タイトル: | 公開特許公報(A)_テアニンの製造法 |
出願番号: | 2002229026 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C12P13/02 |
立木 隆 岡田 幸隆 小関 誠 大久保 勉 レカ・ラジュ・ジュネジャ 山崎 長宏 JP 2004065105 公開特許公報(A) 20040304 2002229026 20020806 テアニンの製造法 太陽化学株式会社 000204181 小林 洋平 100108280 立木 隆 岡田 幸隆 小関 誠 大久保 勉 レカ・ラジュ・ジュネジャ 山崎 長宏 7 C12P13/02 C12P13/02 C12R1:38 JP C12P13/02 C12P13/02 C12R1:38 2 OL 8 4B064 4B064AE02 4B064CA02 4B064CA21 4B064CB30 4B064CD12 4B064CD13 4B064DA10 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、テアニンの新規な製造法に関する。【0002】【従来の技術】テアニン(theanine)は緑茶の旨味の主要成分として知られており、茶をはじめとする食品の香味物質として重要な物質である。また一方、テアニンを含めてγ−グルタミル誘導体は、動・植物体における生理活性物質として作用することが指摘されている。例えば、Chem.Parm.Bull., 19(7), 1301−1307(1971). 同19(6),1257−1261(1971). 同34(7), 3053−3057(1986). 薬学雑誌,95(7), 892−895(1975)等の文献には、テアニンやグルタミンがカフェインによって誘発される痙攣に拮抗することが報告されている。このことから、これらの化合物が中枢神経系に作用することが考えられ、生理活性物質としての有用性が期待されている。【0003】【発明が解決しようとする課題】従来より、テアニンの製造法としては、テアニンを含有する玉露の生産用茶園において得られる茶葉乾燥物より抽出する方法が一般的である。しかし、テアニンは、茶葉乾燥物あたりわずかに1.5%前後程度しか蓄積されないことに加え、一般の煎茶用茶園の茶葉は光合成が活発であるため、テアニンが速やかに分解されてしまうことから、充分な収量を確保することが困難である。従って、茶葉乾燥物からの抽出法では、工業的に実用的ではないことが指摘されている。【0004】このようなことから、工業的生産方法の開発が期待されており、その一つとして、テアニンを化学的に有機合成する方法が報告されている(Chem. Parm. Bull.,19(7), 1301−1308(1971))。しかし、このような有機合成反応では、収率が低く、合成物の分離精製等において煩雑な操作を必要とするという問題点が指摘されている。また、グルタミナーゼのγ−グルタミル基転移反応を利用して、グルタミン、エチルアミンからテアニンを合成する酵素法も報告されている(特公平07−55154号)。しかし、グルタミナーゼの加水分解反応によってテアニンと同時に副合成されるグルタミン酸の存在が、テアニン精製を煩雑にするという問題点がある。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、テアニンの効率的な製造法を提供し、簡易かつ工業的に有利なテアニン生産を可能とすることにある。【0005】【課題を解決するための手段】本発明者らは前記の課題を解決するために、自然界の土壌より新規テアニン生産菌の分離・選定を重ねた結果、特定の微生物が持つグルタミナーゼの性質が特公平07−55154にて報告されているPseudomonas nitroreducens IFO 12694 のグルタミナーゼに比べ高いテアニン合成活性・低いグルタミン酸合成活性であることを見い出し、基本的には、本発明を完成するに到った。上記のテアニン生産菌は、本発明者らが初めて発見・同定した新規菌株であり、Pseudomonas citronellosis GEA(受託番号 FERM P−18958)である。以下、本発明の詳細について記述する。【0006】【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。