生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_てんかん予防剤及び治療剤
出願番号:2002116010
年次:2009
IPC分類:A61K 31/198,A61P 25/08


特許情報キャッシュ

海野 知紀 角田 隆巳 岡村 法宜 JP 4261121 特許公報(B2) 20090220 2002116010 20020418 てんかん予防剤及び治療剤 株式会社 伊藤園 591014972 竹内 三郎 100072084 市澤 道夫 100110962 海野 知紀 角田 隆巳 岡村 法宜 JP 2001124053 20010423 20090430 A61K 31/198 20060101AFI20090409BHJP A61P 25/08 20060101ALI20090409BHJP JPA61K31/198A61P25/08 A61K 31/00-31/80 BIOSIS(STN) CA(STN) EMBASE(STN) MEDLINE(STN) JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) KIMURA,R. et al, Influence of alkylamides of glutamic acid and related compounds on the central nervous system. I. Central depressant effect of theanine, Chem Pharm Bull, 1971, Vol.19, No.6, p.1257-61 田中千賀子他編,「NEW 薬理学」,株式会社南江堂,1997,p.312-20 1 2003012513 20030115 14 20050228 特許法第30条第1項適用 平成14年3月28日〜30日 広島大学開催の「第79回 日本生理学会大会」において文書をもって発表 安川 聡 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、大脳神経細胞の過剰発射による発作を主症状とする“てんかん”の予防及び治療剤に用いるてんかん予防剤及び治療剤に関する。【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】“てんかん”は、WHO(世界保健機関)の定義によると「種々の病因によって起こる慢性の脳障害で、大脳ニューロンの過剰な発射の結果起こる反復性発作(てんかん発作)を主徴とし、これに種々の臨床症状及び検査所見を伴うもの」とされている。てんかんの発作症状は、突発性脳性律動異常の始発部位とその広がり方によって、意識障害、痙攣、自動症、その他様々な様態をとる。また、てんかんは、てんかん発作だけでなく、周期性不機嫌、挿間性精神障害、性格変化、知能障害がしばしばみられる。【0003】このような“てんかん発作”の抑制治療には、フェノバルビタールなどのバルビタール系、ベンゾジアゼピン系のクロナゼパム、バルブロ酸などに代表される抗てんかん剤が現在用いられており、てんかん患者の約80%は薬物投与によって完全に発作が抑制されると言われている。【0004】しかし、現在使用されているこれらの抗てんかん剤は、発作の抑制に極めて有効である反面、多くの副作用を伴うという課題を抱えている。例えば、中枢神経系低下、心臓血管虚脱、無形成貧血、幻視、うっ血性心不全、運動失調、人格変化、精神病、攻撃性行動、めまい、鎮静効果などの副作用が報告されており、副作用のない抗てんかん剤の開発が待ち望まれていた。【0005】【課題を解決するための手段】そこで、本発明者は、副作用が少なく、てんかんの予防効果或いは治療効果のある化合物について鋭意研究を進めた結果、茶等に含まれるアミノ酸の一種であるテアニンがてんかん予防及び治療作用を有しているという知見を得、かかる知見に基づいて本発明をなしたものである。具体的には、てんかんモデルラットに対してテアニンの投与がてんかん発作抑制作用を有することを見出し、かかる知見に基づき本発明を想到するに至ったものである。【0006】すなわち、本発明は、テアニン及びその誘導体のうちの少なくとも一種以上を有効成分として含有或いは処方させてなるてんかん予防剤及び治療剤を具体化したもので、従来のてんかん予防剤及び治療剤に比べ、優れたてんかん予防効果及び治療効果を得ることができるばかりか、副作用が少ない特徴を有している。