タイトル: | 特許公報(B2)_高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法 |
出願番号: | 2002376647 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C07C 29/80,C07C 29/124,C07C 31/38 |
河村 毅 野村 信喜 藤井 茂樹 温井 和則 JP 4355489 特許公報(B2) 20090807 2002376647 20021226 高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法 東ソ−・エフテック株式会社 591180358 岸田 正行 100067541 水野 勝文 100087398 高野 弘晋 100103506 浅野 裕一郎 100122655 河村 毅 野村 信喜 藤井 茂樹 温井 和則 20091104 C07C 29/80 20060101AFI20091015BHJP C07C 29/124 20060101ALI20091015BHJP C07C 31/38 20060101ALI20091015BHJP JPC07C29/80C07C29/124C07C31/38 C07C 29/80 C07C 29/124 C07C 31/38 CAplus(STN) 特開2002−105009(JP,A) 特開昭61−106529(JP,A) 国際公開第01/014298(WO,A1) 1 2004203816 20040722 9 20051107 井上 千弥子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、非プロトン性極性溶媒中で、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとγ−ヒドロキシ酪酸アルカリ金属塩を反応させ、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法において、生成した2,2,2−トリフルオロエタノールを蒸留精製して高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】2,2,2−トリフルオロエタノールは、麻酔剤、胃潰瘍治療薬および農薬などの医農薬中間体原料として重要な含フッ素アルコールである。【0003】2,2,2−トリフルオロエタノールの製造法として、非プロトン性極性溶媒としてγ−ブチロラクトンの存在下に、γ−ヒドロキシ酪酸塩と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させ、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。該方法では、加圧反応後に未反応1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンをパージしたのち、生成した2,2,2−トリフルオロエタノールを蒸留精製する。【0004】上記反応液には、生成した2,2,2−トリフルオロエタノールのほか、低沸点化合物として未反応の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタン、少量の副生成物、高沸点化合物として少量の水分、溶媒のγ−ブチロラクトン、およびKCl塩が含まれている。【0005】【特許文献1】特公昭64−9299号公報【特許文献2】特公昭64−9300号公報【0006】【発明が解決しようとする課題】最近、医薬中間体向けには、2,2,2−トリフルオロエタノール製造に関して高純度の製品が要求されてきており、高純度2,2,2−トリフルオロエタノール製造法の開発が必要となっている。【0007】しかし、上記反応液から蒸留操作により高純度製品を得ようとすると、2,2,2−トリフルオロエタノールと未反応1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンおよび少量の副生成物などとの分離が難しく、高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの製造が困難であった。このため、高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを得ようとすると、高段数を持つ蒸留塔の設置を必要としたり、2,2,2−トリフルオロエタノール蒸留収率の低下が避けられない等の問題があった。【0008】そこで、本発明の課題は、前述の2,2,2−トリフルオロエタノールの蒸留精製において、高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法を提供することにある。すなわち、高段数を持つ蒸留塔を設置したり、2,2,2−トリフルオロエタノール蒸留収率を低下させることなく、前述の反応液から生成した2,2,2−トリフルオロエタノールを、効率的に低沸点化合物および高沸点化合物から分離し、高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法を提供することにある。【0009】なお、ここでいう高純度2,2,2−トリフルオロエタノールとは、上記特許文献などに開示された方法に従って得られる2,2,2−トリフルオロエタノールよりも純度が高いことを意味する。【0010】【課題を解決するための手段】本発明者らは、前述の該反応液から高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法を鋭意研究した。その結果、該反応液、または粗蒸留により分離した2,2,2−トリフルオロエタノールに水を添加して蒸留すると、容易に高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを製造できること、および蒸留により分離された低沸点成分に含まれる2,2,2−トリフルオロエタノールを水洗により回収し、これを2,2,2−トリフルオロエタノール原料系に戻すことにより高い蒸留収率が得られることを見出し、本発明を完成した。