生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_黄色ブドウ球菌の検出用固体培地
出願番号:2002289535
年次:2007
IPC分類:C12N 1/20,C12R 1/445


特許情報キャッシュ

外山 一吉 福渡 康夫 矢野 陽一郎 清瀧 兼司 中川 稔 狩野 健一郎 佐々木 一枝 JP 3904502 特許公報(B2) 20070119 2002289535 20021002 黄色ブドウ球菌の検出用固体培地 森永乳業株式会社 000006127 遠山 勉 100089244 松倉 秀実 100090516 川口 嘉之 100100549 外山 一吉 福渡 康夫 矢野 陽一郎 清瀧 兼司 中川 稔 狩野 健一郎 佐々木 一枝 JP 2001306248 20011002 20070411 C12N 1/20 20060101AFI20070322BHJP C12R 1/445 20060101ALN20070322BHJP JPC12N1/20 AC12N1/20 AC12R1:445 C12N 1/20 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) PubMed JMEDPlus(JDream2) JST7580(JDream2) JSTPlus(JDream2) 細菌・真菌・原虫用培地「ニッスイ」マニュアル,日水製薬株式会社,1975年,p. 105-106 日本薬学会編,乳製品試験法・注解,1984年,金原出版,p. 113 J. Bacteriol,1963年,Vol. 85,p. 516-521 Journal of Bacteriology,1968年,Vol. 95,p. 418-425 Applied Microbiology,1975年,Vol. 29,p. 68-73 微生物学ハンドブック編集委員会編,微生物学ハンドブック ,技報堂,1957年,p. 1357-1385 1 2003174866 20030624 13 20030320 中村 花野子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、食品衛生、医薬検査、研究などの各分野における、黄色ブドウ球菌[スタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)]の検出に用いる検出用固体培地に関する。【0002】更に詳しくは、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を特定の範囲に調製した、少なくとも炭水化物、窒素源、卵黄、及び塩化ナトリウムを含有する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地に関するものである。【0003】尚、本発明における卵黄反応とは、卵黄を含有する平板培地において、卵黄反応陽性の微生物の集落の周囲に、白濁環を形成する反応をいう。本明細書において、固体培地とは、寒天等のゲル化剤で固化させた平板、斜面培地等の使用時に固体状の培地を意味する。【0004】【従来の技術】黄色ブドウ球菌による食中毒は、日本国において一定の頻度で発生する食中毒であり、食品衛生検査上重要な細菌とされている。食品衛生検査に使用される黄色ブドウ球菌用の選択分離平板培地として、卵黄加マンニット食塩寒天培地、卵黄加ブドウ球菌110培地、食塩卵黄寒天培地、ポアメディア・エッグヨーク食塩寒天培地、ベアード・パーカー(Baird-Parker)寒天培地、フォーゲル・ジョンソン(Vogel-Johnson)寒天培地、食塩加トリプトケース・ソイブイヨン(TSB)培地等が記載されている(非特許文献1を参照)。【0005】この中で、黄色ブドウ球菌の食塩耐性及び卵黄反応陽性を利用する黄色ブドウ球菌用の選択分離平板培地としては、卵黄加マンニット食塩寒天培地(pH7.2〜7.6。非特許文献2を参照)、食塩卵寒天培地(pH7.3。日水製薬社製等)、エッグヨーク食塩寒天培地(pH7.2。栄研化学社製等)等が知られている。【0006】尚、これらの選択分離平板培地のpHは前記のとおり中性域から弱アルカリ性域であり、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量は70〜75gである。【0007】また、これらの培地の卵黄含量は、一般に、培地に対して50%卵黄液を5〜10%の割合で添加することから、培地調製用の溶解水1L当りの卵黄含量は、25〜50gである(非特許文献3を参照)。【0008】従来、食品衛生検査において、黄色ブドウ球菌の検出は、これらの培地に、検体を接種し、35〜37℃、24〜48時間培養後、卵黄反応陽性の黄色ブドウ球菌と疑わしい集落を計測することにより行われている(非特許文献4を参照)。