タイトル: | 公開特許公報(A)_イネの開花時期および穂形態の決定に関与する新規遺伝子、そのタンパク質、及びその新規遺伝子が導入された形質転換体 |
出願番号: | 2002252170 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C12N15/09,A01H5/00,C07K14/415,C12N5/10 |
経塚 淳子 JP 2004089026 公開特許公報(A) 20040325 2002252170 20020829 イネの開花時期および穂形態の決定に関与する新規遺伝子、そのタンパク質、及びその新規遺伝子が導入された形質転換体 科学技術振興事業団 396020800 原 謙三 100080034 経塚 淳子 7 C12N15/09 A01H5/00 C07K14/415 C12N5/10 JP C12N15/00 A A01H5/00 A C07K14/415 C12N5/00 C 13 OL 23 特許法第30条第1項適用申請有り 2002年3月 発行の「ザ プラント ジャーナル 第29巻 6号 2002年3月」に発表 2B030 4B024 4B065 4H045 2B030AA02 2B030AD06 2B030CA17 2B030CG05 4B024AA08 4B024BA79 4B024CA04 4B024CA05 4B024DA01 4B024DA05 4B024GA14 4B065AA88X 4B065AA88Y 4B065AB01 4B065BA30 4B065CA24 4B065CA53 4H045AA10 4H045BA10 4H045CA31 4H045EA05 4H045FA74 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はイネの開花時期および穂形態の決定に関与する新規遺伝子、そのタンパク質、及びその遺伝子を利用した形質転換体に関するものである。【0002】【従来の技術】植物においては、栄養成長から生殖成長に移行すると、それまで葉を形成していた茎の先端や腋芽の成長点の性質が変化して花芽が形成された後、この花芽が成長してやがて花となる。即ち、花芽形成は遺伝的に決められた発生プログラムに基づいて、栄養成長から生殖成長の転換期に開始される。【0003】花芽の形成に際して、茎頂分裂組織からは花分裂組織と分枝の二種類の側生分裂組織が形成される。花分裂組織は、花器官を形成した後、その分裂組織としての活性を失うが、分枝として形成された側生分裂組織は、新たな分枝の茎頂分裂組織としての機能を開始する。【0004】イネ(Oryza sativa)では、生殖成長に移行すると、発生プログラムに基づいて、イネの茎頂分裂組織から穂の分枝が側生分裂組織として連続的に分化する。図1には、生殖成長移行後に形成されるイネの穂の周辺の様子を模式的に示す。図1に示すように、茎頂分裂組織(SAM)は、栄養成長段階(図中Vで示す)においては、葉を形成する。生殖成長段階に移行すると、一次分枝(Primary branch:1)の原基を形成する。一次分枝の茎頂成長組織は、一次分枝形成段階(B1)においていくつかの分枝を形成した後、未成熟の状態で退化し、退化点(Degenerate point:5)を残す。【0005】さらに一次分枝1は、二次分枝形成段階(B2)において、側生分裂組織として二次分枝(Secondary branch:4)と側生花分裂組織LF(Lateral flower:3)とを形成した後、頂端花の花分裂組織TF(Terminal flower:2)に転換する。この花分裂組織は、花芽に分化し一般的な植物の花に相当する穎花(穂)を形成するとともに、二次分枝は新たな茎頂成長組織となる。このような穂の分枝と穎花の形成との繰り返しによって、穂の形態が決定される。【0006】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、イネ科植物において栄養成長から生殖成長への移行時に見られる花序(穂)形成のメカニズム、あるいは、イネ科植物におけるこのような穂の形態形成に関する分子機構の詳細については、未だよく解明されていない。【0007】上述したように、イネ科植物においては、遺伝的に決定された発生プログラムに基づいて栄養成長から生殖成長への移行が起こるとともに、花序(穂)が形成される。それゆえ、この発生プログラムの開始と進行には、ある種の遺伝子が関与しており、例えば、生殖成長に移行すると、この遺伝子が発現して機能することによって、生殖成長期の分裂組織の形成や花芽の分化を制御することが考えられる。【0008】もし上記のような、イネの花序形成に関わる未知の遺伝子や、未知のタンパク質が明らかになれば、当該遺伝子およびタンパク質の機能解析を通じ、生殖成長移行後の形態形成の分子機構がより一層明らかにされる、といった学術的意義もさることながら、例えばイネの穂形態の改良、イネの開花時期の調整などにも利用できる可能性があり、分子育種への幅広い利用が期待できる。【0009】本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、イネの開花時期および穂形態の決定に関与する新規遺伝子、そのタンパク質、及びそれを利用した形質転換体を提供することにある。【0010】【課題を解決するための手段】本願発明者等は上記問題点に鑑み、シロイヌナズナにおける花成制御遺伝子TERMINAL FLOWER1(TFL1)(参考文献:Ratcliffe O.J., Amaya I., Vincent C.A., Rothstein S., Carpenter R., Coen E.S. and Bradley D.J.; Development; 124; 1609−1615)と高い相同性を有するクローンをイネESTデータベースから見出した。この配列をPCRによって増幅し、プローブとして用いて、イネのcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、2種類のクローン(RCN1、RCN2)を取得した。そして、この2種類のクローンを用いてイネの形質転換植物を作製した結果、開花時期の遅れ、及び、穂形態の変化が確認されたことから、上記2種類クローンが、イネにおいて開花時期および穂形態の決定に関与している遺伝子であることを見出し、本発明を完成させるに至った。