タイトル: | 特許公報(B2)_トロンビン由来ペプチドを使用した治療法 |
出願番号: | 2002508462 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K38/48,A61L29/00,A61L33/00,A61P9/10,C12N9/74 |
カーニー,ダレル,エイチ. JP 3618736 特許公報(B2) 20041119 2002508462 20010712 トロンビン由来ペプチドを使用した治療法 ザ ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム 501100582 細田 芳徳 100095832 カーニー,ダレル,エイチ. US 60/217,583 20000712 20050209 7 A61K38/48 A61L29/00 A61L33/00 A61P9/10 C12N9/74 JP A61K37/547 A61L29/00 W A61P9/10 C12N9/74 A61L33/00 T 7 A61K 38/48 A61L 29/00 A61L 33/00 A61P 9/10 C12N 9/74 CA(STN) MEDLINE(STN) 特表平08−508511(JP,A) 国際公開第99/053943(WO,A1) 米国特許第05500412(US,A) 米国特許第05352664(US,A) 国際公開第00/024412(WO,A1) Nikos E. Tsopanoglou et al.,The Journal of Biological Chemistry,1999年,Vol.274, No.34,p.23969-23976 15 US2001021944 20010712 WO2002004008 20020117 2004502739 20040129 13 20020726 八原 由美子 【0001】政府援助本発明は、その全体または一部を国立衛生研究所の助成金R43 HL64508が支援した。政府は、本発明に一定の権利を有する。【0002】関連出願本願は、2000年7月12日提出の米国仮出願番号60/217583の利益を主張するものであり、その全教示が本明細書中に参照により組み込まれる。【0003】発明の背景ヒトαトロンビンは、種々の組織由来の広範な種々の細胞における成長促進活性を有するようである。例えば、αトロンビンは、一定のハムスター線維芽細胞およびヒト内皮細胞における上皮成長因子に相乗作用を与えるため、哺乳動物レンズ上皮細胞および脾臓細胞において細胞分裂およびDNA合成を開始するため、ならびに単球および好中球を作動させるために血清または他の精製成長因子を添加することなく培養中の線維芽細胞増殖を開始させることが示されている。しかし、成長因子としてのトロンビンの使用および創傷治癒についてのその潜在的重要性については、広く認められていない。一部には、このことは凝固、血小板活性化、および細胞増殖の開始とのトロンビンの関与の複雑さならびに血清プロテアーゼインヒビターおよび細胞放出プロテアーゼネキシンによるトロンビンおよびトロンビン様分子の複雑な調節によるものであり得る。しかし、この複雑さおよび高度な生理学的調節は、この創傷治癒開始経路の潜在的な重要性を支えている。【0004】トロンビンはまた、正常な血管再生および血管から損傷部位への細胞の移動ならびに腫瘍に関連する異常な転移および血管形成(angiogenesis)の両方の役割を果たし得る。トロンビンの上皮細胞増殖の増加および血管のバリア機能を変化させる能力は、組織損傷部位での血管形成および炎症に寄与し得る。【0005】本発明者らは、トロンビンおよび/またはトロンビンレセプター活性の作動(agonizing )および拮抗(創傷治療など)のためのトロンビン誘導体ペプチドを記載している。米国特許第5,500,412号または同第5,352,664号は、その内容が本明細書中に参照により組み込まれる。しかし、この特許は、損傷を受けた心臓組織の治療、血管再生、または血管閉塞および再狭窄を阻害するトロンビン誘導体ペプチドの新規使用を教示していない。【0006】発明の概要本発明は、心臓組織もしくは心筋修復の促進法、血管形成の促進法、または血管閉塞もしくは再狭窄の阻害法に関する。本方法は、心臓組織または血管に治療有効量の血管形成トロンビン誘導体ペプチドを投与する工程を含む。好ましい実施形態では、ペプチドは、米国特許第5,500,412号または同第5,352,664号に記載されているペプチドであり、その内容が本明細書中に参照により組み込まれる。