しかしながら、これらの従来技術には、次に記載するとおりの課題があった。【0009】【非特許文献1】厚生省生活衛生局監修、「食品衛生検査指針 微生物編」、日本食品衛生協会発行、第160〜161ページ、1990年12月25日【非特許文献2】日本薬学会編、「乳製品試験法・注解」、金原出版株式会社、第113ページ、昭和59年3月20日等【非特許文献3】厚生省生活衛生局監修、「食品衛生検査指針 微生物編」、日本食品衛生協会発行、第161ページ、1990年12月25日【非特許文献4】厚生省生活衛生局監修、「食品衛生検査指針 微生物編」、日本食品衛生協会発行、第162ページ、1990年12月25日【0010】【発明が解決しようとする課題】即ち、従来の黄色ブドウ球菌用の選択分離平板培地には、黄色ブドウ球菌と同様の卵黄反応を示すセレウス菌[バシラス・セレウス(Bacillus cereus)]も生育することから、黄色ブドウ球菌と誤認する可能性があった。そのため、セレウス菌の生育しない黄色ブドウ球菌の食塩耐性及び卵黄反応陽性を利用する黄色ブドウ球菌用の選択分離平板培地が求められていた。また、従来の一部の黄色ブドウ球菌用の選択分離平板培地は、卵黄反応の見易さの点で改善の余地があった。【0011】本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、卵黄反応の見易い、セレウス菌の生育しない黄色ブドウ球菌の食塩耐性及び卵黄反応陽性を利用する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地を提供することを課題とする。【0012】【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記従来技術に鑑みて、卵黄反応の見易い、セレウス菌の生育しない黄色ブドウ球菌の食塩耐性及び卵黄反応陽性を利用する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地を開発すべく、鋭意研究を行った。【0013】その結果、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を特定の範囲に調製した、少なくとも炭水化物、窒素源、卵黄、及び塩化ナトリウムを含有する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地が、卵黄反応の見易い、セレウス菌の生育しない黄色ブドウ球菌の検出用固体培地であることを見い出し、本発明を完成した。【0014】本発明の目的は、卵黄反応の見易い、セレウス菌の生育しない黄色ブドウ球菌の食塩耐性及び卵黄反応陽性を利用する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地を提供することである。【0015】前記課題を解決する本発明は、少なくとも炭水化物、窒素源、卵黄、及び塩化ナトリウムを含有する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地において、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を、培地のpHが6.0より高く、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60g未満の範囲、並びに培地のpHが6.0未満であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が90gより多い範囲を除く、培地のpHが5.5〜6.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が50〜100gである範囲に調製することを特徴とする黄色ブドウ球菌の検出用固体培地であり、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を、培地のpHが6.0〜6.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60〜90gである範囲に調製すること(以下、態様1と記載する。)、並びに培地調製用の溶解水1L当りに含有させる卵黄量が5〜20gであること(以下、態様2と記載する。)を望ましい態様としてもいる。【0016】【発明の実施の形態】次に、本発明について詳細に説明する。本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地は、少なくとも炭水化物、窒素源、卵黄、及び塩化ナトリウムを含有する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地において、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を、培地のpHが6.0より高く、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60g未満の範囲、並びに培地のpHが6.0未満であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が90gより多い範囲を除く、培地のpHが5.5〜6.