは、起源の軟骨細胞の性質を保持した軟骨細胞を意味する。【0011】 本発明はまた、前記ヒト軟骨細胞または細胞塊を包埋した材料からなる軟骨治療材を提供する。ヒト軟骨細胞または細胞塊を包埋する材料としては、人工素材または天然素材の何れでも良いが、移植する軟骨細胞が分散・吸収されるのを防ぐために軟骨細胞を周囲からブロックしうるものである。好ましくは移植する軟骨細胞の足場となりうるものである。そのようなものの例には、コラーゲン、ポリグリコール酸(PGA;polyglycolic acid)、ポリ乳酸(polylactic acid)、アルギン酸塩(例えばカルシウム塩)、ポリエチレンオキシド、フィブリン接着剤、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、プロテオグリカン(proteoglycan)、グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)およびヒトの真皮が挙げられる。なお、プロテオグリカンおよびグリコサミノグリカンは硫酸化されていてもよい。 なお、本発明は、かかる軟骨治療材を用いることを特徴とする軟骨関連疾病治療方法を含むものである。 本発明はまた、前記治療方法における、軟骨細胞増殖能を支持する軟骨形成期の軟骨周辺細胞のフィーダー細胞としての使用に関する。【0012】ヒト軟骨細胞 本発明の培養方法は、ヒトの任意の軟骨組織、例えば耳介軟骨、肋軟骨、関節軟骨、椎間軟骨および気管軟骨の軟骨細胞の培養に用いることができるが、特に耳介軟骨、肋軟骨、関節軟骨の軟骨細胞の培養に適している。関節軟骨には、下顎関節、上腕関節、肘関節、肩関節、手関節、股関節、腰関節および足関節が包含されるが、何れの関節軟骨でもよい。【0013】 また、本発明の培養方法に供される軟骨細胞は、公知の方法によりヒト軟骨組織から単離することができる。一般的には摘出した軟骨組織を剪刀等を用いて細切してトリプシンやコラゲナーゼ(例えばII型コラゲナーゼ)で処理し、フィルターで濾過して単離した軟骨細胞を得るが、例えば、以下の手順で軟骨細胞を得るのが好ましい。【0014】(1)摘出した軟骨組織を抗生物質(例えばペニシリン、カナマイシン)や抗真菌剤(例えばアムホテリシンB)で除菌し、メス・剪刀等を用いて軟骨組織を細切する、(2)細切した軟骨組織をEDTAで処理した後に、トリプシンを含む培地にて(好ましくは約4℃で)およそ1晩静置し、次にII型コラゲナーゼを含む培地に移し(必要があれば1〜6時間静置してもよい)、37℃で1〜6時間インキュベートする、(3)ウシ胎仔血清含有培地中に移し、該培地中で数時間穏やかに攪拌し、培地をフィルター(例えば、100μmフィルター)で濾過して、単離された軟骨細胞を得る。【0015】 このような方法により、1cm3のヒト軟骨組織から0.5〜1.0×106細胞個の軟骨細胞を得ることができる。また、本発明の培養方法において、公知の増殖因子、特に軟骨の増殖を刺激するもの、例えばFGF(例えばbFGF)、IGF(例えばIGF−I)および/または骨形成因子9(BMP9)と組合わせることができる。【0016】フィーダー細胞 フィーダー細胞は、特定の組織または細胞の増殖能と分化能を支持することによりその細胞の培養に寄与する細胞である。例えば、繊維芽細胞由来の3T3細胞が、表皮の角化細胞(keratinocyte)の増殖能を支持するフィーダー細胞として知られている(Greenら, Cell 6: p.331-344 (1975))が、軟骨細胞、特にヒト軟骨細胞の培養に適するフィーダー細胞は知られていない。【0017】 本発明の培養方法に使用されるフィーダー細胞はヒト軟骨細胞と共培養することによってヒト軟骨細胞の増殖能を支持し、且つ増殖した軟骨細胞にその起源の軟骨組織、即ち初代培養に用いる軟骨組織の性質を保持させるという特性を有する細胞である。