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タイトル:特許公報(B2)_動物細胞培養用培地の添加剤およびそれを用いたタンパク質の製造方法
出願番号:2002144444
年次:2006
IPC分類:C12N 5/10,C12P 21/00


特許情報キャッシュ

村松 憲行 横山 正秋 平野 正治 保苅 義則 渋谷 和史 熱海 甲 綱川 恵之 野垣 兼朗 JP 3822137 特許公報(B2) 20060630 2002144444 20020520 動物細胞培養用培地の添加剤およびそれを用いたタンパク質の製造方法 中外製薬株式会社 000003311 株式会社マルハチ村松 591040513 社本 一夫 100089705 増井 忠弐 100076691 小林 泰 100075270 千葉 昭男 100080137 富田 博行 100096013 江尻 ひろ子 100091638 村松 憲行 横山 正秋 平野 正治 保苅 義則 渋谷 和史 熱海 甲 綱川 恵之 野垣 兼朗 20060913 C12N 5/10 20060101AFI20060824BHJP C12P 21/00 20060101ALI20060824BHJP JPC12N5/00 BC12P21/00 C C12N 5/00 C12P 21/00 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) PubMed JMEDPlus(JDream2) JSTPlus(JDream2) 国際公開第99/063058(WO,A1) 特開平02−039882(JP,A) 18 2003334068 20031125 11 20031009 森井 隆信 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、動物細胞培養用培地の添加剤、該添加剤の製造方法、該添加剤を含む動物細胞培養用培地およびそれを用いたタンパク質製造方法に関する。詳しくは、本発明は、魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物又は前記混合物の抽出物を含むことを特徴とする動物細胞培養用培地への添加剤、該添加剤を含む動物細胞培養用培地およびそれを用いたタンパク質製造方法に関する。【0002】【従来の技術】動物細胞を培養して該動物細胞の産生する天然型タンパク質を得ようとする場合、あるいは所望のタンパク質をコードする遺伝子を導入した動物細胞を培養して所望のタンパク質等を製造する場合には、塩類、糖類、アミノ酸類、およびビタミン類などの基礎栄養物のほかに、該動物細胞の増殖のために、通常哺乳動物由来の抽出物、具体的には牛胎児血清などの血清が5〜20%の範囲で培地に添加されている。しかしながら、かかる哺乳動物由来の血清は、培地のコストの75〜95%を占めること、品質にロット間差があるために安定した増殖が得られないという欠点がある。また、哺乳動物由来の血清はオートクレーブ等で滅菌できないので、ウイルス又はマイコプラズマ汚染される可能性があり、その多くは無害であるものの、安定生産という点からは付加的な未知の要因となりうる。更に血清には500種以上のタンパク質が含まれており、このため培養培地からの細胞産物である所望のタンパク質の単離、精製を複雑化する。このような安定生産上の問題を解決する為に,血清の代わりとして、フェツイン、インスリン、トランスフェリンなどの血清由来の純化されたタンパク質を使用する方法が行われている。また、製造コストの観点から、哺乳動物より抽出された培地成分を使用する方法も試みられている。【0003】しかし、近年、哺乳動物由来の成分については、狂牛病(mad cow disease)、ウシ海綿状脳症(Bovine Spongiform Encephalopathy:BSE)、感染性海綿状脳症(Transmissible Spongiform Encephalopathy:TSE)、更にはクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeld-Jakob Disease:CJD)などとの相関が懸念され、安全性の点からこれらの哺乳動物由来成分を含有しない動物細胞培養用培地の出現が望まれていた。