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が50〜100gである範囲に調製することを特徴としている。【0017】本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地に含有する炭水化物は、黄色ブドウ球菌がエネルギー源として資化し、その生育に利用できるものであれば如何なる種類の炭水化物であってもよいが、黄色ブドウ球菌の旺盛な生育が可能な、グルコース、マンニトール等が例示でき、簡便にはこれらの市販品を単独叉は適宜組み合わせて用いることができる。【0018】本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地に含有する窒素源は、黄色ブドウ球菌が窒素源として資化し、その生育に利用できるものであれば如何なる種類の窒素源であってもよいが、蛋白加水分解物、ペプトン、酵母エキス、獣肉エキス、魚肉エキス等が例示でき、簡便にはこれらの市販品を単独叉は適宜組み合わせて用いることができる。蛋白加水分解物として、詳しくは、乳蛋白等の動物性蛋白の加水分解物、大豆蛋白等の植物性蛋白の加水分解物、酵母等の微生物蛋白の加水分解物等が例示できる。【0019】本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地に含有する卵黄は、黄色ブドウ球菌が卵黄反応を生じることができるものであれば如何なる卵黄であってもよい。【0020】尚、通常、卵黄は65℃以上の温度で熱変性し凝固するため、培地の調製時、卵黄の熱による変性を防止するために、卵黄を除いた配合成分からなる基礎培地を滅菌した後に、添加される。また、滅菌後の培地に添加するために、その卵黄液は変性を防止しつつ無菌的に処理されたものを用いる。詳しくは、新鮮な鶏卵を消毒用アルコール綿にてその外殻を洗浄し、滅菌処理したピンセットなどで割卵し、卵黄部を無菌的に取出し無菌卵黄液とする。または採取した卵黄液を無菌フィルターなどにより、除菌操作を行ない、無菌卵黄液とする。または卵黄含有液を電子線などで照射し、無菌卵黄液を調製する。【0021】また、卵黄の含量については、黄色ブドウ球菌によって、卵黄反応が形成される範囲であれば限定されないが、本発明の態様2に示すとおり、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる卵黄量が5〜20gであることが、後記する試験例の結果からも明らかなとおり、卵黄反応が一層見易いことから好ましい。【0022】本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地に含有する塩化ナトリウムは、市販品を用いることができる。塩化ナトリウムの含量については、黄色ブドウ球菌の食塩耐性を利用して、黄色ブドウ球菌を選択できる含量であって、かつ黄色ブドウ球菌による卵黄反応が抑制されない含量であれば限定されないが、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が50〜100gである範囲内にある必要がある。【0023】更に、黄色ブドウ球菌による卵黄反応が抑制されず、その卵黄反応が見易く、かつセレウス菌の生育しない本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地を提供するためには、塩化ナトリウムの含量が前記範囲内にあるだけでは足りず、特定の範囲の培地pHとの組み合わせが必要である。培地pHについては、黄色ブドウ球菌を選択できるpHであって、かつ黄色ブドウ球菌による卵黄反応が抑制されない範囲であれば限定されないが、5.5〜6.5である範囲内であって、更に、塩化ナトリウム含量と特定の範囲で組み合わせることが必要である。即ち、後記する試験例の結果からも明らかなとおり、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を、培地のpHが6.0より高く、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60g未満の範囲、並びに培地のpHが6.0未満であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が90gより多い範囲を除く、培地のpHが5.5〜6.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が50〜100gである範囲に調製することが必要である。