タイトル: | 特許公報(B2)_分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の産生を抑制した哺乳動物細胞株、その作製法および利用法 |
出願番号: | 2002155858 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 5/10 |
茂呂 周 岩瀬 孝志 JP 4126690 特許公報(B2) 20080523 2002155858 20020529 分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の産生を抑制した哺乳動物細胞株、その作製法および利用法 学校法人日本大学 899000057 間山 世津子 100098121 野村 健一 100107870 茂呂 周 岩瀬 孝志 20080730 C12N 15/09 20060101AFI20080710BHJP C12N 5/10 20060101ALI20080710BHJP JPC12N15/00 AC12N5/00 B C12N 15/09 BIOSIS/WPI(DIALOG) PubMed Science Direct JSTPlus(JDreamII) Nucleic Acids Res.,1986年,Vol.14, No.20,p.7883-7896 Cell,1997年,Vol.88,p.417-426 J.Exp.Med.,1999年,Vol.190, No.4,p.535-542 4 FERM P-18697 2003339383 20031202 21 20050322 田中 公子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白(secretory leukocyte protease inhibitor)の産生を抑制した哺乳動物細胞株、その作製法および利用法に関する。【0002】【従来の技術】2001年2月に、国際ヒトゲノムプロジェクトチームとセレラ社がヒトゲノムを終了した。これらの結果から、ヒトの遺伝子の個数は3〜7万程度であると予測されている。この翻訳産物であるタンパク質のうち、約60%は機能が明らかにされているタンパク質であろうとされているが、残りの約40%は機能がわかっていない。【0003】現在、世界はポストゲノム時代へと突入し、ゲノム研究の重点は、遺伝子の機能解析へと移行している。【0004】遺伝子の機能解析には、バイオインフォマティックス、タンパク質発現、タンパク質機能の予測と解析、遺伝子組換え動物、ノックアウト動物などの技術が利用されている。【0005】遺伝子組換え動物の技術では、ある特定の遺伝子を組み込んだ動物を作ることにより、どのような形質あるいは病気を持った動物が誕生するかを調べることにより、組み込んだ遺伝子が生体内でどのような機能を持っているかを調べる。【0006】ノックアウト動物の技術では、ある特定の遺伝子を破壊し、誕生した動物の形質の変化や病気の発生を調べることにより、破壊した遺伝子が生体内でどのような機能を持っているかを調べる。【0007】これらの動物を使った方法は、手間と費用がかかるという問題があった。【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明は、哺乳動物の培養細胞を用いて、細胞が産生するタンパク質のうち、特定のタンパク質のみの産生を抑制する細胞を提供することを目的とする。【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは、ヒトの培養細胞を用いて、細胞が産生するタンパク質のうち、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の産生を抑制する細胞を作製することに成功し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の産生を抑制するように遺伝子が改変されている哺乳動物細胞株を提供する。哺乳動物は、ヒト、マウスおよびラットからなる群より選択されるとよい。哺乳動物細胞は、ヒト癌由来の培養細胞、マウスまたはラットの培養細胞であってもよい。本発明の哺乳動物細胞株としては、NUSD-001株(FERM P-18697)を例示することができる。また、本発明は、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の遺伝子配列を含むDNAを作製し、その一部に抗生物質に抵抗性の遺伝子を導入してターゲッティングDNAを作製し、このターゲッティングDNAを哺乳動物細胞に導入し、前記抗生物質を入れた培地で前記哺乳動物細胞を培養した後、培養細胞の中から、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の発現が抑制され、多量体免疫グロブリンレセプター(polymeric immunoglobulin receptor)の発現が生じた細胞株を選別することを含む、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の産生を抑制するように遺伝子が改変されている哺乳動物細胞株の作製方法を提供する。【0010】分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の遺伝子配列を含むDNAを作製するには、遺伝子増幅技術を用いるとよい。遺伝子増幅技術はPCR法であるとよい。【0011】抗生物質に抵抗性の遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子などを例示することができる。【0012】本発明の方法は、癌由来の培養細胞をはじめとするすべての培養細胞に応用可能である。【0013】哺乳動物細胞は、ヒトの癌由来の細胞、マウスまたはラットの培養細胞であるとよい。【0014】癌は、扁平上皮癌、大腸癌および肺癌からなる群より選択されるとよい。【0015】ヒトの癌由来の細胞としては、Ca9-22細胞、RERF細胞、Calu-3細胞、HT-29細胞、CaCO2細胞などを例示することができる。マウスおよびラットの培養細胞としては、IEC6細胞、NIH3T3細胞などを例示することができる。【0016】ターゲッティングDNAは電気穿孔法で哺乳動物細胞に導入するとよい。【0017】培養細胞の中から、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の発現が抑制され、多量体免疫グロブリンレセプターの発現が生じた細胞株を選別するには、酵素免疫検定法を用いるとよい。酵素免疫検定法としては、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA法)が好ましい。【0018】培養細胞の中から、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の発現が抑制され、多量体免疫グロブリンレセプターの発現が生じた細胞株を選別する工程は、多量体免疫グロブリンレセプターの発現量が生じた細胞株を酵素免疫検定法で選別し、選別した細胞株において分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の遺伝子配列が変異を起していることおよび/または分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の遺伝子の発現がないことを調べることを含んでもよい。【0019】さらに、本発明は、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の産生を抑制するように遺伝子が改変されている哺乳動物細胞株を用いて、抗炎症剤の薬効を解析する方法を提供する。