タイトル: | 公開特許公報(A)_インターフェロンβ複合体の製造方法 |
出願番号: | 2002198040 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C07K14/565,A61K38/21 |
成見 英樹 佐藤 美由紀 曽根 三郎 JP 2004035515 公開特許公報(A) 20040205 2002198040 20020705 インターフェロンβ複合体の製造方法 東レ株式会社 000003159 谷川 英次郎 100088546 成見 英樹 佐藤 美由紀 曽根 三郎 7 C07K14/565 A61K38/21 JP C07K14/565 A61K37/66 A 16 OL 15 4C084 4H045 4C084AA06 4C084BA37 4C084BA44 4C084CA59 4C084DA23 4C084NA05 4H045AA20 4H045BA10 4H045BA57 4H045DA17 4H045EA22 4H045FA53 4H045FA58 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、インターフェロンβ複合体の製造方法に関する。【0002】【従来の技術】過去に、ポリエチレングリコールなどの水溶性ポリマーを結合した生体分子が臨床的に有用な特性を持っていることが示されている(Inada et al., J. Bioactand Compatible Polymers 5, 343 (1990), Delgado et al., Critical Reviewsin Therapeutic Drug Carrier Systems 9, 249 (1992) ; Katre, Advanced Drug Delivery Systems 10, 91 (1993)参照)。その中には、より優れた物理的及び熱安定性、酵素分解の受けにくさに対する保護、溶解度の増加、インビボの循環半減期の延長、クリアランス値の減少、及び増強された効力が示されている。【0003】天然型あるいは天然型と同一の一次構造を持つインターフェロンβに水溶性ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)を結合するのに各種の方法が用いられ得る。一般的には、スクシンイミドエステル反応PEG化試薬によりタンパク質のアミノ基に、マレイミド反応やピリジルジスルフィド反応PEG化試薬によりタンパク質のチオール基に結合する方法などが用いられる。これらの試薬は反応溶液のpHが他の多くの蛋白質にとって安定な中性条件で高効率に結合反応が進行するために好都合である。【0004】しかしながら、インターフェロンβにおいては中性溶液条件下では凝集等が原因で失活することが知られており、殊に糖鎖を欠いた組み換え型タンパクにおいては顕著である。この特殊性から、他の多くのタンパク質とは異なり、インターフェロンβを一般的なアミノ基およびチオール基結合PEG化試薬を用いて高効率かつ活性を維持してPEGと結合させることは困難であった。例えば、Katreらは米国特許4,766,106および米国特許4,917,888において、大過剰のメトキシ−ポリエチレングリコールN−サクシニミジルグルタレートおよびメトキシ−ポリエチレングリコールN−サクシニミジルスクシネートによるインターフェロンβのPEG化を記載している。この実験において使用されたインターフェロンβは市販製品Betaseronであり、微生物宿主細胞中で生産されたことによるグリコシレーションの不在はその水溶液中での溶解性を低下させた。ポリエチレングリコール結合反応を高pHで行った結果得られた複合体に関しては溶解性をもたらしたが、主要な問題は活性および収量のレベルの低下であった。また、エル・タイヤー,ナビルらはWO99/55377において、モノメトキシーポリエチレングリコール−OPSS(オルトピリジルジスルフィド誘導体)によるインターフェロンβのCys17を介したPEG化について記載している。しかし、この結合反応もインターフェロンβが安定な酸性pHで実施されており、インターフェロンβ複合体の収率は50%を超えることはない。【0005】1997年1月28日に公開された日本国特許第3177449号「水溶性ポリマーで修飾したコンセンサスインターフェロン」には還元的アルキル化方法を用いてコンセンサスインターフェロンのN末端に選択的にポリエチレングリコールを結合させる方法について述べられている。アミノ基1つ以上を有するタンパク部分を水溶性ポリマー部分と還元的アルキル化条件下、上記タンパク部分のアミノ末端でαアミノ基を選択的に活性化させるのに適するpHで反応させることにより、水溶性ポリマーをαアミノ酸に選択的に結合するという原理によるが、この方法によりインターフェロンβのPEG化を実施すると、モノPEG 化は実際には起こらず、いずれかのリシン残基またはN末端に非選択的に結合し、そのため不均一な混合物が生成し、さらに同混合物は、十分な抗ウイルス活性および細胞増殖抑制活性を持たなかった。