【0024】また、本発明の態様1に示すとおり、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を、培地のpHが6.0〜6.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60〜90gである範囲に調製することが、後記する試験例の結果からも明らかなとおり、卵黄反応が一層見易いことから好ましい。【0025】本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地は、前記定義したとおりの固体培地であって、寒天等のゲル化剤で固化させた平板、斜面培地等の使用時に固体状の培地(培養基)である。使用されるゲル化剤としては、寒天、ゼラチン、ジェランガム、カラギーナン等を例示することができる。【0026】培地のpHを安定に保持するために、本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地中に、必要に応じてリン酸二水素一カリウム等の緩衝物質を添加含有することもできる。【0027】本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地には、黄色ブドウ球菌の選択化学物質として、亜テルル酸カリウム等の亜テルル酸塩、塩化リチウム、グリシン、ソルビン酸、硫酸アンモニウム、ポリミキシン等を添加含有することもできる。また、黄色ブドウ球菌の発育を促進するためにピルビン酸ナトリウム、グリシン等を添加含有することもできる。【0028】次に、本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地及びその調製方法の好適な実施態様を示すならば、培地調製用の溶解水1L当り、マンニトール5〜20g、大豆ペプトン3〜10g、カゼインペプトン3〜10g、酵母エキス3〜10g、塩化ナトリウム60〜90g、リン酸二水素一カリウム0.1〜1.0g、塩化リチウム3〜7g、寒天1.0〜3.0g、卵黄成分として5〜20g配合し、pHが5.5〜6.5になるように調整した培地が例示される。また、必要に応じて、各種動植物ペプトン3〜10g、獣魚肉エキス3〜10g等を配合することができる。【0029】次いで、pHが調整された培地を、常法通り、オートクレーブ若しくはろ過滅菌により滅菌除菌し、無菌化処理された卵黄液を添加する。その後、培養に必要な容量をシャーレなどの培養器に分注する。使用に関しては作製直後に使用しても良いし、生培地として充填した後に適正な温度域、例えば10℃以下にて保管し、用時に使用しても良い。【0030】次に、参考までに、本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地を使用した黄色ブドウ球菌の検出について説明する。【0031】本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地により黄色ブドウ球菌の検出が行われる試料としては、黄色ブドウ球菌の汚染の恐れがある種々の食品などが例示できる。例えば、食肉品等の場合、その製品よりストマッカー等を用いて抽出した試料などが挙げられる。これらの試料を滅菌食塩水などに希釈して使用することもできる。食品衛生若しくは医療分野に関する試料等も挙げられる。また、既知の黄色ブドウ球菌を含む研究用標準液も含まれる。【0032】前記試料を本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地に接種する。接種量については、常法である塗抹法等であれば0.1ml〜0.5ml程度接種することができ、また、培地自身に試料の吸水性を付加させた製法にて作製した場合は培地が保持しうる接種量を接種することができる。塗抹法においては、試料を培地表面上に水分が残らない程度まで十分拡散させる塗抹操作を行う。【0033】試料を接種した本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地の培養温度は試料中の黄色ブドウ球菌が発育する温度であれば如何なる温度でも良く、増殖の認められる温度域である5〜47.8℃、好ましくは至適温度である30〜37℃の培養温度で培養が行われる。【0034】黄色ブドウ球菌の培養時間は、通常20〜48時間である。一定培養時間が経過し培養が終了した本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地に発育した集落の周辺部に卵黄反応と呼ばれる白濁した環状の反応が確認されたものを、卵黄反応陽性と判断し、試料中に黄色ブドウ球菌の存在があったと判断して、黄色ブドウ球菌を検出する。【0035】次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。