【0020】例えば、好中球エステラーゼ,LPSやIL-1など炎症を惹起する試薬を培地に添加してNUSD-001株を培養し,その時NUSD-001株が産生するNO(一酸化窒素)やIL-8, IL-10などのサイトカインなどの遺伝子発現や蛋白産生を,抗炎症剤を培地に加えた時の値と加えなかった時の値とを比較検討することにより、抗炎症剤の薬効を解析することができる。【0021】本明細書において、「ターゲッティングDNA」とは、標的とする特定の遺伝子(本発明の場合、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白遺伝子)に変異を導入したDNAをいうものとする。【0022】「分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の発現が抑制された」とは、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白(secretory leukocyte protease inhibitor、以下、「SLPI」と記す)のmRNAが認められないこと,または蛋白の産生がないことをいうものとする。【0023】「多量体免疫グロブリンレセプターの発現が生じた」とは、多量体免疫グロブリンレセプター(polymeric immunoglobulin receptor、以下、「pIgR」と記す)のmRNAが認められること,または蛋白の産生が認められることをいうものとする。【0024】【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施態様を詳細に説明する。【0025】まず、SLPIの遺伝子配列を含むDNAを遺伝子増幅技術で作製する。SLPIの遺伝子配列は、GenBank,EMBL,DDBJなどのデータベースから得られる。また、SLPIの遺伝子配列は、実験で単離した、データベースには登録されていない新たな遺伝子の配列であってもよい。【0026】遺伝子増幅技術としては、PCR法などを例示することができるが、これに限定されることはない。【0027】遺伝子増幅技術でDNAを増幅するには、鋳型とプライマーが必要である。鋳型は、実験に使用する生物の培養細胞や体細胞から得られたDNAであればよく、この鋳型は、細胞を界面活性剤,タンパク質分解酵素で処理した後,フェノールでタンパク質を除き,アルコールを加えてDNAを析出させることにより、調製することができる。【0028】プライマーは、対象となるSLPIの遺伝子配列の一部からなる約18〜30bpの遺伝子配列で,グアニンとシトシン数とアデニンとチミン数の割合,さらに他の遺伝子との相同性などから設計し、公知の方法で合成することができる。【0029】上記のような鋳型とプライマーを用いて、PCRにより、SLPIの遺伝子を含むDNAを増幅するには、例えば、以下のようにするとよい。【0030】鋳型DNA 100〜500 ngに10 x PCR buffer 10 μl, 200 mM dNTP 16〜32.μl, 10〜100 pmol プライマー, Taq polymerase 2.5 unitsを加え 滅菌蒸留水で全量を100μlとした場合、denature 94℃,1分,annealing 55〜60℃,1〜2分,extension 72℃, 1〜3分のサイクルを25〜35回繰り返す。【0031】得られたPCR productは0.7 % agarose 電気泳動法を用いて目的のバンドが存在することを確認し,agarose gelから切り出し,QIAEXII(QIAGEN)でfragmentを精製するとよい。【0032】SLPIの遺伝子配列を含むDNAに抗生物質に抵抗性の遺伝子を導入してターゲッティングDNAを作製する。【0033】抗生物質に抵抗性の遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子, ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子などを使用することができる。【0034】ネオマイシン耐性遺伝子を含むDNA断片(Neo断片)はpMC1NeoからBamH IとXho Iとで消化し、上記のごとくagarose電気泳動法により精製し、平滑末端とすることにより得られる。【0035】ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子ではBamH Iで, ブラストサイジンSデアミナーゼ遺伝子ではSpe IとEcoR Vで消化し,ネオマイシンと同様な操作により抗生物質耐性遺伝子を得ることができる。【0036】SLPIの遺伝子配列を含むDNAに抗生物質抵抗性遺伝子を導入するには、以下のようにすればよい。【0037】SLPIのDNAを適当な制限酵素で切断し,抗生物質抵抗性遺伝子の精製法と同様に精製し,平滑末端とする。両遺伝子の混合溶液にDNAライゲースを加え,両遺伝子を結合させる。この溶液の一部をコンピテントセルと呼ばれる大腸菌に加え,寒天プレートに播き,一晩培養する。出現したコロニーを液体培地で増やし,大腸菌に入った遺伝子を精製,制限酵素で消化し,電気泳動で出現したバンドが予想される大きさかどうかで判断する。遺伝子の精製は大量の場合は市販カラムを用いて行えばよい。少量の場合は界面活性剤で細胞を破壊し,遺伝子をアルコールで析出させて精製すればよい。【0038】上記のようにして作製したターゲッティングDNAを哺乳動物細胞に導入する。【0039】哺乳動物細胞は特に限定されないが、ヒト、マウス、ラットなどの細胞、例えば、Ca9-22細胞、RERF細胞,Calu-3細胞 HT-29細胞,CaCO2細胞などのヒトの癌由来の細胞、IEC6細胞,NIH3T3細胞などのマウスやラットの培養細胞を用いるとよい。【0040】ターゲッティングDNAの導入には、電気穿孔法、マイクロインジェクション法,リポフェクション法,リン酸カルシウム共沈法などを用いることができる。【0041】電気穿孔法を用いる場合には、以下のようにすればよい。【0042】細胞を培養液で分散し,細胞数を調整した後,これにターゲッティングDNAを加え,電気穿孔用のキュベットにいれる。キュベットに細胞に適した電圧(約250ボルト前後)をかける。この細胞に培地を加え稀釈した後,96穴プレートに分注し,培養する。培養3,4日後から抗生物質を加えた培地に変え,ターゲッティングDNAが組み込まれた細胞を選択する。【0043】リポフェクション法,リン酸カルシウム共沈法では、ターゲティングDNAとリポフェクチン試薬またはリン酸カルシウム試薬と混合し,これに培養細胞を加え,培養することでDNAを核に導入する。【0044】マイクロインジェクション法では、マニュピレーターを用いて,ターゲティングDNAを細いガラス管に取り,細胞の核に直接入れる。【0045】その後、抗生物質を入れた培地で哺乳動物細胞を培養した後、培養細胞の中から、SLPIの発現がない細胞株を酵素免疫検定法(好ましくは、酵素結合免疫吸着検定法)で選別する。【0046】培養は、抗生物質の種類、哺乳動物細胞の種類に応じて、適当な条件下で、適当な培地組成で行えばよい。【0047】培養細胞の中から、SLPIの発現がない細胞株をELISA法で選別するには、以下のようにすればよい。【0048】96wellのプレートの各wellにSLPIに対する抗体を入れ,2,3時間静置する。Wellを洗浄後,ブロッキング試薬を加えて一晩,静置する。洗浄後,細胞の培養液を各wellに加え1時間静置し,洗浄する。続いてホースラディシュペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼを標識した目的のタンパク質に対する抗体をいれ,1時間静置する。洗浄後,発色試薬を加えて,発色後,各wellの溶液の発色をプレートリーダーで測定する。【0049】上記のように、破壊した遺伝子の発現産物を直接ELISA法で検出してもよいが、SLPI遺伝子の破壊によるpIgRの発現をELISA法により検出してもよい。すなわち、後述の実施例では、実験により遺伝子に変異を受けた多くの細胞の中からpIgRの発現の有無をELISA法で確認し,その結果得られたpIgRを発現している細胞がSLPIの遺伝子配列に変異を起していること,および遺伝子発現のないことをRT-PCRで確認している。