生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_血管新生誘導剤
出願番号:2002308117
年次:2005
IPC分類:7,A61K38/17,A61K9/19,A61K35/12,A61K35/28,A61K35/30,A61K35/32,A61K35/34,A61K35/36,A61K35/38,A61K35/39,A61K38/04,A61P1/00,A61P5/00,A61P9/00,A61P9/10,A61P11/00,A61P17/00,A61P19/08,A61P37/02,A61P41/00


特許情報キャッシュ

井上 一知 顧 元駿 金 度勳 JP 3640655 特許公報(B2) 20050128 2002308117 20021023 血管新生誘導剤 井上 一知 502068285 株式会社クリエイティブ 502385517 岩谷 龍 100077012 井上 一知 顧 元駿 金 度勳 20050420 7 A61K38/17 A61K9/19 A61K35/12 A61K35/28 A61K35/30 A61K35/32 A61K35/34 A61K35/36 A61K35/38 A61K35/39 A61K38/04 A61P1/00 A61P5/00 A61P9/00 A61P9/10 A61P11/00 A61P17/00 A61P19/08 A61P37/02 A61P41/00 JP A61K37/12 A61K9/19 A61K35/12 A61K35/28 A61K35/30 A61K35/32 A61K35/34 A61K35/36 A61K35/38 A61K35/39 A61P1/00 A61P5/00 A61P9/00 A61P9/10 A61P11/00 A61P17/00 A61P19/08 A61P37/02 A61P41/00 A61K37/43 7 A61K 38/17 A61K 9/17 A61K 35/12-35/55 A61L 24/00-27/60 CAPLUS(STN) MEDLINE(STN) BEILSTEIN(STN) JICSTファイル(JOIS) PubMed 特開平06−199685(JP,A) 特開昭61−178927(JP,A) 特開2000−140088(JP,A) 国際公開第00/062833(WO,A1) 米国特許出願公開第2002/0150879(US,A1) 国際公開第00/064376(WO,A1) 特表2002−506344(JP,A) 特開2000−119194(JP,A) 特表2002−533164(JP,A) 国際公開第02/040071(WO,A1) 大久保千代次他,生体顕微鏡的に観察した創傷治癒過程,第21回創傷治癒研究会,1992年,vol.12, no.11,pp.2907-2913 岡本泰岳他,b-FGFを混和したフィブリン糊シートが皮弁内血管系に及ぼす影響,第22創傷治癒研究会,1993年,vol.13 no.11,pp.2612-261 6 2004143067 20040520 17 20021023 榊原 貴子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、医薬品組成物として有用な血管新生誘導剤に関する。【0002】【従来の技術】血管新生は、既存の血管から小血管が形成される現象であり、これまでに多くの研究者が血管新生のメカニズムについて盛んに研究を行っている。血管新生は、ガンの増大・転移、糖尿病網膜症、及び炎症性疾患(慢性関節リウマチ)の進展にかかわっており、特にガンの治療を目的として血管新生の抑制を目指した研究が多い。一方、近年この血管新生作用を利用し促進することにより、積極的に虚血組織周辺に充分な血液を供給して虚血組織を保護し、患部を治療しようという画期的な「血管新生療法」という新しい治療法の検討がなされている。【0003】虚血性疾患に対する薬物療法は、虚血の改善効果が不十分なことが少なくなく、このような薬物治療不応性の虚血性疾患症例には、バイパス手術などの血行再建術が必要となる。しかしながら、脳血管障害や腎機能障害など合併症のために血行再建術が施行できない症例も少なくない。また、循環器系疾患、例えば閉塞性動脈硬化症やバージャー病に代表される末梢性血管疾患には有効な治療方法がなく、血管拡張術および外科的血行再建術が困難な場合、下肢切断が余儀なくされている。そのような重症の虚血性疾患症例及び循環器系疾患に対する新しい治療法として、血管新生を促進し、新しい血管を形成させる血管新生療法は有効である。しかしながら、これらの技術も未だ実用化には至っておらず、血管新生を有効かつ安全に誘導できる優れた薬剤の開発が期待されている。【0004】血管新生療法における具体的な開発の一例として、胚性幹細胞(ES細胞)等を利用しての血管形成技術の検討(例えば非特許文献1)が挙げられるが、その培養法、分化誘導法及び分化細胞の取得方法等の確立すべき技術が未完成であり、実用化には至っていない。【0005】また上記と同様に、ヒトの骨髄液から分離した骨髄単核球細胞を、直接治療部位に導入し、血管新生を形成させる自己骨髄細胞移植法(例えば非特許文献2)も既に検討されている。しかしながら、本法においても、患者に全身麻酔を施して大量の骨髄液を採取する必要があり、患者への身体的負担及び危険が避けられない。更には導入した細胞の分化の制御が著しく困難であるという問題がある。【0006】よって本発明の如く、外科手術等で止血剤等に用いられ、生体にとって安全であるフィブリンを生体に導入することにより、in vivoで血管新生を誘導することができる技術はこれまでに全く知られていない。また、本発明は、そのメカニズムが十分に解明されていないがために投与による副作用の恐れがあるグロースファクター等を必ずしも用いる必要が無く、また骨髄液を採取する等の外科的負担が患者にかからない点でより安全である。