【0018】 そのようなフィーダー細胞は、前記特性、即ちヒト軟骨細胞の増殖能の支持、さらに増殖した軟骨細胞の性質を指標としてスクリーニングすることによって得ることができる。具体的には、被検細胞をヒト軟骨細胞と共培養し、軟骨細胞が増殖するか否か、さらに増殖した細胞の細胞外基質が軟骨基質であるかを検査する。スクリーニングに供する細胞としては、生体(胎児、胚を含む)もしくはその組織から単離した細胞、またはクローン化されている細胞の何れでもよい。本発明におけるフィーダー細胞として、例えば動物、特に哺乳類の軟骨形成期の軟骨周辺細胞を挙げることができる。【0019】 好ましくは、胎生期の発生生物学が詳細に研究されている哺乳類の軟骨形成期の軟骨周辺細胞であり、具体的にはげっ歯類(マウス、ラット、ウサギ)、特にマウスの軟骨形成期の軟骨周辺細胞が好ましい。また、軟骨形成期としては、第1鰓弓軟骨・メッケル軟骨が分化・形成される時期が好ましく、例えばマウスにおいては胎生13日齢前後に該当する。さらに本発明において、哺乳類以外の脊椎動物、例えば鳥類(ニワトリなど)の胚の第1鰓弓軟骨・メッケル軟骨周辺細胞をフィーダー細胞として使用することも可能である。【0020】 フィーダー細胞は、胎児または胚から単離した後、そのまま播種して使用することができるが、通常は適当な培地中にて10〜14日程度培養してから使用する。また、該フィーダー細胞を継代培養(5継代程度まで、好ましくは1〜3継代)することもでき、また凍結保存することもでき、好ましくは細胞内小器官が破壊されずに生存可能な条件・温度で保存する。そのような保存方法としては、例えば10%FBS、10%グリセリン等のクライオプロテクタント(凍結防止剤)含有DME培地中で−130℃以下で保存する方法が挙げられる。継代培養において、培地は週に3回程度交換するのが好ましい。凍結保存した細胞は、適時解凍してフィーダー細胞として使用する。【0021】 本発明において、フィーダー細胞は、初代培養時に軟骨細胞と共培養して使用するが、軟骨細胞の増殖が弱い場合には1継代のみに共培養して用いることができ、特に初代培養時に使用することが最も効果的であり好ましい。また、軟骨細胞との共培養に際し、該フィーダー細胞を予め放射線処理(例えばガンマ線やコバルト照射)または薬剤処理してフィーダー細胞自体の増殖能を喪失させて使用してもよい。該薬剤としては、例えばマイトマイシンCやアクチノマイシンD等の抗癌剤やアンピシリン等の抗生物質を挙げることができる。【0022】ヒト軟骨細胞培養方法 ヒト軟骨細胞とフィーダー細胞との共培養(主に初代培養)は、軟骨細胞の培養に適した公知の培地を用いることができる。また、培地にはヒドロコルチゾン(HC)、ウシ胎仔血清(FBS)の他に、ヒトbFGF、ヒトIGF−I等の増殖因子を適宜添加する(Cuevasら, Biochem, Biophys, Res, Commun. 156, 611-618 (1988) ; Froger-Gaillardら, Endocrinology, 124, 2365-2372)。そのような培地の例として、F−12とDME(H)培地の1:1混合物に、FBS(好ましくは10%程度)、ヒトbFGF(好ましくは10ng/ml程度)、HC(好ましくは40ng/ml程度)、ヒトIGF−I(好ましくは5ng/ml程度)を添加した培地を例示することができる。【0023】1)初代培養 あらかじめ放射線処理したフィーダー細胞をフラスコに播種(底面積75cm2の場合1.0×106個の濃度が好ましい)し、次に軟骨細胞を播種(好ましくは0.5〜1.0×106個の濃度)し、各軟骨細胞の培養に適した条件(例えば37℃,10%CO2条件下)にて培養する。培養は、増殖した細胞が単層で集密的(confluent)になるまで行う(通常10〜14日間)。2)継代培養 継代培養は初代培養と同じ培地で行うことができる(通常、1継代7日間)。初代培養で得られた細胞を継代した場合、耳介軟骨ではP0(初代培養)→P6において、細胞数が30〜746倍にまで増加する。