【0004】しかしながら、動物細胞を培養する際、使用する培地中に上記のような哺乳動物由来の成分を添加しないと、培養の早い時期に細胞の生存率の著しい低下が生じ、培養液中の生細胞数が減少するため長期培養あるいは大量培養を行うことができないという問題があった。【0005】国際公開公報WO99/63058では、哺乳動物由来成分のかわりに、魚の正肉や内臓などを含む魚肉を添加することにより、動物細胞の長期培養や所望のタンパク質の大量培養が可能であることを見出している。しかしながら、WO99/63058では魚肉中の内臓と正肉の比率を変化させた場合に、タンパク質の産生量にどのような影響があるかについては言及していない。【0006】【発明が解決すべき課題】本発明は魚肉抽出物又は魚肉酵素分解物を含む動物細胞培養用培地の中でも、特に効果の高い培地を提供することを目的とする。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記のような課題を達成すべく鋭意工夫を重ねた結果、魚肉の内臓のみ又は正肉のみを添加した動物細胞培養用培地に比べて、魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物又は前記混合物の抽出物を添加した動物細胞培養用培地は特に効果が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。又、本発明者らは内臓と正肉の重量比が75:25〜40:60、好ましくは65:35〜55:45、さらに好ましくは60:40の場合に、細胞生存率及びタンパク質の生産量が向上することを見出した。【0008】すなわち、本発明は、魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物又は前記混合物の抽出物を含むことを特徴とする動物細胞培養用培地への添加剤を提供する。【0009】本発明はさらに、以下の工程を含む動物細胞培養用培地への添加剤の製造方法を提供する:(a)魚肉の内臓と正肉を混合する工程、及び(b)上記混合物を酵素分解して酵素分解物を得るか、又は前記混合物から抽出物を得る工程。【0010】本発明はさらに、以下の工程を含む動物細胞培養用培地への添加剤の製造方法を提供する:a)魚肉の内臓を酵素分解して酵素分解物を得るか、又は内臓から抽出物を得る工程、(b)魚肉の正肉を酵素分解して酵素分解物を得るか、又は正肉から抽出物を得る工程、及び(c)上記(a)工程で作製した物質と、上記(b)工程で作製した物質を混合する工程。【0011】本発明はさらに、前記添加物を含む動物細胞培養用培地を提供する。本発明はさらに、動物細胞を培養して所望のタンパク質を製造する方法において、該培養を魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物又は前記混合物の抽出物を含むことを特徴とする動物細胞培養用培地を使用して行うタンパク質の製造方法を提供する。【0012】本発明はさらに、上記方法で製造されたタンパク質を提供する。【0013】【発明の実施の形態】本発明の動物細胞培養用培地への添加剤では、内臓と正肉との重量比が75:25〜40:60、好ましくは65:35〜55:45、さらに好ましくは60:40である。【0014】本発明の添加剤を含む培地を用いると、哺乳動物由来の成分を添加しなくとも特に良好に動物細胞を培養することが可能である。また、良好なタンパク質の産生量が得られる。【0015】本発明で使用する魚肉の内臓及び正肉を採取する魚としては、鰹、ソウダガツオ、鮪、鯖、秋刀魚、鰯、鯵、鮭などの赤身魚や、鯛、鱈、平目、鰈、鱸などの白身魚が挙げられ、好ましくは鰹、ソウダガツオ、鯖、鱈、鮭、鰯であり、特に好ましくは鰹、鯖である。【0016】混合する正肉と内臓は同じ魚種のものを用いてもよいが、正肉と内臓で異なる魚種のものを用いてもよい。本発明で使用する添加剤には、魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物又は前記混合物の抽出物を用いることができる。