【0050】上記のようにして作製した、SLPI遺伝子を破壊した哺乳動物細胞を培養し、pIgRの発現量を例えばELISA法により調べる。また、その遺伝子を破壊していない哺乳動物培養細胞についても、同様の方法でpIgRの発現量を調べる。そして、両者の結果を比較することにより、SLPI遺伝子の機能を推定することができる。後述の実施例では、SLPI遺伝子を破壊し、SLPIの発現を阻止した細胞において、pIgRの発現が生じた。このことから、SLPIがpIgRの発現を抑制していることがわかった。上記のようにして作製した、SLPIの産生を抑制するように遺伝子が改変されている哺乳動物細胞株を用いて、抗炎症剤の薬効を解析することができる。その具体例を以下に記載する。1. NUSD-001株の細胞刺激因子として好中球エステラーゼを培地に加えてNUSD-001株を培養し,IL-10やTGF-βなどの遺伝子発現をRT-PCR法で,蛋白の産生をELISA法で測定するとともに,トリパンブルー染色法を用いて細胞の生存率を抗炎症剤などの薬剤を培地に加えたときと比較検討することで,薬剤の効果を検討する。2. NUSD-001株のもとの細胞株Ca9-22細胞は培地にLPSを加えて培養するとIL-10やTGF-βなどの炎症性サイトカインの発現が増加する。また,歯肉接合上皮細胞をLPSで刺激すると一酸化窒素(NO),炎症性サイトカイン(IL-10, TGF-β)などの産生が増加するとともにSLPIの産生も増加する。このことから,NUSD-001株の細胞をLPSなどで刺激し,その時産生されるNOや炎症制サイトカインの産生をRT-PCR法やELISA法などで検討する。同時にこの培養系に種々の薬剤を添加した時に産生されるNOやIL-10, TGF-βのデータと比較検討し,薬剤の効果を検討する。3. インフルエンザウィルスやHIVが細胞に感染するには細胞のもつセリンプロテアーゼがウィルスの一部を切断することで,ウィルスが細胞内に侵入できる。SLPIを産生している細胞ではセリンプロテアーゼの活性が低下し,その結果,ウィルスは感染しにくくなる。事実,SLPIはセリンプロテアーゼインヒビターであるため,SLPIがHIVの感染防御をしていると考えられている。このことから,NUSD-001株の細胞はこのような感染過程をとるウィルスではSLPIの抑制により感染しやすく,ウィルス感染細胞モデルとして活用できる可能性がある。【0051】【実施例】以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。【0052】[実施例1]材料と方法1.genomic (g)DNAの精製ヒト大腸癌由来のHT-29細胞を75 cm2のフラスコを用いて,コンフルエントになるまで培養した後,0.25 % trypsinにて細胞をフラスコ面から剥離し回収した。HT-29細胞を5 mlの10 mM Tris-HCl buffer (pH 8.0) -1 mM EDTAに分散し,続いて,5 mlの1 % SDSを含む10 mM Tris-HCl buffer (pH 8.0) -1 mM EDTAを加え,静かに混和した。終濃度が10 μg/mlになるようにRNaseを加え,37 ℃で30分間処理した。続いて,20 mg/mlのproteinase K 10 μlを加え,37 ℃,16時間,消化した。その後,フェノール・クロロフォルム抽出を2回行ない,エタノール沈殿法でgDNAを得た。得られたgDNAは蒸留水に溶解した後,分光光度計でその濃度を測定した。【0053】2.SLPIのPCR productの作製PCRは以下のごとく行った。gDNA 100 ngに10 x PCR buffer 10 μl, 200 mM dNTP 16 μl, 20 pmol primer(表1のSLPI 5およびSLPI 6のプライマー), Taq polymerase 2.5 unitsを加え 滅菌蒸留水で全量を100 μlとした。denature 94 ℃, 1 分,annealing 55 ℃,2分,extension 72 ℃, 3分のサイクルを35回繰り返した。得られたPCR productは0.7 % agarose 電気泳動法を用いて目的のバンドが存在することを確認し,agarose gelから切り出し,QIAEXII(QIAGEN)でfragmentを精製した。【0054】3.SLPI targeting geneの作製pBluescript IIをEcoRVで消化した後,Taq polymeraseでその3'端にdTTPを結合したpBluescript II(T) vectorと上記で得られたfragmentとをligase kit (Takara)を用いて,室温で30分間反応させた。このligase mixtureをXL1 Blue competent cell(Stratagene)に通法に従い導入し,ampicilin加LB plateに播き,一晩37℃で培養した。出現したコロニーを1mlのampicilin加LB mediumに取り,一晩振盪培養した後,アルカリ法を用いてplasmid (SLPI-pBS) を精製した。得られたSLPI-pBSはXbaI(Takara), KpnI(Takara)とPvuI(Takara)で消化し,agarose電気泳動法によりSLPIのfragmentを持つコロニーを確認し,SLPI-pBSを精製した。得られたSLPI-pBSはNdeIで消化し,agarose電気泳動を行ない,NdeIのfragmentを除いたSLPI-pBSをagaroseから上記のごとく精製し,Blunt end kit(宝酒造)を用いて平滑末端とした[SLPI(-NdeI)-pBS]。【0055】neomycin resistance geneを含むDNA断片(Neo断片)はpMC1Neo (Stratagene)からBamHI(Takara)とXhoI(Takara)とで消化し,上記のごとくagarose電気泳動法により精製し,平滑末端とした。SLPI(-NdeI)-pBSとNeo断片とをligateし,XL1 Blue competent cellに導入し,ampicilin加LB plateに播き,一晩培養した。出現したコロニーをampicilin加LB mediumに取り,一晩振盪培養し,上記のごとくplasmid [SLPI(Neo)-pBS]を精製した。得られたplasmidはXbaI, KpnIとPvuIで消化し,泳動パターンおよびPCR法を用いてNeo断片が挿入されていることを確認後,カラムで精製しSLPI(Neo)-pBSを得た。【0056】4.Ca9-22細胞へのtargeting geneの導入targeting geneの導入は電気穿孔法を用いて行った。Ca9-22細胞を培養し,回収後,培地を用いて1 x 107 cell / mlに調整した。これにClaI(Takara)で消化してlinearとした10 μgのtargeting geneを加え,室温で10分放置した後,キュベットに入れ,0.25 kV, 250 μFの条件でtargeting geneを導入した。通電後,室温に10分間置き,30 mlの培地を加え,96 well plateの各wellに100 μlずつ分注した。plateはCO2インキュベーターで3日間培養した後,150 μg/mlのgeneticin(GIBCO)を含む培地にかえ選択を開始した。約2〜3週間培養し,顕微鏡下で一つのコロニーが出現しているwellをマークし,複数個のコロニーが存在するwellは除いた。各wellの細胞がコンフルエントになるまで培養した後,その上清におけるpIgRの蛋白量をELISA法を用いて検索した。pIgRの発現量の高いコロニーはさらに培養し,実験を行うまで液体窒素中に保存した。【0057】5.pIgRのELISA法による測定96 well plateの各wellにリン酸緩衝生理食塩水(PBS, pH 7.2)で1000倍に稀釈したポリクロナール抗ヒトSCウサギ抗体(DAKO)を50 μl加え,4 ℃で一晩放置し,コーティングした。