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タイトル:特許公報(B2)_アミノペプチダーゼBの阻害剤
出願番号:2002307815
年次:2009
IPC分類:A61K 38/00,A61P 35/00,C07K 5/09,C12Q 1/37


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横田 博 早坂 仁志 JP 4380139 特許公報(B2) 20091002 2002307815 20021023 アミノペプチダーゼBの阻害剤 第一三共株式会社 307010166 石橋 公樹 100146581 矢口 敏昭 100115750 横田 博 早坂 仁志 20091209 A61K 38/00 20060101AFI20091119BHJP A61P 35/00 20060101ALI20091119BHJP C07K 5/09 20060101ALI20091119BHJP C12Q 1/37 20060101ALI20091119BHJP JPA61K37/02A61P35/00C07K5/09C12Q1/37 A61K 45/00 A61K 38/00 A61P 35/00 A61P 43/00 C07K 5/09 C12N 9/99 C12Q 1/37 CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) Tomio Takeuchi,Antitumor antibiotics discovered and studied at the institute of microbial chemistry,J. Cancer Res. Clin. Oncol.,1995年,121,505-510 Susumu Sano, et al.,OF4949, new inhibitors of aminopeptidase B V. effect on the murine immune system,The journal of antibiotics,1987年 4月,Vol. XL, No. 4,519-525 2 2004143057 20040520 14 20051020 佐々木 秀次 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は卵巣癌の治療剤および/または診断方法に関する。より詳しくは、アミノペプチダーゼBの阻害剤を含有する卵巣癌の治療剤、アミノペプチダーゼBを阻害することを特徴とする卵巣癌の治療方法、アミノペプチダーゼのBの阻害剤の同定方法、およびアミノペプチダーゼBの発現量および/または酵素活性を測定する工程を含む卵巣癌の診断方法に関する。【0002】【従来の技術】アミノペプチダーゼB(以下APBと略称することもある)は、ペプチドのN末端がArgおよび/またはLysであるペプチドの、該Argおよび/またはLys残基を特異的に切断するZn2+依存性のエキソペプチダーゼであり、主にラット細胞を用いた研究において機能解析が進められてきた(尚、本明細書におけるアミノ酸の表記にはアルファベット3文字表記法を用いている。)。ラットのAPBは、炎症やアレルギー反応等の伝達物質であるロイコトリエンA4の加水分解酵素と類似したモチーフを有しており、主に細胞膜内に存在するが、細胞外にも分泌される蛋白質であることが知られている(非特許文献1参照)。APBが作用する合成基質としては、Arg−Leu−エンケファリン(enkephalin)、Arg−Met−エンケファリン、Arg−Lys−ソマトスタチン(somatostatin)等が知られている。また、ラットAPBは、大脳皮質、副睾丸、心臓、腎臓、大腸、肝臓、肺、筋肉、膵臓等の多種の臓器でその存在が認められている。【0003】本発明者は、GenBankのヒトcDNAライブラリーを用い、ラットAPB遺伝子とのホモロジー検索により選出したAPBのヒトホモログを特願2001−133620号の明細書にて開示している。この出願明細書には、遺伝子の全長を決定し、該遺伝子を大腸菌発現系で発現させて該遺伝子がコードする蛋白質を得たことが記載されている。さらには、合成基質を用いた酵素活性の確認及びAPB阻害剤であるピューロマイシンによる酵素活性阻害確認試験を行った結果が記載されている。また、これらの知見に基づき、該蛋白質の機能または生理学的作用を調節することによる疾病診断手段および医薬用組成物が提供されることが記載されている。【0004】しかし、ヒトAPBの生体内における生理的な意義および疾患との関連性については完全に解明されているとはいえなかった。