タイトル: | 公開特許公報(A)_生分解性プラスチック分解剤及び分解方法 |
出願番号: | 2002239878 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C08J11/18,C12N9/18,C12N15/09,C08L67:00,C08L67:02,C08L67:04 |
家藤 治幸 岩下 和裕 向井 伸彦 正木 和夫 岡崎 直人 JP 2004075905 公開特許公報(A) 20040311 2002239878 20020820 生分解性プラスチック分解剤及び分解方法 独立行政法人酒類総合研究所 301025634 戸田 親男 100075775 家藤 治幸 岩下 和裕 向井 伸彦 正木 和夫 岡崎 直人 7 C08J11/18 C12N9/18 C12N15/09 C08L67:00 C08L67:02 C08L67:04 JP C08J11/18 C12N15/00 A C12N9/18 C08L67:00 C08L67:02 C08L67:04 10 OL 16 4B024 4B050 4F301 4B024AA03 4B024BA11 4B024CA04 4B024DA12 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA20 4B050CC03 4B050CC07 4B050DD04 4B050LL10 4F301AA25 4F301AA27 4F301CA07 4F301CA38 4F301CA53 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチック、特に生分解性プラスチックの分解に関するものであり、更に詳細には、特定のリパーゼを用いて、ポリ乳酸等の生分解性プラスチックを分解する新規技術に関するものである。【0002】【従来の技術】日本におけるプラスチックの年間生産量は約1500万トン(2000年統計)であり、その内、生分解性プラスチックの生産量は低く、約2000〜2500トンである。このように、生分解性プラスチックは、廃棄物処理及び廃棄物による環境汚染が深刻な問題となっている今日において、非常に有用性が高いにもかかわらず、その生産量は低いままとなっているが、その理由は、主として従来のプラスチックに比して価格が高いこと、及び、生分解性とはいっても、効率的に分解する技術が確立されていないことが挙げられる。【0003】近年、生分解性プラスチック(生分解性高分子)として、ポリ乳酸(PLA)がクローズアップされている。PLAは、トウモロコシデンプンから発酵によって得た乳酸をポリマー化したものであって、成形性にすぐれ、透明性が高く、強度もあるため、容器、包装フィルム、農園芸用フィルム、土木用シート、繊維、衣料等広範な用途を有し、インプラントの材料として医薬の分野でも実用されており、植物から作られるプラスチックとして、環境、資源面でも期待されており、2001年において大量生産が開始されている(カーギル・ダウ社、米国)。【0004】ポリ乳酸は、上記のようにプラスチックとしては優れた性質を有し、価格も低減化が期待され、大きな供給拡大が予想されるが、その反面、生分解性プラスチックとはいいながら、一方で非酵素型分解プラスチックともいわれ、それを有効に分解する酵素は実質的にほとんど知られていないのが現状である。【0005】生分解性プラスチックの分解作用は微生物由来の分泌酵素によるものであると考えられているが、高分子ポリ乳酸の分解においては現在のところプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)での分解が確認されているのみである。これまでに、プロテアーゼ以外での高分子ポリ乳酸分解酵素は報告されていない。しかも、プロテアーゼによる分解作用も充分に満足できるものではない。ましてや、リパーゼによるポリ乳酸の分解に成功した例は、従来全く報告されていない。【0006】【発明が解決しようとする課題】上記したように、ポリ乳酸は植物由来のすぐれた生分解性プラスチックであって、近い将来、その利用が大幅に拡大されると、いくら生分解性を有するといってもその廃棄物処理に対しては、能動的かつ有効な処理手段を構築する必要がある。