試験例1この試験は、セレウス菌の生育の有無を指標として、従来技術と本発明の方法を比較するために行った。(1)試料の調製培地試料として、次の4種類の平板培地を使用した。試料1:本発明の実施例1と同一の方法により調製した黄色ブドウ球菌の検出用固体培地試料2:市販の食塩卵寒天培地(日水製薬社製)試料3:市販の卵黄加マンニット食塩寒天培地(日水製薬社製)試料4:市販のエッグヨーク食塩寒天培地(栄研化学社製)【0036】(2)試験菌株試験用セレウス菌として、微生物寄託機関である理化学研究所より分譲されたバシラス・セレウス(Bacillus cereus)JCM 2152を使用した。【0037】(3)試験方法各試料のセレウス菌の生育の状態を、次の試験方法により試験した。標準寒天培地の1平板に0.1ml塗抹し、37℃で48時間培養した場合に、前記試験菌株のほぼ100個の集落が得られる試験菌株の希釈液を調整した。【0038】各試料につき5平板を使用して、この1平板に、前記試験菌株の希釈液を0.1ml塗抹した後、37℃で48時間培養し、セレウス菌の集落の発生の有無に基づき、セレウス菌の生育の有無を肉眼観察した。【0039】(4)試験結果この試験の結果は、表1に示すとおりである。表1から明らかなとおり、従来技術である試料2〜4の黄色ブドウ球菌の食塩耐性及び卵黄反応陽性を利用する黄色ブドウ球菌用の選択分離選択培地においては、セレウス菌の生育が認められた。これに対して、試料1の本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地においては、セレウス菌の生育が抑制され、生育が認められなかった。【0040】また、試験菌株を、黄色ブドウ球菌[微生物寄託機関であるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより分譲されたスタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ATCC 6538P]に変更して試験した場合には、全ての試料で良好な生育が認められた。【0041】以上のとおり、本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地は、従来技術に比較して、セレウス菌の生育がなく、選択的に黄色ブドウ球菌を検出できることから、優れていることが判明した。尚、セレウス菌の供試菌株を適宜変更して試験したが、ほぼ同様の結果が得られた。【0042】【表1】【0043】試験例2この試験は、セレウス菌の生育抑制及び黄色ブドウ球菌による卵黄反応の見易さを指標として、培地のpH及び塩化ナトリウム含量の適正な範囲を調べるために行った。(1)試料の調製培地試料として、次の表2及び表3に記載したとおり、pH及び塩化ナトリウム含量の条件をそれぞれpH5.0〜7.0及び培地調製用の溶解水1L当り50〜110gの範囲で変更したことを除き、本発明の実施例1と同一の方法により35種類の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地(平板培地)を調製し使用した。【0044】(2)試験菌株試験菌株として、前記試験例1で使用したセレウス菌(バシラス・セレウスJCM 2152)及び黄色ブドウ球菌(スタヒロコッカス・アウレウスATCC 6538P)を使用した。【0045】(3)試験方法(a)セレウス菌の生育試験方法各試料のセレウス菌の生育の有無を、前記試験例1と同一の方法により試験した。結果は表2に示した。【0046】(b)黄色ブドウ球菌による卵黄反応の評価方法標準寒天培地の1平板に0.1ml塗抹し、37℃で48時間培養した場合に、前記黄色ブドウ球菌の試験菌株のほぼ50個の集落が得られる試験菌株の希釈液を調製した。【0047】各試料につき5平板を使用して、この1平板に、前記試験菌株の希釈液を0.1ml塗抹した後、37℃で48時間培養し、黄色ブドウ球菌が生育の有無、及び生育し、その集落が認められた試料については次の方法で卵黄反応を評価した。【0048】各試料の平板上に生じた黄色ブドウ球菌の集落の卵黄反応の見易さを次の指標に基づき評価した。【0049】1平板上の平均的なサイズの10個の集落を肉眼観察し、集落の直径と集落の周囲に広がる卵黄反応(白濁環)の直径との差を計測し、これら差の平均値(5平板計50個の集落から求まる平均値)を算出し、この平均値を、次の基準でレベル分けし、卵黄反応の見易さの指標とし、これを結果として表3に示した。【0050】(4)試験結果これらの試験の結果は、表2及び表3に示すとおりである。表2には各培地試料におけるセレウス菌の生育の有無を示し、表3には各培地試料における黄色ブドウ球菌の集落の卵黄反応の見易さのレベルを示した。