テアニンは、茶を通して日常的に摂取されている物質であり、現在では食品添加物として認可されており、このことからも副作用が少ないことは確かである。【0007】“てんかん”という病気は、単一の疾患ではなく、大脳神経細胞の過剰発射による発作を主症状とするいくつかの疾患単位の総称である。てんかんを発作型により分類した国際分類によれば、大きく部分発作と全体発作とに分けることができ、前者の部分発作は、さらに単純部分発作、複雑部分発作及び二次性全般化に分けることができ、後者の全体発作は、さらに欠伸発作、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作に分けることができる。他方、てんかんを原因から分類すると、脳に傷などの異常がある器質性の原因とそうでない機能的な原因に分けることができ、前者の器質性の原因としては、分娩時の頭部外傷、先天性代謝異常、先天性奇形、乳幼児期の虚血、感染症、変性疾患、脳腫瘍、脳血管障害などを挙げることができ、後者の機能的な原因としては、特発性てんかんと呼ばれているものと、遺伝子変移が見られるものとを挙げることができる。本発明のてんかん予防剤及び治療剤は、全ての発作型のてんかん(部分発作及び全体発作)に対して予防効果及び治療効果を期待することができる。また、全ての原因のてんかん(器質性の原因及び機能的な原因)に対して予防効果及び治療効果を期待することができるが、中でも側頭葉てんかん(精神運動発作)に対して特に有効である。【0008】なお、テアニンの生理機能に関しては、以前より中枢神経系への作用について様々な研究が行われてきた。例えば、特開平9−286727号において、培養神経細胞にテアニンを投与した場合にグルタミン酸の毒性を抑制する作用とグルタミン酸受容体を遮蔽する作用があることを見出した「テアニンを有効成分としてなるグルタミン酸拮抗剤及びグルタミン酸受容体遮蔽作用を特徴とする神経細胞死予防剤」が開示されている。また、特開2000−229854号において、一過性脳虚血スナネズミにテアニンを投与した場合に虚血性遅発性神経細胞死保護効果があることを見出した「虚血性神経細胞死治療・予防用脳室内投与剤、血管性痴呆症治療・予防用脳室内投与剤、並びに脳内手術時投与剤」が開示されている。しかしながら、テアニン及び誘導体のてんかん予防効果及び治療効果についての開示は見られなかった。【0009】【発明の実施形態】以下、本発明のてんかん予防剤及び治療剤の成分、剤型、使用方法などの実施形態について具体的に説明する。【0010】本発明のてんかん予防剤及び治療剤は、テアニン及びその誘導体のうちの少なくとも一種以上を有効成分として含有或いは処方させることにより作成することができる。【0011】テアニン及びその誘導体としては、L−グルタミン酸−γ−エチルアミド(L−テアニン)、L−グルタミン酸−γ−メチルアミド、D−グルタミン酸−γ−エチルアミド(D−テアニン)、D−グルタミン酸−γ−メチルアミド等のL−またはD−グルタミン酸−γ−アルキルアミド、L−またはD−グルタミン酸−γ−アルキルアミドを基本構造に含む誘導体(例えばL−またはD−グルタミン酸−γ−アルキルアミドの配糖体など)からなる群から選ばれた1種類の化合物又は2種類以上の化合物からなる混合物を用いることができる。中でも、L−テアニンは、天然物から取得可能であるばかりか、食品添加物として認められており、入手の容易さ及び安全性などから特に好ましい。【0012】テアニン及びその誘導体は、既に公知となっている各種方法によって入手することが可能である。具体的には、植物または微生物などの培養法により生合成することも、茶葉から抽出することも、発酵或いは化学合成することもできる。例えば、工業的に合成するには、L−グルタミン酸を加熱して得られるL−ピロリドンカルボン酸を銅塩とした後、無水エチルアミンと反応させて、最後に脱銅して得ることができる。【0013】本発明において、テアニン及びその誘導体は、単独で用いることもできるが、その他の有効成分と混合して使用することもできる。単独で用いる場合、例えばテアニンを精製品、粗精製品、或いは茶抽出エキス等の形状のまま精製水又は生理食塩水などに溶解して調製することができる。