タイトル: | 特許公報(B2)_尿沈渣検査用試薬及び尿沈渣の検査方法 |
出願番号: | 2002139636 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 33/493 |
松岡 優 JP 3875916 特許公報(B2) 20061102 2002139636 20020515 尿沈渣検査用試薬及び尿沈渣の検査方法 極東製薬工業株式会社 390023951 岡田 希子 100107799 前 直美 100113402 松岡 優 20070131 G01N 33/493 20060101AFI20070111BHJP JPG01N33/493 A G01N 33/493 特開2000−187033(JP,A) 特開平05−040118(JP,A) 特表2002−526040(JP,A) 特開平06−253893(JP,A) 特開平09−089752(JP,A) 松岡優ほか,Sternheimer染色を改良した尿沈渣染色液の検討,医学検査,2003年,Vol.52, No.3,187-193 長廻範子,初心者のための尿沈渣検査のコツ 第1回 標本作製法,検査と技術,2004年 3月,Vol.32, No.3,223-233 山本格士ほか,Alcian green 2GX色素を用いた新しい粘液染色法の検討−Alcian green染色(山本法),臨床検査,日本,1990年,34(3),358-362 10 2003329670 20031119 12 20050406 竹中 靖典 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、新規の尿沈渣検査用試薬及びその試薬を用いる尿沈渣の検査方法に関する。【0002】【従来の技術】人間ドックを初めとする健康診断では、尿路疾患、腎炎、癌等の諸疾患発見のための一次スクリーニングとして、尿沈渣を調べる。より具体的には、新鮮尿を遠心分離にかけて得られる沈澱(尿沈渣)を染色試薬で染色し、顕微鏡下で赤血球、白血球、上皮細胞、円柱結晶成分等の有無を観察する。この方法に適用されている染色方法は、1975年にSternheimerによって発表されたステンハイマー染色(A supravital cytodiagnosticstain for urinary sediments,J.A.M.A.,231:826−832,1975)をその原理とする。【0003】このステンハイマー染色(以下、「S染色原法」という)では、核を青色に染色する色素として、フタロシアニン系塩基色素であるナショナル・ファースト・ブルーが、また、細胞質を赤紫色に染色する色素として、キサンテン系塩基色素であるピロニンBが使用されている。ところが、日本国においては、従来より、ナショナル・ファースト・ブルーに代わって、同じくフタロシアニン系塩基色素であるアルシアン・ブルーが使用されてきた。この日本国独特の方法(以下、「S染色変法」という)は、日本国において、尿沈渣の染色方法として広く普及している。このS染色変法は、尿中の円柱の主成分であるムコタンパクをも染色できるという点において、S染色原法よりも優れた方法である。【0004】ところが、昨年、諸事情により、アルシアン・ブルー(Color Index No.74240、C.I.Ingrain Blue 1、市販品の一例として、Atic Industries社製アルシアン・ブルー8GXが挙げられる)の製造が中止された。従って、アルシアン・ブルーの在庫が底をついた時点で、より具体的には2〜3年後には、アルシアン・ブルーを含むS染色変法用試薬は入手できなくなる。【0005】【発明が解決しようとする課題】上述したように、S染色変法は、尿沈渣の鏡検を行うための、前処理としての染色には欠かせない方法である。したがって、アルシアン・ブルー以外の色素を用いた、S染色変法用試薬に代わり得る染色試薬の探索、提供が、臨床検査の現場において渇望されている。【0006】本発明は、このような状況を踏まえてなされたものであり、尿沈渣の染色に使用される新規の尿沈渣検査用試薬及びその試薬を用いる尿沈渣の検査方法の提供を目的とする。【0007】【課題を解決するための手段】上記課題の解決のため、本発明者は、鋭意研究を行い、その結果、本発明を完成させた。【0008】即ち、本発明は、アルシアン・グリーンとピロニン染料とを含む水性液体であることを特徴とする尿沈渣検査用試薬を提供する。【0009】ピロニン染料として、カラー・インデックスNo.45005のピロニン及び/又はカラー・インデックスNo.45010のピロニンを用いることが好ましい。