また、他の生分解性プラスチックも同様である。そこで、本発明では、ポリ乳酸を中心として生分解性プラスチックの分解に対する有効な酵素利用を提案することを目的として新たに設定したものである。【0007】【課題を解決するための手段】上記したように、ポリ乳酸系プラスチックは、生分解性プラスチックに分類されながら非酵素分解型プラスチックといわれ、分解の困難なプラスチックであり、それを効率よく分解する酵素はあまり知られていない。特にリパーゼに属する酵素においては、その分解性を有する酵素の報告例はない。事実、後記するところからも明らかなように、市販のリパーゼ(Aspergillus niger、Candida rugosa、Rhizopus oryzae、Burkholderia sp.、Penicillium roqueforti由来の市販のリパーゼ)については、いずれも、ポリ乳酸の分解活性は確認できなかった。【0008】このように、ポリ乳酸系プラスチックなど、生分解性といわれるプラスチックもそれを有効に分解する酵素があまり知られておらず、通常は、土の中でその分解を行うため、リサイクルに向かないプラスチックであると言われてきた。【0009】このような技術の現状において、つまり、生分解性プラスチックを有効に分解する酵素はあまり知られておらず、工業化に成功した報告はなされておらず、また、従来のリパーゼについてはポリ乳酸を分解するのではなくこれとは全く逆にポリ乳酸を分解しないことが確認されているにもかかわらず、本発明者らは、あえて再度、酵素の分解に着目して、生分解性プラスチック分解酵素の広範なスクリーニングを鋭意実施した。【0010】その結果、全く予期せざることに、特定の酵母由来の酵素、しかも特定のリパーゼであるリパーゼCS2が、ポリ乳酸を分解できること、しかもプロテアーゼとの比較においても本酵素がより高いポリ乳酸分解能力を示すことを新たに確認した。従来、プロテアーゼ以外では高分子ポリ乳酸分解酵素は報告されておらず、本知見は全く新規なものである。また、更なる研究の結果、リパーゼCS2は他の生分解性プラスチックも分解できることも新たに確認した。【0011】本発明は、これらの有用新知見に基づき、更に研究の結果、遂に完成されたものであって、生分解性プラスチック分解剤及び分解方法に関するものである。以下、本発明について詳述する。【0012】本発明における有効成分であるリパーゼCS2は、本発明者らによって開発された新規酵素であって、下記の理化学的性質を有し、クリプトコッカス属に属する酵母、例えばクリプトコッカス エスピー.S−2(Cryptococcus sp. S−2)(FERM P−15155)の培養物から分離、採取することができる(特開2001−252072)。【0013】本酵素の理化学的性質は、次のとおりである。【0014】(1)作用油脂分解性を有し、トリグリセリドに作用して、グリセリンと脂肪酸に加水分解する。【0015】(2)基質特異性トリプチリン、トリカプリリン、トリパルミチン、トリオレインをよく分解する。トリアセチン、トリカプリン、トリラウリンは中程度に分解する。トリミリスチン、トリステアリンに対する分解力は弱い。【0016】(3)位置特異性トリオレインに作用せしめると、オレイン酸と少量の1,2(2,3)−ジオレインが生成し、1,3−ジオレインとモノオレインは検出されない。【0017】(4)至適pH及び安定pH範囲至適pH:7.0安定pH範囲:5〜9【0018】(5)反応最適温度及び温度による失活の条件反応最適温度:37℃温度による失活の条件:温度上昇による活性の失活は緩やかであり、60℃、30分の熱処理においても活性を維持している。【0019】(6)有機溶媒に対する安定性、活性化有機溶媒に安定であり、更に、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテルによって活性が上昇する。【0020】(7)分子量22kDa(SDS−PAGE)【0021】上記した理化学的性質を有する本酵素は、微生物、例えばクリプトコッカス属に属するS−2株(FERM P−15155)(以下、S−2株ということもある)の培養物から分離、取得することができる。