例えば、ペプチドは、好ましくは、配列Arg−Gly−Asp−Ala(配列番号:2)を有するトロンビンレセプター結合ドメインおよびセリンエステラーゼ保存配列を含むことができる。好ましいセリンエステラーゼ保存配列は、Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Val(配列番号:2)を含む。さらにより好ましい実施形態では、トロンビン誘導体ペプチドは、アミノ酸配列Ala−Gly−Tyr−Lys−Pro−Asp−Glu−Gly−Lys−Arg−Gly−Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Val(配列番号:3)からなるペプチド等のアミノ酸配列:Ala−Gly−Tyr−Lys−Pro−Asp−Glu−Gly−Lys−Arg−Gly−Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Val(配列番号:3)を含む。配列番号:3の配列を有するペプチドはまた、本明細書中で「TP508」という。【0007】ペプチドは、好ましくは、例えば、可溶性ペプチドまたは徐放性製剤として損傷または虚血性心臓組織への直接的またはカテーテル媒介注射によって心臓手術の間または心臓手術の後に投与することができる。【0008】本発明はまた、心臓組織に治療有効量の本明細書中に記載の血管形成トロンビン誘導体ペプチドを投与する工程を含む、血管再生または血管内皮細胞増殖の刺激法に関する。【0009】本発明はまた、例えば全身注射によって、血管に治療有効量の血管形成トロンビンレセプター結合ペプチドを投与する工程、カテーテルまたはステントへのペプチドの付着によって血管損傷部位にペプチドを送達させる工程を含む、血管閉塞または再狭窄の予防法に関する。【0010】発明の詳細な説明心血管疾患は、一般に、心臓または他の標的器官への血液供給の障害によって特徴付けられる。心筋梗塞(MI)は、心臓に必要な栄養素および酸素が枯渇する心臓の冠状動脈の縮小または遮断に起因する。心臓への血液供給が損なわれた場合、細胞は新規の血管の成長を誘導する化合物を生成して心臓への血液供給を増加させるように反応する。これらの新規の血管は、側副血管と呼ばれる。新規の血管が現存の脈管構造から伸長誘導される過程は血管形成と呼ばれ、血管形成を誘導するために細胞によって生成される物質は血管形成因子と呼ばれる。【0011】血管閉塞のために心筋の酸素および栄養素が枯渇した場合、心筋組織は虚血し、その収縮能力および機能を損なう。閉塞を迂回する側副血管の発生による血管形成性の血管再生を誘導する虚血性心筋由来の天然のシグナルによってこの機能喪失を修復することができる。この血管再生または血管形成は、内皮細胞増殖の刺激および新規の血管の移動および出芽を伴う。しかし、多くの場合、天然のシグナルは側副血管を成長させるには十分ではなく、虚血性組織は繊維性または壊死性となり得る。この過程が閉塞血管を広げる手法または側副血管をさらに誘導する手法によって覆されない場合、心臓は完全に機能不全となり、移植が必要となり得る。【0012】本明細書中に記載のペプチドを使用して、血管形成増殖および内皮細胞の移動を誘導し、損傷または虚血性心臓組織の機能回復を支援する新規の毛細血管および側副血管を形成することができる。これらのペプチドを、好ましくは、直接注射するか、バイパス手術または補助人工心臓の挿入のための開胸手法中に心臓組織に投与するか、可溶性ペプチドまたは徐放性製剤として心臓へのカテーテル注射によって送達させることができる。【0013】内皮細胞増殖(血管形成における増殖など)はまた、バルーン血管形成術後の再狭窄の防止または阻害に有用である。バルーン血管形成法は、しばしば血管内壁に裏打ちされた内皮細胞を損傷し、血管壁の完全性を破壊する。平滑筋細胞および炎症細胞は、しばしば損傷血管に浸潤して再狭窄として知られる過程において二次閉塞を引き起こす。内皮細胞の新規の単層により血管の管腔表面を被覆するための、バルーンで誘発された損傷領域周辺に存在する内皮細胞の増殖および移動の刺激により、血管の元の構造を潜在的に修復する。【0014】好ましくは、内皮化(endothelialization)には、再狭窄を軽減または予防するための血管形成術後の再内皮化が包含される。当業者は、本発明の方法に従って治療する患者はステント(stent )を用いても用いなくても治療できることを認識する。【0015】ペプチド被覆バルーンを用いた膨張式バルーンカテーテルまたは細胞壁に直接注射するカテーテルを使用して、物質を標的動脈に送達させることもできる。