その他の有効成分と混合する場合には、例えば、フェノバルビタールなどのバルビタール系、ベンゾジアゼピン系のクロナゼパム、バルブロ酸など、抗てんかん剤の有効成分として用いられている成分や、ドコサヘキサエン酸などのてんかんの治療及び予防効果が知られた成分などのいずれか、或いはこれらの二種類以上をテアニン水溶液に添加し、周知の方法で調製して使用することができる。【0014】本発明のてんかん予防及び治療剤は、経口投与剤或いは非経口投与剤(筋肉注射用、静脈注射用、皮下投与用、直腸投与用、経皮投与用、経鼻投与用、脳室内投与など)などの医薬品として使用することができる。中でも、脳室内投与剤として使用した場合に優れた効果、特に誘発する後発射(「AD」)を抑制する効果が見出されている。また、医薬品としてのほか、医薬部外品、化粧品、健康飲料(缶、ペットボトル、瓶飲料など)、健康食品、食品添加剤などとして様々に用いることができる。【0015】使用形態としては、凍結乾燥或いは噴霧乾燥等により乾燥させて乾燥粉末として提供することも、液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、アンプル剤、注射剤等として提供することもできる。医薬品として提供する場合、例えば、テアニンをそのまま精製水又は生理食塩水などに溶解して脳室内投与用に調製することができる。また、医薬部外品として調製し、これを瓶ドリンク飲料等の飲用形態、或いはタブレット、カプセル、顆粒等の形態とすることにより、摂取し易い予防剤を提供することができる。さらに、健康食品や健康飲料としては、例えば本発明の有効成分に乳成分、炭酸、賦形剤(造粒剤含む)、希釈剤、或いは更に甘味剤、フレーバー、小麦粉、でんぷん、糖、油脂類等の各種タンパク質、糖質原料やビタミン、ミネラルなどから選ばれた一種或いは二種以上を混合し、例えばスポーツ飲料、果実飲料、乳飲料、茶飲料、野菜ジュース、乳性飲料、アルコール飲料、ゼリー、ゼリー飲料、炭酸飲料、チューインガム、チョコレート、キャンディ、ビスケット、スナック、パン、乳製品、魚肉練り製品、畜肉製品、冷菓、乾燥食品、サプリメントなど様々な飲食物として提供することができる。【0016】なお、本発明における有効成分の含有量は、用途によっても異なるが、乾燥重量換算にして0.001〜90重量%、特に0.01〜90重量%配合することが好ましい。例えば、本発明の有効成分を0.01〜1重量%濃度で配合し、これに香味剤、甘味剤、保存料などを加え、100mlの褐色瓶容器に詰めて健康飲食品、特定保健用飲食品、特殊栄養飲食品として製品化することができる。また、錠剤やカプセル状にして、1錠又は1カプセル当たり1〜90重量%濃度で配合して医薬品として製品化することもできる。テアニン及び誘導体の摂取量は、約0.05〜2000mg/kg・日が好ましく、0.2〜1000mg/kg・日がより好ましい。【0017】以下、本発明の効果について実験に基づき詳細に説明する。【0018】[実験1]本実験では、実験動物を用いた電気キンドリングモデル作成時の後発射(After Discharge、以下「AD」と略す。)出現に及ぼすテアニンの抑制作用、特にテアニンの静脈投与の影響について検討した。【0019】この際、電気刺激後に出現するADの発展を抑制したならば、てんかん性の神経回路の構築と拡大に対して抑制的に作用したと判断できる。電気キンドリングモデルは、脳の一部を痙攣閾値下で繰り返し電気刺激することによって痙攣準備性を獲得させるものである。電気キンドリングモデルの痙攣準備性は、電気刺激によって神経細胞群から放出された興奮性伝達物質による神経細胞の興奮性の上昇によって導入される。刺激閾値下の電気刺激を繰り返すことによって、刺激部とシナプスを介して連絡している広範な神経細胞興奮性が変化し、痙攣閾値が低下するもので、優れた二次性全般化モデルとされている。また、刺激開始から痙攣準備性を獲得するまでに刺激を重ねていくと、神経細胞群の過剰興奮であるADの振幅は増大し、その持続時間もわずかながら延長していく。【0020】(標本動物の作成)10週齢のWistar系雄ラット8匹を用い、これらを1週間の予備飼育後、体重280g以上に達したものをペントバルビタール麻酔(50mg/kg、腹腔内投与)下で脳内電極埋め込み手術を施行した。