【0010】上記試薬は、さらに、防腐剤及び/又は防黴剤を含むことが好ましい。【0011】前記水性液体を構成する溶媒として、緩衝液が好ましく、リン酸緩衝生理食塩水及びトリス緩衝生理食塩水がより好ましく、10倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水が特に好ましい。【0012】また、本発明は、尿沈渣に、上記の本発明の尿沈渣検査用試薬を、尿沈渣:試薬=1〜50:1(容積比)の割合で加え、顕微鏡下で尿沈渣の一部又は全部を観察することを含む、尿沈渣の検査方法を提供する。【0013】前記観察は、尿沈渣に試薬を添加してから1時間以内に行うのが好ましい。【0014】前記観察は、100倍の倍率で全視野について行うのが好ましい。【0015】前記観察は、400倍の倍率で必要に応じて20以上の視野について行うのが好ましい。【0016】【発明の実施の形態】以下に、本発明について、詳細に説明する。【0017】本発明の試薬に用いる色素は、アルシアン・グリーンとピロニン染料である。【0018】アルシアン・グリーンは、フタロシアニン系の色素である。アルシアン・グリーンの市販品の例として、Imperial Chemical Industries(ICI)社の「アルシアン・グリーン3BX(Color Index Ingrain Green 1)」とAtic Industries社の「アルシアン・グリーン2GX(Color Index Ingrain Green 2)」とが挙げられる。【0019】ピロニン染料は、キサンテン(又はザンセン)染料の一種の紅色塩基性染料である。Color Index No.45000〜45020の色素が、ピロニン染料に分類される。本発明では、Color Index(カラー・インデックス)No.45005のピロニン、及び/又は、Color Index(カラー・インデックス)No.45010のピロニンの使用が好ましい。C.I.No.45005のピロニンの市販品の例として、Bayer社製ピロニンGが、また、C.I.No.45010のピロニンの市販品の例として、Bayer社製ピロニンBが挙げられる。【0020】本発明の試薬は、水性液体の形態をとる。この水性液体を構成する溶媒は、例えば、水(イオン交換水、蒸留水)及び各種緩衝液である。【0021】緩衝液の例としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4付近)、PBS(−)、10×PBS(試薬濃度が10倍濃いPBS)、トリス塩酸緩衝液(pH約7.2〜約9.0)、トリス緩衝生理食塩水(TBS、pH7.4付近)、リン酸ナトリウム緩衝液(pH約5.7〜約8.0)、クエン酸緩衝液(pH約3.0〜約5.8)、酢酸緩衝液(pH約3.6〜約5.6)、グリシン−NaOH緩衝液(pH約8.6〜約10.6)、ホウ砂緩衝液(pH約9.0〜約10.6、40℃)、ホウ酸・ホウ砂緩衝液(pH約7.6〜約9.2)、炭酸・重炭酸緩衝液(pH約9.2〜約10.7)、SdrensenとPalitrschの緩衝液、Walpoleの緩衝液(pH約3.6〜約5.6)、MeIlvaineの緩衝液(pH約2.2〜約8.9)、アメジオール緩衝液(pH約7.8〜約9.2)及びバルビタール緩衝液(pH約7.0〜約8.9)等が挙げられる。【0022】pHが5.0〜9.0、好ましくは6.0〜8.0、より好ましくは7.0付近の緩衝液を用いることが好ましい。【0023】緩衝液の中では、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びトリス緩衝生理食塩水(TBS)が好ましく、10倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(10×PBS)を用いると、赤血球の溶血が少ないので、特に好ましい。【0024】本発明の試薬は、さらに、防腐剤及び/又は防黴剤を含むことが好ましい。これらを含むことにより、細菌やカビによる試薬の汚染及びそれから派生する検査結果の誤りを防止できる。【0025】本発明の試薬に用いる防腐剤の例としては、ソルビン酸、サリチル酸、デヒドロ酢酸及びそのNa塩、パラヒドロキシ安息香酸エステル類及びウンデシレン酸等の酸類、フェノール、クレゾール、p−クロロフェノール、ベンジルアルコール、p−クロロ−m−キシレノール、p−クロロ−m−クレゾール、チモール、フェネチルアルコール、0−フェニルフェノール、イルガサン(商標)類、ヘキサクロロフェン及びクロルヘキシジン等のフェノール類、エタノール及びクロロブタノール等のアルコール類、及び、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウム等のカチオン界面活性剤類が挙げられる。