ここに創製分離された菌株は、新規酵素(リパーゼCS2)を生産分泌できる点できわめて特徴的であり、これをCryptococcus sp. S−2と命名し、工業技術院生命工学工業技術研究所(現、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)にFERM P−15155として寄託した。【0022】本酵素は、S−2株を常法にしたがって培養し、培養物から分離、精製することにより取得することができる。例えば、YM培地(酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.5%、ペプトン0.5%、グルコース1%)にて25℃、40時間前培養(5.4〜5.8×108ケ/ml)した菌体を通常の本培養への接種菌とする。【0023】酵母エキス0.5%、KH2PO4 1%、MgSO4・7H2O、トリオレイン1%を基本とし、必要に応じ、窒素源、炭素源、そして誘導物質を変化させたものを酵素生産培地とした。100mlの酵素生産培地に、前培養した菌を1%(v/v)接種し、25℃100rpmの振とう培養にて、酵素の生産を行えばよい。トリオレインは添加しなくてもよいが、Cryptococcus sp.S−2によるリパーゼの生産はオリーブオイル、トリオレインなどの油脂を炭素源にすることでグルコース培地より約3倍のリパーゼの分泌が見られ、油脂を炭素源にすることでリパーゼの生産は優位に高められる。油脂としては、上記のほかにイワシ油、大豆油、トリグリセリドなどから選ばれる少なくともひとつを使用すると好適である。【0024】S−2株の培養は、酵母の培養と同様に実施すればよいが、上記のように炭素源として油脂を使用すると酵素の生産が上昇する。また、窒素源として酵母エキス、糖としてラクトースを追加使用することで、酵素の生産がさらに上昇する。【0025】S−2株を培養した後、本酵素を培養物から分離、精製する。その方法は常法にしたがえばよいが、例えば培養液を濃縮した後、クロマトグラフィー処理(陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等)等既知の精製法を単独、くり返し、組み合わせて適宜実施すればよい。【0026】本発明においては、有効成分として、上記した精製酵素のほか、充分に精製することなく粗製のままの酵素も使用可能である。粗製酵素としては、上記した精製工程の途中で得られる各種の中間精製物のほか、培養物、培養上清、培養液、それらの処理物(例えば、濃縮物、ペースト状物、乾燥物、乾燥粉末等)も適宜使用可能である。【0027】また、リパーゼCS2については、上記した発酵法、つまり酵母の培養による製法のほか、本発明者らは、更に、遺伝子レベルでの検討も行い、その結果、本酵素のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子DNAの塩基配列の決定にも、今回、成功した。したがって、今回明らかにされたアミノ酸配列にしたがって酵素タンパク質を合成してもよいし、本遺伝子を含む組換えベクターも創製されたので、組換えDNA技術を利用して本酵素を工業的に製造することも可能となった。本発明においては、どのような方法で製造した酵素であっても有効成分として使用することができる。【0028】リパーゼCS2遺伝子の解析は、次のようにして行った。精製したリパーゼCS2をタンパク質分解酵素(リシルエンドペプチダーゼ)で処理し断片化した後、そのいくつかの断片につきそのアミノ酸配列を決定した。その部分配列をもとにDNAプライマー(混合プライマー)を設計し、リパーゼCS2遺伝子の内部配列の決定に用いた。次に、液体培養したCryptococcus sp.S−2の菌体よりmRNAを調整し、逆転写によりcDNAの合成を行った。【0029】上記cDNAをテンプレートに、上記リパーゼCS2断片化ペプチドより設計したプライマーを用いてリパーゼCS2遺伝子の内部配列(約180塩基)をまず決定した。その決定した内部配列を利用し新たなプライマーを設計し、それを用いて3’−及び5’−RACE法によりリパーゼCS2遺伝子のcDNA配列を決定した。