【0005】【非特許文献1】Foulon T.、Cadel S.、Aminopeptidase B、 The International Journal of Biochemistry & Cell Biology、Elsevier、1999、vol.31、No.7、p.747−750【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題の一つは、ヒトAPBの生理的な作用をさらに明らかにすることによって、APBの機能を調節することによる疾病の予防剤および/または治療剤、および予防方法および/または治療方法を提供することである。【0007】また、本発明の別の課題は、APBの発現量および/または酵素活性を指標とした疾病の診断方法を提供することである。【0008】【課題解決のための手段】上記課題を解決すべく本発明者は鋭意努力し、疾患関連データベースを用いたヒト正常および癌組織におけるAPB遺伝子発現解析を行うことにより、APB遺伝子が、卵巣未分化胚細胞腫組織において、正常組織に比べ顕著に高度に発現していることを見出した。【0009】さらには、蛍光トリペプチドライブラリーを用いてAPBの基質特異性解析を行い、APBが高い切断活性を示すペプチド配列およびAPBの機能を阻害する低分子ペプチドを見出した。【0010】これらの結果に基づき、APBの阻害剤を含有する卵巣癌の予防剤および/または治療剤、および、それらの同定方法、さらにはAPBの発現量および/または酵素活性を指標とした卵巣癌の診断方法を提供することによって本発明を完成した。【0011】すなわち本発明は、アミノペプチダーゼBの阻害剤を含有する卵巣癌の予防剤および/または治療剤に関する。【0012】また、低分子ペプチドであるアミノペプチダーゼBの阻害剤を含有する卵巣癌の予防剤および/または治療剤に関する。【0013】さらに、Arg−Met−Arg、その塩または溶媒和物を含有する卵巣癌の予防剤および/または治療剤に関する。【0014】また、Arg、Lys、Tyr、TrpおよびProから選ばれるアミノ酸の残基をC末端に保持するペプチドに対する切断活性の存在もしくは不存在または変化を測定し、該切断活性を阻害する化合物をアミノペプチダーゼBの阻害剤であると判断する工程を含む、アミノペプチダーゼBの阻害剤の同定方法に関する。【0015】さらに、Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端部分に保持するペプチドに対する切断活性の存在もしくは不存在または変化を測定し、該切断活性を阻害する化合物をアミノペプチダーゼBの阻害剤であると判断する工程を含む、アミノペプチダーゼBの阻害剤の同定方法に関する。【0016】また、Arg、Lys、Tyr、TrpおよびProから選ばれるアミノ酸の残基をC末端に保持し、かつ、切断された際にシグナルとして検出され得る物質で修飾されているペプチドに対する切断活性を、該シグナルの存在もしくは不存在または変化を検出することにより測定し、該シグナルを減弱させる化合物をアミノペプチダーゼBの阻害剤であると判断する工程を含む、アミノペプチダーゼBの阻害剤の同定方法に関する。【0017】さらに、Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端部分に保持し、かつ、切断された際にシグナルとして検出され得る物質で修飾されているペプチドに対する切断活性を、該シグナルの存在もしくは不存在または変化を検出することにより測定し、該シグナルを減弱させる化合物をアミノペプチダーゼBの阻害剤であると判断する工程を含む、アミノペプチダーゼBの阻害剤の同定方法に関する。【0018】また、前記ペプチドが、Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端部分に保持し、かつ、蛍光物質で修飾されているペプチドである、上記の同定方法に関する。【0019】さらに、上記の同定方法により同定されたアミノペプチダーゼBの阻害剤に関する。【0020】また、Arg−Met−Arg、その塩または溶媒和物からなるアミノペプチダーゼBの阻害剤に関する。【0021】さらに、アミノペプチダーゼBの阻害剤の同定に用いるキットであって、Arg、Lys、Tyr、TrpおよびProから選ばれるアミノ酸の残基をC末端に保持するペプチドを含んでなるキットに関する。【0022】また、アミノペプチダーゼBの阻害剤の同定に用いるキットであって、Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端部分に保持するペプチドを含んでなるキットに関する。