【0011】即ち、本発明に係る遺伝子は、イネ由来であり、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子である。【0012】(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。【0013】(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ花序分裂組織の形成に関与するタンパク質。【0014】本発明に係る上記の遺伝子として、具体的にはイネ由来のRCN1遺伝子を挙げることができる。このRCN1遺伝子は、配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子であり、この配列中の第78番目から第596番目の塩基配列をオープンリーディングフレームとして有している。【0015】また、本発明に係るもう一つの遺伝子は、イネ由来であり、以下の(c)又は(d)のタンパク質をコードする遺伝子である。【0016】(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。【0017】(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ花序分裂組織の形成に関与するタンパク質。【0018】本発明に係る上記の遺伝子として、具体的にはイネ由来のRCN2遺伝子を挙げることができる。このRCN2遺伝子は、配列番号4に示す塩基配列を有する遺伝子であり、この配列中の第148番目から第666番目の塩基配列をオープンリーディングフレームとして有している。【0019】このRCN1、RCN2遺伝子は、イネにおいて過剰発現させると、後述の実施例に示すように、開花が遅れ、穂の分枝が増加するという表現形を有する変異体となる。それゆえ、上記RCN1、RCN2遺伝子は、イネ科植物において花序分裂組織の形成、言い換えれば、穂形態の形成に関わる遺伝子の一つであると言える。そして、より具体的には、本発明に係る遺伝子は、イネの開花時期および穂形態の決定に関与する遺伝子である。【0020】イネにおいて生殖成長期での花分裂組織の形成は、その後の穂の形成・形態を決定する主要な要因である。しかしながら、その詳細な分子機構についての知見は少ない。それゆえ、上記遺伝子は、イネが栄養成長から、生殖成長へと移行する際の花芽形成に関わる分子機構の解明に利用できる可能性がある。また、本発明に係る遺伝子は、上述のようにイネの開花時期に関与するものであるため、イネの開花のメカニズムの解明、さらには、イネの開花時期の制御に利用できる可能性を有している。【0021】なお、本発明に係る「遺伝子」には、DNAおよびRNAが含まれるものとする。また、DNAには少なくともゲノムDNA、cDNAが含まれ、RNAには、mRNAなどが含まれる。また、DNAは2本鎖のみならず、それを構成するセンス側、アンチセンス側といった1本鎖でもよい。さらに、上記「遺伝子」は、上記(a)ないし(d)のタンパク質をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。【0022】本発明に係るタンパク質は、上記遺伝子の翻訳産物であるが、より具体的に言えば、上記(a)又は(b)のタンパク質、あるいは、上記(c)又は(d)のタンパク質である。【0023】本発明に係る遺伝子の中でも特に、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、上記RCN1遺伝子の翻訳産物であるRCN1タンパク質であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、上記RCN2遺伝子の翻訳産物であるRCN2タンパク質である。ここで、「翻訳産物」とは、ゲノムDNA、cDNA、mRNAなどの各種遺伝子の持つ遺伝情報に基づいて、転写、翻訳などの各種遺伝子に応じた過程を経ることによって行われるタンパク質の生合成反応の結果として得られる生成物(即ち、タンパク質)のことを意味する。【0024】上記RCN1タンパク質、RCN2タンパク質は、酵母からヒトに至るまで真核生物に広く保存されているフォスファチジルアミン結合タンパク質(PEPBs)と相同性を有している。このことから、上記RCN1およびRCN2タンパク質は、シグナル伝達に関与していることが示唆される。【0025】また、上記「タンパク質」は、細胞、組織などから単離精製された状態であってもよいし、タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞に導入して、そのタンパク質を細胞内発現させた状態であってもよい。また、本発明に係るタンパク質は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。【0026】また、上記「1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意味する。このように、上記(b)又は(d)のタンパク質は、換言すれば、上記(a)又は(c)の各タンパク質の変異タンパク質であり、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異あるいは自然に起こった突然変異を意味する。それゆえ、本発明の変異タンパク質は、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。【0027】本発明に係る形質転換体は、上述の遺伝子が導入されてなる形質転換体である。より具体的に言えば、本発明に係る形質転換体は、上記(a)ないし(d)のタンパク質をコードする遺伝子が導入された形質転換体であり、さらに、上記変異遺伝子が導入された形質転換体であってもよい。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。また、上記「形質転換体」とは、イネ科植物などの形質転換植物を含む意味であり、形質転換体、形質転換植物の範疇には、生物個体;根、茎、葉、生殖器官(花器官および種子を含む)などの各種器官;各種組織;細胞;などが含まれ、さらにはプロトプラスト、誘導カルス、再生個体およびその子孫、なども含まれるものとする。