このようにして決定したリパーゼCS2遺伝子の全塩基配列を配列番号2(図1)に示し、この塩基配列から推定されるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1(図1)に示す。【0030】上記のように、Cryptococcus sp.S−2より本酵素のcDNAを取得後、クローニングを行った。そのDNA配列から推定アミノ酸配列が決定できた。なお、上記に取得したcDNAをSaccharomyces cerevisiae用発現ベクター pG−1(GPDプロモータ、PGKターミネータ、TRP1マーカー)のBamHIのクローニングサイトに挿入して組換えベクターを作製した。得られた組換えベクターは、CS2Lipase cDNA*pG−1と命名し、これを独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P−18939として寄託した。【0031】上記に取得した組換えプラスミドCS2Lipase cDNA*pG−1(FERM P−18939)を、Saccharomyces cerevisiae YPH499株に形質転換したところ、トリブチレンを1%濃度で懸濁させたYPD(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース2%)プレート上で、形質転換株はトリブチレン分解により生じるハローを形成した。このことで取得したcDNAが油脂分解活性を有するものであることが確認され、確かに目的のリパーゼCS2をコードするものであることが示された。【0032】本酵素(リパーゼCS2:クチナーゼ)は、各種の生分解性プラスチックを分解することができ、例えば次のようなものが例示される:ポリ乳酸系プラスチック(PLA);コハク酸ポリエステル系プラスチック(ポリブチレンサクシネート(PBS系)、ポリエチレンサクシネート(PES系)その他);ポリエステルアミド系プラスチック;ポリカプロラクトン系プラスチック(PCL);ポリヒドロキシブチレート系プラスチック(PHB);その他。本酵素は、ポリ乳酸分解に対して非常に有効であることが分ったが、本酵素は高分子エステル(クチン)を分解するクチナーゼ(つまり、すぐれたエステル分解酵素)であるところから、各種のポリエステル系プラスチックも有効に分解することができる。【0033】本発明にしたがって生分解性プラスチックを分解するには、酵素とプラスチックを接触させればよく、プラスチックを戸外に堆積し、あるいは地中に埋めておき、これに酵素を添加してもよいし、工業的処理を行う場合には、分解タンク(反応タンク)に必要に応じて細断、粗砕又は粉砕したプラスチックを入れ、これに酵素を添加し、所望に応じて攪拌すればよい。【0034】分解処理は、固体又は液体のいずれの条件下でも実施でき、後者の場合、乳化剤(例えばプライサーフ(第一工業製薬)等)を加えて乳化しておくと好都合である。酵素としては、精製酵素のほか粗製酵素が使用でき、更には、酵母菌体培養物、培養液、これらの処理物が使用でき、また、合成酵素、組換え酵素、配列番号1のアミノ酸配列と高い類似性を有する配列を持つタンパク質、該アミノ酸配列上クチナーゼに類似性を有するタンパク質も適宜、1種又は2種以上併用することができる。【0035】液状での分解において、プラスチックは、界面活性剤を用いて乳化しておくのが好ましく、エマルジョンにおけるプラスチック濃度は、その種類や使用酵素の濃度等によって適宜定められるが、一応の目安として、0.0001〜1%程度であって、0.01〜0.5%程度の濃度が通常は使用されるが、酵素の使用量を高めれば更に高濃度とすることも可能である。【0036】このようなプラスチック液に添加する酵素量は、処理するプラスチックの種類や濃度によって相違するが、一応の目安として、上記したプラスチック液を分解する場合、液中の酵素濃度が1mlあたり1ng〜1μg以上、好ましくは5〜500ng以上となるように酵素添加量を設定すればよい。なお、コスト面を考慮に入れないのであれば、上記濃度範囲以上の使用ももちろん可能である。このようにして、効率的にプラスチックの分解処理が達成され、しかも、例えばPLAを処理した場合には乳酸が生成するといった構成成分が生成するため、これらの構成成分を再び回収することにより、資源の再利用が図られる。