【0026】また、本発明の試薬に用いる防黴剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウム等のカチオン界面活性剤類が挙げられる。【0027】本発明の試薬(水性液体)は、アルシアン・グリーンを、例えば0.2〜10重量%、一般的には0.3〜5重量%、好ましくは0.5〜2.5重量%、より好ましくは1.0〜1.6重量%、さらにより好ましくは1.1〜1.5重量%、最も好ましくは1.2〜1.4重量%含有する。本発明の試薬は、ピロニン染料を、例えば0.1〜5重量%、一般的には0.15〜3重量%、好ましくは0.2〜1.5重量%、より好ましくは0.2〜0.8重量%、さらにより好ましくは0.3〜0.7重量%、最も好ましくは0.4〜0.6重量%含有する。本発明の試薬がカラー・インデックスNo.45005のピロニン(ピロニンG)とカラー・インデックスNo.45010のピロニン(ピロニンB)の両者を含有する場合は、本発明の試薬(水性液体)は、これらのピロニンを、各々、例えば0.05〜2.5重量%、一般的には0.075〜1.5重量%、好ましくは0.1〜0.75重量%、より好ましくは0.1〜0.4重量%、さらにより好ましくは0.15〜0.35重量%、最も好ましくは0.2〜0.3重量%含有する。カラー・インデックスNo.45005のピロニン(ピロニンG)とカラー・インデックスNo.45010のピロニン(ピロニンB)の両者を用いると、細胞質の染色性に特に優れる。【0028】防腐剤、防黴剤の含有量は、用いる化合物(防腐剤、防黴剤)の種類による。各防腐剤、防黴剤の適正含有量は、本技術分野で公知であるが、一例を挙げると、塩化ベンゼトニウムの場合は、一般的には0.02〜0.08重量%、好ましくは0.03〜0.07重量%、より好ましくは0.04〜0.06重量%であり、0.05重量%付近が最も好ましい。また、アジ化ナトリウムの場合は、0.1重量%付近が最善である。【0029】本発明の試薬は、水性液体に、色素類と、必要に応じて防腐剤、防黴剤を溶解させることで製造することができる。しかし、各色素のストック溶液(溶媒に色素一種類を溶解させたもの)を用意して、それらを適当な比率で混合し、要すれば得られた混合物に防腐剤、防黴剤を溶解させるという方法で製造するのが好ましい。【0030】本発明は、尿沈渣に、上記の本発明の尿沈渣検査用試薬を、尿沈渣:試薬(容積比)=1〜50:1、好ましくは3〜30:1、より好ましくは5〜20:1、さらにより好ましくは8〜18:1、最も好ましくは10〜16:1の割合で加え、顕微鏡下で尿沈渣の一部又は全部を観察することを含む、尿沈渣の検査方法を提供する。【0031】染色された尿沈渣の顕微鏡による観察は、尿沈渣中に含まれている成分の細胞質や核が染色された後に行う。本発明の試薬は、染色性が良好で、しかも濃染し難いので、前記観察を、尿沈渣に試薬を添加した直後から2時間後位までの間に行うことができる。なお、前記観察は、尿沈渣に試薬を添加してから1時間以内に行うのが好ましい。【0032】前記観察は、顕微鏡の倍率を100〜400倍に設定して行うのが好ましく、100倍又は400倍の倍率で行うのが特に好ましい。例えば100倍の倍率で観察する場合には、全視野について観察を行い、また、例えば400倍の倍率で観察する場合には、必要に応じ、20以上の視野について観察を行うのが好ましい。100倍の倍率では、通常は、作製した尿沈渣標本に偏りがないか、沈渣の塊が入っていないか等を判定する。400倍の倍率では、各種成分の有無の判定及び数の算定を行う。【0033】従来は、無染色の尿沈渣検体と、検体の状況によってはS染色変法によって染色した検体について、顕微鏡下での観察を行い、一視野内の赤血球の数、白血球の数、上皮細胞の量、異型上皮細胞の数、円柱の数、結晶成分の量等を判定していた。本発明の検査方法においては、染色した尿沈渣検体を観察するが、無染色の検体の観察は、検体の状況に応じて行っても行わなくてもよい。【0034】【実施例】以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。【0035】(実施例1)(1)尿沈渣が赤血球、白血球、円柱等の固形成分を含むことが確認された尿を、10mlずつ遠心分離用チューブに入れ、室温にて、500gで5分間遠心分離した。このようにして得られた尿沈渣各々を、表1に示す色素で染色し、鏡検し、染色性を比較した。