【0028】また、上記(a)ないし(d)のタンパク質をコードする遺伝子は、イネ由来であることから、本発明に係る形質転換体は、イネ科植物であることが好ましく、イネであることがより好ましい。イネは、トウモロコシ、コムギと並び、穀物としては最重要作物の一つに挙げられるため、開花時期の調節、穂形態の改良などによって優良な品種を得られれば、農業分野へ大きく貢献できることが期待される。また、イネ科の植物には、イネの他にも有用な作物となり得る種類が多くあるため、上記RCN1、RCN2遺伝子を他の作物の分子育種等にも応用できる可能性を有している。【0029】また、本発明の形質転換体は、上記タンパク質をコードする遺伝子が過剰発現するように導入されたものであってもよい。このような形質転換体として具体的には、後述の実施例に示すようなRCN1あるいはRCN2遺伝子を過剰発現するようにイネに導入した形質転換植物を挙げることができる。【0030】なお、本発明に係る遺伝子を過剰発現するように導入するためには、遺伝子発現を促進させる機能を有するプロモーターに連結してベクターなどに組み込む方法を採用すればよい。上記プロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、(植物)アクチン遺伝子プロモーター、(植物)ユビキチン遺伝子プロモーターなどを挙げることができる。【0031】上記の形質転換植物は、開花時期の遅延、穂の分枝の増加、一穂につく穎花数(粒数)の増加などの表現形を示す。即ち、本発明に係る形質転換体は、プロモーターを変更するなどして、上記RCN1あるいはRCN2遺伝子の発現量を調節して導入することによって作製されれば、開花時期に人為的な制御を行うことができる。また、RCN1あるいはRCN2遺伝子を導入した形質転換植物では、穂の分枝が増え、結果的に一穂の粒数も増加する。イネ科植物の多くは、種子を収穫の対象とするものであるため、このような形質転換植物は収量を増加させることができると期待され、有用性が高い。【0032】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。【0033】本実施の形態においては、本発明に係る新規遺伝子として、イネ(Oryza sativa)由来のRCN1、RCN2遺伝子を挙げて説明する。上記RCN1、RCN2遺伝子は、シロイヌナズナ由来の花芽形成関与遺伝子TFL1と相同性を有する遺伝子として、ともにイネから単離されたものである。【0034】上記RCN1遺伝子は、配列番号2に示す943bpの塩基配列をcDNAとして有する遺伝子であり、特にその配列中の第78番目から第596番目の519bpの塩基配列をオープンリーディングフレームとして有している。【0035】また、上述の(a)のタンパク質は、配列番号2に示す塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物として得られるものであるため、上記RCN1遺伝子は、上記(a)のタンパク質をコードする遺伝子の一つであると言える。RCN1遺伝子としてのDNAは、植物のゲノム中に含まれる形態、すなわちイントロンなどの非コード配列を含む「ゲノム」形DNAであってもよいし、逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、即ちイントロンなどの非コード領域を含まない「転写」形DNAであってもよい。【0036】また、上記RCN1遺伝子としてのDNAには、コードされているRCN1タンパク質の形成に悪影響を与えないか妨げない限りにおいて、他のDNA配列を含んでいてもよい。例えば、後述する遺伝子組み換え等に用いるために、リンカーを末端に含ませることもできる。【0037】なお、上記RCN1遺伝子は、アクセション番号:AF159882として遺伝子データベースに登録されているFDR2と同じcDNAに相当するものである。【0038】一方、上記RCN2遺伝子は、配列番号4に示す1140bpの塩基配列をcDNAとして有する遺伝子であり、特にその配列中の第148番目から第666番目の519bpの塩基配列をオープンリーディングフレームとして有している。【0039】また、上述の(c)のタンパク質は、配列番号4に示す塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物として得られるものでもあるため、上記RCN2遺伝子は、上記(c)のタンパク質をコードする遺伝子の一つであると言える。RCN2遺伝子としてのDNAは、植物のゲノム中に含まれる形態、すなわちイントロンなどの非コード配列を含む「ゲノム」形DNAであってもよいし、逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、即ちイントロンなどの非コード領域を含まない「転写」形DNAであってもよい。【0040】また、上記RCN2遺伝子としてのDNAには、コードされているRCN2タンパク質の形成に悪影響を与えないか妨げない限りにおいて、他のDNA配列を含んでいてもよい。例えば、後述する遺伝子組み換え等に用いるために、リンカーを末端に含ませることもできる。【0041】さらに、本発明に係る遺伝子には、配列番号1または配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ花序分裂組織の形成に関与するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。これらの遺伝子は、換言すれば、RCN1あるいはRCN2タンパク質の変異タンパク質をそれぞれコードする遺伝子である。【0042】本実施の形態に係るタンパク質の一例は、上記RCN1、あるいは、RCN2遺伝子の翻訳産物であるRCN1、あるいは、RCN2タンパク質であり、これはそれぞれ、配列番号1又は配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質である。上記RCN1タンパク質は、配列番号1に示すように、173アミノ酸残基からり、上記RCN2タンパク質もまた、配列番号3に示すように、173残基からなる。