【0051】表2から明らかなとおり、pH7.0においては、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が110gの培地試料を除き、いずれの塩化ナトリウム含量の培地試料においてもセレウス菌の生育が認められた。また、培地のpHが6.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が50gの培地試料においてもセレウス菌の生育が認められた。【0052】表3から明らかなとおり、pH5.0においては、いずれの塩化ナトリウム含量の培地試料においても黄色ブドウ球菌の卵黄反応のレベルは0で卵黄反応を観察することは困難であった。また、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が110gの培地試料においては、いずれのpHの培地試料においても黄色ブドウ球菌の卵黄反応のレベルは0で卵黄反応を観察することは困難であった。更に、培地のpHが5.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が100gの培地試料においても黄色ブドウ球菌の卵黄反応のレベルは0で卵黄反応を観察することは困難であった。【0053】尚、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が40g以下では、塩化ナトリウムによる微生物の選択性がなくなり、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)等の黄色ブドウ球菌以外の微生物が生育し、検体中の黄色ブドウ球菌を識別し難くすることが知られている。【0054】従って、黄色ブドウ球菌の識別が容易であり、黄色ブドウ球菌による卵黄反応が抑制されず、その卵黄反応が見易く、かつセレウス菌の生育しない本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地を提供するためには、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を、培地のpHが6.0より高く、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60g未満の範囲、並びに培地のpHが6.0未満であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が90gより多い範囲を除く、培地のpHが5.5〜6.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が50〜100gである範囲に調製することが必要であることが判明した。【0055】更に、培地のpHが6.0〜6.5にあり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60〜90gにある培地試料において黄色ブドウ球菌の卵黄反応のレベルは3で卵黄反応が一層見易いことから、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を、培地のpHが6.0〜6.5であり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60〜90gである範囲に調製することが好ましいことが判明した。尚、セレウス菌及び黄色ブドウ球菌の供試菌株を適宜変更して試験したが、ほぼ同様の結果が得られた。【0056】【表2】【0057】【表3】【0058】試験例3この試験は、黄色ブドウ球菌による卵黄反応の色調の差に基づく見易さを指標として、培地の卵黄含量の適正な範囲を調べるために行った。(1)試料の調製培地試料として、次の表4に記載したとおり、卵黄含量の条件を培地調製用の溶解水1L当り2〜50gの範囲で変更したことを除き、本発明の実施例1と同一の方法により6種類の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地(平板培地)を調製し使用した。【0059】(2)試験菌株試験菌株として、前記試験例1で使用した黄色ブドウ球菌(スタヒロコッカス・アウレウスATCC 6538P)を使用した。【0060】(3)試験方法各試料の黄色ブドウ球菌による卵黄反応の色調の差を、次の試験方法により試験した。【0061】標準寒天培地の1平板に0.1ml塗抹し、37℃で48時間培養した場合に、前記黄色ブドウ球菌の試験菌株のほぼ50個の集落が得られる試験菌株の希釈液を調製した。【0062】各試料につき5平板を使用して、この1平板に、前記試験菌株の希釈液を0.1ml塗抹した後、37℃で48時間培養し、黄色ブドウ球菌が生育し、その集落が認められた試料については次の方法で平板上に生じた黄色ブドウ球菌による卵黄反応とその培地叉はその集落との色調の差を評価した。