【0037】したがって本分解剤の調製にあたっては、本酵素を有効成分として、液剤、水和剤、乳化剤、粉剤、錠剤、顆粒剤その他常用される製剤技術にしたがって製剤すればよく、有効成分の含有量ないし配合量も、上記した酵素濃度が達成されるよう、適宜設定すればよい。非限定的ではあるが、1〜1000mg/ml、好ましくは10〜500mg/mlの含有割合での製剤が例示される。増賦剤としては、エチレングリコール等が挙げられるし、既述したように、培養物、培養液、それらの処理物をそのまま製剤として用いることも可能である。また、製剤化にあたり、プラスチック乳化用乳化剤を用時調製するよう、別途用意しておいてもよい。【0038】以上、PLAを代表例とし、廃棄物処理の観点から本発明を説明してきたが、PLAは、繊維、衣料品等の製造にも使用され、その際、PLAを全体的及び/又は局部的に分解することにより、繊維、衣料品を柔軟化したり、模様を入れたりして、性質の改善、高品質化を図ったりすることも可能である。したがって、本発明は、廃棄物の分解処理だけでなく、新製品の創造という新しい面も有している点で特徴的である。【0039】以下、本発明の実施例について述べる。【0040】【実施例1】(1)酵母エキス0.5%、KH2PO4 1%、MgSO4・7H2O、トリオレイン1%、ラクトース0.5%を含む液体培地に前培養した酵母S−2菌(FERM P−15155)を1%(v/v)接種し、25℃、100rpmの振とう培養を行った。【0041】(2)次いで、酵素の精製を次のようにして行った。上記により液体培養した培養物から酵母菌体を除いて培養液を得た。このようにして得た培養液を8,000rpm、10min遠心分離し、0.45μmのメンブランフィルターにて濾過後、限外濾過により濃縮した。陽イオン交換樹脂TSK−gel SP−5PWカラムによる高速液体クロマトグラフ(pH7.0リン酸バッファ、およびそれに0.5%NaCl添加したものによるグラジエント溶出)によってリパーゼを精製した。活性は17.1倍、収量は11.4%であった。SDS−PAGE上で単バンドとなり、分子量はSDS−PAGEにより22kダルトンであることが判明した。その理化学的性質は既述のとおりである。【0042】【実施例2】(1)組換えDNA技術によりリパーゼCS2を製造した。先ず、実施例1(1)にしたがって振とう培養し、得られた菌体からmRNAを抽出し、このmRNAをもとにcDNAライブラリーを構築した。【0043】(2)実施例1(2)したがって精製したリパーゼCS2をタンパク質分解酵素(リシルエンドペプチダーゼ)で処理し断片化した後、そのいくつかの断片につきそのアミノ酸配列を決定した。その部分配列をもとにDNAプライマー(混合プライマー)を設計し、リパーゼCS2遺伝子の内部配列の決定に用いた。【0044】(3)リパーゼCS2遺伝子をクローニングするために、先ず、液体培養したCryptococcus sp.S−2の菌体よりmRNAを調整し、逆転写によりcDNAの合成を行った。上記プライマーを用いてリパーゼCS2遺伝子の内部配列(約180塩基)をまず決定した。その決定した内部配列を利用し新たなプライマーを設計し、それを用いて3’−及び5’−RACE法によりリパーゼCS2遺伝子のcDNA配列を決定した。このようにして決定したリパーゼCS2遺伝子の全塩基配列を配列番号2(図1)に示し、この塩基配列から推定されるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1(図1)に示す。【0045】(4)上記に取得したcDNAをSaccharomyces cerevisiae用発現ベクター pG−1(GPDプロモータ、PGKターミネータ、TRP1マーカー)のBamHIのクローニングサイトに挿入して、組換えプラスミド CS2Lipase cDNA*pG−1(FERM P−18939)を作成した。【0046】(5)上記に取得した組換えプラスミドを用いてSaccharomycescerevisiae YPH499株に形質転換した。