肋軟骨ではP0→P4において、細胞数が65〜161倍にまで増加する。さらに多数の軟骨細胞を所望する場合には継代回数を適宜増加させることができる。3)重層培養 継代培養により得られたヒト軟骨細胞を重層的に1回または2回以上、好ましくは3〜4回播種して培養することによって、ゲル状の軟骨細胞塊を得ることができる。得られた軟骨細胞塊中において、ヒト軟骨細胞はコンドロカルシン等を含む軟骨基質で包まれており、軟骨細胞同士がコンドロカルシン、II型コラーゲン等の軟骨基質を介して結合してゲル状の細胞塊を形成する。【0024】 上述したように、本発明の培養方法により得られる軟骨細胞は、その軟骨組織のその起源の軟骨組織、即ち初代培養に用いる軟骨組織の性質を保持している。具体的には、培養した細胞の形態および細胞外基質の組成(例えば、コンドロカルシン、II型コラーゲン、他にヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ケラト硫酸)から、起源の軟骨組織の性質を保持していることが示されている。【0025】軟骨治療材 本発明により得られた前記ヒト軟骨細胞または細胞塊を適する生体材料に包埋し、これを軟骨治療材として移植に供することができる。ヒト軟骨細胞または細胞塊を包埋する材料の例としては、上述したようにコラーゲン、ポリグリコール酸(PGA;polyglycolicacid)、ポリ乳酸(polylactic acid)、アルギン酸塩(例えばカルシウム塩)、ポリエチレンオキシド、フィブリン接着剤、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、プロテオグリカン(proteoglycan)、グリコサミノグリカン(glycosaminoblycan)およびヒトの真皮が挙げられ、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。なお、プロテオグリカンおよびグリコサミノグリカンは硫酸化されていてもよい。これらの生体材料は、移植する軟骨細胞が分散・吸収されるのを防ぐために軟骨細胞を周囲からブロックしうるものであり、好ましくは移植する軟骨細胞の足場となりうるものである。【0026】 生体材料の形状は、シート等の膜、スポンジ等の多孔体、編物等のメッシュ、織布、不織布、綿等、任意の形状のものを使用することができる。多孔性の材料の使用は、軟骨細胞が生体材料に容易に接着するとともに内部に浸透し、軟骨組織の新生を促進することが可能となるため好ましい。【0027】生体材料としてコラーゲンを使用する場合は、コラーゲンを架橋処理してもよい。コラーゲンを架橋処理すると物理的強度が増し、軟骨治療材を生体にステープル等を用いて固定する際に欠損することがない上に、軟骨組織が新生するまでの間、必要な強度を保持しながら軟骨細胞または細胞塊を支持することができる。【0028】また、コラーゲンを可溶化したコラーゲン液と培養軟骨細胞または細胞塊とを混合し、必要に応じてゲル化したものを軟骨治療材として使用することもできる。コラーゲン液としては、公知の任意のものを使用することができるが、酵素により可溶化したコラーゲン液は、免疫原性を有するテロペプチドが除去されるため特に好ましい。また、コラーゲン液と軟骨細胞の混合物を上記生体材料からなるスポンジや不織布等により包埋し、または接着させて軟骨治療材を構成することも可能である。【0029】 また、該軟骨治療材は、軟骨細胞を包埋する材料としての支持体を適宜選択し、組合わせることにより、軟骨組織ばかりか軟骨性骨化を誘導することができる。そのような軟骨性骨化を誘導し得る材料としては例えばヒト真皮が挙げられるが、さらに骨形成を促進する成長因子、例えば骨形成因子(BMP)を用いて骨化を促進させることができる。 