【0016】バルーン血管形成術は、遮断された血管を開くための塞がった血管中のバルーン膨張を伴う虚血心臓病の一般的な治療法である。不幸にも、この治療法により血管内壁に裏打ちされた内皮細胞が損傷してしばしば再狭窄を起こす。本明細書中に記載のペプチドを使用して、バルーン誘発性損傷領域周辺に存在する内皮細胞の増殖および移動を誘導し、血管の元の構造に修復することを希望する血管の管腔表面を内皮細胞の新規の単層で被覆することができる。冠動脈血管形成術は、しばしば血管機能を維持し、且つ再狭窄の回避を援助するための血管内ステントの装着を伴う。ステントは、ステントによって形成された新規のチャネルが内皮化することができるまで血栓症を防止するためにヘパリンで被覆されている。本明細書中に記載のペプチドを、当業者に公知の方法を使用してステントに直接適用することができる。血管または血管壁の内皮化を亢進し、および/または血栓症および再狭窄を阻害または減少させる他の過程を調整するためにペプチドを局所投与または全身投与することができる。【0017】本発明は、好ましくは、トロンビンレセプター媒介事象の合成もしくは天然由来のポリペプチドアゴニストを使用する。これらの作用因子のクラスは共に高親和性トロンビンレセプターに選択的に結合することができるポリペプチドセグメントを含むトロンビンレセプター結合ドメインを有する。このポリペプチドセグメントには、フィブロネクチンのトリペプチド細胞結合ドメインに相同なアミノ酸配列が含まれる。【0018】トロンビンレセプター結合ドメインに加えて、刺激性(作動性)ポリペプチドは、セリンプロテアーゼで高度に保存されていることが以前に示されているドデカペプチドのN末端アミノ酸由来の配列を有するアミノ酸配列を有する。しかし、阻害性ポリペプチドは、これらのセリンエステラーゼ保存配列に含まれない。【0019】例えば、本発明は、心臓組織修復の促進に有用な多数のポリペプチドを提供する。このような適用のために、本発明は、トロンビンレセプター結合ドメインならびに少なくとも12個のアミノ酸のセリンエステラーゼ保存配列を有するトロンビンのポリペプチド誘導体(またはこのような誘導体の機能的等価物)を提供する。本発明はまた、トロンビンレセプター結合ドメインおよびセリンエステラーゼ保存アミノ酸配列を含むドメインを有する少なくとも23個のL−アミノ酸のポリペプチド化合物を提供する。【0020】一実施形態において、本発明は、トロンビンレセプター結合ドメインがセリンエステラーゼ保存アミノ酸配列Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Val(配列番号:2)と共にL−アミノ酸配列Arg−Gly−Asp−Ala(配列番号:1)を含むポリペプチド化合物などの特異的アミノ酸配列を含むいくつかのポリペプチドを提供する。好ましい実施形態において、ポリペプチド化合物は、L−アミノ酸配列Ala−Gly−Tyr−Lys−Pro−Asp−Glu−Gly−Lys−Arg−Gly−Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Val(配列番号:3)を含む。【0021】本発明はまた、薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせた治療有効濃度の上記任意の化合物を含む組織修復促進用の医薬組成物を提供する。典型的には、このような組成物には、例えば、本明細書中で証明されたトロンビンレセプターに対する刺激作用をもたらすために十分な濃度のポリペプチドが含まれる。したがって、このような組成物は、典型的には、in vitroでレセプターを刺激することが示される標的部位でのポリペプチドレベルを得るために十分な濃度で含まれる。内因性二次シグナルレベルが不適切であると考えられる場合、治療有効濃度のVEGF、αトロンビン、γトロンビンまたは他の成長因子をさらに含む組成物を使用することができる。このような組成物は、相加的効果または相乗的効果を発揮することができる。所定の症例では、組織損傷が非常に広範なのでポリペプチドに対して反応することができる細胞が十分な量で存在しない場合に反応細胞を同時注射して治療に有効な組み合わせを得ることができると予想される。【0022】適切な担体によっても有効成分の放出が得られるが、好ましくは標的部位で長時間にわたりゆっくりと徐放する。多数の合成生分解性ポリマーを、徐放特性を有する担体として利用することができる。