wellを0.1 % Tween 20加PBSで洗浄した後,1 % BSA-PBS 100 μlを各wellに加え,1時間,室温でブロッキングした。さらに,wellを0.1 % Tween 20加PBSで洗浄した後,細胞の培養上清50 μlを加え,室温で1時間反応させた。wellを0.1 % Tween 20加PBSで洗浄後,PBSで1000倍に稀釈したhorseradish peroxidase(HRP)標識ポリクロナール抗ヒトSCウサギ抗体(DAKO)50μlを加え,室温で1時間反応させた。wellを0.1 % Tween 20加PBSで洗浄した後,10 mg/ml o-phenylenediamine および0.01 % H2O2を含むsodium acetate buffer, pH 5.0, 100 μl を各wellに入れ,室温で30分間放置した。反応後,10 μl の0.2 M H2SO4 を加えて反応を停止し,microplate reader(Bio-Rad)を用いて490nmの測定波長で吸光度を測定した。【0058】6.Southern blot analysisスクリーニングにより得られたpIgRの発現の高いコロニーを75 cm2のフラスコを用いてコンフルエントになるまで培養した後,上記のごとくgDNAを分離精製した。得られたgDNAの10 μgをPstIおよびXbaIで一晩消化した後,0.7 % agarose電気泳動法を行なった。ゲルの写真を撮影後,アルカリ溶液(0.2 M NaOH, 1.5 M NaCl)でgelを処理してDNAを変性し,nylon membrane (amershampharmacia biotech)に転写した。精製したNeo断片をAlphos direct labeling kit (amershampharmacia biotech)でalkaline phosphataseをラベルし,probeとした。 membraneをこのprobeと55℃で一晩,hybridizeした後,1st washing buffer ( 2 M urea, 0.1 % SDS, 0.16 M NaCl, 0.01 M MgCl2, 2 % blocking reagent, 0.05 M phosphate buffer, pH 7.0)で, 60℃ 10分間, 2回洗浄後, 2nd washing buffer (0.05 M trishydroxyl aminomethane, 0.1 M NaCl, 2 mM MgCl2)で室温, 5分間, 2回洗浄した。続いて,membraneにCDP star (amershampharmacia biotech)を滴下し,フィルムに2時間露光し,現像した。【0059】7.培養細胞からRNAの抽出RNAはacid guanidinium thiocyanate phenol-chloroform extraction methodを用いて抽出した。細胞を72時間培養後,上清を除き,細胞をPBSで洗浄した後, 1 flask (75 cm2) あたり5 mlのsolution D(4 M guanidinium thiocyanate, 25 mM sodium citrate, pH 7.0)を加えて細胞を溶解した。その後,22 gageの注射針と1 mlシリンジを用いてsolution Dを吸引排出し,DNAを機械的に細断した後,15 mlの遠心管に移した。さらに,2 M sodium acetate(pH 4.0)を0.5 ml,フェノールを5 ml,クロロホルムを1 mlを加えて良く混合し,氷中に30分間放置後,4 ℃,1800 x gで20分間遠心分離して上層を回収した。これに1 volumeのisopropanolを加え,-80 ℃,2時間静置後,4 ℃,1800 x gで20分間遠心分離し,RNAを得た。RNAは70 % ethanolにて洗浄後,蒸留水に溶解した。RNAを希釈した後,分光光度計(Beckman) で260 nmおよび280 nm の吸光度から濃度および純度を確認し,使用時まで-80 ℃で保存した。【0060】8.reverse transcriptase-polymerase chain reaction (RT-PCR)法上記で得られたRNA 1 μgを,65 ℃,5分間加熱denature後,氷中に5分間静置し,これにcDNA反応溶液としての ribonuclease inhibitor(Takara)1 unit,10 × RT buffer (375 mM KCl, 15 mM MgCl2, 50 mM DTT, 250 mM Tris-HCl,pH 8.4) 1 μl,25 mM dNTP (amershampharmacia biotech) 2 μl,10 × hexanucleotide mixture (Boehringer Mannheim) 1 μl,Rous sarcoma associated virus-2 (RAV-2) reverse-transcriptase(Takara)0.5 Uをそれぞれ加え,滅菌蒸留水で10 μlに調整し,42 ℃,1時間反応させた。その後,94 ℃,5分間加熱して反応を停止させ,氷中で急冷し,cDNAを作製した。【0061】得られたcDNA 溶液1 μlに対して10 × PCR buffer (500 mM KCl, 2 0 mM MgCl2,250 mM Tris-HCl, pH 9.3) 10 μl,senseおよびanti-senseプライマー 100 pmol,2.5 mM dNTP 16 μl,Taq DNA polymerase(Takara) 2.5 unitsを加え,滅菌蒸留水で100 μlに調整した後,サーマルサイクラー(Perkin-Elmer Cetus)にて,以下に示す温度の周期変化を与えた。PCRはdenature,94 ℃,1分間, annealing,55 ℃または60℃,2分間,primer extension,72 ℃,3分間のサイクルを25または35回行った。増幅されたPCR-productは,0.7 % または1.6% agarose gel(Bio-Rad)を用いて電気泳動を行い,エチジウムブロマイドにて染色後,image master (amershampharmacia biotech)を用いて写真撮影を行った。【0062】本検索に用いた各primerのシークエンスおよびproduct sizeを表1に示す。なお, 各primerはすでに発表された遺伝子配列をもとに作製した22-24)。【0063】【表1】【0064】成績本検索に用いたtargeting geneの構造を図1に示す。gDNAとSLPI 5およびSLPI 6のprimerを用い,PCR法を行ったところ予想されるサイズ(2.5 kb)にそのproductが認められた(図2a,lane 3)。このproductをpBluescript II (T)に挿入し,得られたpalsmidをSLPIのprimer(SLPI 5およびSLPI 6のprimer)を用いて確認した結果,plasmidにSLPIの遺伝子が挿入されていることが確認できた(図2a,lane 4)。さらに,このplasmidをKpnI, XbaIとPvuIで消化した結果,シークエンスから予想されるSLPIのfragmentを含む約3 kbとvectorのfragmentによる約1.7 kbと約1 kbのバンドが認められた(図2a,lane 5)。また,BamHIで消化すると,約4.2 kb,約1.2 kbと約0. 3 kbのバンドが,さらに,NdeIで消化すると600 bpのバンドが認められた(図2b,lane 3および4)。このplasmidから NdeI断片を除き,その部位にNeo断片を挿入した。Neo断片を挿入したplasmidをKpnI, XbaI とPvuIで消化して検討した。その結果,挿入前と比較し,vector由来の約1.7 kbと約1 kbのバンドのサイズに変化はないが,約3 kbの挿入断片は約3.7 kbと増加した(図3,lane 3)。