【0023】さらに、前記ペプチドが、さらに、切断された際にシグナルとして検出され得る物質で修飾されているペプチドである、上記キットに関する。【0024】また、アミノペプチダーゼBの阻害剤の同定に用いるキットであって、Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端部分に保持し、かつ、蛍光物質で修飾されているペプチドを含んでなるキットに関する。【0025】さらに、アミノペプチダーゼBを阻害することを特徴とする卵巣癌の予防方法および/または卵巣癌の治療方法に関する。【0026】また、アミノペプチダーゼBの量および/または酵素活性を測定する工程を含む卵巣癌の診断方法に関する。【0027】さらに、アミノペプチダーゼBの量および/または酵素活性を測定する工程が、アミノペプチダーゼB遺伝子の発現量を測定する工程である上記診断方法に関する。【0028】また、アミノペプチダーゼBの量および/または酵素活性を測定する工程が、アミノペプチダーゼBの蛋白質産生量を測定する工程である上記診断方法に関する。【0029】さらに、アミノペプチダーゼBの量および/または酵素活性を測定する工程が、アミノペプチダーゼB遺伝子の発現量およびアミノペプチダーゼBの蛋白質産生量を測定する工程である上記診断方法に関する。【0030】また、アミノペプチダーゼBの量および/または酵素活性を測定する工程が、Arg、Lys、Tyr、TrpおよびProから選ばれるアミノ酸の残基をC末端に保持するペプチドに対する切断活性の存在もしくは不存在または変化を測定する工程である上記診断方法に関する。【0031】さらに、アミノペプチダーゼBの量および/または酵素活性を測定する工程が、Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端部分に保持するペプチドに対する切断活性の存在もしくは不存在または変化を測定する工程である上記診断方法に関する。【0032】また、卵巣癌の診断に用いるキットであって、アミノペプチダーゼB遺伝子由来物が検出可能なヌクレオチドプローブ、アミノペプチダーゼB蛋白質由来物に対する抗体、アミノペプチダーゼBのペプチド基質のうちの少なくともいずれか一つを含んでなるキットに関する。【0033】【発明の実施の形態】ヒトAPB遺伝子はGenBankにアクセッション番号BC001064として登録されており、特願2001−133620号明細書に記載の方法によって、全長cDNAを得ることができる。本発明者は、APB遺伝子について、疾患関連データベースであるBioExpress(Gene Logic社)を用いた解析を行い、卵巣未分化胚細胞腫の組織において正常組織に比べ高度(4.53倍)に発現していることを明らかにした。したがって、発明者は、APBが卵巣癌の発症に関与すると考えている。【0034】また、精巣悪性新生物でのAPB遺伝子の発現量は、正常組織の2.9倍、精巣の胚細胞腫瘍の一種である精上皮腫でのAPB遺伝子の発現量は正常組織の2.6倍であった。したがって、精巣癌を含む生殖腺癌、さらには、胚細胞由来の癌にAPBが関与すると発明者は考えている。【0035】TYK−nu、PA−1などの卵巣癌由来細胞株、NEC14、NEC8などの精巣癌由来細胞株に、APB遺伝子に対してアンチセンス効果やRNAi(RNA interference)効果を示すオリゴヌクレオチドを導入し、細胞増殖、形態、転移能等の癌細胞の形質変化を確認すれば、上記癌へのAPBの関与が確認できる。これらの細胞株はヒューマンサイエンス財団より入手できる。【0036】本発明の一つの態様は、APBの阻害剤である卵巣癌の予防剤および/または治療剤を提供することである。上述のように、APBが卵巣癌に関与することが明らかであることから、APBの阻害剤は卵巣癌の予防剤および/または治療剤となり得る。また、APBを阻害することは卵巣癌の予防方法および/または治療方法につながる。【0037】APBの阻害剤は、APBの機能を阻害するものであってもよいし、APBの生体内における遺伝子産物の発現を阻害するものであってもよい。【0038】該阻害剤は、天然に存在する化合物、合成された化合物、RNAi効果を示す核酸等を含むが、低分子化合物、低分子ペプチド、低分子ポリヌクレオチドが好ましい。これらは適当な塩や溶媒和物の形態を有していてもよい。また、APBをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸は遺伝子治療に用いることができ、そのような態様も本発明に含まれる。