またフィブリンは生体付着性に優れており、生体内に投与する際、疾患部等の目的の部位に容易に固定化することが可能である。よって、本発明における血管新生誘導を利用することにより、患部周辺に血管を形成して充分な血液を供給し、疾患等を治療しようという臨床面及びコスト面で実用的な血管新生療法が実現できる。【0007】【非特許文献1】平島、片岡ら(Hiarshima M., Kataoka H. et al.)、「インビトロ脈管形成モデルにおける胚性幹細胞の血管内皮細胞への成熟(Maturation of embryonic stem cells into endothelial cells in an in vitro model of vasculogenesis.)」、ブラッド(Blood)、アメリカンソサイエティオブヘマトロジィ(American Society of Hematology)、(アメリカ)、1999年2月15日、93巻、4号、p.1253−1263【非特許文献2】嶋田寿文、室原豊明、「自己骨髄細胞移植による血管再生医療」、再生医学再生医療 現在化学増刊、(株)東京化学同人、2002年7月1日、41巻、p.102−108【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明は、生体にとって安全な血管新生誘導剤を提供することを目的とする。より具体的には、生体にとって安全で且つ生体付着性に優れているフィブリンを臓器又は組織内に投与することにより血管新生を形成させる、フィブリンからなる血管新生誘導剤を提供することを目的とし、更には再生医療の場で求められている血管新生誘導剤を提供することを目的とする。【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討を重ね、フィブリンを生体に投与することによって、血管新生が誘導されるという全く意外で、かつ新規な知見を見出した。また本発明者らは、フィブリンを生体内に投与することによって、細胞の増殖・維持に必要な酸素及び栄養分を、この血管新生誘導作用により供給することができ、機能障害や機能不全に陥った生体組織及び臓器の機能再生を図ることができることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらなる研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。【0010】すなわち、本発明は、(1) フィブリンを含有することを特徴とする血管新生誘導剤、(2) 生体内分解性高分子をさらに含有することを特徴とする前記(1)に記載の血管新生誘導剤、(3) 骨髄単核球細胞、骨髄間質細胞、幹細胞、角質化細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、神経幹細胞、血管内皮細胞、内皮前駆細胞、血管上皮細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、膵臓細胞、腎臓細胞、腸管細胞及び胃細胞から成る群から選択される細胞又は/及び選択される細胞から成る組織をさらに含有する、前記(1)に記載の血管新生誘導剤、(4) グロースファクターをさらに含有することを特徴とする前記(1)に記載の血管新生誘導剤、(5) 生体をフィブリンで処理することを特徴とする血管新生誘導方法、(6) フィブリノーゲンを酵素分解して得られるフィブリンを凍結乾燥して得られる粒状剤、(7) フィブリノーゲンを酵素分解して得られるフィブリンとカルシウムとを混合した混合物を、凍結乾燥して得られる粒状剤、(8) フィブリンを使用することを特徴とする皮膚移植方法、(9) フィブリンを使用することを特徴とする皮膚疾患の予防及び治療方法、(10) フィブリンを使用することを特徴とする末梢性血管疾患の予防及び治療方法、(11) フィブリンを使用することを特徴とする心臓疾患の予防及び治療方法、(12) フィブリンを使用することを特徴とする脳疾患の予防及び治療方法、(13) フィブリンを使用することを特徴とする骨疾患の予防及び治療方法、(14) フィブリンを使用することを特徴とする人工臓器皮下移植方法、(15) フィブリンを使用することを特徴とする呼吸器疾患の予防及び治療方法、(16) フィブリンを使用することを特徴とする消化器疾患の予防及び治療方法、(17) フィブリンを使用することを特徴とする内分泌・代謝疾患の予防及び治療方法、(18) フィブリンを使用することを特徴とする自己免疫疾患の予防及び治療方法、(19) フィブリンの血管新生誘導のための使用、に関する。【0011】【発明の実施の形態】本発明に用いられるフィブリンは特に限定されないが、市販のフィブリン粉、市販のフィブリノーゲンからの製造物、ヒト又は動物の血漿から精製したフィブリノーゲンからの製造物であってよい。また、組み換えDNA技術によるフィブリノーゲンの生成から得られるフィブリノーゲン含有細胞培養液からフィブリンが製造されても良い。またこれらのフィブリンは、細かい粒子状の凍結乾燥品で、生理食塩水やリン酸バッファー等の溶液に容易に懸濁できる形状であることが望ましい。市販のフィブリンとしては、例えば厚生省薬務局監修の生物学的製剤基準(1979年第201〜203頁)に従って製造された医療用乾燥フィブリン等が挙げられるが、止血剤等として臨床的に実用化され、ウィルスが除去されたものであることが好ましい。【0012】本発明に係る血管新生誘導剤を投与する対象として、ヒト及び他の哺乳動物が含まれる。ヒト又は動物の血漿からフィブリノーゲンを単離する場合、生体適合性の点から、ヒトを対象とする場合はヒトの血漿から、また動物を対象とする場合はその動物の血漿から単離することが望ましい。フィブリノーゲンの単離方法は特に限定されないが、公知の血漿分画法によって行われてよい。