以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に制限されることはない。【0030】発明を実施するための最良の形態実施例実施例1 軟骨細胞培養 培地組成:F−12とDME(H)培地を1:1に混合したものに10% FBS,10ng/ml ヒトbFGF(科研製薬研究所)、および40ng/ml HC,および5ng/ml ヒトIGF−I(Gibco)を添加した。 軟骨細胞:耳介軟骨として耳介後部(約1×1cm)、および肋軟骨として前胸部(約1×1cm)から、それぞれ軟骨細胞を単離した。 フィーダー細胞:胎生13日齢のマウス第1鰓弓軟骨・メッケル軟骨周囲の細胞を採取し、そして培養して得られた細胞をフィーダー細胞として用いた。このフィーダー細胞をCS21細胞と名付けた。【0031】(a)軟骨細胞の単離 軟骨片をペニシリンG(100u/ml)およびカナマイシン(0.1mg/ml)で除菌し、そして0.02%EDTAで15分間処理した。次に軟骨片をメスと剪刀で細切し、0.25%トリプシンを含む培地にて4℃で1晩静置し、次に0.3% II型コラゲナーゼ/DME培地中にて37℃で1〜6時間インキュベートした。次いで10%FCS/DME培地中に移し、室温で2時間スターラーでゆっくり撹拌し、そして100μmフィルターで濾過して、単離した軟骨細胞を得た。【0032】(b)フィーダー細胞 i) フィーダー細胞の単離 胎生13日齢(軟骨形成期)Balbマウスから、第1鰓弓軟骨(メッケル軟骨)周囲の細胞をマイクロサージェリー(microsurgery)技術を用いて多数採取し、得られた細胞塊を0.125%トリプシンを含むカルシウム無添加培地に移し、4℃の冷蔵庫に4時間静置し、スターラーで穏やかに10分振盪した後、フィルターで漉過して単細胞を単離した。 ii) 培養条件 5〜10%FBS(ウシ胎仔血清)添加したDME培地を使用し、フィーダー細胞を培養した。初代培養では3〜4日で集密的になり、継代培養においても1継代でも3〜4日で集密的になった。2継代目からは1週間に1回継代し、1継代から3継代までを凍結保存した。このようにして得られた細胞(CS21細胞)をフィーダー細胞として用いた。【0033】(c)初代培養 前日に60グレイの放射線(コバルト)で処理したCS21細胞を底面積75cm2のフラスコに1.0×106個/cm2の密度で播種した。これに単離したヒト軟骨細胞を0.5〜1×106個/cm2の密度で播種し、37℃、10%CO2条件下で培養した。対照として、3T3細胞とヒト軟骨細胞を同様に培養した。初代培養において、培地を1週間に2回交換した。その結果、CS21細胞と共培養した軟骨細胞は、10〜14日間の培養により単層で集密的になったが、3T3細胞の場合ではほとんど増殖しなかった(図1)。得られた細胞を次の継代培養に使用した。【0034】(d)継代培養 フィーダー細胞を用いないこと、および1継代が7日間であること以外は、初代培養と同じ条件で継代培養を実施した。初代培養で得られたヒト軟骨細胞を1.0×106個/底面積175cm2フラスコの密度で播種し、7日ごとに継代し、各継代後に細胞を凍結保存し、増殖した軟骨細胞数を計測した。 ・耳介軟骨(n=20)の場合、耳介軟骨細胞の初代培養(n=20)P0→P1(n=20)P1→P2(n=13)P2→P3(n=12)P3→P4(n=9)P4→P5(n=6)P5→P6(n=3)で培養を行い、それらはすべて各継代に凍結保存した。細胞は約30〜746倍に増殖した。 ・肋軟骨(n=12)の場合、肋軟骨細胞の初代培養(n=12)P0→P1(n=12)P1→P2(n=6)P2→P3(n=4)P3→P4(n=2)で培養を行い、同様に凍結保存した。細胞は約65〜161倍に増殖した。【0035】 また、軟骨基質であるコンドロカルシンの培地中の濃度を、抗コンドロカルシン抗体を用いたエンザイムイムノアッセイ(EIA)で測定したところ、耳介軟骨、肋軟骨共に7日間の継代培養において100ng/ml以上のコンドロカルシンが測定された。