本願実施例においては、トリペプチドをAPBの阻害剤として用いることができることが記載されている。Arg−Met−Argが特に好ましい。さらには、Arg−Met−Argの配列に基づき、この構造を模倣して設計されたArg−Met−Argの均等物も本発明の範囲に含まれる。【0039】本発明の別の態様は、APB阻害剤の同定方法を提供するものである。APBの阻害剤の同定には、APB蛋白質、APB遺伝子、およびそれらの由来物、それらを認識する抗体、APB遺伝子を含有する組換えベクター、該組換えベクターで形質転換された形質転換体などを用いることができる。【0040】例えば、天然のAPBを一般的酵素精製手段により精製して得たり、あるいは、遺伝子工学的手法により生産したりなどして得たAPBを酵素とし、適当な基質を加えて、APBの酵素反応を起こし、APBによる基質の切断活性の存在もしくは不存在または変化を検出し、該切断活性を阻害する化合物をAPB阻害剤であると判断すればよい。本願実施例においては、APBとしては、6×Hisタグ融合蛋白質として大腸菌で発現させ、アフィニティーにより精製して得たものを用いているがこれに限定されない。【0041】好適な基質としてはArg、Lys、Tyr、TrpおよびProから選ばれるアミノ酸の残基をC末端に保持するペプチドが挙げられ、Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端部分に保持するペプチドがさらに好ましい。ここでいうC末端部分とは、ペプチド鎖のC末端側から3つのアミノ酸残基からなる部分構造をいう。試験化合物は、酵素反応時に同時に添加していてもよいし、酵素とプレインキュベーションしておいてもよい。【0042】基質としては、Arg−Met−enkephlin、Arg−Lys−ソマトスタチンなどの合成基質も適用できる。さらに好適なものとしては、切断された際にシグナルとして検出され得る物質で修飾されており、該シグナルの存在もしくは不存在または変化を検出することによりAPBの切断活性を検出できるペプチドが挙げられる。該シグナルを減弱させる化合物をAPBの阻害剤であると判断すればよい。切断された際にシグナルとして検出され得る物質としては、発色物質、蛍光物質、放射性物質等が挙げられ、発色物質としてはp−ニトロアニリン(pNA)、β―ナフチルアミン(βNA)、その他、3−ヒドロキシメチル―4―ニトロアニリノ基、4―(N―エチル―N―β―ヒドロキシエチル)アミノアニリノ基、4―(N,N―ジエチル)アミノアニリノ基等を有する物質等が挙げられる。蛍光物質としては、7―アミノ―4―メチルクマリン、7―アミノ―4―トリフルオロメチルクマリン、βナフチルアミンや消光性蛍光基質等が挙げられる。このような修飾を施したペプチドを用いるAPB阻害剤同定方法も本発明に含まれる。さらには、ペプチド鎖の末端をアセチル基等で保護したもの等も好適である。【0043】上記のように、APBは、Arg、Lys、Tyr、TrpおよびProから選ばれるアミノ酸の残基をC末端に保持するペプチドに対する切断活性が高いので、Arg、Lys、Tyr、TrpおよびProから選ばれるアミノ酸の残基をC末端に保持するペプチドを含んでなるキットは、APBの阻害剤の同定に用いることができる。Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端部分に保持するペプチドを含んでなるキットがさらに好ましい。キットに含まれるペプチドは、切断された際にシグナルとして検出され得る物質で修飾されていてもよく、さらに末端が適当な保護基で保護されていてもよい。【0044】上記同定方法等により同定されたAPBの阻害剤は適当な医薬担体と組み合わせて処方して卵巣癌の予防剤および/または治療剤として用いると良い。かかる処方は、治療上有効量の上記阻害剤、医薬上許容される担体または賦形剤を含む。かかる担体としては、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノールおよびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。処方は投与経路に適したものを選択すればよい。【0045】投与経路は、全身投与であっても局所投与であってもよい。全身投与の好ましい一態様は、注射、例えば、静脈注射が挙げられる。皮下、筋肉内、または腹腔内のような他の注射経路をもちいることもできる。投与の別の態様は、腸溶処方またはカプセル処方等の経口投与もある。さらに、胆汁酸塩またはフシジン酸または他の界面活性剤のような浸透剤を用いる形粘膜または経皮投与を用いることもできる。