さらに,Neo断片に対するprimerを用いてPCRを行った結果,目的のサイズのバンドが認められた(図3,lane 4)。以上の結果から目的のtargeting geneができたことを確認した。【0065】得られたtargeting gene をCa9-22細胞に導入し,96 well plate を用いてgeneticinで選択を行った。その後,上清中に分泌されたpIgRの量をELISA法で測定し,発現の最も高い2個のコロニー(1E10細胞および3E1細胞)を選び,さらに培養した。培養した細胞からgDNAを分離し,Southern blot法を行なった結果,両細胞ともXbaIで消化した場合,約4.8 kbの位置に強いバンド(図4,lane 1および2)が,PstIで消化したとき1.8 kbに強い,また1 kbに弱いが明らかなバンドを認めた(図4,lane 3および4)。この断片のサイズはtargeting geneがCa9-22細胞のDNAにhomologous recombinationを起こしたとき,推測される値と同じであった。この結果から,これらの細胞におけるSLPI遺伝子の発現をRT-PCR法で確認した結果,controlとして用いたCa9-22細胞にはSLPIの強い発現を認めたが,HT-29細胞およびtargeting geneを導入して得られた1E10細胞および3E1細胞にはSLPIの発現が認められなかった(図5)。これら2個のクローンにおけるpIgRの遺伝子発現を検索した結果,Ca9-22細胞ではその発現を認めなかったが(図6,lane 2),1E10細胞と3E1細胞およびpositive controlのHT-29細胞にはpIgRの遺伝子発現を認めた(図6,lane 3〜5)。また,これらRT-PCR法のinternal controlとしてβ-actinを用いたが,すべてのsampleに同じ強度の遺伝子発現を認めた。【0066】1E10細胞および3E1細胞の培養上清中におけるpIgRの量をELISA法で定量した結果,Ca9-22細胞ではblankと同じレベルの値を示したのに対して,両細胞とも同様な量のpIgR蛋白の産生を認めた(図7)。【0067】なお、1E10細胞(NUSD-001株)は、FERM P-18697として、平成14年2月6日付けで独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託してある。【0068】考察pIgRは腸管,唾液腺,乳腺などの漿液性上皮細胞により産生される分子量約80 kDaの糖蛋白で,一般的に扁平上皮細胞にpIgRの発現は認められていない1,2,25)。しかし,同じ上皮細胞でありながら,この発現の相違がどのような機構によってregulateされているかは明らかにされていない。pIgRの発現調節機構を解明する目的からHT-29細胞,Caco2細胞やT84細胞などの大腸癌由来培養細胞が用いられ,多くの検索が行われた3-7)。その結果,これらの細胞をTNF-α, IFN-γ, IL-4, IL-6などのサイトカインで刺激すると,pIgR遺伝子および蛋白レベルでの発現が増加することが報告されている3-7)。また,pIgRの発現機構は,その遺伝子配列の検索からNF-kBが深く関与していることが報告されている5,6)。その発現機構はHT-29細胞をTNF-αで刺激するとp50およびp65が転写開始近傍のNF-kBモチーフに結合し,pIgRの転写が開始されることが明らかにされている7)。【0069】一方,SLPIの局在については呼吸器,唾液腺,胃,腸管,膵臓,肝臓,泌尿器,生殖器,乳腺,涙腺,甲状腺,胸腺,骨髄,リンパ節,脾臓など多くの組織でin situ hybridization法および免疫組織学的に検索されている12-15)。その結果,SLPIは呼吸器では気管の漿液細胞とクララ細胞に,唾液腺では耳下腺および顎下腺の漿液性腺房細胞および子宮頚部の粘液腺に存在するとされているが,脾や肺胞上皮では認められていない12-15)。また,腸管の検索ではSLPIの局在は認められていなかったが,近年になりpaneth細胞とgoblet細胞にのみ発現し,吸収上皮細胞には局在していないことが明らかにされている12)。しかし,colonic adenomaでは約半数に発現しているとの報告もある14)。【0070】皮膚の扁平上皮細胞はSLPIを発現しており,正常状態では顆粒層に認められ,lesional psoriatic epidermisや創傷の治癒の際にはその発現が増加するとされている15)。また,正常皮膚のケラチノサイトを培養し,ウシ胎児血清を加えるとSLPIの発現が増加することも報告されている15)。さらに,大腸癌や扁平上皮癌由来の培養細胞を用いてSLPIの検索が行われ,pIgRの発現が認められない肺の扁平上皮癌由来のHS-24や 肺胞上皮細胞由来のA549にその発現が認められている9,15,26)。また,大腸癌由来の培養細胞HT29-Cl.19A細胞, Caco2-BBE細胞, T84細胞および正常の大腸と十二指腸におけるSLPIの弱い遺伝子発現がRT-PCR法で認められたとする報告17)もある。しかし,本研究では口腔扁平上皮癌由来のCa9-22細胞にはSLPI遺伝子の発現が認められたが,大腸腺癌由来のHT-29細胞には認められなかった。【0071】マクロファージはSLPI遺伝子を多量に発現していることが知られている27,28)。Dingら27,28)はマウスのマクロファージを用い,そのLPS感受性とSLPI遺伝子発現との関係を検索した。その結果,LPS感受性のマウスのマクロファージではSLPIがLPSに対する反応を阻止していることを報告している。福田29)は腸管には膨大な数の細菌が生息していることから,HT-29細胞をLPSで刺激し,pIgR遺伝子の発現について検索した結果,LPS刺激はpIgR遺伝子の発現を増加するとしている。本研究の結果,pIgRを恒常的に発現しているHT-29細胞にはSLPIの発現は認められなかった。このことはHT-29細胞をLPSで刺激した場合,SLPIを介してLPSに対する反応を阻止することができない可能性を示唆している。従って,福田29)が報告するごとく,LPSの刺激によりpIgRの発現が増加したことと良く一致する。しかし,HT-29細胞に対するLPS刺激を伝達するLPS receptorについてはCD14やtoll like receptorの発現などについて少数の報告30-32)があるのみで,どのようなLPS receptorが関与しているか明らかでない。【0072】SLPIは肺胞マクロファージにおけるNF-kB活性には関与しないが,肺胞上皮細胞ではIkBβの増加を促進し,NF-kBの活性をも抑制することが報告されている8)。HT-29細胞などがIL-1やTNF-αで刺激されるとNF-kBが活性化され,蛋白合成が増加するようになる33)。一方,このような刺激がないときは必要ない蛋白の発現を押さえるべくNF-kBの活性はIkBα, IkBβ, IkBε, IkBγ, Bcl-3, p1054およびp100などからなるIkB familyによって抑制されている33)。細胞をIL-1βやTNF-αで刺激するとIkB kinaseが活性化され,IkB がリン酸化された後,degradeされ,IkBの作用を阻害し,その結果,NF-kBが活性化する33-35)。本研究ではNF-kB活性がup-regulateされていると考えられるHT-29細胞にSLPIの発現が認められず,IkBは抑制されていると推測される。これに対して,Ca9-22細胞ではSLPIの発現が認められ,NF-kBは抑制され,IkBがup-regulateされているものと推測される。このことはCa9-22細胞をLPSで刺激してもpIgRの発現が起こらないという結果,さらに,HT-29細胞においてはLPS刺激によりpIgRの発現の増加が起こるという結果と一致する29)。さらに,targeting geneをCa9-22細胞に導入し,SLPIの遺伝子発現を抑制した結果,pIgR遺伝子の発現がみられるようになった。