本発明におけるテアニンとは、γ−グルタミルエチルアミド、L−グルタミン酸−γ−エチルアミドなどである。テアニンは茶の旨味成分であって、呈味を用途とする食品添加物として使用されている。【0007】本発明に用いるPseudomonas citronellosis GEA(受託番号 FERM P−18958)とは、本発明者らによって新規に見出された菌株であり、属:Pseudomonas、種:citronellosisに属し、γ−グルタミル基転移反応を有するテアニン生産菌である。また、本発明に用いるPseudomonas citronellosis GEAの同定は、定法に基づいた菌学的性質・生化学的性質の解析、および16s rRNAに相当するDNAの塩基配列を既知の微生物と比較することにより行ったものである。【0008】本発明におけるグルタミナーゼとは、Pseudomonas citronellosis GEA由来の酵素である。この反応の酵素源としては、生菌体または各種処理標品、例えば菌体磨砕物、超音波処理菌体、溶剤処理菌体、低温乾燥菌体、硫安塩析物、精製酵素標品などをそのまま、あるいは固定化したものが使用できる。本発明において効率的な酵素反応を行うためには、pHは9〜12の範囲が好ましく、10〜11がより好ましい。また、反応温度は10℃〜55℃が好ましく、25℃〜35℃がより好ましい。【0009】このようにして得られる反応液からのテアニンの単離精製は、公知の方法が用いられる。例えば、溶媒分配および各種クロマトグラフィー、HPLCを組み合わせることにより容易に行うことができる。以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらのみに限定されるものではない。【0010】【実施例】実施例1 テアニン資化性菌の分離滋賀県・京都府の土壌を採取、土壌懸濁液を調製した後に、テアニンを炭素源とする選択培地(テアニン0.5%、酵母エキス0.03%、 KH2PO4 0.05%、K2HPO4 0.05%、MgSO4・7H2O 0.03%、pH7)による継代培養を3回行うことにより、テアニン資化性菌を100株分離した。【0011】実施例2 無細胞抽出液の調製実施例1の選択培地にて、100株のテアニン資化性菌をそれぞれ1リットルで30℃、20時間培養した。その後、集菌・洗浄を行い、30mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)50ミリリットルに懸濁し、5℃〜20℃で超音波破砕し、無細胞抽出液を得た。【0012】実施例3 酵素反応実施例2の無細胞抽出液を用いて、グルタミン0.3M、エチルアミン0.6Mを含有する100mMホウ酸緩衝液(Na2B4O7−NaOH、pH11)中で30℃、24時間酵素反応を行い、テアニンを合成した。【0013】実施例4 テアニン合成活性・グルタミン酸合成活性の測定実施例3にてテアニン合成を行った酵素反応液を適宜希釈し、逆相高速液体クロマトグラフィーを行うことによりテアニン・グルタミン酸の合成量をそれぞれ定量した。分析条件は、次の通りであった。分析カラムとして、Develosil ODS HG−5(野村化学(株))を用い、検出器は、Waters2487デュアルλUV/VIS検出器(Waters社製)を使用した。また、内部標準物質として、ニコチンアミド(ナカライテスク(株))を用いた。移動相は、純水:メタノール:トリフルオロ酢酸=980:20:1の割合で混合したものを用いた。【0014】比較例1100株のテアニン資化性菌との比較株として、Pseudomonas nitroreducensの無細胞抽出液を用いて、テアニン合成活性およびグルタミン酸合成活性の測定を行った。【0015】試験例1 テアニン合成活性を指標としたテアニン資化性菌群からの高テアニン生産菌の選別実施例1にて分離したテアニン資化性菌100株の無細胞抽出液を各菌株毎にそれぞれ実施例2の方法で調製し、実施例3の方法で酵素反応を行い、実施例4の方法でテアニン合成量を調べた。その結果、従来報告されているPseudomonas nitroreducensのテアニン合成活性に比べて、4倍以上高い活性を持つ新規テアニン生産菌の1菌株を得ることに成功した。