【0043】上記RCN1、RCN2遺伝子は、後述の実施例に示すように、過剰発現することによって、開花時期を遅らせたり、穂の分枝を増加させたりするという表現形を形質転換体に与える。従って、上記RCN1、RCN2遺伝子はイネの開花時期および穂形態の決定に重大に関与する遺伝子であると言える。【0044】本発明にかかるRCN1、RCN2遺伝子のクローニング方法としては、従来公知の方法を利用することが可能であり、特に限定されるものではない。その一例として、後述する実施例で説明するように、シロイヌナズナ由来のTFL1遺伝子のイネにおける相同遺伝子を獲得するという手法で遺伝子の取得を行っても良い。この方法では、先ず上記TFL1に高い相同性を持つクローンをイネESTデータベースから見出し、続いてこの見出された配列をプローブとして用いて、イネcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。【0045】さらに、本発明では、イネ由来の上記RCN1、RCN2遺伝子を用いて、他の植物からRCN1、RCN2遺伝子と相同性を有するDNAをクローニングすることが可能である。この場合のクローニング方法としても、従来公知の方法を利用することが可能であり、特に限定されるものではない。【0046】具体的には、ゲノムの少なくとも一部がデータベース化されている植物の場合には、上記RCN1、RCN2遺伝子の塩基配列に基づいて相同性のある塩基配列をデータベース中から検索すればよい。例えば、汎用されている相同性検索アルゴリズムであるBLASTによる塩基配列及びアミノ酸配列レベルの相同性検索を好適に用いることができる。【0047】また、ゲノムがデータベース化されていない植物の場合には、例えば、従来公知のDNAライブラリーを用いたハイブリダイゼーション法を用いることもできる。具体的には、適切なクローニング・ベクターを使用して対象となる植物からゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーを調製するステップと、上記RCN1、RCN2遺伝子の少なくとも一部をプローブとして用いてハイブリダイゼーションを行い、ライブラリーから上記プローブにポジティブの断片を検出するステップとを含む方法を用いることができる。【0048】このように本発明のRCN1、RCN2遺伝子のうち、少なくとも一部の領域は、RCN1、RCN2と相同性を有するDNAをスクリーニングするためのプローブとして有用である。プローブに用いる領域には、RCN1、RCN2遺伝子に共通した配列が含まれることが好ましい。また、プローブとして使用されるポリヌクレオチドの長さは、100ヌクレオチド以上であることが好ましい。【0049】本発明に係る遺伝子には、RCN1、RCN2遺伝子の一部を改変することによって得られる変異型RCN1、RCN2遺伝子も含まれる。この変異型RCN1、RCN2遺伝子は、植物中にて発現することで、野性型と比較して穂形態が変化した表現形を示すものであってもよいし、表現形としては全く現れてこない変異を有しているサイレント突然変異であってもよい。変異の様式は特に限定されるものではなく、配列番号1又は配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1又はそれ以上のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されていればよい。【0050】このように、本発明に係るRCN1、RCN2遺伝子には、正常な機能を有する野生型のものから、遺伝子の機能の欠失程度に差を有する種々の変異型のものまで含まれる。従って、本発明に係るRCN1、RCN2遺伝子を用いれば、適宜、変異を生じさせたり、宿主中で過剰発現させたりすることで、植物の花序形態を制御することが可能となり、その結果、花序の形成や形態を制御することが可能になる。それゆえ、例えばイネを例に挙げれば、イネを宿主として上記RCN1、RCN2遺伝子を導入して過剰発現させることで、花序となる穂の分枝や形成される穎花の形態を変化させたり、分枝数および穎花数を増大させたりすることが可能である。【0051】したがって、本発明には、上述した遺伝子、すなわち変異型も含むRCN1、RCN2遺伝子を導入してなる形質転換体も含まれ、特に、イネ科植物にRCN1、RCN2遺伝子を導入してなる形質転換体、すなわち形質転換植物も含まれることになる。【0052】本発明において用いることが可能な宿主としては、RCN1、RCN2遺伝子を発現させることが可能な細胞であれば特に限定されるものではないが、RCN1、RCN2遺伝子がイネ由来であることから、上記のように植物であることが好ましく、イネ科植物であることがより好ましく、イネであることがさらに好ましい。これらの順で、RCN1、RCN2遺伝子の発現の確実性を高めることができると考えられる。また、上記植物には、完全な植物のみならず、その一部、例えば、葉、種子、塊茎、挿木等を含めてもよい。さらには、上記植物には、予め形質転換された遺伝子組み換え植物やその子孫を起源とする植物組織、プロトプラスト、細胞、カルス、器官、植物種子、胚芽、花粉、卵細胞、接合子などの増殖可能な植物材料;花、茎、実、葉、根などを含む植物の一部;等も含めてよい。【0053】植物にRCN1、RCN2遺伝子を導入する方法としては、RCN1、RCN2遺伝子を含むベクターを用いる方法を挙げることができる。このベクターは、公知の形質転換方法によって植物(宿主細胞)に導入される。植物を形質転換する方法としては、具体的には、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、弾道粒子加速法、プロトプラスト形質転換/再生法などの直接遺伝子導入法、あるいはアグロバクテリウムによる形質転換法などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、上記形質転換方法は、標的となる植物の種類、例えば単子葉植物・双子葉植物などに応じて適宜選択されることが好ましい。【0054】上記ベクターとしては、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを挙げることができるが特に限定されるものではない。上記ベクターとして具体的には、例えばアグロバクテリウムのTiプラスミドを挙げることができる。