局所的な投与のときは、膏薬、パスタ、ゲルなどの形態を利用できる。【0046】必要な用量範囲は、上記阻害剤の有効性、投与経路、処方の性質、対象の症状および担当医師の判断によるが、適当な用量は、例えば、対象の体重1kgあたり0.1乃至100μgの範囲である。【0047】製剤化にあたっては、例えば、阻害剤の物性に応じた公知の製剤化手段を導入すればよい。具体的には、例えば、散剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、リポソーム製剤、脂肪乳剤、シクロデキストリンなどの包接体などの製剤化方法が利用できる。【0048】散剤、丸剤、カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトールなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いて製造できる。【0049】懸濁剤は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトースなどの糖類、PEGなどのグリコール類、油類を使用して製造できる。【0050】注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液または塩水とグルコース溶液の混合物からなる担体を用いて調製可能である。【0051】リポソーム化は、例えば、リン脂質を有機溶媒(クロロホルムなど)に溶解した溶液に、当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液を加えた後、溶媒を留去し、これにリン酸緩衝液を加え、振とう、超音波処理および遠心分離した後、上清をろ過処理して回収することにより行い得る。【0052】脂肪乳化剤は、例えば、当該阻害剤、油成分(大豆油、ゴマ油、オリーブ油などの植物油など)、乳化剤(リン脂質など)などを混合、加熱して溶液とした後に、必要量の水を加え、乳化機(ホモジナイザー)を用いて、乳化・均質化処理して行い得る。また、これを凍結乾燥することも可能である。なお、脂肪乳剤化するとき、乳化助剤を添加してもよく、乳化助剤としては、例えば、グリセリン、糖類(例えば、ブドウ糖、ソルビトール、果糖など)が例示される。【0053】シクロデキストリン包接化は、例えば、当該阻害剤を溶媒(エタノール)に溶解した溶液に、シクロデキストリンを水などに加温溶解した溶液を加えた後、冷却して析出した沈殿をろ過し、滅菌感想することにより行い得る。この際、使用されるシクロデキストリンは、当該阻害剤の大きさに応じて、空隙直径の異なるシクロデキストリン(α型、β型、γ型)を適宜選択すればよい。【0054】本発明の別の態様は、APBの量および/または酵素活性を測定する工程を含む卵巣癌の診断方法を提供するものである。【0055】本明細書において、APBの量を測定することには、APB遺伝子の発現量を測定すること、およびAPBの蛋白質産生量を測定することを含む。APB遺伝子の発現量およびAPBの蛋白質産生量の双方を測定してもよい。APBの量を測定するための試料としては、個体由来の細胞、例えば、血液、尿、唾液、髄液、組織生検サンプル、剖検サンプルなどを挙げることができる。これらの試料から、自体公知の方法により、遺伝子や蛋白質、これらに由来するポリヌクレオチド断片、ペプチド断片などを精製等して測定に用いるとよい。【0056】遺伝子の発現量の測定は、例えば、サザンブロッティング法などのように、遺伝子そのものの増幅を確認する方法、ノーザンブロッティング法などのようにmRNAの量を測定する方法やRT−PCR法、DNAチップを用いた解析などのようにmRNAを一旦cDNA化し、さらに増幅等を行って測定する方法など、発現遺伝子量を直接的、間接的に測定できるいかなる方法を適用してもよい。核酸の検出にはヌクレオチドプローブが好適に用いられるが、プローブは蛍光物質、放射性物質、発色性酵素等の修飾を施してもよい。ここでプローブとは、対象のヌクレオチドとハイブリッド形成をすることが可能なポリヌクレオチドを言う。【0057】蛋白質産生量を測定する方法としては、ラジオイムノアッセイ、競争結合アッセイ、ウェスタンブロッティング法、ELISAアッセイ等、APB蛋白質の一部を認識する抗体を用いた方法が好適に用いられるが、その他公知のいかなる手段を適用してもよい。【0058】APBの酵素活性の測定は、個体由来の細胞、例えば、血液、尿、唾液、髄液、組織生検サンプル、剖検サンプル等を適当な精製を施す等した後、APBの好適な基質に対する切断活性の存在もしくは不存在または変化を測定すればよい。