これらのポリマーの例には、ポリα−ヒドロキシエステル(ポリ乳酸/ポリグリコール酸ホモポリマーおよびコポリマーなど)、ポリホスファゼン(polyphosphazenes)(PPHOS)、ポリアンヒドリド(polyanhydrides)、およびポリ(プロピレンフマレート)が挙げられる。【0023】ポリ乳酸/ポリグリコール酸(PLGA)ホモポリマーおよびコポリマーは、徐放性賦形剤として当該分野で周知である。当業者はポリ乳酸対ポリグリコール酸比およびポリマーの分子量の変動によって放出速度を調整することができる(その全教示が本明細書中に参照により組み込まれるAnderson,et al.、Adv.Drug Deliv.Rev.、28:5、(1997)を参照のこと)。微粒子担体を形成させるための混合物としてのポリマーへのポリ(エチレングリコール)のとり込みにより、有効成分の放出プロフィールがさらに減弱される(全教示が本明細書中に参照により組み込まれるCleek et al.、J.Control Release、48:259、(1997)を参照のこと)。PGLA微粒子は、凝集を防止し、直接的注射に適切な微粒子を作製するためにしばしばプルロニック(pluronic)ゲルおよびコラーゲンと混合される。【0024】PPHOSポリマーは、以下の構造式(I):に示すポリマー骨格中に炭素を含まない交互(alternating )窒素およびリンを含む。ポリマーの性質を、ポリマー骨格に結合する側鎖基RおよびR’の適切な変動によって調整することができる。例えば、PPHOSの分解および薬物放出を、加水分解に対し不安定な側鎖基の量の変化によって制御することができる。例えば、イミダゾリルまたはエチルグリシナト置換PPHOSのいずれかの組み込みが多いほど、分解速度の増加が認められ(全教示が本明細書中に参照により組み込まれるLaurencin et al.、J.Biomed Mater.Res.、27:963、(1993)を参照のこと)、それにより薬物放出の速度が増加する。【0025】構造式(II)に示されるポリアンヒドリドは、種々の量の疎水性または親水性モノマー(セバシン酸および1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパンなど)の量の変化を含むことにより制御することができる極めて明確な分解および放出特性を有する(全教示が本明細書中に参照により組み込まれるLeong et al.、J.Biomed.Mater.Res.、19:941、(1985)を参照のこと)。【0026】ポリ(プロピレンフマレート)(PPF)は、注射可能で、in situで重合可能で、生分解性の物質であるので非常に望ましい生体適合性移植可能担体である。「注射可能」とは、ペーストおよびゲルの注射に使用される標準的なニードルを介してシリンジによって物質を注射することができることを意味する。ビニルモノマー(N−ビニルピロリドン)および開始剤(ベンゾイルペルオキシド)と組み合わせたPPFにより、in situで重合することができる注射用溶液が形成される(それらの全教示が本明細書中に参照により組み込まれる、Suggs et al.、Macromolecules、30:4318、(1997)、Peter et al.、J.Biomater.Sci.Poly,.編、10:363、(1999)およびYaszemski et al.、Tissue Eng.、1:41、(1995)を参照のこと)。【0027】本明細書中で使用される、治療有効濃度を、修復または血管形成速度を十分に増加させるか、再狭窄または血管閉塞を十分に低減または阻害する特定の薬剤の濃度と定義する。また、このような濃度は、in vitroにおける高親和性トロンビンレセプターの刺激の惹起に十分なレベルに相当すると考えられる。しかし、刺激性(作動性)ポリペプチドが0.1μM〜10μMの濃度で存在する場合、組成物は最も有効であると考えられている。【0028】本発明の目的のために、トロンビン誘導体を、少なくとも一部がin vivoまたはin vitroで合成されたトロンビン配列由来のアミノ酸配列を有する任意の分子と定義する。したがって、本明細書中で言及されるトロンビン誘導体は、トロンビンよりも少ないアミノ酸を含むポリペプチド分子を示す。【0029】トロンビン誘導体の生理学的に機能的な等価物は、特にトロンビンレセプター結合ドメインまたはセリンエステラーゼ保存アミノ酸配列の機能に影響を与えないトロンビン誘導体と異なる分子を含む。このような特定の分子には、保存的アミノ酸置換物および修飾物、例えば、カルボキシ末端のアミド化、アミノ末端のアセチル化、ポリペプチドの生理学的に不活性な担体分子への結合、またはセリンエステラーゼ保存配列に基づく配列代替物が含まれるが、これらに限定されない。