すなわちリシン残基またはN末端のアミノ基などのアミノ基を用いたモノPEG 化をインターフェロンβに対して行うことはできず、また生物活性を維持したPEG化インターフェロンβを得ることもできない。【0006】このようなアミノ基を用いる方法とは別に、タンパク質のシステイン残基に水溶性ポリマーを結合させる手段がある。PCT出願WO99/55377にはmPEG−OPSSを用いてインターフェロンβのCys17を介したモノPEG化について記載されている。インターフェロンβは5つのシステイン残基を持ち、そのうちCys17以外の4つは分子内でジスルフィド結合しているため、原理的には上の方法でモノPEG化が可能であるが、上述したように同方法によるとPEG化効率が著しく低く実用的ではない。低効率の原因は反応溶液のpHに止まらず、結合させようとするポリマーの分子量が高くなると、標的とするCys17に立体的に接近し得ないことにも問題があると考えられる。インビボの循環半減期の延長、クリアランス値の減少などの効果を明確に得るためには結合するPEGの分子量が限定される。腎臓のクリアランスを免れるためにはPEG化インターフェロンβの分子量は60kDa以上であることが望ましいが、上の方法によると、実施例に示された通り5kDa程度のPEGを結合できるにすぎず、PEG化インターフェロンβの分子量は60kDaに達することがない。同出願においては、より大きなPEG部分の結合のために、ステップワイズによるPEG化という煩雑な方法を提示している。さらに、mPEG−OPSSを用いたPEG化はPEGとインターフェロンβとの結合部分であるジスルフィド結合が生体内で著しく不安定であり、PEG化による恩恵を受けることができない。【0007】このようにインターフェロンβの物性が障壁となって、産業化に必要となる高効率で活性を維持したインターフェロンβ複合体を製造することはできなかった。【0008】【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の目的は、インターフェロンβの生物活性を損なうことなく、インターフェロンβと水溶性ポリマーとを結合することができる、インターフェロンβ複合体の簡便かつ高効率な製造方法を提供することである。【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、特定の糖類等を反応溶液に添加することによりアミノ基あるいはチオール基反応性の水溶性ポリマーを中性で高効率かつインターフェロン活性を低下させることなくインターフェロンβに結合させることができることを見い出し本発明を完成した。【0010】すなわち、本発明は、インターフェロン活性低下抑制剤の存在下、pH6.5ないし8.5において、インターフェロンβと水溶性ポリマーとを結合させることを含む、インターフェロンβ複合体の製造方法を提供する。また、本発明は、インターフェロンβのアミノ基の一部を化学修飾により保護した状態で水溶性ポリマーをインターフェロンβのアミノ基に結合させることを含む、インターフェロンβ複合体の製造方法を提供する。さらに、本発明は、インターフェロンβの中和抗体又はその抗原結合性断片とインターフェロンβとを結合させた状態で、水溶性ポリマーとインターフェロンβを結合させることを含むインターフェロンβ複合体の製造方法を提供する。【0011】【発明の実施の形態】上記の通り、本発明の方法では、インターフェロン活性低下抑制剤の存在下、pH6.5ないし8.5において、インターフェロンβと水溶性ポリマーとを結合させる。【0012】ここで、インターフェロン活性低下抑制剤とは、これを添加することにより、インターフェロンβをpH6.5〜8.5の環境に置くことに起因するインターフェロンβの抗ウイルス活性の低下が、非添加の場合に比較して抑制される物質を意味する。なお、インターフェロンβの抗ウイルス活性は、下記実施例に記載するような公知の方法(例えば、Rubinstein et al., J. Virol. 37,755(1981); Borden et. Al., Canc. Res. 42, 4948 (1982)等)により容易に測定することができる。インターフェロン活性低下抑制剤の例として、糖類、とりわけ、糖単位の数が5以下の少糖類及び単糖類並びにこれらの糖アルコール、炭素数2〜6の多価アルコール等を挙げることができる。これらのうち、グルコース、マンニトール、ソルビトール、シュクロース又はトレハロースのような、二糖類及び単糖類並びにこれらの糖アルコール並びにエチレングリコールやグリセロールのような、炭素数2又は3の多価アルコールが好ましく、特に二糖類及び単糖類並びにこれらの糖アルコールが好ましい。これらのインターフェロン活性低下抑制剤は、単独でも2種以上組み合わせても用いることができる。