前記混合物の酵素分解物は、前記混合物又は混合物抽出物をタンパク質分解酵素で処理して得ることができる。【0017】あるいは、魚肉の内臓を酵素分解して酵素分解物を得るか、又は内臓から抽出物を得て、別途魚肉の正肉を酵素分解して酵素分解物を得るか、又は正肉から抽出物を得た後、これらを混合することによって添加剤を製造してもよい。【0018】本発明で使用する魚肉混合物の抽出物は、例えば、上記魚肉の内臓と正肉を一緒にあるいは別々に適当な断片に切断したり、あるいはミンチにしてペースト状にして、その可溶性成分を熱水、例えば90-95℃の熱水で数十分から数十時間抽出することによって得ることができる。具体的には、鰹節の製造時の鰹煮汁や缶詰製造時のクックドレンなどが挙げられる。【0019】また、魚肉混合物の酵素分解物は、例えば、魚肉の内臓と正肉を一緒にあるいは別々に煮たものをそのまま、あるいは、ミンチにしてペースト状にしたもの、あるいは上記のようにして得られた抽出物に適量の水を加え、必要に応じて加熱してタンパク変性させた後、タンパク質分解酵素で処理し、適宜遠心分離や濾過等により油分や不溶化物を除去することによって得ることができる。かかる魚肉混合物の抽出物あるいは酵素分解物はpHを7-7.4程度に調製して使用するのが好ましい。【0020】本発明で使用するタンパク質分解酵素としては、プロテイナーゼ及び/又はペプチダーゼが挙げられる。本発明では、プロテイナーゼの語は、タンパク質を基質としてタンパク質を加水分解する酵素をいい、ペプチダーゼの語は、ペプチドを基質とするペプチド結合加水分解酵素をいう。すなわち、プロテアーゼのタンパク質基質に対する活性をプロテイナーゼ活性、ペプチド基質に対する活性をペプチダーゼ活性として区別することができる。タンパク質基質に対するプロテアーゼの活性によって、ペプチド結合鎖の中程からの切断を触媒するときにはプロテイナーゼという用語を用い、従ってエンドペプチダーゼは本明細書ではプロテイナーゼの1種として使用している。本発明で使用するプロテイナーゼ又はペプチダーゼは哺乳動物由来でないことが好ましい。【0021】具体的には、パパイン、キモパパイン、プロメライン、フィシンなどの植物起源の酵素およびカビ、細菌、酵母などの微生物起源の酵素で、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ジペプチダーゼなどの酵素等が挙げられる。これらの酵素は単独あるいは併用して使用することができる。併用する場合は、それらを同時に添加してもよいし、段階的に添加してもよい。【0022】本発明における魚肉混合物の酵素分解物としては、上記のプロテイナーゼで処理し、次いでペプチダーゼで処理して得られる魚肉混合物の酵素分解物が好ましい。【0023】酵素処理は、使用する酵素の種類によって異なるが、通常、pH2−12、好ましくはpH4−8で、30−90℃、好ましくは40−65℃の温度で、30分−72時間、好ましくは3−24時間行う。その際、酵素は基質としてのタンパク質の0.01−10%、好ましくは0.5−5%、さらに好ましくは1−3%程度使用する。【0024】このようにして得られた魚肉混合物の酵素分解物中の酵素を加温などによって失活させた後、遠心分離や濾過等を適宜行って油分や不溶化物を除去することによって酵素分解物を調製することができる。【0025】得られた酵素分解物は必要に応じて濃縮したり、スプレードライやフリーズドライなどの乾燥、粉化技術を擁して粉末にし、動物培養培養用培地への添加剤にすることも可能である。【0026】本発明における魚肉の内臓としては、胃、幽門垂、腸、肝臓、胆のう、精巣、卵巣、心臓などを挙げることができる。本発明における魚肉の正肉とは、魚から上記の内臓及び骨、頭などを除いた正肉部分をいう。【0027】本発明の動物細胞培養用培地への添加物は魚肉の内臓と正肉が含まれていればよく、その比率は特に限定されないが、細胞の生存率及びタンパク質の産生量の点からは、好ましくは内臓と正肉との重量比が75:25〜40:60、好ましくは65:35〜55:45、さらに好ましくは60:40である。【0028】なお、本発明では、魚肉の内臓と正肉からなる混合物を製造するときに、魚の骨、頭などの部分が混入してもよい。