【0011】即ち、第一の発明は、非プロトン性極性溶媒中で、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとγ−ヒドロキシ酪酸アルカリ金属塩を反応させ反応液に水を添加して蒸留精製する工程、又は、該反応液から分離された2,2,2−トリフルオロエタノールに水を添加して蒸留精製する工程を備えたことを特徴とする高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法であり、第二の発明は、非プロトン性極性溶媒中で、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとγ−ヒドロキシ酪酸アルカリ金属塩を反応させた反応液から蒸留分離された低沸点成分に含まれる2,2,2−トリフルオロエタノールを水洗により回収する工程を備えたことを特徴とする高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法であり、第三の発明は、非プロトン性極性溶媒中で、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとγ−ヒドロキシ酪酸アルカリ金属塩を反応させた反応液から分離された2,2,2−トリフルオロエタノールに水を添加して蒸留精製する工程と、その蒸留分離された低沸点成分に含まれる2,2,2−トリフルオロエタノールを水洗により回収する工程と、回収した2,2,2−トリフルオロエタノールを粗2,2,2−トリフルオロエタノールに戻す工程とを備えたことを特徴とする高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法である。【0012】粗2,2,2−トリフルオロエタノールを蒸留精製する方法において、原料蒸留系に単に水を加えるだけで高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを製造できる理由は明らかではない。【0013】しかし、未反応の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンおよび副生成物などは、2,2,2−トリフルオロエタノールの沸点に近い挙動を示し、また、互いに複雑な共沸組成を形成するために蒸留分離が困難であることに鑑みて、本発明の水を添加することにより、これらの性質や挙動が変化し、この結果、2,2,2−トリフルオロエタノールとの分離が極めて容易になったものと考える。【0014】【発明の実施の形態】本発明によれば、非プロトン性極性溶媒中で、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとγ−ヒドロキシ酪酸アルカリ金属塩を反応させ、生成した2,2,2−トリフルオロエタノールを分離精製する方法において、該反応液、または粗蒸留により分離された粗2,2,2−トリフルオロエタノールに、水を添加し蒸留精製することにより、高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを製造できる。【0015】ここで、非プロトン性極性溶媒とは、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルイミダゾリノン、およびγ−ブチロラクトンから選ばれる溶媒であり、好ましくはγ−ブチロラクトンである。【0016】非プロトン性極性溶媒中で、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとγ−ヒドロキシ酪酸アルカリ金属塩を反応させる方法としては、例えば、電磁攪拌機を備えたオートクレープにγ−ブチロラクトン、水、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム及び1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを加え、密閉後、加温して反応させる方法があげられる。【0017】本反応が終了した後、該反応液に直接水を添加するか、または、該反応液の入った反応器から粗蒸留により分離した粗2,2,2−トリフルオロエタノールに水を添加する。該反応液には、KCl塩が含まれるので、工業的には後者のプロセスがより好ましい。【0018】後者の操作手順は、例えば、次のようにすれば良い。【0019】該反応器に2〜6段を有する短い蒸留塔を取り付け、該反応器を約100℃以下に冷却する。その後、未反応1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンをゆっくりパージし、生成した2,2,2−トリフルオロエタノールを粗2,2,2−トリフルオロエタノールとして分離回収する。本操作は、該反応器の温度にもよるが、加圧から始め、次第に常圧、そして必要なら、例えば、66〜80KPaの減圧まで行う。【0020】このようにして得られた粗2,2,2−トリフルオロエタノールは、通常、73〜83重量%の2,2,2−トリフルオロエタノール、低沸点成分として3〜8重量%の未反応1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンおよび0.3〜1.0重量%の副生成物、高沸点成分として3〜8重量%の水、および8〜15重量%のγ-ブチロラクトンが含まれている。【0021】ここで、低沸点成分の副生成物とは、例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(CF3CH2F)、含フッ素エーテル化合物(CF3CH2OCF2CH2Cl)、含フッ素エステル化合物(CF3CH2OCOCH3)、および含フッ素ケトン化合物(CF3CH2COCHFCl)などである。【0022】次に、この粗2,2,2−トリフルオロエタノールに所定量の水を添加し蒸留原料を調整する。添加する水の量は、粗2,2,2−トリフルオロエタノール原料に含まれる水量にもよるが、原料中の2,2,2−トリフルオロエタノールに対して10〜100重量%、好ましくは20〜50重量%である。これより水分が少ないと添加効果が失われ高純度品は得られず、また、これより水分が多くとも効果は変わらず、蒸留に必要なエネルギーが増大するので好ましくない。【0023】本発明の実施形態として、蒸留操作時に所定量の水の添加を、例えば、塔頂や原料供給口から別に連続添加しても何ら差し支えない。【0024】工業的な連続蒸留プロセスでは、本実施形態が容易であり好まれる。【0025】本発明によれば、高純度2,2,2−トリフルオロエタノールは、前述の蒸留原料を蒸留により分離精製して得られる。【0026】この蒸留分離プロセスは、回分蒸留法、連続蒸留法いずれでも差し支えないが、工業的には連続蒸留法が好ましい。この場合、低沸点成分、続いて高沸点成分を分離するプロセスが効率的である。【0027】本プロセスの蒸留塔は、蒸留条件によっても変わるが、凡そ理論段数14〜25段が必要である。これより段数が少ないと低沸点成分と2,2,2−トリフルオロエタノールの分離が不充分であるとか、2,2,2−トリフルオロエタノールと高沸点成分である水との分離が不充分となるなど高純度品は得られない。また、これ以上の段数では設備費が高くなり経済性が失われる。【0028】また、本蒸留操作の圧力は、特に限定されないが、常圧で行うのがよい。