これに対し、初代培養の際にフィーダー細胞と共培養せずに、各軟骨細胞を培養をしたところ、3T3細胞との共培養の場合と同様に細胞増殖はほとんど観察されなかった。細胞培養の結果を下記の表1に示す。【0036】【表1】【0037】 上述の結果から、従来の方法では初代培養が困難であるため培養系が維持できず、また成功しても培養期間が6〜8週間かかるが、本発明の方法では、2週間で初代培養が可能であり、細胞増殖率も高く迅速かつ大量に正常細胞が培養できることが明らかとなった。さらに、軟骨基質のコンドロカルシンが培地中に多量に存在していたことから、増殖した細胞は軟骨細胞であることが示唆された。【0038】(e)重層培養 継代培養において得られた軟骨細胞を1×106個/cm2の密度で3回播種し重層させ重層培養を実施した。2週間の培養後、シート状のゲル塊が形成された(図2)。このゲル状の軟骨細胞塊についてHE(ヘマトキシリン−エオジン)染色したところ、細胞が重層化して細胞同士が基質を介して結合していることが示された(図3)。また、軟骨組織の分子マーカーであるII型コラーゲンについて免疫染色を行ったところ、細胞外基質に染色を呈し、該細胞外基質が軟骨に特異的な基質であることが示された(図4)。【0039】実施例2 軟骨細胞の移植(a)先ず、軟骨細胞を包埋する材料(支持体)の影響をなくすため、得られたヒト軟骨細胞塊をグラスファイバー(フィルター)にはさんでヌードマウス(BALB/C Sic/nu,10週令25g)の背部皮下に移植し、軟骨が形成されるか検討した(n=10)。その結果、3/10検体で軟骨組織が形成されていることが確認された。ただ、あまり大きな組織は形成されないため、細胞がグラスファイバーに安定ではなく、周囲組織に拡散したと推測される。また、軟骨細胞塊のみを移植すると、該軟骨細胞が皮下で分散することが観察され、移植する軟骨細胞塊を周囲からブロックする必要があることが明らかとなった。【0040】(b)次に支持体として、PGA(n=10)でヒト軟骨細胞塊を挟み、各支持体に包埋した状態で同様にヌードマウスに移植した。その結果、100%(10/10)の検体について軟骨組織の形成が観察された。移植前の軟骨細胞塊を図5に、移植後3ヶ月のマウスを図6に、そして移植組織の摘出標本を図7に示す。 また、支持体としてアルギン酸カルシウム(n=5)を用いた場合でも100%(5/5)の検体について軟骨組織の形成が観察された。そこで、支持体としてPGAおよびアルギン酸カルシウムを用いた摘出標本のプレパラートを調製し、トルイジンブルー染色した。その結果、軟骨組織に特異的なトルイジンブルー異染性が観察された(図8)。しかし、形成される軟骨組織はPGAの方が大きく、支持体としてPGAがより適していると推測される。【0041】(c)次に、形成される軟骨組織が骨化される条件について検討した。ヒト軟骨細胞塊をPGAに包埋し、その周囲をフィブリンで覆ったもの(第1群)、またはヒト軟骨細胞塊をPGAに包埋し、その外側にヒト真皮を巻き、さらにフィブリンで周囲を覆ったもの(第2群)、これらをヌードラット(F344/N rnu/rnu,6週令250g)の背部皮下に移植し、両群において軟骨組織が形成されるか検べた。3ヶ月後、6ヶ月(n=6)の摘出した標本は軟骨組織に特異的なトイルイジンブルー染色で染色性を呈し、両群とも軟骨細胞が形成されていることが確認された(図9)。また、軟骨細胞塊をPGAのみで包埋した第1群では軟骨組織のみ形成されたが、真皮で巻いた第2群では軟骨膜と間質内に血管新生が認められ、さらに軟骨の一部に軟骨性骨化が観察された(図10)。【0042】(d)移植後に形成された軟骨組織が、起源(培養に用いた軟骨組織)の性質を発現しているかを検討した。上記標本のプレパラートを調製し、HE(ヘマトキシリン−エオジン)染色、トルイジンブルー染色、アルシアンブルー+PAS染色およびEVG(Elasticavon Gieson)染色を行った。