【0013】水溶性ポリマーは、人体に無害で、インターフェロンβの生理活性を利用する目的で生体にインターフェロンβと該水溶性ポリマーとの複合体を投与した際に、該複合体が血液に溶解するのに必要なレベルの水溶性を有するものである。上述のように、生理活性物質に水溶性ポリマーを結合することにより、生体内での該生理活性物質の物理的及び熱安定性、酵素分解の受けにくさに対する保護、溶解度の増加、インビボの循環半減期の延長、クリアランス値の減少を図ることが従来から行われているが、本発明においても、このような目的で従来から使用されている水溶性ポリマーを好ましく用いることができる。このような水溶性ポリマーの好ましい例として、ポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコールを挙げることができる。【0014】インターフェロンβ中のチオール基に水溶性ポリマーを結合する場合には、末端にオルトピリジルジスルフィド、ビニルスルフォン、マレイミド又はヨードアセトアミド構造のようなチオール基反応性の構造を有するもの、好ましくはマレイミド構造を有する水溶性ポリマーを用いることができる。また、インターフェロンβ中のアミノ基に水溶性ポリマーを結合する場合には、末端にヒドロキシスクシンイミドエステル又はニトロベンゼンスルホネートエステル構造のような、アミノ基反応性の構造を有する水溶性ポリマーを用いることができる。末端にこれらの構造を有する水溶性ポリマーは、従来よりアミノ基やチオール基との結合のために広く用いられており、この分野において周知であり、周知の合成方法により容易に製造することもできるし、このような末端活性化PEGは、市販されてもいる。本発明では、このような市販品も好ましく用いることができる。【0015】水溶性ポリマーの平均分子量は、特に限定されないが、生体内でのインターフェロンβの物理的及び熱安定性、酵素分解の受けにくさに対する保護、溶解度の増加、インビボの循環半減期の延長、クリアランス値の減少を図る観点から、平均分子量は約4400〜80000ダルトンが好ましく、さらに好ましくは、約20000〜60000ダルトンである。【0016】本発明の方法に供されるインターフェロンβは、天然タンパク質、天然タンパク質の糖鎖を天然のものから改変したもの、もしくは組換えタンパク質、組み替えタンパク質で天然タンパク質と異なる糖鎖を有するもしくは糖鎖を有しないものを挙げることができ、組織、タンパク質合成、天然細胞又は組換え細胞のような、いかなる通常のソースからも得られる。特にインターフェロンβのチオール基への水溶性ポリマーの結合には天然型インターフェロンβの糖鎖より分子量の小さい糖鎖をもつインターフェロンβが好ましく、糖鎖を持たないインターフェロンβを用いることが更に好ましい。このような糖鎖の異なるインターフェロンβは天然型のインターフェロンβに糖転移酵素、糖分解酵素など各種の酵素を作用させることによって得られ、また、天然タンパク質と異なる糖鎖を有するもしくは糖鎖を有しないインターフェロンβは、各種組換え細胞における通常の方法での生産もしくは糖転移酵素、糖分解酵素を強制発現する組換え細胞における生産によって得られる。遺伝子工学的に生産された、糖鎖を持たないインターフェロンβは市販されており、本発明の方法では、このような市販のインターフェロンβも好ましく用いることができる。【0017】また、一般に、生理活性を有するタンパク質のアミノ酸配列を構成するアミノ酸のうち、少数のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、又は少数のアミノ酸が挿入され若しくは付加されてもその生理活性が維持される場合があることは当業者に広く知られている。インターフェロンβ(アミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す)のアミノ酸配列と相同性が80%以上、好ましくは90%以上のアミノ酸配列を有し、かつ、インターフェロンβ活性を有するタンパク質、さらに好ましくは、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、1個ないし数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、又は1個ないし数個のアミノ酸が挿入され、付加されたタンパク質であってインターフェロンβ活性を有するタンパク質も、本発明において、「インターフェロンβ」として用いることができる。もっとも、天然のインターフェロンβと同じアミノ酸配列を有するインターフェロンβが最も好ましい。【0018】インターフェロンβと水溶性ポリマーとの結合反応は、pH6.5ないし8.5、好ましくはpH7.5〜8.5において、上記インターフェロン活性低下抑制剤の存在下、水系媒体中、好ましくは緩衝液中で、インターフェロンβと水溶性ポリマーとを反応させることにより容易に行うことができる。