血漿分画法により得られたフィブリノーゲン沈殿物の更なる精製は、当業者に周知の技術、例えば、塩および/もしくはアミノ酸の存在下でタンパク質沈殿物を用いてフィブリノーゲンを再沈殿させるか、またはクロマトグラフィー技術(例えばイオン交換、アフィニティー、疎水性もしくはゲル浸透クロマトグラフィー)のいずれか、あるいは両技術の組み合わせによって行われてよい。混在する血漿汚染物質は除去されることが好ましく、例えばフィブロネクチンは固定されたゼラチンで、プラスミノーゲンは固定されたリジンによって吸収、除去されるのが好ましい。この操作を施されたフィブリノーゲンにより形成されたフィブリンは自己融解が抑制され、長期間安定である。また、ヒト又は動物の血漿から製造したフィブリノーゲンは、熱処理・化学処理等を施され、生体に有害なウィルスが除去されているのが好ましい。単離されたフィブリノーゲンは、適当な水性溶媒等に懸濁されてフィブリノーゲン溶液とされて良い。またはこのフィブリノーゲン溶液を凍結乾燥してフィブリノーゲン凍結乾燥品を作成しても良い。凍結乾燥法は、それ自体公知の技術に従ってよい。【0013】市販のフィブリノーゲン、またはヒト又は動物の血漿から単離されたフィブリノーゲンからフィブリンを製造する場合、ウィルスが除去されている高純度のトロンビンを用いて製造することが好ましい。高純度のトロンビンとしては、臓器性止血剤等として用いられている経口用トロンビン細粒剤等市販の薬局方収載品が好ましいが、通常トロンビンとしての生物活性または生理活性を有するもの、例えば血漿蛋白を分画して得られるもの等も使用できる。即ち、例えば、ヒトまたはウシの血漿から精製したプロトロンビンにCa2+の存在下でトロンボプラスチン又はヘビ毒等を作用させて調製したものを精製して用いることもできる。トロンビンの精製は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を単独でまたは陽イオン交換クロマトグラフィー(CEC)と組み合わせて行われるのが好ましい。【0014】上述したフィブリンの製造においては、フィブリノーゲンの溶解時の濃度は、4〜12w/v%、好ましくは6〜10w/v%であることが望ましい。該濃度域において、製造されたフィブリンの接着強度が高まるからである。フィブリノーゲンを溶解する溶媒としては、注射用蒸留水、注射用生理食塩水、pH5〜8の緩衝液(リン酸系、クエン酸系等)等の水性溶媒を用いることができる。上記フィブリノーゲン溶液に添加するトロンビンの配合量は、フィブリンのクロスリンク度(重合度)を低下させずに、安定したフィブリンを形成するためには、フィブリノーゲン1mg当たりトロンビン0.07から0.36単位であることが好ましく、0.07から0.25単位であることがより好ましい。トロンビンの単位は、通常精製フィブリノーゲン0.1%液1mlを15秒で凝固させる量を1単位( NIH(米国国立衛生研究所)単位:ミニマム リクイアメント フォードライド トロンビン[ Minimum Requirements for Dried Thorombin ](1946 ))とする。【0015】本発明においては、市販のフィブリノーゲン、またはヒト又は動物(例えばウシ)の血漿から製造したフィブリノーゲンを上記溶媒に懸濁後、適量のトロンビンを添加して、攪拌しながら37℃付近で一夜インキュベートして酵素反応を行わせ、フィブリンを生成させるのが好ましい。上記方法により生成された繊維状のフィブリンは、ろ紙等で反応溶液から分離され、凍結乾燥により粒子状とされるのが好ましい。生成したフィブリンの分離及び凍結乾燥の方法は、それ自体公知の方法に従ってよい。【0016】上記の方法によって得られるフィブリン凍結乾燥品は、カルシウムを含有していてもよい。カルシウムは、フィブリノーゲンにトロンビンを添加して酵素反応を行わせる際に添加されるのが好ましく、カルシウムの添加により、フィブリンとCa2+との重合・架橋反応によりフィブリンの安定性を高めることができる。添加されるCa2+は2mM以上であることが好ましく、CaCl2等のカルシウム塩の形で添加されるのが好ましい。また、フィブリンは生体内分解性を有するが、カルシウムを添加することにより、生体内におけるフィブリンの分解時間を調整することができ、疾患の程度等に応じて、血管新生を誘導させる期間を長期化させることができる。【0017】また、上記の方法によって得られるフィブリン凍結乾燥品は、使用目的、使用場所、フィブリンを生体内で滞在させたい時間等に応じて、他の生体内分解性高分子をさらに含んでいても良い。他の生体内分解性高分子は、フィブリンを凍結乾燥して粒状品とする際、又はフィブリン粒状品を適当な水性溶媒に懸濁する際に、フィブリンと混合されてよい。生体内分解性高分子としては、天然高分子及び合成高分子が知られている。天然高分子としては、デキストラン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アルギン酸、コンドロイチン硫酸、でんぷん、プルラン等の多糖或いはこれら多糖の誘導体、又はアルブミン、コラ−ゲン、ゼラチン等の蛋白質等が挙げられるが、本発明においては、天然由来のもの、特に好ましくは天然植物性由来の高分子、例えばゼラチン等が好ましい。合成高分子としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリシアノアクリレート等が挙げられる。これらの材料はいずれ体内に吸収され消失するため、生体内適合性を考慮する必要がなく、また細胞毒性がないため生体安全性に関わる問題もない。【0018】上記の方法により得られるフィブリンを含有する血管新生誘導剤の生体への投与形態は、投与される患者等の疾患の種類、疾患部位、疾患の程度によって異なるため一概に言えず、医師の判断によって決定されるが、好ましい投与形態を以下に述べる。