なお、HE染色では、細胞膜と間質が染色され、その細胞の形態および軟骨小腔から軟骨組織が形成されていることを確認することができる。トルイジンブルー染色での異染性は軟骨特異性を示す。また、アルシアンブルー+PAS染色では、多糖が染色され、軟骨基質、特に弾性軟骨のエラスチン(糖蛋白質)を多く含むことを確認することができる。EVG染色では弾性繊維が染色されるため、弾性軟骨(耳介軟骨)の形成を確認することができる。 培養耳介軟骨細胞を移植した軟骨組織ではEVG染色で弾性繊維が強く染色され、アルシアンブルー+PAS染色でPAS陽性であったことから耳介軟骨細胞と同定された。培養肋軟骨細胞移植後の組織ではEVG染色で弾性繊維の染色は弱く、アルシアンブルーPAS染色でPAS弱陽性であったことから肋軟骨細胞と同定された。【0043】(e)また、支持体としてPGAの代わりにコラーゲンスポンジを用いて同様に移植実験を行った結果、耳介軟骨の場合では100%(5/5)の検体について軟骨組織の形成が観察された。その移植標本のプレパラートを調製し、HE染色またはアルシアンブルー + PAS染色を行ったところ、軟骨組織が形成されていること(HE染色陽性)および形成された軟骨組織が耳介軟骨であること(アルシアンブルー+PAS染色陽性)が確認された(図11)。肋軟骨についても同様の実験を行ったところ、軟骨組織の形成が確認された。【0044】(f)さらに、移植後の組織がヒト由来であるかを確認するために、抗ヒトII型コラーゲン抗体を用いてABC−PC(ペルオキダーゼ)法により抗体染色を行った。その結果、耳介軟骨および肋軟骨共にヒトII型コラーゲンの発現が観察され、これら軟骨組織がヒト由来であることが確認された(図12)。これらの結果を下記の表に示す。【0045】【表2】【0046】(g)さらに形成された軟骨組織がヒト由来であることを確認するために、II型コラーゲンについてRT−PCRを実施した。ヒトまたはマウスのII型コラーゲンに特異的なヌクレオチド配列を有するプライマー; ヒト; 前方プライマー:5'-ACATACCGGTAAGTGGGGCAAGAC-3' (SEQ ID NO: 1) 後方プライマー:5'-AGGTCTTACAGGAAGACAATAAAT-3' (SEQ ID NO: 2) マウス; 前方プライマー:5'-ATTTTGCAGTCTGCCCAGTTCAGG-3' (SEQ ID NO: 3) および 後方プライマー:5'-AGGTCTTACAGGAAGACAATAAAT-3' (SEQ ID NO: 4)を用いてRT−PCRを実施し、そのPCR産物を制限酵素EcoRIで処理した。ヒト由来のII型コラーゲンはEcoRIで切断されるため、ヒト由来かマウス由来かを容易に識別することができる。RT−PCR用試料としてはマウスに移植して3ヶ月後の培養ヒト軟骨組織、フィーダー細胞のみ、およびフィーダー細胞+培養ヒト軟骨細胞を、対照としてマウス細胞を試験した。試料からのRNA抽出およびRT−PCRは、遺伝子操作技術マニュアル、医学書院(1995年出版)に従って実施した。【0047】 その結果、移植軟骨組織では2本のバンドが観察され、ヒトのII型コラーゲンのみが検出された。フィーダー細胞ではEcoRIでは切断されず、マウスのII型コラーゲンのみが検出された。そしてフィーダー細胞+培養ヒト軟骨細胞では、該制限酵素で切断されたバンドと切断されないバンドが観察され、マウスとヒトのII型コラーゲンが検出された。一方、対照であるマウス細胞ではEcoRIでは切断されず、マウスのII型コラーゲンのみが検出された。以上の結果から、移植後に形成された軟骨組織がヒト由来であることが確認された。この結果を図13に示す。【0048】産業上の利用可能性 本発明の方法により、ヒト軟骨細胞と、軟骨細胞増殖能を支持するフィーダー細胞として軟骨形成期の軟骨周辺細胞とを共培養することにより、迅速かつ大量にヒト軟骨細胞を培養することが可能である。