得られた形質転換株は、トリブチレンを1%濃度で懸濁させたYPD(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース2%)プレート上で、トリブチレン分解により生じるハローを形成した。このことで取得したcDNAが油脂分解活性を有するものであることが確認され、確かに目的のリパーゼCS2をコードするものであることが示された。【0047】(6)上記のとおり、リパーゼCS2遺伝子(クチナーゼ)の全塩基配列(1の位置(ATG)〜720の位置(TAA)まで)を決定した(配列番号2(図1)。また、この塩基配列から推定されるタンパク質は、239残基であることが明らかとなった。【0048】(7)このようにして、DNA配列からリパーゼCS2の推定アミノ酸配列(配列番号1:図1)が決定された。このアミノ酸配列より計算される分子量は、本精製酵素のSDS−PAGE解析による結果と矛盾しないものであった。本酵素のアミノ酸配列と既知のタンパク質配列データベースとの相同性をBLASTを用いて解析した結果、脂質分解酵素であるリパーゼの1種であるクチナーゼとの類似性が確認され、本発明に係るリパーゼCS2は、既述の理化学的性質を有し、また、アミノ酸配列より、クチナーゼであることも確認された。また、今回決定された本発明酵素のアミノ酸配列及び塩基配列は、従来知られておらず、全く新規であることも判明した。【0049】【実施例3】(酵素分解測定法の確立)ポリ乳酸の活性測定法としてエマルジョンを用いた、吸光度(この場合、濁度)の減少を利用した方法を検討した。まず、本法の定量性を検証するために、吸光度とPLA濃度の線形性の確認した。すなわち、Shimazu UV−1600を用いた吸光度とPLA濃度の線形性の確認を行い、その結果、非常によい線形性と再現性を確認できた。【0050】続いて、経時的に酵素反応を測定するために、バイオフォトレコーダー(ADVANTEC TN−1506)の利用を試みた。測定値の信頼性を確認するために、その線形性を検討した。その結果、各CH(トータル6CH)でのばらつきはあるが、非常によい線形性を確認できた。【0051】【実施例4】PLAは、界面活性剤(プライサーフ(第一工業製薬))を用いて乳化した後、溶液状態及びアガロースプレート上での各酵素の活性を検討した。【0052】(1)PLAを含むアガロースプレート上でのPLA分解活性を次のようにして検討した。それぞれの酵素液(100mg/ml)を20マイクロリットルずつプレート上に添加し、30℃、12時間放置した。その結果、本酵素は、粗酵素(培養上清の濃縮物)及び精製酵素のいずれもがPLAを分解し、しかも後者の分解度は前者よりも高いのに対し、市販のリパーゼは全くPLAの分解を示さないことが確認された。【0053】市販酵素(Aspergillus niger、Candida rugosa、Rhizopus oryzae、Burkholderia sp.由来):本酵素(Cryptococcus sp.S−2由来の粗酵素及び精製酵素)。【0054】(2)PLAエマルジョンに本粗酵素(50μl:マイクロリットル)を添加して、37℃、21時間放置した。その結果、PLAエマルジョンは清澄化した。これに対して、コントロール(50μl:水)では清澄化せず、混濁のままであり、PLAエマルジョンに対するリパーゼCS2による分解活性が溶液レベルにおいても確認された。【0055】【実施例5】(リパーゼCS2によるPLA分解: 本酵素とProteinase K及び他のリパーゼとの比較)【0056】(1)下記する実験条件によりPLA分解実験を行い、図2の結果を得た。【0057】(実験条件)0.04%PLAエマルジョン20mM TrisHCl(pH8.0)30℃ポリ乳酸の分解は660nmの吸光度の減少量で評価した。* Proteinase KはMerck社(No.124568)を使用した。* μg:マイクログラム【0058】上記結果から明らかなように、本酵素がポリ乳酸エマルジョンを分解していることを定量的に示した。さらに、有機酸分析により分解産物として乳酸モノマーが産生していることも確認された。【0059】Proteinase K(Tritirachium album)及び、他のリパーゼを用いてポリ乳酸分解実験を行った。