【0016】【表1】【0017】実施例5 新規テアニン生産菌の同定試験例1で得られた新規テアニン生産菌の菌学的・生化学的性質を定法に従い、次の項目、すなわちグラム染色、細胞形態、カタラーゼテスト、硝酸塩還元能、ピラジナミダーゼ、ピロリドニルアリルアミダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β‐ガラクトシダーゼ、β‐グルクロニダーゼ、α‐グルコシダーゼ、N−アセチル‐β‐グルコサミニダーゼ、ウレアーゼ、ゼラチン液化能、エスクリン利用能、グルコース利用能、リボース利用能、キシロース利用能、マンニトール利用能、マルトース利用能、乳糖利用能、白糖利用能、グリコーゲン利用能について試験を行った。これらの試験成績に基づいて、Bergey’s manual(8版)を参照した結果、菌の属はPseudomonasであることを結論づけた。また、16s rRNAに相当するDNA塩基配列を決定し、既知微生物の同配列との比較を行った。この結果、本菌株を属:Pseudomonas、 種:citronellosisと同定し、新種の菌であることよりPseudomonas citronellosis GEAと命名した。【0018】実施例6 Pseudomonas citronellosis GEAの培養条件の最適化実施例1における菌選択培地(炭素源:テアニン)以外の炭素源を用いた培地によるPseudomonas citronellosis GEAの培養を検討した。炭素源として、グルタミン、グルタミン酸、グルコース、グリセロールなどを検討した結果、グリセロールを用いた時に最も良好な結果を得た。次に培地中のグリセロール濃度を検討した結果、3%グリセロールで最も良好なテアニン合成活性を持つ無細胞抽出液を得ることができた。同時に、酵母エキス濃度を検討したところ、0.3%で最も良好なテアニン合成活性を持つ無細胞抽出液を得ることができた。【0019】【表2】【0020】実施例7 Pseudomonas citronellosis GEA由来の無細胞抽出液を用いた酵素反応条件の最適化実施例1における酵素反応条件で、Pseudomonas citronellosis GEA由来の無細胞抽出液を用いた時のグルタミン、エチルアミンの種々の濃度を検討した。この結果、0.3Mグルタミンと0.9Mエチルアミンを用いて48時間反応した時に、最大のテアニン合成量を得ることができた。【0021】【表3】【0022】実施例8 Pseudomonas citronellosis GEAを用いたテアニン製造グリセリン3.0%、酵母エキス0.3%、KH2PO4 0.05%、K2HPO4 0.05%、MgSO4・7H2O 0.03%を含む培養液20リットルを用いて、30リットル容のジャーファメンター(30℃、回転数2000rpm)中、Pseudomonas citronellosis GEAを20時間培養した。培養後、遠心分離による集菌・洗浄を行い菌体180gを得た。【0023】調製した菌体10gを用いて、0.3Mグルタミン、0.9Mエチルアミン、pH10、30℃の条件で酵素反応を行ったところ、24時間後に1リットルあたり40gのテアニンを得た。テアニンの反応液からの単離精製は、反応液より菌体を除去した後に、Dowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより行った。【0024】この単離物質をアミノ酸アナライザー、ペーパークロマトグラフィーにかけると、標準物質と同じ挙動を示し、塩酸あるいはグルタミナーゼで加水分解処理を行うと、1:1の割合で、グルタミン酸とエチルアミンを生じた。このように、単離物質がグルタミナーゼによって加水分解されたことから、エチルアミンがグルタミン酸のγ位に結合していたことが示される。また、加水分解で生じたグルタミン酸がL型であることも、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GluDH)により確認された。図1には、テアニン標品のIRスペクトルを示した。単離物質は、図1のIRスペクトルと同一のスペクトルが得られた。これらの結果から、単離物質がテアニンであることが確認された。