インターフェロン活性低下抑制剤の濃度は、特に限定されず、反応混合物全体の重量に対し、約1〜90%が好ましく(複数種類のインターフェロン活性低下抑制剤を用いる場合には合計量、以下同じ)、さらに好ましくは約1〜50%、さらに好ましくは約10〜30%程度である。インターフェロンβと水溶性ポリマーとの混合比率(インターフェロンβ:水溶性ポリマー)は、特に限定されないが、通常、モル比で、約1:1〜1:100程度であり、特に、マレイミド活性化水溶性ポリマーでは約1:3ないし1:20が好ましく、スクシンイミジルエステル活性化水溶性ポリマーでは約1:4ないし1:70が好ましい。反応温度は通常4〜40℃、好ましくは4〜25℃である。反応時間は、反応温度等に応じて適宜選択できるが、通常、約1時間〜24時間程度が適当である。結合反応後、例えばイオン交換、ゲル濾過、疎水又は親和性担体を用いたクロマトグラム等の周知の方法により、未反応のインターフェロンβや水溶性ポリマーを除去して所望のインターフェロンβと水溶性ポリマーとの複合体を精製することができる。【0019】上記した本発明の方法の好ましい1つの態様では、インターフェロンβのアミノ基の一部を、アミノ基反応性低分子化合物と反応させて化学修飾することにより保護した後、水溶性ポリマーをインターフェロンβのアミノ基に結合させる。ここで、アミノ基反応性低分子化合物としては、水溶性ポリマー結合後に脱保護反応が可能なものが望ましく、DMMA(ジメチルマレイン酸無水物、The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,Vol290,368−372,1999)等のアルキルマレイン酸無水物や、Boc(t−butoxycarbonyl group)等を例示することができるがこれらに限定されるものではない。アミノ基反応性低分子化合物の分子量は、特に限定されないが、100〜500程度が好ましい。このようなアミノ基反応性低分子化合物は、インターフェロンβに対してモル比で好ましくは約2倍〜100倍、さらに好ましくは約5倍〜50倍添加することが好ましい。このアミノ基の保護反応の反応温度は、特に限定されないが、0oC〜25oC程度が適当であり、また、反応時間は、反応温度等に応じて適宜選択できるが、通常、約10分間〜2時間程度が適当である。反応溶媒や、反応混合物中のインターフェロンβの濃度の好ましい範囲等の条件は、水溶性ポリマーとの結合反応における好ましい条件と同様でよい。下記実施例において具体的に示されるように、このようなアミノ基反応性低分子化合物をインターフェロンβと反応させた後、前記のようにインターフェロンβを水溶性ポリマーと結合させることにより、アミノ基を保護しない場合に比べて、インターフェロンβの生理活性が高くなる。これは、アミノ基反応性低分子化合物自体は、どのアミノ基と反応するかを選択することはできないものの、反応性の高いアミノ基がインターフェロンβの活性部位に存在するので、アミノ基の一部を保護すれば、それによって活性部位のアミノ基が保護される確率が高く、水溶性ポリマーは、インターフェロンβの活性部位以外に位置するアミノ基に結合する確率が高くなるので、インターフェロンβの活性低下が抑制されるものと考えられる。水溶性ポリマーを結合した後、保護したアミノ基を脱保護することが好ましく、脱保護反応は、用いるアミノ基反応性低分子化合物に応じた公知の方法により行うことができる。例えば、アミノ基反応性低分子化合物としてDMMAを用いる場合には、酢酸等の酸によりpHを5.0にすることにより容易に行うことができる。【0020】なお、このようにアミノ基の一部を化学修飾した状態で水溶性ポリマーを結合することにより、アミノ基を保護しない場合に比べて、インターフェロンβの生理活性が高くなるという知見は、本願発明により初めて見出された知見であり、この方法を用いる場合は、インターフェロン活性低下抑制剤を用いるか否かに関わらず、本発明の範囲に含まれる。もっとも、インターフェロン活性低下抑制剤を用いる上記本発明の一態様として、アミノ基の一部を化学修飾した状態で水溶性ポリマーを結合する方法を採用することが好ましい。【0021】本発明のもう1つの好ましい態様では、インターフェロンβの中和抗体とインターフェロンβとを反応させて結合した後、水溶性ポリマーをインターフェロンβに結合させる。このようにすると、インターフェロンβの活性中心は中和抗体により保護された状態で水溶性ポリマーが結合されるので、水溶性ポリマーを結合することに起因するインターフェロンβの活性低下を抑制することができる。中和抗体に代えて、F(ab’)2、Fabなどの抗原結合性断片を好ましく用いることもできる。抗体としては、モノクローナル抗体が好ましい。インターフェロンβの中和モノクローナル抗体は公知であり、このような公知のモノクローナル抗体を用いることもできるし、また、周知の方法により中和抗体を作製することもできる。すなわち、モノクローナル抗体を作製する常法であるケーラーとミルシュタインの方法によりモノクローナル抗体を種々作製し、インターフェロンβと反応させて抗原抗体複合物を形成し、この抗原抗体複合物の抗ウイルス活性を調べ、抗ウイルス活性が消失するものをスクリーニングすることにより作製することができる。