これまで、ポリ乳酸の分解にはProteinase Kによる分解が示されてきたが、本酵素は500倍以上(酵素重量当たり)の効率でポリ乳酸を分解することが分った。【0060】さらに同じ条件下で、次の4種のリパーゼ(0.4mg/ml)についても同様の分解実験を行ったが、ポリ乳酸の分解は確認できなかった。(Aspergillus niger、Candida rugosa、Burkholderia sp.、Penicillium roqueforti由来リパーゼ(市販のものを利用))【0061】(2)更にPLAの分解反応を継続し、30℃、10日後におけるPLA分解反応後の反応溶液の状態を目視により観察した。その状態を図3(図面代用写真)に示した。図中、左からそれぞれ次のものを表わす。【0062】コントロール(no enzyme)Proteinase K(0.8μg/ml)リパーゼCS2(0.8μg/ml)Proteinase K(400μg/ml)リパーゼCS2(0.08μg/ml)【0063】上記結果から明らかなように、本酵素(cutinase)で処理されたポリ乳酸エマルジョンは分解され、透明になっているのが分かる。同じ酵素濃度(0.8μg/ml)でポリ乳酸を処理したところ、Proteinase Kでは、完全に分解されず、本酵素では完全に分解されている。さらに、本酵素濃度をさらに1/10に設定(0.08μg/ml)した場合でも、完全に分解されていることがわかる。【0064】【実施例6】(他の生分解性プラスチック(PBS、PCL)の分解)【0065】(1)下記する実験条件によりPBS(ポリブチレンサクシネート)の分解実験を行い、図4の結果を得た。【0066】(実験条件)0.04%PBS20mM TrisHCl(pH8.0)20〜80ng/ml リパーゼCS230℃酵素濃度はPLAの場合の1/10以下に設定した。(反応溶液中の酵素濃度はグラフ中に表記)。【0067】上記結果から明らかなように、用いた条件下では、約30分以内にPBSは本酵素により完全に分解された。前記のポリ乳酸の場合よりも酵素濃度を1/10以下に設定したにもかかわらず、非常に迅速に分解反応は進行した。さらに本酵素濃度を1/5まで下げて(20ng/ml)分解実験を行ったところ、1時間以内で速やかにPBSは分解された。【0068】(2)30℃、2日後におけるPBS分解反応後の反応溶液の状態を目視により観察した。その状態を図5(図面代用写真)に示した。図中、左は、コントロール(no enzyme)、右はリパーゼCS2(80ng/ml)を表わす。【0069】上記結果から明らかなように、本酵素で処理されたPBSエマルジョンは分解され、透明になっているのが分かる。【0070】(3)PLA、PBSと同様に、ポリカプロラクトン(PCL)についても、本酵素による分解実験を行い、30℃、2日後におけるPCL分解反応後の反応溶液の状態を目視により観察した。その状態を図6(図面代用写真)に示した。図中、左は、コントロール(no enzyme)、右はリパーゼCS2(80ng/ml)を表わす。【0071】上記結果から明らかなように、本酵素で処理されたPCLエマルジョンは分解され、透明になっているのが分かる。【0072】【発明の効果】本酵素は、生分解性プラスチック(PLA、PBS、PCL)の経時的酵素分解を示した。どの生分解性プラスチックに対しても、本酵素は有効に分解することが分かった。【0073】特に、本酵素は、高分子ポリ乳酸の分解に非常に有効であることが示された。これまでポリ乳酸分解能を持つと言われているProteinase Kと比較しても、用いた条件下で500倍以上の分解効率を示した。さらに、PBS分解に対しても非常に有効であることが分かった。その分解能力はポリ乳酸に対するものより遥かに高いものであった。また、同様にPCLに対しても本酵素は非常に高い分解能力を示した。リパーゼの中には脂質分解のみならずポリエステルに対する分解能力を持つものは存在するが、本酵素の高分子ポリエステル分解能は非常に高いものであり、なおかつ多種の基質に対して作用することから、非常に幅広い基質特異性を持つ酵素であることがわかる。