この際、電極埋め込み部位は両側海馬CA1領域と前頭葉硬膜上とし、前者の海馬にはステンレス製同心型双極深部電極を使用し、後者の硬膜上にはステンレス製ビス型電極を使用した。各電極は6極マイクロコネクタに導入し、歯科用セメントで頭蓋上に固定した。なお、感染予防のため縫合時の切開部にサルファ剤を内包し、術後5日間は3,000単位のペニシリンGカリウム溶液を筋肉内投与した。【0021】電極植え込み手術後、10日以上経過した動物をシールドボックス内に移し、右海馬CA1領域に電気刺激装置(SEN−7203、日本光電工業)でアイソレータ(SS−201J、日本光電工業)を介して、60Hz、持続時間1秒の短形波刺激を与えた。電気刺激は正確に24時間間隔で1日1回与え、初日の通電量を100μAとし、ADのスパイクが出現するまで通電量を50μAづつ増加させていき、AD誘発閾値を決定した。AD誘発閾値決定後、AD誘発閾値による24時間間隔の刺激で3日間連続してADの誘発が認められた標本動物を実験に使用した。【0022】(記録システム)標本動物の脳波(皮質、刺激反対側海馬)は有線で導出し、生体電気用アンプ(AB621G、日本光電工業)で増幅した後、サンプリング周波数200Hzで光磁気ディスク上に記録保存した。記録条件は、時定数0.1秒、高域遮断周波数60Hz、減衰特性24dB/oct、刺激前は1分、刺激後2分の計3分とした。また、刺激前後の動物の反応を観察するために、測定ボックスに取り付けたCCDカメラによる画像を、デジタルビデオレコーダを用いて脳波と同時に記録した。【0023】(投与方法及び解析)A群 : L−テアニン 0 μmol/kg(コントロール)B群 : L−テアニン 100 μmol/kgC群 : L−テアニン 2000 μmol/kgD群 : MK801 50 μmol/kgの4群について、AD誘発に及ぼすテアニン或いは抗てんかん作用を有するといわれているMK801(ジゾシルピン)の投与の影響を検討した。【0024】投与法は容量一定(0.5ml)の尾静脈内投与とし、投与15分後に標本動物の作成時と同様のシステムで、右海馬CA1領域にAD誘発閾値刺激を与え、刺激前1分間、刺激後2分間の脳波を記録した。3日間のウォッシュアウト期間をおき、同一濃度の投与を合計3回行った。記録した脳波からAD誘発の有無を確認し、図1に示すような振幅が大きい10放電のADの平均振幅(平均最大振幅)と図2に示すようなAD持続時間を測定した。ADの平均最大振幅と持続時間について、Kruskal-Wallis検定で有意差を検定した。また、AD誘発の有無についてはカイ2乗検定を用いた。【0025】(結果)AD平均最大振幅の結果について図3及び図4に示した。前頭葉皮質、刺激反対側海馬ともにC群(テアニン2000μmol/kg投与群)はA群(コントロール群)と比較して、有意な低値を示した(それぞれp<0.05、p<0.01)。ADの持続時間については、図5及び図6に示すように、前頭葉皮質、刺激反対側海馬ともにC群はA群と比較して、有意に短縮した(いずれもp<0.05)。また、いずれの場合も、B群(100μmol/kgオーダー)に比べ、C群(mmol/kgオーダー)の効果が顕著であることも明らかである。【0026】下記表1には前頭葉皮質において各群でADが誘発した回数とADが誘発しなかった刺激回数を示し、表2にはその場合の他の群に対する有意差を示した。表3には刺激反対側海馬において各群でADが誘発した回数とADが誘発しなかった刺激回数を示し、表4にはその場合の他の群に対する有意差を示した。なお、表2及び表4における数値は有意水準を示している。【0027】【表1】【0028】【表2】【0029】【表3】【0030】【表4】【0031】ADの伝播については、A群(コントロール群)及びD群(MK801投与群)では、標本動物作成時と同強度の刺激で、前頭葉皮質、刺激反対側海馬の両方で必ずADを誘発したが、被検物質投与時(B群及びC群)にはADが誘発しない場合があった。表1に示すように前頭葉皮質ではADが誘発しなかった刺激回数は投与したテアニンの濃度に依存して有意に増加した。一方、表3に示すように刺激反対側海馬ではテアニンの投与がADの誘発にはほとんど影響していなかった。特に、B群(100μmol/kgオーダー)に比べ、C群(mmol/kgオーダー)の効果は顕著であった。