染色液は、青色系のAlcian Green(アルシアン・グリーン)3BX、Victoria Blue(ビクトリア・ブルー)B、Toluidine Blue(トルイジン・ブルー)N、Cresyl Violet(クレジル・バイオレット)、Anilin Blue(アニリン・ブルー)水溶性、Water Blue(ウォーター・ブルー)及びAstra Blue(アストラ・ブルー)の各色素については1.33重量%の、赤色系のOrange(オレンジ)G、Pyronine(ピロニン)G及びPyronine(ピロニン)Bの各色素については0.5重量%の水溶液とした。尿沈渣200μlにつき、色素水溶液15μlを使用し、尿沈渣に色素水溶液を添加した5分後に、顕微鏡下で400倍の倍率で観察を行った。結果を表1に示す。【0036】【表1】【0037】以上の結果より、アルシアン・グリーン3BX、アストラ・ブルー、ピロニンG及びピロニンBが、尿沈渣染色用試薬に用いる色素として使用可能であると考えられた。【0038】(2)次に、アルシアン・グリーン3BXとピロニンGとの混合物及びアストラ・ブルーとピロニンGとの混合物の水溶液を用いて、尿沈渣の染色を行った。ピロニンBについては、表1から明らかなようにピロニンGとほぼ同様の結果であったので、ここでは試験を行わなかった。染色液は、アルシアン・グリーン3BX又はアストラ・ブルーを1.33重量%と、ピロニンGを0.5重量%含む水溶液とした。染色及び観察は、(1)に記載したものと同様の条件で行った。結果を表2に示す。【0039】【表2】【0040】以上の結果より、尿沈渣染色用試薬に用いる色素の候補として、アルシアン・グリーン3BX、ピロニンG及びピロニンBが選択された。【0041】(実施例2)尿沈渣染色用試薬に用いる色素の最適な組合わせの検討のため、▲1▼アルシアン・グリーン3BXとピロニンG、▲2▼アルシアン・グリーン3BXとピロニンB及び▲3▼アルシアン・グリーン3BX、ピロニンG及びピロニンBを含み、防腐剤としての塩化ベンゼトニウム(和光純薬工業株式会社製、Lot.DWL−5057、粉末、純度98%以上)をも含む水溶液を調製した。より具体的には、先ず、アルシアン・グリーン3BXの2重量%水溶液、ピロニンGの1.5重量%水溶液、ピロニンBの1.5重量%水溶液及び塩化ベンゼトニウムの10重量%水溶液を用意し、表3に記載の割合でこれらの水溶液を混合した。【0042】【表3】【0043】これら3種の色素水溶液▲1▼〜▲3▼を用いて、尿沈渣の染色を行った。染色及び観察は、実施例1(1)に記載したものと同様の条件で行った。結果を表4に示す。【0044】【表4】【0045】表4に示すとおり、尿沈渣の染色用試薬として、色素水溶液▲1▼〜▲3▼のいずれも使用可能であるが、細胞及び円柱の染色性及び背景のきれいさの点において、色素水溶液▲3▼が優れていた。【0046】次に、水の代わりに10×PBSを用いた以外は色素水溶液▲2▼と同様にして、色素水溶液▲2▼−bを調製した。この色素水溶液▲2▼−bを用いて、尿沈渣の染色及び観察を同様に行った。その結果、細胞質と核との染め分け及び円柱の染色性などを含む尿沈渣成分の染色性及び背景のきれいさに関し、色素水溶液▲3▼を用いた場合よりもさらに優れていた。【0047】(実施例3)(1)尿沈渣が赤血球、白血球、円柱等の固形成分を含むことが確認された尿(検体1〜3)を用意した。検体1のpHは約5.0であった。検体2のpHは約7.0であった。検体3のpHは約9.0であった。検体1〜3各々の比重を比重計(屈折法によるもの)を用いて測定したところ、いずれも1.015〜1.020の範囲内であった。【0048】検体1を、10mlずつ遠心分離用チューブに入れ、室温にて、500gで5分間遠心分離した。このようにして得られた検体1に由来する尿沈渣各々(200μl)に、表5に示す染色液のいずれかを、15μl添加した。【0049】【表5】【0050】尿沈渣に染色液を添加した5分後に、顕微鏡下で200倍もしくは400倍の倍率で溶血しなかった残存赤血球数を数えた。より具体的には、染色液添加尿沈渣1μl中の赤血球数を算定するために、Neubauer計算盤を用い、大区画5区画について各々赤血球数を数え、それらの平均値を求めた。【0051】検体2及び3についても、検体1と同様の処理及び観察を行った。【0052】結果を図1及び図2に示す。図1は、溶血しなかった残存赤血球数を示す棒グラフであり、図2は、無染色の場合の残存赤血球数に対する各サンプルの残存赤血球数を百分率で表した結果を示す棒グラフである。