【0059】好適な基質としてはArg、Lys、Tyr、TrpおよびProから選ばれるアミノ酸の残基をC末端に保持するペプチドが挙げられ、Asp−Met−ArgまたはArg−Met−Argで示されるアミノ酸配列をC末端に保持するペプチドがさらに好ましい。Arg−Met−エンケファリン、Arg−Lys−ソマトスタチンなどの合成基質も適用できる。【0060】さらに好適な基質としては、切断された際にシグナルとして検出され得る物質で修飾されており、該シグナルの存在もしくは不存在または変化を検出することによりAPBの切断活性を検出できるペプチドが挙げられる。切断された際にシグナルとして検出され得る物質としては、発色物質、蛍光物質、放射性物質等が挙げられ、発色物質としてはp−ニトロアニリン(pNA)、β―ナフチルアミン(βNA)、その他、3−ヒドロキシメチル―4―ニトロアニリノ基、4―(N―エチル―N―β―ヒドロキシエチル)アミノアニリノ基、4―(N,N―ジエチル)アミノアニリノ基等を有する物質等が挙げられる。蛍光物質としては、7―アミノ―4―メチルクマリン、7―アミノ―4―トリフルオロメチルクマリン、βナフチルアミンや、消光性蛍光基質等が挙げられる。さらに、ペプチド鎖の末端が適当な保護基により保護されていてもよい。【0061】上記の方法により、患部組織と正常組織におけるAPBの量および/または酵素活性を比較することにより卵巣癌の診断を行うことができる。試料が患部組織のみまたは正常組織との混合でのみしか入手できない場合は、一定のRNA量や蛋白質量あたりのAPB発現量、酵素活性の相対値を得ることにより測定するとよい。正常者のRNA量や蛋白質量あたりのAPB発現量の値をあらかじめ基準値として定め、その値と比較してもよい。【0062】疾患関連データベースであるBioExpress(Gene Logic社)は単位RNA量あたりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGeneChipシステムを用いて解析したものであり、本発明者らは、これを利用して、APBの発現量について、発現の組織特異性を解析した。その結果、正常卵巣でのAPB遺伝子の発現量はその他正常組織と同等であったのに対し、卵巣癌の一種である卵巣未分化胚細胞腫では4.53倍高かった。したがって、正常組織由来サンプル等を用いてあらかじめ定めておいた基準値との比較において、2倍以上、さらに好ましくは4倍以上のAPBの発現量および/または酵素活性が得られた場合は、卵巣癌の可能性が高いと診断できる。【0063】上述のようにAPB遺伝子由来物が検出可能なヌクレオチドプローブ、APB蛋白質由来物に対する抗体、APBのペプチド基質は、卵巣癌の診断に有用である。したがって、これらのいずれかを少なくとも含むキットは卵巣癌の診断用に提供される。該キットに含まれるヌクレオチドプローブ、抗体、ペプチド基質等は発色物質、蛍光物質等の検出時における利便性を付与する分子で適宜修飾されていてもよい。【0064】ここで、「APB遺伝子由来物」はAPB遺伝子そのもの、その一部分である断片、転写物、転写物の断片など、APB遺伝子に由来して生体内あるいは採取した試料中で生成され得るポリヌクレオチドを含む。人工的に蛍光ラベルなどの修飾を施したものも含まれる。【0065】「APB蛋白質由来物」は、APB蛋白質そのもの、その一部分である断片など、APB蛋白質に由来して生体内あるいは採取した試料中で生成され得るすべてのペプチドを含む。人工的にペプチド鎖の切断等を施したものも含まれる。【0066】本発明において提供される診断用キットは、被験者から採取した生体由来試料中に含まれるAPBおよび/またはAPB由来物の量を測定したり、酵素活性を測定したりすることに用いる物から構成されるキットのみならず、生体内に投与し、APBの生体内分布を測定する場合に用いる試薬キットをも含む。後者の場合においては、APB遺伝子由来物、APB蛋白質由来物に対する放射活性標識ヌクレオチドプローブなどを含むことが好ましい。【0067】【実施例】以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。【0068】(APBの発現)APBは、N末端6×Hisタグ融合蛋白質として大腸菌で発現させた。すなわち、Gateway System (Invitrogen社)を用いて構築されたヒトAminopeptidase Bの発現ベクター(pDEST17/hAPB#1;特願2001−133620号明細書参照)を導入した大腸菌BL21−SI(特願2001−133620号明細書参照)を、アンピシリン含有LB培地中、37℃で一晩培養後、培地を約10倍量追加してOD(600nm)が1前後となるまで培養を継続した。