本発明に係る血管新生誘導剤は、粉体のまま生体内の目的部位に直接投与されてもよく、あるいは注射用蒸留水、注射用生理食塩水、pH5〜8の緩衝液(リン酸系、クエン酸系等)等の水性溶媒等の液状賦形剤に懸濁されて、例えば注射、塗布等により投与されても良い。また、適当な賦形剤と混合し、軟膏状、ゲル状、クリーム状等にして、例えばフィブリンゲル等として塗布されてもよい。更に、上記水性溶媒等に、フィブリンを含有する本発明に係る血管新生誘導剤を一旦懸濁し、その後溶媒を除去することにより適当な形、例えばシート状、ブロック状、球状等に形成し、例えばフィブリンシートを作成し、これを生体の目的部位に投与してもよい。これらの製剤に用いられる賦形剤は、医薬品に添加可能なものであれば特に制限されないが、生体内分解性を有することが好ましく、また製剤のための方法は、当分野において公知の方法に従ってよい。【0019】生体へのフィブリンの投与量は、投与される生体の表面積1cm2当たり、1〜10mgであることが好ましく、1〜5mgであることがより好ましく、更には2〜3mgであることが特に好ましい。しかしながら、この投与量は必ずしもこれらに限定されるものではなく一概には言えないため、上述したように、投与する部位の疾患等の状況やフィブリンを生体内に滞在させたい処置時間等に応じて、医師の判断により決定され、また変更されてよい。また、本発明に係る血管新生誘導剤の剤形が水溶液又は軟膏である場合、賦形剤とフィブリンとの配合比率は、フィブリン4mgに対して賦形剤100〜500μlであることが好ましい。【0020】本発明に係るフィブリンを含有する血管新生誘導剤の、血管新生誘導効果の確認方法は、特に限定されないが、本発明に係る血管新生誘導剤を実験動物(例えばウサギ、ラット又はマウス等の動物)に投与し、投与部の細動脈の増加を確認することによって行われてよい。投与部の細動脈の新生を確認する方法としては、例えば、本発明に係る血管新生誘導剤を実験動物に投与後、投与部における細動脈の新生状況を肉眼で確認したり、投与部の組織を採取してホルマリン固定後、該部位をHE(ヘマトキシン−エオシン)染色して調べることにより行なわれてよい。更には投与部位の血流量、表皮温度等が測定されてもよい。【0021】本発明においては、ヌードマウスを用いた皮膚弁生着率の検討を行い、本発明に係る血管新生誘導剤を皮膚弁剥離後の皮下組織に塗布して血管新生誘導効果を確認することができる。より具体的には、血管新生の誘導効果の確認は、マウスの皮膚を切開し、生じた皮膚弁と皮膚弁剥離後の皮下組織の間に該血管新生誘導剤を塗布した後、皮下組織の血流量、皮膚表面温度等を測定することにより実施される。また、ラットの動脈を完全に切断すること等により人為的に生体内に虚血部位を作成し、虚血部位に該血管新生誘導剤を投与した後、該部位の血流量を測定して実施されてもよい。血流量、皮膚温度等の測定方法は、自体公知の方法に従ってよく、例えば血流量の測定には、レーザー散乱を利用したリアルタイム血流測定装置、例えばレーザードップラー装置(Model ALF2100、Advance Co. Ltd. 社製)を用いる方法、また皮膚温度の測定には、サーモグラフィー映像を撮影してコンピューターにより温度分布を解析する、例えばサーモトレーサ(TH3100ME、NEC 社製)を用いる方法が挙げられる。【0022】本発明においては、フィブリンを生体に投与することにより、血管新生を誘導することができ、機能障害や機能不全に陥った生体内組織及び臓器の機能再生を図ることができるが、フィブリンとともに細胞や組織等を生体に投与することにより、更にその効果を促進することができる。再生医療の実施には、通常は移植細胞、血管成長・細胞増殖因子等、組織再生のための足場である生体内適合材料、さらには移植細胞の生体機能の維持のための酸素及び栄養分の供給源が必要とされる。これらの因子が生体内に導入され、かつ生体内でネットワークが形成されることにより、機能障害や機能不全に陥った生体内組織及び臓器の機能再生を図ることが可能となる。本発明に係るフィブリンを含有する血管新生誘導剤を用いると、フィブリンが生体内適合材料のみならず酸素・栄養分の供給源として機能することができる。すなわち、生体内分解性高分子であるフィブリンは、移植細胞の接着・分化・形態形成の促進のための足場としての役割と、血管新生を誘導することによる移植細胞への酸素・栄養分の供給源の役割とを合わせ有する。更にフィブリンは、血管の新生を増進させる目的で、本発明の血管新生誘導剤に bFGF、VEGF、HGF 等のグロースファクターを含有させる場合、グロースファクターを組織再生の場で持続的に放出させる徐放効果をも奏する。【0023】本発明に用いられるグロースファクターとしては、繊維芽細胞成長因子( FGF)〔塩基性 FGF 及び酸性 FGF を含む〕、血管内皮細胞成長因子( VEGF )〔血小板由来が好ましい〕、肝細胞成長因子( HGF )、アンギオポエチン(アンギオポエチン−1及びアンギオポエチン−2を含む)、血小板由来成長因子( PDGF )、インシュリン様成長因子( IGF )、胎児型平滑筋ミオシン重鎖( SMemb )、成長ホルモン( GH )もしくはその類縁物質、その他の細胞増殖促進因子等が挙げられる。これらのグロースファクターは1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの用法、用量は公知の範囲であれば、特に限定されるものでなく、本発明に係る血管新生誘導剤を投与される患者等の疾患、該血管新生誘導剤投与形態及び処置期間等の要因によって左右されるため一概には言えない。よってグロースファクターの用法、容量は医師等の判断により決定されるのが好ましいが、一般的にはフィブリン4mg当たりのグロースファクターの配合量は、約1ng〜100μg、特に1ng〜50μgの範囲内であることが好ましい。