本発明の動物細胞培養用培地には、本発明の魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物又は前記混合物の抽出物を含むことを特徴とする動物細胞培養用培地への添加物を含み、さらに他の成分として通常動物細胞培養培地で使用されている各成分を適宜使用できる。これらにはアミノ酸、ビタミン類、脂質因子、エネルギー源、浸透圧調節剤、鉄源、pH緩衝剤を含む。上記成分のほか、例えば、微量金属元素、界面活性剤、増殖補助因子、ヌクレオシドなどを添加しても良い。【0029】具体的には、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン等、好ましくはL-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シスチン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン等のアミノ酸類;i−イノシトール、ビオチン、葉酸、リポ酸、ニコチンアミド、ニコチン酸、p-アミノ安息香酸、パントテン酸カルシウム、塩酸ピリドキサール、塩酸ピリドキシン、リボフラビン、塩酸チアミン、ビタミンB12、アスコルビン酸等、好ましくはビオチン、葉酸、リポ酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、塩酸ピリドキサール、リボフラビン、塩酸チアミン、ビタミンB12、アスコルビン酸等のビタミン類;塩化コリン、酒石酸コリン、リノール酸、オレイン酸、コレステロール等、好ましくは塩化コリン等の脂質因子;グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等、好ましくはグルコース等のエネルギー源;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム等、好ましくは塩化ナトリウム等の浸透圧調節剤;EDTA鉄、クエン酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等、好ましくは塩化第二鉄、EDTA鉄、クエン酸鉄等の鉄源類;炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、HEPES、MOPS等、好ましくは炭酸水素ナトリウム等のpH緩衝剤を含む培地を例示できる。【0030】上記成分のほか、例えば、硫酸銅、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化ニッケル、塩化スズ、塩化マグネシウム、亜ケイ酸ナトリウム等、好ましくは硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム等の微量金属元素;Tween80、プルロニックF68等の界面活性剤;および組換え型インシュリン、組換え型IGF、組換え型EGF、組換え型FGF、組換え型PDGF、組換え型TGF-α、塩酸エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、レチノイン酸、塩酸プトレッシン等、好ましくは亜セレン酸ナトリウム、塩酸エタノールアミン、組換え型IGF、塩酸プトレッシン等の増殖補助因子;デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、アデノシン、シチジン、グアノシン、ウリジン等のヌクレオシドなどを添加してもよい。なお上記本発明の好適例においては、ストレプトマイシン、ペニシリンGカリウム及びゲンタマイシン等の抗生物質や、フェノールレッド等のpH指示薬を含んでいても良い。【0031】本発明の動物細胞培養用培地を具体的に調製するには、市販の動物細胞培養用培地、例えば、BME培地、MEM培地、DMEM培地、F10培地、F12培地などの培地に、哺乳動物由来の成分に代えて、本発明の添加物を添加して調製してもよい。【0032】本発明においては、培地中Brix 5%以下、好ましくは、Brix 0.5-3%、特に好ましくはBrix 1-2%程度の濃度となるように培地に魚肉混合物抽出物又は魚肉混合物の酵素分解物を添加する。