【0032】以上に示したように、テアニンの投与によりADの出現又はその発展が抑制されることが明らかになった。また、てんかんモデル動物の作成プロセスが、ADの出現⇒ADの発展⇒痙攣というプロセスを経て完成することを考慮すると、脳内でADの異常放電が生じ易い状態に陥った患者にテアニンを投与することによって、AD様の異常放電の出現又はその発展が抑制され、その結果、後遺症として考えられる痙攣を伴う続発性てんかんが予防できるものと考察できる。脳内でAD様の異常放電が生じ易い状態としては、分娩時の障害や頭部外傷などを挙げることができる。【0033】[実験2]本実験では、実験動物を用いた電気キンドリングモデル作成時の後発射(「AD」)出現に及ぼすテアニンの抑制作用、特にテアニンの脳室内投与の影響について検討した。【0034】(標本動物の作成)10週齢のWistar系雄ラットを、下記の環境下で予備飼育した後、体重280g以上に達したものを選択して下記の要領で慢性電極及び脳室内投与用カニューレの植え込み手術を施行した。【0035】=予備飼育環境=飼育室:小動物管理室(ラット飼育室)温度:20±3℃湿度:50±10%明暗サイクル:08:00〜20:00まで点灯使用ケージ:ポリカーボネイト製ケージ(床敷に電気かんなチップを使用)ケージ交換:2回/週給餌:固形飼料(CE−1、日本クレア)を自由摂取給水:水道水をミリポアフィルタで濾過したものを自由摂取【0036】=慢性電極及び脳室内投与用カニューレ植え込み手術=麻酔:ベントバルビタール麻酔植込部位:左右の前頭部硬膜上、左右の海馬背側部、第三脳室使用電極:硬膜外電極…ステンレススチール製ビス電極深部用電極…ステンレススチール製並列型双極電極(記録・刺激兼用)投与用カニューレ…ステンレススチール製パイプ(φ0.3mm)術後処置:縫合時に切開部にサルファ剤を内包し、術後5日間は感染予防のため3000単位のペニシリンGカリウム溶液を筋肉内投与手術終了後の動物の頭部を図7に示す。【0037】(AD閾値の確定)電極植え込み手術後10日以上経過した動物を測定ボックス内に移動し、アイソレータを介して周波数60Hz、持続時間1秒の矩形波の刺激を右海馬背側部に24時間間隔で与えた。通電量は、初回を100μAとし、ADが認められるまで通電量を50μAずつ増加させAD閾値を決定し、以降の刺激はこのAD閾値で行い、三日間連続してADを誘発した動物を試験に使用した。三日間の間に最初に設定したAD閾値でADが発現しなかった場合は、翌日より通電量を50μA増加させて刺激し、この操作を繰り返した。【0038】刺激前後の脳波(皮質、刺激側または反対側海馬)を有線で導出し、増幅後に紙面に記録するとともに、サンプリング周波数200Hzで光磁気ディスク上に保存した。記録条件は、時定数0.1秒、高域遮断周波数60Hz、減衰特性24dB/オクターブで、記録時間は刺激前1分、刺激後4分の計5分である。また、刺激前後の動物の反応を観察するために測定ボックスに取り付けたCCDカメラによる画像をデジタルビデオレコーダを用いて、脳波と同時に記録した。【0039】=使用機器=刺激装置:電気刺激装置(SEN-7203、日本光電工業)アイソレータ:アイソレータ(SS-201J、日本光電工業)増幅器:生体電気用アンプ(AB621G、日本光電工業)記録器:熱ペン式記録器(8R-33、NECメディカルシステムズ)AD変換器:AD変換ボード(ADM-5298BPC、マイクロサイエンス)その他:パーソナルコンピュータ、オシロスコープ、光磁気ディスクドライブ、CCDカメラ、デジタルビデオテープレコーダ【0040】(投与実験)被検物質(L−テアニン(東京化成社製)を滅菌生理食塩水に溶解したものを事前に固定したカニューレより、第三脳室内に0.1ml投与した(容量一定)。【0041】モデル動物7匹を一群とし、コントロール群、テアニン投与群(5群)の計6群について、投与実験を行った。3日間以上のウォッシュアウト期間をおいて、1個体につき3回の投与を行った。A群: 0μmol/kg(生理食塩水投与群、コントロール群)B群: 20μmol/kgC群: 40μmol/kgD群: 60μmol/kgE群: 80μmol/kgF群:100μmol/kg【0042】被検物質投与15分後にAD誘発閾値の通電量で刺激した。