次いで終濃度が0.3Mとなるように5M NaClを培養液に添加後、20℃で24時間培養し、蛋白質発現を誘導した。培養終了後、遠心分離により集菌した大腸菌ペレットを−80℃で凍結保存した。【0069】(APBのアフィニティー精製)TALON Purification Kit(Clontech社)を用いてAPBをアフィニティー精製した。培養液50ml分の大腸菌ペレットを含むチューブ3本のそれぞれに、氷冷した1mM PMSF(Phenylmethylsulfonyl Fluoride)、1×Extraction/Wash Buffer 4mlを氷上で添加後、ペレットを懸濁し、これらを1チューブ(約12ml)にまとめ、20mg/ml Lysozyme水溶液450μlを添加後、氷上でソニケーター(W−225、Heat System−Ultrasonics社)を用い大腸菌を超音波破砕した。破砕後の懸濁液を4℃、12,000rpm(ローター:TOMY、TMS−21)で30分間遠心処理後、可溶性画分である上清(約12ml)を回収した。【0070】TALONレジン懸濁液を15mlチューブ2本に各1mlずつ分注し、1mM PMSF、1×Extraction/Wash Buffer 5ml/チューブで平衡化した。Bufferを除去後、可溶性画分上清を約6ml/チューブでレジンに添加した。4℃で2時間、穏やかに攪拌しながらAPBを吸着させた後、700×gで遠心処理し上清を除去した。1チューブのレジンを7.5mM イミダゾール、1mM PMSF、1×Extraction/Wash Buffer 1mlで懸濁後、残りの1チューブに移し、さらに同Buffer 9mlを加えて懸濁後、遠心処理し上清を除去した。再度、同Buffer 10mlを加えて同様にレジンを洗浄した。レジンを7.5mM イミダゾール、1mM PMSF、1×Extraction/Wash Buffer 1 mlで懸濁し、ディスポーザブルカラムに充填後、自然落下でBufferを排出し、7.5mM イミダゾール、1mM PMSF、1×Extraction/Wash Buffer 5mlを注入して洗浄した。洗浄後、50mM イミダゾール、1mM PMSF、1×Extraction/Wash Buffer 5ml、次いで100mM イミダゾールの同Buffer5ml、最後に150mM イミダゾールの同Buffer 5mlを順に注入し、溶出画分1〜30(約500μl/fraction/チューブ)を得た。溶出画分を還元条件下でSDS−PAGE(5−20% gradient gel、CBB(クーマジーブルー)染色)にて分析し、APB(約74kDa)を含む溶出画分3〜14(total約6ml)をプールした。次に、Buffer置換のため以下の操作を行った。置換Buffer(50mMリン酸ナトリウム緩衝液、0.15M NaCl、pH 6.5)で平衡化した遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−4、分画分子量 10,000、Millipore社)に溶出画分3〜14を注入後、4℃、7,500×gで遠心処理し約200μlまで濃縮した。次に置換Buffer 4mlを注入後、遠心処理し約200μlまで濃縮する操作を2回行った。置換Bufferでろ過膜を洗浄しながら、Buffer置換された濃縮液を回収し、0.65μmフィルター(Ultrafree−MC、Millipore社)で不溶物を除去し、APB標品を得た。【0071】アフィニティー精製により得たAPB標品は、BCA Protein Assay Kit(PIERCE社)を用いて測定した。APB標品の純度は、還元条件下でSDS−PAGE(5−20% gradient gel、 CBB染色)により調べた。APB標品の酵素活性は、APBの合成基質であるL―arginine―4―methyl―coumaryl―7―amide(Arg−AMC)とAPB標品(終濃度:1μg/mlの2倍希釈系列)を、50mMリン酸ナトリウム緩衝液、0.15M NaCl(pH 6.5)中、37℃で30分間インキュベート後、遊離したAMCの蛍光強度(励起/蛍光波長:365/450nm)を蛍光プレートリーダー(MTP−32、コロナ社)で測定することにより確認した。【0072】(蛍光トリペプチドライブラリーを用いたアッセイ)APB標品(終濃度0.5μg/ml)と蛍光トリペプチド(CAT:ChemRx Advanced Technologies社、終濃度5μM)を0.01% Tween20,PBS(pH 7.4)200μl中、37℃で30分間インキュベート後、蛍光プレートリーダー(MTP−32、コロナ社)で蛍光強度を測定した(励起/蛍光波長:365/450nm)。