なお、上記濃度は屈折糖度計により測定した可溶性固形分を指標にした濃度である。【0033】また、培地中のその他の成分の含量は、アミノ酸は0.05−1500mg/L、ビタミン類は0.001−10mg/L、脂質因子は0−200mg/L、エネルギー源は1−20g/L、浸透圧調節剤は0.1−10000mg/L、鉄源は0.1−500mg/L、pH緩衝剤は1−10000mg/L、微量金属元素は0.00001−200mg/L、界面活性剤は0−5000mg/L、増殖補助因子は0.05−10000μg/Lおよびヌクレオシドは0.001−50mg/Lの範囲であり、培養する動物細胞の種類、所望のタンパク質の種類などにより適宜決定できる。【0034】培地のpHは培養する細胞により異なるが、一般的にはpH6.8〜7.6、多くの場合pH7.2〜7.4である。本発明の培地は特に限定されることなく種々の動物細胞を好適に培養するのに使用できる。例えば、遺伝子工学的操作によって所望の抗体あるいは生理活性物質の遺伝子を組み込んだCOS細胞やCHO細胞、あるいは、抗体を産生するマウス−ヒト、マウス−マウス、マウス−ラット等のハイブリドーマに代表される融合細胞を培養することが可能である。特に、CHO細胞の培養に好適である。勿論、本発明の動物細胞培養用培地は、動物細胞を培養して該動物細胞の産生する天然型タンパク質を得ようとする場合にも使用でき、上述した細胞の他に、BHK細胞、HeLa細胞などの培養にも使用できる。【0035】培養条件は使用する細胞の種類によって異なるので、適宜好適な条件を決定すればよい。例えばCHO細胞であれば通常、気相のCO2濃度が0−40%、好ましくは、2−10%の雰囲気下、30−39℃、好ましくは、37℃程度で、1−14日間培養すればよい。【0036】また、動物細胞培養用の各種の培養装置としては、例えば発酵槽型タンク培養装置、エアーリフト型培養装置、カルチャーフラスコ型培養装置、スピンナーフラスコ型培養装置、マイクロキャリアー型培養装置、流動層型培養装置、ホロファイバー型培養装置、ローラーボトル型培養装置、充填槽型培養装置等を用いて培養することができる。【0037】本発明の動物細胞培養用培地中で培養を行うことにより、動物細胞により生産されたタンパク質を培地中に得ることができる。動物細胞のタンパク質の生産は、単にそれを培養するのみで良いものや、特殊な操作を必要とするものも存在するがそれらの操作又は条件等は培養する動物細胞により適宜決定すれば良い。例えば遺伝子工学的操作によりマウス−ヒトキメラ抗体をコードする遺伝子を含むベクターでトランスフォームされたCHO細胞では、前記のような条件下で培養を実施することにより、1−14日間、好ましくは7−10日間程度で所望のタンパク質を培地中に得ることができる。これを常法(例えば、抗体工学入門、地人書館、p.102-104;Affinity Chromatography Principles & Methods、アマシャム ファルマシア バイテク(株)、p.56-60など参照)に従い単離、精製することによって、所望のタンパク質を得ることができる。【0038】上記の製造方法によって、抗ヒトIL-6レセプター抗体などの組換え抗体(キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト型化抗体を含む)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン、インターフェロン、IL-1やIL-6等のインターロイキン、t-PA、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固第VIII因子等の遺伝子組換えタンパク質を製造することができる。【0039】【実施例】以下に本発明を更に詳細に説明するための実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。当業者にとっては種々の変更、改変が可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。実施例1:(1) 正肉の酵素分解物の調製魚肉として市販の鰹を使用した。