【0029】本蒸留プロセスは、通常の操作方法により実施できる。【0030】例えば、回分蒸留法では、前記のように調整した蒸留原料を蒸留缶に仕込み、常圧蒸留を行う。蒸留初期には、還流比70〜130、缶温度82〜86℃、塔頂温度67〜73℃で低沸点成分を留出させ、その後、2,2,2−トリフルオロエタノール成分が留出し始めたら、還流比5〜15、缶温度100〜105℃、塔頂温度73〜75℃で高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを留出させる。【0031】この高純度2,2,2−トリフルオロエタノールが留出した後は、水が蒸留分離され、γ-ブチロラクトンは缶液として濃縮され再利用される。【0032】この脱水蒸留操作は、γ-ブチロラクトンをγ-ヒドロキシ酪酸の金属塩として、再利用する場合には後の工程で実施してもよい。【0033】なお、本蒸留操作では、塔頂冷却器の温度にも拠るが、蒸留原料に含まれる1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンは、塔頂冷却器で2〜10重量%が捕集され、残りの1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンは、別に設置された深冷冷却器で捕集回収される。【0034】このようにして、所望する極めて純度の高い2,2,2−トリフルオロエタノールを製造できる。【0035】本発明によれば、前記の蒸留により得られた低沸点成分は、7〜10重量%の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタン、25〜35%の含フッ素ジエチルエーテル類、含フッ素エチルエステル類、含フッ素ケトン類、50〜60重量%の2,2,2−トリフルオロエタノール、5〜10重量%の水が含まれる。【0036】この低沸点成分は、次に、低沸点成分に含まれる2,2,2−トリフルオロエタノールの3〜15倍重量の水で洗浄し静置すると、有機相と水相に分離できる。【0037】分離した有機相には、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタン、含フッ素ジエチルエーテル類、含フッ素エチルエステル類、含フッ素ケトン類が含まれ、これは廃棄される。【0038】一方、水相には、低沸点成分に含まれていた2,2,2−トリフルオロエタノールが抽出回収され、これは、そのまま粗2,2,2−トリフルオロエタノール原料系に戻される。【0039】洗浄する水の量が、上記の低沸点成分に含まれる2,2,2−トリフルオロエタノールの3〜15倍重量以下では、有機相に含まれる2,2,2−トリフルオロエタノールを十分抽出回収できなくなり、副生成物の含フッ素ジエチルエーテル類、含フッ素エチルエステル類、含フッ素ケトン類が水相に溶解してくるので不都合であり、一方、これ以上の水を用いても抽出回収は向上しない。【0040】この抽出回収操作の結果、全体として高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの蒸留収率は大きく向上する。【0041】なお、水による洗浄回収操作は、有機相と水相の分離が速やかであり、連続プロセスとして実施できる。【0042】【実施例】以下、本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。【0043】参考例1 電磁攪拌機を備えた20Lのオートクレープにγ−ブチロラクトンを11.0kg、水を0.36kg、γ−ヒドロキシ酪酸カリウムを2.17kg、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを2.37kg加えて、密閉後200℃で加温して6時間反応させた。このようにして、γ−ブチロラクトンを溶媒として、γ−ヒドロキシ酪酸塩と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させた。この反応液の入った反応器を冷却し約100℃に達したとき、反応器に取り付けた理論段数4段の蒸留塔により、未反応1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンをゆっくりパージし、常圧から徐々に71kPaまで減圧にしながら反応生成物を取り出し、粗2,2,2−トリフルオロエタノールを分離した。その粗2,2,2−トリフルオロエタノールの組成を表1に示す。【0044】【表1】【0045】実施例1 参考例1で分離された粗2,2,2−トリフルオロエタノール5.00kgに0.99kgの水を添加し、表2に示す原料を調製した。これを理論段数20段のオルダーショーを用いて蒸留をおこなった。表2に蒸留原料組成、表3に蒸留データ、表4に各留分(Frと略記する)の組成を示した。99.9重量%の純度を持つ高純度製品が97.0%の蒸留収率で得られた。【0046】【表2】【0047】【表3】【0048】【表4】【0049】比較例1 参考例1で分離された粗2,2,2−トリフルオロエタノール5.0kgを、そのまま理論段数20段を有するオルダーショーの缶に仕込み蒸留をおこなった。表5に蒸留データ、表6に各留分の組成を示した。98.3重量%の純度を持つ製品が94.0%の蒸留収率で得られた。【0050】【表5】【0051】【表6】【0052】実施例2 実施例1の低沸点成分Fr-1から100gを分液ロートにとり、500gの水で洗浄抽出した。静置すると上相と下相に分離した。ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、各組成は、以下のようであった。上相は、粗2,2,2−トリフルオロエタノールに加えられ、蒸留原料として用いることができ、収率向上に寄与した。このときの上相と下相における成分組成を表7にそれぞれ示した。【0053】【表7】【0054】【発明の効果】本願発明によれば、生成した2,2,2−トリフルオロエタノールを効率的に分離精製することができるため、高純度2,2,2−トリフルオロエタノールを容易に製造できるという効果を有する。【0055】この結果、本願発明によれば、医農薬原料として重要な高純度の2,2,2−トリフルオロエタノール製品を容易に得ることができる。 非プロトン性極性溶媒中で、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとγ−ヒドロキシ酪酸アルカリ金属塩を反応させた反応液を、粗蒸留により粗2,2,2−トリフルオロエタノールを分離し、さらに2,2,2−トリフルオロエタノールに対して10〜100重量%の水を加えて、再蒸留することを特徴とする高純度2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法。