このことはSLPIがpIgRの遺伝子発現に深く関係していることを示唆するものと考えられた。しかし,細胞の刺激伝達機構におけるプロテアーゼの関与についてはユビキノンなどがわずかに知られているだけであり,刺激伝達機構におけるプロテアーゼおよびプロテアーゼインヒビターの関与についてはほとんどわかっていない36,37)。【0073】一般にgene targeting法は目的の遺伝子のtargeting geneをES cellに導入し,homologous recombinationを起こさせ,蛋白の発現を抑制することによってその蛋白の機能を検索する方法である。ES cellを用いるgene targeting法ではgeneticinで選択した後,生き残った細胞からgDNAを抽出し,Southern blottingの結果からhomologous recombinationが起こった細胞を選択している。しかし,今回はpIgRの分泌量からselectionを行った。一般にES細胞を用いる場合,homologous recombinationを起こす確率は10-7〜10-8であるとされている。本研究では1x107個のCa9-22細胞を用いて,2個のクローン(1E10細胞および3E1細胞)が得られた。従って,確率的にも実験方法としては有用であり,図4に示したごとく得られた両クローンにhomologous recombinationが起こっていることも明らかであった。【0074】今回,本検索ではこの手法を培養細胞に取り入れ,特異な蛋白の発現を抑制することでその機能を検索した。その結果,培養細胞を用いることで,knock out mouseを作成しなくても簡単に蛋白の機能を検討することが可能であることが明らかになった。【0075】結論SLPIの上皮細胞における機能を検索する目的から,SLPIのtargeting geneをpIgRの発現を認めない口腔扁平上皮癌由来のCa9-22細胞に導入してSLPIの発現を抑制し,以下の結果を得た。1. Ca9-22細胞にSLPIのtargeting geneを導入し、pIgRの分泌量の高い2個のクローン(1E10, 3E1細胞)を得た。2. Southern blot法により、1E10および 3E1細胞にtargeting geneのhomologous recombinationが認められ,Ca9-22細胞のSLPIの発現を抑制した。3. Ca9-22細胞におけるSLPIの発現を抑制することでpIgRの遺伝子発現が発現した。4. SLPIの発現を抑制した1E10および 3E1細胞ではELISA法によりpIgR蛋白の産生が認められた。【0076】文献1) Mestecky, J. & McGhee, J.R.: Immunoglobulin A (IgA): molecular and cellular interactions involved in IgA biosynthesis and immune response; Adv. Immunol., 40, 153-245, 1987.2) Brandtzaeg, P., Krajci, P., Lamm, M.E. & Kaetzel, C.S.: Epithelial and hepatobiliary transport of polymeric immunoglobulin; (eds. Ogra, P.L., Mestecky, J., Lamm, M.E., Strober, W., McGhee, J.R. & Bienenstock, J.: Handbook of Mucosal Immunology, Academic Press, San Diego), p 113-126, 1994.3) Sollid, L.M., Kvale, D., Brandtzaeg, P., Markussen, G. & Thorsby, E.: Interferon-gamma enhances expression of secretory component, the epithelial receptor for polymeric immunoglobulins; J. Immunol., 138, 4303-4306, 1987.4) Kvale, D., Lovhaug, D., Sollid, L.M. & Brandtzaeg, P.: Tumor necrosis factor-alpha up-regulates expression of secretory component, the epithelial receptor for polymeric Ig; J. Immunol., 140, 3086-3089, 1988.5) Phillips, J.O., Everson, M.P., Moldoveanu, Z., Lue, C. & Mestecky, J.: Synergistic effect of IL-4 and IFN-gamma on the expression of polymeric Ig receptor (secretory component) and IgA binding by human epithelial cells; J. Immunol., 145, 1740-1744, 1990.6) Piskurich, J.F., France, J.A., Tamer, C.M., Willmer, C.A., Kaetzel, C.S. & Kaetzel, D.M.: Interferon-gamma induces polymeric immunoglobulin receptor mRNA in human intestinal epithelial cells by a protein synthesis dependentmechanism; Mol. Immunol., 30, 413-421, 1993.7) 竹之内信子: ヒトPolymeric Immunoglobulin Receptor (pIgR)遺伝子発現調節機構の解析; 日大歯学, 72, 399-407, 1998.8) Lentsch, A.B., Jordan, J.A., Czermak, B.J., Diehl, K.M., Younkin, E.M., Sarma, V. & Ward, P.A.: Inhibition of NF-kappa B activation and augmentation of I kappa B beta by secretory leukocyte protease inhibitor during lung inflammation; Am. J. Pathol., 154, 239-247, 1999.9) 菊地利明,阿部達也: Secretory Leukoprotease Inhibitor (SLPI)遺伝子の発現調節機構; 日本臨床, 54, 405-410, 1996.10) Vogelmeier, C., Gillissen, A. & Buhl, R.: Use of secretory leukoprotease inhibitor to augment lung antineutrophil elastase activity; Chest, 110, 261S-266S, 1996.11) Vogelmeier, C., Hubbard, R.C., Fells, G.A., Schnebli, H.P., Thompson, R.C., Fritz, H. & Crystal, R. G.: Anti-neutrophil elastase defense of the normal human respiratory epithelial surface provided by the secretory leukoprotease inhibitor; J. Clin. Invest., 87, 482-488, 