本実験で用いた蛍光トリペプチドライブラリーは全5920種類のペプチドを含み、濃度1mM(DMSO溶液)である。本蛍光トリペプチドはN−acetyl−アミノ酸1(AA1)−アミノ酸2(AA2)−アミノ酸3(AA3)−AMCの構造を有し、AA3−AMCのペプチド結合が切断されてAMCが遊離すると蛍光を発する。【0073】同時に、本蛍光トリペプチドと同じ蛍光団を有するArg−AMC(終濃度5μM)を基質とするコントロールサンプルも同様に測定した。各蛍光強度から、基質(蛍光トリペプチドまたはArg−AMC)のみを含むブランクサンプルの蛍光強度を差し引いた値(蛍光強度増加分)を算出した。【0074】次いで、Arg−AMCを基質としたサンプルの酵素活性(蛍光強度増加分)を100%として、蛍光トリペプチドを基質としたサンプルの相対活性(%)を算出することにより、各蛍光トリペプチドに対するAPBのプロテアーゼ活性を定量的に調べ、基質特異性を評価した。【0075】その結果、APBは蛍光トリペプチドのC末端アミノ酸残基(AA3)の種類に依存した切断活性を示し、AA3がArg、Lys、Tyr、 Trp、Proからなる配列の一部に対して10%以上の切断活性を示した(表1)。その他の配列を有する蛍光トリペプチド(5815種類)については10%未満の切断活性しか示さなかった。【0076】APBの基質として切断された蛍光トリペプチドのうちAsp−Met−ArgおよびArg−Met−Argについては、それぞれ83%および81%の切断活性を示し、他の配列に比べて突出した値であった(表2)。従って、APBは、これらの配列に対して、非常に高い基質特異性を有するものと判断した。【0077】【表1】Arg−AMCを基質としたサンプルの酵素活性(蛍光強度増加分)を100%として、蛍光トリペプチドを基質としたサンプルの相対活性(%)を算出し、APBの切断活性とした。【0078】【表2】1 Orn:OrnithineArg−AMCを基質としたサンプルの酵素活性(蛍光強度増加分)を100%として、蛍光トリペプチドを基質としたサンプルの相対活性(%)を算出し、APBの切断活性とした。【0079】(合成トリペプチドによるプロテアーゼ活性阻害)Asp−Met−Arg (Lot# 910−205282)、Arg−Met−Arg (Lot# 910−205281)、およびAla−Met−Arg(Lot# 910−205222)はペプチド研究所(株)に合成依頼し凍結乾燥品として入手した。これらのペプチド、およびその他対照として、Arg塩酸塩(和光純薬)およびBestatin(和光純薬)を秤量後、0.01% Tween20、PBS(pH 7.4)で溶解し、各種濃度の希釈系列を作製した。これら阻害剤の存在下、APB標品(終濃度0.5μg/ml)とArg−AMC(終濃度5μM)を37℃で30分間インキュベート後、蛍光強度を測定した。阻害剤非添加サンプルの蛍光強度を100%として、阻害剤添加サンプルの相対活性(%)を算出することにより、APBに対するプロテアーゼ阻害活性を定量的に評価した。【0080】蛍光トリペプチドを用いたアッセイ(前述)において非常に高い基質特異性が認められた2種の配列(Asp−Met−ArgおよびArg−Met−Arg)を有するトリペプチドが、APBのプロテアーゼ活性を阻害するか否かを評価した。その結果、これら2配列のうちArg−Met−ArgのIC50(50%阻害活性濃度)は約100μMであったが、Asp−Met−Argは1mMでも阻害活性を示さなかった。また、蛍光トリペプチドのアッセイでは全く切断されなかった配列Ala−Met−Argも、ほとんど阻害活性を示さなかった。【0081】なお、Aminopeptidaseの阻害剤であるBestatinは、APBに対して約0.4μMのIC50を示した。【0082】【発明の効果】本発明により、APBの阻害剤を含有する卵巣癌の予防剤、治療剤およびそれらの同定方法、APBを阻害することを特徴とする卵巣癌の治療方法、さらには、APBの発現量および/または酵素活性を指標とした卵巣癌の診断方法が提供される。 Arg−Met−Arg、その塩または溶媒和物を含有する卵巣癌の予防剤および/または治療剤。 Arg−Met−Arg、その塩または溶媒和物からなるアミノペプチダーゼBの阻害剤。


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