【0025】実施例9 Pseudomonas citronellosis GEA由来グルタミナーゼ固定化酵素を用いたテアニン製造(1)無細胞抽出液の採取実施例8で得られた菌体160gを洗浄後、30mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)2リットルに懸濁し、5℃〜20℃で超音波破砕し、無細胞抽出液を得た。【0026】(2)硫酸アンモニウム分画の採取上記(1)で得られた無細胞抽出液2リットルに7%アンモニア水でpHを7に調整しながら硫酸アンモニウムを添加した。35%飽和溶液を得た段階で、遠心分離により沈殿を取り除き、再び硫酸アンモニウムを添加した。90%飽和溶液を得た段階で一晩放置し、遠心分離により沈殿を回収し、これを0.01Mリン酸カリウム緩衝液に溶かし、同緩衝液に対して透析を行い、透析酵素液を得た。【0027】(3)DEAE−セルロースカラムクロマトグラフィーを用いた精製上記(2)で得られた透析酵素液を0.01Mリン酸カリウム緩衝液で緩衝化した。次にDEAE−セルロースカラム(15×60cm)に吸着させ、グルタミナーゼを0.1Mの食塩を含む緩衝液で溶出した。この結果、グルタミナーゼ粗精製品800mgを得た。【0028】(4)固定化グルタミナーゼの調製予め、水で膨潤させた市販の固定化担体であるキトパール3510(富士紡績(株))を十分に水洗した後0.1Mリン酸ナトリウム(pH6.8)で平衡化した。この湿潤担体2gを上記(3)にて調製したグルタミナーゼ粗精製品35mgを含む5mlの20mMリン酸ナトリウム(pH6.8)に懸濁し、4℃で一晩撹拌した。更に、グルタルアルデヒドを終濃度2.5%(V/V)で添加し、4℃で3時間放置することにより架橋した。以上の操作により得られた固定化酵素を0.1Mリン酸ナトリウム(pH6.8)で十分に洗浄し、4℃で保存した。【0029】(5)固定化グルタミナーゼによる酵素反応上記(4)で作製した固定化グルタミナーゼに、基質溶液(4%グルタミン、25%エチルアミン pH10.0)を30℃、SV=0.2の流速で通筒した場合、65%の収率でテアニンを得ることができた。テアニンの反応液からの単離精製は、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより行った。【0030】この単離物質をアミノ酸アナライザー、ペーパークロマトグラフィーにかけると、標準物質と同じ挙動を示した。また、塩酸あるいはグルタミナーゼで加水分解処理を行うと、1:1の割合でグルタミン酸とエチルアミンを生じた。このように、単離物質がグルタミナーゼによって加水分解されたことから、エチルアミンがグルタミン酸のγ位に結合していたことが示された。また、加水分解で生じたグルタミン酸がL型であることも、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GluDH)により確認された。テアニンのIRスペクトル分析を行ったところ、標品、単離物質ともに、実施例8と同様のスペクトルが得られた。これらのことから、単離物質がテアニンであることが確認できた。【0031】【発明の効果】本発明によって、テアニンの効率的な新規製造法を提供し、簡易かつ工業的有利な生産を可能とすることができる。【0032】【図面の簡単な説明】【図1】テアニンのIRスペクトルを示した図である。 Pseudomonas citronellosis GEAを用いることを特徴とするテアニンの製造法。 Pseudomonas citronellosis GEA由来のグルタミナーゼを用いることを特徴とする請求項1に記載のテアニンの製造法。 【課題】本発明は、テアニンの効率的な新規製造法を提供し、簡易かつ工業的に有利なテアニン生産を可能とすることを目的とする。【解決手段】本発明者らが自然界の土壌より新規に分離・選定したPseudomonas citronellosis GEA(受託番号FERM P−18958)は、属:Pseudomonas、種:citronellosisに属し、γ−グルタミル基転移反応を有するテアニン生産菌である。この生産菌由来のグルタミナーゼをグルタミンとエチルアミンの混合物中にpH9〜12の条件下で用いることにより、従来の方法に比べると非常に効率的にテアニンを製造することができる。【選択図】 なし