刺激前1分と刺激後2分の脳波と行動をAD閾値確認時と同様の条件で記録した。3日間のウォッシュアウト期間をおき、同一濃度の投与を3回行った。【0043】記録した脳波からAD誘発の有無を確認し、振幅が大きい10放電の平均振幅(平均最大振幅)とAD持続時間を測定した。ADの平均最大振幅と持続時間について、Kruskal−Wallis検定をADの有無についてはカイ2乗検定を用いた。【0044】(結果)表5は皮質・海馬におけるADの平均最大振幅の変化を示し、図8は皮質における各群のADの平均最大振幅を示し、図9は海馬における各群のADの平均最大振幅を示す。また、表6は皮質におけるAD平均最大振幅の各群間の有意差の有無を示し、表7は海馬におけるAD平均最大振幅の各群間の有意差の有無を示す。投与したテアニンの濃度に依存して、皮質・海馬の両部位ともにAD平均最大振幅は低下した。各群の標準偏差が大きいのはテアニン投与濃度に依存してADをまったく誘発しない個体(ADの振幅が0μV)が多くなったためである。【0045】【表5】【0046】【表6】【0047】【表7】【0048】表8は皮質・海馬におけるAD持続時間の変化を示し、図10は皮質における各群のAD持続時間を示し、図11は海馬における各群のAD持続時間を示す。また、表9は皮質におけるAD持続時間の各群間の有意差の有無を示し、表10は海馬におけるAD持続時間の各群間の有意差の有無を示す。振幅と同様に、投与したテアニンの濃度に依存して、皮質・海馬の両部位ともにAD持続時間は短縮した。各群の標準偏差が大きいのも振幅と同様にADを全く誘発しない個体(AD持続時間が0sec)が多くなったためである。【0049】【表8】【0050】【表9】【0051】【表10】【0052】表11はAD誘発の有無を示し、表12は各群間のAD誘発の有無の有意差を示す。投与したテアニンの濃度に依存して、皮質・海馬ともにADを誘発しない個体が増えていった。また、ADを誘発するときは皮質・海馬の両部位ともに誘発し、誘発しないときは両部位ともに誘発しなかった。【0053】【表11】【0054】【表12】【0055】今回の脳室内投与による実験では、40μmol/kgの投与で7匹中3匹は完全にADの誘発を抑制し、100μmol/kgの投与で7匹中6匹で完全にADの誘発を抑制した。また、誘発するADの振幅、持続時間とも40μmol/kg以上のテアニン投与で濃度に依存して減少していった。脳室内投与では、完全にADを誘発しなかった個体が多く標準偏差が大きくなったため、40μmol/kgではADの振幅と持続時間についてはコントロール群と有意差は認められなかったものの、その実際の効果は2mmol/kg静脈内投与より強いと考えられる。【図面の簡単な説明】【図1】 実施例のAD平均最大振幅の計測法(誘発されたADの中から振幅が大きい10放電の振幅を計測し、その平均値を算出する方法)を示す説明図であり、この図において上段(CORTEX)は前頭葉皮質、下段(HIPP)は刺激反対側海馬を示している。【図2】 実施例のAD持続時間の計測法(刺激後最初に出現したADから最後に出現したADまでの時間をAD持続時間とする方法)を示す説明図であり、この図において上段(CORTEX)は前頭葉皮質、下段(HIPP)は刺激反対側海馬を示している。【図3】 実施例の被検物質の投与が、前頭葉皮質においてAD平均振幅に与える影響を示したグラフである。【図4】 実施例の被検物質の投与が、刺激反対側海馬においてAD平均振幅に与える影響を示したグラフである。【図5】 実施例の被検物質の投与が、前頭葉皮質においてAD持続時間に与える影響を示したグラフである。【図6】 実施例の被検物質の投与が、刺激反対側海馬においてAD持続時間に与える影響を示したグラフである。【図7】 電極・脳室投与用パイプ埋め込み術1週間後の標本動物の頭部を示した写真である。【図8】 皮質における各群のADの平均最大振幅を示したグラフである。【図9】 海馬における各群のADの平均最大振幅を示したグラフである。【図10】 皮質における各群のAD持続時間を示したグラフである。【図11】 海馬における各群のAD持続時間を示したグラフである。 L−テアニンを有効成分として含有するてんかん予防剤又は治療剤。


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