このTiプラスミドは、双子葉植物の形質転換にも単子葉植物の形質転換にも用いることが可能である。この場合、上記RCN1、RCN2遺伝子は、TiプラスミドのT−DNAに組み込まれた上で、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを介して植物細胞に導入される。【0055】上記Tiプラスミドを植物細胞に導入する方法としては、特に限定されるものではなく、Tiプラスミドを「完全な」植物に感染させる、上記植物材料に感染させる、あるいは、植物細胞をプロトプラスト化して、これをアグロバクテリウム・ツメファシエンスと共に同時培養する等の方法を用いることが可能である。上記Tiプラスミドを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させる植物材料として、例えばイネにおいては、イネの種子由来のカルスを使用することが好ましい。【0056】また、本発明に係る形質転換体を作製する場合に、プロモーター・シグナル配列・転写ターミネーター等の適切な調節配列とRCN1、RCN2遺伝子とを連結してベクターに組み込んでもよい。これによれば、上記RCN1、RCN2遺伝子の発現量等を適宜調節することができる。本発明に使用することができるプロ−モーター、即ち、上記植物又は植物細胞中で有効に機能し得るプロモーターとしては、例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)19Sプロモーター、または35Sプロモーター及びアクチン遺伝子プロモーター、ユビキチン遺伝子プロモーター;ノパリンシンターゼプロモーター;病因関連(PR)タンパクプロモーター:等が挙げられる。【0057】本発明に係る形質転換体として、具体的には、後述の実施例に示す35S::RCN1、あるいは35S::RCN2が導入されたイネの形質転換体があげられる。上記35S::RCN1導入イネは、RCN1遺伝子をCaMV35Sプロモーターによって発現させるベクターにつなぎ、このコンストラクトをアグロバクテリウムにエレクトロポレーション法によって導入した後、イネ品種のノトヒカリに感染させることによって作製されたものである。35S::RCN2導入イネは、35S::RCN1の場合と同様の方法で、RCN2遺伝子が上記ノトヒカリに過剰発現するように導入されたものである。なお、遺伝子が導入されていることはサザン法で、導入している遺伝子が発現していることはRT−PCR法およびノーザン法で確認された。【0058】上記35S::RCN1、あるいは、35S::RCN2が導入されたイネにおいては、開花時期の遅れ、穂の分枝の増加、一穂につく穎花数の増加が見られた。この効果は、35S::RCN1を導入した場合と、35S::RCN2を導入した場合とで、ほぼ同程度であった。上記の方法によって作製された形質転換体のうち、強い表現形を示すものは、出穂そのものが観察されなかった。【0059】以上のように、本発明に係るRCN1、RCN2遺伝子を用いれば、イネ、イネ科植物において開花時期の制御を行うことが可能な形質転換植物を作製することができると期待される。即ち、プロモーターを適宜変更することによって、RCN1、RCN2遺伝子の発現量を調節すれば、開花時期の人為的な制御を行うことができる。イネ科植物は花成(栄養成長から生殖成長への移行)が起こると葉の形成を止め、穂の形成を開始する。RCNを導入した形質転換植物は、花成が遅れるため、形成される葉の枚数が増加する。このような形質転換植物は、牧草などとして有用である。【0060】さらに、本発明に係るRCN1、RCN2遺伝子を用いれば、不稔植物を作製することができる。即ち、上記形質転換植物のうち強い表現形を示すものは、栄養成長期間が長引いた結果として、最終的には花成は起こるものの、穂は成長せず不稔となる。それゆえ、専ら葉の部分を家畜の飼料として利用する牧草などに上記RCN1、RCN2遺伝子を導入すれば、栄養生長期間が長引き葉の成長が進むため、家畜の飼料により適した牧草を高収率で収穫することができる。また、目的遺伝子とともに、上記RCN1遺伝子あるいはRCN2遺伝子を導入することによって、牧草などの他殖性のイネ科植物に遺伝子を導入した場合に懸念される野外への遺伝子の放出を防ぐことができる。【0061】また、本発明に係る形質転換植物のうち、RCN1あるいはRCN2遺伝子を過剰発現するように導入した形質転換植物は、穂の分枝が増え、結果的に一穂の粒数も増加するという穂形態の変化を示すことが確認されている。このような穂形態の変化は、種子を収穫の対象とするイネ科植物にとって非常に重要かつ有用な形質であると言える。つまり、種子を収穫する作物を宿主として上記RCN1、RCN2遺伝子を導入すれば、花の形成後に実る種子の収穫を増大させることができると考えられる。そのため、このような形質転換植物の宿主として用いられる植物としては、その種子を収穫する作物が好ましい。また、本発明の遺伝子はイネ由来であることから、イネ科植物も含めた穀類作物が特に好ましく用いられる。イネ科植物として具体的には、例えば、イネ、キビ、アワ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、モロコシ、ライムギ、エンバク等を挙げることができる。【0062】【実施例】本発明の実施例について以下に説明する。【0063】1.RCN1、RCN2遺伝子のcDNAの単離シロイヌナズナ由来のTFL1に高い相同性を示すEST(アクセション番号:D24998)の配列が、若い花序由来のcDNAからPCRによって下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとして用いて増幅された。RCN1−255(5’−GACCTGCGATCTTTCTTCAC−3’)(配列番号5)RCN1−619(5’−GACAATTGGAGCTGCATTTC−3’)(配列番号6)RCN2−719(5’−CGATCTTGCATGGACAAAAC−3’)(配列番号7)RCN2−1108(5’−CTAGGACTCTCCTGCCATGG−3’)(配列番号8)増幅された配列は、cDNAライブラリーのスクリーニング用のプローブとして使用された。