【0063】1平板上の平均的なサイズの10個の集落を肉眼観察し、培地本体の色調、黄色ブドウ球菌の集落、及びその卵黄反応の色調を、背景として、日本工業規格(JIS Z 8721)に準拠した日本規格協会発行の標準色票の明度スケールN1.5の黒色板を使用し、卵黄反応、培地、及び集落の色調を前記標準色票の色相別チャート5Yを使用し、その色調と比較して、該当する値を求めた。詳しくは、卵黄反応、培地、及び集落の色調について、標準色票の色相別チャート5Y中で一致する色見本のC値(彩度)とV値(明度)を求めた。前記方法に従って、各試料につき各5平板計50個の集落、その卵黄反応、及びその周辺の培地の示す色調のそれぞれから、前記のC値とV値を求め、その平均値を算出した。【0064】次いで、各試料毎に、その卵黄反応のC値の平均値と集落のC値の平均値を比較してその差の絶対値(a値)を求めた。また、同様に、各試料毎に、その卵黄反応のV値の平均値と集落のV値の平均値を比較してその差の絶対値(b値)を求めた。続いて、前記a値とb値の合計値(X値=a+b)を算出した。【0065】別途、各試料毎に、その卵黄反応のC値の平均値と培地のC値の平均値を比較してその差の絶対値(d値)を求めた。また、同様に、各試料毎に、その卵黄反応のV値の平均値と培地のV値の平均値を比較してその差の絶対値(f値)を求めた。続いて、前記d値とf値の合計値(Y値=d+f)を算出した。【0066】前記X値及びY値に基づいて、各試料の平板上に生じた黄色ブドウ球菌による卵黄反応とその培地叉はその集落との色調の差に基づく見易さは次の指標に基づき評価した。【0067】(a)同一試料の卵黄反応の色調とその集落の色調の差の絶対値の合計値であるX値が2未満、叉は、その卵黄反応の色調とその培地の色調の差の絶対値の合計値であるY値が2未満のとき、色調の差に基づく見易さは劣ると評価した。【0068】(b)同一試料の卵黄反応の色調とその集落の色調の差の絶対値の合計値であるX値が2以上、及び、その卵黄反応の色調とその培地の色調の差の絶対値の合計値であるY値が2以上のとき、色調の差に基づく見易さは優れると評価した。【0069】このように評価できる理由は、標準色票の色相別チャート中で、比較する2点間のC値及びV値の差の絶対値の合計値が1以内の場合は、色相別チャート上で隣接した色調であり、非常に類似した色調と判断されるためである。また、比較する2点間のC値及びV値の差の絶対値の合計値が2以上の場合は、色相別チャート上で比較する2点が隣接しない色調であり、色調の差が明確に区別できると判断されるためである。【0070】(4)試験結果この試験の結果は、表4に示すとおりである。表4から明らかなとおり、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる卵黄量が5〜20gにある培地試料において平板上に生じた黄色ブドウ球菌による卵黄反応とその培地及びその集落との色調の差が大きく、色調の差に基づく見易さに優れるため、卵黄反応が一層見易いことから、培地の卵黄含量を、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる卵黄量が5〜20gである範囲に調製することが好ましいことが判明した。尚、黄色ブドウ球菌の供試菌株を適宜変更して試験したが、ほぼ同様の結果が得られた。【0071】【表4】【0072】次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。【0073】【実施例】実施例1基礎培地として次の組成の各原料を均一に分散又は溶解し、冷却固化した後の最終的な培地のpHが6.2になるように0.1mol/Lの塩酸水溶液若しくは0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し調整した。【0074】このpHを調整した基礎培地をオートクレーブ(岩楯医療機器製作所社製)を使用して121℃で15分間加熱し滅菌して50℃に冷却後、殻付き卵から無菌的に採取した卵黄液を50g添加し、シャーレ(栄研器材社製)1枚当たり18ml分注し、冷却固化し卵黄を含有する平板培地(黄色ブドウ球菌の検出用固体培地)約250枚を調製した。原材料 配合量カゼインペプトン(ディフコ社製) 25g大豆ペプトン(日本製薬社製) 25g酵母エキス(オリエンタル酵母工業社製) 25g塩化ナトリウム(和光純薬工業社製) 350gマンニトール(和光純薬工業社製) 50g塩化リチウム(和光純薬工業社製) 25gリン酸二水素一カリウム(和光純薬工業社製) 2g寒天(伊那食品工業社製) 75g精製水 5000ml【0075】参考までに、検体として購入日より30℃で7日間経過した市販の惣菜を使用して前記平板培地により黄色ブドウ球菌の検出を行った。該惣菜をストマッカーにて細かく磨砕した後10g採取し、滅菌生理食塩水で100倍に希釈した分散液0.1mlを、前記平板培地に塗抹接種し、定温乾燥機(ヤマト科学社製)を用いて37℃で40時間培養し、卵黄反応を肉眼観察し、その陽性陰性を判定した。