インターフェロンβと抗体又はその抗原結合性断片との反応は、通常の免疫反応の条件で反応させることができ、4oC〜37oCで反応を行うことができる。反応時間は、反応温度等により適宜選択されるが、4oCの場合には一夜、25oCの場合には30分間〜2時間程度が適当である。免疫反応後、酸処理(例えば塩酸や硫酸のような無機酸)のような周知の処理によりインターフェロンβと抗体又はその断片とを解離させることにより、所望のインターフェロンβと水溶性ポリマーとの複合体が得られる。【0022】上記免疫反応は、上記抗体又はその抗原結合性断片を担体、好ましくはタンパク質を固相化できる高分子、例えばNHSやBrCN活性化アガロースやセファロース(商品名)に固相化した担体を用いることで、インターフェロンβを結合後、水溶性ポリマーと反応を行い、その後に固相化担体を適当な溶液、例えば水溶性ポリマーを含まない反応液などの、抗体とインターフェロンβの結合を解離する作用をもたない緩衝液で洗浄することにより容易に未反応の水溶性ポリマーから分離精製することに用いることが可能である。また、未反応の水溶性ポリマーを除いた後の固相化抗体からのインターフェロンβ複合体の溶出は低イオン強度の酸、例えば10mM塩酸などを用いることが出来、溶出後に次の精製工程に適した溶液組成になるように添加物を加えることも容易である。また、上記のような担体を用いることにより、水溶性ポリマーとの結合反応後の、不要となった抗体又はその断片の除去が容易になるばかりでなく、インターフェロンβと水溶性ポリマーとの反応後の不要物の除去精製工程を同一担体で連続して行うことも可能になる。反応液中の未反応の水溶性ポリマーや塩は、目的のインターフェロンβ複合体から未反応のインターフェロンβを除去するための精製操作、例えばイオン交換、ゲル濾過、疎水、親和性担体を用いたクロマトグラムの効率を低下させるため、通常限外濾過や余分なカラム操作などの前工程が行われる、これを省くことによって収率の向上と操作の簡便化の効果が得られる。なお、担体に固相化した抗インターフェロンβ抗体の断片とインターフェロンβとを反応させた後、PEGを結合し、得られたインターフェロンβ複合体を精製した実施例が下記実施例4に詳細に記載されている。【0023】なお、インターフェロンβの活性部分を、中和抗体又はその抗原結合性断片により保護した状態で、水溶性ポリマーを結合するという方法は、本願発明により初めて提供された新手法であり、この方法を用いる場合は、インターフェロン活性低下抑制剤を用いるか否かに関わらず、本発明の範囲に含まれる。もっとも、インターフェロン活性低下抑制剤を用いる上記本発明の一態様として、インターフェロンβの活性部分を、中和抗体又はその抗原結合性断片により保護した状態で、水溶性ポリマーを結合する方法を採用することが好ましい。【0024】なお、上記した、アミノ基反応性化合物による保護脱保護反応や抗体との結合反応の多くは中性溶液中で進行するため、水溶性ポリマーとの結合反応に用いる上述のインターフェロン活性低下抑制剤を用いることが非常に好ましく、この反応条件が見い出される以前においては、これらの方法のインターフェロンβへの適用されたことは無かった。【0025】さらに、上記した通り、インターフェロンβ中のフリーのシステインのチオール基に水溶性ポリマーを結合する場合、特に望ましい分子量である20000〜60000ダルトンの水溶性ポリマーをインターフェロンβのシステイン残基に結合させるには、インターフェロンβの糖鎖が天然型より小さいこと、もしくは糖鎖が除去されているあるいは糖鎖をもとから持っていないことが好ましい。このようなインターフェロンβを用いることにより、一段階の反応で、還元解裂することのない結合反応を高効率で進行させることができる。なお、この結合反応に用いる水溶性ポリマーや好ましい反応条件は上記した通りである。【0026】【実施例】以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。【0027】実施例1pH7での組換え型インターフェロンβへのポリエチレングリコール結合反応における添加剤の効果0.5M塩化ナトリウム、100mM酢酸緩衝液(pH5.0)に保存した組換え型ヒトインターフェロンβ(最終濃度200μg/ml、Goeddelらの方法(Nucleic Acid.Res.Vol.8,4057−4074(1980))に従って組み換え大腸菌により発現精製を行った)に各々、グルコース(最終濃度14.3%)又はエチレングリコール(最終濃度24.5%)を添加した後、非添加コントロールと共に1Mリン酸水素二ナトリウム溶液を用いてpHを7.0に調節した。マレイミド活性化ポリエチレングリコール(平均分子量20000、日本油脂より購入)をインターフェロンβに対して約10倍モル混合し、4℃で一晩結合反応をさせた。