【0024】本発明のフィブリンからなる血管新生誘導剤に使用される移植細胞又は移植組織としては、骨髄単核球細胞、骨髄間質細胞、胚性幹細胞(ES細胞)等の未分化細胞とともに、角質化細胞や繊維芽細胞、血管内皮細胞、血管上皮細胞、内皮前駆細胞等の分化細胞及びこれらの分化細胞から構成される組織が挙げられる。【0025】 再生医療の代表的分野として皮膚再生医療が挙げられる。火傷を負ったり、皮膚ガンの手術をした場合、患者の皮膚上に創面が残る。この創傷部の治癒のために生体内における自己皮膚再生能は不可欠である。本発明のフィブリンからなる血管新生誘導剤を創傷部に塗布又は注入等することにより、その周辺の皮膚組織から角質化細胞や繊維芽細胞等がフィブリン内に入り込み、かつ血管新生が誘導されて細胞の増殖が促進され、表皮・真皮組織が再生される。表皮組織が自己再生しにくい場合は、患者の他の部分の表皮を再生した真皮上に移植し、再生真皮と移植表皮との間に本発明のフィブリンからなる血管新生誘導剤を塗布等することにより、さらなる血管新生が誘導され表皮の生着率を高めることができる。また自己皮膚再生が困難な場合には被覆保護を目的として皮膚移植等が施されるが、移植に用いる皮膚が患者本人から剥離した自家皮膚であっても、また生体外で培養した培養皮膚であっても、創傷部と皮膚との間に本発明の血管新生誘導剤を投与することにより、移植皮膚の被覆部位への生着率を高めることができる。また、予め角質化細胞や繊維芽細胞等又は/及びグロースファクター等を本発明の血管新生誘導剤内に含有させておくことにより、自己組織の再生及び移植皮膚の生着率をより高めることができる。【0026】閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性動脈硬化症、糖尿病、壊疽、レイノー病やバージャー病に代表される末梢性血管疾患には有効な治療方法がなく、血管拡張術および血管バイパス術等の血行再建術が困難な場合、下肢切断等が余儀なくされている。そのような重症の末梢性血管疾患の治療法に対して、血管新生を誘導し、新しい血管を形成させる本発明のフィブリンを含有する血管新生誘導剤は有用である。本発明の血管新生誘導剤を疾患部に投与することにより、血管新生による側副血行路(バイパス)を形成させ、虚血部の改善を図ることができる。また、本発明のフィブリンを含有する血管新生誘導剤に、血管新生の更なる促進のため、予め血管形成に係わる血管内皮細胞、血管上皮細胞、内皮前駆細胞及び/又は骨髄単核細胞等が配合されていてもよく、さらに bFGF、VEGF、HGF 等のグロースファクターが配合されていてもよい。【0027】心筋梗塞症、拡張型心筋症等の心臓疾患においては、心筋に再生能力がないため、心筋が壊死により収縮機能不全となった場合には、心臓移植という方法でしか今のところ治療方法がない。しかしながら、本発明のフィブリンを含有する血管新生誘導剤を用いることにより心筋機能を再生することが可能となる。すなわち、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞等を本発明の血管新生誘導剤に含有させてこれを心臓の壊死領域に投与することにより、壊死領域に心筋組織を再生させることができ、かつ宿主の健常な周辺心筋部より血管が誘導されて、宿主の心筋組織と結合して同期的に収縮できる心筋組織を再生することができる。【0028】脳挫傷、パーキンソン病、多発性硬化症や脳梗塞などの脳疾患においては、損傷を受けた脳機能を改善すべく、神経上皮型幹細胞等の神経幹細胞の脳内移植が試みられている。神経細胞の移植治療には、移植された神経幹細胞が宿主の組織内で生着し、シナプスを形成して神経回路網が再構築される必要があり、神経回路網が再構築されるためには、移植細胞周辺に血管新生を誘導し、移植細胞を神経細胞、神経膠星状細胞等の様々な細胞へと分化させる必要がある。その際、該移植細胞を含有する本発明に係る血管新生誘導剤を脳内に投与することにより、血管新生を同時に誘導することができ、脳内神経回路網の再構築を促進することができる。【0029】骨折等の治療において、損傷部位である骨に直接固定具等をあてがって治療を行う場合がある。その際、固定具と本発明に係る血管新生誘導剤との併用、例えば固定具に本発明に係る血管新生誘導剤を担持させることによって、骨形成を促進し、治療速度を速めることができる。また、更に本発明に係る血管新生誘導剤に骨芽細胞、軟骨細胞等を含有させ、骨形成を更に促進させることもできる。また、骨や関節の疾患等の治療方法として、人工骨、人工関節による人工骨・関節置換術が試みられているが、該置換術の課題は、如何にして人工骨等と患者の周囲組織とを融合させ一体化させるかという点である。この課題を解決する方法として、患者自身の周囲組織と一体化し、周辺組織と共に成長できる人工骨等の開発が望まれている。上記の機能を有する人工骨等を得るためには、骨髄幹細胞、骨芽細胞、軟骨細胞等の移植細胞を3次元的に培養できる網目構造を有し、かつ生体適合性に富み、一定期間で生体内に吸収される人工骨の基材の開発が必要である。本発明に係る血管新生誘導剤は、フィブリンをその構成成分とすることから、生体適合性及び生体内分解性に優れており、かつ血管新生誘導作用により移植細胞の増殖を促進することができる。従って、本発明に係る血管新生誘導剤を用いることにより、優れた人工関節、人工骨等を得ることが可能となる。【0030】消化器疾患として知られる虚血性大腸炎、腸閉塞等は、腸管の血行循環障害により生じる腸管組織や腸管平滑筋細胞の壊死を伴う重篤な疾患である。また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎等の潰瘍性消化器疾患も腸管平滑筋細胞の壊死により平滑筋層が傷害される疾患である。本発明のフィブリンを含有する血管新生誘導剤に、腸管細胞、腸管平滑筋細胞又は胃細胞等を配合させてこれを壊死領域に投与することにより、宿主の健常な周辺組織より血管が誘導されて、壊死領域の腸管組織又は胃組織を再生させることができる。