【0030】トロンビンレセプター結合ドメインを、トロンビンレセプターに直接結合し、および/または高親和性トロンビンレセプターとαトロンビンとの間の結合を競合的に阻害するポリペプチド配列と定義する。【0031】セリンエステラーゼ保存配列を有するドメインは、セリンプロテアーゼ間での高度な保存が以前から認められているドデカペプチド(Asp−X1 −Cys−X2 −Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−X3 −Val(配列番号:4)(式中、X1 はAlaまたはSerのいずれかであり、X2 はGluまたはGlnのいずれかであり、X3 はPhe、Met、Leu、His、またはValのいずれかである)の少なくとも4〜12個のN末端アミノ酸を含むポリペプチド配列を含む。【0032】刺激性ポリペプチドを、トロンビンレセプターに結合して刺激する能力を有するトロンビンのポリペプチド誘導体またはその生理学的に機能的な等価物と定義する。したがって、刺激性ペプチドには、トロンビンレセプター結合ドメインおよびセリンエステラーゼ保存アミノ酸配列を有するドメインの両方が含まれるであろう。【0033】本発明を、以下の実施例で説明するが、これはいかなる限定をも意図するものではない。【0034】実施例実施例1 TP508はin vitroでヒト内皮細胞の増殖および移動を刺激する。TP508が内皮細胞増殖を直接誘導するかどうかを同定するために、ヒト微小血管内皮細胞をCloneticsから購入し、24ウェル培養皿中の組織培養グレードのプラスチックにプレートし、24時間血清を欠乏させた。TP508を含むか含まない培地中で48時間細胞を刺激し、その時点で増殖を、直接細胞を計数して評価した。図1に示すように、TP508は、培地のみで処理したものよりも30〜50%微小血管内皮細胞の増殖を刺激した(1.0μg/mlのTP508)。ラット大動脈から単離した平滑筋細胞の成長がTP508に影響を受けなかったので、この効果は特異的なようである。【0035】ヒト内皮細胞の移動に対するTP508の効果を、内皮細胞を35mmの培養皿にプレートし、コンフルエンシー付近まで3日間増殖させ、その時点で細胞のバンドを取り除くためにゴム製のポリスマンで皿の中央を横切って単層を擦り取ることによって「損傷」させる、in vitro単層損傷アッセイを使用して評価した。この時点で写真撮影し、細胞を新鮮な培地のみまたは種々の濃度のTP508を含む培地で処理し、さらに48時間増殖させた。細胞をさらに写真撮影し、損傷領域への内皮細胞の移動距離を測定した。図2に示すように、TP508は、細胞をプラスチックのみで培養した場合でさえも内皮細胞の移動を刺激した。【0036】これらの研究により、TP508はin vitroでの増殖および移動の増大を引き起こすヒト内皮細胞に対する直接的な血管形成効果を有することが証明された。さらなる研究により、内皮細胞のTP508への暴露は、酸化暴露に起因する細胞死を防止する保護効果を有することが示される。この保護効果はまた、再内皮化および血管形成過程に寄与し得る。【0037】実施例2 TP508は漿尿膜の膜モデルにおけるin vitroでの血管形成を刺激する。ラット背部の完全な外科的皮膚切開および開口切除術による損傷を用いた研究により、TP508の局所単回投与が外科的切開部を横切る血管の血管再生および開存性を刺激することが示された。ラットの背部に2つの外科的切開損傷を作製した。一方の損傷をTP508の単回投与(0.1μg)で治療し、他方を治療しなかった。血管は、対照よりもむしろ治療損傷に引きつけられた。【0038】ニワトリ胚の漿尿膜の膜上に置いた寒天ディスクへのTP508の添加により、血管の血管形成の生成を引き起こした。血管は、TP508を含む寒天ディスク中で成長するように刺激された。他の血管形成因子で観察されたものと同様のプラグから離れた血管中の側副血管生成も増加した。【0039】実施例3 TP508はブタモデルにおける心筋虚血治療に効果を示す。ユカタンミニブタは、左側の近位回旋動脈に存在するドーナツ形のアメロイド閉塞器(ameroid occulder)を有していた。アメロイドに長時間水を吸収させ、血管を狭窄した。手術の4週間後にコントラスト促進血管造影法によって閉塞を評価した。その時点で、各動物を再び開胸し、その直後に虚血領域に徐放性TP508製剤(すなわち、プルロニックゲル中に懸濁したTP508含有PGLA微粒子)を注射した。