同時にマレイミド活性化ポリエチレングリコールを添加していない反応液を各々調製してインターフェロン活性の変化を測定した。インターフェロンβとポリエチレングリコールの結合効率はSDS−PAGEによる分離後、クマシーブリリアントブルー染色を施した際のバンドの呈色度にて(図1)、また、反応前後のインターフェロン活性は一般に培養細胞の抗ウイルス活性に基づく生物活性測定法(Bioassay法)(Rubinstein et al., J. Virol. 37,755(1981); Borden et. Al., Canc. Res. 42, 4948 (1982)参照)もしくはこれと同等の結果が得られる酵素抗体法により測定した。具体的には、インターフェロンβの抗ウイルス活性は次のようにして測定した。セミコンフルエントのFL細胞を1mM−EDTAを含む0.25%トリプシン液で剥離後、細胞播種用培地を加えた。血球計算盤を用いて、細胞懸濁液の細胞数を計測し、3〜4×105cells/mlとなるように細胞播種用培地で希釈調製した。調製した細胞懸濁液を攪拌しながらマルチチャンネルピペットを用いてマイクロプレート全wellに加え、10〜15分静置し、37℃、5%CO2インキュベータ内で一晩培養した。【0028】冷却下で、IFN希釈用培地を用いて、ヒトIFNβ標準品を150IU/ml前後に、また測定サンプルは標準品と類似した活性となるように希釈した。【0029】トランスファープレート台に左側がH列となるようにトランスファープレートを載せ、マルチチャンネルピペットを用いてIFN希釈用培地を全wellに50μl加えた。2H〜11Hの各wellにマイクロピペットを用いて前希釈した標準品および測定サンプルを50μl加えた。マルチチャンネルピペットを用いて2H〜11H各well中の培地とIFN液を泡立てないように静かに吸排を繰り返して攪拌し、50μlをG列に移した。G列〜A列に向けて、同様の操作で攪拌し2倍段階希釈を行った。A列の希釈が終えたところで液50μlを捨てた。トランスファープレートを静かに持ち上げ、37℃、5%CO2インキュベータ内で培養した細胞の上に乗せた【0030】ウイルス希釈用培地に凍結融解したウイルスを加えた。培養したプレートの上清をステ、マルチチャンネルピペットを用いて、洗浄用培地を100μlを加え、さらに同洗浄培地を捨てた。1A〜Dおよび12A〜Dを除く全てのwellに上で、調製したウイルス希釈液を100μl加え、37℃インキュベータ内で1晩培養した。【0031】顕微鏡でCPE(cytopathic effect)の状態を観察した。さらに、プレートの上清を棄て、クリスタルバイオレット染色液で10〜15分染色した後、染色液を棄て、乾燥させた。OD590nmを測定し、各プレートの1A〜Dあるいは12A〜Dの平均ODを100%とし、1E〜Hあるいは12E〜Hの平均値を0%とし、各wellのOD%を算出した。OD50%の希釈倍率の逆数を実測値IFN活性とした。各プレートの標準品実測値から、サンプル活性を換算した。【0032】結果を表1に示す。pH7におけるインターフェロン活性の低下抑制効果は、エチレングリコール又はグルコースを用いた場合がコントロールよりも明らかに高かった(表1.マレイミドPEGなしカラム参照)。ポリエチレングリコールの結合効率は、グルコースが最も高く、最も効率良く複合体が得られた(図1参照)。複合体の残存活性も、グルコース又はエチレングリコール添加によって得られたものが、未反応のpH5.0におけるインターフェロンβの活性に対する比で80%前後もあり、高かった(表1.マレイミドPEG反応物カラム参照)。【0033】【表1】表1【0034】実施例2活性化ポリエチレングリコールのインターフェロンβ結合反応における反応溶液pHの影響0.5M塩化ナトリウム、100mM酢酸緩衝液(pH5.0)に保存した組換え型ヒトインターフェロンβ(最終濃度200μg/ml)にグルコース(最終濃度17.0%)を添加した後、非添加コントロールと共に1Mリン酸水素二ナトリウム溶液を用いてpHを4.9、5.5、6.2、6.8、7.5に調節した。マレイミド活性化ポリエチレングリコール(平均分子量20000、日本油脂より購入)をインターフェロンβに対して約10倍モル混合し、室温で3時間結合反応を行った。インターフェロンβとポリエチレングリコールの結合効率をSDS−PAGEによる分離後、クマシーブリリアントブルー染色を施した際のバンドの呈色度にて解析した(図2)。その結果、試験した上記pHの中では、pH6.8以上にした場合に、殆ど全てのインターフェロンβがポリエチレングリコールと結合する高効率が得られることが判った。【0035】実施例3pHによる脱保護可能なアミノ基保護剤を用いたインターフェロンβ複合体の作製0.5M塩化ナトリウム、100mM酢酸緩衝液(pH5.0)に保存した組換え型ヒトインターフェロンβ(最終濃度200μg/ml)にグルコース(最終濃度17.0%)を添加した後、1Mリン酸水素二ナトリウム溶液を用いてpHを8.0に調節した。