【0031】機能不全に陥った臓器の機能を回復させる方法として、人工臓器を用いる方法もあるが、本方法の実現のため、長期間の体内埋め込みが可能で、半永久的に機能する人工臓器の開発が進められている。特に、人工臓器の機能を長期間維持させる目的から、人工臓器を基材として、培養細胞を組み込んだバイオ人工臓器の研究開発が進められている。バイオ人工臓器には、その形状によりマイクロカプセル型、マクロカプセル型等があるが、いずれも生体内環境下において生体からの免疫機構による襲撃をうけないための防御策、例えば免疫隔離膜等の防御バリアーと、回復させたい機能の代替となりうる移植細胞および移植細胞の機能維持が保てるような細胞外マトリックス(培養床)を有している。またこれらの人工臓器に担持される移植細胞は、細胞機能の維持のために血液から酸素や栄養分の供給がなされる必要がある。従って、本発明に係るフィブリンからなる血管新生誘導剤と該人工臓器と複合させることにより、人工臓器内の移植細胞を有効に増殖・維持させることができるバイオ人工臓器を作成することができる。【0032】上記のバイオ人工臓器内に担持される移植細胞としては、膵島細胞、膵内分泌細胞、腎臓細胞、肺上皮細胞等が挙げられる。これらの細胞を用いることにより、各々バイオ人工膵、バイオ人工腎臓、バイオ人工肺等を作成することができる。このバイオ人工膵(膵島)を移植することにより、内分泌・代謝疾患の一例である糖尿病による高血糖症を、より生理的に正常な状態に是正することができ、バイオ人工腎臓を移植することにより、自己免疫不全疾患のために血液透析療法等を定期的に行わなければならない腎不全患者の肉体的負担を軽減することができる。また、バイオ人工肺を移植することにより、肺臓組織・細胞の損傷・破壊あるいは肺炎、肺線維症、肺気腫等の呼吸器疾患により生ずる障害・肺機能の低下を回復することができる。【0033】更には、本発明に係る血管新生誘導剤の効果により、虚血部への血管誘導が可能となることから、これまで困難と考えられていた人工臓器及びバイオ人工臓器の皮下、筋肉内への移植を行うことができる。皮下や筋肉内へは、比較的軽微な侵襲で移植が可能であり、しかも該部位から移植した人工臓器等の回収も容易であるため、理想的な移植部位と考えられているが、反面、血管の分布密度が疎であり、細胞が増殖・生存する場所としては困難な部位である。つまりバイオ人工臓器に本発明に係る血管新生誘導剤を複合させて移植することにより、血管新生を皮下又は筋肉内に誘導させ、該部位の虚血状態を回復させることができるため、皮下や筋肉内においてもバイオ人工臓器を有効に機能させることができる。【0034】本発明に係る血管新生誘導剤に上述した細胞等を配合させる場合、用いられる細胞は培養細胞及び非培養細胞のいずれも使用することができ、それらの培養方法及び生体からの単離方法は、公知の方法に従ってよい。例えば、血管内皮細胞は、動脈、大動脈、静脈及び臍帯静脈のいずれの血管の内皮細胞でもよく、血管から内皮細胞を分離するには、例えば血管内壁をトリプシン等のプロテアーゼ処理して遊離する細胞を採取すればよい。骨髄単核球細胞は骨髄液から常法に従って分離でき、骨髄液は胸骨又は骨盤から採取すればよい。また、分離した細胞は、必要に応じて培養して用いてもよい。なお、これらの血管内皮細胞や骨髄単核球細胞等は、患者又は患蓄等自身からの自己由来又は移植適合性のある他己由来のいずれでもよいが、患者等自己由来のものが好ましい。【0035】本発明に係る血管新生誘導剤に細胞を配合する場合の態様は、特に限定されず、該血管新生誘導剤が投与される患者等の疾患、該血管新生誘導剤投与形態及び処置期間等の要因によって左右されるが、一般にはフィブリン4mg当たり、細胞数は約1×102〜106cells、特に約1×103〜105cellsであることが好ましい。また、本発明に係る血管新生誘導剤に細胞を配合させる方法は特に限定されないが、例えば、フィブリン懸濁液に細胞を均一に懸濁させて、細胞懸濁液を得ても良いし、またフィブリンゲルやフィブリンシートを上述のように作成して、これに細胞を均一に含ませることにより実施されてもよい。この様にして製造される製剤においては、製剤内に配合された細胞がフィブリンによって均等に覆われる形となり、該製剤を生体に投与すると、血管が有効に且つ均一に新生する。次いで、細胞と共に投与されたフィブリンが生体内で分解・消失し、投与された細胞が一様に増殖・接着していくことによって、健全な生体内ネットワーク機能を有する器官組織を形成することができる。【0036】【実施例】以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例になんら限定されるものではない。【0037】(実施例1)フィブリンの製造500mgのフィブリノーゲン(Sigma社製)を500mlのPBS(−)(pH7.2)溶液中に徐々に添加し、スターラーで攪拌しながら完全に溶解した。得られたフィブリノーゲン溶液に、トロンビン(Sigma社製)125単位を添加して、室温で一時間攪拌した。析出したフィブリンを溶液中より採取し、500mlの蒸留水中で30分間攪拌して洗浄した。洗浄は3回繰り返した。洗浄後、フィブリンの水分をろ紙(ADVANTEC社製、5A)を用いて除去し、50ml遠心管中に入れて−80℃でオーバーナイト冷凍保存した。凍結したフィブリンを乾燥し、約280mgの粒子状フィブリンを得た。凍結乾燥は東京理科機械社製、FDU-830 を用い、温度−40℃、オーバーナイトの条件で行った。得られた粒子状フィブリンを4mgずつエッペンドルフチューブに分注し、ガス滅菌器(西本産業社製、イオジェクトSA-360)にてガス滅菌した後、室温にて保存した。