【0074】このように本発明は、本酵素を使用することによって、生分解性プラスチックを効率的に分解することができ、廃棄物処理技術としてすぐれており、例えば量産化が予定されているPLAについても、その使用後における効率的処理が充分に可能であり、しかもその際、乳酸が生産されるため、これを再利用することができる。【0075】そのうえ更に、本酵素は、これをポリ乳酸系プラスチックやその他プラスチックに作用させ、その加工に用いたり、ポリ乳酸系プラスチックやその他プラスチック繊維に作用させ、その肌触りや染色性を向上させたりして、プラスチックの性質を改善し、高品質の繊維や衣料品等の新規製造も可能とするものである。【0076】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】リパーゼCS2のアミノ酸配列(下段)及びそれをコードするDNAの塩基配列(上段)を示す。【図2】ポリ乳酸の分解実験の結果を示す。【図3】ポリ乳酸分解反応後の反応溶液(30℃、10日)の状態を示す図面代用写真である。【図4】ポリブチレンサクシネートの分解実験の結果を示す。【図5】ポリブチレンサクシネート分解反応後の反応溶液(30℃、2日)の状態を示す図面代用写真である。【図6】ポリカプロラクトン分解反応後の反応溶液(30℃、2日)の状態を示す図面代用写真である。 リパーゼCS2を有効成分とすること、を特徴とする生分解性プラスチック分解剤。 リパーゼCS2が、クリプトコッカス属酵母由来であること、を特徴とする請求項1に記載の分解剤。 クリプトコッカス属酵母が、クリプトコッカス エスピー.S−2(Cryptococcus sp. S−2)(FERM P−15155)であること、を特徴とする請求項2に記載の分解剤。 リパーゼCS2が、配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する酵素タンパク質であること、を特徴とする請求項1に記載の分解剤。 酵素タンパク質が、アミノ酸配列(配列番号1)と高い類似性を有するものであるか、あるいは、アミノ酸配列(配列番号1)上クチナーゼに類似性を有するものであること、を特徴とする請求項4に記載の分解剤。 生分解性プラスチックが、ポリ乳酸系プラスチック(PLA)、コハク酸ポリエステル系プラスチック、ポリエステルアミド系プラスチック、ポリカプロラクトン系プラスチック(PCL)、ポリヒドロキシブチレート系プラスチック(PHB)、ポリエステル系プラスチックから選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の分解剤。 請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリ乳酸分解剤。 請求項1〜7のいずれか1項に記載の分解剤を用いて生分解性プラスチックを処理すること、を特徴とする生分解性プラスチックの分解方法。 クリプトコッカス属に属するリパーゼCS2生産菌を培養し、得られた培養物又はその処理物を生分解性プラスチックと接触せしめること、を特徴とする生分解性プラスチックの分解方法。 配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子のDNAであって、その塩基配列が配列番号2で示されるDNAを含んでなる組換えベクターを酵母に導入し、得られた形質転換体を利用して製造したリパーゼCS2活性を有するタンパク質又はその含有物を生分解性プラスチックと接触せしめること、を特徴とする生分野性プラスチックの分解方法。 【解決手段】リパーゼCS2を有効成分とする生分解性プラスチック分解剤が提供される。リパーゼCS2は、Cryptococcus sp.S−2から生産され、あるいは組換えDNA技術によって生産され、今回明らかになったそのアミノ酸配列から、クチナーゼとの類似性が高いため、ポリ乳酸等のほか、ポリエステル系プラスチック分解作用も有するものである。【効果】代表的な生分解性プラスチックであるポリ乳酸は、これを効率的に分解する酵素は実質的に見出されておらず、使用後の廃棄物処理技術が開発されていないため、有用性が最近クローズアップされているポリ乳酸の利用が妨げられていたが、本酵素によりそれが可能となり、本発明は環境汚染防止技術としてもすぐれている。【選択図】 なし