DMMA(Acros Organics社より購入)をインターフェロンβに対して0、3、10、30、100倍モル混合し、氷中で30分反応させた。更にスクシンイミジルエステル活性化ポリエチレングリコール(NHS−PEG、平均分子量20000、日本油脂より購入)をインターフェロンβの50倍添加して1時間結合反応を行った。次に、4M酢酸を用いて反応液をpH5.0に戻した後に37℃で15分間脱保護を行った。反応効率をSDS−PAGEにより解析した結果、DMMAによるインターフェロンβ複合体形成の大きな低下は見られなかった。一方、反応前後のインターフェロン活性を上記のように測定した結果(表2)、DMMAを10倍モル以上反応させてアミノ基を保護することで活性低下に繋がる部位へのポリエチレングリコールが抑制されることが判った。【0036】【表2】表2.DMMAによるアミノ基保護でのNHS−PEG結合IFN−βの抗ウイルス活性【0037】実施例4抗インターフェロンβ抗体を用いたNHS−PEGの結合反応とインターフェロンβ複合体の精製ヒトインターフェロンβに対して中和活性を有する公知のモノクローナル抗体であるYSB−1(Sugi,M.et al.,Hybridoma,vol.6,313−320,1987)をパパインでFabに分解、精製した。これをNHS活性化セファロース(アマシャムファルマシア社より購入)に固相化した。固相化の具体的な方法は次の通りであった。6カラム体積の1mM塩酸でNHS活性化セファロースを洗浄した後、0.2M NaHCO3,0.5M NaCl(pH8.3)に溶解した上記Fabを室温で30分間反応させた。未反応のNHSを6カラム体積の0.5Mエタノールアミンで不活化した。その後0.1M酢酸、0.5M NaCl(pH4.0)、100mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で洗浄した。【0038】0.5M塩化ナトリウム、100mM酢酸緩衝液(pH5.0)に保存した組換え型ヒトインターフェロンβ(最終濃度200μg/ml)にグルコース(最終濃度17.0%)を添加した後、1Mリン酸水素二ナトリウム溶液を用いてpHを7.5に調節し、YSB−1固相化担体(最終濃度30%V/V)を懸濁した。室温で1時間反応させたのち、スクシンイミジルエステル活性化ポリエチレングリコール(NHS−PEG、平均分子量20000、日本油脂より購入)をインターフェロンβの40倍添加して30分間結合反応を行った。17%グルコースを含むリン酸緩衝液(pH7.0)で担体を洗浄した後、10mM塩酸でインターフェロンβ複合体を溶出した。溶出液に含まれていた未反応のインターフェロンβを分離するため、酢酸緩衝液を加えてpH5.0に調整した後、ゲル濾過カラムに供した。得られたインターフェロンβ複合体のインターフェロン活性を上記のように測定した結果、未修飾インターフェロンβ活性の80%を維持していた。【0039】実施例5インターフェロンβのCys17のチオール基へのポリエチレングリコール結合反応における糖鎖サイズの効果検討0.5M塩化ナトリウム、100mM酢酸緩衝液(pH5.0)に保存した組換え型ヒトインターフェロンβ(最終濃度200μg/ml)、又は天然型ヒトインターフェロンβ(最終濃度200μg/ml)にグルコース(最終濃度17.0%)を添加した後、1Mリン酸水素二ナトリウム溶液を用いてpHを7.5に調節した。マレイミド活性化ポリエチレングリコール(平均分子量20000、40000、日本油脂より購入)をインターフェロンβに対して約10倍モル混合し、室温で3時間結合反応を行った。インターフェロンβとポリエチレングリコールの結合効率をSDS−PAGEによる分離後、クマシーブリリアントブルー染色を施した際のバンドの呈色度にて解析した結果、天然型インターフェロンβのシステイン残基への結合効率は5%以下と著しく低く、これに対し大腸菌組換え型インターフェロンβには実施例2同様80%以上の高効率でポリエチレングリコールが導入された。このことから、ヒトインターフェロンβのCys17のチオール基に分子量20000以上の高分子のポリエチレングリコールを高効率で結合させるためには、インターフェロンβの糖鎖が障害にならにいよう欠失した組換え型もしくは低分子量の組換え型か天然型を低分子量に処理した改変型を用いることが好ましいことが見い出された。このような糖鎖欠失もしくは低分子型のインターフェロンβでは1段階の反応で直接高分子量のポリエチレングリコールを結合させることが可能であることも産業利用上有利である。なお、インターフェロンβにおける糖鎖は水溶性に寄与しており、この欠失もしくは改変型は特に中性溶液での失活、凝集特性を増して高効率なポリエチレングリコール結合反応進行の妨げとなるため、実施例1に示したように糖などの失活、凝集抑制物質の共存が必要である。【0040】【発明の効果】本発明により、インターフェロンβの生物活性を損なうことなく、インターフェロンβと水溶性ポリマーとを結合することができる、インターフェロンβ複合体の簡便かつ高効率な製造方法が提供された。