【0038】(試験例1)ヌードマウスを用いた皮膚弁生着率の検討第8〜10週令のヌードマウス(日本SLC株式会社、BALB/C-nu)にネンブタール(50mg/kg)を腹腔内投与して麻酔し、背部正中線部皮膚を肩甲骨から1cmの位置の横方向の1辺(基底辺: Base of Flap)は切開せずに、横方向1cm、縦方向2cm角になるよう3辺を切開、剥離し、皮膚弁を作成した(図1参照)。実施例1で製造したフィブリンをマウス一匹当たりに4mg投与した。投与方法は、4mgのフィブリンを20μlのPBS(−)にエッペンドルフチューブ内にて懸濁し、該溶液を皮膚弁と皮下組織との間にスパチュラで均一に塗布することにより行った。塗布後直ちに切開部を縫合した。この操作を繰り返し、実施例1で製造したフィブリン投与モデル群9匹(n=9)を作成した。対照群として、実施例1で製造したフィブリンを添加しないPBS(−)20μlのみを投与した9匹(n=9)のマウスを作成した。投与モデル群及び対照群は、縫合後飼育ゲージに戻され、通常に固形飼料及び水を与えて飼育した。【0039】(試験例2)皮膚弁の生着率の測定試験例1で作成した投与モデル群(n=9)および対照群(n=9)において、皮膚弁形成後3日目及び7日目の皮膚弁の生着率を調べた。皮膚弁形成後3日目及び7日目の両群のマウスを実験台上に固定し、背部をデジタルカメラで撮影して(図1)画像をコンピューターに取り込んだ。画像処理ソフト( Mac Aspect )により画像を分析し、皮膚弁全体における生着率を算出した。両群における皮膚弁の生着率は、皮膚弁全体の面積を100として、壊死部の面積の割合を差し引くことによって求めた。図2に、両群における皮膚弁形成後3日目(a)(b)及び7日目(c)(d)の皮膚弁の生着率を示した。尚、t検定を行い、両群の間の有意差を求めた。対照群では、皮膚弁の生着率は3日目で約44.5±6.07%( Mean ± SE)であり、7日目で約32.0±4.38%に低下した。対照群に比べて、投与モデル群では、3日目及び7日目において皮膚弁の生着率が約72.9±2.54%及び73.0±3.89%と高い値を示した。これは、実施例1で製造したフィブリンにより皮膚弁の虚血部に血管が新生され、剥離された皮膚弁と皮下組織との接着が促進されたためである。実際、皮膚弁形成後7日目の両群の皮膚弁組織を採取しHE染色を施したところ(図3(a)(b))、投与モデル群において、対照群に比べて顕著な血管網の形成が筋肉組織内に認められ、良好な血管新生が起きていた。尚、参考として、実施例1で製造したフィブリン投与群における皮膚弁形成後50日目の皮膚弁組織を採取し、HE染色した結果を図3(c)に示した。この結果より、皮膚弁と皮下組織とが接着した後は、フィブリンは完全に分解し、正常な組織を形成していることが明らかとなった。【0040】(試験例3)血流量測定試験試験例1で作成した投与モデル群(n=1)および対照群(n=1)において、皮膚弁形成後3日目及び7日目の皮膚弁の中心部における血流量を調べた。両群のマウスを実験台上に固定し、背部の縫合した皮膚弁表面の中心部に、レーザードップラー装置(Model ALF2100、Advance co. Ltd. 社製)のレーザー照射部をあてて一定時間血流量の推移を調べた。その際、照射部とマウス皮膚表面とをできるだけ密着させて測定した。図4(a)(b)(c)(d)に、安定した血流量が得られた時間帯における血流量の推移を示した。(a)及び(b)は、皮膚弁形成後3日目の両群における血流量( ml/100g tissue/min )を示し、(c)及び(d)は皮膚弁形成後7日目の両群における血流量( ml/100g tissue/min )を示している。これらの結果より、以下のことが明らかとなった。皮膚弁形成後3日目における投与モデル群の血流量は、約14〜16ml/100g tissue/minで推移し、対照群の血流量は約4〜5.5ml/100g tissue/minで推移した。また皮膚弁形成後7日目においては、投与モデル群の血流量は、約11〜20.5ml/100g tissue/min、対照群の血流量は約4.5〜5.5ml/100g tissue/minで各々推移した。よって、3日目及び7日目のいずれにおいても、投与モデル群の血流量は、対照群に比べて顕著に高い値を示し、実施例1で製造したフィブリンの投与により、血流量が高まることが明らかとなった。【0041】(試験例4)血流量回復試験試験例1で作成した投与モデル群(n=5)および対照群(n=4)において、皮膚弁形成後1日目、3日目及び7日目の皮膚弁における血流量の回復率を調べた。両群のマウスを実験台上に固定し、背部の縫合した皮膚弁表面(横方向1cm、縦方向2cm角)を縦方向に4分割(縦2cmを0.5cm間隔で分割)、横方向に3分割(横1cmを約0.33cm間隔で分割)するラインを設けた。基底辺より0.5cmの位置及び1.5cmの位置のラインと、横方向に3分割するラインとの交点4箇所をマークし、この4箇所にレーザードップラー装置(Model ALF2100、Advance Co. Ltd. 社製)のレーザー照射部をあてて、血流量( ml/100g tissue/min )を測定した。その際、照射部とマウス皮膚表面とをできるだけ密着させて測定した。尚、基底辺より0.5cmの位置のライン上にある2点における血流量の平均値を0.5cmの位置における血流量とし、基底辺より1.5cmの位置のライン上にある2点における血流量の平均値を1.5cmの位置における血流量とした。血流量の回復率は、皮膚弁形成を行う前の両群各々のマウスにおいて、同様の4箇所における血流量を予め測定して得られた血流量の平均値を100とし、この100に対する割合(%)で示した。尚、t検定を行い、両群の間の有意差を求めた。0.5cmの位置及び1.5cmの位置における血流回復率の結果を各々図5(a)及び(b)に示す。対照群では、基底辺に近い0.5cmの位置において、7日目でも血流量は70.4±13.29%( Mean ± SE )程度の回復であり、1.5cm目位置では7日目でも5.23±8.27%の回復しか見られなかった。