【0053】これらの図から明らかなように、発明例aを用いると、酸性尿(pH約5.0)では市販のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合と同等の、中性尿(pH約7.0)では市販のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合よりは少ない、そしてアルカリ尿(pH約9.0)では市販のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合よりもやや多い、溶血が見られた。これらの結果を総合的に判断すると、発明例aは、市販のステンハイマー染色変法用試薬と同等以上の性能を示すといえる。特に尿が中性の場合には、発明例aを用いて染色しても無染色と同等の赤血球数であったので、pHが中性の検体では、無染色での観察を不要とできる可能性がある。【0054】(2)尿沈渣が赤血球、白血球、円柱等の固形成分を含むことが確認された尿(pH約7.0)3種(検体4〜6)を用意した。これらの検体の比重を比重計(屈折法によるもの)を用いて測定したところ、検体4は1.005、検体5は1.020、検体6は1.030であった。【0055】これ以降は、(1)に記載の方法と同様の方法により、尿沈渣中の残存赤血球数を数えた。【0056】結果を図3及び図4に示す。図3は、溶血しなかった残存赤血球数を示す棒グラフであり、図4は、無染色の場合の残存赤血球数に対する各サンプルの残存赤血球数を百分率で表した結果を示す棒グラフである。【0057】これらの図から明らかなように、発明例aを用いると、低比重尿(比重1.005)では市販のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合よりはかなり少ない、中比重尿(比重1.020)では市販のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合よりはやや多い、そして高比重尿(比重1.030)では市販のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合と同等か又はそれよりもやや少ない、溶血が見られた。これらの結果を総合的に判断すると、発明例aは、市販のステンハイマー染色変法用試薬と同等以上の性能を示すといえる。特に低比重尿の場合には、発明例aを用いて染色しても無染色と同等の赤血球数であったので、無染色での観察を不要とできる可能性がある。【0058】(実施例4)(1)発明例aの代わりに、以下に示す発明例bを用いた以外は、実施例3(1)と同様の実験を行った。【0059】発明例b:[アルシアン・グリーン3BX(2重量%)の10×PBS溶液2.0ml]+[ピロニンG(1.5重量%)の10×PBS溶液0.5ml]+[ピロニンB(1.5重量%)の10×PBS溶液0.5ml]+[塩化ベンゼトニウム(10重量%)の水溶液30μl]【0060】結果を図5に示す。図5は、無染色の場合に溶血せずに残存した赤血球数に対して、各サンプルの残存赤血球数を百分率で表した結果を示す棒グラフである。【0061】図5から明らかなように、発明例bを用いると、酸性尿(pH約5.0)及び中性尿(pH約7.0)では、既存のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合はもとより、無染色の場合よりも溶血が少なかった。また、アルカリ尿(pH約9.0)の場合も、溶血は既存のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合と同等であった。これらの結果を総合的に判断すると、発明例bは、市販品をはじめとする既存のステンハイマー染色変法用試薬よりも溶血性が低く、より優れるといえる。特に尿が酸性〜中性の場合には、発明例bを用いて染色したものは、無染色よりも赤血球数が多かったので、pHが酸性〜中性の検体については、無染色での観察を不要とできる可能性がある。【0062】(2)発明例aの代わりに発明例bを用いた以外は、実施例4(2)と同様の実験を行った。【0063】結果を図6に示す。図6は、無染色の場合に溶血せずに残存した赤血球数に対して、各サンプルの残存赤血球数を百分率で表した結果を示す棒グラフである。【0064】図6から明らかなように、発明例bを用いると、低比重尿(比重1.005)では既存のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合と同等又はそれよりも少ない、中比重尿(比重1.020)では既存のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合よりも少ない、そして高比重尿(比重1.030)では市販のステンハイマー染色変法用試薬を用いた場合とほぼ同等の、溶血が見られた。