標準的なハイ−ストリンジェントな条件下(ホルムアルデヒドを含まないハイブリダイゼーション溶液中で65℃一昼夜のハイブリダイゼーション、0.1×SSC、65℃、30分間の洗浄)で、ハイブリダイゼーションと洗浄が実施されることによって、スクリーニングが行われた。【0064】スリーニングで得られた3つのTFL1相同遺伝子のcDNAはRCN1、RCN2、RCN3と命名された。データベース検索の結果、より長い5’非翻訳配列が確認されたが、RCN1はFDR2(アクセション番号:AF159882)と同じcDNAに相当することが明らかとなった。2番目のクローンは新規のクローンであり、RCN2と命名された。【0065】また、もう一つのクローンRCN3は、FDR1(アクセション番号:AF159883)と同一のクローンであることがわかった。しかしながら、このFDR1/RCN3は非機能的なキメラ遺伝子であるため、以下の解析からは除外された。系統学的解析によって、RCN1およびRCN2のアミノ酸配列はシロイヌナズナTFL1よりもむしろキンギョソウCENTRORADIALLISに近いことが分かった。サザンブロット解析で、TFL1相同遺伝子の小規模な遺伝子ファミリーがイネゲノムには存在することが示唆された(データは示さず)。【0066】RCN1およびRCN2遺伝子の染色体位置は、組換え近交系を使用することによって決定された。これらの遺伝子は、それぞれ、11番目あるいは2番目の染色体に位置することが分かった。【0067】2.シロイヌナズナにおけるRCN1およびRCN2の機能解析TFL1遺伝子は、異所的に発現させることによって栄養成長段階、生殖成長段階の両方が延長するということが報告されている。RCN1、RCN2とTFL1との配列の高い相同性は、RCN1、RCN2が成長において同様の役割を果たす可能性を示唆する。この可能性を確かめるために、本実施例においては、シロイヌナズナにおいてカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)によって、RCN1、RCN2を異所発現させた。このシロイヌナズナ形質転換体では、開花時期の遅れ、穂の分枝の増加、一穂につく穎花数の増加が見られた。これらは、35S::TFL1が導入されたシロイヌナズナで観察されるのと同じような表現形を示した。さらに、35S::RCN2遺伝子はtfl1の変異体であるtfl1−6に導入された。その結果、35S::RCN2が導入されたtfl1−6植物は、35S::TFL1が導入された植物と同様の表現形を示した。この結果より、RCN1とRCN2は、TFL1タンパク質としての機能を維持しているということがわかった。【0068】3.イネにおけるRCN1、RCN2の発現RCN1およびRCN2の発現パターンの組織特異性は、RT−PCR解析によって調べられた。【0069】RNAは、各組織(葉鞘:LS、葉身:LB、根:R、花:F、栄養成長期の分裂組織:VM、生殖成長期の分裂組織:RM)から、従来公知の方法(Chomczynski and Sacchi、Anal. Biochem. 162 ,725−734 ,(1987))によって単離された。RT−PCR解析で、一本鎖cDNAがランダム9−merプライマー(タカラバイオケミカルズ)から生成された。続いて、この一本鎖cDNAがRCN1あるいはRCN2に特異的なプライマーを用いたPCR反応のテンプレートとして使用された。RCN1およびRCN2のcDNAを増幅させるために使用されたオリゴヌクレオチドのペアは次の通りである。RCN1−255(5’−GACCTGCGATCTTTCTTCAC−3’)(配列番号5)RCN1−619(5’−GACAATTGGAGCTGCATTTC−3’)(配列番号6)RCN2−719(5’−CGATCTTGCATGGACAAAAC−3’)(配列番号7)RCN2−1108(5’−CTAGGACTCTCCTGCCATGG−3’)(配列番号8)また、RT−PCR解析に使用されるcDNA量を標準化するためのスタンダードコントロールとして、アクチン遺伝子の断片が同じcDNAから増幅された。【0070】図3には、このRT−PCR解析の結果として、同じサイクル数で同じ量のRNAから増幅されたバンドを示す。図3中で、縦軸に示されるRCN1、RCN2、Actinは、それぞれRCN1遺伝子、RCN2遺伝子、アクチン遺伝子である。また、横軸に示されるLS、LB、R、F、VM、RMは、上述の各組織を示す。図3では分かりにくいが、RCN1の発現を示す弱いバンドは、全ての組織から確認された。RCN2のRNAもまた全ての組織から検出された。しかし、RNA蓄積量のレベルは、RCN1、RCN2ともに、葉、根、成熟した花のような他の組織よりも、栄養成長及び生殖成長における分裂組織の方が多かった。4.35S::RCN1あるいは35S::RCN2を導入した形質転換イネの作製シロイヌナズナにおけるTFL1の過剰発現は、ライフサイクルの全体を通じて形態移行を遅延させる(参考文献:Ratcliffe O.J., Amaya I., Vincent C.A., Rothstein S., Carpenter R., Coen E.S. and Bradley D.J.; Development; 124; 1609−1615)。イネの形態移行において同様のメカニズムが作用するか否かを調べるために、CaMV35Sプロモーターを用いてRCN1、RCN2を過剰発現させる形質転換イネの作製を、以下の方法で行った。【0071】pBS(SK+)中のRCN1およびRCN2のcDNAは、XbalとEcoRVによって消化された。続いて、p35S::RCN1とp35S::RCN2を作るために、プロモーター/ターミネーターカセット(Kyozuka J. et Al., Proc. Natl Acad. Sci.USA,95, 1979−1982, (1998) )であるpJKNのクローニングサイトへ挿入され、クローニングされた。結果として得られたプラスミドはエレクトロポレーション法によってアグロバクテリウム・ツメファシエンスへ導入され、シロイヌナズナとイネの形質転換に使用された。【0072】イネの形質転換は、従来法(Hiei Y. et al., Plant J., 6, 271−282, (1994))に微細な変更を加えた方法(Kyozuka J. and Shimamoto K., Plant Cell Physiol., 43, 130−135, (2001))により実施された。