【0076】その結果、集落周囲に、培地本来が持つ透明な色調とは明らかに異なり、また明らかに大きさ・色調とも集落とは異なる明瞭な薄白色の白濁環のある特徴的な卵黄反応を示した20個の集落と、この反応を示さない3個の集落が観察された。【0077】卵黄反応が観察された集落について、常法(厚生省生活衛生局監修、「食品衛生検査指針 微生物編」、日本食品衛生協会発行、第163ページ、1990年12月25日)に基づき細菌の同定を行なった結果、卵黄反応を示した集落は、黄色ブドウ球菌であることが確認された。【0078】また、卵黄反応を示さない集落についても、上記方法により黄色ブドウ球菌の同定を行なったが、全て同菌とは同定されなかった。【0079】更に、全ての集落は、セレウス菌ではなかった。即ち、この黄色ブドウ球菌の検出用固体培地により、卵黄反応が見易く、セレウス菌の生育がないことから、食品中の黄色ブドウ球菌を確実かつ明確に検出できた。【0080】実施例2基礎培地として次の組成の各原料を均一に分散又は溶解し、冷却固化した後の最終的な培地のpHが5.9になるように0.1mol/Lの塩酸水溶液若しくは0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し調整した。【0081】このpHを調整した基礎培地をオートクレーブ(岩楯医療機器製作所社製)を使用して121℃で15分間加熱し滅菌して50℃に冷却後、市販の電子線照射50%卵黄含有液(メルク社製)を10g添加し、シャーレ(栄研器材社製)1枚当たり15ml分注し、冷却固化し、卵黄を含有する平板培地(黄色ブドウ球菌の検出用固体培地)約50枚を調製した。原材料 配合量カゼインペプトン(ディフコ社製) 5g肉エキス(ディフコ社製) 5g塩化ナトリウム(和光純薬工業社製) 70gマンニトール(和光純薬工業社製) 10g塩化リチウム(和光純薬工業社製) 5gリン酸二水素一カリウム(和光純薬工業社製) 0.4g寒天(伊那食品工業社製) 15g精製水 1000ml【0082】参考までに、検体として購入日より3日間経過した市販の鶏ひき肉を使用して前記平板培地により黄色ブドウ球菌の検出を行った。該鶏ひき肉をストマッカーにて細かく磨砕した後10g採取し、滅菌生理食塩水で10倍に希釈した分散液0.1mlを、前記平板培地に塗抹接種し、定温乾燥機(ヤマト科学社製)を用いて37℃で48時間培養し、卵黄反応を肉眼観察し、その陽性陰性を判定した。【0083】その結果、集落周囲に、培地本来が持つ透明な色調とは明らかに異なり、また明らかに大きさ・色調とも集落とは異なる明瞭な薄白色の白濁環のある特徴的な卵黄反応を示した10個の集落と、この反応を示さない8個の集落が観察された。【0084】卵黄反応が観察された集落について、常法(厚生省生活衛生局監修、「食品衛生検査指針 微生物編」、日本食品衛生協会発行、第163ページ、1990年12月25日)に基づき細菌の同定を行なった結果、卵黄反応を示した集落は、黄色ブドウ球菌であることが確認された。【0085】また、卵黄反応を示さない集落についても、上記方法により黄色ブドウ球菌の同定を行なったが、全て同菌とは同定されなかった。【0086】更に、全ての集落は、セレウス菌ではなかった。即ち、この黄色ブドウ球菌の検出用固体培地により、卵黄反応が見易く、セレウス菌の生育がないことから、食品中の黄色ブドウ球菌を確実かつ明確に検出できた。【0087】【発明の効果】以上詳記したとおり、本発明は、培地のpH及び塩化ナトリウム含量を特定の範囲に調製した、少なくとも炭水化物、窒素源、卵黄、及び塩化ナトリウムを含有する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地に関するものであり、本発明により奏せられる効果は次のとおりである。1)本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地は、黄色ブドウ球菌の特徴である卵黄反応と類似した卵黄反応を示すセレウス菌が発育しない点で、従来の黄色ブドウ球菌用の選択分離平板培地に比較して優れている。2)本発明の黄色ブドウ球菌の検出用固体培地は従来の黄色ブドウ球菌用の選択分離平板培地と比較して、黄色ブドウ球菌の特徴となる卵黄反応をより明確に確認できる点で優れている。 少なくとも炭水化物、窒素源、卵黄、及び塩化ナトリウムを含有する黄色ブドウ球菌の検出用固体培地において、培地のpHが6.0〜6.5であり、培地調製用の溶解水1L当りに含有させる卵黄量が5〜20gであり、かつ培地調製用の溶解水1L当りに含有させる塩化ナトリウム量が60〜90gである範囲に調製することを特徴とする、セレウス菌の生育しない黄色ブドウ球菌の検出用固体培地。


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