さらに、前記方法により得られたヒト軟骨細胞を重層的に1回または2回以上播種して培養し、ヒト軟骨細胞塊を得ることができる。また、ヒト軟骨細胞(または細胞塊)が包埋された材料からなる軟骨治療材が得られる。該軟骨治療材は、軟骨細胞を包埋する材料を適宜選択することにより、軟骨組織のみならず軟骨性骨化を誘導することができ、軟骨および骨に関連する疾病の治療に有効である。【配列表】【図面の簡単な説明】図1は、ヒト軟骨細胞と、(A)本発明のフィーダー細胞(CS21細胞)または(B)3T3細胞との初代培養の結果を示す写真である。図2は、培地のみ(左)または重層培養の結果(右)を示す写真である。図3は、重層培養で得られたゲル状の細胞塊のHE(ヘマトキシリン−エオジン)染色の顕微鏡写真である。図4は、重層培養で得られたゲル状の細胞塊の組織における抗II型コラーゲンを用いた免疫染色の顕微鏡写真である。図5は、支持体としてPGA上にヒト軟骨細胞塊を載せたもの(A)、さらにPGAで挟んだ移植用軟骨細胞塊(B)の写真である。図6は、軟骨細胞塊の移植後3ヶ月の移植マウスである。図7は、軟骨細胞塊の移植後3ヶ月のマウスから摘出した標本を示す写真である。図8は、支持体として(A)PGAおよび(B)アルギン酸カルシウムを用いた摘出標本のトルイジンブルー染色の顕微鏡写真である。図9は、軟骨細胞塊をPGAで包埋した群(第1群)およびさらにヒト真皮で巻いた群(第2群)の移植後の摘出標本である。図10は、ヒト真皮で巻いた第2群の組織を示す顕微鏡写真である。図11は、支持体としてコラーゲンスポンジで包埋した組織の移植後の耳介軟骨組織のHE染色(A)、アルシアンブルー+PAS(B,C)染色の顕微鏡写真である。図12は、移植後の耳介軟骨組織における抗II型コラーゲンを用いた免疫染色の顕微鏡写真である。図13は、移植された軟骨組織のII型コラーゲンについてRT−PCRの結果を示す写真である。 ヒト軟骨細胞と、軟骨細胞増殖能を支持するフィーダー細胞として胎生13日齢マウスの第1鰓弓軟骨・メッケル軟骨周辺細胞とを共培養してヒト軟骨細胞を培養することを特徴とし、さらに該フィーダー細胞の増殖能を共培養前に喪失させて使用することを特徴とする、ヒト軟骨細胞を迅速かつ大量に培養しうる、ヒト軟骨細胞培養方法。 培養細胞を重層的に1回または2回以上播種して培養し、ゲル状の軟骨細胞塊を得ることを特徴とする請求項1に記載の方法。 請求項1または2に記載の方法によりヒト軟骨細胞を培養することを特徴とする正常ヒト軟骨細胞の製造方法。 請求項1または2に記載の方法によりヒト軟骨細胞を培養することを特徴とする、軟骨細胞がコンドロカルシンおよび/またはII型コラーゲンを含む軟骨基質で包まれている正常ヒト軟骨細胞の製造方法。 軟骨細胞が基質を介して結合して、ゲル状の細胞塊を形成している、請求項3または4に記載の正常ヒト軟骨細胞の製造方法。 請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法によりヒト正常軟骨細胞を製造し、包埋材料に該ヒト正常軟骨細胞を包埋することを特徴とする軟骨治療材の製造方法。 前記材料が、コラーゲン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、アルギン酸塩、ポリエチレンオキシド、フィブリン接着剤、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンおよび/またはヒトの真皮である請求項6に記載の軟骨治療材の製造方法。 ヒト軟骨細胞と共培養することにより、軟骨細胞増殖能を支持して迅速かつ大量にヒト軟骨細胞を培養するために使用するフィーダー細胞であって、該フィーダー細胞が胎生13日齢マウスの第1鰓弓軟骨・メッケル軟骨周辺細胞であり、そして該フィーダー細胞の増殖能を喪失させているフィーダー細胞。