実施例6に記載のように調製したPLGA微粒子により、最初に薬物が急激に放出し(24時間で投与の50%)、その後さらに3〜4日間で制御放出され、その時点で80%の投与量が放出された。使用ゲルは、0.9%生理食塩水中の30%w/v Pluronic F68であった。粘度を減少させるために、注射直前に1ミリリットルあたり3.3mgのPLGA微粒子を氷上のゲルに添加した。これにより、100μg/mlゲルのTP508用量が得られ、これを虚血領域中の10箇所の部位(部位あたり100μl)に注射した。対照にはTP508なしでプルロニックゲル中のPLGA微粒子を与えた。ベースライン、治療後血管造影図、および心エコー図を得た。【0040】心筋壁肥厚および心臓駆出(ejection)画分の指標は、TP508処理動物は対照よりも良好にドブタミン誘導性ストレスに耐えられるという傾向を示した。3週間後、動物をコントラスト増強エコー検査法によって評価した。この限られた動物数での最初の結果により、ドブタミンストレス下でのTP508処理動物は対照と比較して駆出画分がわずかに増大し、且つ壁肥厚が良好に維持されることが示された。したがって、この処理は、虚血性心筋の機能修復を補うようである。【0041】実施例4 TP508はウサギモデルにおける心筋血管再生を刺激する。徐放性PLGA微粒子として処方されたTP508を、ウサギ虚血性心筋に注射した。Operschall et al.、J.Appl.Physiol.、88:1438、(2000)に記載のように、アメロイド閉塞器を、2匹のウサギのA−V溝のすぐ下にある左主冠状動脈の外側の区画上に配置した。配置から2週間後、動物を再び開胸した。一方の動物では、プルロニックゲル中のTP508微粒子(実施例3に記載)を、閉塞血管で使用された領域内およびその周辺に分散させた8箇所に注射した。他方の動物を、未処理対照として使用した。注射から約4週間後、動物を屠殺し、その心臓を10%緩衝化ホルマリン中で24時間固定した。次いで、心臓を、目的の領域を横切って切断し、ヘマトキシリン−エオシンで染色し、フォンウィルブランド因子(vWF)(内皮細胞マーカー)に対して免疫標識した。【0042】組織学により、対照動物は閉塞器に使用した領域に有意な線維症を有することが示された。それに対して、TP508処理心臓は、明らかに赤血球を有する多数の機能的毛細血管を有する健常と考えられる心筋を有していた。【0043】実施例5 TP508は高コレステロール血症ウサギモデルの再狭窄を抑制する。この手法は、高コレステロール血症のニュージーランドシロウサギの血管形成術後の新内膜形成および血管閉塞を阻害するための試験試料の有効性を試験する系が得られるように設計された。動物に0.5%のコレステロールおよび2.0%のピーナッツオイルを含む高脂肪食を3週間与えた。手術の24時間前に動物に対して前処理を施した。記載のように腸骨動脈をバルーン血管形成術で損傷を負わせ、動物をTP−508で7日間治療した。動物を高脂肪食で4週間維持した。バルーン血管形成術前および実験後に血管造影法を行った。損傷および非損傷腸骨動脈を採取し、組織学用に調製した。管腔、新内膜(存在する場合)、および中膜を形態計測学的に測定した。【0044】TP−508の試験試料を、滅菌無パイロジェン生理食塩水に所望の濃度に溶解/希釈し、手術前日、手術当日、および手術後6日間連続して1日当たり0.2mlの体積での静脈内注射によって投与した。【0045】5cmの正中線頸部切断を行い、右頚動脈を暴露し、近くを結紮し、切断した。4FrのBermanバルーン血管造影用カテーテルを大動脈に導入した。4FrのBermanバルーン血管造影用カテーテルを介して5Fr鞘を動脈に導入した。コレステロールの計測用に3mlの血液を採取した。次いで、ウサギにヘパリンおよびより大量の麻酔薬(必要時)を注射した。腸骨動脈を視覚化するために、4mlの滅菌生理食塩水と混合した6mlの76%Hypaqueを、カテーテルを介して注射した。腸骨動脈の画像処理を行った(画像をグリッドでマークし、鋏を右側に置く)。4FrのBermanバルーン血管造影用カテーテルを鞘から取り出した。0.014”/3.0mm×20.0mm/120cmのバルーンカテーテルを、鞘を介して大動脈および腸骨動脈に挿入した。バルーンを、1分間隔で30秒間10気圧に3回膨張させた。カテーテルおよび鞘を取り除いた。右頚動脈を3.0絹製の縫合糸で結紮した。頸部切開をPDSで閉じ、皮膚を止めて、二重抗菌軟膏を湿布した。【0046】次いで、試験試料または対照試料をウサギに投与した。試験試料を以下の様式で希釈した。0.3mlの生理食塩水を23G1”ニードルを装着した1.0mlシリンジに取った。