1991.12) Franken, C., Meijer, C.J. & Dijkman, J.H.: Tissue distribution of antileukoprotease and lysozyme in humans; J. Histochem. Cytochem., 37, 493-498, 1989.13) Van Seuningen, I., Audie, J.P., Gosselin, B., Lafitte, J.J. & Davril, M.: Expression of human mucous proteinase inhibitor in respiratory tract: a study by in situ hybridization; J. Histochem. Cytochem., 43, 645-648, 1995.14) Bergenfeldt, M., Nystrom, M., Bohe, M., Lindstrom, C., Polling, A. & Ohlsson, K.: Localization of immunoreactive secretory leukocyte protease inhibitor SLPI in intestinal mucosa; J. Gastroenterol., 31, 18-23, 1996.15) Wingens, M., van Bergen, B.H., Hiemstra, P. S., Meis, J.F., van Vlijmen-Willems, I.M., Zeeuwen, P. L., Mulder, J., Kramps, H.A., van Ruissen, F. & Schalkwijk, J.: Induction of SLPI ALP/HUSI-I in epidermal keratinocytes; J. Invest. Dermatol., 111, 996-1002, 1998.16) Abe, T., Kobayashi, N., Yoshimura, K., Trapnell, B.C., Kim, H., Hubbard, R.C., Brewer, M.T., Thompson, R.C. & Crystal, R.G.: Expression of the secretory leukoprotease inhibitor gene in epithelial cells; J. Clin. Invest., 87, 2207-2215, 1991.17) Si-Tahar, M., Merlin, D., Sitaraman, S. & Madara, J.L.: Constitutive and regulated secretion of secretory leukocyte proteinase inhibitor by human intestinal epithelial cells; Gastroenterology, 118, 1061-1071, 2000.18) Saitoh, H., Masuda, T., Shimura, S., Fushimi, T. & Shirato, K.: Secretion and gene expression of secretory leukocyte protease inhibitor by human airway submucosal glands; Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol., 280, L79-87, 2001.19) Wahl, S.M., McNeely, T.B., Janoff, E.N., Shugars, D., Worley, P., Tucker, C. & Orenstein, J.M.: Secretory leukocyte protease inhibitor SLPI in mucosal fluids inhibits HIV-I; Oral Dis., 3, S64-69, 1997.20) Shugars, D.C.: Endogenous mucosal antiviral factors of the oral cavity; J. Infect. Dis., 179, S431-435, 1999.21) Hocini, H., Becquart, P., Bouhlal, H., Adle-Biassette, H., Kazatchkine, M.D. & Belec, L.: Secretory leukocyte protease inhibitor inhibits infection of monocytes and lymphocytes with human immunodeficiency virus type 1 but does not interfere with transcytosis of cell-associated virus across tight epithelial barriers; Clin. Diag. Lab. Immunol., 7, 515-518, 2000.22) Stetler, G., Brewer, M.T. & Thompson, R.C.: Isolation and sequence of a human gene encoding a potent inhibitor of leukocyte proteases; Nucleic Acids Res. 14, 7883-7896, 1986.23) Krajci, P., Solberg, R., Sandberg, M., Oyen O., Jahnsen, T. & Brandtzaeg, P.: Molecular cloning of the human transmembrane secretory component (poly-Ig receptor) and its mRNA expression in human tissues; Biochem. Biophys. Res. Commun. 158, 783-789, 1989.24) Ponte, P., Ng, S.Y., Engel, J., Gunning, P. & Kedes, L.: Evolutionary conservation in the untranslated regions of actin mRNAs: DNA sequence of a human beta-actin cDNA; Nucleic Acids Res. 12, 1687-1696, 1984.25) Nihei, Y., Maruyama, K., Endo, Y., Sato, T., Kobayashi, K. & Kaneko, F.: Secretory component polymeric immunoglobulin receptor expression on human keratinocytes by stimulation with interferon-gamma and differences in response; J. Dermatol. Sci., 11, 214-222, 1996.26) Godding, V., Sibille, Y., Massion, P.P., Delos, M., Sibille, C., Thurion, P., Giffroy, D., Langendries, A. & Vaerman, J.P.: Secretory component production by human bronchial epithelial cells is upregulated by interferon gamma; Eur. Respir. J., 11, 1043-1052, 1998.27) Ding, A., Zhu, J., Jin, F., Grobmyer, S.R. & Nathan, C.F.: Anti-inflammatory function of secretory leukocyte protease inhibitor; J. Endtoxin Res., 5, 167-169, 1999.28) Ding, A., Thieblemont, N., Zhu, J., Jin, F., Zhang, J. & Wright, S.: Secretory leukocyte protease inhibitor interferes with uptake of lipopolysaccharide by macrophages; Infect. Immun., 67, 4485-4489, 1999.29) 福田正勝: LPS刺激腸管上皮細胞株HT-29細胞の産生するサイトカインおよび secretory component(SC)について; 日大歯学, 70, 221-235, 1996.30) Cario, E., Rosenberg, I.M., Brandwein, S.L., Beck, P.L., Reinecker, H.C. & Podolsky, D.K.: Lipopolysaccharide activates distinct signaling pathways in intestinal epithelial cell lines expressing Toll-like receptors; J. Immunol., 164, 966-972, 2000.31) Funda, D.P., Tuckova, L., Farre, M.A., Iwase, T., Moro,I.& Tlaskalova-Hogenova, H.: CD14 is expressed and released as soluble CD14 by human intestinal epithelial cells in vitro: lipopolysaccharide activation of epithelial cells revisited; Infect. Immun., 69, 3772-3781, 2001.32)松本悟一: HT-29細胞サブクローンのサイトカインおよびLPSレセプター遺伝子発現; 日大歯学, 75, 163-170, 2001.33) Jobin, C. & Sartor, R.B.: The I kappa B/NF-kappa B system: a key determinant of mucosal inflammation and protection; Am. J. Physiol. Cell Physiol., 278, C451-462, 2000.34) Jobin, C., Haskill, S., Mayer, L., Panja, A. & Sartor, R.B.: Evidence for altered regulation of I kappa B alpha degradation in human colonic epithelial cells; J. Immunol., 158, 226-234, 1997.35) Baeuerle, P. A.: IkappaB-NF-kappaB structures: At the interface of inflammation control; Cell, 95, 729-731, 1998.36)後藤由季子, 松本邦弘: シグナル伝達研究の新展開; 実験医学, 19, 1816-1819, 2001.37)千葉智樹: シグナル伝達とタンパク質分解; 実験医学,19, 1850-1855, 2001.【0077】【発明の効果】本発明により、SLPIの産生を抑制するように遺伝子が改変されている哺乳動物細胞株が提供された。本発明の細胞株を用いることにより、抗炎症剤の薬効を解析することができる。【0078】【配列表】【0079】【配列表フリーテキスト】【配列番号1】【0080】配列番号1は、SLPI 5のプライマーの塩基配列を示す。【0081】【配列番号2】配列番号2は、SLPI 6のプライマーの塩基配列を示す。【0082】【配列番号3】配列番号3は、SLPI 1のプライマーの塩基配列を示す。【0083】【配列番号4】配列番号4は、SLPI 2のプライマーの塩基配列を示す。【0084】【配列番号5】配列番号5は、pIgR遺伝子増幅用のプライマー(5'末端側)の塩基配列を示す。【0085】【配列番号6】配列番号6は、pIgR遺伝子増幅用のプライマー(3'末端側)の塩基配列を示す。【0086】【配列番号7】配列番号7は、β-actin遺伝子増幅用のプライマー(5'末端側)の塩基配列を示す。【0087】【配列番号8】配列番号8は、β-actin遺伝子増幅用のプライマー(3'末端側)の塩基配列を示す。【図面の簡単な説明】【図1】 SLPI targeting geneの導入の模式図。【図2】 SLPI PCR productおよびSLPI-pBS plasmidの解析。a : lane 1:l HindIII, lane 2:φX174 HaeIII, lane 3:SLPI PCR product, lane 4:PCR法によるSLPI遺伝子の確認, lane 5:SLPI-pBSplasmid のXbaI-KpnI-PvuI消化b : lane 1:l HindIII, lane2:φX174 HaeIII, lane 3:SLPI-pBSのBamHI消化, lane 4:SLPI-pBSのNdeI消化【図3】 Targeting gene の解析。lane 1:HindIII, lane 2:φX174 HaeIII, lane 3:SLPI-pBS plasmid のXbaI-KpnI-PvuI消化, lane 4:PCR法によるNeo断片の確認【図4】 gDNA Southern blot 法による解析。lane 1:1E10細胞のgDNAをXbaIで消化lane 2:3E1細胞のgDNAをXbaIで消化lane 3:1E10細胞のgDNAをPstIで消化lane 4:3E1細胞のgDNAをPstIで消化【図5】 RT-PCRによるSLPIの発現の解析。lane 1:φX174 HaeIII, lane 2:Ca9-22細胞, lane 3:1E10細胞, lane 4:3E10細胞,lane 5:HT-29細胞【図6】 RT-PCRによるpIgRの発現。lane 1:φX174 HaeIII, lane 2:Ca9-22細胞, lane 3:1E10細胞, lane 4:3E10細胞,lane 5:HT-29細胞【図7】 ELISA法による培養上清中のpIgRの測定。培養上清中のpIgR量を測定した結果,1E10細胞および3E1細胞の両細胞ともCA9-22細胞およびblankの吸光度と比較して約1.5倍の値を示した。 分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の遺伝子配列を含むDNAを作製し、その一部に抗生物質に抵抗性の遺伝子を導入してターゲッティングDNAを作製し、このターゲッティングDNAを哺乳動物細胞に導入し、前記抗生物質を入れた培地で前記哺乳動物細胞を培養した後、培養細胞の中から、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の発現が抑制され、多量体免疫グロブリンレセプターの発現が生じた細胞株を選別することを含む、分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の産生を抑制するように遺伝子が改変されている哺乳動物細胞株の作製方法。 哺乳動物が、ヒト、マウスおよびラットからなる群より選択される請求項1記載の方法。 哺乳動物細胞が、ヒト癌由来の培養細胞、マウスまたはラットの培養細胞である請求項1記載の方法。 分泌型白血球プロテアーゼ阻害蛋白の産生を抑制するように遺伝子が改変されている哺乳動物細胞株がNUSD-001株(FERM P-18697)である請求項1記載の方法。