従って、発明例bは、市販品をはじめとする既存のステンハイマー染色変法用試薬よりも溶血性が低く、より優れるといえる。また、発明例bを用いて染色した場合、いずれの比重の尿も無染色の場合の70%以上の残存赤血球数を示したので、無染色での観察を不要とできる可能性がある。【0065】【発明の効果】本発明の試薬の製造に用いられるアルシアン・グリーンは、S染色変法で使用されていたアルシアン・ブルーと比べて、水性液体への溶解性に優れる。従って、尿沈渣の染色用試薬の製造が容易となると共に、当該試薬の製造に費やされるエネルギーが大いに節約される。【0066】本発明の試薬を用いると、既存のS染色変法用試薬を用いた場合に比べて、被検体が濃染しにくい。そのため、染色された成分の検出がより容易となる。また、同様の理由により、染色された部分とそうでない部分とのコントラストが大きく且つその状態がより長く持続されるため、無染色の検体と染色した検体の両者を観察する必要性が小さい。即ち、検査は、染色した検体の鏡検のみでもよいということになり、検査効率が上昇する。【0067】本発明の尿沈渣の検査方法では、既存のカラー・アトラスをそのまま用いることができる。従って、臨床検査に携わる者は、尿沈渣の検査のための新たな技術の習得等を行う必要がない。【0068】アルシアン・グリーンに加え、カラー・インデックスNo.45005のピロニン(ピロニンG)とカラー・インデックスNo.45010のピロニン(ピロニンB)の両者を含有する本発明の試薬を用いると、核の染色性に特に優れるため、核内構造の観察がより容易となる。【0069】溶媒として約10倍濃度のPBS溶液を用いた本発明の試薬を用いると、赤血球の溶血が生じ難く、また、染色性も特に優れる。【図面の簡単な説明】【図1】図1は、3種類のpH値の尿(比重:1.015〜1.020)から得られた尿沈渣各々について、既存のステンハイマー染色変法用試薬と本発明の試薬(水性媒体:水)を用いて染色を行った後の残存赤血球数を示す棒グラフである。【図2】図2は、図1のデータを、無染色の場合の残存赤血球数を100%として表した棒グラフである。【図3】図3は、3種類の比重の尿(pH約7.0)から得られた尿沈渣各々について、既存のステンハイマー染色変法用試薬と本発明の試薬(水性媒体:水)を用いて染色を行った後の残存赤血球数を示す棒グラフである。【図4】図4は、図3のデータを、無染色の場合の残存赤血球数を100%として表した棒グラフである。グラフである。【図5】図5は、3種類のpH値の尿(比重:1.015〜1.020)から得られた尿沈渣各々について、既存のステンハイマー染色変法用試薬と本発明の試薬(水性媒体:10×PBS)を用いて染色を行った後の残存赤血球数を、無染色の場合の残存赤血球数を100%として表した棒グラフである。【図6】図6は、3種類の比重の尿(pH約7.0)から得られた尿沈渣各々について、既存のステンハイマー染色変法用試薬と本発明の試薬(水性媒体:10×PBS)を用いて染色を行った後の残存赤血球数を、無染色の場合の残存赤血球数を100%として表した棒グラフである。 アルシアン・グリーンとピロニン染料とを含む水性液体であることを特徴とする尿沈渣検査用試薬。 ピロニン染料が、カラー・インデックスNo.45005のピロニン及び/又はカラー・インデックスNo.45010のピロニンである、請求項1に記載の尿沈渣検査用試薬。 さらに防腐剤及び/又は防黴剤を含む、請求項1又は2に記載の尿沈渣検査用試薬。 前記水性液体を構成する溶媒が緩衝液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の尿沈渣検査用試薬。 前記緩衝液がリン酸緩衝生理食塩水又はトリス緩衝生理食塩水である、請求項4に記載の尿沈渣検査用試薬。 前記緩衝液が10倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水である、請求項4に記載の尿沈渣検査用試薬。 尿沈渣に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の試薬を、尿沈渣:試薬=1〜50:1(容積比)の割合で加え、顕微鏡下で尿沈渣の一部又は全部を観察することを含む、尿沈渣の検査方法。 前記観察を、尿沈渣に試薬を添加してから1時間以内に行う、請求項7に記載の尿沈渣の検査方法。 前記観察を、100倍の倍率で全視野について行う、請求項7又は8に記載の尿沈渣の検査方法。 前記観察を、400倍の倍率で必要に応じて20以上の視野について行う、請求項7又は8に記載の尿沈渣の検査方法。