形質転換に使用されたイネの品種は、ノトヒカリであった。【0073】上記の方法によって得られた形質転換植物の表現形を解析するために、形質転換次世代の植物を人工気象室で長日条件(14L;10D、28℃)あるいは短日条件(10L;14D、28℃)で生育した。5.35S::RCN1あるいは35S::RCN2を導入した形質転換イネの機能解析(1)栄養成長から生殖成長への移行の遅延35S::RCN1を導入した形質転換系統では19株中12株で、35S::RCN2を導入した形質転換系統では23株中14株で、開花時期が遅れ、変化した花序形態を有する穂を形成するという同様の表現形を示した。非形質転換植物が温室(長日条件下)に移されてから2〜3ヵ月後に開花したこととは対照的に、強い表現形を示す形質転換体では、最終葉が観察されたにも関わらず、12ヶ月あるいはそれ以降においても出穂が認められなかった。【0074】開花時期か遅れるという表現形を示す35S::RCN1導入形質転換体12株のうち2株、および35S::RCN2導入形質転換体14株のうち7株においては、全く出穂が認められなかった。出穂の遅れを強く示す形質転換系統において、花序形態における異常が顕著に観察される傾向を示した。花序(穂)における表現形の詳細については、以下に説明する。【0075】開花時期、花序(穂)形態におけるRCN1、RCN2の過剰発現のより正確な影響を観察するために、第1の形質転換体から自家生殖された後代が使用された。強い表現形を示す系統においては、出穂が全く見られず、後代の種子が得られなかったため、解析は弱い表現形から適度な表現形を示す系統を使用して実施された。導入遺伝子をシングルコピーで有し、適度な表現形を示すことから、RCN1−24、RCN2−7系統を選択し、主としてこれらの系統を解析に使用した。T1植物、T2植物におけるRCN1−24遺伝子座の遺伝子型はサザンブロット解析によって決定された。【0076】イネにおいて、穂形成の全体のプロセスは、穂が葉の中に包まれ見えない状態のまま完成する。出穂の数日前に茎の急激な伸張が起こり、その結果として葉から穂が出現する。イネの開花時期は、穂が現れる最初の日である出穂日を指標として表される。ここで、出穂の遅れを茎頂分裂組織(SAM)における栄養成長の延長の影響と、茎の伸張の遅れとに分けて分析するために、栄養成長期の長さを表す手段として葉の数を計測した。長日(LD)条件あるいは短日(SD)条件のもと、人工気象室で生育されたRCN1−24、RCN2−7植物の葉の数を計測した。【0077】図4のグラフに示すように、両方の形質転換系統のSAMは、生殖成長期への移行前により多くの葉を形成した。これによって、形質転換植物では栄養成長期が延長されることが示唆される。なお、図4には、短日条件(SD)の場合を白色の棒グラフで、長日条件(LD)の場合を黒色の棒グラフで示す。【0078】イネは短日植物であるため、本実験の成長条件下においては、野生型植物はSD条件下よりもLD条件下の方が、ほぼ2枚程度多くの葉を形成する。35S::RCN1あるいは35S::RCN2を導入した形質転換植物は、ともにSD条件下よりもLD条件下においてより多くの葉を形成した。従って、形質転換植物においても光周期に対する感受性が維持されていることが示された。栄養成長期における葉間期は、どちらの形質転換植物でも影響されなかった(データ示さず)。【0079】(2)茎の伸張および穂の成長の遅延本実験の成長条件下では、野生型植物において止め葉(最後の葉)の出現から5〜6日後に出穂が観察された。対照的に、RCN1−24/+ヘテロ接合型は、この過程に平均して12日を要した。RCN1−24遺伝子座のホモ接合体では、出穂のさらなる遅れが見られ、止め葉の出現から50日を経過しても出穂が観察されなかった。しかしながら、この止め葉の出現は、出穂が起こっていないこれらの植物においても、栄養成長期から生殖成長期への移行が起こったことを示している。【0080】さらに、これらの出穂が起こっていない植物においては、第1および第2の節の伸張の遅れが原因で、中間期から末期の小穂発生段階で未熟な花序が葉の中に包まれたままであることが確認された(図2(a)参照)。なお、図2(a)には、左側にRCN1−24のホモ接合型形質転換植物の穂が、右側に野生型植物の穂が示され、比較のために全ての葉が取り除かれている。これは、SAMにおける成長相の移行の遅れに加えて、花序(穂)成熟の遅れ及び/又は茎の伸張も、出穂の遅れという表現形の一因となることを示している。上位節間における細胞の急速な伸張が、出穂に先立って起こる茎の伸張に対する主要な要因であることから、形質転換植物における茎の伸張の遅れは細胞分裂よりもむしろ細胞の伸張の遅れによって引き起こされていると考えられる。【0081】葉に包まれた未熟で非常に成長の遅い花序は、出穂が起こらないという表現形を示すあらゆる形質転換体系統のT0世代においても見られた(データ示さず)。従って、強い表現形を示す系統においても、生殖成長期への移行が、最終的には起こっているということが示された。しかしながら、上記の系統においては、それに引き続いて起こる花序の成熟や茎の伸張が非常に遅延するため、結果として出穂が起こらないという表現形につながる。【0082】(3)形質転換イネにおける花序(穂)形態の変化35S::RCN1および35S::RCN2導入形質転換植物においては、開花が遅れるという表現形に加え、花序形態の変化が観察された。強い表現形を示す形質転換植物は、出穂段階へ到達しなかったため、花序形態の詳細な観察は、中間的な表現形を示すRCN1−24系統の子孫において実施された。花序が影響を受ける程度は形質転換植物系統間で異なるが、一般的な傾向は共通である。外見上、形質転換植物の花序は、図2(c)に示すように、花の数が増加しており、花序は密集して詰め込まれた状態で形成されていた。なお、比較のために図2(b)には、野生型の成熟した穂を示す。【0083】図5には、RCN1−24系統の形質転換植物(RCN1−24遺伝子座のホモ接合型の形質転換植物)及び野生型の成長に伴う穂形態について、それぞれの分枝数を量的に観察した結果を示す。図5において、上段に野生型を、下段に形質転換植物を示す。