これに対し、投与モデル群においては、基底辺に近い0.5cmの位置の3日目の血流量はほぼ100%に回復し、1.5cmの位置でも7日目には81.75±16.29%の回復が見られた。よって、実施例1で製造したフィブリンの投与により、顕著な血流量の回復が得られることが明らかとなった。詳細な実験データを表1に示す。【0042】【表1】【0043】(試験例5)皮膚温度回復試験試験例1で作成した投与モデル群(n=5)および対照群(n=4)において、皮膚弁形成後3日目及び7日目の皮膚弁表面温度を調べた。両群のマウスを実験台上に固定し、背部の縫合した皮膚弁を含む領域の皮膚表面の温度をサーモトレーサ(TH3100ME、NEC 社製)で撮影した。撮影時のモードはレベル35℃、センス0.7℃、スキャンモードSCΣ4に設定した。撮影した映像を基に、皮膚弁領域における表皮温度分布の解析を行い、該領域内の温度の平均値を求めた。表皮温度の回復率は、皮膚弁形成を施す前の両群各々のマウスにおいて、同様に皮膚弁領域の表皮温度分布を予め解析して得られた値の平均値を100とし、この100に対する割合(%)で示した。図6に結果を示す。投与モデル群では、3日目及び7日目において対照群に比べて、顕著な皮膚温度の回復が見られた。特に7日目において回復率はほぼ100%に達しており、実施例1で製造したフィブリンの投与により、顕著に皮膚温度が回復することが明らかとなった。【0044】(試験例6)ラット虚血モデルにおける血流量測定試験第8〜10週令のラット(清水実験材料(株)、京都)にネンブタール(50mg/kg体重)を腹腔内投与して麻酔した。ラットの右大腿部つけね内側において大腿動脈を完全に切断し、右下肢に虚血領域を作成した(虚血モデル)。実施例1で作成したフィブリン8mgをPBS(−)400μlにエッペンドルフチューブ内で無菌的に懸濁し、該溶液を虚血モデルの右下肢虚血領域に注射により100μlずつ4箇所投与した(投与モデル群、n=1)。大腿動脈切断後5日目における右下肢虚血領域の血流量を、レーザードップラー装置( Model ALF2100、Advance Co. Ltd. 社製)を用いて測定した。測定方法は、試験例3に従い、虚血領域内の血流量を測定した。対照群(n=1)には、該フィブリンを含有しないPBS(−)400μlのみを投与した。投与モデル群及び対照群の結果を各々図7(a)及び(b)に示す。投与モデル群の血流量は、約12〜13ml/100g tissue/minで推移し、対照群の血流量は約4〜4.5ml/100g tissue/minで推移した。投与モデル群の血流量は、対照群に比べて顕著に高い値を示し、実施例1で製造したフィブリンの投与により、血流量の改善が見られることが明らかとなった。【0045】【発明の効果】本発明に係るフィブリンを含有する血管新生誘導剤を生体内に投与することにより、血管新生が安全かつ有効に誘導され、機能障害や機能不全に陥った生体組織及び臓器の機能再生を図ることができる。【図面の簡単な説明】【図1】 実施例1で製造したフィブリン投与群及び対照群における、皮膚弁形成後3日目及び7日目の皮膚弁の生着状態を示す写真である。【図2】 実施例1で製造したフィブリンの投与群及び対照群における、皮膚弁形成後3日目(a)(b)及び7日目(c)(d)の皮膚弁の生着率(%)を示した図である。【図3】 実施例1で製造したフィブリンの投与群(a)及び対照群(b)において、皮膚弁形成後7日目に皮膚弁を各々採取し、該組織をHE染色したものである。また(c)は、実施例1で製造したフィブリンの投与群において、皮膚弁形成後50日目に皮膚弁を採取し、該組織をHE染色したものである。【図4】 実施例1で製造したフィブリンの投与群及び対照群において、皮膚弁形成後3日目(a)(b)及び7日目(c)(d)の各々の皮下組織の血流量( ml/100g tissue/min )を経時的に測定したものである。【図5】 実施例1で製造したフィブリンの投与群及び対照群における、皮膚弁形成後1日目、3日目及び7日目の皮膚弁上の0.5cmの位置(a)及び1.5cm(b)の位置での皮下組織の血流量の各々の回復率(%)を示したものである。【図6】 実施例1で製造したフィブリンの投与群及び対照群における、皮膚弁形成後3日目及び7日目の皮膚弁表皮温度の各々の回復率(%)を示したものである。【図7】 大腿動脈を切断したラット虚血モデルの虚血部位に、実施例1で製造したフィブリンを投与し、投与後5日目の該部位における血流量( ml/100g tissue/min )の経時的変化を測定したものである。 フィブリンを有効成分とし、かつフィブリノーゲンを酵素分解して得られるフィブリンを凍結乾燥して得られる粒状剤からなる血管新生誘導剤。 生体内分解性高分子をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の血管新生誘導剤。 骨髄単核球細胞、骨髄間質細胞、幹細胞、角質化細胞、繊維芽細胞、心筋細胞、神経幹細胞、血管内皮細胞、内皮前駆細胞、血管上皮細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、膵臓細胞、腎臓細胞、腸管細胞及び胃細胞から成る群から選択される細胞又は/及び選択される細胞から成る組織をさらに含有する、請求項1に記載の血管新生誘導剤。 グロースファクターをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の血管新生誘導剤。 移植皮膚の被覆部位への生着率を高めるために使用される請求項1に記載の血管新生誘導剤。 フィブリンを有効成分とし、かつフィブリノーゲンを酵素分解して得られるフィブリンとカルシウムとを混合した混合物を凍結乾燥して得られる粒状剤からなる血管新生誘導剤。


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