魚肉から内臓、骨、頭などを除去し、ミンチ状にカットしたもの1000gに水1500gを加え、植物由来のパパイン4gで、pH6.0、50℃の条件下で1時間インキュベートし、酵素分解を行った。次にカビ由来のエキソペプチダーゼ4gでさらに上記条件下で15時間酵素分解を行った後、95℃に加熱することで酵素を失活させた。その後遠心分離、濾過により不溶物、油分を除去、濃縮して、本発明の正肉(鰹)の酵素分解物500gを調製した。(2)内臓の酵素分解物の調製魚肉として市販の鰹を使用した。魚肉から内臓のみを取り出し、取り出した内臓を(1)の正肉の酵素分解物の調整と同様の方法で処理し、内臓(鰹)の酵素分解物500gを調製した。(3)内臓と正肉の酵素分解物の混合物の調製(1)および(2)と同様の方法で、内臓:正肉が7:3、6:4、5:5、4:6、3:7の割合で混合された酵素分解物を調製した。実施例2:培地の調製基本となる動物細胞培養用培地(基本培地)として、市販のDMEM/F12/培地(GIBCO BRL Product and Reference Guide, p357-358)からチミジン、ヒポキサチンを除去した培地に以下の成分を添加したものを用いた。【0040】市販のDMEM/F12培地からチミジン、ヒポキサチンを除去した培地に以下の成分を添加したもの:アスコルビン酸30mg/L、デオキシアデノシン(1H2O)10mg/L、デオキシシチジン10mg/L、デオキシグアノシン10mg/L、アデノシン5mg/L、シチジン5mg/L、グアノシン5mg/L、ウリジン5mg/L、エタノールアミン(HCl)4mg/L、プルロニックF-68 1000mg/L、塩化第二鉄(6H2O)18.9mg/L上記培地(基本培地)に、実施例1で調製した酵素分解物をそれぞれ固形分換算で10g/L又は17.5g/L添加し、濾過滅菌した。実施例3:内臓と正肉の比率が細胞生存率に及ぼす効果国際特許出願公開番号WO92/19759号公報の実施例10に記載されたヒトエロンゲ−ションファクタ−Iαプロモ−タ−を利用し、特開平8−99902号公報の参考例2に記載された方法に準じて作成したヒト型化PM−1抗体(抗ヒトIL−6レセプタ−抗体)を産生するCHO細胞株を用いて試験した。【0041】実施例2で調製した内臓:正肉の比率を変化させた培地(基本培地に実施例1(4)で調製した酵素分解物をそれぞれ17.5g/L添加した培地)に上記CHO細胞(1.5×105cell/ml)を添加し、シェーカーフラスコ型細胞培養装置を用いて37℃、5%CO2のインキュベーション条件下で12日間培養した。【0042】次いで、培養開始から7日後、10日後、12日後の細胞生存率を測定した。結果を図1〜3に示す。培養7日後では内臓:正肉の比率が7:3、6:4、5:5、4:6の場合に生存率が高く、3:7では生存率が低いことが明らかとなった。【0043】培養10日後では内臓:正肉の比率が7:3、6:4の場合に生存率が高く、4:6、3:7では細胞は生存していないことが明らかとなった。培養12日後では、内臓:正肉の比率が6:4の場合に細胞が生存しており、その他の比率では細胞は生存していないことが明らかとなった。実施例4: 抗体産生量に及ぼす効果本明細書の実施例2で調製した培地(基本培地+正肉酵素分解物4g/L+内臓酵素分解物6g/L(内臓:正肉の比率6:4)、基本培地+正肉酵素分解物10g/L、基本培地+内臓酵素分解物10g/L)に上記CHO細胞(1.5x105 cell/ml)を添加し、シェーカーフラスコ型細胞培養装置を用いて37℃、5%CO2のインキュベーター条件下で10日間培養した。【0044】次いで培地から得られた抗体タンパク質の産生量を測定した。産生量は逆相系高速液体クロマトグラフィーを使用して測定した。結果を図4に示す。内臓と正肉の酵素分解物の混合物を添加した培地で培養した場合、内臓酵素分解物又は正肉酵素分解物のみを添加した培地で培養した場合よりも、抗体タンパク質の産生量において高い効果を示した。従って、正肉のみ又は内臓のみよりも内臓と正肉の混合物の方が効果が高いことが明らかとなった。【0045】以上の結果から、魚肉の内臓のみ又は正肉のみに比べて、魚肉と正肉の混合物の方が抗体産生量が多いことが明らかとなった。又、細胞生存率の点から、内臓と正肉の比率が7:3〜4:6の場合効果が高く、7:3〜6:4ではさらに高くあり、6:4の場合に最も高いことが判明した。