また、図5の表に示す各数値は、左から順に、穂における一次分枝の数(B1)、各一次分枝における二次分枝の数(B2)、一次分枝における三次分枝の数(B3)、一次分枝における側生花の数(LF)、穂における花の全数を示している。図5に示すように、一次分枝の数には野生型植物と有意な差はなかった。しかしながら、二次分枝以上の高次の枝の数は、形質転換植物において著しく増加していた。なお、穂の頂点から2番目の位置における一次分枝(図2(b)、(c)において矢印で示す)が、図2(d)、(e)においてそれぞれ示される。【0084】本実験の成長条件下では、野生型の花序の一次分枝は、一本か二本、まれに三本の二次分枝を形成した(図2(d)にドットで示す:図5参照)。三次分枝は、野生型の花序においてはほとんど見られなかった。対照的に、RCN1−24植物では、花序を形成する主枝から5本以上の二次分枝が発育した(図2(e)にドットで示す:図5参照)。対照的に、花と花との間は狭くなったように見えるが、各主枝に形成された側生花は、それほど増加しなかった(図2(d)、(e)参照)。全体として、RCN1−24においては、野生型と比較して約3倍の数の花を形成した(図5参照)。花序の下部に形成された花は、出穂時においても未成熟なものが多かった(図2(c)参照)。極端な場合には、高度な分枝の形成が劇的に増加し、未発達の花を有した花序が見られた(図2(f)、(g)参照)。しかしながら、このような場合には、表現形の正確な数値表現は、非常に困難であった。【0085】【発明の効果】以上のように、本発明に係る遺伝子及びタンパク質は、イネの花序分裂組織の形成に関わるものである。イネにおいて、花序分裂組織の形成はその後の穂形成に関わる重要な要素であり、本発明の遺伝子及びタンパク質は穂形成に関わる分枝機構の解明に利用できる。イネは、日本人の主食であるコメを得るための食用作物として非常に需要が高いため、本発明の遺伝子の研究価値および利用価値はは高く、有用であると考えられる。【0086】さらに、RCN1、RCN2遺伝子を利用して形質転換植物を作製すれば、開花時期を人為的に調整できるイネや、穂形態を改良して収量の向上したイネなど有用性の高い新品種を得られる可能性がある。そのため、本発明に係る形質転換体(植物)は、農業分野に大きく貢献することが期待できる。【0087】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】イネの穂を示す模式図である。【図2】本実施例において使用されたイネの穂形態を示す模式図である。(a)において、左側はRCN1−24のホモ接合型形質転換植物の穂を、右側は野生型植物の穂を示す模式図である。(b)は野生型の成熟した穂を、(c)は形質転換イネ(RCN1−24)の成熟した穂をそれぞれ示す模式図である。(d)は(b)において矢印で示す穂(上から2番目の穂)をより詳細に示し、(e)は(b)において矢印で示す穂(上から2番目の穂)をより詳細に示す模式図である。(f)は大きな欠陥伴う表現形を有する穂の成熟した状態を示す模式図である。(g)は(f)において実線で囲まれた部分をより詳細に示す模式図である。【図3】イネの各組織から採取されたRNAを用いてRT−PCRを行った試料について、電気泳動を行ったものであり、RCN1、RCN2遺伝子の発現パターンを示すものである。【図4】野生型イネ(WT)および本実施例の形質転換イネ(RCN1−24、RCN2−7)を、長日条件(LD)あるいは短日条件(SD)で、それぞれ生育させた場合の葉の枚数を示すグラフである。【図5】RCN1−24系統の形質転換植物及び野生型の穂形態について、それぞれの分枝数などを量的に観察した結果を示す表である。 イネ由来であり、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ花序分裂組織の形成に関与するタンパク質。 配列番号2に示す塩基配列のうち、第78番目から第596番目の塩基配列をオープンリーディングフレームとして有することを特徴とする請求項1記載の遺伝子。 イネ由来であり、以下の(c)又は(d)のタンパク質をコードする遺伝子。(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ花序分裂組織の形成に関与するタンパク質。 配列番号4に示す塩基配列のうち、第148番目から第666番目の塩基配列をオープンリーディングフレームとして有することを特徴とする請求項3記載の遺伝子。 前記遺伝子はイネの開花時期および穂形態の決定に関与することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の遺伝子。 請求項1または2に記載の遺伝子の翻訳産物であるタンパク質。 配列番号1に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質。 請求項3または4に記載の遺伝子の翻訳産物であるタンパク質。 配列番号3に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質。 請求項1ないし5の何れか1項に記載の遺伝子が導入された形質転換体。 イネ科植物であることを特徴とする請求項10記載の形質転換体。 イネであることを特徴とする請求項11記載の形質転換体。 前記遺伝子が過剰発現するように導入されたことを特徴とする請求項10ないし12の何れか1項に記載の形質転換体。 【課題】イネの開花時期および穂形態の決定に関与する新規遺伝子、そのタンパク質、及びその新規遺伝子が導入された形質転換体を提供する。【解決手段】イネの花序分裂組織の形成に関与するRCN1、RCN2遺伝子が、シロイヌナズナ由来の花成制御遺伝子TFL1に高い相同性を有する遺伝子として、イネcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって得られた。このRCN1、RCN2遺伝子が過剰発現するように導入されたイネの形質転換体では、開花時期が遅延し、穂の分枝が増加し、一穂につく穎花数が増加するという表現形が見られた。これによって、RCN1、RCN2遺伝子は、イネの開花時期及び穂形態の決定に関与する遺伝子であることが確認され、イネ科植物の品種改良へ利用できることが期待される。【選択図】 なし