これをわずかなTP−508に注射した。TP−508の溶解後、0.25mlの溶液を取り出して投与した。カニューレ挿入チューブを生理食塩水で洗浄した。ウサギが対照下にいる場合、0.2mlの生理食塩水を注射し、さらなる生理食塩水で洗浄した。ウサギに、皮下注射によって0.3mlのブプレノルフィンも投与した。【0047】術後、ウサギを注意しながら加温パッド上で休ませた。次いで、ウサギをケージに戻し、飼料および水を無制限に与えた。ウサギを屠殺するまでさらに4週間この食餌で維持した。【0048】手法の4週間後、両腸骨動脈を組織学用にin situで固定し、採取し、調製した。約1ミリメートル毎の組織学的連続切片のデジタル画像を獲得し、損傷領域全体の管腔、新内膜(存在する場合)、および中膜について形態計測を行った。【0049】組織学の概要Image−Pro PlusおよびExcelソフトウェアを使用して、19の試料の形態組織学的分析を行った。19の試料のうち2つの試料で外部弾性板(external elastic lamina )の喪失が認められた。19の試料のうち1つの試料はさらなる切断が必要なようである。したがって、7匹の治療試料および9匹の対照を含む16の試料を比較した。【0050】デジタル分析による新内膜領域の測定によって、再狭窄損傷の厚さを同定した。血管中膜を同様に測定した。これらの値を、これら2つの領域を合計して、それを同一の一連の組織学的スライド内で見出された正常な(非損傷)中膜領域で除して標準化した。非損傷中膜で見出された領域中の群間で有意な相違は存在しないと評価した。【0051】対照に対して治療動物を比較する場合、再狭窄範囲を以下の3つの異なる方法によって分析した:「単一最低値(single worst value)」法、「平均損傷厚」法、および「全切片の平均」法。「単一最低値」法は、手術血管間で得られた最大再狭窄値を比較する。「平均損傷厚」法は、手術血管間の十分に定義された損傷領域内、全ての異常点の平均を比較する。最後に、「全切片の平均」法は、損傷の一部であるかどうかに関係なく測定した全試料の平均厚を比較する。これらの結果の平均を、スチューデントT検定による統計的有意性について試験した。【0052】データの概要不等分散を仮定した両側t検定を使用して全てのデータ分析を行った。αは0.05であり、平均差を0と仮定する。各分析は、治療群のn=7および生理食塩水対照のn=9を含む。結果を以下の表1にまとめる。示した「差」の値は、対応する対照と比較した処理群の変化%に関する。アスタリクスで記した値は、統計学的に有意であった。【0053】【表1】【0054】結論データは、TP−508は高コレステロール血症のウサギモデルにおける再狭窄および血管閉塞を有意に抑制することを示す。この結果は、結果の定量のために選択された技術から独立しているという点で確固たるものである。【0055】実施例6 TP508のポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマー微粒子の調製。 二重乳濁液技術を使用して、TP508を含むポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマー(PLA/PGA)の微粒子を調製した。簡単に述べれば、基質成分を塩化メチレンに溶解し、TP508を水に溶解した。この2つをボルテックスしながら徐々に混合して、水−油(W/O)乳濁液を形成させた。ポリビニルアルコール(0.3%水溶液)を乳濁液に添加し、さらにボルテックスして第2の乳濁液(O/W)を形成させ、それにより以下の二重乳濁液が形成される:PLA/PGAからなる第2の分散相および液滴内のTP508水溶液からなる第2の分散相。層分離の際、PLA/PGA液滴は、TP508を保持する空洞を含む分散した微粒子を形成した。微粒子を層分離するために、2%イソプロピルアルコール溶液を添加した。粒子を遠心分離によって回収し、凍結乾燥して残りの水分を除去した。基質組成を変化させて異なる放出速度を有する微粒子を形成した(表2)。【0056】【表2】【0057】微粒子の平均直径をCoulterカウンターで測定し、薬物包括効率を微粒子の塩化メチレン溶液の秤量試料の溶解および水への放出薬物の抽出後の276nmでの分光光度アッセイによって測定した(表3)。【0058】【表3】【0059】異なるPLA/PGA基質からのTP508放出を測定するために、20mgの微粒子を1.5mlのポリプロピレン微量遠心分離チューブ中に含まれる1.0mlのPBSに入れた。チューブを37℃でインキュベートし、且つ60rpmで震盪した。