本発明の方法によれば、水溶性ポリマーとの結合反応に好適な中性域において、インターフェロンβの活性が低下することを抑制できるので、従来法に比較して、水溶性ポリマー結合後のインターフェロンβの活性が有意に高い。また、化学修飾又は抗インターフェロンβ中和抗体との反応により、アミノ基を部分的に保護した状態で水溶性ポリマーを結合することにより、水溶性ポリマーの結合によるインターフェロンβの活性低下をより一層防止することができる。さらに、本発明の方法により、インターフェロンβのCys17のチオール基に、高分子量の水溶性ポリマーを一段階の反応で結合させることが可能になった。【0041】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】インターフェロン活性低下抑制剤存在下、pH7でのPEG化インターフェロンβのSDS−PAGE像を示す図である。【図2】グルコース存在下、pH4.9〜7.5でのPEG化インターフェロンβのSDS−PAGE像を示す図である。 インターフェロン活性低下抑制剤の存在下、pH6.5ないし8.5において、インターフェロンβと水溶性ポリマーとを結合させることを含む、インターフェロンβ複合体の製造方法。 前記インターフェロン活性低下抑制剤が、糖単位の数が5以下の少糖類及び単糖類、これらの糖アルコール、並びに炭素数2ないし6の多価アルコールから成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の方法。 前記インターフェロン活性低下抑制剤が、二糖類、単糖類及びこれらの糖アルコール、並びに炭素数2又は3の多価アルコールから成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項2記載の方法。 前記インターフェロン活性低下抑制剤が、グルコース、マンニトール、ソルビトール、シュクロース、トレハロース、エチレングリコール及びグリセロールから成る群より選ばれる請求項3記載の方法。 前記水溶性ポリマーが、ポリアルキレングリコールである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 前記ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである請求項5記載の方法。 前記水溶性ポリマーの平均分子量が2万〜6万ダルトンである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。 前記水溶性ポリマーは、インターフェロンβのアミノ基又はチオール基に結合される請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。 前記水溶性ポリマーは、インターフェロンβのアミノ基の一部を化学修飾により保護した状態でインターフェロンβのアミノ基に結合される請求項8記載の方法。 インターフェロンβのアミノ基の一部を化学修飾により保護した状態で水溶性ポリマーをインターフェロンβのアミノ基に結合させることを含む、インターフェロンβ複合体の製造方法。 インターフェロンβの中和抗体又はその抗原結合性断片とインターフェロンβとを結合させた状態で、前記水溶性ポリマーとインターフェロンβを結合させる請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。 インターフェロンβの中和抗体又はその抗原結合性断片とインターフェロンβとを結合させた状態で、水溶性ポリマーとインターフェロンβを結合させることを含むインターフェロンβ複合体の製造方法。 前記インターフェロンβは、天然型インターフェロンβの糖鎖より分子量の小さい糖鎖を持つか又は糖鎖を持たないインターフェロンβであり、前記水溶性ポリマーは、システインのチオール基に結合される請求項8記載の方法。 前記インターフェロンβは、糖鎖を有さない組換え型インターフェロンβである請求項13記載の方法。 インターフェロンβとの結合反応に用いる上記水溶性ポリマーが、末端にアミノ基又はチオール基反応性の構造を有する、請求項8ないし14のいずれか1項に記載の方法。 前記アミノ基又はチオール基反応性の構造がマレイミド又はスクシンイミジル基である請求項15記載の方法。 【課題】インターフェロンβの生物活性を損なうことなく、インターフェロンβと水溶性ポリマーとを結合することができる、インターフェロンβ複合体の簡便かつ高効率な製造方法を提供すること。【解決手段】インターフェロン活性低下抑制剤の存在下、pH6.5ないし8.5において、インターフェロンβと水溶性ポリマーとを結合させることを含む、インターフェロンβ複合体の製造方法を提供した。インターフェロン活性低下抑制剤としては、グルコース等の糖類やエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。【選択図】 なし