【0046】【発明の効果】本発明の動物細胞培養用培地は、魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物又は前記混合物の抽出物を含有することにより、牛胎児血清等の高価で品質のばらつきが大きいタンパク質を使用すること無く、安定的に動物細胞を培養することが可能である。また、本発明の培地は、魚肉の内臓のみ又は正肉のみを含む培地に比べて細胞生存率、タンパク質産生量のいずれにおいても優れている。更に本発明の細胞培養用培地で動物細胞を培養することにより、近年問題となっている異常プリオンあるいはウイルス等による汚染の危険性は除去され、安全なバイオ医薬品を製造し提供することができる。【図面の簡単な説明】【図1】魚肉の内臓酵素分解物と正肉酵素分解物を様々な比率で含む培地でCHO細胞を培養したときの7日後の細胞生存率を示すグラフである。【図2】魚肉の内臓酵素分解物と正肉酵素分解物を様々な比率で含む培地でCHO細胞を培養したときの10日後の細胞生存率を示すグラフである。【図3】魚肉の内臓酵素分解物と正肉酵素分解物を様々な比率で含む培地でCHO細胞を培養したときの12日後の細胞生存率を示すグラフである。【図4】魚肉の内臓酵素分解物、正肉酵素分解物又はこれらの混合物を含む培地でCHO細胞を培養したときの抗体産生量に及ぼす効果を示すグラフである。 内臓と正肉との重量比が75:25〜40:60である、魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物を含むことを特徴とする動物細胞培養用無血清培地への添加剤。 混合物の酵素分解物がプロテイナーゼ及び/又はペプチダーゼを用いて得られる請求項1記載の添加剤。 プロテイナーゼ又はペプチダーゼが哺乳動物由来でないことを特徴とする請求項2記載の添加剤。 混合物の酵素分解物が、混合物又は混合物抽出物をプロテイナーゼ処理し、次いで、ペプチダーゼ処理して得られるものである請求項2又は3記載の添加剤。 内臓と正肉との重量比が65:35〜55:45である請求項1−4のいずれかに記載の添加剤。 内臓と正肉との重量比が60:40である請求項5記載の添加剤。 魚肉が、鰹、ソウダガツオ、鱈、鯖、鮭および鰯からなる群より選ばれる1種以上である請求項1−6のいずれかに記載の添加剤。 以下の工程を含む動物細胞培養用培地への添加剤の製造方法:(a)魚肉の内臓と正肉を、内臓と正肉との重量比が75:25〜40:60の割合で混合する工程、及び(b)上記混合物を酵素分解して酵素分解物を得る工程。 以下の工程を含む動物細胞培養用培地への添加剤の製造方法:(a)魚肉の内臓を酵素分解して酵素分解物を得る工程、(b)魚肉の正肉を酵素分解して酵素分解物を得る工程、及び(c)上記(a)工程で作製した物質と、上記(b)工程で作製した物質を混合する工程、ただし、工程(a)及び工程(b)における内臓と正肉との重量比が75:25〜40:60である上記方法。 内臓と正肉との重量比が65:35〜55:45である請求項9記載の方法。 内臓と正肉との重量比が60:40である請求項10記載の方法。 請求項1〜7のいずれかに記載の添加物を含む動物細胞培養用無血清培地。 動物細胞を培養して所望のタンパク質を製造するための培地である請求項12記載の培地。 動物細胞培養用培地が、アミノ酸、ビタミン類、脂質因子、エネルギー源、浸透圧調節剤、鉄源およびpH緩衝剤を含む請求項12または13記載の培地。 動物細胞が、所望のタンパク質をコードする遺伝子を導入されたものである請求項12−14のいずれかに記載の培地。 所望のタンパク質が、抗体又は生理活性物質である請求項15記載の培地。 動物細胞が、CHO細胞である請求項12−16のいずれかに記載の培地。 動物細胞を培養して所望のタンパク質を製造する方法において、該培養を、内臓と正肉との重量比が75:25〜40:60である、魚肉の内臓と正肉からなる混合物の酵素分解物を含むことを特徴とする動物細胞培養用無血清培地を使用して行うタンパク質の製造方法。


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