種々の測定点で、チューブを遠心分離し、放出TP508を含む上清を取り出し、その後の分析用に凍結した。新鮮なPBSを微粒子に添加し、インキュベーションを継続した。上清中のTP508を276nmの吸光度によって測定した。各製剤について、4連の放出判定を行った。製剤BおよびDは、37℃で28日間のインキュベーションで薬物放出は検出されなかった。残りの製剤は全て検出可能な量のTP508を放出したにもかかわらず、全ての場合3〜4日以内で薬物放出量は検出可能限度未満であった(1μg/mg基質/日未満)。製剤AおよびCは、最も大量にTP508放出を示し、3〜4日にわたり包括薬物を60〜80%放出した。最も速い放出速度を示す製剤Cを、実施例3および実施例4に記載のin vivo研究でのさらなる試験に選択した。【0060】本発明を好ましい実施形態を参照して特に表示および記載しているが、添付の特許請求の範囲に含まれる本発明の範囲から逸脱することなく種々の形態および詳細の変更を行うことができることが当業者に理解される。【図面の簡単な説明】【図1】漸増濃度のTP508(配列番号:3のアミノ酸配列を有するペプチド)によりin vitroでヒト微小血管内皮細胞増殖が刺激されることを示すグラフである。グラフは、種々の濃度のTP508(μg/mlで示す)の投与から48時間後の細胞数を示す。【図2】漸増濃度のTP508によりプラスチック上の微小血管内皮細胞の移動が刺激されることを示すグラフである。グラフは、種々の濃度のTP508(μg/mlで示す)の投与後の細胞の移動距離を示す。【図3】心虚血のブタモデルにおけるTP508処理ブタおよび対照ブタの心機能の変化を示すグラフである。 アミノ酸の配列として、配列:Ala−Gly−Tyr−Lys−Pro−Asp−Glu−Gly−Lys−Arg−Gly−Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Valを有する、心臓組織に投与される血管形成トロンビン誘導体ペプチドを含有してなる、心臓組織修復を促進するための医薬組成物。 ペプチドが、心臓手術の間または心臓手術の後に投与される請求項1記載の組成物。 ペプチドが、心臓組織への注射により投与される請求項1又は2記載の組成物。 徐放性製剤である請求項1〜3いずれか記載の組成物。 徐放性製剤が、血管形成トロンビン誘導体ペプチドを含有してなるポリ乳酸/ポリグリコール酸微粒子である請求項4記載の組成物。 アミノ酸の配列として、配列:Ala−Gly−Tyr−Lys−Pro−Asp−Glu−Gly−Lys−Arg−Gly−Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Valを有し、心臓組織に投与される血管形成トロンビン誘導体ペプチドを含有してなる、心臓組織の血管再生を刺激するための医薬組成物。 アミノ酸の配列として、配列:Ala−Gly−Tyr−Lys−Pro−Asp−Glu−Gly−Lys−Arg−Gly−Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Valを有する血管形成トロンビン誘導体ペプチドを含有してなる、バルーン血管形成術後の患者において再狭窄を阻害するための医薬組成物。 ペプチドがバルーン血管形成カテーテル上にコートされる請求項7記載の組成物。 血管形成トロンビン誘導体ペプチドが全身に投与される請求項7記載の組成物。 血管形成トロンビン誘導体ペプチドが、バルーンで誘発された血管の損傷領域に局所的に投与される請求項7記載の組成物。 血管形成トロンビン誘導体ペプチドでコートされたステントが、バルーンで誘発された損傷領域の血管に挿入される請求項7記載の組成物。 アミノ酸の配列として、配列:Ala−Gly−Tyr−Lys−Pro−Asp−Glu−Gly−Lys−Arg−Gly−Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Valを有する血管形成トロンビン誘導体ペプチドを含有してなる、血管閉塞を阻害するための医薬組成物。 ペプチドのカルボキシ末端がアミド化されている請求項1〜12いずれか記載の組成物。 アミノ酸の配列として、配列:Ala−Gly−Tyr−Lys−Pro−Asp−Glu−Gly−Lys−Arg−Gly−Asp−Ala−Cys−Glu−Gly−Asp−Ser−Gly−Gly−Pro−Phe−Valを有する血管形成トロンビン誘導体ペプチドでコートされたステント。 ペプチドのカルボキシ末端がアミド化されている請求項14記載のステント。